(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】壁体
(51)【国際特許分類】
E04H 7/20 20060101AFI20250318BHJP
E04H 7/18 20060101ALI20250318BHJP
B65D 88/06 20060101ALI20250318BHJP
B65D 90/02 20190101ALI20250318BHJP
F17C 3/00 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
E04H7/20
E04H7/18 301Z
B65D88/06 Z
B65D90/02 G
F17C3/00 A
(21)【出願番号】P 2022009404
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2024-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正典
(72)【発明者】
【氏名】吉原 知佳
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159954(JP,A)
【文献】特開平09-004270(JP,A)
【文献】特開2002-308377(JP,A)
【文献】特開2011-219140(JP,A)
【文献】米国特許第04317317(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/18,7/20
B65D 88/06,90/02
F17C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の筒状の壁体であって、
前記壁体の周方向および縦方向の緊張材によるプレストレスが導入され、
前記縦方向の緊張材は、前記壁体の底部のみに配置され、
前記壁体の頂部において、前記壁体の周方向の緊張材が、水平方向に対して傾斜するように配置されたことを特徴とする壁体。
【請求項2】
前記壁体の頂部の前記緊張材の傾斜部分が、曲線を有することを特徴とする請求項1記載の壁体。
【請求項3】
前記壁体の頂部の前記緊張材は、前記壁体の周方向に波状に配置されることを特徴とする請求項2記載の壁体。
【請求項4】
前記壁体の頂部の前記緊張材は、前記壁体の周方向にサインカーブ型の曲線状に配置されることを特徴とする請求項3記載の壁体。
【請求項5】
前記壁体の頂部の前記緊張材の端部を定着するための切欠き部または定着のための突起が、前記壁体の外面に設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の壁体。
【請求項6】
前記壁体の頂部の前記緊張材は、内外に複数本設けられることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の壁体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクなどの壁体に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)などの液体を貯留する設備として、PC(プレストレストコンクリート)タンクがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6はPCタンク100の例を示したものである。PCタンク100は、地盤中の杭4で支持された底版5上に筒状の防液堤200を設け、その内側に鋼板等による内槽6と外槽3を設置したものである。内槽6は液体の貯留のために設けられる。
【0004】
防液堤200は、内槽6が破損した場合に外部への液漏れを防ぐために設けられるコンクリート製の筒状の壁体であり、通常円筒状である。防液堤200は、内槽6の破損時の液圧に耐え得る構造とする必要があり、そのため周方向および縦方向の緊張材の緊張によるプレストレスが導入される。
【0005】
図7は防液堤200の縦方向の断面の例である。防液堤2の周方向の緊張材11によるプレストレスを防液堤2に導入することで上記の液圧に抵抗できるが、防液堤2は、常時はタンク内部から液圧がかかっていない状態にある。このため、防液堤2では周方向のプレストレスによる鉛直面内の曲げモーメントが加わる。縦方向の緊張材13は主としてこの曲げモーメントに対する補強のために設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、上記の曲げモーメントが防液堤の頂部と底部で大きくなることを考慮し、縦方向の緊張材を防液堤の頂部と底部のみに設けている。しかしながら、防液堤の頂部では、防液堤の周方向の緊張材とともに縦方向の緊張材が多数配置され、緊張回数が増えるなど施工が煩雑となる懸念があった。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、施工が容易な壁体等を堤供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための本発明は、コンクリート製の筒状の壁体であって、前記壁体の周方向および縦方向の緊張材によるプレストレスが導入され、前記縦方向の緊張材は、前記壁体の底部のみに配置され、前記壁体の頂部において、前記壁体の周方向の緊張材が、水平方向に対して傾斜するように配置されたことを特徴とする壁体である。
【0010】
本発明では、防液堤などの筒状の壁体の頂部において、壁体の周方向の緊張材を水平方向に対して傾斜させることで、壁体の周方向と縦方向のプレストレスを1本の緊張材によって導入できる。そのため、少ない緊張材の本数で必要なプレストレスを壁体に導入することができ、緊張回数が減るなど施工が容易になる。
【0011】
前記壁体の頂部の前記緊張材の傾斜部分が、曲線を有することが望ましい。
これにより、緊張作業の容易さ等の観点から緊張材の両端部を水平方向に配置する場合に、その両端部を滑らかに連続させることができる。
【0012】
前記壁体の頂部の前記緊張材は、前記壁体の周方向に波状に配置されることが望ましい。また前記壁体の頂部の前記緊張材は、前記壁体の周方向にサインカーブ型の曲線状に配置されることが望ましい。
これにより、壁体の周方向の長範囲に緊張材によるプレストレスを導入できる。また緊張材をサインカーブ型の曲線状とすることで、緊張材の曲率が大きくなり過ぎず、緊張材の施工が容易になる。
【0013】
前記壁体の頂部の前記緊張材の端部を定着するための切欠き部または定着のための突起が、前記壁体の外面に設けられることが望ましい。
これにより、壁体の外部から緊張作業を行うことができ、施工が容易になる。
【0014】
前記壁体の頂部の前記緊張材は、内外に複数本設けられることが望ましい。
これにより、緊張材によって大きなプレストレスを導入したり、緊張材により導入されるプレストレスを壁体の周方向で均一化したりすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、施工が容易な壁体等を堤供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(1.防液堤2)
図1は、本発明の実施形態に係る防液堤2を有するPC(プレストレストコンクリート)タンク1を示す図である。
【0019】
防液堤2は筒状の壁体であり、本実施形態では円筒状である。防液堤2はコンクリート製のプレキャストブロック10(以下「ブロック」ということがある)を防液堤2の周方向に並べるとともに縦方向に積層して形成される。防液堤2の周方向および縦方向に隣り合うブロック10の間には、コンクリート等の充填材による目地7が設けられる。防液堤2以外のPCタンク1の構成は
図6で説明したものと同様である。
【0020】
図2(a)は防液堤2の縦方向の断面を示す図である。防液堤2には緊張材11、13、15が埋設される。緊張材11、13、15は例えばブロック10内のシース(不図示)に通される。緊張材11、13、15としては、PC鋼棒、PC鋼線などのPC鋼材が適用できる。
【0021】
緊張材11は防液堤2の周方向の緊張材であり、防液堤2の頂部21を除く部分に設けられる。
【0022】
緊張材13は縦方向の緊張材であり、防液堤2の底部のみに設けられる。
【0023】
緊張材15は防液堤2の頂部21に設けられる防液堤2の周方向の緊張材であり、水平方向に対して傾斜するように配置される。緊張材15は、防液堤2の周方向の全長に亘って設けられる。なお、防液堤2の頂部21に加え、防液堤2の高さ方向の中間部分に緊張材15を設けることも可能である。
【0024】
図3(a)は、防液堤2の頂部21を周方向に展開して示した図である。防液堤2の周方向は、
図3(a)の左右方向に対応し、
図3(a)は防液堤2の周方向の一部(1/3周分)を示している。
【0025】
本実施形態では、緊張材15が、防液堤2の周方向に波状に配置され、所定の向き(例えば
図3(a)の左から右に向かう向き)に沿って見たときに、上から下に向かう傾斜部分と、それとは反対に下から上へ向かう傾斜部分とを有する。
【0026】
本実施形態では特に、この傾斜部分が曲線を有し、後述する緊張作業の容易さ等の観点から緊張材15の両端部を水平方向に配置する場合に、その両端部を滑らかに連続させることができる。
【0027】
また緊張材15の波形はサインカーブ型の曲線状であり、緊張材15は滑らかに(角が無いように)連続する。緊張材15は防液堤2の内外に2本重ねて配置され、これにより防液堤2に導入するプレストレスを大きくすることができる。
【0028】
防液堤2の頂部21の外面には、これらの緊張材15の端部を定着するための切欠き部16が設けられる。緊張材15は、その端部を緊張した上で切欠き部16に配置した定着体17により定着する。切欠き部16は、緊張材15の向きが水平方向となる、サインカーブの頂点に当たる位置に設けられ、これにより緊張材15の端部を水平方向に緊張して定着を行うことができ、緊張作業が容易になる。なお、緊張材15の端部を定着するため、切欠き部16の代わりに、防液堤2の外側に突出する突起を設けても良い。
【0029】
本実施形態では、
図3(b)に示すように、緊張材15の緊張によるプレストレス力(圧縮力)Pの分力Px、Pyにより、防液堤2の周方向のプレストレスと縦方向のプレストレスを防液堤2に同時に導入できる。結果、縦方向の緊張材を不要とでき、緊張回数が減るので防液堤2の施工が容易になる。
【0030】
緊張材15はブロック10に埋設したシース(不図示)内に配置され、ブロック10は緊張材15の配置に合わせた形状のシースを埋め込んだ形で製作される。
【0031】
本実施形態では、防液堤2の周方向のブロック10の分割位置を、緊張材15の波形に応じて規則的に定めることで、シースの配置が共通するブロック10により防液堤2の頂部21を形成でき、ブロック10の製作を省力化できる。例えば
図3(a)の例では、緊張材15の波形の1周期分の長さを6分割するようにブロック10の分割位置を定めることで、符号Aに例示する複数のブロック10について、シースの配置が共通となる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態では、防液堤2の頂部21において、防液堤2の周方向の緊張材15を、水平方向に対して傾斜させることで、防液堤2の周方向と縦方向のプレストレスを1本の緊張材15によって導入できる。そのため、少ない緊張材15の本数で必要なプレストレスを防液堤2に導入することができ、緊張回数が減るなど施工が容易になる。
【0033】
また本実施形態では、緊張材15の傾斜部分が曲線を有し、緊張作業の容易さ等の観点から緊張材15の両端部を水平方向に配置する場合に、その両端部を滑らかに連続させることができる。
【0034】
また本実施形態では緊張材15を波状に配置することで、防液堤2の周方向の長範囲にプレストレスを導入できる。特に本実施形態では緊張材15がサインカーブ状に配置されるので、緊張材15の曲率が大きくなり過ぎず、緊張材15の施工が容易になる。
【0035】
また本実施形態では緊張材15が内外に2本重ねて設けられるので、緊張材15によって大きなプレストレスを導入することができる。ただし、緊張材15を内外に重ねずに1本のみ配置してもよい。
【0036】
また防液堤2の外面には緊張材15の端部を定着するための切欠き部16または定着のための突起が設けられ、防液堤2の外部から緊張作業を行うことができるので施工が容易になる。なお、緊張材15の端部は防液堤2のピラスター22(
図1参照)において定着することも可能である。
【0037】
しかしながら、本発明は以上の実施形態に限定されない。例えば本実施形態では、1本の緊張材15の長さを、緊張材15の波形の1周期分以上の長さとしているが、
図4(a)に示すように、複数本の緊張材15を波状に連続するように防液堤2の周方向に配置し、1本の緊張材15の長さを、その波形の1周期分未満の長さとしてもよい。
【0038】
この例では、
図4(b)に示すように、1本の緊張材15の長さを波形の半周期分の長さとし、防液堤2の周方向に隣り合う緊張材15の端部同士が重なり合うように配置している。
【0039】
また本実施形態では、
図3(a)に示すように、内外2本の同じ波形の緊張材15を、当該波形の半周期分の長さだけ防液堤2の周方向にずらして配置したが、防液堤2の内外に重ねる緊張材15の本数はこれに限らず、3本以上でもよい。また緊張材15のずれ量も上記に限らない。
【0040】
例えば
図5(a)の例では、内外3本の同じ波形の緊張材15を、当該波形の1/3周期分の長さずつ防液堤2の周方向にずらして配置している。このように、緊張材15の配置を半周期未満の範囲で適切にずらずことで、防液堤2の周方向のプレストレスと縦方向のプレストレスの大きさを、防液堤2の周方向で均一化でき、防液堤2の周方向のどの位置でも縦方向のプレストレスを導入できる。
【0041】
また本実施形態では、緊張材15の波形を、サインカーブ型の曲線状としているが、緊張材15の波形もこれに限らず、例えば三角波状に配置してもよい。また
図5(b)に示すように、複数本の緊張材15を防液堤2の周方向に間隔を空けて配置することも可能であり、同じ向きの傾斜を有する緊張材15を、防液堤2の周方向に複数本配置することも可能である。
図5(b)の例では1本の緊張材15を複数のブロック10に亘って配置しているが、1本の緊張材15を1つのブロック10内で斜めに配置してもよい。また緊張材15の傾斜部分は直線状としているが、曲線状であってもよい。
【0042】
また本実施形態ではプレキャストブロック10を用いて防液堤2を構築しているが、現場打ちコンクリートによって防液堤2を構築する場合にも本発明は適用でき、緊張材15を通すためのシースを配置した状態で、コンクリートの打設を行えばよい。
【0043】
また本実施形態は、PCタンク1の防液堤2の緊張材15の配置の例を挙げて説明し、これによりPCタンク1の施工を容易に行うことができるが、本発明はこれに限ることはなく、各種の筒状の壁体に適用することが可能である。
【0044】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0045】
1、100:PCタンク
2、200:防液堤
10:プレキャストブロック
11、13、15:緊張材
16:切欠き部
17:定着体
21:頂部