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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-17
(45)【発行日】2025-03-26
(54)【発明の名称】スチレン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20250318BHJP
   C08F 12/08 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F12/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023577071
(86)(22)【出願日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2023002876
(87)【国際公開番号】W WO2023145936
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022012761
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】森 朋行
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-052057(JP,A)
【文献】特表2015-505881(JP,A)
【文献】特開2007-091882(JP,A)
【文献】特表2010-506016(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022503(WO,A1)
【文献】MOAD L. CATHERINE et al.,Chain transfer activity of ω-unsaturated methyl methacrylate oligomers,Macromolecules,1996年,29,p.7717-7726
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 2/60
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン化合物を含む単量体を、可逆的付加-開裂連鎖移動剤及び10時間半減期温度が90℃以上であるアゾ重合開始剤の存在下、110℃以上で重合する、スチレン重合体の製造方法。
【請求項2】
前記スチレン化合物が下記一般式[1]で表される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【化1】
一般式[1]中、n個のRは、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ボロン酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数2~21のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルキルスルホン酸基、置換基として炭素数6~14のアリール基を有するホスフィノ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を2つ有するアミノ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数1~20のアルコキシ基を有するシリル基、置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を3つ有するシリルエーテル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、炭素数7~20のアリールアルキル基、炭素数1~13のヘテロアリール基、炭素数1~13のヘテロアリールオキシ基、炭素数2~19のヘテロアリールアルキル基、炭素数1~13のヘテロシクロアルキル基、又は炭素数1~13のヘテロシクロアルキルオキシ基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、nは0~5の整数を表す。
【請求項3】
前記スチレン化合物の含有量が前記単量体の総含有量に対して50質量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記単量体がスチレン化合物のみを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アゾ重合開始剤が、2,2’-アゾビス(n-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)又は2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アゾ重合開始剤と前記可逆的付加-開裂連鎖移動剤とのモル比[アゾ重合開始剤:可逆的付加-開裂連鎖移動剤]が1:1~1:100である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記可逆的付加-開裂連鎖移動剤が下記一般式[2]又は[3]で表される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【化2】
一般式[2]中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有する又は無置換の炭素数1~20のアルキル基を表し、該置換基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を有するアミノ基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、アルコキシポリアルキレングリコールカルボニル基、又はN-スクシンイミジルオキシカルボニル基を表す。
【化3】
一般式[3]中、Rは、置換基を有する又は無置換の炭素数1~20のアルキル基を表し、該置換基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を有するアミノ基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、又はN-スクシンイミジルオキシカルボニル基を表し、Aは、置換基として炭素数1~20のアルキル基及び5~7員の環状構造からなる群から選ばれる基を有する、もしくは無置換のアミノ基、又は置換基として、ハロゲノ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数1~20のアルコキシ基からなる群から選ばれる基を有する、もしくは無置換の5~7員の環状構造を表す。
【請求項8】
前記重合を重合禁止剤の存在下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記重合禁止剤が、4-tert-ブチルカテコール、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノン、tert-ブチルヒドロキノン及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群から選ばれるものである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記重合禁止剤の使用量が前記単量体1gに対して10~3000ppmである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記重合後の反応混合物から前記重合禁止剤を除去する工程を行わない、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記重合を有機溶媒中又は無溶媒条件下で行う、請求項1に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的付加-開裂連鎖移動剤を用いたスチレン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料や生体材料をはじめとする先端材料分野において、スチレン重合体の分子量分布の狭小化については、飛躍的な性能向上を目的として、さまざまな検討がなされてきた。狭い分子量分布を有するスチレン重合体は、一般的に、リビングアニオン重合やリビングラジカル重合などによって合成される。
スチレン重合体の重合方法としては、例えば、特許文献1には、ジフェニルアルキルリチウムより選ばれた重合開始剤と、リチウムアルコキサイド、水酸化リチウムより選ばれた少なくとも1種の存在下、炭化水素系溶媒中において0℃以下でスチレンモノマーをアニオン重合させる、アイソタクティシティーが30%以上のアイソタクチックポリスチレンの製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、可逆的付加-開裂連鎖移動剤(RAFT剤)としてのシアノメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエートの制御下で、特定の式で表される1種もしくは複数のエチレン性不飽和モノマーを重合させる工程を含むポリマーの調製方法が記載されている。より具体的な調製方法として、スチレン、シアノメチル3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエート、熱開始剤として1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)及びトルエンを含有する溶液を100℃で48時間加熱することにより、スチレン重合体を調製する方法が記載されている。
更に、特許文献3には、溶液中に低分散性のポリマーを含有するフォトレジスト組成物の液相調製方法が記載されており、その1工程として、チオカルボニルチオ連鎖移動剤及びペルオキシド開始剤の存在下で置換スチレンモノマーを100℃で24時間重合させる工程が具体的に記載されている。また、特許文献4には、S,S’-ビス(α、α’-ジ置換-α’’-酢酸)-トリチオカーボネートを用いたビニル含有モノマーの重合方法が記載さており、具体的には、S,S’-ビス(α、α’-ジメチル-α’’-酢酸)-トリチオカーボネートの存在下でスチレンを140℃で30分~6時間重合させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-080267号公報
【文献】特表2017-535634号公報
【文献】特許第4825405号公報
【文献】特許第4914553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の製造方法では、超脱水条件及び低温反応を必要とする。そのうえ、アセトキシ基等の官能基を導入したスチレンモノマーを用いる場合、重合開始剤が当該モノマーの官能基と反応してしまい、重合反応がうまく進行せず、モノマーの転化率が低くなるという問題がある。また、特許文献2に記載のスチレン重合体の調製方法は、可逆的付加-開裂連鎖移動(以下、RAFTという。)重合法を採用することにより、脱水工程が不要であり副反応が起こりにくいという改良がなされている。しかし、この調製方法においても、48時間の重合反応でモノマーの転化率が52%程度と低く、長時間反応させたとしても転化率の改善が見込めないという、生産効率に大きな問題を抱えている。
更に、特許文献3に記載の置換スチレンモノマーの重合工程においても、やはり転化率が低く、改善の余地がある。また、特許文献4に記載の方法では、そもそも、先端材料分野に適用可能なスチレン重合体、例えば高分子量(8,000以上)のスチレン重合体を製造できないという問題がある。
【0005】
本発明は、重合時間を短時間としても分子量分布を狭く保ったまま高い転化率でスチレン重合体を安全に製造できる、スチレン重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、RAFT重合法を採用したスチレン重合体の製造方法について検討を重ねた結果、重合反応系においてRAFT剤と共存させる重合開始剤として10時間半減期温度が90℃以上であるアゾ重合開始剤を選択したうえで、スチレン化合物を含む単量体のRAFT重合反応を110℃以上の高温で行うことにより、短時間であっても高い転化率で安全に単量体をRAFT重合させて、狭い分子量分布のスチレン重合体を製造できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0007】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>スチレン化合物を含む単量体を、可逆的付加-開裂連鎖移動剤及び10時間半減期温度が90℃以上であるアゾ重合開始剤の存在下、110℃以上で重合する、スチレン重合体の製造方法。
<2>スチレン化合物が下記一般式[1]で表される化合物である、<1>に記載の製造方法。
【化1】
一般式[1]中、n個のRは、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ボロン酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数2~21のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルキルスルホン酸基、置換基として炭素数6~14のアリール基を有するホスフィノ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を2つ有するアミノ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数1~20のアルコキシ基を有するシリル基、置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を3つ有するシリルエーテル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、炭素数7~20のアリールアルキル基、炭素数1~13のヘテロアリール基、炭素数1~13のヘテロアリールオキシ基、炭素数2~19のヘテロアリールアルキル基、炭素数1~13のヘテロシクロアルキル基、又は炭素数1~13のヘテロシクロアルキルオキシ基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、nは0~5の整数を表す。
<3>スチレン化合物の含有量が単量体の総含有量に対して50質量%以上である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4>単量体がスチレン化合物のみを含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法。
<5>アゾ重合開始剤が、2,2’-アゾビス(n-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)又は2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法。
<6>アゾ重合開始剤と可逆的付加-開裂連鎖移動剤とのモル比[アゾ重合開始剤:可逆的付加-開裂連鎖移動剤]が1:1~1:100である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の製造方法。
【0008】
<7>可逆的付加-開裂連鎖移動剤が下記一般式[2]又は[3]で表される化合物である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の製造方法。
【化2】
一般式[2]中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有する又は無置換の炭素数1~20のアルキル基を表し、この置換基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を有するアミノ基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、アルコキシポリアルキレングリコールカルボニル基、又はN-スクシンイミジルオキシカルボニル基を表す。
【化3】
一般式[3]中、Rは、置換基を有する又は無置換の炭素数1~20のアルキル基を表し、この置換基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を有するアミノ基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、又はN-スクシンイミジルオキシカルボニル基を表し、Aは、置換基として炭素数1~20のアルキル基及び5~7員の環状構造からなる群から選ばれる基を有する、もしくは無置換のアミノ基、又は置換基として、ハロゲノ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数1~20のアルコキシ基からなる群から選ばれる基を有する、もしくは無置換の5~7員の環状構造を表す。
【0009】
<8>重合を重合禁止剤の存在下で行う、<1>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
<9>重合禁止剤が、4-tert-ブチルカテコール、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノン、tert-ブチルヒドロキノン及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群から選ばれるものである、<8>に記載の製造方法。
<10>重合禁止剤の使用量が単量体1gに対して10~3000ppmである、<8>又は<9>に記載の製造方法。
<11>重合後の反応混合物から重合禁止剤を除去する工程を行わない、<8>~<10>のいずれか1つに記載の製造方法。
<12>重合を有機溶媒中又は無溶媒条件下で行う、<1>~<11>のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスチレン重合体の製造方法は、狭い分子量分布を有するスチレン重合体を、短時間であっても高い転化率で、しかも安全に製造することができる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、下記の記載からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、本発明において、反応条件、原料化合物等の使用量等について数値範囲を段階的に複数設定して説明する場合、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲を形成する上限値及び下限値の数値を適宜組み合わせることができる。
本発明において化合物(重合体を含む。)の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本発明において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等と省略する。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本発明において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。より具体的には、置換又は無置換を明記していない「アルキル基」は、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)と、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)とを包含する。このことは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、例えば後述する置換基Zが挙げられる。
本発明において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を構成(形成)していてもよい意味である。
本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリレートについても同様である。
本発明において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、本発明において特段の断りがない限り、基そのものの炭素数を意味する。つまり、この基が更に置換基を有する形態である場合(ただし、分岐鎖のアルキル基等のように、更に置換基を有する形態が1つの基と解釈しうる基を除く。)、この置換基の炭素数を含まずに数えた場合の炭素数を意味する。
本発明において、重合体は、単独重合体に加えて、共重合体を包含する意味である。
【0012】
[スチレン重合体の製造方法]
本発明のスチレン重合体の製造方法(本発明の製造方法ということがある。)は、RAFT剤及び10時間半減期温度が90℃以上であるアゾ重合開始剤の存在下、110℃以上の反応温度で、スチレン化合物を含む単量体をRAFT重合させる方法である。本発明の製造方法では、アゾ重合開始剤が熱分解(開裂)して発生したラジカルを利用してRAFT剤が連鎖移動剤等として機能して、単量体の重合反応が進行する。本発明の製造方法において生起するRAFT重合反応はRAFT剤を用いた通常のRAFT重合反応と同じである。RAFT剤を用いた通常のRAFT重合反応の機構としては例えば特許文献2に記載されている。
【0013】
本発明の方法により、上述のように、狭い分子量分布を有するスチレン重合体を、短時間であっても高い転化率で、しかも安全に製造することができる。
本発明において、転化率(反応率ともいう。)は、単量体の転化率を示し、単量体について、RAFT重合反応に供給された供給量に対する、RAFT重合反応が進行して反応した反応量との百分率:(反応量/供給量)×100(%)を示す。具体的な測定、算出方法については後述する実施例において説明する。
なお、本発明の製造方法により達成される高い転化率、得られたスチレン重合体が示す狭い分子量分布の詳細については後述する。
【0014】
まず、本発明の製造方法に用いる化合物について、説明する。
<単量体>
本発明の製造方法に用いる単量体は、スチレン化合物を含んでいる。スチレン化合物を含む単量体とは、スチレン化合物のみを含む単量体と、スチレン化合物とその他の重合性化合物とを含む単量体との両形態を包含する。
【0015】
(スチレン化合物)
スチレン化合物は、ビニルベンゼン骨格を有する化合物であればよく、スチレン、置換基を有するスチレン等が挙げられる。置換基は、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限されず、適宜選択でき、例えば後述する置換基Zから選択される。
本発明の製造方法に用いる単量体は、スチレン化合物を1種含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
スチレン化合物としては、下記一般式[1]で表される化合物が好ましい。
【化4】
【0016】
一般式[1]において、n個のRは、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基(-S(=O)(OH))、リン酸基(-OP(=O)(OH))、ホスホン酸基(-P(=O)(OH))、ボロン酸基(-B(OH))、シアノ基、ニトロ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数2~21のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルキルスルホン酸基、置換基として炭素数6~14のアリール基を有するホスフィノ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を2つ有するアミノ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数1~20のアルコキシ基を有するシリル基、置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を3つ有するシリルエーテル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、炭素数7~20のアリールアルキル基、炭素数1~13のヘテロアリール基、炭素数1~13のヘテロアリールオキシ基、炭素数2~19のヘテロアリールアルキル基、炭素数1~13のヘテロシクロアルキル基、又は炭素数1~13のヘテロシクロアルキルオキシ基を表す。
【0017】
ハロゲノ基としては、ハロゲン原子が挙げられ、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1~20のアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよい。このアルキル基の炭素数は、1~12であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。炭素数1~20のアルキル基は、具体的には、メチル、イソブチル、tert-ブチルが好ましい。
炭素数1~20のアルコキシ基は、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよい。このアルコキシ基の炭素数は、1~12であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。炭素数1~20のアルコキシ基は、具体的には、メトキシ、tert-ブトキシが好ましい。
炭素数2~21のアルコキシアルコキシ基は、-O-RA1-O-RA2で表される基を意味し、ここでRA1はアルキレン基を示し、RA2はアルキル基を示す。RA1としてとりうるアルキレン基としては、炭素数1~20のアルキレン基が挙げられ、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよく、直鎖が好ましい。このアルキレン基RA1の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。アルキレン基RA1は、具体的には、エチレンが好ましい。RA2としてとりうるアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基が挙げられ、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよい。このアルキル基RA2の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。アルキル基RA2は、具体的には、エチルが好ましい。アルコキシアルコキシ基の炭素数は、アルキレン基RA1及びアルキル基RA2の炭素数の合計であり、各基の炭素数により決定されるが、例えば、2~12であることが好ましく、2~8であることがより好ましい。炭素数2~21のアルコキシアルコキシ基は、具体的には、1-エトキシエトキシが好ましい。
炭素数2~21のアルコキシカルボニル基は、-CO-O-RA3で表される基を意味し、ここでRA3はアルキル基を示す。RA3としてとりうるアルキル基は、Rとしてとりうる上記炭素数1~20のアルキル基と同じである。
炭素数2~21のアルキルカルボニルオキシ基は、-O-CO-RA4で表される基を意味し、ここでRA4はアルキル基を示す。RA4としてとりうるアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基が挙げられ、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよい。このアルキル基RA4の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。アルキル基RA4は、具体的には、メチルが好ましい。
【0018】
炭素数6~14のアリール基としては、芳香族炭化水素環の環構成原子が結合部となる基であればよく、芳香族炭化水素環からなる基、芳香族炭化水素環とその他の環とからなる基等を包含する。この他の環としては、例えば、芳香族複素環、非芳香族環(不飽和脂肪族炭化水素環、不飽和脂肪族複素環を含む。)、飽和脂肪族炭化水素環、飽和脂肪族複素環等が挙げられる。アリール基は、単環構造でも複環構造(縮合環構造、橋掛け環構造、スピロ環構造等)でもよい。アリール基の炭素数は、6~10であることが好ましく、6であることがより好ましい。
炭素数6~14のアリールオキシ基におけるアリール基は、上記炭素数6~14のアリール基と同じである。
炭素数7~20のアリールアルキル基は、置換基としてアリール基を有するアルキル基を意味する。ここでとりうるアリール基は、上記炭素数6~14のアリール基と同じである。ここでとりうるアルキル基(アリール基で置換される前のアルキル基)は、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよく、直鎖が好ましい。このアルキル基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。アリールアルキル基の炭素数は、アリール基及びアルキル基の炭素数の合計であり、各基の炭素数により決定されるが、例えば、7~16であることが好ましく、7~9であることがより好ましい。
【0019】
炭素数1~20のアルキルスルホン酸基は、-S(=O)(OR)で表される基を意味し、ここでRはアルキル基を示す。Rとしてとりうるアルキル基は、Rとしてとりうる上記炭素数1~20のアルキル基と同じである。
置換基として炭素数6~14のアリール基を有するホスフィノ基は、-P(H)PX(RPYで表される基を意味し、ここでRはアリール基を示す。Rとしてとりうるアリール基は上記炭素数6~14のアリール基と同じである。PXは0又は1であり、PYは1又は2である。ただし、PXとPYの合計は2である。
置換基として炭素数1~20のアルキル基を2つ有するアミノ基は、N,N-ジアルキルアミノ基を意味し、アミノ基が有する2つのアルキル基はそれぞれRとしてとりうる上記炭素数1~20のアルキル基と同じである。N,N-ジアルキルアミノ基が有する2つのアルキル基は同一でも異なっていてもよい。
置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数1~20のアルコキシ基を有するシリル基としては、-Si(H)SiX(RSiSiYで表される基を意味し、ここでRSiはアルキル基又はアルコキシ基を示す。RSiとしてとりうるアルキル基及びアルコキシ基は、それぞれ、Rとしてとりうる上記炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基と同じである。SiXは0~2の整数であり、SiYは1~3の整数である。ただし、SiXとSiYの合計は3である。シリル基が2以上の置換基を有する場合、2以上の置換基は同一でも異なっていてもよい。
置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を3つ有するシリルエーテル基は、-O-Si(RSiOで表される基を意味し、ここでRSiOは、アリール基又はアルキル基を示す。RSiOとしてとりうるアルキル基は、Rとしてとりうる上記炭素数1~20のアルキル基と同じであり、RSiOとしてとりうるアリール基は、Rとしてとりうる上記炭素数6~14のアリール基と同じである。3つのRSiOは同一でも異なっていてもよく、2つ以上のRSiOが同一であることが好ましい。-O-Si(RSiOで表される基は、具体的には、トリメチルシリルエーテル、トリイソプロピルシリルエーテル、tert-ブチルジメチルシリルエーテル、ジ-tert-ブチルイソブチルシリルエーテル、tert-ブチルジフェニルシリルエーテルが好ましい。
【0020】
炭素数1~13のヘテロアリール基としては、芳香族複素環の環構成原子が結合部となる基であればよく、芳香族複素環からなる基、芳香族複素環とその他の環とからなる基等を包含する。芳香族複素環が環構造中に有するヘテロ原子としては、特に制限されず、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子等が挙げられる。1つの芳香族複素環は、その環内に1個以上のヘテロ原子を有しており、通常1~4個、好ましくは1~2個有している。芳香族複素環としては5~7員環であることが好ましい。上記の他の環としては、例えば、芳香族炭化水素環、非芳香族環(不飽和脂肪族炭化水素環、不飽和脂肪族複素環を含む。)、飽和脂肪族炭化水素環、飽和脂肪族複素環等が挙げられる。ヘテロアリール基は、単環構造でも複環構造(縮合環構造、橋掛け環構造、スピロ環構造等)でもよい。ヘテロアリール基の炭素数は、1~9であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。
炭素数1~13のヘテロアリールオキシ基におけるヘテロアリール基は、上記炭素数1~13のヘテロアリール基と同じである。
炭素数2~19のヘテロアリールアルキル基は、置換基としてヘテロアリール基を有するアルキル基を意味する。ここでとりうるヘテロアリール基は、Rとしてとりうる上記炭素数1~13のヘテロアリール基と同じである。ここでとりうるアルキル基(ヘテロアリール基で置換される前のアルキル基)は、Rとしてとりうる上記炭素数7~20のアリールアルキル基におけるアルキル基と同じである。ヘテロアリールアルキル基の炭素数は、ヘテロアリール基及びアルキル基の炭素数の合計であり、各基の炭素数により決定されるが、例えば、3~15であることが好ましく、4~9であることがより好ましい。
【0021】
炭素数1~13のヘテロシクロアルキル基は、飽和脂肪族複素環の環構成原子が結合部となる基であればよく、飽和脂肪族複素環からなる基、飽和脂肪族複素環とその他の環とからなる基等を包含する。飽和脂肪族複素環が環構造中に有するヘテロ原子としては、特に制限されず、上記炭素数1~13のヘテロアリール基におけるヘテロ原子と同じである。1つの飽和脂肪族複素環は、その環内に1個以上のヘテロ原子を有しており、通常1~4個、好ましくは1~2個有している。飽和脂肪族複素環としては5~7員環であることが好ましい。上記の他の環としては、例えば、芳香族炭化水素環、芳香族複素環、不飽和脂肪族炭化水素環、不飽和脂肪族複素環、飽和脂肪族炭化水素環等が挙げられる。ヘテロシクロアルキル基は、単環構造でも複環構造(縮合環構造、橋掛け環構造、スピロ環構造等)でもよい。ヘテロシクロアルキル基の炭素数は、1~9であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。ヘテロシクロアルキル基としては、例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル基が挙げられる。
炭素数1~13のヘテロシクロアルキルオキシ基におけるヘテロシクロアルキル基は、上記炭素数1~13のヘテロシクロアルキル基と同じである。
【0022】
なお、Rとしてとりうる、置換基を有する上記各基(ただし、アミノ基を除く)は、それぞれ、少なくとも1つの置換基を有していればよく、とりうる限りの置換基を有していてもよい。
また、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ボロン酸基等は、無機塩又は有機塩を形成していてもよい。
【0023】
は、上記各基の中でも、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシアルコキシ基、炭素数2~21のアルキルカルボニルオキシ基が好ましい。
【0024】
一般式[1]において、Rが置換するベンゼン環の位置は、ビニル基が結合する環構成炭素原子(1位)に対して、2位~4位のいずれでもよい。また、Rが2以上存在する場合も、結合位置の組み合わせは特に制限されない。
【0025】
一般式[1]において、nは、0~5の整数を表し、0~3の整数が好ましく、0~2がより好ましい。
【0026】
一般式[1]において、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、水素原子が好ましい。Rとしてとりうる炭素数1~6のアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよい。このアルキル基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0027】
スチレン化合物としては、具体的には、例えば、スチレン(無置換スチレン);α-メチルスチレン;ヒドロキシスチレン等のヒドロキシ基含有スチレン;4-ビニル安息香酸等のカルボキシ基含有スチレン;スチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基含有スチレン;4-ビニルフェニルボロン酸等のボロン酸基含有スチレン;4-ニトロスチレン等のニトロ基含有スチレン;3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、3-ブロモスチレン、4-ブロモスチレン、4-フルオロスチレン、ペンタフルオロスチレン等のハロゲノ基含有スチレン;2-ビニルトルエン、3-ビニルトルエン、4-ビニルトルエン、4-イソブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、4-イソプロペニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等のアルキル基含有スチレン;2-メトキシスチレン、3-メトキシスチレン、4-メトキシスチレン、2-tert-ブトキシスチレン、3-tert-ブトキシスチレン、4-tert-ブトキシスチレン等のアルコキシ基含有スチレン;4-(1-エトキシエトキシ)スチレン等のアルコキシアルコキシ基含有スチレン;2-アセトキシスチレン、3-アセトキシスチレン、4-アセトキシスチレン等のアルキルカルボニルオキシ基含有スチレン;スチレンスルホン酸エチル等のアルキルスルホン酸基含有スチレン;ジフェニルホスフィノスチレン等のホスフィノ基含有スチレン;N,N-ジメチルアミノスチレン等のアミノ基含有スチレン;トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリメチル(4-ビニルフェニル)シラン等のシリル基含有スチレン;トリメチル(4-ビニルフェノキシ)シラン、トリイソプロピル(4-ビニルフェノキシ)シラン、tert-ブチルジメチル(4-ビニルフェノキシ)シラン、ジ-tert-ブチルイソブチル(4-ビニルフェノキシ)シラン、tert-ブチルジフェニル(4-ビニルフェノキシ)シラン等のシリルエーテル基含有スチレン;2-(4-ビニルフェノキシ)テトラヒドロピラン等のヘテロシクロアルキルオキシ基含有スチレン等が挙げられる。
中でも、(無置換)スチレン、アルキル基含有スチレン、アルコキシ基含有スチレン、アルコキシアルコキシ基含有スチレン、アルキルカルボニルオキシ基含有スチレンが好ましく、具体的には、スチレン、4-ビニルトルエン、4-イソブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-tert-ブトキシスチレン、4-(1-エトキシエトキシ)スチレン、4-アセトキシスチレンが好ましい。
【0028】
(その他の重合性化合物)
単量体が上記スチレン化合物とともに含みうるその他の重合性化合物は、スチレン化合物と共重合可能な化合物であればよく、通常、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物が挙げられる。このような重合性化合物としては、特に制限されず、例えば、RAFT重合反応に通常用いられる重合性化合物を、特に制限されることなく、用いることができる。
このような重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル化合物、カルボン酸ビニルエステル化合物、共役ジエン化合物、オレフィン化合物、ハロゲン化ビニル化合物、ハロゲン化ビニリデン化合物等が挙げられる。
【0029】
(メタ)アクリル化合物としては、アクリル化合物及びメタクリル化合物を包含し、例えば、
(メタ)アクリル酸;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
1-メチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-エチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-イソプロピルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-プロピルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1-メチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、1-エチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、1-イソプロピルシクロへキシル(メタ)アクリレート、1-プロピルシクロへキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;
γ-ブチロラクトン(メタ)アクリレート等の環状エステル基を有する(メタ)アクリレート;
3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジルアクリレート、オキセタニル(メタ)アクリレート等の環状エーテル基を有する(メタ)アクリレート;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;
メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソオクチルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエチレングリコール(メタ)アクリレート;
等を挙げることができる。
【0030】
カルボン酸ビニルエステル化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の炭素数3~10のカルボン酸ビニルエステル化合物を挙げることができる。
【0031】
本発明の製造方法に用いる単量体としては、用途や特性等に応じて、スチレン化合物を単独で用いるか、スチレン化合物とその他の重合性化合物との混合物を用いる。単量体としてスチレン化合物とその他の重合性化合物との混合物を用いる場合、単量体の総質量(総含有量)中のスチレン化合物の含有量は、通常、50質量%以上100質量%未満の範囲内で適宜設定できる。
【0032】
<RAFT剤>
RAFT剤としては、RAFT重合反応に通常用いられるRAFT剤を、特に制限されることなく、用いることができる。
このようなRAFT剤としては、例えば、チオカルボニルチオ(-C(=S)-S-)基を含む化合物等が挙げられる。具体的には、ジチオベンゾエート化合物、芳香族又は脂肪族複素環のカルボジチオエート化合物、トリチオカーボネート化合物、ジチオカルバメート化合物、ジチオカーボネート化合物、キサンテート化合物等が挙げられる。また、RAFT剤前駆体として通常用いられるジスルフィド構造を有する化合物を用いることもできる。このようなジスルフィド構造を有する化合物としては、例えば、ビス(チオベンゾイル)ジスルフィド、ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィド、N,N’-ジメチル-N,N’-ジ(4-ピリジニル)チウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法に用いるRAFT剤としては、重合活性、分子量分布の制御、化合物の経時安定性等の点で、下記一般式[2]又は[3]で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
一般式[2]中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有する又は無置換の炭素数1~20のアルキル基を表し、この置換基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を有するアミノ基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、アルコキシポリアルキレングリコールカルボニル基、又はN-スクシンイミジルオキシカルボニル基を表す。
【0034】
及びRとしてとりうる炭素数1~20のアルキル基は、無置換アルキル基又は置換アルキル基であり、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよく、直鎖又は分岐鎖であることが好ましい。R及びRとしてとりうるアルキル基は互いに同一でも異なっていてもよい。
及びRとしてとりうるアルキル基の炭素数は、1~20の範囲内で適宜決定され、1~12であることが好ましい。
【0035】
及びRとしてとりうるアルキル基が有しうる置換基について説明する。
ハロゲノ基としては、ハロゲン原子が挙げられ、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基は、上記Rとしてとりうる対応する各基と同じである。
置換基として炭素数1~20のアルキル基を有するアミノ基としては、置換基として炭素数1~20のアルキル基を1つ又は2つ有していればよく、例えば、N-アルキルアミノ基、N,N-ジアルキルアミノ基が挙げられる。アミノ基が有するアルキル基は、Rとしてとりうる上記炭素数1~20のアルキル基と同じである。
炭素数1~20のアルキルチオ基は、直鎖、分岐鎖若しくは環状鎖のいずれでもよい。このアルキルチオ基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。
アルコキシポリアルキレングリコールカルボニル基は、-CO-O-(RA5-O)x-RA6で表される基を意味し、ここでRA5はアルキレン基を示し、RA6はアルキル基を示す。RA5としてとりうるアルキレン基としては、炭素数1~20のアルキレン基が挙げられ、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよい。このアルキレン基RA5の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。x個のアルキレン基は互いに同一でも異なっていてもよい。RA6としてとりうるアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基が挙げられ、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよい。このアルキル基RA6の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。アルコキシポリアルキレングリコールカルボニル基の炭素数は、カルボニル基、x個のアルキレン基RA4及びアルキル基RA6の炭素数の合計であり、各基の炭素数及びxにより決定される。xは1~500の整数であり、30~250の整数であることが好ましい。
【0036】
及びRとしてとりうるアルキル基が有しうる置換基は、上述の中でも、カルボキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、アルコキシポリアルキレングリコールカルボニル基、N-スクシンイミジルオキシカルボニル基が好ましく、カルボキシ基、シアノ基、アリール基がより好ましい。R及びRとしてとりうるアルキル基が置換基を有する場合、置換基の数は特に制限されず、例えば1~4個とすることができ、1個又は2個であることが好ましい。1つのアルキル基が2個以上の置換基を有する場合、置換基の組み合わせは、特に制限されず適宜組み合わせることができ、例えば、上記好ましい置換基同士の組み合わせが好ましい。
【0037】
及びRとしてとりうるアルキル基が有しうる置換基は、更に置換基を有していてもよい。このような置換基としては、特に制限されず、例えば、後述する置換基Zから選択される基が挙げられ、具体的には、置換基としてアルキル基を有する又は無置換のアミド基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基等が挙げられる。アミド基が有するアルキル基は、上記Rとしてとりうる炭素数1~20のアルキル基と同じである。アルコキシカルボニル基は、上記Rとしてとりうる炭素数2~21のアルコキシカルボニル基と同じである。なお、更に有していてもよい置換基は、ヒドロキシ基、メチルカルボニルオキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0038】
上記一般式[2]で表される化合物は、トリチオカーボネート(トリチオ炭酸)化合物であり、その具体例を実施例及び以下に示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。下記具体例において、C1225は直鎖ドデシル基を示し、xは上記アルコキシポリアルキレングリコールカルボニル基において例示したxと同じである。
【0039】
【化6】
【0040】
【化7】
【0041】
【化8】
一般式[3]中、Rは、置換基を有する又は無置換の炭素数1~20のアルキル基を表し、この置換基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルチオ基、置換基として炭素数1~20のアルキル基を有するアミノ基、炭素数6~14のアリール基、炭素数6~14のアリールオキシ基、又はN-スクシンイミジルオキシカルボニル基を表し、Aは、置換基として炭素数1~20のアルキル基及び5~7員の環状構造からなる群から選ばれる基を有する、もしくは無置換のアミノ基、又は置換基として、ハロゲノ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数1~20のアルコキシ基からなる群から選ばれる基を有する、もしくは無置換の5~7員の環状構造を表す。
【0042】
としてとりうる炭素数1~20のアルキル基は、無置換アルキル基又は置換アルキル基であり、直鎖、分岐鎖又は環状鎖のいずれでもよく、直鎖又は分岐鎖であることが好ましい。
としてとりうるアルキル基の炭素数は、1~20の範囲内で適宜決定され、1~12であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。
【0043】
としてとりうるアルキル基が有しうる各置換基は、それぞれ、上記R及びRとしてとりうるアルキル基が有しうる置換基のうち対応する各基と同じである。
としてとりうるアルキル基が有しうる置換基は、上述の中でも、カルボキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、N-スクシンイミジルオキシカルボニル基が好ましく、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリール基がより好ましい。Rとしてとりうるアルキル基が置換基を有する場合、置換基の数は特に制限されず、例えば1~4個とすることができ、1個又は2個であることが好ましい。1つのアルキル基が2個以上の置換基を有する場合、置換基の組み合わせは、特に制限されず適宜組み合わせることができ、例えば、上記好ましい置換基同士の組み合わせが好ましい。
としてとりうるアルキル基は、無置換アルキル基でもよいが、置換アルキル基であることが好ましい。
【0044】
としてとりうるアルキル基が有しうる置換基は、更に置換基を有していてもよい。このような置換基としては、特に制限されず、例えば、後述する置換基Zから選択される基が挙げられる。
【0045】
上記一般式[3]において、Aとしてとりうるアミノ基は、無置換アミノ基、又は、置換基として炭素数1~20のアルキル基もしくは5~7員の環状構造を有する置換アミノ基である。
Aとしてとりうるアミノ基が有しうる置換基としてのアルキル基は、上記Rとしてとりうる炭素数1~20のアルキル基と同じである。Aとしてとりうるアミノ基が有しうる置換基としての5~7員の環状構造は、Aとしてとりうる後述する5~7員の環状構造と同じである。置換アミノ基は、置換基を少なくとも1つ有していればよいが、2つ有していることが好ましい。2つの置換基は、2つともアルキル基であっても環状構造であってもよく、1つがアルキル基で1つが環状構造であってもよい。
【0046】
また、Aとしてとりうる5~7員の環状構造(環基)は、無置換の環状構造、又は、置換基として、ハロゲノ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数1~20のアルコキシ基を有する環状構造である。
上記環状構造は、5~7員の環状構造を有していれば特に制限されず、芳香族環基であっても非芳香族環基であってもよい。この環状構造は、5員又は6員の環構造が好ましく、通常単環構造である。また、上記環状構造は、炭化水素環基であっても複素環基であってもよい。上記環状構造が複素環基である場合、複素環基が環構造中に有するヘテロ原子としては、特に制限されず、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子等が挙げられる。1つの複素環は、その環中に1個以上のヘテロ原子を有しており、通常、1~3個有している。
上記環状構造としては、例えば、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基等の芳香族環基、飽和脂肪族炭化水素環基、飽和脂肪族複素環基、不飽和脂肪族炭化水素環基、不飽和脂肪族複素環基等の非芳香族環基が挙げられる。
上記芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基としては、それぞれ、特に制限されず、例えば、上記Rとしてとりうる炭素数6~14のアリール基又は炭素数6~14のヘテロアリール基と同じであることが好ましい。上記芳香族炭化水素環基としては、ベンゼン環基が好ましい。上記芳香族複素環基としては、環構成原子として窒素原子を含む含窒素複素環が好ましく、ピロール環基、ピラゾール環基、ピリジン環基がより好ましい。
上記飽和脂肪族炭化水素環基としては、特に制限されず、後述する置換基Zにおけるシクロアルキル基が挙げられる。上記不飽和脂肪族炭化水素環基としては、例えば、飽和脂肪族炭化水素環基の隣接する2つの環構成炭素原子から水素原子を1つもしくは2つずつ除去して二重結合もしくは三重結合に変換した環基が挙げられる。
上記飽和脂肪族複素環基としては、特に制限されず、例えば、後述する置換基Zにおけるヘテロ環基のうちの脂肪族ヘテロ環基が挙げられる。上記不飽和脂肪族複素環基としては、例えば、飽和脂肪族複素環基の隣接する2つの環構成炭素原子から水素原子を1つずつ除去して二重結合に変換した環基が挙げられる。
上記環状構造としては、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基が好ましく、ベンゼン環基、ピロール環基、ピラゾール環基、ピリジン環基がより好ましい。
【0047】
上記環状構造が有しうる各置換基は、それぞれ、上記Rとしてとりうる対応する各基と同じであることが好ましい。
上記環状構造が有する置換基は、上述の中でも、シアノ基、ハロゲノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基が好ましい。上記環状構造が置換基を有する場合、置換基の数は特に制限されず、例えば5員の環構造であれば1~4個、6員の環構造であれば1~5個とすることができ、いずれも1~3個であることが好ましい。1つの上記環状構造が2個以上の置換基を有する場合、置換基の組み合わせは、特に制限されず適宜組み合わせることができ、例えば、上記好ましい置換基同士の組み合わせが好ましい。
【0048】
上記一般式[3]で表される化合物において、AとRとの組み合わせは、特に制限されず適宜組み合わせることができ、例えば、上記好ましいもの同士の組み合わせが好ましい。
【0049】
上記一般式[3]で表される化合物としては、ジチオカーボネート化合物、ジチオカルバメート化合物等を包含し、その具体例として、メチル-2-フェニル-2-(フェニルカルボノチオイルチオ)アセテート、更に実施例及び以下に示す化合物が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0050】
【化9】
【0051】
【化10】
【0052】
- 置換基Z -
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等、本明細書においてアルキル基というときには通常シクロアルキル基を含む意味であるが、ここでは別記する。)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基で、より好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を環構成原子として有する5又は6員環のヘテロ環基である。ヘテロ環基には芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン環基、テトラヒドロフラン環基、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル、ピロリドン基等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、ヘテロ環オキシカルボニル基(上記ヘテロ環基に-O-CO-基が結合した基)、置換アミノ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルアミノ基、炭素数6~26のアリールアミノ基を含み、例えば、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(-SONH)、置換スルファモイル基(好ましくは炭素数1~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシシリル基、例えば、モノメトキシシリル、ジメトキシシリル、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル等)、アリールオキシシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールオキシシリル基、例えば、トリフェニルオキシシリル等)、亜リン酸基(-OPH(=O)(-OH))、置換亜リン酸基(好ましくは炭素数が1~20である亜リン酸基、例えば、-OP(=O)(-OH)(R))、ホスホリル基(-OPH(=O))、置換ホスホリル基(好ましくは炭素数1~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(R)、ホスホニル基(好ましくは炭素数1~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(R)、ホスフィニル基(-P(=O)H)、置換ホスフィニル基(好ましくは炭素数1~20のホスフィニル基、例えば、-P(=O)(R)、ホスホン酸基(-P(=O)(OH))、置換ホスホン酸基(好ましくは炭素数1~20のホスホン酸基、例えば、-P(=O)(OR)、スルホ基(スルホン酸基)、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。Rは置換基(好ましくは置換基Zから選択される基)である。
また、これらの置換基Zで挙げた各基は、上記置換基Zが更に置換していてもよい。
【0053】
RAFT剤は、公知の方法に準じて適宜合成してもよく、市販品を用いることもできる。合成方法としては、例えば、上記特許文献2及び4に記載の方法、後述する実施例で挙げた文献等に記載の方法が挙げられる。
【0054】
本発明の製造方法において、RAFT剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
RAFT剤の使用量は、特に制限されず、目標とするスチレン重合体の分子量等に応じて適宜設定できる。その一例を挙げると、例えば、下記式に基づきRAFT剤の使用量を設定することができる。
目標とするスチレン重合体の分子量={スチレン化合物を含む単量体の使用量(mol)/RAFT剤の使用量(mol)}×スチレン化合物を含む単量体の分子量+RAFT剤の分子量
【0055】
<アゾ重合開始剤>
アゾ重合開始剤は、単量体等の水素引き抜きが起こりにくいと考えられ、ペルオキシド重合開始剤に比して安全に重合反応を行うことができ、本発明の製造方法における分子量分布の制御に貢献する。本発明の製造方法においては、アゾ重合開始剤の中でも、10時間半減期温度が90℃以上であるアゾ重合開始剤を選択してRAFT剤と併用して110℃以上で重合反応を行う。これにより、短時間であっても高い転化率で安全に単量体の重合反応を進行させることができ、しかも狭い分子量分布のスチレン重合体を製造できる。
10時間半減期温度は、例えば特許第6657883号公報の明細書段落0031に示す方法に準じて測定される。
【0056】
10時間半減期温度が90℃以上であるアゾ重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(n-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)(10時間半減期温度:110℃)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)(10時間半減期温度:110℃)等が挙げられる。
アゾ重合開始剤は、適宜合成してもよく、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、富士フイルム和光純薬社製のアゾ重合開始剤が挙げられる。
【0057】
本発明の製造方法において、アゾ重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
アゾ重合開始剤の使用量は、特に制限されず、目標とするスチレン重合体の分子量等に応じて適宜設定できる。また、アゾ重合開始剤の使用量とRAFT剤の使用量とのモル比[アゾ重合開始剤:RAFT剤]も特に制限されず、その一例を挙げると、例えば、分散度低減などの点で、1:1~1:100であることが好ましく、1:2~1:75であることがより好ましい。
【0058】
<重合禁止剤>
本発明の製造方法は、RAFT剤及びアゾ重合開始剤に加えて重合禁止剤の共存下で、行うこともできる。重合禁止剤としては、ヒドロキノン化合物、ベンゾキノン化合物等が挙げられ、具体的には、4-tert-ブチルカテコール、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、tert-ブチルヒドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン等のヒドロキノン化合物、ベンゾキノン等のベンゾキノン化合物が挙げられる。
本発明の製造方法において、重合禁止剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
重合禁止剤の使用量は、特に制限されず、例えば、単量体1gに対して、10~3000ppmとすることができ、10~1000ppmであることがより好ましく、20~200ppmであることがより好ましい。
【0059】
<有機溶媒>
本発明の製造方法は、後述するように、無溶媒条件で行うこともできるし、有機溶媒中で行うこともできる。
有機溶媒としては、通常この分野で用いられるものであれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、トルエン、キシレン、アニソール、ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルが好ましい。
本発明の製造方法において、有機溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
有機溶媒の使用量は、有機溶媒に溶解する単量体等の種類及び使用量により溶液の粘度等が変動するので一義的に決定できないが、その一例を挙げると、例えば、単量体、RAFT剤、アゾ重合開始剤等の固形分含有量が、10~80質量%となる量とすることができ、25~70質量%となる量が好ましい。
【0060】
<その他の成分>
本発明の製造方法においては、単量体、RAFT剤及びアゾ重合開始剤に加えて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、特に制限されず、重合体の製造に通常用いる成分、スチレン重合体の用途に応じて用いる成分等が挙げられ、具体的には、増感剤等が挙げられる。その他の成分の使用量は、特に制限されず、適宜設定され、例えば上記固形分含有量中、0~5質量部とすることができる。
本発明の製造方法においては、重合開始剤として、ペルオキシド重合開始剤を使用しないことが、水素引き抜き等に起因するスチレン重合体の特性低下を抑制でき、また安全性を確保できる点で、好ましい。本発明において、ペルオキシド重合開始剤を使用しないとは、ペルオキシド重合開始剤の使用量が0質量%である態様に加えて、本発明の効果を損なわない程度、例えば固形分含有量中1質量%未満でペルオキシド重合開始剤を用いる態様を包含する。
【0061】
<スチレン重合体の製造方法>
次に、本発明の製造方法について具体的に説明する。
(重合反応工程)
本発明の製造方法においては、スチレン化合物を含む単量体を、RAFT剤及び10時間半減期温度が90℃以上であるアゾ重合開始剤の存在下、110℃以上で重合反応させる。
この重合反応に際して、単量体、RAFT剤及びアゾ重合開始剤の使用量は、上述の通りである。この重合反応は、上記有機溶媒中で行うこともでき、無溶媒条件下で行うこともできる。本発明において、無溶媒条件とは、重合反応に溶媒を積極的に用いない条件を意味し、不可避的に混在する溶媒までも無含有とすることを意味するものではない。具体的には、無溶媒条件とは、溶媒の使用量が0質量%である態様に加えて、1質量%未満である態様を包含する。
この重合反応は、無撹拌でも、一般的な反応装置を用いて攪拌を行ってもよい。
また、この重合反応は、バッチ反応(一括仕込み、モノマー・開始剤滴下)であっても、フロー反応(連続反応)であってもよい。安全性の観点から、滴下重合が好ましい。
【0062】
反応温度(重合温度)は、110℃以上であればよく、112℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましい。上限温度は、用いる単量体の常圧(1気圧)での沸点以下であれば特に制限されず、単量体の揮発による転化率の低下、安全性等を考慮して、適宜設定することができる。上限温度の一例を挙げると、例えば、160℃未満とすることができ、140℃未満であることが好ましい。
反応時間は、反応スケール、反応温度等の変更により一義的に決定できないが、例えば、10~24時間とすることができる。本発明の製造方法は、短時間でも高い転化率を示すため、反応時間を短く設定することができ、例えば、5~12時間とすることもできる。
【0063】
重合反応を行う環境としては、特に制限されず、通常、不活性ガス環境下であることが好ましい。また、重合反応を行うに際して、原料混合物を脱気(脱酸素化)することが好ましい。これらの操作により、重合反応をより速やかかつ均一に進行させることができ、更に狭い分子量分布を実現できる。原料混合物を脱気する方法としては、特に限定されず公知の方法を適用でき、例えば、反応容器内の原料混合物中に不活性ガスをバブリングする方法が挙げられる。不活性ガス環境下で重合反応を行う場合、重合反応環境(通常反応容器内)を不活性ガスで置換できる方法であれば特に制限されることなく適用できる。例えば、反応容器内に不活性ガスを充填する方法、反応容器内に不活性ガスを流通させる方法が挙げられる。用いる不活性ガスとしては、通常用いられる各種ガスが挙げられ、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0064】
上述のようにして、単量体を(RAFT)重合反応させて、スチレン重合体を合成(製造)できる。
【0065】
(その他の工程)
本発明の製造方法においては、重合反応終了後、スチレン重合体を単離、回収する。その際に、スチレン重合体を精製する工程を行うこともできる。精製法としては、通常の方法を適用することができ、例えば、沈殿法、膜分離法等が挙げられる。
本発明の製造方法においては、得られたスチレン重合体の末端に結合しているRAFT剤の開裂残基を通常の方法で除去する工程を行ってもよい。
本発明の製造方法において、重合禁止剤を用いる場合、重合反応後の反応混合物から重合禁止剤又はその分解物等を除去する工程を行ってもよいが、コストがかかることや、予期せぬ重合物の生成などが懸念されるため、行わなくてもよい。重合禁止剤等を除去する工程としては、特に制限されず、蒸留、セライト濾過等の通常の方法が挙げられる。
【0066】
単量体の重合方法において反応温度を高めると、一般的には得られる重合体の分子量分布は広がる傾向にある。しかし、上述の重合反応工程を有する本発明の製造方法は、反応温度を高めても分子量分布の広がりを抑制することができ、狭い分子量分布を有するスチレン重合体を、短時間であっても高い転化率で、しかも安全に製造することができる。
転化率は、単量体の種類及び使用量、固形分含有量、反応時間等の変更により一義的に決定できないが、一例を挙げると、例えば、5時間の重合反応で65%以上であり、この値は従来の重合方法の転化率、例えば特許文献2の方法(48時間で52%)に対して高い値である。本発明の製造方法において、転化率は、固形分濃度及び反応温度を高くすると向上する傾向にあり、また反応時間を長くすると高くなる傾向にある。
【0067】
<スチレン重合体>
上述のように、本発明の製造方法により、スチレン重合体が得られる。本発明において、スチレン重合体は、その主鎖がスチレン化合物に由来する構成成分(スチレン構成成分)を有していればよく、主鎖がスチレン構成成分からなるスチレンの単独重合体と、主鎖がスチレン構成成分と上述の他の重合性化合物に由来する構成成分(重合性化合物構成成分)とを有する、スチレンと他の重合性化合物との共重合体とを包含する。ただし、共重合体中のスチレン成分の含有率は共重合体の全構成成分に対して50質量%以上であり、特性、用途等に応じてスチレン成分の含有量を50質量%以上100質量%未満の範囲内で適宜設定できる。
スチレン重合体は、その他の重合性化合物の選択、例えば多官能重合性化合物の使用により、直鎖状、分岐状(グラフト構造、多分岐構造)の分子構造とすることができる。
スチレン重合体の末端には、通常、RAFT剤の開裂残基が結合しているが、これに限定されない。
【0068】
本発明の製造方法で得られるスチレン重合体の数量平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、例えば、1,000~50,000であることが好ましく、3,000~50,000であることがより好ましく、5,000~40,000であることが更に好ましく、7,000~20,000であることが特に好ましい。
スチレン重合体の分子量分布(質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、狭い範囲にあり、例えば、1.30以下とすることができ、1.25以下であることが好ましく、1.20以下まで狭小化することもできる。特に、スチレン重合体は数平均分子量Mnが7,000以上であっても、上記範囲の狭い分子量分布を維持しており、高分子量でかつ低分散度を実現できる。各分子量の測定方法については後述する実施例にて説明する。
【0069】
本発明の製造方法で得られるスチレン重合体は、種々の用途に用いることができ、例えば、光学用途、パターニング材料(例えばレジスト用途)、ライフサイエンス用途、分散材用途、接着材用途、エラストマー材用途、多孔質材料用途、ドラッグデリバリー用途、表面修飾剤等の各用途が挙げられる。特に、スチレン重合体は、上記範囲の狭い分子量分布を有するため、レジスト用途に好適に用いられる。
【実施例
【0070】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0071】
<実施例1>
攪拌装置、冷却管、温度計及び窒素導入管を備えた50mLのセパラブルフラスコに、スチレン9.75g(93.6mmol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)5.9g、及びS,S’-ジベンジルトリチオ炭酸(富士フイルム和光純薬社製)0.193g(0.663mmol)を入れて溶解させた。得られた溶液に更に2,2’-アゾビス(n-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)(VAm-110(商品名)、富士フイルム和光純薬社製)の1質量%PGMEA溶液4.14g(重合開始剤として0.133mmol)を加えて固形分量50質量%のPGMEA溶液を調製し、窒素バブリングを30分間行った。窒素雰囲気下、120℃で5時間重合反応を行って、スチレン重合体としてポリスチレンを製造した。この重合反応におけるスチレンの転化率、更にスチレン重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、下記方法により測定、算出した結果を、表1に示す。
【0072】
(転化率の測定、算出)
本発明においてスチレン化合物、その他モノマーの転化率は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)によって測定し、重合前溶液のモノマーピーク面積強度を転化率0%とし、下記条件より測定した値から算出した値とする。
装置:Prominence(株式会社島津製作所製)
カラム:Wakopak Ultra C18-5 4.6×150mm(富士フイルム和光純薬社製)
検出波長:254nm
カラム温度:30℃
移動相:アセトニトリル/蒸留水/リン酸=(A液)100/900/1容量部 および (B液)900/100/1容量部を用いたグラジエント液
流量:1.0mL/min
【0073】
(分子量の測定)
本発明において、スチレン重合体の質量平均分子量(Mw)又は数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算して得られた質量平均分子量又は数平均分子量をいい、下記方法及び条件により測定した値とする。
装置:SHODEX(登録商標) GPC-101(昭和電工株式会社製)
検出器:示差屈折計(RI検出器)
プレカラム:KF-G(昭和電工株式会社製)
カラム:以下3本を順に直結(全て昭和電工株式会社製)
KF-803,KF-804,KF-805
カラム温度:40℃
移動層:THF
流量:1.0mL/min
【0074】
<実施例2~11>
実施例1の製造方法において、RAFT剤及びアゾ重合開始剤を表1に記載のものに変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして重合反応を行って、各ポリスチレンを製造した。各実施例における転化率、更に、スチレン重合体について重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例1と同様にして算出又は測定した。その結果を表1又は表2に示す。
【0075】
<実施例12>
実施例1の製造方法において、スチレンの代わりに4-アセトキシスチレン9.75g(60.1mmol)を、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸の代わりに4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸(富士フイルム和光純薬社製)0.270g(0.668mmol)をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体としてポリ(4-アセトキシスチレン)を製造した。この重合反応における転化率、更にポリ(4-アセトキシスチレン)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例1と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0076】
<実施例13>
実施例12の製造方法において、4-アセトキシスチレンの代わりに4-tert-ブトキシスチレン9.75g(55.3mmol)を用いたこと以外は、実施例12の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体としてポリ(4-tert-ブトキシスチレン)を製造した。この重合反応における転化率、更にポリ(4-tert-ブトキシスチレン)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例1と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0077】
<実施例14>
実施例13の製造方法において、4-tert-ブトキシスチレンを9.75gの代わりに4.87g(27.6mmol)用い、更にn-ブチルアクリレート4.87g(38.0mmol)を用いて、反応温度を110℃に設定したこと以外は、実施例13の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体としてポリ(4-tert-ブトキシスチレン/n-ブチルアクリレート)を製造した。この重合反応における転化率、更にポリ(4-tert-ブトキシスチレン/n-ブチルアクリレート)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例1と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0078】
<実施例15>
実施例13の製造方法において、2,2’-アゾビス(n-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)の1質量%PGMEA溶液を4.14gの代わりに8.28g(重合開始剤として0.266mmol)用いたこと以外は、実施例13の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体としてポリ(4-tert-ブトキシスチレン)を製造した。この重合反応における転化率、更にポリ(4-tert-ブトキシスチレン)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例1と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
<比較例1>
実施例3の製造方法において、2,2’-アゾビス(n-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)の1質量%PGMEA溶液の代わりに、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、富士フイルム和光純薬社製)の1質量%PGMEA溶液2.19g(0.133mmol)を用いたこと以外は、実施例3の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体を製造した。この重合反応における転化率、更にスチレン重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例1と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0080】
<比較例2>
実施例1の製造方法において、アゾ重合開始剤を用いないこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体を製造した。この重合反応における転化率、更にスチレン重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例3と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0081】
<比較例3>
実施例1の製造方法において、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸の代わりに4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸(富士フイルム和光純薬社製)0.270g(0.668mmol)を用い、反応温度を90℃に変更したこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体を製造した。この重合反応における転化率、更にスチレン重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例1と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0082】
<比較例4>
実施例3の製造方法において、2,2’-アゾビス(n-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)の1質量%PGMEA溶液の代わりに、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(V-40、富士フイルム和光純薬社製)の1質量%PGMEA溶液3.25g(0.133mmol)を用いたこと以外は、実施例1の製造方法と同様にして重合反応を行って、スチレン重合体を製造した。この重合反応における転化率、更にスチレン重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、実施例3と同様にして算出又は測定した。その結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表1及び表2において、PGMEAはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを示し、nBAはn-ブチルアクリレートを示し、RAFT剤及びアゾ重合開始剤の欄に記載の各名称は、それぞれ後述する各化合物を示す。
実施例及び比較例に用いた各RAFT剤を以下に示す。なお、RAFT-007は、Macromolecules(2005),38(23),9518-9525に記載の製法、RAFT-008はJournal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry(2013),51(5),1066-1078に記載の製法に基づいて、合成した。
【0086】
【化11】
【0087】
実施例及び比較例に用いた各アゾ重合開始剤を以下に示す。
【化12】
【0088】
表1及び表2に示す結果から次のことが分かる。
10時間半減期温度が65℃又は88℃と低いアゾイソブチロニトリル(AIBN)又は1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(V-40)をアゾ重合開始剤として用いた比較例1及び比較例4は、反応温度を120℃に高めても、転化率が47%又は61%であり、十分な転化率とはならなかった。また、アゾ重合開始剤を用いていない比較例2は、転化率が37%にまで低下した。一方、10時間半減期温度が110℃のアゾ重合開始剤をRAFT剤と併用していても反応温度を90℃に設定した比較例3は、転化率が16%まで大幅に低下した。
これに対して、10時間半減期温度が110℃のアゾ重合開始剤をRAFT剤と併用して120℃で重合反応させた実施例1~15は、いずれも、5時間という短時間のうちに、1.30未満の狭い分子量分布を保ったまま、65%を超える高い転化率でスチレン重合体を安全に製造できる。しかも、得られたスチレン重合体はいずれも7,000以上の数平均分子量及び質量平均分子量を有している。このように、本発明の製造方法は、狭い分子量分布を有するスチレン重合体を、短時間であっても高い転化率で、しかも安全に製造することができる。
【0089】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0090】
本願は、2022年1月31日に日本国で特許出願された特願2022-012761に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。