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  • 特許-抗ストレス用食品組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】抗ストレス用食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20250318BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020152072
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046159
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 光
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 泰代
(72)【発明者】
【氏名】阿部 円佳
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏文
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239694(JP,A)
【文献】特開平08-023922(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107811173(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0102747(KR,A)
【文献】特開2016-216440(JP,A)
【文献】特開2001-204425(JP,A)
【文献】特開2004-075619(JP,A)
【文献】特開2019-202958(JP,A)
【文献】特開平03-007593(JP,A)
【文献】特開2009-234924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピガロカテキンガレートを含む緑茶抽出物と、フラバノン配糖体を含む柑橘類抽出物とを含み、フラバノン配糖体はヘスペリジンを含む、ストレス誘導性の胸腺重量低下を改善する抗ストレス用の、食品組成物であって、上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるフラバノン配糖体(B)との比(B/A)が0.2<B/A<1.6である、食品組成物
【請求項2】
飲料であることを特徴とする請求項1記載の食品組成物。
【請求項3】
上記比(B/A)が0.4≦B/A≦0.8であることを特徴とする請求項1又は2記載の食品組成物。
【請求項4】
エピガロカテキンガレートを含む緑茶抽出物と、糖転移ヘスペリジンとを含む、ストレス誘導性の胸腺重量低下を改善する抗ストレス用の、食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテキン等の緑茶抽出物と、柑橘類抽出物とを含む食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶に含まれる主要なカテキンの一種であるEGCG (エピガロカテキンガレート;Epigallocatechin-O-gallate) は抗がん作用を有することが報告されており (非特許文献1)、血液がんの一種である慢性リンパ性白血病患者において第二相臨床試験が行われている (非特許文献2)。EGCGが細胞膜上の標的分子67-kDa Laminin Receptor (67LR) に結合することで抗がん作用を発揮することが知られているが、EGCGの白血病細胞や多発性骨髄腫細胞に対する致死作用は限定的であり (非特許文献2)、EGCGを抗がん剤として利用する上でその作用増強が強く望まれている。
【0003】
特許文献1には、柑橘類抽出物又はフラバノン配糖体がカテキンの抗がん作用等を増強すること、カテキン等の緑茶抽出物と柑橘類抽出物又はフラバノン配糖体とを含む組成物が抗がん作用、抗筋萎縮作用、抗肥満作用などの各種作用を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/199169
【非特許文献】
【0005】
【文献】Khan N, Afaq F, Saleem M, et al. Targeting multiple signaling pathways by green tea polyphenol (-)-epigallocatechin-3-gallate.Cancer. res., 2006;66:2500-2505.
【文献】Shanafelt TD, Call TG, and Zent CS, et al. Phase I trial of daily oral Polyphenon E in patients with asymptomatic Rai stage 0 to II chronic lymphocytic leukemia. J. Clin. Oncol., 2009;27:3808-3814.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば柑橘類抽出物又はフラバノン配糖体がカテキン等の緑茶抽出物による抗がん作用、抗筋萎縮作用、抗肥満作用、抗炎症作用、コレステロール低下作用、血栓又は脳梗塞予防作用及び免疫増強作用といった作用を増強することが示唆されていた。しかしながら、柑橘類抽出物と緑茶抽出物を含む組成物が抗ストレス作用を有するか否かは全く不明であった。そこで、本発明は、柑橘類抽出物と緑茶抽出物を含む組成物が有する新規な作用を特定し、抗ストレス作用を有する新規な食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、柑橘類抽出物と緑茶抽出物を含む組成物が優れた抗ストレス作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下を包含する。
(1)エピガロカテキンガレートを含む緑茶抽出物と、フラバノン配糖体を含む柑橘類抽出物とを含む、抗ストレス用食品組成物。
(2)飲料であることを特徴とする(1)記載の抗ストレス用食品組成物。
(3)上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるフラバノン配糖体(B)との比(B/A)が0.2<B/A<1.6であるか、エピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(C/A)が0.2<C/A<0.5であることを特徴とする(1)記載の抗ストレス用食品組成物。
(4)上記比(B/A)が0.4≦B/A≦0.8であることを特徴とする(3)記載の抗ストレス用食品組成物。
(5)上記比(C/A)が0.25≦C/A≦0.34であることを特徴とする(3)記載の抗ストレス用食品組成物。
(6)上記フラバノン配糖体は糖転移ヘスペリジンであることを特徴とする(1)記載の抗ストレス用食品組成物。
【0009】
さらに、本発明は、エピガロカテキンガレートを含む緑茶抽出物と、フラバノン配糖体を含む柑橘類抽出物とを含む抗ストレス剤である。
【0010】
さらにまた、本発明は、エピガロカテキンガレートを含む緑茶抽出物と、フラバノン配糖体を含む柑橘類抽出物とを含む組成物を被検体に摂取させることを特徴とする、ストレスに起因する症状の改善・予防方法(ヒトに対する医療行為を除く)である。
【0011】
本発明において、緑茶抽出物としては、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート及びメチル化カテキンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカテキンを挙げることができる。
【0012】
本発明において、柑橘類抽出物としては、フラバノン配糖体、エリオジクチオール及びナリンゲニンを挙げることができる。フラバノン配糖体としては、糖転移ヘスペリジンを挙げることができる。
【0013】
本発明の好ましい態様において、緑茶抽出物はガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート又はメチル化カテキンであり、柑橘類抽出物はエリオジクチオールである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る食品組成物は、エピガロカテキンガレートを含む緑茶抽出物と、フラバノン配糖体を含む柑橘類抽出物とにより抗ストレス作用を有している。このため、本発明に係る食品組成物は、ストレスに起因する様々な症状を改善・予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】投与試験の後にマウスより採取した胸腺重量を測定した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る食品組成物は、エピガロカテキンガレートを含む緑茶抽出物と、フラバノン配糖体を含む柑橘類抽出物とを含む組成物である。当該食品組成物は、優れた抗ストレス作用を示す。
【0017】
抗ストレス作用とは、ストレス状態の継続による副腎皮質ホルモン(抗ストレスホルモン)の継続的な分泌や生体内酸化ストレスの亢進等が原因となる生体に対する障害を軽減する作用を意味する。抗ストレス作用により、ストレスに起因する様々な状態を改善することができる。例えば、抗ストレス作用により、精神的疲労感及び/又は肉体的疲労感の軽減・緩和、気分的な落ち込みの軽減すること、不安感の緩和、睡眠の質の改善、免疫力の改善、不安感の軽減・解消、焦燥感の軽減・緩和等を挙げることができる。また、ストレスの原因としては、例えば、仕事、勉強、活環境の変化(転職、退職、引越し、事故、盗難など)、人間関係の変化(結婚、出産、離婚、家族の死亡など)、経済的状況(収入の減少、借金など)が挙げられる。
【0018】
また、これらストレスが解消されずに慢性化していくと、精神疾患だけでなく、身体面での疾患に至る場合がある。例えば、ストレス起因する気管支喘息、過喚起症候群、本態性高血圧症、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、心因性嘔吐、単純性肥満症、糖尿病、筋収縮性頭痛、痙性斜頚、書痙、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、慢性関節リウマチ、腰痛症、夜尿症、心因性インポテンス、眼精疲労、本態性眼瞼痙攣、メニエール病及び顎関節症等を挙げることができる。よって、本発明に係る食品組成物は、これら疾患に対する予防や改善効果を奏することができる。
【0019】
本発明に係る食品組成物は、上述した抗ストレス作用を有するため、抗ストレス作用に関連する表示を付した機能性表示食品又は機能性表示食品の原料とすることができる。この機能性表示食品は、機能性の表示として例えば「デスクワークによる一時的な精神的ストレスや、疲労感を緩和」、「心理的負荷のかかる事務作業により発生する一時的なストレスを軽減」、「一過性の作業にともなうストレスをやわらげる」、「一時的に落ち込んだ気分を前向きにする(積極的な気分にする、生き生きとした気分にする、やる気にする)」、「不安感・気分の落ち込み・精神的ストレスを緩和」、「日常生活で自覚するストレスを減少させ、精神的・肉体的疲労感を軽減」、「心理的なストレスを和らげ、睡眠の質(眠りの深さ)を高める」、「一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレスをやわらげ、睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を高める」、「ストレスに起因する胸腺の変調から生じる免疫力低下を防ぐ」、「拘束や移動制限によるストレス緩和、ストレス軽減、疲労感を緩和」、「PTSDの予防及び回復」、「不安感や焦燥感の解消」、「ストレスを和らげて、精神を安定させる」、「イライラ解消」、「ストレスに起因する不安感の解消」、「心理的なストレスを和らげ、身体を健やかに保つ」を挙げることができる。
【0020】
本発明に係る食品組成物において、緑茶抽出物と柑橘類抽出物との組成比は任意とすることができる。一例としては、上記緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるフラバノン配糖体(B)との比(B/A)が0.2<B/A<1.6の範囲になるように、又はエピガロカテキンガレート(A)と上記柑橘類抽出物に含まれるエリオシトリン(C)との比(C/A)が0.2<C/A<0.5の範囲となるように、緑茶抽出物と柑橘類抽出物との組成比を調節することができる。
【0021】
(1)緑茶抽出物
緑茶抽出物は、ツバキ科の常緑樹である茶の木より作製した抽出物であり、少なくともエピガロカテキンガレートを含む抽出物である。緑茶の木としては、カメリアタリエンシス、カメリアシネンシスなどの茶の木が挙げられる。例えばチャノキ(Camellia sinensis (L.) Kuntze)、アッサムチャ(Camellia sinensis (L.) Kuntze var. assamica (J.W.Mast.) Kitam.)、カメリアシネンシスとカメリアタリエンシスの交配種、「やぶきた」、「べにふうき」、「べにふじ」、「べにほまれ」、「やえほ」、「するがわせ」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「おくむさし」、「青心大パン」、「青心烏龍」、「大葉烏龍」、「紅花」、「べにひかり」、「やまかい」、「やまみどり」、「からべに」、「香駿」、「そうふう」、「ふくみどり」、「みねかおり」、「べにひかり」、「みなみかおり」、「いずみ」、「ふうしゅん」、「たまみどり」、「やまかい」、「くりたわせ」、「しゅんめい」、「さやまみどり」、「あさぎり」、「ほくめい」、「ただにしき」、「あさひ」、「さやまかおり」、「めいりょく」、「やまとみどり」、「あさつゆ」、「とよか」、「なつみどり」、「うじひかり」、「おおいわせ」、「ごこう」、「印雑 131」、「まきのはらわせ」、「たかちほ」、「こまかげ」、「さみどり」、「こまかげ」、「はつもみじ」、「りょうふう」、「みなみさやか」、「さえみどり」、「おくゆたか」、「ふじみどり」、「サンルージュ」及び「おくみどり」などの茶品種が用いられ、「やぶきた」、「べにふうき」、「かなやみどり」、「おくむさし」、「そうふう」、「ふうしゅん」、「ただにしき」、「サンルージュ」がより好ましい。また、これらの茶の木からの茶葉の例としては煎茶、玉露、番茶、茎茶、芽茶、玄米茶、粉茶、抹茶、釜煎り茶、甜茶、包種茶、ウーロン茶、紅茶等が挙げられる。
【0022】
抽出溶媒としては、特に限定されないが、水若しくは有機溶剤、またはこれらの混合液が用いられる。
【0023】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等の炭素数1~4の低級アルコール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン類などの極性有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、またはジエチルエーテル等の非極性有機溶剤が挙げられる。更にこれら極性有機溶剤と非極性有機溶剤を適宜組み合わせた混合物を使用することもできる。好ましくは、熱水、エタノール、含水エタノールである。含水アルコールのアルコール濃度は、30v/v%~90v/v%、好ましくは40v/v%~70v/v%である。熱水の場合の温度は40~100℃、好ましくは60~100℃である。
【0024】
緑茶抽出物を得るための抽出方法は、浸漬による抽出、加熱抽出、連続抽出、超臨界抽出等の公知の方法を挙げることができる。緑茶抽出物は、その後、公知の方法で濃縮してもよい。得られた緑茶抽出物または濃縮物等は、公知の方法で更に精製してもよい。精製方法としては、限外ろ過、吸着樹脂処理、分子クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、液-液抽出等が挙げられる。
【0025】
乾燥方法は噴霧乾燥、凍結乾燥などが挙げられるが、これに限定されるものではない。緑茶抽出物中には、エピガロカテキンガレート以外のポリフェノールやカテキン類などが含まれていてもよい。緑茶抽出物は、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、メチル化カテキンなどが含まれていることが好ましい。
【0026】
本発明におけるメチル化カテキンは主として、エピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(以下、EGCG3”Meという)、エピカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(以下、ECG3”Meという)、エピカテキン-3-O-(4-O-メチル)ガレート(以下、ECG4”Meという)、エピガロカテキン-3-O-(4-O-メチル)ガレート(以下、EGCG4”Meという)、ガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(以下、GCG3”Meという)、カテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート(以下、CG3”Meという)、カテキン-3-O-(4-O-メチル)ガレート(以下、CG4”Meという)、又は、ガロカテキン-3-O-(4-O-メチル)ガレート(以下、GCG4”Meという)及びこれらの異性化体を含むことが好ましい。
【0027】
緑茶抽出物の組成物における含有率は、組成物の剤型または投与形態によって異なるが、後述の柑橘類抽出物との含有率を考慮して適宜設定することができる。また、本発明においては、緑茶抽出物に含まれるカテキンとは別のカテキンを組成物に含有させることができる。例えば合成カテキンなどが挙げられる。合成カテキンは、公知方法により得ることができる(Chem. Asian J. 2010, 5, 2231-2248. DOI: 10.1002/asia.201000372)。
【0028】
また、緑茶抽出物としては、市販のものを使用してもよい。市販の緑茶抽出物としては、三井農林株式会社製のポリフェノン(登録商標)を使用することができる。
【0029】
(2)柑橘類抽出物
柑橘類抽出物は、柑橘類からの抽出処理物であり、少なくともエリオシトリン又はフラバノン配糖体を含有している。柑橘類としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0030】
ミカン属(カンキツ属)としては、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、ダイダイ、カボス、スダチ、ユコウ、ゆうこう、シークヮーサー、レモン、ライム、ナツミカン、ハッサク、イヨカン、ブンタン、マンダリンオレンジ、ウンシュウミカン、ポンカン、タチバナ、紀州ミカン、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジ、ジャッファ・オレンジ、ベルガモット及びキノット等を挙げることができる。
【0031】
また、上記ミカン属柑橘類のほかに、カラタチ類、キンカン類などを用いることができる。
【0032】
柑橘類を抽出するために使用される抽出溶剤としては、前記と同様、水若しくは有機溶剤、またはこれらの混合液が用いられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等の炭素数1~4の低級アルコール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン類などの極性有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、またはジエチルエーテル等の非極性有機溶剤が挙げられる。好ましくは、水又はエタノールである。更にこれら極性有機溶剤と非極性有機溶剤を適宜組み合わせた混合物を使用することもできる。
【0033】
柑橘類抽出物を得るための抽出方法は、浸漬による抽出、加熱抽出、連続抽出、超臨界抽出等の公知の方法を挙げることができる。抽出物は、その後、公知の方法で濃縮してもよい。得られた柑橘類抽出物または濃縮物等は、公知の方法で更に精製してもよい。精製方法としては、限外ろ過、吸着樹脂処理、分子クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、液-液抽出等が挙げられる。
【0034】
柑橘類抽出物中には、少なくともエリオシトリン又はフラバノン配糖体を含有している。フラバノン配糖体としては、特に限定されないが、ヘスペリジン、ナリンギン、ポンシリン及びサクラニン等を挙げることができる。また柑橘類抽出物中には、エリオシトリン及びフラバノン配糖体以外にブチン、エリオジクチオール、ヘスペレチン、ホモエリオジクチオール、イソサクラネチン、ナリンゲニン、ピノセムブリン、サクラネチン及びステルビン等のフラバノンが含まれていても良い。
【0035】
また、柑橘類抽出物に含まれるフラバノンやフラバノン配糖体とは別のフラバノンやその配糖体を組成物に含有させることができる。例えば合成フラバノン、フラバノンに糖を結合させた糖転移化合物、例えば糖転移ヘスペリジンなどが挙げられる。例えば、合成エリオジクチオール、合成ナリンゲニン及び合成ヘスペレチンなどが挙げられ、これらを1種又は複数種混合することができる。合成エリオジクチオール、合成ナリンゲニン及び合成ヘスペレチンなどは、公知手法により得ることができる(European J Org Chem., 2012(3): 449-462. doi:10.1002/ejoc.201101228)。糖転移ヘスペリジンとしては、例えば株式会社林原やグリコ栄養食品株式会社が販売する糖転移ヘスペリジンを使用することができる。
【0036】
(3)組成物
本発明に係る組成物は、緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを任意の組成比で含むが、特に、緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(A)と柑橘類抽出物に含まれるフラバノン配糖体(B)との比(B/A)が0.2<B/A<1.6であるか、又はエピガロカテキンガレート(A)とエリオシトリン(C)との比(C/A)が0.2<C/A<0.5であることが好ましい。さらに、比(B/A)は0.4≦B/A≦0.8とすることが好ましく、0.5≦B/A≦0.7とすることが更に好ましい。また、比(C/A)は0.25≦C/A≦0.34とすることが好ましく、C/A=0.3が更に好ましい。
【0037】
また、組成物は、上記の各成分以外に、食品用として許容可能な担体や公知または周知の他の添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤としては、一般に医薬又は食品に使用される、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等を挙げることができ、所望により、これらを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0038】
組成物は、液状、固形状、粉末、ゲル状のいずれの形態であってもよく、組成物の剤型は、経口用剤型、例えば錠剤、散剤、カプセル剤(ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤)、顆粒剤、丸剤、液剤、シロップ、等の形態としてもよい。これらの製剤は常法に従って調製することができる。組成物が溶液状の場合は、好ましく用いられる担体としては水等の水性媒体を挙げることができる。
【0039】
また、組成物が固形状の場合は、添加成分としては、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の賦形剤、コーンスターチ、アルギン酸等の膨化剤を用いることができる。
【0040】
また、粉末、固形剤又は液剤に成型するのに必要な化合物として、エリスリトール、マルチトール、ヒドロキシプロピルセルロース、カオリン、タルクなどが挙げられる。
【0041】
組成物は、上述した抗ストレス作用に加えて、抗がん作用、抗筋萎縮作用、抗肥満作用、抗炎症作用、コレステロール低下作用、血栓又は脳梗塞予防作用及び免疫増強作用からなる群から選ばれる少なくとも1つの作用を有する。
【0042】
本発明に係る食品組成物を摂取させる対象は、特に限定されるものではないが、ヒトのほか、ヒトを除く哺乳動物、例えば実験動物(マウス、ラット、モルモット、ウサギ等)、家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ等のペット類)などが挙げられる。本発明の組成物によれば、がん、筋萎縮(例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)等)、炎症性疾患、血栓又は脳梗塞高脂血症、感染症の予防又は治療、あるいは生活習慣病や肥満の改善を期待することができる。
【0043】
また、本発明に係る食品組成物の摂取量は、体重1kgあたり、エピガロカテキンガレート量として一日0.1~30mgがより好ましく、0.1~20mgが更に好ましく、0.1~10mgが更にまた好ましく、0.1~5mgが最も好ましい。
【0044】
(4)食品
本発明に係る食品組成物は、緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含んでいる。本食品組成物を用いた食品(特に機能性食品)の形態としては、例えばサプリメント(散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠)が挙げられるが、その他にも、飲料(お茶、炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料等)、菓子(ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター等)、調味料(ケチャップ、ソース等)、流動食、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ等)、パン類、麺類(うどん、そば、ラーメン、パスタ、冷麦、ビーフン等)等が挙げられる。但し、これらの形態に限定されるものではない。
【0045】
食品を摂取させる対象は、特に限定されるものではないが、ヒトのほか、ヒトを除く哺乳動物、例えば実験動物(マウス、ラット、モルモット、ウサギ等)、家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ等のペット類)などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の食品の摂取量は、体重1kgあたり、エピガロカテキンガレート量として一日0.1~30mgがより好ましく、0.1~20mgが更に好ましく、0.1~10mgが更にまた好ましく、0.1~5mgが最も好ましい。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕
本実施例では、緑茶抽出物と柑橘類抽出物とを含む食品組成物(機能性フードペアリング)がストレス誘導性の胸腺萎縮に与える影響を調べた。
【0049】
雄性C57BL/6Jマウス(6週齢、体重25g(九動)を1グループ8匹として、5グループを準備した。5グループは、それぞれ、ストレスを負荷しない健常群、ストレスを付加する5日前から精製水を与えた群(精製水群)、同5日前から緑茶抽出物を与えた群(緑茶抽出物群)、同5日前から柑橘類抽出物として糖転移ヘスペリジンを投与した群(糖転移ヘスペリジン群)、同5日前から緑茶抽出物と糖転移ヘスペリジンとを投与した群(機能性フードペアリング群)とした。緑茶抽出物の投与量は、EGCG換算で30mg/kgとした。また、糖転移ヘスペリジン(αヘスペリジンPA-T、グリコ栄養食品)の投与量は、37.5mg/kgとした。
【0050】
マウスに対して尾懸垂によるストレスを10日間負荷した。当該期間終了後、各マウスより脾臓及び胸腺を採取し、重量を測定した。結果を図1に示す(精製水群の重量を1とした場合の相対値を示す)。図1において、Tukey-Kramer’sテストによって有意差のあった群には異なるアルファベットを付した。図1に示したように、尾懸垂によりストレスを負荷すると胸腺の湿重量が低下したが(精製水群)、緑茶抽出物を単独で投与しても、糖転移ヘスペリジンを単独で投与しても胸腺重量低下は改善できないことが判る。これに対して、緑茶抽出物と糖転移ヘスペリジンを投与した機能性フードペアリング群では、ストレス負荷による胸腺重量の低下を改善することが判った。この結果より、緑茶抽出物と糖転移ヘスペリジンを含む組成物は、優れた抗ストレス作用を示すことが明らかとなった。
図1