(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】電気化学装置、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20250318BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20250318BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20250318BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20250318BHJP
H01M 8/0286 20160101ALI20250318BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20250318BHJP
C25B 9/60 20210101ALN20250318BHJP
C25B 13/04 20210101ALN20250318BHJP
C25B 13/05 20210101ALN20250318BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0215
H01M8/0273
H01M8/0286
H01M8/12 101
C25B9/60
C25B13/04 302
C25B13/05
(21)【出願番号】P 2022579511
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2022003379
(87)【国際公開番号】W WO2022168760
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021016421
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
(72)【発明者】
【氏名】浅山 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正人
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌平
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502479(JP,A)
【文献】特開平07-153469(JP,A)
【文献】特開平07-045291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C25B 1/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素極と酸素極との間に電解質膜が介在している電気化学セルと、
金属材料で形成された複数のセパレータと、
前記電気化学セルと前記セパレータとの間および前記複数のセパレータの間の少なくとも一方を密封するためのガスシール材と
を有する電気化学装置であって、
前記セパレータを構成する金属材料の金属元素が拡散することを防止するための拡散防止コーティングが、前記セパレータの表面を被覆しており、
前記拡散防止コーティングは、前記ガスシール材を構成する材料と反応する材料で形成されており、
前記セパレータと前記ガスシール材とが直接的に接触する部分を含む、
電気化学装置。
【請求項2】
前記セパレータは、
第1のセパレータと、
前記第1のセパレータに積層された第2のセパレータと
を含み、
前記拡散防止コーティングは、
前記第1のセパレータの表面に形成された第1の拡散防止コーティングと、
前記第2のセパレータの表面に形成された第2の拡散防止コーティングと
を含み、
前記第1の拡散防止コーティングは、
前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとが積層する積層方向において、前記第1の拡散防止コーティングを貫通するように形成された第1貫通口
を有し、
前記第2の拡散防止コーティングは、前記積層方向において前記第2の拡散防止コーティングを貫通すると共に、前記積層方向において前記第1貫通口に対向するように形成された第2貫通口
を有し、
前記ガスシール材は、前記第1貫通口および前記第2貫通口の内部において、前記第1のセパレータの表面および前記第2のセパレータの表面に直接的に接触するように形成されている、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
水素極と酸素極との間に電解質膜が介在している電気化学セルと、
金属材料で形成された複数のセパレータと、
前記電気化学セルと前記セパレータとの間および前記複数のセパレータの間の少なくとも一方を密封するためのガスシール材と
を有する電気化学装置であって、
前記セパレータを構成する金属材料の金属元素が拡散することを防止するための拡散防止コーティングが、前記セパレータの表面を被覆しており、
前記拡散防止コーティングは、前記ガスシール材を構成する材料と反応する材料で形成されており、
前記拡散防止コーティングと前記ガスシール材との間には、前記拡散防止コーティングと前記ガスシール材との間の反応を防止する反応防止層が介在している
電気化学装置。
【請求項4】
前記拡散防止コーティングは、Co、Mn、Cu、Ni、Feの酸化物のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする、
請求項1から3のいずれかに記載の電気化学装置。
【請求項5】
請求項2に記載の電気化学装置の製造方法であって、
前記第1のセパレータの表面において前記第1貫通口が形成される領域に第1マスク層を形成すると共に、前記第2のセパレータの表面において前記第2貫通口が形成される領域に第2マスク層を形成する、マスク層形成工程と
前記第1マスク層が形成された前記第1のセパレータの表面に前記第1の拡散防止コーティングを形成すると共に、前記第2マスク層が形成された前記第2のセパレータの表面に前記第2の拡散防止コーティングを形成する、拡散防止コーティング形成工程と、
前記第1の拡散防止コーティングが形成された前記第1のセパレータの表面から前記第1マスク層を除去することによって前記第1貫通口を形成すると共に、前記第2の拡散防止コーティングが形成された前記第2のセパレータの表面から前記第2マスク層を除去することによって前記第2貫通口を形成する、マスク層除去工程と、
前記ガスシール材が前記第1の拡散防止コーティングの表面から突き出た部分を含むように、前記ガスシール材を前記第1貫通口の内部に形成する、ガスシール材形成工程と、
前記第1貫通口の内部に形成された前記ガスシール材が前記第2貫通口に収容されるように、前記第1のセパレータに前記第2のセパレータを積層する、セパレータ積層工程と
を有する、
電気化学装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気化学装置、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学装置は、水素エネルギーに関する装置であって、水素極(燃料極)と酸素極(空気極)とが電解質膜を挟んで構成されている電気化学セルを有している。
【0003】
電気化学セルは、使用の温度域や構成材料および燃料の種類に応じて、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などに分類される。このうち、固体酸化物型電気化学セルは、効率などの観点から注目されている。
【0004】
固体酸化物型電気化学セルは、固体酸化物を電解質膜に用いており、固体酸化物型燃料電池(SOFC;Solid Oxide Fuel Cell)または固体酸化物型電解セル(SOEC;Solid Oxide Electrolysis Cell)として利用可能である。
【0005】
固体酸化物型電気化学セルがSOFCとして使用される場合には、高温条件下において、たとえば、水素極に供給された水素と、酸素極に供給された酸素(空気中の酸素を含む)とが、電解質膜を介して反応することで、電気エネルギーが得られる。これに対して、固体酸化物型電気化学セルがSOECとして使用される場合には、たとえば、高温条件下で水(水蒸気)が電気分解されることによって、水素極において水素が発生し、酸素極において酸素が発生する。
【0006】
一般に、電気化学装置は、出力の向上のために、複数の電気化学セルが電気的に直列に接続するように積層された電気化学セルスタックによって構成されている。電気化学セルスタックは、複数のセパレータを含む。セパレータは、たとえば、水素の流路、および、酸素の流路が形成されている。また、セパレータは、たとえば、導電性であって、積層する複数の電気化学セルの間を電気的に接続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-170109
【文献】特開2019-185883
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[A]構成
図7は、関連技術に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【0009】
図7に示すように、電気化学装置1Jは、電気化学セル10とセパレータ21,22,23,24とガスシール材31,32,33とを有する。
【0010】
図示を省略しているが、電気化学装置1Jは、平板型の電気化学セルスタックであって、
図7では、電気化学セルスタックを構成する複数の電気化学セル10のうち一の電気化学セル10が設けられた部分を示している。
【0011】
以下より、電気化学装置1Jを構成する各部の詳細について説明する。
【0012】
[A-1]電気化学セル10
電気化学セル10は、
図7に示すように、支持体11と水素極12と電解質膜13と酸素極14とを有し、支持体11の上面において電解質膜13が水素極12と酸素極14との間に介在するように構成されている。電気化学セル10は、水素極支持型(燃料極支持型)であって、支持体11の上面に水素極12と電解質膜13と酸素極14とを順次積層することによって形成される。
【0013】
電気化学セル10において、支持体11は、多孔質の電気伝導体で構成されている。
【0014】
水素極12は、多孔質の電気伝導体で構成されている。水素極12は、たとえば、Ni-YSZ(イットリア安定化ジルコニア)などで形成されている。
【0015】
電解質膜13は、水素極12および酸素極14よりも緻密であって、電気を伝導せずにイオンを伝導するイオン伝導体で構成されている。電解質膜13は、たとえば、動作温度において酸素イオン(O2-)が透過する固体酸化物である安定化ジルコニアなどで形成されている。
【0016】
酸素極14は、多孔質の電気伝導体で構成されている。酸素極14は、たとえば、ペロブスカイト型酸化物などで形成されている。
【0017】
[A-2]セパレータ21,22,23,24
セパレータ21,22,23,24は、
図7に示すように、積み重ねられている。つまり、セパレータ21の上方にセパレータ22が積層され、セパレータ22の上方にセパレータ23が積層され、セパレータ23の上方にセパレータ24が積層されている。セパレータ21,22,23,24は、たとえば、金属材料で形成されている。
【0018】
複数のセパレータ21,22,23,24のうち、セパレータ21は、平板であって、上面において中央部分に電気化学セル10が設置されている。セパレータ22は、積層方向に貫通した内部空間SP22を中央部分に含む平板であって、電気化学セル10において支持体11と水素極12と電解質膜13とが積層した部分を内部空間SP22で収容している。セパレータ23は、積層方向に貫通した内部空間SP23を中央部分に含む平板(隔て板)であって、電気化学セル10の酸素極14を内部空間SP23で収容している。セパレータ24は、平板であって、セパレータ22の内部空間SP22およびセパレータ23の内部空間SP23を介して、セパレータ24の下面がセパレータ21の上面に対面する部分を含む。
【0019】
複数のセパレータ21,22,23,24のそれぞれの表面には、拡散防止コーティング211,221,231,241が被覆されている。ここでは、施工性の観点から、セパレータ21,22,23,24において露出する全ての表面を被覆するように、拡散防止コーティング211,221,231,241が設けられている。
【0020】
拡散防止コーティング211,221,231,241は、セパレータ21,22,23,24を構成する金属材料の金属元素(Crなど)が拡散し、電気化学セル10に対して悪影響を及ぼすことを防止するために設けられている。具体的には、セパレータ21,22,23,24を構成する金属材料の金属元素(Crなど)が金属表面から蒸発し、電気化学セル10の性能が低下することを、拡散防止コーティング211,221,231,241が抑制する。
【0021】
拡散防止コーティング211,221,231は、たとえば、Co、Mn、Cu、Ni、Feの酸化物のうち少なくとも1つを含む材料を用いて形成されている。ここでは、スピネルやペロブスカイトなどの酸化物を用いて、拡散防止コーティング211,221,231が形成されている。
【0022】
[A-3]ガスシール材31,32,33
ガスシール材31,32,33は、
図7に示すように、板状体であって、ガラスやマイカなどの材料で形成されている。ガスシール材31,32,33を構成する材料は、高い運転温度(600~1000℃)で安定に使用可能であること、熱膨張係数が接合部材と同様であること、絶縁性であることなどの条件を満たす必要がある。
【0023】
ここでは、ガスシール材31,32,33は、積層している複数のセパレータ21,22,23,24のそれぞれの間に介在している。具体的には、ガスシール材31は、セパレータ21とセパレータ22との間に介在し、ガスシール材32は、セパレータ22とセパレータ23との間に介在し、ガスシール材33は、セパレータ23とセパレータ24との間に介在している。また、ガスシール材32は、セパレータ23の下面と、電気化学セル10の電解質膜13の上面との間に介在している。ガスシール材31,32,33は、複数のセパレータ21,22,23,24のそれぞれの間を密封すると共に、それぞれの間を電気的な絶縁状態にしている。
【0024】
[A-4]ガス流路40
図7に示すように、電気化学装置1Jには、ガス流路40が形成されている。ガス流路40は、積層方向においてセパレータ21,22,23,24およびガスシール材31,32,33を貫通するように、電気化学セル10の側部に形成されている。
【0025】
ガス流路40は、電気化学セル10の水素極12を流れる水素極ガスの流路または電気化学セル10の酸素極14を流れる酸素極ガスの流路である。水素極ガスは、水素極12での反応に用いられるガスおよび水素極12での反応で生じたガスである。酸素極ガスは、酸素極14での反応に用いられるガスおよび酸素極14での反応で生じたガスである。
【0026】
[B]課題
上記したように、複数のセパレータ21,22,23,24のそれぞれの表面には、拡散防止コーティング211,221,231,241が被覆されている。拡散防止コーティング211,221,231,241は、
図7に示すように、ガスシール材31,32,33と接触する部分を含む。
【0027】
拡散防止コーティング211,221,231,241を構成する材料と、ガスシール材31,32,33を構成する材料との間においては、反応が発生する場合がある。たとえば、下記材料の場合において、反応が生ずる場合がある。
・拡散防止コーティング211,221,231,241を構成する材料:CoとMnとの少なくとも一方の元素を含む酸化物
・ガスシール材31,32,33を構成する材料:BとBaとSiとの少なくとも1つの元素を含むガラスシール材
【0028】
拡散防止コーティング211,221,231,241を構成する材料とガスシール材31,32,33を構成する材料との間において反応が発生した場合、多数の気泡が発生する場合がある。その結果、ガスシール材31,32,33が劣化し、シール性を十分に確保することが困難な場合がある。また、拡散防止コーティング211,221,231,241が劣化し、セパレータ21,22,23,24を構成する金属材料の金属元素(Crなど)の拡散を十分に防止することが困難な場合がある。
【0029】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、シール性等を十分に確保可能な電気化学装置、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
実施形態の電気化学装置は、水素極と酸素極との間に電解質膜が介在している電気化学セルと、金属材料で形成された複数のセパレータと、電気化学セルとセパレータとの間および複数のセパレータの間の少なくとも一方を密封するためのガスシール材とを有する。電気化学装置は、セパレータを構成する金属材料の金属元素が拡散することを防止するための拡散防止コーティングが、セパレータの表面を被覆している。拡散防止コーティングは、ガスシール材を構成する材料と反応する材料で形成されている。そして、セパレータとガスシール材とが直接的に接触する部分を含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第3実施形態に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第3実施形態に係る電気化学装置において、一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図5A】
図5Aは、第3実施形態に係る電気化学装置を製造する工程を示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、第3実施形態に係る電気化学装置を製造する工程を示す断面図である。
【
図5C】
図5Cは、第3実施形態に係る電気化学装置を製造する工程を示す断面図である。
【
図5D】
図5Dは、第3実施形態に係る電気化学装置を製造する工程を示す断面図である。
【
図6A】
図6Aは、第3実施形態に係る電気化学装置において、一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図6B】
図6Bは、第3実施形態に係る電気化学装置において、一部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図7】
図7は、関連技術に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
[A]構成
図1は、第1実施形態に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【0033】
本実施形態の電気化学装置1は、
図1に示すように、セパレータ21,22,23の一部の構成が、関連技術の場合(
図7参照)と異なっている。また、ガスシール材33aが関連技術の場合と異なっている。この点および関連する点を除き、本実施形態は、関連技術の場合と同様であるため、重複する事項に関しては、適宜、説明を省略する。
【0034】
本実施形態において、セパレータ21,22,23は、
図1に示すように、関連技術の場合(
図7参照)と異なり、拡散防止コーティング211,221,231を介在せずに、ガスシール材31,32と直接的に接触する部分を含む。
【0035】
具体的には、セパレータ21は、拡散防止コーティング211を介在せずに、ガスシール材31と直接的に接触する部分を含む。セパレータ22は、拡散防止コーティング221を介在せずに、ガスシール材31とおよびガスシール材32に直接的に接触する部分を含む。セパレータ23は、拡散防止コーティング231を介在せずに、ガスシール材32に直接的に接触する部分を含む。
【0036】
本構成は、たとえば、セパレータ21,22,23においてガスシール材31,32と直接的に接触する部分にマスキング処理を施した状態で、拡散防止コーティング211,221,231をコーティングする処理を実施することによって、作製される。
【0037】
ガスシール材33aは、関連技術の場合と異なり、拡散防止コーティング231,241を構成する材料と反応が発生しない材料で形成されている。たとえば、ガスシール材33aは、下記材料で形成されている。
・ガスシール材33aを構成する材料:マイカ
【0038】
[B]まとめ
以上のように、本実施形態では、セパレータ21,22,23は、拡散防止コーティング211,221,231を介在せずに、ガスシール材31,32と直接的に接触する部分を含む。このため、本実施形態では、拡散防止コーティング211,221,231を構成する材料とガスシール材31,32を構成する材料との間の反応が生じないので、気泡が発生しない。その結果、本実施形態では、ガスシール材31,32が劣化せずに、シール性を十分に確保可能であると共に、拡散防止コーティング211,221,231が劣化せずに、セパレータ21,22,23,24を構成する金属材料の金属元素(Crなど)の拡散を十分に防止可能である。
【0039】
なお、拡散防止コーティング211,221,231は、Co、Mn、Cu、Ni、Feの酸化物のうち少なくとも1つを含む。これにより、高いCr拡散抑制の効果を奏することができる。
【0040】
また、本実施形態では、ガスシール材33aは、薄膜化が不要であるため、薄膜化が困難な上記材料を用いた。しかし、ガスシール材33aの薄膜化が必要であるために、ガスシール材33aを他のガスシール材31,32と同様な材料で形成する場合には、セパレータ24が拡散防止コーティング211,221,231を介在せずにガスシール材33aに直接的に接触する部分を含むように構成することが好ましい。
【0041】
<第2実施形態>
[A]構成
図2は、第2実施形態に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【0042】
本実施形態の電気化学装置1bは、
図2に示すように、関連技術の場合(
図7参照)と異なり、反応防止層311,321,331を有する。この点および関連する点を除き、本実施形態は、関連技術の場合と同様であるため、重複する事項に関しては、適宜、説明を省略する。
【0043】
反応防止層311,321,331は、拡散防止コーティング211,221,231,241とガスシール材31,32,33との間に介在している。
【0044】
具体的には、拡散防止コーティング211とガスシール材31との間に反応防止層311が介在していると共に、拡散防止コーティング221とガスシール材31との間に反応防止層311が介在している。また、拡散防止コーティング221とガスシール材32との間に反応防止層321が介在していると共に、拡散防止コーティング231とガスシール材32との間に反応防止層321が介在している。そして、拡散防止コーティング231とガスシール材33との間に反応防止層331が介在していると共に、拡散防止コーティング241とガスシール材33との間に反応防止層331が介在している。
【0045】
反応防止層311,321,331は、拡散防止コーティング211,221,231とガスシール材31,32,33との間の反応を防止するために、たとえば、アルミナで形成されている。
【0046】
反応防止層311,321,331の成膜法は、たとえば、カロライジング、PVDなどである。
また、反応防止層311,321,331の厚みは、たとえば、数百nm~数十μmである。
【0047】
[B]まとめ
以上のように、本実施形態では、拡散防止コーティング211,221,231,241とガスシール材31,32,33との間に、反応防止層311,321,331が介在している。このため、本実施形態では、拡散防止コーティング211,221,231,241を構成する材料とガスシール材31,32,33を構成する材料との間の反応が生じないので、気泡が発生しない。その結果、本実施形態では、ガスシール材31,32,33が劣化せずに、シール性を十分に確保可能であると共に、拡散防止コーティング211,221,231,241が劣化せずに、セパレータ21,22,23,24を構成する金属材料の金属元素(Crなど)の拡散を十分に防止可能である。
【0048】
<第3実施形態>
[A]構成
図3は、第3実施形態に係る電気化学装置の一例を示す断面図である。
【0049】
本実施形態の電気化学装置1cは、
図3に示すように、第1実施形態の場合(
図1参照)と同様に、セパレータ21,22,23は、拡散防止コーティング211,221,231を介在せずに、ガスシール材31,32と直接的に接触する部分を含む。しかしながら、本実施形態の電気化学装置1cは、
図3に示すように、ガスシール材31,32の形態が、第1実施形態の場合と異なっている。この点および関連する点を除き、本実施形態は、第1実施形態の場合と同様であるため、重複する事項に関しては、適宜、説明を省略する。
【0050】
図4は、第3実施形態に係る電気化学装置において、一部を拡大して示す拡大断面図である。
図4は、
図3において、セパレータ21とセパレータ22との間にガスシール材31が設けられた部分の領域Rを示している。
図3においてセパレータ22とセパレータ23との間にガスシール材32が設けられた部分は、
図4と同様であるため、図示および説明を省略する。
【0051】
図4に示すように、セパレータ21(第1のセパレータ)の表面には、拡散防止コーティング211(第1の拡散防止コーティング)が被覆されている。そして、セパレータ22(第2のセパレータ)の表面には、拡散防止コーティング221(第2の拡散防止コーティング)が被覆されている。
【0052】
拡散防止コーティング211には、セパレータ21とセパレータ22とが積層する積層方向(
図4では縦方向)において、拡散防止コーティング211を貫通する貫通口K211(第1貫通口)が形成されている。
【0053】
同様に、拡散防止コーティング221には、セパレータ21とセパレータ22とが積層する積層方向において、拡散防止コーティング211を貫通する貫通口K221(第2貫通口)が形成されている。貫通口K221は、セパレータ21とセパレータ22とが積層する積層方向において、貫通口K211に対向するように形成されている。
【0054】
そして、本実施形態では、ガスシール材31は、貫通口K211および貫通口K221の内部に設けられている。ガスシール材31においてセパレータ21の側の面(
図4では下面)は、セパレータ21の表面に直接的に接触している。ガスシール材31においてセパレータ22の側の面(
図4では上面)は、セパレータ22の表面に直接的に接触している。そして、ガスシール材31において積層方向に沿った面(
図4では側面)は、拡散防止コーティング211と拡散防止コーティング221とによって囲われている。
【0055】
[B]製造方法
図5Aから
図5Dは、第3実施形態に係る電気化学装置を製造する工程を示す断面図である。
図5Aから
図5Dは、
図4と同様に、
図3においてセパレータ21とセパレータ22との間にガスシール材31が設けられた部分の領域Rについて示している。
図3においてセパレータ22とセパレータ23との間にガスシール材32が設けられた部分は、
図5Aから
図5Dと同様であるため、図示および説明を省略する。
【0056】
[B-1]マスク層形成工程
まず、
図5Aに示すように、マスク層M211,M221の形成を行う。
【0057】
ここでは、セパレータ21の表面において貫通口K211(
図4参照)が形成される領域にマスク層M211(第1マスク層)を形成する。また、セパレータ22の表面において貫通口K221(
図4参照)が形成される領域にマスク層M221(第2マスク層)を形成する。
【0058】
マスク層M211,M221は、マスク層M211,M221を形成する領域にマスク層M211,M221の材料からなる塗布膜を塗布することで作製される。
【0059】
本実施形態では、マスク層M211,M221は、セパレータ21とセパレータ22とを積層させた状態でセパレータ21とセパレータ22とがオーバーラップする面の中央部分に形成される。マスク層M211,M221は、セパレータ21とセパレータ22とを積層させた状態でセパレータ21とセパレータ22とがオーバーラップする面の幅H1よりも狭い幅H2になるように形成される。
【0060】
[B-2]拡散防止コーティング形成工程
つぎに、
図5Bに示すように、拡散防止コーティング211,221の形成を行う。
【0061】
ここでは、マスク層M211が形成されたセパレータ21の表面に拡散防止コーティング211を形成する。拡散防止コーティング211は、セパレータ21の表面においてマスク層M211が形成された部分以外の部分を被覆するように形成される。また、マスク層M221が形成されたセパレータ22の表面に拡散防止コーティング221を形成する。拡散防止コーティング221は、セパレータ22の表面においてマスク層M221が形成された部分以外の部分を被覆するように形成される。
【0062】
[B-3]マスク層除去工程
つぎに、
図5Cに示すように、マスク層M211,M221(
図5B参照)の除去を行う。
【0063】
ここでは、拡散防止コーティング211が形成されたセパレータ21の表面からマスク層M211(
図5B参照)を除去することによって、貫通口K211を形成する。また、拡散防止コーティング221が形成されたセパレータ22の表面からマスク層M221(
図5B参照)を除去することによって貫通口K221を形成する。
【0064】
マスク層M211,M221の除去は、マスク層M211,M221の材料を溶解させる薬剤を用いて実行される。
【0065】
[B-4]ガスシール材形成工程
つぎに、
図5Dに示すように、ガスシール材31の形成を行う。
【0066】
ここでは、ガスシール材31が拡散防止コーティング211の表面から突き出た部分を含むように、ガスシール材31を貫通口K211の内部に形成する。ガスシール材31は、厚みTHが、貫通口K211の深さDP1と貫通口K221の深さDP2との合計値になるように形成される(TH=DP1+DP2)。
【0067】
[B-5]セパレータ積層工程
つぎに、
図4に示したように、セパレータ21,22の積層を行う。
【0068】
貫通口K211の内部に形成されたガスシール材31が貫通口K211に収容されるように、セパレータ21にセパレータ22を積層する。
【0069】
上記の工程を経て、本実施形態の電気化学装置1cが完成される。
【0070】
[C]まとめ
以上のように、本実施形態の電気化学装置1cでは、ガスシール材31は、貫通口K211および貫通口K221の内部において、セパレータ21の表面およびセパレータ22の表面に直接的に接触するように形成されている。本実施形態では、第1実施形態の場合と異なり、ガスシール材31は、貫通口K211および貫通口K221からなる密封された空間に、全体が収容された状態である。ガスシール材31を構成する材料と拡散防止コーティング211,221を構成する材料との間で仮に反応が起き、拡散防止コーティング211,221の一部が剥がれたとしても、反応部が外気に露出しない構造となっているので、セパレータ21,22を構成する金属材料の金属元素(Crなど)の拡散を抑制することができる。
【0071】
その結果、本実施形態では、ガスシール材31が劣化したとしても、シール性を十分に確保可能であるので、電気化学セル10の性能(発電性能や電解性能)を上記の実施形態の場合よりも更に効率的に発揮可能である。また、本実施形態では、拡散防止コーティング211,221の反応による劣化が起きたとしても、セパレータ21,22を構成する金属材料の金属元素(Crなど)の拡散を十分に防止可能であるので、拡散する金属元素(Crなど)によって電気化学セル10の性能が低下することを、上記の実施形態の場合よりも効果的に抑制可能である。
【0072】
本実施形態では、製造バラツキ等に起因して、ガスシール材31を
図4のような理想的な形状に作製することができない場合であっても、上記の効果を十分に奏することができる。
【0073】
図6Aおよび
図6Bは、第3実施形態に係る電気化学装置において、一部を拡大して示す拡大断面図である。
図6Aおよび
図6Bは、
図4と同様な部分を図示しており、
図6Aは、ガスシール材31の幅が貫通口K211,K221の幅H2よりも小さい場合を示し、
図6Bは、ガスシール材31の幅が貫通口K211,K221の幅H2よりも大きい場合を示している。
【0074】
図6Aに示すように、ガスシール材31の幅が貫通口K211,K221の幅H2よりも小さい場合には、ガスシール材31において積層方向(図では縦方向)に沿った側面と、貫通口K211,K221において積層方向に沿った内面との間に、ギャップGが介在する。セパレータ21,22のうちギャップGが位置する表面は、拡散防止コーティング211,221が被覆されていない。しかし、セパレータ21,22のうちギャップGが位置する表面は、貫通口K211および貫通口K221からなる密封された空間に露出された状態であるため、セパレータ21,22を構成する金属材料の金属元素(Crなど)が、電気化学セル10へ拡散しない。その結果、本実施形態では、拡散する金属元素(Crなど)によって電気化学セル10の能力が低下することを防止可能である。
【0075】
図6Bに示すように、ガスシール材31の幅が貫通口K211,K221の幅H2よりも大きい場合には、拡散防止コーティング211,221とガスシール材31とが重なった部分が反応し、気泡が発生すると考えられる。しかし、気泡が発生して拡散防止コーティング211,221の一部が失われたとしても、その反応部は、接合界面の内側にあり、拡散防止コーティング211,221の貫通口K211,K221により密封されている。このため、本実施形態では、セパレータ21,22を構成する金属材料の金属元素(Crなど)の拡散を抑制可能であるので、その拡散する金属元素(Crなど)によって電気化学セル10の能力が低下することを防止可能である。
【0076】
なお、詳細な説明については省略するが、ガスシール材32が形成された部分においても、ガスシール材31が形成された部分と同様に、上記の効果が得られる。
【0077】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1:電気化学装置、1J:電気化学装置、1b:電気化学装置、1c:電気化学装置、10:電気化学セル、11:支持体、12:水素極、13:電解質膜、14:酸素極、21:セパレータ、22:セパレータ、23:セパレータ、24:セパレータ、31:ガスシール材、32:ガスシール材、33:ガスシール材、33a:ガスシール材、211:拡散防止コーティング、221:拡散防止コーティング、231:拡散防止コーティング、241:拡散防止コーティング、311:反応防止層、321:反応防止層、331:反応防止層、K211:貫通口,K221:貫通口,M211:マスク層,M221:マスク層,SP22:内部空間、SP23:内部空間