(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】発熱装置、および熱利用システム
(51)【国際特許分類】
F28D 20/00 20060101AFI20250318BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
F28D20/00 H
C01B3/00 B
(21)【出願番号】P 2021558432
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043076
(87)【国際公開番号】W WO2021100784
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019208483
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳志
(72)【発明者】
【氏名】岩村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】笠木 治郎太
(72)【発明者】
【氏名】吉野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】平野 章太郎
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-257864(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230447(WO,A1)
【文献】特開2004-053208(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008859(WO,A2)
【文献】国際公開第2002/068882(WO,A1)
【文献】特開平09-324960(JP,A)
【文献】特公平02-022880(JP,B2)
【文献】特表2003-524122(JP,A)
【文献】特開2008-039108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
C01B 3/00
C09K 5/16
F24V 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の密閉容器と、
前記密閉容器の内面により形成される中空部に設けられた筒体と、
前記筒体の外面に設けられ、前記中空部に供給される水素系ガスに含まれる水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体と、
前記筒体の内面により形成され、前記発熱体との間で熱交換を行う流体が流通する流路と
、
前記流路と接続して前記筒体の内部と外部との間で前記流体を循環させる循環ラインを有する流体循環部と、
前記循環ラインに設けられ、前記流体を冷却する冷却部と、
前記循環ラインに設けられ、前記流体を加熱する加熱部と、
前記冷却部を駆動し、冷却された前記流体により前記発熱体の温度を低下させる降温制御と、前記加熱部を駆動し、加熱された前記流体により前記発熱体の温度を上昇させる昇温制御とを行う制御部と
を備え、
前記発熱体は、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはプロトン導電体により形成された台座と、前記台座に設けられた多層膜とを有し、
前記多層膜は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有する発熱装置。
【請求項2】
前記筒体を含む複数の筒体を備え、
前記複数の筒体のそれぞれは発熱体を備え、
前記中空部において、前記複数の筒体は互いに等間隔で千鳥状に配置されている請求項1に記載の発熱装置。
【請求項3】
前記筒体の外面に前記複数の発熱体が互いに間隔をあけて設けられている請求項1または2に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記流体循環部は、前記密閉容器の外面に設けられ、前記循環ラインと接続して前記流体の一部が流通する外部流体ラインをさらに有する請求項
1~3のいずれか1項に記載の発熱装置。
【請求項5】
前記密閉容器は、筒状に形成された本体と、前記本体の一端に設けられた流体流入室と、前記本体の他端に設けられた流体流出室とを有し、
前記流体流入室は、前記流体の入口である流体入口を有し、
前記流体流出室は、前記流体の出口である流体出口を有し、
前記循環ラインは、前記密閉容器の外部において、前記流体入口と前記流体出口とを接続し、
前記外部流体ラインは、前記密閉容器の外面に設けられた第1配管と、前記第1配管の一端同士を接続する第1のリング管と、前記第1配管の他端同士を接続する第2のリング管と、前記第1のリング管と前記流体流入室とを接続する第2配管と、前記第2のリング管と前記流体流出室とを接続する第3配管とを有する請求項4に記載の発熱装置。
【請求項6】
前記第1層は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうちいずれかにより形成され、
前記第2層は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうちいずれかにより形成される請求項1~
5のいずれか1項に記載の発熱装置。
【請求項7】
前記多層膜は、前記第1層および前記第2層に加え、前記第1層および前記第2層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第3層を有する請求項
6に記載の発熱装置。
【請求項8】
前記第3層は、CaO、Y
2O
3、TiC、LaB
6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される請求項
7に記載の発熱装置。
【請求項9】
前記多層膜は、前記第1層、前記第2層および前記第3層に加え、前記第1層、前記第2層および前記第3層とは異なる水素吸蔵金属
、水素吸蔵合金
、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第4層を有する請求項
8に記載の発熱装置。
【請求項10】
前記第4層は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y
2O
3、TiC、LaB
6、SrO、BaOのうちいずれかにより形成される請求項
9に記載の発熱装置。
【請求項11】
前記台座および前記多層膜はフィルム状であり、
前記発熱体は、前記筒体の外面に巻き付けられている請求項1~
10のいずれか1項に記載の発熱装置。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の発熱装置と、
前記発熱体により加熱された前記流体を利用する流体利用装置とを備える熱利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱装置、熱利用システムおよびフィルム状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素吸蔵金属などを用いて水素の吸蔵と放出とを行うことにより熱が発生する発熱現象が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。水素は、水から生成できるため、資源としては無尽蔵で安価であり、かつ、二酸化炭素などの温室効果ガスを発生しないのでクリーンなエネルギーとされている。また、水素吸蔵金属などを用いた発熱現象は、核分裂反応とは異なり、連鎖反応が無いので安全とされている。水素の吸蔵と放出とにより発生する熱は、そのまま熱として利用する他、電力に変換して利用することもできるので、有効なエネルギー源として期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】A. Kitamura, A. Takahashi, K. Takahashi, R. Seto, T. Hatano, Y. Iwamura, T. Itoh, J. Kasagi, M. Nakamura, M. Uchimura, H. Takahashi, S. Sumitomo, T. Hioki, T. Motohiro, Y. Furuyama, M. Kishida, H. Matsune, “Excess heat evolution from nanocomposite samples under exposure to hydrogen isotope gases”, International Journal of Hydrogen Energy 43 (2018) 16187-16200.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エネルギー源の主流は依然として火力発電や原子力発電である。したがって、環境問題やエネルギー問題の観点から、安価、クリーン、安全なエネルギー源を利用する、従来にない新規な発熱装置および熱利用システムが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、安価、クリーン、安全なエネルギー源を利用した新規な発熱装置および熱利用システム、安価、クリーン、安全なエネルギー源としてのフィルム状発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発熱装置は、中空の密閉容器と、前記密閉容器の内面により形成される中空部に設けられた筒体と、前記筒体の外面に設けられ、前記中空部に供給される水素系ガスに含まれる水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体と、前記筒体の内面により形成され、前記発熱体との間で熱交換を行う流体が流通する流路とを備え、前記発熱体は、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはプロトン導電体により形成された台座と、前記台座に設けられた多層膜とを有し、前記多層膜は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有する。
【0007】
本発明の熱利用システムは、上記の発熱装置と、前記発熱体により加熱された前記流体を利用する流体利用装置とを備える。
【0008】
本発明のフィルム状発熱体は、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはプロトン導電体により形成されたフィルム状の台座と、前記台座に設けられたフィルム状の多層膜とを有し、前記多層膜は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成され、厚みが1000nm未満である第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成され、厚みが1000nm未満である第2層とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する発熱体をエネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】密閉容器の一部を破断して示す斜視図である。
【
図4】密閉容器における流体の流れを説明するための説明図である。
【
図5】第1層と第2層とを有する発熱体の構造を示す断面図である。
【
図6】過剰熱の発生を説明するための説明図である。
【
図9】第3実施形態の発熱装置と蒸気タービンとを含むランキンサイクルのエントロピーと圧力との関係を示すグラフである。
【
図10】第3実施形態の発熱装置と蒸気タービンとを含むランキンサイクルのエントロピーと温度との関係を示すグラフである。
【
図11】第3実施形態の発熱装置と蒸気タービンとを含むランキンサイクルのエントロピーとエンタルピーとの関係を示すグラフである。
【
図15】第6実施形態のボイラーにおける熱交換の状態を示すグラフである。
【
図16】第6実施形態の発熱装置と蒸気タービンとを含むランキンサイクルのエントロピーと圧力との関係を示すグラフである。
【
図17】第6実施形態の発熱装置と蒸気タービンとを含むランキンサイクルのエントロピーと温度との関係を示すグラフである。
【
図18】第6実施形態の発熱装置と蒸気タービンとを含むランキンサイクルのエントロピーとエンタルピーとの関係を示すグラフである。
【
図19】第1層と第2層と第3層とを有する発熱体の構造を示す断面図である。
【
図20】第1層と第2層と第3層と第4層とを有する発熱体の構造を示す断面図である。
【
図21】複数の発熱体が設けられた筒体の斜視図である。
【
図22】発熱体を製造する発熱体製造装置の概略図である。
【
図23】発熱体が形成された筒体同士を接続した発熱ユニットの斜視図である。
【
図25】フィルム状発熱体を製造するフィルム状発熱体製造装置の概略図である。
【
図26】パッシベーション膜を有するフィルム状発熱体の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1において、発熱装置10は、密閉容器11と、筒体12と、発熱体13と、流路14と、流体循環部15と、制御部16とを備える。発熱装置10は、筒体12の外部に発熱体13が設けられ、筒体12の内部に流路14が設けられており、流路14を流通する流体を発熱体13により加熱し、高温の流体を生成する。
【0012】
流体は、液体および気体の少なくともいずれかを含む。流体としては、熱伝導率に優れ、かつ化学的に安定したものが好ましい。気体としては、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、フロンガス、水素ガス、窒素ガス、水蒸気、空気、二酸化炭素などが挙げられる。液体としては、例えば、水、溶融塩(KNO3(40%)-NaNO3(60%)など)、液体金属(Pbなど)などが挙げられる。また、流体として、気体または液体に固体粒子を分散させた混相の流体を用いてもよい。固体粒子は、金属、金属化合物、合金、セラミックスなどである。金属としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、コバルトなどが挙げられる。金属化合物としては、例えば、上記の金属の酸化物、窒化物、ケイ化物などが挙げられる。合金としては、例えば、ステンレス、クロムモリブデン鋼などが挙げられる。セラミックスとしては、例えば、アルミナなどが挙げられる。流体の種類は発熱装置10の用途に応じて適宜選択することができる。
【0013】
本実施形態では流体として水を使用する。発熱装置10は、流路14を流通する水を発熱体13により加熱し、高温高圧の水(以下、高温高圧水と称する)を生成する。
【0014】
密閉容器11は、筒体12および発熱体13を収容するように構成されている。密閉容器11は、中空の筒形状とされている。密閉容器11の形状は、この例では円筒形状であるが、楕円筒形状、角筒形状などの種々の形状とすることができる。密閉容器11の高さは例えば13~15mとされている。密閉容器11の直径は例えば3.1mとされている。密閉容器11の寸法は特に限定されず、適宜設計することができる。
【0015】
密閉容器11は、耐熱性および耐圧性を有する材料により形成されている。密閉容器11の材料は、使用条件(例えば温度や圧力など)に応じて適宜選択することができる。密閉容器11の材料としては、例えば、炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、耐熱性非鉄合金鋼などが用いられる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、JIS(Japanese Industrial Standards)に規格されるSUS304L、SUS316L、SUS310Sなどが挙げられる。例えば、密閉容器11の材料としては、使用温度が350℃以下である場合は炭素鋼が使用され、使用温度が350℃を超える場合はSUS304Lが使用され、使用温度が600~700℃である場合はSUS316LまたはSUS310Sが使用され、使用温度が700℃を超える場合は耐熱に応じた非鉄合金が使用される。
【0016】
密閉容器11は、筒状に形成された本体17と、本体17の一端に設けられた流体流入室18と、本体17の他端に設けられた流体流出室19とを有する。密閉容器11において、本体17に対し流体流入室18が設けられている側が下であり、本体17に対し流体流出室19が設けられている側が上である。
【0017】
本体17は、水素系ガスの入口であるガス入口21と、水素系ガスの出口であるガス出口22とを有する。本体17の形状は、この例では円筒形状であるが、楕円筒形状、角筒形状などの種々の形状とすることができる。流体流入室18は、流体の入口である流体入口23を有する。流体流出室19は、流体の出口である流体出口24を有する。
【0018】
水素系ガスとは、水素の同位体を含むガスを意味する。水素系ガスとしては、重水素ガスと軽水素ガスとの少なくともいずれかが用いられる。軽水素ガスは、天然に存在する軽水素と重水素の混合物、すなわち、軽水素の存在比が99.985%であり、重水素の存在比が0.015%である混合物を含む。以降の説明において、軽水素と重水素とを区別しない場合には「水素」と記載する。
【0019】
密閉容器11の内部には、筒体12および発熱体13が配置される中空部26が設けられている。中空部26は、密閉容器11の内面により形成される。具体的には、中空部26は、本体17の内面と後述する発熱体13の外面により画定される筒状の空間である。
【0020】
中空部26は、ガス入口21を介してガス供給部27と接続している。ガス供給部27は、図示しないが、水素系ガスを貯蔵するガスボンベ、ガスボンベと中空部26とを接続する配管、水素系ガスの流量や配管内の圧力を調整するバルブなどから構成されており、中空部26へ水素系ガスの供給を行う。
【0021】
中空部26は、ガス出口22を介してガス排出部28と接続している。ガス排出部28は、図示しないが、真空ポンプ、真空ポンプと中空部26とを接続する配管、水素系ガスの流量や配管内の圧力を調整するバルブなどから構成されており、中空部26の真空排気を行う。
【0022】
筒体12は、密閉容器11の中空部26に設けられている。筒体12は中空のパイプである。筒体12の内部は、後述する制御部16により所定の圧力に制御されている。本実施形態では、水が300℃程度で水蒸気とならずに液体の状態を保つように圧力が制御されている。筒体12の内部の圧力は、本実施形態では100barとされるが、これに限定されず適宜設計することができる。
【0023】
筒体12は、耐熱性および耐圧性を有する材料により形成される。筒体12の材料は、使用条件(例えば温度や圧力など)に応じて適宜選択することができる。筒体12の材料としては、密閉容器11と同じ材料、すなわち、炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、耐熱性非鉄合金鋼などが用いられる。筒体12の形状は、円筒形状、楕円筒形状、角筒形状などの種々の形状とすることができる。筒体12の各種寸法は、特に限定されず、適宜設計することができる。例えば、筒体12は、長さが10m、厚み(肉厚)が0.005~0.010m、直径が0.05mの円筒形状とすることができる。厚みは、筒体12の内部(後述する流路14)を流通する流体の温度と圧力とに基づき適宜設計することが好ましい。筒体12は、例えば複数のパイプ材を直列に接続することにより、所望の長さに形成することが可能である。筒体12の数は、特に限定されず、1つ以上であればよい。例えば800本の筒体12を密閉容器11に設置することも可能である。本実施形態では複数の筒体12が中空部26に設けられている。すなわち、発熱装置10は、中空部26に設けられた複数の筒体12を備えるものである。なお、
図1では、図面の簡略化のため複数の筒体12のうちの1本のみを示し、他の筒体12は省略している。
【0024】
発熱体13は、筒体12の外面に設けられている。したがって、発熱体13は筒形状とされている。本実施形態では、複数の筒体12のそれぞれに対し、発熱体13が1つずつ設けられている。すなわち、発熱装置10は複数の発熱体13を備えるものである。
【0025】
発熱体13は、中空部26に配されており、中空部26に供給される水素系ガスと接する。発熱体13の厚み(肉厚)は、特に限定されず、発熱装置10として所望の出力が得られるように適宜設計することができ、例えば0.005~0.010mとされる。発熱体13は、1つの筒体12について、その外面の全域に1つの発熱体13が設けられている。なお、1つの筒体12について、その外面に複数の発熱体13を互いに間隔をあけて設けてもよい。
【0026】
発熱体13は、水素系ガスに含まれる水素の吸蔵と放出とにより熱を発生する。発熱体13は、中空部26に水素系ガスが供給されることにより、水素系ガスに含まれる水素を吸蔵する。発熱体13は、中空部26の真空排気が行われた状態で加熱されることにより、加熱温度以上の温度に昇温し、熱(以下、過剰熱と称する)を発生する。
【0027】
発熱体13は、発熱装置10の運転が開始された場合、後述する加熱部33によって加熱された水(流体)により加熱され、所定の温度となることにより過剰熱を発生する。本実施形態は、発熱体13が例えば270~300℃に加熱されることにより過剰熱を発生する場合を想定したものである。過剰熱を発している状態の発熱体13の温度は、例えば300℃以上1500℃以下の範囲内とされる。
【0028】
流路14は、筒体12の内部に設けられている。流路14は、筒体12の内面により形成される。流路14は、発熱体13との間で熱交換を行う流体を流通させる。流路14は中空部26と非接続である。このため、流路14と中空部26との間で流体および水素系ガスの流通が防止されている。
【0029】
加熱された流体が流路14に流入することにより、筒体12を介して、発熱体13が加熱される。これにより、発熱体13が過剰熱を発生し、筒体12を介して、流路14を流通する流体が加熱される。この結果、流路14内で高温高圧の流体が生成され、この高温高圧の流体が流路14から流出する。本実施形態の場合、流路14に流入した水は、過剰熱を発生する発熱体13によって加熱され、例えば300℃の高温高圧水として流路14から流出する。なお、流路14内の水の一部が水蒸気となる場合もある。
【0030】
流体循環部15は、流路14と接続して筒体12の内部と外部との間で流体を循環させる循環ライン30を有する。循環ライン30は、密閉容器11の外部において、流体流入室18の流体入口23と流体流出室19の流体出口24とを接続する。
【0031】
循環ライン30には、流体を冷却する冷却部32と、流体を加熱する加熱部33とが設けられている。すなわち、発熱装置10は、冷却部32と加熱部33とをさらに備えるものである。
【0032】
本実施形態では、冷却部32と加熱部33に加え、水を貯留するリザーバータンク36と、水を循環させるポンプ40とが循環ライン30に設けられている。さらに、循環ライン30の各部には、圧力計PI、温度計TI、および流量計FIが設けられている。圧力計PI、温度計TI、および流量計FIの数は、特に限定されないが、1以上であることが好ましい。循環ライン30のうち、密閉容器11の流体出口24から流体入口23までの間の各部において、圧力計PI、温度計TI、冷却部32、温度計TI、リザーバータンク36、ポンプ40、温度計TI、加熱部33、温度計TI、流量計FIがこの順で設けられている。リザーバータンク36には温度計TIが設けられている。
【0033】
冷却部32は、制御部16と電気的に接続しており、制御部16によって駆動が制御される。冷却部32は、流路14から流出した流体としての高温高圧水を冷却する。冷却部32では、例えば300℃の高温高圧水が270℃まで冷却される。
【0034】
冷却部32は、この例ではボイラーとしての機能を有する。ボイラーとしての冷却部32は、高温高圧水と熱媒体としてのボイラー水との間で熱交換を行い、ボイラー水から高温高圧の水蒸気(以下、過熱蒸気と称する)を生成する。この過熱蒸気を蒸気タービンに供給し、蒸気タービンと接続した発電機により発電を行うことが可能である。
【0035】
加熱部33は、制御部16と電気的に接続しており、制御部16により駆動が制御される。加熱部33は、流路14に流入させる流体としての水を加熱する。
【0036】
加熱部33は、例えば給電によって発熱する電気炉である。なお、加熱部33は、燃料を燃焼させることによって発熱する燃料炉でもよい。発熱装置10の運転を開始する場合、加熱部33では、水が例えば270℃に加熱される。加熱部33により加熱された流体が流路14に流入することにより、発熱体13が所定の温度まで昇温して過剰熱を発生する。すなわち、加熱部33は、発熱装置10の運転開始時において発熱体13を所定の温度まで昇温させるスタートアップヒーターとして機能する。
【0037】
加熱部33は、本実施形態では循環ライン30に直接設けられているが、循環ライン30から分岐した分岐ラインに設けてもよい。加熱部33が分岐ラインに設けられる場合は、循環ライン30を流通する流体の一部または全部を分岐ラインに流し、加熱部33で加熱された流体を循環ライン30へ戻す。これにより、加熱された流体を流路14へ流入させることができる。循環ライン30と分岐ラインとをバルブを介して接続することにより、分岐ラインへ流す水の流量を制御することができる。
【0038】
冷却部32と加熱部33とは、発熱装置10の運転中においては、流路14に流入させる流体の温度が所定の範囲内に維持されるように駆動が制御されている。例えば、発熱体13が過剰熱を発生した場合に、流路14に流入させる水の温度を270℃程度に維持する。これにより、発熱体13の温度がほぼ一定とされ、流路14から流出する高温高圧水の温度や流量が安定する。
【0039】
制御部16は、発熱装置10の各部と電気的に接続しており、各部の動作を制御する。制御部16は、例えば、演算装置(Central Processing Unit)、読み出し専用メモリ(Read Only Memory)やランダムアクセスメモリ(Random Access Memory)などの記憶部などを備えている。演算装置では、例えば、記憶部に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する。
【0040】
制御部16は、冷却部32を駆動し、冷却部32により冷却された流体を流路14に流入させて発熱体13の温度を低下させる降温制御と、加熱部33を駆動し、加熱部33により加熱された流体を流路14に流入させて発熱体13の温度を上昇させる昇温制御とを行う。制御部16は、循環ライン30を流通する流体の温度に基づき、降温制御と昇温制御との切り替えを行うことにより、流路14に流入させる流体の温度を調整する。
【0041】
制御部16は、温度計TIの検出結果、圧力計PIの検出結果、流量計FIの検出結果などに基づき、発熱装置10の各部の温度、圧力、流量などを制御する。例えば、発熱体13が270~300℃で過剰熱を発生する場合、制御部16は、流路14に流入する流体の温度を270℃、圧力を100barとする。流路14に流入する流体のエンタルピーは283kcal/kgであり、28.3×108kcal/hである。流路14に流入した水は、発熱体13によって300℃まで加熱され、高温高圧水として流路14から流出する。なお、圧力が100barである場合の水の飽和温度は311℃であるので、流路14に流入した水は、300℃まで昇温しても水蒸気とはならない。
【0042】
図2は、密閉容器11の一部を破断して示す斜視図である。
図2では、複数の筒体12および発熱体13のうち、1つの筒体12および発熱体13について一部を破断し、その内部を図示している。
【0043】
図2に示すように、流体循環部15は、循環ライン30の他、外部流体ライン45をさらに有する。密閉容器11の中空部26に設けられている各筒体12は、内部に設けられた流路14を流通する流体の熱、または外面に設けられた発熱体13の熱により加熱され、温度が上昇して熱膨張する。一方、密閉容器11の本体17は、筒体12および発熱体13とは非接触であり、筒体12よりも温度の上昇が抑えられているので、筒体12よりも熱膨張が小さい。このため、複数の筒体12と密閉容器11の本体17とに熱応力が発生する。外部流体ライン45は、この熱応力による破損を防止するためのものである。
【0044】
外部流体ライン45は、密閉容器11の外面に設けられ、循環ライン30と接続して流体の一部が流通する。外部流体ライン45は、密閉容器11の外面に設けられた複数の第1配管47と、複数の第1配管47の一端同士を接続する第1のリング管48と、複数の第1配管47の他端同士を接続する第2のリング管49と、第1のリング管48と流体流入室18とを接続する複数の第2配管50と、第2のリング管49と流体流出室19とを接続する複数の第3配管51とを有する。
【0045】
複数の第1配管47は、各々が密閉容器11の上下方向(図中Z方向)に延びている。第1のリング管48は、密閉容器11の本体17の一端のフランジに設けられている。第2のリング管49は、密閉容器11の本体17の他端のフランジに設けられている。第1のリング管48および第2のリング管49は、管材を本体17の外周に沿ってリング状に形成したものであり、内部に流体が流通するように構成されている。複数の第2配管50は、流体流入室18の流体を第1のリング管48へ案内する。第1のリング管48の流体は、複数の第1配管47を通り、第2のリング管49へ移動する。複数の第3配管51は、第2のリング管49の流体を流体流出室19へ案内する。第1配管47、第2配管50、および第3配管51の数は、特に限定されず、適宜変更可能である。
【0046】
図3に示すように、複数の第1配管47は、密閉容器11の周方向に等間隔に配置されている。各第1配管47の断面形状は、本実施形態では半円形状であるが、これに限定されず、矩形状、半楕円形状などとすることができる。
図3は、密閉容器11の本体17でのXY平面に沿った断面図である。
【0047】
中空部26において、複数の筒体12は互いに等間隔で千鳥状に配置されている。すなわち、互いに隣接する3つの筒体12において、各筒体12の中心同士を結んだ形状は正三角形(
図3において点線で示している)を形成する。互いに隣接する筒体12の中心間の距離は0.15mとされている。
【0048】
図4を用いて、密閉容器11における流体の流れについて説明する。循環ライン30を流通する流体は、流体入口23から流体流入室18に流入する。流体流入室18の流体の一部は、複数の筒体12の一端から流路14へ流れる。流路14では、発熱体13により流体が加熱される。流路14で加熱された流体は、複数の筒体12の他端から流体流出室19へ流れ、流体出口24から循環ライン30へ流出する。
【0049】
流体流入室18の流体の残りの一部は、複数の第2配管50に流入する。複数の第2配管50の流体は、第1のリング管48を介して、複数の第1配管47へ案内される。複数の第1配管47では、発熱体13の放射熱により流体が加熱される。複数の第1配管47で加熱された流体は、第2のリング管49、複数の第3配管51を順に介して、流体流出室19へ案内され、流路14で加熱された流体と合流する。
【0050】
上記のような外部流体ライン45、密閉容器11、筒体12、発熱体13、および流路14により、発熱モジュール55が構成される。本実施形態の発熱装置10は1つの発熱モジュール55を備えるものであるが、発熱モジュール55の数は特に限定されず2つ以上としてもよい。
【0051】
図5を用いて発熱体13の詳細について説明する。
図5に示すように、発熱体13は、台座57と多層膜58とを有する。
【0052】
台座57は、筒体12の外面に設けられる。
図5では筒体12の図示を省略している。台座57は、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはプロトン導電体により形成される。水素吸蔵金属としては、例えば、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi
5、CaCu
5、MgZn
2、ZrNi
2、ZrCr
2、TiFe、TiCo、Mg
2Ni、Mg
2Cuなどが用いられる。プロトン導電体としては、例えば、BaCeO
3系(例えばBa(Ce
0.95Y
0.05)O
3-6)、SrCeO
3系(例えばSr(Ce
0.95Y
0.05)O
3-6)、CaZrO
3系(例えばCaZr
0.95Y
0.05O
3-α)、SrZrO
3系(例えばSrZr
0.9Y
0.1O
3-α)、β Al
2O
3、β Ga
2O
3などが用いられる。
【0053】
多層膜58は、台座57の表面に設けられる。多層膜58は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成される第1層59と、第1層59とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスにより形成される第2層60とにより形成される。台座57と第1層59と第2層60との間には異種物質界面61が形成される。
【0054】
第1層59は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうち、いずれかにより形成される。第1層59を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第1層59を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0055】
第2層60は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうち、いずれかにより形成される。第2層60を形成する合金とは、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第2層60を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0056】
第1層59と第2層60との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層59-第2層60(第2層60-第1層59)」として表すと、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coであることが好ましい。第2層60をセラミックスとした場合は、「第1層59-第2層60」が、Ni-SiCであることが好ましい。
【0057】
第1層59の厚みと第2層60の厚みは、それぞれ1000nm未満であることが好ましい。第1層59と第2層60の各厚みが1000nm以上となると、水素が多層膜58を透過し難くなる。また、第1層59と第2層60の各厚みが1000nm未満であることにより、バルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。第1層59と第2層60の各厚みは、500nm未満であることがより好ましい。第1層59と第2層60の各厚みが500nm未満であることにより、完全にバルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。
【0058】
図5では、多層膜58は、台座57の表面に、第1層59と第2層60とがこの順で交互に積層された構成を有する。第1層59と第2層60とは、それぞれ5層とされている。なお、第1層59と第2層60との各層数は適宜変更してもよい。多層膜58は、台座57の表面に、第2層60と第1層59とがこの順で交互に積層された構成を有するものでもよい。多層膜58としては、第1層59と第2層60とをそれぞれ1層以上有し、異種物質界面61が1つ以上形成されていればよい。
【0059】
図6に示すように、異種物質界面61は水素原子を透過させる。
図6は、面心立法構造の水素吸蔵金属により形成される第1層59および第2層60に水素を吸蔵させた後、第1層59および第2層60を加熱したときに、第1層59における金属格子中の水素原子が、異種物質界面61を透過して第2層60の金属格子中に移動する様子を示した概略図である。
【0060】
発熱体13は、密閉容器11に水素系ガスが供給されることで、台座57および多層膜58により水素を吸蔵する。発熱体13は、密閉容器11への水素系ガスの供給が停止されても、台座57および多層膜58において水素を吸蔵した状態を維持する。流体により発熱体13の加熱が開始されると、台座57および多層膜58に吸蔵されている水素が放出され、多層膜58の内部をホッピングしながら量子拡散する。水素は軽く、ある物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)をホッピングしながら量子拡散していくことが分かっている。発熱体13は、真空状態で加熱が行われることで、異種物質界面61を水素が量子拡散により透過して、流体の温度以上の過剰熱を発生させる。
【0061】
発熱体13の製造方法の一例を説明する。発熱体13は、例えばスパッタリング法を用いて製造することができる。円筒形状の筒体12の外面に台座57を形成した後、台座57上に第1層59および第2層60を交互に形成することにより発熱体13が得られる。台座57を形成する際は、第1層59および第2層60よりも厚めに形成することが好ましく、台座57の材料としては例えばNiが用いられる。第1層59および第2層60は、真空状態で連続的に形成することが好ましい。これにより、第1層59および第2層60の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面61のみが形成される。発熱体13の製造方法としては、スパッタリング法に限られず、蒸着法、湿式法、溶射法、電気めっき法などを用いることができる。
【0062】
発熱装置10を用いた発熱方法は、密閉容器11の中空部26に対し水素系ガスの供給を行うことにより、水素系ガスに含まれる水素を発熱体13に吸蔵させる水素吸蔵工程と、密閉容器11の中空部26の真空排気と発熱体13の加熱とを行うことにより、発熱体13に吸蔵されている水素を放出させる水素放出工程とを有する。水素吸蔵工程と水素放出工程とを繰り返し行ってもよい。
【0063】
以上のように、発熱装置10は、筒体12の外面に設けられた発熱体13と、筒体12の内面により形成された流路14を流通する流体(水)との間で熱交換を行うことで、高温の流体(高温高圧水)を生成する。高温の流体としての高温高圧水は、ボイラー(冷却部32)内で過熱蒸気を生成するために利用することができる。ボイラーで生成された過熱蒸気は、蒸気タービンに利用することができる。発熱体13は、水素を使用して発熱するので、二酸化炭素などの温室効果ガスを発生しない。また、発熱体13を発熱させるために使用する水素は、水から生成できるため安価である。さらに、発熱体13の発熱は、核分裂反応とは異なり、連鎖反応が無いので安全とされている。したがって、発熱装置10は、発熱体13をエネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
【0064】
発熱装置10は、外部流体ライン45が密閉容器11の本体17の外面に設けられていることによって、本体17が発熱体13の放射熱により加熱された場合でも、本体17の熱が外部流体ライン45を流通する流体へ伝達するので、本体17の熱膨張が抑制される。また、発熱装置10は、流路14が筒体12の内部に設けられていることによって、筒体12が発熱体13により加熱された場合でも、筒体12の熱が流路14を流通する流体へ伝達するので、筒体12の熱膨張が抑制される。発熱装置10は、筒体12および本体17が熱膨張する場合であっても、筒体12の伸びと本体17の伸びとが同程度となるので、熱応力による破損が防止される。
【0065】
発熱装置10は、制御部16によって降温制御と昇温制御との切り替えを行うことにより、循環ライン30を循環する流体の温度が一定に維持され、発熱体13の発熱が安定する。
【0066】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、流路14に流入させた水を発熱体13により加熱して高温高圧水を生成しているが、第2実施形態は、流路14に流入させた水を発熱体13により加熱して過熱蒸気を生成し、この過熱蒸気を蒸気タービンの作動流体として利用することにより発電を行うように構成したものである。上記第1実施形態と同じ部材を用いているものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0067】
図7に示すように、発熱装置70は、上記第1実施形態の発熱装置10と同様に、1つの発熱モジュール55を備えるものである。発熱装置70は、流路14に流体としての液体(水)が流入し、流路14から流体としての気体(水蒸気)が流出するように構成されている。具体的には、発熱装置70の運転が開始されると、流体としての水が加熱部33により加熱される。加熱部33により加熱された水が流路14に流入することにより、筒体12を介して、発熱体13が加熱される。これにより、発熱体13は過剰熱を発生する。そして、発熱体13が過剰熱を発生することにより、筒体12を介して、流路14を流通する水が加熱される。この結果、流路14内で過熱蒸気が生成され、この過熱蒸気が流路14から流出する。なお、流路14の水は、全部が水蒸気とならずに、一部が水のまま流路14から流出する場合もある。
図7では、流路14から水と水蒸気とが流出し、流体流出室19の下方に水が溜まり、流体流出室19の上方に水蒸気が移動した状態を示している。なお、流体流出室19には、圧力計PI、温度計TI、流体流出室19における液面の高さを検出するレベル計LIが設けられている。
【0068】
本実施形態では、筒体12の内部の圧力が90barに制御されている。発熱体13が270~300℃で過剰熱を発生する場合、制御部16は、流路14に流入する流体の温度を270℃、圧力を90barとする。流路14に流入した水は、発熱体13によって加熱され、例えば304℃の過熱蒸気として流路14から流出する。
【0069】
第2実施形態では、循環ライン30には、冷却部32、加熱部33、蒸気タービン71が設けられている。冷却部32は、蒸気タービン71から排出された水蒸気を冷却し、凝縮させて復水する。冷却部32における冷却温度が低いほど、蒸気タービン71の背圧が下がり、蒸気タービン71と接続した発電機の発電効率が向上する。蒸気タービン71の背圧は、例えば0.05barに制御されており、冷却部32の冷却方法および熱媒体に基づき決定される。加熱部33は、循環ライン30から分岐した分岐ライン30aに設けられている。分岐ライン30aは、図示しないバルブを介して循環ライン30と接続している。発熱装置70の運転を開始する場合において、循環ライン30を流通する水の一部または全部が分岐ライン30aに流れ、加熱部33で加熱されて循環ライン30へ戻される。これにより、加熱部33で例えば270℃に加熱された水が流路14に流入し、発熱体13が過剰熱を発生する。
【0070】
蒸気タービン71は、流路14から流出した過熱蒸気を作動流体として利用する流体利用装置である。蒸気タービン71は、発電機と接続する回転軸を有し、過熱蒸気が供給されることによって回転軸を中心として回転する。発電機は、蒸気タービン71が回転することにより発電を行う。
【0071】
発熱装置70の循環ライン30には、冷却部32、加熱部33、蒸気タービン71の他、蒸気タンク72、リザーバータンク73、脱気器74、予熱器75、コントロールバルブ76a,76b、およびポンプ77a,77bが設けられている。
図7では、循環ライン30において、密閉容器11の流体出口24から順に、コントロールバルブ76a、蒸気タンク72、蒸気タービン71、冷却部32、リザーバータンク73、ポンプ77a、脱気器74、ポンプ77b、予熱器75、加熱部33、コントロールバルブ76bが設けられている。脱気器74、予熱器75、コントロールバルブ76a,76b、およびポンプ77a,77bは、制御部16と電気的に接続している。
【0072】
蒸気タンク72は、流路14で生成された水蒸気を一時的に貯留するためのものである。蒸気タンク72は、脱気用配管30bを介して脱気器74と接続しており、予熱用配管30cを介して予熱器75と接続している。
【0073】
リザーバータンク73は、冷却部32で復水された水を貯留するためのものである。リザーバータンク73には温度計TIが設けられている。なお、リザーバータンク73は、図示していないが水の供給源と接続しており、この供給源から水が供給されるように構成されている。
【0074】
脱気器74は、脱気用配管30bを介して蒸気タンク72から供給された水蒸気を用いて、流路14に流入させる水に含まれる酸素の脱気を行う。水の脱気が行われることにより、ボイラーの腐食が防止される。脱気器74で脱気された水は予熱器75へ案内される。
【0075】
予熱器75は、予熱用配管30cを介して蒸気タンク72から供給された水蒸気を用いて、流路14に流入させる水の予熱を行う。予熱器75では水が例えば270℃に予熱される。予熱器75で予熱された水は流路14に流入する。
【0076】
コントロールバルブ76aは、流路14から流出する水蒸気の流量や圧力を調整する。コントロールバルブ76bは、流路14に流入させる水の流量や圧力を調整する。ポンプ77aは、リザーバータンク73の水を脱気器74へ送るためのものである。ポンプ77bは、脱気器74の水を予熱器75へ送るためのものである。
【0077】
以上のように、発熱装置70は、筒体12の外面に設けられた発熱体13と、筒体12の内面により形成された流路14を流通する流体(水)との間で熱交換を行うことで、高温の流体(過熱蒸気)を生成する。高温の流体としての過熱蒸気は、蒸気タービン71に利用することができる。上記のような発熱装置70と流体利用装置としての蒸気タービン71とにより、熱利用システム79が構成される。したがって、発熱装置70および熱利用システム79は、発熱体13をエネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
【0078】
流体利用装置としては、本実施形態のように流路14から流出する流体が水蒸気(過熱蒸気)である場合は蒸気タービン71が適している。流体利用装置として蒸気タービン71を用いることにより、発熱装置70で得られる熱エネルギーを電気エネルギーとして回収することが可能となる。なお、流路14から流出する流体が水蒸気以外の気体(例えば、空気、フロンガス、ヘリウムガスなど)である場合は、流体利用装置としてガスタービンを適用することができる。流路14から流出する流体を別途設けられたボイラーに供給し、ボイラー内で過熱蒸気を生成させ、この過熱蒸気を蒸気タービンに供給して発電を行うことも可能である。また、流体利用装置としては、燃料と燃焼用空気とを燃焼させて熱を発生させる燃焼装置において、燃焼用空気を予熱する予熱器を適用することができる。燃焼装置としては、ボイラー、ロータリーキルン、金属の熱処理炉、金属加工用加熱炉、熱風炉、窯業用焼成炉、石油精製塔、乾留炉、乾燥炉などが挙げられる。
【0079】
[第3実施形態]
上記第2実施形態の発熱装置70は1つの発熱モジュール55を備えるものであるが、第3実施形態は複数の発熱モジュール55を接続したものである。この例では3つの発熱モジュール55を接続する場合について説明するが、発熱モジュール55の数は特に限定されず、所望の出力が得られるように増減することができる。上記各実施形態と同じ部材を用いているものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0080】
図8に示すように、発熱装置80は、3つの発熱モジュール55a~55cを備える。各発熱モジュール55a~55cの構成は、上記第1実施形態の発熱モジュール55の構成と同じであるので説明を省略する。
図8には示していないが、発熱装置80は、制御部16を備えており、制御部16により各部の動作が制御される。中空部26にはガス供給部27とガス排出部28とが接続している。
【0081】
発熱装置80は、分配用配管81と集合用配管82とをさらに備えている。分配用配管81は、循環ライン30と接続し、各発熱モジュール55a~55cに対して流体を分配する。集合用配管82は、循環ライン30と接続し、各発熱モジュール55a~55cから流出した流体を集合する。
【0082】
発熱装置80は、3つの発熱モジュール55a~55cが、分配用配管81と集合用配管82とにより並列に接続された構成を有する。なお、3つの発熱モジュール55a~55cは、並列に接続する場合に限られず、直列に接続してもよい。3つの発熱モジュール55a~55cを直列に接続する場合は、分配用配管81と集合用配管82とを用いずに、発熱モジュール55aの流体出口24と発熱モジュール55bの流体入口23とを接続し、発熱モジュール55bの流体出口24と発熱モジュール55cの流体入口23とを接続する。これにより、循環ライン30の流体は、発熱モジュール55a、発熱モジュール55b、発熱モジュール55cを順に通過し、再び循環ライン30へ戻される。
【0083】
3つの発熱モジュール55a~55cは、分配用配管81および集合用配管82に対し、着脱自在とされている。分配用配管81には、各発熱モジュール55a~55cに対応してコントロールバルブ76bが設けられている。
【0084】
発熱装置80は、3つの発熱モジュール55a~55cを備え、各発熱モジュール55a~55cが分配用配管81と集合用配管82とにより接続されていること以外は、上記第2実施形態の発熱装置70と同じ構成を有する。したがって、発熱装置80により生成された過熱蒸気は、蒸気タービン71に利用される。
【0085】
以上のように、発熱装置80は、3つの発熱モジュール55a~55cを備えるので高出力化が図れる。また、発熱装置80は、各発熱モジュール55a~55cが着脱自在であり容易に交換できるので、メンテナンス性に優れる。
【0086】
上記のような発熱装置80と流体利用装置としての蒸気タービン71とにより、熱利用システム89が構成される。発熱装置80および熱利用システム89は、発熱体13をエネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
【0087】
発熱装置80を用いて蒸気タービンを作動させる場合の発電効率を計算した。蒸気圧力を80~100barとし、蒸気タービンから排出された水蒸気の排気圧力を0.05bar、排気温度を32℃、排気湿りを15%として、蒸気タービンの発電効率を計算した。蒸気圧力と発電効率との関係を表1に示す。
【0088】
【0089】
蒸気圧力が低いほど飽和温度が低下して水蒸気の発生量が増える一方で、蒸気流量比が増加するほどエンタルピーの落差が抑えられるので、結果として蒸気タービンの発電効率が向上する。例えば、蒸気圧力が80barの場合は蒸気温度が296℃となることがわかる。このため、発熱体13が300℃程度の加熱温度で過剰熱を発生する場合を想定すると、蒸気圧力は80barよりも大きいことが好ましい。蒸気圧力を90barとした場合は、蒸気温度が304℃であるので、発熱体13が過剰熱を発生し、蒸気タービンの発電効率としては21.1%を達成することができる。
【0090】
図9は、第3実施形態の発熱装置80と蒸気タービン71とを含むランキンサイクルのエントロピーと圧力との関係を示すグラフである。
図9において、横軸はエントロピーを示し、縦軸は圧力を示す。
図10は、第3実施形態の発熱装置80と蒸気タービン71とを含むランキンサイクルのエントロピーと温度との関係を示すグラフである。
図10において、横軸はエントロピーを示し、縦軸は温度を示す。
図11は、第3実施形態の発熱装置80と蒸気タービン71とを含むランキンサイクルのエントロピーとエンタルピーとの関係を示すグラフである。
図11において、横軸はエントロピーを示し、縦軸はエンタルピーを示す。
図9~
図11において、Aは蒸気タービン71の入口における流体の状態を示し、Bは蒸気タービン71の出口における流体の状態を示し、Cは冷却部32における流体の状態を示し、Dはポンプ77aにおける流体の状態を示し、Eは予熱器75の入口における流体の状態を示し、Fは予熱器75の出口における流体の状態を示し、Gは流路14において飽和温度となった流体の状態を示し、Hは流路14から流出した流体の状態を示す。
【0091】
[第4実施形態]
第4実施形態は、流体として気体を使用するように構成したものである。この例では流体として空気を使用する場合について説明するが、空気以外の気体を用いてもよい。上記各実施形態と同じ部材を用いているものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0092】
図12に示すように、発熱装置90は、上記第1実施形態の発熱装置10と同様に、1つの発熱モジュール55を備えるものである。発熱装置90は、流路14に流体としての気体が流入し、流路14から流体としての気体が流出するように構成されている。具体的には、発熱装置90の運転が開始されると、流体としての空気が加熱部33により加熱される。加熱部33により加熱された空気が流路14に流入することにより、筒体12を介して、発熱体13が加熱される。これにより、発熱体13は過剰熱を発生する。そして、発熱体13が過剰熱を発生することにより、筒体12を介して、流路14を流通する空気が加熱される。この結果、流路14内で高温の空気(以下、高温空気と称する)が生成され、この高温空気が流路14から流出する。
【0093】
第4実施形態は、流体として空気を使用するように構成されているので、流体として水を使用する場合よりも低圧環境で発熱体13から過剰熱を発生させることができる。例えば、発熱体13が500℃程度の高温で加熱されることにより過剰熱を発生する場合を想定すると、流路14に流入する空気の温度と圧力は、例えば、500℃、1barとされる。流路14から流出する高温空気の温度と圧力は、例えば、700℃、1barとされる。なお、空気および高温空気の温度と圧力は上記のものに限定されるものではない。
【0094】
第4実施形態では、循環ライン30において、上記第1実施形態における冷却部32の代わりに、冷却部92が設けられている。なお、循環ライン30には、上記第1実施形態と同様に、加熱部33も設けられている。加熱部33の説明は省略する。
【0095】
冷却部92は、制御部16と電気的に接続しており、制御部16によって駆動が制御される。冷却部92は、流路14から流出した流体としての高温空気を冷却する。冷却部92では、例えば700℃の高温空気が300℃まで冷却される。
【0096】
冷却部92は、この例ではボイラーとしての機能を有する。ボイラーとしての冷却部92は、高温空気と熱媒体としてのボイラー水との間で熱交換を行い、ボイラー水から過熱蒸気を生成する。例えば、冷却部92では、圧力が130barに維持されており、250℃のボイラー水と700℃の高温空気との間で熱交換を行うことにより、560℃の過熱蒸気が生成される。ボイラー内で生成された過熱蒸気は、蒸気タービンに供給することが可能である。蒸気タービンが駆動することにより発電機で発電を行うことができる。
【0097】
第4実施形態では、冷却部92と加熱部33の他、空気を貯留するためのバッファータンク94、空気を送るための送風機96、温度計TI、圧力計PI、流量計FIなどが循環ライン30に設けられている。
【0098】
以上のように、発熱装置90は、筒体12の外面に設けられた発熱体13と、筒体12の内面により形成された流路14を流通する流体(空気)との間で熱交換を行うことで、高温の流体(高温空気)を生成する。高温の流体としての高温空気は、ボイラー(冷却部92)内で過熱蒸気を生成するために利用することができる。ボイラーで生成された過熱蒸気は、蒸気タービンに利用することができる。したがって、発熱装置90は、発熱体13をエネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
【0099】
[第5実施形態]
第5実施形態は、高温空気を利用してボイラーで過熱蒸気を発生させ、この過熱蒸気を蒸気タービンの作動流体として利用することにより発電を行うように構成したものである。上記各実施形態と同じ部材を用いているものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0100】
図13に示すように、発熱装置100は、上記第4実施形態の発熱装置90と同様に、1つの発熱モジュール55を備えるものである。発熱装置100の循環ライン30には予熱器75が設けられており、送風機96により送られる空気は予熱器75により予熱される。発熱装置100は、循環ライン30に予熱器75が設けられていること以外は、上記第4実施形態の発熱装置90と同じ構成を有する。
【0101】
発熱装置100は、熱回収ライン101と接続している。熱回収ライン101は、循環ライン30に設けられたボイラーとしての冷却部92と接続し、冷却部92にボイラー水を循環させるように構成されている。
【0102】
熱回収ライン101には、コントロールバルブ102、蒸気タンク103、蒸気タービン104、復水器105、リザーバータンク106、ポンプ107、バッファータンク108、脱気器109、ポンプ110、予熱器111が設けられている。
【0103】
コントロールバルブ102は、ボイラーとしての冷却部92から流出する水蒸気の流量や圧力を調整する。蒸気タンク103は、水蒸気を一時的に貯留するためのものである。蒸気タンク103には温度計TIが設けられている。蒸気タンク103に貯留される水蒸気の温度と圧力は、例えば、560℃、130barである。
【0104】
蒸気タンク103は、予熱用配管101aおよび予熱用配管101bを介してバッファータンク108と接続している。予熱用配管101aは予熱器111と接続している。予熱用配管101bは予熱器75と接続している。蒸気タンク103に貯留されている水蒸気の一部は、予熱用配管101aを介して予熱器111へ供給され、予熱用配管101bを介して予熱器75へ供給される。
【0105】
蒸気タービン104は、蒸気タンク103に貯留された過熱蒸気を作動流体として利用する流体利用装置である。蒸気タービン104は、発電機と接続する回転軸を有し、過熱蒸気が供給されることによって回転軸を中心として回転する。発電機は、蒸気タービン104が回転することにより発電を行う。蒸気タービン104から排出される水蒸気は、例えば、温度が32.9℃に降温され、圧力が0.05barに減圧される。この水蒸気には細かいミスト状の水滴が含まれる。
【0106】
蒸気タービン104は、当該タービンの途中に設けられた抽気部から蒸気の一部が抽出可能に構成されている抽気タービンである。蒸気タービン104の抽気部は、抽気用配管101cを介して脱気器109と接続している。蒸気タービン104の抽気部から抽気された水蒸気は、抽気用配管101cを流通して脱気器109へ供給される。抽気用配管101cを流通する水蒸気の温度と圧力は、例えば、251℃、12barである。
【0107】
復水器105は、蒸気タービン104から排出された水蒸気を冷却し、凝縮させて復水する。リザーバータンク106は、復水器105で復水されたボイラー水を貯留するためのものである。ポンプ107は、リザーバータンク106のボイラー水をバッファータンク108へ送るためのものである。ポンプ107で送られるボイラー水の温度と圧力は、例えば、32.9℃、1barである。
【0108】
バッファータンク108は、ボイラー水を貯留するためのものである。バッファータンク108には、リザーバータンク106から送られてくるボイラー水と、予熱用配管101aを流通する水蒸気が予熱器111で冷却されることにより生成されたボイラー水と、予熱用配管101bを流通する水蒸気が予熱器75で冷却されることにより生成されたボイラー水とが供給される。バッファータンク108に貯留されたボイラー水は、脱気器109へ送られる。脱気器109へ送られるボイラー水の温度と圧力は、例えば、87.5℃、2barである。
【0109】
脱気器109は、抽気用配管101cを介して蒸気タービン104の抽気部から供給された水蒸気を用いて、バッファータンク108から送られてきたボイラー水に含まれる酸素の脱気を行う。脱気器109には温度計TIと圧力計PIとが設けられている。ポンプ110は、脱気器109により脱気されたボイラー水を予熱器111へ送るためのものである。ポンプ110で送られるボイラー水の温度と圧力は、例えば、120℃、2barである。
【0110】
予熱器111は、予熱用配管101aを流通する水蒸気と、脱気器109から供給されるボイラー水との間で熱交換を行うことにより、冷却部92に供給するボイラー水の予熱を行う。予熱用配管101aを流通する水蒸気は、予熱器111での熱交換により冷却され、凝縮してボイラー水としてバッファータンク108へ送られる。予熱用配管101aを流通する水蒸気の温度と圧力は、例えば、560℃、130barである。予熱器111を経てバッファータンク108へ送られるボイラー水の温度と圧力は、例えば、120℃、2barである。
【0111】
予熱器75は、予熱用配管101bを流通する水蒸気と、送風機96により送られる空気との間で熱交換を行うことにより、流路14へ流入させる空気の予熱を行う。予熱用配管101bを流通する水蒸気は、予熱器75での熱交換により冷却され、凝縮してボイラー水としてバッファータンク108へ送られる。予熱用配管101bを流通する水蒸気の温度と圧力は、例えば、560℃、130barである。予熱器75を経てバッファータンク108へ送られるボイラー水の温度と圧力は、例えば、120℃、2barである。
【0112】
ボイラーとしての冷却部92では、例えば、予熱器111から供給される250℃、130barのボイラー水と、流路14から流出した700℃の高温空気との熱交換が行われることにより、ボイラー水から560℃、130barの過熱蒸気が生成される。
【0113】
以上のように、発熱装置100は、上記第4実施形態の発熱装置90と同様に高温の流体(高温空気)を生成する。高温の流体としての高温空気は、ボイラー(冷却部92)内で過熱蒸気を生成するために利用することができる。上記のような発熱装置100と流体利用装置としての蒸気タービン104とにより、熱利用システム119が構成される。発熱装置100および熱利用システム119は、発熱体13をエネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
【0114】
[第6実施形態]
上記第5実施形態の発熱装置100は1つの発熱モジュール55を備えるものであるが、第6実施形態は複数の発熱モジュール55を接続したものである。この例では3つの発熱モジュール55a~55cを接続する場合について説明するが、発熱モジュール55の数は特に限定されず、所望の出力が得られるように増減することができる。上記各実施形態と同じ部材を用いているものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0115】
図14に示すように、発熱装置120は、3つの発熱モジュール55a~55cを備える。
図14には示していないが、発熱装置120は、制御部16を備えており、制御部16により各部の動作が制御される。中空部26にはガス供給部27とガス排出部28とが接続している。発熱装置120は、3つの発熱モジュール55a~55cが、分配用配管81と集合用配管82とにより並列に接続された構成を有するものであるが、3つの発熱モジュール55a~55cを直列に接続することもできる。
【0116】
発熱装置120は、3つの発熱モジュール55a~55cを備え、各発熱モジュール55a~55cが分配用配管81と集合用配管82とにより接続されていること以外は、上記第5実施形態の発熱装置100と同じ構成を有する。また、発熱装置120は、蒸気タービン104などが設けられた熱回収ライン101と接続している。したがって、発熱装置120により生成された高温空気は、ボイラー(冷却部92)内で過熱蒸気を生成するために利用される。
【0117】
以上のように、発熱装置120は、3つの発熱モジュール55a~55cを備えるので高出力化が図れる。また、発熱装置120は、各発熱モジュール55a~55cが着脱自在であり、発熱モジュール55a~55cの交換が容易であるので、メンテナンス性に優れる。
【0118】
上記のような発熱装置120と流体利用装置としての蒸気タービン104とにより、熱利用システム129が構成される。発熱装置80および熱利用システム129は、発熱体13をエネルギー源として利用するので、安価、クリーン、安全にエネルギーを供給することができる。
【0119】
図15は、第6実施形態のボイラー(冷却部92)における熱交換の状態を示すグラフである。
図15は、ボイラー内の圧力を130barとし、ボイラー内において、高温空気と熱媒体としてのボイラー水とが向流間接接触したときの高温空気の温度降下とボイラー水の温度上昇を示している。
図15において、縦軸はボイラー水および空気の温度を示す。横軸は、ボイラー内の各部を示しており、「SH inlet」はボイラーの過熱器(SH)の入口の部分を示し、「SH out/EVA in」は過熱器の出口と蒸発器(EVA)の入口との間の部分を示し、「EVA out/ECO in」は蒸発器の出口と節炭器(ECO)の入口との間の部分を示し、「ECO out」は節炭器の出口の部分を示す。「boiler air」は高温空気である。「boiler steam」はボイラー水または水蒸気である。高温空気は、700℃でボイラーの過熱器に供給され、ボイラー水との熱交換を経て、300℃の空気として節炭器から排出される。ボイラー水は、250℃でボイラーの節炭器に供給され、節炭器において130barにおける飽和温度である331℃まで加熱され、蒸発器において水蒸気となる。この水蒸気は、過熱器によりさらに加熱され、560℃の過熱蒸気としてボイラーから排出される。
【0120】
図16は、第6実施形態の発熱装置120と蒸気タービン104とを含むランキンサイクルのエントロピーと圧力との関係を示すグラフである。
図16において、横軸はエントロピーを示し、縦軸は圧力を示す。
図17は、第6実施形態の発熱装置120と蒸気タービン104とを含むランキンサイクルのエントロピーと温度との関係を示すグラフである。
図17において、横軸はエントロピーを示し、縦軸は温度を示す。
図18は、第6実施形態の発熱装置120と蒸気タービン104とを含むランキンサイクルのエントロピーとエンタルピーとの関係を示すグラフである。
図18において、横軸はエントロピーを示し、縦軸はエンタルピーを示す。
図16~
図18において、Aは蒸気タービン104の入口における熱媒体の状態を示し、Bは蒸気タービン104の抽気部における熱媒体の状態を示し、Cは蒸気タービン104の抽気部を出た熱媒体の状態を示し、Dは蒸気タービン104の出口における熱媒体の状態を示し、Eは復水器105における熱媒体の状態を示し、Fはポンプ107における熱媒体の状態を示し、Gはバッファータンク108の出口における熱媒体の状態を示し、Hは脱気器109の出口における熱媒体の状態を示し、Iは予熱器111における熱媒体の状態を示し、Jはボイラー(冷却部92)内で熱交換が開始された熱媒体の状態を示し、Kはボイラー内において飽和温度となった熱媒体の状態を示し、Lはボイラー内の過熱器における熱媒体の状態を示す。
【0121】
本発明は、上記各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0122】
上記各実施形態の発熱体13は、台座57の表面に第1層59と第2層60とから構成される多層膜58が設けられた構成を有するが、発熱体の構成はこれに限定されない。以下、発熱体の別の例について説明する。
【0123】
例えば、
図19に示すように、発熱体133は、台座57と多層膜134とを有する。多層膜134は、第1層59と第2層60に加え、第3層135をさらに有する。台座57、第1層59、および第2層60については説明を省略する。第3層135は、第1層59および第2層60とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第3層135の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。
図19では、第1層59と第2層60と第3層135は、台座57の表面に、第1層59、第2層60、第1層59、第3層135の順に積層されている。なお、第1層59と第2層60と第3層135は、台座57の表面に、第1層59、第3層135、第1層59、第2層60の順に積層されてもよい。すなわち、多層膜134は、第2層60と第3層135の間に第1層59を設けた積層構造を有する。多層膜134は、第3層135を1層以上有していればよい。第1層59と第3層135との間に形成される異種物質界面136は、異種物質界面61と同様に、水素原子を透過させる。
【0124】
第3層135は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6のうちいずれかにより形成される。第3層135を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第3層135を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0125】
特に、第3層135は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaO、のいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層135を有する発熱体133は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面61および異種物質界面136を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層135は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜134は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第3層135は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層59および第3層135は、真空状態で連続的に形成することが好ましい。これにより、第1層59および第3層135の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面136のみが形成される。
【0126】
第1層59と第2層60と第3層135との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層59-第3層135-第2層60」として表すと、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCであることが好ましい。
【0127】
図20に示すように、発熱体143は、台座57と多層膜144とを有する。多層膜144は、第1層59と第2層60と第3層135に加え、第4層145をさらに有する。第4層145は、第1層59、第2層60および第3層135とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。第4層145の厚みは、1000nm未満であることが好ましい。
図20では、第1層59と第2層60と第3層135と第4層145は、台座57の表面に、第1層59、第2層60、第1層59、第3層135、第1層59、第4層145の順に積層されている。なお、第1層59と第2層60と第3層135と第4層145は、台座57の表面に、第1層59、第4層145、第1層59、第3層135、第1層59、第2層60の順に積層してもよい。すなわち、多層膜144は、第2層60、第3層135、第4層145を任意の順に積層し、かつ、第2層60、第3層135、第4層145のそれぞれの間に第1層59を設けた積層構造を有する。多層膜144は、第4層145を1層以上有していればよい。第1層59と第4層145との間に形成される異種物質界面146は、異種物質界面61および異種物質界面136と同様に、水素原子を透過させる。
【0128】
第4層145は、例えば、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6のうちいずれかにより形成される。第4層145を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第4層145を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0129】
特に、第4層145は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成されることが好ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層145を有する発熱体143は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面61、異種物質界面136、および異種物質界面146を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図れる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層145は、厚みが10nm以下であることが好ましい。これにより、多層膜144は、水素原子を容易に透過させる。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのいずれかにより形成される第4層145は、完全な膜状に形成されずに、アイランド状に形成されてもよい。また、第1層59および第4層145は、真空状態で連続的に形成することが好ましい。これにより、第1層59および第4層145の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面146のみが形成される。
【0130】
第1層59と第2層60と第3層135と第4層145との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層59-第4層145-第3層135-第2層60」として表すと、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feであることが好ましい。
【0131】
多層膜58、多層膜134、多層膜144などの各種の多層膜の構成、例えば、各層の厚みの比率、各層の層数、材料は、使用される温度に応じて適宜変更してもよい。
【0132】
上記各実施形態では、1つの筒体12について、その外面の全域に1つの発熱体13が設けられているが、
図21に示すように、1つの筒体12について、その外面に複数の発熱体13を互いに間隔をあけて設けてもよい。各発熱体13同士の間に隙間を有するので、筒体12が熱膨張する場合であっても、各発熱体13の破損が防止される。また、1つの筒体12の外面に複数の発熱体133(
図19参照)を互いに間隔をあけて設けてもよい。1つの筒体12の外面に複数の発熱体143(
図20参照)を互いに間隔をあけて設けてもよい。
【0133】
外部流体ライン45は、上記各実施形態では複数の第1配管47を有しているが、1つの第1配管47で本体17の外面の全域を覆うように構成したものでもよい。また、1つの第1配管47を本体17の外面に沿って螺旋状に巻き付けるように構成してもよい。
【0134】
第1のリング管48は、流体流入室18と接続する貫通孔を有するものでもよい。第1のリング管48と流体流入室18とが貫通孔により直接接続されるので、第2配管50を省略してもよい。
【0135】
第2のリング管49は、流体流出室19と接続する貫通孔を有するものでもよい。第2のリング管49と流体流出室19とが貫通孔により直接接続されるので、第3配管51を省略してもよい。
【0136】
発熱体13、発熱体133、および発熱体143のうちのいずれかの発熱体により加熱された流体を熱エネルギー源として利用し、ボイラーなどの燃焼装置から排出される排出ガスから二酸化炭素(CO2)を分離することができる。化学吸収法または物理吸着法を行う二酸化炭素分離回収装置に対し、発熱体により加熱された流体を供給することにより、排出ガスに含まれるCO2を回収することができる。化学吸収法は、排出ガスに含まれるCO2をアミン化合物水溶液などの吸収液に吸収させ、CO2を吸収した吸収液を加熱することで吸収液からCO2を放出させる。物理吸着法は、排出ガスに含まれるCO2を活性炭やゼオライトなどの吸着材に吸着させ、CO2が吸着した吸着材を加熱することで吸着材からCO2を脱離させる。化学吸収法においてCO2を吸収した吸収液を加熱する熱エネルギー源として、発熱体により加熱された流体を利用することができる。また、物理吸着法においてCO2が吸着した吸着材を加熱する熱エネルギー源として、発熱体により加熱された流体を利用することができる。
【0137】
発熱体により加熱された流体を熱エネルギー源として利用し、二酸化炭素分離回収装置などで分離して回収されたCO2と水素(H2)と反応させることによってメタン(CH4)に変換することができる。CO2とH2との反応(メタネーション反応)を進行させる触媒を用いて、CO2とH2とを含む原料ガスを触媒と接触させることにより原料ガスからCH4が生成されるが、原料ガスの温度が低いと十分に反応が進行しない。そこで、CO2とH2とを含む原料ガスを加熱する熱エネルギー源として、発熱体により加熱された流体を熱エネルギー源として利用することにより、メタネーション反応を進行させることができる。
【0138】
熱エネルギーを用いて水から水素を製造するISサイクルや、熱エネルギーを用いて水と窒素(N2)とからアンモニア(NH3)を製造するISNサイクルにおいて、発熱体により加熱された流体を熱エネルギー源として利用することができる。ISサイクルでは、水とヨウ素(I)と硫黄(S)とを反応させてヨウ化水素(HI)を生成し、このヨウ化水素を熱分解することによって水素を生成する。ヨウ化水素を熱分解するための熱エネルギー源として、発熱体により加熱された流体を利用することができる。ISNサイクルでは、窒素とISサイクルで生成されるヨウ化水素とを反応させてヨウ化アンモニウム(NH4I)を生成し、このヨウ化アンモニウムを熱分解することによってアンモニアを生成する。ヨウ化アンモニウムを熱分解するための熱エネルギー源として、発熱体により加熱された流体を利用することができる。
【0139】
図22は、スパッタリング法を用いて発熱体13を製造する発熱体製造装置150である。発熱体製造装置150は、この例ではスパッタリング法としてDC(Direct Current)マグネトロンスパッタリング法を実施し、筒体12の外面に発熱体13を直接形成する。
【0140】
発熱体製造装置150は、筒体12を搬入するロード室151と、筒体12の予備加熱を行う予備加熱室152と、筒体12の表面をスパッタエッチングするスパッタエッチング室153と、筒体12上に台座57を形成する台座形成室154と、台座57上に第1層59を形成する第1層形成室155と、台座57上に第2層60を形成する第2層形成室156と、筒体12を搬出するアンロード室157とを有する。発熱体製造装置150は、この例では複数の筒体12をロード室151に搬入し、各々の筒体12の外面に発熱体13を直接形成するものであるが、1つの筒体12をロード室151に搬入し、この筒体12の外面に発熱体13を直接形成するものでもよい。
【0141】
発熱体製造装置150は、この例では、ロード室151と予備加熱室152との間に設けられた第1ゲートバルブ161と、予備加熱室152とスパッタエッチング室153との間に設けられた第2ゲートバルブ162と、スパッタエッチング室153と台座形成室154との間に設けられた第3ゲートバルブ163と、台座形成室154と第1層形成室155との間に設けられた第4ゲートバルブ164と、第1層形成室155と第2層形成室156との間に設けられた第5ゲートバルブ165と、第2層形成室156とアンロード室157との間に設けられた第6ゲートバルブ166とを有し、ロード室151、予備加熱室152、スパッタエッチング室153、台座形成室154、第1層形成室155、第2層形成室156、およびアンロード室157がそれぞれ分離されている。発熱体製造装置150は、図示していないが、筒体12をロード室151からアンロード室157まで搬送する搬送機構と、筒体12を当該筒体12の中心軸線回りに回転する回転機構とをさらに有している。
【0142】
第1ゲートバルブ161は、ロード室151と予備加熱室152との間の第1搬入出部171の開閉を行う。第2ゲートバルブ162は、予備加熱室152とスパッタエッチング室153との間の第2搬入出部172の開閉を行う。第3ゲートバルブ163は、スパッタエッチング室153と台座形成室154との間の第3搬入出部173の開閉を行う。第4ゲートバルブ164は、台座形成室154と第1層形成室155との間の第4搬入出部174の開閉を行う。第5ゲートバルブ165は、第1層形成室155と第2層形成室156との間の第5搬入出部175の開閉を行う。第6ゲートバルブ166は、第2層形成室156とアンロード室157との間の第6搬入出部176の開閉を行う。
【0143】
発熱体製造装置150は、ロード室151を真空排気する第1真空発生部181と、予備加熱室152を真空排気する第2真空発生部182と、スパッタエッチング室153を真空排気する第3真空発生部183と、台座形成室154を真空排気する第4真空発生部184と、第1層形成室155を真空排気する第5真空発生部185と、第2層形成室156を真空排気する第6真空発生部186と、アンロード室157を真空排気する第7真空発生部187とを有する。第1~第7真空発生部181~187としては、例えばドライポンプやターボ分子ポンプなどが用いられる。
【0144】
ロード室151は、筒体12を搬入する搬入部191を有し、搬入部191から筒体12が搬入された後、搬入部191と第1ゲートバルブ161を閉じた状態で第1真空発生部181により真空排気される。ロード室151の真空排気後に第1ゲートバルブ161を開き、第1搬入出部171を介して、ロード室151から予備加熱室152へ筒体12を搬送する。
【0145】
予備加熱室152は、第1ゲートバルブ161と第2ゲートバルブ162を閉じた状態で、第2真空発生部182により例えば1E-3Pa程度まで真空排気される。予備加熱室152は、加熱部192を有し、筒体12を回転しながら、加熱部192により筒体12の加熱を行う。加熱部192は、筒体12の表面温度が例えば200~350℃となるように加熱することにより、筒体12の表面に吸着した水分を除去する。加熱部192は、筒体12を所望の温度まで加熱できる方式であれば特に制限されることはなく、例えば、ランプ加熱方式、赤外線加熱方式、誘導加熱方式などを用いることができる。加熱後に第2ゲートバルブ162を開き、第2搬入出部172を介して、予備加熱室152からスパッタエッチング室153へ筒体12を搬送する。
【0146】
スパッタエッチング室153は、第2ゲートバルブ162と第3ゲートバルブ163を閉じた状態で、第3真空発生部183により真空排気される。スパッタエッチング室153は、スパッタエッチング電極193を有し、筒体12を回転しながら、スパッタエッチング電極193により筒体12のスパッタエッチングを行う。スパッタエッチング電極193は、例えば、Arガスの流量を調整してArの圧力を0.1~1Pa程度とし、13.56MHzの高周波(RF;Radio Frequency)を印加することにより、筒体12の表面の有機物や金属酸化物などを除去する。スパッタエッチング後に第3ゲートバルブ163を開き、第3搬入出部173を介して、スパッタエッチング室153から台座形成室154へ筒体12を搬送する。
【0147】
台座形成室154は、第3ゲートバルブ163と第4ゲートバルブ164を閉じた状態で、第4真空発生部184により真空排気される。台座形成室154は、台座形成スパッタ電極194を有し、筒体12を回転しながら、台座形成スパッタ電極194により筒体12上に台座57を形成する。台座形成スパッタ電極194は、台座57を形成する水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはプロトン導電体のターゲット材(図示なし)を有する。ターゲット材の正面は、筒体12と対向している。この例ではターゲット材の背面にマグネット(図示なし)が配置されている。台座形成スパッタ電極194は、例えば、Arガスの流量を調整してArの圧力を0.1~1Pa程度とし、直流電力を0.1~500kW/m2程度印加することにより、筒体12上に台座57を形成する。台座57の厚みは、直流電力の大きさと筒体12の回転数を調整することにより制御できる。台座57の形成後に第4ゲートバルブ164を開き、第4搬入出部174を介して、台座形成室154から第1層形成室155へ筒体12を搬送する。
【0148】
第1層形成室155は、第4ゲートバルブ164と第5ゲートバルブ165を閉じた状態で、第5真空発生部185により例えば1E-5Pa程度まで真空排気される。第1層形成室155は、第1層成膜スパッタ電極195を有し、筒体12を回転しながら、第1層成膜スパッタ電極195により台座57上に第1層59を形成する。第1層成膜スパッタ電極195は、第1層59を形成する水素吸蔵金属または水素吸蔵合金のターゲット材(図示なし)を有する。ターゲット材の正面は、台座57と対向している。この例ではターゲット材の背面にマグネット(図示なし)が配置されている。第1層成膜スパッタ電極195は、例えば、Arガスの流量を調整してArの圧力を0.1~1Pa程度とし、直流電力を0.1~500kW/m2程度印加することにより、台座57上に第1層59を形成する。第1層59の厚みは、直流電力の大きさと筒体12の回転数を調整することにより制御できる。第1層59の形成後に第5ゲートバルブ165を開き、第5搬入出部175を介して、第1層形成室155から第2層形成室156へ筒体12を搬送する。
【0149】
第2層形成室156は、第5ゲートバルブ165と第6ゲートバルブ166を閉じた状態で、第6真空発生部186により例えば1E-5Pa程度まで真空排気される。第2層形成室156は、第2層成膜スパッタ電極196を有し、筒体12を回転しながら、第2層成膜スパッタ電極196により台座57上に第2層60を形成する。第2層成膜スパッタ電極196は、第2層60を形成する水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスのターゲット材(図示なし)を有する。ターゲット材の正面は、台座57と対向している。この例ではターゲット材の背面にマグネット(図示なし)が配置されている。第2層成膜スパッタ電極196は、例えば、Arガスの流量を調整してArの圧力を0.1~1Pa程度とし、直流電力を0.1~500kW/m
2程度印加することにより、台座57上に第2層60を形成する。なお、第2層60を形成するためのターゲット材としてセラミックスを用いる場合、第2層成膜スパッタ電極196はRFを印加するように構成する。第2層形成室156では、台座57の表面に第1層59と第2層60とから構成される多層膜58(
図5参照)が形成される。このようにして筒体12の外面に発熱体13が直接形成される。第2層60の厚みは、直流電力の大きさと筒体12の回転数を調整することにより制御できる。第2層60の形成後に第6ゲートバルブ166を開き、第6搬入出部176を介して、第2層形成室156からアンロード室157へ筒体12を搬送する。
【0150】
アンロード室157は、筒体12を搬出する搬出部197を有し、搬出部197と第6ゲートバルブ166を閉じた状態で第6真空発生部186を大気開放とする。大気圧状態のアンロード室157から、搬出部197を介して、発熱体13が形成された筒体12を取り出すことができる。
【0151】
以上のように、発熱体製造装置150は、ロード室151、予備加熱室152、スパッタエッチング室153、台座形成室154、第1層形成室155、第2層形成室156、およびアンロード室157の各処理室が、第1~第6ゲートバルブ161~166により分離されているので、台座57、第1層59、および第2層60を真空状態で連続的に形成することができる。したがって、発熱体製造装置150は、第1層59および第2層60の間に自然酸化膜が形成されずに異種物質界面61のみが形成された発熱体13を、筒体12の外面に直接形成することができる。
【0152】
発熱体製造装置150は、
図22では各処理室をそれぞれ真空排気する第1~第7真空発生部181~187が設けられているが、真空発生部をいくつかの処理室で共用してもよい。真空発生部をいくつかの処理室で共用する場合、各処理室の圧力は、例えばオリフィスバルブを用いてArガスの流量を調整することにより、制御できる。
【0153】
筒体12の回転数は、エッチングもしくは成膜する膜厚、エッチングレートもしくは成膜レートに基づき設定する。エッチングもしくは成膜する膜厚をX(nm)、エッチングレートもしくは成膜レートをY(nm/min)とした場合、筒体12の回転数Z(rpm)は、Z>10×(Y/X)を満たすことが望ましい。発熱体13の膜厚均一性(厚みのばらつき)を10%以下に抑えられるからである。例えば、X=10(nm)、Y=50(nm/min)の場合は、Z>50(rpm)となる。
【0154】
図23は、発熱体13が形成された筒体12同士を接続した発熱ユニット200である。筒体12同士は、例えば溶接により接続される。発熱ユニット200は、発熱体13が形成された筒体12の数を変更することにより、出力を変更できる。発熱ユニット200は、各発熱体13同士の間に隙間を有するので、筒体12が熱膨張する場合であっても、各発熱体13の破損が防止される。
【0155】
発熱体製造装置150は、長さが例えば50cm~2m程度の短尺の筒体12を複数搬入するように構成することで、装置全体を小さくすることができる。発熱ユニット200は、発熱体13が形成された短尺の筒体12同士を接続することにより構成してもよい。
【0156】
発熱体製造装置150は、台座57上に多層膜58が形成された構成を有する発熱体13を製造するものに限られない。発熱体製造装置としては、台座57上に多層膜134が形成された構成を有する発熱体133、または台座57上に多層膜144が形成された構成を有する発熱体143を製造するものでもよい。
【0157】
発熱体133を製造する発熱体製造装置は、第1層形成室155と第2層形成室156に加え、台座57上に第3層135を形成する第3層成膜スパッタ電極を有する第3層形成室をさらに備える。第3層成膜スパッタ電極は、第3層135を形成する水素吸蔵金属または水素吸蔵合金のターゲット材を有する。第3層成膜スパッタ電極は、第1層成膜スパッタ電極または第2層成膜スパッタ電極と同様に、直流電力の大きさと筒体12の回転数を調整することにより第3層135の厚みを制御できる。
【0158】
発熱体143を製造する発熱体製造装置は、第1層形成室155、第2層形成室156、および第3層形成室に加え、台座57上に第4層145を形成する第4層成膜スパッタ電極を有する第4層形成室さらに備える。第4層成膜スパッタ電極は、第4層145を形成する水素吸蔵金属または水素吸蔵合金のターゲット材を有する。第4層成膜スパッタ電極は、第1層成膜スパッタ電極または第2層成膜スパッタ電極と同様に、直流電力の大きさと筒体12の回転数を調整することにより第4層145の厚みを制御できる。
【0159】
発熱体13,133,143を構成する台座57の厚みは、特に限定されず、適宜変更可能である。台座57を薄くしてフィルム状とし、このフィルム状の台座57に多層膜58,134,144を設けることにより、フィルム状の発熱体(以下、フィルム状発熱体と称する)を形成することができる。以下、フィルム状発熱体について詳細に説明する。
【0160】
図24に示すように、フィルム状発熱体213は、筒体12の外面に巻き付けられている。フィルム状発熱体213は、
図24では筒体12の外面に隙間なく螺旋状に巻き付けられているが、筒体12の外面に隙間をあけて螺旋状に巻き付けてもよい。また、フィルム状発熱体213は、筒体12の中心軸線C方向に隣り合うフィルム状発熱体213同士の少なくとも一部が筒体12の径方向に重なるように、筒体12の外面に螺旋状に巻き付けてもよい。
【0161】
フィルム状発熱体213は、発熱体13(
図5参照)と同じ構造を有している。すなわち、フィルム状発熱体213は、台座57と多層膜58とを有する。フィルム状発熱体213を構成する台座57と多層膜58はフィルム状である。
【0162】
台座57の厚みは、1μm以上5000μm以下の範囲内が好ましく、100μm以上600μm以下の範囲内がより好ましい。多層膜58の厚みは、0.02μm以上10μm以下の範囲内が好ましく、2μm以上6μm以下の範囲内がより好ましい。フィルム状発熱体213の厚みは、1.02μm以上5010μm以下の範囲内が好ましく、102μm以上606μm以下の範囲内がより好ましい。台座57の厚み、多層膜58の厚み、およびフィルム状発熱体213の厚みは、上記の数値に限定されず、フィルム状発熱体213を用いる発熱装置として所望の出力が得られるように適宜設計することができる。
【0163】
フィルム状発熱体213は、この例では発熱体13と同じ構造であるが、発熱体133(
図19参照)と同じ構造を有するもの、すなわち台座57と多層膜134とを有するものでもよい。また、フィルム状発熱体213は、発熱体143(
図20参照)と同じ構造を有するもの、すなわち台座57と多層膜144とを有するものでもよい。フィルム状発熱体213を構成する多層膜134または多層膜144はフィルム状である。
【0164】
フィルム状発熱体213と筒体12とは、例えばスポット溶接を行うことにより接合されている。例えば、フィルム状発熱体213を筒体12の外面に巻き付けながら、筒体12の中心軸線C方向に等間隔にスポット溶接することにより、フィルム状発熱体213と筒体12とが接合される。スポット溶接される部分は高温となるが、スポット溶接される部分の直径が1mm程度であり、かつ高温状態の時間が数秒であるので、フィルム状発熱体213の特性はほぼ劣化しない。なお、フィルム状発熱体213と筒体12とを接合する箇所は特に限定されない。
【0165】
以上のように、フィルム状発熱体213は、台座57および多層膜58を有しているので、発熱体13と同様の作用効果を有する。すなわち、フィルム状発熱体213は、水素を使用して発熱するので、二酸化炭素などの温室効果ガスを発生しない。また、フィルム状発熱体213を発熱させるために使用する水素は、水から生成できるため安価である。さらに、フィルム状発熱体213の発熱は、核分裂反応とは異なり、連鎖反応が無いので安全とされている。したがって、フィルム状発熱体213は、安価、クリーン、安全なエネルギー源として利用できる。さらに、フィルム状発熱体213は、台座57および多層膜58がフィルム状であることにより、柔軟性を有しつつ、曲面に対する追従性に優れる。
【0166】
図25は、スパッタリング法を用いてフィルム状発熱体213を製造するフィルム状発熱体製造装置215である。フィルム状発熱体製造装置215は、この例ではスパッタリング法としてDCマグネトロンスパッタリング法を実施する。フィルム状発熱体製造装置215は、ローラツーローラ方式により長尺のフィルム状である台座57を連続的に搬送しながら、台座57の表面に多層膜58を形成する。
【0167】
フィルム状発熱体製造装置215は、長尺フィルム状の台座57を巻き出す巻出室217と、台座57に多層膜58を形成する成膜室218と、多層膜58が形成された台座57を巻き取る巻取室219とを有する。
【0168】
フィルム状発熱体製造装置215は、この例では、単一の真空チャンバ220で構成されており、巻出室217と成膜室218とを仕切る第1の仕切り板221と、成膜室218と巻取室219とを仕切る第2の仕切り板222と、巻出室217と巻取室219とを仕切る第3の仕切り板223とを有する。
【0169】
真空チャンバ220は、巻出室217を真空排気する第1真空発生部224と、成膜室218を真空排気する第2真空発生部225とを有する。第1真空発生部224は、巻出室217の圧力を例えば1E-4Pa程度まで減圧する。第2真空発生部225は、成膜室218の圧力を巻出室217よりも低圧の例えば1E-5Pa程度まで減圧する。第1真空発生部224と第2真空発生部225としては、例えばドライポンプやターボ分子ポンプなどが用いられる。真空チャンバ220の内部には、減圧後にスパッタリングガスが導入される。スパッタリングガスは、この例ではアルゴン(Ar)ガスであるが、公知のガスを用いてもよい。Arガスの流量を調整することにより、真空チャンバ220の内部のArの圧力が調整可能である。真空チャンバ220の形状や材質は、減圧状態に耐え得るものであれば特に限定されない。
【0170】
巻出室217は、長尺フィルム状の台座57が巻回された巻出ローラ226と、巻出ローラ226から巻き出された台座57を搬送する第1搬送ローラ部227と、第1搬送ローラ部227により搬送される台座57を加熱する加熱部228とを有する。巻出ローラ226は、図示しないモータを有し、モータの駆動により回転する。第1搬送ローラ部227は、例えば、フリーローラと張力測定ローラとで構成されている。
【0171】
加熱部228は、台座57の表面温度が例えば200~350℃となるように加熱することにより、台座57の表面に吸着した水分を除去する。加熱部228は、台座57を所望の温度まで加熱できる方式であれば特に制限されることはなく、例えば、ランプ加熱方式、赤外線加熱方式、誘導加熱方式などを用いることができる。
【0172】
成膜室218は、巻出室217から搬出された台座57を搬送する成膜ローラ229と、台座57の表面をスパッタエッチングするスパッタエッチング電極230と、台座57上に第1層59を形成する第1層成膜スパッタ電極231A,231Bと、台座57上に第2層60を形成する第2層成膜スパッタ電極232A,232Bとを有する。
【0173】
成膜ローラ229は、図示しないモータを有し、モータの駆動により回転する。成膜ローラ229の内部には、真空チャンバ220の外部で温度が調整された冷媒が循環している。このため、成膜室218では、台座57が一定の温度(例えば50~300℃の範囲内の温度)に制御されている。成膜ローラ229と巻出ローラ226との周速度差に基づく張力は、第1搬送ローラ部227の張力測定ローラで測定される。張力測定ローラで測定された測定データが巻出ローラ226にフィードバックされ、巻出ローラ226の周速度が制御されている。
【0174】
スパッタエッチング電極230、第1層成膜スパッタ電極231A,231B、および第2層成膜スパッタ電極232A,232Bは、成膜ローラ229により搬送される台座57の表面と対向する位置に配置されている。スパッタエッチング電極230、第1層成膜スパッタ電極231A,231B、および第2層成膜スパッタ電極232A,232Bは、台座57の表面と対向する正面側に、シールド板を有している。
【0175】
スパッタエッチング電極230は、例えば、Arガスの流量を調整してArの圧力を0.1~1Pa程度とし、13.56MHzのRFを印加することにより、台座57の表面の有機物や金属酸化物などを除去する。
【0176】
第1層成膜スパッタ電極231Aと第1層成膜スパッタ電極231Bとは、互いに同じ構成を有している。第1層成膜スパッタ電極231A,231Bは、第1層59を形成する水素吸蔵金属または水素吸蔵合金のターゲット材(図示なし)を有する。ターゲット材の正面は、台座57と対向している。この例ではターゲット材の背面にマグネット(図示なし)が配置されている。第1層成膜スパッタ電極A,231Bは、例えば、Arガスの流量を調整してArの圧力を0.1~1Pa程度とし、直流電力を0.1~500kW/m2程度印加することにより、台座57上に第1層59を形成する。第1層59の厚みは、直流電力の大きさと台座57の搬送速度を調整することにより制御できる。
【0177】
第2層成膜スパッタ電極232Aと第2層成膜スパッタ電極232Bとは、互いに同じ構成を有している。第2層成膜スパッタ電極232A,232Bは、第2層60を形成する水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスのターゲット材(図示なし)を有する。ターゲット材の正面は、台座57と対向している。この例ではターゲット材の背面にマグネット(図示なし)が配置されている。第2層成膜スパッタ電極232A,232Bは、例えば、Arガスの流量を調整してArの圧力を0.1~1Pa程度とし、直流電力を0.1~500kW/m2程度印加することにより、台座57上に第2層60を形成する。なお、第2層60を形成するためのターゲット材としてセラミックスを用いる場合、第2層成膜スパッタ電極232Aおよび第2層成膜スパッタ電極232BはRFを印加するように構成する。第2層60の厚みは、直流電力の大きさと台座57の搬送速度を調整することにより制御できる。
【0178】
図25において、台座57の走行方向を白抜き矢印で示している。
図25では、台座57の走行方向の上流側から下流側へ向かって、第1層成膜スパッタ電極231A、第2層成膜スパッタ電極232A、第1層成膜スパッタ電極231B、第2層成膜スパッタ電極232Bの順に配されている。したがって、第1層成膜スパッタ電極231Aは、台座57の表面に第1層59を形成する。第2層成膜スパッタ電極232Aは、第1層成膜スパッタ電極231Aにより形成された第1層59の表面に第2層60を形成する。第1層成膜スパッタ電極231Bは、第2層成膜スパッタ電極232Aにより形成された第2層60の表面に第1層59を形成する。第2層成膜スパッタ電極232Bは、第1層成膜スパッタ電極231Bにより形成された第1層59の表面に第2層60を形成する。このようにして、成膜室218では、台座57の表面に、第1層59と第2層60とから構成される多層膜58が形成される。以下の説明において、第1層成膜スパッタ電極231Aと第1層成膜スパッタ電極231Bとを区別しない場合は第1層成膜スパッタ電極231と記載し、第2層成膜スパッタ電極232Aと第2層成膜スパッタ電極232Bとを区別しない場合は、第2層成膜スパッタ電極232と記載する。第1層成膜スパッタ電極231と第2層成膜スパッタ電極232とが1つ以上であれば、第1層59と第2層60とをそれぞれ1層以上有し、異種物質界面61が1つ以上形成されている多層膜58が得られる。第1層59の層数、第2層60の層数、および異種物質界面61の数は、第1層成膜スパッタ電極231の数と第2層成膜スパッタ電極232の数を変更することにより、変更できる。
【0179】
巻取室219は、成膜室218から搬出された台座57を搬送する第2搬送ローラ部233と、第2搬送ローラ部233により搬送される台座57を巻き取る巻取ローラ234とを有する。巻取ローラ234を巻き取られたフィルム状物がフィルム状発熱体213である。第2搬送ローラ部233は、例えば、フリーローラと張力測定ローラとで構成されている。巻取ローラ234は、図示しないモータを有し、モータの駆動により回転する。巻取ローラ234と成膜ローラ229との周速度差に基づく張力は、第2搬送ローラ部233の張力測定ローラで測定される。張力測定ローラで測定され測定データが巻取ローラ234にフィードバックされ、巻取ローラ234の周速度が制御されている。フィルム状発熱体213は、真空チャンバ220の内部を大気圧に戻し、巻取室219から巻取ローラ234を取り出すことにより得られる。
【0180】
以上のように、フィルム状発熱体製造装置215は、長尺フィルム状の台座57の走行方向の上流側から下流側へ向かって第1層成膜スパッタ電極231と第2層成膜スパッタ電極232とが交互に配列されていることにより、台座57上に第1層59および第2層60を真空状態で連続的に形成することができる。したがって、フィルム状発熱体製造装置215は、第1層59および第2層60の間に自然酸化膜が形成されずに異種物質界面61のみが形成された長尺のフィルム状発熱体213を製造することができる。長尺のフィルム状発熱体213は、柔軟性を有しつつ、凹凸形状などの曲面に対する追従性に優れている。また、長尺のフィルム状発熱体213は、所望の長さに切断して使用することができるので、より様々な用途に適用可能である。
【0181】
長尺のフィルム状発熱体213を所定の長さに切断することにより複数の短尺のフィルム状発熱体213を準備し、1つの筒体12の外面に複数の短尺のフィルム状発熱体213を互いに間隔をあけて設けてもよい。
【0182】
フィルム状発熱体製造装置215は、加熱部228による加熱、スパッタエッチング電極230によるスパッタエッチング、および第1層成膜スパッタ電極231と第2層成膜スパッタ電極232による成膜を連続的に行う連続処理と、加熱部228による加熱、スパッタエッチング電極230によるスパッタエッチング、および第1層成膜スパッタ電極231と第2層成膜スパッタ電極232による成膜を区切って行うステップ処理とが実施可能である。連続処理の場合は、1つの長尺フィルム状の台座57に対する成膜が終了するまで、加熱、スパッタエッチング、および成膜を続ける。ステップ処理の場合は、例えば、電源のON/OFFまたは入力電力の調整などを行うことにより、加熱、スパッタエッチング、および成膜を行う時間をそれぞれ独立に設定可能とする。また、ターゲット材を遮蔽するシャッターの開閉を行うことにより成膜を行う時間を設定してもよい。
【0183】
フィルム状発熱体製造装置215は、台座57上に多層膜58が形成された構成を有するフィルム状発熱体213を製造するものに限られない。フィルム状発熱体製造装置としては、台座57上に多層膜134または多層膜144が形成された構成を有するフィルム状発熱体を製造するものでもよい。
【0184】
台座57上に多層膜134が形成された構成を有するフィルム状発熱体を製造するフィルム状発熱体製造装置は、第1層成膜スパッタ電極231と第2層成膜スパッタ電極232に加え、台座57上に第3層135を形成する第3層成膜スパッタ電極をさらに備える。第3層成膜スパッタ電極は、第3層135を形成する水素吸蔵金属または水素吸蔵合金のターゲット材を有する。第3層成膜スパッタ電極は、第1層成膜スパッタ電極231または第2層成膜スパッタ電極232と同様に、直流電力の大きさと台座57の搬送速度を調整することにより第3層135の厚みを制御できる。
【0185】
台座57上に多層膜144が形成された構成を有するフィルム状発熱体を製造するフィルム状発熱体製造装置は、第1層成膜スパッタ電極231、第2層成膜スパッタ電極232、および第3層成膜スパッタ電極に加え、台座57上に第4層145を形成する第4層成膜スパッタ電極をさらに備える。第4層成膜スパッタ電極は、第4層145を形成する水素吸蔵金属または水素吸蔵合金のターゲット材を有する。第4層成膜スパッタ電極は、第1層成膜スパッタ電極231または第2層成膜スパッタ電極232と同様に、直流電力の大きさと台座57の搬送速度を調整することにより第4層145の厚みを制御できる。
【0186】
図26に示すフィルム状発熱体243は、台座57と多層膜58に加え、多層膜58の表面に設けられ、多層膜58の表面を保護するパッシベーション膜244をさらに有するものである。パッシベーション膜244は、水素を透過する材料、例えばSiO
2、SiNなどで構成される。パッシベーション膜244は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。フィルム状発熱体243は、パッシベーション膜244を有することにより、多層膜58の損傷が抑制される。パッシベーション膜244は、多層膜134または多層膜144の表面に設けてもよい。
【符号の説明】
【0187】
10,70,80,90,100,120 発熱装置
11 密閉容器
12 筒体
13,133,143 発熱体
14 流路
15 流体循環部
16 制御部
26 中空部
30 循環ライン
32,92 冷却部
33 加熱部
45 外部流体ライン
55,55a~55c 発熱モジュール
57 台座
58,134,144 多層膜
59 第1層
60 第2層
61,136,146 異種物質界面
71,104 蒸気タービン(流体利用装置)
79,89,119,129 熱利用システム
101 熱回収ライン
135 第3層
145 第4層
150 発熱体製造装置
213,243 フィルム状発熱体
215 フィルム状発熱体製造装置