(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】オートフォーカスサンプルイメージング装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20250318BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20250318BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N21/64 E
G02B21/00
(21)【出願番号】P 2021513300
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 US2019050330
(87)【国際公開番号】W WO2020055810
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-12
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520497025
【氏名又は名称】フリューダイム カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】サンドキュール,ダーフ
(72)【発明者】
【氏名】ロボダ,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】カルー,アダム
(72)【発明者】
【氏名】アスカーポワー,カシャヤー
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-133617(JP,A)
【文献】特開平08-211282(JP,A)
【文献】特表2004-528605(JP,A)
【文献】特開2013-065015(JP,A)
【文献】特開2014-010216(JP,A)
【文献】国際公開第2018/011869(WO,A1)
【文献】特開平10-090589(JP,A)
【文献】特表2016-522887(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0260598(US,A1)
【文献】特開2015-194544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0198355(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G02B 21/00 - G02B 21/36
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動サンプルステージと、
サンプルを検査するための光学顕微鏡と、
サンプリングシステムと、
オートフォーカスシステムと、
を備え、
前記オートフォーカスシステムは、
照射源と、
オートフォーカスセンサと、
オートフォーカス光学構成要素と、
を備え、
前記オートフォーカス光学構成要素のうちの1つは複数の絞りを備え、
前記複数の絞りは、規則的な形状に配置され、前記規則的な形状において、前記規則的な形状の頂点にある頂点絞りに加えて、前記規則的な形状の重心にある重心絞りが存在し、
前記重心絞りは、サンプルのアブレーションが発生する前記サンプル上のポイントに
、サンプルのアブレーションが発生する前記サンプル上の前記ポイントにおける1つの焦点を測定できるように、照射放射線を伝えるように構成され、
複数の前記頂点絞りは、
サンプルのアブレーションが発生する前記サンプル上の前記ポイント周辺の
複数の追加の焦点を測定できるように
、照射放射線を伝えるように構成され、
前記重心絞りは、
サンプルのアブレーションが発生する前記サンプル上の前記ポイントからの読み取り
値による前記焦点の計算を容易にするように構成され、
前記オートフォーカスシステムは、前記1つは複数の絞りを通過する照射放射線からのフォーカスの測定が失敗する場合の冗長性を与えるように構成され、
前記サンプリングシステム及び前記オートフォーカスシステムが共焦点である、
装置。
【請求項2】
前記光学顕微鏡が前記サンプリングシステム及び前記オートフォーカスシステムと共焦点であ
り、
前記複数の絞りを備える前記オートフォーカス光学構成要素はハイブリッドマスクであって、前記ハイブリッドマスクが、
前記複数の絞りを含む不透明領域であって、前記複数の絞りを除き、照射放射線をブロックする不透明領域と、
照射放射線の通過を可能とする領域と、
を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記サンプリングシステム、前記オートフォーカスシステム、及び、前記光学顕微鏡が全て少なくとも幾つかの光学構成要素を共有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記装置は、前記オートフォーカス光学構成要素からの読み出しに応じて前記サンプルステージを移動させることによってオートフォーカスを行なうように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記装置は、サンプルに依存しないオートフォーカスを行なう、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記オートフォーカスシステムがサンプル実行中にオートフォーカスを行なう、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記オートフォーカスシステムが、X座標、Y座標、又は、X-Y座標にわたって焦点マップを投影する、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記オートフォーカスシステムが複数の絞りを備え、前記複数の絞りが2次元に配置される、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記オートフォーカスシステムは、前記オートフォーカスセンサに衝突し得る複数のスポットを与える、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記オートフォーカスシステムが複数のLED及び/又はレーザーダイオードを備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記装置がオートフォーカスと検査絞りとの間で切り替わる必要がない、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記オートフォーカスセンサがイメージセンサを備え、前記イメージセンサが前記装置の光学顕微鏡と共有される、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記照射源が少なくとも2つのLEDを備え、前記2つのLEDが交互照射を行なうように構成される、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記照射源が少なくとも2つのレーザーダイオードを備え、前記2つのレーザーダイオードが交互照射を行なうように構成される、請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記オートフォーカスシステムは、前記オートフォーカスセンサと整合する1つ以上のスポット又はラインの事前に較正された座標を必要としない、請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
オートフォーカスが前記スポット間又はライン間のオフセットに基づく、請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記オートフォーカスセンサと整合する2つ以上のスポット又はラインが最良の焦点で重なり合う、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
オートフォーカスが前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポットの数に基づく、請求項1から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
オートフォーカスが前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポットの均一性に基づく、請求項1から18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記サンプリングシステムがレーザーアブレーションサンプリングシステムであり、前記レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザー源の焦点は、前記オートフォーカスシステムのオートフォーカス構成要素及び前記オートフォーカスセンサと共焦点である、請求項1から19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記サンプリングシステムがレーザーアブレーションサンプリングシステムであり、前記装置はガス導管によって前記レーザーアブレーションサンプリングシステムに結合されるICPイオン化システムを更に備える、請求項1から20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
質量分析計を更に備える、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
オートフォーカスに基づくサンプリングを含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の装置を使用するオートフォーカスの方法。
【請求項24】
生物学的サンプルから質量タグをサンプリングすることを更に含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
このPCT出願は、その全内容はあらゆる目的のために参照により組み入れられる、2018年9月10日に出願された米国仮特許出願第62/729,239号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、レーザーアブレーション後のイメージング質量分析(IMS)を使用するサンプルのイメージング、及び、イメージングマスサイトメトリー(IMC(商標))による生物学的サンプルのイメージングに関する。
【背景技術】
【0003】
焦点は、多くの測定技術において重要なパラメータである。放射線を自動的に集束させることができるシステム(オートフォーカスシステム)は、生物学的物質のイメージングのため、及び、レーザー放射線がサンプルの異なる位置をアブレーションできるようにするために使用されてきた。
【0004】
既存のオートフォーカスシステムの1つのグループは絞りを利用し、絞りを介して、放射線が、1つ以上のレンズに方向付けられた後、サンプルへと向けられ、センサに向かって反射される。絞りとサンプルとの幾つかの異なる相対位置が検査され、また、最大強度を伴う位置が最も焦点が合っているものとして選択される。この種のオートフォーカスシステムは、生物学的サンプルに関して機能しなくなる可能性がある。これは、例えばレーザーアブレーションによるサンプルからのサンプル材料の除去に依存するシステムにおける特定の問題である。これは、レーザーがオートフォーカスシステムと共焦点である場合に、オートフォーカスできなかったことがデータ品質及びサンプル完全性の両方を危うくするからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、サンプルのイメージングのための更なる改善された装置及び技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
大まかに言えば、本明細書中に開示される分析装置は、イメージング元素質量分析を実行するための3つの広く特徴付けられたシステムを備える。
【0007】
装置はオートフォーカスシステムを含み得る。オートフォーカスシステムは、照射源及びオートフォーカスセンサを含み得る。装置は、サンプリングシステム、光学顕微鏡、及び、可動サンプルステージのうちの1つ以上を更に含み得る。サンプリングシステム及びオートフォーカスシステム(及び、随意的に更に光学顕微鏡)は共焦点であってもよい。装置は、本明細書中に記載されるように、更なるシステムを含んでもよい。
【0008】
第1のシステムはオートフォーカスシステムであり、このオートフォーカスシステムは、サンプリング・イオン化システムのレーザーによる最適なサンプリングのためにサンプルをサンプルチャンバ内の正しいポイントに配置する。
【0009】
第2のシステムはサンプリング・イオン化システムである。このシステムはサンプルチャンバを含み、該サンプルチャンバは、サンプルが分析を受けるときにサンプルが配置される構成要素である。サンプルチャンバは、サンプルを保持するステージを備える(一般に、細胞懸濁液が顕微鏡のスライド上へ落とされてしまった場合など、サンプル、例えば、組織切片、細胞の単層、又は、個々の細胞は、顕微鏡スライドなどのサンプルキャリア上にあり、また、スライドはステージ上に配置される)。サンプリング・イオン化システムにおけるレーザーは、サンプルからの材料の除去を引き起こすプロセスの一部として又はサンプリングシステムの下流側の別個のイオン化システムによってイオンに変換されるサンプルチャンバ内のサンプルから材料を除去するように作用する(除去された材料は、本明細書中ではサンプル材料と呼ばれる)。元素イオンを生成するに、ハードイオン化技術が使用される。その後、イオン化された材料は、検出器システムである第3のシステムによって分析される。検出器システムは、決定されるべきイオン化されたサンプル材料の特定の特性に応じて異なる形態をとることができ、例えば、質量分析ベースの分析器装置内の質量検出器である。
【0010】
本発明は、2次元に配置された複数の絞りなど、オートフォーカスシステム内の複数の絞りを含むオートフォーカス構成要素を介した現在のIMS及びIMC装置及び方法に対する改良を提供する。オートフォーカスシステムの照射源は、複数の絞りを介してアブレーションされるべきサンプルへと放射線を方向付ける。複数の絞りが使用される(つまり、フォーカス分析に複数の絞りが利用可能である)ため、オートフォーカスシステムは、1つ以上の絞りを通過する照射放射線からのサンプルのフォーカスの測定が失敗する場合に冗長性を与え(例えば、様々な組成、不均一なトポロジー、又はボイドを持つ組織は、オートフォーカス用の単一の絞りを通じて照射放射線を十分に検出できるように照射放射線を特定の位置で反射できない可能性がある)、そのため、失敗するオートフォーカスの試行回数を減らすことができる。
【0011】
したがって、動作時、サンプルは装置に取り込まれ、また、照射放射線の焦点とサンプルとの所定の相対位置に関してサンプルがどのように焦点が合っているかが測定される(例えば、焦点スコアを割り当てることによって)。その後、照射放射線の焦点とサンプルとの相対位置が変更され、1つ以上の変更された位置に関する焦点の測定値が取得される。その後、位置を比較して、焦点を増大させる方向又は位置を確立できる。その後、相対位置を再度変更し、随意的に更なる測定値を取得できる。このプロセスを繰り返して、焦点スコアを更に向上させることができる。所望の焦点スコアが得られた時点で、レーザー源を使用してイオン化された材料を生成するべくサンプルを(例えばレーザーアブレーションによって)サンプリングでき(サンプリングが蒸気/特定の材料を生成してもよく、蒸気/特定の材料は、その後、イオン化システムによってイオン化される)、また、サンプル材料のイオンが検出器システム内へ通される。検出器システムは多くのイオンを検出できるが、これらのイオンの殆どは、サンプルを必然的に形成する原子のイオンになる。一部の用途では、例えば地質学的又は考古学的用途などの鉱物の分析では、これで十分な場合がある。
【0012】
場合によっては、例えば生物学的サンプルを分析する際に、サンプルの自然元素組成が適切に情報を与えない場合がある。これは、一般に、全てのタンパク質と核酸とが同じ主成分原子から構成されるからであり、そのため、タンパク質/核酸を含む領域を、そのようなタンパク質又は核酸材料を含まない領域から区別することはできるが、特定のタンパク質を他の全てのタンパク質から区別することはできない。しかしながら、通常の条件下で分析されるべき材料に存在しない又は少なくとも有意な量で存在しない原子(例えば、希土類金属などの特定の遷移金属原子;更なる詳細については以下の標識化に関する節を参照されたい)によってサンプルを標識化することによって、サンプルの特定の特性を決定することができる。IHC及びFISHと同様に、検出可能な標識は、とりわけ、サンプル上又はサンプル内の分子を標的にする抗体、核酸又はレクチンなどのSBPを使用することにより、サンプル上又はサンプル内の特定の標的(所定の細胞又はスライド上の組織サンプルなど)に付着され得る。イオン化された標識を検出するために、検出器システムが使用される。これは、検出器システムがサンプルに必然的に存在する原子からイオンを検出するようになっているからである。検出された信号を、それらの信号を生じさせたサンプルのサンプリングの既知の位置に関連付けることにより、それぞれの位置、すなわち、自然元素組成物及び任意の標識原子の両方に存在する原子の画像を生成することができる。検出前にサンプルの本来の元素組成物が枯渇している態様では、画像が標識原子からしか成っていない場合がある。この技術により、多くの標識を並行して分析でき(多重化とも呼ばれる)、これは、生物学的サンプルの分析において大きな利点である。
【0013】
本発明は、オートフォーカス構成要素であって、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素を提供する。
【0014】
また、本発明は、サンプルに焦点を合わせるためのオートフォーカスシステムであって、
サンプルを照らすために放射線を放出するための照射源と、
照射源からの放射線が複数の絞りを通過できるようにする本発明のオートフォーカス構成要素と、
放射線をサンプルに向けて集束させるために放射線の光路中に配置される対物レンズと、
サンプルから反射される放射線を受けるように配置されるとともに、オートフォーカス構成要素と共焦点になるように配置されるオートフォーカスセンサと、
を備えるオートフォーカスシステムも提供する。
【0015】
また、本発明は、生物学的サンプルを分析するための装置において、
オートフォーカスシステムと、
サンプルから材料を除去して、前記材料をイオン化し、元素イオンを形成するためのサンプリング・イオン化システムであって、サンプルをサンプリングするためのレーザー源を備える、サンプリング・イオン化システムと、
を備え、
サンプリング・イオン化システムのレーザー源の焦点が、オートフォーカス装置のオートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサと共焦点である、
装置も提供する。
【0016】
幾つかの実施形態では、サンプリング・イオン化システムがサンプリングシステム及びイオン化システムを備え、この場合、サンプリングシステムはレーザー源とサンプルステージとを備え、イオン化システムは、サンプリングシステムによってサンプルから除去された材料を受けるとともに、前記材料をイオン化して元素イオンを形成するようになっている。
【0017】
また、本発明の態様は、
サンプルの第1の位置の焦点スコアを決定するステップと、
サンプルを第2の位置に移動させるステップと、
第2の位置の焦点スコアを決定するステップと、
焦点スコア同士を互いに比較するステップと、
を含み、
焦点スコアを決定するステップは、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過される、ステップと、サンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み、サンプルを移動させるステップは、照射放射線がサンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)、
オートフォーカス方法も提供する。
【0018】
また、本発明の態様は、
サンプルの位置nで焦点の方向を決定するステップと、
サンプルを焦点の方向で位置(n+1)へ移動させるステップと、
を含み、
焦点の方向を決定するステップは、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過され、オートフォーカス構成要素の絞りのうちの少なくとも2つが、照射放射線がオートフォーカス構成要素を通過する軸でオフセットされる、ステップと、前記オートフォーカスセンサを用いてサンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み、サンプルを移動させるステップは、照射放射線がサンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)、
オートフォーカス方法も提供する。
【0019】
また、本発明の態様は、オートフォーカスの方法(例えば、方法がオートフォーカス方法を含む)を実行するステップと、サンプルをサンプルの平面内で(すなわち、X軸及び/又はY軸内で)サンプルの平面内の第2の位置へ移動させるステップと、再びサンプルの平面内の第2の位置で最適焦点位置を記録するために、本発明のオートフォーカス方法を含む方法を繰り返し実行するステップとを含む、表面のトポロジーをマッピングする方法も提供する。
【0020】
本発明は、サンプルを分析する方法において、
レーザーアブレーションのためのレーザーの焦点にサンプルを配置するために本発明の方法を実行するステップと、
複数の位置でサンプルステージ上のサンプルのレーザーアブレーションを行なうステップと、
プルームをイオン化及び質量分析に晒すステップであって、プルーム内の原子の検出がサンプルの画像の構築を可能にし、随意的に、複数の位置が複数の既知の位置である、ステップと、
を含む方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】サンプルの焦点が完全に合った単一絞りオートフォーカス構成要素を備える従来技術のオートフォーカスシステムにおける照射放射線経路の概略図である。
【
図2】単一絞りオートフォーカス構成要素を備える従来技術のオートフォーカスシステムにおける照射源から焦点が外れたサンプルへの光の照射放射線経路の概略図である。
【
図3】単一絞りオートフォーカス構成要素を備える従来技術のオートフォーカスシステムにおける焦点が外れたサンプルからオートフォーカスセンサへの光の照射放射線経路の概略図である。
【
図4】サンプルの焦点が完全に合った複数絞りオートフォーカス構成要素を備える従来技術のオートフォーカスシステムにおける照射放射線経路の概略図である。
【
図5】サンプルの焦点が完全に合ったオフセット絞りを伴う本発明の複数絞りオートフォーカス構成要素を備える従来技術のオートフォーカスシステムにおける照射放射線経路の概略図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るオートフォーカスシステムの製造中にオートフォーカス構成要素をオートフォーカスセンサとの共焦点位置に至らせるプロセスの概略図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るオートフォーカスシステム及びレーザーベースのサンプリング・イオン化システムを備える本発明の装置の製造中にレーザー放射線の焦点をオートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサとの共焦点位置に至らせるプロセスの概略図である。
【
図8】9個の予期される位置(すなわち、関心領域)で検出される反射放射線を示す、本発明の9絞りオートフォーカス構成要素から反射された照射放射線を検出する本発明の実施形態のオートフォーカスシステムにおけるオートフォーカスセンサからの画像である。
【
図9】予期される位置(すなわち、関心領域)のうちの幾つかであるが全てではない位置で検出される反射放射線を示す、本発明の9絞りオートフォーカス構成要素から反射された照射放射線を検出する本発明の実施形態のオートフォーカスシステムにおけるオートフォーカスセンサからの画像である。
【
図10】本発明の実施形態のハイブリッドオートフォーカス構成要素の配置の図である。
【
図11】本発明の実施形態のサンプルトポロジーマッピング方法を使用して生成されたサンプルのZプロファイルのプロットである。プロットは、最適な焦点でのZ位置を示すために陰影が付けられており、グラフの右側に各陰影に関する数値範囲が示される。この例では、X座標又はY座標における増加が、このZ位置における増加に対応する。
【
図12】本発明の実施形態に係るオートフォーカスセットアップの概略図である。2つの光源が使用され、それらの光源の光は、対物レンズの焦点面に焦点が合った小さい絞りを通って案内される。サンプルの焦点がぼけている場合、カメラは、ぼやけるだけでなくサンプルでの各LEDの照射角度に応じてオフセットすべく各LEDからの画像を観察する。
【
図13】上:本発明の実施形態に係る+60μmのデフォーカス距離で取得されたLED画像。2つの画像は、同様にぼやけており、各LEDにおける照射方向に沿ってオフセットされる。下:2つの画像間の計算された相関関数。放物線状のピークフィッティングが、+60μmの焦点オフセットに対応する-512.08ピクセルのピーク位置を与える。
【発明を実施するための形態】
【0022】
動作中、放射線は、照射源から放出され、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素の絞りを通過し、ステージ上のサンプルに向けられる。照射放射線はサンプルによって反射される。反射された放射線は、オートフォーカス構成要素と共焦点であるオートフォーカスセンサに向けられる。レーザーベースのサンプリング・イオン化システムのレーザーは、存在する場合、オートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサとも共焦点である。反射された放射線は、オートフォーカスセンサの幾つかの位置で検出でき、各位置は、放射線が通過したオートフォーカス構成要素の絞りに相関する。センサで検出される反射された放射線が分析される(例えば、絞りに相関する各位置での放射線の強度を評価するなどして、フォーカススコアを計算する-全ての絞りに対応する位置からの強度の合計)。その後、照射放射線の焦点とサンプルとの相対位置が変更され、また、サンプルから反射された放射線のオートフォーカスセンサによる焦点の更なる測定値が取得される。その後、このプロセスが繰り返され、照射放射線の焦点とサンプルとの相対位置が3回調整され、3回目の焦点が測定され、以下同様である。最大焦点に達するまで、このサイクルを反復して繰り返すことができる。その後、サンプルを、存在する場合にはレーザーを備えるサンプリング・イオン化システムによってサンプリングしてイオン化することができ、この場合、レーザーの焦点(オートフォーカスセンサ及びオートフォーカスの絞りと共焦点である)にサンプルを位置させるため、最大の効果が得られる。したがって、複数の絞りを備える本発明のオートフォーカス構成要素を備える様々なタイプのオートフォーカス装置を、本開示を実施する際に使用することができ、その幾つかが以下で詳細に説明される。
【0023】
質量検出に基づく分析器
本出願のオートフォーカスシステム及び方法は、前処理の必要がない、迅速なオートフォーカス、オートフォーカスに対する低コストの解決策、特徴の作成、焦点マップの生成、及び/又は、精度の向上などの1つ以上の利点を与え得る。特定の態様において、オートフォーカシングシステム及び方法は、レーザーアブレーションベースの質量分析のためのオートフォーカスを行なうことができる。また、オートフォーカスシステム及び方法は、レーザーアブレーションベースの質量分析を導くために使用される光学顕微鏡(例えば、検査システム)のフォーカスを行なうことができる。サンプルは、表面トポロジーが異なる生物学的組織であってもよい。特定の態様において、サンプルは、質量タグ付けされたSBPで染色されてもよい。従来の蛍光顕微鏡法とは異なり、イメージングマスサイトメトリーは広い視野にわたって同時に画像を取得しない。むしろ、個々のスポット(ピクセルなど)は、放射線(レーザーアブレーションなど)によってサンプルから除去されて、質量分析計に送出される。単一細胞の分解能以上の画像を取得するのに、個々のスポットは小さい(例えば、1ミクロンの大きさ程度の範囲内)。そのため、放射線を正確にサンプルに集束させることが重要である。サンプル(又は支持スライド)の傾きの変動、サンプルステージの制御の変動、システムドリフト、及び/又は、サンプルのトポロジーの変動は、焦点とサンプル表面との関係の変動につながる場合があり、それにより、サンプリング及びサンプリングの一貫性に悪影響を及ぼし得る。
【0024】
本出願の装置は、本明細書に記載の実施形態のいずれかに係るオートフォーカスシステムを含み得る。オートフォーカスシステムは、照射源及びオートフォーカスセンサを含み得る。本明細書で更に論じられるように、装置は更なる構成要素を含み得る。
【0025】
特定の態様において、装置は、レーザーアブレーションシステムなどのサンプリングシステムを更に含む。サンプリングシステム及びオートフォーカスシステムは共焦点であってもよい。装置は、例えば関心領域を特定するために、サンプルの検査のための光学顕微鏡を更に含んでもよい。装置は、可動サンプルステージを更に含んでもよい。
【0026】
オートフォーカスシステムの照射源は、例えば、適切なビーム整形光学素子を伴うレーザーダイオード、又は、特定のレンズ系及び絞り又は絞りのセットを伴う明るいLEDであってもよい。検出器は、例えば、検査に使用するのと同じカメラ(オートフォーカス光と照射光との間の区別は、LEDパルス、光学フィルタリングによってリアルタイムで、又は、各ラインの最初又は最後でオートフォーカスを実行することによって非リアルタイムで実現できる)、予期される並進方向に沿って方向付けられたラインセンサ、又は、位置に敏感なフォトダイオードとなり得る。特定の態様では、オートフォーカスシステムの照射源が光学顕微鏡と共有されてもよい。或いは、オートフォーカスシステムの照射源が光学顕微鏡の照射源とは別個であってもよい。
【0027】
オートフォーカスシステムは、ストリップ又は他のパターンの光がスライドにある角度で入射する照射スキームをもたらし、その後、幾つかの検出器(カメラ又は他の位置に敏感なデバイス)を使用してスライド表面上の光のパターンのXY位置を検出してもよい。入射光とスライド法線との間の角度に起因して、何らかの較正された最良焦点位置と比較した戻り光の変位は、デフォーカス量に線形的に依存し、そのため、最良焦点位置を直接見つけることができる(完全走査が不要である)。
【0028】
オートフォーカスシステム
オートフォーカスシステムは、一般に、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素、照射源、及び、オートフォーカスセンサなどの一連の構成要素を備える。これらの構成要素の配置に基づいて、必要に応じて、様々な光学構成要素を含めることができる。
【0029】
本明細書に記載のオートフォーカスシステムは、オートフォーカスステップを使用する本明細書に記載の本発明の方法で使用され得る。したがって、本発明は、装置(例えば、イメージング質量分析計のイメージングマスサイトメーター)をオートフォーカスするための本発明のオートフォーカスシステムの使用を提供する。
【0030】
装置は、サンプルステージを移動すること及び/又は光学素子を調整することによってオートフォーカス(例えば、オートフォーカス補正)を行なうように構成されてもよい。特定の態様において、装置は、オートフォーカス構成要素からの読み出しに応じてサンプルステージを移動することによってオートフォーカスを行なうように構成されてもよい。特定の態様において、装置は、例えばサンプルステージのz位置のみが移動されるときに、光学素子を調整することによってオートフォーカスを行なうように構成されていない。そのため、光学素子は、焦点を合わせるために移動できない場合がある。
【0031】
装置は、例えば、例えばサンプルによって与えられる特徴又はコントラストに依存しない、サンプルに依存しないオートフォーカスを行なってもよい。オートフォーカスシステムは、例えば、サンプルステージがサンプルを異なるX、Y座標に配置した場合に、サンプル実行中にオートフォーカスを行なってもよい。
【0032】
特定の態様において、オートフォーカスシステムは、迅速なオートフォーカス(例えば、迅速なオートフォーカス補正)を行なう。例えば、オートフォーカスシステムは、100Hz以上、200Hz以上、500Hz以上、1kHz以上、2kHz以上、5kHz以上、又は10kHz以上の速さでオートフォーカスフィードバックを行なうことができる。
【0033】
特定の態様において、オートフォーカスは、オートフォーカスがアクチュエータに即時調整をもたらすPIDループなどの閉ループとして実行されてもよい。特定の態様において、PIDコントローラは、所望の設定値と測定されたプロセス変数との間の差としてエラー値を継続的に計算し、比例、積分、及び、微分項に基づいて補正を適用する。
【0034】
特定の態様において、オートフォーカスは、ソフトウェアレベルでオートフォーカスデータを処理することなく、ハードウェアレベルで実行されてもよい。ハードウェアベースのオートフォーカスは、オートフォーカスのためのサイクルタイムを大幅に短縮し得る。
【0035】
オートフォーカス補正は、光学素子(例えば、光学素子間の距離)を調整することによって、Z方向で焦点を調整するポジショナを介して、及び/又は、Z方向でのサンプルステージの調整によって実行されてもよい。特定の態様において、オートフォーカス補正は、サンプルステージのz位置を調整することによって実行されてもよい。
【0036】
特定の態様において、オートフォーカスシステムは、X、Y、又はX-Y座標にわたって焦点マップを投影してもよい(例えば、座標の範囲にわたってオートフォーカス補正をガイドする焦点マップを作成してもよい)。焦点マップは、各座標でオートフォーカスを行なう必要なく、複数の座標にわたるレーザーアブレーション光学素子の焦点に対する調整を行なってもよく又は該調整を行なうために使用されてもよい。場合によっては、座標がサンプル座標(例えば、組織サンプル全体にわたる座標)であってもよい。サンプルステージを移動して、サンプルを新しい座標に位置決めしてもよい。これに代えて又は加えて、レーザーは、1つ以上のポジショナによって座標全体にわたって連続的に走査されてもよい。ポジショナは、ミラーベースのポジショナ(ガルバノメーターミラー、ポリゴンスキャナ、MEMSミラー、圧電デバイスミラーなど)又は固体ポジショナ(AODやEODなど)であってもよい。焦点マップは、複数の座標全体にわたって(例えば、複数の座標で)最良の焦点(例えば、z方向で)を与えてもよく、或いは、初期位置から最良の焦点を得るように光学素子を調整してもよい。したがって、焦点マップは、相対的(例えば、開始)又は客観的な基準系に基づいてもよい。特定の態様では、レーザーがX、Y平面の焦点線に沿って走査される間、サンプルステージがz方向に移動されてもよい。
【0037】
特定の態様において、オートフォーカスは、その後の調査のために均一なサンプル表面が得られるように、周囲の材料と比較してより高いz位置にある表面材料の選択的サンプリング又は除去を可能にしてもよい。
【0038】
装置は、サンプル実行中に光学画像を提供するように更に構成されてもよい。例えば、装置は、サンプルの光学画像を提供する、CCD又はCMOSなどのイメージセンサを含んでもよい。装置は、明視野/広視野顕微鏡又は蛍光顕微鏡などの光学顕微鏡(その一部がイメージセンサである)を含んでもよい。例えばレーザーアブレーションによってサンプルの関心領域を特定するべく、サンプルを検査するために光学顕微鏡が使用されてもよい。
【0039】
オートフォーカスシステムが少なくとも1つの絞りを備えてもよい。絞りに衝突する照射源(LEDからなど)は、サンプル(又はサンプル支持体)からオートフォーカスセンサへと反射される特徴を与えてもよい。特定の態様において、オートフォーカスシステムは、二次元に配置された3つ以上の絞りなどの複数の絞りを備える。
【0040】
オートフォーカスシステムは、オートフォーカスセンサに衝突する複数の特徴(つまり、任意の形状のスポット)を与えてもよい。オートフォーカスシステムは、複数の絞り、交互の照射源(2つ以上のLED又はレーザーダイオードなど)、及び/又は、回折ビームスプリッタを使用して複数の特徴を与えてもよい。
【0041】
複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素
本発明は、オートフォーカス構成要素であって、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素を提供する。絞りは、放射線が絞りを通過できるようにする。一般に、オートフォーカス構成要素の材料は、別段に、放射線がそれを通過できるようにしない。
【0042】
オートフォーカスに対する従前の手法は、単一の絞りへの依存によって特徴付けられ、その結果、単一の絞りを通過する照射放射線が遮られるか或いはさもなければ妨げられるときに(絞りからの照射放射線がセンサに適切に到達しない)、非生産的なオートフォーカスの試みがもたらされる。したがって、誤った強度(又は強度の欠如)が検出される。例えば、照射放射線が単一の絞りを通じて方向付けられるサンプル上のポイントは、反射性ではない場合がある。これは、例えば、そこに生物学的材料が存在しないからである(調製手順の結果として又は細胞塗抹標本のスライド上に細胞がランダムに分布した結果として、組織切片にボイドが導入された場合に起こり得るように)。
【0043】
複数の絞りを設けることにより、オートフォーカス構成要素は、オートフォーカスシステムに冗長性を導入し、それにより、照射放射線がサンプルから反射し損ねることを、残りの絞りから検出される反射された照射放射線によって補償することができる。したがって、オートフォーカスシステムはロバスト性がより高くされ、それにより、失敗したオートフォーカス試行に費やされる時間が短縮され、効率が向上される。絞りの数を増やすと、他の絞りに障害が発生した場合に更なる絞りを利用できるようになることによってオートフォーカスのロバスト性が向上される。したがって、場合によっては、オートフォーカス構成要素は、少なくとも2個の絞り、例えば、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも16個、又は、少なくとも25個の絞りを備える。
【0044】
場合によっては、オートフォーカス構成要素の絞りが規則的な形状に配置される。規則的な形状により、サンプルの領域を効率的にカバーできる。したがって、場合によっては、オートフォーカス構成要素の絞りは、規則的な多角形の頂点、例えば、三角形の3個の頂点、正方形又は長方形の4個の頂点、五角形の5個の頂点、六角形の6個の頂点、七角形の7個の頂点、八角形の8個の頂点、九角形の9個の頂点、又は、十角形の10個の頂点に配置される。
【0045】
オートフォーカス構成要素の絞りが規則的な形状に配置される場合、規則的な形状の頂点を多角形の重心から一定の距離を隔てて配置することができる。このような距離が短い多角形は、サンプルの小領域にわたってより高い冗長性をもたらす。逆に、距離が大きい多角形は、以下で詳しく説明するように、サンプルのより広い領域にわたって及び/又はより迅速にトポロジー分析を可能にする。場合によっては、多角形の重心から各頂点までの距離は、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、75μm、100μm、150μm、200μm、250μm、500μm、750μm、又は、1mm未満である。場合によっては、多角形の重心から各頂点までの距離は、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、75μm、100μm、150μm、200μm、250μm、500μm、750μm、又は、1mmよりも大きい。
【0046】
オートフォーカス構成要素の絞りが規則的な形状に配置される好ましい事例において、構成要素は、上記の頂点絞りに加えて、更なる絞りを備えてもよい。そのような一例では、多角形の重心に更なる絞りが存在する。この重心絞りは、一般に、例えば本明細書で論じられるようなレーザーアブレーションサンプリングシステムによってサンプルのアブレーションが発生するサンプル上のポイントに照射放射線を伝えるように配置される。したがって、複数の絞り(重心絞りが殆どない)がサンプリング位置周辺の焦点の測定を可能にする場合、重心絞りは、正確なアブレーションポイントからの読み取り値による焦点計算に寄与する。別のそのような例において、構成要素は、頂点絞りによって規定される多角形の辺の中点に更なる絞りを備える。これらの周辺絞りは、焦点の計算に使用できる更なる位置を与えることによってサンプル領域の効率的なカバレッジを強化する。
【0047】
他の例では、絞りが規則的なグリッドを成して配置される。規則的なグリッドは、サンプル領域の同じ効率的なカバレッジを与えるが、サンプルの特定の形状及び/又はトポロジーにとって好ましい場合がある。絞りは、2×2グリッド、3×3グリッド、4×4グリッド、5×5グリッド、6×6グリッド、7×7グリッド、8×8グリッド、9×9グリッド、10×10グリッド、又は10×10を超えるグリッドなどの規則的に離間されたグリッドを成す。
【0048】
オートフォーカス構成要素の絞りが規則的なグリッドを成して配置される場合、隣り合うグリッド絞りは、絞りの中心点から特定の絞り間距離を隔てて広がり得る。このような距離が短いグリッドは、サンプルの小領域にわたってより大きい冗長性をもたらす。逆に、距離が長いグリッドは、以下で詳しく説明するように、サンプルのより広い領域にわたって及び/又はより迅速にトポロジー分析を可能にする。隣り合うグリッド絞り間の絞り間距離は、絞りの中心点から測定して、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、75μm、100μm、150μm、200μm、250μm 500μm、750μm、1mmである。場合によっては、絞りが三角形や正方形などの多角形である。
【0049】
場合によっては、絞りの形状は、焦点スコア測定のロバスト性を最大化するように選択される。場合によっては、絞りは、円形であるとともに、1μm、2.5μm、5μm、7.5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、75μm、又は、100μm以下の直径を有する。場合によっては、絞りは、円形であるとともに、1μm、2.5μm 5μm、7.5μm、10μm、15μm、20μm、25μm 50μm、75μm、又は100μm以上の直径を有する。
【0050】
単一の焦点面内の複数の絞りを通じて集束される照射放射線の収集に基づく最適焦点位置の計算に関連する、本明細書に記載の幾つかの方法での適用には、この絞りの配置を伴うオートフォーカス構成要素が必要とされる。したがって、幾つかの実施形態では、オートフォーカス構成要素が平面である(全ての絞りが同じ焦点面内にあるように)。
【0051】
幾つかの実施形態において、オートフォーカス構成要素は、照射放射線の軸において互いに対してオフセットされる絞りを備える。つまり、オートフォーカス構成要素は、1つ以上のステップを備え、或いは、更に言えば、2つ以上の絞り平面を備える。例えば、
図5の特徴502を参照されたい。幾つかの実施形態では、オートフォーカス構成要素が2つの絞り平面を備える。幾つかの実施形態では、オートフォーカス構成要素が3つの絞り平面を備える。幾つかの実施形態では、オートフォーカス構成要素が4つ以上の絞り平面を備える。幾つかの実施形態において、各絞り平面は、2つ以上の絞り、例えば、絞り平面ごとに3つの絞りを備える。2つの絞り平面を備える幾つかの事例において、平面は、検出器と共焦点である平面の両側で等しくオフセットされる。したがって、使用時、このオートフォーカス構成要素は、両方の絞り平面の焦点が等しくぼかされる場合に完全な焦点を示す。一方のレベルの絞りがもう一方のレベルの絞りよりも焦点がぼけている場合、サンプルからの焦点面の方向が示される。3つの絞り平面を伴う実施形態では、1つの絞り平面がオートフォーカス検出器と共焦点であってもよく、更に2つの平面が検出器と共焦点である絞り平面の両側で等しくオフセットされる。したがって、使用時、このオートフォーカス構成要素は、第1の絞り平面の焦点が合っており且つ更に2つの絞り平面の両方の焦点が等しくぼかされたときに完全な焦点を示す。
【0052】
幾つかの実施形態では、オートフォーカス構成要素が照射源のハイブリッドマスクとして作用する。このようなハイブリッドオートフォーカス構成要素は、複数の絞りが位置されて照射放射線をブロックする不透明領域を備えるが、それ以外の場合は、サンプルへの照射放射線の透過を可能にする領域を備える(放射線透過材料の使用によって又はオートフォーカス構成要素のボイドを単に比較的大きいままにすることによって)。領域のサイズは、オートフォーカス構成要素の絞りとは異なる。したがって、このようなオートフォーカス構成要素を使用することにより、本明細書の説明に沿ってオートフォーカスを行なうことができるが、同時に、照射放射線は、サンプルをオートフォーカスセンサによって視覚的に検査できるようにサンプルへ向かうことが許容される(オートフォーカスセンサが同等の機能を伴うカメラ又はデバイスであるとき)。幾つかの実施形態において、ハイブリッドオートフォーカス構成要素の絞りは、照射放射線の軸において互いに対してオフセットされる。したがって、幾つかの実施形態において、ハイブリッドオートフォーカス構成要素は、前の段落の任意の実施形態で説明したように、絞りのオフセット面などのオフセット絞りを備える。このようなハイブリッドオートフォーカス構成要素を使用すると、「ライブ」オートフォーカスが可能になり-つまり、サンプルが光軸に対して垂直な方向で移動されるとき(つまり、「ライブ」オートフォーカスのためのサンプルのアブレーション中)に最良なフォーカスを維持できる。このオートフォーカスの構成要素及び方法により、アブレーション、サンプル表示、及び、フォーカス追跡を同時に実行できる。
【0053】
本発明は、本明細書に記載の方法(例えば、25頁の「オートフォーカスのための方法」の節及び29頁のサンプルトポロジーマッピング方法の節で、これらの節で議論された特定の実施形態のそれぞれ及び全てを含む)で、上記のようなオートフォーカス構成要素の使用を提供する。
【0054】
照射源
本明細書に記載のオートフォーカスシステムは、照射源を含む。照射源は、少なくとも1つのLED又はレーザーダイオードを含み得るが、2つ以上のLED、2つ以上のレーザーダイオード、又は、LEDとレーザーダイオードとの組み合わせを含み得る。特定の態様において、2つ以上のLED又はレーザーダイオードは、オートフォーカスセンサに衝突する異なる特徴を与える。LEDが使用される場合、LEDとサンプルとの間に位置される絞りが特徴を与えてもよい。特定の態様において、装置は、オートフォーカスと検査絞りとの間で切り替わる必要がない場合がある。
【0055】
特定の態様では、2つのLED又はレーザーダイオードが交互照射を行なってもよい。オートフォーカスシステムは、システム(例えば、レーザーアブレーションシステム)の焦点が合っているときに交互照射によって生成される特徴が重なり合うように構成されてもよい。交互レーザーダイオード放射線は、交互LED放射線よりも速くなり得る。更に、レーザーダイオードは、絞りを通るLED放射線よりも明るい及び/又は小さい特徴をもたらし得る。しかしながら、レーザーダイオードのコストはLEDよりも高くなり得る。
【0056】
特定の態様では、照射源が色多重化照射源であってもよい。照射源は、プログラム可能なLEDアレイを含んでもよい。例えば、2色のLED照射によって生成された画像の移行シフトは、動的焦点補正のために使用されてもよい。色多重化オートフォーカスは、Jiang、Shaowei、et al.の「LEDアレイ照射とカラー多重化シングルショットオートフォーカスとに基づく高速でロバスト性が高い全スライドイメージング」 arXiv:1905.03371(2019)による全スライドイメージングとの関連で論じられる。
【0057】
特定の態様において、照射源のうちの1つ以上は、サンプル法線に対してゼロ以外の角度で照射を行なう。ゼロ以外の角度で与えられる照射は、絞りを通じて方向付けられる1つ以上のレーザーダイオード及び/又はLEDからのものであってもよい。照射によって与えられる特徴は、サンプル及び/又はサンプル支持体から反射してオートフォーカスセンサに衝突してもよい。
【0058】
特定の態様において、オートフォーカスシステムは複数の絞りを含んでもよく、随意的に、LEDなどの1つの光源のみを含んでもよい。システムは、複数の絞りを通じて移動する照射がオートフォーカスセンサに入射する複数の特徴をもたらすように構成されてもよい(例えば、サンプル又はサンプル支持体から反射した後)。
【0059】
照射源は、オートフォーカス構成要素の複数の絞りを通じて方向付けられた後にサンプルへと進む放射線を放出する。
【0060】
場合によっては、照射源が発光ダイオード(LED)である。そのような照射源は、例えば、オリンパス(日本)、Euromex(オランダ)から市販されている。
【0061】
場合によっては、照射源は、熱放射器又は白熱灯、例えば白熱タングステンハロゲン電球である。ランプは、不活性ガスで満たされ、DC電流によって励起されるタングステンワイヤフィラメントを含む密閉されたガラス球を備えることができ、過剰な熱を放散するのを助けるためにヒートシンクの1つ以上の層を備えるハウジングが設けられてもよい。そのような照射源は、例えば、Cairn Research(英国)から市販されている。
【0062】
場合によっては、照射源がアークランプである。一例としては、金属ハロゲン化物、水銀蒸気、キセノン、及びジルコニウムアークランプが挙げられる。そのような照射源は、例えば、World Precision Instruments(英国)から市販されている。
【0063】
場合によっては、照射源として、レーザー光源が、例えば、アルゴンイオンレーザー又はクリプトンレーザーが使用される。そのような照射源は、例えば、Laser 2000(英国)から市販されている。
【0064】
オートフォーカスセンサ
ここで、オートフォーカスセンサは、イメージセンサ(CCD又はCMOSなど)、ラインセンサ、位置感知フォトダイオード、隣接フォトダイオード、及び、スプリットフォトダイオード(直交フォトダイオードなど)のうちの少なくとも1つを備える。特定の態様において、オートフォーカスセンサは、イメージセンサであり、検査システム(例えば、光学顕微鏡など)と共有されてもよい。
【0065】
特定の態様では、オートフォーカスセンサがラインセンサである。システムが光学顕微鏡を含む場合、光学顕微鏡は、オートフォーカスセンサとは別個のセンサを有する。ラインセンサを含むオートフォーカスシステムは、シリンドリカルレンズを更に含んでもよい。
【0066】
特徴を与える2つ以上の光源を交互に切り換える場合、オートフォーカスは、特徴が検出器上で重なり合うまで(例えば、サンプルステージのz位置を調整することによって)補正を含んでもよい。そのため、CCD、CMOS、又は、ラインスキャン検出器を使用して、特徴の一致をチェックしてもよい。一般に、検出の形式は、最良の焦点でX、Y座標にとらわれなくてもよく、直交フォトダイオードなどの検出器を含まなくてもよい。
【0067】
特定の態様では、照射源が色多重化照射源であってもよい。照射源は、プログラム可能なLEDアレイを含んでもよい。例えば、2色のLED照射によって生成された画像の移行シフトは、動的焦点補正のために使用されてもよい。色多重化オートフォーカスは、Jiang、Shaowei、et al.の「LEDアレイ照射とカラー多重化シングルショットオートフォーカスとに基づく高速でロバスト性が高い全スライドイメージング」arXiv:1905.03371(2019)による全スライドイメージングとの関連で論じられる。
【0068】
特定の態様において、照射源のうちの1つ以上は、サンプル法線に対してゼロ以外の角度で照射を行なう。ゼロ以外の角度で与えられる照射は、絞りを通じて方向付けられる1つ以上のレーザーダイオード及び/又はLEDからのものであってもよい。照射によって与えられる特徴は、サンプル及び/又はサンプル支持体から反射してオートフォーカスセンサに衝突してもよい。システムの焦点が合っていることをオートフォーカスセンサ上の特定の座標に衝突する特徴が示すように、システムを事前に較正することができる。このとき、オートフォーカスは、焦点の調整(例えば、光学部品の移動及び/又は可動ステージの調整による)、オートフォーカスセンサへの特徴の入射のチェック、及び、特徴が所定の座標の許容範囲内になるまで繰り返すことを含んでもよい。そのような場合、オートフォーカスセンサは、CCD、CMOS、ラインアレイ、又は、スプリットフォトダイオードであってもよい。
【0069】
特定の態様において、オートフォーカスシステムは複数の絞りを含んでもよく、随意的に、LEDなどの1つの光源のみを含んでもよい。そのような場合、オートフォーカスセンサは、CCD又はCMOSなどのイメージセンサであってもよい。システムは、複数の絞りを通じて移動する照明がオートフォーカスセンサに入射する複数の特徴をもたらすように構成されてもよい(例えば、サンプル又はサンプル支持体から反射した後)。特徴の存在は、システムの焦点が合っているかどうかを決定するため及び/又はシステムの焦点をわせるべく行なう補正を決定するために使用されてもよい。特徴の存在は、特徴を検出できる能力、特徴の焦点(例えば、特徴が検出される領域及び/又はその領域全体にわたる強度の分布)、特徴の強度、及び/又は、特徴の強度の一貫性を指し得る。そのようなシステムに基づくオートフォーカス補正は反復的であってもよい。
【0070】
オートフォーカスセンサによって与えられるデータは、ASIC、FPGA、又は、ソフトウェアレベルによって処理されてもよく、オートフォーカス補正を実行するために使用されてもよい(例えば、光学要素を位置決めすることによって及び/又はサンプルステージを移動させることによって)。
【0071】
オートフォーカスセンサは、サンプルから反射された放射線を検出し、これは焦点スコアを測定するために使用される。オートフォーカスセンサは、カメラ、例えば、電荷結合素子イメージセンサ(CCD)ベースのカメラ、アクティブピクセルセンサ(APS)ベースのカメラ、又は、オートフォーカスシステム内の任意の他の放射線検出手段であってもよい。
【0072】
幾つかの実施形態において、センサは、CCDである(又はCCDに基づいている)。CCDは、光を検出してそれを画像の生成に使用できるデジタル情報に変換するための手段である。CCDは、感光性ピクセルのアレイを含むシリコンチップを備える。露光中、各ピクセルは、ピクセルに入射する光の強度に比例して電荷を生成する。露光後、制御回路は、一連の電荷の移動を引き起こして、一連の電圧を生成する。次に、これらの電圧を分析して画像を生成できる。適切なCCDは、例えば、Cell Biosciencesから入手可能である。幾つかの実施形態では、センサがアクティブピクセルセンサ(APS)である。APSは、ピクセルセンサのアレイを含む集積回路から成るイメージセンサ、例えばCMOSセンサであり、各ピクセルは光検出器とアクティブ増幅器とを含む。適切なAPSは、例えば、ON Semiconductorから入手可能である。
【0073】
幾つかの実施形態では、センサが光検出器である。光検出器を使用して、元素質量分析によるイメージングの前に、サンプルをイメージングする及び/又は対象の特徴/関心領域を特定してもよい。光電子増倍管は、例えば、ThorLabsから入手可能である。
【0074】
幾つかの実施形態では、センサが光電子増倍管である。光電子増倍管は、光電陰極、幾つかのダイノード、及び、アノードを備える真空チャンバを備える。光電陰極に入射した光子は、光電効果の結果として光電陰極に電子を放出させる。増倍電子電流を生成するための二次放出のプロセスに起因して電子がダイノードによって増倍され、その後、光電陰極に入射する電磁放射の検出の指標をもたらすべく増倍電子電流がアノードによって検出される。光電子増倍管は、例えば、ThorLabsから入手可能である。
【0075】
カメラの使用は、オートフォーカスセンサを使用してサンプルの画像を記録できるという利点をもたらし、したがって、本発明の装置の様々なサンプリング・イオン化システム構成要素に関して以下で説明するカメラとして機能し得る。
【0076】
更なる構成要素
また、オートフォーカスシステムが対物レンズを備えてもよい。対物レンズは、照射放射線をサンプルへと集束させる(例えば25倍の縮小)。レーザーベースのサンプリングシステムを備える本発明の装置では、サンプリングシステムのレーザーからの放射線を同じ対物レンズによってサンプルへと集束させることができる。
【0077】
また、オートフォーカスシステムがチューブレンズを備えてもよい。幾つかの実施形態において、チューブレンズは、オートフォーカス構成要素と1つ以上のビームスプリッタ構成要素との間など、オートフォーカス構成要素とサンプルとの間の照射放射線の経路中に位置され得る。そのように位置されたレンズは、オートフォーカス構成要素の絞りを通過した後の照射放射線をコリメートするように機能し得る。幾つかの実施形態において、チューブレンズは、サンプルとオートフォーカスセンサとの間、例えば、1つ以上のビームスプリッタ構成要素とオートフォーカスセンサとの間の照射放射線の経路中に位置され得る。そのように位置されたレンズは、サンプルから反射された照射放射線をオートフォーカスセンサに集束させることができる。
【0078】
オートフォーカスシステムは、入射放射線を指定された比率で2つの別個のビームに分割する1つ以上のビームスプリッタを備えてもよく、該ビームスプリッタは、照射源からの放射線をサンプルに方向付けるとともに、サンプルから反射された照射放射線をオートフォーカスセンサに方向付けるようになっている。ビームスプリッタは、一般に、プレートスプリッタ(基板の第1の表面にコーティングされた薄い平らなガラスプレート)及びキューブスプリッタ(2つの一般に直角プリズムを使用して構築される)の2つの形式のいずれかをとる。ビームスプリッタは、rp-photonics、Thorlabs、Edmund opticsから広く市販されている。
【0079】
オートフォーカスシステムは、システムの動作中にサンプルを支持するサンプルステージを含んでもよい(一般に、サンプルはサンプルキャリア上にある)。サンプルステージは移動可能であってもよい。幾つかの実施形態では、ステージがx、y、及びz軸で移動することができる。オートフォーカスシステムが位置される装置がサンプリング・イオン化システムも備える場合、オートフォーカスシステムのサンプルステージは、以下で説明するように、サンプリング・イオン化システムのサンプルステージでもある(例えば、サンプルステージがサンプルチャンバ内にある場合)。
【0080】
また、オートフォーカスシステムがコントローラモジュールを備えてもよい。コントローラモジュールは、オートフォーカスシステムの構成要素のモーメントを制御及び調整する。幾つかの実施形態では。コントローラモジュールは、オートフォーカスセンサから入力を受け、受けた入力に基づいてオートフォーカスプロセス中にサンプルステージの位置を制御する。コントローラモジュールは、これらの節で論じられる特定の実施形態のそれぞれ及び全てを含めて、本明細書に記載の本発明のオートフォーカス方法を実行するための命令でプログラムされたプログラム可能なストアを備えてもよい。例えば、幾つかの実施形態において、コントローラモジュールは、オートフォーカス方法を実行するための命令を含み、オートフォーカス方法は、
サンプルの第1の位置の焦点スコアを決定するステップと、
サンプルを第2の位置に移動させるステップと、
第2の位置の焦点スコアを決定するステップと、
焦点スコア同士を互いに比較するステップと、
を含み、
焦点スコアを決定するステップは、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過される、ステップと、オートフォーカスセンサを用いてサンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み(サンプルから反射される放射線を検出するステップは、オートフォーカスセンサ上の既知の位置(関心領域とも呼ばれる)で放射線を検出することを含む)、
サンプルを移動させるステップは、照射放射線がサンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)。
【0081】
幾つかの実施形態において、コントローラモジュールは、オートフォーカス方法を実行するための命令を含み、オートフォーカス方法は、
サンプルの位置nで焦点の方向を決定するステップと、
サンプルを焦点の方向で位置(n+1)へ移動させるステップと、
を含み、
焦点の方向を決定するステップは、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過され、オートフォーカス構成要素の絞りのうちの少なくとも2つが、照射放射線がオートフォーカス構成要素を通過する軸でオフセットされる、ステップと、オートフォーカスセンサを用いてサンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み(サンプルから反射される放射線を検出するステップは、オートフォーカスセンサ上の既知の位置(関心領域とも呼ばれる)で放射線を検出することを含む)、
サンプルを移動させるステップは、照射放射線がサンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)。
【0082】
幾つかの実施形態において、コントローラモジュールは、サンプル表面のトポロジーをマッピングする方法を実行するための命令を含み、前記方法は、
オートフォーカス方式を実行するステップと、
サンプルの平面内(つまり、X軸及び/又はY軸内)でサンプルをサンプル平面内の第2の位置に移動させるステップと、
再びサンプルの平面内の第2の位置で最適焦点位置を記録するために、本発明のオートフォーカス方法を実行するステップであって、例えば、オートフォーカス方法が、コントローラモジュールでプログラムされる、前の段落で説明したオートフォーカス方法である、ステップと、
を含む。
【0083】
幾つかの実施形態において、プログラム可能なストアは、ハードドライブ、光ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ROM、RAM、EPROM、EEPROM、磁気カード又は光学カード、固体メモリデバイス、又は、電子命令を記憶するのに適した他のタイプの媒体/コンピュータ可読媒体である。
【0084】
幾つかの実施形態において、LA-ICP-MS用のオートフォーカス装置は、装置がオートフォーカスと検査絞りとの間で切り替わる必要がないことを含んでもよく、また、可動サンプルステージ、サンプルの検査のための光学顕微鏡、レーザーアブレーションサンプリングシステム、レーザーアブレーションサンプリングシステムをICPイオン化システムに結合するガス導管、及び/又は、質量分析計(例えば、飛行時間型又は磁気セクター質量分析計)のうちの1つ以上を更に含んでもよい。質量分析計は、質量タグ(質量タグのランタニドなど)を同時に検出するように構成されてもよい。オートフォーカスシステムは、オートフォーカスセンサに衝突する複数のスポットをもたらしてもよい。サンプリングシステム及びオートフォーカスシステムは共焦点であってもよい。システムは、複数の照射ポイントに基づいてサンプルステージの位置を調整することによってサンプル実行中にオートフォーカスを行なうように構成されてもよい。
【0085】
構成要素の配置
図1(オートフォーカス構成要素(102)に1つの絞りのみを備える従来技術のシステム)を参照すると、照射源(101)は、オートフォーカス構成要素(102)の絞りを透過する照射放射線を放出する。この照射放射線は、その後、チューブレンズ(103)によってコリメートされ、ビームスプリッタ(104)によってサンプルへと方向付けられる。照射放射線は、対物レンズ(105)によってサンプル(106)に集束され、通常は25倍に縮小される。焦点が合ったサンプル(106)から反射されて光路に沿って戻る照射放射線は、その後、対物レンズ(105)を通過して戻り、ビームスプリッタ(104)を通過してオートフォーカスセンサ(107)に向かう。反射された照射放射線は、オートフォーカスセンサに衝突する前に、チューブレンズ(108)を通過する。この配置では、オートフォーカス構成要素及びオートフォーカス検出器が共焦点であるため、サンプルが焦点面内にもある場合、サンプルから反射された照射放射線は、検出器で明るい明確なスポットとして現れる。
【0086】
サンプルの焦点が合っていない場合、明るい明確なスポットが検出されない。
図2を参照すると、照射源(201)は、オートフォーカス構成要素(202)の絞りを通って透過される照射放射線を放出する。この照射放射線は、その後、チューブレンズ(203)によってコリメートされ、ビームスプリッタ(204)によってサンプルに向けられる。照射放射線は、対物レンズ(205)によってサンプル(206)に向けて集束される。サンプルは照射放射線の焦点面内にないため、照射放射線はサンプル(206)上で焦点がぼけている。ここで
図3を参照すると、焦点がぼけた照射放射線は、焦点が合っていないサンプル(306)から反射されて光路に沿って戻り、その後、対物レンズ(305)を通過して戻り、ビームスプリッタ(304)を通過してオートフォーカスセンサ(307)に向かい、そこで更に焦点がぼける。したがって、サンプルがオートフォーカスセンサ(207/307)で焦点が合っていない場合、オートフォーカス構成要素(202/302)も同様になり、そのため、オートフォーカス構成要素(202/302)の絞りからの照射放射線は、サンプル(206/306)で焦点がぼけ、オートフォーカスセンサ(207/307)で更に焦点がぼける。サンプルステージの移動により、サンプルを動かしてピントを合わせることができる。しかしながら、照射放射線が向けられている特定の領域が反射性でない場合、上記のように、従来技術の装置及び方法によって合焦を達成することができない。
【0087】
図4を参照すると、本発明の装置は、同様の原理に基づいて動作する。しかしながら、オートフォーカスセンサ(407)で検出されるスポットの予期される数は、オートフォーカス構成要素(402)の絞りの数に対応する。
図4には3つの絞りが示される。複数の絞りが使用されるため、照射放射線のビームは、サンプル上の別個のポイントに集束され(406)、したがって、検出されたサンプル上の別個のポイントに反射され(407)、これらのポイントは既知である(ここでは関心領域とも呼ばれる)。したがって、反射された照射放射線を予期される領域で検出できる(例えば、絞りがグリッドを成して配置された9絞りオートフォーカス構成要素を使用する
図8を参照)。本発明のオートフォーカス構成要素を使用すると、照射放射線が向けられるサンプル上の幾つかのポイントが照射放射線を元のオートフォーカスセンサへと反射させない場合でも、他の絞りは反射する(周辺絞りからの信号のうちの7つがポイントに集束されるが、依然として中央の絞りは反射された照射放射線を戻さなかったことから、9絞りオートフォーカス構成要素の有用性を示す
図9参照)。この場合、1絞りオートフォーカス構成要素は焦点を合わせることができないが、本発明のオートフォーカス構成要素は、オートフォーカスシステムがうまく機能し得る。
【0088】
図5に示されるように、更なる進展において、本発明者らは、オートフォーカス構成要素が複数の絞り平面(502)を備えることができることを決定した。前述の説明に沿って、照射源(501)は、オートフォーカスセンサ(507)と共焦点である平面の両側で等距離に隔てられた2つの絞り平面を備えるオートフォーカス構成要素(502)mの絞りを通って透過される照射放射線を放出する。絞りは異なる平面上にあるため、絞りを通過する照射放射線は、サンプルで異なる焦点面を有し、オートフォーカスセンサでは、放射線がサンプルから反射される。その後、照射放射線は、チューブレンズ(503)によってコリメートされ、ビームスプリッタ(504)によってサンプルに向けられる。照射放射線は、対物レンズ(505)によってサンプルに向けて集束される。サンプルは照射放射線の焦点面にないため、照射放射線はサンプル上で焦点がぼけており(506)、この場合、異なる焦点面の絞りからの照射放射線は等しく焦点がぼけている(509)。焦点がぼけた照射は、サンプル(506)のオートフォーカス構成要素(502)の各平面の絞りから等しく焦点がぼけているが、このことはサンプルの焦点が合っていることを意味する。焦点がぼけた照射放射線(509)は、サンプル(506)から反射されて光路に沿って戻り、その後、元の対物レンズ(505)を通過し、ビームスプリッタ(504)を通過してオートフォーカスセンサ(507)に向かい、そこでも焦点がぼけているが、絞りの各平面から検出される反射された照射放射線は等しく焦点がぼけており、このことは、サンプル(506)の焦点が合っていることを示す。サンプル(506)の焦点が合っていないとき、オートフォーカスセンサ(507)は、異なる焦点度を有するオートフォーカス構成要素(502)の絞りの各平面からの反射される照射放射線を検出する。オートフォーカス構成要素(502)の異なる絞り平面から反射される照射放射線間で焦点が異なる態様を使用して、オートフォーカス構成要素(502)の異なる絞り平面からの反射される照射放射線を同程度の焦点ぼけに至らせるべくサンプルが移動されるべき方向を計算することができる。
【0089】
したがって、オートフォーカスシステムの機能の鍵は、オートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサが共焦点であるようにすることである。このプロセスは、一般に、例えば、
図6に示すように、照射放射線の軸でのオートフォーカス構成要素の並進によって、システムが製造されるときに実行される(
図6の構成要素は前の図の構成要素に対応し、この場合には、単に、構成要素番号の最初の桁は図番と一致するように変更され、ここでは、並進可能なオートフォーカス構成要素が602である)。また、このシステムは、レーザー放射線をサンプルに向けるためのレーザーコリメートレンズ(609)及び更なるビームスプリッタ(610)も備える。
図7に示すように、オートフォーカスシステムを備える装置が、サンプルに衝突するレーザーを含むサンプリング・イオン化システムも備える場合、アブレーションレーザーは、コリメートレンズの(709)の軸並進によってオートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサと同じ焦点面にも集束される。観察されたアブレーションスポットのサイズ及び形状の観察に基づいて、レーザーは、オートフォーカスシステムの焦点面において鋭い焦点であると理解される。照射放射線をサンプルに集束させるために使用される対物レンズは、レーザーアブレーション用のレーザー放射をサンプルに集束させるためにも使用される。
【0090】
態様はオートフォーカスシステムを含み、また、方法は、複数のオートフォーカス方法(全スライドイメージングのためによく使用される)の利点を組み合わせて、イメージングマスサイトメトリーのための初期のサンプル位置の幅広い範囲にわたって高速の、信頼性のある、正確なオートフォーカスを実現できる。例えば、オートフォーカス方法及び/又はシステムは、サンプル平面上への絞りの投影などの2つの別個の技術を組み合わせることができ、この場合、サンプルが同様に完全に焦点が合っているときに絞りが完全に焦点が合うように事前に位置合わせされ、また、この絞りの照射は、比較的小さな立体角を伴う2つの別個に制御可能な光源を伴う。オートフォーカスセットアップの概略図を与える例が
図12に示される。2つの光源が使用され、それらの光源の光は、対物レンズの焦点面に焦点が合った小さい絞りを通って案内される。サンプルの焦点がぼけている場合、カメラは、ぼやけるだけでなくサンプルでの各LEDの照射角度に応じてオフセットすべく各LEDからの画像を観察する。
【0091】
図12に示されるように、サンプル1206が対物レンズ焦点面付近に配置されてもよい。2つの光源(例えば、LED1201)は、絞りを通じてコンデンサレンズによって(例えば、1つ以上のミラー1204及び/又は対物レンズ1205によって)集束されて、サンプルへと方向付けられてもよい。サンプルから反射された光は、例えば、チューブレンズ1207を通過した後、イメージセンサ1208に衝突し得る。要素1209は、光源の画像で対物レンズ後側焦点面をマークする。
【0092】
2つの光源のそれぞれが順番にオンになり、各LEDのカメラで画像が取得される。サンプルの焦点が完全に合っていない場合、2つの画像は、同様にぼやけて現れるが、照射角度の方向で互いにオフセットされる(
図13参照)。これらの2つのフレーム間の相関は、FFTを使用して迅速に計算でき、この関数は、あるピクセルオフセットで最大になる。このピクセルオフセットは、サンプルが焦点から離れている距離に正比例し、また、比例は、既に存在する焦点方向に沿った並進ステージ上のエンコーダを使用して簡単に較正できる。したがって、オートフォーカスメカニズムは、原則として、サンプルの最適焦点位置を決定するために2つのカメラフレームを取得するだけで済み、これは、現在の実装よりも桁違いに高速である。
【0093】
使用できる絞りの形状及びサイズは多数あると考えられる。
図13に示すように、単純でロバスト性が高い形状の1つは、並進方向に沿うその小さな開口により方向付けられる狭いスリットであると予期される。注目すべきことに、小さな円形又は長方形の絞りも使用できる。複数の絞り(スリット、円、又はその他)を使用できる。「反転絞り」を使用でき、このことは、一部の領域で画像が暗くなる小さな不明瞭さを意味する、つまり、サンプル構造が焦点画像内で保持されるため、焦点ぼけの決定にも使用できる。更に、2つのLED画像間にゼロ以外の標的オフセットを作成するために、完全なサンプルフォーカスに対して絞りの焦点をぼかすことができる。最後に、2つのLEDは同じ色である必要はない。2つの異なる色のLEDを使用すると、1つのカラーカメラを使用することによって、或いは、おそらく適切なフィルタを使用して1つのモノクロカメラの異なる領域に2つの色を投影することによって、フォーカスデータを1フレームで取得できる。注目すべきことに、LED(又は絞りと組み合わせたLED)の代わりにレーザーダイオードを使用することができる。
【0094】
図13の上側はデフォーカス距離+60μmで取得したLED画像である。2つの画像は、同様にぼやけており、各LEDにおける照射方向に沿ってオフセットされる。下:2つの画像間の計算された相関関数。放物線状のピークフィッティングが、+60μmの焦点オフセットに対応する-512.08ピクセルのピーク位置を与える。
【0095】
実際には、アルゴリズムは速度の一部を犠牲にして、最良の焦点に向けて反復的な手順を実行することにより、ロバスト性を向上させることができる。例えば、抽出されたデフォーカス値の95%のステップをとることができ、オートフォーカス法が繰り返される。その後の繰り返しは、正しい焦点位置に非常に迅速に収束するはずである。
【0096】
このオートフォーカス方式の高速動作に不可欠なのは、カメラをフリーランニングモードで使用するのではなく、電子トリガーを使用してカメラのフレームの取得をトリガーすることである。これは、機能セットの一部として非同期トリガーを備えていることが多い標準の産業用ビジョンカメラを使用して実現できる。
【0097】
カメラのハードウェアトリガーを使用することの副次的な利点は、他の幾つかのIMC機能、特にパノラマの取得にもメリットがあることである。(フリーランニングカメラを使用した)パノラマ取得の現在の実装は、「ストップアンドスター」と呼ばれ、ステージが連続する各ターゲット位置に移動し、カメラからの次のフレームが到着するのを待ってから次に進む。ターゲットステージ位置に基づいて又はステージ位置の高速位置合わせと一緒にハードウェアカメラトリガーを使用し、並びに、強力なLED照射(カメラでの短い統合時間を可能にする)を使用して、カメラフレームがモーションプロファイルに沿った特定の位置で取得される間、ステージを継続的に動かし続けることができる。これにより、IMCでのパノラマの取得が大幅に高速化される。
【0098】
レーザー、オートフォーカス構成要素、オートフォーカスセンサが全て共焦点である場合、装置の使用中に、オートフォーカスセンサにおける反射された照射放射線の焦点が合っているポイントにサンプルを移動することにより、サンプルを焦点に動かすことで、レーザーの焦点を合わせることができる。したがって、オートフォーカスシステムは、光学イメージング構成要素/システム及びイオン化・サンプリングシステムの両方に焦点を合わせることができる。
【0099】
オートフォーカスのための方法
本明細書に記載のオートフォーカスシステムを使用する任意の方法を含む、様々なオートフォーカス方法が本明細書に記載される。
【0100】
特定の態様における、オートフォーカスは、オートフォーカスセンサに衝突する1つ以上のスポット又はラインの位置に基づく。オートフォーカスシステムは、オートフォーカスセンサに衝突する1つ以上のスポット又はラインにおいて事前に較正された座標(例えば、最良の焦点)を必要としない場合がある。或いは、オートフォーカスシステムは、特徴が最良の焦点でオートフォーカスセンサ上の既知の座標と一致するように事前に較正され得る。
【0101】
オートフォーカスは、オートフォーカスセンサによって検出された特徴(スポット又はライン)の位置合わせに基づく場合がある。例えば、オートフォーカス(例えば、オートフォーカス補正)は、オートフォーカスセンサに衝突するスポット又はライン間のオフセットに基づくことができる。オートフォーカスは、オートフォーカスセンサの特徴の一致に基づいており、それにより、特徴が一致するまでオートフォーカス補正が繰り返される。別個の特徴を与える交互LED及び/又はレーザーダイオードは、そのようなLED及び/又はレーザーダイオードからの一定の放射線と比較して精度を向上させることができる(例えば、特徴間の位置の僅かなシフトは、それらが別々に検出された場合にのみ明らかになる場合がある)。
【0102】
特定の実施形態では、複数の絞りが、単一のLEDから複数の特徴を与えることができる。このとき、オートフォーカスは、オートフォーカスセンサによって検出されたスポットの数及び/又はオートフォーカスセンサによって検出されたスポットの均一性に基づくことができる。
【0103】
オートフォーカスは、様々な種類の方法で実現できる。例えば、一方では、遡及的な決定を行なうことができる。大まかに言えば、このタイプの方法は、位置間の距離が大きい比較的粗い方法で、ある範囲の位置を通してサンプルを走査することによって、また、オートフォーカスシステムの焦点面に最も近い位置(すなわち、最高の焦点スコアを有する位置)を拾うことによって機能する。最も近い位置が決定されると、一連の位置を介してサンプルを再度移動することにより、その位置に関する更なる精密化を実行でき、この場合、位置は、従前の粗いステップと比較して、精密化ステップで非常に接近している。これらの位置から、焦点面に最も近い位置が選択される(ここでも焦点スコアが最も高い位置)。したがって、この最初の種類の方法は、所定範囲のサンプル位置にわたって走査すること、及び、遡及的に最適な位置を拾うことに依存する。
【0104】
したがって、本発明は、
サンプルの第1の位置の焦点スコアを決定するステップと、
サンプルを第2の位置に移動させるステップと、
第2の位置の焦点スコアを決定するステップと、
焦点スコア同士を互いに比較するステップと、
を含み、
焦点スコアを決定するステップが、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過される、ステップと、オートフォーカスセンサを用いてサンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み(サンプルから反射される放射線を検出するステップは、オートフォーカスセンサ上の既知の位置(関心領域とも呼ばれる)で放射線を検出することを含む)、
サンプルを移動させるステップは、照射放射線がサンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)、
オートフォーカス方法を提供する。
【0105】
上記のように、本発明の方法の幾つかの実施形態では、サンプルが幾つかの位置に移動される。したがって、時として、方法は、前記第1の位置の焦点スコアと前記第2の位置の焦点スコアとを比較するステップの前に、サンプルを少なくとも第3の位置に移動させて、少なくとも前記第3の位置で焦点スコアを決定するステップを更に含む。したがって、ここでは、第1の位置の焦点スコアと第2の位置の焦点スコアとを比較するステップは、第3の焦点スコアと第1及び第2の焦点スコアとの比較も包含する。場合によっては、方法は、第1の位置の焦点スコアを第2の位置の焦点スコアとを比較するステップの前に、少なくとも4番目、5番目、6番目、7番目、8番目、9番目、10番目、15番目、20番目、25番目、50番目、100番目、250番目、500番目、又は、1000番目の位置へサンプルを移動させて該位置で焦点スコアを決定するステップを含む。したがって、ここでは、第1の位置の焦点スコアと第2の位置の焦点スコアとを比較するステップは、4番目、5番目、6番目、7番目、8番目、9番目、10番目、15番目、20番目、25番目、50番目、100番目、250番目、500番目、又は、1000番目の位置と他の決定された焦点スコアとの比較も包含する。
【0106】
したがって、この方法は、最高の焦点スコアをさかのぼって検索することによってオートフォーカスする。焦点スコアは、様々な方法で決定できるパラメータである。例えば、複数の絞りから検出される反射された照射放射線の強度を合計して、焦点スコアを生成することができる。或いは、焦点スコアは、反射された照射放射線の焦点ぼけがどの程度であるかを測定することによって計算され得る(例えば、サンプルの焦点が合っているときに反射された照射放射線がオートフォーカスセンサに衝突すると予期される領域又はその周囲で、すなわち、予期される関心領域の周囲で反射された照射放射線を検出しているセンサ上のピクセルの総数)。
【0107】
幾つかの実施形態では、焦点スコア同士を互いに比較するステップの後に、サンプルステージは、最も高い焦点スコアを伴う位置である第1ラウンド最適焦点位置へ移動される。オートフォーカスセンサのピクセルの飽和が検出されると、光源の強度が低下し、この方法が繰り返される。
【0108】
前述したように、場合によっては、方法は、焦点位置の第1の粗い推定を含み、その後に、サンプルの位置を精緻化してそれを焦点面に近づける1つ以上の更なるラウンドを含む。したがって、幾つかの実施形態において、方法は、第1のラウンドで決定される第1ラウンド最適位置に中心付けられる第2の位置セットで方法を繰り返すステップを更に含む。改良において、第2のセットにおける位置間の距離は、第1ラウンド最適焦点位置を計算するために使用される位置間の距離よりも短い。時として、位置間の距離は、第1ラウンド最適焦点位置を第2の位置セットにおける位置の数で割ったものを計算するために使用される位置間の距離である又は該距離よりも短い。第2ラウンド最適焦点位置を生成するために焦点スコアがその後に比較される。幾つかの実施形態において、第2ラウンド最適焦点位置は、単に最高の焦点スコアを有する第2ラウンド位置であり、サンプルはこの位置に移動する(すなわち、第1ラウンドに続く移動で行なわれるように)。しかしながら、第2ラウンド焦点スコア同士を互いに比較するステップは、放物線を各位置で焦点スコアにフィットさせて、曲線の導関数がゼロである位置を第2ラウンド最適焦点位置として計算するステップを含む。その後、サンプルステージを放物線フィッティングによって決定された第2ラウンド最適焦点位置に移動できる。
【0109】
幾つかの実施形態において、焦点スコア同士を互いに比較するステップは、放物線を各位置で焦点スコアにフィットさせて、曲線の導関数がゼロである位置を第1ラウンド最適焦点位置として計算するステップを含む。その後、サンプルステージを第1ラウンド最適焦点位置に移動できる。第1ラウンド最適焦点位置であると決定された位置に中心付けられる第2の位置セットでこの方法を繰り返すことができ、第2のセットにおける位置間の距離は、前記第1ラウンド最適焦点位置を計算するために使用される位置間の距離よりも短い。時として、位置間の距離は、第2ラウンド最適焦点位置を生成するために、第1ラウンド最適焦点位置を第2の位置セットにおける位置の数で割ったものを計算するために使用される位置間の距離である又は該距離よりも短い。したがって、幾つかの実施形態において、第2ラウンド最適焦点位置を生成するステップは、第2ラウンド焦点スコア同士を互いに比較するステップを含み、該ステップは、放物線を各位置で焦点スコアにフィットさせて、曲線の導関数がゼロである位置を第2ラウンド最適焦点位置として計算するステップを含む。その後、サンプルステージを放物線フィッティングによって決定された第2ラウンド最適焦点位置に移動できる。
【0110】
また、本発明は、上記の方法を反復して繰り返すことを含む、オートフォーカスの方法も提供する。
【0111】
或いは、反復手順で収束アルゴリズムを使用してサンプルに焦点を合わせることができ、これにより、任意の位置で検出される反射された照射放射線は、サンプルと焦点面の相対位置に関して有益である。したがって、この種の方法は、位置の読み取りを決定し、サンプルを焦点面に向かって移動させるためにサンプルを移動する必要がある方向を計算し、場合によっては距離を推定することによって動作する。次に、サンプルが移動され、更に読み取り値が決定される。その後、このプロセスは、焦点面に狙いを定めるべく反復して繰り返される。
【0112】
本発明は、
サンプルの位置nで焦点の方向を決定するステップと、
サンプルを焦点の方向で位置(n+1)へ移動させるステップと、
を含み、
焦点の方向を決定するステップは、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過され、オートフォーカス構成要素の絞りのうちの少なくとも2つが、照射放射線がオートフォーカス構成要素を通過する軸でオフセットされる、ステップと、オートフォーカスセンサを用いてサンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み(サンプルから反射される放射線を検出するステップは、オートフォーカスセンサ上の既知の位置(関心領域とも呼ばれる)で放射線を検出することを含む)、
サンプルを移動させるステップは、照射放射線がサンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)、
オートフォーカス方法も提供する。
【0113】
幾つかの実施形態において、方法は、前段落の方法を、少なくとも1回更に、例えば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回、少なくとも20回、又は、少なくとも50回繰り返すステップを含む。
【0114】
幾つかの実施形態において、位置nで焦点の方向を決定するステップは、少なくとも2つのオフセット絞りから反射された照射放射線がオートフォーカスセンサに衝突するときにどのように焦点ぼけしているかを比較するステップを含む。
【0115】
サンプルトポロジーマッピング方法
本発明は、オートフォーカスの方法を実行するステップと、サンプルをサンプルの平面内で(すなわち、X軸及び/又はY軸内で)サンプルの平面内の第2の位置へ移動させるステップと、再びサンプルの平面内の第2の位置で最適焦点位置を記録するために、本発明のオートフォーカス方法を実行するステップとを含む、サンプル表面のトポロジーをマッピングする方法も提供する。幾つかの実施形態において、オートフォーカス方法は、本発明のオートフォーカス方法である。幾つかの実施形態において、方法は、サンプルをサンプルの平面内で1つ以上の更なる位置へ、例えば、サンプルの平面内の少なくとも3番目、4番目、5番目、6番目、7番目、8番目、9番目、10番目、15番目、20番目、25番目、50番目、100番目、250番目、500番目、又は、1000番目の位置へ移動させて、これらの各位置での最適焦点位置を記録するステップを含む。時として、方法は、サンプルの平面内の各位置に最適焦点位置をプロットすることを更に含む。時として、方法は、サンプルの表面表示を生成するために、サンプルの平面内の各位置で最適焦点位置間を補間するステップを更に含む。
図11は、本発明のこの方法によるサンプルの表面のプロットを与える。幾つかの実施形態において、補間は、多項式補間、スプライン補間、又はガウス過程による補間である。
【0116】
特定の態様において、この方法は、X、Y、又はX-Y座標にわたって最良の焦点の焦点マップを作成することを含んでもよい。
【0117】
オートフォーカスシステムの使用を含むサンプリングの方法
上記のように、オートフォーカスシステムは、例えば、システムが本発明の装置内にある場合に、サンプリングのためにサンプルを最適な焦点位置にするために使用することができる。
【0118】
上記の実施形態のいずれかの装置を使用するオートフォーカスの方法は、サンプリングを更に含み得る。例えば、オートフォーカスの方法は、サンプル材料をアブレーションするためのレーザーのオートフォーカスを含んでもよく、また、サンプル材料の分析を含んでもよい(例えば、ICP-MSによる)。サンプル材料は、質量タグを含んでもよい。
【0119】
したがって、本発明は、生物学的サンプルなどのサンプルを分析する方法であって、
本発明のオートフォーカス方法を実行して、サンプルをサンプリング・イオン化システムの焦点に配置するステップと、
例えば、イメージング質量分析又はイメージングマスサイトメトリーによって、サンプルの元素組成を決定するステップと、
を含む方法を提供する。
【0120】
また、本発明は、サンプルを分析する方法において、
本発明のオートフォーカシング方法を実行して、生物学的サンプルなどのサンプルを、サンプリング・イオン化システムの焦点に配置するステップと、
複数の位置でサンプルステージ上のサンプルのサンプリング及びイオン化を実行するステップと、
サンプル上の位置からイオンを検出するステップであって、イオンの検出がサンプルの画像の構築が可能にし、随意的に複数の位置が複数の既知の位置である、ステップと、
を含む方法も提供する。
【0121】
したがって、より具体的には、本発明は、サンプルを分析する方法において、
レーザーアブレーションのためのレーザーの焦点にサンプルを配置するために本発明の方法を実行するステップと、
複数の位置でサンプルステージ上のサンプルのレーザーアブレーションを行なうステップと、
プルームをイオン化及び質量分析に晒すステップであって、プルーム内の原子の検出がサンプルの画像の構築を可能にし、随意的に、複数の位置が複数の既知の位置である、ステップと、
を含む方法も提供する。
【0122】
イメージングマスサイトメトリーでは、サンプルが分析前に標識化される。したがって、本発明は、複数の細胞を含むサンプルに関してマスサイトメトリーを行なう方法において、
サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識原子で標識化して、標識サンプルをもたらすステップと、
レーザーアブレーションのためのレーザーの焦点にサンプルを配置するために本発明の方法を実行するステップと、
サンプルステージ上のサンプルのレーザーアブレーションを行なうステップと、
プルームをイオン化及び質量分析に晒すステップであって、プルーム内の原子の検出がサンプルの画像の構築を可能にし、随意的に、複数の位置が複数の既知の位置である、ステップと、
を含む方法も提供する。
【0123】
当業者によって理解されるように、これらの方法におけるレーザーアブレーションは、レーザー放射をサンプルに向けることによって達成される。幾つかの実施形態では、各位置で、複数のレーザーショットがサンプルに発射され、その位置での各ショットの後に、その位置でアブレーションされたサンプルの深さに影響を及ぼすべく、サンプルステージ上のサンプルがZ軸においてレーザーの焦点に向かって移動される。幾つかの実施形態において、サンプルのアブレーションのためのZ軸の開始位置は、本発明のサンプルトポロジーマッピング方法によって決定されるサンプル上のその位置での最適焦点位置であり、サンプル上のその位置におけるZ軸の位置で各ショットから生成される各プルームは、個別に検出され、例えばサンプルの3D画像の構築を可能にする。
【0124】
幾つかの実施形態では、この方法は本発明のオートフォーカス構成要素を使用することを含む。
【0125】
幾つかの実施形態では、この方法は本発明のオートフォーカスシステムを使用することを含む。
【0126】
幾つかの実施形態では、この方法が本発明の装置を使用することを含む。
【0127】
方法の更なる態様
オートフォーカス及び/又はオートフォーカスに基づくサンプリングの前に、本出願の方法は、標識された生物学的サンプルを提供することを含んでもよい。特定の態様において、方法は、生物学的サンプルに標識を付けることを含み得る。生物学的サンプルは、本明細書に記載されるように、特異的結合対(SBP)要素に結合された標識原子で標識され得る。例えば、SBP要素は、抗体を含んでもよく、及び/又は、標識原子は、金属タグ(濃縮された金属同位体など)を含んでもよい。適切なサンプル、標識原子、SBP要素、及び標識方法は、本明細書で更に説明される。
【0128】
オートフォーカスシステムに関する考慮事項
イメージングマスサイトメトリーシステムの貴重な機能は、カメラビューでサンプルの自動焦点合わせを実行する機能である。オートフォーカスシステムの主な性能特性は、オートフォーカスを実行するために必要な平均時間、様々なサンプルにわたるシステムのロバスト性/信頼性、及びオートフォーカスシステムが信頼できる結果を生成するフォーカス範囲である。現在利用可能な殆どのオートフォーカスシステム(第1世代IMCに実装されているオートフォーカスシステムを含む)は、これら3つの要件の少なくとも1つで性能が低下する。
【0129】
例えば、複数の絞りと単一のLED光源を使用するIMCオートフォーカスシステムは、ロバスト性が高く、一般的に信頼性が高く、長い平行移動範囲で最適な焦点を見つけることができるが、速度が遅い場合がある(例えば、ミリ秒)。レーザーアブレーションと質量分析の速度が同等である場合、これは問題ではない場合がある。
【0130】
多くのアフターマーケット商用システムは、反対の制限に悩まされる。すなわち、それらは高速で殆どロバスト性が高い(一部の液浸タイプのサンプルを除く)が、サンプルが既に最適な焦点に比較的近い場合にのみ機能し、デバイスの寿命にわたって焦点のドリフトに悩まされる可能性がある。
【0131】
オートフォーカスシステムは、ハードウェアベースと画像分析ベースの2つの主要なタイプに分類できる。後者のカテゴリは、シャープネス、コントラストなどの観点からサンプルの現在の画像を分析し、サンプルを移動することによってそれらの特性を最大化しようとする。このようなシステムは、サンプルのサブセットに対しては非常にうまく機能する傾向があるが、本質的にコントラストが不足しているサンプルでは機能しない。更に、オートフォーカス方式が機能する範囲は限られており、システムは最適なフォーカスを見つけるために「ハント」する必要がある。全体として、このタイプのオートフォーカスは非常に高速であるが、一般に、IMCでの教師なしアプリケーションには十分な信頼性がない。
【0132】
ハードウェアベースのオートフォーカスシステム(特に標準的な顕微鏡を対象としたアフターマーケットソリューション)は、顕微鏡対物レンズの背面絞りの片側からのみ照射が照射される、不可視光を使用して照射された絞りをサンプルに投影することがよくある。この片側照射の効果は、対物レンズの像面で、サンプルが焦点を通って移動するときに、絞りが(焦点がぼけることに加えて)左右に移動することである。この横方向のシフトを定量化するために位置感知検出器が使用され、このようにして最適な焦点位置を維持することができる。この方法が機能する範囲は非常に限られているため、この方法の適用は通常、最初に最適な焦点を見つけるのではなく、サンプルに焦点を合わせ続けることである。これは、これらのオートフォーカス方法が、時間、温度、及び様々なサンプルや目的に対して較正を維持するのに問題があるという事実によって悪化する。第二に、サンプルの構造は、対物レンズの像面で観察される画像に影響を与える可能性がある。したがって、サンプルに完全に焦点が合っているときの検出器の出力は、全てのサンプルで同じではない。この場合も先と同様に、これにより、これらのシステムのアプリケーションは特定のフォーカス位置に「ロックイン」し、1つのサンプルの1つの領域のみを長期間観察することに制限される。
【0133】
特定の態様において、オートフォーカスシステム又は方法は、サンプル表面品質とは無関係に迅速なオートフォーカスを提供することができ、焦点品質に対してオンザフライ補正を実行することができ、これは、サンプル傾斜、ステージ平坦性問題、及び/又はサンプル表面のトポロジー影響を軽減し得る。
【0134】
特定の態様において、LEDからの光は、絞りを通って、次に対物レンズ自体に送られ得る(落射照射)。絞りを使用すると、システムに焦点が合っているときにコントラストの高い鮮明な画像が生成されるため、システムのパフォーマンスが向上する場合がある。
【0135】
1.サンプリング・イオン化システム
サンプルのサンプリングには、サンプルに焦点を合わせてサンプルを励起する粒子のビーム(光子など)によってサンプルから材料を除去し、材料がサンプルから移動するようにすることが含まれる。粒子ビーム(光子など)の焦点は、前のセクションで説明したオートフォーカスシステムと同焦点であるため、オートフォーカスシステムがサンプルに焦点を合わせると、サンプルはサンプルに最適な位置に配置される。
【0136】
したがって、本出願の装置は、サンプリングシステム(レーザーアブレーションサンプリングシステムなど)、イオン化システム(ICPシステムなど)、又はその両方を含み得る。例えば、装置は、オートフォーカスシステム、可動サンプルステージ、及びレーザーアブレーションサンプリングシステムを含んでもよく、これらは、ICP-MSシステムなどの質量分析計に結合され得る。場合によっては、そのような装置は、ICP-MSシステムを更に含み得る。
【0137】
特定の態様では、サンプリングシステムがレーザーアブレーションサンプリングシステムである。装置は、ガス導管によってレーザーアブレーションサンプリングシステムに結合されるICPイオン化システムなどのイオン化システムを更に含んでもよい。装置は、質量分析計を更に含んでもよい。質量分析計は、複数の質量タグを同時に検出するように構成されてもよい。
【0138】
a.レーザーアブレーションサンプリング及びイオン化システム
レーザーアブレーションベースの分析器は、一般に、3つの構成要素を備える。第1の構成要素は、分析用のサンプルから蒸気状及び粒子状材料のプルームを生成するためのレーザーアブレーションサンプリングシステムである。アブレーションされたサンプル材料のプルーム内の原子(以下で説明する検出可能な標識原子を含む)を検出器システム-質量分析計構成要素(MS構成要素;第3の構成要素)-により検出できる前に、サンプルをイオン化(及び霧化)しなければならない。したがって、装置は、原子をイオン化して元素イオンを形成し、質量/電荷比に基づいてMS構成要素によるそれらの検出を可能にするイオン化システムである第2の構成要素を備える(サンプル材料のいくらかのイオン化は、アブレーションのポイントで起こり得るが、空間電荷効果が電荷のほぼ即時の中和をもたらす)。レーザーアブレーションサンプリングシステムは、移送導管によってイオン化システムに接続される。
【0139】
レーザーアブレーションサンプリングシステム
簡単に言えば、レーザーアブレーションサンプリングシステムの構成要素は、サンプルに向けられるレーザー放射線のビームを放出するレーザー源を含む。サンプルは、レーザーアブレーションサンプリングシステムのチャンバ(サンプルチャンバ)内のステージ上に位置される。ステージは、通常、並進ステージであるため、サンプルがレーザー放射線のビームに対して移動でき、これにより、サンプル上の異なる位置を分析のためにサンプリングできる。以下で更に詳しく説明するように、ガスがサンプルチャンバを通じて流され、また、ガスの流れは、レーザー源がサンプルをアブレーションするときに生成されるエアロゾル化された材料のプルームを、その元素組成(元素タグからの標識原子などの標識原子を含む)に基づくサンプルの画像の分析及び構築のために運び去る。以下で更に説明するように、別の作用形態では、レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザーシステムを使用して、サンプルから材料を脱着させることもできる。
【0140】
特に生物学的サンプル(細胞、組織切片など)の場合、サンプルはしばしば不均一である(不均一なサンプルは、本開示の他の適用分野、すなわち、非生物学的性質のサンプルで知られているが)。不均一サンプルは、異なる材料から構成される部位を含むサンプルであるため、サンプルの一部の部位は、他の部位よりも所定波長で低い閾値フルエンスにおいてアブレーションされ得る。アブレーション閾値に影響を与える要因は、材料の吸光係数及び材料の機械的強度である。生物学的組織の場合、吸光係数は、レーザー放射線の波長に伴って桁違いに変化する可能性があるため、支配的な影響を及ぼす。例えば、生物学的サンプルでは、ナノ秒レーザーパルスを利用すると、タンパク質性材料を含む部位が200~230nmの波長範囲でより容易に吸収し、一方、DNAを主に含む部位は260~280nmの波長範囲でより容易に吸収する。
【0141】
サンプル材料のアブレーション閾値に近いフルエンスでレーザーアブレーションを行なうことができる。この態様でのアブレーションは、エアロゾル形成を改善することが多く、それにより、分析後のデータの品質の改善に役立ち得る。多くの場合、最小のクレーターを取得して、結果として得られる画像の解像度を最大化するために、ガウスビームが使用される。ガウスビームを横切る断面は、ガウス分布を有するエネルギー密度プロファイルを記録する。その場合、ビームのフルエンスは中心からの距離に伴って変化する。結果として、アブレーションスポットサイズの直径は、2つのパラメータ、すなわち、(i)ガウスビームウエスト(1/e2)、及び、(ii)適用されるフルエンスと閾値フルエンスとの間の比率の関数である。
【0142】
したがって、各アブレーションレーザーパルスを用いた再現可能な量の材料の一貫した除去を確保し、それにより、イメージングデータの品質を最大化するために、一貫したアブレーション直径を維持し、これにより、レーザーパルスにより供給されるエネルギーの標的に対する比率をアブレーションされている材料のアブレーション閾値エネルギーに調整することが有用である。この要件は、DNAとタンパク質材料との比率が変化する生物学的組織などのサンプルの全体にわたって、或いは、サンプルの部位内の鉱物の特定の組成に伴って変化する地質学的サンプルにおいて閾値アブレーションエネルギーが変化する不均一サンプルをアブレーションする場合の問題を表わす。これに対処するために、複数の波長のレーザー放射線をサンプル上の同じアブレーション位置に集束させて、その位置でのサンプルの組成に基づいてサンプルをより効果的にアブレーションすることができる。
【0143】
レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザーシステム
レーザーシステムは、単一又は複数(すなわち、2つ以上)の波長のレーザー放射線を生み出すようにセットアップされ得る。一般に、論じられるレーザー放射線の波長は、最も高い強度を有する波長(「ピーク」波長)を指す。システムが異なる波長を生み出す場合には、それらの波長を、様々な目的で、例えば、サンプル内の様々な材料を標的にするために使用できる(ここで、標的にするとは、選択される波長が材料によってうまく吸収される波長であることを意味する)。
【0144】
複数の波長が使用される場合、レーザー放射線の2つ以上の波長のうちの少なくとも2つが離散波長であってもよい。したがって、第1のレーザー源が第2の波長の放射線から離散した第1の波長の放射線を放出する場合、このことは、第2の波長の放射線が第1のレーザー源によって生成されないこと、或いは、第2の波長の非常に低レベルの放射線が、第1のレーザー源によって、第1の波長のパルスで、例えば、第1の波長での強度の10%未満で、例えば、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満で生成されることを意味する。一般に、異なる波長のレーザー放射線が高調波生成によって又は他の非線形周波数変換プロセスによって生み出されるとき、その後、特定の波長が本明細書中で言及されるときには、当業者であれば分かるように、レーザーによって生み出されるスペクトルの特定の波長に関してはある程度の変動がある。例えば、Xnmへの言及は、X±5nmなど、X±10nmの範囲、例えばX±3nmのスペクトルを生み出すレーザーを包含する。
【0145】
レーザー
一般に、サンプルのアブレーションに使用されるレーザーの波長及び出力の選択は、細胞分析での通常の使用法に従うことができる。レーザーは、サンプルキャリアを実質的にアブレーションすることなく、所望の深さまでアブレーションを引き起こすのに十分なフルエンスを持たなければならない。一般に、0.1~5 J/cm2、例えば、3~4 J/cm2又は約3.5J/cm2のレーザーフルエンスが適しており、また、レーザーは、理想的には、200Hz以上の速度においてこのフルエンスでパルスを生成することができる。場合によっては、そのようなレーザーからの単一のレーザーパルスは、アブレーションプルームが生成される周波数とレーザーパルス周波数が一致するように、分析のために細胞材料をアブレーションするのに十分であるべきである。一般に、生物学的サンプルのイメージングに有用なレーザーであるためには、レーザーは、例えば、以下で論じる特定のスポットサイズに焦点を合わせることができる100ns未満(好ましくは1ns未満)の持続時間を伴うパルスを生成すべきである。本発明の幾つかの実施形態において、アブレーション速度(すなわち、レーザーがサンプルの表面上のスポットをアブレーションする速度)は、200Hz以上、例えば、500Hz以上、750Hz以上、1kHz以上、1.5kHz以上、2kHz以上、2.5kHz以上、3kHz以上、3.5kHz以上、4kHz以上、4.5kHz以上、5kHz以上、10kHz以上、100kHz以上、1MHz以上、10MHz以上、又は、100MHz以上である。多くのレーザーは、レーザーアブレーション周波数を超える繰り返しレートを有するため、パルスピッカーなどの適切な構成要素を使用して、必要に応じてアブレーションの速度を制御できる。したがって、幾つかの実施形態において、レーザー繰り返しレートは、少なくとも1kHz、例えば、少なくとも10kHz、少なくとも100kHz、少なくとも1MHz、少なくとも10MHz、約80MHz、又は、少なくとも100MHzであり、随意的に、サンプリングシステムはパルスピッカーを更に備え、例えば、パルスピッカーは、サンプルステージ及び/又はポジショナの動きも制御する制御モジュールによって制御される。他の例では、複数の間隔が短いパルスバースト(例えば、3つの間隔が短いパルスの列)を使用して、1つの単一スポットをアブレーションすることができる。一例として、10×10μmの領域は、各スポットで3つの間隔が短いパルスの100バーストを使用してアブレーションされてもよく、これは、アブレーションの深さが制限されているレーザー、例えばフェムト秒レーザーにおいて有用となり得るとともに、分解能を失うことなく、アブレーションされた細胞材料の連続的なプルームを生成できる。
【0146】
例えば、レーザーシステムによるアブレーションの周波数は、200Hz~100MHz、200Hz~10MHz、200Hz~1MHz、200Hz~100kHzの範囲内、500~50kHzの範囲内、又は、1kHz~10kHzの範囲内である。
【0147】
これらの周波数で、それぞれのアブレーションされたプルームを個別に分解することが望ましい(以下に示すように、パルスのバーストをサンプルに発射する際に必ずしも望ましくない場合がある)場合、機器は、連続するアブレーション間の実質的な信号の重複を回避するのに十分急速にアブレーションされた材料を分析できなければならない。連続するプルームから生じる信号間の重なり合いは、強度が10%未満、より好ましくは5%未満、理想的には2%未満であることが好ましい。プルームの分析に必要な時間は、サンプルチャンバのウォッシュアウト時間(以下のサンプルチャンバの節を参照)、レーザーイオン化システムへの及びレーザーイオン化システムを通じたプルームエアロゾルの通過時間、及び、イオン化された材料の分析にかかる時間によって決まる。以下でより詳細に説明するように、各レーザーパルスは、後に構築されるサンプルの画像上のピクセルに相関され得る。
【0148】
幾つかの実施形態において、レーザー源は、ナノ秒のパルス持続時間のレーザー、又は、超高速レーザー(パルス持続時間が1ps(10-12秒)又はそれよりも速い、例えばフェムト秒レーザーを含む。超高速パルス持続時間は、それらが、アブレーションゾーンからの熱拡散を制限し、それによって、より正確で信頼性の高いアブレーションクレーターをもたらす、並びに、各アブレーション事象からの残骸の散乱を最小限に抑えるため、多くの利点を与える。
【0149】
場合によっては、フェムト秒レーザーがレーザー源として使用される。フェムト秒レーザーは、1ps未満の持続時間を伴う光パルスを放出するレーザーである。このような短いパルスの生成は、多くの場合、パッシブモードロックの技術を使用する。フェムト秒レーザーは、多くのタイプのレーザーを使用して生成され得る。30fs~30psの典型的な持続時間は、パッシブモードロック固体バルクレーザーを使用して実現され得る。同様に、例えばネオジムドープ又はイッテルビウムドープゲインメディアに基づく様々なダイオード励起レーザーがこの形態で動作する。高度な分散補償を伴うチタンサファイアレーザーは、10fs未満、極端な場合は約5fsまでのパルス幅にさえ適している。パルス繰り返しレートは、殆どの場合、10MHz~500MHzであるが、パルスエネルギーが高い場合は、繰り返しレートが数メガヘルツの低繰り返しレートバージョンがある(例えばLumentum(カリフォルニア州、米国)、Radiantis(スペイン)、Coherent(カリフォルニア州、米国)から入手可能)。このタイプのレーザーは、パルスエネルギーを増大させる増幅器システムを伴うことができる。
【0150】
また、様々なタイプの超高速ファイバレーザーがあり、これらのレーザーも、殆どの場合、パッシブモードロックされており、一般に、50~500fsのパルス持続時間、及び、10~100MHzの繰り返しレートを与える。そのようなレーザーは、例えば、NKT Photonics(デンマーク、以前はFianium)、Amplitude Systems(フランス)、Laser-Femto(カリフォルニア州、米国)から市販されている。このタイプのレーザーのパルスエネルギーは、多くの場合に一体型ファイバ増幅器の形態を成す増幅器によっても増大され得る。
【0151】
一部のモードロックダイオードレーザーは、フェムト秒の持続時間を伴うパルスを生成できる。レーザー出力で直接に、パルス持続時間は、通常、約数百フェムト秒である(例えば、Coherent(カリフォルニア州、米国)から入手可能)。
【0152】
場合によっては、ピコ秒レーザーが使用される。前の段落で既に説明したタイプのレーザーの多くも、ピコ秒範囲の持続時間のパルスを生成するように適合され得る。最も一般的な光源は、アクティブ又はパッシブモードロック固体バルクレーザー、例えばパッシブモードロックNdドープYAG、ガラス、又は、バナジン酸塩レーザーである。同様に、ピコ秒モードロックレーザー及びレーザーダイオードが市販されている(例えば、NKT Photonics(デンマーク)、EKSPLA(リトアニア))。
【0153】
ナノ秒パルス持続時間レーザー(ゲインスイッチ及びQスイッチ)も、特定の装置セットアップ(Coherent(カリフォルニア州、米国)、Thorlabs(ニュージャージー州、米国)で有用性を見出すことができる。或いは、ナノ秒以下の持続時間のパルスを生成するべく、連続波レーザーが使用されて外部変調されてもよい。
【0154】
一般に、本明細書中で論じられるレーザーシステムにおいてアブレーションのために使用されるレーザービームは、スポットサイズ、すなわち、サンプリング位置において、100μm以下、例えば、50μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下、例えば、約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下、約500nm以下、約250nm以下のスポットサイズを有する。スポットサイズと称される距離は、ビームの最長の内部寸法に対応し、例えば、円形のビームの場合にはビーム直径であり、正方形のビームの場合には対向するコーナー間の対角線の長さに対応し、四角形の場合には最長の対角線の長さなどに対応する(前述したように、ガウス分布を伴う円形ビームの直径は、フルエンスがピークフルエンスの1/e2倍に減少したポイント間の距離として規定される)。ガウスビームの代わりに、ビーム整形及びビームマスキングを使用して、所望のアブレーションスポットをもたらすことができる。例えば、一部の用途では、トップハットエネルギー分布を伴う正方形のアブレーションスポットが有用となり得る(つまり、ガウスエネルギー分布とは対照的にほぼ均一なフルエンスを伴うビーム)。この配置は、ガウスエネルギー分布のピークでのフルエンスと閾値フルエンスとの間の比率に対するアブレーションスポットサイズの依存性を低減する。閾値フルエンスに近いアブレーションは、より信頼性の高いアブレーションクレーターの生成をもたらし、残骸生成を制御する。したがって、レーザーシステムは、ビームを再シェーミングするとともに±25%未満、例えば±20%未満、±15%、±10%又は±5%未満だけビーム全体で変動するフルエンスなどの均一又はほぼ均一なフルエンスのレーザー焦点スポットを生成するためにガウシアンビーム中に配置された、回折光学素子などのビームマスキング及び/又はビーム整形構成要素を備えてもよい。時として、レーザービームは正方形の断面形状を有する。時として、ビームはトップハットエネルギー分布を有する。
【0155】
生物学的サンプルの分析に使用される場合、個々の細胞を分析するために使用されるレーザービームのスポットサイズは、細胞のサイズ及び間隔に依存する。例えば、細胞が互いに密に詰まっている場合(例えば組織切片において)、レーザーシステム内の1つ以上のレーザー源は、これらの細胞よりも大きくないスポットサイズを有することができる。このサイズは、サンプル内の特定のセルによって決まるが、一般に、レーザースポットは、4μm未満、例えば、約3μm以下、約2μm以下、約1μm以下、約500nm以下、約250nm以下、又は、300nm~1μmの直径を有する。細胞内分解能で所定の細胞を分析するために、システムは、これらの細胞よりも大きくないレーザースポットサイズを使用し、より具体的には、細胞内分解能で材料をアブレーションできるレーザースポットサイズを使用する。場合によっては、単一細胞分析は、例えば、細胞が細胞間に空間を伴ってスライド上に広げられる場合、細胞のサイズよりも大きいスポットサイズを使用して実行され得る。ここでは、対象の細胞の周りの付加的なアブレーションされた領域が付加的な細胞を含まないので、より大きなスポットサイズを使用することができ、単一細胞の特徴付けを達成することができる。したがって、使用される特定のスポットサイズは、分析されている細胞のサイズに応じて適切に選択され得る。生物学的サンプルでは、細胞が全て同じサイズになることはめったにないため、細胞内分解能イメージングが望まれる場合には、アブレーション手順の全体にわたって一定のスポットサイズが維持されれば、アブレーションスポットサイズを最小の細胞よりも小さくすべきである。レーザービームの集束を使用して、小さなスポットサイズを実現できる。1μmのレーザースポット直径は1μmのレーザーフォーカスポイント(すなわち、ビームの焦点でのレーザービームの直径)に対応するが、レーザーフォーカスポイントは、標的上のエネルギーの空間分布(例えば、ガウスビーム形状)とアブレーション閾値エネルギーに対する総レーザーエネルギーの変動とに起因して+20%以上変化する可能性がある。レーザービームを集束させるための適切な対物レンズは、シュヴァルツシルトカセグレン形態(逆カセグレン)の対物レンズなどの反射対物レンズを含む。反射と屈折とを組み合わせた対物レンズと同様に、屈折対物レンズも使用できる。単一の非球面レンズを使用して、必要な合焦を実現することもできる。ソリッドイマージョンレンズ又は回折光学素子を使用して、レーザービームの合焦させることもできる。単独で又は上記の対物レンズと組み合わせて使用され得る、レーザーのスポットサイズを制御するための他の手段は、合焦前にビームを開口に通すことである。直径のアレイから異なる直径の開口にビームを通過させることにより、異なるビーム直径を達成することができる。場合によっては、例えば、開口が絞りである場合、可変サイズの単一の開口が存在する。時として、絞りが虹彩絞りである。スポットサイズの変化は、光学素子のディザリングによっても実現できる。1つ以上のレンズと1つ以上の開口とがレーザーとサンプルステージとの間に位置される。
【0156】
完全を期すために、当技術分野で知られているように、細胞内分解能でのLAにおける標準レーザーは、エキシマレーザー又はエキシプレックスレーザーである。フッ化アルゴンレーザー(λ=193nm)を使用して適切な結果を得ることができる。これらのレーザーによる10~15nsのパルス持続時間は、適切なアブレーションを実現できる。
【0157】
全体として、レーザーパルス周波数及び強度は、個々のレーザーアブレーションプルームの明確な検出を可能にするためにMS検出器の応答特性と組み合わせて選択される。このとき、小さなレーザースポットの使用と短いウォッシュアウト時間を有するサンプルチャンバとを組み合わせて、迅速で高分解能のイメージングが実現可能である。
【0158】
レーザーアブレーション焦点
レーザーがサンプルから材料をアブレーションする効率を最大化するには、サンプルがレーザーの焦点に対して適切な位置に、例えば焦点にあるべきである。これは、焦点が、レーザービームが最小直径を有する、したがって、最も集中されたエネルギーを有する場所だからである。これは、様々な方法で実現され得る。第1の方法は、サンプルがそれに方向付けられたレーザー光の軸で(すなわち、レーザー光の経路を上下に/レーザー源に向かって及び離れて)所望のアブレーションを行なうのに十分な強度を光が有する所望のポイントへと移動され得る方法である。これに代えて又は加えて、レーザー光の焦点を移動させるために、レンズを使用でき、したがって、例えば縮小によって、サンプルの位置で材料をアブレーションできるレンズの効果的な能力を使用することができる。1つ以上のレンズがレーザーとサンプルステージとの間に位置される。単独で或いは2つの方法のいずれか又は両方と組み合わせて使用され得る第3の方法は、レーザーの位置を変更することである。
【0159】
システムのユーザがサンプルからの材料のアブレーションに最も適した位置にサンプルを配置するのを支援するために、サンプルを保持するステージにカメラを向けることができる(以下で更に詳しく説明する)。したがって、本開示は、サンプルステージに向けられたカメラを備えるレーザーアブレーションサンプリングシステムを提供する。カメラにより検出される画像は、レーザーが合焦される同じポイントに合焦され得る。これは、レーザーアブレーション及び光学イメージングの両方のために同じ対物レンズを使用することによって実現され得る。2つの焦点を一致させることにより、ユーザは、光学画像の焦点が合っているときにレーザーアブレーションが最も効果的であると確信できる。サンプルに焦点を合わせるためのステージの正確な動きは、Physik Instrumente、Cedrat-technologies、Thorlabs、及び、他の供給元から入手可能なピエゾアクティベータを使用して行なうことができる。
【0160】
更なる動作モードでは、レーザーアブレーションがサンプルキャリアを介してサンプルに向けられる。この場合、サンプル支持体は、サンプルをアブレーションするために使用されるレーザー放射線の周波数を(少なくとも部分的に)透過するように選択されるべきである。サンプルを介したアブレーションは、特定の状況で利点がある。これは、このアブレーションモードが、サンプルからアブレーションされた材料のプルームに付加的な運動エネルギーを与え、それにより、アブレーションされた材料をサンプルの表面から更に遠ざけ、したがって、アブレーションされた材料が検出器での分析するためにサンプルから離れるように輸送されるのを促進できるからである。同様に、サンプル材料のスラグを除去する脱着ベースの方法も、キャリアを通過するレーザー放射線によって介在され得る。脱着されている材料のスラグに与えられる付加的な運動エネルギーは、スラグをサンプルキャリアから離れるように打ち出すのを支援し、したがって、スラグがサンプルチャンバを通じて流されるキャリアガスに同伴されるのを容易にし得る。
【0161】
サンプルの3Dイメージングを達成するために、サンプル又はサンプルの所定の領域は、サンプルを完全に貫通しない第1の深さまでアブレーションされ得る。これに続いて、同じ領域を再び第2の深さまでアブレーションし、以下同様に、第3、第4等の深さまでアブレーションすることができる。このようにして、サンプルの3D画像を作成できる。場合によっては、第2の深さでのアブレーションに進む前に、第1の深さまでアブレーションするために全ての領域をアブレーションすることが好ましい場合がある。或いは、同じ場所で繰り返しアブレーションを行なって、アブレーションのために領域内の次の位置に進む前に、異なる深さを貫いてアブレーションしてもよい。いずれの場合も、MSで得られた信号のサンプルの位置及び深さへのデコンボリューションは、イメージングソフトウェアによって実行され得る。厚い組織染色を採用でき、また、共焦点イメージングで使用されるワークフローと同様の湿潤状態で組織が安定化される(Clendenon et al.、2011.Microsc Microanal.17:614-617)。
【0162】
複数の動作モードのためのレーザーシステム光学素子
決まり切った配置の問題として、光学部品を使用して、随意的に異なる波長のレーザー放射線を異なる相対位置に向けることができる。光学部品は、随意的に異なる波長のレーザー放射線を異なる方向からサンプルに向けるために配置することもできる。例えば、1つ以上の波長を上からサンプルに向けることができ、1つ以上の波長のレーザー放射線(随意的に異なる波長)を下から(つまり、サンプルキャリアとも称される、サンプルを支持する顕微鏡スライドなどの基板を通じて)向けることができる。これにより、同じ装置で複数の動作モードが可能になる。したがって、レーザーシステムは、随意的に異なる波長のレーザー放射線を異なる方向からサンプルに向けるように配置された光学部品の配置を備えることができる。したがって、光学部品は、その配置が随意的に異なる波長のレーザー放射線を反対方向からサンプルに向けるように配置されてもよい。この文脈における「反対の」方向は、上下からサンプルに垂直に向けられたレーザー放射線(これは180°反対になる)に限定されず、サンプルに垂直以外の角度でサンプルにレーザー放射線を向ける配置を含む。異なる方向からサンプルに向けられたレーザー放射線が平行である必要はない。時として、サンプルがサンプルキャリア上にあるとき、反射器の配置は、第1の波長のレーザー放射線をサンプルに直接に向け、第2の波長のレーザー放射線をサンプルキャリアを通じてサンプルに向けるように配置され得る。
【0163】
レーザー放射線をサンプルキャリアを通じてサンプルに向けることは、サンプルをアブレーションするために使用され得る。しかしながら、幾つかのシステムにおいて、キャリアを通じてレーザー放射線を方向付けることは、脱着ベースのサンプリングシステムに関して以下でより詳細に論じられるように、「LIFTing」動作モードのために使用され得る(ただし、当業者であれば分かるように、アブレーション及びLIFTingは同じ装置によって実行され得るので、本明細書でレーザーアブレーションサンプリングシステムと称されるものは、脱着ベースのサンプリングシステムとしても作用し得る)。レーザー放射線を第1の方向からサンプルに集束させるために使用されるレンズのNA(開口数)は、レーザー放射線を(随意的に異なる波長で)第2の方向からサンプルに集束するために使用されるレンズのNAとは異なる場合がある。LIFTing動作(例えば、レーザー放射線がサンプルキャリアを介して方向付けられる場合)は、多くの場合、アブレーションが実行されているときよりも大きな直径のスポットサイズを使用する。
【0164】
レーザーアブレーションサンプリングシステムのサンプルチャンバ
サンプルは、レーザーアブレーションを受けるときにサンプルチャンバに入れられる。サンプルチャンバは、サンプルを保持するステージを備える(通常、サンプルはサンプルキャリア上にある)。アブレーションされると、サンプル内の材料はプルームを形成し、また、ガス入口からガス出口へ向けてサンプルチャンバを通過するガスの流れは、アブレーションされた位置にあった標識原子を含むエアロゾル化された材料のプルームを運び去る。ガスは材料をイオン化システムに運び、イオン化システムが材料をイオン化して検出器による検出を可能にする。サンプル内の標識原子を含む原子は、検出器によって区別できるため、それらの検出により、プルーム内の複数の標的の有無が明らかになり、サンプル上のアブレーションされた軌跡にどの標的が存在したかが判別される。したがって、サンプルチャンバは、分析される固体サンプルをホストすることにおいて二重の役割を果たすが、イオン化及び検出システムへのエアロゾル化された材料の移動の開始点でもある。このことは、チャンバを通るガスの流れが、システムを通過するときにアブレーションされた材料のプルームがどのように広がるかに影響を与える可能性があることを意味する。アブレーションされたプルームがどのように広がるかの尺度は、サンプルチャンバのウォッシュアウト時間である。この値は、サンプルからアブレーションされた材料が、サンプルチャンバを流れるガスによってサンプルチャンバから運び出されるまでにかかる時間の指標である。
【0165】
このように、レーザーアブレーションから生成された信号の空間分解能(つまり、後述するように、アブレーションが除去のためだけでなくイメージングのために使用される場合)は、(i)アブレーションされる全領域にわたって信号が統合される際のレーザーのスポットサイズ;プルームが生成される速度とレーザーに対するサンプルの動きとの関係、及び、(ii)前述のように連続したプルームからの信号の重なり合いを回避するべく、プルームが生成されている速度に対する、プルームを分析できる速度、を含む要因に依存する。したがって、プルームを可能な限り短い時間で分析できることにより、プルームの個別分析が望ましい場合には、プルームが重なる可能性が最小限に抑えられる(したがって、プルームをより頻繁に生成できる)。
【0166】
したがって、ウォッシュアウト時間(例えば、100ミリ秒以下)が短いサンプルチャンバは、本明細書に開示される装置及び方法と共に使用するのに有利である。ウォッシュアウト時間が長いサンプルチャンバは、画像を生成できる速度を制限するか、或いは、連続するサンプルスポットから生じる信号間の重なり合いをもたらす(例えば信号持続時間が10秒を超えるKindness et al.(2003;Clin Chem 49:1916-23))そのため、エアロゾルウォッシュアウト時間は、総走査時間を増やすことなく高分解能を達成するための重要な制限要因である。ウォッシュアウト時間が100ミリ秒未満のサンプルチャンバは当技術分野で知られている。例えば、Gurevich&Hergenroder(2007;J.Anal.At.Spectrom.、22:1043-1050)は、ウォッシュアウト時間が100ミリ秒未満のサンプルチャンバを開示する。サンプルチャンバは、30ms以下のウォッシュアウト時間を有するWang et al.(2013;Anal.Chem.85:10107-16)(国際公開第2014/146724号パンフレットも参照)に開示されており、それにより、高いアブレーション周波数(例えば、20Hzを超える)が可能であり、したがって、迅速な分析が可能である。他のそのようなサンプルチャンバが国際特許第2014/127034号パンフレットに開示される。国際特許第2014/127034号パンフレットのサンプルチャンバは、標的に動作可能に近接して配置されるように構成されるサンプル捕捉セルを備え、サンプル捕捉セルは、捕捉セルの表面に形成される開口を有する捕捉キャビティを含み、この場合、捕捉キャビティは、開口を通じて、レーザーアブレーション部位から放出又は生成される標的材料及び捕捉キャビティ内に露出されるガイド壁を受けるように構成されるとともに、捕捉キャビティ内のキャリアガスの流れを入口から出口へ向けて捕捉キャビティ内に受けられる標的材料の少なくとも一部がサンプルとして出口へ移送されるように方向付けるべく構成される。国際特許第2014/127034号パンフレットのサンプルチャンバ内の捕捉キャビティの体積は、1cm3未満であり、0.005cm3未満にすることができる。場合により、サンプルチャンバは、25ミリ秒以下、例えば20ミリ秒以下、10ミリ秒以下、5ミリ秒以下、2ミリ秒以下、1ミリ秒以下、500μs以下、200μs以下、100μs以下、50μs以下、又は、25μs以下のウォッシュアウト時間を有する。例えば、サンプルチャンバのウォッシュアウト時間は10μs以上であってもよい。一般に、サンプルチャンバのウォッシュアウト時間は5ミリ秒以下である。
【0167】
完全を期すために、時として、サンプルチャンバのウォッシュアウト時間よりも頻繁にサンプルからプルームを生成することができ、また、それに応じて、結果として得られる画像が不鮮明になる(例えば、実行中の特定の分析のために最も高い想定し得る分解能が必要でないと見なされる場合)。
【0168】
サンプルチャンバは、一般に、サンプル(及びサンプルキャリア)を保持してレーザー放射線のビームに対してサンプルを移動させる並進ステージを備える。例えば、本明細書で論じられるLIFTing方法の場合のように、サンプルキャリアを介してサンプルへ向かうレーザー放射線の方向を必要とする動作モードが使用される場合、サンプルキャリアを保持するステージも使用されるレーザー放射線を透過すべきである。
【0169】
したがって、サンプルは、レーザー放射線がサンプルに向けられる際にレーザー放射線に対向するサンプルキャリア(例えば、スライドガラス)の側に位置されてもよく、それにより、アブレーションプルームは、レーザー放射線がサンプルに向けられる側と同じ側で解放されるとともにこの側から捕捉される。或いは、サンプルは、レーザー放射線がサンプルに向けられる際にレーザー放射線とは反対のサンプルキャリアの側に位置されてもよく(すなわち、レーザー放射線は、サンプルに到達する前にサンプルキャリアを通過する)、また、アブレーションプルームは、レーザー放射線のとは反対の側で解放されるとともにこの側から捕捉される。
【0170】
サンプルの様々な別個の領域内の特定の部分がアブレーションされる特定の用途を成すサンプルチャンバの1つの特徴は、レーザーに対してサンプルを軸x,y(すなわち、水平)で移動できる広範囲の移動(レーザービームがz軸でサンプルへと方向付けられる場合)であり、x軸及びy軸は互いに垂直である。サンプルチャンバ内でステージを移動させるとともにレーザーの位置を装置のレーザーアブレーションサンプリングシステム内で固定されたままにしておくことにより、より信頼できる正確な相対位置が実現される。移動範囲が広いほど、別個のアブレーション領域同士の距離を多くすることができる。サンプルは、サンプルが配置されるステージを移動することにより、レーザーに対して移動される。したがって、サンプルステージは、サンプルチャンバ内において、x及びy軸で少なくとも10mm、例えば、x及びy軸で20mm、x及びy軸で30mm、x軸及びy軸で40mm、x軸及びy軸で50mm、x軸及びy軸で75mmの移動範囲を有することができる。場合によっては、移動範囲は、それが標準的な25mm×75mmの顕微鏡スライドの表面全体をチャンバ内で分析できるようにする。勿論、細胞内アブレーションを達成できるようにするには、広範囲の動きに加えて、動きを正確にする必要がある。したがって、ステージは、x及びy軸においてでサンプルを10μm未満、例えば、5μm未満、4μm未満、3μm未満、2μm未満、1μm、又は、1μm未満、500nm未満、200nm未満、100nm未満の増分で移動させるように構成され得る。例えば、ステージは、少なくとも50nmの増分でサンプルを移動するように構成されてもよい。正確なステージの動きは、1μm±0.1μmなど、約1μmの増分で行なうことができる。市例えば、Thorlabs、Prior Scientific、及び、Applied Scientific Instrumentationから入手できるような市販の顕微鏡ステージを使用することができる。或いは、電動ステージは、Smaractが提供しているSLC-24ポジショナなど、必要な範囲の動きと適切に精密な動きとをもたらすポジショナに基づいて、構成要素から構築することができる。サンプルステージの移動速度も分析の速度に影響を与え得る。したがって、サンプルステージは、1mm/秒を超える動作速度、例えば、10mm/秒、50mm/秒、又は100mm/秒の動作速度を有する。
【0171】
当然のことながら、サンプルチャンバ内のサンプルステージの動きの範囲が広い場合、ステージの動きに対応できるようにサンプルのサイズを適切に設定する必要がある。したがって、サンプルチャンバのサイズは、関与するサンプルのサイズに依存し、そのサイズは移動式サンプルステージのサイズを決定する。典型的なサイズのサンプルチャンバは、10×10cm、15×15cm、又は、20×20cmの内部チャンバを有する。チャンバの深さは、3cm、4cm、又は5cmであってもよい。当業者は、本明細書の教示内容に従って適切な寸法を選択することができる。レーザーアブレーションサンプラーを使用して生物学的サンプルを分析するためのサンプルチャンバの内部寸法は、サンプルステージの移動範囲よりも大きくなければならず、例えば、少なくとも5mm、例えば、少なくとも10mmでなければならない。これは、チャンバの壁がステージの端に近すぎる場合に、サンプルから離れてイオン化システムへ向かうアブレーションされた材料のプルームを取り込むチャンバを通過するキャリアガスの流れが乱流になる可能性があるからである。乱流はアブレーションされたプルームを乱すため、材料のプルームは、アブレーションされた材料の密な集団として残存するのではなく、アブレーションされて装置のイオン化システムに運び去られた後に広がり始める。アブレーションされた材料のより広いピークは、それがピークの重なり合いに起因する干渉につながるため、イオン化システム及び検出システムによって生成されるデータに悪影響を及ぼし、したがって、最終的には、アブレーションの速度がもはや実験的に関心がないような速度まで減速されなければ、空間的に殆ど分解されないデータを有する。
【0172】
上記のように、サンプルチャンバは、ガス入口と、イオン化システムに材料を取り込むガス出口とを備える。しかしながら、サンプルチャンバは、実施されている特定のアブレーションプロセスにとって適切であると当業者により判断されるように、チャンバ内のガスの流れを方向付ける及び/又はガスの混合物をチャンバに供給するための入口又は出口として作用する更なるポートを含んでもよい。
【0173】
カメラ
レーザーアブレーションのためのサンプルの最も効果的な位置取りを特定することに加えて、カメラ(例えば、帯電結合デバイスイメージセンサベース(CCD)カメラ、相補型金属-酸化物-半導体(CMOS)センサ、又は、アクティブピクセルセンサベースのカメラ)又は任意の他の光検出手段をレーザーアブレーションサンプリングシステムに含めることにより、様々な更なる分析及び技術が可能になる。CCDは、光を検出し、それを画像の生成に使用できるデジタル情報に変換するための手段である。CCDイメージセンサには、光を検出する一連のコンデンサがあり、各コンデンサは決定された画像上のピクセルを表わす。これらのコンデンサは、入ってくる光子を電荷に変換することを可能にする。次に、CCDを使用してこれらの電荷を読み取り、記録された電荷を画像に変換できる。アクティブピクセルセンサ(APS)は、ピクセルセンサのアレイを含む集積回路から成るイメージセンサ、例えばCMOSセンサであり、各ピクセルは光検出器とアクティブ増幅器とを含む。
【0174】
カメラは、本明細書で論じられる任意のレーザーアブレーションサンプリングシステムに組み込むことができる。カメラを使用してサンプルを走査し、特定の対象の細胞又は特定の関心領域(例えば特定の形態の細胞)を特定したり、或いは、抗原、細胞内又は構造に特異的なフルオロフォアを特定したりできる。特定の実施形態において、フルオロフォアは、検出可能な金属タグも含む組織化学的染色又は抗体である。そのような細胞が特定された時点で、レーザーパルスをこれらの特定の細胞に方向付けて、自動化されたプロセスで(この場合、システムは、対象の細胞などの特徴/領域の特定及びアブレーションの両方を行なう)又は半自動化されたプロセスで(この場合、システムのユーザ、例えば臨床病理学者が対象の特徴/領域を特定し、その後、システムが自動化された態様でアブレーションする)分析のために材料をアブレーションすることができる。これにより、特定の細胞を分析するためにサンプル全体をアブレーションする必要なく、対象の細胞を特異的にアブレーションできるため、分析を実行できる速度を大幅に高めることができる。これは、アブレーションを実行するのにかかる時間の観点から、しかし、特に、データから画像を構築することに関して、アブレーションからのデータを解釈するのにかかる時間の観点から、生物学的サンプルを分析する方法の効率につながる。データから画像を構築することは、イメージング手順の中で最も時間のかかる部分の1つであるため、収集されたデータをサンプルの関連部分からのデータに最小化することにより、分析の全体的な速度が向上する。
【0175】
カメラは、共焦点顕微鏡からの画像を記録する場合がある。共焦点顕微鏡法は、焦点面から離れた背景情報(光)からの干渉を低減する機能など、多くの利点を提供する光学顕微鏡法の一種である。これは、焦点が合っていない光やまぶしさを取り除くことによって起こる。共焦点顕微鏡法を使用して、サンプルの細胞の形態、又は細胞が個別の細胞であるか、細胞の塊の一部であるかを評価できる。多くの場合、サンプルは蛍光マーカーで特異的に標識化される(標識抗体や標識核酸など)。これらの蛍光マーカーは、特定の細胞集団(特定の遺伝子及び/又はタンパク質の発現など)又は細胞上の特定の形態的特徴(核やミトコンドリアなど)を染色するために使用でき、また、適切な波長の光で照らされると、これらの領域のサンプルを特異的に特定できる。したがって、本明細書に記載の幾つかのシステムは、サンプルを標識するために使用される標識内のフルオロフォアを励起するためのレーザーを備えるとができる。或いは、LED光源を使用してフルオロフォアを励起することもできる。非共焦点(広視野など)蛍光顕微鏡法を使用して、生物学的サンプルの特定の領域を特定することもできるが、共焦点顕微鏡法よりも分解能が低くなる。
【0176】
別のイメージング技術は、2光子励起顕微鏡法(非線形又は多光子顕微鏡法とも称される)である。この技術は、一般に、近赤外光を使用してフルオロフォアを励起する。IR光の2つの光子は、それぞれの励起事象ごとに吸収される。組織内の散乱はIRによって最小限に抑えられる。更に、多光子吸収により、バックグラウンド信号が強く抑制される。最も一般的に使用されるフルオロフォアは、400~500nmの範囲の励起スペクトルを有するが、2光子蛍光を励起するために使用されるレーザーは近赤外範囲にある。フルオロフォアが2つの赤外線光子を同時に吸収する場合、フルオロフォアは励起状態に引き上げられるのに十分なエネルギーを吸収する。次に、フルオロフォアは、その後に検出され得る使用されたフルオロフォアのタイプに依存する波長の単一光子を放出する。
【0177】
レーザーを使用して蛍光顕微鏡法用のフルオロフォアを励起する場合、このレーザーは、生物学的サンプルから材料をアブレーションするために使用されるレーザー光を生成するのと同じレーザーである場合があるが、サンプルから材料をアブレーションするのに十分でないパワーで使用される。時として、フルオロフォアは、レーザーがサンプルをアブレーションする光の波長によって励起される。他の場合、例えば、レーザーの異なる高調波を生成して異なる波長の光を取得することによって、又は、サンプルをアブレーションするために使用される高調波とは別に、前述の高調波生成システムで生成された異なる高調波を利用することによって、異なる波長が使用されてもよい。例えば、Nd:YAGレーザーの4次及び/又は5次高調波を使用する場合、基本的な高調波又は2次から3次の高調波を蛍光顕微鏡法のために使用できる。
【0178】
蛍光とレーザーアブレーションとを組み合わせた技術例として、生物学的サンプル中の細胞の核を、蛍光部分に結合した抗体又は核酸で標識化することができる。したがって、蛍光標識を励起し、次にカメラを使用して蛍光の位置を観察及び記録することにより、アブレーションレーザーを核又は核物質を含まない領域に特異的に向けることができる。サンプルを核領域と細胞質領域とに分割すると、細胞化学の分野で特に応用できるようになる。イメージセンサ(CCD検出器又はアクティブピクセルセンサ、例えばCMOSセンサなど)を使用することにより、蛍光の位置をサンプルのx、y座標と相関させた後にアブレーションレーザーをその位置に向ける制御モジュール(コンピュータ又はプログラムされたチップ)を使用することにより、対象の特徴/関心領域を特定した後にそれらをアブレーションするプロセスを完全に自動化することができる。このプロセスの一部として、イメージセンサによって撮影された第1の画像は、低い対物レンズ倍率(低い開口数)を有していてもよく、これにより、サンプルの広い領域を調査することができる。これに続いて、より高い倍率の対物レンズへの切り換えを使用して、より高い倍率の光学イメージングによって蛍光を発することが決定された対象の特定の特徴に狙いを定めることができる。次に、蛍光を発するように記録されたこれらの特徴は、レーザーによってアブレーションされてもよい。最初に低開口数レンズを使用すると、被写界深度が深くなるという更なる利点があり、そのため、サンプル内に埋め込まれた特徴を、最初から高開口数レンズでスクリーニングするよりも高い感度で検出できる。
【0179】
蛍光イメージングが使用される方法及びシステムでは、サンプルからカメラへの蛍光の放出経路は、1つ以上のレンズ及び/又は1つ以上の光学フィルタを含み得る。1つ以上の蛍光標識からの選択されたスペクトル帯域幅を通過させるようになっている光学フィルタを含むことにより、システムは、蛍光標識からの発光に関連する色収差を処理するように適合される。色収差は、レンズが異なる波長の光を同じ焦点に集束させることができない結果である。したがって、光学フィルタを含めることにより、光学素子の背景が低減され、結果として得られる光学画像はより高い分解能を有する。カメラに到達する望ましくない波長の放出光の量を最小限に抑えるための更なる方法は、国際公開第2005/121864号パンフレットで説明されたシステムと同種の光学フィルタによって透過される波長の光の透過及び焦点合わせのために設計された一連のレンズを使用することによって、レンズの色収差を意図的に利用することである。
【0180】
光学画像の精度が、サンプルをアブレーションするためにアブレーションレーザーを向けることができる精度を決定するので、より高い分解能の光学画像は、光学技術とレーザーアブレーションサンプリングとのこの結合において有利である。
【0181】
したがって、本明細書に開示される幾つかの実施形態では、本発明の装置がカメラを備える。このカメラは、対象の特徴/関心領域でパルスのバーストを発射して対象の特徴/関心領域からサンプル材料のスラグをアブレーションする又は脱着するなどしてその後にアブレーションされ得る(又はLIFTingによって脱着され得る-以下を参照)サンプル、例えば特定の細胞の特徴/領域を特定するためにオンラインで使用できる。パルスのバーストがサンプルに向けられる場合、検出された結果として生じるプルームの材料は連続事象のようなものとなり得る(それぞれの個々のアブレーションからのプルームは、事実上、単一のプルームを形成し、これはその後に検出のために実行される)。対象の特徴/関心領域内の位置からの集合プルームから形成されたサンプル材料のそれぞれの雲を一緒に分析することができるが、それぞれの異なる対象の特徴/関心領域からのプルーム内のサンプル材料は依然として離散的に保たれる。すなわち、(n+1)番目の対象の特徴/関心領域のアブレーションが開始される前に、n番目の対象の特徴/関心領域からのサンプル材料を可能にするべく、異なる対象の特徴/関心領域のアブレーション間に十分な時間が残されている。
【0182】
蛍光分析及びレーザーアブレーションサンプリングの両方を組み合わせる更なる動作モードでは、レーザーアブレーションをそれらの位置に向ける前にスライド全体の蛍光を分析する代わりに、サンプル上のスポット(サンプルをアブレーションするのではなくサンプル内の蛍光部分を励起するだけの低いエネルギー)でレーザーからパルスを発射することができ、また、予期される波長の蛍光発光が検出される場合、そのスポットにおけるサンプルを、そのスポットにレーザーを全エネルギーで発射することによりアブレーションでき、結果として生じるプルームが後述するように検出器によって分析される。これには、分析のラスターモードが維持されるという利点があるが、蛍光をパルス化して検査し、(領域が対象であるかどうかを判断するために検出器からのイオンデータを分析して解釈するのにかかる時間ではなく)蛍光から直ちに結果を取得することができ、それにより、
先と同様に、重要な位置のみを分析の対象にすることができるため、速度が向上される。したがって、複数の細胞を含む生物学的サンプルをイメージングする際にこの戦略を適用すると、以下のステップ、すなわち、(i)サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識原子及び1つ以上の蛍光標識で標識化して、標識サンプルをもたらすステップと、(ii)1つ以上の蛍光標識を励起するためにサンプルの既知の位置を光で照らすステップと、(iii)その位置に蛍光があるかどうかを観察して記録するステップと、(iv)蛍光がある場合には、その位置にレーザーアブレーションを方向付けてプルームを形成するステップと、(v)プルームを誘導結合プラズマ質量分析に晒すステップと、(vi)サンプル上の1つ以上の更なる既知の位置に関してステップ(ii)~(v)を繰り返すステップであって、プルーム内の標識原子の検出が、アブレーションされた領域のサンプルの画像の構築を可能にする、ステップと、を実行することができる。
【0183】
場合によっては、サンプル又はサンプルキャリアは、特定の位置に光学的に検出可能な(例えば、光学顕微鏡法又は蛍光顕微鏡法によって)部分を含むように改変され得る。次に、蛍光位置を使用して、装置内のサンプルを位置的に配向させることができる。そのようなマーカー位置の使用は、例えば、サンプルが視覚的に「オフライン」で、-すなわち、本発明の装置以外の装置の一部で検査された可能性がある場合に有用性を見出す。そのような光学画像は、対象の特徴/関心領域を伴う光学画像が強調表示されてサンプルが本発明に係る装置へ移される前に、例えば医師によって特定の細胞に対応する対象の特徴/関心領域でマークされ得る。ここで、注釈付き光学画像内のマーカー位置を参照することにより、本発明の装置は、カメラを使用して対応する蛍光位置を特定できるとともに、それに応じてレーザーパルスの位置に関してアブレーション及び/又は吸収(LIFTing)計画を計算することができる。したがって、幾つかの実施形態において、本発明は、上記のステップを実行することができる配向コントローラモジュールを備える。
【0184】
場合によっては、対象の特徴/関心領域の選択は、本発明の装置のカメラによって撮影されたサンプルの画像に基づいて、本発明の装置を使用して実行され得る。
【0185】
また、本明細書に開示される方法は、本明細書に記載のプロセスを実行するようにコンピュータ(又は他の電子デバイス)をプログラムするために使用できる命令を記憶した持続性機械可読媒体を含むコンピュータプログラムプロダクトとして提供されてもよい。機械可読媒体としては、ハードドライブ、フロッピーディスク、光ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ROM、RAM、EPROM、EEPROM、磁気カード又は光学カード、固体メモリデバイス、又は、電子命令を保存するのに適した他のタイプの媒体/コンピュータ可読媒体を挙げることができるが、これらに限定されない。したがって、本発明は、本明細書に開示されるような方法を実行するための命令を含む機械可読媒体も提供する。
【0186】
光学顕微鏡
前述のように、オートフォーカスセンサはカメラ(例えば、イメージセンサ)を含んでもよい。このカメラは、レーザーアブレーションの位置を特定するためのカメラなどの装置の検査システム(例えば、光学顕微鏡)と共有されてもよい。或いは、光学顕微鏡は、オートフォーカスセンサが非カメラセンサを有する場合など、オートフォーカスセンサとは別個のカメラ(例えば、イメージセンサ)を含んでもよい。
【0187】
本用途の光学顕微鏡は、共焦点、蛍光、又は明視野/広視野顕微鏡を含んでもよい。
【0188】
特定の態様において、レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザー源の焦点は、オートフォーカスシステムのオートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサと共焦点であってもよい。例えば、光学顕微鏡は、サンプリングシステム及びオートフォーカスシステムと共焦点であってもよい。サンプリングシステム、オートフォーカスシステム、及び、光学顕微鏡は、少なくとも幾つかの光学構成要素を共有してもよい。
【0189】
移送導管
移送導管は、レーザーアブレーションサンプリングシステムとイオン化システムとの間にリンクを形成するとともに、サンプルのレーザーアブレーションによって生成されたサンプル材料のプルームをレーザーアブレーションサンプリングシステムからイオン化システムへ輸送できる。移送導管の一部(又は全て)は、例えば、適切な材料をドリルで貫通して、プルームを通過させるためのルーメン(例えば、円形、長方形、又は他の断面を有するルーメン)を生成することによって形成されてもよい。移送導管は、時として、0.2mm~3mmの範囲の内径を有する。時として、移送導管の内径はその長さに沿って変化し得る。例えば、移送導管は、端部が先細になっていてもよい。移送導管の長さは、1センチメートル~100センチメートルの範囲であってもよい。場合によっては、長さが10センチメートル以下(例えば、1~10センチメートル)、5センチメートル以下(例えば、1~5センチメートル)、又は、3センチメートル以下(例えば、0.1~3センチメートル)である。時として、移送導管のルーメンは、アブレーションシステムからイオン化システムまでの全距離又はほぼ全距離に沿って真っ直ぐである。また、時として、移送導管のルーメンは、距離全体にわたって真っ直ぐではなく、向きが変わる。例えば、移送導管は、漸進的な90度巻回部を形成してもよい。この構成により、レーザーアブレーションサンプリングシステムでのサンプルのアブレーションによって生成されたプルームは、移送導管入口の軸が真上を向いている間、最初は垂直面内を移動でき、イオン化システム(例えば、対流冷却を利用するために一般的に水平に向けられたICPトーチ)に近づくにつれて水平方向に移動できる。移送導管は、プルームが入るか又は形成される入口開口から少なくとも0.1センチメートル、少なくとも0.5センチメートル、又は、少なくとも1センチメートルの距離にわたって真っ直ぐであってもよい。大まかに言えば、一般に、移送導管は、レーザーアブレーションサンプリングシステムからイオン化システムに材料を移送するのにかかる時間を最小限に抑えるように適合される。
【0190】
サンプルコーンを含む移送導管入口
移送導管は、レーザーアブレーションサンプリングシステム内の入口を含んでもよい(特に、レーザーアブレーションサンプリングシステムのサンプルチャンバ内であり、したがって、その入口は、サンプルチャンバの主要なガス出口にも相当する)。移送導管の入口は、レーザーアブレーションサンプリングシステム内のサンプルからアブレーションされたサンプル材料を受けて、それをイオン化システムに移送する。場合によっては、レーザーアブレーションサンプリングシステムの入口は、イオン化システムへの移送導管に沿った全てのガス流の供給源である。場合によっては、レーザーアブレーションサンプリングシステムから材料を受けるレーザーアブレーションサンプリングシステムの入口は、第2の「移送」ガスが別個の移送流入口から流れる導管の壁の開口である(例えば、国際公開第2014146724号パンフレット及び国際公開第2014147260号パンフレットに開示されているように)。この場合、移送ガスはかなりの割合を占め、多くの場合、ガスの大部分がイオン化システムに流れる。レーザーアブレーションサンプリングシステムのサンプルチャンバはガス入口を含む。この入口を通ってチャンバにガスを流すと、移送導管の入口を通ってチャンバから出るガスの流れが生じる。このガスの流れは、アブレーションされた材料のプルームを捕捉するとともに、プルームが移送導管(一般に、移送導管のレーザーアブレーションサンプリングシステム入口は、本明細書ではサンプルコーンと称される円錐の形状を成す)に入ってサンプルチャンバから出てチャンバの上方を通過する導管内へ入る際にプルームを同伴する。この導管には、別個の移送流入口からガスが流入する。移送流入口、レーザーアブレーションサンプリングシステム入口を備えるとともにアブレーションされたサンプル材料をイオン化システムに向けて運ぶ移送導管を開始する構成要素は、フローセルとも称され得る(国際公開第2014146724号パンフレット及び国際公開第2014147260号パンフレットにあるように)。
【0191】
移送フローは、少なくとも3つの役割を果たす。すなわち、移送フローは、イオン化システムの方向で移送導管に入るプルームをフラッシングして、プルーム材料が移送導管の側壁に接触するのを防ぐ;移送フローは、サンプル表面の上方に「保護領域」を形成して、アブレーションが制御された雰囲気下で実行されるようにする;及び、移送フローは、移送導管内の流速を増大させる。通常、捕捉ガスの粘度は、移送ガスの粘度よりも低い。これは、移送導管の中央にある捕捉ガスにサンプル材料のプルームを閉じ込め、レーザーアブレーションサンプリングシステムの下流にあるサンプル材料のプルームの拡散を最小限に抑えるのに役立つ(流れの中央にあるため、輸送速度はより一定でほぼフラットである)。ガスは、例えば、これらに限定されないが、アルゴン、キセノン、ヘリウム、窒素、又はこれらの混合物であってもよい。一般的な移送ガスはアルゴンである。アルゴンは、プルームが移送導管の壁に到達する前にプルームの拡散を停止するのに特に適している(また、アルゴンは、イオン化システムがアルゴンガスベースのICPである装置での機器感度の向上にも役立つ)。捕捉ガスは好ましくはヘリウムである。しかしながら、捕捉ガスは、他のガス、例えば、水素、窒素、又は、水蒸気によって置き換えられてもよく或いはそれらを含んでもよい。25℃では、アルゴンが22.6μPasの粘度を有し、一方、ヘリウムが19.8μPasの粘度を有する。場合によっては、捕捉ガスがヘリウムであり、移送ガスがアルゴンである。
【0192】
国際公開第2014169394号パンフレットに記載されるように、サンプルコーンの使用は、標的と移送導管のレーザーアブレーションサンプリングシステム入口との間の距離を最小化する。サンプルと、捕捉ガスがコーンを流れることができるコーンのポイントとの間の距離が短くなるため、これにより、乱流の少ないサンプル材料の捕捉が改善され、アブレーションされたサンプル材料のプルームの広がりが減少する。したがって、移送導管の入口は、サンプルコーンの先端の開口である。コーンはサンプルチャンバ内へ突出する。
【0193】
サンプルコーンの随意的な変更は、サンプルコーンを非対称にすることである。コーンが対称である場合、ちょうど中央で全ての方向からのガスの流れが中和されるため、サンプルコーンの軸でサンプルの表面に沿ってガスの全体的な流れがゼロになる。コーンを非対称にすることにより、サンプル表面に沿ってゼロ以外の速度がもたらされ、それにより、レーザーアブレーションサンプリングシステムのサンプルチャンバからのプルーム材料のウォッシュアウトが支援される。
【0194】
実際には、コーンの軸でサンプルの表面に沿って非ゼロのベクトルガス流を引き起こすサンプルコーンの任意の修正を使用することができる。例えば、非対称円錐は、円錐の軸でサンプルの表面に沿って非ゼロのベクトルガス流を生成するようになっている、切り欠き又は一連の切り欠きを備えてもよい。非対称コーンは、コーンの軸でサンプルの表面に沿って非ゼロのベクトルガス流を生成するようになっているオリフィスをコーンの側面に含んでもよい。このオリフィスは、コーンの周りのガスの流れのバランスを崩し、それによって、標的のコーンの軸でサンプルの表面に沿って非ゼロのベクトルガスの流れを再び生成する。円錐の側面は、2つ以上のオリフィスを備えてもよく、1つ以上の切り欠き及び1つ以上のオリフィスの両方を含んでもよい。切り欠き及び/又はオリフィスの縁部は、乱流を防止又は最小化するために、一般に、平滑化、丸み付け、又は、面取りされている。
【0195】
コーンの非対称性の異なる方向は、捕捉及び移送ガスの選択及びその流量に応じて、異なる状況に適切であり、また、それぞれの方向ごとにガス及び流量の組み合わせを適切に特定することは当業者の能力の範囲内である。
【0196】
上記の適応の全ては、本発明で使用されるように、単一の非対称サンプルコーンに存在し得る。例えば、円錐は、非対称に切り詰められ、2つの異なる楕円形の円錐の半分から形成されてもよく、円錐は、非対称に切り詰められ、1つ以上のオリフィスなどを備えてもよい。
【0197】
したがって、サンプルコーンは、レーザーアブレーションサンプリングシステムでサンプルからアブレーションされた材料のプルームを捕捉するようになっている。使用時、サンプルコーンは、既に前述したように、例えば、可動サンプルキャリアトレイ上のレーザーアブレーションサンプリングシステム内でサンプルを操作することによって、サンプルに動作可能に近接して位置される。前述したように、アブレーションされたサンプル材料のプルームは、サンプルコーンの狭い端にある開口を通って移送導管に入る。開口の直径は、a)調整可能となり得る、b)アブレーションされたプルームが移送導管に入る際の摂動を防ぐように寸法付けられ得る、及び/又は、c)アブレーションされたプルームの断面直径にほぼ等しくなり得る。
【0198】
テーパー導管
内径が小さいチューブでは、同じ流量のガスがより高速で移動する。したがって、より小さな内径を有するチューブを使用することにより、ガス流で運ばれるアブレーションされたサンプル材料のプルームは、所定の流量でより迅速に所定の距離にわたって輸送され得る(例えば、レーザーアブレーションサンプリングシステムから移送導管内のイオン化システムへ)。個々のプルームをどれだけ迅速に分析できるかを決める重要な要因の1つは、アブレーションによる生成から装置の質量分析計構成要素で成分イオンが検出されるまでの時間(検出器での過渡時間)にプルームがどれだけ拡散したかである。したがって、狭い移送導管を使用することにより、アブレーションと検出との間の時間が短縮され、それにより、拡散が発生する可能性のある時間が少なくなるため、拡散が減少し、最終的に、検出器での各アブレーションプルームの過渡時間が削減される。過渡時間が短いということは、単位時間当たりにより多くのプルームを生成及び分析でき、それにより、より高品質及び/又はより高速の画像を生成できることを意味する。
【0199】
テーパーは、移送導管の長さの前記部分に沿った移送導管の内径の漸進的な変化を含んでもよい(すなわち、管の内径は、管を貫く断面で、入口(レーザーアブレーションサンプリングシステムの端部にある)へ向かう部分の端部から出口(イオン化システムの端部にある)へ向かう部分に沿って減少する)。通常、アブレーションが発生する場所の近くの導管の領域は、比較的広い内径を有する。テーパーの前の導管のより大きな体積は、アブレーションによって生成された材料の閉じ込めを容易にする。アブレーションされた粒子がアブレーションされたスポットから飛散するとき、それらは高速で移動する。ガスの摩擦によりこれらの粒子は遅くなるが、プルームは、1ミリメートル未満から1ミリメートルのスケールで依然として広がる可能性がある。壁までの十分な距離を確保することは、流れの中心近くのプルームの封じ込めに役立つ。
【0200】
広い内径部分は、短い(1~2mm程度)だけであるため、プルームがより狭い内径の移送導管のより長い部分でより多くの時間を費やす場合、全体的な過渡時間に大きく寄与しない。したがって、より大きな内径部分がアブレーション生成物を捕捉するために使用され、また、より小さな内径導管がこれらの粒子をイオン化システムに迅速に輸送するために使用される。
【0201】
狭い内径セクションの直径は、乱流の開始に対応する直径によって制限される。レイノルズ数は、丸いチューブと既知の流れに関して計算され得る。一般に、4000を超えるレイノルズ数は、乱流を示すため、避ける必要がある。2000を超えるレイノルズ数は、遷移流(非乱流と乱流の間)を示し、したがって、回避することも望ましい場合がある。ガスの所定の質量流量に関して、レイノルズ数は導管の直径に反比例する。移送導管の狭い内径セクションの内径は、一般に2mmよりも狭く、例えば、1.5mmよりも狭く、1.25mmよりも狭く、1mmよりも狭いが、導管内の1分当たり4リットルのヘリウムの流れが4000を超えるレイノルズ数を有する直径よりも大きい。
【0202】
移送導管の一定直径部分とテーパーとの間の移行部における粗い又は角のある縁部は、ガス流に乱流を引き起こす可能性があり、通常は回避される。
【0203】
犠牲流れ
より高い流量では、導管で乱流が発生するリスクが高まる。これは、特に、移送導管の内径が小さい(例えば1mm)場合に当てはまる。しかしながら、従来使用されているアルゴンの代わりにヘリウムや水素などの軽質ガスを使用がガスの移送流として使用されれば、内径の小さい移送導管で高速移送(最大で300m/s及び300m/sを超えて)を実現することができる。
【0204】
高速移送は、許容可能なレベルのイオン化が行なわれることなくアブレーションされたサンプル材料のプルームをイオン化システムに通過させるようにし得る限り、問題を提示する。低温ガスの流れが増えると、トーチの端部でプラズマの温度が下がるため、イオン化のレベルが低下する可能性がある。サンプル材料のプルームが適切なレベルまでイオン化されない場合には、アブレーションされたサンプル材料から情報が失われる-その成分(任意の標識原子/元素タグを含む)を質量分析計によって検出できないからである。例えば、ICPイオン化システムにおけるトーチの端部にあるプラズマをサンプルが非常に速く通過できるため、プラズマイオンは、サンプル材料に作用してそれをイオン化するのに十分な時間を持たない。狭い内径の移送導管における高流量、高速移送によって引き起こされるこの問題は、移送導管の出口に流れ犠牲システムを導入することによって解決され得る。流れ犠牲システムは、移送導管からガスの流れを受けるとともに、その流れの一部(アブレーションされたサンプル材料の任意のプルームを含むフローの中央部分)のみをイオン化システムに通じる注入器内へと前方に通過させるようになっている。流れ犠牲システムにおける移送導管からのガスの分散を容易にするために、移送導管出口を外側に広げることができる。
【0205】
流れ犠牲システムはイオン化システムの近傍に位置されるため、流れ犠牲システムからイオン化システムにつながるチューブ(例えば注入器)の長さは短い(例えば、通常は、約50cmなど、数十cm程度の長さを有する移送導管の長さに比べて、長さが約1cm)。したがって、全体的な輸送システムの比較的遅い部分がはるかに短いため、流れ犠牲システムからイオン化システムにつながるチューブ内のより低いガス速度は、総移送時間に大きな影響を与えない。
【0206】
殆どの構成では、体積流量でガスの速度を低下させる方法として、流れ犠牲システムからイオン化システムへと通過するチューブ(例えば注入器)の直径を大幅に大きくすることは望ましくない或いは場合によっては想定し得る。例えば、イオン化システムがICPである場合、流れ犠牲システムからの導管は、ICPトーチの中央に注入器チューブを形成する。より広い内径の注入器を使用すると、アブレーションされたサンプル材料のプルームをプラズマの中心(プラズマの最も高温で最も効率的にイオン化する部分)に正確に注入できないため、信号品質が低下する。内径が1mm以下(例えば、600μm以下、500μm以下、又は、400μm以下など、内径が800μm以下)の注入器が強く推奨される。他のイオン化技術は、3次元空間の比較的小さな体積内でイオン化されるべき材料に依存し(イオン化に必要なエネルギー密度を小さな体積でしか達成できないため)、したがって、内径が広い導管により、導管を通過するサンプル材料の大部分は、エネルギー密度がサンプル材料をイオン化するのに十分なゾーンの外側にある。したがって、流れ犠牲システムからイオン化システムへ至る細い直径のチューブは、非ICPイオン化システムを伴う装置でも使用される。前述したように、サンプル材料のプルームが適切なレベルまでイオン化されない場合には、アブレーションされたサンプル材料から情報が失われる-その成分(任意の標識原子/元素タグを含む)を質量分析計によって検出できないからである。
【0207】
犠牲流れとイオン化システムの入口に入る流れとの間の望ましい分割比を確保するのに役立つべく圧送を使用できる。したがって、場合によっては、流れ犠牲システムは、犠牲流れ出口に取り付けられるポンプを備える。制御されたリストリクタをポンプに付加して、犠牲流れを制御することができる。場合によっては、流量犠牲システムは、リストリクタを制御するようになっているマスフローコントローラも備える。
【0208】
高価なガスが使用される場合、犠牲流れ出口からポンプで送出されたガスは、既知のガス精製方法を使用して一掃されて元の同じシステム内へと再循環され得る。ヘリウムは、前述のように輸送ガスとして特に適しているが、高価であり、したがって、システム内のヘリウムの損失を減らすことが有利である(つまり、ヘリウムがイオン化システムに渡されてイオン化されるとき)。したがって、ガス浄化システムが、流れ犠牲システムの犠牲流れ出口に接続されることがある。
【0209】
イオン化システム
元素イオンを生成するには、噴霧されたサンプルを気化、噴霧、及び、イオン化できるハードイオン化技術を使用する必要がある。
【0210】
誘導結合プラズマトーチ
本出願の装置は、誘導結合プラズマ(ICP)トーチを更に含んでもよく、或いは、ICPトーチに結合されてもよい。例えば、本出願の装置は、ICP質量分析計(ICP-MS)を更に含んでもよい。
【0211】
一般に、分析されるべき材料をそれが分析のために質量検出器に通される前にイオン化するために誘導結合プラズマが使用される。誘導結合プラズマは、電磁誘導によって生成される電流によってエネルギーが供給されるプラズマ源である。誘導結合プラズマは、3つの同心円管から成るトーチ内で維持され、最も内側の管が注入器として知られている。
【0212】
プラズマを維持する電磁エネルギーを与える誘導コイルは、トーチの出力端の周りに位置される。交番電磁場が1秒間に何百万回も極性を反転させる。アルゴンガスが2つの最も外側の同心円管の間に供給される。自由電子が放電によって導入され、これらの自由電子は、交流電磁場で加速され、その場合、アルゴン原子と衝突してそれらをイオン化させる。定常状態において、プラズマは、主に、自由電子及びアルゴンイオンをごく少量伴うアルゴン原子から成る。
【0213】
2つの最も外側のチューブ間のガスの流れがプラズマをトーチの壁から遠ざけるため、ICPをトーチ内に保持できる。注入器(中央のチューブ)と中間のチューブとの間に導入されるアルゴンの第2の流れが、注入器からプラズマを除去した状態に保つ。ガスの第3の流れが、トーチの中央にある注入器に導入される。分析されるべきサンプルは、注入器を介してプラズマに導入される。
【0214】
ICPは、サンプルからプラズマに材料を導入するために、内径が2mm未満で250μmを超える注入器を備えることができる。注入器の直径とは、プラズマよりも近位側の端部にある注入器の内径を指す。注入器は、プラズマから離れて延びると、異なる直径、例えばより広い直径を有してもよく、直径の差は、直径の段階的な増大によって又は注入器がその長さに沿って先細になっているために達成される。例えば、注入器の内径は、1.75mm~250μm、例えば、1.5mm~300μm直径、1.25mm~300μm直径、1mm~300μm直径、900μm~300μm直径、900μm~400μm直径、例えば約850μm直径であってもよい。内径が2mm未満の注入器を使用すると、直径が大きい注入器に優る大きな利点がもたらされる。この機能の利点の1つは、サンプル材料のプルームがプラズマに導入されたときに質量検出器で検出される信号の過渡状態がより狭い注入器により低減されるという点である(サンプル材料のプルームは、レーザーアブレーションサンプリングシステムによりサンプルから除去される一群の特定の蒸気材料である)。したがって、サンプル材料のプルームをイオン化のためのICP内へのその導入から質量検出器で結果として生じるイオンの検出まで分析するのに要する時間が減少される。サンプル材料のプルームを分析するのに要する時間のこの減少により、任意の期間でより多くのサンプル材料のプルームを検出することができる。また、内径が小さい注入器は、誘導結合プラズマの中心にサンプル材料をより正確に導入し、そこで、より効率的なイオン化が発生する(より多くのサンプル材料をイオン化がそれほど効率的ではないプラズマの末端へと導入できるより大きな直径の注入器とは対照的に)。
【0215】
ICPトーチ(Agilent、Varian、Nu Instruments、Spectro、Leeman Labs、PerkinElmer、Thermo Fisherなど)及び注入器(Elemental ScientificやMeinhardなど)が利用できる。
【0216】
他のイオン化技術
電子イオン化
電子イオン化は、気相サンプルと電子ビームとを衝突させることを伴う。電子イオン化チャンバが電子源及び電子トラップを含む。電子ビームの典型的な供給源は、通常は70電子ボルトのエネルギーで動作するレニウム又はタングステンワイヤである。電子イオン化用の電子ビーム源は、Markes Internationalから入手できる。電子ビームは電子トラップへ方向付けられ、また、電子の移動方向と平行に印加された磁場により、電子が螺旋状の経路で移動する。気相サンプルは、電子イオン化チャンバを通過して方向付けられ、電子ビームと相互作用してイオンを形成する。電子イオン化は、プロセスが一般にサンプル分子をフラグメント化させるため、イオン化の難しい方法と見なされる。市販の電子イオン化システムの例としては、Advanced Markus Electron Ionisation Chamberが挙げられる。
【0217】
レーザーアブレーションベースのサンプリング・イオン化システムの随意的な更なる構成要素
イオン偏向器
質量分析計は、イオンが検出器の表面に当たるとイオンを検出する。イオンと検出器との衝突は、検出器表面からの電子の解放を引き起こす。これらの電子は、検出器を通過するときに増大される(最初に解放された電子は、検出器内の更なる電子をたたき出し、これらの電子は、その後、二次プレートに衝突し、それにより、電子の数が更に増幅する)。検出器のアノードに当たる電子の数が電流を生成する。アノードに当たる電子の数は、二次プレートに印加される電圧を変更することによって制御され得る。電流は、アナログ-デジタル変換器によって検出器に当たるイオンの計数に変換され得るアナログ信号である。検出器が線形範囲で動作している場合、電流をイオンの数に直接に相関させることができる。一度に検出できるイオンの量には限界がある(1秒当たりに検出できるイオンの数として表わされ得る)。このポイントを超えると、検出器に当たるイオンによって解放される電子の数は、もはやイオンの数と相関しなくなる。したがって、これは検出器の定量的能力に上限を課す。
【0218】
イオンが検出器に当たると、その表面が汚染によって損傷されるようになる。経時的に、この不可逆的な汚染による損傷によって、イオンが検出器に当たるときに検出器の表面により解放される電子が少なくなり、最終的には検出器を交換する必要がある。これは、「検出器の経年劣化」と称され、MSでよく知られている現象である。
【0219】
したがって、MSへの過負荷量のイオンの導入を回避することにより、検出器の寿命を延ばすことができる。前述のように、MS検出器に衝突するイオンの総数が検出の上限を超えると、信号は、定量的ではなくなるため、イオンの数が上限を下回る場合ほど情報量が少なくなる。したがって、有用なデータを生成せずに検出器の経年劣化が加速するため、検出上限を超えないようにすることが望ましい。
【0220】
質量分析によるイオンの大きなパケットの分析には、通常の質量分析には見られない特定の一連の課題が含まれる。特に、典型的なMS技術は、検出限界に近づいたり、検出器の劣化を加速させたりしてはならない、低レベルで一定レベルの材料を検出器に導入することを伴う。一方、レーザーアブレーション及び脱着ベースの技術は、MSの非常に短い時間窓で比較的大量の材料を、すなわち、例えば、MSで一般に分析されるイオンの小さなパケットよりもはるかに大きい組織サンプルの細胞サイズのパッチからのイオンを分析する。事実上、それは、アブレーション又はliftingから生じるイオンの分析されたパックによる検出器の殆ど意図的な過負荷である。分析事象の合間に、信号はベースラインにある(標識原子からのイオンがサンプリング・イオン化システムからMSに意図的に入っていないため、ゼロに近い信号;MSが完全な真空でないため、一部のイオンが必然的に検出される)。
【0221】
したがって、本明細書に記載の装置では、多数の検出可能な原子で標識化されたイオン化サンプル材料のパケットからのイオンが検出の上限を超え、有用なデータを提供せずに検出器を損傷する可能性があるため、検出器の老化が加速するリスクが高い。
【0222】
これらの問題に対処するために、装置は、サンプリング・イオン化システムと検出器システム(質量分析計)との間に位置されて質量分析計へのイオンの侵入を制御するように動作可能なイオン偏向器を備えることができる。1つの構成では、イオン偏向器がオンの場合、サンプリング・イオン化システムから受けられたイオンが偏向される(つまり、イオンの経路が変更され、そのため、イオンが検出器に到達しない)が、偏向器がオフの場合、イオンは偏向されずに検出器に到達する。イオン偏向器がどのように展開されるかは、サンプリング・イオン化システム及び装置のMSの配置によって決まる。例えば、イオンがMSに入るポータルが、サンプリング・イオン化システムから出るイオンの経路と直接一致していない場合、デフォルトでは、サンプリング・イオン化システムからMSにイオンを導くために、適切に配置されたイオン偏向器がオンになる。イオン化に起因する事象がMSに過負荷をかける可能性があると考えられるイオン化サンプル材料のパケットが検出されると(以下を参照)、イオン偏向器がオフに切り換えられ、それにより、事象からの残りのイオン化材料がMSに偏向されなくなって代わりにシステムの内面にぶつかることができるだけとなり、結果として、MS検出器の寿命が保たれる。損傷事象からのイオンがMSに入るのを防いだ後、イオン偏向器はその元の状態に戻され、それにより、イオン化されたサンプル材料の後続のパケットからのイオンがMSに入って検出される。
【0223】
或いは、(通常の動作条件下で)MSに入る前にサンプリング・イオン化システムから出るイオンの方向に変化がない配置では、イオン偏向器がオフになり、サンプリング・イオン化システムからのイオンがMSで分析されるべくそれを通過する。検出器の潜在的な過負荷が検出されたときの損傷を防ぐために、この構成において、イオン偏向器は、オンになり、そのため、検出器の損傷を防ぐためにイオンが検出器に入らないようにイオンを迂回させる。
【0224】
サンプル材料のイオン化からMSに入るイオン(レーザーアブレーション又は脱離によって生成された材料のプルームなど)は、同時にMSに入るのではなく、代わりに、確率分布曲線に従う周波数がほぼ最大周波数であるピークとして入る。すなわち、ベースラインから、最初に少数のイオンがMSに入って検出され、次に、イオンの周波数が最大に増大してから、数が再び減少し、ベースラインに到達する。ピークの立ち上がりでイオンの頻度がゆっくりと増大する代わりに、検出器に当たるイオンの数が非常に急速に増大するため、検出器に損傷を与える可能性のある事象を特定できる。
【0225】
以下で説明する特定のタイプの検出器であるTOF MSの検出器に当たるイオンの流れは、イオン化されたサンプル材料のパケット内のイオンの分析中は継続的ではない。TOFは、パルスグループでTOF MSのフライトチャンバにイオンを定期的に解放するパルサーを備える。既知の同じ時間に全てのイオンを解放することにより、飛行時間型質量分析が可能になる。飛行時間型質量分析のためのイオンパルスの解放間の時間は、TOF MSの抽出又はプッシュとして知られている。プッシュはマイクロ秒程度である。したがって、サンプリング・イオン化システムからのイオンの1つ以上のパケットからの信号は、多数のプッシュをカバーする。
【0226】
したがって、イオンカウントの読み取り値が1回のプッシュでベースラインから非常に高いカウントにジャンプする場合(つまり、イオン化されたサンプル材料の特定のパケットからのイオンの最初の部分)、サンプル材料のパケットのイオン化に起因するイオンの本体が更に大きくなるため検出上限を超えることが予期され得る。この時点で、イオン偏向器を動作させて、損傷を与えるイオンの大部分が検出器から離れる方向に向けられるようにすることができる(前述のように、システムの配置に応じて、アクティブ化又は非アクティブ化される)。
【0227】
四重極に基づく適切なイオン偏向器は、当技術分野で入手可能である(例えば、Colutron Research Corporation及びDreebit GmbHから)。
【0228】
b.脱着ベースのサンプリング・イオン化システム
脱着ベースの分析器は、一般に、3つの構成要素を備える。第1の構成要素は、分析用のサンプルからサンプル材料のスラグを生成するための脱着システムである。脱離したサンプル材料のスラグ内の原子(以下で説明する任意の検出可能な標識原子を含む)を検出できる前に、サンプルをイオン化(及び霧化)しなければならない。したがって、装置は、原子をイオン化して元素イオンを形成することにより質量/電荷比に基づいてMS検出器構成要素(第3の構成要素)によるそれらの検出を可能にするイオン化システムである第2の構成要素を備える。脱着ベースのサンプリングシステム及びイオン化システムは、移送導管によって接続される。多くの場合、脱着ベースのサンプリングシステムは、レーザーアブレーションベースのサンプリングシステムでもある。
【0229】
脱着サンプリングシステム
場合によっては、サンプル材料の粒子状及び/又は気化したプルームを生成するためにレーザーアブレーションが使用されるのではなく、サンプル材料のバルク塊が、サンプルの実質的な崩壊及びサンプルの小さな粒子及び/又は蒸気への変換を伴うことなく、それが配置されるサンプルキャリアから脱着される(例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2016109825号パンフレットの
図8、及び付随する説明を参照)。本明細書中において、スラグという用語は、この脱着された材料(本明細書で論じられるサンプル材料のパケットの1つの特定の形態)を指すために使用される。スラグは、10nm~10μm、100nm~10μm、場合によっては1μm~100μmの寸法を有し得る。このプロセスは、サンプルカタパルティングと称され得る。一般に、スラグは単一の細胞に相当する(この場合、プロセスを細胞カタパルティングと称することができる)。
【0230】
サンプルから解放されるサンプル材料のスラグは、脱着ステップの前に、随意的にサンプルが装置に挿入される前のプロセスにおいて、脱着のために個々のスラグに切断されたサンプルの一部であってもよい。分析前に個別のスラグに分割されたサンプルは、構造化サンプルと称される。したがって、これらの個々のスラグのそれぞれは、装置内で脱着、イオン化、及び、分析され得るサンプルの個別の部分に相当する。別個の部位からのスラグの分析により、前述のレーザーアブレーションサンプリングシステムによってサンプルの各位置がアブレーションされたのと同じ方法で、画像のピクセルを表わす各スラグにより画像を構築することができる。
【0231】
構造化サンプルは、様々な方法で調製されてもよい。例えば、生物学的サンプルを切断するように構成される地形的特徴を含むサンプルキャリアが使用されてもよい。ここで、生物学的サンプルがキャリアの表面に適用され、これにより、地形的特徴がサンプルを切断及び切断し、ひいては、生物学的材料のセクションが、特徴間の複数の別個の部位によって保持されて、構造化された生物学的サンプルがもたらされる。或いは、サンプルキャリアは、そのような地形的特徴(実際には、顕微鏡スライドのような平坦な表面、以下で説明するように随意的に機能化される)を含まなくてもよく、その場合、サンプルがサンプルキャリアに適用されてもよく、また、イオン化及び分析のために脱着され得るサンプルのスラグを規定するためにサンプルが切断されてもよい。サンプルが組織切片である場合、サンプルの切片化は、ブレード又はスタンプなどの機械的な工具によって達成され得る。或いは、脱着されるべきサンプルの切片の周りの材料は、同じ又は別個のサンプル調製セットアップにおいてレーザーアブレーションにより除去され得る。特定の技術では、集束電子又はイオンビームを使用するセットアップによって材料を除去することができる。集束された電子又はイオンビームは、1μm程度又は特定の場合には100nmのピクセルサイズをもたらす部分切片間に特に狭いカット(潜在的には10nmスケール)をもたらす。
【0232】
サンプル材料のスラグをキャリアから解放でき、また、サンプル材料のそれぞれの離散部分は、離散事象として分析するために検出器に順次導入される(以下で説明する技術によって画像のピクセルを生成する)。従来のマスサイトメトリー又は質量分析のように生物学的サンプルをランダムに導入するのとは対照的に、別個の材料を順次に導入することの利点としては、より高いサンプル処理速度が挙げられる。これは、スラグがサンプルチャンバからイオン化システムに好ましくは単一の物質として輸送され、それにより、アブレーションされた材料のプルームがガス流(特に何らかの乱流が存在するガス流)中にある際にスラグが広がることができないからである。
【0233】
サンプリングのための脱着
サンプル材料は、熱エネルギー、機械的エネルギー、運動エネルギー、及び、先のいずれかの組み合わせによってサンプルから脱着され得る。この種のサンプリングは、特に生物学的サンプルの分析に役立つ。
【0234】
特定の例において、サンプル材料は、熱的メカニズムによってサンプルから解放されてもよい。例えば、サンプルキャリアの表面は、サンプル材料のスラグを脱着するのに十分なほど熱くなる。サンプルキャリアは、バルク脱着プロセスを容易にするために、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)ポリマー又はPMMAポリマー膜でコーティングされてもよい。熱は、レーザー(上記のレーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザーなど)などの放射源によって与えられ得る。表面に印加されるエネルギーは、生物学的材料を脱着するのに十分でなければならず、好ましくは、サンプル材料が生物学的サンプルからのものである場合、サンプル材料を変更することなくサンプル材料を脱着するのに十分でなければならない。サンプルキャリアの吸収特性に部分的に依存する可能性のある、任意の適切な放射波長を使用することができる。サンプルキャリアの表面又は層は、熱に変換するためにレーザー放射線を吸収する吸収体でコーティングされてもよく又は吸収体を含んでもよい。放射線は、サンプルが位置される表面以外のキャリアの表面に送出されてもよく又はキャリアの厚さを貫通するなどしてサンプルを支持する表面に送出されてもよい。加熱された表面は、表面層であってもよく、又は、サンプルキャリアの多層構造の内層であってもよい。レーザー放射線エネルギーの使用の一例は、サンプルキャリアが脱離膜層を含む場合がある、LIFTingと呼ばれる技術にある(レーザー誘起前方移動;例えば、Doraiswamy et al.,2006,Applied Surface Science,52:4743-4747;Fernandez-Pradas,2004,Thin Solid Films 453-454:27-30;Kyrkis et al.,in Recent Advances in Laser Processing of Materials,Eds.Perriere et al.,2006,Elsivier参照)。脱着膜は、放射線を吸収して、脱着膜及び/又は生物学的サンプルの放出を引き起こすことができる(例えば、ある場合には、サンプル膜は、生物学的サンプルと共にサンプルキャリアから脱着し、他の場合には、膜は、サンプルキャリアに付着したままである、及び、物学的サンプルは脱着膜から脱着する)。
【0235】
加熱による脱着は、脱着に使用されるレーザーに応じて、ナノ秒、ピコ秒、又は、フェムト秒の時間スケールで行なわれ得る。
【0236】
サンプルは、開裂可能な光反応性部分によってサンプルキャリアに付着されてもよい。開裂可能な光反応性部分に放射線を照射する(例えば、レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザーシステム内のレーザーから)と、光反応性部分は開裂してサンプル材料を解放することができる。サンプルキャリアは、(i)サンプルをサンプルキャリアに結合する開裂可能な光反応性部分、及び、(ii)前述したような脱着膜を備えてもよい。この状況では、第1のレーザー放射線パルスを使用して光反応性部分の開裂を引き起こしてもよく、また、第2のレーザー放射線パルスを使用して脱着膜を標的とし、liftingによってサンプルキャリアからサンプルを分離させてもよい(或いは、他の手段によって導入される熱エネルギーパルスは、脱着膜を加熱し、したがって、サンプルキャリアからのサンプル材料の分離を引き起こすために使用されてもよい)。第1及び第2のパルスは異なる波長を有してもよい。したがって、幾つかの方法(例えば、アブレーション及び脱着の両方を含む)では、サンプルキャリアからのサンプルの分離が、異なる波長の複数のレーザーパルスを伴ってもよい。場合によっては、光反応性部分の開裂及びliftingが、同じレーザーパルスによって達成されてもよい。
【0237】
サンプルキャリアは、サンプルに運動エネルギーを与えてサンプルを表面から解放する化学反応性種のコーティング又は層を含んでもよい。例えば、化学反応性種は、例えば、H2、CO2、N2、又は、ヒドロクロロフルオロカーボンなどのガスを解放してもよい。そのような化合物の例は、加熱するとガスを解放する発泡剤及び発泡剤を含む。ガスの生成は、材料の再現性と解放方向とを改善できる運動エネルギーを脱着サンプル材料に与えるために使用され得る。
【0238】
サンプルキャリアは、サンプル材料を脱着するための熱を生成するために発熱反応を受ける光開始化学反応物を含んでもよい。先の段落で説明したキャリアのコーティング又は実際にはそのキャリア内の特定の化学結合(キャリアからサンプル材料のスラグを解放するためにレーザーにより照射される)は、レーザー放射線の波長によって標的にされ得る材料の一例である。
【0239】
一般に、アブレーションを実行する場合、アブレーションされた位置は、重なり合わない個別のスポットとして分解される。しかしながら、脱着がサンプル材料を装置に導入するための手段として使用される場合、例えば、特定の位置でサンプルキャリアにサンプルを固定する全ての脱着膜が除去されるようにするために、重なり合うスポットが使用されてもよい。本発明者らは、サンプルキャリアから細胞を完全に脱着するのに十分な大きさのスポットサイズを有する単一のレーザーパルスによる細胞の脱着がしばしば材料のスラグの破壊を引き起こすことを確認した。サンプル材料のスラグがより小さな部分に分解されると直ぐに、アブレーションされたスラグ内の材料の過渡時間が増大する。これは、サンプルが脱着されるチャンバから輸送導管を通じてイオン化システムへ及びその後に検出器へと材料が通過する際に材料が必然的に広がるからである。したがって、脱着されたスラグの完全性を維持することにより、例えばサンプルが細胞塗抹標本である場合、アブレーションされたスラグの分析の最高速度、すなわち、細胞の分析の最高速度が可能になる。イオン化まで一般に完全性を維持する別個のスラグとしての単一細胞の脱着は、CyTOF(Fluidigm、カリフォルニア州、米国)による溶液中の細胞の分析によって可能になった速度と同様の速度でスライドから単一細胞を分析する機会を与える。しかしながら、スライドからの個々の細胞の脱着は、細胞を最初に視覚的に分析することができるという更なる利点をもたらし、したがって、対象の細胞を選択できるとともに、例えば誤った細胞タイプの細胞を除去することができ、それにより、分析の効率が向上する。更に、それにより、脱着される材料のスラグが実際に単一細胞になるように選択され得る。液体サンプルの分析では、細胞がダブレット、高次マルチマーのトリプレットに凝集し得る場合があり、或いは、偶然に、サンプル導入プロセスの結果として、2つの別個の細胞が同じ事象で分析され得る。したがって、2つ以上の細胞からの原子が一緒にイオン化システム及び検出システムへ移行し、それにより、不正確な結果だけでなく、MS検出器の過負荷による機器の損傷の可能性も生じる。
【0240】
多くの場合、対象となるサンプル上の特徴/領域は、単独で簡単に脱着できる個別の部位にある、孤立した細胞などの別個の実体を表わさない。代わりに、対象の細胞は、分析が不要又は望ましくない他の細胞又は材料によって囲まれる場合がある。したがって、対象の特徴/関心領域の脱着(例えば、lifting)を実行しようとすると、対象の細胞及び周囲の材料の両方が一緒に脱着される場合がある。したがって、対象の特定の特徴/関心領域(例えば細胞)に加えて材料の脱着されたスラグで担持されるサンプルの周囲の領域からの(例えば、標識化された他のセルからの)元素タグ(以下の説明を参照)で使用される標識原子などの原子は、対象の位置に関する読み取り値を汚染する可能性がある。
【0241】
アブレーション及び脱着(liftingによるなど)の技術は、単一の方法で組み合わせられ得る。例えば、サンプルキャリア上で、生物学的サンプル上の、例えば、組織切片サンプル又は細胞懸濁液分散液の対象の特徴/関心領域(例えば、細胞)の正確な脱着を実行するために、レーザーアブレーションを使用して、対象の細胞の周囲の領域をアブレーションし、それから他の材料を除去することができる。アブレーションによって周囲の領域を除去した後、対象の特徴/関心領域をサンプルキャリアから脱着し、その後、イオン化して、標準的なマスサイトメトリー又は質量分析手順に従って質量分析によって分析することができる。上記の議論に沿って、随意的に、脱着される位置を取り囲む領域を除去するためにアブレーションが使用された後、熱的、光分解的、化学的、又は、物理的技術を使用して、特徴/関心領域から材料を脱着することができる。多くの場合、材料のスラグをサンプルキャリア(例えば、サンプル材料の別個のスラグの脱着に関して前述したように、lifting手順を支援するべく脱着膜でコーティングされたサンプルキャリア)から分離するためにliftingが使用される。
【0242】
したがって、本発明は、サンプルを分析する方法において、
(i)本発明の方法を実行して、レーザーアブレーションのためにレーザーの焦点にサンプルを配置するステップと、
(ii)サンプルステージ上のサンプルへ方向付けられるレーザー放射線を使用してサンプル材料のスラグを脱着するステップと、
(iii)サンプル材料のスラグをイオン化して、質量分析によってスラグ内の原子を検出するステップと、
を含む方法を提供する。
【0243】
サンプルをサンプルキャリア上に置くことができ、また、場合によっては、サンプルキャリアからサンプル材料のスラグを脱着させるためにレーザー放射線がサンプルキャリアを通じて方向付けられる。
【0244】
幾つかの実施形態において、方法は、ステップ(i)の前に、サンプルのレーザーアブレーションを実行するステップを更に含む。場合によっては、サンプルのアブレーションによってサンプル材料の1つ以上のプルームが生成され、また、プルームが個別にイオン化されて、プルーム内の原子が質量分析によって検出される。場合によっては、この方法は、ステップ(i)の前に、サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識原子/元素タグで標識化して、標識サンプルをもたらす更なるステップを更に含む。レーザーアブレーションは、対象の特徴/関心領域のサンプル材料が材料のスラグとしてサンプルキャリアから脱着される前に、特徴/関心領域の周りの材料をアブレーションして周囲の領域を除去するための方法の幾つかの変形で使用される。
【0245】
対象の特徴/関心領域は、レーザーアブレーション及び脱着(例えば、liftingによる)が実行される前に、別の技術によって特定され得る。カメラ(電荷結合デバイスイメージセンサベース(CCD)カメラ又はCMOSカメラ又はアクティブピクセルセンサベースのカメラなど)又は前の節で説明した任意の他の光検出手段を含めることは、オンライン分析及びオフライン分析の両方のために、これらの技術を可能にする1つの方法である。カメラを使用してサンプルを走査し、特定の対象の細胞又は特徴/特定の関心領域(例えば、特定の形態の細胞)を特定することができる。そのような位置が特定された時点で、位置(例えば細胞)がリフトされる前にアブレーションによって他の材料を除去するべく、レーザーパルスが特徴/関心領域の周囲の領域に方向付けられた後に位置をリフトできる。このプロセスは、自動化プロセス(この場合、システムは、対象の特徴/関心領域を特定して、アブレーションし、及び、リフトする)又は半自動化プロセス(この場合、システムのユーザ、例えば臨床病理学者は、対象の特徴/関心領域を特定し、その後、システムは、自動化された態様でアブレーション及びliftingを実行する)であってもよい。これにより、特定の細胞を分析するためにサンプル全体をアブレーションする必要なく、対象の細胞を特異的にアブレーションできるため、分析を実行できる速度を大幅に高めることができる。
【0246】
カメラは、顕微鏡(共焦点顕微鏡など)からの画像を記録できる。特定は、光学顕微鏡法によって、例えば、細胞形態又は細胞サイズを調べることによって、又は、細胞が別個の単一細胞であるかどうか(細胞の塊の要素とは対照的に)に基づいて行なわれてもよい。場合によっては、対象の特徴(例えば細胞)を特定するためにサンプルを特異的に標識化できる。多くの場合、蛍光マーカーは、視覚的に特定された対象の特徴/関心領域をアブレーションする方法に関連して前述したように、対象の細胞を特異的に染色するために使用され(標識抗体又は標識核酸を使用することによるなど);そのセクションは、簡潔にするためにここでは完全には繰り返されないが、当業者は、これらの方法の特徴が脱着ベースの方法に適用でき、これがこの文書の技術的教示の範囲内であることを直ぐに理解し得る。高解像度の光学画像は、光学技術とliftingとのこの結合において有利である。これは、光学画像の精度が、その後に脱着され得る対象の細胞の周囲の領域をアブレーションするようにアブレーションレーザー源を方向付けることができる精度を決定するからである。
【0247】
また、本発明は、複数の細胞を含むサンプルを分析する方法において、
(i)サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識原子で標識化して、標識サンプルをもたらすステップと、
(ii)対象の1つ以上の特徴を特定するためにサンプルを照らすステップと、
(iii)サンプル上の対象の1つ以上の特徴の位置情報を記録するステップと、
(iv)対象の特徴の位置情報を使用して、対象の特徴からサンプル材料のスラグを脱着するステップであって、サンプル材料のスラグがレーザー放射線を使用して位置から脱着される前に、レーザー放射線を使用して対象の特徴を取り囲むサンプル材料を除去するべく最初にレーザーアブレーションを実行することを含み、レーザー放射線がサンプルへと方向付けられる、ステップと、
(v)サンプル材料の脱着されたスラグをイオン化するステップと、
(vi)サンプル材料中の標識原子の検出のために、イオン化されたサンプル材料を質量分析に晒すステップと、
を含み、
サンプル材料のスラグを脱着させるために使用されるレーザー放射線が本発明のオートフォーカス法を使用してサンプルに合焦される、
方法も提供する。
【0248】
また、本発明、上記の方法の変形、例えば、複数の細胞を含むマスサイトメトリーを実行する方法において、
(i)サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識原子及び1つ以上の蛍光標識で標識化して、標識サンプルをもたらすステップと、
(ii)1つ以上の蛍光標識を励起するためにサンプルにレーザー放射線を照射するステップと、
(iii)蛍光のパターンに基づいてサンプルの1つ以上の位置の位置情報を記録するステップと、
(iv)蛍光のパターンに基づく位置情報を使用して、対象の特徴からサンプル材料のスラグを脱着するステップであって、サンプル材料のスラグがレーザー放射線を使用して位置から脱着される前に、レーザー放射線を使用して対象の特徴を取り囲むサンプル材料を除去するべく最初にレーザーアブレーションを実行することを含み、レーザー放射線がサンプルへと方向付けられる、ステップと、
(v)サンプル材料の脱着されたスラグをイオン化するステップと、
(vi)サンプル材料中の標識原子の検出のために、イオン化されたサンプル材料を質量分析に晒すステップと、
を含み、
サンプル材料のスラグを脱着させるために使用されるレーザー放射線が本明細書に記載されるオートフォーカス法を使用してサンプルに合焦される、
方法も提供する。
【0249】
場合によっては、脱着されるべき位置の周囲の領域(例えば、対象の細胞)を除去するために実行されるアブレーションからデータが記録されない。時として、データは周辺領域のアブレーションから記録される。周辺領域から得られ得る有用な情報は、タンパク質やRNA転写物などの標的分子が周辺の細胞や細胞間環境に存在するものを含む。これは、直接的な細胞間相互作用が一般的であり、周囲の細胞でどのタンパク質などが発現されているかが対象の細胞の状態について有益である可能性がある固体組織サンプルをイメージングするときに特に興味深い場合がある。
【0250】
カメラ
脱着ベースのサンプリングシステムで使用されるカメラは、レーザーアブレーションベースのサンプリングシステムについて前述したようにすることができ、また、レーザーアブレーションベースのサンプリングシステムのカメラに関する議論がここで読まれるべきである。
【0251】
サンプルチャンバ
脱着ベースのサンプリングシステムで使用されるサンプルチャンバは、レーザーアブレーションベースのサンプリングシステムについて前述した通りにすることができる。サンプル材料の大きなスラグのサンプリングが行なわれている場合、熟練した開業医は、材料のスラグがガスの流れに同伴されてイオン化システムへの輸送のために移送導管に運ばれるようにするべくガス流量を増大させる必要があり得ることを理解し得る。
【0252】
移送導管
脱着ベースのサンプリングシステムで使用されるサンプルチャンバは、レーザーアブレーションベースのサンプリングシステムについて前述した通りにすることができる。サンプル材料の大きなスラグのサンプリングが行なわれている場合、熟練した開業医は、スラグがルーメンの側面に接触することなく任意のスラグを受け入れるように導管のルーメンの直径を適切に寸法付ける必要があることを理解し得る(接触すると、スラグが断片化し、信号が重なり合う場合がある-この場合、n番目の脱離事象に伴うスラグからの原子が、n+1番目以降のスラグのための検出ウインドウへと拡散される)。
【0253】
脱着ベースのシステムのイオン化システム
多くの場合、前述のlifting技術は、粒子状及び蒸気状の材料に変換されなかったサンプル材料の比較的大きなスラグ(10nm~10μm、100nm~10μm、場合によっては1μm~100μm)の除去を伴う。したがって、この比較的大量の材料を気化及び噴霧することができるイオン化技術が必要とされる。
【0254】
誘導結合プラズマトーチ
そのような適切なイオン化システムの1つは、レーザーアブレーションベースのサンプリングシステム及びイオン化システムに関連して57頁から始まる節で既に説明したように、誘導結合プラズマである。
【0255】
脱着ベースのサンプリング・イオン化システムの随意的な更なる構成要素
イオン偏向器
脱着ベースのサンプリングシステムで使用されるイオン偏向器は、レーザーアブレーションベースのサンプリングシステムについて前述した通りにすることができる。サンプル材料の無傷の大きなスラグを除去するための脱離ベースのサンプリングの可能性を考えると、イオン偏向器は、検出器を保護するためのこの種のシステムで特に有用となり得る。
【0256】
c.レーザー脱離/イオン化システム
特定の態様では、サンプリングシステムがレーザー脱離システムであってもよい。レーザー脱離/イオン化ベースの分析器は、一般に、2つの構成要素を備える。第1の構成要素は、分析用のサンプルからイオンを生成するシステムである。この装置において、これは、レーザービームをサンプルに方向付けてイオンを生成することによって達成され、本明細書では、それがレーザー脱離イオン生成システムと呼ばれる。これらの放出されたサンプルイオン(以下で説明するように、標識原子からの検出可能なイオンを含む)は、検出器システム(第2の構成要素)、例えば質量分析計によって検出され得る(検出器については以下で更に詳しく説明する)。この技術は、レーザー脱離/イオン化質量分析(LDI-MS)として知られている。LDIは、以下で詳しく説明する脱着ベースのサンプリングシステムとは異なる。これは、脱着ベースのサンプリングシステムでは、その後にイオン化されて元素イオンを形成する電荷中性の材料のスラグとしてサンプル材料が脱着されるからである。それどころか、ここでは、レーザーによるサンプルの照射の結果としてイオンが直接生成され、別個のイオン化システムは必要ない。
【0257】
レーザー脱離イオン生成システムは、レーザーと、レーザーからの放射線が方向付けられるサンプルを収容するためのサンプルチャンバと、サンプルから生成されたイオンを取り込んでそれらを分析のために検出器に方向付けるイオン光学素子とを備える。したがって、本発明は、サンプルを分析するための装置であって、a.サンプルを収容するためのサンプルチャンバ;b.サンプルから材料を脱離及びイオン化してイオンを形成するようになっているレーザー;c.脱離イオン化によって形成されたイオンをサンプリングし、それらをサンプルから離れるように検出器に向けて方向付けるようになっているイオン光学素子;d.前記イオン光学素子からイオンを受けて前記イオンを分析するための検出器を備える、装置を提供する。幾つかの実施形態において、装置は、サンプルから材料を脱着及びイオン化して元素イオンを形成するようになっているレーザーを備え、また、この場合、検出器は、前記サンプリング・イオン化システムから元素イオンを受けて前記元素イオンを検出する。場合によっては、LDIはマトリックス支援(すなわちMALDI)である。
【0258】
このプロセスにおいて、一部の分子は、サンプルから脱離してイオン化されるようになるエネルギーレベルに達する。
【0259】
イオンは、レーザー照射の結果として直接一次イオンとして又は電荷中性種と一次イオンとの衝突によって形成される二次イオンとして発生し得る(例えば、プロトン移動、カチオン化、電子捕捉)。場合によっては、以下で説明するように、サンプルの準備中にサンプルに付加される化合物(マトリックスなど)によってイオン化が支援される。
【0260】
レーザー
必要に応じてイオンの脱離を可能にするようになっている、レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザーに関連して前述したような市販のレーザーを含む、様々な異なるレーザーをLDIのために使用することができる。したがって、幾つかの実施形態において、装置は、サンプルから材料を脱着及びイオン化して元素イオンを形成するようになっているレーザーを備え、また、この場合、検出器は、前記サンプリング・イオン化システムから元素イオンを受けて前記元素イオンを検出する。時として、装置は、サンプルから材料を脱着及びイオン化して元素イオンを形成するようになっているレーザーを備え、また、この場合、検出器は、前記サンプリング・イオン化システムから分子イオンを受けて前記分子イオンを検出するようになっている。他の場合には、装置は、サンプルから材料を脱着及びイオン化して元素イオン及び分子イオンの両方を形成するようになっているレーザーを備え、また、この場合、検出器は、前記サンプリング・イオン化システムからイオンを受けて前記元素及び前記分子イオンの両方を検出するようになっている。
【0261】
典型的なレーザーとしては、193nm、213nm又は266nmで発光するレーザーが挙げられる(MALDIのように、イオン化を促進するためのマトリックスを必要とせずにサンプルからイオンの解放を引き起こすことができる深紫外線レーザー)。サンプルのレーザー照射後の地衣類代謝物を表わすイオンの脱離は、355nmでLe Pogam et al.2016(Scientific Reports 6、Article number:37807)において実証される。
【0262】
前述のフェムト秒レーザーは、特定のLDI用途でも有利である。
【0263】
サンプルの迅速な分析には、例えば200Hzを超える高周波のアブレーションが必要である(つまり、1秒当たり200を超えるイオン雲を与える、1秒当たり200を超えるレーザーショット)。一般に、レーザーシステムによるイオン雲生成の周波数は、少なくとも400Hz、例えば、少なくとも500Hz、少なくとも1kHz、少なくとも10kHz、少なくとも100kHz、又は少なくとも1MHzである。例えば、レーザーシステムによるアブレーションの周波数は、200Hz~1MHzの範囲内、500Hz~100kHzの範囲内、1~10kHzの範囲内である。
【0264】
レーザーアブレーションサンプリングシステムに関して前述したように、レーザー放射線は、様々な光学部品を介してサンプルに向けられるとともに、100μm以下、例えば、50μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下、又は10μm、又は、1um以下のスポットサイズ(つまり、レーザー放射線のビームのそれがサンプルに当たるときのサイズ)に合焦され得る。組織切片を含む生物学的サンプルの分析に使用される場合には、個々の細胞を分析するべく、使用されるレーザービームのスポットサイズは、細胞のサイズ及び間隔に依存する。例えば、細胞が互いに密に詰まっている場合(組織切片など)、単一細胞分析が行なわれるようになっていれば、レーザースポットはこれらの細胞よりも大きくないスポットサイズを持つことができる。このサイズはサンプル内の特定の細胞に依存するが、一般に、LDIのレーザースポットの直径は、4μm未満、例えば0.1~4μm、0.25~3μm、又は、0.4~2μmの範囲内である。細胞内分解能で所定の細胞を分析するために、LDIシステムは、これらの細胞よりも大きくないレーザースポットサイズを使用し、より具体的には、細胞内分解能で材料をアブレーションできるレーザースポットサイズを使用する。場合によっては、単一細胞分析は、例えば、細胞が細胞間に空間を伴ってスライド上に広げられる場合、細胞のサイズよりも大きいスポットサイズを使用して実行され得る。したがって、使用される特定のスポットサイズは、分析されている細胞のサイズに応じて適切に選択され得る。生物学的サンプルでは、細胞が全て同じサイズになることはめったにないため、細胞内分解能イメージングが望まれる場合には、イオン生成手順の全体にわたって一定のスポットサイズが維持されれば、レーザースポットサイズを最小の細胞よりも小さくすべきである。
【0265】
サンプルチャンバ
LDIシステムのサンプルチャンバは、前述のレーザーアブレーションベース及び脱着ベースのサンプリングシステムのサンプルチャンバと共通する多くの特徴を共有する。サンプルチャンバは、サンプルを支持するためのステージを備える。ステージは、x-y軸又はx-y-z軸で移動可能な並進ステージであってもよい。また、サンプルチャンバは、レーザー放射線によってサンプルから除去された材料を方向付けることができる出口も備える。出口は検出器に接続され、それにより、サンプルイオンの分析が可能である。
【0266】
サンプルチャンバは大気圧にあってもよい。大気圧でのLDI(特にMALDI)が知られている。ここで、LDIによって生成されたイオンは、窒素などの空気圧ガス流による分析(例えばMS検出器)のためのイオン化から高真空領域への移動を支援する(Laiko et al.,2000.Anal.Chem.,72:652-657)。
【0267】
場合によっては、サンプルチャンバが真空下又は部分真空下に保持される。したがって、場合によっては、サンプルチャンバ圧力は、50000Pa未満、10000Pa未満、5000Pa未満、1000Pa未満、500Pa未満、100Pa未満、10Pa未満、1Pa未満、約0.1Pa、又は0.1Pa未満、例えば0.01Pa以下である。例えば、部分真空圧は約200~700Paであってもよく、真空圧は0.2Pa以下であってもよい。
【0268】
当業者であれば分かるように、サンプル圧力が(部分)真空下で大気圧にあるかどうかの選択は、実行される特定の分析に依存する。例えば、大気圧では、サンプルの取り扱いが簡単で、よりソフトなイオン化を適用できる。更に、衝突冷却の現象が発生できるようにするために、ガス分子の存在が望まれる場合があり、これは、標識が大きな分子であり、その断片化、例えば標識原子又はそれらの組み合わせを含む分子フラグメントが望ましくない場合に興味深い可能性がある。
【0269】
サンプルチャンバを真空下に保持すると、LDIによって生成されたサンプルイオンとチャンバ内の他の粒子との間の衝突を防ぐことができる。場合によっては、チャンバ内のガス分子との衝突により、生成されたサンプルイオンから電荷が失われる可能性があるため、これが好ましい場合がある。サンプルイオンから電荷が失われると、サンプルイオンが装置によって検出されなくなる。
【0270】
幾つかの実施形態において、サンプルチャンバは、レーザー脱離/イオン化中にサンプル上のレーザー脱離/イオン化の位置へのガスの1つ以上の流れの送出を可能にするべく配置される1つ以上のガスポートを備え、例えば、1つ以上のガスポートはノズルの形態を成す。ガスポート(例えばノズル)は、脱離及びイオン化の瞬間にガスを送出して脱離したイオンに衝突冷却を与えるように動作可能であるが、その特定の時間に限る。残りの時間、ガスポートは、チャンバにガスを導入しないため、真空ポンプへの負担が軽減される。
【0271】
イオン光学素子
サンプルイオンビームは、当技術分野では抽出電極として知られている、サンプルの近くに位置された静電プレートを介してサンプルから捕捉される。抽出電極は、レーザーアブレーションによって脱離したサンプルイオンをサンプルの局所性から除去する。これは、一般に、作用するプレート上に位置されたサンプルと電極(サンプル電極)、及び電位差が大きい抽出電極によって実現される。抽出電極に対するサンプルの極性に応じて、正又は負に帯電した二次イオンが抽出電極によって捕捉される。
【0272】
幾つかの実施形態において、電極全体にわたる電荷は、レーザー脱離/イオン化の間一定である。場合によっては、脱離/イオン化に続いて電荷が変化され、例えば、遅延抽出では、レーザーパルスによって誘導された脱離/イオン化に続く何らかの短い時間遅延の後に加速電圧が印加される。この技術は、イオンエネルギーの広がりに対する飛行時間補償をもたらし、この場合、運動エネルギーが大きいイオンは、運動エネルギーが小さいイオンよりも、サンプルから検出器に向かってより速い速度で移動する。したがって、全てのイオンが同じ速度で移動しているわけではないため、この速度の違いにより、検出器の分解能が低下する可能性がある。したがって、サンプル電極と抽出電極の両端間の電圧の印加を遅らせることにより、運動エネルギーの低いイオンは、加速電圧が印加されたときにサンプル電極に近いままであり、したがって、標的電極からより遠いイオンと比較してより大きな電位で加速され始める。適切な遅延時間により、より遅いイオンは、十分に加速されて、パルス加速システムからある程度の距離を飛行した後にレーザー脱離/イオン化後に高い運動エネルギーを持っていたイオンを捕捉する。同じ質量電荷比のイオンは、同時にフライトチューブを通って検出器にドリフトする。したがって、幾つかの実施形態において、サンプル電極及び抽出電極は、サンプルの脱離/イオン化を引き起こすレーザー短絡後の設定された時間に電極全体にわたって電荷を印加するように制御可能である。
【0273】
次に、サンプルイオンは、1つ以上の更なる静電レンズ(当技術分野では転写レンズとして知られている)を介して検出器に移送される。転写レンズは、サンプルイオンのビームを検出器に集束させる。一般に、複数の転写レンズを伴うシステムでは、1つの転写レンズのみが特定の分析に関与する。各レンズは、サンプル表面の異なる倍率を与えてもよい。一般に、電極と検出器との間には、更なるイオン操作構成要素、例えば、1つ以上の開口、質量フィルタ又はデフレクタプレートのセットが存在する。電極、転写レンズ、及び、任意の更なる構成要素は、共に合わさって、イオン光学素子を形成する。適切なイオン光学装置を製造するための構成要素は、商業的供給業者、例えばAgilent,Waters,Brukerから入手可能であり、本明細書で以下に論じられるようにイオンを検出器に送出するために当業者によって適切に位置決めされ得る。
【0274】
以下で説明する検出器に加えて、ソフトイオン化(例えば分析対象の分子の結合を切断せずにイオン化するなど)をもたらすようにLDIを実行でき、場合によっては、検出器がタンデムMSであってもよく、この場合、第1の m/z分離は、選択されたイオンがそれらのフラグメントに分解されてフラグメントが検出される第2のm/z分離を受ける前に、サンプルからイオンを選択するように実行される。
【0275】
LDIを採用する方法
また、本発明は、LDIを使用して生物学的サンプルを分析するための方法も提供する。この分析では、細胞が標識で標識化され、また、これらの標識は、その後、サンプルのLDIに続いて生成されたイオンで検出される。したがって、本発明は、複数の細胞を含むサンプルに関してマスサイトメトリーを実施するための方法において、a.サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識で標識化して、標識サンプルをもたらすステップと、b.サンプルのレーザー脱離/イオン化を実行するステップであって、複数の個々のイオン雲を形成するべくレーザー脱離/イオン化が複数の位置で行なわれる、ステップと、c.イオン雲を個別に質量分析に晒すステップであって、プルーム内の標識の検出がサンプルの画像の構築を可能にし、随意的に、複数の位置が複数の既知の位置である、ステップとを含む、方法を提供する。
【0276】
幾つかの実施形態では、1つ以上の標識が標識原子を含む。この場合、標識は本明細書で以下に記載されるように機能し、それにより、特異的結合対の要素(例えば、タンパク質抗原に結合する抗体、又はサンプル中のRNAに結合する核酸)が、1つ以上の標識原子(例えば、ランタニド及びアクチニド)を含む元素タグに付着される。元素タグは、単一タイプの標識原子(例えば、特定の元素の単一同位体の1つ以上の原子)を含むこともでき、或いは、異なる複数の種類の標識原子(例えば、異なる元素/同位体)を含むこともでき、それにより、特定の組み合わせ要素/同位体が標識として作用するように多数の異なるタグを生成することができる。場合によっては、標識原子が元素イオンとして検出される。幾つかの実施形態では、標識原子が分子イオン内のサンプルから放出される。したがって、標識原子の質量チャネルでの検出の代わりに、サンプル内の標識物質の存在が分子イオンの質量チャネルで検出される(つまり、質量チャネルは、標識原子のみに対して、分子から標識原子を差し引いた質量によって単純にシフトされる)。しかしながら、幾つかの実施形態において、標識原子を含む分子は、異なる標識原子間で異なり得る。その場合、分子残基と標識原子とを含むイオンが、タンデムMSの適用などにより、それぞれの試薬ごとにより一貫した質量ピークをもたらすフラグメンテーション方法に晒される。腫瘍なLDIイメージングマスサイトメトリースキームに対するこれら全ての変形及び変更の目標は、利用可能なマスチャネルの数を最大化すると同時に、マスチャネル間の重なり合いを減らすことである。
【0277】
幾つかの実施形態において、染色試薬は、質量標識材料及び個々の元素イオン又は標識原子の単一コピーを含む分子イオンの解放及びイオン化を促進するように設計され得る。また、染色試薬は、質量標識材料及び個々の元素イオン又は標識原子の幾つかのコピーを含む分子イオン(又は上記のようにそれらの組み合わせ)の解放及びイオン化を促進するように設計され得る。更なる代替案として、染色試薬自体の質量を利用して、マスサイトメトリー用の検出チャネルを作成することができる。この場合、希土類同位体は染色に使用されず、染色試薬の化学的性質を変更して多数の質量チャネルを作成することにより、染色試薬の質量が変化する。この変化は、希土類同位体を必要とせずに、炭素、酸素、窒素、硫黄、リン、水素、及び、同様の同位体を使用して行なうことができる。
【0278】
幾つかの実施形態において、サンプルは、レーザー放射線吸収剤組成物によっても処理される。この組成物は、照射されたときにサンプルによるレーザー光の吸収を高めるように作用し、したがって、エネルギーの伝達を増大させて標識原子を励起する(したがって、標識原子又はそれらの組み合わせを含む元素イオン又は分子イオンの生成を促進する)。
【0279】
LDIに関連する番号付きの実施形態
1.サンプルを分析するための装置であって、a.サンプルを収容するためのサンプルチャンバ;b.サンプルから材料を脱離及びイオン化してイオンを形成するようになっているレーザー;c.脱離イオン化によって形成されたイオンをサンプリングし、それらをサンプルから離れるように検出器に向けて方向付けるようになっているイオン光学素子;d.前記イオン光学素子からイオンを受けて前記イオンを分析するための検出器を備える、装置。
【0280】
2.装置が、サンプルから材料を脱着及びイオン化して元素イオンを形成するようになっているレーザーを備え、検出器が、前記サンプリング・イオン化システムから元素イオンを受けて前記元素イオンを分析するようになっている、実施形態1の装置。
【0281】
3.装置が、サンプルから材料を脱着及びイオン化して元素イオンを形成するようになっているレーザーを備え、検出器が、前記サンプリング・イオン化システムから分子イオンを受けて前記分子イオンを検出するようになっている、実施形態1又は2の装置。
【0282】
4.装置が、サンプルから材料を脱着及びイオン化して元素イオン及び分子イオンの両方を形成するようになっているレーザーを備え、検出器が、前記サンプリング・イオン化システムからイオンを受けて前記元素及び前記分子イオンの両方を検出するようになっている、実施形態1から3のいずれかの装置。
【0283】
5.レーザーが、193nm、213nm、又は、266nmで放射線を放出するレーザーなどの深紫外線レーザーである、実施形態1から4のいずれかの装置。
【0284】
6.レーザーがフェムト秒レーザーである、実施形態1から5のいずれかの装置。
【0285】
7.脱離イオン化が、真空下、部分真空下、又は、大気圧下においてサンプルチャンバ内で起こる、実施形態1から6のいずれかの装置。
【0286】
8.サンプルチャンバは、レーザー脱離イオン化中にサンプル上のレーザー脱離イオン化の位置へのガスの1つ以上の流れの送出を可能にするべく配置される1つ以上のガスポートを備え、例えば、1つ以上のガスポートはノズルの形態を成す、実施形態1から7のいずれかの装置。
【0287】
9.1つ以上のガスポートは、ガスの1つ以上のパルスがレーザーからのレーザー放射線によってサンプルから生成されたイオンを衝突冷却できるようになっている、実施形態8に記載の装置。
【0288】
10.複数の細胞を含むサンプルに関してマスサイトメトリーを実施するための方法において、a.サンプル中の1つ以上の異なる標的分子を1つ以上の質量タグで標識化して、標識サンプルをもたらすステップと、b.サンプルのレーザー脱離イオン化を実行するステップであって、複数のイオン雲を形成するべくレーザー脱離イオン化が複数の既知の位置で行なわれる、ステップと、c.イオン雲を質量分析に晒すステップであって、雲内の1つ以上の質量タグからのイオンの検出がサンプルの画像の構築を可能にする、ステップとを含む、方法。
【0289】
11.複数のイオン雲が複数の個々のイオン雲であり、それぞれの個々のイオン雲が既知の位置でレーザー脱離イオン化から形成され、イオン雲を質量分析に晒すステップは、個々のイオン雲を質量分析に晒すことを含む、実施形態10に記載の方法。
【0290】
12.それぞれの異なる標的が異なる特異的結合対要素(SBP)によって結合され、それぞれの異なるSBPが質量タグに連結され、それにより、各標的が特定の質量タグで標識化される、実施形態10又は11に記載の方法。
【0291】
13.ステップaの前に又はステップa,b間に、イオン化促進剤組成物でサンプルを処理するステップを更に含む、実施形態10から12のいずれか1つに記載の方法。
【0292】
14.イオン化促進剤組成物は、標識原子及び/又は標識原子を含む分子イオンのイオン化を促進する、実施形態13に記載の方法。
【0293】
15.ステップaの前に又はステップa,b間に、サンプルをレーザー放射線吸収剤組成物で処理するステップを更に含む、実施形態10から14のいずれか1つに記載の方法。
【0294】
2.質量検出器システム
質量検出器システムの典型的なタイプとしては、四重極、飛行時間(TOF)、磁気セクター、高分解能、シングル又はマルチコレクタベースの質量分析計が挙げられる。
【0295】
イオン化された材料の分析にかかる時間は、イオンの検出に使用される質量分析計のタイプによって決まる。例えば、ファラデーカップを使用する機器は、一般に、高速信号を分析するには遅すぎる。全体として、望ましいイメージング速度、分解能、及び、多重化の程度によって、使用されるべき質量分析計のタイプが決まる(又は、逆に、質量分析計の選択によって、達成され得る速度、分解能、及び、多重化が決まる)。
【0296】
例えばポイントイオン検出器を使用して、一度に1つの質量電荷比(m/Q、一般にMSではm/zと称される)のみでイオンを検出する質量分析機器は、イメージング検出において不十分な結果をもたらす。第1に、質量電荷比間の切り換えにかかる時間は、複数の信号を決定できる速度を制限し、また、第2に、イオンの存在量が少ない場合、機器が他の質量電荷比に焦点を合わせているときに信号が失われる可能性がある。したがって、異なるm/Q値を有するイオンの実質的に同時の検出をもたらす技術を使用することが好ましい。
【0297】
検出器タイプ
四重極検出器
四重極質量分析計は、一端に検出器を伴うた4本の平行ロッドを備える。交番RF電位及び所定のDCオフセット電位が、一方の対のロッドと他方の対との間に印加され、それにより、一方の対のロッド(互いに反対のロッドのそれぞれ)が、他方の対のロッドに対して反対の代替電位を有するようにする。イオン化されたサンプルは、ロッドに平行な方向で、検出器に向かって、ロッドの中央に通される。印加された電位はイオンの軌道に影響を与え、それにより、特定の質量電荷比のイオンのみが、安定した軌道を持ち、検出器に到達する。他の質量電荷比のイオンはロッドと衝突する。
【0298】
磁気セクター検出器
磁気セクター質量分析では、イオン化されたサンプルが湾曲したフライトチューブを通過してイオン検出器に向かう。フライトチューブ全体に磁場を印加すると、イオンはその経路から偏向する。各イオンの偏向量は、各イオンの質量電荷比に基づいているため、一部のイオンのみが検出器に衝突し、他のイオンは検出器から偏向される。マルチコレクタセクターフィールド機器では、検出器のアレイを使用して、様々な質量のイオンを検出する。ThermoScientific Neptune PlusやNu Plasma IIなどの一部の機器では、磁気セクターを静電セクターと組み合わせて、質量電荷比に加えて、運動エネルギーによってイオンを分析する二重集束磁気セクター機器を提供する。特に、Mattauch-Herzog形状を有するマルチ検出器を使用できる(例えば、半導体直接電荷検出器を使用した1回の測定でリチウムからウランまでの全ての元素を同時に記録できるSPECTRO MS)。これらの機器は、複数のm/Q信号を実質的に同時に測定できる。それらの感度は、検出器に電子増倍管を含めることによって高められ得る。アレイセクター機器は、常に適用可能であるが、それらが増大する信号の検出に役立つものの信号レベルが減少しているときにあまり有用ではないため、標識が特に非常に変動する濃度で存在する状況ではあまり適さない。
【0299】
飛行時間(TOF)検出器
飛行時間型質量分析計は、サンプル注入口、強電界が印加された加速チャンバ、及び、イオン検出器を備える。イオン化されたサンプル分子のパケットが、サンプル注入口を通じて加速チャンバに導入される。最初に、イオン化されたサンプル分子はそれぞれ同じ運動エネルギーを有するが、イオン化されたサンプル分子が加速チャンバを通じて加速されると、それらのサンプル分子がそれらの質量によって分離され、その場合、軽いイオン化されたサンプル分子が重いイオンよりも速く移動する。次に、検出器は、到着した全てのイオンを検出する。各粒子が検出器に到達するのにかかる時間は、粒子の質量電荷比によって決まる。
【0300】
したがって、TOF検出器は、単一のサンプルに複数の質量をほぼ同時に登録できる。理論的には、TOF技術はそれらの空間電荷特性に起因してICPイオン源に理想的に適していないが、TOF機器は、実際に、ICPイオンエアロゾルを十分迅速且つ高感度に分析して、実行可能な単一セルイメージングを可能にする。TOF質量分析器は、通常、TOF加速器内及び飛行管内の空間電荷の影響に対処するために必要な妥協に起因して原子分析には人気がないが、本開示に係る組織イメージングは、標識原子のみを検出することによって有効とることができ、したがって、他の原子(例えば、原子量が100未満の原子)を除去できる。これにより、密度の低いイオンビームがもたらされ、より効率的に操作されて集束され得る(例えば)100~250ダルトン領域の質量が濃縮され、それにより、TOF検出が容易になり、TOFの高いスペクトル走査レートを利用できる。したがって、TOF検出と、サンプルでは一般的ではなく、より高い質量の遷移元素を使用することにより、理想的には標識のないサンプルで見られる質量を超える質量を持つ標識原子を選択すること、との組み合わせによって迅速なイメージングを実現できる。したがって、標識質量のより狭いウインドウを使用することは、TOF検出が効率的なイメージングに使用されることを意味する。
【0301】
適切なTOF機器は、Tofwerk、GBC Scientific Equipment(例えばOptimass 9500 ICP-TOFMS)、及び、Fluidigm Canada(例えばCyTOF(商標)機器及びCyTOF(商標)2機器)から入手できる。これらのCyTOF(商標)機器は、Tofwerk機器及びGBC機器よりも感度が高く、希土類金属の質量範囲(特に100-200のm/Q範囲;Bandura et al.(2009;Anal.Chem.,81:6813-22)参照)のイオンを迅速且つ高感度で検出できるため、マスサイトメトリーでの使用が知られている。したがって、これらは、本開示で使用するための好ましい機器であり、当技術分野で、例えば、Bendall et al.(2011;Science 332,687-696)及びBodenmiller et al.(2012;Nat.Biotechnol.30:858-867)で既に知られている機器設定によるイメージングにおいて使用することができる。それらの質量分析計は、高周波レーザーアブレーション又はサンプル脱離のタイムスケールで、高いマススペクトル取得周波数で準同時に多数のマーカーを検出することができる。それらの質量分析計は、細胞当たり約100の検出限界を伴って標識原子の存在量を測定でき、それにより、組織サンプルの画像の高感度な構築を可能にする。これらの機能に起因して、マスサイトメトリーを使用して、細胞内解像度での組織イメージングにおける感度及び多重化のニーズを満たすことができる。マスサイトメトリー機器を高解像度レーザーアブレーションサンプリングシステム及び高速トランジット低分散サンプルチャンバと組み合わせることにより、実用的なタイムスケールで高多重化された組織サンプルの画像の構築を可能にすることができた。
【0302】
TOFは、質量割り当て補正器と結合されてもよい。イオン化事象の大部分はM+イオンを生成し、この場合、単一の電子が原子からノックアウトされる。TOF MSの動作モードに起因して、特に質量Mの多数のイオンが検出器に入っている場合、時として、隣接する質量(M±1)のためのチャネルへの1つの質量(M)のイオンの何らかのブリーディング(又はクロストーク)が存在する(つまり、イオンカウントは高いが、装置がイオン偏向器を含むようになっていた場合、サンプリング・イオン化システムとMSとの間に位置されたイオン偏向器がMSへのイオンの流入を妨げるほど高くはない)。検出器での各M+イオンの到着時間は平均(それぞれのMごとに既知)に関する確率分布に従うため、質量M+のイオンの数が多い場合、通常はM-1+又はM+1+イオンに関連付けられる時間に到着するものもある。しかしながら、各イオンはTOF MSに入るときに既知の分布曲線を持っているため、質量Mチャネルのピークに基づいて、質量MのイオンのM±1チャネルへの重なりを決定できる(既知のピーク形状と比較して)。TOF MSで検出されるイオンのピークは非対称であるため、この計算はTOF MSに特に適用できる。したがって、M-1、M、及び、M+1チャネルの読み取り値を修正して、検出された全てのイオンをMチャネルに適切に割り当てることができる。そのような補正は、サンプルから材料を除去するための技術としてレーザーアブレーション(又は以下で説明する脱着)を伴う本明細書に開示されるようなサンプリング・イオン化システムによって生成されるイオンの大きなパケットの性質に起因してイメージングデータを補正する際に特定の用途を有する。TOF MSからのデータをデコンボリューションすることによってデータの品質を改善するためのプログラム及び方法が、国際公開第2011/098834号パンフレット、米国特許第8723108 号、及び、国際公開第2014/091243号パンフレットにおいて論じられる。
【0303】
デッドタイムコレクタ
前述のように、MS内の信号は、イオンと検出器との間の衝突、及び、イオンが当たった検出器の表面からの電子の解放に基づいて検出される。多数のイオンがMSによって検出され、多数の電子が放出されると、MSの検出器が一時的に疲労し、その結果、検出器から出力されるアナログ信号がイオンの後続のパケットのうちの1つ以上に関して一時的に抑制される。言い換えると、イオン化されたサンプル材料のパケット内のイオンの数が特に多いと、イオン化されたサンプル材料のパケットからイオンを検出するプロセスで、検出器の表面と二次乗算器から多くの電子が放出され、それにより、イオン化されたサンプル材料の後続のパケット内のイオンが検出器に当たると、検出器表面と二次増幅器内の電子が補充されるまで、解放されるべく利用できる電子が少なくなる。
【0304】
検出器の挙動の特性に基づいて、このデッドタイム現象を補償することができる。第1のステップは、検出器によるイオン化されたサンプル材料のn番目のパケットの検出から生じるアナログ信号のイオンピークを分析することである。ピークの大きさは、ピークの高さ、ピークの面積、又は、ピークの高さとピークの面積との組み合わせによって決定されてもよい。
【0305】
次に、ピークの大きさを比較して、それが所定の閾値を超えているかどうかを確認する。大きさがこの閾値を下回っている場合、修正は必要ない。大きさが閾値を超える場合、イオン化されたサンプル材料の少なくとも1つの後続パケットからのデジタル信号の補正が実行され(イオン化されたサンプル材料の少なくとも(n+1)番目のパケット、しかし場合によっては、(n+2)番目、(n+3)番目、(n+4)番目など、イオン化されたサンプル材料の更なるパケット)、イオン化されたサンプル材料のn番目のパケットによって引き起こされる検出器の疲労に起因するイオン化されたサンプル材料のこれらのパケットからのアナログ信号の一時的な低下が補償される。イオン化されたサンプル材料のn番目のパケットのピークの大きさが大きいほど、イオン化されたサンプル材料の後続のパケットからのより多くのピークを補正する必要があり、また、補正の大きさを大きくする必要がある。そのような現象を修正するための方法は、Stephan et al.(1994;Vac.Sci.Technol.12:405)、Tyler and Peterson(2013;.Surf Interface Anal.45:475-478)、Tyler(2014;Surf Interface Anal.46:581-590)、国際公開第2006/090138号パンフレット及び米国特許第6229142号において論じられ、また、これらの方法は、本明細書に記載されているように、デッドタイムコレクタによってデータに適用され得る。
【0306】
光学発光スペクトル検出に基づく分析器装置
1.サンプリング・イオン化システム
a.レーザーアブレーションベースのサンプリング・イオン化システム
質量ベースの分析器に関連して前述したレーザーアブレーションサンプリングシステムは、OES検出器ベースのシステムで使用され得る。原子発光スペクトルの検出に関しては、ICPを使用してサンプルから除去されたサンプル材料をイオン化するが、元素イオンを生成できる任意のハードイオン化技術を使用できる。
【0307】
当業者であれば分かるように、質量ベースの検出器の過負荷の回避に関連して説明された、上記のレーザーアブレーションベースのサンプリング・イオン化システムの特定のオプションの更なる構成要素は、全てのOES検出器ベースのシステムに適用できるとは限らず、また、不適切な場合、当業者によって組み込まれない。
【0308】
b.脱着ベースのサンプリング・イオン化システム
質量ベースの分析器に関連して前述した脱着ベースのサンプリングシステムは、OES検出器ベースのシステムで使用され得る。原子発光スペクトルの検出に関しては、ICPを使用してサンプルから除去されたサンプル材料をイオン化するが、元素イオンを生成できる任意のハードイオン化技術を使用できる。
【0309】
当業者であれば分かるように、質量ベースの検出器の過負荷の回避に関連して説明された、上記の脱着ベースのサンプリング・イオン化システムの特定のオプションの更なる構成要素は、全てのOES検出器ベースのシステムに適用できるとは限らず、また、不適切な場合、当業者によって組み込まれない。
【0310】
2.光検出器
光検出器の典型的なタイプは、光電子増倍管及び電荷結合デバイス(CCD)を含む。光検出器を使用して、元素質量分析によるイメージングの前に、サンプルをイメージングする及び/又は対象の特徴/関心領域を特定してもよい。
【0311】
光電子増倍管は、光電陰極、幾つかのダイノード、及び、アノードを備える真空チャンバを備える。光電陰極に入射した光子は、光電効果の結果として光電陰極に電子を放出させる。増倍電子電流を生成するための二次放出のプロセスに起因して電子がダイノードによって増倍され、その後、光電陰極に入射する電磁放射の検出の指標をもたらすべく増倍電子電流がアノードによって検出される。光電子増倍管は、例えば、ThorLabsから入手可能である。
【0312】
CCDは、感光性ピクセルのアレイを含むシリコンチップを備える。露光中、各ピクセルは、ピクセルに入射する光の強度に比例して電荷を生成する。露光後、制御回路は、一連の電荷の移動を引き起こして、一連の電圧を生成する。次に、これらの電圧を分析して画像を生成できる。適切なCCDは、例えば、Cell Biosciencesから入手可能である。
【0313】
画像の構築
上記の装置は、サンプルから除去されたイオン化されたサンプル材料のパケット内の複数の原子に信号を与えることができる。サンプル材料のパケット内の原子の検出は、原子がサンプル内に自然に存在するため、又は原子が標識試薬によってその位置に局在化されているため、アブレーションの位置にその存在を明らかにする。サンプルの表面の既知の空間位置からイオン化されたサンプル材料の一連のパケットを生成することにより、検出器信号はサンプル上の原子の位置を明らかにするため、信号を使用してサンプルの画像を構築できる。複数の標的を特定可能な標識で標識化することにより、標識原子の位置を同族の標的の位置に関連付けることができるため、この方法では複雑な画像を作成でき、蛍光顕微鏡法などの従来の手法を使用して達成できるレベルをはるかに超える多重化レベルに到達できる。
【0314】
画像への信号の組み立ては、コンピュータを使用し、既知の技術とソフトウェアパッケージとを使用して実現できる。例えば、Kylebank Softwareが提供するGRAPHISパッケージが使用されてもよく、或いは、TERAPLOTなどの他のパッケージを使用することもできる。MALDI-MSIなどの技術からのMSデータを使用するイメージングは、当技術分野で知られており、例えば、Robichaud et al.(2013;J Am Soc Mass Spectrom 24 5:718-21)は、Matlab(登録商標)プラットフォーム上のMSイメージングファイルを表示して分析するための「MSiReader」インタフェースを開示し、また、Klinkert et al.(2014;Int J Mass Spectrom http://dx.doi.org/10.1016/j.ijms.2013.12.012)は、完全な空間及びスペクトル分解能で2D MSIデータセット及び3D MSIデータセットの両方を迅速にデータ探索及び視覚化するための2つのソフトウェア機器、例えば「Datacube Explorer」プログラムを開示する。
【0315】
本明細書に開示された方法を使用して得られた画像は、例えばIHCの結果が分析されるのと同じ方法で、更に分析され得る。例えば、画像は、サンプル内の細胞亜集団を描写するために使用され得るとともに、臨床診断に役立つ情報を与えることができる。同様に、SPADE分析を使用して、本開示の方法が提供する高次元サイトメトリーデータから細胞階層を抽出することができる(Qiu et al.(2011;Nat.Biotechnol.29:886-91))。
【0316】
サンプル
本開示の特定の態様は、生物学的サンプルをイメージングする方法を提供する。そのようなサンプルは、サンプル中のこれらの細胞の画像を提供するためにイメージングマスサイトメトリー(IMC)に晒され得る複数の細胞を含むことができる。一般に、本発明は、免疫組織化学(IHC)技術によって現在研究されている組織サンプルを分析するために使用できるが、質量分析(MS)又は発光分光分析(OES)による検出に適した標識原子の使用を伴う。
【0317】
任意の適切な組織サンプルを、本明細書に記載の方法で使用することができる。例えば、組織は、上皮、筋肉、神経、皮膚、腸、膵臓、腎臓、脳、肝臓、血液(例えば、血液塗抹標本)、骨髄、頬スワイプ、頸部スワイプ、又は、任意の他の組織のうちの1つ以上からの組織を含むことができる。生物学的サンプルは、生きている被検体から得られた不死化細胞株又は一次細胞であってもよい。診断、予後、又は、実験(例えば、薬剤開発)の目的のために、組織が腫瘍からのものであってもよい。幾つかの実施形態において、サンプルは、既知の組織からのものであってもよいが、サンプルが腫瘍細胞を含むかどうかが不明であってもよい。イメージングは、腫瘍の存在を示す標的の存在を明らかにすることができるため、診断を容易にする。腫瘍からの組織は、対象の方法によっても特徴付けられる免疫細胞を含んでもよく、腫瘍生物学への洞察を提供してもよい。組織サンプルは、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を含んでもよい。組織は、哺乳動物、動物研究モデル(例えば、ヒト腫瘍異種移植片を伴う免疫不全齧歯類などの特定の疾患の動物研究モデル)、又は、ヒト患者などの任意の生きている多細胞生物から得ることができる。
【0318】
組織サンプルは、例えば、2~10μmの範囲内、例えば4~6μmの厚さを有する切片であってもよい。そのような切片を調製するための技術は、脱水ステップ、固定、埋め込み、透過処理、切片化などを含めて、ミクロトームを使用するなど、IHCの分野からよく知られている。したがって、組織を化学的に固定することができ、その後、切片を所望の平面で調製することができる。凍結切片又はレーザーキャプチャーマイクロダイセクションを使用して組織サンプルを調製することもできる。細胞内標的の標識化のための試薬の取り込みを可能にするためにサンプルが透過処理されてもよい(上記を参照)。
【0319】
分析される組織サンプルのサイズは、現在のIHC法と同様であるが、最大サイズはレーザーアブレーション装置、特にサンプルチャンバに収まるサンプルのサイズによって決定付けられる。最大5mm×5mmのサイズが一般的であるが、より小さなサンプル(1mm×1mmなど)も有用である(これらの寸法は、切片の厚さではなく、切片のサイズを指す)。
【0320】
本開示は、組織サンプルのイメージングに有用であることに加えて、代わりに、付着細胞又は固体表面に固定化された細胞の単層などの細胞サンプルのイメージングに使用することができる(従来の免疫細胞化学の場合のように)。これらの実施形態は、細胞懸濁液マスサイトメトリーのために容易に可溶化することができない付着細胞の分析に特に有用である。したがって、本開示は、現在の免疫組織化学的分析を強化するために有用であるだけでなく、免疫細胞化学を強化するために使用することができる。
【0321】
サンプルキャリア
特定の実施形態において、サンプルは、イメージング質量分析のためにサンプルを位置決めするために、固体支持体(すなわち、サンプルキャリア)上に固定化されてもよい。固体支持体は、光学的に透明で、例えばガラス又はプラスチックから形成されてもよい。サンプルキャリアが光学的に透明である場合、支持体を介したサンプル材料のアブレーションが可能になる。時として、サンプルキャリアは、例えば、アブレーション又は脱着及び分析されるべき対象の特徴/関心領域の相対位置の計算を可能にするために、本明細書に記載の装置及び方法と共に使用するための基準点として作用する特徴を含む。基準点は、光学的に分解可能であってもよく、或いは、質量分析によって分解可能であってもよい。
【0322】
標的要素
イメージング質量分析では、1つ以上の標的元素(つまり、元素又は元素同位体)の分布が重要となり得る。特定の態様において、標的要素は、本明細書に記載されるように標識原子である。標識原子は、サンプルに直接に単独で加えられてもよく或いは生物学的に活性な分子に又は分子内に共有結合されてもよい。特定の実施形態において、標識原子(例えば、金属タグ)は、以下でより詳細に説明するように、DNA又はRNA標的にハイブリダイズするための抗体(その同族抗原に結合する)、アプタマー、又は、オリゴヌクレオチドなどの特異的結合対(SBP)の要素にコンジュゲートされてもよい。標識原子は、当技術分野で知られている任意の方法によってSBPに結合されてもよい。特定の態様において、標識原子は、ランタニド又は遷移元素などの金属元素又は本明細書に記載の別の金属タグである。金属元素は、60amuを超える、80amuを超える、100amuを超える、又は、120amuを超える質量を有してもよい。本明細書に記載の質量分析計は、金属元素の質量より下の元素イオンを枯渇させる場合があり、それにより、豊富なより軽い元素が空間電荷効果を生み出さない及び/又は質量検出器を圧倒しない。
【0323】
組織サンプルの標識化
本開示は、標識原子、例えば複数の異なる標識原子で標識化されたサンプルの画像を生成し、この場合、標識原子は、サンプルの特定の、好ましくは細胞内の領域をサンプリングすることができる装置によって検出される(したがって、標識原子が元素タグに相当する)。複数の異なる原子への言及は、複数の原子種がサンプルを標識化するために使用されることを意味する。質量検出器を使用してこれらの原子種を区別でき(例えば、原子種が異なるm/Q比を有する)、それにより、プルーム内に2つの異なる標識原子が存在すると、2つの異なるMS信号が発生する。光学分光計を使用して原子種を区別することもでき(例えば、異なる原子は異なる発光スペクトルを有する)、それにより、プルーム内に2つの異なる標識原子が存在すると、2つの異なる発光スペクトル信号が発生する。
【0324】
質量タグ付き試薬
本明細書で使用される質量タグ付き試薬は、幾つかの成分を含む。第1の成分はSBPである。第2の成分は質量タグである。質量タグ及びSBPは、少なくとも部分的に質量タグとSBPとのコンジュゲーションによって形成されたリンカーによって結合される。また、SBPと質量タグとの間の結合は、スペーサを備えてもよい。質量タグ及びSBPは、様々な反応化学反応によってコンジュゲートされ得る。典型的なコンジュゲーション反応化学としては、チオールマレイミド、NHSエステル及びアミン、又はクリックケミストリー反応性(好ましくは、Cu(I)フリーケミストリー)、例えば歪みアルキン及びアジド、歪みアルキン及びニトロン、及び、歪みアルケン及びテトラジンが挙げられる。
【0325】
質量タグ
本発明で使用されるマスタグは、幾つかの形態をとることができる。一般に、タグは少なくとも1つの標識原子を含む。標識原子については、以下で説明する。
【0326】
したがって、その最も単純な形態において、質量タグは、リガンド内で配位された金属標識原子を伴う金属キレート基である金属キレート部分を含み得る。場合によっては、質量タグごとに1つの金属原子のみを検出するだけで十分な場合がある。しかしながら、他の例では、各質量タグが複数の標識原子を含むことが望ましい場合がある。これは、以下で説明するように、幾つかの方法で実現できる。
【0327】
複数の標識原子を含むことができる質量タグを生成するための第1の手段は、ポリマーの複数のサブユニットに結合した金属キレート配位子を含むポリマーの使用である。ポリマー中の少なくとも1つの金属原子を結合することができる金属キレート基の数は、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、又は、500~1,000など、約1~10,000個となり得る。少なくとも1つの金属原子は、金属キレート基の少なくとも1つに結合することができる。ポリマーは、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、又は、500~1,000など、約1~10,000個の重合度を有することができる。したがって、ポリマーベースの質量タグは、5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、又は、500~1,000など、約1~10,000個の標識原子を含むことができる。
【0328】
ポリマーは、線状ポリマー、コポリマー、分岐ポリマー、グラフトコポリマー、ブロックポリマー、スターポリマー、及びハイパーブランチポリマーからなるグループから選択され得る。ポリマーの骨格は、置換ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、又はポリメタクリルアミドから誘導することができ、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、アクリル酸又はメタクリル酸のホモポリマー又はコポリマーの置換誘導体となり得る。ポリマーは、可逆的付加フラグメンテーション重合(RAFT)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、及び、アニオン重合からなるグループから合成することができる。ポリマーをもたらすステップは、N-アルキルアクリルアミド、N、N-ジアルキルアクリルアミド、N-アリールアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N、N-ジアルキルメタクリルアミド、ナリルメタクリルアミド、メタクリレートエステル、アクリレートエステル及びそれらの機能的同等物からなるグループから選択される化合物からのポリマーの合成を含むことができる。
【0329】
ポリマーは水溶性となり得る。この部分は化学成分によって制限されない。しかしながら、スケルトンのサイズが比較的再現性がある場合(例えば、長さ、タグ原子の数、再現性のあるデンドリマー特性など)、分析が簡単になる。安定性、溶解性、及び、非毒性の要件も考慮される。したがって、骨格に沿う多くの官能基に加えて、リンカー及び随意的にスペーサを介してポリマーを分子に結合するために使用できる異なる反応性基(連結基)(例えば、SBP)を配置する合成戦略による機能性水溶性ポリマーの調製及び特性評価が考慮される。ポリマーのサイズは、重合反応を制御することによって制御可能である。一般に、ポリマーのサイズは、ポリマーの回転半径が2~11ナノメートルなど、可能な限り小さくなるように選択される。典型的なSBPであるIgG抗体の長さは約10ナノメートルであり、したがって、SBPのサイズに対して過度に大きいポリマータグは、その標的へのSBPの結合を立体的に妨害する場合がある。
【0330】
少なくとも1つの金属原子を結合することができる金属キレート基は、少なくとも4つの酢酸基を含むことができる。例えば、金属キレート基は、ジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)基又は1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)基となり得る。別のグループとしては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びエチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N、N、N’、N’-四酢酸(EGTA)が挙げられる。
【0331】
金属キレート基は、エステル又はアミドを介してポリマーに結合され得る。適切な金属キレートポリマーの例としては、Fluidigm Canada、Incから入手可能なX8ポリマー及びDM3ポリマーが挙げられる。
【0332】
ポリマーは水溶性となり得る。それらの加水分解安定性のために、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、及びメタクリレートエステル又は機能的同等物を使用することができる。約1~1000(1~2000の主鎖原子)の重合度(DP)は、対象のポリマーの殆どを包含する。より大きなポリマーは、同じ機能を伴う本発明の態様の範囲内であり、当業者によって理解されるように想定し得る。一般に、重合度は1~10,000、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、又は500~1,000である。ポリマーは、比較的狭い多分散性をもたらす経路による合成の影響を受けやすい場合がある。ポリマーは、原子移動ラジカル重合(ATRP)又は可逆的付加フラグメンテーション(RAFT)重合によって合成でき、これにより、Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)の値が1.1~1.2の範囲になるはずである。Mw/Mnが約1.02~1.05のポリマーが得られる、アニオン重合を伴う代替戦略。いずれの方法でも、開始剤又は終了剤を選択することにより、エンドグループを制御できる。これにより、リンカーを結合できるポリマーを合成することができる。後のステップで配位子化遷移金属ユニット(例えば、Ln単位)を結合できる繰り返しユニットに官能性ペンダント基を含むポリマーを調製する戦略を採用することができる。この実施形態には、幾つかの利点がある。この実施形態は、リガンド含有モノマーの重合を実行することから生じ得る複雑さを回避する。
【0333】
ペンダント基間の電荷反発を最小限に抑えるために、(M3+)の標的リガンドはキレートに-1の正味電荷を与える必要がある。
【0334】
本発明で使用されるポリマーは以下を含む。
【0335】
-ランダム共重合体ポリ(DMA-co-NAS):Mw/Mnが約1.1で、5000~130,000の範囲で高変換の優れたモル質量制御を伴うRAFTによるN-アクリルオキシスクシンイミド(NAS)とN、N-ジメチルアクリルアミド(DMA)との75/25モル比ランダム共重合体の合成が、Relogio et al.(2004)(Polymer,45,8639-49)で報告される。活性NHSエステルは、反応性アミノ基を有する金属キレート基と反応して、RAFT重合によって合成された金属キレートコポリマーを生成する。
【0336】
-ポリ(NMAS):NMASはATRPで重合でき、平均分子量が12~40KDaの範囲で、Mw/Mnが約1.1のポリマーが得られる(例えば、Godwin et al.,2001;Angew.Chem.Int.Ed,40:594-97を参照)。
【0337】
-ポリ(MAA):ポリメタクリル酸(PMAA)は、そのt-ブチル又はトリメチルシリル(TMS)エステルのアニオン重合によって調製され得る。
【0338】
-ポリ(DMAEMA):ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)は、ATRPによって調製され得る(Wang et al,2004,J.Am.Chem.Soc,126,7784-85を参照)。これはよく知られたポリマーであり、平均Mn値が2~35KDaの範囲で、Mw/Mnが約1.2であると便利に調製される。このポリマーは、より狭いサイズ分布のアニオン重合によっても合成できる。
【0339】
-ポリアクリルアミド、又はポリメタクリルアミド。
【0340】
金属キレート基は、当業者に知られている方法によってポリマーに結合することができ、例えば、ペンダント基は、エステル又はアミドを介して結合されてもよい。例えば、メチルアクリレートベースのポリマーに対して、金属キレート基は、最初にポリマーをメタノール中のエチレンジアミンと反応させ、続いて炭酸緩衝液中でアルカリ性条件下でDTPA無水物を反応させることによってポリマー骨格に結合させることができる。
【0341】
第2の手段は、質量タグとして機能できるナノ粒子を生成することである。このような質量タグを生成するための最初の経路は、ポリマーでコーティングされた金属のナノスケール粒子の使用である。ここで、金属は、ポリマーによって隔離されて環境から保護されており、ポリマーシェルを反応させることができる場合、例えばポリマーシェルに組み込まれた官能基によって反応しない。官能基をリンカー成分(随意的にスペーサを組み込む)と反応させてクリック化学試薬を結合できるため、このタイプの質量タグを上記の合成戦略に単純なモジュール方式で差し込むことができる。
【0342】
grafting-to及びgrafting-fromは、ナノ粒子の周りにポリマーブラシを生成するための2つの主要なメカニズムである。grafting-toでは、ポリマーが別々に合成されるため、ナノ粒子をコロイド的に安定に保つ必要性によって合成が制約されることはない。ここでは、多種多様なモノマーと容易な機能化とに起因して、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)合成が優れている。連鎖移動剤(CTA)は、官能基自体として容易に使用することができ、官能化されたCTAを使用することができ、又は、ポリマー鎖を後官能化することができる。化学反応又は物理吸着を使用して、ポリマーをナノ粒子に付着させる。grafting-toの欠点の1つは、粒子表面への付着中にコイル状のポリマー鎖が立体的に反発するため、通常はグラフト密度が低くなるという点である。全てのgrafting-to法には、機能化されたナノコンポジット粒子から過剰な遊離リガンドを除去するために厳密な精密検査が必要であるという欠点がある。これは、一般に、選択的沈殿と遠心分離とによって達成される。grafting-from手法では、原子移動ラジカル重合(ATRP)の開始剤や(RAFT)重合のCTAなどの分子が粒子表面上に固定化される。この方法の欠点は、新しい開始剤カップリング反応の開発である。更に、grafting-toとは反対に、粒子は重合条件下でコロイド的に安定でなければならない。
【0343】
質量タグを生成する更なる手段は、ドープされたビーズの使用によるものである。キレート化ランタニド(又は他の金属)イオンをミニエマルジョン重合に使用して、キレート化ランタニドイオンがポリマーに埋め込まれたポリマー粒子を作成することができる。キレート基は、当業者に知られているように、金属キレートが水への溶解度を無視できるがミニエマルジョン重合のためのモノマーへの溶解度が妥当であるように選択される。当業者に知られているように、使用できる典型的なモノマーは、とりわけ、スチレン、メチルスチレン、様々なアクリレート及びメタクリレートである。機械的なロバスト性のため、金属タグ付き粒子のガラス転移温度(Tg)は室温より高くなっている。場合によっては、コアシェル粒子が使用され、この場合、ミニエマルジョン重合によって調製された金属含有粒子が、表面機能性の性質を制御するためにシード乳化重合のためのシード粒子として使用される。表面機能は、この第2段階の重合に適したモノマーを選択することで導入できる。更に、エステル基がランタニド錯体の満たされていない配位子部位に結合又は安定化できるため、アクリレート(及び可能なメタクリレート)ポリマーはポリスチレン粒子よりも有利である。そのようなドープされたビーズを形成するための典型的な方法は、(a)少なくとも1つの標識原子含有複合体が可溶性である、少なくとも1つの有機モノマー(1つの実施形態ではスチレン及び/又はメチルメタクリレートなど)を含む溶媒混合物中の少なくとも1つの標識原子含有複合体と、前記有機モノマー及び前記少なくとも1つの標識原子含有複合体の溶解性が低い、少なくとも1つの異なる溶媒とを組み合わせるステップ、(b)ステップ(a)の混合物を十分な時間にわたって乳化して均一なエマルジョンをもたらすステップ、(c)重合を開始するとともに、モノマーのかなりの部分がポリマーに変換されるまで反応を継続するステップ、(d)少なくとも1つの標識原子含有複合体が粒子中又は粒子上に組み入れられたポリマー粒子のラテックス懸濁液を得るのに十分な時間にわたってステップ(c)の生成物をインキュベートするステップであって、ポリマー質量タグの調査時に前記少なくとも1つの標識原子から別個の質量信号が得られるように前記少なくとも1つの原子含有複合体が選択される、ステップである。異なる標識原子を含む2つ以上の複合体を使用することにより、2つ以上の異なる標識原子を含むドープビーズを作製することができる。更に、異なる標識原子を含む複合体の比率を制御することにより、異なる比率の標識原子を有するドープされたビーズの製造が可能になる。複数の標識原子を使用することにより、また、異なる無線機で、明確に特定可能な質量タグの数が増大する。コアシェルビーズでは、これは、第1の標識原子含有複合体をコアに組み込み、第2の標識原子含有複合体をシェルに組み込むことによって達成されてもよい。
【0344】
更に別の手段は、配位金属配位子としてではなく、ポリマーの主鎖に標識原子を含むポリマーの生成である。例えば、Carerra and Seferos(Macromolecules 2015,48,297-308)は、ポリマーの主鎖にテルルが含まれていることを開示している。標識原子として機能することができる原子を組み込んだ他のポリマー、スズ、アンチモン、及び、ビスマスを組み込んだポリマー。このような分子は、とりわけPriegert et al.,2016(Chem.Soc.Rev.,45,922-953)で議論される。
【0345】
したがって、質量タグは、少なくとも2つの成分、すなわち、標識原子、及び、標識原子をキレート化する、標識原子を含む、或いは、標識原子でドープされるポリマーを含むことができる。更に、質量タグは、先の議論に沿ったクリックケミストリー反応で、2つの成分の反応に続く質量タグとSBPとの間の化学結合の一部を形成する付着基(SBPにコンジュゲートされない場合)を含む。
【0346】
SBPを例えばドープされたビーズ又はナノ粒子に付着させる更なる方法としてポリドーパミンコーティングを使用できる。ポリドーパミンの機能の範囲を考えると、SBPは、例えば、抗体などのSBP上のアミン基又はスルフヒドリル基の反応によってPDAコーティングされたビーズ又は粒子から形成された質量タグにコンジュゲートされ得る。或いは、PDAの官能性は、SBPとの反応のために更に官能性を導入する二官能性リンカーなどの試薬と反応させることができる。場合によっては、以下で説明するように、リンカーがスペーサを含むことができる。これらのスペーサは、質量タグとSBPとの間の距離を広げ、SBPの立体障害を最小限に抑える。したがって、本発明は、SBPを含む質量タグ付きSBPと、ポリドーパミンを含む質量タグとを含み、この場合、ポリドーパミンは、SBPと質量タグとの間のリンクの少なくとも一部を含む。ナノ粒子及びビーズ、特にポリドーパミンでコーティングされたナノ粒子及びビーズは、それらが数千の金属原子を有するとともに同じ親和性試薬の複数のコピーを有し得るため、存在量の少ない標的を検出するための信号増強に役立つ場合がある。親和性試薬は、信号を更に増強できる二次抗体となり得る。
【0347】
標識原子
本開示で使用することができる標識原子は、MS又はOESによって検出可能であるとともに標識化されない組織サンプルには実質的に存在しない任意の種を含む。したがって、例えば、12C原子は、天然に豊富であるため、標識原子としては不適切であるが、11Cは、天然に存在しない人工同位体であるため、理論的にはMSに使用できる。多くの場合、標識原子は金属である。しかしながら、好ましい実施形態において、標識原子は、希土類金属(15個のランタニドに加えてスカンジウム及びイットリウム)などの遷移金属である。これらの17個の元素(OES及びMSによって区別できる)は、(MSにより)簡単に区別できる多くの異なる同位体をもたらす。これらの様々な元素は、濃縮された同位体の形で入手でき、例えば、サマリウムは6つの安定同位体を有し、ネオジムは7つの安定同位体を有し、これらは全て濃縮された形で入手できる。15個のランタニド元素は、非冗長に固有の質量を持つ少なくとも37個の同位体をもたらす。標識原子としての使用に適した元素の例としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジミウム(Pr)、ネオジミウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、スカンジウム(Sc)、及び、イットリウム(Y)が挙げられる。希土類金属に加えて、他の金属原子、例えば、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ビスマス(Bi)などが検出に適している。放射性同位元素の使用は、取り扱いが不便で不安定であるため、好ましくなく、例えば、Pmは、ランタニドの中で好ましい標識原子ではない。
【0348】
飛行時間(TOF)分析(本明細書で説明する)を容易にするために、80~250の範囲内、例えば80~210の範囲内、又は100~200の範囲内の原子量を有する標識原子を使用することが有用である。この範囲には全てのランタニドが含まれるが、Sc及びYは含まれない。100~200の範囲では、TOF MSの高いスペクトルスキャンレートを利用しながら、様々な標識原子を使用した理論的な101プレックス分析が可能である。前述のように、質量が非標識サンプルで見られるものより上のウインドウ内にある標識原子を選択することにより(例えば、100~200の範囲内)、TOF検出を使用して生物学的に有意なレベルで迅速なイメージングを提供できる。
【0349】
使用される質量タグ(及び質量タグ当たりの標識原子の数)及び各SBPに付着される質量タグの数に応じて、様々な数の標識原子を単一のSBP要素に付着することができる。より多くの標識原子がSBP要素に付着されると、より高い感度を実現できる。例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100を超える標識原子を、最大で10,000など、例えば5~100、10~250、250~5,000、500~2,500、又は500~1,000の標識原子をSBP要素に付着できる。前述のように、それぞれがジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)又はDOTAなどのキレート剤を含む複数のモノマーユニットを含む単分散ポリマーを使用することができる。例えば、DTPAは3+ランタニドイオンを約10-6Mの解離定数で結合する。これらのポリマーは、先の説明に沿ってクリックケミストリー反応性を結合するべくマレイミドとの反応によってSBPに結合するために使用され得るチオールで終端できる。他の官能基、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどのアミン反応性基、又は、カルボキシル基に対して又は抗体のグリコシル化に対して反応性のある基も、これらのポリマーのコンジュゲーションのために使用できる。任意の数のポリマーが各SBPに結合されてもよい。使用できるポリマーの具体例としては、直鎖(「X8」)ポリマー又は第3世代樹枝状(「DN3」)ポリマーが挙げられ、いずれもMaxPar(商標)薬として入手できる。金属ナノ粒子の使用は、先にも説明したように、標識内の原子数を増やすためにも使用され得る。
【0350】
幾つかの実施形態では、質量タグにおける全ての標識原子は同じ原子質量を有する。或いは、質量タグは、異なる原子量の標識原子を含むことができる。したがって、場合によっては、標識サンプルは、それぞれが単一のタイプの標識原子のみを含む一連の質量タグ付きSBPで標識化されてもよい(各SBPはその同族の標的に結合するため、各種類の質量タグがサンプル上で特定の、例えば抗原に局在化される)。或いは、場合によっては、標識サンプルは、それぞれが標識原子の混合物を含む一連の質量タグ付きSBPで標識化されてもよい。場合によっては、サンプルを標識化するために使用される質量タグ付きSBPは、単一の標識原子質量タグを伴うものの混合物と標識原子の混合物とをそれらの質量タグ内に含んでもよい。
【0351】
スペーサ
前述のように、場合によっては、SBPは、スペーサを含むリンカーを介して質量タグにコンジュゲートされる。SBPとクリック化学試薬との間(例えば、SBPと歪みシクロアルキン(又はアジド);歪みシクロアルケン(又はテトラジン)などとの間)にスペーサがあってもよい。質量タグとクリック化学試薬との間(例えば、質量タグとアジド(又は歪みシクロアルキン);テトラジン(又は歪みシクロアルケン)などとの間)にスペーサがあってもよい。場合によっては、SNPとクリックケミストリー試薬との間及びクリックケミストリー試薬と質量タグとの間の両方にスペーサが存在してもよい。
【0352】
スペーサは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサ、ポリ(N-ビニルピロリド)(PVP)スペーサ、ポリグリセロール(PG)スペーサ、ポリ(N-(2-ヒドロキシルプロピル)メタクリルアミド)スペーサ、又は、ポリオキサゾリン(POZ、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン又はポリプロピレンオキサゾリンなど)又はC5-C20非環状アルキルスペーサであってもよい。例えば、スペーサは、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、15以上、20以上のEG(エチレングリコール)ユニットを伴うPEGスペーサであってよい。PEGリンカーは、3~12個のEGユニット、4~10個のEGユニットを有してもよく、或いは、4、5、6、7、8、9、又は10個のEGユニットを有してもよい。リンカーは、シスタミン又はその誘導体を含んでもよく、1つ以上のジスルフィド基を含んでもよく、或いは、当業者に知られている任意の他の適切なリンカーであってもよい。
【0353】
スペーサは、コンジュゲートされるSBPに対する質量タグの立体的効果を最小限に抑えるのに有利となり得る。PEGベースのスペーサなどの親水性スペーサも、質量タグ付きSBPの溶解性を改善するように作用するとともに、凝集を防ぐように作用し得る。
【0354】
SBP(特異的結合対要素)
イメージングマスサイトメトリーを含むマスサイトメトリーは、特異的結合対の要素間の特異的結合の原理に基づいている。質量タグは特異的結合対要素にリンクされ、これにより、質量タグが対のもう一方の要素である標的/分析物に局在化する。しかしながら、特異的結合では、他の分子種を除いて、1つの分子種だけに結合する必要はない。むしろ、それは、結合が非特異的でない、つまり、ランダムな相互作用ではないことを規定する。したがって、複数の標的に結合するSBPの例は、多くの異なるタンパク質間で共通のエピトープを認識する抗体である。ここでは、結合は、特異的であるとともに、抗体のCDRによって媒介されるが、複数の異なるタンパク質が抗体によって検出される。一般的なエピトープが天然に存在する場合もあり、或いは、一般的なエピトープがFLAGタグなどの人工的なタグとなり得る。同様に、核酸の場合、所定の配列の核酸は、完全に相補的な配列に排他的に結合しない場合があるが、当業者であれば分かるように、異なるストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の使用下で、ミスマッチの様々な耐性を導入することができる。それにもかかわらず、このハイブリダイゼーションは、それがSBP核酸と標的分析物との間の相同性によって媒介されるため、非特異的ではない。同様に、リガンドは複数の受容体に特異的に結合することができ、簡単な例は、TNFR1及びTNFR2の両方に結合するTNFαである。
【0355】
SBPは、以下のいずれか、すなわち、抗体/抗原複合体;受容体/リガンド対;又はアプタマー/標的対のいずれかを含んでもよい。したがって、標識原子を核酸プローブに付着させることができ、核酸プローブは、その後、DNA/DNA二重鎖、DNA/RNA二重鎖、又はRNA/RNA二重鎖を形成するべく、プローブがその中の相補的核酸にハイブリダイズできるように組織サンプルと接触される。同様に、標識原子を抗体に結合させることができ、抗体は、その後、それがその抗原に結合できるように組織サンプルと接触される。標識原子をリガンドに結合させることができ、リガンドは、その後、それがその受容体に結合できるように組織サンプルと接触される。標識原子をアプタマーリガンドに結合させることができ、アプタマーリガンドは、その後、それがその標的に結合できるように組織サンプルと接触される。したがって、標識化されたSBP要素は、DNA配列、RNA配列、タンパク質、糖、脂質、代謝物を含むサンプル中の様々な標的を検出するために使用され得る。
【0356】
したがって、質量タグ付きSBPは、タンパク質又はペプチド、或いは、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドとなり得る。
【0357】
タンパク質SBPの例としては、抗体又はその抗原結合フラグメント、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体融合タンパク質、scFv、抗体模倣物、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラビジン、ビオチン、又はそれらの組み合わせが挙げられ、その場合、随意的に、抗体模倣物は、ナノボディ、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPin、ファイノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、又はそれらの任意の組み合わせ、受容体-Fc融合物などの受容体、リガンド-Fc融合物などのリガンド、レクチン、例えば、小麦胚芽凝集素などの凝集素を含む。
【0358】
ペプチドは、線状ペプチド、又は二環式ペプチドなどの環状ペプチドであってもよい。使用できるペプチドの一例はファロイジンである。
【0359】
ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは、一般に、3’-5’ホスホジエステル結合によって連結されたデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドを含むヌクレオチドの一本鎖又は二本鎖ポリマー、並びにポリヌクレオチド類似体を指す。核酸分子は、DNA、RNA、及びcDNAを含むが、これらに限定されない。ポリヌクレオチド類似体は、天然のポリヌクレオチドに見られる標準的なホスホジエステル結合以外の骨格、及び、随意的に、改質された糖部分又はリボース又はデオキシリボース以外の部分を有してもよい。ポリヌクレオチド類似体は、標準的なポリヌクレオチド塩基へのワトソン-クリック塩基対形成による水素結合が可能な塩基を含み、アナログ骨格は、オリゴヌクレオチド類似体分子と標準的なポリヌクレオチド中の塩基との間の配列特異的な形式でのそのような水素結合を可能にする態様で塩基を有する。ポリヌクレオチド類似体の例としては、異種核酸(XNA)、架橋核酸(BNA)、グリコール核酸(GNA)、ペプチド核酸(PNA)、yPNA、モルホリノポリヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)
、スレオス核酸(TNA)、2’-0-メチルポリヌクレオチド、2’-0-アルキルリボシル置換ポリヌクレオチド、ホスホロチオエートポリヌクレオチド、及びボロノホスフェートポリヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチド類似体は、例えば、7-デアザプリン類似体、8-ハロプリン類似体、5-ハロピリミジン類似体を含む、プリン又はピリミジン類似体、又は、ヒポキサンチン、ニトロアゾール、イソカルボスチリル類似体、アゾールカルボキサミド、及び芳香族トリアゾール類似体を含む任意の塩基と対を成し得るユニバーサル塩基類似体、又は、親和性結合のためのビオチン部分などの更なる機能を伴う塩基類似体を有してもよい。
【0360】
抗体SBP要素
典型的な実施形態では、標識化されたSBP要素が抗体である。抗体の標識化は、例えば、NHS-アミン化学、スルフヒドリル-マレイミド化学、又はクリックケミストリー(歪みアルキン及びアジド、歪みアルキン及びニトロン、歪みアルケン及びテトラジンなど)を使用する質量タグの付着により、分子を抗体に結合させる1つ以上の標識原子のコンジュゲーションを通じて達成され得る。イメージングに有用な細胞タンパク質を認識する抗体は、IHCでの使用に既に広く利用可能であり、また、現在の標識化技術(例えば蛍光)の代わりに標識原子を使用することにより、これらの既知の抗体を本明細書の開示方法で用いるのに容易に適合させることができるが、多重化機能を向上させるという利点を伴う。抗体は、細胞表面上の標的又は細胞内の標的を認識することができる。抗体は様々な標的を認識でき、例えば、抗体は、個々のタンパク質を特異的に認識でき、又は、共通のエピトープを共有する複数の関連タンパク質を認識でき、又は、タンパク質の特定の翻訳後修飾を認識できる(例えば、対象のタンパク質のチロシンとホスホチロシンとを区別するため、リジンとアセチル-リジンとを区別するため、ユビキチン化を検出するためなど)。その標的に結合した後、抗体にコンジュゲートされた標識原子を検出して、サンプル中のその標的の位置を明らかにすることができる。
【0361】
標識化されたSBP要素は、通常、サンプル内の標的SBP要素と直接に相互作用する。しかしながら、幾つかの実施形態では、標識化されたSBP要素が間接的に、標的SBP要素と相互作用することができ、例えば、一次抗体が標的SBP要素に結合してもよく、また、標識化された二次抗体は、その後、サンドイッチアッセイの態様で一次抗体に結合し得る。しかしながら、通常、この方法は、これをより簡単に実現できるとともに、これがより高度な多重化を可能にするため、直接相互作用に依存する。しかしながら、いずれの場合も、サンプルは、サンプル内の標的SBP要素に結合し得るSBP要素と接触され、また、その後の段階で、標的SBP要素に付着された標識が検出される。
【0362】
核酸SBP、及び標識化方法の変更
RNAは、本明細書に開示される方法及び装置が特定の高感度で必要に応じて定量的な態様で検出できる他の生物学的分子である。タンパク質の分析について前述したのと同じ態様で、RNAに特異的に結合する元素タグで標識化されたSBP要素の使用によってRNAを検出できる(例えば、相補配列のロックされた核酸(LNA)分子、相補配列のペプチド核酸(PNA)分子、相補配列のプラスミドDNA、相補配列の増幅されたDNA、相補配列のRNAの断片、及び相補配列のゲノムDNAの断片を含む、前述したような相補配列のポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド)。RNAは、成熟したmRNAだけでなく、RNAプロセシング中間体や新生プレmRNA転写物も含む。
【0363】
特定の実施形態において、RNA及びタンパク質の両方は、特許請求の範囲に記載される本発明の方法を使用して検出される。
【0364】
RNAを検出するために、本明細書に記載の生物学的サンプル中の細胞は、本明細書に記載の方法及び装置を使用して、RNA及びタンパク質含有量の分析のために調製され得る。特定の態様において、細胞は、ハイブリダイゼーションステップの前に固定されて透過処理される。細胞は、固定され及び/又は透過処理されるように与えられる。細胞は、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどの架橋固定剤によって固定されてもよい。これに代えて又は加えて、エタノール、メタノール又はアセトンなどの沈殿固定剤を使用して細胞を固定してもよい。細胞は、ポリエチレングリコール(Triton X-100など)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween-20)、サポニン(両親媒性配糖体のグループ)、又はメタノールやアセトンなどの化学物質などの界面活性剤によって透過処理されてもよい。場合によっては、固定及び透過処理が同じ試薬又は試薬のセットを使用して実行されてもよい。固定技術及び透過処理技術は、「Permeabilization of Cell Membranes」(Methods Mol.Biol.、2010)においてJamur et al.によって論じられる。
【0365】
細胞内の標的核酸の検出又は「in-situハイブリダイゼーション」(ISH)は、以前はフルオロフォアタグ付きオリゴヌクレオチドプローブを使用して行なわれていた。本明細書で論じられるように、イオン化及び質量分析と組み合わせた質量タグ付きオリゴヌクレオチドを使用して、細胞内の標的核酸を検出することができる。in-situハイブリダイゼーションの方法は当技術分野で知られている(Zenobiらの「単一細胞メタボロミクス:分析的及び生物学的展望」、Science第342刊、第6163号、2013年を参照)。ハイブリダイゼーションプロトコルは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,225,326号及び米国特許公開第2010/0092972号及び米国特許公開第2013/0164750号にも記載されている。
【0366】
ハイブリダイゼーションの前に、懸濁状態で存在する又は固体支持体上に固定化される細胞が前述のように固定されて透過処理されてもよい。透過処理は、標的ハイブリダイゼーションヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド、及び/又は質量タグ付きオリゴヌクレオチドが細胞に入るのを可能にしつつ、細胞が標的核酸を保持することを可能にし得る。細胞は、任意のハイブリダイゼーションステップの後、例えば、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドの核酸標的へのハイブリダイゼーション後、増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション後、及び/又は質量タグ付きオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション後に洗浄されてもよい。
【0367】
細胞は、取り扱いを容易にするために、方法の全て又は殆どのステップにわたって懸濁状態となり得る。しかしながら、この方法は、固体組織サンプル(例えば、組織切片)中の細胞及び/又は固体支持体(例えば、スライド又は他の表面)に固定化された細胞にも適用可能である。したがって、場合によっては、細胞がサンプル中及びハイブリダイゼーションステップ中に浮遊している可能性がある。また、ハイブリダイゼーション中に細胞が固体支持体に固定化される場合もある。
【0368】
標的核酸は、本方法によって検出されるべき、細胞内に十分に存在する対象の任意の核酸を含む。標的核酸は、細胞内に複数のコピーが存在するRNAであってもよい。例えば、標的RNAの10以上、20以上、50以上、100以上、200以上、500以上、又は1000以上のコピーが細胞内に存在してもよい。標的RNAは、メッセンジャーNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、低分子核RNA(snRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、長非コードRNA(IncRNA)、又は当技術分野で知られている任意の他のタイプのRNAであってもよい。標的RNAは、長さが20ヌクレオチド以上、30ヌクレオチド以上、40ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、100ヌクレオチド以上、200ヌクレオチド以上、500ヌクレオチド以上、1000ヌクレオチド以上、20~1000ヌクレオチド、20~500ヌクレオチド、40~200ヌクレオチドなどであってもよい。
【0369】
特定の実施形態において、質量タグ付けされたオリゴヌクレオチドは、標的核酸配列に直接ハイブリダイズされてもよい。しかしながら、更なるオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、改善された特異性及び/又はシグナル増幅を可能にし得る。
【0370】
特定の実施形態において、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは、標的核酸上の近位領域にハイブリダイズされてもよく、共に合わさってハイブリダイゼーションスキームにおける更なるオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションのための部位を与えてもよい。
【0371】
特定の実施形態において、質量タグ付けされたオリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドに直接ハイブリダイズされ得る。他の実施形態では、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドをハイブリダイズして質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合できる複数のハイブリダイゼーション部位を与えるために、1つ以上の増幅オリゴヌクレオチドが同時に又は連続して添加されてもよい。質量タグ付きオリゴヌクレオチドを伴う又は伴わない1つ以上の増幅オリゴヌクレオチドは、2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドにハイブリダイズすることができる多量体として与えられてもよい。
【0372】
2つ以上の標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを使用すると特異性が向上するが、増幅オリゴヌクレオチドを使用するとシグナルが増大する。2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドが細胞内の標的RNAにハイブリダイズされる。2つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドは、共に合わさって、増幅オリゴヌクレオチドが結合することができるハイブリダイゼーション部位を与える。ハイブリダイゼーション及び/又はその後の増幅オリゴヌクレオチドの洗浄は、2つの近位標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを可能にするが、ただ1つの標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドへの増幅オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度より高い温度で実施され得る。第1の増幅オリゴヌクレオチドは、第2の増幅オリゴヌクレオチドが結合して分岐パターンを形成することができる複数のハイブリダイゼーション部位を与える。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、第2の増幅ヌクレオチドによって与えられる複数のハイブリダイゼーション部位に結合し得る。これらの増幅オリゴヌクレオチド(質量タグ付きオリゴヌクレオチドを含む又は含まない)は、共に合わさって、本明細書では「マルチマー」と称される。したがって、「増幅オリゴヌクレオチド」という用語は、更なるオリゴヌクレオチドがアニーリングすることができる同じ結合部位の複数のコピーを与えるオリゴヌクレオチドを含む。他のオリゴヌクレオチドの結合部位の数を増やすことにより、標的に見つけることができる標識の最終的な数が増える。したがって、複数の標識オリゴヌクレオチドは、間接的に単一の標的RNAにハイブリダイズされる。これにより、RNAごとに使用される元素の検出可能な原子の数を増やすことにより、低コピー数のRNAの検出が可能になる。
【0373】
この増幅を実行するための1つの特定の方法は、以下でより詳細に議論されるように、高度な細胞診断からのRNAscope(登録商標)方法を使用することを含む。更なる代替案は、QuantiGene(登録商標)FlowRNA方法(Affymetrix eBioscience)を適応させる方法の使用である。この分析は、分岐DNA(bDNA)シグナル増幅を伴うオリゴヌクレオチド対プローブの設計に基づいている。カタログには4,000を超えるプローブがあり、又は、追加料金なしでカスタムセットをリクエストできる。前の段落と一致して、この方法は、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドの標的へのハイブリダイゼーション、続いて第1の増幅オリゴヌクレオチド(QuantiGene(登録商標)法では前増幅オリゴヌクレオチドと称される)を含む分岐構造の形成によって機能し、複数の第2の増幅オリゴヌクレオチドがアニーリングできるステムを形成する(QuantiGene(登録商標)方法では単に増幅オリゴヌクレオチドと称される)。その後、複数の質量タグ付きオリゴヌクレオチドが結合できる。
【0374】
RNA信号を増幅する別の手段は、ローリングサークル増幅手段(RCA)に依存している。この増幅システムを増幅プロセスに導入できる手段は様々である。第1の事例では、第1の核酸がハイブリダイゼーション核酸として使用され、この場合、第1の核酸は環状である。第1の核酸は、一本鎖であってもよく、又は、二本鎖であってもよい。第1の核酸は、標的RNAに相補的な配列を含む。第1の核酸の標的RNAへのハイブリダイズに続いて、第1の核酸に相補的なプライマーが第1の核酸にハイブリダイズされて一般的にはサンプルに外因的に添加されるポリメラーゼ及び核酸を使用するプライマー伸長のために使用される。しかしながら、場合によっては、第1の核酸がサンプルに追加されるときに、それに伸長用のプライマーが既にハイブリダイズされてしまっている場合がある。第1の核酸が環状である結果として、プライマー伸長が完全な複製ラウンドを完了すると、ポリメラーゼがプライマーを置換でき、伸長が継続し(すなわち、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を伴わずに)、それにより、更に連結されて、第1の核酸の補体の鎖状コピーが更にもたらされ、その結果、その核酸配列が増幅される。したがって、上記のような元素タグ(RNA又はDNA、又はLNA又はPNAなど)を含むオリゴヌクレオチドは、第1の核酸の補体の鎖状コピーにハイブリダイズされ得る。したがって、RNA信号の増幅の程度は、環状核酸の増幅のステップに割り当てられた時間の長さによって制御され得る。
【0375】
RCAの別の用途において、RCAは、第1の、例えば、環状である標的RNAにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドではなく、直線状であってもよく、その標的に相補的な配列を有する第1の部分とユーザが選択する第2の部分とを含む。その後、この第2の部分に相同な配列を有する環状RCAテンプレートがこの第1のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズされてもよく、また、RCA増幅が上記のように実施されてもよい。第1の、例えば、標的特異的部分及びユーザ選択部分を有するオリゴヌクレオチドの用途は、様々な異なるプローブ間で共通であるようにユーザ選択部分を選択することができることである。これは、異なる標的を検出する一連の反応で同じ後続の増幅試薬を使用できるため、試薬効率が高い。しかしながら、当業者であれば分かるように、この戦略を採用する場合、多重反応における特定のRNAの個々の検出のために、標的RNAにハイブリダイズする各第1の核酸は、固有の第2の配列を有する必要があり、ひいては、各環状核酸は、標識オリゴヌクレオチドによってハイブリダイズできる固有の配列を含むべきである。このようにして、各標的RNAからの信号を特異的に増幅及び検出することができる。
【0376】
RCA分析をもたらすための他の構成は、当業者に知られている。場合によっては、第1の、例えば、オリゴヌクレオチドが次の増幅及びハイブリダイゼーションステップ中に標的から解離するのを防ぐために、第1の、例えば、オリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーション後に(例えば、ホルムアルデヒドによって)固定されてもよい。
【0377】
更に、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)を使用して、RNAシグナルを増幅することができる(例えば、Choi et al.,2010,Nat.Biotech,28:1208-1210を参照)。Choiは、開始剤がないと重合しない2つの核酸ヘアピン種からHCR増幅器が成ると説明している。各HCRヘアピンは、露出した一本鎖のつま先を持つ入力ドメインと、折りたたまれたヘアピンに隠された一本鎖のつま先を持つ出力ドメインとから成る。2つのヘアピンのうちの1つの入力ドメインへのイニシエータのハイブリダイゼーションは、ヘアピンを開いてその出力ドメインを露出させる。この(以前は非表示だった)出力ドメインを第2のヘアピンの入力ドメインにハイブリダイゼーションすると、そのヘアピンが開き、イニシエータと同じ順序で出力ドメインが露出される。イニシエータ配列の再生は、ニックの入った二本鎖「ポリマー」の形成につながる、交互の第1及び第2のヘアピン重合ステップの連鎖反応の基礎を与える。第1及び第2のヘアピンのいずれか又は両方は、本明細書に開示される方法及び装置の適用において、元素タグで標識化され得る。増幅手順は特定の配列の出力ドメインに依存しているため、ヘアピンの別々のセットを使用した様々な個別の増幅反応を同じプロセスで独立して実行できる。したがって、この増幅により、多数のRNA種のマルチプレックス分析での増幅も可能になる。Choiが言及するように、HCRは等温でトリガーされる自己組織化プロセスである。したがって、ヘアピンは、その場でトリガーされた自己組織化を受ける前にサンプルに浸透する必要があり、深いサンプル浸透と高い信号対バックグラウンド比の可能性を示唆している。
【0378】
ハイブリダイゼーションは、標的ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド、及び/又は質量タグ付きオリゴヌクレオチドなどの1つ以上のオリゴヌクレオチドと細胞を接触させること、及び、ハイブリダイゼーションが起こり得る条件を与えることを含んでもよい。ハイブリダイゼーションは、生理食塩水-クエン酸ナトリウム(SCC)緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、生理食塩水-リン酸ナトリウム-EDTA(SSPE)緩衝液、TNT緩衝液(Tris-HCl、塩化ナトリウム、及びTween 20)、又は任意の他の適切なバッファにおいて実行されてもよい。ハイブリダイゼーションは、1つ以上のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの融解温度の前後又はそれより低い温度で実行されてもよい。
【0379】
特異性は、結合していないオリゴヌクレオチドを除去するために、ハイブリダイゼーションに続いて1回又は複数回の洗浄を行なうことによって改善され得る。洗浄のストリンジェンシーを上げると、特異性は向上するが、全体的な信号が減少する。洗浄のストリンジェンシーは、洗浄緩衝液の濃度を増大又は減少させ、温度を上昇させ、及び/又は、洗浄の期間を増大させることによって高められてもよい。RNAse阻害剤が、ハイブリダイゼーションインキュベーション及びその後の洗浄のいずれか又は全てにおいて使用されてもよい。
【0380】
1つ以上の標的ハイブリダイズオリゴヌクレオチド、増幅オリゴヌクレオチド及び/又は質量タグ付きオリゴヌクレオチドを含むハイブリダイゼーションプローブの第1のセットを使用して、第1の標的核酸を標識することができる。ハイブリダイゼーションプローブの更なるセットを使用して、更なる標的核酸を標識化することができる。ハイブリダイゼーションプローブの各セットは、異なる標的核酸に特異的であってもよい。ハイブリダイゼーションプローブの更なるセットは、異なるセットのオリゴヌクレオチド間のハイブリダイゼーションを低減又は防止するように設計され、ハイブリダイズされ、及び、洗浄されてもよい。更に、各セットの質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、固有の信号を与えてもよい。したがって、オリゴヌクレオチドの複数のセットを使用して、2、3、5、10、15、20又はそれ以上の別個の核酸標的を検出することができる。
【0381】
時として、検出された異なる核酸は、単一の遺伝子のスプライスバリアントである。質量タグ付きオリゴヌクレオチドは、エクソンの配列内でハイブリダイズして(以下で説明するように他のオリゴヌクレオチドを介して直接的又は間接的に)そのエクソンを含む全ての転写物を検出するように設計され得る、或いは、スプライスジャンクションをブリッジして特異的バリアントを検出するように設計されてもよい(例えば、遺伝子に3つのエクソンがあり、2つのスプライスバリアント-エクソン1-2-3とエクソン1-3-がある場合、2つを区別できる。すなわち、バリアント1-2-3は、エクソン2にハイブリダイズすることで特異的に検出でき、バリアント1-3は、エクソン1-3ジャンクションを介してハイブリダイズすることで特異的に検出できる。
【0382】
組織化学的染色液
1つ以上の固有の金属原子を有する組織化学的染色試薬は、本明細書に記載されるように、他の試薬及び使用方法と組み合わせることができる。例えば、組織化学的染色液は、金属含有薬物、金属標識抗体、及び/又は蓄積された重金属と共局在化されてもよい(例えば、細胞又は細胞内の分解能で)。特定の態様において、1つ以上の組織化学的染色液は、他のイメージング方法(例えば、蛍光顕微鏡法、光学顕微鏡法、又は電子顕微鏡法)のために使用されるものからより低い濃度(例えば、半分未満、1/4、1/10など)で使用されてもよい。
【0383】
構造を視覚化及び特定するために、広範囲の組織学的染色液及び指標が利用可能であり、これらは十分に特徴付けられる。金属含有染色液は、病理学者によるイメージングマスサイトメトリーの受け入れに影響を与える可能性がある。特定の金属含有染色液は、細胞成分を明らかにすることがよく知られており、本発明での使用に適している。更に、明確な染色液をデジタル画像分析で使用して、特徴認識アルゴリズムのコントラストを与えることができる。これらの機能は、イメージングマスサイトメトリーの開発にとって戦略的に重要である。
【0384】
多くの場合、組織切片の形態学的構造は、抗体などの親和性産物を使用して対比され得る。親和性産物は、組織化学的染色を使用する場合と比較して、高価であり、金属含有タグを使用する更なる標識手順を必要とする。この手法は、利用可能なランタニド同位体で標識化された抗体を使用するイメージングマスサイトメトリーの先駆的な研究で使用されたため、機能性抗体が生物学的質問に答えるための質量(金属など)タグを枯渇させた。
【0385】
本発明は、Ag、Au、Ru、W、Mo、Hf、Zr(粘液性間質を特定するために使用されるルテニウムレッド、コラーゲン線維を特定するための三色染色、細胞対比染色剤としての四酸化オスミウムなどの化合物を含む)などの元素を含む利用可能な同位体のカタログを拡張する。核型分析には銀染色が使用される。硝酸銀は、核小体形成領域(NOR)関連タンパク質を染色して、銀が沈着する暗い領域を生成し、NOR内のrRNA遺伝子の活性を示す。IMCに適合させるには、プロトコル(過マンガン酸カリウムによる酸化、銀濃度1%など)を、0.5%、0.01%、0.05%未満の銀溶液などの低濃度の銀溶液を使用するように変更する必要がある。
【0386】
オートメタログラフィック増幅技術は、組織化学における重要なツールに進化してきた。多くの内因性及び毒性の重金属は、Agイオンとの反応によって自己触媒的に増幅され得る硫化物又はセレン化物のナノ結晶を形成する。より大きなAgナノクラスターは、IMCによって容易に視覚化され得る。現在、Zn-S/Seナノ結晶の銀増幅検出及び銀-セレンナノ結晶の形成によるセレンの検出のための堅牢なプロトコルが確立されてきた。更に、市販の量子ドット(Cdの検出)も、自己触媒的に活性であり、組織化学的標識として使用され得る。
【0387】
本発明の態様は、組織化学的染色液及び元素質量分析によるイメージングにおける組織化学的染色液の使用を含んでもよい。元素質量分析によって分解可能な任意の組織化学的染色液を本発明で使用することができる。特定の態様において、組織化学的染色液は、サンプルをイメージングするために使用される元素質量分析計のカットオフよりも大きい、例えば、60amu、80amu、100amu、又は120amuを超える質量の1つ以上の原子を含む。例えば、組織化学的染色液は、本明細書に記載されるような金属タグ(例えば、金属原子)を含んでもよい。金属原子は、組織化学的染色にキレート化され又は組織化学的染色液の化学構造内で共有結合されてもよい。特定の態様では、組織化学的染色液が有機分子であってもよい。組織化学的染色液は、極性、疎水性(例えば、親油性)、イオン性であってもよく、或いは、異なる特性を有する基を含んでもよい。特定の態様では、組織化学的染色液が複数の化学物質を含んでもよい。
【0388】
組織化学的染色液は、2000、1500、1000、800、600、400、又は200amu未満の小分子を含む。組織化学的染色液は、共有結合又は非共有結合(例えば、イオン性又は疎水性)相互作用を介してサンプルに結合してもよい。組織化学的染色液は、例えば、個々の細胞、細胞内構造、及び/又は細胞外構造を特定するのを助けるために、生物学的サンプルの形態を解明するためのコントラストを与えてもよい。組織化学的染色液によって分解され得る細胞内構造は、細胞膜、細胞質、核、ゴルジ体、小胞体、ミトコンドリア、及び他の細胞小器官を含む。組織化学的染色液は、核酸、タンパク質、脂質、リン脂質、又は炭水化物などの生体分子のタイプに関して親和性を有してもよい。特定の態様において、組織化学的染色液は、DNA以外の分子を結び付けてもよい。適切な組織化学的染色液は、間質(例えば、粘膜間質)、基底膜、間質間質、コラージュ又はエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む細胞外構造(例えば、細胞外マトリックスの構造)を結び付ける染色液も含む。
【0389】
特定の態様において、組織化学的染色液及び/又は代謝プローブは、細胞又は組織の状態を示してもよい。例えば、組織化学的染色液は、シスプラチン、エオシン、ヨウ化プロピジウムなどの生体染色液を含んでもよい。他の組織化学的染色液は、低酸素症に関して染色してもよく、例えば、低酸素条件下でのみ結合又は沈着してもよい。ロドデオキシウリジン(IdU)又はその誘導体などのプローブが、細胞増殖を染色してもよい。特定の態様において、組織化学的染色液が細胞又は組織の状態を示さなくてもよい。細胞の状態(例えば、生存率、低酸素症及び/又は細胞増殖)を検出するが生体内(例えば、生きている動物又は細胞培養物に)投与されるプローブは、本方法のいずれかで使用されるが、組織化学的染色液として適格ではない。
【0390】
組織化学的染色液は、核酸(例えば、DNA及び/又はRNA)、タンパク質、脂質、リン脂質、炭水化物(例えば、単糖又は二糖又はポリオールなどの糖;オリゴ糖;及び/又はデンプン又はグリコーゲンなどの多糖)、糖タンパク質、及び/又は糖脂質などの生物学的分子のタイプに関して親和性を有してもよい。特定の態様では、組織化学的染色液が対比染色剤であってもよい。
【0391】
以下は、特定の組織化学的染色液及び本方法でのそれらの使用の例である。
【0392】
粘液性間質検出用の金属含有染色剤液としてのルテニウムレッド染色液は、以下のように使用されてもよい。すなわち、免疫染色された組織(例えば、脱パラフィンFFPE又は凍結切片)は、0.0001-0.5%、0.001-0.05%、0.1%未満、0.05%未満、又は約0.0025%のルテニウムレッドで処理されてもよい(例えば、4~42℃で少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも30分、又は約30分にわたって、又は室温付近で)。生物学的サンプルは、例えば、水又は緩衝液で濯がれてもよい。その後、元素質量分析によるイメージングの前に組織が乾燥されてもよい。
【0393】
リンタングステン酸(例えば、三色染色液として)がコラーゲン線維の金属含有染色液として使用されてもよい。スライド上の組織切片(脱パラフィンFFPE又は凍結切片)は、ブアン液中で固定されてもよい(例えば、4~42℃又は室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間、又は約30分間にわたって)。その後、切片は、0.0001%~0.01%、0.0005%~0.005%、又は約0.001%のホスホタンジン酸で(例えば、4~42℃又は室温付近で少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも30分間、又は約15分間にわたって)処理されてもよい。その後、元素質量分析によるイメージングの前に、サンプルが水及び/又は緩衝液で濯がれて必要に応じて乾燥されてもよい。トリクロム染色液が、光学(例えば、蛍光)顕微鏡法によるイメージングに使用される濃度と比較して希釈して(例えば、5倍、10倍、20倍、50倍、又は大希釈)使用されてもよい。
【0394】
幾つかの実施形態では、組織化学的染色液が有機分子である。幾つかの実施形態では、第2の金属が共有結合している。幾つかの実施形態では、第2の金属がキレート化される。幾つかの実施形態では、組織化学的染色液が細胞膜を特異的に結び付ける。幾つかの実施形態では、組織化学的染色液が四酸化オスミウムである。幾つかの実施形態では、組織化学的染色液が親油性である。幾つかの実施形態において、組織化学的染色液は、細胞外構造を特異的に結び付ける。幾つかの実施形態において、組織化学的染色液は、細胞外コラーゲンを特異的に結び付ける。幾つかの実施形態において、組織化学的染色液は、リンタングステン酸/リンモリブデン酸を含む三色染色である。幾つかの実施形態では、サンプルを抗体と接触させた後、例えば、光学イメージングに使用されるよりも低い濃度で、三色染色液が使用され、例えば、この場合、濃度は50倍希釈以上の三色染色液である。
【0395】
金属含有薬物
医学における金属は、薬理学において新規でエキサイティングな分野である。金属タンパク質、核酸金属錯体又は金属含有薬物に組み込まれる前に金属イオンを一時的に貯蔵することに関与する細胞構造、或いは、タンパク質又は薬物分解時の金属イオンの最終結果については殆ど知られていない。微量金属の輸送、貯蔵、及び分配に関与する調節メカニズムを解明するための重要な最初のステップは、理想的には組織、細胞における或いは更には個々の細胞小器官及び細胞内コンパートメントのレベルでのそれらの本来の生理学的環境との関連で、金属の特定及び定量化に相当する。組織学的研究は、一般に、組織の薄い切片又は培養細胞に関して実施される。
【0396】
多くの金属含有薬、すなわち、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを伴うメタロセンベースの抗がん剤、Wを伴うタングステンセン、Hf又はZrを伴うB-ジケトネート錯体、Auを伴うオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬が様々な病気の治療に使用されているが、その作用又は生体内分布のメカニズムについては十分に分かっていない。多くの金属錯体がMRI造影剤(Gd(III)キレート)として使用される。金属ベースの抗がん剤の取り込み及び生体内分布の特性評価は、根底にある毒性を理解して最小限に抑えるために非常に重要である。
【0397】
薬物に存在する特定の金属の原子量は、マスサイトメトリーの範囲に分類される。具体的には、シスプラチンなどのPt錯体(イプロプラチン、ロブプラチン)は、様々な癌を治療するための化学療法薬として広く使用される。プラチナベースの抗がん剤の腎毒性及び骨髄毒性はよく知られている。ここで、本明細書に記載の方法及び試薬を用いて、組織切片内でのそれらの細胞内局在、及び、質量(例えば、金属)タグ付き抗体及び/又は組織化学的染色液との共局在化を調べることができる。化学療法薬は、直接的なDNA損傷、DNA損傷修復経路の阻害、放射能などを通じて、増殖細胞などの特定の細胞に対して毒性を示す場合がある。特定の態様において、化学療法薬は、抗体中間体を介して腫瘍を標的とし得る。
【0398】
特定の態様では、金属含有薬物が化学療法薬である。本方法は、生物学的サンプルを取得する前に、前述のように、動物研究モデル又はヒト患者などの生きている動物に金属含有薬物を投与することを含み得る。生物学的サンプルは、例えば、癌性組織又は一次細胞の生検であってもよい。或いは、金属含有薬物は、不死化細胞株又は一次細胞であってもよい生物学的サンプルに直接添加され得る。動物がヒト患者である場合、本方法は、金属含有薬物の分布を検出することに基づいて、金属含有薬物を含む治療レジメンを調整することを含んでもよい。
【0399】
金属含有薬物を検出する方法ステップは、元素質量分析による金属含有薬物の細胞内イメージングを含んでもよく、また、細胞内構造(膜、細胞質、核、ゴルジ体、ER、ミトコンドリア、及び他の細胞オルガネラなど)及び/又は細胞外構造(ストロマ、粘膜ストロマ、基底膜、間質ストロマ、コラージュ又はエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニン等を含むなど)における金属含有薬物の保持を検出することを含んでもよい。
【0400】
上記構造のうちの1つ以上を分解する(例えば、上記構造のうちの1つ以上に結合する)組織化学的染色液及び/又は質量(例えば、金属)タグ付きSBPは、特定の細胞内又は細胞外構造での薬物の保持を検出するために、金属含有薬物と共局在化されてもよい。例えば、シスプラチンなどの化学療法薬は、コラーゲンなどの構造と共局在化されてもよい。これに代えて又は加えて、薬物の局在化は、細胞生存率、細胞増殖、低酸素症、DNA損傷応答、又は免疫応答のマーカーの存在に関連し得る。
【0401】
幾つかの実施形態では、金属含有薬物が非内因性金属を含み、この場合、例えば、非内因性金属は、プラチナ、パラジウム、セリウム、カドミウム、銀又は金である。特定の態様において、金属含有薬物は、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを伴うメタロセンベースの抗がん剤、Wを伴うタングステンセン、Hf又はZrを伴うB-ジケトネート錯体、Auを伴うオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬、Pdを伴うN-ミリストイルトランスフェラーゼ-1阻害剤(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)又はこれらの誘導体のうちの1つである。例えば、薬物は、Ptを含んでもよく、また、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、イプロプラチン、ロバプラチン又はそれらの誘導体であってもよい。金属含有薬物としては、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、ガドリニウムなどの非内因性金属が含まれ得る。(Gd)、パラジウム(Pd)又はそれらの同位体を挙げることができる。癌に対する光熱療法のための金化合物(例えば、オーラノフィン)及び金ナノ粒子バイオコンジュゲートは、組織切片で特定され得る。
【0402】
多重分析
本開示の1つの特徴は、サンプル中の複数(例えば、10以上、更には最大100以上)の異なる標的SBP要素を検出して、複数の異なるタンパク質及び/又は複数の異なる核酸配列を検出できるその能力である。これらの標的SBP要素の差分検出を可能にするには、それらのそれぞれのSBP要素が信号を区別できるように異なる標識原子を担持する必要がある。例えば、10個の異なるタンパク質が検出されている場合には、10個の異なる抗体(それぞれが異なる標的タンパク質に特異的)を使用でき、そのそれぞれは固有の標識を有しているため、異なる抗体からの信号を区別できる。幾つかの実施形態では、例えば同じタンパク質上の異なるエピトープを認識する複数の異なる抗体を単一の標的に対して使用することが望ましい。したがって、方法は、このタイプの冗長性に起因して標的よりも多くの抗体を使用してもよい。しかしながら、一般に、本開示は、複数の異なる標識原子を使用して、複数の異なる標的を検出する。
【0403】
複数の標識抗体が本開示で使用される場合、抗体は、それらのそれぞれの抗原に対して同様の親和性を有することが好ましい。これは、それによって、検出された標識原子の量と組織サンプル内の標的抗原の存在量との間の関係が異なるSBPにわたって一貫性がある(特に高い走査周波数で)ようにするのに役立つからである。同様に、様々な抗体の標識が同じ効率を有すれば、それにより、抗体がそれぞれ同等の量の標識原子を担持し、好ましい。
【0404】
場合によっては、SBPが蛍光標識並びに元素タグを担持してもよい。その後、サンプルの蛍光を使用して、サンプルの領域、例えばその後に標識原子の検出のためにサンプリングされ得る対象の材料を含む組織切片を決定してもよい。例えば、蛍光標識は、癌細胞に豊富に存在する抗原に結合する抗体にコンジュゲートされてもよく、また、任意の蛍光細胞は、その後、標識原子にコンジュゲートされるSBPによる他の細胞タンパク質の発現を決定するべく標的にされてもよい。
【0405】
標的SBP要素が細胞内にある場合には、一般に、サンプルを標識に接触させる前又は接触中に細胞膜を透過処理する必要がある。例えば、標的がDNA配列であるが、標識化されたSBP要素が生細胞の膜に浸透できない場合、組織サンプルの細胞を固定して透過処理することができる。標識化されたSBP要素は、細胞に入って標的SBP要素と共にSBPを形成できる。この点で、IHC及びFISHと共に用いるための既知のプロトコルを利用することができる。
【0406】
少なくとも1つの細胞内標的及び少なくとも1つの細胞表面標的を検出するために方法が使用されてもよい。しかしながら、幾つかの実施形態において、本開示は、細胞内標的を無視しながら、複数の細胞表面標的を検出するために使用することができる。全体として、標的の選択は、開示がサンプル内の選択された標的の位置の画像を提供するので、方法から望まれる情報によって決定される。
【0407】
本明細書で更に説明するように、標識原子を含む特異的結合パートナー(すなわち、親和性試薬)を使用して、生物学的サンプルを染色(接触)することができる。適切な特定のビンギングパートナーは抗体(抗体フラグメントを含む)を含む。標識原子が質量分析によって区別されてもよい(つまり、異なる質量を有してもよい)。標識原子は、それらが1つ以上の金属原子を含む場合、本明細書では金属タグと称される場合がある。金属タグは、炭素骨格を有するポリマーと、それぞれが金属原子に結合する複数のペンダント基とを含んでもよい。これに代えて又は加えて、金属タグが金属ナノ粒子を含んでもよい。抗体は、共有又は非共有相互作用によって金属タグでタグ付けされてもよい。
【0408】
抗体染色液は、細胞又は細胞内の分解能でタンパク質をイメージングするために使用されてもよい。本発明の態様は、生物学的サンプルの細胞によって発現されるタンパク質に特異的に結合する1つ以上の抗体とサンプルとを接触させることを含み、抗体は第1の金属タグでタグ付けされる。例えば、サンプルは、それぞれが特定可能な金属タグを有する5つ以上、10つ以上、15以上、20以上、30以上、40以上、50以上の抗体と接触されてもよい。サンプルは、サンプルを抗体で染色する前、最中(例えば、ワークフローを容易にするため)、又は後に(例えば、抗体の抗原標的の変更を回避するために)、1つ以上の組織化学的染色液と更に接触されてもよい。サンプルは、本明細書に記載されるように、1つ以上の金属含有薬物及び/又は蓄積された重金属を更に含んでもよい。
【0409】
本発明で用いる金属標識抗体は、金属を含まない代謝プローブ(例えば、EF5)に特異的に結合し得る。他の金属タグ付き抗体は、蛍光及び光学顕微鏡法で使用される従来の染色の標的(例えば、上皮組織、間質組織、核など)に特異的に結合し得る。そのような抗体としては、抗カドヘリン、抗コラーゲン、抗ケラチン、抗EFS、抗ヒストンH3抗体、及び当技術分野で知られている他の多くの抗体が挙げられる。
【0410】
組織化学的染色液
本明細書に記載の1つ以上の固有の金属原子を有する組織化学的染色試薬及び使用方法は、本明細書に記載される他の試薬及び使用方法と組み合わされてもよい。例えば、組織化学的染色液は、金属含有薬物、金属標識抗体、及び/又は蓄積された重金属と共局在化されてもよい(例えば、細胞又は細胞内の分解能で)。特定の態様において、1つ以上の組織化学的染色液は、他のイメージング方法(例えば、蛍光顕微鏡法、光学顕微鏡法、又は電子顕微鏡法)のために使用されるものからより低い濃度(例えば、半分未満、1/4、1/10など)で使用されてもよい。
【0411】
構造を視覚化及び特定するために、広範囲の組織学的染色液及び指標が利用可能であり、これらは十分に特徴付けられる。金属含有染色液は、病理学者によるイメージングマスサイトメトリーの受け入れに影響を与える可能性がある。特定の金属含有染色液は、細胞成分を明らかにすることがよく知られており、本発明での使用に適している。更に、明確な染色液をデジタル画像分析で使用して、特徴認識アルゴリズムのコントラストを与えることができる。これらの機能は、イメージングマスサイトメトリーの開発にとって戦略的に重要である。
【0412】
多くの場合、組織切片の形態学的構造は、抗体などの親和性産物を使用して対比され得る。親和性産物は、組織化学的染色を使用する場合と比較して、高価であり、金属含有タグを使用する更なる標識手順を必要とする。この手法は、利用可能なランタニド同位体で標識化された抗体を使用するイメージングマスサイトメトリーの先駆的な研究で使用されたため、機能性抗体が生物学的質問に答えるための金属タグを枯渇させた。
【0413】
本発明は、Ag、Au、Ru、W、Mo、Hf、Zr(粘液性間質を特定するために使用されるルテニウムレッド、コラーゲン線維を特定するための三色染色、細胞対比染色剤としての四酸化オスミウムなどの化合物を含む)などの元素を含む利用可能な同位体のカタログを拡張する。核型分析には銀染色が使用される。硝酸銀は、核小体形成領域(NOR)関連タンパク質を染色して、銀が沈着する暗い領域を生成し、NOR内のrRNA遺伝子の活性を示す。IMCに適合させるには、プロトコル(過マンガン酸カリウムによる酸化、銀濃度1%など)を、0.5%、0.01%、0.05%未満の銀溶液などの低濃度の銀溶液を使用するように変更する必要がある。
【0414】
オートメタログラフィック増幅技術は、組織化学における重要なツールに進化してきた。多くの内因性及び毒性の重金属は、Agイオンとの反応によって自己触媒的に増幅され得る硫化物又はセレン化物のナノ結晶を形成する。より大きなAgナノクラスターは、IMCによって容易に視覚化され得る。現在、Zn-S/Seナノ結晶の銀増幅検出及び銀-セレンナノ結晶の形成によるセレンの検出のための堅牢なプロトコルが確立されてきた。更に、市販の量子ドット(Cdの検出)も、自己触媒的に活性であり、組織化学的標識として使用され得る。
【0415】
本発明の態様は、組織化学的染色液及び元素質量分析によるイメージングにおける組織化学的染色液の使用を含んでもよい。元素質量分析によって分解可能な任意の組織化学的染色液を本発明で使用することができる。特定の態様において、組織化学的染色液は、サンプルをイメージングするために使用される元素質量分析計のカットオフよりも大きい、例えば、60amu、80amu、100amu、又は120amuを超える質量の1つ以上の原子を含む。例えば、組織化学的染色液は、本明細書に記載されるような金属タグ(例えば、金属原子)を含んでもよい。金属原子は、組織化学的染色にキレート化され又は組織化学的染色液の化学構造内で共有結合されてもよい。特定の態様では、組織化学的染色液が有機分子であってもよい。組織化学的染色液は、極性、疎水性(例えば、親油性)、イオン性であってもよく、或いは、異なる特性を有する基を含んでもよい。特定の態様では、組織化学的染色液が複数の化学物質を含んでもよい。
【0416】
組織化学的染色液は、2000、1500、1000、800、600、400、又は200amu未満の小分子を含む。組織化学的染色液は、共有結合又は非共有結合(例えば、イオン性又は疎水性)相互作用を介してサンプルに結合してもよい。組織化学的染色液は、例えば、個々の細胞、細胞内構造、及び/又は細胞外構造を特定するのを助けるために、生物学的サンプルの形態を解明するためのコントラストを与えてもよい。組織化学的染色液によって分解され得る細胞内構造は、細胞膜、細胞質、核、ゴルジ体、小胞体、ミトコンドリア、及び他の細胞小器官を含む。組織化学的染色液は、核酸、タンパク質、脂質、リン脂質、又は炭水化物などの生体分子のタイプに関して親和性を有してもよい。特定の態様において、組織化学的染色液は、DNA以外の分子を結び付けてもよい。適切な組織化学的染色液は、間質(例えば、粘膜間質)、基底膜、間質間質、コラージュ又はエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む細胞外構造(例えば、細胞外マトリックスの構造)を結び付ける染色液も含む。
【0417】
組織化学的染色液及び/又は代謝プローブは、細胞又は組織の状態を示し得る。例えば、組織化学的染色液は、シスプラチン、エオシン、ヨウ化プロピジウムなどの生体染色液を含んでもよい。他の組織化学的染色液は、低酸素症に関して染色してもよく、例えば、低酸素条件下でのみ結合又は沈着してもよい。ロドデオキシウリジン(IdU)又はその誘導体などのプローブが、細胞増殖を染色してもよい。特定の態様において、組織化学的染色液が細胞又は組織の状態を示さなくてもよい。細胞の状態(例えば、生存率、低酸素症及び/又は細胞増殖)を検出するが生体内(例えば、生きている動物又は細胞培養物に)投与されるプローブは、本方法のいずれかで使用されるが、組織化学的染色液として適格ではない。
【0418】
組織化学的染色液は、核酸(例えば、DNA及び/又はRNA)、タンパク質、脂質、リン脂質、炭水化物(例えば、単糖又は二糖又はポリオールなどの糖;オリゴ糖;及び/又はデンプン又はグリコーゲンなどの多糖)、糖タンパク質、及び/又は糖脂質などの生物学的分子のタイプに関して親和性を有してもよい。特定の態様では、組織化学的染色液が対比染色剤であってもよい。
【0419】
本明細書で使用され得る一般的な組織化学的染色液は、ルテニウムレッド及びリンタングステン酸(例えば、三色染色として)を含む。
【0420】
サンプルに染色液を導入するサンプルの特定の染色に加え、時として、サンプルは、該サンプルが取得された組織又は有機体に金属含有薬物が投与され又はこれらの組織又は有機体が環境曝露からの蓄積金属を有する結果として金属原子を含む場合がある。時として、組織又は動物は、金属含有材料の保持及び除去を観察するために、パルス追跡実験戦略に基づくこの技術を使用する方法で検査されてもよい。
【0421】
例えば、医学における金属は、薬理学において新規でエキサイティングな分野である。金属タンパク質、核酸金属錯体又は金属含有薬物に組み込まれる前に金属イオンを一時的に貯蔵することに関与する細胞構造、或いは、タンパク質又は薬物分解時の金属イオンの最終結果については殆ど知られていない。微量金属の輸送、貯蔵、及び分配に関与する調節メカニズムを解明するための重要な最初のステップは、理想的には組織、細胞における或いは更には個々の細胞小器官及び細胞内コンパートメントのレベルでのそれらの本来の生理学的環境との関連で、金属の特定及び定量化に相当する。組織学的研究は、一般に、組織の薄い切片又は培養細胞に関して実施される。
【0422】
多くの金属含有薬、すなわち、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを伴うメタロセンベースの抗がん剤、Wを伴うタングステンセン、Hf又はZrを伴うB-ジケトネート錯体、Auを伴うオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬が様々な病気の治療に使用されているが、その作用又は生体内分布のメカニズムについては十分に分かっていない。多くの金属錯体がMRI造影剤(Gd(III)キレート)として使用される。金属ベースの抗がん剤の取り込み及び生体内分布の特性評価は、根底にある毒性を理解して最小限に抑えるために非常に重要である。
【0423】
薬物に存在する特定の金属の原子量は、マスサイトメトリーの範囲に分類される。具体的には、シスプラチンなどのPt錯体(イプロプラチン、ロブプラチン)は、様々な癌を治療するための化学療法薬として広く使用される。プラチナベースの抗がん剤の腎毒性及び骨髄毒性はよく知られている。ここで、本明細書に記載の方法及び試薬を用いて、組織切片内でのそれらの細胞内局在、及び、金属タグ付き抗体及び/又は組織化学的染色液との共局在化を調べることができる。化学療法薬は、直接的なDNA損傷、DNA損傷修復経路の阻害、放射能などを通じて、増殖細胞などの特定の細胞に対して毒性を示す場合がある。特定の態様において、化学療法薬は、抗体中間体を介して腫瘍を標的とし得る。
【0424】
特定の態様では、金属含有薬物が化学療法薬である。本方法は、生物学的サンプルを取得する前に、前述のように、動物研究モデル又はヒト患者などの生きている動物に金属含有薬物を投与することを含み得る。生物学的サンプルは、例えば、癌性組織又は一次細胞の生検であってもよい。或いは、金属含有薬物は、不死化細胞株又は一次細胞であってもよい生物学的サンプルに直接添加され得る。動物がヒト患者である場合、本方法は、金属含有薬物の分布を検出することに基づいて、金属含有薬物を含む治療レジメンを調整することを含んでもよい。
【0425】
金属含有薬物を検出する方法ステップは、元素質量分析による金属含有薬物の細胞内イメージングを含んでもよく、また、細胞内構造(膜、細胞質、核、ゴルジ体、ER、ミトコンドリア、及び他の細胞オルガネラなど)及び/又は細胞外構造(ストロマ、粘膜ストロマ、基底膜、間質ストロマ、コラージュ又はエラスチンなどのタンパク質、プロテオグリカン、非プロテオグリカン多糖類、細胞外小胞、フィブロネクチン、ラミニン等を含むなど)における金属含有薬物の保持を検出することを含んでもよい。
【0426】
上記構造のうちの1つ以上を分解する(例えば、上記構造のうちの1つ以上に結合する)組織化学的染色液及び/又は金属タグ付きSBPは、特定の細胞内又は細胞外構造での薬物の保持を検出するために、金属含有薬物と共局在化されてもよい。例えば、シスプラチンなどの化学療法薬は、コラーゲンなどの構造と共局在化されてもよい。これに代えて又は加えて、薬物の局在化は、細胞生存率、細胞増殖、低酸素症、DNA損傷応答、又は免疫応答のマーカーの存在に関連し得る。
【0427】
特定の態様において、金属含有薬物は、シスプラチン、ルテニウムイミダゾール、Moを伴うメタロセンベースの抗がん剤、Wを伴うタングステンセン、Hf又はZrを伴うB-ジケトネート錯体、Auを伴うオーラノフィン、ポリオキソモリブデート薬、Pdを伴うN-ミリストイルトランスフェラーゼ-1阻害剤(トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム)又はこれらの誘導体のうちの1つである。例えば、薬物は、Ptを含んでもよく、また、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、イプロプラチン、ロバプラチン又はそれらの誘導体であってもよい。金属含有薬物としては、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、ガドリニウム(Gd)、パラジウム(Pd)などの非内因性金属、又はそれらの同位体を挙げることができる。癌に対する光熱療法のための金化合物(例えば、オーラノフィン)及び金ナノ粒子バイオコンジュゲートは、組織切片で特定され得る。
【0428】
重金属への曝露は、食物や水の摂取、皮膚を介した接触、又はエアロゾルの摂取によって発生する可能性がある。重金属は体の軟部組織に蓄積する可能性があるため、長時間の曝露は深刻な健康影響を及ぼす。特定の態様において、重金属は、動物研究モデルにおける制御された曝露を通じて、又はヒト患者における環境曝露を通じて、体内で蓄積され得る。重金属は、ヒ素(As)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、オスミウム(Os)、タリウム(Tl)、水銀(Hg)などの有毒な重金属であってもよい。
【0429】
単一細胞分析
本開示の方法は、サンプル中の複数の細胞のレーザーアブレーションを含み、したがって、複数の細胞からのプルームが分析され、それらの内容物がサンプル内の特定の位置にマッピングされて、画像がもたらされる。殆どの場合、方法のユーザは、サンプル全体ではなく、サンプル内の特定の細胞に信号を局在化する必要がある。これを達成するために、サンプル内の細胞の境界(例えば、原形質膜、又は場合によっては細胞壁)を定めることができる。
【0430】
細胞境界の境界画定は、様々な方法で実現できる。例えば、サンプルは、上記のような顕微鏡法など、細胞の境界を定めることができる従来の技術を使用して検討され得る。したがって、これらの方法を実行する場合、上記のようなカメラを含む分析システムが特に有用である。その後、このサンプルの画像は、本開示の方法を使用して調製することができ、この画像は、以前の結果に重ね合わせることができ、それにより、検出された信号を特定の細胞に局在化させることができる。実際に、前述したように、場合によっては、レーザーアブレーションは、顕微鏡法に基づく技術の使用によって関心があると決定されたサンプル中の細胞のサブセットにのみ方向付けられてもよい。
【0431】
しかしながら、複数の技術を使用する必要性を回避するために、本開示のイメージング方法の一部として細胞境界を定めることが可能である。このような境界確定戦略は、IHC及び免疫細胞化学でよく知られており、また、これらの手法は、検出可能な標識を使用して適合され得る。例えば、この方法は、細胞の境界に位置することが知られている標的分子の標識化を伴うことができ、また、これらの標識からの信号を境界の画定のために使用することができる。適切な標的分子は、接着複合体の要素(例えば、β-カテニン又はE-カドヘリン)などの細胞境界の豊富な又は普遍的なマーカーを含む。幾つかの実施形態は、境界を強化するために、複数の膜タンパク質を標識することができる。
【0432】
適切な標識を含めることによって細胞境界を画定することに加えて、このようにして特定の細胞小器官を画定することもできる。例えば、ヒストン(例えば、H3)などの抗原を使用して核を特定することができ、また、ミトコンドリア特異的抗原、細胞骨格特異的抗原、ゴルジ特異的抗原、リボソーム特異的抗原などを標識化して、細胞超構造を本開示の方法によって分析できるようにすることもできる。
【0433】
細胞(又は細胞小器官)の境界を画定する信号は、目で評価することも、画像処理を使用してコンピュータで分析することもできる。そのような技術は、他のイメージング技術に関して当該技術分野において知られており、例えば、Arce et al.(2013;Scientific Reports 3,article 2266)は、空間フィルタリングを使用して蛍光画像から細胞境界を決定するセグメンテーションスキームについて記載し、Ali et al.(2011;Mach Vis Appl 23:607-21)は、明視野顕微鏡法画像から境界を決定するアルゴリズムを開示し、Pound et al.(2012;The Plant Cell 24:1353-61)は、共焦点顕微鏡画像から細胞形状を抽出するCellSeT方法を開示し、Hodneland et al.(2013;Source Code for Biology and Medicine 8:16)は、蛍光顕微鏡画像用のCellSegm Matlab(登録商標)ツールボックスを開示する。本開示を用いて有用な方法は、分水界変換及びガウスぼかしを使用する。これらの画像処理技術は、単独で使用することも、使用してから目で確認することもできる。
【0434】
細胞の境界が明確になった時点で、特定の標的分子から個々の細胞に信号を割り当てることができる。例えば定量標準に対して方法を較正することによって、個々の細胞内の標的分析物の量を定量化することも可能である。
【0435】
基準粒子
本明細書に記載されるように、既知の元素又は同位体組成物の基準粒子は、サンプル中の標的元素イオンの検出中に基準として使用するためにサンプル(又はサンプルキャリア)に加えられてもよい。特定の実施形態において、基準粒子は、遷移金属又はランタニドなどの金属元素又は同位体を含む。例えば、基準粒子は、60amuを超える、80amuを超える、100amuを超える、又は120amuを超える質量の元素又は同位体を含んでもよい。
【0436】
標識原子などの標的元素は、個々の基準粒子から検出された元素イオンに基づいて、サンプル分析内で正規化され得る。例えば、本方法は、個々の基準粒子からの元素イオンの検出と、標的元素イオンのみの検出との間の切り換えを含んでもよい。
【0437】
ヒドロゲルを使用した分析前サンプル拡張
従来の光学顕微鏡法は、照明源の波長の約半分に制限されており、可能な最小分解能は約200nmである。拡大顕微鏡法は、ポリマーネットワークを使用してサンプルを物理的に拡大し、サンプルの光学的可視化の解像度を約20nmに上げる(特に生物学的サンプルに関して)サンプル調製の方法である(国際公開第2015127183号パンフレット)。拡張手順は、イメージング質量分析及びイメージングマスサイトメトリーのためにサンプルを調製するべく使用され得る。このプロセスにより、1μmのアブレーションスポット直径は、拡張されていないサンプルで1μmの分解能をもたらすが、この1μmのアブレーションスポットでは、拡張後の分解能が約100nmになる。
【0438】
生物学的サンプルの拡大顕微鏡法は、一般に、固定、固定の準備、ゲル化、機械的均質化、及び拡大のステップを含む。
【0439】
固定段階では、サンプルが化学的に固定されて洗浄される。しかしながら、特定のシグナル伝達機能又は生理学的状態に応じたタンパク質間相互作用などの酵素機能は、固定ステップを伴うことなく拡張顕微鏡法を使用して調べることができる。
【0440】
次に、サンプルは、後続のゲル化ステップで形成されたヒドロゲルに付着(「固定」)できるように調製される。ここで、本明細書の他の場所で論じられるようなSBP(例えば、抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸、及び/又はサンプル中の対象の標的分子に特異的に結合することができる小分子)は、標的がサンプルに存在する場合にはその標的に結合するべくサンプルと共にインキュベートされる。随意的に、サンプルは、イメージングに役立つ検出可能な化合物で標識化(「アンカー」と呼ばれることもある)され得る。光学顕微鏡法の場合、検出可能な化合物は、例えば、蛍光標識された抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸、及び/又はサンプル中の対象の標的分子に特異的に結合することができる小分子を含むことができ、例えばこれらによって提供され得る(米国特許第2017276578号)。イメージングマスサイトメトリーを含むマスサイトメトリーの場合、検出可能な標識は、例えば、抗体、ナノボディ、非抗体タンパク質、ペプチド、核酸、及び/又は、サンプル中の対象の標的分子に特異的に結合することができる小分子により標識化された元素タグによって提供され得る。場合によっては、標的に結合するSBPは、標識を含まないが、代わりに、二次SBPによって結合され得る特徴を含む(例えば、免疫組織化学的技術で一般的なように、標的に結合する一次抗体及び一次抗体に結合する二次抗体など)。一次SBPのみが使用される場合、これは、それ自体、サンプルをヒドロゲルにつなぎとめることができるように後続のゲル化ステップで形成されたヒドロゲルにサンプルを付着又は架橋する部分に連結されてもよい。或いは、二次SBPが使用される場合、これは、サンプルをヒドロゲルに付着又は架橋する部分を含んでもよい。場合によっては、第2のSBPに結合する第3のSBPが使用される。Chen et al.,2015(Science 347:543-548)に記載される1つの典型的な実験プロトコルは、一次抗体を使用して標的に結合し、二次抗体が一次抗体に結合し、この場合、二次抗体がオリゴヌクレオチドに付着され、その後、三次SBPとして、配列に相補的なオリゴヌクレオチドが二次抗体に付着され、三次SBPは、アクリルアミドヒドロゲルに組み込まれ得るメタクリロイル基を含む。場合によっては、ヒドロゲルに組み込まれる部分を含むSBPも標識を含む。これらの標識は、蛍光標識又は元素タグとなることができ、したがって、例えば、フローサイトメトリー、光学走査及び蛍光測定(米国特許第2017253918号)、又はマスサイトメトリー又はイメージングマスサイトメトリーによるその後の分析で使用され得る。
【0441】
ゲル化段階は、高密度に架橋された高電荷のモノマーを含むヒドロゲルをサンプルに注入することにより、サンプル内にマトリックスを生成する。例えば、アクリル酸ナトリウムは、コモノマーアクリルアミド及び架橋剤N-N’メチレンビスアクリルアミドとともに、固定及び透過処理された脳組織に導入されてしまっている(Chen et al.,2015参照)。ポリマーが形成されると、固定ステップで標的にリンクされた部分が組み込まれるため、サンプル内の標的がゲルマトリックスに付着する。
【0442】
次に、サンプルを均質化剤で処理して、サンプルの機械的特性を均質化し、サンプルが膨張に抵抗しないようにする(国際公開第2015127183号パンフレット)。例えば、サンプルは、酵素(プロテアーゼなど)による分解によって、化学的タンパク質分解(臭化シアンなど)によって、サンプルを摂氏70~95度に加熱することによって、又は、超音波処理などの物理的破壊によって均質化され得る(米国特許第2017276578号)。
【0443】
次に、サンプル/ヒドロゲル複合材料は、低塩緩衝液又は水で複合材料を透析することによって拡張され、サンプルが3次元で元のサイズの4倍又は5倍に拡張できるようにする。ヒドロゲルが膨張すると、サンプル、特に標的に付着した標識とヒドロゲルが膨張するが、標識の元の3次元配置は維持される。サンプルは低塩溶液又は水で膨張するため、膨張したサンプルは透明であり、それにより、サンプルの深部で光学イメージングが可能であり、また、マスサイトメトリーを実行するときにかなりのレベルの汚染元素を導入することなくイメージングが可能である(例えば蒸留水の使用によって或いは容量性脱イオン、逆浸透、炭素ろ過、精密ろ過、限外ろ過、紫外線酸化、又は電離化を含む他のプロセスによって精製される)。
【0444】
膨張したサンプルは、イメージング技術によって分析でき、それにより、疑似的に改善された分解能がもたらされる。例えば、蛍光顕微鏡法を蛍光標識とともに使用でき、また、イメージングマスサイトメトリーを元素タグとともに、随意的に組み合わせて使用できる。ヒドロゲルの膨潤と、それに伴うネイティブサンプルと比較した拡張サンプルの標識間の距離の増大とに起因して、以前は個別に分解できなかった標識(光学顕微鏡法での可視光の回折限界又はIMCのスポット直径に起因するもの)。
【0445】
拡大顕微鏡法(ExM)の変形が存在し、これはまた、本明細書に開示される装置及び方法を使用して適用することができる。これらの変形としては、タンパク質保持ExM(proExM)、拡張蛍光in situハイブリダイゼーション(ExFISH)、反復ExM(iExM)が挙げられる。繰り返し拡張顕微鏡法は、先の技術を使用して既に予備的な拡張を受けてしまっているサンプル中の第2の拡張可能なポリマーゲルを形成することを伴う。次に、第1の膨張ゲルが溶解され、その後、総膨張を最大約20倍にするべく第2の膨張可能なポリマーゲルが膨張される。例えば、Chang et al.,2017(Nat Methods 14:593-599)は、前述のChen et al.2015の方法に基づいており、形成される第1のゲルが開裂可能な架橋剤と置き換えられている(例えば、そのジオール結合が高pHで開裂され得る市販の架橋剤N、N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド(DHEBA))。第1のゲルの固定及び拡張に続いて、第1のゲルに組み込まれたオリゴヌクレオチドに相補的な標識オリゴヌクレオチド(第2のゲルに組み込むための部分を含む)が、拡張されたサンプルに加えられた。標識オリゴヌクレオチドの部分を組み込んだ第2のゲルが形成され、第1のゲルは、開裂可能なリンカーの開裂によって分解された。次に、第2のゲルを第1のゲルと同じ方法で拡張し、標識を更に空間的に分離したが、元のサンプルの標的の配置に対して空間的な配置を維持した。場合によっては、第1のゲルの膨張に続いて、中間の「再包埋ゲル」を使用して、実験ステップが行なわれている間、例えば、標識されたSBPを第1のゲルマトリックスにハイブリダイズするために、膨張した第1のゲルを所定の位置に保持し、第1のヒドロゲル及び再包埋ゲルが分解されて第2のヒドロゲルの膨張を可能にする前に、膨張していない第2のヒドロゲルを形成する。以前のように、使用される標識は、蛍光タグ又は元素タグであってもよく、したがって、例えば、フローサイトメトリー、光学走査及び蛍光測定、又はマスサイトメトリー又はイメージングマスサイトメトリーによるその後の分析で適切に使用される。
【0446】
定義
「備える」という用語は、「含む」及び「から成る」を包含し、例えば、Xを「備える」組成は、専らXのみから成ってもよく、或いは、更なる何か、例えばX+Yを含んでもよい。
【0447】
数値xに関連する「約」という用語は、随意的であり、例えばx+10%を意味する。
【0448】
「実質的に」という単語は「完全に」を排除せず、例えば、Yが「実質的にない」組成は、Yが完全になくてもよい。必要に応じて、「実質的に」という単語が本開示の定義から省かれてもよい。
【0449】
本明細書中で引用された全ての刊行物、特許、及び、特許出願は、全ての目的のためにその全体が参照により本願に組み入れられる。先行技術であると認められるものはない。以下は、本発明の例である。
(例1)
可動サンプルステージと、
サンプルを検査するための光学顕微鏡と、
サンプリングシステムと、
オートフォーカスシステムと、
を備え、
前記オートフォーカスシステムは、
照射源と、
オートフォーカスセンサと、
を備え、
前記サンプリングシステム及び前記オートフォーカスシステムが共焦点である、
装置。
(例2)
オートフォーカスシステムを備え、
前記オートフォーカスシステムは、
照射源と、
オートフォーカスセンサと、
を備える、装置。
(例3)
サンプリングシステムを更に備える、例2に記載の装置。
(例4)
前記サンプリングシステム及び前記オートフォーカスシステムが共焦点である、例3に記載の装置。
(例5)
サンプルを検査するための光学顕微鏡を更に備える、例2から4のいずれか一項に記載の装置。
(例6)
可動サンプルステージを更に備える、例2から5のいずれか一項に記載の装置。
(例7)
前記光学顕微鏡が前記サンプリングシステム及び前記オートフォーカスシステムと共焦点である、例1又は5に記載の装置。
(例8)
前記サンプリングシステム、前記オートフォーカスシステム、及び、前記光学顕微鏡が全て少なくとも幾つかの光学構成要素を共有する、例1、5又は6に記載の装置。
(例9)
前記装置は、オートフォーカス構成要素からの読み出しに応じて前記サンプルステージを移動させることによってオートフォーカスを行なうように構成される、例1又は6に記載の装置。
(例10)
前記装置は、光学素子を調整することによってオートフォーカスを行なうように構成されない、例1から9のいずれか一項に記載の装置。
(例11)
前記装置は、サンプルに依存しないオートフォーカスを行なう、例1から10のいずれか一項に記載の装置。
(例12)
前記オートフォーカスシステムがサンプル実行中にオートフォーカスを行なう、例1から11のいずれか一項に記載の装置。
(例13)
前記オートフォーカスシステムが迅速なオートフォーカスを行なう、例1から12のいずれか一項に記載の装置。
(例14)
前記オートフォーカスシステムがkHz以上のレートでオートフォーカスフィードバックを行なう、例13に記載の装置。
(例15)
前記オートフォーカスシステムが、X座標、Y座標、又は、X-Y座標にわたって焦点マップを投影する、例1から14のいずれか一項に記載の装置。
(例16)
前記装置は、サンプル実行中に光学画像を与えるように更に構成される、例1から15のいずれか一項に記載の装置。
(例17)
前記オートフォーカスシステムが少なくとも1つの絞りを更に備える、例1から16のいずれか一項に記載の装置。
(例18)
前記オートフォーカスシステムが複数の絞りを備え、前記複数の絞りが2次元に配置される、例17に記載の装置。
(例19)
前記オートフォーカスシステムは、前記オートフォーカスセンサに衝突し得る複数のスポットを与える、例1から18のいずれか一項に記載の装置。
(例20)
前記オートフォーカスシステムが1つのLED及び1つのレーザーダイオードを備える、例1から19のいずれか一項に記載の装置。
(例21)
前記オートフォーカスシステムが複数のLED及び/又はレーザーダイオードを備える、例1から20のいずれか一項に記載の装置。
(例22)
前記オートフォーカスシステムが回折ビームスプリッタを備える、例1から21のいずれか一項に記載の装置。
(例23)
前記オートフォーカスセンサは、イメージセンサ、ラインセンサ、位置感知フォトダイオード、隣接フォトダイオード、及び、分割フォトダイオードのうちの少なくとも1つを備える、例1から22のいずれか一項に記載の装置。
(例24)
前記装置がオートフォーカスと検査絞りとの間で切り替わる必要がない、例1から23のいずれか一項に記載の装置。
(例25)
前記オートフォーカスセンサがイメージセンサを備える、例1から24のいずれか一項に記載の装置。
(例26)
前記イメージセンサが前記装置の光学顕微鏡と共有される、例25に記載の装置。
(例27)
前記オートフォーカスセンサは、ラインセンサを備えるとともに、前記装置の前記光学顕微鏡の検出器とは別個である、例1から24のいずれか一項に記載の装置。
(例28)
前記オートフォーカスシステムが円柱レンズを備える、例27に記載の装置。
(例29)
前記照射源が少なくとも1つのLEDを備える、例1から28のいずれか一項に記載の装置。
(例30)
前記照射源が少なくとも2つのLEDを備える、例1から29のいずれか一項に記載の装置。
(例31)
前記2つのLEDが交互照射を行なうように構成される、例1から30のいずれか一項に記載の装置。
(例32)
前記照射源が少なくとも1つのレーザーダイオードを備える、例1から31のいずれか一項に記載の装置。
(例33)
前記照射源が少なくとも2つのレーザーダイオードを備える、例1から32のいずれか一項に記載の装置。
(例34)
前記2つのレーザーダイオードが交互照射を行なうように構成される、例33に記載の装置。
(例35)
前記照射源が色多重化照射源を備える、例1から34のいずれか一項に記載の装置。
(例36)
前記照射源は、サンプル法線に対してゼロ以外の角度で照射を行なう、例1から35のいずれか一項に記載の装置。
(例37)
前記オートフォーカスが検出器に前記衝突する1つ以上のスポット又はラインの位置に基づく、例1から36のいずれか一項に記載の装置。
(例38)
前記オートフォーカスシステムは、前記オートフォーカスセンサに衝突する1つ以上のスポット又はラインの事前に較正された座標を必要としない、例1から37のいずれか一項に記載の装置。
(例39)
オートフォーカスが前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポット又はラインの位置合わせに基づく、例1から38のいずれか一項に記載の装置。
(例40)
オートフォーカスが前記スポット間又はライン間のオフセットに基づく、例1から39のいずれか一項に記載の装置。
(例41)
前記オートフォーカスセンサに衝突する2つ以上のスポット又はラインが最良の焦点で重なり合う、例1から40のいずれか一項に記載の装置。
(例42)
オートフォーカスが前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポットの数に基づく、例1から41のいずれか一項に記載の装置。
(例43)
オートフォーカスが前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポットの均一性に基づく、例1から42のいずれか一項に記載の装置。
(例44)
前記装置は、共焦点顕微鏡、蛍光顕微鏡、又は、広視野顕微鏡を備える、例1から43のいずれか一項に記載の装置。
(例45)
前記サンプリングシステムがレーザーアブレーションサンプリングシステムである、例1から44のいずれか一項に記載の装置。
(例46)
前記レーザーアブレーションサンプリングシステムのレーザー源の焦点は、前記オートフォーカスシステムの前記オートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサと共焦点である、例45に記載の装置。
(例47)
ガス導管によって前記レーザーアブレーションサンプリングシステムに結合されるICPイオン化システムを更に備える、例45又は46に記載の装置。
(例48)
質量分析計を更に備える、例47に記載の装置。
(例49)
前記装置は、質量分析による検出の前に前記サンプルを霧化してイオン化する、例1から48のいずれか一項に記載の装置。
(例50)
可動サンプルステージと、
サンプルの検査のための光学顕微鏡と、
レーザーアブレーションサンプリングシステムと、
前記レーザーアブレーションサンプリングシステムをICPイオン化システムに結合するガス導管と、
質量分析計と、
オートフォーカスシステムと、
を備え、
前記オートフォーカスシステムは、
照射源と、
オートフォーカスセンサと、
を備え、
前記オートフォーカスシステムは、前記オートフォーカスセンサに衝突し得る複数のスポットを与え、
前記サンプリングシステム及び前記オートフォーカスシステムが共焦点であり、
前記システムは、照射の複数の前記ポイントに基づいて前記サンプルステージの前記位置を調整することによってサンプル実行中にオートフォーカスを行なうように構成される、
LA-ICP-MS用のオートフォーカス装置。
(例51)
オートフォーカスに基づくサンプリングを含む、例1から50のいずれか一項に記載の装置を使用するオートフォーカスの方法。
(例52)
前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポット又はラインの位置合わせに基づいてオートフォーカスを行なうことを更に含む、例51に記載の方法。
(例53)
オートフォーカスが前記スポット間又はライン間のオフセットに基づく、例52に記載の方法。
(例54)
オートフォーカスが前記オートフォーカスセンサ上のスポット又はラインの一致に基づく、例52に記載の方法。
(例55)
前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポットの数に基づいてオートフォーカスを行なうことを更に含む、例51に記載の方法。
(例56)
前記オートフォーカスセンサによって検出されるスポットの均一性に基づいてオートフォーカスを行なうことを更に含む、例51に記載の方法。
(例57)
生物学的サンプルから質量タグをサンプリングすることを更に含む、例51から56のいずれか一項に記載の方法。
(例58)
特異的結合対(SBP)要素にコンジュゲートされる標識原子で前記生物学的サンプルを標識化することを更に含む、例57に記載の方法。
(例59)
前記SBP要素が抗体を含む、例58に記載の方法。
(例60)
前記標識原子が金属タグである、例58又は59に記載の方法。
(例61)
前記標識原子が濃縮された金属同位体である、例60に記載の方法。
(例62)
オートフォーカス構成要素であって、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素。
(例63)
前記オートフォーカス構成要素は、少なくとも2個の絞り、例えば、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも16個、又は、少なくとも25個の絞りを備える、例62に記載のオートフォーカス構成要素。
(例64)
前記オートフォーカス構成要素の前記絞りは、規則的な多角形の頂点、例えば、三角形の3個の頂点、正方形又は長方形の4個の頂点、五角形の5個の頂点、六角形の6個の頂点、七角形の7個の頂点、八角形の8個の頂点、九角形の9個の頂点、又は、十角形の10個の頂点に配置される、例62又は63に記載のオートフォーカス構成要素。
(例65)
前記多角形の重心から各頂点までの距離は、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、75μm、100μm、150μm、200μm、250μm、500μm、750μm、又は、1mm以下である、例64に記載のオートフォーカス構成要素。
(例66)
前記構成要素が前記多角形の重心に更なる絞りを備える、例63又は64に記載のオートフォーカス構成要素。
(例67)
前記構成要素は、例3に記載の前記頂点絞りによって規定される前記多角形の辺の中点に更なる絞りを備える、例64から66のいずれか一項に記載のオートフォーカス構成要素。
(例68)
前記絞りは、2×2グリッド、3×3グリッド、4×4グリッド、5×5グリッド、6×6グリッド、7×7グリッド、8×8グリッド、9×9グリッド、10×10グリッド、又は10×10を超えるグリッドなどの規則的に離間されたグリッドを成す、例63又は64に記載のオートフォーカス構成要素。
(例69)
隣り合うグリッド絞り間の絞り間距離は、前記絞りの中心点から測定して、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、75μm、100μm、150μm、200μm、250μm、500μm、750μm、1mm、又は、1mm以上である、例68に記載のオートフォーカス構成要素。
(例70)
前記絞りは、円形であるとともに、1μm、2.5μm、5μm、7.5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、50μm、75μm、又は、100μm以下の直径を有する、例62から69のいずれか一項に記載のオートフォーカス構成要素。
(例71)
少なくとも2つの絞りが、照射放射線の軸において互いに対してオフセットされて、絞りの少なくとも2つの平面を形成する、例62から70のいずれか一項に記載のオートフォーカス構成要素。
(例72)
前記オートフォーカス構成要素は、2つの平面、3つの平面、又は、4つ以上の平面を含む、例71に記載のオートフォーカス構成要素。
(例73)
各絞り平面が2つ以上の絞り、例えば、絞り平面ごとに3つの絞りを備える、例71又は72に記載のオートフォーカス構成要素。
(例74)
前記オートフォーカス構成要素が前記照射源のハイブリッドマスクである、例62から73のいずれか一項に記載のオートフォーカス構成要素。
(例75)
照射放射線を遮断する不透明領域を備え、前記不透明領域には前記複数の絞りが位置される、例74に記載のオートフォーカス構成要素。
(例76)
前記サンプルへの前記照射放射線の透過を可能にする領域を備え、例えば、前記領域は、照射放射線透過材料から構成され又は前記オートフォーカス構成要素内のボイドである、例74又は75に記載のオートフォーカス構成要素。
(例77)
サンプルに焦点を合わせるためのオートフォーカスシステムにおいて、
a.サンプルを照らすために放射線を放出するための照射源と、
b.前記照射源からの放射線が前記複数の絞りを通過できるようにする例1から15のいずれか一項に記載のオートフォーカス構成要素と、
c.前記放射線を前記サンプルに向けて集束させるために前記放射線の前記光路中に配置される対物レンズと、
d.前記サンプルから反射される放射線を受けるように配置されるとともに、前記オートフォーカス構成要素と共焦点になるように配置されるオートフォーカスセンサと、
を備えるオートフォーカスシステム。
(例78)
サンプルを支持するためのサンプルステージを更に備える、例77に記載のオートフォーカスシステム。
(例79)
前記サンプルステージは、放射線が前記レンズからサンプルへと方向付けられる軸に対して、略垂直、例えば垂直である、例78に記載のオートフォーカスシステム。
(例80)
前記サンプルステージと、前記レンズを通過する前記照射源からの前記放射線の前記焦点とが、互いに対して移動可能である、例78又は79に記載のオートフォーカスシステム。
(例81)
前記レンズを通過する放射線の焦点が固定され、前記サンプルステージが移動可能である、例78から80のいずれかに記載のオートフォーカスシステム。
(例82)
前記サンプルステージは、照射放射線が前記レンズから前記サンプルへと方向付けられる軸に対して略平行、例えば平行な軸で移動可能である、例78から81のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例83)
前記サンプルステージがx軸、y軸及びz軸で移動可能であり、前記z軸は、照射放射線が前記レンズから前記サンプルへと方向付けられる軸である、例78から81のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例84)
前記サンプルステージの移動を制御するためのコントローラモジュールを更に備える、例78から83のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例85)
前記照射源は、発光ダイオード(LED)、熱放射体又は白熱ランプ、例えば、白熱タングステンハロゲン電球、アークランプ、又は、レーザー光源である、例77から84のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例86)
前記オートフォーカスセンサは、カメラ、例えば、荷電結合デバイスイメージセンサ(CCD)ベースのカメラ、アクティブピクセルセンサ(APS)ベースのカメラ、又は、任意の他の照射放射線検出器、例えば、光検出器、又は、それが検査カメラとしても機能するカメラである場合などにおける光電子増倍管である、例78から85のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例87)
前記コントローラモジュールは、前記オートフォーカスプロセス中に前記サンプルステージの前記位置を制御するために前記オートフォーカスセンサから入力を受ける、例78から86のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例88)
照射放射線を前記照射源からサンプルへと方向付けるとともに反射された照射放射線を前記オートフォーカスセンサに方向付けるようになっている1つ以上のビームスプリッタ構成要素を備える、例77から87のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例89)
前記オートフォーカス構成要素と前記1つ以上のビームスプリッタ構成要素との間など、前記オートフォーカス構成要素と前記サンプルとの間の前記照射放射線の経路中にチューブレンズを備える、例77から88のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例90)
前記1つ以上のビームスプリッタ構成要素と前記オートフォーカスセンサとの間など、前記サンプルと前記オートフォーカスセンサとの間の前記照射放射線の経路中にチューブレンズを備える、例77から89のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例91)
サンプルの第1の位置の焦点スコアを決定するステップと、
前記サンプルを第2の位置に移動させるステップと、
前記第2の位置の焦点スコアを決定するステップと、
前記焦点スコア同士を互いに比較するステップと、
を含み、
前記焦点スコアを決定するステップは、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、前記照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過される、ステップと、前記サンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み、
前記サンプルを移動させる前記ステップは、前記照射放射線が前記サンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)、
オートフォーカス方法。
(例92)
前記サンプルから反射される照射放射線を検出するステップは、前記オートフォーカスセンサ上の既知の位置(関心領域とも呼ばれる)で放射線を検出するステップを含む、例91に記載の方法。
(例93)
前記方法は、前記第1の位置の前記焦点スコアと前記第2の位置の前記焦点スコアとを比較する前記ステップの前に、前記サンプルを少なくとも第3の位置に移動させて、少なくとも前記第3の位置で焦点スコアを決定するステップを更に含む、例91又は92に記載の方法。
(例94)
前記第1の位置の前記焦点スコアと前記第2の位置の前記焦点スコアとを比較する前記ステップは、前記第3の焦点スコアと前記第1及び第2の焦点スコアとの比較も包含する、例93に記載の方法。
(例95)
前記方法は、前記第1の位置の前記焦点スコアを前記第2の位置の前記焦点スコアとを比較する前記ステップの前に、少なくとも4番目、5番目、6番目、7番目、8番目、9番目、10番目、15番目、20番目、25番目、50番目、100番目、250番目、500番目、又は、1000番目の位置へ前記サンプルを移動させて前記位置で焦点スコアを決定するステップを含む、例94に記載の方法。
(例96)
前記第1の位置の前記焦点スコアと前記第2の位置の前記焦点スコアとを比較する前記ステップは、4番目、5番目、6番目、7番目、8番目、9番目、10番目、15番目、20番目、25番目、50番目、100番目、250番目、500番目、又は、1000番目の位置と他の決定された焦点スコアとの比較も包含する、例95に記載の方法。
(例97)
前記焦点スコアは、前記複数の絞りから検出される反射された照射放射線の合計強度である、例91から96のいずれか一項に記載の方法。
(例98)
前記焦点スコアは、前記反射された照射放射線の焦点ぼけがどの程度であるかを測定することによって計算される(例えば、前記サンプルの焦点が合っているときに反射された照射放射線が前記オートフォーカスセンサに衝突すると予期される領域又はその周囲で、すなわち、前記予期される関心領域の周囲で反射された照射放射線を検出している前記センサ上のピクセルの総数)、例91から96のいずれか一項に記載の方法。
(例99)
前記焦点スコア同士を互いに比較する前記ステップの後に、前記サンプルステージは、最も高い焦点スコアを伴う位置である第1ラウンド最適焦点位置へ移動される、例91から98のいずれか一項に記載の方法。
(例100)
前記オートフォーカスセンサ上の任意のピクセルの飽和が検出される場合、前記方法は、前記照射源の強度を減少させて前記方法を繰り返すステップを更に含む、例91から99のいずれか一項に記載の方法。
(例101)
前記方法は、前記焦点位置の第1の粗い推定を含み、その後に、前記サンプルの前記位置を精緻化してそれを前記焦点面に近づける1つ以上の更なるラウンドを含む、例91から100のいずれか一項に記載の方法。
(例102)
前記方法は、前記第1のラウンドで決定される前記第1ラウンド最適位置に中心付けられる第2の位置セットで前記方法を繰り返すステップを更に含む、例91から101のいずれか一項に記載の方法。
(例103)
前記第2のセットにおける前記位置間の距離は、前記第1ラウンド最適焦点位置を計算するために使用される位置間の距離よりも短い、例102に記載の方法。
(例104)
前記位置間の距離は、前記第1ラウンド最適焦点位置を前記第2の位置セットにおける位置の数で割ったものを計算するために使用される位置間の距離である又は該距離よりも短い、例103に記載の方法。
(例105)
第2ラウンド最適焦点位置を生成するために前記焦点スコアがその後に比較される、例104に記載の方法。
(例106)
前記第2ラウンド最適焦点位置は、最も高い焦点スコアを伴う前記第2ラウンド位置であり、前記移動されたサンプルが前記第2ラウンド最適焦点位置に移動される、例105に記載の方法。
(例107)
前記第2ラウンド焦点スコア同士を互いに比較する前記ステップは、放物線を各位置で前記焦点スコアにフィットさせて、曲線の導関数がゼロである位置を前記第2ラウンド最適焦点位置として計算するステップを含む、例106に記載の方法。
(例108)
放物線フィッティングによって決定される前記第2ラウンド最適焦点位置に前記サンプルステージを移動させるステップを更に含む、例104から107のいずれか一項に記載の方法。
(例109)
焦点スコア同士を互いに比較する前記ステップは、放物線を各位置で前記焦点スコアにフィットさせて、曲線の導関数がゼロである位置を前記第1ラウンド最適焦点位置として計算するステップを含み、随意的に、前記サンプルステージを前記第1ラウンド最適焦点位置に移動させるステップを含む、例91又は92に記載の方法。
(例110)
前記第1ラウンド最適焦点位置であると決定された位置に中心付けられる第2の位置セットで前記方法を繰り返すステップを更に含み、前記第2のセットにおける位置間の距離は、前記第1ラウンド最適焦点位置を計算するために使用される位置間の距離よりも短い、例109に記載の方法。
(例111)
前記位置間の距離は、第2ラウンド最適焦点位置を生成するために、前記第1ラウンド最適焦点位置を前記第2の位置セットにおける位置の数で割ったものを計算するために使用される位置間の距離である又は該距離よりも短い、例110に記載の方法。
(例112)
第2ラウンド最適焦点位置を生成する前記ステップは、前記第2ラウンド焦点スコア同士を互いに比較するステップを含み、前記ステップは、放物線を各位置で前記焦点スコアにフィットさせて、曲線の導関数がゼロである位置を前記第2ラウンド最適焦点位置として計算するステップを含む、例111に記載の方法。
(例113)
放物線フィッティングによって決定される前記第2ラウンド最適焦点位置に前記サンプルステージを移動させるステップを更に含む、例111又は112に記載の方法。
(例114)
例91から113のいずれか一項に記載の方法を含む方法を反復して繰り返すことを含む、オートフォーカスの方法。
(例115)
サンプルの位置nで焦点の方向を決定するステップと、
前記サンプルを焦点の方向で位置(n+1)へ移動させるステップと、
を含み、
焦点の方向を決定する前記ステップは、照射源からの放射線でサンプルを照射するステップであって、前記照射放射線が、複数の絞りを備えるオートフォーカス構成要素に通過され、前記オートフォーカス構成要素の前記絞りのうちの少なくとも2つが、前記照射放射線が前記オートフォーカス構成要素を通過する軸でオフセットされる、ステップと、オートフォーカスセンサを用いて前記サンプルから反射される照射放射線を検出するステップとを含み、
前記サンプルを移動させるステップは、前記照射放射線がサンプルへと方向付けられる軸と平行な移動である(すなわち、移動がz軸にある)、
オートフォーカス方法。
(例116)
前記サンプルから反射される照射放射線を検出する前記ステップは、前記オートフォーカスセンサ上の既知の位置(関心領域とも呼ばれる)で放射線を検出するステップを含む、例115に記載の方法。
(例117)
前記方法は、前段落の方法を、少なくとも1回更に、例えば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回、少なくとも20回、又は、少なくとも50回繰り返すステップを含む、例115又は116に記載の方法。
(例118)
位置nで焦点の方向を決定する前記ステップは、前記少なくとも2つのオフセット絞りから前記反射された照射放射線が前記オートフォーカスセンサに衝突するときにどのように焦点ぼけしているかを比較するステップを含む、例115から117のいずれか一項に記載の方法。
(例119)
例90から118のいずれか一項に記載の方法を含む方法を実行するステップと、前記サンプルを前記サンプルの平面内で(すなわち、X軸及び/又はY軸内で)前記サンプルの平面内の第2の位置へ移動させるステップと、再び前記サンプルの平面内の前記第2の位置で最適焦点位置を記録するために、例30から57のいずれか一項に記載の方法を含む方法を繰り返し実行するステップとを含む、表面のトポロジーをマッピングする方法。
(例120)
前記サンプルを前記サンプルの平面内で1つ以上の更なる位置へ、例えば、前記サンプルの平面内の少なくとも3番目、4番目、5番目、6番目、7番目、8番目、9番目、10番目、15番目、20番目、25番目、50番目、100番目、250番目、500番目、又は、1000番目の位置へ移動させて、これらの各位置での最適焦点位置を記録するステップを含む、例119に記載の方法。
(例121)
サンプルの平面内の各位置に最適焦点位置をプロットすることを更に含む、例119又は120に記載の方法。
(例122)
前記サンプルの表面表示を生成するために、前記サンプルの平面内の各位置で最適焦点位置間を補間するステップを更に含む、例121に記載の方法。
(例123)
例91から122のいずれか一項に記載の方法を実行するのに用いるオートフォーカス構成要素であって、例えば前記構成要素が例1から15のいずれか一項に記載の構成要素である、オートフォーカス構成要素。
(例124)
例91から123のいずれか一項に記載の方法を実行するのに用いるオートフォーカスシステムであって、例えば前記システムが例77から90のいずれか一項に記載のシステムである、オートフォーカスシステム。
(例125)
前記コントローラモジュールは、例30から61のいずれか一項に記載の方法を実行するための命令を含むプログラム可能なストアを備える、例77から90のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステム。
(例126)
前記プログラム可能なストアは、ハードドライブ、光ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ROM、RAM、EPROM、EEPROM、磁気カード又は光学カード、固体メモリデバイス、又は、電子命令を記憶するのに適した他のタイプの媒体/コンピュータ可読媒体である、例125に記載のオートフォーカスシステム。
(例127)
例77から90のいずれか一項に記載のオートフォーカスシステムと、
前記サンプルから材料を除去して、前記材料をイオン化し、元素イオンを形成するためのサンプリング・イオン化システム
とを備え、前記サンプリング・イオン化システムは、前記サンプルをサンプリングするためのレーザー源を備え、
前記サンプリング・イオン化システムの前記レーザー源の焦点は、前記オートフォーカス装置の前記オートフォーカス構成要素及びオートフォーカスセンサと共焦点である、
生物学的サンプルを分析するための装置。
(例128)
前記サンプリング・イオン化システムから元素イオンを受けて前記元素イオンを検出するための検出器、
を更に備える例127に記載の装置。
(例129)
前記レーザー源がピコ秒レーザー又はフェムト秒レーザー、特に、随意的にパルスピッカーを備えるフェムト秒レーザーであり、例えば、前記パルスピッカーは、前記サンプルステージの動きも制御する制御モジュールによって制御される、例127から128のいずれか一項に記載の装置。
(例130)
(i)前記レーザー源のアブレーション速度は、200Hz以上、例えば、500Hz以上、750Hz以上、1kHz以上、1.5kHz以上、2kHz以上、2.5kHz以上、3kHz以上、3.5kHz以上、4kHz以上、4.5kHz以上、5kHz以上、又は、10kHz以上、約100kHz、100kHz以上、1MHz以上、10MHz以上、又は、100MHz以上であり、及び/又は、
(ii)前記レーザー源のレーザー繰り返しレートは、少なくとも1kHz、例えば、少なくとも10kHz、少なくとも100kHz、少なくとも1MHz、少なくとも10MHz、約50MHz、又は、少なくとも100MHzであり、随意的に、前記サンプリングシステムがパルスピッカーを更に備える、
例127から129のいずれか一項に記載の装置。
(例131)
前記レーザー源は、10μm以下、5μm以下、2μm以下、約1μm、又は、1μm以下の直径のスポットサイズをもたらすようになっている、例127から130のいずれか一項に記載の装置。
(例132)
前記オートフォーカスシステムがカメラを備える、例127から131のいずれか一項に記載の装置。
(例133)
前記サンプリング・イオン化システムの前記イオン化システムがICPである、例127から132のいずれか一項に記載の装置。
(例134)
前記検出器がTOF質量分析計である、例127から133のいずれか一項に記載の装置。
(例135)
サンプルを分析する方法において、
レーザーアブレーションのためのレーザーの前記焦点に前記サンプルを配置するために例90から118のいずれか一項に記載の方法を実行するステップと、
複数の位置でサンプルステージ上の前記サンプルのレーザーアブレーションを行なうステップと、
前記プルームをイオン化及び質量分析に晒すステップであって、前記プルーム内の原子の検出が前記サンプルの画像の構築を可能にし、随意的に、前記複数の位置が複数の既知の位置である、ステップと、
を含む方法。
(例136)
複数の細胞を含むサンプルに関してマスサイトメトリーを行なう方法において、
前記サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識原子で標識化して、標識サンプルをもたらすステップと、
レーザーアブレーションのためのレーザーの前記焦点に前記サンプルを配置するために例91から118のいずれか一項に記載の方法を実行するステップと、
サンプルステージ上の前記サンプルのレーザーアブレーションを行なうステップと、
前記プルームをイオン化及び質量分析に晒すステップであって、前記プルーム内の原子の検出が前記サンプルの画像の構築を可能にし、随意的に、前記複数の位置が複数の既知の位置である、ステップと、
を含む方法。
(例137)
各位置で、複数のレーザーショットが前記サンプルに発射され、その位置での各ショットの後に、その位置でアブレーションされた前記サンプルの深さに影響を及ぼすべく、前記サンプルステージ上の前記サンプルがZ軸において前記レーザーの前記焦点に向かって移動される、例135又は136に記載の方法。
(例138)
前記サンプルのアブレーションのためのZ軸の前記開始位置は、例58から61のいずれか一項に記載の方法によって決定される前記サンプル上のその位置での最適焦点位置であり、前記サンプル上のその位置におけるZ軸の位置で各ショットから生成される各プルームは、個別に検出され、例えば前記サンプルの3D画像の構築を可能にする、例137に記載の方法。
(例139)
サンプルを分析する方法において、
レーザー放射線の前記焦点に前記サンプルを配置するために例91から118のいずれか一項に記載の方法を実行するステップと、
レーザー放射線を使用してサンプル材料のスラグを脱着するステップと、
前記サンプル材料のスラグをイオン化し、質量分析によって前記スラグ内の原子を検出するステップと、
を含む方法。
(例140)
複数の細胞を含むサンプルに関してマスサイトメトリーを行なう方法において、
前記サンプル中の複数の異なる標的分子を1つ以上の異なる標識原子で標識化して、標識サンプルを与えるステップと、
レーザー放射線の前記焦点に前記サンプルを配置するために例91から118のいずれか一項に記載の方法を実行するステップと、
レーザー放射線を使用してサンプル材料のスラグを脱着するステップと、
前記サンプル材料のスラグをイオン化して、質量分析によって前記スラグ内の原子を検出するステップと、
を含む方法。
(例141)
レーザーアブレーションを使用して、前記対象の特徴の周囲の材料をアブレーションし、前記対象の特徴における前記サンプル材料が前記サンプルキャリアから材料のスラグとして脱着される前に前記周囲の領域を除去する、例139又は140に記載の方法。
(例142)
前記方法は、サンプル上の対象の1つ以上の特徴を特定して、前記サンプル上の対象の1つ以上の特徴の位置情報を記録し、前記サンプルからサンプル材料を脱着するステップを含む、例139から141のいずれか一項に記載の方法。
(例143)
前記特徴は、前記サンプルの光学画像の検査によって特定され、随意的に、前記サンプルが蛍光標識で標識化され、前記蛍光標識が蛍光を発するような条件下で前記サンプルが照射される、例142に記載の方法。
(例144)
前記サンプルがサンプルキャリア上にあり、前記サンプルキャリアが前記サンプルと前記サンプルキャリアとの間に脱着膜層を備え、前記レーザー放射線が前記脱着膜へと方向付けられてサンプル材料を脱着させる、例139から143のいずれか一項に記載の方法。
(例145)
前記レーザー放射線が前記サンプルキャリアを通じて前記サンプルへ向けられる、例139から144のいずれか一項に記載の方法。
(例146)
前記オートフォーカスシステムの前記照射放射線が前記サンプルキャリアを通じて前記サンプルに向けられる、例139から145のいずれか一項に記載の方法。
(例147)
例1から15のいずれか一項に記載の成分の使用を含む、例91から122のいずれか一項に記載の方法。
(例148)
例16から29のいずれか一項に記載のシステムの使用を含む、例91から122のいずれか一項に記載の方法。
(例149)
例66から73のいずれか一項に記載の装置の使用を含む、例91から122のいずれか一項に記載の方法。
(例150)
例91から122のいずれか一項に記載の方法を実行する際のオートフォーカス構成要素の使用であって、例えば前記構成要素が例62から76のいずれか一項に記載の構成要素である、オートフォーカス構成要素の使用。
(例151)
例91から122のいずれか一項に記載の方法を実行する際のオートフォーカスシステムの使用であって、例えば前記システムが例77から90のいずれか一項に記載のシステムである、オートフォーカスシステムの使用。
(例152)
例30から61のいずれか一項に記載の方法を実行するのに用いるオートフォーカス装置であって、例えば前記装置が例127から134のいずれか一項に記載の装置である、オートフォーカス装置。
(例153)
例91から122のいずれか一項に記載の方法を実行する際のオートフォーカス装置の使用であって、例えば前記装置が例127から134のいずれか一項に記載の装置である、オートフォーカス装置の使用。
(例154)
例91から122のいずれか一項に記載の方法を実行するための命令を含むコンピュータプログラムプロダクト。
(例155)
ハードドライブ、光ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ROM、RAM、EPROM、EEPROM、磁気カード又は光学カード、固体メモリデバイス、又は、電子命令を記憶するのに適した他のタイプの媒体/コンピュータ可読媒体である、例154に記載のコンピュータプログラムプロダクト。