(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】組電池用熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/652 20140101AFI20250318BHJP
H01M 10/6555 20140101ALI20250318BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20250318BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20250318BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20250318BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20250318BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20250318BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20250318BHJP
H01M 50/249 20210101ALN20250318BHJP
【FI】
H01M10/652
H01M10/6555
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/653
H01M10/658
H01M50/204 401H
H01M50/293
H01M50/249
(21)【出願番号】P 2021055769
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】女屋 尚紀
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165483(JP,A)
【文献】国際公開第2020/174804(WO,A1)
【文献】特開2018-137065(JP,A)
【文献】特開2020-187869(JP,A)
【文献】特開2015-064959(JP,A)
【文献】特開2022-131205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/60-10/667
H01M50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池に使用され、前記電池セル間に設けられる組電池用熱伝達抑制シートであって、
一対の断熱材と、
前記一対の断熱材の間に配設された少なくとも1層の高熱伝導層と、を有し、
前記高熱伝導層の熱伝導率は、前記断熱材の熱伝導率よりも高く、且つ、
前記高熱伝導層の厚さは、前記熱伝達抑制シートの一端面側に向かって厚くなっており、
前記高熱伝導層は、前記一端面側において露出している、組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記高熱伝導層は、金属、セラミック及びカーボンから選択された少なくとも1種の材料からなる、請求項1に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記高熱伝導層の厚さは、前記一端面側に向かって連続的に厚くなっている、請求項1又は2に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記高熱伝導層の厚さは、前記一端面側に向かって階段状に厚くなっている、請求項1又は2に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記高熱伝導層の厚さが厚くなる割合が増加するように、前記高熱伝導層の厚さが前記熱伝達抑制シートの前記一端面側に向かって厚くなっている、請求項1~4のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記高熱伝導層は、前記一端面から突出している、請求項1~5のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記高熱伝導層は、前記一端面に対向する前記熱伝達抑制シートの他端面側において露出していない、請求項1~6のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項8】
電池ケースと、
前記電池ケースの内部に収容され、直列又は並列に接続された複数の電池セルと、
前記複数の電池セル間に介在される請求項1~7のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シートと、
前記電池ケースと前記熱伝達抑制シートとの間に配設される冷却部と、を有し、
前記高熱伝導層は、前記一端面側において前記冷却部に接している、組電池。
【請求項9】
前記高熱伝導層は、前記一端面から突出する突出部を有し、
前記突出部が前記冷却部を押圧した状態で、前記熱伝達抑制シートが前記電池セル間に固定される、請求項8に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車又はハイブリッド車などを駆動する電動モータの電源となる組電池に好適に用いられる組電池用熱伝達抑制シート及び該組電池用熱伝達抑制シートを用いた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられているが、電池の内部短絡や過充電などが原因で1つの電池セルに熱暴走が生じた場合(すなわち「異常時」の場合)、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池のような複数の蓄電素子間において、効果的な断熱を実現することができる蓄電装置が開示されている。上記特許文献1に記載の蓄電装置は、互いに隣り合う第一蓄電素子と第二蓄電素子との間に、断熱性を有する第一板材及び第二板材が配置されたものである。また、第一板材と第二板材との間には、これら第一板材及び第二板材よりも熱伝導率が低い物質の層である低熱伝導層が形成されている。
【0005】
このように構成された特許文献1に係る蓄電装置において、第一蓄電素子から第二蓄電素子に向かう輻射熱、又は、第二蓄電素子から第一蓄電素子に向かう輻射熱は、第一板材及び第二板材によって遮断される。また、これら2枚の板材の一方から他方への熱の移動は、低熱伝導層によって抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、組電池化した電池セルに対し充放電サイクルを行う場合(すなわち「通常使用時」の場合)において、電池セルの充放電性能を十分に発揮させるためには、電池セル表面の温度を所定値以下(例えば、150℃以下)に維持する必要がある。
また、電池セルが、例えば200℃以上の温度となるような異常事態が発生した場合に、電池セルを効果的に冷却するとともに、隣接する電池セルへの熱の伝播を抑制し、熱暴走を阻止する必要がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1に示すような、蓄電装置の断熱性を有する板材の間に低熱伝導層が設けられた構造では、充放電サイクル時に発生した熱を効率的に外部に拡散することができない。また、1つの電池セルに熱暴走が生じた場合に、上記構造のみでは、熱暴走の連鎖を効果的に抑制することが困難である。
このように、通常使用時において、電池セルで発生した熱を効率的に外部に拡散することができるとともに、異常時には熱暴走の連鎖を抑制することができる熱制御の手段については、近時、更なる改良が要求されている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、通常使用時において電池セルで発生した熱を効率的に熱伝達抑制シートの外部に拡散し、異常時には電池セル間の熱の伝播が抑制されることで、熱暴走の連鎖を防止することができる組電池用熱伝達抑制シート及び組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、組電池用熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0011】
[1] 複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池に使用され、前記電池セル間に設けられる組電池用熱伝達抑制シートであって、
一対の断熱材と、
前記一対の断熱材の間に配設された少なくとも1層の高熱伝導層と、を有し、
前記高熱伝導層の熱伝導率は、前記断熱材の熱伝導率よりも高く、且つ、
前記高熱伝導層の厚さは、前記熱伝達抑制シートの一端面側に向かって厚くなっており、
前記高熱伝導層は、前記一端面側において露出している、組電池用熱伝達抑制シート。
【0012】
また、組電池用熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[7]に関する。
[2] 前記高熱伝導層は、金属、セラミック及びカーボンから選択された少なくとも1種の材料からなる、[1]に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0013】
[3] 前記高熱伝導層の厚さは、前記一端面側に向かって連続的に厚くなっている、[1]又は[2]に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0014】
[4] 前記高熱伝導層の厚さは、前記一端面側に向かって階段状に厚くなっている、[1]又は[2]に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0015】
[5] 前記高熱伝導層の厚さが厚くなる割合が増加するように、前記高熱伝導層の厚さが前記熱伝達抑制シートの前記一端面側に向かって厚くなっている、[1]~[4]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0016】
[6] 前記高熱伝導層は、前記一端面から突出している、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0017】
[7] 前記高熱伝導層は、前記一端面に対向する前記熱伝達抑制シートの他端面側において露出していない、[1]~[6]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0018】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[8]の構成により達成される。
【0019】
[8] 電池ケースと、
前記電池ケースの内部に収容され、直列又は並列に接続された複数の電池セルと、
前記複数の電池セル間に介在される[1]~[7]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シートと、
前記電池ケースと前記熱伝達抑制シートとの間に配設される冷却部と、を有し、
前記高熱伝導層は、前記一端面側において前記冷却部に接している、組電池。
【0020】
また、組電池に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[9]に関する。
【0021】
[9] 前記高熱伝導層は、前記一端面から突出する突出部を有し、
前記突出部が前記冷却部を押圧した状態で、前記熱伝達抑制シートが前記電池セル間に固定される、[8]に記載の組電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明の組電池用熱伝達抑制シートは、一対の断熱材の間に設けられた高熱伝導層の厚さが熱伝達抑制シートの一端面側に向かって厚くなっており、かつ、高熱伝導層が一端面側において露出している。
したがって、電池セルから発生し、断熱材を介して高熱伝導層に到達した熱は、高熱伝導層の面方向(高熱伝導層の厚さ方向に直交する面の方向)に促され、熱は上記一端面側へ選択的に移動し、熱伝達抑制シートの外部へと拡散される。また、高熱伝導層の厚さは、一端面側に向かって徐々に厚くなっており、上記一端面側に近づくほど高熱伝導層を移動できる熱量は多くなるため、高熱伝導層に多量の熱が伝わった場合、高熱伝導層の熱が断熱材へ漏れ出て、隣接する電池セルに伝わることを抑制できる。
その結果、通常使用時には電池セルで発生する熱を効率的に熱伝達抑制シートの外部に拡散し、異常時には電池セル間の熱の伝播が抑制されることで、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0023】
本発明の組電池は、上記熱伝達抑制シートを複数の電池セル間に介在させているため、通常使用時には電池セルで発生する熱を効率的に熱伝達抑制シートの外部に拡散し、異常時には電池セル間の熱の伝播が抑制されることで、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第4の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、通常使用時において、電池セルから発生した熱を効率的に熱伝達抑制シートの外部に拡散することができ、かつ、多量の熱が発生する異常時においても各電池セル間の熱の伝播を抑制することで、熱暴走の連鎖を抑止することができる組電池用熱伝達抑制シートを提供するため、鋭意検討を行った。
【0026】
その結果、本発明者らは、電池セル間に設けられる熱伝達抑制シートにおいて、断熱材の間に設けられた高熱伝導層の厚さが、熱伝達抑制シートの一端面側に向かって厚くなった構成とし、更に高熱伝導層が一端面側において露出している構成とすることで、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、熱が高熱伝導層に到達した際に、高熱伝導層は、熱を高熱伝導層の面方向(高熱伝導層の厚さ方向に直交する面の方向)に伝導し、上記一端面側へと選択的に移動させるため、熱伝達抑制シートの外部に効率的に拡散させることができる。
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0028】
[1.組電池用熱伝達抑制シート]
以下、本発明の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートについて、第1から第6の実施形態を順に説明する。その後、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを構成する断熱材、高熱伝導層等について説明する。さらに、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの製造方法について説明する。
【0029】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。以下、組電池用熱伝達抑制シートを、単に「熱伝達抑制シート」ということがある。
第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート10は、断熱材11a及び11bと、断熱材11aと11bとの間に設けられた高熱伝導層12aとを有する。断熱材11a及び11bに比べ高熱伝導層12aは高い熱伝導率を有しており、高熱伝導層12aは熱伝達抑制シート10の一端面10a側に向かって連続的に厚くなっている。
【0030】
図2は、第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。組電池100は、電池ケース30と、電池ケース30の内部に収容された複数の電池セル20a、20b、20cと、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間に介在された熱伝達抑制シート10と、これらの電池セル20a、20b、20c及び熱伝達抑制シート10と、電池ケース30との間に配設された冷却部40と、を有する。
【0031】
そして、熱伝達抑制シート10は、その一端面10a側が冷却部40に接するように配置されている。また、複数の電池セル20a、20b、20cは、不図示のバスバー等により、直列又は並列に接続されている。
【0032】
なお、冷却部40は、
図2に示すように、電池ケース30の底面全面に配設される必要はなく、少なくとも、熱伝達抑制シート10と電池ケース30との間に設置されていればよい。電池セル20a、20b、20cは、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0033】
このように構成された第1の実施形態において、例えば電池セル20aから生じる熱が、断熱材11aを通じて高熱伝導層12aに伝わると、高熱伝導層12aは熱伝導率が高いため、高熱伝導層12aの熱は、高熱伝導層12aの中を、その面方向に沿って速やかに移動する。
ここで、高熱伝導層12aの厚さが一定の場合には、多量の熱が高熱伝導層12aに伝わると、高熱伝導層12aにおける熱の一部は、その面方向に移動する間に、断熱材11aや断熱材11bへと漏れ出てしまい、隣接する電池セル20bに伝わってしまう。
【0034】
一方、本実施形態において、高熱伝導層12aの厚さは熱伝達抑制シート10の一端面10a側に向かって徐々に厚くなっており、一端面10a側に近づくほど、高熱伝導層12aを移動できる熱量は多くなるため、一端面10a側に向かって、選択的に面方向の熱の移動が促される。
したがって、高熱伝導層12aの厚さが厚くなっている熱伝達抑制シート10の一端面10a側に冷却部40が設けられると、高熱伝導層12aの熱は、高熱伝導層12aに接するように配置されている冷却部40によって効率よく奪われ、熱伝達抑制シート10の外部へと拡散される。その結果、高熱伝導層12aに到達した熱が、断熱材11bを通じて、隣接する電池セルに伝わることを抑制できる。
なお、高熱伝導層12aの「面方向」とは、高熱伝導層12aの厚さ方向に直交する面の方向をいう(
図1中、左右方向)。
【0035】
このように、本実施形態においては、断熱材11aと断熱材11bとの間に、特定の形状を有する高熱伝導層12aを配設しているため、高熱伝導層12aに到達した熱を選択的に一方向に伝播することができる。その結果、ある電池セルから熱が発生した場合に、通常使用時には効率よく熱を熱伝達抑制シートの外部に拡散するとともに、異常時には隣接する電池セルへの熱の伝播が抑制され、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【0036】
<第2の実施形態>
図3は、本発明の第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。以下、
図3~
図8に示す第2~第6の実施形態において、上記第1の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略又は簡略化する。また、第2の実施形態は、
図2に示す組電池100に記載の熱伝達抑制シート10に代えて使用することができるため、第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートを組電池100に適用したものとして、その効果等を説明する。
【0037】
図3に示すように、第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート15は、断熱材11a及び11bと、断熱材11aと11bとの間に設けられた高熱伝導層12bとを有する。上記第1の実施形態の高熱伝導層12aと同様に、高熱伝導層12bは、熱伝達抑制シート15の一端面15a側に向かって連続的に厚くなる構成となっている。ただし、本実施形態においては、上記一端面15aに対向する他端面15bの近傍では、高熱伝導層12bは極めて薄く、一端面15aに近づくにしたがって、高熱伝導層12bの厚さが厚くなる割合が増加している。
【0038】
このように構成された第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、第2の実施形態では、高熱伝導層12bの厚さの増加する割合が、他端面15b側から一端面15a側に近づくにつれて大きくなっているため、放熱効果の小さい他端面15bの近傍では、断熱材11a、11bによる断熱効果が高くなる。したがって、電池セル20aから熱が発生し、この熱が他端面15bの近傍における高熱伝導層12bに到達した場合に、断熱材11bを介して電池セル20b側に流入するのを抑制することができる。
【0039】
<第3の実施形態>
図4は、本発明の第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。また、
図5は、第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。
【0040】
図4に示すように、第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート16は、断熱材11a及び11bと、断熱材11aと11bとの間に設けられた高熱伝導層12cとを有する。また、第1の実施形態と同様に、高熱伝導層12cは、熱伝達抑制シート16の一端面16a側に向かって連続的に厚くなっている。ただし、第3の実施形態における高熱伝導層12cは、熱伝達抑制シート16の一端面16aから、断熱材11a及び断熱材11bよりも組電池100の外部方向に突出する突出部22cを有している。
そして、
図5に示すように、高熱伝導層12cの突出部22cが、冷却部40を押圧した状態で、熱伝達抑制シート16が電池セル間に固定されている。
【0041】
このように構成された第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、第3の実施形態では、高熱伝導層12cが、熱伝達抑制シート16の一端面16a側で、断熱材11a及び断熱材11bよりも組電池100の外部方向に突出しており、突出部22cが冷却部40を押圧している。したがって、突出部22cは冷却部40に覆われた状態となり、高熱伝導層12cと冷却部40との接触面積が増加するため、高熱伝導層12cをより効率的に冷却することができる。
【0042】
<第4の実施形態>
図6は、本発明の第4の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。以下に示す第4~第6の実施形態は、
図2に示す組電池100に記載の熱伝達抑制シート10に代えて使用することができるため、第4~第6の実施形態に係る熱伝達抑制シートを組電池100に適用したものとして、その効果等を説明する。
【0043】
図6に示すように、第4の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート17は、断熱材11a及び11bと、断熱材11aと11bとの間に設けられた高熱伝導層12dとを有する。第4の実施形態に係る熱伝達抑制シート17は、
図6に示されるように、熱伝達抑制シート17の一端面17a側に対向する他端面17b側において、高熱伝導層12dが組電池100の外部に向かって露出しないように構成されている。
【0044】
このように構成された第4の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、熱伝達抑制シート17の他端面17b側には、電池セルの端子を互いに接続するようにバスバーが設けられる。本実施形態においては、高熱伝導層12dとバスバーとの間に断熱材11aや断熱材11bが設けられているため、高熱伝導層12dとバスバーとの間の絶縁を良好にとることができる。
【0045】
<第5の実施形態>
図7は、本発明の第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
図7に示すように、第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート18は、断熱材11a及び11bと、断熱材11aと11bとの間に設けられた高熱伝導層12eとを有する。第5の実施形態に係る熱伝達抑制シート18は、
図7に示されるように、高熱伝導層12eが熱伝達抑制シート18の他端面18b側に露出しており、この他端面18b側においても、高熱伝導層12eは所定の厚さを有しているため、空冷方式による冷却を備えている場合には端面18b側から放熱され、高熱伝導層12cをより効率的に冷却することができる。
【0046】
このように構成された第5の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、熱伝達抑制シート18の一端面18a側から他端面18b側の全域にわたって、所定の厚さを有する高熱伝導層12eが存在するため、電池セルから発生した熱が高熱伝導層12eに到達しやすくなる。したがって、より一層効率的に、熱を熱伝達抑制シート18の外部に拡散させることができる。さらに、高熱伝導層12eが、熱伝達抑制シート18の一端面18a側から他端面18b側に渡って所定の厚さを有することで、熱伝達抑制シート18の全体の強度を向上させることができる。
高熱伝導層12eの面方向に熱を移動させるとともに、熱伝達抑制シート18全体の強度を向上させる観点から、高熱伝導層12eの上記他端面18b側の厚さは、シートの厚さに対して0.5%~50%であるのが好ましく、1%~25%であることがより好ましい。また、高熱伝導層12eの上記他端面18b側の厚さは、0.005~1mmであるのが好ましく、0.01~0.5mmであることがより好ましい。
【0047】
<第6の実施形態>
図8は、本発明の第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
図8に示すように、第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート19は、断熱材11a及び11bと、断熱材11aと11bとの間に設けられた高熱伝導層12fとを有する。なお、第6の実施形態の組電池用熱伝達抑制シート19では、高熱伝導層12fは熱伝達抑制シート19の一端面19a側に向かって階段状に厚くなっている。
【0048】
このように構成された第6の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、第6の実施形態においては、例えば
図8に示すように、大きさの異なる複数のシートを重ね合わせることにより、形成することができる。したがって、第1~第5の実施形態と比較して、一端面19a側に向かって厚くなるように構成された高熱伝導層12fを容易に作製することができる。
さらに、第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート19では、高熱伝導層12fは、一端面19a側に向かって階段状に厚くなる構成をとっているため、階段状に厚くなった高熱伝導層12fと断熱材11a又は断熱材11bとの間に空間21が生じることがある。したがって、空間21に、空気が保持されることにより、隣接する電池セル間の断熱効果をより一層向上させることができる。
【0049】
なお、熱伝達抑制シートの一端面側に向かって階段状に厚くなっている高熱伝導層12fは、1枚の金属等からなる材料でこのような形状が形成されていてもよい。
【0050】
次に、本発明に係る組電池用熱伝達抑制シートを構成する高熱伝導層、断熱材、及び冷却部について、詳細に説明する。
【0051】
(高熱伝導層)
本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに用いられる高熱伝導層は、隣り合う電池セルに放射伝熱が伝わるのを抑制する効果と、高熱伝導層に到達した熱を、熱伝達抑制シートの一端面方向に移動させ、熱伝達抑制シートの外部に拡散させる効果を有する。
【0052】
断熱材の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する高熱伝導層としては、例えば、金属、セラミック及びカーボンから選択された少なくとも1種の材料からなるものを選択することが好ましい。金属としては、具体的に、アルミニウム又はアルミニウム合金、ステンレス鋼、銅又は銅合金、銀又は銀合金、ニッケル又はニッケル合金及びチタン又はチタン合金等から選択することができる。また、セラミックとしては、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等から選択することができる。さらに、カーボンとしては、炭素繊維、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、グラファイト等から選択することができる。
【0053】
なお、異なる種類の上記金属からなる複数の金属層を積層して高熱伝導層を構成してもよい。このような高熱伝導層としては、例えば、[アルミニウム/銅/アルミニウム]複合層、[アルミニウム/銀/アルミニウム]複合層、[ニッケル/ステンレス鋼/ニッケル]複合層、[銀/ステンレス鋼/銀]複合層等が挙げられる。上記複合層は、中心となる基層の両面に、湿式めっき又は蒸着等の方法により表層を形成することにより得ることができる。
また、高熱伝導層は、上記金属、セラミック及びカーボンから選択された異なる種類の材料を組み合わせたものにより構成されていてもよい。
【0054】
高熱伝導層の熱伝導率は、5~450(W/m・K)であり、後述する断熱材の熱伝導率(例えば、0.05(W/m・K))よりも十分に大きいため、高熱伝導層に到達した熱を効率的に熱伝達抑制シートの外部に拡散することができる。断熱材と比較した場合の具体的な熱伝導率としては、高熱伝導層の熱伝導率は、断熱材の熱伝導率の10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましい。
【0055】
なお、高熱伝導層の熱伝導率は、下記(1)~(3)に示すように、レーザフラッシュ法及び示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)法により算出することができる。
(1)JIS H 7801に記載の「金属のレーザフラッシュ法による熱拡散率の測定方法」に準拠し、熱拡散率を測定する。
(2)JIS R 1672に記載の「長繊維強化セラミックス複合材料の示差走査熱量法による比熱容量測定方法」に準拠し、比熱容量を測定する。
(3)(1)及び(2)で得られた値に基づいて、熱伝導率を算出する。
【0056】
高熱伝導層の厚さは、伝導伝熱による熱の拡散効果を十分に得るためには、高熱伝導層の最も薄いところで、0μmを超えていることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることがさらにより好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。
一方、熱伝達抑制シート全体の厚さの観点から、高熱伝導層の厚さは、最も厚いところで300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
さらに、上述のとおり、高熱伝導層は一層からなるものであっても、種々の材料からなる層が複数積層されたものでもよい。同一の材料からなる層が積層されて高熱伝導層を構成する場合に、複数層の合計の厚さは、一層からなる高熱伝導層の厚さと同じであれば、同様の効果が得られる。したがって、高熱伝導層が複数層からなる場合であっても、その合計の厚さは上記範囲であることが好ましい。
【0057】
(断熱材)
本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに用いられる断熱材としては、断熱効果を有するものであれば、特に限定されない。断熱効果を表す指標として、熱伝導率を挙げることができるが、本実施形態においては、断熱材の熱伝導率は1(W/m・K)未満であることが好ましく、0.5(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.2(W/m・K)未満であることがより好ましい。さらに、断熱材の熱伝導率は0.1(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.05(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.02(W/m・K)未満であることが特に好ましい。
このような断熱材として、例えば、無機繊維、有機繊維、無機粒子及び有機粒子から選択された少なくとも一種を含有するものを用いることができる。
【0058】
なお、断熱材の熱伝導率は、JIS R 2251に記載の「耐火物の熱伝導率の試験方法」に準拠して、測定することができる。
【0059】
無機繊維としては、アルミナファイバ、カーボンファイバ、バサルトファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミックファイバ、グラスファイバ、エアロゲル複合材等を使用することができる。
有機繊維としては、セルロースファイバ等を使用することができる。
なお、これらの繊維については、単一の繊維を使用してもよいし、2種以上の繊維を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
無機粒子としては、マイカ、マイクロポーラス粒子、中空シリカ粒子、熱膨張性無機材料及びエアロゲルを使用することができる。
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
有機粒子としては、中空ポリスチレン粒子等を使用することができる。
【0061】
これらの断熱材としての材料のうち、アルミナファイバ、グラスファイバ、エアロゲル複合材等を、好適に使用することができる。
【0062】
<熱伝達抑制シートの厚さ>
本実施形態において、熱伝達抑制シートの厚さは特に限定されないが、0.05~6mmの範囲にあることが好ましい。熱伝達抑制シートの厚さが0.05mm未満であると、充分な機械的強度を熱伝達抑制シートに付与することができない。一方、熱伝達抑制シートの厚さが6mmを超えると、熱伝達抑制シートの成形自体が困難となるおそれがある。
【0063】
続いて、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの製造方法について説明する。
【0064】
<熱伝達抑制シートの製造方法>
本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、例えば、一対の断熱材の間に上記特定の形状を有する高熱伝導層を配置することにより得ることができる。これらは接合しても接合しなくてもよく、接合する場合は、例えば、積層されたシートの周縁部を接着又は溶着等により固定する方法を利用することができる。
【0065】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、高熱伝導層及び断熱材の種類及び厚さの選択によっては、容易に屈曲可能なものとなる。したがって、電池セル20a、20b、20c及び電池ケース30の形状に影響されず、どのような形状のものにも対応させることができる。具体的には、角型電池の他、円筒形電池、平板型電池等にも適用することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、
図2に示すように、冷却部40を必ずしも設ける必要はない。例えば、電池ケース30内の空間や、電池ケース30を冷却部として、発熱した電池セルにより加熱された高熱伝導層12aから、温度の低い電池ケース30内の空間や電池ケース30へと熱を拡散させる構成とすることもできる。
【0067】
[2.組電池]
本実施形態に係る組電池は、複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池であって、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートが、電池セル間に介在されたものである。具体的には、例えば、
図2に示すように、組電池100は、複数個の電池セル20a、20b、20cを並設し、直列又は並列に接続して電池ケース30に収容したものであり、電池セル20a、20b、20c間に、熱伝達抑制シート10が介在されている。また、電池ケース30と熱伝達抑制シート10の間には冷却部40が配設されており、熱伝達抑制シート10の高熱伝導層12aが冷却部40に接するように配設されている。
【0068】
このような組電池100では、各電池セル20a、20b、20cの間に、熱伝達抑制シート10が介在されているため、通常使用時において熱伝達抑制シート10は熱伝達抑制シートの一端部に選択的に熱を移動させ、熱伝達抑制シートの外部に拡散する。したがって、各電池セル20a、20b、20c間の熱の伝播を抑制することができる。
また、複数の電池セル20a、20b、20cのうち、一つの電池セルが熱暴走して高温になり、膨張したり発火したりする場合でも、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10が存在することにより、電池セル20a、20b、20c間の熱の伝播が抑制され、熱暴走の連鎖が阻止される。これにより、他の電池セルへの悪影響を最小限に抑えることができる。
【0069】
(冷却部)
本実施形態に係る組電池において、冷却部としては、気体又は液体の冷媒を循環させるように構成されたもの、冷媒が密閉されたもの、冷却プレート、放熱シート、放熱ゲル等が挙げられるが、本発明においては、冷却部の構造及び材質について、特に限定されない。
【符号の説明】
【0070】
10,15,16,17,18,19 組電池用熱伝達抑制シート
10a,15a,16a,17a,18a,19a 一端面
11a,11b 断熱材
12a,12b,12c,12d,12e,12f 高熱伝導層
20a,20b,20c 電池セル
21 空間
30 電池ケース
40 冷却部
100 組電池