(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】複合基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20250318BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
H01L21/02 B
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2021101362
(22)【出願日】2021-06-18
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】谷 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
(72)【発明者】
【氏名】浅井 圭一郎
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-321051(JP,A)
【文献】特開2002-185080(JP,A)
【文献】特開2017-174838(JP,A)
【文献】特開2000-182916(JP,A)
【文献】特開2010-192835(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054368(WO,A1)
【文献】特開平01-199425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H10F 30/00
H10F 99/00
H10H 20/00
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化インジウム基板と、該リン化インジウム基板に直接形成されたバリア層と、シリコン基板と、を有し、
該バリア層と該シリコン基板とが直接接合されており、
該バリア層と該シリコン基板との接合界面にアモルファス層が形成されて
おり、
該リン化インジウム基板における不活性ガス元素濃度が0.1原子%~5原子%である、
複合基板。
【請求項2】
前記シリコン基板に接合層が直接形成され、前記バリア層と該接合層とが直接接合されており、
該バリア層と該接合層との接合界面にアモルファス層が形成されている、
請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記シリコン基板に低屈折率層が形成されている、請求項1または2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記シリコン基板に光回路が形成されている、請求項1から3のいずれかに記載の複合基板。
【請求項5】
前記バリア層が導電層である、請求項1から4のいずれかに記載の複合基板。
【請求項6】
前記バリア層が、酸化インジウムまたは酸化インジウムスズで構成されている、請求項5に記載の複合基板。
【請求項7】
前記リン化インジウム基板の厚みが500nm以下である、請求項1から6のいずれかに記載の複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信、ミリ波~テラヘルツ波通信、光情報処理、光コンピューティング等の分野において、光デバイスと電子デバイスとを複合化および集積化する技術(光電融合技術)の実用化が期待されている。例えば、光回路や駆動IC回路が形成されたシリコン基板と、光源、フォトダイオード、光変調器等が形成されたリン化インジウム(InP)基板と、を含む複合基板の開発が進められている。このような複合基板は、代表的には、光回路や駆動IC回路が形成されたシリコン基板とInP基板とを接合すること;シリコン基板に接合されたInP基板を、エピタキシャル成長、エッチング、スパッタリング等の半導体加工プロセスに供し、光源、フォトダイオード、光変調器等を形成すること;を含むプロセスにより製造され得る。しかし、このような複合基板によれば、得られるデバイスにおいて、光の伝搬損失が発生する、および/または、駆動電圧が高くなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、光の伝搬損失が小さく、かつ、低電圧駆動が可能なデバイスを実現し得る複合基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による複合基板は、リン化インジウム基板と、該リン化インジウム基板に直接形成されたバリア層と、シリコン基板と、を有する。該バリア層と該シリコン基板とは直接接合されており、該バリア層と該シリコン基板との接合界面にはアモルファス層が形成されている。
1つの実施形態においては、上記シリコン基板には接合層が直接形成され、上記バリア層と該接合層とが直接接合されており、該バリア層と該接合層との接合界面にアモルファス層が形成されている。
1つの実施形態においては、上記シリコン基板に低屈折率層が形成されている。
1つの実施形態においては、上記シリコン基板には光回路が形成されている。
1つの実施形態においては、上記バリア層は導電層である。1つの実施形態においては、上記バリア層は、酸化インジウムまたは酸化インジウムスズで構成されている。
1つの実施形態においては、上記リン化インジウム基板の厚みは500nm以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、シリコン基板とリン化インジウム(InP)基板とを含む複合基板において、InP基板に所定のバリア層を直接形成することにより、光の伝搬損失が小さく、かつ、低電圧駆動が可能なデバイスを実現し得る複合基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による複合基板の概略断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態による複合基板の概略断面図である。
【
図3】本発明のさらに別の実施形態による複合基板の概略断面図である。
【
図4】本発明のさらに別の実施形態による複合基板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、見やすくするために図面は模式的に表されており、縦、横および厚みの比率、ならびに形状等は実際とは異なっている場合がある。
【0009】
A.複合基板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板100は、リン化インジウム(InP)基板10と、バリア層21と、シリコン基板30と、を有する。本発明の実施形態においては、バリア層21は、InP基板10に直接形成されている。バリア層21は、例えばスパッタリングによりInP基板10表面に形成され得る。バリア層をInP基板に直接形成することにより、直接接合(後述)する際にInP基板に直接的に不活性ガスやプラズマが照射されることがないのでInP基板のダメージを抑制することができ、かつ、InP基板への不純物の移行および侵入を顕著に抑制することができ、したがって、InP基板内のダメージの発生および半導体加工プロセスに伴う当該ダメージの進展を顕著に抑制することができる。なお、不純物としては、代表的には、直接接合に用いられる不活性ガスまたはプラズマ、シリコン基板のシリコンが挙げられる。
【0010】
InP基板における不活性ガス照射による表面の荒れについては、以下の文献に詳細に記載されている。
Journal of surface analysis Vol.10 No.3 250-255,2003
当該文献によれば、例えばアルゴンイオンをInP基板に照射した際に、リン(P)に選択的にスパッタリングが起こりInが析出されてしまうことにより表面荒れが発生するメカニズムが示されている。このような表面荒れが存在する状態では、エピタキシャル成長やエッチング等の半導体加工プロセスを行う場合、ダメージが発生してしまう場合が多い。本発明の実施形態の上記構成によれば、InP基板の表面荒れを顕著に抑制することができ、半導体加工プロセスにおけるダメージの発生を顕著に抑制することができる。その結果、光の伝搬損失が小さく、かつ、低電圧駆動が可能なデバイスを実現し得る複合基板を得ることができる。
【0011】
本発明の実施形態においては、バリア層21とシリコン基板30とは直接接合されている。本明細書において「直接接合」とは、接着剤を介在させることなく複合基板の構成要素(
図1の例ではバリア層21とシリコン基板30)が接合していることを意味する。直接接合の形態は、互いに接合される層または基板の構成に応じて適切に設定され得る。より詳細には、直接接合は、プラズマ接合により行ってもよく、表面活性化法により行ってもよい。例えば、表面活性化法は、以下の手順で行われ得る。高真空チャンバー内(例えば、1×10
-6Pa程度)において、接合される構成要素(層または基板)のそれぞれの接合面に中性化ビームを照射する。これより、各接合面が活性化される。次いで、真空雰囲気で、活性化された接合面同士を接触させ、常温で接合する。この接合時の荷重は、例えば100N~20000Nであり得る。1つの実施形態においては、中性化ビームによる表面活性化を行う際には、チャンバーに不活性ガスを導入し、チャンバー内に配置した電極へ直流電源から高電圧を印加する。このような構成であれば、電極(正極)とチャンバー(負極)との間に生じる電界により電子が運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、好ましくは不活性ガス元素(例えば、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、ヘリウム(He)、窒素(N)、キセノン(Xe))である。ビーム照射による活性化時の電圧は例えば0.5kV~2.0kVであり、電流は例えば50mA~200mAである。
【0012】
上記直接接合により、InP基板10とシリコン基板30とは一体化されている。このような一体化により、光デバイスと電子デバイスとを高度に集積化することができ、かつ、超小型化を実現することができる。さらに、光デバイスと電子デバイスとをワイヤボンディング等により結合する必要がないので、浮遊容量を顕著に抑制することができる。InP基板とシリコン基板との一体化によるこのような利点は理論的には理解されていた。しかし、実際に一体化を試みると、直接接合の際に用いられる不活性ガスまたはプラズマ、ならびに/あるいは、シリコン基板のシリコンがInP基板に移行してInP基板内にダメージが生じ、エピタキシャル成長等によりInP基板に形成された光デバイス(例えば、フォトダイオード、光変調器)においても当該ダメージが進展することがわかった。その結果、得られるデバイスにおいて、光の伝搬損失が発生する、および/または、駆動電圧が高くなるという問題が生じる場合が多く、十分な性能の実現は困難であった。さらに、このような問題に起因して、InP基板とシリコン基板と(代表的には、光デバイスと電子デバイスと)を集積化する場合には、それぞれにあらかじめデバイスを形成したInP基板とシリコン基板とを一体化しなければならなかった。本発明の実施形態によれば、特定のバリア層をInP基板に直接形成することにより、このような問題を顕著に抑制することができ、長く望まれていたが実現困難であった、InP基板とシリコン基板との十分な性能を確保した一体化を実現することができる。さらに、InP基板とシリコン基板とを一体化して複合基板を形成し、当該複合基板(特に、InP基板)を半導体加工プロセスに供することができる。加えて、一体化をバリア層21とシリコン基板30との直接接合によって行うことにより、複合基板の剥離を良好に抑制することができ、結果として、このような剥離に起因するInP基板の損傷(例えば、クラック)を良好に抑制することができる。さらに、接着剤を用いることなく直接接合することにより、接着剤の変質および変形に起因する悪影響を排除することができるので、高い信頼性を実現することができる。加えて、接着剤による誘電損失もない。
【0013】
バリア層21とシリコン基板30との接合界面には、代表的には、アモルファス層40が形成されている。
【0014】
図2は、本発明の別の実施形態による複合基板の概略断面図である。図示例の複合基板101においては、シリコン基板30に接合層22が直接形成され、バリア層21と接合層22とが直接接合されている。バリア層21と接合層22との接合界面にはアモルファス層40が形成されている。接合層を形成することにより、バリア層を形成する効果との相乗的な効果が得られ得る。すなわち、InP基板への不純物(特に、シリコン基板のシリコン)の移行および侵入をさらに顕著に抑制することができる。その結果、得られるデバイスにおいて、光の伝搬損失をさらに抑制し、かつ、さらに低い電圧での駆動を可能とすることができる。
【0015】
本発明の実施形態においては、シリコン基板30には低屈折率層が形成されていてもよい。低屈折率層は、例えば、シリコン基板やInP基板に形成した光導波路の閉じ込め効率を向上させること、および、高速変調動作を実現する速度整合条件を達成することに寄与し、また、絶縁膜として機能し得る。低屈折率層は、シリコンやInPよりも屈折率が小さい材料で構成され得る。低屈折率層は、例えば、酸化シリコン(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化カルシウム(CaF
2)で構成されている。低屈折率層は、代表的には、シリコン基板に直接形成されている。シリコン基板に低屈折率層を形成することにより、浮遊容量を低減することができ、結果として、得られるデバイスにおいて信号の遅延およびリーク電流を低減することができる。シリコン基板に低屈折率層が形成されている場合、
図3の複合基板102のように、低屈折率層50とバリア層21とが直接接合され、バリア層21と低屈折率層50との接合界面にアモルファス層40が形成されていてもよく;
図4の複合基板103のように、バリア層21と、低屈折率層50に直接形成された接合層22と、が直接接合され、バリア層21と接合層22との接合界面にアモルファス層40が形成されていてもよい。
【0016】
以下、複合基板の構成要素(基板または層)を具体的に説明する。
【0017】
B.InP基板
InP基板は、代表的には、光デバイス用の基板として機能し得る。ここで、本明細書において「光」とは電磁波を包含する概念である。光デバイスは、任意の適切な半導体加工プロセス(例えば、エピタキシャル成長、エッチング、スパッタリング)によりInP基板に形成され得る。光デバイスとしては、目的に応じた任意の適切な光デバイスを採用することができる。1つの実施形態においては、光デバイスは、シリコン基板上では実現できない光デバイスである。このような構成であれば、複合基板の効果が顕著なものとなる。光デバイスの具体例としては、光源、ダイオード(例えば、フォトダイオード)、光変調器、光遅延器、光偏向器が挙げられる。光源としては、例えば、フォトニック結晶(LEAP)レーザー、DFBレーザー、DBRレーザー、VCSEL(面発光レーザー)のような半導体レーザー;ミリ波~テラヘルツ波を発振、放射および/または受信し得る能動素子が挙げられる。ダイオードとしては、共鳴トンネルダイオード、ショットキーダイオード、UTC-PD(Uni-Traveling-Carrier Photodiodes)、アバランシェ・フォトダイオード、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)が挙げられる。光変調器としては、例えば、マッハ・ツェンダー変調器、電界吸収型変調器が挙げられる。
【0018】
InP基板の厚みは、1つの実施形態においては、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは480nm以下であり、さらに好ましくは460nm以下である。InP基板の厚みがこのような範囲であれば、InP(約5ppm/K)とシリコン(約3ppm/K)との熱膨張係数の差に起因する、複合基板を半導体加工プロセス(エピタキシャル成長、エッチング、パターニング)に供する際の割れ、および、得られるデバイスの特性が不十分となることを顕著に抑制することができる。InP基板の厚みの下限は、例えば100nmであり得る。InP基板は、代表的には、シリコン基板との一体化後に任意の適切な方法により薄片化され得る。このような厚みのInP基板は、代表的には、光学用途(使用波長が例えば1μm~2μm)に用いられ得る。InP基板がミリ波~テラヘルツ波用途に用いられる場合には、InP基板の厚みは例えば50μm程度であってもよい。
【0019】
InP基板における不活性ガス元素濃度は、好ましくは5原子%以下であり、より好ましくは2原子%以下である。InP基板における不活性ガス元素濃度は小さいほど好ましく、その下限は例えば0.1原子%であり得る。不活性ガス元素は、代表的には、直接接合の際の中性原子ビーム由来である。したがって、不活性ガス元素は、例えば、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、ヘリウム(He)、窒素(N)またはキセノン(Xe)であり得る。本発明の実施形態によれば、バリア層を形成することにより、直接接合に用いられる不活性ガス元素のInP基板への移行および侵入を顕著に抑制することができる。その結果、このような非常に小さい不活性ガス元素濃度を実現することができる。このような不活性ガス元素濃度であれば、InP基板内のダメージの発生および半導体加工プロセスに伴う当該ダメージの進展を顕著に抑制することができる。これにより、光の伝搬損失が小さく、かつ、低電圧駆動が可能なデバイスを実現することができる。
【0020】
InP基板におけるシリコン濃度は、好ましくは5原子%以下であり、より好ましくは2原子%以下である。InP基板におけるシリコン濃度は小さいほど好ましく、その下限は例えば0.1原子%であり得る。上記の不活性ガス元素の場合と同様に、本発明の実施形態によれば、バリア層を形成することにより、シリコン基板のシリコンのInP基板への移行および侵入を顕著に抑制することができる。その結果、このような非常に小さいシリコン濃度を実現することができる。上記の不活性ガス元素の場合と同様に、このようなシリコン濃度であれば、InP基板内のダメージの発生および半導体加工プロセスに伴う当該ダメージの進展を顕著に抑制することができる。これにより、光の伝搬損失が小さく、かつ、低電圧駆動が可能なデバイスを実現することができる。接合層をさらに形成することにより、当該効果はさらに顕著なものとなり得る。
【0021】
C.シリコン基板
シリコン基板には、光回路が形成されていてもよく、電子回路(例えば、駆動IC回路)が形成されていてもよく、光回路および電子回路の両方が形成されていてもよい。好ましくは、シリコン基板には光回路が形成されている。光回路を形成することにより、電子回路の線幅の限界よりも微細な回路の形成が可能となる。その結果、動作速度(動作周波数)の向上、集積密度の向上(高密度化)、動作周波数当たりの消費電力の抑制等の効果が得られ得る。シリコン基板は、回路の合波性および分岐性に優れるので、良好な光回路(光導波路)を形成し得る。
【0022】
シリコン基板の厚みは、好ましくは150μm~1200μmであり、より好ましくは200μm~700μmであり、さらに好ましくは250μm~550μmである。シリコン基板の厚みがこのような範囲であれば、半導体加工プロセスを実施しても複合基板の破損および反りを良好に抑制することができる。
【0023】
上記のとおり、シリコン基板には低屈折率層が形成されていてもよい。低屈折率層の厚みは、使用する電磁波の波長によって異なる。波長が1μmである場合、低屈折率層の厚みは、好ましくは0.1μm~10μmであり、より好ましくは0.5μm~5μmである。
【0024】
D.バリア層
バリア層としては、所定のバリア機能(InP基板への不純物の移行および侵入を抑制し得る機能)を有する限りにおいて、任意の適切な構成が採用され得る。バリア層を構成する材料の具体例としては、酸化インジウム(IO)、酸化インジウムスズ(ITO)などのインジウム酸化物;アモルファスシリコンが挙げられる。好ましくは、インジウム酸化物である。インジウム酸化物は不活性ガスやシリコンの拡散を抑制しダメージを抑制し得るのみならず、InPと同様にインジウム化合物であるのでInP基板に対して不純物となりにくいというさらなる利点がある。
【0025】
バリア層は、好ましくは導電層である。このような構成であれば、InP基板を薄くした場合に基板内共振を良好に抑制することができる。より詳細には、例えばミリ波~テラヘルツ波用のデバイスに用いるためにInP基板を薄く(例えば、50μm程度と)した場合には、シリコン基板が補強基板(支持基板)として機能し得る。この場合、InP基板とシリコン基板との合計厚みが共振に影響する厚みとなる。すなわち、InP基板を薄くしたとしても、上記合計厚みが共振を引き起こす厚み(ミリ波~テラヘルツ波の波長サイズの厚み)であれば、InP基板を薄くする効果が得られない場合がある。これに対し、InP基板とシリコン基板との間のバリア層を導電層とすることにより、バリア層(導電層)がグランド層として機能し、バリア層より下方(シリコン基板側)には電界が存在しないようにすることができる。その結果、InP基板の厚みのみが共振に関係する厚みとなるので、InP基板の厚みを所望の範囲まで薄くすることにより、基板内共振を良好に抑制することができる。
【0026】
バリア層の厚みとしては、任意の適切な厚みが採用され得る。バリア層の厚みは、好ましくは0.1nm~0.5μmであり、より好ましくは2nm~0.1μmである。バリア層の厚みがこのような範囲であれば、直接接合の際に不活性ガスイオン(例えば、アルゴンイオン)がInP基板に到達してスパッタイングされることを抑制し、かつ、シリコン原子の拡散を抑制することができる。
【0027】
E.接合層
接合層22は、目的に応じて任意の適切な材料で構成され得る。接合層の構成材料としては、例えば、アモルファスシリコン、インジウム系化合物が挙げられる。
【0028】
接合層22は、バリア層21と同一の構成(実質的には、同一の構成材料および同一厚み)であってもよく、異なる構成であってもよい。
【0029】
接合層22がバリア層21と同一の構成である場合、以下の利点がある。互いに異なる構成材料のバリア層21と接合層22とを直接接合した場合、接合界面に形成されたアモルファス層を介してバリア層および接合層を構成する材料(実質的には、原子)が互いに拡散・移行し得る。その結果、バリア層および接合層のアモルファス層近傍部分は、それ以外の部分と異なる組成となり得る。その結果、予期せぬ導電率上昇および/または過度な応力の発生を引き起こす可能性がある。バリア層および接合層を同一材料で構成することにより、このような不具合を防止することができる。この場合、接合層およびバリア層はそれぞれ、インジウム酸化物で構成されてもよく、アモルファスシリコンで構成されてもよい。
【0030】
接合層22がバリア層21と異なる構成である場合、接合層は好ましくはアモルファスシリコンで構成され得、バリア層は好ましくはインジウム系化合物(代表的には、インジウム酸化物)で構成され得る。このような構成であれば、以下の利点がある。バリア層をインジウム系化合物で構成することにより、不活性ガスやシリコンの拡散を抑制しダメージを抑制し得るのみならず、InPと同様にインジウム化合物であるのでInP基板に対して不純物となりにくいというさらなる利点がある。さらに、接合層をアモルファスシリコンで構成することにより、直接接合がしやすくなる、導電性を制御しやすくなるとともに、シリコン基板に対して不純物となりにくいというさらなる利点がある。これらの利点および効果は、相乗的に発揮され得る。
【0031】
接合層の厚みとしては、任意の適切な厚みが採用され得る。接合層の厚みは、好ましくは0.1nm~0.5μmであり、より好ましくは1nm~0.1μmである。接合層の厚みがこのような範囲であれば、バリア層との直接接合において反りを低減し、接合強度を確保できるという利点がある。
【0032】
F.アモルファス層
アモルファス層40は、バリア層21と隣接層(シリコン基板30、接合層22または低屈折率層50)との直接接合により接合界面に形成された層である。アモルファス層が形成されることとバリア層による効果との相乗的な効果により、不純物の捕捉機能が促進され得る。アモルファス層40は名称のとおりアモルファス構造を有しており、バリア層21を構成する元素と隣接層を構成する元素とを含む。アモルファス層は、代表的には、直接接合に用いられる中性原子ビームを構成する原子種(代表的には、アルゴン、ネオン、クリプトン、ヘリウム、窒素、キセノン)をさらに含み得る。アモルファス層におけるこのような原子種の含有量は、例えば1.5原子%~2.5原子%であり得る。
【0033】
アモルファス層の厚みは、例えば0.1nm~100nm、また例えば2nm~15nmであり得る。
【0034】
アモルファス層40は、バリア層21と隣接層との直接接合においてこれらの層の構成材料の原子が拡散することにより形成される。アモルファス層の上面はバリア層21と明確な界面を形成し、下面は隣接層(シリコン基板、接合層または低屈折率層)と明確な界面を形成している。アモルファス層の上面(バリア層21との界面)および下面(隣接層との界面)は、必ずしも平坦ではない。アモルファス層の上面および下面の算術平均粗さは、例えば0.1nm~10nmであり得る。さらに、このような形成過程に起因して、アモルファス層の上部および下部は、それぞれが異なる組成を有する場合がある。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
図1に示す構成の複合基板を下記の手順で作製した。
直径3インチ、厚み500μmの半絶縁性の高抵抗InP基板、ならびに、直径4インチ、厚み525μmのシリコン基板を用意した。まず、InP基板上に酸化インジウムをスパッタリングして厚み0.1μmのバリア層を形成した。バリア層形成後に、原子間力顕微鏡を用いて、バリア層とシリコン基板の□10μmの算術平均粗さを測定したところ、いずれも□10μmで0.2nmであった。
次に、バリア層およびシリコン基板の表面を洗浄した後、バリア層とシリコン基板とを直接接合することによりInP基板とシリコン基板とを一体化した。直接接合は、以下のようにして行った。InP基板およびシリコン基板を真空チャンバーに投入し、10
-6Pa台の真空中で、InP基板およびシリコン基板の接合面(バリア層およびシリコン基板の表面)に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70sec間照射した。照射後、10分間放置してInP基板およびシリコン基板を放冷したのち、InP基板およびシリコン基板の接合面(バリア層およびシリコン基板のビーム照射面)を接触させ、4.90kNで2分間加圧してバリア層とシリコン基板とを直接接合することにより、InP基板とシリコン基板とを一体化した。バリア層とシリコン基板との接合界面にアモルファス層が形成されていることを確認した。接合後、InP基板の厚みが460nmになるまで研磨加工し、
図1のInP/シリコン複合基板を得た。得られた複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0037】
研磨後に、InP基板の表面のアルゴンイオンの濃度、InPの組成比In/(In+P)、表面荒れを評価した。アルゴンイオン濃度は、EDX(エネルギー分散型X線分析)により測定した。またInPの組成比については、オージェ分光により組成分析した。表面荒れは顕微鏡観察にて有無を検査した。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
シリコン基板表面にアモルファスシリコンで接合層(厚み0.03μm)を形成し、バリア層と接合層とを直接接合したこと以外は実施例1と同様にして、
図2に示す構成の複合基板を得た。バリア層と接合層との接合界面にアモルファス層が形成されていることを確認した。得られた複合基板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例3)
シリコン基板に光回路(光導波路)を形成したこと、当該シリコン基板表面にSiO
2で低屈折率層(厚み4μm)を形成したこと、低屈折率層にアモルファスシリコンで接合層(厚み0.03μm)を形成したこと、および、バリア層と接合層とを直接接合したこと以外は実施例1と同様にして、
図4に示す構成の複合基板を得た。バリア層と接合層との接合界面にアモルファス層が形成されていることを確認した。得られた複合基板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0040】
(比較例1)
InP基板にバリア層を形成しなかったこと、すなわち、InP基板とシリコン基板とを直接接合したこと以外は実施例1と同様にして複合基板を得た。得られた複合基板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1から明らかなとおり、本発明の実施例によれば、InP基板にバリア層を形成することにより、直接接合およびInP基板の研磨後において、InP基板のダメージの原因となるアルゴンイオンの濃度が抑制され、InPの組成比の劣化がなく、表面荒れも観察されないことがわかる。したがって、実施例の複合基板は、光の伝搬損失が小さく、かつ、低電圧駆動が可能なデバイスを実現し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の実施形態による複合基板は、光通信、ミリ波~テラヘルツ波通信、光情報処理、光コンピューティング等の分野において好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0044】
10 InP基板
21 バリア層
22 接合層
30 シリコン基板
40 アモルファス層
50 低屈折率層
100 複合基板
101 複合基板
102 複合基板
103 複合基板