(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】組電池用熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/658 20140101AFI20250318BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20250318BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20250318BHJP
H01M 10/6555 20140101ALI20250318BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6555
(21)【出願番号】P 2022208735
(22)【出願日】2022-12-26
(62)【分割の表示】P 2021006044の分割
【原出願日】2021-01-18
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直己
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-204636(JP,A)
【文献】特開2019-083150(JP,A)
【文献】国際公開第2020/111042(WO,A1)
【文献】特開2020-072005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/52-10/667
H01M50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、前記電池セル間に介在される組電池用熱伝達抑制シートであって、
無機粒子及び無機繊維の少なくとも一方を含有する断熱材と、
前記断熱材の少なくとも一部を被覆する被覆材と、を有し、
前記断熱材と前記被覆材との間に、密閉された空隙部が形成されており、
かつ、前記断熱材の端面は解放されており、
前記被覆材は、60℃以上の温度で前記空隙部と前記被覆材の外部とを連通する連通口が形成されるように構成される、組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記断熱材に含有される前記無機粒子及び前記無機繊維の少なくとも一方は、加熱により水分を放出する材料を含む、請求項1に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記断熱材と前記被覆材とは、60℃以上の温度で溶融する接着剤により接着されている、請求項1又は2に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記被覆材は、60℃以上の温度で溶融する高分子フィルムから構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記被覆材は、金属板から構成され、前記断熱材と前記被覆材とが、60℃以上の温度で溶融する接着剤により接着されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記被覆材は、金属板から構成され、前記金属板同士が、60℃以上の温度で溶融する接着剤により接着されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記接着剤として、温度の上昇により複数の領域で段階的に溶融するように、前記複数の領域に、互いに異なる溶融温度を有する複数の接着剤が使用される、請求項3、5及び6のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記接着剤は、温度の上昇により複数の領域で段階的に溶融するように、前記複数の領域に、互いに異なる塗布量で塗布される、請求項3、5及び6のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項9】
複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池であって、請求項1~8のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シートが前記電池セル間に介在される、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車又はハイブリッド車などを駆動する電動モータの電源となる組電池に好適に用いられる組電池用熱伝達抑制シート及び該組電池用熱伝達抑制シートを用いた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられているが、電池の内部短絡や過充電などが原因で1つの電池セルに熱暴走が生じた場合(すなわち「異常時」の場合)、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池のような複数の蓄電素子間において、効果的な断熱を実現することができる蓄電装置が開示されている。上記特許文献1に記載の蓄電装置は、互いに隣り合う第一蓄電素子と第二蓄電素子との間に、第一板材及び第二板材が配置されたものである。また、第一板材と第二板材との間には、これら第一板材及び第二板材よりも熱伝導率が低い物質の層である低熱伝導層が形成されている。
【0005】
このように構成された特許文献1に係る蓄電装置において、第一蓄電素子から第二蓄電素子に向かう輻射熱、又は、第二蓄電素子から第一蓄電素子に向かう輻射熱は、第一板材及び第二板材によって遮断される。また、これら2枚の板材の一方から他方への熱の移動は、低熱伝導層によって抑制される。
【0006】
しかし、上記蓄電装置は、第一蓄電素子と第二蓄電素子との間に断熱層が設けられているのみであるため、充放電サイクル時に発熱する電池セルを効果的に冷却することができなかった。
【0007】
そこで、特許文献2には、異常時における各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、通常使用時における各電池セルを冷却することができる、組電池用吸熱シートが提案されている。上記特許文献2に記載の吸熱シートは、脱水温度が異なる物質を2種以上含有するものである。そして、上記2種以上の物質のうち、少なくとも1種は、電池セルの通常使用時において脱水可能であり、他の少なくとも1種は、電池セルの異常時において脱水可能となるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-211013号公報
【文献】特開2019-175806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、組電池化した電池セルに対し充放電サイクルを行う場合(すなわち「通常使用時」の場合)において、電池セルの充放電性能を十分に発揮させるためには、電池セル表面の温度を所定値以下(例えば、150℃以下)に維持する必要がある。
また、電池セルが、例えば200℃以上の温度となるような異常事態が発生した場合に、電池セルを効果的に冷却する必要がある。
このように、通常使用時に電池セル表面の温度を維持するとともに、高温となる異常時に効果的に冷却することができる熱伝達抑制手段については、近時、更なる改良が要求されている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、異常時における各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、通常使用時における各電池セルを冷却することができる、組電池用熱伝達抑制シート及び組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、組電池用熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0012】
[1] 複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池に使用され、前記電池セル間に介在される組電池用熱伝達抑制シートであって、
無機粒子及び無機繊維の少なくとも一方を含有する断熱材と、
前記断熱材の少なくとも一部を被覆する被覆材と、を有し、
前記断熱材と前記被覆材との間に、密閉された空隙部が形成されており、
前記被覆材は、60℃以上の温度で前記空隙部と前記被覆材の外部とを連通する連通口が形成されるように構成される、組電池用熱伝達抑制シート。
【0013】
また、組電池用熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[8]に関する。
【0014】
[2] 前記断熱材に含有される前記無機粒子及び前記無機繊維の少なくとも一方は、加熱により水分を放出する材料を含む、[1]に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0015】
[3] 前記断熱材と前記被覆材とは、60℃以上の温度で溶融する接着剤により接着されている、[1]又は[2]に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0016】
[4] 前記被覆材は、60℃以上の温度で溶融する高分子フィルムから構成される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0017】
[5] 前記被覆材は、金属板から構成され、前記断熱材と前記被覆材とが、60℃以上の温度で溶融する接着剤により接着されている、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0018】
[6] 前記被覆材は、金属板から構成され、前記金属板同士が、60℃以上の温度で溶融する接着剤により接着されている、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0019】
[7] 前記接着剤として、温度の上昇により複数の領域で段階的に溶融するように、前記複数の領域に、互いに異なる溶融温度を有する複数の接着剤が使用される、[3]、[5]及び[6]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0020】
[8] 前記接着剤は、温度の上昇により複数の領域で段階的に溶融するように、前記複数の領域に、互いに異なる塗布量で塗布される、[3]、[5]及び[6]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【0021】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[9]の構成により達成される。
【0022】
[9] 複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池であって、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シートが前記電池セル間に介在される組電池。
【発明の効果】
【0023】
本発明の組電池用熱伝達抑制シートは、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池に使用される熱伝達抑制シートにおいて、断熱材と被覆材との間に密閉された空隙部が形成されている。したがって、組電池の通常使用時に、断熱材から蒸発した水分を空隙部に滞留させることができ、このときの気化熱を利用することにより、電池セルを効果的に冷却することができる。
また、組電池の異常時に、空隙部と被覆材の外部とを連通する連通口が形成されるため、熱せられた蒸気が連通口を介して外部に放出される。したがって、各電池セル間の熱の伝播を抑制することができる。
【0024】
本発明の組電池は、上記熱伝達抑制シートを複数の電池セル間に介在させているため、通常使用時において、各電池セルを冷却することができるとともに、異常時において、電池セル間の熱の伝播を抑制することができ、熱暴走の連鎖を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに使用される断熱材を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの異常時の様子を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図8B】
図8Bは、本発明の第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの異常時の様子を模式的に示す断面図である。
【
図9A】
図9Aは、本発明の第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
【
図9B】
図9Bは、本発明の第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの異常時の様子を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1~第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに使用される断熱材の他の例を模式的に示す平面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第1~第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに使用される断熱材のさらに他の例を模式的に示す平面図である。
【
図12】
図12は、互いに異なる溶融温度を有する2種類の接着剤を使用した組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す平面図である。
【
図13】
図13は、互いに異なる溶融温度を有する2種類の接着剤を使用した組電池用熱伝達抑制シートの他の例を模式的に示す平面図である。
【
図14】
図14は、互いに異なる溶融温度を有する2種類の接着剤を使用した組電池用熱伝達抑制シートのさらに他の例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは、高温の熱が発生する異常時における各電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、比較的低温の熱が発生する通常使用時における各電池セルを冷却することができる、組電池用熱伝達抑制シートを提供するため、鋭意検討を行った。
【0027】
その結果、本発明者らは、通常使用時においては、断熱材と被覆材との間に密閉された空隙部が形成されており、60℃以上の温度で空隙部と被覆材の外部とを連通する連通口が形成されるように構成されることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0028】
すなわち、電池セルの温度が比較的低い通常使用時においては、密閉された空隙部が存在することにより、断熱材から蒸発した水分を空隙部に滞留させることができ、蒸発時の気化熱を利用することにより、電池セルを効果的に冷却することができる。
また、電池セルの温度が高温となる異常時においては、空隙部と被覆材の外部とを連通する連通口が形成され、熱せられた蒸気が連通口を介して外部に放出されるため、各電池セル間の熱の伝播を抑制することができる。
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
なお、以下において「~」とは、その下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0030】
[1.組電池用熱伝達抑制シート]
以下、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートについて、第1の実施形態から第6の実施形態まで順に説明する。その後、本実施形態に係る断熱材の他の例や、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを構成する断熱材、被覆材等について説明する。さらに、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの製造方法について説明する。
【0031】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。また、
図2は、第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに使用される断熱材を模式的に示す平面図である。以下、組電池用熱伝達抑制シート10を、単に熱伝達抑制シート10ということがある。
本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート10は、断熱材11と、断熱材11の主面となる表面11a及び裏面11bを被覆する被覆材12と、を有する。本実施形態において被覆材12は、断熱材11の端面11cを被覆していない。なお、断熱材11の表面11a及び裏面11bとは、後述するように、熱伝達抑制シート10と電池セルとが積層された場合において、電池セルに対向する面をいい、端面11cとは、熱伝達抑制シート10の厚さ方向に平行な4面をいう。
【0032】
断熱材11は、例えば、結晶水又は吸着水を含む無機粒子と無機繊維とを含有し、結晶水又は吸着水は、加熱により水分を放出する性質を有する。
図1及び
図2に示すように、断熱材11の表面11aには、複数の凹部13aが規則的に形成されており、凹部13aが形成されていない領域は、実質的に凸部13bを構成している。
凹部13aは、例えば平面視で長方形であり、
図2に示すように、長手方向が断熱材11の一辺に平行である凹部と、長手方向が断熱材11の一辺に直交する方向である凹部とが、交互に配列されている。
【0033】
また、被覆材12は、例えば60℃以上の温度で溶融する高分子フィルムであり、断熱材11の凸部13bと被覆材12とは、不図示の接着剤で接着されている。本実施形態においては、有機物質又は無機物質からなる接着剤を用いており、この接着剤は60℃以上で溶融する性質を有する。
なお、凹部13aが形成されている領域は、被覆材12と接触していないため、結果として断熱材11と被覆材12との間に空隙部14が形成されている。そして、空隙部14の周囲に位置する凸部13bと被覆材12とが接着されていることにより、空隙部14は、60℃未満の温度では、必ず密閉された状態となっている。
【0034】
図3は、第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。組電池100は、電池ケース30と、電池ケース30の内部に格納された複数の電池セル20と、これらの電池セル20間に介在された熱伝達抑制シート10と、を有する。複数の電池セル20同士は、不図示のバスバー等により、直列又は並列に接続されている。
なお、電池セル20は、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されず、その他の二次電池にも適用され得る。
【0035】
このように構成された熱伝達抑制シート10においては、通常使用時における電池セル20の温度範囲である、常温(20℃程度)から150℃程度までの比較的低温領域で温度が上昇すると、断熱材11にも熱が伝播する。本実施形態において、断熱材11は、結晶水又は吸着水を含む無機粒子を含有しており、結晶水又は吸着水は加熱により水分を放出する材料であるため、断熱材11が加熱されることにより、無機粒子から水分が蒸発する。そして、蒸発した水分のうち、一部は空隙部14に滞留し、他の一部は、熱伝達抑制シート10の端面11cから放出される。このとき、断熱材11は気化熱を奪われて冷却されるため、熱伝達抑制シート10が電池セル20を効果的に冷却することができる。
【0036】
なお、電池セル20が効果的に冷却された後、組電池100の使用(すなわち、充放電)が停止された場合には、空隙部14に滞留していた水蒸気は冷却されて水滴となり、時間の経過に伴って断熱材11内に吸収される。そして、次回使用時に、再度、断熱材11中の水分が蒸発することにより、断熱材11は気化熱を奪われて、電池セル20を冷却するというサイクルを繰り返す。
【0037】
図4は、第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの異常時の様子を模式的に示す断面図である。なお、断熱材11の表面11aでは、被覆材12の一部が溶融した状態を表し、裏面11bでは、温度の上昇により、被覆材12と、断熱材11とを接着する接着剤が溶融した状態を表す。
図4に示すように、異常時、例えば、電池セル20の温度が、例えば200℃以上に上昇すると、被覆材12は溶融し、空隙部14と外部とを連通する連通口15が形成される。また、高温でも溶融しない被覆材12を用いた場合であっても、接着剤が溶融すると、空隙部14と熱伝達抑制シート10の外部とを連通する連通口15が形成される。
【0038】
このように、連通口15が形成されると、無機粒子から蒸発し、空隙部14に滞留して高温となった蒸気は、連通口15を介して熱伝達抑制シート10の外部に放出される。したがって、電池セル20が熱暴走を引き起こした場合においても、各電池セル20間の熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【0039】
本実施形態において使用した高分子フィルム及び接着剤は、いずれも60℃以上の任意の温度で溶融する性質を有するものである。すなわち、使用する高分子フィルム及び接着剤の溶融温度未満の温度領域では、上記空隙部14は必ず密閉された状態となっている。高分子フィルム及び接着剤は、その種類によって種々の溶融温度を有するため、必要に応じて、60℃以上の範囲で所望の溶融温度を有する高分子フィルム又は接着剤を選択することができる。
【0040】
なお、空隙部14と被覆材12の外部とを連通する連通口が形成される温度は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
一方、空隙部14と被覆材12の外部とを連通する連通口が形成される温度の上限は特に規定しないが、500℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。
【0041】
<第2の実施形態>
図5は、第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
なお、以下の第2~第6の実施形態を示す
図5~
図9Bにおいて、上記第1の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略又は簡略化する。また、以下に示す実施形態は、全て、
図3に示す組電池100に記載の熱伝達抑制シート10に代えて使用することができるため、第2~第6の実施形態に係る熱伝達抑制シートを組電池100に適用したものとして、その効果等を説明する。
【0042】
第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート40は、断熱材11と、断熱材11の主面となる表面11a、裏面11b及び端面11cを被覆する被覆材12とを有する。本実施形態においては、断熱材11の端面11cにも凹部13a及び凸部13bが形成されている。すなわち、不図示の接着剤等で袋状に形成された被覆材12が、断熱材11の全面を被覆しており、断熱材11は被覆材12によって完全に密閉されている。
【0043】
このように構成された熱伝達抑制シート40においても、通常使用時に、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、第2の実施形態では、被覆材12によって断熱材11を完全に被覆しているため、通常使用時において断熱材11が加熱され、無機粒子から水分が蒸発した場合に、蒸発した全ての水分は空隙部14に滞留し、熱伝達抑制シート40から外部には放出されない。ただし、水分は蒸発するため、断熱材11は気化熱を奪われて冷却され、熱伝達抑制シート10が電池セル20を効果的に冷却することができる。
【0044】
また、第2の実施形態においては、蒸発した水分が外部に放出されないため、組電池の使用が停止された場合に、蒸発したほとんどの水分は、再度、断熱材11内に吸収される。したがって、第2の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート40によれば、電池セル20を冷却する効果を長期間維持することができる。
【0045】
さらに、異常時においては、被覆材12同士を接着している接着剤が溶融したり、被覆材12が溶融することにより、
図4に示す場合と同様に、空隙部14と外部との間に連通口15が形成されるため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
<第3の実施形態>
図6は、第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート50は、断熱材51と、断熱材51の表面51a及び裏面51bを被覆する被覆材52とを有する。本実施形態においては、第1の実施形態と同様に、被覆材52は、断熱材51の端面51cを被覆していない。
【0047】
第3の実施形態において、断熱材51の表面は平坦であり、凹部及び凸部は形成されていない。一方、被覆材52はフィルムを材料としており、その表面に凹凸加工が施され、断熱材51に対向する表面に凹部53a及び凸部53bが形成されている。そして、被覆材52の凸部53bと断熱材51とは、不図示の接着剤で接着されており、凹部53aと断熱材51との間には、密閉された空隙部14が形成されている。
【0048】
このように構成された熱伝達抑制シート50においても、通常使用時及び異常時において、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、第3の実施形態で示す被覆材52を用いて、断熱材51の全面を被覆するように熱伝達抑制シートを構成することにより、上記第2の実施形態と同様に、電池セル20を冷却する効果を長期間維持することができる。
【0049】
<第4の実施形態>
図7は、第4の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。
第4の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート60は、断熱材11と、断熱材11の全面を被覆する被覆材52とを有する。本実施形態において、断熱材11には凹部13a及び凸部13bが形成されている。また、被覆材にも、断熱材11に対向する表面に、断熱材11から離隔する方向に凹む凹部53aと、断熱材11に向かって突出する形状の凸部53bとが形成されている。そして、被覆材52の凸部53bと断熱材11の凸部13bとは、不図示の接着剤で接着されており、被覆材52の凹部53aと断熱材11の凹部13aとの間には、密閉された空隙部14が形成されている。
【0050】
このように構成された熱伝達抑制シート60においても、通常使用時及び異常時において、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、凹部13aと凹部53aとにより空隙部14を構成するため、第2や第3の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに比べ、空隙部14の体積が増加する。したがって、断熱材11から水分が蒸発しやすくなり、通常使用時において、電池セル20を冷却する効果をより一層向上させることができる。
【0051】
なお、第4の実施形態では、被覆材52は断熱材11の端面11cまで覆う構成としているが、上記第1の実施形態と同様に、断熱材11の端面11cは解放されていてもよい。端面11cを解放させることにより、通常使用時において、蒸発した水分の一部が外部に放出されるため、断熱材11内の水分がより蒸発しやすくなり、気化熱による冷却効果を高めることができる。
また、異常時において、高温で溶融しない被覆材52を用いた場合であっても、接着剤が溶融すると、空隙部14と熱伝達抑制シート60の外部とを連通する連通口15が形成されるため、電池セル20を冷却する効果を得ることができる。
【0052】
<第5の実施形態>
図8Aは、第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。また、
図8Bは、第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの異常時の様子を模式的に示す断面図である。
第5の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート70は、断熱材11と、断熱材11の表面11a及び裏面11bを被覆する被覆材72とを有する。本実施形態においては、第1の実施形態の場合と異なり、被覆材として、金属を材料とした被覆材(金属板)72を用いている。そして、断熱材11の凸部13bと金属製の被覆材72とは、不図示の接着剤で接着されており、断熱材11の凹部13aと被覆材72との間には、密閉された空隙部14が形成されている。
【0053】
このように構成された熱伝達抑制シート70においても、通常使用時において、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、
図8Bに示すように、異常時においては、断熱材11の凸部13bと被覆材72とを接着していた接着剤が溶融し、断熱材11から被覆材72が剥離する。したがって、空隙部14と熱伝達抑制シート70の外部とを連通する連通口15が形成されるため、電池セル20を効果的に冷却することができる。
【0054】
<第6の実施形態>
図9Aは、第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す断面図である。また、
図9Bは、第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの異常時の様子を模式的に示す断面図である。
第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート80は、断熱材11の表面11a及び裏面11bのみでなく、端面11cも金属製の被覆材(金属板)82で被覆されている。すなわち、本実施形態においては、断熱材11の表面11a、裏面11b及び4方向の端面11cの全ての面が複数の被覆材82で被覆され、被覆材同士も不図示の接着剤で接着されている。
【0055】
このように構成された熱伝達抑制シート80においても、通常使用時において、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、
図9Bに示すように、異常時においては、断熱材11の凸部13bと被覆材82とを接着していた接着剤が溶融して、断熱材11と被覆材82とが離隔される。これと同時に、被覆材82同士を接着していた接着剤も溶融し、各被覆材82が分離する。これにより、空隙部14と熱伝達抑制シート80の外部とを連通する連通口15が形成され、電池セル20を効果的に冷却することができる。
【0056】
なお、上記第6の実施形態においては、断熱材11の表面11a、裏面11b及び端面11cを複数の被覆材82で被覆し、被覆材82同士を接着剤で接着したが、本発明は、1枚の金属製シートを利用するものでもよい。例えば、半分に折り畳まれた1枚の金属製シートの間に断熱材11を挟み、端面11cの近傍において、断熱材11の表面11a側を覆う金属製シートと、裏面11b側を覆う金属製シートとが接触する領域を接着剤で接着したものを使用することができる。このような構成であっても、上記第6の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0057】
以上、第1~第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートについて順に説明した。続いて、第1~第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに使用される断熱材の他の例を示す。
【0058】
<断熱材の他の例>
図10は、第1~第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに使用される断熱材の他の例を模式的に示す平面図である。なお、上記第1~第6の実施形態においては、
図2に示す断熱材11を使用した例を挙げたが、断熱材の形状は特に限定されない。
図10に示すように、断熱材21の表面21aには、複数の凹部13aが規則的に形成されており、凹部13aが形成されていない領域は、実質的に凸部13bを構成している。
本実施形態において凹部13aは、例えば平面視で長方形であり、全ての凹部13aは、その長手方向が断熱材21の一辺に平行となるように配列されている。
このように構成された断熱材21についても、上記第1~第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに適用することができ、上記第1~第6の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
<断熱材のさらに他の例>
図11は、第1~第6の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに使用される断熱材のさらに他の例を模式的に示す平面図である。
図2に示す断熱材11及び
図10に示す断熱材21においては、全ての凹部13aが被覆材により密閉される構造となっていたが、本発明はこれに限定されない。
図11に示すように、断熱材31の表面31aには、複数の凹部13aが規則的に形成されており、凹部13aが形成されていない領域は、実質的に凸部13bを構成している。ただし、断熱材31の端面31cの近傍に形成された凹部13cは、断熱材31の端面31cまで到達している。
【0060】
例えば、第1の実施形態における断熱材11を、上記断熱材31に代えた場合に、断熱材31の端面31cの近傍に形成された凹部13cは、密閉された空隙部を構成しない。しかし、一部の凹部13aと被覆材12との間には、密閉された空隙部が構成されるため、上記第1~第6の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
次に、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを構成する断熱材、被覆材、接着剤及び熱伝達抑制シートの厚さについて、詳細に説明する。
【0062】
<断熱材>
本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートに用いられる断熱材は、無機粒子及び無機繊維の少なくとも一方を含有する。
無機粒子としては、無機水和物又は含水多孔質体であることが好ましい。無機水和物は、電池セル20からの熱を受け、熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出することにより、電池セル20を冷却する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により、効果的な断熱作用を得ることができる。
また、無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機水和物粒子を組み合わせて使用してもよい。無機水和物は種類により熱分解開始温度が異なるため、2種以上の無機水和物粒子を併用することにより、電池セル20を多段に冷却することができる。
【0063】
無機水和物の具体例としては、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)、水酸化鉄(Fe(OH)2)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)2)、水酸化ガリウム(Ga(OH)3)等が挙げられる。
また、繊維状の無機水和物として、繊維状ケイ酸カルシウム水和物等が挙げられる。
【0064】
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、セピオライト、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0065】
さらに、無機繊維としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリケート繊維、ロックウール、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維等が挙げられる。これらの無機繊維のうち、マグネシウムシリケート繊維は、加熱により水分を放出する材料として、好適に使用することができる。
なお、無機繊維についても、単一の無機繊維を使用してもよいし、2種以上の無機繊維を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
断熱材には、上記無機粒子及び無機繊維の他に、必要に応じて、有機繊維や有機バインダ等を配合することができる。これらは、いずれも断熱材の補強や成形性の向上を目的とする上で有用である。
【0067】
なお、断熱材に含有される無機粒子及び無機繊維は、必ずしも加熱により水分を放出する材料を含むものである必要はない。断熱材の製造時には、必然的に若干量の水分が含まれるため、通常使用時及び異常時に、電池セル20の温度が上昇した場合に、断熱材に含まれる水分が蒸発することにより、電池セル20を冷却する効果を得ることができる。
【0068】
本実施形態において、断熱材は無機粒子及び無機繊維の少なくとも一方を含有すればよいが、熱伝達抑制シートの全質量に対して、無機粒子の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、無機繊維の含有量は、5質量%以上70質量%以下であることが好ましい。このような含有量にすることにより、無機繊維によって、保形性、押圧力耐性及び抗風圧性を向上させることができるとともに、無機粒子の保持能力を確保することができる。
【0069】
本実施形態に係る熱伝達抑制シートには、必要に応じて、有機繊維や有機バインダ等を配合することができる。これらはいずれも熱伝達抑制シートの補強や成形性の向上を目的とする上で有用である。
【0070】
<被覆材>
被覆材としては、高分子フィルム、又は金属製のフィルム(金属板)を使用することができる。
高分子フィルムとしては、ポリイミド、ポリカーボネート、PET、p-フェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、架橋ポリエチレン、難燃クロロプレンゴム、ポリビニルデンフロライド、硬質塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、PTFE、PFA、FEP、ETFE、硬質PCV、難燃性PET、ポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等が挙げられる。
【0071】
本発明において、被覆材は、60℃以上の温度で空隙部と被覆材の外部とを連通する連通口が形成されるように構成される。上述のとおり、連通口が形成される形態としては、被覆材として使用した高分子フィルムが溶融する形態、又は被覆材同士もしくは被覆材と断熱材とを接着している接着剤が溶融する形態が挙げられる。
60℃以上の温度で空隙部と被覆材の外部とを連通する連通口が形成されるには、例えば、高分子フィルムが、60℃以上の任意の温度で溶融すればよい。上記高分子フィルムの融点は、60℃~600℃であるため、被覆材(高分子フィルム)は、60℃未満の温度で空隙部を必ず密閉することができるとともに、60℃以上のいずれかの温度で連通口を形成することができる。
【0072】
なお、本実施形態において、被覆材として高分子フィルムを用いる場合に、高分子フィルムの溶融温度は、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
一方、高分子フィルムの溶融温度は、500℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。
【0073】
また、金属製のフィルムとしては、アルミ箔、ステンレス箔、銅箔等が挙げられる。
【0074】
<接着剤>
本実施形態においては、断熱材と被覆材との間に形成された空隙部を密閉する方法として、断熱材と被覆材とを接着する方法、又は被覆材同士を接着する方法を適用することができる。
断熱材と被覆材とを接着する接着剤としては、ウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル、塩化ビニル、ビニロン、アクリル樹脂、シリコーン等を原料とするものが挙げられる。
なお、上記接着剤は、被覆材同士を接着する接着剤として、適用することもできる。
【0075】
本実施形態において、60℃以上の温度で溶融しない被覆材を用いた場合であっても、例えば、被覆材同士又は被覆材と断熱材とを接着する接着剤の溶融温度が、60℃以上であればよい。すなわち、60℃以上の温度で接着剤が溶融すれば、被覆材は60℃未満の温度で空隙部を必ず密閉することができるとともに、60℃以上のいずれかの温度で、空隙部と被覆材の外部とを連通する連通口を形成することができる。
【0076】
この場合に、接着剤の溶融温度は、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
一方、接着剤の溶融温度は、500℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。
【0077】
また、断熱材と被覆材との間に形成された空隙部を密閉する方法として、断熱材全体を被覆材により被覆する方法を適用することもできる。
断熱材全体を被覆材により被覆する方法としては、ラミネート(ドライラミネート、サーマルラミネート)、パウチラミネート、真空パック、真空ラミネート、シュリンク包装、キャラメル包装等が挙げられる。
【0078】
なお、断熱材と被覆材、又は被覆材同士を接着する接着剤として、温度の上昇により複数の領域で段階的に溶融するように、互いに異なる溶融温度を有する複数の接着剤を使用してもよい。複数の接着剤を使用する例について、図面を参照して以下に説明する。なお、下記
図12~
図14に示す例は、
図1及び
図2に示す第1の実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シート10の変形例である。
【0079】
図12は、互いに異なる溶融温度を有する2種類の接着剤を使用した組電池用熱伝達抑制シートを模式的に示す平面図である。
図12に示すように、組電池用熱伝達抑制シート110において、断熱材11の凸部13bの領域のうち、端面近傍の周縁部には接着剤16bが使用され、この周縁部よりも内側の領域には接着剤16aが使用されている。接着剤16aと接着剤16bとは、互いに異なる溶融温度を有し、具体的には、接着剤16bの溶融温度が、接着剤16aの溶融温度よりも高くなるように設計されている。また、被覆材の溶融温度は、接着剤16bの溶融温度よりも高くなるように設計されている。
【0080】
このように構成された熱伝達抑制シート110においては、第1段階として、接着剤16aの溶融温度未満の温度では、各凹部13aと被覆材との間の空隙部は密閉されている。したがって、断熱材11が加熱され、無機粒子から水分が蒸発した場合に、蒸発した全ての水分は空隙部に滞留し、熱伝達抑制シート110から外部には放出されないが、水分の蒸発により、断熱材11は気化熱を奪われて冷却される。
【0081】
その後、第2段階として、さらに電池セルの温度が上昇し、接着剤16aの溶融温度以上、接着剤16bの溶融温度未満になると、接着剤16aにより接着されていた領域が離隔され、空隙部の体積が増加するため、断熱材11から水分が蒸発しやすくなる。また、加熱された蒸気は、一定の位置に滞留せず、第1段階よりも広い領域を移動することができるため、熱伝達抑制シート110が電池セルを効果的に冷却することができる。
【0082】
さらにその後、第3段階として、電池セルの温度が接着剤16bの溶融温度以上になると、接着剤16bにより接着されていた領域が離隔され、空隙部と熱伝達抑制シート110の外部とを連通する連通口が形成される。その結果、接着剤16bの領域よりも内側に滞留していた高温の蒸気は一度に放出される。したがって、電池セルが熱暴走を引き起こした場合においても、電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【0083】
図13は、互いに異なる溶融温度を有する2種類の接着剤を使用した組電池用熱伝達抑制シートの他の例を模式的に示す平面図である。
図13に示すように、熱伝達抑制シート120においては、
図12に示す熱伝達抑制シート110と同様に、断熱材11の凸部13bの領域のうち、周縁部に、溶融温度がより高い接着剤16bが使用されている。但し、周縁部の一部分のみに、内側の領域と同一の、溶融温度がより低い接着剤16aが使用されている。
【0084】
このように構成された熱伝達抑制シート120においては、第1段階として、接着剤16aの溶融温度未満の温度では、凹部13aと被覆材12との間の空隙部は密閉されている。したがって、
図12に示す熱伝達抑制シート110と同様に、断熱材11から空隙部に向けて水分が蒸発し、断熱材11は気化熱を奪われて冷却される。
【0085】
その後、第2段階として、さらに電池セルの温度が上昇し、接着剤16aの溶融温度以上になると、接着剤16aにより接着されていた領域が離隔されるため、断熱材11から水分が蒸発しやすくなる。また、周縁部の一部分のみに、溶融温度が低い接着剤16aが使用されているため、この領域が空隙部と熱伝達抑制シート110の外部とを連通する連通口となる。したがって、
図13中に矢印で示すように、高温の蒸気は連通口から放出されるため、電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【0086】
なお、
図13に示すように、周縁部の一部分のみに、内側の領域と同一の溶融温度がより低い接着剤16aが使用されていると、高温の蒸気(水分)が放出される位置を容易にコントロールすることができる。したがって、組電池内において、所定の部品への被水を抑制することができる。
【0087】
図14は、互いに異なる溶融温度を有する2種類の接着剤を使用した組電池用熱伝達抑制シートのさらに他の例を模式的に示す平面図である。
図14に示すように、熱伝達抑制シート130においては、
図13に示す熱伝達抑制シート120と同様に、断熱材11の凸部13bの領域のうち、周縁部に、溶融温度が高い接着剤16bが使用されている。但し、周縁部の一部分のみに、溶融温度が低い接着剤16aが使用されており、この領域が高温時に連通口となる。また、接着剤16bが使用されている領域よりも内側において、周縁部に対して所定の間隔で離隔した領域に、接着剤16bと同一の溶融温度を有する接着剤16cが使用されている。なお、接着剤16cが使用されている領域についても、上記連通口となる領域の対辺側に、部分的に低い溶融温度を有する接着剤16aが使用されている。
【0088】
このように構成された熱伝達抑制シート130において、第1段階は上記
図13に示す熱伝達抑制シート120と同様に、断熱材11から空隙部に向けて水分が蒸発し、断熱材11は気化熱を奪われて冷却される。
その後、第2段階として、接着剤16aが溶融すると、
図14中に矢印で示すように、水分の放出経路が形成される。その結果、高温の蒸気は放出経路にしたがって移動し、連通口を介して外部に放出されるため、より一層冷却効果を向上させることができる。
なお、接着剤16a、接着剤16b及び接着剤16cは、全て異なる溶融温度を有するものであってもよく、各接着剤を使用する領域についても、目的に応じて任意に決定することができる。
【0089】
上述のとおり、
図12~
図14に示す熱伝達抑制シート110、120、130は、電池セルの温度の上昇によって、複数の領域で接着剤が段階的に溶融するように設計されている。
したがって、空隙部に滞留した蒸気が放出するタイミングを調整したり、任意の位置に蒸気の放出口を設けたり、任意の放出経路を設けることが可能となる。
【0090】
なお、上記のような効果を得るためには、温度の上昇により複数の領域で接着剤が段階的に溶融するように設計すればよく、互いに異なる溶融温度を有する接着剤を使用する方法の他に、複数の領域に互いに異なる塗布量で接着剤を塗布する等の方法を用いることができる。
また、
図12~
図14では、断熱材11の表面側及び裏面側に被覆材が接着されている熱伝達抑制シートにおいて、断熱材11と被覆材とを接着する接着剤が段階的に溶融する場合について説明したが、本発明はこのような場合に限定されない。例えば、断熱材11が被覆材によって完全に被覆されている構成であっても、接着剤の溶融温度又は塗布量を領域によって調整する方法を適用することができる。具体的には、断熱材11の端面近傍において、被覆材同士が接着されている場合には、被覆材同士を接着する接着剤の溶融温度を高く設定し、断熱材11と被覆材とを接着する接着剤の溶融温度を低く設定することにより、熱伝達抑制シート110と同様の効果を得ることができる。
【0091】
<熱伝達抑制シートの厚さ>
本実施形態において、熱伝達抑制シートの厚さは特に限定されないが、0.05~6mmの範囲にあることが好ましい。熱伝達抑制シートの厚さが0.05mm未満であると、充分な機械的強度を熱伝達抑制シートに付与することができない。一方、熱伝達抑制シートの厚さが6mmを超えると、熱伝達抑制シートの成形自体が困難となるおそれがある。
【0092】
続いて、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートの製造方法について説明する。
【0093】
<熱伝達抑制シートの製造方法>
本実施形態に係る熱伝達抑制シートに用いられる断熱材は、例えば、無機粒子及び無機繊維の少なくとも一方を含む材料を、乾式成形法又は湿式成形法により型成形して製造することができる。乾式成形法については、例えばプレス成形法(乾式プレス成形法)及び押出成形法(乾式押出成形法)を使用することができる。
【0094】
(乾式プレス成形法を用いた断熱材の製造方法)
乾式プレス成形法では、無機粒子及び無機繊維、ならびに必要に応じて有機繊維、有機バインダ等を所定の割合でV型混合機等の混合機に投入する。そして、混合機に投入された材料を充分に混合した後、この混合物を所定の型内に投入し、プレス成形することにより、断熱材を得ることができる。プレス成形時に、必要に応じて加熱してもよい。
凹部及び凸部を有する断熱材は、例えば、プレス成形時に、凹凸を有する型を用いて押圧する方法により形成することができる。
【0095】
なお、プレス成形時のプレス圧は、0.98MPa以上9.80MPa以下の範囲であることが好ましい。プレス圧が0.98MPa未満であると、得られる断熱材の強度を確保することができずに、崩れてしまうおそれがある。一方、プレス圧が9.80MPaを超えると、過度の圧縮によって加工性が低下したり、かさ密度が高くなるため固体伝熱が増加し、断熱性が低下するおそれがある。
【0096】
また、乾式プレス成形法を用いる場合には、有機バインダとしてエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA:Ethylene-Vinylacetate copolymer)を使用することが好ましいが、乾式プレス成形法を用いる場合に一般的に使用される有機バインダであれば、特に限定されずに使用することができる。
【0097】
(乾式押出成形法を用いた断熱材の製造方法)
乾式押出成形法では、無機粒子及び無機繊維、ならびに必要に応じて結合材である有機繊維及び有機バインダ等に水を加え、混練機で混練することにより、ペーストを調製する。その後、得られたペーストを、押出成形機を用いてスリット状のノズルから押出し、更に乾燥させることにより、断熱材を得ることができる。乾式押出成形法を用いる場合には、有機バインダとしてメチルセルロース及び水溶性セルロースエーテル等を使用することが好ましいが、乾式押出成形法を用いる場合に一般的に使用される有機バインダであれば、特に限定されずに使用することができる。
なお、凹部及び凸部を有する断熱材を乾式押出成形法により製造する方法としては、例えば、スリット状のノズルから押し出した後の乾燥前のシートの表面を所望の凹凸形状に切削する等の方法を挙げることができる。
【0098】
(湿式成形法を用いた断熱材の製造方法)
湿式成形法では、無機粒子及び無機繊維、ならびに必要に応じて結合材である有機バインダを水中で混合し、撹拌機で撹拌することにより、混合液を調製する。その後、得られた混合液を、底面に濾過用のメッシュが形成された成形器に流し込み、メッシュを介して混合液を脱水することにより、湿潤シートを作製する。その後、得られた湿潤シートを加熱するとともに加圧することにより、断熱材を得ることができる。
なお、加熱及び加圧工程の前に、湿潤シートに熱風を通気させて、シートを乾燥する通気乾燥処理を実施してもよいが、この通気乾燥処理を実施せず、湿潤した状態で加熱及び加圧してもよい。
また、湿式成形法を用いる場合には、有機バインダとして、ポリビニルアルコール(PVA:PolyVinyl Alcohol)を用いたアクリルエマルジョンを選択することができる。
凹部及び凸部を有する断熱材を湿式成形法により製造する方法としては、例えば、加熱及び加圧の前に、湿潤シートに対して、凹凸を有する型を用いてプレス成形する方法を挙げることができる。
【0099】
(被覆材の製造方法)
凹部及び凸部を有する被覆材を製造する方法としては、所望の厚さに製造された汎用の上記高分子フィルム、又は金属製のフィルムを使用することができ、凹凸を有する型を用いてプレス成形する方法を挙げることができる。
【0100】
(熱伝達抑制シートの製造方法)
本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、例えば、上記のようにして得られた断熱材又は被覆材に接着剤を塗布し、断熱材と被覆材とを接着することにより、製造することができる。
また、断熱材全体を被覆材により被覆する方法としては、例えば、断熱材の表面よりも大きく切断された2枚の被覆材の間、又は折り畳まれた被覆材の間に断熱材を挟み、断熱材の周囲において、被覆材同士を熱圧着又は接着剤により接着する方法を挙げることができる。
【0101】
[2.組電池]
本実施形態に係る組電池は、複数の電池セルが直列又は並列に接続される組電池であって、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートが、電池セル間に介在されたものである。具体的には、例えば、
図3に示すように、組電池100は、複数個の電池セル20を並設し、直列又は並列に接続して電池ケース30に収容したものであり、電池セル20間に、熱伝達抑制シート10が介在されている。
【0102】
このような組電池100では、各電池セル20間に、熱伝達抑制シート10が介在されているため、通常使用時において、各電池セル20を冷却することができる。
また、複数の電池セル20のうち、一つの電池セルが熱暴走して高温になり、膨張したり発火したりした場合でも、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10が存在することにより、電池セル20間の熱の伝播を抑制することができる。したがって、熱暴走の連鎖を阻止することができ、電池セル20への悪影響を最小限に抑えることができる。
【符号の説明】
【0103】
10,40,50,60,70,80,110,120,130 組電池用熱伝達抑制シート
11,21,31,51 断熱材
12,52,72,82 被覆材
13a,13c,53a 凹部
13b,53b 凸部
14 空隙部
15 連通口
20 電池セル
30 電池ケース
100 組電池