(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】ワーク着座検出装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/00 20060101AFI20250318BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
B23B31/00 D
B23Q17/00 B
(21)【出願番号】P 2021142149
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2024-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】八田 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晶
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/052764(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0243662(US,A1)
【文献】特開平06-249636(JP,A)
【文献】米国特許第05540082(US,A)
【文献】実開平04-057708(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2022/0009048(US,A1)
【文献】国際公開第2020/100224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持するチャックの着座面からエアを放出するための検出孔と、
エア供給源からのエアを前記検出孔へと送るためのエア供給用流路と、
前記エア供給用流路に設けられた圧力制御弁と、
前記圧力制御弁の二次側において前記エア供給用流路に設けられた圧力スイッチと、
前記圧力スイッチの二次側において、前記検出孔にエアを送る検出用エア流路または大気にエアを放出する調整用エア流路に、前記エア供給用流路の接続を切り換える電磁式切換弁と、
前記調整用エア流路に設けられた可変絞り弁と、
を有するワーク着座検出装置。
【請求項2】
前記電磁式切換弁は、切り換えボタンの操作によって切り換え制御が行われるものである請求項1に記載のワーク着座検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークが把持されたチャックに対して適正に着座したことを検出するワーク着座検出装置に関し、特に通常の調整作業においてマスタワークを必要としないワーク着座検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤などの工作機械は、主軸のチャックにワークが固定され、回転が与えられたワークに対して工具を使用した切削加工などが行われる。その際チャックの着座面に対してワークが正確に接した状態で把持されていなければ、そのワークが余分に削られてしまうなど仕上がり品質を低下させてしまう。そのため、工作機械には主軸チャックに対してワークが適正に着座していることを検出するワーク着座検出装置が設けられている。ところが、そのワーク着座検出装置は、適切な着座検出が行われるように定期的な調整作業が必要であり、これまでの作業には調整用のゲージとしてマスタワークが使用されてきた。
【0003】
下記特許文献1には、調整作業におけるその作業性を高めたワーク着座検出装置が開示されている。同文献のワーク着座検出装置は、チャック以外の箇所でマスタワークを使用した調整作業ができるように構成されたものである。チャックの着座面に形成された検出孔に連通するエア供給流路から調整用流路が分岐し、その先端に調整用ブロックが設けられている。調整用ブロックは本体カバーの外に設置され、表面には調整孔が開口し、その調整孔には開閉弁を介して調整用流路が連通している。そこで、調整作業時には開閉弁が開けられ、調整孔に重ねるようにしてマスタワークが調整用ブロックの調整面に押し当てられる。その状態を維持しながら流量調整弁の調整が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来例として示した前記ワーク着座検出装置は、調整作業を機外で行うようにした点で作業性は向上するものの、調整作業の度にマスタワークは必要であった。そのため、作業者は、マスタワークを片手に持って調整用ブロックに押し当てた状態を維持しなければならず、作業者の立ち位置が決められてしまうというものであった。工作機械は、そうした作業者の立ち位置を考慮してワーク着座検出装置を構成しなければならなかった。また、調整用ブロックに対するマスタワークの押し当て方に作業者による微妙な違いが生じてしまうと、調整結果にも差が生じてしまうおそれがあった。さらに従来のワーク着座検出装置は、マスタワークを保管管理する必要があり、作業の度に出し入れが必要であった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、通常の調整作業にマスタワークを必要としないワーク着座検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るワーク着座検出装置は、ワークを把持するチャックの着座面からエアを放出するための検出孔と、エア供給源からのエアを前記検出孔へと送るためのエア供給用流路と、前記エア供給用流路に設けられた圧力制御弁と、前記圧力制御弁の二次側において前記エア供給用流路に設けられた圧力スイッチと、前記圧力スイッチの二次側において、前記検出孔にエアを送る検出用エア流路または大気にエアを放出する調整用エア流路に、前記エア供給用流路の接続を切り換える電磁式切換弁と、前記調整用エア流路に設けられた可変絞り弁と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
前記構成のワーク着座検出装置によれば、エア供給源からのエアはエア供給用流路を通って検出孔から放出され、チャックの着座面にワークが当てられたときの背圧に基づいて圧力スイッチによる検知信号が発信される。そして、そのワーク着座検出装置によれば、着座面にマスタワークを当てた調整後に電磁式切換弁を作動させ、エア供給用流路を検出用エア流路から調整用エア流路に切り換え、可変絞り弁の絞り開度を調整することにより、その後は電磁式切換弁を切り換えるだけでマスタワークを使用することなく通常の調整作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ワーク着座検出装置を搭載した工作機械の内部構造を示した側面図である。
【
図3】ワーク着座検出装置の一実施形態を簡略化して示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るワーク着座検出装置の一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本実施形態のワーク着座検出装置を搭載した工作機械の内部構造を示した側面図である。工作機械1は、ベース2の上を移動可能な可動ベッド3に組み付けられている。その可動ベッド3には主軸装置5が搭載され、そこにワーク着座検出装置が構成された主軸チャック11が設けられている。
【0011】
工作機械1は、工具の旋回割出しが可能なタレット装置6を有し、その工具を主軸と平行な機体前後方向に移動させるZ軸駆動装置7と、主軸に直交する機体上下方向に移動させるX軸駆動装置8とを有する2軸旋盤である。工作機械1には機体後方側に制御装置9が搭載され、各種加工に関する加工プログラムやワークの種類、工具や治具に関するワーク加工情報などに従って自動制御が行われるようになっている。
【0012】
工作機械1は、加工室10を構成する機体カバー12によって覆われ、さらに機体前面部には開閉可能な前カバー13が設けられている。工作機械1は、他の作業機とともにモジュール化されたものであり、複数の作業機が幅方向に並べられた場合に、前カバー13によって搬送空間15が構成される。搬送空間15の中にはワークWの受渡しを行う不図示のワーク自動搬送機が組み込まれている。
【0013】
工作機械1は、ワーク着座検出装置が構成された主軸チャック11が加工室10の奥に位置している。ワーク着座検出装置の調整作業は、そうした主軸チャック11にマスタワークを押し当てなければならず、作業者にとって作業負担が大きい。そこで、本実施形態の工作機械1に対して、例えば前記従来例のワーク着座検出装置の適用が考えられる。そのためには、例えば調整作業を間接的に行う調整用ブロックを機体前面に配置することになる。そのような従来例の構成が実現できれば、作業者は機体の外でワーク着座検出装置の調整作業を行うことが可能になる。
【0014】
しかし、従来例のワーク着座検出装置は、主軸チャック11に接続するエア供給流路に切換弁を設け、エア供給流路から分岐した調整用エア流路を開閉する前カバー13の前面部にまで延ばさなければならない。従って、従来例のワーク着座検出装置は、機内の主軸チャック11と機外の調整用ブロックを配置すべき位置が遠い工作機械1には適していない。本実施形態のワーク把持検出装置はこうした点にも着目して構成されている。
【0015】
図2は、工作機械1の主軸チャック11を示した斜視図である。主軸チャック11は、120°の間隔で3箇所に配置されチャック爪51が径方向に移動可能であって、その中心部にはワークが接する当金52が設けられている。当金52は、環状の着座面53に直径1mm程度の検出孔55が開口し、そこからエアが噴き出すよう構成されている。検出孔11は、チャック爪51の位置に合わせるように、着座面53に対し120°の間隔で3箇所形成されている。その検出孔55は、主軸チャック11にワークWが把持されると、そのワークWが着座面53に当てられて開口部が一定程度塞がれることとなる。
【0016】
次に、
図3は、工作機械1に設けられたワーク着座検出装置の構成を簡略化して示した図である。このワーク着座検出装置20は、その検出孔55に対してコンプレッサなどのエア供給源21からエアが供給される。エア供給源21には主軸チャック11の検出孔55へとエアを供給するエア供給用流路22が接続されている。エア供給用流路22には主軸チャック11側へと電磁開閉弁23、圧力制御弁24、そして圧力スイッチ25が順番に接続されている。そして、圧力制御弁24および圧力スイッチ25には、それぞれに圧力計26,27が設けられている。圧力スイッチ25は、背圧が設定値より高い場合にON信号を発信し、低い場合にはOFF信号を発信するものである。
【0017】
更に、ワーク着座検出装置20は、圧力スイッチ25と検出孔55との間に電磁式切換弁31が設けられている。電磁式切換弁31は、一次側ポートにエア供給用流路22が接続され、2つの二次側ポートには3箇所の検出孔55へと接続された検出用エア流路35と、分岐流路としてエアを大気に放出する調整用エア流路36とが接続されている。そして、調整用エア流路36には可変絞り弁32が設けられている。また、電磁式切換弁31は、通常時にはエア供給用流路22が検出用エア流路35に接続されるよう構成されている。
【0018】
ワーク着座検出装置20の調整時には電磁式切換弁31が切り換えられ、エア供給用流路22が調整用エア流路36と接続されることとなる。工作機械1の機体前面には、作業情報や操作画面などの表示や、作業者による設定値の入力などが可能な操作表示装置16が設けられ制御装置9に接続されている。その操作表示装置16に電磁式切換弁31の切り換えボタン、すなわちエア供給用流路22の接続を検出用エア流路35と調整用エア流路36との間で切り換える切換ボタンが設けられている。
【0019】
ワーク着座検出装置20は、最初にマスタワーク60を使用した圧力スイッチ25の設定が行われる。円盤状のマスタワーク60は、主軸チャック11の着座面53に当てられる当て面61が、研磨された平面度の高い面となっている。その当て面61には180°ずれた位置に2つの調整溝63,65が形成されている。調整溝63,65を検出孔55に重ねることにより、加工時の着座面51とワークとに生じる隙間を仮想的に作り出すことができる。ワーク着座検出装置20の調整時には、3か所ある検出孔55のうちの1か所に調整溝43又は45が重ねられ、他の2か所の検出孔55は当て面41によって塞がれている。
【0020】
マスタワーク40は、一方の調整溝63の深さが0.03mmであり、他方の調整溝45の深さが0.05mmである。隙間0.03mmは、ワークの適正な着座状態を作り出すものであり、隙間0.05mmは不適正な着座状態を作り出すものである。作業者は、調整溝43が一つの検出孔55に重なるようにマスタワーク40を着座面51に当て、その状態で主軸チャック11によって把持させる。そして、該当する検出孔55からは0.03mm或いは0.05mmの隙間に応じてエアが放出され、エア供給用流路22内の背圧が上昇する。背圧調整は、圧力スイッチ25が調整溝63の場合にON状態となり、調整溝65の場合にはOFF状態となるように圧力制御弁24が操作される。
【0021】
具体的には、0.03mmの調整溝63の場合に、圧力計27を確認しながら所定時間内に第1設定値にまで背圧が上昇し、圧力スイッチ25がON状態となるようにする。このときエア供給用流路22へ供給するエア圧が高すぎると、0.05mmの隙間が生じた場合であってもON状態に切り換わってしまうことがある。そこで次に0.05mmの調整溝65が検出孔55に重ねられ、背圧が第1設定値よりも低い値であって圧力スイッチ25がOFF状態のままの第2設定値になるように、圧力計27を確認しながら圧力制御弁24の調整が行われる。
【0022】
ところで、背圧調整は所定の時間をおいて何度も行う必要がある。工作機械1による加工が繰り返されると着座検出が適正に行われなくなるからである。例えば、主軸チャック11がワークWを把持したときに、切り屑の噛み込みが生じていないにもかかわらず、加工品に加工不良が生じていることがある。これは何らかの原因で背圧が上がってしまうからであり、実際には0.05mm以上の隙間が生じているにも関わらず圧力スイッチ25がON状態になり適正な着座状態と判定されてしまう。よって、ワーク着座検出装置20では背圧の再調整が繰り返し行われる。
【0023】
そこで、本実施形態のワーク着座検出装置20は、前述したマスタワーク40を使用した最初の調整後に、背圧の再調整に備えた可変絞り弁32の設定が行われる。可変絞り弁32の絞り開度を調整することにより、調整用エア流路36を通って大気に放出されるエアの流量調整を行うためである。特に、マスタワーク40の調整溝65を検出孔55に重ねた場合と同様の背圧になるように、圧力計27を確認しながら可変絞り弁32における絞り開度の調整が行われる。
【0024】
従って、可変絞り弁32の調整が行われたワーク着座検出装置20は、電磁式切換弁31が切り換えられ、エア供給用流路22が調整用エア流路36に接続されることにより、主軸チャック11にマスタワーク40を把持させ、出孔52に0.05mmの調整溝65を重ねた状態が疑似的につくりだされることとなる。
【0025】
よって、ワーク着座検出装置20における背圧の再調整が必要な場合には、作業者が操作表示装置16の切り換えボタンを押すことで電磁式切換弁31が作動し、エア供給用流路22の接続が検出用エア流路35から調整用エア流路36へと切り換えられる。そのため可変絞り弁32の絞り開度により、エア供給用流路22には0.05mmの調整溝65を検出孔55に重ねたと同様の状態がつくりだされる。そして、圧力スイッチ25がON状態になってしまうような場合には、圧力スイッチ25がOFF状態となるように圧力制御弁24の操作によって背圧調整が行われる。
【0026】
本実施形態のワーク着座検出装置20によれば、背圧の再調整の際に切り換えボタンを押すだけで、マスタワークを使用した場合と同様の背圧状態を作り出すことができる。そのため、通常の調整作業を行うに当たって作業者はマスタワーク40などを取り扱う必要がなくなり、作業が行い易いものになる。また、ワーク着座検出装置20は、従来の構成において電磁式切換弁31を設け、分岐流路とした調整用エア流路36に可変絞り弁32を設ける簡易な改良によって前記効果を得ることができる。そして、可変絞り弁32の位置は特に限定されず、ワーク着座検出装置20は、どのような構造の工作機械においても適応可能である。
【0027】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では工作機械1を例に挙げて説明したが、他の構造の工作機械に組み込むものであってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…工作機械 5…主軸装置 9…制御装置 11…軸チャック 51…チャック爪 52…当金 53…着座面 55…検出孔 20…ワーク着座検出装置 21…エア供給源 23…電磁開閉弁 24…圧力制御弁 25…圧力スイッチ 26,27…圧力計 31…電磁式切換弁 32…可変絞り弁 35…検出用エア流路 36…調整用エア流路