(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】繊維用集束剤組成物、繊維束、繊維製品及び複合材料
(51)【国際特許分類】
D06M 15/55 20060101AFI20250318BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20250318BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
D06M15/55
D06M13/224
D06M15/507
(21)【出願番号】P 2023093814
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2020534671の分割
【原出願日】2019-07-30
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018146068
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】阪口 幸矢佳
(72)【発明者】
【氏名】細木 卓也
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-037904(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027708(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/078142(WO,A1)
【文献】特開平02-307979(JP,A)
【文献】特開昭52-110997(JP,A)
【文献】特開2001-348783(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0055983(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-16/00
19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A
)、(メタ)アクリレート(B)
、界面活性剤(E)及び水を含有してなる繊維用集束剤組成物(C)であって、
前記(メタ)アクリレート(B)は、分子内にオキシアルキレン基を有していない(メタ)アクリレート(B1)又は分子内にオキシアルキレン基を有している(メタ)アクリレート(B2)であり、
前記(メタ)アクリレート(B1)が、2~8価の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物又はビスフェノールAのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸とのジエステル化物であり、
前記(メタ)アクリレート(B1)が、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸とのジエステル化物の場合は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸とのハーフエステルは含まず、
前記(メタ)アクリレート(B2)が、分子内にオキシアルキレン基を有する2官能(メタ)アクリレート(B21)の場合、前記(メタ)アクリレート(B21)は、2~8価の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸とのジエステル化物、2価フェノールのアルキレンオキサイド付加物とアクリル酸のジエステル化物、若しくは、2価アルコール又は2価フェノールのアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物である、繊維用集束剤組成物(C)。
【請求項2】
芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しない前記エポキシ樹脂(A)と前記(メタ)アクリレート(B)との重量比(エポキシ樹脂(A)/(メタ)アクリレート(B))が10/90~90/10である請求項1記載の繊維用集束剤組成物(C)。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート(B)が2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートである請求項1又は2記載の繊維用集束剤組成物(C)。
【請求項4】
さらにビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有するポリエステル樹脂(D)を含有する請求項1~3いずれかに記載の繊維用集束剤組成物(C)。
【請求項5】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維及びスラッグ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を、請求項1~4いずれかに記載の繊維用集束剤組成物(C)で処理してなる繊維束。
【請求項6】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維及びスラッグ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維と、
芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及び/又は芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)の反応物と、
(メタ)アクリレート(B)及び/又は(メタ)アクリレート(B)の反応物と
、
界面活性剤(E)とを含む繊維束であって、
前記(メタ)アクリレート(B)は、分子内にオキシアルキレン基を有していない(メタ)アクリレート(B1)又は分子内にオキシアルキレン基を有している(メタ)アクリレート(B2)であり、
前記(メタ)アクリレート(B1)が、2~8価の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物又はビスフェノールAのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸とのジエステル化物であり、
前記(メタ)アクリレート(B1)が、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸とのジエステル化物の場合は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸とのハーフエステルは含まず、
前記(メタ)アクリレート(B2)が、分子内にオキシアルキレン基を有する2官能(メタ)アクリレート(B21)の場合、前記(メタ)アクリレート(B21)は、2~8価の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸とのジエステル化物、2価フェノールのアルキレンオキサイド付加物とアクリル酸のジエステル化物、若しくは、2価アルコール又は2価フェノールのアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物である、繊維束。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の繊維束を含む繊維製品。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の繊維束及び/又は請求項
7に記載の繊維製品とマトリックス樹脂とを含む複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用集束剤組成物、繊維束、繊維製品及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なマトリックス樹脂と各種繊維との複合材料が、スポーツ用具、レジャー用品及び航空機等の分野で広く利用されている。
これらの複合材料に使用される繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維等の繊維が用いられている。これらの繊維は、前記の複合材料とする加工工程において、毛羽立ちや糸切れを防止するため、通常、集束剤が付与されている。
しかしながら、従来の集束剤を繊維に用いる場合において、マトリックス樹脂がビニルエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂であると、繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となり、得られる複合材料の物性が不十分となるという問題があった。
この問題を解決するため、エポキシ樹脂がアルコキシポリオキシエチレン構造とエポキシ基とを有するウレタン樹脂によって水性媒体に分散された繊維集束剤(例えば特許文献1)、ポリエチレンイミンを集束剤として使用すること(例えば特許文献2)が知られている。
【0003】
複合材料の物性向上には、繊維の特性を有効に生かすという点から繊維とマトリックス樹脂との接着性が高いこと、及び、繊維束の取扱い性の観点からの集束性及び毛羽立ちが少ないことが重要である。従って、繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることができ、繊維の取扱い性を向上させることができ、かつ毛羽立ちの少ない繊維束を形成できる集束剤が望まれている。
特許文献1及び2で提案された集束剤は、繊維とマトリックス樹脂との接着性を十分に向上させることができるものでなく、集束性も十分に向上させることができるものでなく、繊維束の毛羽立ちも十分に抑制できるものでないという問題がある。また、特許文献1及び2で提案された集束剤を用いて複合材料を製造する場合、マトリックス樹脂が高粘度な熱可塑性樹脂であると、マトリックス樹脂の含浸性を十分に向上させることができず、含浸ムラやボイドが発生し、その結果、得られる複合材料の強度が十分にならないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-249562号公報
【文献】特開平03-065311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、繊維とマトリックス樹脂との接着性が高く、かつ高い集束性を保持しながら、毛羽立ちの少ない繊維束を作ることができる繊維用集束剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及び(メタ)アクリレート(B)を含有してなる繊維用集束剤組成物(C);炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維及びスラッグ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維をこの繊維用集束剤組成物(C)で処理してなる繊維束;炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維及びスラッグ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維と、芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及び/又は芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)の反応物と、(メタ)アクリレート(B)及び/又は(メタ)アクリレート(B)の反応物とを含む繊維束;この繊維束を含む繊維製品;この繊維束及び/又はこの繊維製品とマトリックス樹脂とを含む複合材料である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維用集束剤組成物は繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることができ、かつ、本発明の繊維用集束剤組成物(C)を用いることにより、高い集束性を保持しながら、毛羽立ちの少ない繊維束及び繊維製品を得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)は、芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及び(メタ)アクリレート(B)を含有してなる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味する。
【0009】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を構成する芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)は、分子内に芳香環とエポキシ基を有しており、(メタ)アクリロイル基を有していないエポキシ樹脂であれば、特にその化学構造は限定されない。
【0010】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を構成する芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)としては、芳香環を有するジエポキシド(A1)及びノボラック型エポキシ樹脂(A2)等が挙げられる。
【0011】
芳香環を有するジエポキシド(A1)としては、芳香環を有するジグリシジルエーテル(A11)、芳香環を有するジグリシジルエステル(A12)及び芳香環を有するジグリシジルアミン(A13)等が挙げられる。
【0012】
芳香環を有するジグリシジルエーテル(A11)としては、2価フェノールのジグリシジルエーテル及び芳香環を有する2価アルコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。
2価フェノールのジグリシジルエーテルとしては、炭素数6~30の2価フェノールとエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)で両末端がグリシジルエーテルであるもの等が挙げられる。
2価フェノールとしては、ビスフェノール(ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS及びハロゲン化ビスフェノールA等)、カテキン、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、オクタクロロ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、テトラメチルビフェニル及び9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フロオレン等が挙げられる。
芳香環を有する2価アルコールのジグリシジルエーテルとしては、炭素数8~30の芳香脂肪族ジオール、芳香脂肪族ジオールのアルキレンオキサイド(以降、「アルキレンオキサイド」を「AO」と略記することがある)付加物及び2価フェノールのAO付加物とエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)で両末端がグリシジルエーテルであるもの等が挙げられる。
炭素数8~30の芳香脂肪族ジオールとしては、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ベンゼン、ジ[9-(3-ヒドロキシプロピル)-9-フルオレニル]メタン及びジフェニルプロパンジオール等が挙げられる。
芳香脂肪族ジオールのAO付加物としては、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ベンゼンのAO(1~20モル)付加物、ジ[9-(3-ヒドロキシプロピル)-9-フルオレニル]メタンのAO(1~20モル)付加物及びジフェニルプロパンジオールのAO(1~20モル)付加物等が挙げられる。
2価フェノールのAO付加物としては、ビスフェノール(ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS及びハロゲン化ビスフェノールA等)、カテキン、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、オクタクロロ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、テトラメチルビフェニル及び9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フロオレンのAO付加物等が挙げられる。
これらの中では、ビスフェノールAのAO(1~20モル)付加物が好ましい。
AOとしては、エチレンオキサイド(以降、「エチレンオキサイド」を「EO」と略記することがある)、1,2-プロピレンオキサイド(以降、「1,2-プロピレンオキサイド」を「PO」と略記することがある)、1,2-ブチレンオキサイド(以降、「1,2-ブチレンオキサイド」を「1,2-BO」と略記することがある)、1,4-ブチレンオキサイド(以降、「1,4-ブチレンオキサイド」を「1,4-BO」と略記することがある)が挙げられる。
【0013】
芳香環を有するジグリシジルエーテル(A11)を構成する2価フェノール単位及び/又は2価アルコール単位{2価フェノールと2価アルコールが有するヒドロキシル基(-OH)からHを除いたもの}と、エピクロルヒドリン単位{グリシジルエーテル基とエピクロルヒドリン開環重合した基(-CH(OH)CH2-)との合計}とのモル比{(2価フェノール単位及び/又は2価アルコール単位):(エピクロルヒドリン単位)}は、n:n+1で表される。nは1~10が好ましく、さらに好ましくは1~8、特に好ましくは1~5である。ジグリシジルエーテル(A11)は、n=1~10の混合物(重縮合度の異なる混合物等)であってもよい。
【0014】
芳香環を有するジグリシジルエステル(A12)としては、芳香族ジカルボン酸のジグリシジルエステル及び芳香脂肪族ジカルボン酸のジグリシジルエステル等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸のジグリシジルエステルとしては、芳香族ジカルボン酸{テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、アルキルイソフタル酸(例えば、4-メチルイソフタル酸等)、ナフタレンジカルボン酸(1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の異なる環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸;1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸等の同一の環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸等)等}とエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)であって、グリシジル基を2個有するもの等が挙げられる。
芳香脂肪族ジカルボン酸のジグリシジルエステルとしては、芳香脂肪族ジカルボン酸(1,4-フェニレン二酢酸等)とエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)であって、グリシジル基を2個有するもの等が挙げられる。
芳香環を有するジグリシジルエステル(A12)を構成する芳香族ジカルボン酸単位及び/又は芳香脂肪族ジカルボン酸単位{ジカルボン酸が有するカルボキシル基(-COOH)からHを除いたもの}と、エピクロルヒドリン単位{グリシジルエーテル基とエピクロルヒドリン開環重合した基(-CH(OH)CH2-)との合計}とのモル比{(芳香族ジカルボン酸単位及び/又は脂肪族ジカルボン酸単位):(エピクロルヒドリン単位)}は、n:n+1で表される。nは1~10が好ましく、さらに好ましくは1~8、特に好ましくは1~5である。ジグリシジルエステル(A12)は、n=1~10の混合物でもよい。
【0015】
芳香環を有するジグリシジルアミン(A13)としては、炭素数6~20の2~4個の活性水素原子をもつ芳香族アミン(アニリン及びトルイジン等)及び炭素数7~20の2~4個の活性水素原子をもつ芳香脂肪族アミン(1,3-又は1,4-キシリレンジアミン等)とエピクロルヒドリンとの反応で得られるN-グリシジル化物(N,N-ジグリシジルアニリン及びN,N-ジグリシジルトルイジン等)等が挙げられる。
ジグリシジルアミン(A13)を構成する芳香族アミン単位及び/又は芳香脂肪族アミン単位{芳香族アミンと芳香脂肪族アミンとが有するアミノ基(-NH2)から2つのHを除いたもの}とエピクロルヒドリン単位(グリシジルエーテル単位とエピクロルヒドリン開環重合単位との合計)とのモル比{(芳香族アミン単位):(エピクロルヒドリン単位)}は、n:n+1で表される。nは1~10が好ましく、さらに好ましくは1~8、特に好ましくは1~5である。ジグリシジルアミン(A13)は、n=1~10の混合物でもよい。
【0016】
これらのジエポキシド(A1)としては、複合材料の成形体の強度を向上させるの観点から、ジグリシジルエーテル(A11)が好ましく、さらに好ましくは2価フェノールのジグリシジルエーテル、特に好ましくはビスフェノールのジグリシジルエーテル、最も好ましくはビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)である。
【0017】
ノボラック型エポキシ樹脂(A2)としては、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
ノボラック型エポキシ樹脂(A2)は、例えばオルソクレゾールノボラック樹脂、フェノールノボラック樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂とエピクロロヒドリンとをアルカリ存在下の反応させることなどにより得ることができ、市販品としても入手できる。市販のオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば住友化学工業(株)製スミエポキシESCN-195X、ESCN-220、日本チバガイギー(株)製アラルダイトECN1273、ECN-1280、ECN-1299、日本火薬(株)製EOCN-101、EOCN-102、EOCN-103が挙げられ、フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば油化シェルエポキシ(株)製エピコート152、エピコート154、東都化成(株)製YDPN-601、YDPN-602が挙げられ、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂である日本火薬(株)製BREN等が挙げられる。
【0019】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を用いて複合材料を製造する際に、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、本発明の繊維用集束剤組成物(C)を構成する芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)のエポキシ当量(g/eq)は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、100~1000が好ましく、さらに好ましくは100~800である。ここで、エポキシ当量とは、JIS K 7236に準拠して測定される値である。
【0020】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を用いて複合材料を製造する際に、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、本発明の繊維用集束剤組成物(C)を構成する芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)のエポキシ当量(g/eq)は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上及びボイド発生防止の観点から、500~2000が好ましく、さらに好ましくは700~1500である。
【0021】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を構成する(メタ)アクリレート(B)は、(メタ)アクリレートであれば、特にその化学構造は限定されないが、分子内にオキシアルキレン基を有していない(メタ)アクリレート(B1)及び分子内にオキシアルキレン基を有している(メタ)アクリレート(B2)が含まれていてもよい。
また、(メタ)クリレート(B)は、分子内にグリシジルエーテル基を有していないことが好ましい。
【0022】
分子内にオキシアルキレン基を有していない(メタ)アクリレート(B1)としては、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましく、2官能(メタ)アクリレート(B11)、3官能(メタ)アクリレート(B12)及び4官能以上(メタ)アクリレート(B13)が含まれる。
【0023】
2官能(メタ)アクリレート(B11)としては、2官能の非芳香族(メタ)アクリレート及び2官能の芳香族(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
2官能の非芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、炭素数2~20の2価以上(好ましくは2~8価)の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのジエステル化物等が挙げられる。
このような化合物としては、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート及び2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
2官能の芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、2価フェノールのジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸とのジエステル化物等が挙げられる。
このような化合物としては、ビスフェノール(ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS及びハロゲン化ビスフェノールA等)のジグリエイジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、カテキンのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、レゾルシノールのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、ヒドロキノンのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、1,5-ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、ジヒドロキシビフェニルのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、オクタクロロ-4,4’-ジヒドロキシビフェニルのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート及び9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フロオレンのジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
3官能(メタ)アクリレート(B12)としては、3官能の非芳香族(メタ)アクリレート及び3官能の芳香族(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
3官能の非芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、炭素数2~20の3価以上(好ましくは3~8価)の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのトリエステル化物が挙げられる。
このような化合物としては、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート及びソルビトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
3官能の芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、3官能芳香族エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とのトリエステル化物が挙げられる。
このような化合物としては、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノールのトリ(メタ)アクリレート、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノールのトリ(メタ)アクリレート、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-m-クレゾールのトリ(メタ)アクリレート、N,N,O-トリグリシジル-5-アミノ-o-クレゾールのトリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタントリグリシジルエーテルのトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
4官能以上(メタ)アクリレート(B13)としては、4官能以上の非芳香族(メタ)アクリレート及び4官能以上の芳香族(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
4官能以上の非芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、炭素数2~20の4価以上(好ましくは4~8価)の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのテトラエステル化物、ペンタエステル化物及びヘキサエステル化物等が挙げられる。
このような化合物としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
4官能以上の芳香族(メタ)アクリレートとしては、4官能以上の芳香族エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とのテトラエステル化物が挙げられる。
このような化合物としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジルアミノジフェニルメタンのテトラ(メタ)アクリレート、N,N,N’,N’-テトラグリシジル1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼンのテトラ(メタ)アクリレート、1,1,2,2-テトラキス[4-(グリシジルオキシ)フェニル]エタンのテトラ(メタ)アクリレート、多官能エポキシ樹脂であるフェノールノボラックエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とのポリエステル化物及びクレゾールノボラックエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とのポリエステル化物が挙げられる。
【0032】
分子内にオキシアルキレン基を有している(メタ)アクリレート(B2)としては、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から2個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましく、2官能(メタ)アクリレート(B21)、3官能(メタ)アクリレート(B22)、4~6官能(メタ)アクリレート(B23)及び7~10官能(メタ)アクリレート(B24)が含まれる。
【0033】
2官能(メタ)アクリレート(B21)としては、例えば、2価以上(好ましくは2~8価)の多価アルコールのAO付加物と(メタ)アクリル酸とのジエステル化物、2価アルコール又は2価フェノールのAO付加物と(メタ)アクリル酸のジエステル化物、2価アルコール又は2価フェノールのAO付加物のジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物であるエポキシアクリレート等が挙げられる。
【0034】
2価以上(好ましくは2~8価)の多価アルコールのAO付加物と(メタ)アクリル酸とのジエステル化物としては、エチレングリコールのAO付加物のジ(メタ)アクリレート、1,2-又は1,3-プロパンジオールのAO付加物のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのAO付加物のジ(メタ)アクリレート及びグリセリンのAO付加物のジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
2価アルコール又は2価フェノールのAO付加物と(メタ)アクリル酸のジエステル化物としては、ビスフェノールAのAO付加物のジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
2価アルコール又は2価フェノールのAO付加物のジグリシジルエーテルとアクリル酸の反応物であるエポキシアクリレートとしては、市販されているものとしては、エポキシエステル40EM、エポキシエステル70PA、エポキシエステル200PA、エポキシエステル3002M、エポキシエステル3002A(いずれも共栄社化学社製)等が挙げられる。
【0035】
なお、上記化合物では、多価アルコールの水酸基のすべてが(メタ)アクリル酸及び/又はAOなどと反応されている必要はなく、未反応の水酸基が残っていてもよい。
AOとしては、炭素数2~4のものが含まれ、具体的には、EO、PO、1,2-BO及び1,4-BO等が挙げられる。
AOの付加モル数は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、2~100が好ましく、さらに好ましくは3~50である。
【0036】
3官能(メタ)アクリレート(B22)としては、3価以上(好ましくは3~8価)の多価アルコールのAO付加物と(メタ)アクリル酸とのトリエステル化物等が挙げられる。このような化合物としては、トリメチロールプロパンのEO付加物のトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
AOとしては、炭素数2~4のものが含まれ、具体的には、EO、PO、1,2-BO及び1,4-BO等が挙げられる。
AOの付加モル数は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、2~100が好ましく、さらに好ましくは3~50である。
【0037】
4~6官能(メタ)アクリレート(B23)としては、4価以上(好ましくは4~8価)の多価アルコールのAO付加物と(メタ)アクリル酸とのテトラエステル化物、ペンタエステル化物及びヘキサエステル化物等が挙げられる。
このような化合物としては、ジペンタエリスリトールのEO付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのEO付加物のペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのPO付加物のペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
AOとしては、炭素数2~4のものが含まれ、具体的には、EO、PO、1,2-BO及び1,4-BO等が挙げられる。
AOの付加モル数は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、2~100が好ましく、さらに好ましくは3~50である。
【0038】
7~10官能の(メタ)アクリレート化合物(B24)としては、例えば前記1官能(メタ)アクリレート(B21)~3官能(メタ)アクリレート(B23)のうち水酸基含有のもの及び必要により水酸基含有の単官能(メタ)アクリレート(例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)と、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物とのウレタン化反応により得られる化合物等が挙げられる。
このような化合物としては、ジペンタエリスリトールのAO付加物のペンタ(メタ)アクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応により得られる化合物等が挙げられる。
【0039】
本発明において、(メタ)アクリレート(B)の1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から2個以上が好ましく、さらに好ましくは2~4個であり、特に好ましくは2個である。
【0040】
本発明において、複合材料のマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、(メタ)アクリレート(B)の(メタ)アクリル当量(g/eq)は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、150~10000が好ましく、さらに好ましくは200~8000である。ここで、(メタ)アクリル当量とは、(メタ)アクリレート(B)の分子量を1分子中の(メタ)アクリロイル基の数で除した値を意味する。
【0041】
本発明において、複合材料のマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、(メタ)アクリレート(B)の(メタ)アクリル当量(g/eq)は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上及びボイド発生防止の観点から、150~1000が好ましく、さらに好ましくは200~800である。
【0042】
本発明において、(メタ)アクリレート(B)は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、水酸基を有していることが好ましい。(メタ)アクリレート(B)が有する水酸基の個数は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、2個以上が好ましく、さらに好ましくは2~10個であり、特に好ましくは2~5個である。
【0043】
本発明において、(メタ)アクリレート(B)の水酸基価(mgKOH/g)は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、0~500が好ましく、さらに好ましくは0~100である。ここで、水酸基価は、JIS K 0070-1992に基づいて測定される試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムの質量(mg)を意味する。
【0044】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を用いて複合材料を製造する際に、複合材料のマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上及び毛羽立ちを少なくする観点から、(メタ)アクリレート(B)としては、オキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレート(B2)が好ましく、さらに好ましくはオキシアルキレン基を有するアクリレートであり、特に好ましくはオキシアルキレン基を有する2官能アクリレートである。
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を用いて複合材料を製造する際に、複合材料のマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上及びボイド発生防止の観点から、(メタ)アクリレート(B)としては、オキシアルキレン基を有していない(メタ)アクリレート(B1)が好ましく、さらに好ましくはオキシアルキレン基を有していない芳香族(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはオキシアルキレン基を有していない芳香族アクリレートである。
【0045】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を構成する芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)と(メタ)アクリレート(B)との重量比(A)/(B)は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から10/90~90/10が好ましく、さらに好ましくは20/80~80/20である。10/90以上であり90/10以下であることでマトリックス樹脂との接着性が向上する。
【0046】
さらに、本発明の繊維用集束剤組成物(C)は、ビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有するポリエステル樹脂(D)を含むことが好ましい。
なお、本発明において、ポリオキシエチレン鎖とは、オキシエチレン基が2個以上連続して結合した化合物を意味する。
ポリエステル樹脂(D)としては、ビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有していれば、特にその化学構造は限定されないが、集束性と毛羽立ちを少なくする観点から、ジカルボン酸又はその無水物(d1)とジオール(d2)から構成されるポリエステル樹脂であることが好ましく、さらに好ましくはジカルボン酸又はその無水物(d1)とビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有しているジオール(d22)を構成単量体として含むポリエステル樹脂であることである。
ポリエステル樹脂(D)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記のポリエステル樹脂(D)を構成するジカルボン酸又はその無水物(d1)としては、脂肪族ジカルボン酸(d11)、芳香族ジカルボン酸(d12)及びこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0048】
脂肪族ジカルボン酸(d11)としては、鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸(d111)、鎖状不飽和脂肪族ジカルボン酸(d112)、脂環式ジカルボン酸(d113)及びダイマー酸(a14)等が挙げられる。
【0049】
鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸(d111)としては、炭素数2~22の直鎖又は分岐の鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、メチルコハク酸、エチルコハク酸、ジメチルマロン酸、α-メチルグルタル酸、β-メチルグルタル酸、2,4-ジエチルグルタル酸、イソプロピルマロン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、イコサンジカルボン酸、デシルコハク酸、ドデシルコハク酸及びオクタデシルコハク酸等)等が挙げられる。
【0050】
鎖状不飽和脂肪族ジカルボン酸(d112)としては、炭素数4~22の直鎖又は分岐の鎖状不飽和脂肪族ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸及びオクタデセニルコハク酸等)等が挙げられる。
【0051】
脂環式ジカルボン酸(d113)としては、炭素数7~14の脂環式ジカルボン酸(1,3-又は1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジ酢酸及びジシクロヘキシル-4,4’-ジカルボン酸等)等が挙げられる。
【0052】
ダイマー酸(d114)としては、炭素数8~24の鎖状不飽和脂肪族カルボン酸(オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸等)の二量体が挙げられる。
【0053】
芳香族ジカルボン酸(d12)としては、炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、β-フェニルグルタル酸、α-フェニルアジピン酸、β-フェニルアジピン酸、ビフェニル-2,2’-又は4,4’-ジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム及び5-スルホイソフタル酸カリウム等)等が挙げられる。
【0054】
ジカルボン酸の無水物としては、上記脂肪族ジカルボン酸(d11)又は芳香族ジカルボン酸(d12)の無水物、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸及び無水フタル酸等が挙げられる。
【0055】
ジカルボン酸及びその無水物(d1)は、単独でも2種以上を併用してもよい。
これらのうち、集束性の観点から、鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸(d111)、鎖状不飽和脂肪族ジカルボン酸(d112)及び芳香族ジカルボン酸(d12)が好ましく、さらに好ましいのは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸であり、特に好ましいのはアジピン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸である。
【0056】
ポリエステル樹脂(D)を構成するジオール(d2)としては、集束性及び毛羽立ちを少なくする観点から、ビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有しているジオール(d22)が好ましい。
【0057】
ビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有しているジオール(d22)において、ビスフェノール骨格を構成するビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等が挙げられる。
ビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有しているジオール(d22)において、ポリオキシエチレン鎖を構成するオキシエチレン基の繰り返し単位数は、毛羽立ちを少なくする観点から、5~100が好ましく、さらに好ましくは5~80である。
ビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有しているジオール(d22)は、ポリオキシエチレン鎖以外にも、炭素数2~4のオキシアルキレン基を有していてもよい。オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基等が挙げられる。
ビスフェノール骨格とポリオキシエチレン鎖を有しているジオール(d22)として具体的には、上記ビスフェノール化合物の炭素数2~4のAOの付加物等が挙げられる。
【0058】
ジオール(d2)は、単独でも2種以上を併用してもよい。
ジオール(d2)のうちで、集束性の観点から好ましいのは、ビスフェノールAのAO付加物、ビスフェノールFのAO付加物及びビスフェノールSのAO付加物であり、さらに好ましいのはビスフェノールAのAO付加物及びビスフェノールFのAO付加物である。
【0059】
ポリエステル樹脂(D)の100℃での粘度は、0.5~50Pa・sであることが好ましく、さらに好ましくは1~30Pa・s、特に好ましくは3~20Pa・sである。
粘度が0.5~50Pa・sの範囲であればさらに良い集束性と乳化安定性が得られる。なお、ここでいうポリエステル樹脂(D)の100℃での粘度は、JIS K7117-1:1999(ISO2555:1990に対応)に準拠して、ブルックフィールド型粘度計(BL型)により測定される。
【0060】
前記のポリエステル樹脂(D)は、1,000~50,000の数平均分子量(以下、Mnと略記)を有することが好ましい。Mnが1,000以上であると十分な集束性を有し、50,000以下であると水に対する親和性が高く乳化安定性に優れる。
なお、Mnは、GPCにより測定される。Mnは1,500~30,000がさらに好ましく、2,000~20,000が特に好ましい。この範囲であれば集束性及び水に対する親和性がさらに優れる。
【0061】
なお、ポリエステル樹脂(D)のMnの測定に使用されるGPCの条件は、例えば以下の条件である。
機種:Alliance(日本ウォーターズ(株)製液体クロマトグラフ)
カラム:Guardcolumn Super H-L
+TSK gel Super H4000
+TSK gel Super H3000
+TSK gel Super H2000
(いずれも東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
検出器:RI(Refractive Index)
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.6ml/分
試料濃度:0.25重量%
注入量:10μl
標準物質:ポリスチレン(東ソー(株)製;TSK STANDARD POLYSTYRENE)
【0062】
ポリエステル樹脂(D)を製造する方法としては、例えば、ジカルボン酸又はその無水物(d1)とジオール(d2)を所定モル比で仕込み、反応温度100~250℃、圧力-0.1~1.2MPaで撹拌下、水を留去させる方法が挙げられる。
ジカルボン酸又はその無水物(d1)とジオール(d2)の仕込みモル比[ジカルボン酸又はその無水物(d1)/ジオール(d2)]は、Mnを上記範囲内とし、集束性向上の観点から、好ましくは0.7~1.5、さらに好ましくは0.8~1.25である。
【0063】
ポリエステル樹脂(D)を製造するときには、触媒をポリエステルの重量に基づいて0.05~0.5重量%加えることが好ましい。触媒としては、パラトルエンスルホン酸、ジブチルチンオキサイド、テトライソプロポキシチタネート及びシュウ酸チタン酸カリウム等が挙げられ、反応性及び環境への影響の観点からテトライソプロポキシチタネート及びシュウ酸チタン酸カリウムが好ましく、さらに好ましいのはシュウ酸チタン酸カリウムである。
【0064】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)は、前記のエポキシ樹脂(A)、(メタ)アクリレート(B)及びポリエステル樹脂(D)以外にも、界面活性剤(E)及びその他の添加剤等を含有していても良い。
【0065】
前記の界面活性剤(E)は、エポキシ樹脂(A)と(メタ)アクリレート(B)の混合物を乳化させる目的で配合してもよい。
界面活性剤(E)としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤等の界面活性剤等が挙げられる。前記の界面活性剤(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤(E)のうち、水性エマルションの作成しやすさの観点から好ましいのは、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及びこれらの併用である。
さらに好ましいのはアルキル(炭素数9~15のアルキル基が好ましい)フェノールのアルキレンオキサイド付加物、アリールアルキル(炭素数2~10のアルキル基が好ましい)フェノール(スチレン化フェノール、スチレン化クミルフェノール及びスチレン化クレゾール等)のアルキレンオキサイド付加物、プルロニック型界面活性剤、前記のアルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、前記のアリールアルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、前記のプルロニック型界面活性剤のウレタンジョイント化物、前記のアリールアルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物とポリエチレングリコールのウレタンジョイント化物及びこれらの混合物であり、特に好ましいのは、アリールアルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、アリールアルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩及びこれらの混合物である。
【0066】
その他の添加剤としては、平滑剤、防腐剤及び酸化防止剤等が挙げられる。
平滑剤としては、ワックス(ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、変性ポリエチレン及び変性ポリプロピレン等)、高級脂肪酸(脂肪酸の炭素数6~30)アルキル(アルキルの炭素数1~24)エステル(メチルステアレート、エチルステアレート、プロプルステアレート、ブチルステアレート、オクチルステアレート及びステアリルステアレート等)、高級脂肪酸(脂肪酸の炭素数6~30)(ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸等)、天然油脂(ヤシ油、牛脂、オリーブ油及びナタネ油等)及び流動パラフィン等が挙げられる。
防腐剤としては、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、第4級アンモニウム塩及びイミダゾール等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等)、チオジプロピオネート(ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート等)及びホスファイト(トリフェニルホスファイト等)等が挙げられる。
【0067】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)における前記エポキシ樹脂(A)、(メタ)アクリレート(B)、ポリエステル樹脂(D)、界面活性剤(E)及びその他の添加剤の好ましい含有量は、それぞれ下記の通りである。
エポキシ樹脂(A)の重量割合は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、繊維用集束剤組成物(C)が含有する固形分の重量に基づき、好ましくは1~90重量%、さらに好ましくは5~80重量%、特に好ましくは10~75重量%である。
(メタ)アクリレート(B)の重量割合は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、繊維用集束剤組成物(C)が含有する固形分の重量に基づき、好ましくは1~90重量%、さらに好ましくは5~80重量%、特に好ましくは10~75重量%である。
ポリエステル樹脂(D)の重量割合は、集束性の観点から、繊維用集束剤組成物(C)が含有する固形分の重量に基づき、好ましくは5~90重量%、さらに好ましくは10~70重量%である。
界面活性剤(E)の重量割合は、乳化安定性の観点から、繊維用集束剤組成物(C)が含有する固形分の重量に基づき、好ましくは0.1~40重量%、さらに好ましくは0.5~35重量%、特に好ましくは1~30重量%である。
その他の添加剤としての平滑剤、防腐剤及び酸化防止剤の重量割合は、流動性及び経時安定性の観点から、繊維用集束剤組成物(C)が含有する固形分の重量に基づき、好ましくは0.01~20重量%、さらに好ましくは0.05~15重量%、特に好ましくは0.1~10重量%である。
【0068】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)は、水性溶液状又は水性エマルジョン状となるように水性媒体を含有することが好ましい。
水性媒体を含有すると、繊維用集束剤組成物(C)が含有する固形分の繊維への付着量を適量にすることが容易であるため、複合材料の成形体の強度がさらに優れる繊維束を得ることができる。
水性媒体としては、公知の水性媒体等を用いることができ、具体的には、水及び親水性有機溶媒[炭素数1~4の1価のアルコール(メタノール、エタノール及びイソプロパノール等)、炭素数3~6のケトン(アセトン、エチルメチルケトン及びメチルイソブチルケトン等)、炭素数2~6のグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコール等)及びそのモノアルキル(炭素数1~2)エーテル、ジメチルホルムアミド並びに炭素数3~5の酢酸アルキルエステル(酢酸メチル及び酢酸エチル等)等]が挙げられる。
これらは2種以上を併用してもよい。これらのうち、安全性等の観点から、水並びに親水性有機溶媒及び水の混合溶媒が好ましく、さらに好ましいのは水である。
【0069】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)は、コスト等の観点から、流通時は高濃度であって、繊維束の製造時は低濃度であることが好ましい。すなわち、高濃度で流通することで輸送コスト及び保管コスト等を低下させ、低濃度で繊維を処理することで、複合材料の成形体の強度を高くすることができる繊維束を製造できる。
高濃度の水溶液又はエマルジョンの濃度(繊維用集束剤組成物(C)に対する固形分の重量割合)は、保存安定性等の観点から、好ましくは20~80重量%、さらに好ましくは30~70重量%である。
一方、低濃度の水溶液又はエマルジョンの濃度(繊維用集束剤組成物(C)に対する固形分の重量割合)は、繊維束の製造時に集束剤の付着量を適量にする観点等から、好ましくは0.5~15重量%、さらに好ましくは1~10重量%である。
【0070】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)は、芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及び(メタ)アクリレート(B)と、必要により水性媒体、ポリエステル樹脂(D)、界面活性剤(E)及びその他の添加剤をいかなる順序で混合しても製造することができる。水性溶媒を含む場合、水性媒体以外の成分を予め混合し、得られた混合物中に、水性媒体を投入して溶解又は乳化分散させる方法が好ましい。
【0071】
水性媒体以外の成分を予め混合する場合の温度は、混合し易さの観点から、好ましくは20~90℃、さらに好ましくは40~90℃であり、その後の溶解若しくは乳化分散の温度も同様である。
前記溶解若しくは乳化分散する時間は、好ましくは1~20時間、さらに好ましくは2~10時間である。
【0072】
混合装置、溶解装置及び乳化分散装置に制限はなく、撹拌羽根(羽根形状:カイ型及び三段パドル等)、ナウターミキサー、リボンミキサー、コニカルブレンダー、モルタルミキサー、万能混合機(万能混合攪拌機5DM-L、(株)三英製作所製等)及びヘンシェルミキサー等が使用できる。
【0073】
本発明の繊維用集束剤組成物(C)を適用できる繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維等の公知の繊維(国際公開第2003/47830号に記載のもの等)等が挙げられ、複合材料の成形体の強度を向上させる観点から、好ましくは炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維及びスラッグ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維であり、さらに好ましくは炭素繊維である。これらの繊維は2種以上を併用してもよい。
【0074】
本発明の繊維束は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維及びスラッグ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維を、本発明の繊維用集束剤組成物(C)で処理して得られる(繊維3,000~5万本程度を束ねた繊維束)繊維束である。
すなわち、本発明の繊維束は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維及びスラッグ繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維と、芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及び/又はエポキシ樹脂(A)の反応物と、(メタ)アクリレート(B)及び/又は(メタ)アクリレート(B)の反応物とを含む。
エポキシ樹脂(A)の反応物としては、エポキシ樹脂(A)同士が反応したもの及びエポキシ樹脂(A)と炭素繊維(炭素繊維中のカルボキシル基、ヒドロキシル基等)とが反応したもの等が挙げられる。
(メタ)アクリレート(B)の反応物としては、(メタ)アクリレート(B)同士が反応したもの等が挙げられる。
【0075】
繊維の処理方法としては、スプレー法又は浸漬法等が挙げられる。繊維用集束剤組成物(C)が含有する固形分の繊維への付着量(重量%)は、繊維の重量に基づいて、0.05~5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.2~2.5重量%である。この範囲であると、複合材料の成形体の強度をさらに向上させることができる。
繊維束が含む芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂(A)の反応物と(メタ)アクリレート(B)及び(メタ)アクリレート(B)の反応物との重量比((A)及び(A)の反応物/(B)及び(B)の反応物)は、集束性及び繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から10/90~90/10が好ましく、さらに好ましくは20/80~80/20である。
繊維束が含む芳香環を有し(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂(A)の反応物の重量割合は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、繊維の重量に基づいて、好ましくは0.0005~4.5重量%、さらに好ましくは0.002~4重量%、次にさらに好ましくは0.0025~3.75重量%、次にさらに好ましくは0.005~2.25重量%、次にさらに好ましくは0.01~2重量%、特に好ましくは0.02~1.875重量%である。
繊維束が含む(メタ)アクリレート(B)及び(メタ)アクリレート(B)の反応物の重量割合は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、繊維の重量に基づいて、好ましくは0.0005~4.5重量%、さらに好ましくは0.002~4重量%、次にさらに好ましくは0.0025~3.75重量%、次にさらに好ましくは0.005~2.25重量%、次にさらに好ましくは0.01~2重量%、特に好ましくは0.02~1.875重量%である。
繊維束が含むポリエステル樹脂(D)の重量割合は、集束性の観点から、繊維の重量に基づいて、好ましくは0.0025~4.5重量%、さらに好ましくは0.005~3.5重量%、次にさらに好ましくは0.01~2.25重量%、特に好ましくは0.02~1.75重量%である。
繊維束が含む界面活性剤(E)の重量割合は、繊維とマトリックス樹脂との接着性の向上の観点から、繊維の重量に基づいて、好ましくは0.00005~2重量%、さらに好ましくは0.0002~1.75重量%、次にさらに好ましくは0.00025~1.5重量%、次にさらに好ましくは0.0005~1重量%、次にさらに好ましくは0.001~0.875重量%、特に好ましくは0.002~0.75重量%である。
【0076】
本発明の繊維製品は、前記繊維束からなるものであり、前記繊維束を加工して繊維製品としたものが含まれ、織物、編み物、不織布(フェルト、マット及びペーパー等)、チョップドファイバー及びミルドファイバー等が含まれる。
【0077】
本発明の複合材料は、上記本発明の繊維束及び/又は繊維製品とマトリックス樹脂とを含むものである。マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が含まれる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂等が挙げられる。熱硬化樹脂である場合、複合材料には触媒を含有してもよい。触媒としては、公知のものを制限なく使用でき、例えば熱硬化樹脂がエポキシ樹脂である場合は、特開2005-213337号公報に記載のもの等が挙げられる。
【0078】
マトリックス樹脂と繊維束及び繊維製品との重量比(マトリックス樹脂/繊維束及び繊維製品)は、成形される複合材料の強度の観点から、10/90~90/10が好ましく、さらに好ましくは20/80~70/30であり、特に好ましくは30/70~60/40である。
触媒を含有する場合、触媒の含有量は、マトリックス樹脂に対して0.01~10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1~5重量%、特に好ましくは1~3である。
【0079】
本発明の複合素材は、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、本発明の繊維製品(織物、編み物、不織布等)に、熱溶融(溶融温度:60~150℃)したマトリックス樹脂、又は、溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン及び酢酸エチル等)で希釈したマトリックス樹脂を含浸させて成形する方法、本発明の繊維束又はこれを切断したチョップドファーバーを、溶融した熱可塑性マトリックス樹脂に投入し、混練して、射出成形する方法等により得ることができる。
また、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、加熱成形し、常温で固化することで成形することができる。複合素材は、完全に硬化している必要はないが、成形された複合素材が形状を維持できる程度に硬化していることが好ましい。成形後、さらに加熱して完全に硬化させてもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0081】
製造例1 <ポリエーテルポリオール(b7-1)の製造>
オートクレーブに1,2-プロパンジオール100部、水酸化カリウム(東亞合成株式会社製)の50%水溶液3部を仕込み、窒素置換後120℃にて60分真空脱水し水分を0.1%以下とした。次いで、105~130℃で、PO865部とEO865部とを約3時間で同時に圧入し、揮発分が0.1%以下となるまで同温度で反応を続け、さらに120℃にて60分真空脱水し水分を0.05%以下とした。
得られた反応物に水とアルカリ吸着剤(キョーワード600、協和化学工業株式会社製)とを加え、ろ過した後、加熱脱水することによりポリエーテルポリオール(b7-1)を得た。得られたポリエーテルポリオール(b7-1)のMnは1400であった。
【0082】
製造例2 <ポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b7-2)の製造>
温度計、撹拌機及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、製造例1で作成したポリエーテルポリオール(b7-1)1540部、エピクロルヒドリン420部及び水酸化ナトリウム182部を仕込み、激しく撹拌しながら窒素雰囲気下50℃で5時間反応させた。反応後、水730部を加え10分間撹拌して水洗した。
静置後、上層を分液し、濾過後、濾液から過剰のエピクロルヒドリンを減圧除去し、残渣としてポリエーテルポリオールジグリシジルエーテル(b7-2)1600部を得た。このグリシジルエーテルのエポキシ当量は890g/eqであった。
【0083】
製造例3 <エポキシジアクリレート(B-7)の製造>
加熱冷却・撹拌装置、還流冷却管、滴下ロート及び温度計を取り付けたガラス製の反応容器に、製造例2で作成したポリエーテルポリオールジグリシジルエーテル(b7-2)320部とトルエン99.7部を仕込み、110℃まで加熱して均一に溶解させた。
続いて、アクリル酸25.8部、トリフェニルホスフィン0.3部及びp-メトキシフェノール0.03部を仕込み、110℃にて10時間反応させた。
エステル化の終点は酸価で規定し、酸価が1.0mgKOH/g以下になったのを確認した後、60℃に冷却した。さらに、重合禁止の目的で酸素濃度を8体積%に調整した窒素と酸素の混合気体を液中に通気し、80℃に昇温、減圧下トルエンを留去して、水酸基を分子内に有するエポキシジアクリレート(B-7)を得た。
【0084】
製造例4 <ポリエーテルポリオールジアクリレート(B-12)の製造>
加熱冷却・撹拌装置、還流冷却管、滴下ロート及び温度計を取り付けたガラス製の反応容器に、ポリプロピレングリコール(数平均分子量2000)のEO付加物(数平均分子量3500)「ニューポールPE-75」350部とトルエン400部を仕込み、110℃まで加熱して均一に溶解させた。
続いて、アクリル酸14.5部、トリフェニルホスフィン0.3部及びp-メトキシフェノール0.03部を仕込み、110℃にて10時間反応させた。
エステル化の終点は酸価で規定し、酸価が1.0mgKOH/g以下になったのを確認した後、80℃に冷却した。さらに、重合禁止の目的で酸素濃度を8体積%に調整した窒素と酸素の混合気体を液中に通気し、減圧下トルエンを留去して、エポキシジアクリレート(B-12)を得た。
【0085】
製造例5 <ポリエーテルポリオールジアクリレート(B-13)の製造>
製造例4において、「ニューポールPE-75」350部をポリプロピレングリコール(数平均分子量1750)のEO付加物(数平均分子量8000)「ニューポールPE-68」800部に変更した以外は製造例4と同様にして、エポキシジアクリレート(B-13)を得た。
【0086】
製造例6 <ポリエーテルポリオールジアクリレート(B-14)の製造>
製造例4において、「ニューポールPE-75」350部をポリプロピレングリコール(数平均分子量3250)のEO付加物(数平均分子量16000)「ニューポールPE-108」1600部に変更した以外は製造例4と同様にして、エポキシジアクリレート(B-14)を得た。
【0087】
製造例7 <ポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b15-1)の製造>
製造例2において、ポリエーテルポリオール(b7-1)1540部をポリプロピレングリコール(数平均分子量2000)のEO付加物(数平均分子量3500)「ニューポールPE-75」3500部に変更した以外は製造例2と同様にして、ポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b15-1)を得た。このグリシジルエーテルのエポキシ当量は1800g/eqであった。
【0088】
製造例8 <エポキシジアクリレート(B-15)の製造>
製造例3において、ポリエーテルポリオールジグリシジルエーテル(b7-2)320部をポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b15-1)1800部、トルエン99.7部を600部、アクリル酸25.8部を72部に変更した以外は製造例2と同様にして、水酸基を分子内に有するエポキシジアクリレート(B-15)を得た。
【0089】
製造例9 <ポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b16-1)の製造>
製造例2において、ポリエーテルポリオール(b7-1)1540部をポリプロピレングリコール(数平均分子量1750)のEO付加物(数平均分子量8000)「ニューポールPE-68」4000部、水酸化ナトリウム182部を100部に変更した以外は製造例2と同様にして、ポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b16-1)を得た。このグリシジルエーテルのエポキシ当量は4060g/eqであった。
【0090】
製造例10 <エポキシジアクリレート(B-16)の製造>
製造例3において、ポリエーテルポリオールジグリシジルエーテル(b7-2)320部をポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b16-1)2030部、トルエン99.7部を600部、アクリル酸25.8部を72部に変更した以外は製造例2と同様にして、水酸基を分子内に有するエポキシジアクリレート(B-16)を得た。
【0091】
製造例11 <ポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b17-1)の製造>
製造例2において、ポリエーテルポリオール(b7-1)1540部をポリプロピレングリコール(数平均分子量3250)のEO付加物(数平均分子量16000)「ニューポールPE-108」4000部、水酸化ナトリウム182部を50部に変更した以外は製造例2と同様にして、ポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b17-1)を得た。このグリシジルエーテルのエポキシ当量は16000g/eqであった。
【0092】
製造例12 <エポキシジアクリレート(B-17)の製造>
製造例3において、ポリエーテルポリオールジグリシジルエーテル(b7-2)320部をポリエーテルポリオールジグシリジルエーテル(b17-1)4000部、トルエン99.7部を600部、アクリル酸25.8部を18部に変更した以外は製造例2と同様にして、エポキシジアクリレート(B-17)を得た。
【0093】
製造例13 <ビスフェノールAのEO40モル付加物(d2-1)の製造>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、ビスフェノールAのEO4モル付加物「ニューポールBPE-40」[三洋化成工業(株)製]404部(1モル部)、及び水酸化カリウム2部を投入し、窒素置換後、圧力を-0.08MPaとした。130℃に昇温し、EO1584部(36モル部)を圧力が0.5MPaG以下になるように調整しながら6時間かけて滴下した後、130℃で3時間熟成した。次いで100℃に冷却後、吸着処理剤「キョーワード600」[協和化学工業(株)製]30部を投入し、100℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過してビスフェノールAのEO40モル付加物(d2-1)を得た。
【0094】
製造例14 <ポリエステル樹脂(D-1)の製造>
ビスフェノールAのEO2モル付加物「ニューポールBPE-20」[三洋化成工業(株)製]1264部(4モル部)、テレフタル酸830部(5モル部)及びテトライソプロキシチタネート2部を、ガラス反応容器中、170℃で0.001MPaまで減圧し水を留去しながら15時間反応させた。ここにさらに製造例4で作成したビスフェノールAのEO40モル付加物(d2-1)1928部(0.97モル部)を加えて180℃で-0.1MPaまで減圧し水を除去しながら10時間反応させ、ポリエステル樹脂(D-1)3800部を得た。ポリエステル樹脂(D-1)の数平均分子量を上記の方法で測定したところ4100、100℃での粘度は4.5Pa・sであった。
【0095】
製造例15 <界面活性剤(E-2)>
撹拌装置及び温度制御装置付きの反応容器に、ポリプロピレングリコール(数平均分子量1750)のEO付加物(数平均分子量8000)「ニューポールPE-68」[三洋化成工業(株)製]992重量部を投入し、窒素置換した。乾燥窒素雰囲気下80℃まで昇温し、トルエンジイソシアネート「コロネートT-80」[日本ポリウレタン工業(株)製](以下、TDIと略す)8重量部を投入した後、80℃で5時間熟成し、非イオン界面活性剤(E-2)を得た。
【0096】
製造例16 <アクリル変性エポキシ樹脂(A’-2)>
ビスフェノールF型エポキシ樹脂「jER807」[三菱ケミカル(株)製]330部(1モル部)、アクリル酸72部(1モル部)、トリエタノールアミン0.4部をガラス反応容器中、110℃で5時間反応させて、片末端アクリル変性エポキシ樹脂(A’-2)412部得た。
【0097】
実施例1~29及び比較例1~8
水以外の表1~3に記載の部数の原料を、万能混合機[万能混合攪拌機、(株)三英製作所製]中で60℃に温調しながら30分均一溶解させた後、そこに水を6時間かけて滴下し、水分散濃度が40重量%の本発明の実施例に係る繊維用集束剤組成物(C-1)~(C-29)及び比較例に係る繊維用集束剤組成物(C’-1)~(C’-8)をそれぞれ250部得た。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
なお、表1~3に記載した記号の原料の化学組成は以下の通りである。
(A-1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名「JER1001」、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:475(g/eq)]
(A-2):ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名「JER828」、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:135(g/eq)]
(A-3):フェノールノボラック型エポキシ樹脂[商品名「JER152」、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:175(g/eq)]
(A-4):ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名「JER1002」、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:650(g/eq)]
(A-5):ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名「JER1004」、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:950(g/eq)]
(A’-1):ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル[商品名「エポライト400E」、共栄社化学(株)製、芳香環を有しない]
(A’-2):製造例16で得たビスフェノールF型エポキシ樹脂と、アクリル酸とを反応させて得た片末端アクリル変性エポキシ樹脂(ハーフエステル)
(B-1):ポリオキシプロピレングリコールジアクリレート[商品名「APG-400」、新中村化学工業(株)製、(メタ)アクリル当量:268g/eq]
(B-2):ポリオキシプロピレングリコール(末端エポキシアクリレート)[商品名「エポキシエステル200PA」、共栄社化学(株)製、2個の水酸基を有するジアクリレート、(メタ)アクリル当量:224g/eq、水酸基価:250mgKOH/g]
(B-3):ポリオキシエチレングリコールジアクリレート[商品名「ライトアクリレート9EG-A」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:254g/eq]
(B-4):ポリオキシエチレングリコールジアクリレート[商品名「NKエステルA-1000」、新中村化学(株)製、(メタ)アクリル当量:554g/eq]
(B-5):ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジアクリレート[商品名「ライトアクリレートBP-4EAL」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:256g/eq]
(B-6):ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジアクリレート[商品名「ライトアクリレートBP-4PA」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:284g/eq]
(B-7):製造例3で得たエポキシジアクリレート、(メタ)アクリル当量:944g/eq、水酸基価:59mgKOH/g]
(B-8):ポリテトラメチレングリコールジアクリレート[商品名「NKエステルA-PTMG-65」、新中村化学(株)製、(メタ)アクリル当量:379g/eq]
(B-9):ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジアクリレート[商品名「NKエステルA-BPE-30」、新中村化学(株)製、(メタ)アクリル当量:828g/eq]
(B-10):ビスフェノールAジグリシジルエーテルのアクリル酸2モル付加物[商品名「エポキシエステル3000A」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:242g/eq、水酸基価:232mgKOH/g]
(B-11):1,6-ヘキサンジオールジアクリレート[商品名「ライトアクリレート1.6HX-A」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:113g/eq]
(B-12):製造例4で得たポリエーテルポリオールジアクリレート、(メタ)アクリル当量:1804g/eq、]
(B-13):製造例5で得たポリエーテルポリオールジアクリレート、(メタ)アクリル当量:4054g/eq、]
(B-14):製造例6で得たポリエーテルポリオールジアクリレート、(メタ)アクリル当量:8054g/eq、]
(B-15):製造例8で得たエポキシジアクリレート、(メタ)アクリル当量:1880g/eq、水酸基価:30mgKOH/g]
(B-16):製造例10で得たエポキシジアクリレート、(メタ)アクリル当量:4130g/eq、水酸基価:14mgKOH/g]
(B-17):製造例12で得たエポキシジアクリレート、(メタ)アクリル当量:8130g/eq、水酸基価:7mgKOH/g]
(B-18):トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド付加物トリアクリレート[商品名「ライトアクリレートTMP-6EO-3A」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:169g/eq]
(B-19):ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジアクリレート[商品名「ライトアクリレートBP-10EA」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:388g/eq]
(B-20):ポリプロピレングリコールのジアクリレート[商品名「NKエステル APG-700」、新中村化学(株)製、(メタ)アクリル当量:404g/eq]
(B-21):ビスフェノールAのプロピレンオキサイド/エチレンオキサイド付加物のジアクリレート[商品名「NKエステル A-B1206PE」、新中村化学(株)製、(メタ)アクリル当量:648g/eq]
(B-22):ビスフェノールAジグリシジルエーテルメタクリレート[商品名「エポキシエステル3000A」、共栄社化学(株)製、(メタ)アクリル当量:242g/eq、水酸基価:232mgKOH/g]
(D-1):製造例14で得たポリエステル樹脂
(E-1):界面活性剤(E)として非イオン界面活性剤であるスチレン化フェノールのプロピレンオキサイドエチレンオキサイド付加物を含む乳化剤[商品名「Soprophor 796/P」、ソルベイ日華(株)製]
(E-2):製造例15で得た非イオン界面活性剤
【0102】
実施例と比較例の繊維用集束剤組成物を用いて、以下の評価方法で、炭素繊維束の集束性、毛羽及びマトリックス樹脂(ビニルエステル樹脂又はポリエーテルイミド)との接着性を評価した。また、実施例26~29及び比較例6~8については複合材料の成形体のボイドの発生の有無についても確認した。結果を表1~3に示す。
【0103】
<集束性の評価>
(1)固形分濃度が1.5重量%となるように繊維用集束剤組成物をさらに水で希釈した水溶液に、未処理炭素繊維(繊度800tex、フィラメント数12,000本)を浸漬して集束剤を含浸させ、180℃で3分間熱風乾燥させて炭素繊維束を作製した。
(2)得られた炭素繊維束の集束性を、JIS L1096-1999 8.19.1 A法(45°カンチレバー法)に準じて評価した。
数値(cm)が大きいほど集束性に優れることを意味する。
この処理条件で得られた炭素繊維束をカンチレバーで評価した集束性の値は、一般に13cm以上が好ましい。
【0104】
<毛羽の評価>
(1)上記と同じ方法で炭素繊維束を作製した。
(2)直径2mmのクロムめっきされたステンレス棒を、その表面を炭素繊維束が120°の接触角で接触しながら通過するように、ジグザクに15mm間隔で5本配置した。
このステンレス棒間に炭素繊維束をジグザグにかけ、1kg重の張力をかけた。巻き取りロール直前で炭素繊維束を、1kg重の荷重をかけた10cm×10cmのウレタンフォーム2枚で挟み、1m/分の速度で5分間擦過させた。
(3)この間にスポンジに付着した毛羽の重量を測定し、繊維の単位長さあたりの毛羽の重量(mg/m)を算出した。
単位長さあたりの毛羽の重量が小さいほど毛羽の発生が少ないことを意味する。
この処理条件で得られた炭素繊維束の毛羽の量は、一般に0.05mg/m以下が好ましい。
【0105】
<接着性の評価(ビニルエステル樹脂)>
マイクロドロップレット法により接着性を評価した。
(1)上記の方法にて得られた炭素繊維束から、炭素繊維フィラメントを取り出し、試料ホルダーにセットした。
(2)ビニルエステル樹脂「リポキシR-804」[昭和電工(株)製]100重量部、硬化剤「パーメックN」[日油(株)製]25重量部からなるマトリックス樹脂のマイクロドロップレットを炭素繊維フィラメント上に形成し、25℃×24時間、120℃×5時間加熱し硬化させ接着性の測定用の試料を得た。
(3)測定試料を複合材料界面特性評価装置HM410[東栄産業株式会社製]にセットし、炭素繊維フィラメントからマイクロドロップレットを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。
(4)界面剪断強度τを次式により算出した。
界面剪断強度τ(単位:MPa)=F/πdL
[但し、Fは最大引き抜き荷重(N)、dは炭素繊維フィラメント直径(μm)、Lはマイクロドロップレットの引き抜き方向の粒子径(μm)を表す。]
この界面剪断強度τが大きいほど接着性が高いことを意味し、43MPa以上が好ましく、さらに好ましくは45MPa以上である。
【0106】
<接着性の評価(ポリエーテルイミド樹脂)>
フラグメンション法により接着性を評価した。
(1)上記の方法にて得られた炭素繊維束から、炭素繊維フィラメントを取り出し、積層したポリエーテルイミド樹脂フィルム“スペリオ(登録商標)”Eタイプ[三菱樹脂(株)製]で上下方向から挟み、熱プレス装置にて、炭素繊維単糸を埋め込んだ成形板を得た。この成形板からダンベル形状の試験片を打ち抜いた。
(2)ダンベル形状の試料の両端部を挟み、繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、2.0mm/分の速度で歪みを12%生じさせた。その後、加熱により透明化させた試料内部の断片化された繊維長を顕微鏡で観察した。
(3)さらに平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面せん断強度(IFSS)を、次式で算出し、ポリエーテルイミド樹脂との接着性(MPa)として表に記載した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
本発明において、IFSSの好ましい範囲は40MPa以上が好ましくさらに好ましくは43MPa以上である。
【0107】
<ボイドの確認>
以下の手順で熱可塑性樹脂からなる複合材料の成形体を作成し、ボイドの有無を確認した。
(1)上記の方法にて得られた炭素繊維束を並べ、炭素繊維シートを作製した。
(2)続いて、樹脂フィルム“スペリオ(登録商標)”Eタイプ[三菱樹脂(株)製]5枚の間に樹脂フィルムと炭素繊維シートとが交互に積層されるように、上記の炭素繊維シート4枚を入れて積層フィルムを作製した。
(3)370℃に加熱した油圧式真空成形機の中に上記の積層フィルムを入れて、真空条件で4分間予熱した。10MPaで4分間加圧した後、30℃で2分間冷却し、離型することによって、目的の熱可塑性樹脂からなる複合材料の成形体を得た。
(4)得られた熱可塑性樹脂からなる複合材料の成形体をカッターで切断し、目視にてボイドの有無を確認した。
【0108】
表1~3の結果から、実施例1~29の繊維用集束剤組成物を用いると、高い集束性を保持しながら、毛羽立ちの少ない繊維束を作ることができ、かつ繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上することがわかる。さらに、実施例26~29の結果から、複合材料の成形体を製造した場合、ボイドが発生していないことから複合材料の強度も強くなることが期待できる。
一方、芳香環を有するエポキシ樹脂(A)を含有しない比較例1~2及び4~5の繊維用集束剤組成物を用いると、繊維束の集束性が低いことが分かる。その中でも、(メタ)アクリレート(B)のみを用いた比較例1の繊維用集束剤組成物を用いると、繊維束の毛羽の量が極めて多く、複合材料において繊維とマトリックス樹脂との接着性も極めて低いことが分かる。また、芳香環のないエポキシ樹脂(A’-1)と(メタ)アクリレート(B)とを用いた比較例2の繊維用集束剤組成物を用いると、繊維束の毛羽の量は少ないが、複合材料において繊維とマトリックス樹脂との接着性が低いことが分かる。また、芳香環を有しアクリロイル基を有するエポキシ樹脂(A’-2)を含有する比較例4及び5の繊維用集束剤組成物を用いると、複合材料において繊維とマトリックス樹脂との接着性は若干高いものの、繊維束の毛羽の量が多いことが分かる。さらに、エポキシ樹脂(A)のみを用いて、(メタ)アクリレート(B)を含有しない比較例3の繊維用集束剤組成物を用いると、繊維束の集束性は若干高いものの、複合材料において繊維とマトリックス樹脂との接着性も極めて低いことが分かる。また、比較例6~8の繊維用集束剤組成物を用いると、繊維束の集束性が低く、毛羽の量も多く、複合材料において繊維とマトリックス樹脂との接着性が極めて低く、ボイドが発生していることが分かる。