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<図1>
  • -液体吐出ヘッド用基板の製造方法 図1
  • -液体吐出ヘッド用基板の製造方法 図2
  • -液体吐出ヘッド用基板の製造方法 図3
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  • -液体吐出ヘッド用基板の製造方法 図5
  • -液体吐出ヘッド用基板の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20250318BHJP
【FI】
B41J2/16 517
B41J2/16 101
B41J2/16 507
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021047215
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146318
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和昭
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-017054(JP,A)
【文献】特開2013-173262(JP,A)
【文献】特開2012-218215(JP,A)
【文献】特開平06-312510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体を覆う位置に設けられた部分を備え、前記部分の表面が外部に露出する耐キャビテーション膜と、を有する基板を用意する工程と、
前記耐キャビテーション膜の前記部分の前記表面を覆う保護膜を、チタン、タングステン、およびチタンタングステンのうちの少なくともいずれかを含む金属材料で形成する工程と、
前記保護膜を形成する工程の後に前記基板に対してエッチングを行う工程と、
前記エッチングを行う工程の後に前記保護膜を除去する工程と、
を有し、
前記基板を用意する工程では、電極パッドの一部となる第1金属膜と、前記第1金属膜の表面に形成された酸化被膜と、をさらに有する前記基板を用意し、
前記エッチングを行う工程では前記酸化被膜を除去し、
前記エッチングを行う工程の後に、前記保護膜と同じ材料を含み、前記保護膜の表面と前記第1金属膜の表面とを覆う中間金属膜を形成する工程と、
前記電極パッドの一部となる、前記第1金属膜の前記表面を覆う前記中間金属膜の部分を残し、前記保護膜を覆う前記中間金属膜を除去する工程と、
をさらに有し、
前記中間金属膜を除去する工程と、前記保護膜を除去する工程と、を同じ工程で行うことを特徴とする液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板を用意する工程では、前記耐キャビテーション膜の前記部分の前記表面の側に設けられ、外部に露出する表面を備える絶縁保護層をさらに有する前記基板を用意し、
前記エッチングを行う工程では、前記絶縁保護層の前記表面の上の変質物を除去する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記エッチングを行う工程ではスパッタエッチングを行う、請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記保護膜の膜厚は60nm以下である、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜の膜厚は20nm以上である、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項6】
前記耐キャビテーション膜は、タンタル、ニオブ、イリジウムおよびルテニウムのうちの少なくともいずれかを含む、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項7】
前記基板を用意する工程では、複数の前記発熱抵抗体を有する基板を用意し、
前記保護膜を形成する工程では、前記複数の発熱抵抗体をそれぞれ覆う保護膜を形成する、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに用いられる液体吐出用ヘッド基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板を微細加工した構造体はMEMS分野や電気機械の機能デバイスに幅広く用いられている。その一例として、吐出液滴を被記録媒体に着弾させて記録を行う液体吐出記録方式の液体吐出ヘッドがある。サーマル型の液体吐出ヘッドは、発熱抵抗体に通電することで発生する熱エネルギを用いてインクなどの液体を膜沸騰させ、これにより生じる圧力を用いて吐出口から液体を吐出して記録動作を行う。
【0003】
このように用いられる液体吐出ヘッドは、発熱抵抗体を備えた半導体基板である液体吐出ヘッド用基板と、吐出口や流路を形成するための流路部材と、を有する。発熱抵抗体は、液体吐出ヘッド用基板に設けられた電極パッドを介し、液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置本体から電気信号や電圧を供給されて駆動される。
【0004】
発熱抵抗体は電気的絶縁性を有する絶縁保護層により被覆される。また、発熱抵抗体上方のインク接触部分である熱作用部は、発熱抵抗体の発熱により高温にさらされると共に、インクの発泡、収縮に伴うキャビテーションによる衝撃などの物理的作用や、インクによる化学的作用を複合的に受ける。よって、これらの影響から発熱抵抗体を保護するために、絶縁保護層の発熱抵抗体を覆う部分の上に耐キャビテーション膜が設けられ、この耐キャビテーション膜の発熱抵抗体上方の部分が熱作用部として機能する。このように、液体吐出ヘッド用基板では、耐キャビテーション膜を設けることで、ヘッドの長寿命化および信頼性の向上を図っている。一般的に、耐キャビテーション膜にはタンタル、ニオブ等の金属材料が用いられる。また、特許文献1においては、熱作用部表面に堆積したコゲを均一に除去し、ヘッドの長寿命化を図る構成が開示されており、耐キャビテーション膜にはイリジウム、ルテニウム等の金属材料が用いられている。
【0005】
液体吐出ヘッド用基板に設けられた電極パッドは、配線の上側に設けられる電極層や電極層の金属が基板に拡散することを防止する拡散防止層といった複数の種類の金属膜が積層された構造になっている。電極パッドを形成する際には、まず、配線の表面に形成された酸化被膜や有機汚染物等を除去することで導電性を確保する。次いで、金属膜を成膜した後に所望の形状にパターニングを行い、電極パッドが形成される。一般に、金属膜の成膜は、スパッタ装置を用いて真空中でスパッタエッチング(逆スパッタ)を行い、酸化被膜や有機汚染物等を除去した後、連続して金属膜を成膜する。
【0006】
また、液体吐出ヘッド用基板の上に流路部材を形成する場合において、基板と流路部材との密着性を確保するために、基板表面の酸化被膜や有機汚染物等の変質物を除去する必要がある。これらの酸化被膜や有機汚染物の除去はドライエッチング法やウェットエッチング法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-101557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようなエッチングを行うと、エッチングは基板全体に施されるため、熱作用部となる耐キャビテーション膜もエッチングされ、その厚みが小さくなってしまう。耐キャビテーション膜の膜減りが生じると、ヘッド寿命の低下に影響を与える恐れがある。
【0009】
特に、耐キャビテーション膜にイリジウムを用いる場合、スパッタエッチングによるイリジウムの膜減り量は、タンタルやニオブと比較して5倍以上である。したがって、ウエハ面内やチップ内で、耐キャビテーション膜の膜厚ばらつきが大きくなることが懸念されるため、耐キャビテーション膜の膜厚管理にはとりわけ留意することが求められる。
【0010】
また、耐キャビテーション膜の膜厚の減少分を考慮して耐キャビテーション膜を厚く成膜する場合には、耐キャビテーション膜の原材料の消費が多くなり、製造コストの増大につながる。
【0011】
そこで、本発明は、液体吐出ヘッド用基板における耐キャビテーション膜の膜減りを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体を覆う位置に設けられた部分を備え、前記部分の表面が外部に露出する耐キャビテーション膜と、を有する基板を用意する工程と、前記耐キャビテーション膜の前記部分の前記表面を覆う保護膜を、チタン、タングステン、およびチタンタングステンのうちの少なくともいずれかを含む金属材料で形成する工程と、前記保護膜を形成する工程の後に前記基板に対してエッチングを行う工程と、前記エッチングを行う工程の後に前記保護膜を除去する工程と、を有し、前記基板を用意する工程では、電極パッドの一部となる第1金属膜と、前記第1金属膜の表面に形成された酸化被膜と、をさらに有する前記基板を用意し、前記エッチングを行う工程では前記酸化被膜を除去し、前記エッチングを行う工程の後に、前記保護膜と同じ材料を含み、前記保護膜の表面と前記第1金属膜の表面とを覆う中間金属膜を形成する工程と、前記電極パッドの一部となる、前記第1金属膜の前記表面を覆う前記中間金属膜の部分を残し、前記保護膜を覆う前記中間金属膜を除去する工程と、をさらに有し、前記中間金属膜を除去する工程と、前記保護膜を除去する工程と、を同じ工程で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液体吐出ヘッド用基板における耐キャビテーション膜の膜減りを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明を適用可能な液体吐出ヘッド用基板および液体吐出ヘッドを説明するための平面概略図である。
図2】第1の実施形態の液体吐出ヘッド用基板の製造方法を説明するための概略模式図である。
図3】液体吐出ヘッド用基板において保護膜を形成する領域と酸化被膜や変質物を除去する領域とを示す平面概略図である。
図4】熱作用部の拡大図であり、保護膜が形成された状態を示す平面概略図である。
図5】逆スパッタ処理前後における熱作用部の状態を示す概略模式図である。
図6】第2の実施形態の液体吐出ヘッド用基板の製造方法を説明するための概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の製造方法について説明する。なお、以下に述べる実施形態では本発明を十分に説明するため具体的記述を行う場合もあるが、これらは技術的に好ましい一例を示しており、特に本発明の範囲を限定しているものではない。
【0016】
(第1の実施形態)
図1(a)は本発明を適用可能な実施形態としての液体吐出ヘッド用基板1を説明するための平面概略図である。図1(b)は本実施形態を適用可能な液体吐出ヘッド100を説明するための平面概略図である。液体吐出ヘッド用基板1には、複数の電極パッド2と、複数の熱作用部3とが形成されている。また、液体吐出ヘッド100は、液体吐出ヘッド用基板1と、液体吐出ヘッド用基板1の熱作用部3側の面に設けられ、吐出口16や流路を形成するための流路部材15と、を有する。
【0017】
図2(a)~(e)は本実施形態の液体吐出ヘッド用基板の製造方法を説明するための概略図である。図2(a)~(e)は、図1のA-A′断面において、特に電極パッド2と熱作用部3を形成する工程を説明するための概略図である。なお、本明細書では、液体吐出方向を上、その反対方向を下として説明しているが、これは便宜上の規定である。
【0018】
まず、図2(a)に示すように、電極パッド2の一部を構成する第1金属膜としての配線4と熱作用部3とが設けられた基板を用意する。図2(a)において、電極パッド2を構成する部分の断面構成について説明する。不図示の基体の上に設けられた層間膜8上に設けられた配線4の上に、電気的絶縁性を有する絶縁保護層5が設けられている。さらに、絶縁保護層5には開口部14が設けられている。また、配線4としてはアルミニウムや銅などの比抵抗が低い金属が一般的に用いられる。絶縁保護層5としては、例えば、シリコン炭窒化膜やシリコン酸炭窒化膜などのシリコン化合物が用いられる。絶縁保護層5の開口部14から配線4の一部が露出しており、上記金属を用いて形成された配線4の露出部分の表面は酸化被膜6で覆われている。このような酸化被膜6は後の工程で除去される。
【0019】
次に、熱作用部3の断面構成について説明する。基体上に設けられた発熱抵抗体7の上には電気的絶縁性を有する層間膜8が設けられている。次に、層間膜8の上には耐キャビテーション膜9が設けられており、耐キャビテーション膜9は、インク等の液体の発泡、収縮に伴うキャビテーションによる衝撃などの物理的作用や、インクによる化学的作用の影響から発熱抵抗体7を保護している。耐キャビテーション膜9には、機械的な衝撃に強いタンタルやニオブ、イリジウム、ルテニウムなどが用いられる。また、耐キャビテーション膜9はこれらの金属材料を積層して構成してもよい。本実施形態では、上述した絶縁保護層5は、耐キャビテーション膜9の上にも設けられており、熱作用部3を形成するため、絶縁保護層5には耐キャビテーション膜9の表面を外部に露出する開口部13が設けられている。
【0020】
また、液体吐出ヘッド用基板1の表面では電極パッド2および熱作用部3以外の部分は大半が絶縁保護層5で覆われており、その表層の少なくとも一部には酸化被膜や有機汚染物などの変質物17も付着している。このような変質物17があると、後に液体吐出ヘッド用基板1の表面に設けられる流路部材15の剥がれの要因となるため、変質物17は後の工程で除去される。
【0021】
次いで、図2(b)に示すように、熱作用部3の耐キャビテーション膜9の上部を覆うように保護膜10を形成する。図3は、保護膜10が設けられた基板の平面概略図を示しており、保護膜10が設けられる領域と、保護膜10が設けられない領域、すなわち酸化被膜6や変質物17が除去される領域と、を示している。保護膜10は熱作用部3となる耐キャビテーション膜9の表面を覆う領域に少なくとも配置される。
【0022】
保護膜10は、後に説明するスパッタエッチング(逆スパッタ)によって、耐キャビテーション膜9の膜減りを防ぐための役割を有する。ここで、保護膜10の膜厚を厚くするとスパッタエッチングによって削れて飛散した膜が保護膜10の側壁に付着し、フェンスが形成される懸念がある。保護膜10の側壁に付着したフェンスは、保護膜10を除去した後も基板上に残り、後の工程で離脱し、パーティクルとなることが懸念される。このため、保護膜10の膜厚は60nm以下であることが好ましい。また、保護膜10の膜厚の下限値に関し、耐キャビテーション膜9の被覆性およびスパッタエッチングによる膜減り量を考慮し、保護膜10の膜厚は20nm以上であることが好ましい。
【0023】
また、保護膜10の材料は、金属材料を用いることが好ましく、特に、チタン、タングステン、およびチタンタングステンのうちの少なくともいずれかを含む金属材料から選択されることが以下の点で好ましい。すなわち、これらの金属材料はスパッタエッチングに対する耐性が高いため、スパッタエッチングによる耐キャビテーション膜9の膜減りを十分に抑制することが可能である。また、これらの金属材料は、タンタルやニオブ、イリジウム、ルテニウム等で形成された耐キャビテーション膜9やシリコン化合物で形成された絶縁保護層5との密着性も良好である。そのため、スパッタエッチング処理後に保護膜10の剥がれが生じる恐れを抑制することが可能である。保護膜10の他の材料としては有機材料や無機材料などを用いることも想定される。しかし、有機材料は上述の金属材料に比べてスパッタエッチング耐性が低く、上述の金属材料に比べて耐キャビテーション膜9の膜減りを十分に抑制できない可能性がある。また、無機材料は、上述の金属材料に比べて耐キャビテーション膜9との密着性が低く、スパッタエッチング処理を行った後に無機材料の保護膜10からの剥がれが生じる恐れがある。したがって、保護膜10の材料としては、上述の金属材料を用いることが望ましい。
【0024】
次いで、図2(c)に示すように、配線4の表面の酸化被膜6を除去するために、基板を成膜装置にセットし、アルゴンなどの不活性ガスプラズマを用いてスパッタエッチング(逆スパッタ)等のエッチングを行う。酸化被膜6が除去されることで、電極パッド2における導電性を確保できる。
【0025】
また、この逆スパッタ処理によって、絶縁保護層5の表面の変質物17(変質層や有機汚染物)も除去される。これにより、基板の表面に清浄な面が露出し、後に設ける流路部材との密着性に対して好適な状態となる。
【0026】
ここで、エッチングを行う際に、耐キャビテーション膜9の上部には保護膜10が形成されているため、逆スパッタ処理によって耐キャビテーション膜9の膜減りを防ぐことができる。これにより、液体吐出ヘッドの長寿命化を図ることができる。
【0027】
次いで、図2(d)に示すように、成膜装置で逆スパッタ処理に連続して、中間金属膜としての拡散防止層11と第2金属膜としての電極層12とを基板の全面に成膜する。拡散防止層11は、配線4や電極層12との接着性に優れ、自身が温度に対しても安定で拡散を生じず、また、比抵抗があまり高くない金属材料やその化合物を用いる。本実施形態では、このような金属材料として、チタンタングステンやタングステンなどを用いる。また、電極層12には、比抵抗が低く、耐食性に優れる金属材料を用い、本実施形態では金を用いる。
【0028】
次いで、図2(e)に示すように、フォトリソグラフィー法を用いて電極層12と拡散防止層11のパターニングを行い、電極パッド2を形成する。本実施形態では、電極パッド2は、配線4、拡散防止層11、及び電極層12が積層されて構成されている。
【0029】
不要な電極層12および拡散防止層11はウェットエッチング法でエッチングを行う。ここで、拡散防止層11と保護膜10とを同じ材料で形成すると、拡散防止層11と保護膜10は同じエッチング工程で除去することができるため、工程負荷低減の観点で好ましい。金で形成される電極層12のエッチングは、ヨウ素、ヨウ化カリウムを含むエッチング液を用いることができる。また、チタンタングステンなどで形成される拡散防止層11および保護膜10のエッチングは、30%濃度の過酸化水素水を用いることができる。保護膜10のエッチングに過酸化水素水によるウェットエッチングを用いると、耐キャビテーション膜9に対して十分な選択性が得られるため、保護膜10のエッチングの際に耐キャビテーション膜9が膜減りすることを防ぐことができる。
【0030】
図4は、熱作用部3において保護膜10が形成された状態を示す平面概略図であり、図5は、逆スパッタ処理前後における熱作用部3の状態を詳細に説明した図である。図5(a)は、図4のA-A′断面図であり、逆スパッタ処理時の基板の状態を示す図である。図5(b)は、逆スパッタ処理が施された後に保護膜10が除去された状態を示す図である。
【0031】
液体吐出ヘッド用基板1には複数の発熱抵抗体7が設けられており、図4に示すように、本実施形態では複数の発熱抵抗体7のそれぞれ覆うように耐キャビテーション膜9が設けられている。さらに、複数の耐キャビテーション膜9を覆う絶縁保護層5には、耐キャビテーション膜9の外縁の内側に開口部13の外縁が位置するように、複数の耐キャビテーション膜9に対応して開口部13がそれぞれ設けられている。このようにして液体吐出ヘッド用基板1には複数の熱作用部3が設けられている。保護膜10は複数の熱作用部3をそれぞれ覆うように、複数の保護膜10がそれぞれ独立したパターンとして設けられることが好ましい。このように必要な箇所に限定して保護膜10を設けることで、逆スパッタ処理による絶縁保護層5の変質層や有機汚染物の除去を確実に行うことが可能となるためである。
【0032】
図5(b)に示すように、保護膜10が配置されていなかった領域の絶縁保護層5は逆スパッタ処理により十数nmの膜減りが生じ、保護膜10が配置されていた領域における耐キャビテーション膜9および絶縁保護層5は膜減りが生じない。そのため、保護膜10が配置されていた絶縁保護層5の表面5aと保護膜10が配置されていなかった絶縁保護層5の表面5bとの間で十数nmの段差が生じる。図5(b)では、膜減りした絶縁保護層5を破線で示している。また、保護膜10を薄膜で形成し、且つ、逆スパッタによって生じた絶縁保護層5の膜減りに伴う段差が微小であると、保護膜10を除去した後の保護膜10が形成されていた部分にフェンスの発生することを防ぐことができる。
【0033】
(第2の実施形態)
図6(a)~(e)は本実施形態の液体吐出ヘッド用基板の製造方法を説明するための概略図である。図6(a)~(e)は、図1のA-A′断面において、特に電極パッド2と熱作用部3を形成する工程を説明するための概略図である。なお、上述と同様の構成や工程等については説明を省略することもある。
【0034】
まず、図6(a)に示すように、電極パッド2の一部を構成する第1金属膜としての配線4と熱作用部3とが設けられた基板を用意する。図6(a)において、電極パッド2を構成する部分の断面構成について説明する。電極パッド2は、不図示の基体の上に設けられた層間膜8上に設けられた配線4の上に、電気的絶縁性を有する絶縁保護層5が設けられている。さらに、絶縁保護層5には開口部14が設けられている。配線4はイリジウム等の貴金属を用いて設けている。ここで、配線4は貴金属であるため、絶縁保護層5の開口部14から露出する配線4の表面に上述の実施形態のような酸化被膜は形成されていない。
【0035】
熱作用部3の構成は上述の実施形態と同様である。なお、耐キャビテーション膜9と配線4とを同じ工程内で同層に同じ材料を用いて形成することで、製造負荷を抑えることができる。
【0036】
次に、図6(b)に示すように、熱作用部3の耐キャビテーション膜9の上部を覆うように保護膜10を形成する。また、絶縁保護層5の開口部14から露出する配線4の表面を覆うように保護膜10を形成する。ここで、耐キャビテーション膜9を覆う保護膜10を第1保護膜、配線4を覆う保護膜10を第2保護膜とも称する。上述の実施形態と同様に、複数の熱作用部3をそれぞれ覆うように、独立したパターンとして複数の保護膜10(第1保護膜)を設ける。図1に示すように液体吐出ヘッド用基板1には複数の電極パッド2が設けられており、これに対応して絶縁保護層5には複数の開口部14が設けられている。そして、保護膜10を設ける際は、複数の開口部14から露出する配線4の表面をそれぞれ覆うように、独立したパターンとして複数の保護膜10(第2保護膜)を設ける。
【0037】
ここで、電極パッド2となる部分に設けた保護膜10を後の工程で除去せずに残すことで、配線4および絶縁保護層5と、後に設ける電極層12との間に介在する密着向上膜として用いることができる。これにより、電極パッド2に上述の実施形態のような拡散防止層11を設ける工程を省略できる。上述のようなチタン、タングステン、チタンタングステンなどの金属材料は、スパッタエッチングに対する耐性に加え、配線4、絶縁保護層5、電極層12との密着性も良好であるため、保護膜10の材料として好ましい。
【0038】
次いで、図6(c)に示すように、絶縁保護層5の変質物17を除去するために、成膜装置にセットし、スパッタエッチング(逆スパッタ)処理を行う。これにより、基板表面は清浄な面が露出し、流路部材との密着性に対して好適な状態となる。耐キャビテーション膜9や配線4が保護膜10で覆われているため、逆スパッタ処理による膜減りを防ぐことができる。これにより、液体吐出ヘッドの長寿命化を図ることができる。
【0039】
次いで、図6(d)に示すように、成膜装置で逆スパッタ処理に連続して、第2金属膜としての電極層12を基板の全面に成膜する。前述したように、保護膜10は、配線4や電極層12との接着性に優れるため、配線4および絶縁保護層5の一部と電極層12との密着向上膜として機能する。また、電気的な導通も問題ない。また、電極層12には、比抵抗が低く、耐食性に優れる金を用いる。
【0040】
次いで、図6(e)に示すように、フォトリソグラフィー法を用いて、電極層12のパターニングを行い、電極パッド2を形成する。本実施形態では、電極パッド2は、配線4、第2保護膜、電極層12が積層されて構成されている。次いで、熱作用部3の保護膜10のエッチングを行う。この時、電極パッド2に配置した保護膜10の一部も同時にエッチングし、電極層12の下部のみに保護膜10を残す。
【0041】
(実施例1)
以下、実施例を用い、上述の実施形態をより具体的に説明する。
【0042】
実施例1では図1で示した液体吐出ヘッド用基板1を図2で示した製造方法を用いて形成した。実施例1では、図2(a)において、配線4はアルミニウムを用い、絶縁保護層5はシリコン炭窒化膜を用い、耐キャビテーション膜9はイリジウムを用いた。絶縁保護層5の表層には変質層が形成され、また、微量に有機汚染物の付着もあった。
【0043】
次いで、図2(b)に示すように、熱作用部3の耐キャビテーション膜9の上部のみを覆うように保護膜10を形成した。ここで、フェンス発生の抑制および耐キャビテーション膜9の被覆性の観点から保護膜10の膜厚を50nmとし、また、保護膜10の材料としてチタンタングステンを用いた。チタンタングステンは、スパッタエッチングに対する耐性が高く、また、耐キャビテーション膜9や絶縁保護層5との密着性も良好であった。
【0044】
次いで、図2(c)に示すように、上記基板を成膜装置にセットし、スパッタエッチング(逆スパッタ)処理を行い、配線4の表面に形成された酸化被膜6を除去した。スパッタエッチングの条件としては、アルゴンガス流量:30sccm、Power:400W、処理時間:20秒とした。これにより、絶縁保護層5の表面の変質層や有機汚染物も除去された。ここで、耐キャビテーション膜9の上部には保護膜10が形成されていたため、逆スパッタによって耐キャビテーション膜9は膜減りすることはなかった。一方で、保護膜10が配置されていなかった領域の絶縁保護層5は十数nmの膜減りが確認された。
【0045】
次いで、図2(d)に示すように、成膜装置で、逆スパッタ処理に連続して、拡散防止層11と電極層12とを基板の全面に成膜した。拡散防止層11は、配線4や電極層12との接着性に優れ、自身が温度に対しても安定で拡散を生じず、また、比抵抗があまり高くない金属材料としてチタンタングステンを用い、200nmの膜厚で成膜した。また、電極層12には、比抵抗が低く、耐食性に優れる金を用い、400nmの膜厚で成膜した。
【0046】
次いで、図2(e)に示すように、フォトリソグラフィー法を用いて、電極層12と拡散防止層11のパターニングを行い、電極パッド2を形成した。その後不要な電極層12および拡散防止層11は、ウェットエッチング法でエッチングした。また、拡散防止層11と保護膜10を同一材料で形成したため、拡散防止層11と保護膜10とを同じエッチング工程で除去できた。金で形成されている電極層12は、ヨウ素、ヨウ化カリウムを含むエッチング液を用い、所望の時間でエッチングした。また、チタンタングステンで形成されている拡散防止層11および保護膜10は、30%濃度の過酸化水素水を用い、所望の時間でエッチングした。保護膜10のエッチングには、過酸化水素水によるウェットエッチングを用いたことで、耐キャビテーション膜9に対して十分な選択性が得られているため、耐キャビテーション膜9が膜減りすることはなかった。また、保護膜10を50nmの薄膜で形成し、且つ、逆スパッタによって生じた絶縁保護層5の膜減りに伴う段差が十数nmと微小であった。そのため、保護膜10をエッチングした後に、保護膜10が形成されていた部分の観察を行ったがフェンスの発生は無かった。
【0047】
(実施例2)
実施例2では図1で示した液体吐出ヘッド用基板1を図6で示した製造方法を用いて形成した。実施例2では、図6(a)において、配線4はイリジウムを用い、絶縁保護層5はシリコン炭窒化膜を用い、耐キャビテーション膜9はイリジウムを用いた。配線4は貴金属であったため、絶縁保護層5の開口部14から露出する配線4の一部に酸化被膜は形成されていなかった。絶縁保護層5の表層には変質層が形成され、また、微量に有機汚染物の付着もあった。
【0048】
次いで、図6(b)に示すように、熱作用部3の耐キャビテーション膜9の上部および配線4の開口部14から露出する部分を覆うように保護膜10を形成した。ここで、フェンス抑制および耐キャビテーション膜の被覆性の観点から保護膜10の膜厚を50nmとし、また、保護膜10の材料としてチタンタングステンを用いた。
【0049】
次いで、図6(c)に示すように、絶縁保護層5の表面変質層を除去するために、成膜装置にセットし、スパッタエッチング(逆スパッタ)処理を行った。スパッタエッチングの条件としては、アルゴンガス流量:30sccm、Power:400W、処理時間:20秒とした。これにより、基板表面は清浄な面が露出し、流路部材との密着性に対して好適な状態となった。ここで、耐キャビテーション膜9の上部には保護膜10が形成されているため、逆スパッタによって耐キャビテーション膜9は膜減りすることはなかった。一方で、保護膜10が配置されていなかった領域の絶縁保護層5は十数nmの膜減りが確認された。
【0050】
次いで、図6(d)に示すように、成膜装置で、逆スパッタ処理に連続して、電極層12を基板の全面に成膜した。電極層12は金を用いて400nmの膜厚で成膜した。
【0051】
次いで、図6(e)に示すように、フォトリソグラフィー法を用いて、電極層12のパターニングを行い、電極パッド2を形成した。金で形成した電極層12は、ヨウ素、ヨウ化カリウムを含むエッチング液を用い、所望の時間エッチングした。
【0052】
次いで、熱作用部3の保護膜10のエッチングを行った。チタンタングステンで形成した保護膜10は、30%濃度の過酸化水素水を用い、所望の時間エッチングした。この時、電極パッド2に配置した保護膜10の一部も同時にエッチングし、電極層12の下部のみに保護膜10を残した。保護膜10のエッチングに過酸化水素水によるウェットエッチングを用いたことで、耐キャビテーション膜9に対して十分な選択性が得られため、耐キャビテーション膜9が膜減りすることはなかった。また、保護膜10を50nmの薄膜で形成し、且つ、逆スパッタによって生じた絶縁保護層5の膜減りに伴う段差が十数nmと微小であった。そのため、保護膜10をエッチングした後に、保護膜10が形成されていた部分の観察を行ったが、フェンスの発生は無かった。
【符号の説明】
【0053】
1 液体吐出ヘッド用基板
7 発熱抵抗体
9 耐キャビテーション膜
10 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6