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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】薬剤散布車
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20250318BHJP
【FI】
A01M7/00 D
A01M7/00 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021203532
(22)【出願日】2021-12-15
(65)【公開番号】P2023088660
(43)【公開日】2023-06-27
【審査請求日】2024-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000141174
【氏名又は名称】株式会社丸山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140682
【弁理士】
【氏名又は名称】妙摩 貞茂
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】山村 純平
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-109661(JP,A)
【文献】特開2000-53016(JP,A)
【文献】特開2002-101802(JP,A)
【文献】特開2001-275542(JP,A)
【文献】特開平10-108609(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0071115(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場(F)を走行する車両(2)に設けられ、少なくとも2WSモードと4WSモードとに前記車両(2)の操舵モードを切替可能な操舵モード切替機構(42)と、
前記操舵モード切替機構(42)における前記操舵モードを作業者が選択操作するための操舵切替操作部(22)と、
前記車両(2)に取り付けられ、前記圃場(F)に薬剤を散布する散布部(50)と、
前記散布部(50)における前記薬剤の散布状態と、前記操舵切替操作部(22)における操作状態とに基づいて、前記操舵モード切替機構(42)を制御して前記車両(2)における前記操舵モードを切り替える制御部(30)と、を備える、薬剤散布車。
【請求項2】
前記制御部(30)は、前記散布状態が、前記散布部(50)において前記薬剤が散布される状態であると判断し、且つ前記操作状態が、前記操舵切替操作部(22)において4WSモードが選択された状態であると判断した場合、前記操舵モード切替機構(42)を制御して前記操舵モードを2WSモードに切り替える、請求項1に記載の薬剤散布車。
【請求項3】
前記制御部(30)が、前記操舵切替操作部(22)において4WSモードが選択された状態であるにも関わらず前記操舵モード切替機構(42)を制御して前記操舵モードを2WSモードに切り替えた場合に、前記操舵切替操作部(22)における前記操作状態は、4WSモードが選択されたままに維持される、請求項2に記載の薬剤散布車。
【請求項4】
前記制御部(30)は、前記散布状態が、前記散布部(50)において前記薬剤散布が停止される状態であると判断し、且つ前記操作状態が、前記操舵切替操作部(22)において4WSモードが選択された状態であると判断した場合、前記操舵モード切替機構(42)を制御して前記操舵モードを4WSモードに切り替える、請求項2又は3に記載の薬剤散布車。
【請求項5】
前記制御部(30)における前記散布状態と前記操作状態とに基づく操舵モード切替制御を前記作業者が無効にするためのキャンセル操作部(21)を更に備える、請求項1~4の何れか一項に記載の薬剤散布車。
【請求項6】
前記制御部(30)は、前記薬剤の散布が必要な前記圃場(F)を前記車両(2)が走行する間でのみ、前記散布状態と前記操作状態とに基づく操舵モード切替制御を有効にする、請求項1~5の何れか一項に記載の薬剤散布車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばブームスプレーヤ等を含む薬剤散布車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されるように、中央のブームと左右一対のブームとを備えており、これらのブームに取り付けられた散布ノズルから薬液を噴出させる防除装置(乗用管理機)が知られている。この装置では、前輪操舵モード、後輪操舵モード、又は前後輪逆位相操舵モードのうちの何れかの操舵モードへの設定が可能になっている。そして、ブームが拡げられて薬剤散布が可能となっている状態では、操舵モードが前輪操舵モードに強制的に移行し、左右のブームが収納されて薬剤散布ができない状態では、操舵モードが前後輪逆位相操舵モードに移行する。また、旋回中であっても、ラジコン送信機において中立スイッチが押された場合や、作業者の操作で直進走行が確認された場合には、操舵モードは前輪操舵モードに移行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-108609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の装置では、作業者によるステアリング操作や、ラジコン送信機における中立スイッチ、右スイッチ又は左スイッチ等のステアリング操作が、操舵モードと連動している。そのため、操舵モードの制御が複雑になってしまう。ラジコンの操作者や作業者も、ステアリング操作に注意を払わなければならない。
【0005】
そこで本発明は、ステアリング操作には関係なく、単純な制御に基づいて操舵モードを自動制御することができ、それによって薬剤散布時の作業性の向上を図ることができる薬剤散布車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る薬剤散布車(1)は、圃場(F)を走行する車両(2)に設けられ、少なくとも2WSモードと4WSモードとに車両(2)の操舵モードを切替可能な操舵モード切替機構(42)と、操舵モード切替機構(42)における操舵モードを作業者が選択操作するための操舵切替操作部(22)と、車両(2)に取り付けられ、圃場(F)に薬剤を散布する散布部(50)と、散布部(50)における薬剤の散布状態と、操舵切替操作部(22)における操作状態とに基づいて、操舵モード切替機構(42)を制御して車両(2)における操舵モードを切り替える制御部(30)と、を備える。
【0007】
この薬剤散布車(1)によれば、作業者は、操舵切替操作部(22)を操作して、何れかの操舵モードを選択する。その上で、制御部(30)は、その操作状態と、薬剤の散布状態とに基づいて、操舵モードを切り替える制御を行う。制御部(30)は、作業者による車両(2)のステアリング操作等には関係なく、何れの操舵モードが選択されているかに基づいて2WSモード、又は4WSモード等の走行制御を行うが、この走行制御に、薬剤の散布状態が加味される。例えば、薬剤が散布される状態の場合に2WSモードで制御したり、薬剤が散布されない(薬剤散布が停止される)状態の場合に4WSモードで制御したりといった走行制御が可能になる。よって、この薬剤散布車(1)では、ステアリング操作には関係なく、単純な制御に基づいて操舵モードを自動制御することができる。作業者にとっての操作の煩わしさが低減されており、よって、薬剤散布時の作業性の向上が図られている。
【0008】
薬剤散布車(1)において、制御部(30)は、散布状態が、散布部(50)において薬剤が散布される状態であると判断し、且つ操作状態が、操舵切替操作部(22)において4WSモードが選択された状態であると判断した場合、操舵モード切替機構(42)を制御して操舵モードを2WSモードに切り替えてもよい。この場合、操舵切替操作部(22)において4WSモードが選択されている状態においても、制御部(30)によって2WSモードでの走行制御が行われる。よって、薬剤散布時における車両(2)の直進性(直進安定性)が確保される。作業者は、操舵モードの選択に気を遣う必要がなく、散布のオン・オフのみに留意すればよい。よって、作業性の向上が図られている。
【0009】
薬剤散布車(1)において、制御部(30)が、操舵切替操作部(22)において4WSモードが選択された状態であるにも関わらず操舵モード切替機構(42)を制御して操舵モードを2WSモードに切り替えた場合に、操舵切替操作部(22)における操作状態は、4WSモードが選択されたままに維持されてもよい。この制御によれば、散布状態が変化しても、操舵切替操作部(22)を操作する必要がない。すなわち、制御部(30)による走行制御が、操舵切替操作部(22)における操作状態よりも優先されており、作業性の更なる向上が図られている。
【0010】
薬剤散布車(1)において、制御部(30)は、散布状態が、散布部(50)において薬剤散布が停止される状態であると判断し、且つ操作状態が、操舵切替操作部(22)において4WSモードが選択された状態であると判断した場合、操舵モード切替機構(42)を制御して操舵モードを4WSモードに切り替えてもよい。この場合、散布が停止しているときには、旋回性に優れた4WSモードで走行制御が行われる。例えば、枕地での旋回等を行うのに効率的である。また、隣りの畝部での散布作業を迅速に開始できる。
【0011】
薬剤散布車(1)は、制御部(30)における散布状態と操作状態とに基づく操舵モード切替制御を作業者が無効にするためのキャンセル操作部(21)を更に備えてもよい。この場合、緊急時等に素早く操舵モード切替制御(自動切替機能)をキャンセルすることができる。
【0012】
薬剤散布車(1)において、制御部(30)は、薬剤の散布が必要な圃場(F)を車両(2)が走行する間でのみ、散布状態と操作状態とに基づく操舵モード切替制御を有効にしてもよい。この場合、圃場(F)間の移動の場合には操舵モード切替制御(自動切替機能)が有効にならないので、例えば、圃場(F)間において2WSモードで車両(2)を走行させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ステアリング操作には関係なく、単純な制御に基づいて操舵モードを自動制御することができる。作業者にとっての操作の煩わしさが低減されており、よって、薬剤散布時の作業性の向上が図られている。。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るブームスプレーヤを示す斜視図である。
図2】車両の操作パネルに設けられたスイッチ類の一例を示す図である。
図3】薬剤散布車の機能ブロック図である。
図4】薬剤散布車が畝部を走行しながら散布作業を行う状態を示す平面図である。
図5】制御部における処理手順を示すフロー図である。
図6図6(a)は薬剤を散布している最中の操舵切替スイッチ周りを示す図、図6(b)は薬剤散布を停止し旋回している最中の操舵切替スイッチ周りを示す図である。
図7図4に続き、薬剤散布車が薬剤散布を停止し枕地を旋回している状態を示す平面図である。
図8図7に続き、薬剤散布車が隣りの畝部を走行しながら散布作業を行う状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
まず図1図3を参照して、本実施形態のブームスプレーヤ1が備える基本構成について説明する。ブームスプレーヤ1は、例えば圃場F(図4等参照)において作物等に薬液散布を行う自走式の乗用管理機(薬剤散布車)である。図1に示されるように、ブームスプレーヤ1は、圃場Fを走行する車両2と、車両2の前部に取り付けられたブーム装置4とを備える。ブーム装置4は、昇降装置13を介して車両2に支持されたセンターブーム(ブーム)5と、センターブーム5の両端に連結された一対のサイドブーム(ブーム)6,6とを含んでいる。センターブーム5及びサイドブーム6には、薬液を噴出させる複数の噴霧ノズル10が設けられている。薬液散布を行う場合、サイドブーム6は、センターブーム5に対して一直線状となるように広げられる。サイドブーム6は、薬液散布を行わないときには折り畳まれた状態で格納される。各サイドブーム6は、複数段のブーム部材からなり、伸縮可能に構成されてもよい。
【0017】
車両2の前部には、作業者が着座する空間を形成するキャビン7が設けられている。車両2の後部には、エンジンを収容するエンジンルーム8が設けられている。キャビン7とエンジンルーム8との間には、センターブーム5及びサイドブーム6から散布される薬液を収容する薬液タンク9が設けられている。車両2は、一対の前輪11と、一対の後輪12とを含んでいる。
【0018】
ブームスプレーヤ1は、車両2を走行させる走行部40と、ブーム装置4の噴霧ノズル10から圃場Fに向けて薬液を噴霧させる(散布する)散布部50とを備えている。走行部40及び散布部50は、車両2に設けられている。走行部40の構成としては公知の構成が採用されてもよいが、以下、一例について説明する。ブームスプレーヤ1では、散布部50の薬液ポンプ51による薬液の噴霧や車両2の走行に必要な動力が、図示しないエンジンの動力でまかなわれる。車両2には、エンジンの動力を伝達するための静油圧式変速機(Hydraulic Static Transmission、HSTとも呼ばれる)が設けられており、HSTによって、エンジンの動力が油圧に変換され、前輪11および後輪12に回転駆動力が供給される。
【0019】
走行部40は、前輪11及び/又は後輪12を駆動させる走行輪駆動部41と、走行輪駆動部41における操舵モードを切り替える操舵モード切替機構42とを有する。走行輪駆動部41は、上記したHST、減速機及びその他の動力伝動系統(いずれも図示せず)を含む。走行輪駆動部41では、前輪11又は後輪12の何れかを駆動する2輪駆動方式が採用されてもよいし、前輪11及び後輪12の両方を駆動する4輪駆動方式が採用されてもよい。或いは、2輪駆動方式と4輪駆動方式とが切替可能であってもよい。
【0020】
走行部40では、2WSモードと4WSモードとが切替可能になっている。操舵モード切替機構42は、2WSモードと4WSモードとに車両2の操舵モードを切替可能である。操舵モード切替機構42としては公知の構成が採用されてもよい。操舵モード切替機構42は、作業者によるハンドル15(図3参照)の操作に対応して、前輪11及び後輪12の操舵角度を変更する。より詳細には、操舵モード切替機構42は、例えば、ハンドル15の操作に連動して駆動される前後の油圧シリンダ(図示せず)を有する。操舵モード切替機構42では、ハンドル15が操作されると、前後の油圧シリンダがそれぞれ伸縮し、この伸縮によって前輪11及び後輪12の操舵角度が変更される。操舵モード切替機構42によって実現される4WSモードは、逆位相方式であってもよいし、同位相方式であってもよい。
【0021】
散布部50は、薬液タンク9と噴霧ノズル10との間を接続する送液管等の配管系統(図示せず)と、車両2に設けられた薬液ポンプ51と、配管に設けられて薬液の流路を開閉する薬液配管バルブ52とを有する。薬液ポンプ51も、エンジンの動力を利用して作動する。散布部50は、制御部30の散布制御部33によって制御されて、圃場Fに薬液を散布する。
【0022】
図2及び図3に示されるように、ブームスプレーヤ1は、キャビン7内であって作業者が着座する運転席の前方に設けられた操作パネル20を有する。操作パネル20は、例えばハンドル15の側方に配置されたいくつかのスイッチ類を含む。スイッチ類は、運転席に着座した作業者の手が届く位置に配置される。操作パネル20は、後述する操舵モードの自動切替機能をオン・オフさせるための操舵モード自動切替機能スイッチ(キャンセル操作部)21と、走行部40の操舵モード切替機構42を制御して2WSモードと4WSモードを切り替えるための操舵切替スイッチ(操舵切替操作部)22と、散布部50を制御して薬液散布をオン・オフさせるための散布スイッチ23とを含んでいる。図2に示されるように、操舵モード自動切替機能スイッチ21、操舵切替スイッチ22及び散布スイッチ23としては、それぞれ、作業者によって操作容易なようにトグルスイッチ又はロッカースイッチ等が採用されている。ただし、これらのスイッチ類の形式は特に限定されず、スライドスイッチ又はボタンスイッチ等の公知の形式のスイッチが採用され得る。
【0023】
作業者が操舵モード自動切替機能スイッチ21をオン操作することで、後述する操舵モード切替制御を有効にすることができる。操舵モード切替制御が有効になっている間、制御部30の操舵モード切替制御部32が走行部40に対して独自の走行制御を実行する。作業者が操舵モード自動切替機能スイッチ21をオフ操作することで、操舵モード切替制御を無効にすることができる。ブームスプレーヤ1は、操舵モード切替制御を可能とするため、車両2における操舵モードを自動的に切り替える制御部30を備える。制御部30は、例えばキャビン7内又はキャビン7の近傍に設けられている。制御部30は、判断部31と、操舵モード切替制御部32と、散布制御部33とを有する。
【0024】
作業者が散布スイッチ23をオン操作することで、薬液配管バルブ52が開かれてセンターブーム5及びサイドブーム6における噴霧ノズル10からの薬液の噴霧(散布)が行われる。作業者が散布スイッチ23をオフ操作することで、薬液配管バルブ52が閉じられて薬液の噴霧(散布)が停止する。なお、薬液ポンプ51は、別のスイッチの操作によって作動する。薬液ポンプ51が作動することで、薬液タンク9内の薬液が撹拌されると共に、噴霧ノズル10に向けて薬液が圧送される。なお、散布スイッチ23の操作に連動してサイドブーム6が開閉してもよい。
【0025】
作業者は、操舵切替スイッチ22を用いて、操舵モードを選択操作する。作業者が操舵モードとして2WSモードを選択すると(例えば図2に示されるように操舵切替スイッチ22を左に倒すと)、基本的に、制御部30の操舵モード切替制御部32によって操舵モード切替機構42が制御され、2WSモードにて車両2の走行制御が行われる。作業者が操舵モードとして4WSモードを選択すると(例えば図2に示されるのとは逆に操舵切替スイッチ22を右に倒すと)、基本的に、制御部30の操舵モード切替制御部32によって操舵モード切替機構42が制御され、4WSモードにて車両2の走行制御が行われる。本実施形態では、操舵モード切替制御部32は、単に操舵切替スイッチ22における操作状態(何れの操舵モードが選択されているかの選択状態)のみに基づくのではなく、当該操作状態に加えて、散布部50における薬液の散布状態にも基づいて、車両2における操舵モードの切替制御が行われる。
【0026】
制御部30は、CPU等のプロセッサと、記憶装置であるROMおよびRAMとを含むコンピュータである。制御部30は、操作パネル20のスイッチ類と電気的に接続されており、スイッチ類の操作状態に対応して、所定の制御を実行可能である。以下、図3以降の各図を参照して、ブームスプレーヤ1の制御部30における走行制御について説明する。図4は、ブームスプレーヤ1が圃場Fにおける散布エリアF1を走行しながら散布作業を行う状態を示す平面図である。図5は、制御部30における処理手順を示すフロー図である。図4に示されるように、ブームスプレーヤ1は、サイドブーム6を展開した状態で散布エリアF1の畝部F1aに進入している。このとき、作業者によって、操作パネル20の操舵モード自動切替機能スイッチ21はオン操作されている。また操舵切替スイッチ22においては、例えば、2WSモードが選択されている。なお、操舵切替スイッチ22において、4WSモードが選択されていてもよい。
【0027】
図5に示されるように、まず、制御部30の判断部31は、操舵モード自動切替機能スイッチ21がオンであるか否かを判断する(ステップS10)。操舵モード自動切替機能スイッチ21がオフである場合には、ステップS10の判断処理はNOに進み、制御部30によって、操舵制御が実行される(ステップS20)。通常の操舵制御では、操舵モード切替制御部32は、操舵切替スイッチ22における操作状態のみに基づいて操舵モードの切替制御を行う。操舵モード自動切替機能スイッチ21がオンである場合には、ステップS10の判断処理はYESに進み、判断部31は、操舵切替スイッチ22において2WSモードが選択されているか4WSモードが選択されているかを判断する(ステップS11)。操舵切替スイッチ22において2WSモードが選択されている場合には、ステップS11の判断処理は2WSに進み、操舵モード切替制御部32は、2WSモードでの走行制御を実行する(ステップS12)。
【0028】
操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択されている場合には、ステップS11の判断処理は4WSに進み、判断部31は、散布スイッチ23がオンであるか否かを判断する(ステップS13)。散布スイッチ23がオンである場合には、ステップS13の判断処理はYESに進み、操舵モード切替制御部32は、2WSモードでの走行制御を実行する(ステップS12)。散布スイッチ23がオフである場合には、ステップS13の判断処理はNOに進み、操舵モード切替制御部32は、4WSモードでの走行制御を実行する(ステップS14)。図4に示される畝部F1aへの入口(始端)に車両2が位置する状態で、もし操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択されていた場合、車両2が畝部F1aを走行すると共に散布オン操作がなされると、ステップS12において、2WSモードでの走行制御が強制的に実行される。これにより、直進性が保たれ、車両2の走行が安定する。
【0029】
図6(a)に示されるように、操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択されているにも関わらず操舵モード切替制御部32によって2WSモードに切り替えられた場合、操舵切替スイッチ22の近傍に配置された4WSモードランプ27は消えた状態となり、2WSモードランプ26が点灯する。これにより、作業者は2WSモードでの走行制御が行われていることを認識するが、操舵切替スイッチ22における操作状態は、4WSモードが選択されたままである。すなわち、操舵切替スイッチ22における操作状態は、4WSモードが選択されたままに維持される。したがって、電気系統(制御に関わる配線系統)も、4Wモード選択時と同様である。この状態において、操舵モード切替制御部32が、2WSモードを実行するべく強制的な割込み制御を実行する。
【0030】
制御部30における処理としては、続いて、判断部31が、散布作業が終了したか否かを判断する(ステップS15)。判断部31は、例えば、車両2に搭載されたGPSを利用して、車両2が圃場F内に位置するか否か(又は車両2が圃場Fから離れているか否か、等)を検知して、ステップS15の判断処理を行ってもよい。或いは、判断部31は、車両2の走行パターンと散布部50における散布パターンを記憶しており、一定時間散布部50における薬剤散布が行われなかった場合に、散布作業が終了したと判断してもよい。散布スイッチ23がオフであるか(又はオンであるか)の状態判断結果が、散布作業が終了したか否かの判断に用いられてもよい。判断部31によって散布作業が終了したと判断されると(ステップS15;YES)、制御部30における制御は終了する。判断部31によって散布作業は続行していると判断されると(ステップS15;NO)、処理は、ステップS10の判断に戻る。
【0031】
続いて車両2が畝部F1aにおける散布作業を終え、図4に示されるように畝部F1aの終端地点に到達すると、作業者によって散布スイッチ23がオフ操作される。この場合、処理はステップS14に進み、4WSモードでの走行制御が実行される。よって、図7に示されるように、車両2が枕地エリアF2を走行している間、4WSモードによる小回りのきいた走行が可能となる。畝部F1aにおいて2WSモードで車両2が走行していたが、作業者は散布スイッチ23をオフ操作するのみで、自動的に4WSモードでの走行制御が実行される。図6(b)に示されるように、操舵モード切替機構42によって4WSモードの走行制御に戻された場合、操舵切替スイッチ22の近傍に配置された4WSモードランプ27が点灯した状態となる。これにより、作業者は4WSモードでの走行制御が行われていることを認識する。
【0032】
なお、図4に示される散布状態でもし操舵切替スイッチ22において2WSモードが選択されていた場合には、作業者は、図7に示される状態で操舵切替スイッチ22を操作して4WSモードを選択すればよい。
【0033】
更に、車両2が図8に示される隣りの畝部F1bへの入口(始端)に車両2が位置する状態で、もし操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択されていた場合、車両2が畝部F1bを走行すると共に散布オン操作がなされると、ステップS12において、2WSモードでの走行制御が強制的に実行される。これにより、再び直進性が保たれ、車両2の走行が安定する。2WSモードランプ26及び4WSモードランプ27における表示は、制御部30によって制御されて、図6(a)に示される状態(スイッチとは反対側が点灯する状態)に変更される。枕地エリアF2において4WSモードで車両2が走行していたが、作業者は散布スイッチ23をオン操作するのみで、自動的に2WSモードでの走行制御が実行される。
【0034】
本実施形態のブームスプレーヤ1によれば、作業者は、操舵切替スイッチ22を操作して、何れかの操舵モードを選択する。その上で、制御部30は、その操作状態と、薬剤の散布状態とに基づいて、操舵モードを切り替える制御を行う。制御部30は、作業者による車両2のステアリング操作等には関係なく、何れの操舵モードが選択されているかに基づいて2WSモード、又は4WSモード等の走行制御を行うが、この走行制御に、薬剤の散布状態が加味される。例えば、薬剤が散布される状態の場合に2WSモードで制御したり、薬剤が散布されない(薬剤散布が停止される)状態の場合に4WSモードで制御したりといった走行制御が可能になる。よって、このブームスプレーヤ1では、ステアリング操作には関係なく、単純な制御に基づいて操舵モードを自動制御することができる。作業者にとっての操作の煩わしさが低減されており、よって、薬剤散布時の作業性の向上が図られている。
【0035】
ブームスプレーヤ1において、制御部30は、散布状態が、散布部50において薬剤が散布される状態であると判断し、且つ操作状態が、操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択された状態であると判断した場合、操舵モード切替機構42を制御して操舵モードを2WSモードに切り替える(図5のステップS12参照)。よって、操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択されている状態においても、制御部30によって2WSモードでの走行制御が行われる(図6(a)参照)。よって、薬剤散布時における車両2の直進性直進安定性が確保される。作業者は、操舵モードの選択に気を遣う必要がなく、散布のオン・オフのみに留意すればよい。よって、作業性の向上が図られている。
【0036】
ブームスプレーヤ1において、制御部30が、操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択された状態であるにも関わらず操舵モード切替機構42を制御して操舵モードを2WSモードに切り替えた場合に、操舵切替スイッチ22における操作状態は、4WSモードが選択されたままに維持される。この制御によれば、散布状態が変化しても、操舵切替スイッチ22を操作する必要がない。すなわち、制御部30による走行制御が、操舵切替スイッチ22における操作状態よりも優先されており、作業性の更なる向上が図られている。
【0037】
ブームスプレーヤ1において、制御部30は、散布状態が、散布部50において薬剤散布が停止される状態であると判断し、且つ操作状態が、操舵切替スイッチ22において4WSモードが選択された状態であると判断した場合、操舵モード切替機構42を制御して操舵モードを4WSモードに切り替える(図5のステップS14参照)。よって、散布が停止しているときには、旋回性に優れた4WSモードで走行制御が行われる。例えば、枕地エリアF2での旋回等を行うのに効率的である(図7参照)。また、隣りの畝部F1bでの散布作業を迅速に開始できる。
【0038】
ブームスプレーヤ1は、制御部30における散布状態と操作状態とに基づく操舵モード切替制御を作業者が無効にするための操舵モード自動切替機能スイッチ21を更に備えている。この場合、作業者は操舵モード自動切替機能スイッチ21をオフ操作することで、緊急時等に素早く操舵モード切替制御自動切替機能をキャンセルすることができる。
【0039】
ブームスプレーヤ1において、制御部30は、薬剤の散布が必要な圃場Fを車両2が走行する間でのみ、散布状態と操作状態とに基づく操舵モード切替制御を有効にする(図5のステップS10~S20参照)。この場合、圃場F間の移動の場合には操舵モード切替制御自動切替機能が有効にならないので、例えば、圃場F間において2WSモードで車両2を走行させることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、散布状態がオンと判断された場合に2WSモードに走行制御されるのに伴って、操舵切替スイッチ22における操作状態が2WSモードを選択する状態に変更されてもよい。操舵モード自動切替機能スイッチ21が省略されてもよい。散布作業中、すなわち圃場Fを車両2が走行している間は自動的に上記操舵モードの切替制御が行われてもよい。
【0041】
上記実施形態では、ステップS13において散布スイッチ23がオンであるか否かを判断したが、この態様に限られない。散布状態の判断は、例えば噴霧ノズル10から実際に薬液(薬剤)が噴出しているか否かに基づいて行われてもよい。例えば、薬液配管バルブ52の開閉状態等が検知されてもよい。
【0042】
本発明は、複数の噴霧ノズルを備える薬剤散布車であれば、ブームスプレーヤ以外の薬剤散布車にも適用可能であり、例えば、スピードスプレーヤ等に適用可能である。薬剤散布車によって散布される薬剤は、薬液に限られず、粉体又は粒体等が散布されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…ブームスプレーヤ、2…車両、4…ブーム装置、5…センターブーム(ブーム)、6…サイドブーム(ブーム)、20…操作パネル、21…操舵モード自動切替機能スイッチ(キャンセル操作部)、23…散布スイッチ、22…操舵切替スイッチ(操舵切替操作部)、30…制御部、32…操舵モード切替制御部、33…散布制御部、40…走行部、42…操舵モード切替機構、50…散布部、F…圃場、F1…散布エリア、F1a,F1b…畝部、F2…枕地エリア。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8