(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】組換えAAVビリオンの製造に用いる核酸分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/35 20060101AFI20250319BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250319BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250319BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
C12N15/35 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N7/01
(21)【出願番号】P 2020087136
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019094498
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【氏名又は名称】小林 慧
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【氏名又は名称】山本 佳希
(72)【発明者】
【氏名】ガリナ,ゴロビナ
(72)【発明者】
【氏名】高木 春奈
(72)【発明者】
【氏名】薗田 啓之
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/192982(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2004/0209364(US,A1)
【文献】国際公開第2007/084773(WO,A2)
【文献】国際公開第2020/078953(WO,A1)
【文献】特発性造血障害に関する調査研究班 平成14年度総括・分担研究報告書,2003年,p.74-75
【文献】Gene,1999年,vol.238,p.397-405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の塩基配列を含む核酸分子;
アデノ随伴ウイルスのP5プロモーターを含む塩基配列,アデノ随伴ウイルス血清型2のRep蛋白質をコードする塩基配列,アデノ随伴ウイルスのP40プロモーターを含む塩基配列,アデノ随伴ウイルス血清型9のCap蛋白質をコードする塩基配列,Rep蛋白質及びCap蛋白質の発現量を高めるエンハンサー機能を有する塩基配列,第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(第一のITR)を含む塩基配列,外来の蛋白質の発現を制御する遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,該外来の蛋白質をコードする塩基配列,及び第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(第二のITR)を含む塩基配列を,上流から下流にこの順で含む塩基配列,及び
アデノウイルスのE2A領域を含む塩基配列,アデノウイルスのE4領域を含む塩基配列,及びアデノウイルスVA1 RNA領域を含む塩基配列を,上流から下流にこの順で含む塩基配列。
【請求項2】
薬剤耐性遺伝子を含む塩基配列を更に含むものである,請求項1の核酸分子。
【請求項3】
薬剤耐性遺伝子を含む塩基配列を,該Cap蛋白質をコードする塩基配列の下流であって,該第一のITRを含む塩基配列の上流に含むものである,請求項2の核酸分子。
【請求項4】
該Rep蛋白質が,Rep68又は/及びRep78を含むものである,請求項
1~3のいずれかの核酸分子。
【請求項5】
該Cap蛋白質が,VP1を含むものである,請求項
1~4のいずれかの核酸分子。
【請求項6】
該
第一のITR
及び該第二のITRのアデノ随伴ウイルス血清型が2である,請求項1~
5の何れかの核酸分子。
【請求項7】
該薬剤耐性遺伝子が,該薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤への耐性を,原核細胞に付与するものである,請求項2~
6の何れかの核酸分子。
【請求項8】
該
遺伝子発現制御部位が,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,β-アクチンプロモーター,配列番号47で示される塩基配列を含むプロモーター,及び配列番号47で示される塩基配列を含むプロモーターの下流に配列番号39で示される塩基配列を含むもの,からなる群から選択されるものである,
請求項1~
7の何れかの核酸分子。
【請求項9】
該エンハンサー機能を有する塩基配列が,アデノ随伴ウイルスのP5プロモーター又はその機能的等価物である,請求項1~
8の何れかの核酸分子。
【請求項10】
該外来の蛋白質がヒトのものである,請求項1~
9の何れかの核酸分子。
【請求項11】
該外来の蛋白質が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体からなる群から選択されるものである,請求項1~
9の何れかの核酸分子。
【請求項12】
該外来の蛋白質が,成長ホルモン,リソソーム酵素,ソマトメジン,インスリン,グルカゴン,リソソーム酵素,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン(FSH),性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH),ゴナドトロピン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,エタネルセプト,ペグビソマント,メトレレプチン,アバタセプト,アスホターゼ,及びGLP-1受容体アゴニストからなる群から選択されるものである,
請求項1~
10の何れかの核酸分子。
【請求項13】
該外来の蛋白質がリソソーム酵素であり,該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2からなる群から選択されるものである,
請求項1~
10の何れかの核酸分子。
【請求項14】
該外来の蛋白質が,抗IL-6抗体,抗ベータアミロイド抗体,抗BACE抗体,抗EGFR抗体,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体,抗HER2抗体,抗PCSK9抗体,抗TNF-α抗体,及び血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して親和性を有する抗体からなる群から選択されるものである,請求項1~
11の何れかの核酸分子。
【請求項15】
該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,請求項
14の核酸分子。
【請求項16】
該外来の蛋白質が,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質であり,
該抗体が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体からなる群から選択されるものであり,及び
該他の蛋白質が,成長ホルモン,リソソーム酵素,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),及びベータアミロイドを分解する活性を有する酵素からなる群から選択されるものである,
請求項1~
9の何れかの核酸分子。
【請求項17】
該外来の蛋白質が,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質であり,
該抗体が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体からなる群から選択されるものであり,及び
他の蛋白質がリソソーム酵素であり,該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2からなる群から選択されるものである,
請求項1~
9の何れかの核酸分子。
【請求項18】
該他の蛋白質が,ヒトのものである,請求項
16又は
17の核酸分子。
【請求項19】
該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して親和性を有するものである,
請求項
16~
18の何れかの核酸分子。
【請求項20】
該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,請求項
19の核酸分子。
【請求項21】
環状プラスミドである,請求項1~
20の何れかの核酸分子。
【請求項22】
請求項1~
21の何れかの核酸分子を宿主細胞に導入する工程を含む,組換えAAV粒子の製造方法。
【請求項23】
該宿主細胞のゲノムが,アデノウイルスのE1A領域及びE1B領域を含む塩基配列を含むものである,請求項
22の製造
方法。
【請求項24】
該宿主細胞が,HEK293細胞である,請求項
23の製造
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,その一実施形態において,遺伝子治療に用いることのできる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンの分野に関し,詳しくは,rAAVビリオンを製造するために用い得る核酸分子及び当該核酸分子を用いたrAAVビリオンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV: adeno-associated virus)は,自然界に存在するウイルスの中で最も小さい部類の直鎖一本鎖DNAウイルスであるパルボウイルス科に属し,そのウイルスゲノムは約4.7 kbである。AAVはエンベロープを持たず,直径約22 nmの正二十面体粒子を形成する。AAVはまた,単独感染では増殖することのできない欠損ウイルスであるディペンドウイルス属に分類され,動物細胞内で効率的に複製が行われるためには,AAVの複製を補助するヘルパーウイルスとの同時感染が必要である。AAVの複製を補助するヘルパーウイルスには,例えばアデノウイルス,又はヘルペスウイルスがある。ヘルパーウイルスの非存在下では,AAVの複製は認められず,AAVゲノムは宿主ゲノムに組込まれる。
【0003】
野生型のAAVが宿主細胞のヒト細胞に単独で感染すると,ウイルスゲノムは,ウイルスゲノムの両端に存在する逆方向末端反復(ITR)を介して,第19番染色体に部位特異的に組み込まれる。宿主細胞のゲノム中に取り込まれたウイルスゲノムの遺伝子はほとんど発現しないが,細胞がヘルパーウイルスに感染するとAAVは宿主ゲノムから切り出され,感染性ウイルスの複製が開始される。ヘルパーウイルスがアデノウイルスの場合,ヘルパー作用を担う遺伝子はE1A,E1B,E2A,VA1,及びE4である。ここで,宿主細胞が,アデノウイルスのE1A,E1Bでトランスフォームしたヒト胎児腎組織由来細胞であるHEK293細胞の場合にあっては,E1A及びE1B遺伝子は,宿主細胞において元々発現している。
【0004】
また,AAVゲノムは2つの遺伝子rep及びcapを含む。rep遺伝子から産生されるrep蛋白質(rep78,rep68,rep52及びrep40)は,カプシド形成に必須であるとともに,ウイルスゲノムの染色体への組み込みに介在する。cap遺伝子は3つのカプシド蛋白質(VP1,VP2及びVP3)の産生を担う。
【0005】
野生型AAVのゲノムでは,両端にITRが存在し,ITRの間にrep遺伝子及びcap遺伝子が存在する。組換AAVビリオン(rAAVビリオン)は,rep遺伝子及びcap遺伝子を含む領域を,外来の蛋白質をコードする遺伝子で置換したものが,カプシドに内包されたものである。
【0006】
rAAVビリオンは,遺伝子治療において外因性の遺伝子を細胞に送達するためのベクターとして用いられ,これまで治癒することのできなかった疾患に治療選択肢を与える能力がある。
【0007】
rAAVビリオンを生産するためには,一般に3種類のプラスミドが用いられる。すなわち,ITRに挟まれた外来の蛋白質をコードする遺伝子を含むプラスミド(特許文献1),Rep蛋白質をコードする遺伝子とCap蛋白質をコードする遺伝子を含むプラスミド(特許文献2),及びアデノウイルス由来E2A,E4,及びVA1 RNAをコードする遺伝子を含むプラスミド(特許文献3),である。遺伝子導入した細胞内で目的遺伝子を内包したrAAVビリオンを生産させるためには,これら3種類のプラスミドをHEK293細胞等の宿主細胞に導入する必要がある。rAAVビリオンは3種類のプラスミドが導入された宿主細胞内で合成される。このとき,宿主細胞内ではrAAVビリオンに加えて,DNAを内包しない空の粒子が発生する。プラスミドDNAの一過性発現系では80%近くがDNAを内包しない空の粒子であるとの報告もある。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第95/34670号
【文献】国際公開第97/06272号
【文献】国際公開第97/17458号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Maria S. et al., HUMAN GENE THERAPY METHODS, 28, 101-108 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は,その一実施形態において,遺伝子治療等に使用できる,外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む核酸配列がAAVのカプシドにパッケージされたrAAVビリオンを効率よく生産するために用いられる核酸分子及び,かかるrAAVビリオンの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質をコードする塩基配列,アデノ随伴ウイルスのCap蛋白質をコードする塩基配列,第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,アデノウイルスのE2A領域を含む塩基配列,アデノウイルスのE4領域を含む塩基配列,及びアデノウイルスのVA1 RNA領域を含む塩基配列,及び,核酸分子の第一と第二のITRとの間に外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む核酸分子を,宿主細胞に導入することにより,rAAVビリオンを効率よく製造できることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.少なくとも以下の塩基配列を含む核酸分子;
(a)アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,
(b)アデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,
(c)第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,
(d)第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,
(e)第一のITRと第二のITRとの間に位置する,外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,
(f)アデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物を含む塩基配列,
(g)アデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物を含む塩基配列,及び
(h)アデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物を含む塩基配列。
2.該Rep蛋白質の発現を制御する第1の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,
該Cap蛋白質の発現を制御する第2の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,及び
該外来の蛋白質の発現を制御する第3の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,を更に含むものである上記1の核酸分子。
3.薬剤耐性遺伝子を含む塩基配列を更に含むものである,上記1又は2の核酸分子。
4.該第1の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列の下流に,該Rep蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に該第2の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,及び更に下流に該Cap蛋白質をコードする塩基配列,を含むものである,上記2又は3の核酸分子。
5.該第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列の下流に,該第3の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に該外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び該外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に該第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,を含むものである,上記2~4の何れかの核酸分子。
6.該アデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物の塩基配列の下流に,該アデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物の塩基配列,更に下流に該アデノウイルスVA1 RNA領域又はその機能的等価物の塩基配列,を含むものである,上記2~5の何れかの核酸分子。
7.該Cap蛋白質をコードする塩基配列の下流に,該第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,更に下流に該第3の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に該外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び該外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に該第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,を含むものである,上記4の核酸分子。
8.該第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列の下流に,該アデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物の塩基配列,更に下流に該アデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物の塩基配列,更に下流に該アデノウイルスVA1 RNA領域又はその機能的等価物の塩基配列,を含むものである,上記7の核酸分子。
9.薬剤耐性遺伝子を含む塩基配列を更に含むものである,上記1~8の何れかの核酸分子。
10.薬剤耐性遺伝子を含む塩基配列を,該Cap蛋白質をコードする塩基配列の下流であって,該第一のITRを含む塩基配列の上流に含むものである,上記9の核酸分子。
11.該Cap蛋白質をコードする塩基配列の下流に,Rep蛋白質及びCap蛋白質の発現量を高めるエンハンサー機能を有する塩基配列を含むものである,上記1~10の何れかの核酸分子。
12.該Rep蛋白質が,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10及び11のアデノ随伴ウイルスからなる群から選択されるものである,上記1~11の何れかの核酸分子。
13.該Rep蛋白質が,Rep68又は/及びRep78を含むものである,上記12の核酸分子。
14.該Cap蛋白質が,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10及び11のアデノ随伴ウイルスからなる群から選択されるものである,上記1~13の何れかの核酸分子。
15.該Cap蛋白質が,VP1を含むものである,上記14の核酸分子。
16.該第1の遺伝子発現制御部位が,該アデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物によって制御されるものである,上記2~15の何れかの核酸分子。
17.該第1の遺伝子発現制御部位が,アデノ随伴ウイルスのp5プロモーターである,上記16の核酸分子。
18.該第2の遺伝子発現制御部位が,アデノウイルスのVA1 RNA又はその機能的等価物によって制御されるものである,上記2~17の何れかの核酸分子。
19.該第2の遺伝子発現制御部位が,アデノ随伴ウイルスのp40プロモーターである,上記18の核酸分子。
20.該第一及び第二のITRのアデノ随伴ウイルス血清型が,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10及び11からなる群から選択されるものである,上記1~19の何れかの核酸分子。
21.該ITRのアデノ随伴ウイルス血清型が2である,上記1~19の何れかの核酸分子。
22.該外来の蛋白質をコードするための塩基配列が,マルチクローニングサイトを含むものである,上記1~21の何れかの核酸分子。
23.該アデノウイルスの血清型が,2,1,5,6,19,3,11,7,14,16,21,12,18,31,8,9,10,13,15,17,19,20,22,23,24~30,37,40,41,AdHu2,AdHu3,AdHu4,AdHu24,AdHu26,AdHu34,AdHu35,AdHu36,AdHu37,AdHu41,AdHu48,AdHu49,AdHu50,AdC6,AdC7,AdC69,ウシAd3型,イヌAd2型,ヒツジAd,及びブタAd3型からなる群から選択されるものである,上記1~22の何れかの核酸分子。
24.該アデノウイルスのE2A領域の機能的等価物が,単純ヘルペスウイルス,ワクシニアウイルス,サイトメガロウイルス,及び仮性狂犬病ウイルスからなる群から選択される何れかに由来するものである,上記1~23の何れかの核酸分子。
25.該アデノウイルスのE4領域の機能的等価物が,単純ヘルペスウイルス,ワクシニアウイルス,サイトメガロウイルス,及び仮性狂犬病からなる群から選択される何れかに由来するものである,上記1~24の何れかの核酸分子。
26.該アデノウイルスのVA1 RNA領域の機能的等価物が,単純ヘルペスウイルス,ワクシニアウイルス,サイトメガロウイルス,及び仮性狂犬病ウイルスからなる群から選択される何れかに由来するものである,上記1~25の何れかの核酸分子。
27.該アデノウイルスのE2A領域が,該アデノウイルスのE1B又はその機能的等価物によって制御されるものである,上記2~26の何れかの核酸分子。
28.該アデノウイルスのE4領域が,該アデノウイルスのE1B又はその機能的等価物によって制御されるものである,上記2~27の何れかの核酸分子。
29.該薬剤耐性遺伝子が,該薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤への耐性を,原核細胞に付与するものである,上記9~28の何れかの核酸分子。
30.該第3の遺伝子発現制御部位が,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,及びβ-アクチンプロモーター,配列番号47で示される塩基配列を含むプロモーター,配列番号47で示される塩基配列を含むプロモーターの下流に配列番号39で示される塩基配列を含むもの,からなる群から選択されるものである,上記2~29の何れかの核酸分子。
31.該エンハンサー機能を有する塩基配列が,アデノ随伴ウイルスのp5プロモーター又はその機能的等価物である,上記11~30の何れかの核酸分子。
32.該外来の蛋白質がヒトのものである,上記1~31の何れかの核酸分子。
33.該外来の蛋白質が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体からなる群から選択されるものである,上記1~31の何れかの核酸分子。
34.該外来の蛋白質が,成長ホルモン,リソソーム酵素,ソマトメジン,インスリン,グルカゴン,リソソーム酵素,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン(FSH),性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH),ゴナドトロピン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,エタネルセプト,ペグビソマント,メトレレプチン,アバタセプト,アスホターゼ,及びGLP-1受容体アゴニストからなる群から選択されるものである,上記1~32の何れかの核酸分子。
35.該外来の蛋白質がリソソーム酵素であり,該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2からなる群から選択されるものである,上記1~32の何れかの核酸分子。
36.該外来の蛋白質が,抗IL-6抗体,抗ベータアミロイド抗体,抗BACE抗体,抗EGFR抗体,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体,抗HER2抗体,抗PCSK9抗体,抗TNF-α抗体,及び血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して親和性を有する抗体からなる群から選択されるものである,上記1~33の何れかの核酸分子。
37.該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,上記36の核酸分子。
38.該外来の蛋白質が,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質であり,該抗体が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体からなる群から選択されるものであり,及び,該他の蛋白質が,成長ホルモン,リソソーム酵素,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),及びベータアミロイドを分解する活性を有する酵素からなる群から選択されるものである,上記1~31の何れかの核酸分子。
39.該外来の蛋白質が,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質であり,該抗体が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体からなる群から選択されるものであり,及び他の蛋白質がリソソーム酵素であり,該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2からなる群から選択されるものである,上記1~31の何れかの核酸分子。
40.該他の蛋白質が,ヒトのものである,上記38又は39の核酸分子。
41.該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して親和性を有するものである,上記38~40の何れかの核酸分子。
42.該血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質が,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体からなる群から選択されるものである,上記41の核酸分子。
43.環状プラスミドである,上記1~42の何れかの核酸分子。
44.上記1~43の何れかの核酸分子を宿主細胞に導入する工程を含む,組換えAAVビリオンの製造方法。
45.該宿主細胞のゲノムが,アデノウイルスのE1A領域及びE1B領域を含む塩基配列を含むものである,上記44の製造法。
46.該宿主細胞が,HEK293細胞である,上記45の製造法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば,遺伝子治療等に使用できる,外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む核酸配列がパッケージされたrAAVビリオンを効率よく生産することができるので,rAAVビリオンが安価に供給できるようになり,遺伝子治療に必要な医療費を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】pHelper(mod)ベクターの構造を示す模式図。
【
図2】pAAV-CMV-GFP(mod)ベクターの構造を示す模式図。
【
図3】pR2(mod)C6ベクターの構造を示す模式図。
【
図4】pR2(mod)C9ベクターの構造を示す模式図。
【
図5】pHelper-ITR/CMV/GFPベクターの構造を示す模式図。
【
図6】pHelper-R2(mod)C6ベクターの構造を示す模式図。
【
図7】pHelper-R2(mod)C9ベクターの構造を示す模式図。
【
図8】pR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターの構造を示す模式図。
【
図9】pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターの構造を示す模式図。
【
図10】pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターの構造を示す模式図。
【
図11】pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターの構造を示す模式図。
【
図12】
図12は,実施例16で得られた,培養上清中に含まれるrAAVゲノム量と総カプシド量の測定の結果を表す図である。縦軸はrAAVゲノム量(x10
11)又は総カプシド量(x10
11)を示す。黒棒はrAAVゲノム量,白棒は総カプシド量を示す。左から順に,(1): pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(2): pHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(3): pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(4): pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合,及び(5): pHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合のそれぞれについての測定結果を示す。測定結果はrAAV9についてのみ示す。
【
図13】
図13は,実施例18で得られた精製した細胞溶解物溶液中に含まれるrAAVゲノム量と総カプシド量の測定の結果を表す図である。縦軸はrAAVゲノム量(x10
11)又は総カプシド量(x10
11)を示す。黒棒はrAAVゲノム量,白棒は総カプシド量を示す。左から順に,(1): pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(2): pHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(3): pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(4): pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合及び(5): pHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合のそれぞれについての測定結果を示す。測定結果はrAAV9についてのみ示す。
【
図14】
図14は,実施例19で得られたrAAVビリオンの総カプシド中における存在比率の算出の結果を表す図である。縦軸は存在比率(%)を示す。左から順に,(1): pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(2): pHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(3): pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(4): pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合,及び(5): pHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合のそれぞれについての値を示す。測定結果はrAAV9についてのみ示す。
【
図15】
図15は,実施例20で得られた細胞溶解物溶液から精製したrAAV6ビリオンの感染能測定の結果を表す図である。縦軸はGFP陽性細胞の割合すなわちrAAV6ビリオンの感染効率(%)を示す。左から順に,(1): pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpRC6ベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(2): pHelper-R2(mod)C6ベクターとpAAV-CMV-GFPベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(3): pR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(4): pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターを導入した場合,及び(5): pHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpRC6ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合のそれぞれについて,黒棒は1 wellあたりに感染させたrAAVゲノム量が2x10
8 vg(すなわちrAAVビリオン量が2x10
8個)の場合,白棒は1 wellあたりに感染させたrAAVゲノム量が2x10
9 vg(すなわちrAAVビリオン量が2x10
9個)の場合を示す。
【
図16】
図16は,実施例21で得られた細胞溶解物溶液から精製したrAAV9ビリオンの感染能測定の結果を表す図である。縦軸はGFP陽性細胞の割合すなわちrAAV9ビリオンの感染効率(%)を示す。左から順に,(1): pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(2): pHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(3): pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(4):統合rAAVプラスミド(pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクター)を導入した場合,及び(5): pHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合のそれぞれについて,黒棒は1 wellあたりに感染させたrAAVゲノム量が2x10
9 vg(すなわちrAAVビリオン量が2x10
9個)の場合,白棒は1 wellあたりに感染させたrAAVゲノム量が1x10
10 vg(すなわちrAAVビリオン量が2x10
10個)の場合を示す。
【
図17】
図17は,実施例22で得られたrAAV6ビリオンのTransducing Unitの算出の結果を表す図である。縦軸はTransducing Unitの値(x10
5)を示す。左から順に,(1): pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpRC6ベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(2): pHelper-R2(mod)C6ベクターとpAAV-CMV-GFPベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(3): pR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(4): 統合rAAVプラスミド(pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクター)を導入した場合,及び(5): pHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpRC6ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合のそれぞれについて,Transducing Unitの値を示す。
【
図18】
図18は,実施例22で得られたrAAV9ビリオンのTransducing Unitの算出の結果を表す図である。縦軸はTransducing Unitの値(x10
5)を示す。左から順に,(1): pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(2): pHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(3): pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類のプラスミドを導入した場合,(4): 統合rAAVプラスミド(pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクター)を導入した場合,及び(5): pHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合のそれぞれについて,Transducing Unitの値を示す。
【
図19】pAAV-CBA(BAM)-I2Sベクターの構造を示す模式図。
【
図20】pHelper-ITR/CBA(BAM)/I2S-R2(mod)C9ベクターの構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いられる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンの生産には,通常,(1)AAV等のウイルスに由来する第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列と第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,及びこれら2つのITRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む構造を有するプラスミド(プラスミド1),(2)前記ITR配列に挟まれた領域(ITR配列を含む)の塩基配列を宿主細胞のゲノム中に組み込むために必要な機能を有するAAV Rep遺伝子と,AAVのカプシド蛋白質をコードする遺伝子とを含むプラスミド(プラスミド2),及び(3)アデノウイルスのE2A領域,E4領域,及びVA1 RNA領域を含むプラスミド(プラスミド3)の3種類のプラスミドが用いられる。
【0015】
一般に,組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンの生産には,まず,これら3種類のプラスミドが,アデノウイルスのE1a遺伝子とE1b遺伝子がゲノム中に組み込まれたHEK293細胞等の宿主細胞に導入される。そうすると第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列と第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,及びこれら2つのITRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む領域が宿主細胞のゲノムに組み込まれる。この領域から1本鎖DNAが複製され,AAVのカプシド蛋白質にパッケージングされて,組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンが形成される。この組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。
【0016】
本発明は,その一実施形態において,組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオンの生産に必要な,上記のプラスミド1~3の3種類のプラスミドの構成要素,すなわち(a)アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,(b)アデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,(c)第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,(d)第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,(e)第一のITRと第二のITRとの間に位置する,外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,(f)アデノウイルスのE2A蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,(g)アデノウイルスのE4蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,及び(h)アデノウイルスのVA1 RNA又はその機能的等価物をコードする塩基配列を含む核酸分子に関する。
【0017】
本発明の一実施形態において,統合rAAVプラスミドというときは,上記(a)~(h)の構成要素を含むプラスミドのことをいう。統合rAAVプラスミドは直鎖状であってもよく,環状であってもよい。
【0018】
更に,本発明は,その一実施形態において,該Rep蛋白質の発現を制御する第1の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,該Cap蛋白質の発現を制御する第2の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,及び,該外来の蛋白質の発現を制御する第3の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列を含む塩基配列を更に含む核酸分子に関する。
【0019】
アデノ随伴ウイルス(AAV)のRep蛋白質は,AAVのrep遺伝子にコードされる。Rep蛋白質は,例えばAAVゲノムを,当該ゲノム中に存在するITRを介して,宿主細胞のゲノム中に組み込むために必要な機能を有する。Rep蛋白質は複数のサブタイプが存在するが,AAVゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みには,Rep68とRep78の2種類が必要とされる。Rep68とRep78は,同一の遺伝子から選択的スプライシングにより転写される2種類のmRNAの翻訳産物である。本発明においてAAVのRep蛋白質というときは,少なくともRep68とRep78の2種類の蛋白質を含むものである。
【0020】
本発明の一実施形態において,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質をコードする塩基配列というときは,少なくともRep68とRep78をコードする塩基配列,又はこれに変異を加えた塩基配列のことをいう。Rep蛋白質は,好ましくは血清型2のAAVのものであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。野生型の血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列は配列番号1で示される塩基配列を有する。野生型の血清型2のAAVのRep68及びRep78は,それぞれ配列番号2及び配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する。
【0021】
また,Rep68は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のRep68のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。本発明において,これら変異を加えたRep68も,Rep68に含まれる。
【0022】
野生型のRep68のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型のRep68のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたRep68も,Rep68である。アミノ酸を付加する場合,野生型のRep68のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたRep68も,Rep68に含まれる。変異を加えたRep68のアミノ酸配列は,野生型のRep68のアミノ酸配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0023】
また,Rep78は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のRep78のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。本発明において,これら変異を加えたRep78も,Rep78に含まれる。
【0024】
野生型のRep78のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型のRep78のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたRep78も,Rep78である。アミノ酸を付加する場合,野生型のRep78のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたRep78も,Rep78に含まれる。変異を加えたRep78のアミノ酸配列は,野生型のRep78のアミノ酸配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0025】
AAVのRep蛋白質の機能的等価物とは,Rep68にあっては,機能的にRep68に代えて用いることができるものをいい,Rep78にあっては,機能的にRep78に代えて用いることができるものをいう。
【0026】
配列番号1で示される塩基配列は,機能的なRep68及びRep78をコードするものである限り,置換,欠失,付加等の改変を加えることができる。配列番号1で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号1で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep蛋白質をコードする塩基配列として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号1で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep蛋白質をコードする核酸分子として使用できる。変異を加えた塩基配列は,配列番号1で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。但し,これら変異を加える場合において,Rep蛋白質のRep68とRep78とをコードする遺伝子の開始コドンをACGとすることが好ましい。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態における,Rep蛋白質をコードする核酸分子として,配列番号4で示される塩基配列を含むものが挙げられる。この核酸分子は,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するRep蛋白質のRep68と,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するRep蛋白質のRep78とをコードする。また,この核酸分子において,Rep蛋白質のRep68とRep78とをコードする遺伝子の開始コドンはACGである。この塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,Rep蛋白質をコードするものである限り,Rep蛋白質をコードする核酸分子である。
【0028】
本発明の一実施形態においてアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質をコードする塩基配列というときは,少なくともAAVのカプシドを構成する蛋白質の一種であるVP1をコードする塩基配列,又はこれに変異を加えた塩基配列を含む塩基配列のことをいう。VP1は,好ましくは血清型9のAAVのものであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,10又は11の何れのものであってもよい。野生型の血清型6のAAVのVP1をコードする塩基配列は配列番号5で示される塩基配列を有する。野生型の血清型6のAAVのVP1は,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有する。野生型の血清型9のAAVのVP1をコードする塩基配列は配列番号7で示される塩基配列を有する。野生型の血清型9のAAVのVP1は,配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する。
【0029】
また,VP1は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のVP1のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたVP1も,VP1に含まれる。
【0030】
野生型のVP1のアミノ酸配列中,例えば配列番号6で示される野生型の血清型6のAAVのVP1のアミノ酸配列又は配列番号9で示される野生型の血清型9のAAVのVP1のアミノ酸配列,のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型のVP1のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたVP1も,VP1である。アミノ酸を付加する場合,野生型のVP1のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたVP1も,VP1に含まれる。変異を加えたVP1のアミノ酸配列は,野生型のVP1のアミノ酸配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0031】
AAVのVP1の機能的等価物とは,機能的にVP1に代えて用いることができるものをいう。
【0032】
本発明の好ましい一実施形態におけるCap蛋白質をコードする核酸分子として,配列番号5又は7で示される塩基配列を含むものが挙げられる。これらの核酸分子は,それぞれ,野生型の血清型6のAAVのVP1をコードする塩基配列と野生型の血清型9型のAAVのVP1をコードする塩基配列である。これら塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,機能的なVP1をコードするものである限り,Cap蛋白質をコードする核酸分子である。
【0033】
配列番号5又は7で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号5又は7で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap蛋白質をコードする塩基配列として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号5又は7で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap蛋白質をコードする核酸分子として使用できる。変異を加えた塩基配列は,配列番号5又は7で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0034】
本発明の一実施形態において,アデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)というときは,宿主細胞のゲノム配列中に非相同組換えによりアデノ随伴ウイルスの遺伝子が組み込まれるために必須の塩基配列のことをいう。本発明の一実施形態において,核酸分子中には,アデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)が2つ存在し,それぞれ第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR),第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)という。ここで,2つのITRの間に,外来の蛋白質をコードする遺伝子を配置したときに,5’側に位置するITRを第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)といい,3’側に位置するITRを第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)という。
【0035】
逆方向末端反復(ITR)は,好ましくは血清型2のAAVのものであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。血清型2のAAVの逆方向末端反復(ITR)は,第一のITRが配列番号9で示される塩基配列を含み,第二のITRが配列番号10で示される塩基配列を含む。
【0036】
また,逆方向末端反復(ITR)は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のITRの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。これら変異を加えたITRも,ITRに含まれる。
【0037】
野生型のITRの塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。ITRの塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,ITRである。塩基を付加する場合,野生型のITRの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,ITRに含まれる。変異を加えたITRの塩基配列は,野生型のITRの塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0038】
AAVのITRの機能的等価物とは,機能的にAAVのITRに代えて用いることができるものをいう。また,AAVのITRに基づいて人工的に構築されたITRも,AAVのITRを代替することができるものである限り,AAVのITRの機能的等価物である。
【0039】
かかる人工的に構築された第1の逆方向末端反復(第一のITR)として,配列番号11で示される塩基配列を有するものが挙げられる。この配列番号11で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的にAAVのITRに代えて用いることができるものである限り,AAVのITRの機能的等価物に含まれる。配列番号11で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号11で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第一のITRである。配列番号11で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第一のITRに含まれる。変異を加えたITRの塩基配列は,配列番号11で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0040】
また,かかる人工的に構築された第2の逆方向末端反復(第二のITR)として,配列番号12で示される塩基配列を有するものが挙げられる。この配列番号12で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的にAAVのITRに代えて用いることができるものである限り,AAVのITRの機能的等価物に含まれる。配列番号12で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号12で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第二のITRである。配列番号12で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第二のITRに含まれる。変異を加えたITRの塩基配列は,配列番号12で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0041】
本発明の一実施形態において,第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)と,第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)との間には,外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列が存在する。
【0042】
本発明の一実施形態において,外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列というときは,制限酵素で特異的に切断することのできる塩基配列を含む塩基配列のことをいう。いわゆるマルチクローニングサイトもこれに含まれる。この塩基配列を制限酵素で切断し,この切断箇所に所望の外来の蛋白質をコードする核酸分子を挿入することができる。
【0043】
本発明の一実施形態において,核酸分子中にコードされることのできる外来の蛋白質に特に制限はない。外来の蛋白質が特定の生物種に由来するものである場合,その生物種に特に制限はなく,原核細胞,真核細胞のゲノムにコードされる蛋白質の何れであってもよい。ここで真核細胞は,例えば,真菌類,酵母,昆虫,原虫,両生類,爬虫類,鳥類,哺乳動物,植物である。また,生物種が哺乳動物である場合,例えば,ヒト,ヒト以外の霊長類,ウシ,ウマ,ブタ,ヒツジ等の家畜,ネコ,イヌ等の愛玩動物である。また,外来の蛋白質は,特定の生物種に由来する野生型の蛋白質のアミノ酸配列に,置換,欠失,付加等の変異を加えたものであってもよい。また,外来の蛋白質は,天然には存在しないアミノ酸配列を含む,人工的な蛋白質であってもよい。
【0044】
外来の蛋白質が,野生型の蛋白質のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型の蛋白質のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。アミノ酸を付加する場合,野生型の蛋白質のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異が加えられた蛋白質のアミノ酸配列は,対応する野生型の蛋白質のアミノ酸配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0045】
本発明の一実施形態において,外来の蛋白質に特に制限はないが,例えば,遺伝子疾患において一部又は全部が機能的に欠損している蛋白質が挙げられる。かかる遺伝子疾患としては,ライソソーム病,嚢胞性繊維症,血友病が例示できる。その他,外来の蛋白質として,成長ホルモン,ソマトメジン,インスリン,グルカゴン,リソソーム酵素,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン(FSH),性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH),ゴナドトロピン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,エタネルセプト,ペグビソマント,メトレレプチン,アバタセプト,アスホターゼ,及びGLP-1受容体アゴニストが例示できる。
【0046】
また,外来の蛋白質として,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体が例示できる。更に,外来の蛋白質として,抗IL-6抗体,抗ベータアミロイド抗体,抗BACE抗体,抗EGFR抗体,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体,抗HER2抗体,抗PCSK9抗体,及び抗TNF-α抗体が例示できる。
【0047】
外来の蛋白質がリソソーム酵素である場合にあっては,外来の蛋白質の遺伝子として,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2が例示できる。
【0048】
外来の蛋白質は,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質であってもよい。かかる融合蛋白質としては,抗体が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体の何れかであり,そして他の蛋白質が,成長ホルモン,リソソーム酵素,サイトカイン,リンホカイン,血液凝固因子,抗体,抗体と他の蛋白質との融合蛋白質,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),エリスロポエチン,ダルベポエチン,組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA),トロンボモジュリン,卵胞刺激ホルモン,DNasel,甲状腺刺激ホルモン(TSH),神経成長因子(NGF),毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,PD-1,PD-1リガンド,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),及びベータアミロイドを分解する活性を有する酵素の何れかであるものが例示できる。
【0049】
外来の蛋白質は,抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質であってもよい。かかる融合蛋白質としては,抗体が,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト・マウスキメラ抗体,及びヒト抗体の何れかであり,そしてリソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2の何れかであるものが例示できる。
【0050】
外来の蛋白質が抗体と他の蛋白質との融合蛋白質又は抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質である場合の抗体は,例えば,血管内皮細胞の表面に存在する蛋白質に対して特異的な親和性を有する抗体である。かかる蛋白質としては,トランスフェリン受容体,インスリン受容体,レプチン受容体,インスリン様成長因子I受容体,インスリン様成長因子II受容体,リポ蛋白質受容体,ブドウ糖輸送担体1,有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質1,低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質8,及びヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子の膜結合型前駆体が例示できる。更に,有機アニオントランスポーターとしてはOATP-Fが,モノカルボン酸トランスポーターとしてはMCT-8が例示できる。
【0051】
第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,及び第一のITRと第二のITRとの間に位置する,外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む領域をトランスファー領域という。
【0052】
アデノウイルスは,宿主細胞中でAAVのゲノムが複製されてカプシドにパッケージングされてウイルスビリオンを形成するために必要な機能を提供する。この機能は,アデノウイルスゲノムのE1領域,E2A領域,E4領域,及びVA1 RNA領域により発揮される。
【0053】
本発明の一実施形態において,組換えAAVビリオン(rAAVビリオン)というときは,AAVのカプシド蛋白質(その機能的等価物を含む)に,野生型のAAVのゲノムに改変が加えられた核酸分子,例えばrAAVゲノムがパッケージングされたものをいう。ここで,rAAVゲノム(組換えAAVゲノム)というときは,野生型のAAVのゲノムに改変が加えられた核酸分子のことをいう。rAAVビリオンにパッケージングされるrAAVゲノムは1本鎖DNAである。かかる核酸分子としては,5’末端から側から,第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む領域,及び第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)を含む1本鎖DNAがある。但し,rAAVビリオンにパッケージングされていない当該核酸分子も,rAAVゲノムということができる。従って,rAAVゲノムは一本鎖DNAであっても二本鎖DNAであってもよい。
【0054】
本発明の一実施形態において,rAAVゲノム量とは,rAAVゲノムの個数のことを意味し,その単位はvgである。
【0055】
本発明の一実施形態において,空カプシドとは,rAAVゲノムがパッケージングされていないカプシド蛋白質で構成されている粒子のことをいう。また,総カプシドとは空カプシドとrAAVビリオンの総称であり,総カプシド量とは空カプシドとrAAVビリオンの個数を足しあわせた個数のことである。
【0056】
また,組換えAAVビリオンにおいて,そのカプシド蛋白質が血清型6のAAVに由来するものであるときは組み換えAAV6ビリオン(rAAV6ビリオン)ということができ,カプシド蛋白質が血清型9のAAVに由来するときは組み換えAAV9ビリオン(rAAV9ビリオン)ということができるものとする。その他の血清型のAAVについても同様とする。
【0057】
更に,かかる核酸分子としては,5’末端から側から第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,該外来の蛋白質の発現を制御する遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む領域,及び第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)を含む1本鎖DNAがある。
【0058】
更に,かかる核酸分子としては,5’末端から側から第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,該外来の蛋白質の発現を制御する遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,イントロン配列,外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む領域,ポリA配列,及び第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)を含む1本鎖DNAがある。ここで,イントロン配列として用い得る塩基配列に,特に制限はないが,ヒトβグロビン遺伝子に変異を導入した合成ヒトβグロビンイントロン,例えば,配列番号25で示される塩基配列を含むイントロンが好適に使用し得る。また,ポリアデニレーションシグナル配列(ポリA配列)として用い得る塩基配列に,特に制限はないが,配列番号26で示される塩基配列を含む合成ポリアデニレーションシグナル配列(合成ポリA配列)の塩基配列がある。
【0059】
宿主細胞中で,組換えAAVビリオンが形成されるためには,アデノウイルスのE1領域が有する機能が必要とされる。一般に,組換えAAVビリオンの作製は,E1領域の全部又はその一部を有する宿主細胞が用いられる。かかる細胞として,HEK293細胞が知られている。HEK293細胞のゲノム中には,E1A及びE1Bのコーディング領域が少なくとも含まれている。
【0060】
E1領域の全部又はその一部を有する宿主細胞を用いる場合に,AAVのゲノムが複製されてカプシドにパッケージングされてウイルスビリオンを形成するために必要なアデノウイルスゲノムの領域は,E2A領域,E4領域,及びVA1 RNA領域である。これらの領域は,AAV複製のために必要とされる蛋白質及びRNAをコードしている。E4領域によって提供される機能に関しては,E4領域のオープンリーディングフレーム6(ORF6)によってコードされるE4 34kD蛋白質がAAVの複製に必要とされる。
【0061】
本発明の一実施形態における,E2A領域は,AAV複製のために必要とされる本来の機能を発揮するものである限り,血清型が2,1,5,6,19,3,11,7,14,16,21,12,18,31,8,9,10,13,15,17,19,20,22,23,24~30,37,40,41,AdHu2,AdHu3,AdHu4,AdHu24,AdHu26,AdHu34,AdHu35,AdHu36,AdHu37,AdHu41,AdHu48,AdHu49,AdHu50,AdC6,AdC7,AdC69,ウシAd3型,イヌAd2型,ヒツジAd,又はブタAd3型の何れのアデノウイルスのものであってもよい。血清型2であるアデノウイルスのE2A領域は,本発明において好適なものの一つである。血清型2であるアデノウイルスのE2A領域は配列番号13で示される塩基配列を含む。
【0062】
また,E2A領域として,当該領域が本来有する機能を発揮するものである限り,野生型のアデノウイルスのE2A領域に,置換,欠失,付加等の改変がなされたものを使用することもできる。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたE2A領域も,E2A領域に含まれる。
【0063】
野生型のE2A領域の塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。E2A領域の塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたE2A領域も,E2A領域である。塩基を付加する場合,野生型のE2A領域の塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたE2A領域も,E2A領域に含まれる。変異を加えたE2A領域の塩基配列は,野生型のE2Aの塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0064】
本発明の一実施形態における,E4領域は,AAV複製のために必要とされる本来の機能を発揮するものである限り,血清型が2,1,5,6,19,3,11,7,14,16,21,12,18,31,8,9,10,13,15,17,19,20,22,23,24~30,37,40,41,AdHu2,AdHu3,AdHu4,AdHu24,AdHu26,AdHu34,AdHu35,AdHu36,AdHu37,AdHu41,AdHu48,AdHu49,AdHu50,AdC6,AdC7,AdC69,ウシAd3型,イヌAd2型,ヒツジAd,又はブタAd3型の何れのアデノウイルスのものであってもよい。血清型2であるアデノウイルスのE4領域は,本発明において好適なものの一つである。血清型2であるアデノウイルスのE4領域は配列番号14で示される塩基配列を含む。
【0065】
また,E4領域として,当該領域が本来有する機能を発揮するものである限り,野生型のアデノウイルスのE4領域に,置換,欠失,付加等の改変がなされたものを使用することもできる。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたE4領域も,E4領域に含まれる。
【0066】
野生型のE4領域の塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。E4領域の塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたE4領域も,E4領域である。塩基を付加する場合,野生型のE4の塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたE4も,E4に含まれる。変異を加えたE4の塩基配列は,野生型のE4の塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0067】
E4領域の好適な一例として,配列番号15で示される塩基配列を含むものがある。この配列番号15で示される塩基配列に,置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,当該領域が本来有する機能を発揮するものである限り,E4領域として使用できる。
【0068】
配列番号15で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。E4領域の塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。塩基を付加する場合,配列番号15で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた塩基配列は,配列番号15で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。これらの変異を加えたものも,E4領域である。
【0069】
本発明の一実施形態における,VA1 RNA領域は,AAV複製のために必要とされる本来の機能を発揮するものである限り,血清型が2,1,5,6,19,3,11,7,14,16,21,12,18,31,8,9,10,13,15,17,19,20,22,23,24~30,37,40,41,AdHu2,AdHu3,AdHu4,AdHu24,AdHu26,AdHu34,AdHu35,AdHu36,AdHu37,AdHu41,AdHu48,AdHu49,AdHu50,AdC6,AdC7,AdC69,ウシAd3型,イヌAd2型,ヒツジAd,又はブタAd3型の何れのアデノウイルスのものであってもよい。血清型2であるアデノウイルスのVA1 RNA領域は,本発明において好適なものの一つである。血清型2であるアデノウイルスのVA1 RNA領域は配列番号16で示される塩基配列を含む。
【0070】
また,VA1 RNA領域として,当該領域が本来有する機能を発揮するものである限り,野生型のアデノウイルスのVA1 RNA領域に,置換,欠失,付加等の改変がなされたものを使用することもできる。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたVA1 RNA領域も,VA1 RNA領域に含まれる。
【0071】
野生型のVA1 RNA領域の塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。VA1 RNA領域の塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたVA1 RNA領域も,VA1 RNA領域である。塩基を付加する場合,野生型のVA1 RNA領域の塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたVA1 RNA領域も,VA1 RNA領域に含まれる。変異を加えたVA1 RNA領域の塩基配列は,野生型のVA1 RNA領域の塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0072】
本発明の好ましい一実施形態において,E2A領域とE4領域とVA1 RNA領域は如何なる順で位置してもよい。E2A領域,E4領域及びVA1 RNA領域を含む塩基配列をヘルパー領域という。
【0073】
ヘルパー領域の好ましい一実施形態として,E2A領域の下流にE4領域,更に下流にVA1 RNA領域が位置する,配列番号17で示される塩基配列を含むものが挙げられる。この塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,E2A領域,E4領域及びVA1 RNA領域のそれぞれの領域が本来の機能を発揮するものである限り,ヘルパー領域として使用できる。
【0074】
配列番号17で示される塩基配列を含むヘルパー領域の塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~60個,より好ましくは1~30個,更に好ましくは1~10個である。配列番号17で示される塩基配列を含むヘルパー領域の塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~60個,より好ましくは1~30個,更に好ましくは1~10個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,ヘルパー領域として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号17で示される塩基配列を含むヘルパー領域の塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~60個,より好ましくは1~30個,更に好ましくは1~10個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,ヘルパー領域として使用できる。変異を加えたヘルパー領域の塩基配列は,配列番号17で示される塩基配列を含むヘルパー領域の塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0075】
ヘルパー領域に含まれる,E2A領域,E4領域及びVA1 RNA領域のそれぞれにおける改変については,上記のルールが適用される。
【0076】
本発明の一実施形態において,Rep蛋白質の発現を制御する第1の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列として用いることのできる塩基配列に,それがE2A領域,E4領域,及びVA1 RNA領域を含む領域にコードされる蛋白質及びRNAによって制御されるものである限り,特に制限はないが,好ましくは,AAVのp5プロモーターである。第1の遺伝子発現制御部位がAAVのp5プロモーターである場合,血清型2であるAAVのp5プロモーターであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。血清型2のAAVのp5プロモーターは配列番号18で示される塩基配列を含む。
【0077】
また,AAVのp5プロモーターは,その機能を発揮するものである限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のp5プロモーターの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたp5プロモーターも,p5プロモーターに含まれる。
【0078】
配列番号18で示される野生型のp5プロモーターの塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号18で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたp5プロモーターも,p5プロモーターである。塩基を付加する場合,配列番号18で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたp5プロモーターも,p5プロモーターに含まれる。変異を加えたp5プロモーターの塩基配列は,野生型のp5プロモーターの塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0079】
血清型2であるAAVのp5プロモーターを改変したp5プロモーターの例として配列番号19で示される塩基配列を含むものが挙げられる。このp5プロモーターの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,p5プロモーターの本来の機能を発揮するものである限り,p5プロモーター又はその機能的等価物たり得る。
【0080】
配列番号19で示される塩基配列を含むp5プロモーターの塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号19で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,p5プロモーター又はその機能的等価物として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号19で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,p5プロモーター又はその機能的等価物として使用できる。変異を加えたp5プロモーターの塩基配列は,配列番号19で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0081】
p5プロモーター又はその機能的等価物は,通常,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列の上流に位置する。
【0082】
p5プロモーター又はその機能的等価物とアデノ随伴ウイルスのRep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列とを含む領域を,Rep領域という。Rep領域の好ましい一実施形態として,配列番号20で示される塩基配列を含むものが挙げられる。この配列番号20で示される塩基配列は,配列番号19で示される塩基配列の下流に,配列番号4で示される塩基配列を含むものである。すなわち,この配列番号20で示される塩基配列は,配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する血清型2のAAVのRep68と,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する血清型2のAAVのRep78とをコードする。
【0083】
配列番号20で示される塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,Rep領域の本来の機能を発揮するものである限り,Rep領域として使用できる。
【0084】
配列番号20で示される塩基配列を含むRep領域の塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号20で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep領域として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号20で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep領域として使用できる。変異を加えたRep領域の塩基配列は,配列番号20で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0085】
本発明の一実施形態において,Cap蛋白質の発現を制御する第2の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列として用いることのできる塩基配列に,それがE2A領域,E4領域,及びVA1 RNA領域を含む領域にコードされる蛋白質及びRNAによって制御されるものである限り,特に制限はないが,好ましくは,AAVのp40プロモーターである。AAVのp40プロモーターである場合,血清型2であるAAVのp40プロモーターであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。
【0086】
また,AAVのp40プロモーターは,その機能を発揮するものである限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のp40プロモーターの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたp40プロモーターも,p40プロモーターに含まれる。野生型のp40プロモーターの塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のp40プロモーターの塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたp40プロモーターも,p40プロモーターである。塩基を付加する場合,野生型のp40プロモーターの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたp40プロモーターも,p40プロモーターに含まれる。変異を加えたp40プロモーターの塩基配列は,野生型のp40プロモーターの塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0087】
p40プロモーター又はその機能的等価物は,通常,アデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列の上流に位置する。
【0088】
p40プロモーター又はその機能的等価物とアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列とを含む領域を,Cap領域という。
【0089】
Cap領域の好ましい一実施形態として,配列番号21で示される塩基配列を含むものが挙げられる。このCap領域は,配列番号7で示される塩基配列を有する血清型9のAAVのVP1をコードする塩基配列を含み,配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する血清型9のAAVのVP1をコードする。このCap領域は,配列番号7で示される塩基配列を有する血清型9のAAVのVP1をコードする塩基配列に代えて,配列番号5で示される塩基配列を有する血清型6のAAVのVP1をコードする塩基配列を含むものとすることもできる。これら塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,Cap領域の本来の機能を発揮するものである限り,Cap領域として使用できる。
【0090】
Cap領域の塩基配列中の配列番号21で示される塩基配列の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号21で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap領域として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号21で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap領域として使用できる。変異を加えたCap領域の塩基配列は,配列番号21で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。配列番号7で示される塩基配列を配列番号5で示される塩基配列に代えたものについても同様である。
【0091】
本発明の好ましい一実施形態において,Rep領域はCap領域の上流に位置してもよく,又下流に位置してもよい。Rep領域とCap領域を含む領域をRep-Cap領域という。
【0092】
Rep-Cap領域の好ましい一実施形態として,Rep領域がCap領域の上流に位置する,配列番号22で示される塩基配列を含むものが挙げられる。このRep-Cap領域は,配列番号19で示される塩基配列の下流に配列番号20で示される塩基配列,更に下流に配列番号21で示される塩基配列を含む。このRep-Cap領域は,配列番号7で示される塩基配列を有する血清型9のAAVのVP1をコードする塩基配列を含み,配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する血清型9型のAAVのVP1をコードする。このRep-Cap領域は,配列番号7で示される塩基配列を有する血清型9のAAVのVP1をコードする塩基配列に代えて,配列番号5で示される塩基配列を有する血清型6のAAVのVP1をコードする塩基配列を含むものとすることもできる。これらの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,Rep-Cap領域の本来の機能を発揮するものである限り,Rep-Cap領域として使用できる。
【0093】
配列番号22で示される塩基配列を含むRep-Cap領域の塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号22で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep-Cap領域として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号22で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep-Cap領域として使用できる。変異を加えたRep-Cap領域の塩基配列は,配列番号22で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0094】
Rep-Cap領域の下流に,Rep蛋白質又は/及びCap蛋白質の発現量を高める機能を有するエンハンサー配列を配置することもできる。ここで,かかるエンハンサー配列に特に制限はないが,AAVのp5プロモーター又はその機能的等価物をエンハンサーとして使用することができる。ここで用いられるp5プロモーターのAAVの血清型に特に限定はなく,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのAAVのp5プロモーターであってもよいが,好ましくは血清型2であるAAV p5プロモーターである。血清型2のAAVのp5プロモーターは配列番号18で示される塩基配列を含む。
【0095】
また,Rep-Cap領域の下流に配置されるAAVのP5プロモーターは,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のp5プロモーターの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。これら変異を加えたp5プロモーターも,P5プロモーターに含まれる。
【0096】
ここで,野生型のP5プロモーターの塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のp5プロモーターの塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたp5プロモーターも,P5プロモーターである。塩基を付加する場合,野生型のP5プロモーターの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたP5プロモーターも,P5プロモーターに含まれる。変異を加えたp5プロモーターの塩基配列は,野生型のP5プロモーターの塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0097】
血清型2のAAVのp5プロモーターを改変したp5プロモーターの例として配列番号19で示される塩基配列を含むものが挙げられる。このp5プロモーターの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,p5プロモーターに含まれる。
【0098】
配列番号19で示される塩基配列を含むp5プロモーターの塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号19で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,p5プロモーター又はその機能的等価物として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号19で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,p5プロモーター又はその機能的等価物として使用できる。変異を加えたp5プロモーターの塩基配列は,配列番号19で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0099】
Rep-Cap領域の下流にAAVのp5プロモーター又はその機能的等価物の塩基配列が配置される場合,このAAVのp5プロモーター又はその機能的等価物の塩基配列を含めた領域を,Rep-Cap領域ということもできる。かかるRep-Cap領域の好ましい一実施形態として,配列番号23で示される塩基配列を含むものが挙げられる。このRep-Cap領域は,配列番号19で示される塩基配列の下流に配列番号20で示される塩基配列,更に下流に配列番号21で示される塩基配列,更に下流に配列番号19で示される塩基配列を含む。この塩基配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものも,Rep-Cap領域の本来の機能を発揮するものである限り,Rep-Cap領域とすることができる。
【0100】
配列番号23で示される塩基配列を含むRep-Cap領域の塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号23で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep-Cap領域として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号23で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep-Cap領域として使用できる。変異を加えたRep-Cap領域の塩基配列は,配列番号23で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。
【0101】
本発明の一実施形態において,外来の蛋白質の発現を制御する第3の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列として用いることのできる塩基配列に,それがこの外来の蛋白質をコードする遺伝子が導入される先の細胞,組織又は生体内で,この外来の蛋白質を発現させることができるものである限り,特に制限はないが,サイトメガロウイルス由来のプロモーター(任意選択でエンハンサーを含む),SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター,ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター,β-アクチンプロモーター,ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターを含むものが好適である。β-アクチンプロモーターとしては配列番号38で示される塩基配列を有するニワトリβ-アクチンプロモーターが好適である。この他,ヒトCMVエンハンサーの下流にニワトリβ-アクチンプロモーターが結合した配列番号47で示される塩基配列を有するプロモーターが第3の遺伝子発現制御部位として好適に利用できる。
【0102】
外来の蛋白質の発現量を増加させるため,第3の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列と外来の蛋白質をコードする塩基配列との間,又は外来の蛋白質をコードする塩基配列の下流に,イントロン配列が存在してもよい。例えば,ヒトCMVエンハンサーの下流にニワトリβ-アクチンプロモーター,その下流に配列番号39で示される塩基配列を有するニワトリβアクチン/MVMキメライントロンが結合したものは,第3の遺伝子発現制御部位として好適に利用できる。ここでMVMはMinute virus of miceの略号である。
【0103】
外来の蛋白質の下流にはポリアデニレーション配列(polyA配列)が配置される。polyA配列として用いることのできる塩基配列に,それが外来の蛋白質をコードする遺伝子が導入される先の細胞,組織又は生体内で本来の機能を発揮できるものである限り,特に制限はないが,ヒト成長ホルモンpolyA配列,配列番号40で示される塩基配列を有する成長ウシ成長ホルモンpolyA配列が好適に利用できる。
【0104】
本発明の一実施形態である核酸分子は,環状のプラスミドとすることができる。
【0105】
本発明の一実施形態において,核酸分子が環状のプラスミドであるとき,Rep-Cap領域,トランスファー領域,ヘルパー領域は,如何なる順で位置してもよい。
【0106】
本発明の好適な一実施形態において,Rep-Cap領域の下流にトランスファー領域,その下流にヘルパー領域が位置する。例えば,Rep領域の下流にCap領域,その下流にトランスファー領域,その下流にE2A領域,その下流にE4領域,その下流にVA1 RNA領域が位置する。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0107】
本発明の更なる一実施形態において,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,アデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,アデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,アデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,及びアデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列は,如何なる順で位置してもよい。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。この核酸分子の任意の位置に,更に,薬剤耐性遺伝子を組み込むこともできる。また,この核酸分子の任意の位置に,更に,宿主細胞中でプラスミドが複製するために必要な複製開始点を組み込むこともできる。宿主細胞である場合の複製開始点としては,Coli E1が好適に使用できる。外来の蛋白質をコードする塩基配列の下流には通常polyA配列がある。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0108】
但し,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列は,アデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列の5’側に位置することが好ましい。また,アデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物の塩基配列は,アデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物の塩基配列の5’側に位置することが好ましい。また更に,アデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物の塩基配列は,アデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物の塩基配列の5’側に位置することが好ましい。また更に,アデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物の塩基配列の3’側に,アデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物の塩基配列,更にその下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物の塩基配列が位置することが好ましい。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。この核酸分子の任意の位置に,更に,薬剤耐性遺伝子を組み込むこともできる。また,この核酸分子の任意の位置に,更に,宿主細胞中でプラスミドが複製するために必要な複製開始点を組み込むこともできる。宿主細胞である場合の複製開始点としては,Coli E1が好適に使用できる。外来の蛋白質をコードする塩基配列の下流には通常polyA配列がある。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0109】
本発明の更なる好ましい一実施形態として,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列の下流に,アデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流に第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流に外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列が位置する核酸分子が挙げられる。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。この核酸分子の任意の位置に,更に,薬剤耐性遺伝子を組み込むこともできる。また,この核酸分子の任意の位置に,更に,宿主細胞中でプラスミドが複製するために必要な複製開始点を組み込むこともできる。宿主細胞である場合の複製開始点としては,Coli E1が好適に使用できる。外来の蛋白質をコードする塩基配列の下流には通常polyA配列がある。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0110】
本発明の更なる好ましい一実施形態として,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質の発現を制御する第1の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列の下流に,Rep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,その下流にアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質の発現を制御する第2の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,その下流にアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流に第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流に外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列が位置する核酸分子が挙げられる。更に複製開始点を含んでもよく,付随的に薬剤耐性遺伝子を組み込んでもよい。外来の蛋白質をコードする塩基配列の下流には通常polyA配列がある。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0111】
本発明の更なる好ましい一実施形態として,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質の発現を制御する第1の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列の下流に,Rep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,その下流にアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質の発現を制御する第2の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,その下流にアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にAAVのp5プロモーター又はその等価物の塩基配列,更に下流に第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流に外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列が位置する核酸分子が挙げられる。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。この核酸分子の任意の位置に,更に,薬剤耐性遺伝子を組み込むこともできる。また,この核酸分子の任意の位置に,更に,宿主細胞中でプラスミドが複製するために必要な複製開始点を組み込むこともできる。宿主細胞である場合の複製開始点としては,Coli E1が好適に使用できる。外来の蛋白質をコードする塩基配列の下流には通常polyA配列がある。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0112】
本発明の更なる好ましい一実施形態として,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質の発現を制御する第1の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列の下流に,Rep蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,その下流にアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質の発現を制御する第2の遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,その下流にアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にAAVのp5プロモーター又はその等価物の塩基配列,更に下流に複製開始点,更に下流に薬剤耐性遺伝子,更に下流に第一のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流に外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二のアデノ随伴ウイルスの逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE2A領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのE4領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列,更に下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域又はその機能的等価物をコードする塩基配列が位置する核酸分子が挙げられる。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0113】
本発明の更なる好ましい一実施形態として,血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列を含むRep領域,その下流に血清型6又は9のAAVのCap蛋白質をコードする塩基配列を含むCap領域,更に下流にエンハンサーとしてp5プロモーター,更に下流に第一のITR,更に下流にサイトメガロウイルス由来のプロモーター,更に下流に合成ヒトβグロビンイントロン,更に下流に外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に合成polyA配列,更に下流に第二のITR,更に下流にアデノウイルスのE2A領域,更に下流にアデノウイルスのE4領域,更に下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域が位置する核酸分子が挙げられる。更に複製開始点を含んでもよく,その場合,複製開始点は好ましくはp5プロモーターの下流に位置する。付随的に薬剤耐性遺伝子を組み込んでもよく,その場合,薬剤耐性遺伝子は好ましくは第一のITRの上流に位置する。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0114】
本発明の更なる好ましい一実施形態として,血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列を含むRep領域,その下流に血清型6又は9のAAVのCap蛋白質をコードする塩基配列を含むCap領域,更に下流にエンハンサーとしてp5プロモーター,更に下流に第一のITR,更に下流にヒトCMVエンハンサー,更に下流にニワトリβアクチンプロモーター,更に下流にニワトリβアクチン/MVMキメライントロン,更に下流に外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列又は/及び外来の蛋白質をコードする塩基配列,更に下流にウシ又はヒト成長ホルモンpolyA配列,更に下流に第二のITR,更に下流にアデノウイルスのE2A領域,更に下流にアデノウイルスのE4領域,更に下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域が位置する核酸分子が挙げられる。更に複製開始点を含んでもよく,その場合,複製開始点は好ましくはp5プロモーターの下流に位置する。付随的に薬剤耐性遺伝子を組み込んでもよく,その場合,薬剤耐性遺伝子は好ましくは第一のITRの上流に位置する。核酸分子が環状のプラスミドである場合も同様である。
【0115】
本発明の一実施形態の核酸分子を用いた,組換えアデノ随伴ウイルスビリオンの製造法について,配列番号24で示される塩基配列を含む核酸分子を例にとって以下に説明する。
【0116】
配列番号24で示される核酸分子は,血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列を含むRep領域,その下流に血清型9のAAVのCap蛋白質をコードする塩基配列を含むCap領域,更に下流にエンハンサーとしてp5プロモーター,更に下流に複製開始点,更に下流にアンピシリン耐性遺伝子,更に下流に第一のITR,更に下流にサイトメガロウイルス由来のプロモーター,更に下流に合成ヒトβグロビンイントロン,更に下流に外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列,更に下流に合成polyA配列,更に下流に第二のITR,更に下流にアデノウイルスのE2A領域,更に下流にアデノウイルスのE4領域,更に下流にアデノウイルスのVA1 RNA領域が位置する核酸分子である。配列番号24には示されていないが,外来の蛋白質をコードする塩基配列を挿入するための塩基配列(配列番号24で示される塩基配列中の8116bp~8147bpに存在する制限酵素サイトの何れか)には,所望の蛋白質をコードする塩基配列が導入されているものとする。この配列番号24で示される核酸分子は,組換えAAVビリオンを作製するために用い得る核酸分子の好適な一例である。配列番号24で示される核酸分子は,
図11で示されるpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターから,GFP遺伝子を除いたものに相当する構造を有する。
【0117】
配列番号24で示される塩基配列を有する核酸分子は,環状プラスミドとして一般的な遺伝子工学的手法を用いて合成することができる。この環状プラスミドには,薬剤耐性遺伝子がコードされている。また,大腸菌で複製されるための複製開始点を有する。従って,この環状プラスミドは大腸菌に導入することによって増幅させることができ,容易に大量に調製することができる。
【0118】
調製した環状プラスミドは,アデノウイルスのE1A領域及びE1B領域がゲノムに組み込まれた宿主細胞に導入される。かかる宿主細胞として,アデノウイルスのE1A遺伝子,及びE1B遺伝子でトランスフォームしたヒト胎児腎組織由来細胞であるHEK293細胞が好適に使用できる。
【0119】
宿主細胞に環状プラスミドが導入されると,第一のITRから第二のITRに至る領域が宿主細胞に非相同組換えによって組み込まれる。ついで,この宿主細胞に組み込まれた領域から,1本鎖DNAが複製されて,これがカプシドにパッケージングされて組換えAAVビリオンが形成される。組換えAAVビリオンは,培養液中に放出されるか,又は宿主細胞内に蓄積する。従って,宿主細胞の培養上清を回収することにより,又は宿主細胞を回収しこれを破壊することにより,組換えAAVビリオンを回収することができる。
【0120】
通常,組換えAAVビリオンを製造するためには,ITRに挟まれた所望の蛋白質をコードする塩基配列を含むプラスミド,Rep蛋白質をコードする塩基配列及びCap蛋白質をコードする塩基配列を含むプラスミド,及びアデノウイルス由来E2A,E4,及びVA1 RNA配列を含むプラスミドの3種類のプラスミドを同時に宿主細胞に導入する必要がある。宿主細胞の中で,3種類のプラスミドが導入される細胞の比率は低く,これにより組換えAAVビリオンの製造効率は低下する。また,3種類のプラスミドの中で,ITRに挟まれた所望の蛋白質をコードする塩基配列を含むプラスミドが導入されず,他の2種のプラスミドのみが導入された宿主細胞では,rAAVゲノムを含まない空のウイルス粒子(空カプシド)が産生されることになるので,更に製造効率は低下する。
【0121】
本発明の好適な実施例の一つである配列番号24で示される塩基配列を有する環状プラスミドは,これら3種類のプラスミドの機能を全て有する。従って,この環状プラスミドを用いて宿主細胞を形質転換することにより,rAAVビリオンの細胞中での産生に必要なすべての要素が細胞に同時に導入されることになるので,rAAVビリオンの生産量が上昇させることができるのみならず,空カプシドの発生を抑制することもできる。総カプシドに占める空カプシドの比率が高いほど,rAAVビリオンの品質は低下することになるので,この環状プラスミドを用いることにより,空カプシドの比率の低い高品質のrAAVビリオンを効率よく製造できる。これに限らず,統合rAAVプラスミドを用いて宿主細胞を形質転換することにより,空カプシドの比率の低い高品質のrAAVビリオンを効率よく製造できる。
【実施例】
【0122】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0123】
〔実施例1〕pHelper(mod)ベクターの構築
5’側より,SalIサイト,RsrIIサイト,複製開始点(ColE1 ori),アンピシリン耐性遺伝子,BsiWIサイト,BstZ17Iサイト,及びBsrGIサイトを含む配列番号27で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をSalIとBsrGIで消化した。pHelperベクター(タカラバイオ社)をSalIとBsrGIで消化し,これに,上記の制限酵素処理したDNA断片を挿入した。得られたプラスミドをpHelper(mod)ベクターとした(
図1)。
【0124】
〔実施例2〕pAAV-CMV-GFPベクター及びpAAV-CMV-GFP(mod) ベクターの構築
5’側より,EcoRIサイト,MluIサイト,GFP遺伝子(緑色蛍光蛋白質遺伝子),NotIサイト,及びBamHIサイトを含む配列番号28で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をEcoRIとBamHIで消化した。pAAV-CMVベクター(タカラバイオ社)をEcoRIとBamHIで消化し,これに上記の制限酵素処理したDNA断片を挿入した。得られたプラスミドをpAAV-CMV-GFPベクターとした。pAAV-CMV-GFPベクターのPciIサイトに,配列番号29で示される塩基配列を有する,BsiWIサイトとAvrIIサイトを含むマルチクローニングサイト1を挿入し,更に,SfoIサイト,配列番号30で示される塩基配列を有する,BsrGIサイト,AgeIサイト,及びBstZ17Iサイトを含むマルチクローニングサイト2を挿入した。得られたプラスミドをpAAV-CMV-GFP(mod)ベクターとした(
図2)。
【0125】
〔実施例3〕pR2(mod)C6ベクターの構築
5’側より,AfeIサイト,RsrIIサイト,BsrGIサイト,AvrIIサイト,アンピシリン耐性遺伝子サイト,複製開始点(ColE1 ori),RsrIIサイト,AAV2 Rep領域の5’部分(p5プロモーターを含む),及びSacIIサイトを含む配列番号31で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をAfeIとSacIIで消化した。pRC6ベクター(タカラバイオ社)をAfeIとSacIIで消化し,これに上記の制限処理した合成遺伝子を挿入した。得られたプラスミドをpR2(mod)C6ベクターとした(
図3)。
【0126】
〔実施例4〕pR2(mod)C9ベクターの構築
5’側より,HindIIIサイト,AAV2 Rep領域の3’部分,AAV9 Cap領域,p5プロモーター,RsrIIサイト,及びBsrGIサイトを含む配列番号32で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片をHindIIIとBsrGIで消化した。pR2(mod)C6ベクターをHindIIIとBsrGIで消化し,これに上記の制限酵素処理した合成遺伝子を挿入した。得られたプラスミドをpR2(mod)C9ベクターとした(
図4)。
【0127】
〔実施例5〕pHelper-ITR/CMV/GFPベクターの構築
pAAV-CMV-GFP(mod)ベクターをBsiWIとBstZ17Iで消化し,ITR-CMVプロモーター,ヒトβグロビンイントロン,GFP遺伝子,合成ポリA配列,及びITRを含むDNA断片を切り出した。pHelper(mod)ベクターをBsiWIとBstZ17Iで消化し,これに切り出したDNA断片を挿入した。得られたプラスミドをpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとした(
図5)。
【0128】
〔実施例6〕pHelper-R2(mod)C6ベクターの構築
pR2(mod)C6ベクターをRsrIIで消化し,AAV2 Rep領域(p5プロモーターを含む),AAV6 Cap領域-p5プロモーターを含む配列を切り出した。別にpHelper(mod)ベクターをRsrIIで消化した。これに切り出したDNA断片を挿入し,pHelper-R2(mod)C6ベクターとした(
図6)。
【0129】
〔実施例7〕pHelper-R2(mod)C9ベクターの構築
pR2(mod)C9ベクターをRsrIIで消化し,p5 promoter-Rep2-AAV9 VP1-p5 promoterを含む配列を切り出した。pHelper(mod)ベクターをRsrIIで消化した。これに切り出したDNA断片を挿入し,pHelper-R2(mod)C9ベクターとした(
図7)。
【0130】
〔実施例8〕pR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターの構築
pAAV-CMV-GFP(mod)ベクターをAvrIIとBsrGIで消化し,ITR- CMVプロモーター-ヒトβグロビンイントロン-GFP-合成ポリA配列-ITRを含む配列を切り出した。pR2(mod)C6ベクターをAvrIIとBsrGIで消化した。これに切り出したDNA断片を挿入し,pR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとした(
図8)。
【0131】
〔実施例9〕pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターの構築
pAAV-CMV-GFP(mod)ベクターをAvrIIとBsrGIで消化し,ITR-CMVプロモーター-ヒトβグロビンイントロン-GFP-合成ポリA配列-ITRを含むDNA断片を切り出した。別に,pR2(mod)C9ベクターをAvrIIとBsrGIで消化した。これに切り出したDNA断片を挿入し,pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとした(
図9)。
【0132】
〔実施例10〕pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターの構築
pR2(mod)C6ベクターをRsrIIで消化してAAV2 Rep領域(p5プロモーターを含む),AAV6 Cap領域,及びエンハンサーとして機能するp5プロモーターを含む配列を切り出した。別に,pHelper-ITR/CMV/GFPベクターをRsrIIで消化した。これに上記で切り出した配列を挿入し,pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターとした。(
図10)
【0133】
〔実施例11〕pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターの構築
pR2(mod)C9ベクターをRsrIIで消化してAAV2 Rep領域(p5プロモーターを含む),AAV9 Cap領域,及びエンハンサーとして機能するp5プロモーターを含むDNA断片を切り出した。別にpHelper-ITR/CMV/GFPベクターをRsrIIで消化した。これに切り出したDNA断片を挿入し,pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターとした(
図11)。
【0134】
〔実施例12〕3種類のプラスミドの一過性発現によるrAAVビリオンの産生
SV40ウイルスのlarge T抗原遺伝子を発現させたヒト胎児腎臓細胞由来の細胞株である,HEK293T細胞を宿主細胞として用いた。HEK293T細胞を,1.65×107個/ディッシュの濃度で15cmディッシュに播種し,10% FBS含有DMEM/High Glucose培地(Thermo Fisher Scientific社)で37℃,5% CO2存在下で16時間培養した。トランスフェクション用のDNAとして,下記の(1)~(2)の組み合わせのプラスミドを含む溶液を作製した;
(1)pHelperベクター(タカラバイオ社)とpAAV-CMV-GFPベクターとpRC6ベクター(タカラバイオ社),
(2)pHelperベクター(タカラバイオ社)とpAAV-CMV-GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター。
それぞれの溶液は,3種類のプラスミドが等モル濃度で含まれる,DNA濃度が4 μg/mLである溶液となるように調製した。この溶液に,ポリエチレンイミンとFBSを,濃度がそれぞれ12 μg/mLと1.3% (v/v)となるように添加し,更にDMEM/High Glucose培地を加えて液量を30 mLに調整したものをトランスフェクション用溶液とした。15cmディッシュに播種した細胞の培養上清を全て除去した後,30 mLのトランスフェクション用溶液を全量添加し,37℃,5% CO2存在下で3日間培養して,rAAVビリオンを産生させた。宿主細胞中で産生されたrAAVビリオンは,一部が培養上清中に放出され,一部が宿主細胞内に留まる。実施例13及び14においても同様である。
【0135】
〔実施例13〕2種類のプラスミドの一過性発現によるrAAVビリオンの産生
HEK293T細胞を1.65×107個/ディッシュの濃度で15cmディッシュに播種し,10% FBS含有DMEM/High Glucose培地で37℃,5% CO2存在下で16時間培養した。トランスフェクション用のDNA溶液として,下記の(1)~(6)の組み合わせのプラスミドを含む溶液を作製した;
(1)pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpRC6ベクター(タカラバイオ社),
(2)pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,
(3)pHelper-R2(mod)C6ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,
(4)pHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,
(5)pR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクター(タカラバイオ社),
(6)pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelper(タカラバイオ社)ベクター。
それぞれの溶液は,2種類のプラスミドが等モル濃度で含まれる,DNA濃度が3.5~3.6 μg/mLである溶液となるように調製した。この溶液に,ポリエチレンイミンとFBSを,濃度がそれぞれ12 μg/mLと1.3% (v/v)となるように添加し,更にDMEM/High Glucose培地を加えて液量を30 mLに調整したものをトランスフェクション用溶液とした。15 cmディッシュに播種した細胞の培養上清を全て除去した後,30 mLのトランスフェクション用溶液を全量添加し,37℃,5% CO2存在下で3日間培養して,rAAVビリオンを産生させた。
【0136】
〔実施例14〕統合rAAVプラスミドの一過性発現によるrAAVビリオンの産生
HEK293T細胞を1.65×107個/ディッシュの濃度で15cmディッシュに播種し,10% FBS含有DMEM/High Glucose培地で37℃,5% CO2存在下で16時間培養した。トランスフェクション用のDNA溶液として,pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクター又はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターが3.2 μg/mLの濃度で含まれる溶液を調製した。この溶液に,ポリエチレンイミンとFBSを,濃度がそれぞれ12 μg/mLと1.3% (v/v)となるように添加し,更にDMEM/High Glucose培地を加えて液量を30 mLに調整したものをトランスフェクション用溶液とした。15cmディッシュに播種した細胞の培養上清を全て除去した後,30 mLのトランスフェクション用溶液を全量添加し,37℃,5% CO2存在下で3日間培養して,rAAV6ビリオンとrAAV9ビリオンとをそれぞれ産生させた。
【0137】
〔実施例15〕培養上清の回収
実施例12~14の培養終了後,細胞培養液を50 mL遠心チューブに移し,3000×gで10分間遠心して,培養上清を回収した。また,遠心して沈殿させた細胞は,実施例17の細胞溶解物溶液の調製に用いた。
【0138】
〔実施例16〕培養上清中に含まれるrAAVゲノム量と総カプシド量の測定
培養上清中のウイルスゲノム含有量はAAVpro Titration Kit for Real Time PCR Ver.2 (タカラバイオ社)を用い,キットに添付のプロトコールに準じて,概ね下記の方法で測定した。実施例15で回収した2 μLの培養上清に,2 μLの10×DNaseI Buffer,1 μLのDNaseI,及び15 μLの純水を添加して混合し,37℃で1時間インキュベートした。95℃で10分間熱処理してDNaseIを失活させ,次いで20 μLのLysis Bufferを添加して70℃で10分間熱処理を行った。熱処理後の溶液をEASY Dilution (タカラバイオ社)で100倍希釈し,リアルタイムPCR用サンプル溶液とした。
【0139】
リアルタイムPCR用サンプル溶液と検量線用スタンダードプラスミド溶液(pAAV-CMV-GFPベクターを直鎖化したもの)のそれぞれ5 μLに,12.5 μLのTB Green Premix Ex TaqII,0.6 μLの10 μM 順方向プライマー (プライマー1,配列番号33),0.6 μLの10 μM 逆方向プライマー(プライマー2,配列番号34),0.08 μLのROX Reference Dye II,及び6.5 μLの水を加えた。リアルタイムPCR反応は変性条件(95℃,2分)の後35サイクルの2ステップPCR(95℃,5秒→60℃,30秒)を行った。得られた検量線に,検体の測定値を内挿し,検体に含まれるrAAVゲノム量(個数)を求めた。このPCRにおいて複製される領域は,ITRの内部領域である。
【0140】
培養上清中の総カプシド量はAAV Titration ELISA Kit (PROGEN社)を用い,キットに添付のプロトコールに準じて,概ね下記の方法で測定した。マウス抗AAV9モノクローナル抗体が固定化されたプレートに1×Assay Bufferで希釈した実施例15で回収した培養上清(検体サンプル)を100 μLずつ添加し,37℃で1時間静置した。1.3×109~1.0×107 カプシド数/mLの濃度に1×Assay Bufferで希釈したKit Controlを標準溶液として検体サンプルと同様にプレートに加えて静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,ビオチン標識されたマウス抗AAV9抗体又はマウス抗AAV6抗体を加え,37℃で1時間静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,HRP標識ストレプトアビジンを加え,37℃で1時間静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,HRP基質を加え,室温で15分間静置した後,硫酸を加えて反応を停止した。標準溶液の吸光度の測定値から得られた検量線に,検体の測定値を内挿し,検体に含まれる総カプシド量(個数)を求めた。
【0141】
〔実施例17〕細胞溶解物溶液の調製
実施例15で細胞培養液を遠心して沈殿させた細胞に,1% TritonX-100,4 mM MgCl2,50U/mL Turbonuclease(Accelagen社),及び4×Protease Inhibitor Cocktail(シグマ社)を含有するクエン酸緩衝液(32 mM クエン酸ナトリウム)を加え,37℃で1.5時間静置した。4 mM MgCl2含有クエン酸緩衝液(68 mM クエン酸)を添加して中和後,6000×g,4℃で10分間遠心した。これに0.25% TritonX-100,4 mM MgCl2,12.5U/mL Turbonuclease(Accelagen社),及び1×Protease Inhibitor Cocktail(シグマ社)を含有する25 mMクエン酸緩衝液(pH 3.6,8 mM クエン酸ナトリウム+17 mM クエン酸)を2倍量添加して細胞溶解物とした。
【0142】
SP-Sepharose 1 mLカラム(GEヘルスケア社)を,4 mM MgCl2を含有する25 mM クエン酸緩衝液(pH 3.6,8 mM クエン酸ナトリウム+17 mM クエン酸)で平衡化し,これに細胞溶解物を供した。4 mM MgCl2,500 mM NaClを含有する50 mM クエン酸緩衝液(pH 5.18,40.2 mM クエン酸ナトリウム+9.8 mM クエン酸)で溶出後,最終濃度が50 mMとなるように1M Tris緩衝液を添加して溶出液を中和した。中和サンプルをVivaspin-500 100K MWCO(Vivaproducts社)に入れ,3000×g,4℃で10分間遠心後,180 mM NaCl,0.001% F68含有PBSを入れてさらに3000×g,4℃で10分間遠心して緩衝液を置換した。得られた溶液を細胞溶解物溶液とした。
【0143】
〔実施例18〕細胞溶解物溶液中に含まれるrAAVゲノム量と総カプシド量の測定
精製した細胞溶解物溶液中のウイルスゲノム含有量はAAVpro Titration Kit for Real Time PCR Ver.2 (タカラバイオ社)を用い,キットに添付のプロトコールに準じて,概ね下記の方法で測定した。実施例17で調製した2 μLの細胞溶解物溶液サンプルに,2 μLの10×DNaseI Buffer,1 μLのDNaseI,及び15 μLの純水を添加して混合し,37℃で1時間インキュベートした。95℃で10分間熱処理してDNaseIを失活させ,次いで20 μLのLysis Bufferを添加して70℃で10分間熱処理を行った。熱処理後の溶液をEASY Dilution(タカラバイオ社)で100倍希釈したものをリアルタイムPCR用のサンプル溶液とした。
【0144】
リアルタイムPCR用サンプル溶液と検量線用スタンダードプラスミド溶液(pAAV-CMV-GFPベクターを直鎖化したもの)のそれぞれ5 μLに,12.5 μLのTB Green Premix Ex TaqII,0.6 μLの10 μM順方向プライマー (プライマー1,配列番号33),0.6 μLの10 μM 逆方向プライマー (プライマー2,配列番号34),0.08 μLのROX Reference Dye II,及び6.5 μLの水を加えた。リアルタイムPCR反応は変性条件(95℃, 2分)の後35サイクルの2ステップPCR(95℃, 5秒→60℃, 30秒)を行った。得られた検量線に,検体の測定値を内挿し,検体に含まれるAAVウイルスゲノム量(vg)を求めた。ここでvgはAAVウイルスゲノムの個数を示す単位である。このPCRにおいて複製される領域は,ITRの内部領域である。
【0145】
細胞溶解物溶液中の総カプシド量はAAV Titration ELISA Kit (PROGEN社)を用い,キットに添付のプロトコールに準じて,概ね下記方法で測定した。マウス抗AAV9モノクローナル抗体が固定化されたプレートに1×Assay Bufferで希釈した実施例17で調製した細胞溶解物溶液(検体サンプル)を100 μLずつ添加し,37℃で1時間静置した。1.3×109~1.0×107 カプシド数/mLの濃度に1×Assay Bufferで希釈したKit Controlを標準溶液として検体サンプルと同様にプレートに加えて静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,ビオチン標識されたマウス抗AAV9抗体又はマウス抗AAV6抗体を加え,37℃で1時間静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,HRP標識ストレプトアビジンを加え,37℃で1時間静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,HRP基質を加え,室温で15分間静置した後,硫酸を加えて反応を停止した。標準溶液の吸光度の測定値から得られた検量線に,検体の測定値を内挿し,検体に含まれる総カプシド量(個数)を求めた。
【0146】
〔実施例19〕rAAVビリオンの総カプシド中における存在比率の算出
実施例18で測定した細胞溶解物溶液中に含まれるrAAVゲノム量の測定結果と総カプシド量の測定結果からrAAVゲノムを含む組換えAAVビリオン(rAAVビリオン)と空カプシドの量を,それぞれ算出した。rAAVビリオンの量は,rAAVゲノムが全てカプシドにパッケージングされてビリオンを形成したものとみなして,rAAVゲノム量(vg)をrAAVビリオンの量(個数)とした。(rAAVビリオンの量/総カプシド量)X100%を,rAAVビリオンの総カプシド中における存在比率として算出した。なお,総カプシド量(個数)の測定値からrAAVビリオンの量(個数)を減ずると空カプシド量(個数)が算出される。
【0147】
〔実施例20〕細胞溶解物溶液に含まれるrAAV6ビリオンの感染能測定
HEK293T細胞を1×105個/ウェルの濃度で24ウェルプレートに播種し,10% FBS含有DMEM/High Glucose培地で37℃,8% CO2存在下で16時間培養した。実施例18で調製したrAAV6ビリオンを含む細胞溶解物溶液を,2% FBSを含む1 mLのDMEM/High Glucose培地に添加し,トランスダクション用溶液を調製した。トランスダクション用溶液は,rAAV6ビリオンが,2x108 個と2x109個含まれるものをそれぞれ調製した。24ウェルプレートの培養上清を全て除いた後,トランスダクション用溶液を添加し,37℃,8% CO2存在下で3日間培養した。
【0148】
3日後に24ウェルプレートの培養上清を全て除き,PBSで洗浄後20 μLのTrypLETM(トリプシン様活性を有する酵素溶液:Thermo Fisher Scientific社)を添加して37℃で2分間静置した。その後,1 mLのPBSで再び懸濁し,このうち65 μLを用いてMOXI-GO II(ORFLO社)でGFP陽性細胞の割合を測定した。
【0149】
〔実施例21〕細胞溶解物溶液に含まれるrAAV9ビリオンの感染能測定
HEK293T細胞を1×105個/ウェルの濃度で24ウェルプレートに播種し, 10% FBS含有DMEM/High Glucose培地で37℃,8% CO2存在下で16時間培養した。実施例18で調製したrAAV9ビリオンを含む細胞溶解物溶液を,2% FBSを含む1 mLのDMEM/High Glucose培地に添加し,トランスダクション用溶液を調製した。トランスダクション用溶液は,rAAV6ビリオンが,2x108個と2x109個含まれるものをそれぞれ調製した。24ウェルプレートの培養上清を全て除いた後,トランスダクション用溶液を添加し,37℃,8% CO2存在下で3日間培養した。
【0150】
3日後に24ウェルプレートの培養上清を全て除き,PBSで洗浄後20 μLのTrypLE TM(トリプシン様活性を有する酵素溶液:Thermo Fisher Scientific社)を添加して37℃で2分間静置した。その後,1 mLのPBSで再び懸濁し,このうち65 μLを用いてMOXI-GO II(ORFLO社)でGFP陽性細胞の割合を測定した。
【0151】
〔実施例22〕Transducing Unitの算出
Transducing Unitを以下の計算式で算出した。ここでTransducing Unitは,細胞溶解物溶液の全量を用いて宿主細胞を感染させたときに得られる,GFP陽性細胞数(rAAVビリオンで感染した細胞数)を意味する。([ウェル内の総細胞数]×[GFP陽性細胞の割合(%)]/100)×([rAAVビリオンサンプル総量(mL)]/[各ウェルに投入したrAAVビリオンサンプル量(mL)])
【0152】
〔実施例23〕結果(培養上清中に含まれるrAAVゲノム量と総カプシド量の測定)
実施例15で得た培養上清中に含まれるrAAVゲノム量の測定結果を
図12に黒バーで示す。,図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量は,それぞれ2.6×10
11 vg,7.2×10
11 vg,11.1×10
11 vgであった。(5)はpHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量は15.6×10
11 vgであった。これに対して,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量は35.0×10
11 vgであった。
【0153】
また,総カプシド量の測定結果を
図12に白バーで示す。図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,総カプシド量はそれぞれ2.6×10
12 capsids,5.6×10
12 capsids,5.9×10
12 capsidsであった。(5)はpHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,総カプシド量は3.6×10
12 capsidsであった。これに対して(4)%はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示し,総カプシド量は6.6×10
12 capsidsであった。rAAVゲノム量と総カプシド量のいずれの結果も,統合rAAVプラスミド,すなわちpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した時に最も発現量が高い結果となった(
図12)。
【0154】
〔実施例24〕結果(細胞溶解物溶液中に含まれるrAAV量の測定)
実施例17で調製した細胞溶解物溶液中に含まれるrAAVゲノム量の測定結果を
図13に黒バーで示す。図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量はそれぞれ2.5×10
11 vg,23.1×10
11 vg,22.0×10
11 vgであった。(5)はpHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量は6.8×10
11 vgであった。これに対して,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量は29.7×10
11 vgであった(
図13)。
【0155】
また,総カプシド量の測定結果を
図13に白バーで示す。図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,総カプシド量はそれぞれ3.3×10
12 capsids,5.3×10
12 capsids,5.3×10
12 capsidsであった。(5)はpHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量は3.8×10
12 capsidsであった。これに対して,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示し,rAAVゲノム量は6.1×10
12 capsidsであった。rAAVゲノム量と総カプシド量のいずれの結果も統合rAAVプラスミド,すなわちpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した時に最も発現量が高い結果となった(
図13)。
【0156】
〔実施例25〕結果(rAAVビリオンの総カプシド中における存在比率)
実施例17で算出した細胞溶解物溶液のrAAVゲノム量と総カプシド量から求めた,理論上,空カプシドが存在せず,全てのカプシドがrAAVを含むrAAVビリオンである場合,rAAVゲノム量と総カプシド量の存在比率は1:1となる。rAAVビリオン(rAAVビリオン)の総カプシド中における存在比率を
図14に示す。図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,存在比率はそれぞれ7.5%,43.5%,41.5%であった。(5)はpHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,存在比率は17.8%であった。これに対して,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示し,存在比率は48.6%であった(
図14)。この結果より,pHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,pR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合と,pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合に,空カプシドの割合が少ないことが示された。
【0157】
〔実施例26〕結果(細胞溶解物溶液に含まれるrAAV6ビリオンの感染能測定)
実施例17で調製した細胞溶解物溶液に含まれるrAAV6ビリオンの感染能測定結果を
図15に示す。図中黒バーは2×10
8 個のrAAV6ビリオンを感染させた場合の結果を示す。図中(1)は,pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpRC6ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C6ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合はそれぞれ1.5%,9.3%,5%であった。(5)はpHelperベクター,pAAV-CMV-GFPベクター及びpRC6ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は0.6%であり,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターを導入した場合の結果を示しGFP陽性細胞の割合は11.2%であった。
【0158】
また,
図15において,白バーは2×10
9個のrAAV6ビリオンを感染させた場合の結果を示す。図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpRC6ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C6ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は,それぞれ23.2%,70.5%,53.6%であった。(5)はpHelperベクターとpAAV-CMV-GFPベクターとpRC6ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は12.6%であり,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は71.1%であった。
【0159】
これらの結果は,pHelper-R2(mod)C6ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,又はpR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを用いるか,若しくはpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターを用いることにより,高い感染能を有するrAAV6ビリオン溶液を得られることを示す。
【0160】
〔実施例27〕結果(細胞溶解物溶液に含まれるrAAV9ビリオンの感染能測定)
実施例17で調製した細胞溶解物溶液に含まれるrAAV9ビリオンの感染能測定結果を
図16に示す。図中黒バーは2×10
8個のrAAV9ビリオンを感染させた場合の結果を示す。図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は,それぞれ0.8%, 0.3%, 2%であった。(5)pHelperベクターとpAAV-CMV-GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は3.5%であり,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は7.3%であった。
【0161】
また,
図16において,白バーは2×10
9個のrAAV9ビリオンを感染させた場合の結果を示す。図中(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は,それぞれ4.6%,1%,11.4%であった。(5)はpHelperベクターとpAAV-CMV-GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は21.7%であり,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示し,GFP陽性細胞の割合は50.3%であった。
【0162】
これらの結果は,pHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを用いることにより,高い感染能を有するrAAV9ビリオン溶液を得られることを示す。
【0163】
〔実施例28〕結果(Transducing Unitの算出)
実施例17で調製した細胞溶解物溶液に含まれるrAAV6ビリオンの感染能測定結果を
図17に示す。図中(1)は,pHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpRC6ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C6ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C6-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示す。また,(5)はpHelperベクターとpAAV-CMV-GFPベクターとpRC6ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示す。また,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクターを導入した場合の結果を示す。
【0164】
実施例17で調製した細胞溶解物溶液に含まれるrAAV9ビリオンの感染能測定結果を
図18に示す。図中(1)は,(1)はpHelper-ITR/CMV/GFPベクターとpR2(mod)C9ベクター,(2)はpHelper-R2(mod)C9ベクターとpAAV-CMV-GFPベクター,(3)はpR2(mod)C9-ITR/CMV/GFPベクターとpHelperベクターの2種類ずつのプラスミドを導入した場合の結果を示す。また,(5)pHelperベクターとpAAV-CMV-GFPベクターとpR2(mod)C9ベクターの3種類のプラスミドを導入した場合の結果を示す。また,(4)はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを導入した場合の結果を示す。
【0165】
これらの結果は,統合rAAVプラスミド,すなわちpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクター又はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターを用いて宿主細胞への導入を行うことにより,より感染能の高いrAAV6ビリオン又はrAAV9ビリオンをそれぞれ製造できることを示す。
【0166】
〔実施例29〕pAAV-CBA(BAM)-I2Sベクターの構築
実施例28までのpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクター又はpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターの2種類のベクターについての実験結果から,統合rAAVプラスミドを用いることにより感染能の高いrAAV6ビリオン又はrAAV9ビリオンを製造できることがわかった。この統合rAAVプラスミドの感染能の高さは,rAAVビリオンの総カプシド中における存在比率が高いことに起因するものと考えられる。そこで結果を更に検証するために,異なる構造を有する統合rAAVプラスミドを構築して,rAAVビリオンの総カプシド中における存在比率を以下の実験により確認した。
【0167】
5’側より,ヒトCMVエンハンサー,ニワトリβアクチンプロモーター,ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン,ヒトI2S遺伝子,及びウシ成長ホルモンpolyA配列を含む配列番号35で示される塩基配列を含むDNA断片を合成した。このDNA断片を鋳型としてプライマー7(配列番号48)とプライマー8(配列番号49)を用いて,PCR反応を行った。実施例2で構築したpAAV-CMV-GFP(mod)ベクターを制限酵素(HindIII / BglII)で消化し,これに上記PCR反応で得られたDNA断片を混合し,両者をin fusion HD cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて融合させた。得られたプラスミドをpAAV-CBA(BAM)-I2Sベクターとした(
図19)。ここで,ヒトI2S遺伝子は配列番号36で示されるアミノ酸配列を含むヒトIDSをコードする(実施例30に同じ)。また,ヒトCMVエンハンサーは配列番号37で示される塩基配列,ニワトリβアクチンプロモーターは配列番号38で示される塩基配列,ニワトリβアクチン/MVMキメライントロンは配列番号39で示される塩基配列,及びウシ成長ホルモンpolyA配列は配列番号40で示される塩基配列を含む。
【0168】
〔実施例30〕pHelper-ITR/CBA(BAM)/I2S-R2(mod)C9ベクターの構築
5’側より,ITR,ヒトCMVエンハンサー,ニワトリβアクチンプロモーター,ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン,ウシ成長ホルモンポリA配列,及びITRを含む配列番号50で示される塩基配列を有するDNA断片を合成した。このDNA断片をBsiWIとBstZ17Iで消化し,実施例1で構築したpHelper(mod)のBsiWIサイトとBstZ17Iサイトの間に挿入した。得られたプラスミドをpHelper-ITR/CBA(BAM)ベクターとした。
【0169】
pHelper-ITR/CBA(BAM)ベクターをRsrIIで消化し,これに実施例4で構築したpR2(mod)C9をRsrIIで消化して得たAAV9 Cap領域を含むDNA断片を挿入した。得られたプラスミドをpHelper-ITR/CBA(BAM)/-R2(mod)C9ベクターとした。
【0170】
ヒトIDS遺伝子を含む配列番号51で示される塩基配列を有するDNA断片を合成した。このDNA断片をPacIとNotIで消化し,PacIとNotIで消化したpHelper-ITR/CBA(BAM)/-R2(mod)C9ベクターに挿入した。得られたプラスミドをpHelper-ITR/CBA(BAM)/I2S-R2(mod)C9ベクターとした(
図20)。
【0171】
〔実施例31〕3種類のプラスミドの一過性発現によるrAAVビリオンの産生(2)
HEK293T細胞を,2.5×106個/フラスコの濃度でT-25フラスコに播種し,10% FBS含有MEM培地(シグマ社)で37℃,5% CO2存在下で16時間培養した。トランスフェクション用のDNAとして,pHelperベクター(タカラバイオ社),pAAV-CBA(BAM)-I2Sベクター,及びpR2(mod)C9ベクターを含む溶液を作製した。この溶液は,3種類のプラスミドが等モル濃度で含まれる,DNA濃度が2.9~3.9 μg/mLである溶液となるように調製した。この溶液に,ポリエチレンイミンを,濃度比がDNA(μg):ポリエチレンイミン(μg)=1:3となるように添加し,更にMEM培地を加えて液量を5 mLに調整したものをトランスフェクション用溶液とした。T-25フラスコに播種した細胞の培養上清を全て除去した後,5 mLのトランスフェクション用溶液を全量添加し,37℃,5% CO2存在下で5日間培養して,rAAVビリオンを産生させた。宿主細胞中で産生されたrAAVビリオンは,一部が培養上清中に放出され,一部が宿主細胞内に留まる。実施例32においても同様である。
【0172】
〔実施例32〕統合プラスミドの一過性発現によるrAAVビリオンの産生(2)
HEK293T細胞を,2.5×106 個/フラスコの濃度でT-25フラスコに播種し,10% FBS含有MEM培地(シグマ社)で37℃,5% CO2存在下で16時間培養した。トランスフェクション用のDNAとして,pHelper-ITR/CBA(BAM)/I2S-R2(mod)C9ベクターが2.9~3.9 μg/mL含まれる溶液を調製した。この溶液に,ポリエチレンイミンを,濃度比がDNA(μg):ポリエチレンイミン(μL)=1:3となるように添加し,更にMEM培地を加えて液量を5 mLに調整したものをトランスフェクション用溶液とした。T-25フラスコに播種した細胞の培養上清を全て除去した後,5 mLのトランスフェクション用溶液を全量添加し,37℃,5% CO2存在下で5日間培養して,rAAVビリオンを産生させた。
【0173】
〔実施例33〕培養上清の回収
実施例31及び32の培養終了後,細胞培養液を15 mL遠心チューブに移し,4℃,5800×gで5分間遠心して,培養上清を回収した。
【0174】
〔実施例34〕培養上清からのrAAVビリオン溶液の調製
実施例33で回収した培養上清に,エンドヌクレアーゼであるベンゾナーゼTM(Merck名)を濃度が14 U/mLとなるように添加して混合し,37℃で2時間インキュベートした。AAV9に対し特異的な親和性を有する樹脂が充填されたカラムであるPOROSTM CaptureSelectTM AAV9 Affinity Resin(Thermo Fisher Scientific社)0.15 mLを結合バッファー(20mM Tris-HCl,150mM NaCl及び4 mM MgCl2含有,pH 7.5)で平衡化させ,これにエンドヌクレアーゼ処理した培養上清を負荷した。カラムを結合バッファーで洗浄した後,0.5 mL溶出バッファー(0.1 Mクエン酸含有,pH 2.06)を通じてrAAVビリオンを含む溶液を溶出させた。得られた溶出液を150 mM NaCl及び0.001% F68を含有するPBSで予め平衡化したPD MiniTrapTM G-25(GE Healthcare社)に通じrAAVビリオンをカラムに結合させた。次いで,150 mM NaCl及び0.001% F68を含有する1 mL PBSによりrAAVビリオンを溶出させた。これをビバスピンTM ターボ 15(100K MWCO,PES,Sartorius社)を用いて4℃,2000×gで3分間遠心して濃縮した。得られた溶液をrAAVビリオン溶液とした。
【0175】
〔実施例35〕rAAVビリオン溶液中に含まれるrAAVゲノム量と総カプシド量の測定
実施例34で得られたrAAVビリオン溶液中のウイルスゲノム含有量をAAVpro Titration Kit for Real Time PCR Ver.2 (タカラバイオ社)を用い,キットに添付のプロトコールに準じて,概ね下記の方法でリアルタイムPCR測定した。実施例34で調製した2 μLのrAAVビリオン溶液に,2 μLの10×DNaseI Buffer,1 μLのDNaseI,及び15 μLの純水を添加して混合し,37℃で30分間インキュベートした。95℃で10分間熱処理してDNaseIを失活させ,次いで20 μLのLysis Bufferを添加して70℃で10分間熱処理を行った。熱処理後の溶液をEASY Dilution(タカラバイオ社)で50倍希釈したものをリアルタイムPCR用サンプル溶液とした。リアルタイムPCR用サンプル溶液と,2×102~2×107 ゲノムコピー数/μLの濃度にEASY Dilution(タカラバイオ社)で希釈した検量線用Kit control溶液のそれぞれ5 μLに,12.5 μLのTB Green Premix Ex TaqII,0.6 μLの10 μM 順方向プライマー (プライマー1,配列番号33),0.6 μLの10 μM 逆方向プライマー(プライマー2,配列番号34),0.08 μLのROX Reference Dye II,及び6.5 μLの水を加えた。リアルタイムPCR反応は変性条件(95℃,2分)の後35サイクルの2ステップPCR(95℃,5秒→60℃,30秒)を行った。得られた検量線に,検体の測定値を内挿し,検体に含まれるrAAVゲノム量(個数)を求めた。このPCRにおいて複製される領域は,ITRの内部領域である。
【0176】
また,上記リアルタイムPCR法に加えて,補助的に,rAAVビリオン溶液中のウイルスゲノム含有量を,ドロップレットデジタルPCR法によっても測定した。rAAVビリオン溶液2 μLに1 μLのDNaseI(タカラバイオ社),2 μLの10× DNaseI Buffer(タカラバイオ社),及び15 μLの0.05% F-68含有水を加え,37℃で30分間インキュベートし,rAAVビリオン外のDNAを消化した。
【0177】
DNaseI処理を行ったrAAVビリオン溶液を0.05% F-68含有TEバッファーを用いて適宜希釈し,ドロップレットデジタルPCR用サンプル溶液を調製した。1.0 μM 順方向プライマー(プライマー3,配列番号41),1.0 μM 逆方向プライマー(プライマー4,配列番号42),及び0.25 μM プローブ(プローブ1,配列番号43の5’末端にレポーター色素としてFAMを,3’末端にクエンチャー色素としてBHQ1を,それぞれ修飾したもの)を含むFAM標識20×プライマー/プローブミックスを調製した。また,1.0 μM 順方向プライマー(プライマー5,配列番号44),1.0 μM 逆方向プライマー(プライマー6,配列番号45),及び0.25 μMプローブ(プローブ2,配列番号46の5’末端にレポーター色素としてHEXを,3’末端にクエンチャー色素としてBHQ1を,それぞれ修飾したもの)を含むHEX標識20×プライマー/プローブミックスを調製した。
【0178】
ドロップレットデジタルPCR用サンプル溶液1 μLに,10 μLのddPCR Supermix for probes (no dUTP) (BioRad社),1 μLのFAM標識20×プライマー/プローブミックス,1 μLのHEX標識20×プライマー/プローブミックス,2 μLの5M ベタイン溶液(Sigma社),及び5 μLの0.05% F-68含有水を加え,PCR反応液を調製した。Droplet generator(BioRad社)を用いて,PCR反応液20 μLとDroplet Generator オイル for Probes(BioRad社)70 μLの懸濁液(ドロップレット)を調製した。このドロップレットを用いてPCR反応を行った。PCR反応は変性条件(95℃,10分)の後40サイクルの3ステップPCR(95℃,30秒→60℃,1分→72℃,15秒)を行い,次いでPCR酵素の不活化処理(98℃,10分)を行った。ドロップレットの解析はQX200 Droplet Digital PCRシステム(BioRad社)を用い,FAM/HEXダブルポジティブドロップレットをもとに,rAAVゲノム量(個数)を求めた。このPCRにおいて複製される領域は,ウシ成長ホルモンpolyA,及びITRの内部領域である。
【0179】
培養上清中の総カプシド量はAAV Titration ELISA Kit(PROGEN社)を用い,キットに添付のプロトコールに準じて,概ね下記の方法で測定した。マウス抗AAV9モノクローナル抗体が固定化されたプレートに1×Assay Bufferで希釈した実施例34で調製したrAAVビリオン溶液を100 μLずつ添加し,37℃で1時間静置した。1.0×107~1.3×109 カプシド数/mLの濃度に1×Assay Bufferで希釈した既知量のAAV9空カプシドを標準溶液として検体サンプルと同様にプレートに加えて静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,ビオチン標識されたマウス抗AAV9抗体を加え,37℃で1時間静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,HRP標識ストレプトアビジンを加え,37℃で1時間静置した。プレートを1×Assay Bufferで3回洗浄後,HRP基質を加え,室温で15分間静置した後,硫酸を加えて反応を停止した。標準溶液の吸光度の測定値から得られた検量線に,検体の測定値を内挿し,検体に含まれる総カプシド量(個数)を求めた。
【0180】
〔実施例36〕結果(rAAVビリオン溶液中に含まれるrAAVゲノム量と総カプシド量の測定)
実施例34で調製したrAAVビリオン溶液中に含まれるrAAVゲノム量の測定結果を表1に示す。
【0181】
【0182】
理論上,空カプシドが存在せず,全てのカプシドがrAAVゲノムを含むrAAVビリオンである場合,rAAVゲノム量と総カプシド量の存在比率は1:1となる。rAAVゲノムが全てカプシドにパッケージングされてビリオンを形成したものとみなして,rAAVゲノム量(vg)をrAAVビリオンの量(個数)とした。(rAAVビリオンの量(個数)/総カプシド量(個数))X100(%)を,rAAVビリオンの総カプシド中における存在比率として,リアルタイムPCR法で求められたrAAVゲノム量を用いて存在比率を算出すると,3種類のプラスミドを用いた場合は12.7%であることころ,統合rAAVプラスミドを用いた場合は62.2%であった。すなわちpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C6ベクター及びpHelper-ITR/CMV/GFP-R2(mod)C9ベクターと同様に,pHelper-ITR/CBA(BAM)/I2S-R2(mod)C9ベクターの場合も,統合rAAVプラスミドを用いることによりrAAVビリオンの総カプシド中における存在比率を高めることができることが検証された。また,rAAVビリオンの量(vg)をrAAVビリオンの量(個数)とすると,統合rAAVプラスミドを用いることにより,3種類のプラスミドを用いる場合と比較して,8倍以上のrAAVビリオンが得られることなるので,統合rAAVプラスミドをrAAVビリオンの製造に用いることによりrAAVビリオンの生産量効率を大幅に上昇されることができる。補助的に行ったドロップレットデジタルPCR法によるrAAVゲノム量の定量結果からも同様の結論が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明の一実施形態によれば,遺伝子治療等に使用できる,外来の蛋白質をコードする塩基配列を含む核酸配列がパッケージされたrAAVビリオンを効率よく生産することができるので,かかるrAAVビリオンを医療機関に安定的に供給することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0184】
配列番号1:血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列,野生型
配列番号2:血清型2のAAVのRep68のアミノ酸配列,野生型
配列番号3:血清型2のAAVのRep78のアミノ酸配列,野生型
配列番号4:血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列の好ましい一例,合成配列
配列番号5:血清型6のAAVのVP1をコードする塩基配列,野生型
配列番号6:血清型6のAAVのVP1のアミノ酸配列,野生型
配列番号7:血清型9のAAVのVP1をコードする塩基配列,野生型
配列番号8:血清型9のAAVのVP1のアミノ酸配列,野生型
配列番号9:血清型2のAAVの第一の逆方向末端反復(第一のITR)の塩基配列,野生型
配列番号10:血清型2のAAVの第一の逆方向末端反復(第二のITR)の塩基配列,野生型
配列番号11:第一の逆方向末端反復(第一のITR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号12:第二の逆方向末端反復(第二のITR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号15:E4領域の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号17:ヘルパー領域の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号19:第1の遺伝子発現制御部に含まれる塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号20:Rep領域の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号21:Cap領域の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号22:Rep-Cap領域の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号23:Rep-Cap領域の塩基配列の好適な一例(2),合成配列
配列番号24:組換えAAVビリオンを作製するために使用される核酸分子の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号25:合成ヒトβグロビンイントロンの塩基配列,合成配列
配列番号26:合成ポリアデニレーションシグナル配列の塩基配列,合成配列
配列番号27:SalIサイト,RsrIIサイト,ColE1 ori,アンピシリン耐性遺伝子,BsiWIサイト,BstZ17Iサイト,及びBsrGIサイトを含む塩基配列,合成配列
配列番号28:EcoRIサイト,MluIサイト,GFP遺伝子,NotIサイト,及びBamHIサイトを含む塩基配列,合成配列
配列番号29:マルチクローニングサイト1の塩基配列,合成配列
配列番号30:マルチクローニングサイト2の塩基配列,合成配列
配列番号31:AfeIサイト,RsrIIサイト,BsrGIサイト,AvrIIサイト,アンピシリン耐性遺伝子,ColE1 ori,RsrIIサイト,血清型2の Rep領域の5’部分(p5プロモーターを含む),及びSacIIサイトを含む塩基配列,合成配列
配列番号32:HindIIIサイト,血清型2のAAVのRep領域の3’部分,血清型9のCap領域,p5プロモーター,RsrIIサイト,及びBsrGIサイトを含む塩基配列,合成配列
配列番号33:順方向プライマー,プライマー1の塩基配列,合成配列
配列番号34:逆方向プライマー,プライマー2の塩基配列,合成配列
配列番号35:ヒトCMVエンハンサー,ニワトリβアクチンプロモーター,ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン,ヒトI2S遺伝子,及びウシ成長ホルモンpolyA配列を含む塩基配列,合成配列
配列番号36:ヒトIDSのアミノ酸配列
配列番号37:ヒトCMVエンハンサーの塩基配列
配列番号38:ニワトリβアクチンプロモーターの塩基配列
配列番号39:ニワトリβアクチン/MVMキメライントロンの塩基配列,合成配列
配列番号40:ウシ成長ホルモンpolyA配列の塩基配列
配列番号41:プライマー3の塩基配列,合成配列
配列番号42:プライマー4の塩基配列,合成配列
配列番号43:プローブ1の塩基配列,合成配列
配列番号44:プライマー5の塩基配列,合成配列
配列番号45:プライマー6の塩基配列,合成配列
配列番号46:プローブ2の塩基配列,合成配列
配列番号47:ヒトCMVエンハンサー及びニワトリβアクチンプロモーターを含む塩基配列,合成配列
配列番号48:プライマー7の塩基配列,合成配列
配列番号49:プライマー8の塩基配列,合成配列
配列番号50:ヒトCMVエンハンサー,ニワトリβアクチンプロモーター,ニワトリβアクチン/MVMキメライントロン,及びウシ成長ホルモンポリA配列を含む塩基配列,合成配列
配列番号51:ヒトIDS遺伝子を含む塩基配列,合成配列
【配列表】