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7651786半導体基板の製造方法、その製造装置、及び、エピタキシャル成長方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】半導体基板の製造方法、その製造装置、及び、エピタキシャル成長方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/203 20060101AFI20250319BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20250319BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
H01L21/203 Z
H01L21/20
C30B29/36 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021516244
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017643
(87)【国際公開番号】W WO2020218483
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019086714
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188381(WO,A1)
【文献】特開平10-270369(JP,A)
【文献】特開平01-093130(JP,A)
【文献】特開2018-107383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/203
H01L 21/20
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC半導体基板を有する複数の被処理体を、隣り合うSiC半導体基板が相対するように積み重ねて設置する設置工程と、
複数の前記被処理体のそれぞれにおいて、前記SiC半導体基板の厚み方向に温度勾配が形成されるよう加熱する加熱工程と、を含み、
前記加熱工程は、温度勾配の高温側に位置するSiC半導体基板の片面を昇華によりエッチングすることでSiC半導体基板を構成する原子種を含む原料ガスを発生させ、温度勾配の低温側に位置するSiC半導体基板の片面に前記温度勾配を駆動力として前記原料ガスを輸送することで成長層を形成することを含む、SiC半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記設置工程は、前記被処理体を準閉鎖空間に設置する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、複数の前記被処理体を、前記SiC半導体基板を構成する原子種を含む雰囲気下で加熱する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
複数のSiC半導体基板を前記SiC半導体基板の厚み方向に、隣り合うSiC半導体基板が相対するように配列させ、前記SiC半導体基板の厚み方向に温度勾配が形成されるよう加熱することで、高温側に配置されたSiC半導体基板の片面を昇華によりエッチングしてSiC半導体基板を構成する原子種を含む原料ガスを発生させ、低温側に位置するSiC半導体基板の片面に前記温度勾配を駆動力として前記原料ガスを輸送して低温側に位置するSiC半導体基板上に、低温側の半導体基板の多形を引き継いだ結晶を成長させる、エピタキシャル成長方法。
【請求項5】
複数の前記SiC半導体基板を同時に結晶成長させる、請求項に記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項6】
配列された複数の前記SiC半導体基板の略端部にダミー基板が配置される、請求項又は請求項に記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項7】
前記SiC半導体基板を構成する原子種を含む気相種の蒸気圧空間を介して排気される原料輸送空間に前記SiC半導体基板を配置して成長させる、請求項の何れかに記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項8】
前記SiC半導体基板はSi蒸気圧空間を介して排気される原料輸送空間に前記SiC半導体基板を配置して成長させる、請求項の何れかに記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項9】
前記SiC半導体基板を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項に記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項10】
前記SiC半導体基板を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項に記載のエピタキシャル成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法、その製造装置、及び、エピタキシャル成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化シリコン)半導体デバイスは、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)半導体デバイスに比べて高耐圧及び高効率であり、さらに高温動作が可能であるため、高性能半導体デバイスとして注目されている。
【0003】
通常、SiC半導体デバイスは、SiC成長を経て作製される。SiC結晶成長には様々な成長方法が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の気相エピタキシャル成長方法は、TaCを含む材料で構成されるTaC容器に、SiC多結晶を含む材料で構成されるSiC容器を収容し、当該SiC容器の内部に下地基板を収容した状態において、当該TaC容器内がSi蒸気圧となるように、かつ、温度勾配が発生する環境でTaC容器を加熱する。その結果、SiC容器の内面がエッチングされることで昇華したC原子と、雰囲気中のSi原子と、が結合することで、下地基板上に3C-SiC単結晶のエピタキシャル層が成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】再表2017-188381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、複数の基板を一括して処理する等によるスループット向上の観点において改善の余地がある。
【0007】
本発明は、新規な半導体基板の製造方法及び製造装置、及び、エピタキシャル成長方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の半導体基板の製造方法は、半導体基板を有する複数の被処理体を積み重なるよう設置する設置工程と、複数の前記被処理体のそれぞれにおいて、前記半導体基板の厚み方向に温度勾配が形成されるよう加熱する加熱工程と、を含む。
これにより、スループット向上を期待することができる半導体基板の製造方法を実現することができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記設置工程は、前記被処理体を準閉鎖空間に設置する。
これにより、エピタキシャル成長及びエッチングを含む原料輸送を好適に実現することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記設置工程は、隣り合う前記半導体基板が相対するよう前記被処理体を設置する。
これにより、隣り合う半導体基板の間でエピタキシャル成長及びエッチングを含む原料輸送を実現することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記加熱工程は、複数の前記被処理体を、前記半導体基板を構成する原子種を含む雰囲気下で加熱する。
これにより、半導体基板を構成する原子種を含む気相種の蒸気圧環境の下、原料輸送を実現することができる。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の半導体基板の製造装置は、半導体基板及び設置具を有する複数の被処理体と、複数の前記被処理体のそれぞれにおいて、前記半導体基板の厚み方向に温度勾配を形成可能な加熱炉と、を備える。
これにより、スループット向上を期待することができる半導体基板の製造装置を実現することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記設置具の材料は、前記半導体基板の材料である。
これにより、半導体基板を構成する原子種を含む気相種の蒸気圧環境の下、原料輸送を実現することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記設置具は、貫通孔を有する。
これにより、隣り合う半導体基板が相対するよう、被処理体を設置することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記被処理体は、前記半導体基板及び設置具を収容可能な本体容器を有する。
これにより、被処理体の取り回しを容易とすることができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記本体容器は、互いに嵌合可能な上容器及び下容器と、間隙と、を有し、前記間隙は、前記上容器及び下容器の嵌合部に形成される。
これにより、準閉鎖空間を形成することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記被処理体は、前記半導体基板を構成する原子種の少なくとも1つを含む材料からなる蒸気供給源を有する。
これにより、半導体基板を構成する原子種を含む気相種の蒸気圧環境の下、原料輸送を実現することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、半導体基板の製造装置は、前記被処理体を収容可能な高融点容器をさらに備える。
これにより、蒸気圧環境を保持することができる。
【0019】
また、本発明は、エピタキシャル成長方法にも関する。すなわち、本発明の一態様のエピタキシャル成長方法は、複数の半導体基板を前記半導体基板の厚み方向に配列させ、前記半導体基板の厚み方向に温度勾配が形成されるよう加熱することで、高温側に配置された半導体基板から低温側に配置された半導体基板に原料を輸送し、低温側の半導体基板の多形を引き継いで結晶成長させる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、複数の前記半導体基板を同時に結晶成長させる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、配列された複数の前記半導体基板の略端部にダミー基板が配置される。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板を構成する原子種を含む気相種の蒸気圧空間を介して排気される原料輸送空間に前記半導体基板を配置して成長させる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板は炭化ケイ素であり、Si蒸気圧空間を介して排気される原料輸送空間に前記半導体基板を配置して成長させる。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置し加熱する。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱する。
【発明の効果】
【0026】
開示した技術によれば、新規な半導体基板の製造方法、その製造装置、及び、エピタキシャル成長方法を提供することができる。
【0027】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲とともに取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造方法の説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造方法の説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造方法の説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
図6】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
図8】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
図9】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
図10】本発明の一実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
図11】参考例1におけるSiC基板におけるBPD数の評価に関する説明図。
図12】参考例2におけるSiC基板表面のSEM像である。
図13】参考例2におけるSiC基板表面のSEM像である。
図14】参考例3におけるSiC基板の成長速度と加熱温度との相関図である。
図15】本発明の他の実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を、図面に示した好ましい一実施の形態について、図1図14を用いて詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜、変更が可能である。
【0030】
《半導体基板の製造方法》
以下、本発明の一実施の形態の半導体基板の製造方法(以下、単に製造方法という。)について詳細に説明する。
【0031】
本発明は、少なくとも、設置工程と、加熱工程と、を含む製造方法として把握することができる。
【0032】
〈設置工程〉
設置工程は、半導体基板を有する被処理体を、積み重なるよう設置する。
【0033】
本発明の一実施形態では、半導体基板11と、半導体基板11の材料により構成される部材と、が相対するよう、複数の被処理体が設置される。また、本発明の一実施形態では、隣り合う半導体基板11及び12が相対するよう、複数の被処理体が設置される。このとき、半導体基板11及び当該部材、又は、半導体基板11及び12の間に原料輸送空間S0が形成される。
【0034】
本明細書中における原料輸送とは、半導体基板を構成する原子種を含む原料ガスの輸送のことをいう。当該原料ガスは、好ましくは、当該原子種のみを含む気体分子である。
【0035】
〈半導体基板〉
以下、半導体基板11及び12を含む半導体基板の詳細について、説明する。
本発明の一実施形態では、半導体基板がSiC半導体基板である場合について例示する。
【0036】
半導体基板11及び12としては、昇華法等で作製したインゴットから円盤状にスライスしたSiCウエハや、SiC単結晶を薄板状に加工したSiC半導体基板を例示することができる。なお、SiC単結晶の結晶多形としては、何れのポリタイプのものも採用することができる。
【0037】
半導体基板表面としては、(0001)面や(000-1)面から数度(例として、0.4~8°)のオフ角を設けた表面を例示することができる(なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味する)。
【0038】
原子レベルで平坦化された半導体基板表面には、ステップ-テラス構造が確認される。
このステップ-テラス構造は、1分子層以上の段差部位であるステップと、{0001}面が露出した平坦部位であるテラスと、が交互に並んだ階段構造となっている。
【0039】
SiC半導体基板におけるステップは1分子層(0.25nm)が最小高さ(最小単位)であり、この1分子層が複数重なることで、様々なステップ高さを形成している。本明細書中の説明においては、ステップが束化(バンチング)して巨大化し、各ポリタイプの1ユニットセルを超えた高さを有するものをマクロステップバンチング(Macro Step Bunching:MSB)という。
【0040】
すなわち、MSBとは、4H-SiCの場合には4分子層を超えて(5分子層以上)バンチングしたステップであり、6H-SiCの場合には6分子層を超えて(7分子層以上)バンチングしたステップである。
【0041】
MSBは、成長層形成時の表面にMSB起因の欠陥が発生することや、SiC半導体デバイスにおける酸化膜信頼性の阻害要因の1つであるため、半導体基板表面には形成されていないことが望ましい。
【0042】
半導体基板11及び12の大きさとしては、数センチ角のチップサイズから、6インチ、8インチ等、6インチ以上のウェハサイズを例示することができる。
【0043】
半導体基板11は、主面113(図示せず。)及び裏面114を有する。また、半導体基板12は、主面123及び裏面124(図示せず。)を有する。
【0044】
本明細書中の説明において、表面は、主面及び裏面の双方のことをいう。片面は、主面及び裏面の何れか一方のことをいい、他の片面は片面に相対する同一の基板の面のことをいう。
本明細書中の説明において、成長層111は、処理前の半導体基板11上に形成された層のことをいう。成長層121は、処理前の半導体基板12上に形成された層のことをいう。
【0045】
半導体基板表面上に形成される成長層の表面は、好ましくは、基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)密度が限りなく低減されている。そのため、半導体基板表面は、好ましくは、BPD密度が限りなく低減されている。また、成長層の形成において、BPDは、好ましくは、貫通刃状転位(Threading Edge Dislocation:TED)を含む他の欠陥・転位に変換される。
【0046】
本発明の一実施形態に係る半導体基板の材料に、特に制限はない。
半導体基板の材料には、例として、AlN(窒化アルミニウム)及びGaN(窒化ガリウム)等を含む化合物半導体材料を挙げることができる。
【0047】
この他にも、半導体基板を製造する際に、一般的に用いられる材料であれば当然に採用することができる。半導体基板の材料は、例として、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ダイヤモンド(C)等の既知のIV族材料である。また、半導体基板の材料は、例として、炭化ケイ素(SiC)等の既知のIV-IV族化合物材料である。また、半導体基板の材料は、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化カドミウム(CdS)、テルル化カドミウム(CdTe)等の既知のII-VI族化合物材料である。また、半導体基板の材料は、例として、窒化ホウ素(BN)、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、リン化ガリウム(GaP)、リン化インジウム(InP)、アンチモン化インジウム(InSb)等の既知のIII-V族化合物材料である。また、半導体基板の材料は、例として、酸化アルミニウム(Al)、酸化ガリウム(Ga)等の酸化物材料である。なお、半導体基板は、その材料に応じて用いられる既知の添加原子が、適宜添加されている構成であってよい。
【0048】
設置工程における半導体基板11と、半導体基板11の材料により構成される部材又は半導体基板12との間の距離である、輸送距離D0は、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、より好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは、7mm以下、さらに好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2.7mm以下である。輸送距離D0は、好ましくは0.7mm以上、より好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.2mm以上、さらに好ましくは1.5mm、さらに好ましくは1.7mm以上である。
【0049】
〈加熱工程〉
本発明の一実施形態に係る加熱工程は、複数の被処理体のそれぞれにおいて、半導体基板11及び/又は12の厚み方向に温度勾配が形成されるよう加熱する。
なお、本明細書中では、半導体基板11及び12を含む半導体基板がSiC半導体基板である場合について、詳細に説明する。
【0050】
加熱工程は、例として、半導体基板11が高温側、半導体基板12又は半導体基板11の材料により構成される部材が低温側となるよう、温度勾配を有する原料輸送空間S0を形成する。そのため、加熱工程は原料輸送工程を含む、と把握することができる。
なお、本発明の一実施形態では、半導体基板11が低温側、半導体基板12又は半導体基板11の材料により構成される部材が高温側となってもよい。
【0051】
図1~3は、本発明の一実施形態に係る隣り合う半導体基板11及び12が相対する場合の原料輸送を説明している。
【0052】
図1に示すように、半導体基板11が温度勾配の高温側に設置されることで、裏面114のエッチングと、主面123における成長層121の形成と、が同時に行われる。
【0053】
図2に示すように、半導体基板11が温度勾配の低温側に設置されることで、裏面114における成長層111の形成と、主面123のエッチングと、が同時に行われる。
【0054】
加熱工程は、好ましくは、半導体基板11及び12を準閉鎖空間において加熱する。
本明細書中の説明において、準閉鎖空間とは、空間内部の真空引きは可能であるが、空間内部で発生した蒸気の少なくとも一部を閉じ込め可能な空間のことをいう。
【0055】
〈原料輸送工程〉
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る原料輸送空間S0において、以下の1)~5)の反応に基づく原料輸送が持続的に行われ、例として、成長層121が形成される、と把握することができる。
【0056】
1) SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC(v)
3) C(s)+2Si(v)→SiC(v)
4) Si(v)+SiC(v)→2SiC(s)
5) SiC(v)→Si(v)+SiC(s)
【0057】
1)の説明:半導体基板11の裏面114が熱分解されることで、裏面114からSi原子(Si(v))が脱離する。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することで裏面114に残存したC(C(s))は、原料輸送空間S0内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、SiC又はSiC等となって原料輸送空間S0内に昇華する。
4)及び5)の説明:昇華したSiC又はSiC等が、温度勾配によって半導体基板12の主面123のテラスに到達・拡散し、ステップに到達することで主面123の多形を引き継いで成長層121が成長・形成される(ステップフロー成長)。
【0058】
原料輸送工程は、半導体基板11からSi原子を熱昇華させるSi原子昇華工程と、半導体基板11の裏面114に残存したC原子を原料輸送空間S0内のSi原子と結合させることで昇華させるC原子昇華工程と、を含む。
【0059】
原料輸送工程は、原料の輸送元としての半導体基板表面を、Si原子昇華工程及びC原子昇華工程に基づきエッチングするエッチング工程を含む。
【0060】
原料輸送工程は、原料の輸送先としての半導体基板表面において、上記ステップフロー成長に基づく成長層形成を行う成長工程を含む。
【0061】
成長工程は、原料輸送空間S0中を拡散したSiC又はSiC等が輸送先において過飽和となり凝結する、と把握することができる。
成長工程は、物理気相輸送(Physical Vapor Transport)に基づく、と把握することができる。
【0062】
本発明の一実施形態に係る原料輸送の駆動力は、形成された温度勾配に起因する半導体基板11及び12間の蒸気圧差である、と把握することができる。
よって、半導体基板11及び12のそれぞれの表面における温度差のみならず、相対するSiC材料の表面等の結晶構造に起因する化学ポテンシャル差も、原料輸送の駆動力である、と把握することができる。
【0063】
本発明の一実施形態に係る原料輸送は、輸送元又は輸送先が半導体基板でなくともよい。具体的には、準閉鎖空間を形成する半導体基板材料の全ては、輸送元又は輸送先となり得る。
つまり、半導体基板11と、半導体基板11の材料により構成される部材と、の間においても原料輸送は行われる。
【0064】
本発明の一実施形態に係る原料輸送は、ドーパントガス供給手段を用いて、準閉鎖空間内にドーパントガスを供給することにより、成長層111のドーピング濃度を調整することができる。一方、ドーパントガスを供給しない場合には、準閉鎖空間内のドーピング濃度を引き継いで成長層111又は121が形成される。
【0065】
本発明の一実施形態に係る原料輸送は、好ましくは、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種を有する蒸気圧環境下で行われ、より好ましくは、SiC-Si平衡蒸気圧環境下で行われ、より好ましくは、SiC-C平衡蒸気圧環境下で行われる。
【0066】
本明細書中の説明において、SiC-Si蒸気圧環境とは、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことをいう。また、SiC-C平衡蒸気圧環境とは、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことをいう。
【0067】
本発明の一実施形態に係るSiC-Si平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間が加熱されることで形成される。また、本発明の一実施形態に係るSiC-C平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間が加熱されることで形成される。
【0068】
本発明の一実施形態に係る加熱温度は、好ましくは、1400~2300℃の範囲で設定され、より好ましくは、1600~2000℃の範囲で設定される。
【0069】
本発明の一実施形態に係る加熱時間は、所望のエッチング量となるよう任意の時間に設定することができる。例えば、エッチング速度が1μm/minの時に、エッチング量を1μmとしたい場合には、加熱時間は1分間となる。
【0070】
本発明の一実施形態に係る温度勾配は、例として、0.1~5℃/mmの範囲で設定される。
【0071】
本発明の一実施形態に係る温度勾配は原料輸送空間S0において一様であることが望ましい。
【0072】
本発明の一実施形態に係るエッチング量及び成長量は、例として、0.1~20μmの範囲であるが、必要に応じて、適宜、変更される。
【0073】
本発明の一実施形態に係るエッチング速度及び成長層の成長速度は、上記温度領域によって制御することができ、例として、0.001~2μm/minの範囲で設定できる。
【0074】
本発明の一実施形態に係るエッチング量及び成長量は同等である、と把握することができる。
【0075】
本発明の一実施形態に係る加熱工程は、エッチング工程に基づき半導体基板表面上のMSBの形成を分解・抑制するバンチング分解工程を含む、と把握することができる。
【0076】
本発明の一実施形態に係るエッチング工程においてエッチングされる半導体基板上の表面層は、例として、機械的な加工(例えば、スライスや研削・研磨)やレーザー加工を経て、傷や潜傷、歪み等の加工ダメージが導入された加工変質層である、と把握することができる。
【0077】
《半導体基板の製造装置》
以下、本発明の一実施形態である半導体基板の製造装置(以下、単に製造装置という。)について、図4~10を用いて詳細に説明する。なお、先の製造方法に示した構成と基本的に同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0078】
本発明の一実施形態に係る製造装置は、少なくとも、被処理体、加熱炉30及び高融点容器40を備える。
【0079】
本発明の一実施形態に係る被処理体とは、集合体10及び本体容器20のことをいう。また、本発明の一実施形態に係る被処理体とは、集合体10のことをいう構成としてもよい。
【0080】
〈集合体〉
集合体10は、原料輸送空間S0と、半導体基板11と、半導体基板12又は半導体基板11の材料により構成される部材と、設置具13と、を有する。また、処理ユニット100は、設置具13と、半導体基板11、12又は後述するダミー基板14と、を含む。原料輸送空間S0、半導体基板11及び12の詳細は上述の通りである。
なお、集合体10は、1の半導体基板11又は1以上の処理ユニット100を含む。以下の説明では、集合体10が複数の処理ユニット100を含む場合について、例示する。
【0081】
〈設置具〉
設置具13は、上縁13Aと、下縁13B又は底部13Cを有する。
上縁13A及び下縁13Bは、略中央部に貫通孔を有する。図5に示す例では、上縁13Aの貫通孔の内径よりも下縁13Bの貫通孔の内径が小さく形成されている。
このような貫通孔を有する上縁13A及び下縁13Bが多段に積層されて、半導体基板11を多段に設置可能に構成されている。即ち、下縁13Bの上底面の少なくとも一部が、半導体基板11との当接面として利用できるように構成されている。
上縁13Aは、上方の設置具13を支持する。下縁13Bは半導体基板の外周縁の少なくとも一部を支持する。底部13Cは、必要に応じ、下縁13Bに代えて、最下部やそれよりも上段等に配置される。
上縁13Aの上底面と、下縁13Bの下底面と、には、それぞれ、嵌合等により異なる設置具13を設置するための突起物及び溝のそれぞれが備えられる構成としてもよい。
設置具13は、底部13Cに加えて、半導体基板11、12又はダミー基板14と相対するような蓋部13Dを有する構成としてもよい。
【0082】
設置具13は、半導体基板11と、半導体基板12、ダミー基板14又は半導体基板11の材料により構成される部材と、が隣り合うよう、略平行となるよう、かつ、輸送距離D0離間されるよう、保持する。輸送距離D0の詳細は、上述の通りである。なお、輸送距離D0は、集合体10の略端部において小さく/大きく設定される構成としてもよい。
【0083】
ダミー基板14は、集合体10の略端部において1以上設置される。なお、ダミー基板14の数量に制限はなく、集合体10がダミー基板14を含まない構成としてもよい。
ダミー基板14の材料は、好ましくは、半導体基板11及び12の材料であるが、その結晶性は半導体基板11及び12と同一でなくともよい。具体的には、半導体基板11及び12が単結晶基板であり、ダミー基板14が多結晶基板である構成としてもよい。
【0084】
図4に示すように、本発明の一実施形態に係る処理ユニット100は、半導体基板11又はダミー基板14と、上縁13A及び底部13Cからなる設置具13と、を有する。原料輸送空間S0は、半導体基板11又はダミー基板14と、底部13Cと、の間に形成される。また、当接面131は、半導体基板11又はダミー基板14の片面全体において形成される。
【0085】
図5に示すように、本発明の一実施形態に係る処理ユニット100は、半導体基板11、12又はダミー基板14と、上縁13A及び下縁13Bからなる設置具13と、上縁13A及び底部13Cからなる設置具13と、を有する。このとき、処理ユニット100の端部における設置具13は、上縁13A及び底部13Cからなる。よって、半導体基板11及び12は相対し、半導体基板11及び12の間に原料輸送空間S0が形成される。また、当接面131は、半導体基板11、12又はダミー基板14の片面全体又は外周縁全体において形成される。
【0086】
図6に示すように、本発明の一実施形態に係る処理ユニット100は、半導体基板11、12又はダミー基板14と、上縁13A及び下縁13Bからなる設置具13と、を有する。このとき、半導体基板11及び12は相対し、半導体基板11及び12の間に原料輸送空間S0が形成される。また、当接面131は、半導体基板11又はダミー基板14の外周縁全体において形成される。
【0087】
図7に示すように、本発明の一実施形態に係る処理ユニット100は、半導体基板11、12又はダミー基板14と、上縁13A及び下縁13Bからなる設置具13と、を有する。このとき、半導体基板11及び12は相対し、半導体基板11及び12の間に原料輸送空間S0が形成される。また、当接面131は、半導体基板11又はダミー基板14の外周縁の一部において形成される。半導体基板11、12及びダミー基板14を保持し、外周縁の少なくとも一部を支持又は挟持する構成等、慣用の支持手段であれば当然に採用することができる。
【0088】
本発明の一実施形態に係る当接面131を含む外周縁の幅は、適宜、決定される。
【0089】
〈本体容器〉
図8に示すように、本体容器20は、集合体10を収容可能である。本発明の一実施形態に係る複数の本体容器20は、積み重なるよう設置されてもよい。
本体容器20は、互いに嵌合可能な上容器21及び下容器22を備える嵌合容器である。上容器21と下容器22の嵌合部には、微小な間隙24が形成されており、この間隙24から本体容器20内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0090】
加熱処理された本体容器20内の環境は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の混合系の蒸気圧環境となることが望ましい。このSi元素を含む気相種としては、Si,Si,Si,SiC,SiC,SiCが例示することができる。また、C元素を含む気相種としては、SiC,SiC,SiC,Cを例示することができる。
【0091】
本体容器20の加熱処理時に、内部空間にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させる構成であれば、その構造を採用することができる。例として、内面の一部にSiC多結晶が露出した構成や、本体容器20内に別途、SiC多結晶を設置する構成等を示すことができる。
【0092】
本体容器20は、蒸気供給源23を有する。
蒸気供給源23は、本体容器20内の準閉鎖空間の原子数比Si/Cを、1を超えるよう調整する目的で用いられる。
蒸気供給源23は、集合体10の内部空間に設置される構成としてもよい。具体的には、設置具13の上縁13Aや下縁13Bの内壁等に、蒸気供給源23は設置される。
蒸気供給源23としては、固体のSi(Si単結晶片やSi粉末等のSiペレット)やSi化合物を例示することができる。
【0093】
例えば、本発明の一実施形態のように、本体容器20の全体がSiC多結晶で構成されている場合には、蒸気供給源23を設置することで、本体容器20内の原子数比Si/Cが1を超える。具体的には、化学量論比1:1を満たすSiC多結晶の本体容器20内に、化学量論比1:1を満たす半導体基板11及び12と、蒸気供給源23と、を設置した場合には、本体容器20内の原子数比Si/Cは1を超えることとなる。
【0094】
このように、原子数比Si/Cが1を超える空間を加熱することで、SiC(固体)及びSi(液相)が気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境(SiC-Si平衡蒸気圧環境)に近づけることができる。
【0095】
本体容器20のドーパント及びドーピング濃度は、形成したい成長層111又は121のドーパント及びドーピング濃度に合わせて選択することができる。ドーパントとしては、N元素を例示することができる。
【0096】
〈加熱炉〉
図9に示すように、加熱炉30は、本体容器20の上容器21から下容器22に向かって温度が下がる/上がるよう温度勾配を形成するよう加熱する構成となっている。つまり、例として半導体基板11の厚み方向に温度勾配が形成される。
【0097】
加熱炉30は、集合体10を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室31と、集合体10を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備室32と、本体容器20を収容可能な高融点容器40と、この高融点容器40を予備室32から本加熱室31へ移動可能な移動手段33と、を備える。
【0098】
本加熱室31内は、例として、加熱ヒータ34(メッシュヒータ)が備えられている。
また、本加熱室31の側壁や天井には多層熱反射金属板が固定されている。多層熱反射金属板は、加熱ヒータ34の熱を本加熱室31の略中央部に向け反射させるように構成される。
【0099】
加熱ヒータ34は、本加熱室31内において、集合体10が収容される高融点容器40を取り囲むように設置される。このとき、加熱ヒータ34の外側に多層熱反射金属板が設置されることで、1000℃以上2300℃以下の温度範囲における昇温が可能となる。
【0100】
加熱ヒータ34は、例として、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを採用することができる。
【0101】
加熱ヒータ34は、高融点容器40内に温度勾配を形成可能な構成を採用してもよい。加熱ヒータ34は、例として、上側(若しくは下側)に多くのヒータが設置されるよう構成してもよい。また、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて幅が大きくなるように構成してもよい。あるいは、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて、加熱のために供給される電力を大きくすることが可能なよう構成してもよい。
【0102】
本加熱室31には、本加熱室31内の排気を行う真空形成用バルブ35と、本加熱室31内に不活性ガスを導入する不活性ガス注入用バルブ36と、本加熱室31内の真空度を測定する真空計37と、が接続されている。
【0103】
真空形成用バルブ35は、本加熱室31内を排気して真空引きする真空引ポンプと接続可能である。この真空形成用バルブ35及び真空引きポンプにより、本加熱室31内の真空度は、好ましくは、10Pa以下、より好ましくは、1Pa以下、さらに好ましくは、10-3Pa以下に調整することができる。この真空引きポンプとしては、ターボ分子ポンプ或いはロータリーポンプを例示することができる。
【0104】
不活性ガス注入用バルブ36は、不活性ガス供給源と接続可能である。この不活性ガス注入用バルブ36及び不活性ガス供給源により、本加熱室31内にAr等の不活性ガスを10-5~10Paの範囲で導入することができる。
【0105】
不活性ガス注入用バルブ36は、本体容器20内にドーパントガスを供給可能なドーパントガス供給手段である。すなわち、不活性ガスにドーパントガス(例として、N等)を選択することにより、成長層111のドーピング濃度を高めることができる。
【0106】
予備室32は、本加熱室31と接続されており、移動手段33により高融点容器40を移動可能に構成されている。なお、本発明の一実施形態の予備室32は、本加熱室31の加熱ヒータ34の余熱により昇温可能なよう構成されている。例として、本加熱室31を2000℃まで昇温した場合には、予備室32は1000℃程度まで昇温され、集合体10や本体容器20等の脱ガス処理を行うことができる。
【0107】
移動手段33は、高融点容器40を載置及び保持して、本加熱室31及び予備室32間を移動可能に構成されている。このとき、高融点容器40が載置される移動台は、モータ等により上下方向に移動される。高融点容器40を載置及び保持するための移動具は、上下方向に伸びた軸の周囲に回転可能である構成としてもよい。なお、移動手段33を構成する各部材は、好ましくは、半導体基板の材料により構成される。
【0108】
移動手段33による本加熱室31と予備室32間の搬送は、最短1分程で完了するため、1~1000℃/minでの昇温・降温を実現することができる。
これにより、急速昇温及び急速降温が行えるため、昇温中及び降温中の低温成長履歴を持たない表面形状を観察することが可能である。また、図9においては、本加熱室31の上方に予備室32を設置しているが、これに限らず、何れの方向に設置してもよい。
【0109】
本発明の一実施形態に係る移動手段33は、例として、高融点容器40を載置する移動台である。この移動台と高融点容器40の接触部と、が熱の伝播経路となる。
これにより、移動台と高融点容器40の接触部側が低温側となるよう高融点容器40内に温度勾配を形成することができる。
【0110】
本発明の一実施形態の加熱炉30では、高融点容器40の底部が移動台と接触しているため、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が下がるように温度勾配が設けられる。
【0111】
温度勾配の方向は、移動台と高融点容器40の接触部の位置を変更することで、任意の方向に設定することができる。例として、移動台に吊り下げ式等を採用して、接触部を高融点容器40の天井に設ける場合には、熱が上方向に逃げる。そのため、温度勾配は、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が上がるように温度勾配が設けられることとなる。また、上述したように、加熱ヒータ34の構成により、温度勾配を形成してもよい。
【0112】
加熱炉30は、本加熱室31及び予備室32の間にゲートバルブ38を備える。
ゲートバルブ38は、移動手段33による集合体10の搬入出が可能であるような寸法を有し、本加熱室31の真空度を保持する、搬送系ゲートバルブである。ゲートバルブ38は、本加熱室31へと通じるゲート開口を開閉する弁板と、弁板が取り付けられた弁シャフトと、弁シャフトを駆動するエアシリンダと、を備える等、慣用の手段であれば、様々な態様を採用できる。
【0113】
〈高融点容器〉
図10に示すように、高融点容器40は本体容器20を収容可能である。
高融点容器40は、本体容器20と同様に、互いに嵌合可能な上容器41と、下容器42と、を備える嵌合容器であり、本体容器20を収容可能に構成されている。上容器41と下容器42の嵌合部には、微小な間隙43が形成されており、この間隙43から高融点容器40内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
高融点容器40は、高融点容器40内にSi元素を含む気相種の蒸気圧を供給可能な蒸気供給材料44を有している。
【0114】
蒸気供給材料44は、加熱処理時にSi蒸気を高融点容器40内に発生させる構成であればよく、例として、高融点容器40の内壁を被覆する薄膜である。
高融点容器40がTaC等の金属化合物である場合、蒸気供給材料44は、例として、高融点容器40を構成する金属原子及びSi原子のシリサイド材料である。
【0115】
高融点容器40は、その内側に蒸気供給材料44を有することにより、本体容器20内Si元素を含む気相種の蒸気圧環境を維持することができる。これは、本体容器20内のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、本体容器20外のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、がバランスされるため、と把握することができる。
【0116】
本発明の一実施形態に係る加熱炉30内のSi元素を含む気相種の蒸気圧環境は、高融点容器40及び蒸気供給材料44を用いて形成されている。例として、本体容器20の周囲にSi元素を含む気相種の蒸気圧環境を形成可能な方法であれば、本発明の構成に採用することができる。
【0117】
高融点容器40は、好ましくは、本体容器20を構成する材料の融点と同等若しくはそれ以上の融点を有する高融点材料を含んで構成されている。
高融点容器40は、例として、汎用耐熱部材であるC、高融点金属であるW,Re,Os,Ta,Mo、炭化物であるTa9C8,HfC,TaC,NbC,ZrC,TaC,TiC,WC,MoC、窒化物であるHfN,TaN,BN,TaN,ZrN,TiN、ホウ化物であるHfB,TaB,ZrB,NB,TiB、SiC多結晶等を例示することができる。
【0118】
本発明の一実施形態に係る、半導体基板11の材料により構成される部材とは、設置具13や、本体容器20のことをいう。つまり、設置具13及び本体容器20の材料は、半導体基板11及び12の材料である。このため、設置具13又は本体容器20の少なくとも一部は、本発明の一実施形態の原料輸送における輸送元又は輸送先となり得る。
【0119】
参考例1~3を、以下に示す。
《参考例1》
以下の条件で、SiC単結晶基板E10を本体容器20に収容し、さらに本体容器20を高融点容器40に収容した。
【0120】
〈SiC単結晶基板E10〉
多形:4H-SiC
基板サイズ:横幅(10mm)、縦幅(10mm)、厚み(0.3mm)
オフ方向及びオフ角:<11-20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
MSBの有無:無し
【0121】
〈本体容器20〉
材料:SiC多結晶
容器サイズ:直径(60mm)、高さ(4mm)
SiC単結晶基板E10とSiC材料との距離:2mm
容器内の原子数比Si/C:1以下
【0122】
〈高融点容器40〉
材料:TaC
容器サイズ:直径(160mm)、高さ(60mm)
蒸気供給材料44(Si化合物):TaSi
【0123】
上記条件で配置したSiC単結晶基板E10を、以下の条件で加熱処理した。
加熱温度:1700℃
加熱時間:300min
温度勾配:1℃/mm
成長速度:5nm/min
本加熱室31の真空度:10-5Pa
【0124】
図11は、成長層E11において、BPDから他の欠陥・転位(TED等)に変換した変換率を求める手法の説明図である。
図11(a)は、加熱工程により成長層E11を成長させた様子を示している。この加熱工程では、SiC単結晶基板E10に存在していたBPDが、ある確率でTEDに変換される。そのため、成長層E11の表面には、100%変換されない限り、TEDとBPDが混在していることとなる。
図11(b)は、KOH溶解エッチング法を用いて成長層E11中の欠陥を確認した様子を示している。このKOH溶解エッチング法は、約500℃に加熱した溶解塩(KOH等)にSiC単結晶基板E10を浸し、転位や欠陥部分にエッチピットを形成し、そのエッチピットの大きさ・形状により転位の種類を判別する手法である。この手法により、成長層E11表面に存在しているBPD数を得る。
図11(c)は、KOH溶解エッチング後に成長層E11を除去する様子を示している。本手法では、エッチピット深さまで機械研磨やCMP等により平坦化した後、熱エッチングにより成長層E11を除去して、SiC単結晶基板E10の表面を表出させている。
図11(d)は、成長層E11を除去したSiC単結晶基板E10に対し、KOH溶解エッチング法を用いてSiC単結晶基板E10中の欠陥を確認した様子を示している。この手法により、SiC単結晶基板E10表面に存在しているBPD数を得る。
【0125】
図11に示した一連の順序により、成長層E11表面に存在するBPDの数(図11(b)参照)と、SiC単結晶基板E10表面に存在するBPDの数(図11(d))と、を比較することで、加熱工程中にBPDから他の欠陥・転位に変換したBPD変換率を得ることができる。
【0126】
参考例1の成長層E11表面に存在するBPDの数は約0個cm-2であり、SiC単結晶基板E10表面に存在するBPDの数は1000個cm-2であった。
すなわち、表面にMSBが存在しないSiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱することによりBPDが低減・除去される、と把握することができる。
【0127】
参考例1では、本体容器20内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、本体容器20内に、SiC-C平衡蒸気圧環境が形成されている。
上記の方法におけるエッチング工程を含む加熱工程と、本発明の一実施形態に係るエッチング工程を含む加熱工程と、は同一の反応素過程に基づくため、本発明の一実施形態に係るエッチング工程においてもBPDが低減・除去され得る、と把握することができる。
【0128】
《参考例2》
以下の条件で、SiC単結晶基板E10を本体容器20に収容し、さらに本体容器20を高融点容器40に収容した
【0129】
〈SiC単結晶基板E10〉
多形:4H-SiC
基板サイズ:横幅(10mm)、縦幅(10mm)、厚み(0.3mm)
オフ方向及びオフ角:<11-20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
MSBの有無:有り
【0130】
〈本体容器20〉
材料:SiC多結晶
容器サイズ:直径(60mm)、高さ(4mm)
SiC単結晶基板E10とSiC材料との距離:2mm
蒸気供給源23:Si片
容器内の原子数比Si/C:1を超える
【0131】
本体容器20内に、SiC単結晶基板とともにSi片を収容することで、容器内の原子数比Si/Cが1を超える。
【0132】
〈高融点容器40〉
材料:TaC
容器サイズ:直径160mm×高さ60mm
蒸気供給材料44(Si化合物):TaSi
【0133】
上記条件で配置したSiC単結晶基板E10を、以下の条件で加熱処理した。
加熱温度:1800℃
加熱時間:60min
温度勾配:1℃/mm
成長速度:68nm/min
本加熱室31の真空度:10-5Pa
【0134】
図12は、成長層E11の成長前のSiC単結晶基板E10表面のSEM像である。図12(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、図12(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。
この成長層E11の成長前のSiC単結晶基板E10表面には、MSBが形成されており、高さ3nm以上のステップが、平均42nmのテラス幅で配列していることが把握することができる。なお、ステップ高さは、AFMにより測定した。
【0135】
図13は、成長層E11の成長後のSiC単結晶基板E10表面のSEM像である。図13(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、図13(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。
この参考例2の成長層E11表面には、MSBは形成されておらず、1.0nm(フルユニットセル)のステップが、14nmのテラス幅で規則正しく配列していることが把握することができる。なお、ステップ高さは、AFMにより測定した。
【0136】
そのため、表面にMSBが存在するSiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置し加熱することによりMSBが分解された成長層E11が形成される、と把握することができる。
【0137】
参考例2では、本体容器20内の原子数比Si/Cが1を超えるよう蒸気供給源26が設置されているため、本体容器20内に、SiC-Si平衡蒸気圧環境が形成されている。
上記の方法におけるエッチング工程を含む加熱工程と、本発明の一実施形態に係るエッチング工程を含む加熱工程と、は同一の反応素過程に基づくため、本発明の一実施形態に係るエッチング工程においてもSiC単結晶基板表面上のMSBは分解され得る、と把握することができる。
【0138】
《参考例3》
図14は、本発明に係るSiC単結晶基板の製造方法にて成長させた加熱温度と成長速度の関係を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸は成長速度を対数表示している。SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果を〇印で示す。また、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果を×印で示している。
【0139】
また、図14のグラフでは、SiC-Si平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を破線(アレニウスプロット)で、SiC-C平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を二点鎖線(アレニウスプロット)にて示している。
【0140】
本手法においては、SiC原料とSiC基板間の蒸気圧環境が、SiC-C平衡蒸気圧環境又はSiC-C平衡蒸気圧環境となる条件下で、化学ポテンシャル差や温度勾配を成長駆動力として、SiC単結晶基板E10を成長させている。この化学ポテンシャル差は、SiC多結晶とSiC単結晶の表面で発生する気相種の分圧差を例示することができる。
【0141】
ここで、SiC原料(輸送元)とSiC基板(輸送先)から発生する蒸気の分圧差を成長量とした場合、SiC成長速度は以下の数1で求められる。
【0142】
【数1】
【0143】
ここで、TはSiC原料側の温度、mは気相種(Six)の分子量、kはボルツマン定数である。
また、P輸送元i-P輸送先iは、原料ガスが過飽和な状態となって、SiCとして析出した成長量であり、原料ガスとしてはSiC,SiC,SiCが想定される。
【0144】
すなわち、破線は、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧環境において、SiC多結晶を原料としてSiC単結晶を成長させた際の熱力学計算の結果である。
具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC-Si平衡蒸気圧環境であること,(ii)成長駆動力は、本体容器20内の温度勾配と、SiC多結晶とSiC単結晶の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスは、SiC,SiC,SiCであること,(iv)原料がSiC単結晶基板E10のステップに吸着する吸着係数は0.001であること。
【0145】
また、二点鎖線は、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧環境において、SiC多結晶を原料としてSiC単結晶を成長させた際の熱力学計算の結果である。
具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC-C平衡蒸気圧環境であること,(ii)成長駆動力は、本体容器20内の温度勾配と、SiC多結晶とSiC単結晶の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスはSiC,SiC,SiCであること,(iv)原料がSiC単結晶基板E10のステップに吸着する吸着係数は0.001であること。
なお、熱力学計算に用いた各化学種のデータはJANAF熱化学表の値を採用した。
【0146】
この図14のグラフによれば、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果(〇印)は、SiC-Si平衡蒸気圧環境におけるSiC成長の熱力学計算の結果と傾向が一致していることがわかる。
また、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果(×印)は、SiC-C平衡蒸気圧環境におけるSiC成長の熱力学計算の結果と傾向が一致していることを把握することができる。
【0147】
SiC-Si平衡蒸気圧環境下においては、1960℃の加熱温度で1.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。また、2000℃以上の加熱温度で2.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。
一方、SiC-C平衡蒸気圧環境下においては、2000℃の加熱温度で1.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。また、2030℃以上の加熱温度で2.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。
【0148】
本発明によれば、半導体基板の製造におけるスループット向上を図ることができる。
【0149】
また、図15は、本発明の他の実施形態に係る半導体基板の製造装置の説明図である。
この図15に示すように、加熱源である加熱ヒータ34は、半導体基板11の主面に対して交差する方向に配置されていても良い。そして、上部に配置した加熱ヒータ34と、下部に配置した加熱ヒータ34に、温度差を設けることにより、温度勾配を形成しても良い。
また、この加熱ヒータ34は、発熱する加熱部分を有し、この加熱部分の面積は、半導体基板11の面積以上に設定されていることが望ましい。
【0150】
このように、上部と下部に加熱ヒータ34を配置することにより、一枚の半導体基板11の表面上の温度分布を略均一にして加熱することができる。
【符号の説明】
【0151】
S0 原料輸送空間
D0 輸送距離
10 集合体
100 処理ユニット
11 半導体基板
111、121 成長層
113、123 主面
114、124 裏面
12 半導体基板
123 主面
124 裏面
13 設置具
13A 上縁
13B 下縁
13C 底部
131 当接面
14 ダミー基板
20 本体容器
21、41 上容器
22、42 下容器
23 蒸気供給源
24、43 間隙
30 加熱炉
31 本加熱室
32 予備室
33 移動手段
34 加熱ヒータ
35 真空形成用バルブ
36 不活性ガス注入用バルブ
37 真空計
38 ゲートバルブ
40 高融点容器
44 蒸気供給材料
図1
図2
図3
図4
図5
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図14
図15