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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】臭気物質抽出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20250318BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20250318BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20250318BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
G01N1/22 N
G01N1/10 A
G01N27/12 A
G01N33/18 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022044363
(22)【出願日】2022-03-18
(65)【公開番号】P2023010559
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021112937
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】早見 徳介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 勇太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 法光
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広崇
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩久
(72)【発明者】
【氏名】今田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】真常 泰
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6825157(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/073693(WO,A1)
【文献】特開2009-270983(JP,A)
【文献】特開2004-077299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/22
G01N 1/10
G01N 27/12
G01N 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検水を加熱するヒーターと、
加熱された前記被検水と、試料ガスとを気液接触させ、前記試料ガスに対して前記被検水に含まれる臭気物質が抽出された臭気物質含有ガスを排出する気液接触装置と、
前記臭気物質含有ガスを除湿する除湿器と、
前記除湿器から排出された前記臭気物質含有ガスの流量および臭気物質濃度と、前記ヒーターに流入する前記被検水の流量とを用いて、前記臭気物質抽出前の前記被検水中の臭気物質濃度を演算する演算装置と、を備えた臭気物質抽出装置。
【請求項2】
前記ヒーターの前段に配置され、臭気物質よりも分子量が小さい物質が少なくとも除去された前記被検水を前記ヒーターに供給するろ過膜を更に備え、
前記演算装置は、前記除湿器から排出された前記臭気物質含有ガスの流量および臭気物質濃度と、前記ろ過膜から前記ヒーターに流入する前記被検水の流量と、前記ろ過膜に流入する前記被検水の流量とを用いて、前記臭気物質抽出前の前記被検水中の臭気物質濃度を演算する、請求項1記載の臭気物質抽出装置。
【請求項3】
前記ろ過膜は、臭気物質よりも分子量が小さい物質が除去された前記被検水を前記ヒーターに供給する第1膜を備える、請求項2記載の臭気物質抽出装置。
【請求項4】
前記ろ過膜は、前記第1膜の前段に配置され、臭気物質よりも分子量が大きい物質が除去された前記被検水を前記第1膜に供給する第2膜を更に備える、請求項3記載の臭気物質抽出装置。
【請求項5】
加熱された前記被検水中に微細気泡を生成する微細気泡生成装置を更に備えた請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の臭気物質抽出装置。
【請求項6】
前記ヒーターにおいて、前記被検水は80℃以上に加熱される、請求項1記載の臭気物質抽出装置。
【請求項7】
前記演算装置は、前記臭気物質含有ガスの流量をc、前記臭気物質含有ガス中の臭気物質濃度をd、前記ヒーターに流入する前記被検水の流量をb、前記臭気物質抽出後の前記被検水中の臭気物質濃度をx、前記臭気物質抽出前の前記被検水中の臭気物質濃度をa、前記臭気物質の無次元ヘンリー定数をHとしたときに、下記式により前記ヒーターに流入した前記被検水中の臭気物質濃度を演算する、
a=(b+cH)/(bx)
x=d/H
請求項1記載の臭気物質抽出装置。
【請求項8】
前記演算装置は、前記臭気物質含有ガスの流量をc、前記臭気物質含有ガス中の臭気物質濃度をd、前記ヒーターに流入する前記被検水の流量をb、前記ろ過膜に供給される被検水流量をb´、前記臭気物質抽出後の前記被検水中の臭気物質濃度をx、前記臭気物質抽出前の前記被検水中の臭気物質濃度をa、前記ろ過膜に供給された前記被検水中の臭気物質濃度をa´、前記ろ過膜の透過率をf、前記臭気物質の無次元ヘンリー定数をHとしたときに、下記式により前記ろ過膜に流入した前記被検水中の臭気物質濃度を演算する、
a´=a×(1-f)
a=(b+cH)/(bx)
x=d/H
請求項2記載の臭気物質抽出装置。
【請求項9】
前記臭気物質の無次元ヘンリー定数は、前記臭気物質の抽出温度に応じて予め設定された値である、請求項7又は請求項8記載の臭気物質抽出装置。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、臭気物質抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場では、例えば河川や湖沼から取水した水を浄水処理することにより、水道法等で定められた水質基準を満たす水を生成して、対象地域へ供給している。上水として供給される水は、様々な水質基準を満たす必要があるが、例えば上水の臭気の元となる臭気物質についても、所定の水質基準値が設けられている。
【0003】
近年、特に気候の温暖化により水温が年々上昇傾向であり、臭気の原因となる藻類が増殖しやすい環境となっていることから、これまで臭気の障害が見られなかった浄水場においても臭気の障害が見られるケースが増えている。
【0004】
しかしながら、水の臭気を十分に除去するためには非常に低濃度の臭気物質を検出しなければならず、従来は、時間をかけて臭気物質を濃縮することにより、高価な分析装置を用いて臭気物質を検出しなければならなかった。
【0005】
上水において水質基準値が設けられている臭気物質として、例えば、2-MIB(2-メチルイソボルネオール)と、ジェオスミンとの2つ臭気物質がある。これらの臭気物質の水質基準は10ng/Lと非常に低い濃度であるとともに、いずれも水中の濃度が低く、更に、気相へ揮発しにくいという特徴がある。このため、高価な分析装置を用いて高度な分析を行うことにより臭気物質の定量検出が行われている。
【0006】
例えば、採水から2-MIBおよびジェオスミンの定量検出までを自動化したオンラインの分析装置も実用化されているが、卓上の手分析用の分析装置よりもはるかに高価かつ複雑なシステムであり、簡単に導入することができなかった。
【0007】
また、この様な分析装置は、例えばガスクロマトグラフィー質量分析法(CG/MS)を利用したオンラインの分析装置であり、時間をかけてカラムで対象を分離し、測定毎にカラムを再生する必要があることから、計測に時間を要しており、オンライン装置でありながら略1時間にデータ1点を出力するのみにとどまっている。すなわち、1時間に1回(1バッチの)計測を行う分析装置である。
【0008】
更に、GC/MSにおいては、前処理として、液体試料をガスに接触させて対象物質を気相に追い出し(パージ)、その後吸着材にて対象物質を捕集(トラップ)するパージアンドトラップ方式が採用され得る。前処理において吸着材から脱離された対象物質がGC/MSへ導入され、定量分析が行われる。なお、パージアンドトラップ方式による対象物質の濃縮倍率は、一般に100~250倍程度と言われる。上記のように、GC/MSにおいては、前処理において吸着および脱離の工程を伴うため、連続的に対象物質を抽出して計測することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6825157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであて、連続的に被検水中の臭気物質を抽出し、被検水中の臭気物質濃度を計測する臭気物質抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態による臭気物質抽出装置は、被検水を加熱するヒーターと、加熱された前記被検水と、試料ガスとを気液接触させ、前記試料ガスに対して前記被検水に含まれる臭気物質が抽出された臭気物質含有ガスを排出する気液接触装置と、前記臭気物質含有ガスを除湿する除湿器と、前記除湿器から排出された前記臭気物質含有ガスの流量および臭気物質濃度と、前記ヒーターに流入する前記被検水の流量とを用いて、前記臭気物質抽出前の前記被検水中の臭気物質濃度を演算する演算装置と、を備えた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態の臭気物質抽出装置の一構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、温度に対する2-MIBの無次元ヘンリー定数の値の一例を示す図である。
図3図3は、本願発明者らが実験により導き出した無次元ヘンリー定数の一例を示す図である。
図4図4は、第2実施形態の臭気物質抽出装置の一構成例を概略的に示す図である。
図5図5は、第3実施形態の臭気物質抽出装置の一構成例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態の臭気物質抽出装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の臭気物質抽出装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態の臭気物質抽出装置は、熱交換器2と、ヒーター4と、ヒーターコントローラ6と、昇圧ポンプP1と、気液接触装置8と、エアポンプP2と、除湿器10と、返送ポンプP3と、温度センサT1-T3と、流量計F1-F3と、臭気物質濃度計(ガス濃度計)12Aと、演算装置13と、を備える。
【0014】
熱交換器2は、臭気物質抽出装置へ流入する原水(被検水)と、臭気物質抽出装置内を循環した後の返送水との間で熱エネルギーを交換させる。熱交換器2は、二重管式もしくはプレート式であって、対向流で通水することにより流体間で熱エネルギーを交換させる。臭気物質抽出装置内を循環した後の返送水は、原水よりも高温であるため、熱交換器2において返送水から原水へと熱エネルギーが移動する。このことにより、後述するヒーター4の負荷を軽減することができる。
【0015】
本実施形態の臭気物質抽出装置では、後述する臭気物質濃度計12Aに連続的に臭気物質含有ガスを供給する。例えば、臭気物質濃度計12Aの感度が1~10ppb程度であるときには、臭気物質の検出感度を考慮すると数10~数100ml/minの臭気物質含有ガスを要する。このため、十分な臭気物質含有ガスを得るために必要な原水は、10L/minに及ぶこともある。大量の原水を後述のヒーター4により90℃に加熱して臭気物質を気相へ抽出するためには、数10kWの熱エネルギーが必要であり、水質計器としてのランニングコストが過大となる。そこで、本実施形態では、熱交換器2において、臭気物質抽出後に返送された原水(熱水)から熱を回収し、ヒーター4の前段で原水(被検水)を予熱することにより、ヒーター4で消費されるエネルギーを数100W~数kW程度まで削減している。なお、本実施形態では、ヒーター4は例えば3kWのヒーターである。
【0016】
ヒーター4は、例えばインラインの配管ヒーターであって、熱交換器2から排出された原水(被検水)が所定の温度となるように、原水が流れる配管を加熱する。本実施形態の臭気物質抽出装置では、ヒーター4で原水を加熱することにより、連続的に供給される被検水を加熱し、気液平衡の原理から対象臭気物質が気相へ抽出されやすい環境を形成している。
【0017】
例えば、臭気物質である2-MIBは常温では気液平衡状態において、ほとんどが水中に存在し、20℃の環境で気液濃度比(液体中の濃度に対する気体中の濃度の比)が1/500であり、40℃の環境においても気液濃度比はおよそ1/50である。そこで、本願発明者らは試験を行ない、その結果、被検水(原水)を90℃まで上昇させることで、気液濃度比をおよそ3程度まで改善できることを見出した。上記のことから、本実施形態において、ヒーター4は、原水を80℃以上に加熱することが望ましく、90℃以上に加熱することが更に望ましい。本実施形態では、ヒーター4から気液接触装置8までの間での被検水の温度低下分を見込んで、ヒーター4は、連続的に原水を90℃以上(例えば92℃~93℃)に加熱する。
【0018】
ヒーターコントローラ6は、ヒーター4から排出された原水の温度を検出する温度センサT1から取得した温度に基づいて、原水温度が所定の温度となるようにヒーター4を制御する。
昇圧ポンプP1は、ヒーター4から排出された原水の圧力を上昇させて、気液接触装置8へ出力する。
【0019】
気液接触装置8は、昇圧ポンプP1から排出された高圧の原水(被検水)と気体(試料ガス)とを接触させて、連続的に、原水から気中へ臭気物質を抽出し、臭気物質含有ガスを排出する。本実施形態では、試料ガスとして例えば空気を用いることができる。
気液接触の手法は、例えば液体へエアポンプP2で気体(試料ガス)を送出するバブリングを用いてもよく、気体中に液体を噴霧するスプレーを用いてもよく、膜を用いてもよい。バブリングは、多孔体を用いてもよく、ベンチュリー管などを用いてマイクロバブルを形成してもよい。なお、エアポンプP2により気液接触装置8へ送出される試料ガスの流量は流量計F1により計測される。スプレーは、一流体のノズルを用いてもよく、二流体のノズルを用いてもよい。膜は、例えば疎水性のものを用いることで気液接触を効率よく行うことができる。
【0020】
気液接触装置8における臭気物質抽出後の原水は、返送ポンプP3により熱交換器2に送水され、熱交換器2を通過して排水される。
温度センサT3は、気液接触装置8において気液接触が行われる環境温度(臭気物質の抽出温度)を検出し、検出値を演算装置13へ供給する。
除湿器10は、気液接触装置8から排出された臭気物質含有ガスを除湿して排出する。除湿器10は、気液接触装置8から排出される臭気物質含有ガスは水蒸気を多く含むため、後段に配置される臭気物質濃度計12Aにおいて微量な値を計測する際に、水蒸気が計測の障害となるためである。
【0021】
例えば、10ng/Lの2-MIBが溶解した原水を、90℃の環境において気液平衡させて2-MIBを気相に抽出した場合、90℃において相対湿度(RH)100%(418g/m)の水蒸気を含んだ臭気物質含有ガスが抽出され得る。この臭気物質含有ガスの温度が、後述する臭気物質濃度計12Aに到達するまでに低下した場合、水蒸気の結露により臭気物濃度の計測に悪影響を及ぼす。また、臭気物質濃度計12Aとして、半導体式、水晶振動子を修飾したもの、赤外吸収式などを使用できるが、いずれも多量の水蒸気の存在はノイズとなり感度の低下を引き起こす原因となる。
【0022】
また、臭気物質濃度計12Aにおいて正確に臭気物質の濃度を計測するためには、一定の温度および一定の湿度の臭気物質含有ガスを供給することが望ましい。仮に、20℃、RH50%(8.6g/m)などと温度と湿度を設定して、臭気物質含有ガスを供給することで、一般に、上記のような臭気物質濃度計12Aは安定して動作することができる。
【0023】
上記を考慮し、臭気物質含有ガスを一定湿度とするために、本実施形態の臭気物質抽出装置は、例えば冷却式の除湿器10を備える。ここで、例えば膜式除湿器は、微量の臭気物質を吸着することで精度低下を引き起こすため推奨されない。また、冷却式の除湿器においても、結露水に一定割合で臭気物質が吸収される可能性があるが、気液平衡へ至る十分な時間が除湿器内で確保されないため、臭気物質の多くを気相に残留させることができる。
【0024】
除湿器10から排出された臭気物質含有ガスは、臭気物質濃度計12Aに供給される。温度センサT2は、除湿器10から排出された臭気物質含有ガス、すなわち臭気物質濃度計12Aに供給される臭気物質含有ガスの温度を検出する。
【0025】
臭気物質濃度計12Aは、除湿器10から排出された臭気物質含有ガス中の臭気物質濃度を計測し、計測値を演算装置13へ供給する。臭気物質濃度計12Aとして、例えば半導体式の濃度計はppmオーダーの検出能力を持つ。また、臭気物質濃度計12Aとして、例えばレーザー式の濃度計の中には1~10ppbの検出が可能なものもある。また、臭気物質濃度計12Aとして、水晶振動子に感応膜やMOF(metal organic framework)などを修飾し、その周波数変化を用いて臭気を計測するものを用いてもよい。本実施形態の臭気物質抽出装置では、レーザー式の濃度計で1ppbの検出ができることを想定し、水中で10ng/Lの2-MIB濃度の際に、臭気物質濃度計12Aへ供給される臭気物質含有ガスが1ppb以上の2-MIB濃度となる性能とし、例えば、後述する無次元ヘンリー定数と、臭気物質濃度計12Aに必要なガス流量とから、臭気物質の抽出に用いる原水の流量を算出している。
【0026】
演算装置13は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが格納されたメモリと、を備え、ソフトウエアにより種々の機能を実現することができる。演算装置13は、臭気物質濃度計12Aで計測されたガス中の臭気物質濃度(d)と、臭気物質抽出後の原水中の臭気物質濃度(x)と、流量計F2で検出された臭気物質抽出に用いた原水の流量(ヒーター4に流入した被検水の流量)(b)と、流量計F3で計測された臭気物質含有ガスの流量(c)とを用いて、下記式により臭気物質抽出前の原水(ヒーター4に流入した被検水)中の臭気物質濃度(a)を演算することが出来る。
【0027】
a=(b+cH)/(bx)…(1)
x=d/H…(2)
なお上記式において、Hは、臭気物質の抽出温度に応じて予め設定した無次元ヘンリー定数である。演算装置13は、温度センサT3で検出された気液接触装置8内の環境温度(臭気物質の抽出温度)の値から、無次元ヘンリー定数の値を算出することができる。
【0028】
ここで、水質基準に規定されている臭気物質は2-MIBとジェオスミンとであるが、いずれも水中の濃度が低く、更に、気相へ揮発しにくいという特徴がある。また、これらの臭気物質濃度の水質基準は10ng/Lと非常に薄い。
【0029】
物質の気相への揮発は気液平衡の関係を示す無次元ヘンリー定数を用いて表現できる。例えば、20℃における2-MIBの無次元ヘンリー定数は0.002である。すなわち、気液平衡状態で、気中の2-MIBの濃度:水中の2-MIBの濃度は、1:500となるので、上記水質基準の臭気物質濃度である10ng/Lの水が20℃で気液平衡となった場合には、気相中の2-MIB濃度は0.02ng/Lとなる。
【0030】
したがって、水中の2-MIB濃度を検出する際に、2-MIBを気相中へ抽出して気相中の濃度を検出しようとすると、更に臭気物質が希薄な環境で対象物質を検出しなければならないことになる。上記のことから、例えばパージアンドトラップ法では、気液接触の後に活性炭などの吸着材へ2-MIBを一旦吸収させたものを溶出させ、検出可能な水準へ濃縮している。また、上記方法によれば、吸着材を用いるためにバッチ処理にならざるを得ず、連続的に臭気物質を抽出することは困難である。
【0031】
一方で、本願発明者らは無次元ヘンリー定数の温度依存性に着目している。
図2は、温度に対する2-MIBの無次元ヘンリー定数の値の一例を示す図である。
例えば、39℃の環境で2-MIBの無次元ヘンリー定数は0.02となる。すなわち、39℃の環境では20℃の環境の10倍の濃度のガスを得られることとなる。このことに基づいて、本願発明者らが、例えば図2に示す環境温度と無次元ヘンリー定数との関係から得た予測式を用いて、更に温度上昇させた環境における無次元ヘンリー定数を予測したところ、2-MIBの無次元ヘンリー定数は、80℃の環境において1.35、87℃の環境において2.8、90℃の環境において3.82であるとの結果が得られた。
【0032】
以下、上記の無次元ヘンリー定数の予測値について、本願発明者が検証した結果について説明する。
図3は、本願発明者らが実験により導き出した無次元ヘンリー定数の一例を示す図である。
【0033】
発明者らは、先ず、予め容積を計測した密閉可能な瓶に、2-MIB溶液を定量注入し、密閉して恒温槽で形成した80℃の環境に一晩置き、気液平衡となるよう促し、翌日水部分を回収した。その後、発明者らは、回収した水中の2-MIB濃度を定量し、80℃とする前後の2-MIB濃度と、予め計測された体積とから、無次元ヘンリー定数を算出した。
【0034】
上記の結果、2-MIB溶液の濃度によって異なるが、80℃の環境における無次元ヘンリー定数はおよそ1.1~1.8の値となり、本願発明者らが算出した予測値と近い水準となった。このことから、本願発明者らが用いた無次元ヘンリー定数の予測式が妥当であることが検証された。
演算装置13は、例えば、妥当性が検証された上記無次元ヘンリー定数の予測式を用いて、温度センサT3で検出された気液接触装置8内の環境温度に対応する無次元ヘンリー定数を演算することができる。
【0035】
本実施形態の臭気物質抽出装置によれば、上記のように、連続的に臭気物質を含むガスを抽出することができ、除湿器10の後段に配置した臭気物質濃度計12Aにより臭気物質含有ガスにおける臭気物質濃度を、連続して計測することができる。また、本実施形態の臭気物質抽出装置によれば、連続的に高濃度のガスを抽出することができるため、質量分析装置のような高価で複雑な装置を用いずとも、原水中の臭気物質濃度の検出を行うことができる。
【0036】
すなわち、本実施形態によれば、連続的に被検水中の臭気物質を抽出し、被検水中の臭気物質濃度を計測する臭気物質抽出装置を提供することができる。
【0037】
次に、第2実施形態の臭気物質抽出装置について図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の第2実施形態および第3実施形態の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
図4は、第2実施形態の臭気物質抽出装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態の臭気物質抽出装置は、ろ過膜(第1膜M1)と、熱交換器2と、ヒーター4と、ヒーターコントローラ6と、昇圧ポンプP1、P4と、気液接触装置8と、エアポンプP2と、除湿器10と、返送ポンプP3と、温度センサT1-T3と、流量計F1-F4と、臭気物質濃度計12Aと、演算装置13と、を備える。
【0039】
ろ過膜は、ヒーター4の前段に配置された第1膜M1を含む。第1膜M1は、原水中の臭気物質よりも分子量が小さな物質を除去するための構成であって、例えば、RO膜(reverse osmosis membrane)やNF膜(nanofiltration membrane)を適用することができる。RO膜は、分子量100程度以下の低分子量の成分を透過する。NF膜は、RO膜よりも低圧で物質を分離し除去することができる。NF膜は、例えばサイズが数nmよりも小さい成分を透過する。NF膜は、膜表面に正若しくは負の電荷を付加することにより静電分離効果を有し、イオンを分離し除去してもよい。RO膜およびNF膜は、被検水(原水)中に含まれるVOC(揮発性有機物質)やイオンなどを分離し除去することができる。
【0040】
第1膜M1には昇圧ポンプP4から原水が送水される。第1膜M1に送水された原水は、VOCやイオンなど夾雑物が除去されて、一次側に排出される。したがって、第1膜M1により、一次側に排出される被検水中に含まれる夾雑物の濃度を低下させることができる。臭気物質濃度計12Aで臭気物質を検出するときには、臭気物質含有ガス中の水蒸気同様にVOCやイオンの影響を受ける。被検水中のVOC濃度やイオン濃度の低下により、臭気物質濃度計12Aに供給される臭気物質含有ガス中のVOC濃度やイオン濃度も低下するため、臭気物質濃度計12AにおけるS/N比の向上につながる。すなわち、本実施形態の臭気物質検出装置によれば、臭気物質の検出精度を向上させることができる。
【0041】
第1膜M1から一次側に排出された被検水(濃縮水)は、熱交換器を通過した後にヒーター4に流入する。第1膜M1の二次側に排出された水は排水される。第1膜M1は水を二次側に透過するため、一次側に排出される被検水は、原水よりも臭気物質の濃度が高くなった濃縮水である。第1膜M1の後段において被検水中の臭気物質濃度が高くなることで、加熱と気液平衡により試料ガス中へ臭気物質を抽出する際に、より高濃度の臭気物質含有ガスを臭気物質濃度計12Aに供給することができる。本実施形態の臭気物質抽出装置の解決すべき課題は、水中の臭気物質濃度が極低濃度であることに起因することを鑑みると、被処理水が濃縮されることは臭気物質の濃度検出の精度向上に有効である。
また、第1膜M1の二次側に原水の一部は排水されるため、被検水は原水よりも量が少なくなり、ヒーター4において被検水を加熱するために必要なエネルギーを減らすことができる。このことにより、臭気物質抽出装置の消費電力を削減することができる。
【0042】
また、本実施形態の臭気物質抽出装置において、気液接触槽8は微細気泡生成装置14を有している。微細気泡生成装置としては、ベンチュリー管などを用いることができる。微細気泡生成装置14は、例えば1000nm以下の微細気泡を生成する。気液接触槽8内で微細気泡を生成することにより、疎水性傾向である2-MIBが気泡に吸着されて揮発しやすくなり、気液接触効率を向上させることができる。気液接触槽8における気液接触効率が向上すると、気液接触槽8におけるガスの滞留時間を小さくすることができ、気液接触槽8を小型化することができる。
流量計F4は、第1膜M1に供給される原水の流量b´を計測し、計測値を演算装置13へ供給する。
【0043】
演算装置13は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが格納されたメモリと、を備え、ソフトウエアにより種々の機能を実現することができる。演算装置13は、臭気物質濃度計12Aで計測された臭気物質含有ガス中の臭気物質濃度(d)と、臭気物質抽出後の原水中の臭気物質濃度(x)と、流量計F2で検出された臭気物質抽出に用いた被検水の流量(ヒーター4に流入した被検水(濃縮水)の流量)(b)と、流量計F4で計測された第1膜M1に供給される原水流量(b´)と、流量計F3で計測された臭気物質含有ガスの流量(c)と、ヒーターに流入した被検水(濃縮水)中の臭気物質濃度(a)と、を用いて、下記式により第1膜M1に供給された原水中の臭気物質濃度(a´)を演算することが出来る。
【0044】
ここで、第1膜M1での臭気物質の透過率(ろ過膜に流入する原水に対するヒーター4に供給されない部分の比率)は、使用する膜とろ過条件とに依存するため、透過率fは、臭気物質検出装置が使用される際に想定される運用条件において事前に試験やシミュレーションを行い、取得された値を用いる。濃縮水の流量bと原水流量b´と、原水中の臭気物質濃度a´と、濃縮水中の臭気物質濃度aとの関係は、臭気物質の量の観点から以下の式で表される。
a×b=a´×b´…(3)
透過率fとすると、ろ過膜に流入する原水に対する濃縮水側の比率は1-fであり、濃縮倍率は1/(1-f)である。このとき、1/(1-f)=b´/bの関係が成り立つ。
上記式より、原水中の臭気物質濃度a´は、以下の式で表される。
a´=a×(1-f)…(4)
【0045】
なお、上述の第1実施形態と同様に、演算装置13は、ヒーター4に流入した被検水(濃縮水)中の臭気物質濃度(a)は、上述の式(1)および式(2)を用いて演算することが可能である。
したがって、演算装置13は、上述の式(1)、(2)、(4)を用いて、第1膜M1に供給された原水中の臭気物質濃度a´の値を演算することができる。
【0046】
本実施形態の臭気物質抽出装置によれば、第1実施形態と同様に、連続的に臭気物質を含むガスを抽出することができ、除湿器10の後段に配置した臭気物質濃度計12Aにより臭気物質含有ガスにおける臭気物質濃度を、連続して計測することができる。また、本実施形態の臭気物質抽出装置によれば、連続的に高濃度の臭気物質含有ガスを抽出することができるため、質量分析装置のような高価で複雑な装置を用いずとも、原水中の臭気物質濃度の検出を行うことができる。
すなわち、本実施形態によれば、連続的に被検水中の臭気物質を抽出し、被検水中の臭気物質濃度を計測する臭気物質抽出装置を提供することができる。
【0047】
次に、第3実施形態の臭気物質抽出装置について図面を参照して詳細に説明する。
図5は、第3実施形態の臭気物質抽出装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態の臭気物質抽出装置は、ろ過膜が第1膜M1の前段に配置された第2膜M2を更に備えている点において、上述の第2実施形態と相違している。また、本実施形態の臭気物質抽出装置では、ポンプP2は、第1実施形態および第2実施形態におけるエアポンプに代えて、微細気泡生成装置14と気液接触槽8との間で被検水を循環させる循環ポンプである。
【0048】
第2膜M2は、分子量が臭気物質よりも大きな物質を除去するための構成であって、例えばUF(ultrafiltration membrane)膜を用いることができる。UF膜は、例えば、分子量が3000程度より大きな物質を分画することができ、例えば分子量が168である2-MIB等の臭気物質よりも分子量が大きい物質を除去する。
【0049】
上記第2膜M2を第1膜M1の前段に付加することで、夾雑物である溶解性有機物(NOM)やその一部である揮発性有機物(VOC)を除去することができる。特にVOCは、後段の臭気物質濃度計12Aで臭気物質濃度を計測するにあたりノイズとなるため、VOCを除去することで臭気物質濃度計12AのS/N比を向上させることができる。また、NOMであるフミン酸などは、臭気物質である2-MIBの揮発を阻害する(NOM共存下でヘンリー定数が低下する)ことが知られており、NOMを除去することで2-MIBの揮発率を高めることができ、臭気物質濃度計12Aにより高濃度の臭気物質を供給することでS/N比を高めることができる。
【0050】
第2膜M2には昇圧ポンプP5から原水が送水される。第2膜M2に送水された原水は、分子量が臭気物質よりも大きなVOCやイオンなど夾雑物が除去されて、一次側に排出される。
第2膜M2の一次側に排出された被検水は、昇圧ポンプP4により第1膜M1に送水される。第1膜M1は、被検水中の臭気物質よりも小さな分子を除去して、一次側に排出する。
【0051】
上記のように第1膜M1の前段に第2膜M2を設置することにより、第1膜M1により除去することが出来ないNOVやVOCが除去された被検水を、ヒーター4へ供給することが可能となり、臭気物質濃度計12Aによる臭気物質の検出精度を更に向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態の臭気物質抽出装置は、ポンプP2の前段に配置された微細気泡生成装置14を有している。微細気泡生成装置14としては、ベンチュリー管などを用いることができる。微細気泡生成装置14には、気液接触装置8から被検水が供給され、被検水中に例えば1000nm以下の微細気泡を生成する。微細気泡生成装置14で生成された微細気泡を含む被検水は、ポンプP2により気液接触槽8へ送水される。被検水中に微細気泡を生成することにより、疎水性傾向である2-MIBが気泡に吸着されて揮発しやすくなり、気液接触効率を向上させることができる。気液接触槽8における気液接触効率が向上すると、気液接触槽8におけるガスの滞留時間を小さくすることができ、気液接触槽8を小型化することができる。
【0053】
流量計F4は、第2膜M2に供給される原水の流量b´を計測し、計測値を演算装置13へ供給する。
演算装置13は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが格納されたメモリと、を備え、ソフトウエアにより種々の機能を実現することができる。演算装置13は、臭気物質濃度計12Aで計測された臭気物質含有ガス中の臭気物質濃度(d)と、臭気物質抽出後の原水中の臭気物質濃度(x)と、流量計F2で検出された臭気物質抽出に用いた被検水の流量(ヒーター4に流入した被検水(濃縮水)の流量)(b)と、流量計F4で計測された第2膜M2に供給される原水流量(b´)と、流量計F3で計測された臭気物質含有ガスの流量(c)と、ヒーターに流入した被検水(濃縮水)中の臭気物質濃度(a)と、を用いて、下記式により第1膜M1に供給された原水中の臭気物質濃度(a´)を演算することが出来る。
【0054】
ここで、第1膜M1および第2膜M2での臭気物質の透過率(ろ過膜に流入する原水に対するヒーター4に供給されない部分の比率)は、使用する膜とろ過条件とに依存するため、透過率fは、臭気物質検出装置が使用される際に想定される運用条件において事前に試験やシミュレーションを行い、取得された値を用いる。濃縮水の流量bと原水流量b´と、原水中の臭気物質濃度a´と、濃縮水中の臭気物質濃度aとの関係は、臭気物質の量の観点から上記式(3)、(4)で表される。
【0055】
なお、上述の第1実施形態と同様に、演算装置13は、ヒーター4に流入した被検水(濃縮水)中の臭気物質濃度(a)は、上述の式(1)および式(2)を用いて演算することが可能である。
したがって、演算装置13は、第2実施形態と同様に、上述の式(1)、(2)、(4)を用いて、第2膜M2に供給された原水中の臭気物質濃度a´の値を演算することができる。
【0056】
本実施形態の臭気物質抽出装置によれば、第1実施形態および第2実施形態と同様に、連続的に臭気物質を含むガスを抽出することができ、除湿器10の後段に配置した臭気物質濃度計12Aにより臭気物質含有ガスにおける臭気物質濃度を、連続して計測することができる。また、本実施形態の臭気物質抽出装置によれば、連続的に高濃度のガスを抽出することができるため、質量分析装置のような高価で複雑な装置を用いずとも、原水中の臭気物質濃度の検出を行うことができる。
すなわち、本実施形態によれば、連続的に被検水中の臭気物質を抽出し、被検水中の臭気物質濃度を計測する臭気物質抽出装置を提供することができる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、第2実施形態および第3実施形態の臭気物質抽出装置における微細気泡生成装置14は、それぞれ他の実施形態においても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
2…熱交換器、4…ヒーター、6…ヒーターコントローラ、8…気液接触装置、10…除湿器、12A…臭気物質濃度計、13…演算装置、14…微細気泡生成装置、F1-F3…流量計、T1、T2、T3…温度センサ、P1、P4、P5…昇圧ポンプ、P2…エアポンプ、循環ポンプ、P3…返送ポンプ、M1…第1膜、M2…第2膜
図1
図2
図3
図4
図5