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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着シート、及び接合体
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20250318BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20250318BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250318BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J7/38
C09J11/06
B32B15/08 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019157325
(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2020164778
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018164545
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019065065
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝端 香
(72)【発明者】
【氏名】赤松 香織
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 望花
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昌之
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095590(JP,A)
【文献】国際公開第2017/064918(WO,A1)
【文献】特開2009-251281(JP,A)
【文献】特開2014-148598(JP,A)
【文献】特表2016-509094(JP,A)
【文献】特開2017-098369(JP,A)
【文献】特開2016-084438(JP,A)
【文献】特開2017-014305(JP,A)
【文献】特開2016-050239(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047548(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104566(WO,A1)
【文献】特開2015-129211(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159784(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/018239(WO,A1)
【文献】特開2010-037355(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041445(WO,A1)
【文献】特開2013-221067(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0183551(US,A1)
【文献】特開2018-172629(JP,A)
【文献】Donatas Satas編著,「粘着技術ハンドブック」,初版,日刊工業新聞社,1997年03月31日,pp.436-441
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーとイオン液体とを含む粘着剤組成物であって、
前記アクリル系ポリマーは、アルコキシ基含有モノマーに由来するモノマーユニットを有し、
前記アクリル系ポリマーは、さらに下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマーユニットを含み、
CH=C(R)COOR(1)
[式(1)中のRは、水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~8のアルキル基である]
前記アクリル系ポリマー100質量部に対して、前記イオン液体0.5~30質量部を含み、
前記粘着剤組成物に含まれる成分のうち前記イオン液体以外の成分からなる組成物により粘着剤層を形成し、該粘着剤層を22℃、20%RHの環境下で3日間放置した後の、該粘着剤層の周波数100Hzにおける比誘電率が5以上である粘着剤組成物。
【請求項2】
アクリル系ポリマーとイオン液体とを含む粘着剤組成物であって、
前記アクリル系ポリマーは、アルコキシ基含有モノマーに由来するモノマーユニットを有し、
前記アクリル系ポリマーは、さらに下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマーユニットを含み、
CH=C(R)COOR(1)
[式(1)中のRは、水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~8のアルキル基である]
前記アクリル系ポリマー100質量部に対して、前記イオン液体0.5~30質量部を含み、
前記粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが0.9μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が10μS/m以上である粘着剤組成物。
【請求項3】
前記粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが1.2μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が20μS/m以上である、請求項2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
イオン性固体をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
イオン性ポリマーをさらに含む請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
電気剥離用である請求項1~のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の粘着剤組成物から形成される粘着剤層を備える、粘着シート。
【請求項8】
金属被着面を有する被着体と、請求項に記載の粘着シートとを備え、前記粘着シートの粘着剤層が前記金属被着面に接合している、接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、当該粘着剤組成物から形成された粘着剤層を含む粘着シート、及び当該粘着シートと被着体の接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品製造工程等において、歩留まり向上のためのリワークや、使用後に部品を分解して回収するリサイクル等に関する要望が増している。このような要望に応えるべく、電子部品製造工程等で部材間を接合するうえで、一定の接着力とともに一定の剥離性をも伴った両面粘着シートが利用される場合がある。
【0003】
上記の接着力と剥離性を実現する両面粘着シートとして、粘着剤組成物を形成する成分に、カチオンとアニオンからなるイオン液体を使用し、粘着剤層に電圧を印加することにより剥離する粘着シート(電気剥離型粘着シート)が知られている(特許文献1~3)。
特許文献1~3の電気剥離型粘着シートでは、電圧の印加により、陰極側ではイオン液体のカチオンが移動して還元が起こり、陽極側ではイオン液体のアニオンが移動して酸化が起こり、接着界面の接着力が弱くなり、剥離しやすくなるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-037354号公報
【文献】特許第6097112号公報
【文献】特許第4139851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気剥離型粘着シートは、電圧非印加時には部材を強固に接合し、電圧印加時には少ない力で剥離できることが好ましい。したがって、電気剥離型粘着シートにおいて、電圧印加による接着力の低下率は大きいことが好ましい。しかし、例えば冬季等の湿度が低い環境においては、電圧印加による接着力の低下率が小さくなることが問題となっていた。
【0006】
本発明は上記に鑑みて完成されたものであり、低湿度環境下においても電圧の印加により十分に接着力が低下する粘着剤組成物及び当該粘着剤組成物から形成される粘着剤層を備える粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの検討によれば、低湿度環境下において電圧印加による接着力の低下率が小さくなるのは、低湿度環境下では粘着剤層の含水率が低下し、イオン液体のカチオン及びアニオンが移動しにくくなることに起因する。
本発明者らが更に検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
第1に、粘着剤層のイオン液体以外の成分の比誘電率が電圧印加による接着力の低下率と相関性を有し、当該比誘電率を大きくすることで電圧印加による接着力の低下率を大きくすることができることを見出した。また、低湿度環境下に置かれて粘着剤層の含水率が低下した場合においても、当該比誘電率が大きければ電気剥離性が良好であること、即ち、電圧印加による接着力の低下率が大きいことを見出した。
第2に、粘着剤層のイオン伝導度及び、粘着剤層と被着体の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが電圧印加による接着力の低下率と相関性を有し、当該イオン伝導度及び、粘着剤層と被着体の界面の単位面積あたりのキャパシタンスを大きくすることで電圧印加による接着力の低下率を大きくすることができることを見出した。また、低湿度環境下に置かれて粘着剤層の含水率が低下した場合においても、当該イオン伝導度及び、粘着剤層と被着体の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが大きければ電気剥離性が良好であること、即ち、電圧印加による接着力の低下率が大きいことを見出した。
【0008】
上記第1の知見に基づいて完成された本発明の一の粘着剤組成物は、ポリマーとイオン液体とを含む粘着剤組成物であって、粘着剤組成物に含まれる成分のうちイオン液体以外の成分からなる組成物により粘着剤層を形成し、該粘着剤層を22℃、20%RHの環境下で3日間放置した後の、該粘着剤層の周波数100Hzにおける比誘電率が5以上である。
【0009】
上記第2の知見に基づいて完成された本発明の他の粘着剤組成物は、ポリマーとイオン液体とを含む粘着剤組成物であって、粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが0.9μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が10μS/m以上である。
【0010】
本発明の粘着剤組成物の一態様において、粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが1.2μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が20μS/m以上であってもよい。
【0011】
本発明の粘着剤組成物の一態様において、粘着剤組成物はイオン性固体をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明の粘着剤組成物の一態様において、ポリマーはイオン性ポリマーを含んでもよい。
【0013】
本発明の粘着剤組成物の一態様において、ポリマーは、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、並びに、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び/又はアミド結合を有するアクリル系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0014】
また、本発明の他の粘着剤組成物は、ポリマーとイオン液体とを含み、ポリマー100質量部に対して、イオン液体0.5~30質量部と、イオン性固体0.5~10質量部とを含む。
【0015】
また、本発明の他の粘着剤組成物は、ポリマーとイオン液体とを含み、ポリマー100質量部に対して、イオン液体0.5~30質量部を含み、ポリマーにはイオン性ポリマーが0.05~2質量部含まれる。
【0016】
また、本発明の他の粘着剤組成物は、アクリル系ポリマー100質量部と、イオン液体0.5~30質量部とを含む粘着剤組成物であって、アクリル系ポリマーを構成する全モノマー成分に対する極性基含有モノマーの割合が0.1~35質量%である。
【0017】
本発明の一態様において、粘着剤組成物は電気剥離用である。
【0018】
また、本発明の粘着シートは、本発明の粘着剤組成物から形成される粘着剤層を備える。
【0019】
また、本発明の接合体は、金属被着面を有する被着体と、本発明の粘着シートとを備え、本発明の粘着シートの粘着剤層が金属被着面に接合している。
【発明の効果】
【0020】
本発明の粘着剤組成物は、低湿度環境下においても電圧の印加により十分に接着力が低下する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の粘着シートの一例を示す断面図である。
図2】本発明の粘着シートの積層構造の一例を示す断面図である。
図3】本発明の粘着シートの積層構造の他の例を示す断面図である。
図4】実施例における180°ピール試験の方法の概要を示す断面図である。
図5】キャパシタンス及びイオン伝導度測定用の複合体サンプルの側面図である。
図6】キャパシタンス及びイオン伝導度測定用の複合体サンプルの上面図である。
図7】キャパシタンス及びイオン伝導度測定用の複合体サンプルの等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
[粘着剤組成物]
本発明の第1及び第2の実施形態の粘着剤組成物は、いずれもポリマーとイオン液体とを含む。
第1の実施形態の粘着剤組成物に含まれる成分のうちイオン液体以外の成分からなる組成物により粘着剤層を形成し、該粘着剤層を22℃、20%RHの環境下で3日間放置した後の、該粘着剤層の周波数100Hzにおける比誘電率は、5以上である。
また、第2の実施形態の粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが0.9μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が10μS/m以上である。
これらの粘着剤組成物は、電圧印加により接着力が低下する性質を有し、電気剥離用粘着剤組成物として好適である。
なお、上記の第1及び第2の実施形態は、排他的なものではなく、第1及び第2の実施形態のいずれにも該当する粘着剤組成物もあれば、いずれかにのみ該当する粘着剤組成物もある。第1又は第2の実施形態のいずれかに該当する粘着剤組成物であれば、本発明の効果を奏する。
以下、これらの粘着剤組成物について説明する。
【0024】
なお、本明細書において、本発明の第1及び第2の実施形態をまとめて「本実施形態」ということがある。
なお、本明細書において電圧非印加時の接着力のことを「初期接着力」ということがある。
また、粘着剤組成物に含まれる成分のうちイオン液体以外の成分からなる組成物のことを「イオン液体非含有粘着剤組成物」ということがある。
また、イオン液体非含有粘着剤組成物により形成される粘着剤層のことを「イオン液体非含有粘着剤層」ということがある。
また、電圧印加により接着力が低下する性質のことを「電気剥離性」といい、電圧印加による接着力の低下率が大きいことを「電気剥離性に優れる」などということがある。
【0025】
<粘着剤組成物の成分>
(ポリマー)
本実施形態の粘着剤組成物は、ポリマーを含有する。本実施形態においてポリマーは、一般的な有機高分子化合物であれば特に制限されず、たとえば、モノマーの重合物又は部分重合物である。モノマーは、1種のモノマーであっても、2種以上のモノマー混合物であってもよい。なお、部分重合物とは、モノマー又はモノマー混合物のうちの少なくとも一部が部分的に重合している重合物を意味する。
【0026】
本実施形態におけるポリマーは、通常粘着剤として使用され、粘着性を有するものである限り特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、およびエポキシ系ポリマー等である。ポリマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
得られる粘着剤層のイオン液体以外の成分の比誘電率を大きくし、また、得られる粘着剤層のイオン伝導度及び接着界面の単位面積あたりのキャパシタンスを大きくし、電気剥離性を向上させるためには、ポリマーの比誘電率が大きいことが好ましく、この観点からは特に本実施形態におけるポリマーは、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、並びに、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び/又はアミド結合を有するアクリル系ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。ポリエステル系ポリマー及びウレタン系ポリマーは末端に分極しやすい水酸基を有することから、また、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び/又はアミド結合を有するアクリル系ポリマーは、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び/又はアミド結合が分極しやすいことから、これらのポリマーを用いることで、比誘電率が比較的大きいポリマーを得ることができる。本実施形態のポリマー中のポリエステル系ポリマー、並びにカルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基及び/又はアミド結合を有するアクリル系ポリマーの含有量は、合計で60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
また、特に、コストや生産性、及び初期接着力を大きくするためには、本実施形態におけるポリマーは、アクリル系ポリマーであることが好ましい。
すなわち、本実施形態の粘着剤組成物は、アクリル系ポリマーをポリマーとして含むアクリル系粘着剤組成物であることが好ましい。
【0027】
アクリル系ポリマーは、炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(下記式(1))に由来するモノマーユニットを含むことが好ましい。このようなモノマーユニットは、大きな初期接着力を得るために好適である。さらに、粘着剤層のイオン液体以外の成分の比誘電率を大きくし、また、得られる粘着剤層のイオン伝導度及び接着界面の単位面積あたりのキャパシタンスを大きくし、電気剥離性を向上させるには下記式(1)におけるアルキル基Rの炭素数は小さいことが好ましく、特に8以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。
CH=C(R)COOR (1)
[式(1)中のRは、水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~14のアルキル基である]
【0028】
炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチルアクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、およびn-テトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でもn-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレートが好ましい。炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
アクリル系ポリマーを構成する全モノマー成分(100質量%)に対する炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。アクリル系ポリマーの割合が70質量%以上であると、大きな初期接着力を得やすくなる。
【0030】
アクリル系ポリマーとしては、凝集力、耐熱性、架橋性等の改質を目的として、炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマーユニットの他に、これと共重合可能な極性基含有モノマーに由来するモノマーユニットを含むことが好ましい。モノマーユニットは、架橋点を付与することができ、大きな初期接着力を得るために好適である。さらに、粘着剤層のイオン液体以外の成分の比誘電率を大きくし、また、得られる粘着剤層のイオン伝導度及び接着界面の単位面積あたりのキャパシタンスを大きくし、電気剥離性を向上させるという観点からも、極性基含有モノマーに由来するモノマーユニットを含むことが好ましい。
【0031】
極性基含有モノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有モノマー、アルコキシ基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ビニル基含有モノマー、芳香族ビニルモノマー、アミド基含有モノマー、イミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、ビニルエーテルモノマー、N-アクリロイルモルホリン、スルホ基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、および酸無水物基含有モノマー等が挙げられる。中でも凝集性に優れる点から、カルボキシル基含有モノマー、アルコキシ基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー、アミド基含有モノマーが好ましく、特に、カルボキシル基含有モノマーが好ましい。カルボキシル基含有モノマーは、特に大きな初期接着力を得るために好適である。極性基含有モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、およびイソクロトン酸等が挙げられる。特に、アクリル酸が好ましい。カルボキシル基含有モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
アルコキシ基含有モノマーとしては、例えばメトキシ基含有モノマーやエトキシ基含有モノマーが挙げられる。メトキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-メトキシエチルアクリレートが挙げられる。
【0034】
ヒドロキシル基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。特に、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。ヒドロキシル基含有モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】
アミド基含有モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N´-メチレンビスアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、およびジアセトンアクリルアミド等が挙げられる。アミド基含有モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
シアノ基含有モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリル等が挙げられる。
【0037】
ビニル基含有モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、およびラウリン酸ビニル等のビニルエステル類等が挙げられ、特に酢酸ビニルが好ましい。
【0038】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン、およびその他の置換スチレン等が挙げられる。
【0039】
イミド基含有モノマーとしては、例えば、シクロヘキシルマレイミド、イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、およびイタコンイミド等が挙げられる。
【0040】
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、およびアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0042】
ビニルエーテルモノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、およびイソブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
アクリル系ポリマーを構成する全モノマー成分(100質量%)に対する極性基含有モノマーの割合は、0.1質量%以上35質量%以下が好ましい。極性基含有モノマーの割合の上限は、より好ましくは25質量%であり、さらに好ましくは20質量%であり、下限は、より好ましくは0.5質量%であり、さらに好ましくは1質量%であり、特に好ましくは2質量%である。極性基含有モノマーの割合が0.1質量%以上であると、凝集力が得やすくなるため、粘着剤層を剥離した後の被着体表面に糊残りが生じにくくなり、また、電気剥離性が向上する。また、極性基含有モノマーの割合が3質量%以下であると、粘着剤層が被着体に過度に密着し重剥離化することを防ぎやすくなる。特に2質量%以上20質量%以下であると、被着体に対する剥離性と、粘着剤層と他の層との密着性との両立が図りやすくなる。
【0044】
また、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、アクリル系ポリマーに架橋構造を導入して、必要な凝集力を得やすくするために、多官能モノマーが含まれていてもよい。
【0045】
多官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、およびN,N´-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。多官能モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0046】
アクリル系ポリマーを構成する全モノマー成分(100質量%)に対する多官能モノマーの含有量は、0.1質量%以上15質量%以下が好ましい。多官能モノマーの含有量の上限は、より好ましくは10質量%であり、下限は、より好ましくは3質量%である。多官能モノマーの含有量が、0.1質量%以上であると、粘着剤層の柔軟性、接着性が向上しやすくなり好ましい。多官能モノマーの含有量が、15質量%以下であると、凝集力が高くなりすぎず、適度な接着性が得やすくなる。
【0047】
ポリエステル系ポリマーは、典型的にはジカルボン酸等の多価カルボン酸やその誘導体(以下「多価カルボン酸モノマー」ともいう)と、ジオール等の多価アルコールやその誘導体(以下「多価アルコールモノマー」)とが縮合した構造を有するポリマーである。
【0048】
多価カルボン酸モノマーとしては、特に限定されないが例えば、アジピン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデセニル無水コハク酸、フマル酸、コハク酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、およびこれらの誘導体等を用いることができる。
多価カルボン酸モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
多価アルコールモノマーとしては、特に限定されないが例えば、エチレングリコ-ル、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-デカンジオール、およびこれらの誘導体等を用いることができる。
多価アルコールモノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0050】
また、本実施形態のポリマーは、イオン性ポリマーを含んでもよい。イオン性ポリマーは、イオン性官能基を有するポリマーである。ポリマーがイオン性ポリマーを含むことで、ポリマーの比誘電率が増加し、電気剥離性が向上する。ポリマーがイオン性ポリマーを含む場合、イオン性ポリマーの含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.05質量部以上2質量部以下が好ましい。
【0051】
本実施形態においてポリマーは、モノマー成分を(共)重合することにより得ることができる。重合方法としては、特に限定されないが、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、光重合(活性エネルギー線重合)法等が挙げられる。特に、コストや生産性の観点から、溶液重合法が好ましい。ポリマーは、共重合させた場合、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体等いずれでもよい。
【0052】
溶液重合法としては、特に限定されないが、モノマー成分、重合開始剤等を、溶剤に溶解し、加熱して重合し、ポリマーを含むポリマー溶液を得る方法等が挙げられる。
【0053】
溶液重合法に用いられる溶剤としては、各種の一般的な溶剤を用いることができる。このような溶剤(重合溶剤)としては、例えば、トルエン、ベンゼン、およびキシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、および酢酸n-ブチル等のエステル類;n-ヘキサン、およびn-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、およびメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、およびメチルイソブチルケトン等のケトン類等の有機溶剤等が挙げられる。溶剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0054】
溶剤の使用量は、特に限定されないが、ポリマーを構成する全モノマー成分(100質量部)に対して、10質量部以上1000質量部以下が好ましい。溶剤の使用量の上限は、より好ましくは500質量部であり、下限は、より好ましくは50質量部である。
【0055】
溶液重合法に用いられる重合開始剤としては、特に限定されないが、過酸化物系重合開始剤、アゾ系重合開始剤等が挙げられる。過酸化物系重合開始剤としては、特に限定されないが、パーオキシカーボネート、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、およびパーオキシエステル等が挙げられ、より具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、および1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン等が挙げられる。アゾ系重合開始剤としては、特に限定されないが、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、2,2′-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2′-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1′-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2′-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、4,4′-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2′-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2′-アゾビス(N,N′-ジメチレンイソブチルアミジン)ヒドロクロライド、および2,2′-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート等が挙げられる。重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0056】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、ポリマーを構成する全モノマー成分(100質量部)に対して、0.01質量部以上5質量部以下が好ましい。重合開始剤の使用量の上限は、より好ましくは3質量部であり、下限は、より好ましくは0.05質量部である。
【0057】
溶液重合法で、加熱して重合する際の加熱温度は、特に限定されないが、例えば50℃以上80℃以下である。加熱時間は、特に限定されないが、例えば1時間以上24時間以下である。
【0058】
ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、10万以上500万以下が好ましい。重量平均分子量の上限は、より好ましくは400万であり、さらに好ましくは300万であり、下限は、より好ましくは20万であり、さらに好ましくは30万である。重量平均分子量が10万以上であると、凝集力が小さくなり、粘着剤層を剥離した後の被着体表面に糊残りが生じるという不具合を効果的に抑制できる。また、重量平均分子量が500万以下であると、粘着剤層を剥離した後の被着体表面の濡れ性が不十分となるという不具合を効果的に抑制できる。
【0059】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定して得られたものであり、より具体的には、例えば、GPC測定装置として、商品名「HLC-8220GPC」(東ソー社製)を用いて、下記の条件にて測定し、標準ポリスチレン換算値により算出することができる。(重量平均分子量測定条件)
・サンプル濃度:0.2質量%(テトラヒドロフラン溶液)
・サンプル注入量:10μL
・サンプルカラム:TSKguardcolumn SuperHZ-H(1本)+TSKgel SuperHZM-H(2本)
・リファレンスカラム:TSKgel SuperH-RC(1本)
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流量:0.6mL/min
・検出器:示差屈折計(RI)
・カラム温度(測定温度):40℃
【0060】
ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、0℃以下であると、初期接着力の低下を抑制できるため好ましく、より好ましくは-10℃以下であり、さらに好ましくは-20℃以下である。また、-40℃以下であると電圧印加による接着力の低下率が特に大きくなるため特に好ましく、最も好ましくは-50℃以下である。
【0061】
ガラス転移温度(Tg)は、例えば、下記式(Y)(Fox式)に基づいて計算することができる。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn (Y)
[式(Y)中、Tgはポリマーのガラス転移温度(単位:K)、Tgi(i=1、2、・・・n)はモノマーiがホモポリマーを形成した際のガラス転移温度(単位:K)、Wi(i=1、2、・・・n)はモノマーiの全モノマー成分中の質量分率を表す]
上記式(Y)は、ポリマーが、モノマー1、モノマー2、・・・、モノマーnのn種類のモノマー成分から構成される場合の計算式である。
【0062】
なお、ホモポリマーを形成した際のガラス転移温度とは、当該モノマーの単独重合体のガラス転移温度を意味し、あるモノマー(「モノマーX」と称する場合がある)のみをモノマー成分として形成される重合体のガラス転移温度(Tg)を意味する。具体的には、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons,Inc,1989年)に数値が挙げられている。なお、当該文献に記載されていない単独重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば、以下の測定方法により得られる値をいう。すなわち、温度計、撹拌機、窒素導入管及び還流冷却管を備えた反応器に、モノマーX100質量部、2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部および重合溶媒として酢酸エチル200質量部を投入し、窒素ガスを導入しながら1時間撹拌する。このようにして重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し10時間反応させる。次いで、室温まで冷却し、固形分濃度33質量%のホモポリマー溶液を得る。次いで、このホモポリマー溶液を剥離ライナー上に流延塗布し、乾燥して厚み約2mmの試験サンプル(シート状のホモポリマー)を作製する。そして、この試験サンプルをアルミニウム製のオープンセルに約1~2mg秤量し、温度変調DSC(商品名「Q-2000」 ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、50ml/minの窒素雰囲気下で昇温速度5℃/minにて、ホモポリマーのReversing Heat Flow(比熱成分)挙動を得る。JIS-K-7121を参考にして、得られたReversing Heat Flowの低温側のベースラインと高温側のベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をホモポリマーとした時のガラス転移温度(Tg)とする。
【0063】
本実施形態の粘着剤組成物におけるポリマーの含有量は、粘着剤組成物全量(100質量%)に対して、50質量%以上99.9質量%以下が好ましく、上限は、より好ましくは99.5質量%、さらに好ましくは99質量%であり、下限は、より好ましくは60質量%、さらに好ましくは70質量%である。
【0064】
(イオン液体)
本実施形態におけるイオン液体は、一対のアニオンとカチオンから構成され、25℃で液体である溶融塩(常温溶融塩)であれば特に限定されない。以下にアニオン及びカチオンの例を挙げるが、これらを組み合わせて得られるイオン性物質のうち、25℃で液体であるものがイオン液体であり、25℃で固体であるものはイオン液体ではなく、後述のイオン性固体である。
【0065】
イオン液体のアニオンは、例えば、(FSO、(CFSO、(CFCFSO、(CFSO、Br、AlCl 、AlCl 、NO 、BF 、PF 、CHCOO、CFCOO、CFCFCFCOO、CFSO 、CF(CFSO 、AsF 、SbF 、およびF(HF) 等が挙げられる。なかでもアニオンとしては、(FSO[ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン]、および(CFSO[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン]などのスルホニルイミド系化合物のアニオンが、化学的に安定であり、電気剥離性を良好にするために好適であることから好ましい。
【0066】
イオン液体におけるカチオンは、窒素含有オニウム、硫黄含有オニウム、およびリン含有オニウムカチオンが、化学的に安定であり、電気剥離性を良好にするために好適であることから好ましく、イミダゾリウム系、アンモニウム系、ピロリジニウム系、およびピリジニウム系カチオンがより好ましい。
【0067】
イミダゾリウム系カチオンとしては、例えば、1-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ペンチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-へプチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ノニル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ウンデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-トリデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ペンタデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘプタデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-オクタデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ウンデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、および1,3-ビス(ドデシル)イミダゾリウムカチオン等が挙げられる。
【0068】
ピリジニウム系カチオンとしては、例えば、1-ブチルピリジニウムカチオン、1-ヘキシルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオン、および1-オクチル-4-メチルピリジニウムカチオン等が挙げられる。
【0069】
ピロリジニウム系カチオンとしては、例えば、1-エチル-1-メチルピロリジニウムカチオンおよび1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン等が挙げられる。
【0070】
アンモニウム系カチオンとしては、例えば、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、メチルトリオクチルアンモニウムカチオン、テトラデシトリヘキシルアンモニウムカチオン、グリシジルトリメチルアンモニウムカチオンおよびトリメチルアミノエチルアクリレートカチオン等が挙げられる。
【0071】
イオン液体としては、電圧印加時の接着力の低下率を大きくするという観点から、構成するカチオンとしては分子量160以下のカチオンを選択することが好ましく、上記の(FSO[ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン]又は(CFSO[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン]と分子量160以下のカチオンとを含むイオン液体が特に好ましい。分子量160以下のカチオンとしては、例えば、1-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ペンチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチルピリジニウムカチオン、1-ヘキシルピリジニウムカチオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオン、1-エチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、グリシジルトリメチルアンモニウムカチオン、およびトリメチルアミノエチルアクリレートカチオン等が挙げられる。
【0072】
また、イオン液体のカチオンとしては、下記式(2-A)~(2-D)で表されるカチオンも好ましい。
【化1】
【0073】
式(2-A)中のRは、炭素数4~10の炭化水素基(好ましくは炭素数4~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数4~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良く、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1~12の炭化水素基(好ましくは炭素数1~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数2~4の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。但し、窒素原子が隣接する炭素原子と2重結合を形成する場合、Rは存在しない。
【0074】
式(2-B)中のRは、炭素数2~10の炭化水素基(好ましくは炭素数2~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良く、R、R、及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1~12の炭化水素基(好ましくは炭素数1~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数2~4の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。
【0075】
式(2-C)中のRは、炭素数2~10の炭化水素基(好ましくは炭素数2~8の炭化水素基、より好ましくは炭素数2~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良く、R、R10、及びR11は、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1~16の炭化水素基(好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、より好ましくは炭素数1~8の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。
【0076】
式(2-D)中のXは、窒素、硫黄、又はリン原子を表し、R12、R13、R14、及びR15は、同一又は異なって、炭素数1~16の炭化水素基(好ましくは炭素数1~14の炭化水素基、より好ましくは炭素数1~10の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数1~8の炭化水素基、特に好ましくは炭素数1~6の炭化水素基)を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。但し、Xが硫黄原子の場合、R12は存在しない。
【0077】
イオン液体におけるカチオンの分子量は、例えば500以下、好ましくは400以下、より好ましくは300以下、さらに好ましくは250以下、特に好ましくは200以下、最も好ましくは160以下である。また、通常は50以上である。イオン液体におけるカチオンは、粘着剤層中で電圧印加時に陰極側に移動して、粘着剤層と被着体の界面付近に偏る性質を有すると考えられる。本発明では、このため初期接着力に対して電圧印加中の接着力が低下し、電気剥離性が生じる。分子量が500以下といった分子量が小さいカチオンは、粘着剤層中の陰極側へのカチオンの移動がより容易になり、電圧印加時における接着力の低下率を大きくするうえで好適である。
【0078】
イオン液体の市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「エレクセルAS-110」、「エレクセルMP-442」、「エレクセルIL-210」、「エレクセルMP-471」、「エレクセルMP-456」、「エレクセルAS-804」、三菱マテリアル株式会社製の「HMI-FSI」、日本カーリット株式会社製の「CIL-312」、および「CIL-313」等が挙げられる。
【0079】
イオン液体のイオン伝導率は、0.1mS/cm以上10mS/cm以下が好ましい。イオン伝導率の上限は、より好ましくは5mS/cmであり、さらに好ましくは3mS/cmであり、下限は、より好ましくは0.3mS/cmであり、さらに好ましくは0.5mS/cmである。この範囲のイオン伝導率を有することで、低い電圧であっても十分に接着力が低下する。なお、イオン伝導率は、例えば、Solartron社製1260周波数応答アナライザを用い、ACインピーダンス法により測定することができる。
【0080】
本実施形態の粘着剤組成物におけるイオン液体の含有量(配合量)は、ポリマー100質量部に対して、0.5質量部以上であることが電圧印加中の接着力を低下させる観点から好ましく、30質量部以下であることが初期接着力を高くする観点から好ましい。同様の観点から20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが特に好ましく、5質量部以下であることが最も好ましい。また、0.6質量部以上であることがより好ましく、0.8質量部以上であることがさらに好ましく、1.0質量部以上であることが特に好ましく、1.5質量部以上であることが最も好ましい。
【0081】
(その他の成分)
本実施形態の粘着剤組成物は、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、ポリマー及びイオン液体以外の成分(以下、「その他の成分」と称する場合がある)を1種又は2種以上含有することができる。以下、本実施形態の粘着剤組成物に含有され得るその他の成分について説明する。
【0082】
本実施形態の粘着剤組成物は、比誘電率やイオン伝導率、キャパシタンスを制御する目的でイオン性添加剤を含有してもよい。イオン性添加剤としては、例えばイオン性固体を用いることができる。
【0083】
イオン性固体は、25℃で固体であるイオン性物質である。イオン性固体は特に限定されないが、例えば、先述のイオン性液体の説明の欄において例示したアニオンとカチオンを組み合わせて得られるイオン性物質のうち、固体であるものを用いることができる。粘着剤組成物がイオン性固体を含有する場合、イオン性固体の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、また、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、2.5質量部以下がさらに好ましい。
【0084】
本実施形態の粘着剤組成物は、ポリマーを架橋させることによりクリープ性やせん断性を改良する目的で、必要に応じて架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤や、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、およびアミン系架橋剤等が挙げられる。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、トルエンジイソシアネート、およびメチレンビスフェニルイソシアネート等が挙げられる。エポキシ系架橋剤としては、例えば、N,N,N´,N´-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンおよび1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。架橋剤を含有する場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましく、また、50質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。なお、架橋剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0085】
本実施形態の粘着剤組成物は、電圧印加時のイオン液体の移動を助ける目的で必要に応じて、ポリエチレングリコールやテトラエチレングリコールジメチルエーテルを含有してもよい。ポリエチレングリコールやテトラエチレングリコールジメチルエーテルとしては、100~6000の数平均分子量を有するものを使用できる。これらの成分を含有する場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、また、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0086】
本実施形態の粘着剤組成物は、粘着剤組成物に導電性を付与する目的で必要に応じて、導電性フィラーを含有してもよい。導電性フィラーとしては、特に限定されず、一般的な公知乃至慣用の導電性フィラーを用いることができ、例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、銀や銅等の金属粉等を用いることができる。導電性フィラーを含有する場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.1質量部以上200質量部以下が好ましい。
【0087】
本実施形態の粘着剤組成物は、金属被着体の腐食を抑制する目的で必要に応じて、腐食防止剤を含有してもよい。腐食防止剤としては、特に限定されず、一般的な公知乃至慣用の腐食防止剤を用いることができ、例えば、カルボジイミド化合物、吸着型インヒビター、キレート形成型金属不活性剤等を用いることができる。
カルボジイミド化合物としては、例えば、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N´-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N´-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N´-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、N,N´-ジ-tert-ブチルカルボジイミド、1,3-ビス(p-トリル)カルボジイミド、およびこれらをモノマーとするポリカルボジイミド樹脂等が挙げられる。これらのカルボジイミド化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本実施形態の粘着剤組成物にカルボジイミド化合物を含有させる場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。
吸着型インヒビターとしては、例えばアルキルアミン、カルボン酸塩、カルボン酸誘導体、アルキルリン酸塩などが挙げられる。吸着型インヒビターは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本実施形態の粘着剤組成物に吸着型インヒビターとしてアルキルアミンを含有させる場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましい。本実施形態の粘着剤組成物に吸着型インヒビターとしてカルボン酸塩を含有させる場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。本実施形態の粘着剤組成物に吸着型インヒビターとしてカルボン酸誘導体を含有させる場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。本実施形態の粘着剤組成物に吸着型インヒビターとしてアルキルリン酸塩を含有させる場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましい。
キレート形成型金属不活性剤としては、例えば、トリアゾール基含有化合物またはベンゾトリアゾール基含有化合物を用いることができる。これらは、アルミニウムなどの金属の表面を不活性化する作用が高く、また粘着成分中に含有させても接着性に影響を及ぼしにくいことから好ましい。キレート形成型金属不活性剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本実施形態の粘着剤組成物にキレート形成型金属不活性剤を含有させる場合の含有量は、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましい。
腐食防止剤の総含有量(配合量)は、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上30質量部以下が好ましい。
【0088】
本実施形態の粘着剤組成物は、他にも充填剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤)、防錆剤、接着付与樹脂、および帯電防止剤等の各種添加剤を含有してもよい。これらの成分の総含有量は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されないが、ポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0089】
充填剤としては、例えば、シリカ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、および焼成クレー等が挙げられる。
可塑剤は、一般的な樹脂組成物等に用いられる公知慣用の可塑剤を用いることができ、例えば、パラフィンオイル、プロセスオイル等のオイル、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状エチレン-プロピレンゴム等の液状ゴム、テトラヒドロフタル酸、アゼライン酸、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸、およびこれらの誘導体、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、およびコハク酸イソデシル等を用いることができる。
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、およびブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、および銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、ジンクホスフェート、タンニン酸誘導体、リン酸エステル、塩基性スルホン酸塩、および各種防錆顔料等が挙げられる。
接着付与剤としては、例えば、チタンカップリング剤、およびジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第4級アンモニウム塩、あるいはポリグリコール酸やエチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、フェノール系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、ケトン系粘着付与樹脂の他、ポリアミド系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、およびエラストマー系粘着付与樹脂等が挙げられる。なお、粘着付与樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0090】
<イオン液体非含有粘着剤層の比誘電率>
第1の実施形態の粘着剤組成物は、該粘着剤組成物中に含まれる成分のうちイオン液体以外の成分からなる組成物(イオン液体非含有粘着剤組成物)により粘着剤層(イオン液体非含有粘着剤層)を形成し、該粘着剤層を22℃、20%RHの環境下で3日間放置した後の、該粘着剤層の周波数100Hzにおける比誘電率が5以上である。
【0091】
なお、上述の比誘電率とは、以下のように測定された比誘電率をいうものとする。
まず、イオン液体非含有粘着剤組成物を表面が剥離処理されたセパレーターの剥離表面上に、均一に塗布し、130℃で3分間加熱乾燥を行うことで、厚み30μmのイオン液体非含有粘着剤層を得る。次いで、得られたイオン液体非含有粘着剤層を、22℃、20%RHの環境下で3日間放置する。その後、以下の条件で比誘電率を測定する。
(比誘電率の測定条件)
測定方法:容量法(装置:Agilent Technologies 4294A Precision Impedance Analyzer使用)
電極構成:12.1mmΦ、0.5mm厚みのアルミ板
対向電極:60μm厚みのアルミ箔
測定環境:23±1℃、52±1%RH
【0092】
イオン液体非含有粘着剤層の比誘電率は、イオン液体を含む粘着剤組成物により形成される粘着剤層におけるイオン液体の動きやすさと相関を有する。イオン液体非含有粘着剤層の比誘電率が大きいほど、イオン液体を含む粘着剤組成物により形成される粘着剤層においてイオン液体が移動しやすく、そのため、電圧を印加した際に接着力が低下しやすくなる。
第1の実施形態の粘着剤組成物は、イオン液体非含有粘着剤層を22℃、20%RHの環境下で3日間放置した後の、該粘着剤層の周波数100Hzにおける比誘電率が5以上であるため、低湿度環境下においても電圧の印加により十分に接着力が低下する接着を形成可能である。
【0093】
イオン液体非含有粘着剤層の比誘電率は、例えば粘着剤組成物におけるポリマーの成分や、イオン性添加剤の種類や含有量を、先述の好適な範囲で適宜調整することにより、制御することができる。
【0094】
<粘着剤層のイオン伝導度及び粘着剤層と被着体の界面の単位面積あたりのキャパシタンス>
第2の実施形態の粘着剤組成物は、該粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが0.9μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が10μS/m以上である。
【0095】
粘着剤層のイオン伝導度は、粘着剤層におけるイオン液体の動きやすさと相関を有し、イオン伝導度が大きいほど、イオン液体が移動しやすい。また、粘着剤層と被着体の界面の単位面積あたりのキャパシタンスは、粘着剤層と被着体の界面へのイオン液体の存在しやすさと相関を有し、このキャパシタンスが大きいほどが粘着剤層と被着体の界面にイオン液体が多く存在しやすくなる。
第2の実施形態の粘着剤組成物は、該粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが0.9μF/cm以上であり、該粘着剤層のイオン伝導度が10μS/m以上であるため、低湿度環境下においても電圧の印加により十分に接着力が低下する接着を形成可能である。また、上記の単位面積あたりのキャパシタンスが1.2μF/cm以上であり、該粘着剤層のイオン伝導度が20μS/m以上であることがより好ましい。
【0096】
上記のイオン伝導度及びキャパシタンスは、例えば粘着剤組成物におけるポリマーの成分や、イオン液体の種類や含有量、イオン性添加剤の種類や含有量を、先述の好適な範囲で適宜調整することにより、制御することができる。
【0097】
なお、上述のイオン伝導度及びキャパシタンスとは、以下のように測定されたイオン伝導度及びキャパシタンスをいうものとする。
【0098】
(測定用サンプル(複合体サンプル)の製造)
まず、アルミ蒸着PETフィルム100(商品名「メタルミーTS」東レフィルム加工社製)のアルミ蒸着面側に粘着剤組成物を均一に塗布する。なお、この際アルミ蒸着面に電極を接触させるために、部分的に粘着剤組成物が塗布されない部分を設ける。次いで、130℃で3分間加熱乾燥を行い粘着剤層200を形成し、粘着シートサンプルを得る。
その後、得られた粘着シートサンプルの粘着面をアルミニウム板300(A5052P H32(JIS H4000:2014))に貼り付け、図5及び6に示すような形状の接合体サンプル400を得る。なお、図5は側面図、図6は上面図である。
【0099】
(キャパシタンス及びイオン伝導度の測定)
キャパシタンス及びイオン伝導度の測定には、LCRメーター(例えば、日置電機株式会社製IM3533)を使用する。
まず、LCRメーターを用いてアルミニウム板300とアルミ蒸着PETフィルム100のアルミ蒸着面の間に0.5Vの交流電圧を印加し、周波数を0.5Hzから200kHzまで変化させてcole-coleプロットを得る。
【0100】
次に、粘着剤層200のバルクを抵抗成分Radhと静電容量成分Cadhとの並列回路、粘着剤層200の界面を抵抗成分Rと静電容量成分Cdlとの並列回路とみなし、接合体サンプルの等価回路を図7に示すように設定し、得られたcole-coleプロットを下記式(A)によりフィッティングする。なお、抵抗成分Rは配線抵抗である。
【0101】
【数1】
【0102】
なお、式(A)において、ωは角周波数である。
【0103】
得られたCdlを粘着剤層200の粘着面の面積Aで割ることにより、粘着剤層200とアルミニウム板300の界面の単位面積あたりのキャパシタンスを求めることができる。
【0104】
次いで、式(A)より求められた粘着剤層200のバルクの抵抗成分Radhを用いて下記式(B)を用いて粘着剤層のイオン伝導度σを求めることができる。
【0105】
【数2】
【0106】
なお、式(B)において、lは粘着剤層の厚み、Aは粘着剤層200の粘着面の面積である。
【0107】
<初期接着力、電圧印加による接着力の低下率>
本実施形態の粘着剤組成物の接着力は種々の方法で評価することができるが、例えば実施例の欄に記載の180°ピール試験により評価できる。
【0108】
本実施形態の粘着剤組成物は、実施例の欄に記載のように粘着シートを形成し、180°ピール試験をおこなって測定される初期接着力が1.0N/cm以上であることが好ましく、1.5N/cm以上であることがより好ましく、2.0N/cm以上であることがさらに好ましく、2.5N/cm以上であることが特に好ましく、3.0N/cm以上であることが最も好ましい。初期接着力が1.0N/cm以上であると、被着体との接着が十分であり、被着体が剥がれたり、ずれたりしにくい。
【0109】
また、本実施形態の粘着剤組成物は、実施例の欄に記載のように粘着シートを形成し、所定の温度及び湿度の環境下で所定の期間放置し、10Vの電圧を30秒間印加した後に10Vの電圧を印加しながら180°ピール試験で測定した接着力が、初期接着力に対して十分に小さいことが好ましい。
即ち、上記の方法で測定された接着力(下式(C)において単に「電圧印加中の接着力」と表記する)と、初期接着力とから下式(C)で求められる接着力低下率が、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。上記所定の温度及び湿度並びに期間は、22℃20%RH3日間が好ましく、22℃15%RH7日間がより好ましい。
接着力低下率(%)={1-(電圧印加中の接着力/初期接着力)}×100 (C)
【0110】
なお、電気剥離の際の印加電圧及び電圧印加時間は上記のものに限定されず、粘着シートの剥離ができる限り特に限定されない。これらの好適な範囲について以下に示す。
印加電圧は、1V以上であることが好ましく、3V以上であることがより好ましく、6V以上であることがさらに好ましい。また、100V以下であることが好ましく、50V以下であることがより好ましく、30V以下であることがさらに好ましく、15V以下であることが特に好ましい。
電圧印加時間は、60秒以下であることが好ましく、40秒以下であることがより好ましく、20秒以下であることがさらに好ましく、10秒以下であることが特に好ましい。このような場合、作業性に優れる。また、印加時間は短いほどよいが、通常1秒以上である。
【0111】
<粘着剤組成物の製造方法>
本発明の粘着剤組成物は、特に制限されないが、ポリマー、イオン液体、添加剤、および必要に応じて配合する、架橋剤、ポリエチレングリコール、導電性フィラー等を適宜撹拌して混合することで製造することができる。
【0112】
[粘着シート]
(粘着シートの構成)
本実施形態の粘着シートは、上述の本実施形態の粘着剤組成物から形成される粘着剤層(以下「電気剥離型粘着剤層」ともいう)を少なくとも一層有する限り特に制限されない。本実施形態の粘着シートは、電気剥離型粘着剤層以外の、イオン液体を含有しない粘着剤層(以下、「その他の粘着剤層」と称する場合がある)を有していてもよい。本実施形態の粘着シートは、上記以外に基材、導電層、通電用基材、中間層、および下塗り層等を有していてもよい。本実施形態の粘着シートは、例えば、ロール状に巻回された形態や、シート状の形態であってもよい。なお、「粘着シート」には、「粘着テープ」の意味も含むものとする。即ち、本実施形態の粘着シートは、テープ状の形態を有する粘着テープであってもよい。
【0113】
本実施形態の粘着シートは、基材を有さず電気剥離型粘着剤層のみからなる、即ち、基材層を含まない(基材レス)両面粘着シートであってもよい。本実施形態の粘着シートは、基材を有し、当該基材の両面が粘着剤層(電気剥離型粘着剤層、又はその他の粘着剤層)である両面粘着シートであってもよい。また、本実施形態の粘着シートは、基材を有し、当該基材の片面のみが粘着剤層(電気剥離型粘着剤層、又はその他の粘着剤層)である片面粘着シートであってもよい。なお、本実施形態の粘着シートは、粘着剤層表面を保護する目的のセパレーター(剥離ライナー)を有していてもよいが、当該セパレーターは、本実施形態の粘着シートに含まれないものとする。
【0114】
本実施形態の粘着シートの構造としては、特に制限されないが、図1に示す粘着シートX1、図2に積層構造を示す粘着シートX2、図3に積層構造を示す粘着シートX3が好ましく挙げられる。粘着シートX1は、電気剥離型粘着剤層1のみからなる基材レス両面粘着シートである。粘着シートX2は、粘着剤層2、通電用基材5(基材3及び導電層4)、電気剥離型粘着剤層1の層構成を有する基材付き両面粘着シートである。粘着シートX3は、粘着剤層2、通電用基材5(基材3及び導電層4)、電気剥離型粘着剤層1、通電用基材5(基材3及び導電層4)、粘着剤層2の層構成を有する基材付き両面粘着シートである。図2及び3に示す粘着シートX2及びX3の通電用基材5において、基材3は必須ではなく、導電層4のみであってもよい。また、図2の粘着シートX2において、粘着剤層2を設けない片面粘着シートであってもよい。
【0115】
基材3としては、特に限定されないが、紙等の紙系基材、布、不織布等の繊維系基材、各種プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂等)によるフィルムやシート等のプラスチック系基材、これらの積層体等が挙げられる。基材は単層の形態を有していてもよく、また、複層の形態を有していてもよい。なお、基材には、必要に応じて、背面処理、帯電防止処理、下塗り処理等の各種処理が施されていてもよい。
【0116】
導電層4としては、導電性を有する層である限り特に限定されないが、金属(例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄、スズ、金等)箔、金属板(例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄、スズ、銀等)等の金属系基材、導電性ポリマー、などであってもよく、また、基材3上に設けられた金属蒸着膜などであってもよい。
【0117】
通電用基材5としては、導電層を有する(通電する)基材である限り特に限定されないが、基材の表面に金属層を形成させたもの等が挙げられ、例えば、上記に例示した基材の表面に、メッキ法、化学蒸着法、スパッタリング等の方法により金属層を形成させたものが挙げられる。金属層としては、上記に例示した金属、金属板、導電性ポリマー等が挙げられる。
【0118】
粘着シートX1においては、両面の被着体が、金属被着面を有する被着体であることが好ましい。粘着シートX2においては、電気剥離型粘着剤層1側の被着体が金属被着面を有する被着体であることが好ましい。
【0119】
金属被着面としては、導電性を有する、例えば、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、スズ、金、銀、および鉛等を主成分とする金属からなる面が挙げられ、なかでもアルミニウムを含む金属からなる面が好ましい。金属被着面を有する被着体としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、スズ、金、銀、および鉛等を主成分とする金属からなるシート、部品、および板等が挙げられる。金属被着面を有する被着体以外の被着体としては、特に限定されないが、紙、布、および不織布等の繊維シート、各種プラスチックのフィルムやシート等が挙げられる。
【0120】
電気剥離型粘着剤層1の厚みは1μm以上1000μm以下であることが、初期接着力の観点から好ましい。電気剥離型粘着剤層1の厚みの上限は、より好ましくは500μmであり、さらに好ましくは100μmであり、特に好ましくは30μmであり、下限は、より好ましくは3μmであり、さらに好ましくは5μmであり、特に好ましくは8μmである。なお、粘着シートが、1つの電気剥離型粘着剤層のみからなる基材レス両面粘着シート(図1に示す粘着シートX1)である場合、電気剥離型粘着剤層の厚みは、粘着シートの厚みとなる。
【0121】
粘着剤層2の厚みは1μm以上2000μm以下であることが、接着力の観点から好ましい。粘着剤層2の厚みの上限は、より好ましくは1000μmであり、さらに好ましくは500μmであり、特に好ましくは100μmであり、下限は、より好ましくは3μmであり、さらに好ましくは5μmであり、特に好ましくは8μmである。
【0122】
基材3の厚みは、10μm以上1000μm以下が好ましい。厚みの上限は、より好ましくは500μmであり、さらに好ましくは300μmであり、特に好ましくは100μmであり、下限は、より好ましくは12μmであり、さらに好ましくは25μmである。
【0123】
導電層4の厚みは、0.001μm以上1000μm以下が好ましい。厚みの上限は、より好ましくは500μmであり、さらに好ましくは300μmであり、さらに好ましくは50μmであり、さらに好ましくは10μmであり、下限は、より好ましくは0.01μmであり、より好ましくは0.03μmであり、さらに好ましくは0.05μmである。
【0124】
通電用基材5の厚みは、10μm以上1000μm以下が好ましい。厚みの上限は、より好ましくは500μmであり、さらに好ましくは300μmであり、特に好ましくは100μmであり、下限は、より好ましくは12μmであり、さらに好ましくは25μmである。
【0125】
本実施形態の粘着シートの電気剥離型粘着剤層、及びその他の粘着剤層の表面は、セパレーター(剥離ライナー)によって保護されていてもよい。セパレーターとしては、特に限定されないが、紙やプラスチックフィルム等の基材(ライナー基材)の表面がシリコーン処理された剥離ライナー、紙やプラスチックフィルム等の基材(ライナー基材)の表面がポリオレフィン系樹脂によりラミネートされた剥離ライナー等が挙げられる。セパレーターの厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0126】
本実施形態の粘着シートの厚みは、20μm以上3000μm以下が好ましい。厚みの上限は、より好ましくは1000μmであり、さらに好ましくは300μmであり、特に好ましくは200μmであり、下限は、より好ましくは30μm、さらに好ましくは50μmである。
【0127】
特に、図2に示す粘着シートX2である場合、粘着シートの厚みは、50μm以上2000μm以下が好ましい。厚みの上限は、より好ましくは1000μmであり、さらに好ましくは200μmであり、下限は、より好ましくは80μm、さらに好ましくは100μmである。
【0128】
特に、図3に示す粘着シートX3である場合、粘着シートの厚みは、100μm以上3000μm以下が好ましい。厚みの上限は、より好ましくは1000μmであり、さらに好ましくは300μmであり、下限は、より好ましくは150μm、さらに好ましくは200μmである。
【0129】
(粘着シートの製造方法)
本実施形態の粘着シートの製造方法は、公知乃至慣用の製造方法を用いることができる。本実施形態の粘着シートにおける電気剥離型粘着剤層は、本実施形態の粘着剤組成物を必要に応じて溶剤に溶した溶液を、セパレーター上に塗布し、乾燥及び/又は硬化する方法等が挙げられる。また、その他の粘着剤層は、イオン液体及び添加剤を含まない粘着剤組成物を必要に応じて溶剤に溶した溶液を、セパレーター上に塗布し、乾燥及び/又は硬化する方法等が挙げられる。なお、溶剤及びセパレーターは、上記で挙げたものを使用することができる。
【0130】
塗布に際しては、慣用のコーター(例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーロールコーター等)を用いることができる。
【0131】
上記方法により、電気剥離型粘着剤層、およびその他の粘着剤層を製造することができ、適宜、基材、導電層、通電用基材に電気剥離型粘着剤層、およびその他の粘着剤層を積層させることで、本実施形態の粘着シートを製造することができる。なお、セパレーターの代わりに、基材、導電層、通電用基材を用いて、粘着剤組成物を塗布して粘着シートを製造してもよい。
【0132】
(粘着シートの電気剥離方法)
本実施形態の粘着シートの被着体からの剥離は、電気剥離型粘着剤層への電圧の印加により、電気剥離型粘着剤層の厚み方向に電位差を生じさせることにより行うことができる。例えば、粘着シートX1において両面が金属被着面を有する被着体である場合、両面の金属被着面に通電し、電気剥離型粘着剤層に電圧を印加することにより剥離することができる。粘着シートX2において電気剥離型粘着剤層側が金属被着面を有する被着体である場合、該導電性被着体と導電層4に通電し、電気剥離型粘着剤層に電圧を印加することにより剥離することができる。粘着シートX3の場合、両面の導電層4に通電し、電気剥離型粘着剤層に電圧を印加することにより剥離することができる。通電は、電気剥離型粘着剤層全体に電圧がかかるよう、粘着シートの一端と他方の端に端子をつないで行うことが好ましい。なお、上記の一端と他方の端は、被着体が金属被着面を有する場合、金属被着面を有する被着体の一部であってもよい。なお、剥離の際に、金属被着面と電気剥離型粘着剤層の界面に水を添加してから電圧を印加してもよい。
【0133】
(粘着シートの用途)
従来の再剥離技術としては、紫外線(UV)照射により硬化させて剥離する粘着剤層や熱により剥離する粘着剤層がある。このような粘着剤層を用いた粘着シートでは、紫外線(UV)照射が困難である場合や熱により被着体である部材にダメージが生じる場合などは使用できない。上記電気剥離型粘着剤層を備える本実施形態の粘着シートは、紫外線や熱を使用しないため、被着体である部材を傷めずに、電圧を印加することで容易に剥離が可能である。よって、本実施形態の粘着シートは、スマートフォン、携帯電話、ノートパソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ等のモバイル端末に使用される二次電池(例えば、リチウムイオン電池パック)の筐体への固定の用途に好適である。
【0134】
また、本実施形態の粘着シートによる接合の対象としての剛性部材としては、例えば、半導体ウエハ用途のシリコン基板、LED用のサファイア基板、SiC基板および金属ベース基板、ディスプレイ用のTFT基板およびカラーフィルター基板、並びに有機ELパネル用のベース基板が挙げられる。両面粘着シートによる接合の対象としての脆弱部材としては、例えば、化合物半導体基板などの半導体基板、MEMSデバイス用途のシリコン基板、パッシブマトリックス基板、スマートフォン用の表面カバーガラス、当該カバーガラスにタッチパネルセンサーが付設されてなるOGS(One Glass Solution)基板、シルセスキオキサンなどを主成分とする有機基板および有機無機ハイブリッド基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブルガラス基板、並びにグラフェンシートが挙げられる。
【0135】
[接合体]
本実施形態の接合体は、金属被着面を有する被着体と、電気剥離型粘着剤層が金属被着面に接合している粘着シートとを含む積層構造部を有する。金属被着面を有する被着体としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、スズ、金、銀、および鉛等を主成分とする金属からなるものが挙げられ、なかでもアルミニウムを含む金属が好ましい。
【0136】
本実施形態の接合体としては、例えば、粘着シートX1であって、電気剥離型粘着剤層1の両面に金属被着面を有する被着体を備える接合体、粘着シートX2であって、電気剥離型粘着剤層1側に金属被着面を有する被着体を備え、粘着剤層2側に被着体を備える接合体、粘着シートX3であって粘着剤層2の両面に被着体を備える接合体等が挙げられる。
【実施例
【0137】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。下記の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により上記記載の方法で測定されたものである。
【0138】
[実施例1-1~1-8、比較例1-1~1-5]
<ポリマー溶液の作成>
(アクリル系ポリマー1溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):95質量部、アクリル酸(AA):5質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー1溶液を得た。
【0139】
(アクリル系ポリマー2溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):90質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA):10質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度30質量%のアクリル系ポリマー2溶液を得た。
【0140】
(アクリル系ポリマー3溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):67質量部、2-メトキシエチルアクリレート(MEA):30質量部、アクリル酸(AA):3質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー3溶液を得た。
【0141】
(アクリル系ポリマー4溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):67質量部、メタクリル酸メチル(MMA):33質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー4溶液を得た。
【0142】
(アクリル系ポリマー5溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):87質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA):10質量部、アクリル酸(AA):3質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度30質量%のアクリル系ポリマー5溶液を得た。
【0143】
<粘着剤組成物の作製>
上記で得られたアクリル系ポリマー溶液や以下に示すポリマー、架橋剤、イオン液体、添加剤を加えて撹拌、混合し、実施例1-1~1-8及び比較例1-1~1-5の粘着剤組成物を得た。表1に各成分の配合量を示す。
なお、表1における各成分の値は、質量部を意味する。また、ポリマーの配合量(質量部)は、ポリマー溶液中の固形分の配合量(質量部)を示す。
表1におけるポリマー、架橋剤、イオン液体、および添加剤の略称については、以下の通りである。
(ポリマー)
バイロンUR-V8700:ウレタン変性ポリエステル樹脂、商品名「バイロンUR-V8700」、東洋紡社製
バイロンBX1001:ポリエステル樹脂、商品名「バイロンBX1001」、東洋紡社製
ソマレックス530:アニオン性ポリアクリルアミドポリマー(イオン性ポリマー)、商品名「ソマレックス530」、ソマール株式会社製
(イオン液体)
AS-110:カチオン:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、アニオン:ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、商品名「エレクセルAS-110」、第一工業製薬株式会社社製
(架橋剤)
V-05:ポリカルボジイミド樹脂、商品名「カルボジライト V-05」、日清紡ケミカル株式会社製
タケネートD110:トリメチロールプロパンキシリレンジイソシアネート、商品名「タケネートD110N」、三井化学株式会社製(添加剤)
EMI-nitrate:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムニトレート、東京化成工業社製
Zn-nitrate:硝酸亜鉛6水和物、和光純薬工業社製
BTC-5B:チタン酸バリウム
No.27776:カーボンブラック
【0144】
<イオン液体非含有粘着剤層の比誘電率の測定>
イオン液体を添加しなかった点以外は上記実施例1-1~1-8、比較例1-1~1-5と同様にして材料を撹拌、混合して得られたイオン液体非含有粘着剤組成物を、表面が剥離処理されたポリエチレンテレフタレートセパレーター(商品名「MRF38」、三菱樹脂株式会社製)の剥離処理面上に、アプリケータを用いて均一な厚みとなるように塗布した。次に、130℃で3分間の加熱乾燥を行い、厚み30μmのイオン液体非含有粘着剤層を得た。次いで、得られたイオン液体非含有粘着剤層を22℃、20%RHの環境下で3日間放置した後に、該粘着剤層の周波数100kHzでの比誘電率をJIS K 6911に準じて、下記条件で測定した。
(測定条件)
測定方法:容量法(装置:Agilent Technologies 4294A Precision Impedance Analyzer使用)
電極構成:12.1mmΦ、0.5mm厚みのアルミ板
対向電極:3oz 銅板
測定環境:23±1℃、52±1%RH
【0145】
<電気剥離型粘着剤層の含水率の測定>
各例の粘着剤組成物を用いて、上記と同様にして得られた電気剥離型粘着剤層を、22℃20%RHの環境下で3日間放置した後に、該粘着剤層の含水率をカールフィッシャー水分気化-電量滴定法(JIS K 0113:2005)により測定した。具体的には平沼産業株式会社製の平沼微量水分測定装置AQ-2100を用い、200℃、30分間の加熱気化により生じた水分量を測定し、加熱前の試料重量に対する割合を含水率とした。すなわち、下記式により含水率を求めた。なお、表1中の「‐」は未測定を意味する。
含水率(%)=(カールフィッシャー測定水分量/測定前の試料全重量)×100
【0146】
<評価>
(初期接着力)
各例の粘着剤組成物を、表面が剥離処理されたポリエチレンテレフタレートセパレーター(商品名「MRF38」、三菱樹脂株式会社製)の剥離処理面上に、アプリケータを用いて均一な厚みとなるように塗布した。次に、130℃で3分間の加熱乾燥を行い、厚み30μmの電気剥離型粘着剤層(粘着シート)を得た。
次いで、得られた電気剥離型粘着剤層(粘着シート)を10mm×80mmのサイズのシートとし、セパレーターのない面に、基材として金属層付きフィルム(商品名「BR1075」、東レフィルム加工(株)社製、厚み25μm、サイズ10mm×100mm)の金属層面を貼り合わせ、基材付き片面粘着シートとした。基材付き片面粘着シートのセパレーターを剥がし、剥がした面に被着体としてアルミニウム板(A5052P H32(JIS H4000:2014))を当該粘着シートの一端が2mm程度被着体からはみ出すように貼り付け、2kgのローラーで1往復押圧し、23℃の環境下で30分間放置し、アルミニウム板6/電気剥離型粘着剤層(粘着シート)1’/金属層付きフィルム(通電用基材)5’からなる接合体を得た。当該接合体の概要を図4に示す。その後、剥離試験機(商品名「変角度ピール試験機YSP」、旭精工(株)社製)にて、図4中の矢印方にピールし、180°ピール試験(引張速度:300mm/min、剥離温度23℃)における接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0147】
(電圧印加中の接着力)
2kgのローラーで1往復押圧した後に、22℃、20%RHの環境下で3日間放置した点、及び、ピールの前に接合体の図4におけるαとβの箇所に直流電流機のマイナス極及びプラス極の電極をそれぞれ取り付け、電圧10Vにて30秒間電圧印加を行い、そのまま電圧を印加しながら、ピールした点以外は上記の初期接着力測定と同様にして、電圧印加中の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0148】
(接着力低下率)
上記の方法で測定した初期接着力及び電圧印加中の接着力を用いて、下記式(C)により電圧印加による接着力低下率を求めた。結果を表1に示す。
接着力低下率(%)={1-(電圧印加中の接着力/初期接着力)}×100 (C)
【0149】
【表1】
【0150】
粘着剤組成物に含まれる成分のうちイオン液体以外の成分からなる組成物により粘着剤層を形成し、該粘着剤層を22℃、20%RHの環境下で3日間放置した後の、該粘着剤層の周波数100Hzにおける比誘電率が5以上である実施例1-1~1-8の粘着剤組成物は、いずれも電圧印加による接着力低下率が大きかった。
【0151】
[実施例2-1~2-11、比較例2-1~2-3]
<ポリマー溶液の作成>
(アクリル系ポリマー6溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):90質量部、アクリル酸(AA):10質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー6溶液を得た。
【0152】
(アクリル系ポリマー7溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):90質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA):7質量部、アクリル酸(AA):3質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度30質量%のアクリル系ポリマー7溶液を得た。
【0153】
(アクリル系ポリマー8溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):94質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA):3質量部、アクリル酸(AA):3質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度30質量%のアクリル系ポリマー8溶液を得た。
【0154】
(アクリル系ポリマー9溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):77質量部、2-メトキシエチルアクリレート(MEA):20質量部、アクリル酸(AA):3質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として
2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー9溶液を得た。
【0155】
(アクリル系ポリマー10溶液の作製)
モノマー成分として、n-ブチルアクリレート(BA):87質量部、2-メトキシエチルアクリレート(MEA):10質量部、アクリル酸(AA):3質量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:150質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー10溶液を得た。
【0156】
<粘着剤組成物の作製>
上記で得られたアクリル系ポリマー溶液や先述のポリマー、架橋剤、イオン液体、添加剤、または、下記のイオン液体、腐食防止剤を加えて撹拌、混合し、実施例2-1~2-11及び比較例2-1~2-3の粘着剤組成物を得た。表2に各成分の配合量を示す。
(イオン液体)
1-ヘキシル-ピリジニウム-ビス(トリフルオロスルホニル)イミド(腐食防止剤、添加剤、架橋剤)
Irgamet30:N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-1,2,4-トリアゾール-1-イルメタンアミン、商品名「Irgamet30」、BASF社製
IrgacorDSSG:セバシン酸二ナトリウム、商品名「IrgacorDSSG」、BASF社製
AminO:イミダゾリン誘導体、商品名「Amin O」、BASF社製
PEG400:ポリエチレングリコール、商品名「PEG400」、東京化成工業社製
コロネートL:イソシアネート化合物、商品名「コロネートL」、東ソー株式会社製
【0157】
<粘着剤層のイオン伝導率及び単位面積あたりのキャパシタンスの測定>
各例の粘着剤組成物を用いて以下のように測定用サンプル(複合体サンプル)を作成し、以下の方法で接着界面のキャパシタンス及び粘着剤層のイオン伝導度を求めた。結果を表2に示す。
【0158】
(測定用サンプル(複合体サンプル)の製造)
まず、アルミ蒸着PETフィルム100(商品名「メタルミーTS」東レフィルム加工社製)のアルミ蒸着面側に粘着剤組成物を均一に塗布した。なお、この際アルミ蒸着面に電極を接触させるために、部分的に粘着剤組成物が塗布されない部分を設けた。次いで、130℃で3分間加熱乾燥を行い粘着剤層200を形成し、粘着シートサンプルを得た。
その後、得られた粘着シートサンプルの粘着面をアルミニウム板300(A5052P H32(JIS H4000:2014))に貼り付け、図5及び6に示すような形状の接合体サンプル400を得た。なお、図5は側面図、図6は上面図である。
【0159】
(キャパシタンス及びイオン伝導度の測定)
キャパシタンス及びイオン伝導度の測定には、LCRメーター(例えば、日置電機株式会社製IM3533)を使用した。
まず、LCRメーターを用いてアルミニウム板300とアルミ蒸着PETフィルム100のアルミ蒸着面の間に0.5Vの交流電圧を印加し、周波数を0.5Hzから200kHzまで変化させてcole-coleプロットを得た。
【0160】
次に、粘着剤層200のバルクを抵抗成分Radhと静電容量成分Cadhとの並列回路、粘着剤層200の界面を抵抗成分Rと静電容量成分Cdlとの並列回路とみなし、接合体サンプルの等価回路を図7に示すように設定し、得られたcole-coleプロットを下記式(A)によりフィッティングした。なお、抵抗成分Rは配線抵抗である。
【数3】
【0161】
なお、式(A)において、ωは角周波数である。
【0162】
得られたCdlを粘着剤層200の粘着面の面積Aで割ることにより、粘着剤層200とアルミニウム板300の界面の単位面積あたりのキャパシタンスを求めた。
【0163】
次いで、式(A)より求められた粘着剤層200のバルクの抵抗成分Radhを用いて下記式(B)を用いて粘着剤層のイオン伝導度σを求めた。
【0164】
【数4】
【0165】
なお、式(B)において、lは粘着剤層の厚み、Aは粘着剤層200の粘着面の面積である。
【0166】
<評価>
(初期接着力)
各例の粘着剤組成物について、基材としてアルミ蒸着PETフィルム(商品名「メタルミーTS」東レフィルム加工社製)を用いて、アルミ蒸着面に粘着剤層を形成したこと以外は実施例1-1~1-8及び比較例1-1~1-5と同様にして初期接着力を測定した。測定結果を表2に示す。
【0167】
(22℃、20%RHの環境下で3日間保存後の、電圧印加中の接着力)
2kgのローラーで1往復押圧した後に、22℃、20%RHの環境下で3日間放置した点、及び、ピールの前に接合体の図4におけるαとβの箇所に直流電流機のマイナス極及びプラス極の電極をそれぞれ取り付け、電圧10Vにて30秒間電圧印加を行い、そのまま電圧を印加しながら、ピールした点以外は上記の初期接着力測定と同様にして、電圧印加中の接着力を測定し、以下の基準で電気剥離性を評価した。測定結果を表2に示す。
○:接着力低下率が60%以上。
×:接着力低下率が60%未満。
【0168】
(22℃、15%RHの環境下で7日間保存後の、電圧印加中の接着力)
2kgのローラーで1往復押圧した後に、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した点、及び、ピールの前に接合体の図4におけるαとβの箇所に直流電流機のマイナス極及びプラス極の電極をそれぞれ取り付け、電圧10Vにて10秒間電圧印加を行い、そのまま電圧を印加しながら、ピールした点以外は上記の初期接着力測定と同様にして、電圧印加中の接着力を測定した。測定結果を表2に示す。
【0169】
(接着力低下率)
上記の方法で測定した初期接着力及び22℃、15%RHの環境下で7日間保存後の電圧印加中の接着力を用いて、下記式(C)により電圧印加による接着力低下率を求めた。
結果を表2に示す。
接着力低下率(%)={1-(電圧印加中の接着力/初期接着力)}×100 (C)
【0170】
【表2】
【0171】
粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが0.9μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が10μS/m以上である実施例2-1~2-11の粘着剤組成物は、いずれも電圧印加による接着力低下率が大きかった。
【0172】
[実施例3-1~3-5]
<ポリマー溶液の作成>
(アクリル系ポリマー11溶液の作製)
モノマー成分として、2-メトキシエチルアクリレート(MEA):95質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA):5質量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.2質量部を加え、63℃に昇温して6時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度30質量%のアクリル系ポリマー11溶液を得た。
【0173】
<粘着剤組成物の作製>
上記で得られたアクリル系ポリマー溶液や先述のポリマー、架橋剤、イオン液体、添加
剤、または、下記の添加剤を加えて撹拌、混合し、実施例3-1~3-5の粘着剤組成物を得た。表3に各成分の配合量を示す。
(添加剤)
・EMIM-MeSO:イオン性添加剤、イミダゾリウム塩、東京化成工業社製。
・エポミン200:ポリエチレンイミン、日本触媒製。
【0174】
<粘着剤層のイオン伝導率及び単位面積あたりのキャパシタンスの測定、及び評価>
実施例2-1~2-11及び比較例2-1~2-3と同様にして、初期接着力、22℃20%RHの環境下で3日間保存後の電圧印加中の接着力及び接着力低下率、22℃15%RHの環境下で7日間保存後の電圧印加中の接着力及び接着力低下率を測定した。また、実施例2-1~2-11及び比較例2-1~2-3と同様にして、測定用サンプル(複合体サンプル)を作成し、接着界面のキャパシタンス及び粘着剤層のイオン伝導度を求めた。結果を表3に示す。
【0175】
【表3】
【0176】
粘着剤組成物により粘着剤層を形成してJIS H4000:2014におけるA5052P H32からなるアルミニウム板に貼付し、22℃、15%RHの環境下で7日間放置した後の、該粘着剤層と該アルミニウム板の界面の単位面積あたりのキャパシタンスが0.9μF/cm以上、該粘着剤層のイオン伝導度が10μS/m以上である実施例3-1~3-5の粘着剤組成物は、いずれも電圧印加による接着力低下率が大きかった。
【符号の説明】
【0177】
X1,X2,X3 粘着シート
1 電気剥離型粘着剤層
2 粘着剤層
3 基材
4 導電層
5 通電用基材
100 アルミ蒸着PETフィルム
200 粘着剤層
300 アルミニウム板
400 接合体サンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7