IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富山薬品工業株式会社の特許一覧

特許7651184電解コンデンサ用の電解液及び電解コンデンサ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用の電解液及び電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20250318BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20250318BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20250318BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/028 G
H01G9/145
H01G9/15
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021556153
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042303
(87)【国際公開番号】W WO2021095815
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019207008
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236953
【氏名又は名称】富山薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋本 啓太
(72)【発明者】
【氏名】石田 晃浩
(72)【発明者】
【氏名】佐野 信
(72)【発明者】
【氏名】原部 実成
(72)【発明者】
【氏名】永山 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】浦本 昌英
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-165550(JP,A)
【文献】特開昭51-069161(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/028
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体酸化被膜層を有する陽極箔、陰極箔及び固体電解質層を有するコンデンサ素子と、該コンデンサ素子に含浸された電解液と、を外装容器内に有する電解コンデンサ用の電解液であって、
該電解液がヒドロキシ基を有する芳香族カルボン酸とホウ素化合物と溶媒と、更にアンモニア又は1~4級アミンとを含有し、
前記ホウ素化合物の含有量が前記ヒドロキシ基を有する芳香族カルボン酸1モルに対して0.6モル以上、2.0モル以下であり、
前記ホウ素化合物がホウ酸もしくはホウ酸エステル類であり、
前記溶媒がプロトン性有機溶媒を含有し、
電解コンデンサを250℃以上の高温度に晒した場合も外装容器内の圧力の上昇を抑制できるようにしたことを特徴とする電解コンデンサ用の電解液。
【請求項2】
前記ホウ素化合物がホウ酸である請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記プロトン性有機溶媒が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
前記プロトン性有機溶媒が、電解液に対して65質量%以上含有される請求項1~のいずれかに記載の電解液。
【請求項5】
水分含有量が1質量%以下である請求項1~のいずれかに記載の電解液。
【請求項6】
pHが2~6である請求項1~のいずれかに記載の電解液。
【請求項7】
更に、ニトロ化合物を含有する請求項1~のいずれかに記載の電解液。
【請求項8】
前記ヒドロキシ基を有する芳香族カルボン酸と前記ホウ素化合物が複合化合物を形成している請求項1~のいずれかに記載の電解液。
【請求項9】
前記固体電解質層が、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、又はそれらの誘導体の層である請求項1~のいずれかに記載の電解液。
【請求項10】
前記電解コンデンサを250℃以上の高温度に晒す場合が、電解コンデンサのリフロー工程である請求項1~のいずれかに記載の電解液。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の電解液を使用する電解コンデンサ。
【請求項12】
請求項11に記載の電解コンデンサを使用するリフローはんだ付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだリフロー工程などにおける高温の雰囲気に晒された場合も、外装容器の膨張を抑制することができる電解コンデンサ用の電解液及びこの電解液を用いた電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器や車載用の電装機器などにおいては、高信頼化の要望がますます高まっている、そこで使用される電解コンデンサも、小型、大容量、高周波領域における等価直列抵抗(以下、ESRともいう。)などの性能の向上が必要になっている。
特に、電子機器の高周波化に伴い、電解コンデンサにおいても、高周波領域でのESR特性に優れた大容量の電解コンデンサが求められてきている。最近では、このような高周波領域におけるESRを低減するために、電解質として従来の駆動用電解液よりも電気伝導度の高い導電性ポリマーなどの固体電解質と電解液とを備えた固体電解コンデンサが検討され製品化されている。
【0003】
具体的には、特許文献1、2において、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどの導電性ポリマーからなる固体電解質を使用する固体電解コンデンサが開示されている。そこでの固体電解コンデンサでは、フタル酸、マレイン酸、アジピン酸、サリチル酸などの有機酸と、ほう酸、リン酸、ほうフッ酸などの無機酸との複合化合物、典型的には、ボロジサリチル酸、ボロジグリコール酸、ボロジシュウ酸などのアンモニウム塩若しくはアミン塩を溶質とし、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、エチレングリコールなどの種々の有機溶媒を溶媒とする電解液が使用されている。かかる固体電解コンデンサは、大容量を有し、かつ漏れ電流も小さいことから、高特性を有する電解コンデンサとして注目されている。
また、特許文献3では、ジカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のホウ素錯体のアミン塩を電解質とし、γ―ブチロラクトンなどの非プロトン性有機溶媒とし、スルホン酸基を有する芳香族カルボン酸若しくはその塩及びエチレングリコールなどのプロトン性有機溶媒を添加剤として含む電解液を使用する電解コンデンサが開示されている。
【0004】
一方、これらの電解コンデンサは、これを組み込んだ電子機器の使用時における耐熱性とともに、これを基板に実装する際に更なる耐熱性が求められている。具体的には、電解コンデンサの表面実装を行うためにはんだリフロー工程が用いられるが、近年、特に、環境保全のために鉛フリーが求められ、はんだリフロー工程では、250℃以上の高い耐熱性が必要になってきている。
このような高温におけるはんだリフロー工程では、電解コンデンサにおける電解液からのガス発生により外装容器内の圧力が上昇し、外装容器の膨張を引き起こし、例えば、電解コンデンサの高さ寸法値が増大する現象がみられる。この場合には、基板に実装した電解コンデンサの機器への搭載に支障が発生するほか、電解コンデンサ自体の特性も低下する場合があり、その信頼性も損なうおそれがある(特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-165550号公報
【文献】特許第5052746号公報
【文献】特許4863626号公報
【文献】特開2004-186523号公報
【文献】特許2007-59611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、はんだリフロー工程におけるような250℃以上の高温度に晒された場合も、外装容器の膨張による寸法変化を抑制することが可能である耐熱性に優れた、多価アルコールなどのプロトン性有機溶媒を電解液とする電解コンデンサ用の電解液及びこの電解液を用いた電解コンデンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
従来の電解コンデンサ、なかでも、特許文献1、2に開示されている、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ酸との複合化合物であるボロジサリチル酸を溶質とし、特に、優れたESR特性が得られるエチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコールなどのプロトン性有機溶媒を溶媒とする電解コンデンサでは、はんだリフロー工程などにおける高温度における耐熱性が不十分な現象が見られることが判明した。
【0008】
一方、電解コンデンサにおける電解液中の有機カルボン酸1モルに対するホウ酸の含有量と上記耐熱性との関係について調べたところ、特許文献1、2、3に開示される電解コンデンサの電解液における有機カルボン酸1モルに対するホウ酸の含有量は、高々0.5~0.55モルである。本発明者の研究によると、このような有機カルボン酸1モルに対するホウ酸の含有量が小さい場合において、上記の耐熱性が不十分な現象が起こることがわかった。
更に、電解コンデンサにおける電解液として、多価アルコールなどのプロトン性有機溶媒中に、溶質として、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ素化合物とを含有し、かかるヒドロキシ基を有する有機カルボン酸1モルに対するホウ素化合物の含有量を0.6モル以上、更に好ましくは0.7モル以上、特に好ましくは0.9モル以上と大きく含有せしめた電解液を使用することにより、上記の耐熱性の問題を解決し得ることが見出された。
【0009】
一方、溶媒として、γ―ブチロラクトンなどの非プロトン性有機溶媒を主体とする溶媒の電解液を使用する電解コンデンサ場合には、外装容器の膨張などの耐熱性の問題は見られない。また、非プロトン性有機溶媒を溶媒とする電解液の場合には、有機カルボン酸に対するホウ酸の含有量が大きくなるにしたがって、例えば、有機カルボン酸1モルに対するホウ酸の含有量が0.5モルを超える場合には、溶質成分である、ホウ酸、有機カルボン酸、又はそれらの複合化合物の溶解性が小さくなってしまう。しかし、プロトン性有機溶媒の場合には、これらの溶質成分の溶解性も保持され、得られる電解液の有する抵抗も小さく保持できることが判明した。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、下記の態様を有するものである。
(1)表面に誘電体酸化被膜層を有する陽極箔、陰極箔及び固体電解質層を有するコンデンサ素子と、該コンデンサ素子に含浸された電解液と、を外装容器内に有する電解コンデンサ用の電解液であって、
該電解液がヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ素化合物と溶媒とを含有し、前記ホウ素化合物の含有量が前記ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸1モルに対して0.6モル以上であり、前記溶媒がプロトン性有機溶媒を含有し、電解コンデンサを250℃以上の高温度に晒した場合における外装容器内の圧力の上昇を抑制できるようにしたことを特徴とする電解コンデンサ用の電解液。
【0011】
(2)前記ホウ素化合物がホウ酸である前記(1)の電解液。
(3)前記ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸がヒドロキシ基を有する芳香族カルボン酸である前記(1)又は(2)の電解液。
(4)更に、アンモニア又は1~4級アミンを含有する前記(1)~(3)のいずれかの電解液。
(5)前記プロトン性有機溶媒が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、又はグリセリンである前記(1)~(4)のいずれかの電解液。
(6)前記ホウ素化合物の含有量が、前記ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸の1モルに対して、0.7~2モルである前記(1)~(5)のいずれかの電解液。
(7)前記プロトン性有機溶媒が、電解液に対して65質量%以上含有される前記(1)~(6)のいずれかの電解液。
(8)水分含有量が1質量%以下である前記(1)~(7)のいずれかの電解液。
(9)pHが2~6である前記(1)~(8)のいずれかの電解液。
【0012】
(10)更に、ニトロ化合物を含有する前記(1)~(9)のいずれかの電解液。
(11)前記ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸と前記ホウ素化合物が複合化合物を形成している前記(1)~(10)のいずれかの電解液。
(12)前記固体電解質層が、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、又はそれらの誘導体の層である前記(1)~(11)のいずれかの電解液。
(13)前記電解コンデンサを250℃以上の高温度に晒す場合が、電解コンデンサのリフロー工程である前記(1)~(12)のいずれかの電解液。
(14)前記(1)~(13)のいずれかの電解液を使用する電解コンデンサ。
(15)前記(14)の電解コンデンサを使用するリフローはんだ付け方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多価アルコールなどのプロトン性有機溶媒を電解液とする電解コンデンサがはんだリフロー工程などにおける250℃以上、更には260℃以上の高温度に晒された場合も、外装容器内の圧力の上昇を抑制し、外装容器の膨張を抑制することが可能な電解コンデンサ用の電解液、及びこの電解液を用いた電解コンデンサが得られる。
また、本発明の電解液を用いた電解コンデンサは、250℃以上の高温度のはんだリフロー工程においても、外装容器の膨張による寸法変化や特性の変化が抑制され、また、高温度の使用環境でも特性の変化が小さく高い信頼性が有する。
【0014】
本発明の電解液を用いた電解コンデンサにおいて、外装容器内の圧力の上昇が抑制し、耐熱性を改善し得るメカニズムについては以下のように考えられる。プロトン性有機溶媒を溶媒とする電解液中に含有されるヒドロキシ基を有する有機カルボン酸1モルに対するホウ素化合物の含有量を0.6モル以上、更にはそれ以上にせしめることにより、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸、そのホウ素化合物との複合化合物、又はそれらの塩の分解による二酸化炭素などの発生を抑制することできる。この分解による二酸化炭素などの発生の抑制は、有機カルボン酸1モルに対するホウ素化合物の含有量を0.7モル以上、更には0.9モル以上と大きくなるにつれて確実に防止できるものと思われる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について記載する。なお、本明細書において、数値範囲を記載する場合、下限値と上限値のそれぞれの有する単位が同じのときは、下限の単位を省略する場合がある。
<電解コンデンサ>
本発明の電解液は、表面に誘電性酸化被膜層を有する陽極及び陰極、固体電解質を有するコンデンサ素子と、該コンデンサ素子に含浸された電解液と、を有する固体電解コンデンサに使用される。固体電解コンデンサは、既知の方法により得られる。
本発明で使用する固体電解質は、ドーパント成分をドープした導電性ポリマーである。導電性ポリマーとしては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン又はそれらの誘導体が用いられる。
【0016】
本発明で使用する固体電解質層は、上記ドーパント成分の存在下で導電性ポリマーのモノマーを化学酸化重合又は電解酸化重合することによって得ることができる。或いは、化学酸化重合によって微粒子状に形成された導電性ポリマーを水などの溶媒に分散した分散液又は溶解した溶液を接触させることで得ることができる。また、上記化学酸化重合又は電解酸化重合は、上記ドーパント成分及び導電性ポリマーのモノマーの一部又は全てを、化学酸化ドープが起こりうる官能基を有するモノマーに置き換えても良い。
【0017】
導電性ポリマーのモノマーは、具体的には、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシフラン、メチル-3,4-エチレンジオキシフラン、エチル-3,4-エチレンジオキシフラン、プロピル-3,4-エチレンジオキシフラン、3,4-プロピレンジオキシフラン、メチル-3,4-プロピレンジオキシフラン、エチル-3,4-プロピレンジオキシフラン、プロピル-3,4-プロピレンジオキシフラン、3,4-エチレンジチアチオフェン、メチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、エチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジチアチオフェン、3,4-プロピレンジチアチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジチアチオフェンなどが挙げられる。
上記のなかでも、電解コンデンサのESRが低い点で優れる、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、又はエチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンが特に好ましい。
【0018】
上記ドーパント成分としては、高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基を有していればよく、硫酸エステル基、リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基などが好ましい。これらの中でも、ドープ効果の点より、硫酸エステル基、カルボキシル基、スルホ基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。
ドーパント成分として、具体的には、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、又はこれらの金属塩などが挙げられる。これらは単独の重合体であっても、2種類以上の共重合体であってもよい。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0019】
上記化学酸化ドープが起こりうる官能基を有するモノマーの例としては、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0020】
上記分散媒としては、水又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、セロソルブ類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類などを用いることができる。
【0021】
本発明の導電性ポリマー分散液又は溶液には、高沸点有機溶媒を含有させてもよい。高沸点有機溶媒の中でも、特に沸点が150℃以上である高沸点有機溶媒が好ましい。該高沸点有機溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも特にエチレングリコール又はγ-ブチロラクトンが、表面が均一な導電性ポリマーを含有する固体電解質層を形成できる点でより好ましい。
【0022】
導電性ポリマー分散液又は溶液における有機溶媒の含有量は、1~20質量%が好ましく、5~15質量%が特に好ましい。有機溶媒の含有量が1質量%未満の場合、表面が均一な導電性ポリマーを含有する固体電解質層を形成する効果に若干劣り、20質量%超の場合、乾燥工程に時間を要する難点がある。
また、導電性ポリマー分散液又は溶液には、成膜性、膜強度を調整するために、バインダ樹脂、界面活性剤、アルカリ化合物を含有させてもよい。導電性ポリマー分散液は、導電性ポリマーが分散媒に分散しているものであり、導電性ポリマーの一部が分散媒に溶解していてもよい。
【0023】
電解コンデンサに用いる陽極及び陰極としては、弁作用金属が好ましく、具体的には、アルミニウム、タンタル、ニオブ及びチタンからなる群より選ばれる1種が挙げられ、なかでも、アルミニウムが好ましい。弁作用金属は、通常、焼結体又は箔の形状で用いられる。電解コンデンサは、用いる陽極及び陰極の形状により、チップ型又は巻回型とすることができる。
【0024】
本発明の電解コンデンサでは、固体電解質の形成は、導電性ポリマーの分散液又は溶液にコンデンサ素子を浸漬などの手段により接触させ、溶媒を乾燥することにより形成させてもよいし、コンデンサ素子を導電性ポリマーのモノマー溶液に浸漬し、次いで、化学重合や電解重合により形成してもよい。
【0025】
<電解液>
本発明における電解液は、電解質と有機溶媒を含有するが、電解質は、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ素化合物とを含有する。
ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸としては、好ましくは1~4、より好ましくは1又は2、特に好ましくは1つの環構造を有し、かつ、ヒドロキシ基を好ましくは1~4、より好ましくは1又は2、特に好ましくは1つ有するものが好適である。
【0026】
ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸の好ましい具体例としては、グリコール酸、乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、マンデル酸、サリチル酸、3-メチルサリチル酸、4-メチルサリチル酸、5-メチルサリチル酸、6-メチルサリチル酸、3-ニトロサリチル酸、4-ニトロサリチル酸、5-ニトロサリチル酸、3,5-ジニトロサリチル酸、3-スルホサリチル酸、4-スルホサリチル酸、5-スルホサリチル酸、4-ヒドロキシサリチル酸、5-ヒドロキシサリチル酸、3-メトキシサリチル酸、4-メトキシサリチル酸、5-メトキシサリチル酸、メチレンジサリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-7-メチル-2-ナフトエ酸、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)などが挙げられる。上記のなかでも、芳香族カルボン酸が好ましく、特にサリチル酸が好ましい。
【0027】
本発明における電解液に含有されるホウ素化合物としては、ホウ酸もしくはホウ酸エステル類(ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリフェニルなど)などが挙げられる。特に、特性が優れるホウ酸が好ましい。
【0028】
本発明における電解液において、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸に対するホウ素化合物の含有される割合は重要であり、ホウ素化合物は、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸1モルに対して、0.6モル以上含有され、好ましくは0.65モル以上、より好ましくは0.7モル以上、更に好ましくは、0.9モル以上含有される。ホウ素化合物の含有割合が上記の範囲で含有される場合には、250℃以上の高温度に晒された場合に、外装容器の膨張を抑制する十分な効果を得ることができる。
一方、ホウ素化合物の含有割合が大きい場合には、100℃以上などの高温の条件におけるコンデンサのESR特性などの劣化を起こすために、ホウ素化合物の含有割合は、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸1モルに対して、5モル以下が好ましく、より好ましくは、3.5モル以下、更に好ましくは、2.0モル以下、特に好ましくは、1.5モル以下含有される。
本発明における電解液に含有されるホウ素化合物は、電解液中において、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸と、それぞれ個別に存在していてもよく、また、両者の一部又は全部が、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ素化合物との複合化合物として存在していてもよい。
【0029】
本発明における電解液には、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ素化合物に加えて、好ましくは、アンモニア、又は1~4級アミン、アミジン化合物が含有される。かかる1~4級アミンとしては、3級アミンが好ましい。
3級アミンとしては、トリアルキルアミン類(トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルn-プロピルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、メチルエチルn-プロピルアミン、メチルエチルイソプロピルアミン、ジエチルn-プロピルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、トリn-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリn-ブチルアミン、トリtert-ブチルアミンなど)、フェニル基含有アミン(ジメチルフェニルアミン、メチルエチルフェニルアミン、ジエチルフェニルアミンなど)が挙げられる。
【0030】
3級アミンとしては、なかでも、トリアルキルアミンが好ましく、更に好ましくは、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン及びトリエチルアミンからなる群より選ばれる1種以上を含むものである。
本発明の電解液にアンモニア、又は1~4級アミン、アミジン化合物が含有される場合、これらの一部又は全部が、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸及び/又はホウ素化合物又は複合化合物との間に、その構造は必ずしも明確でないが、何らかの複合化合物を形成されているものと思われる。
【0031】
本発明の電解液に用いる有機溶媒は、プロトン性有機溶媒であり、溶媒は1種単独で用いても2種類以上用いてもよい。本発明では、プロトン性有機溶媒の使用が必要であり、溶媒としてγ-ブチロラクトンなどの非プロトン性有機溶媒を使用した場合には、本発明のホウ素化合物の添加量にせずともリフローはんだ付け時に外装容器の膨張が小さいため、本発明の目的にそぐわない。また、本発明の電解液では、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸1モルに対するホウ素化合物の含有割合が0.6モル以上含有せしめることを特徴とするが、非プロトン性有機溶媒であるγ-ブチロラクトンなどを使用した場合には、比較例6に示されるように、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸であるサリチル酸1モルに対するホウ酸の含有割合が1モルを含有する場合は、溶質であるサリチル酸及び/又はホウ酸が十分に溶解しない。
本発明の電解液におけるプロトン性有機溶媒は、好ましくは65質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは85質量%以上である。
【0032】
プロトン性有機溶媒としては、一価アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなど)、多価アルコール類及びアルコキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノールなど)、ポリアルキレングリコール類(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)などが挙げられる。なかでも、好ましくは150℃以上の沸点を有するものが好適であり、これらの例としては、一価アルコール類(ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなど)、多価アルコール類及びアルコキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノールなど)、ポリアルキレングリコール類(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)などが挙げられる。
【0033】
電解液に用いる有機溶媒は、上記のなかでも、コンデンサの容量発現が高い理由から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。特には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、又はポリエチレングリコールが好ましい。
【0034】
本発明の電解液には、非プロトン性溶媒が含有されていてもよい。しかし、例えば、後記する比較例に見られるように、非プロトン性溶媒であるγ-ブチロラクトンなどを使用する場合には、本発明の電解液の溶質である、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸及び/又はホウ素化合物のγ-ブチロラクトンに対する溶解性が小さく、リフローはんだ付け時に外装容器の膨張を防止するという点では寄与が小さい。このため、本発明の電解液における非プロトン性溶媒は、たとえ、含有する場合にも、好ましくは、全溶媒中、80質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0035】
非プロトン性溶媒としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、アミド系(N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミドなど)、スルホラン系(スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランなど)、鎖状スルホン系(ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン)、環状アミド系(N-メチル-2-ピロリドンなど)、カーボネイト類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、イソブチレンカーボネートなど)、ニトリル系(アセトニトリルなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、2-イミダゾリジノン系〔1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-プロピル)-2-イミダゾリジノンなど)、1,3,4-トリアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3,4-トリメチル-2-イミダゾリジノンなど)〕などが挙げられる。
【0036】
本発明の電解液におけるヒドロキシ基を有する有機カルボン酸の含有量は、0.1~40質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、3~10質量%が特に好ましい。該含有量が0.1質量%未満の場合、十分な電気特性が得られにくく、一方、40質量%超の場合、高温環境下において低いESRの維持率が低下する。
また、ホウ素化合物の含有量は、前記ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸の1モルに対して、0.6モル以上であり、0.65ル以上が好ましく、0.7~2.0モルの比率がより好ましく、0.9~1.5モルが特に好ましい。該含有量が上記有機カルボン酸の1モルに対して0.6モル未満の比率の場合、リフロー時の十分な膨れ抑制効果十分が得られにくい。
【0037】
本発明の電解液は、上記した有機溶媒に対して、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸、ホウ素化合物、好ましくは、更に、アンモニア、又は1~4級アミンを、それぞれが上記した含有量になるように、同時に又は継時的に添加することより製造される。これらを添加する場合、必要に応じて、攪拌しながら、また、必要に応じて加温しながら行うことができる。これらの攪拌や加温は、適宜の条件で行うことができ、例えば、加温は、35~120℃で行うことができる。
【0038】
本発明の電解液は、予め、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ素化合物とを反応させ、その反応物を上記した有機溶媒に対して添加することによっても、更には、予め、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸とホウ素化合物とアンモニア、又は1~4級アミンとを反応させ、その反応物を上記した有機溶媒に対して添加することによっても製造できる。
【0039】
本発明の電解液では、そこに含まれる水分量が、好ましくは1質量%以下の場合には、はんだリフロー工程における場合など、例えば、250℃以上の熱がかかったときでも内圧上昇を抑えることができる点で優れた特性が得ることができる。含有水分量は、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。含有水分量の調整は、使用する有機溶媒などの電解液の原料や、調製された電解液における含有水分の除去により行うことができる。含有水分の除去は、例えば、電解液を加温、減圧留去、脱水剤による処理、又はそれらを組み合わせて行うことができる。
更に、本発明の電解液は、その有するpHが、好ましくは2~6の場合には、低いESRを維持できる点で優れた特性が得ることができることが判明した。その理由は定かではないが、pHは、2.5~5.5がより好ましく、3~5が特に好ましい。
【0040】
本発明の電解液には、電解コンデンサの寿命性能や抵抗性能などの特性を改善する目的で、上記以外の物質を添加することができる。かかる添加物質は、特に限定されるものではない。例えば、以下のものが挙げられる。
リン系化合物(リン酸エステルなど)、多糖類(マンニット、ソルビットなど)、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリンなど)との錯化合物、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンジルアルコールなど)が挙げられる。
また、電解液には酸化防止剤を添加することができ、その酸化防止剤としてはフェノール化合物(カテコール、ヒドロキノン、ピロガロールなど)、アミン化合物、アゾ化合物、シラン化合物、キノン化合物、カルボン酸化合物などが挙げられる。
【0041】
<固体電解コンデンサの耐熱性>
本発明の固体電解コンデンサは、既知の方法に従って、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を本発明の電解液に浸漬することによりコンデンサ素子内の空隙部に本発明の電解液を充填したコンデンサ素子を外装容器に挿入し、開口端部に封口材料などを装着し、締め加工を行うことにより製造される。
本発明の固体電解コンデンサの製造に使用される外装容器の材料としては、好ましくは、アルミニウム、アルミニウム合金、その他の金属などが広く使用できる。外装容器の肉厚は、好ましくは0.2~0.7mm、より好ましくは0.2~0.4mmである。また、外装容器の封口材料としては、好ましくは、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、EPM、EPDM、またはそれらの混合物などが広く使用できる。
【0042】
かくして得られる本発明の固体電解コンデンサは、優れた耐熱性を有し、250℃以上、更には260℃以上の高温度の鉛フリーのはんだリフロー工程においても、外装容器の膨張による寸法変化や特性の変化が抑制されるため、面実装過程で寸法変化を抑制できる。また、近年、車載用などにおける、高温度になる使用環境でも特性の変化が小さく高い信頼性が有する。
加えて、本発明の固体電解コンデンサは、高周波領域における低ESR特性、高容量特性などの優れた特性を有し、上記の高い耐熱性を有するために、これらの特性は熱によって低下することがない。
【実施例
【0043】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内での種々の変更が可能である。
(導電性ポリマー分散液の調製)
ドーパント成分である、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量:50,000)の20質量%水溶液12.2gを、水187.5gに混合して10分間攪拌した。次に、モノマーとしての3,4-エチレンジオキシチオフェン2.04gを投入してさらに15分間攪拌しモノマー溶液を調製した。得られたモノマー溶液は、薄い黄色を呈していた。
【0044】
上記モノマー溶液に含まれるポリスチレンスルホン酸の量は、モノマー溶液に含まれる3,4-エチレンジオキシチオフェン100質量部に対して119質量部であった。モノマー溶液を攪拌しながら、酸化剤としての硫酸鉄(III)0.012gと、過硫酸アンモニウム4.46gを滴下して、室温下で15時間攪拌して化学酸化重合を行った。このときモノマー溶液は、薄い黄色から濃紺色へ変化した。次いで、得られた反応液に対して、両性イオン交換樹脂(オルガノ社商品名:MB-1、イオン交換形:-H、-OH)を50.1g投入して、2時間攪拌した。これにより、反応溶液のpHは1.15から1.83に変化した。かくして、1.3質量%のポリスチレンスルホン酸がドーピングされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含有する導電性ポリマー分散液を調製した。
【0045】
(コンデンサ素子の作製)
表面をエッチング処理した後に化成処理を行って酸化皮膜層を形成し、リード端子を取り付けたアルミニウム陽極箔と、表面をエッチング処理しリード端子を取り付けたアルミニウム陰極箔とをセルロース繊維からなるセパレータ(厚み0.05mm)を介して巻回して、コンデンサ素子を作製した。
【0046】
(実施例1)
上記で得られたコンデンサ素子を、上記導電性ポリマー分散液に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げた後に溶媒を蒸発させることにより、導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成した。
次いで、表1に記載した量のサリチル酸、ホウ酸、ジメチルエチルアミン、エチレングリコールの各成分を90~95℃で攪拌しながら混合して電解液を製造し、この電解液をこのコンデンサ素子に含浸した。次いで、コンデンサ素子を有底の円筒状の金属アルミニウムケース(ケース素材の厚み:0.3mm)に挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、カーリング加工することにより封止した。その後、105℃の条件でエージング処理を施し、アルミニウム電解コンデンサを作製した。
この電解コンデンサの定格電圧は35Vであり、封止後の電解コンデンサの外形寸法は、直径10mm、高さ10mmを有する円筒形であった。
【0047】
(実施例2~10、比較例1~5)
表1に示される量の各成分を90~95℃で攪拌しながら混合して得られる電解液を使用した以外は実施例1と同様に実施することにより、実施例2~10、及び比較例1~5の電解コンデンサを作製した。
(比較例6)
表1に示される量の各成分を90~95℃で攪拌しながら混合し溶解させたが、25℃に冷却すると白色の固体が析出したため電解液を作製できなかった。
【0048】
なお、表1には、実施例1~10、比較例1~5のそれぞれの電解コンデンサで使用した電解液の含有水分量(質量%)及びpHを示した。含有水分量は、微量水分測定装置CA-200(三菱ケミカルアナリテック社製)を用い、カールフィッシャー電量滴定法により測定した。pHは東亜ディーケーケー社製pHメータHM-30Rを用いて測定した。
【0049】
(コンデンサの加熱試験)
上記で作製した電解コンデンサをピーク温度が260℃となるように卓上リフロー炉(シンアペックス社製;STR-2000)で加熱した。卓上リフロー炉内における加熱は、まず、平均2.1℃/秒の昇温速度で180℃に加熱し、該温度で60秒間保持し、次いで、平均2.1℃/秒の昇温速度で260℃に上昇させ、該温度で1秒間保持し、その後に、平均4.2℃/秒の降温速度で室温に戻した。
この加熱試験により、円筒形電解コンデンサの高さ方向における寸法の伸びΔL(mm)を下式によって求め、それを表1に示す。下式中、「高さ寸法」は円筒形コンデンサの両底面における中心部間の距離であり、ノギスを用い測定した。
ΔL=(リフロー試験後の高さ寸法)-(リフロー試験前の高さ寸法)
【0050】
【表1】
【0051】
表1に見られるように、ヒドロキシ基を有する有機カルボン酸1モルに対して0.6モル以上の量のホウ酸を含む電解液を用いた実施例1~10の電解コンデンサは、比較例1~5の電解コンデンサに比べてΔL(mm)が小さく、260℃の高温でも外装容器の膨張を抑制していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、AV機器、携帯電話、ノートパソコンなどの各種民生用機器用電源、車載用の電装機器、産業機器などにおいて多用される電解コンデンサにおける電解液として広く使用される。
なお、2019年11月15日に出願された日本特許出願2019-207008号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。