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特許7651810布地を染色する方法及びそこで使用される酵素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】布地を染色する方法及びそこで使用される酵素
(51)【国際特許分類】
   D06P 3/60 20060101AFI20250319BHJP
   D06P 1/22 20060101ALI20250319BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250319BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20250319BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
D06P3/60 B
D06P1/22
C07K19/00
C12N9/02
C12N9/88
【請求項の数】 21
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021004008
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2021113386
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】20151830.5
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】ファティー コヌコウルー
(72)【発明者】
【氏名】ハリル イブラヒーム アクバス
(72)【発明者】
【氏名】エスレフ トゥンサー
(72)【発明者】
【氏名】マフムト オズデミル
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/153791(WO,A1)
【文献】米国特許第06015783(US,A)
【文献】特表昭59-501972(JP,A)
【文献】国際公開第97/040127(WO,A1)
【文献】国際公開第97/040229(WO,A1)
【文献】特表2002-507410(JP,A)
【文献】RIOZ-MARTINEZ, A. et al.,Exploring the biocatalytic scope of a bacterial flavin-containing monooxygenase,Organic & Biomolucular Chemistry,2011年,(2011), vol.9, 5,1337-1341
【文献】COURTADE, G. et al.,Chemical shift assignments for the apo-form of the catalytic domain, the linker region, and the carbohydrate-binding domain of the cellulose-active polysaccharide monooxygenase ScLPMO10C,Biomolecular NMR Assignments,(2017), vol.11, no,2,pp.257-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00- 7/00
C09B 1/00-69/10
C07K 1/00-19/00
D06M13/00-15/715
C12N 9/00- 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース物質を含む布地を染色する方法であって、該方法は、次の工程:
a)前記布地の少なくとも一部に、インドール又はインドール誘導体を提供する工程;
b)前記布地の少なくとも一部に、少なくとも1の酸化酵素を提供し、これにより、前記布地の少なくとも一部は、前記インドール又はインドール誘導体及び前記酸化酵素を含む工程;
c)前記インドール又はインドール誘導体の少なくとも一部を、インジゴ又はインジゴ誘導体に転化して、これにより、前記布地の少なくとも一部を染色する工程を含んでなり、
ここで、前記酸化酵素は、セルロース結合ドメイン‐フラビン含有モノオキシゲナーゼ酸化ハイブリッド酵素(CBD‐FMO)である方法。
【請求項2】
布地にインドール又はインドール誘導体を提供し、ついで、酸化ハイブリッド酵素を提供する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化ハイブリッド酵素を、噴霧又は注加によって、布地に提供する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも工程b)及び/又は工程c)を、不活性又は実質的に不活性の雰囲気中で行う請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
さらに、3未満又は8より大のpH及び/又は4℃未満又は50℃より大の温度で、布地を洗浄することによって、少なくとも酸化ハイブリッド酵素を布地から除去する工程d)を含んでなる請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
セルロース物質が、綿、ラミー、ジュート、亜麻、ビスコース、レーヨン、モダール、リヨセル、竹、微生物セルロース、及び微生物その混合物から選ばれるものである請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
布地が、ヤーン、ロープ、生地、及び衣服からなる群から選ばれるものである請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
インドール又はインドール誘導体の少なくとも一部及び/又はインジゴ又はインジゴ誘導体の少なくとも一部が、布地の繊維の間に位置する請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
酸化ハイブリッド酵素が、CBD‐mFMOである請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程a)が、トリプトファン又はトリプトファン誘導体、及び少なくとも1のトリプトファナーゼを、布地に提供し、前記トリプトファン又はトリプトファン誘導体を転化して、インドール又はインドール誘導体を得る工程を含んでなる請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酸化ハイブリッド酵素の少なくとも一部を、トリプトファナーゼとともに布地に提供する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
インドール又はインドール誘導体及び/又はトリプトファン又はトリプトファン誘導体を、浸漬、噴霧、ロープ染色、スラッシャー染色、ループ染色、又は連続繊維染色によって布地に提供する請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
トリプトファナーゼが、セルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなるトリプトファナーゼハイブリッド酵素である請求項1012のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記布地はコラーゲンをさらに含み、前記酸化酵素は、コラーゲン結合ドメインを含む、CBD‐FMO酸化ハイブリッド酵素および/またはフラビン含有モノオキシゲナーゼ酸化ハイブリッド酵素である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記布地はキチンおよび/またはキトサンをさらに含み、前記酸化酵素は、キチン結合ドメインまたはキトサン結合ドメインを含む、CBD‐FMO酸化ハイブリッド酵素および/またはフラビン含有モノオキシゲナーゼ酸化ハイブリッド酵素である請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記布地は、合成物質をさらに含み、前記酸化酵素は、合成物質結合ドメインを含む、CBD‐FMO酸化ハイブリッド酵素および/またはフラビン含有モノオキシゲナーゼ酸化ハイブリッド酵素である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記布地は、ポリエステルをさらに含み、前記酸化酵素は、ポリエステル結合ドメインを含む、CBD‐FMO酸化ハイブリッド酵素および/またはフラビン含有モノオキシゲナーゼ酸化ハイブリッド酵素である請求項1に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれかに記載の布地を染色する方法において、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO、及びセルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成物質結合ドメインを含んでなる酸化ハイブリッド酵素の使用
【請求項19】
さらに、コファクター再生酵素を含んでなる請求項18に記載の酸化ハイブリッド酵素の使用
【請求項20】
さらに、ホスファイトデヒドロゲナーゼ(PTDH)を含んでなる請求項18に記載の酸化ハイブリッド酵素の使用
【請求項21】
請求項1~17のいずれかに記載の布地を染色する方法において、トリプトファナーゼ、及びセルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成物質結合ドメインを含んでなるトリプトファナーゼハイブリッド酵素の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布地を染色する、特に、酵素を使用して布地を染色する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
建て染め染料は、水に溶解されるためには還元剤を必要とする不溶性の染料である。慣例的に、建て染め染料を使用する染色は、溶解性、還元形の染料を布地に適用することを含んでなり、続いて、染料を酸化して、不溶形に戻し、布地に色を付与することを含んでなる。
【0003】
インジゴは、式(I)
の建て染め染料である。
【0004】
基、例えば、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アミノ、アリール、アリールオキシ、及びカルボニルによるインジゴの芳香環における置換は、青以外の広範囲の色を呈し及びいわゆるインジゴ誘導体の一部である化合物を提供する。
【0005】
インジゴ及びインジゴ誘導体の大部分は、合成を介して生成される。Heumann合成及びPfleger合成は、工業的規模でのインジゴ製造に使用される第1の合成ルートであり、これらの方法の変法は、今日においても使用されている。同じ合成ルートが、インジゴ誘導体を製造するためにも使用される。
【0006】
他の建て染め染料とともに、インジゴ及びその誘導体の合成は、酵素によって、又は細菌発現酵素によっても実施される。
【0007】
インジゴの前駆体は、水溶液に溶解性であるが、インジゴは溶解性ではなく、水溶液中での合成の後に沈殿する。それ故、上述のように、インジゴ及びその誘導体は、布地に適用されるためには、普通、そのロイコ形、すなわち、ロイコインジゴ(インジゴの還元された、水溶性の形である)に還元されなければならない。
【0008】
それ故、インジゴ又はその誘導体を染料として使用する、又は一般に建て染め染料を使用する工業的染色方法は、懸濁したインジゴ又はその誘導体を含んでなる水溶液を還元剤で処理して、ロイコインジゴ(又はこのようなその誘導体のロイコ形)を含んでなる水溶液を得ることを含んでなる。ついで、ロイコインジゴを含んでなる水溶液を、布地に適用する。布地上でのロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ形の酸化によって、インジゴ又はその誘導体が得られ、このようにして、布地を染色する。このような酸化は、例えば、空気中の酸素により、例えば、ロイコインジゴが付与された布地を空気に曝すことによって行われる。通常、インジゴ染色法は、所望の色合いを達成するためには、数回の浸漬及び酸化工程が必要である。
【0009】
例えば、インジゴのロイコインジゴへの還元は、染色される布地が、セルロース物質、例えば、セルロース繊維又は糸を含む場合に特に有用である。実際、インジゴの水溶性のロイコ形への還元は、布地に、ロイコインジゴを含む溶液を提供する(例えば、溶液を含浸させる)ことができ;続いて、ロイコインジゴのインジゴへの酸化が布地上で生ずる。
【0010】
不溶性の建て染め染料、例えば、インジゴ又はその誘導体を、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ形に還元するために使用される還元剤は、過酷な化学物質、すなわち、使用者及び/又は環境に対して有害な化学物質、例えば、水酸化ナトリウム及びヒドロ亜硫酸ナトリウムである。加えて、インジゴ又はその誘導体が染料として使用される一般的な染色法では、多量の還元剤及び水酸化物が使用され、これにより、多量の廃水が発生し、廃水は、廃棄前に処理されなければならない。この工程は、染色法のコストを増大させる。
【0011】
公知のインジゴ染色法の更なる課題は、布地、殊にセルロースは、アルカリ性処理溶液及びその中に存在する化学物質への長期間の露出によってダメージを受けることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、水及び過酷な化学物質、例えば、還元剤の使用量を、染色効率をロスすることなく低減でき、その結果として、必要であれば、建て染め染色及び廃水処理の総コストを低減できる、建て染め染料、特に、インジゴ又はその誘導体によって布地を染色する改善された方法に関する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決し、過酷な化学物質、例えば、還元剤の使用の低減を可能にし、同時に効果的な染色を提供する布地の染色法を提供することにある。
【0014】
本発明の目的は、安全で、費用効率が高く、環境にやさしい布地の染色法を提供することにもある。
【0015】
本発明の他の目的は、一般的な染色法に対して、より持続可能である布地の染色法を提供することにある。
【0016】
これらの及び他の目的は、請求項1による方法、すなわち、インジゴ及び/又はその誘導体の合成に修飾酵素が関与する布地の染色法を提供する本発明を介して達成される。
【0017】
本発明は、請求項15、16、及び17による布地の染色法、請求項18による染色された布地、及び請求項19及び21による修飾酵素にも係る。
【0018】
本発明の好適な具体例は、従属項2~14及び20の目的である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、布地、特に、セルロース物質を含む布地を染色する方法に係り、該方法は、次の工程:
a)布地の少なくとも一部に、インドール又はインドール誘導体を提供する工程;
b)布地の少なくとも一部に、少なくとも1の酸化酵素を提供し、これにより、布地の少なくとも一部は、インドール又はインドール誘導体及び酸化酵素を含む工程;
c)インドール又はインドール誘導体の少なくとも一部を、インジゴ又はインジゴ誘導体に転化して、これにより、布地の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、ここで、酸化酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなる(酸化)ハイブリッド酵素である。
【0020】
具体例によれば、インドールを、インドール前駆体として、布地に適用する。すなわち、工程a)は、前記布地に、トリプトファン又はトリプトファン誘導体及び少なくとも1のトリプトファナーゼを提供し、及び少なくともトリプトファナーゼの存在下、前記トリプトファン又はトリプトファン誘導体を転化して、前記インドール又はインドール誘導体を得る工程を含んでなる。
【0021】
本発明の方法を介して、過酷な化学物質の使用を回避して又は実質的に回避して、布地を染色することができ、同時に、布地の効果的な染色が得られる。
【0022】
さらに、本発明の方法を介して、布地上において、制御された態様で、インドール染料、例えば、インジゴを提供できる。
【0023】
特に、セルロース結合ドメインを含んでなる酸化酵素、すなわち、酸化ハイブリッド酵素を使用する際、布地の効果的な染色が得られる。特別な科学的説明に結び付けられるものではないが、一般的に、CBDを含むように修飾された酸化酵素は、修飾されていない酵素と比べて、セルロース生地又は布地を結合する親和性が増大されている。修飾酵素を使用する場合、インドール(又はインドール誘導体)のインドキシル(又はインドキシル誘導体)への転化、及び続くインドキシル(又はインドキシル誘導体)のインジゴ(又はインジゴ誘導体)への転化が布地上において生じ、これにより、布地を効果的に染色する。
【0024】
本発明によるCBDを含む修飾酸化酵素の使用は、修飾されていない酵素の使用と比べて、布地に、特に、布地材料の表面において、増大された量の染料を提供することができる(このようにして、リング-染色効果が得られる)。
【0025】
1態様によれば、本発明の方法は、染色された布地の製造を可能にする。本発明の方法を介して得られる染色された布地は、各種の色を有することができる。実際、有利には、本発明の方法において、試薬(例えば、インドール又はその誘導体)を変えることによって、異なった染料が得られ、その結果、異なった最終の色が布地に付与される。
【0026】
また、廃水処理を含む本発明の方法における使用に適する試薬は高価ではなく、その結果、本発明の方法は、現在使用可能な染色法と比べて、特に、費用効率が高い。
【0027】
以下の記載において、「布地」及び「セルロース布地」は、セルロース物質及び/又は糸を含む各種の糸、ヤーン、ロープ、生地、及び衣服を意味する。
【0028】
ここで使用するように、用語「セルロース物質」及び「セルロース系材料」は、各種のセルロース含有材料をいう。好適なセルロース含有材料は、例えば、フィラメント又は繊維の形状の、例えば、綿、ラミー、ジュート、亜麻(リネン)、ビスコース、レーヨン、モダール、リヨセル(テンセル(商標名))、竹、及びその混合物である。好適なセルロース物質は、微生物からも得られ、例えば、セルロース系バイオポリマーを生成する微生物を培養することによって得られる。好適なセルロース系材料は、微生物セルロースである。具体例によれば、布地は、1以上のセルロース系材料を含むことができる。
【0029】
具体例によれば、セルロース系材料に加えて、布地は、天然系の他の材料(例えば、繊維)、例えば、絹、ウール、キチン、キトサン、及びその混合物を含んでなることができる。
【0030】
具体例によれば、布地は、合成系の材料(例えば、繊維)、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、スパンデックス(エラスタン)、アクリル系、モダクリル、アセテート、ポリオレフィン、ビニル、及びその混合物を含んでなることができる。
【0031】
上述のように、具体例によれば、布地は、繊維、ヤーン、ロープ、生地、衣服からなる群から選ばれる1以上の布地である。
【0032】
好適なヤーンは、各種の公知の方法によって製造され、好適な生地も、各種の公知の方法、例えば、織り、編み、クローシェ編み、糸結び、及びフェルティングによって製造される。生地は、非織布でもよい。さらに、前記衣服は、各種の衣類、例えば、ジーンズ、シャツ、カジュアル衣料等であり、好適な衣服は、デニム生地を含んでいてもよい。
【0033】
具体例によれば、布地は、ヤーン又は生地である。具体例によれば、布地は、生地、好ましくは、織布であり、さらに好ましくは、デニム生地である。
【0034】
上述のように、本発明の方法は、前記布地の少なくとも一部に、インドール又はインドール誘導体を提供する工程a)を含んでなる。
【0035】
本発明よれば、「インドール誘導体」、「インドキシル誘導体」、及び「インジゴ誘導体」は、それぞれ、1以上の置換基によって置換された、例えば、インドール又はインドキシルの4、5、6、及び7位から、及びインジゴの4、4’、5、5’、6、6’、7、及び7’位から選ばれる各種の位置の1以上の炭素において、1以上の基によって、及び/又はインドール、インドキシル、又はインジゴの窒素原子において、基によって置換されたインドール、インドキシル、及びインジゴをいう。1以上の炭素を置換する1以上の基は、例えば、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミン基、ニトロ基、及びカルボニル基であるが、これらに限定されない。窒素原子を置換する基は、アルキル基、アリール基、及びアシル基であるが、これらに限定されない。インドール誘導体は、例えば、4-クロロインドール、5-クロロインドール、6-クロロインドール、7-クロロインドール、5-ブロモインドール、6-ブロモインドール、5-ニトロインドール、5-ヒドロキシインドール、5-メチルインドール、5-メトキシインドール、6-メチルインドール、7-メチルインドール、5-アミノインドール、1-メチルインドール、インドール-6-カルボキシアルデヒドであり;及びインドキシル誘導体は、例えば、4-クロロインドキシル、5-クロロインドキシル、6-クロロインドキシル、7-クロロインドキシル、5-ブロモインドキシル、6-ブロモインドキシル、5-ニトロインドキシル、5-ヒドロキシインドキシル、5-メチルインドキシル、5-メトキシインドキシル、6-メチルインドキシル、7-メチルインドキシル、5-アミノインドキシル、1-メチルインドキシル、インドキシル-6-カルボキシアルデヒドである。本発明は、インドール誘導体が、酵素的触媒作用によって、反応し、対応するインドキシル誘導体に転化されるものであれば、他の各種のインドール及びインドキシル誘導体の使用も包含する。これらのインドキシル誘導体は、転化される(二量化される)際、対応するインジゴ誘導体を提供し、対応するインジゴ誘導体は、各々、異なった色を有する。
【0036】
本発明によれば、用語「インジゴ誘導体」は、非対称のインジゴ、すなわち、異なる2つのインドキシル誘導体、又はインドキシル又はインドキシル誘導体の二量化に由来するインジゴもいう。非対称のインジゴによる布地の染色は、本発明の方法に従って、2以上の異なるインドール誘導体、又はインドール及び1以上のインドール誘導体を含んでなる溶液が使用される際に達成される。ここで使用するように、用語「インジゴ誘導体」は、非対称のインジゴ、すなわち、異なる2つのインドキシル誘導体、又はインドキシル又はインドキシル誘導体の二量化に由来するインジゴもいう。非対称のインジゴによる布地の染色は、本発明の方法に従って、2以上の異なるインドール誘導体、又はインドール及び1以上のインドール誘導体を含んでなる溶液が使用される際に達成される。有利には、このような2つの異なるインドキシル誘導体、又はインドキシル及びインドキシル誘導体が使用される際、3つの異なるインジゴ誘導体(すなわち、2つの異なる対称のインジゴ誘導体及び1つの非対称のインジゴ誘導体が得られ、その結果、布地は、特に、布地上において、このような2つの異なるインドキシル誘導体、又はインドキシル及びインドキシル誘導体を、インジゴに転化させる(これにより、布地上において染料を提供する)ことによって、1以上の染料にて染色される。
【0037】
インドールは、当分野において、それ自体公知の方法、例えば、浸漬及び噴霧に従って布地に提供され、これにより、布地はインドールが供給される。例えば、インドールは、ロイコインジゴを布地に提供するに適する当分野において公知の技術、例えば、ロープ染色、スラッシャー染色、ループ染色、及び連続織物染色技術に従って、布地に適用される。この場合、本発明の方法の少なくとも工程a)は、ロイコインジゴの代わりに、インドールを使用して、当分野においてよく知られた技術に従って行われる。
【0038】
特別な科学的説明に結び付けられるものではないが、インドールが布地に提供される際、インドールは布地の繊維に吸着される。この場合、セルロース結合ドメイン(CBD)を含む酸化ハイブリッド酵素の使用により、リング染色効果を、布地上で効果的に、得ることが可能である。特別な科学的説明に結び付けられるものではないが、この効果は、酸化ハイブリッド酵素の存在のため、布地表面において生ずるインドールのインジゴへの効果的な転化に由来する。また、特に、負に帯電される染料前駆体(例えば、トリプトファン又はその誘導体)が使用される場合、このような染料前駆体の浸透の深さは、布地の繊維の間で異なり、その結果、異なった染色効果(例えば、リング染色効果)が得られる。
【0039】
1態様によれば、本発明の方法は、少なくとも酸化酵素を布地の少なくとも一部に提供し、これにより、前記布地の少なくとも一部は、前記インドール又はインドール誘導体及び前記酸化酵素を含む工程b)を含んでなり、ここで、酸化酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなる酸化ハイブリッド酵素である。
【0040】
ここで使用するように、用語「ハイブリッド酵素」は、セルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成材料又は繊維を結合するに適するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインを含むように遺伝子組み換えされた酵素をいう。酵素、例えば、酸化酵素は、染色される布地に含まれる材料を結合するに好適な、及び/又は修飾されていない酵素と比べて、布地における材料の結合親和性を増大させるに好適な結合ドメインを含むように修飾される。例えば、CBDを含むように遺伝子組み換えされた酵素は、修飾されていない酵素と比べて、セルロース物質を結合する親和性が増大されている。さらに、セルロース結合ドメイン(CBD)は、キチン又はキトサンにも結合できることが知られている。
【0041】
ここで使用するように、用語「酸化ハイブリッド酵素」は、セルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は染色されるヤーンに存在する合成材料又は繊維を結合するに適するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインを含むように遺伝子組み換えされた酸化酵素をいう。
【0042】
ここで使用するように、「酸化酵素」は、その基質の酸化を触媒できる酵素、例えば、オキシドリダクターゼ(EC 1)である。好適なオキシドリダクターゼは、モノオキシゲナーゼ(EC 1.13)であり;好ましくは、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMOs)(EC 1.14.13.8)、及びさらに好ましくは、微生物フラビン含有モノオキシゲナーゼ(mFMO)である。或いは、モノオキシゲナーゼは、バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ(BVMO)である。モノオキシゲナーゼ、特に、FMOs及びmFMOsは、インドール誘導体を転化する好適な特異性とともに、多くの染料前駆体、例えば、インドール及び/又はその誘導体の良好な転化率及び結合性を提供し、このように、本発明の方法における使用に適する。バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ(BVMOs)は、FMOsと類似した相同性を有し、このように、本発明での使用には、なお好適である。本発明における使用に好適な酸化酵素は、メチロファーガ属(Methylophaga sp.)からの、さらに好ましくは、菌株SK1からのmFMOである。
【0043】
ここで使用するように、用語「酸化酵素」は、酵素の特性、例えば、酸化酵素の基質の酸化効力を改良するように、例えば、1以上のアミノ酸残基を変更することによって、遺伝子的に修飾された遺伝子組み換え酸化酵素も包含する。
【0044】
酸化ハイブリッド酵素は、それ自体、当分野において公知の方法に従って、布地に提供される。具体例によれば、酸化ハイブリッド酵素は、噴霧又は注入によって、好ましくは、噴霧によって、布地に提供される。
【0045】
上述のように、本発明の方法は、インドール又はインドール誘導体の少なくとも一部をインジゴ又はインジゴ誘導体に転化させる工程c)を含んでなる。
【0046】
特別な科学的説明に結び付けられるものではないが、本発明の方法における使用に適する酸化酵素は、インドール又はインドール誘導体のヒドロキシル化を触媒して、インドキシル及び/又はインドキシル誘導体を提供し、インドキシル及びインドキシル誘導体は、最終的に、二量化して、それぞれ、インジゴ及びインジゴ誘導体となると考えられる。
【0047】
本発明の1態様によれば、酸化酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなるハイブリッド酵素である。
【0048】
ここで使用するように、代表的なセルロース結合ドメイン(CBD)は、セルラーゼ内で発生し、セルロース及び/又は多糖又はオリゴ糖又はそれらのフラグメントに優先的に結合するものである。さらに、セルロース結合ドメイン(CBD)は、キチン及びキトサンにも結合できることが知られている。
【0049】
セルロース結合ドメイン及びこのようなドメインを含む(ハイブリッド)酵素は。それ自体、当分野において、例えば、国際公開第97/28256号及び国際公開第97/40229号から公知である。セルロース結合ドメインは、例えば、代表的に、基質の加水分解用の活性サイトを含有する触媒ドメイン及び問題のセルロース基質に結合するためのセルロース結合ドメインを含んでなる加水分解酵素(ヒドロラーゼ)において、ポリペプチド又は2以上のポリペプチドアミノ酸配列領域からなるタンパク質の不可欠な部分として生ずるポリペプチドアミノ酸配列である。このような酵素は、2以上の触媒ドメイン及び1、2又は3のセルロース結合ドメインを含んでなることができ、さらに、セルロース結合ドメインを触媒ドメインと結合する1以上のペプチドアミノ酸配列領域を含んでなることができ、後者のタイプの領域は、通常、「リンカー」と称される。セルロース結合ドメインを含んでなる酵素は、それ自体、当分野において公知である。セルロース結合ドメインを含んでなる加水分解酵素の例は、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、アセチルエステラーゼ、及びキチナーゼである。「セルロース結合ドメイン」は、藻類、例えば、紅藻類ポルフィラ・プルプレア(Porphyra purpurea)中に、非加水分解多糖結合タンパク質の形でも見出されている[P. Tommeら, 不溶性炭水化物の酵素分解におけるセルロース結合ドメイン-分類及び特性, John N. Saddler及びMichael H. Penner(編者), ACS Symposium Series, No. 618 (1996) 参照]。しかし、既知のCBDの多く(P. Tommeら(前掲書中)によって、「セルロース結合ドメイン」として分類及び呼ばれた)は、セルラーゼ及びキシラナーゼに由来する。P. Tommeら文献は、120以上の「セルロース結合ドメイン」を、基質結合に関連して異なった機能又は役割を有する10のファミリー(I~X)に分類している。CBDが発生するタンパク質/ポリペプチド(例えば、酵素、代表的には、セルラーゼのような加水分解酵素)では、CBDは、N又はC末端又は内部位置に配置される。CBD自体を構成するポリペプチド又はタンパク質(例えば、加水分解酵素)のその部分は、代表的には、約30個以上、約250個以下のアミノ酸残基からなる。例えば、P. Tommeら(前掲書中)によるファミリーIに収載及び分類されるCBDは、33~37個のアミノ酸残基からなり、ファミリーIIaに収載及び分類されるものは、95~108個のアミノ酸残基からなり、ファミリーVIに収載及び分類されるものは、85~92個のアミノ酸残基からなり、一方、ファミリーVIIに収載及び分類される1のCBD(クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)からのセルラーゼに由来する)は、240個のアミノ酸残基からなる。従って、CBD自体を構成するアミノ酸配列の分子量は、一般的には、約4~約40kDの範囲であり、通常、約35kD以下である。
【0050】
一般に、セルロース結合ドメインを含む修飾酵素(すなわち、ハイブリッド酵素)は、その調製及び精製の詳細な説明とともに、それ自体、当分野において公知である(例えば、Greenwoodら, Biotechnology and Bioengineering, 44 (1994), pp. 1295-1305とともに、国際公開第90/00609号、同第94/24158号、及び同第95/16782号参照)。それらは、例えば、リンカーとともに又はリンカーなしで、興味ある酵素(このケースでは、酸化酵素)をコード化するDNA配列に連結された、セルロース結合ドメインをコード化するDNAの少なくともフラグメントを含んでなるDNA構築物にて、宿主細胞を形質転換し、形質転換された宿主細胞を生育して、融合遺伝子を発現することによって調製される。
【0051】
具体例によれば、このようにして得られる遺伝子組み換え生成物(すなわち、酵素ハイブリッド)(当分野では、しばしば、融合タンパク質と呼ばれる)のタイプは、次の一般式:
A-CBD-MR-X-B;
A-X-MR-CBD-B
の1つで表される。
【0052】
上記式において、CBDは、少なくともセルロース結合ドメイン(CBD)自体を含んでなるアミノ酸配列である。
【0053】
MR(中央領域;リンカー)は、結合、又は1~約100個のアミノ酸残基、特に、2~40個のアミノ酸残基、例えば、2~15個のアミノ酸残基を含んでなる連結基である。或は、MRは、原則的に、非アミノ酸リンカーでもよい。
【0054】
Xは、酵素、例えば、上で定義したように、興味ある酵素をコード化するDNA配列によってコード化された酸化酵素の、少なくとも触媒的に(酵素的に)活性なアミノ酸残基配列を含んでなるアミノ酸配列である。
【0055】
モイエティーA及びBは、独立して、任意である。存在する場合、モイエティーA又はBは、CBD又はXモイエティーの末端伸長であり、標準的には、1個以上のアミノ酸残基を含んでなる。
【0056】
具体例によれば、本発明による遺伝子組み換え酵素におけるCBDは、酵素ハイブリッドにおいて、すなわち、遺伝子組み換え酵素において、C-末端、N-末端、又は内部に位置する。
【0057】
本発明において興味深いハイブリッド酵素としては、1個以上のCBDを含んでなる、例えば、2個以上のCBDが、直接、相互に連結されるか、又はスペーサー配列又はリンカー配列(代表的には、適切な長さのアミノ酸残基配列からなる)によって、相互に分離されているような酵素ハイブリッドが含まれる。当のタイプの酵素ハイブリッドにおける2個のCBDは、例えば、上で定義したように、-MR-X-モイエティーによって、相互に分離されていてもよい。
【0058】
具体例によれば、ハイブリッド酵素は、次の式:
CBD-MR-X
(ここで、CBDは、少なくともセルロース結合ドメインに相当するアミノ酸配列のN-末端又はC-末端領域であり;MRは、中央領域(リンカー)であり、及び、結合、又は約2~約100個の炭素原子、特に2~40個の炭素原子、又は代表的には、約2~約100個のアミノ酸、特に2~40個のアミノ酸の短い結合基であってもよく;及びXは、N-末端又はC-末端領域であり、酵素、例えば、酸化酵素(例えば、モノオキシゲナーゼ)で表される。
【0059】
セルロース結合ドメイン(CBD)を参照して行った上記の吟味は、必要な変更を加えて、コラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成物質に結合するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインについても同様である。
【0060】
コラーゲン結合ドメイン及びタンパク質含有コラーゲン結合ドメインは、それ自体、当分野において公知である。例えば、好適なコラーゲン結合ドメインは、クロストリジウム・ヒストリチクム(Clostridium histolyticum)に由来するものであり、Nishiら, 「コラーゲン結合成長因子:コラーゲン結合ドメインを有する機能性融合タンパク質の製造及び特徴付け」, Proc. Natl. Acad. Sci. USA;Vol. 95, pp. 7018-7023, 1998年6月に開示されている。本発明における使用に好適なコラーゲン結合ドメインは、EP2940041A1(例えば、段落[0024]参照)にも開示されている。例えば、本発明における好適なコラーゲン結合ドメインは、フィブロネクチン、コラゲナーゼ、インテグリンα1鎖、インテグリンα2鎖、インテグリンα10鎖、インテグリンα11鎖、血小板糖タンパク質VI、ジスコイジンドメインレセプター1、ジスコイジンレセプター2、マンノースレセプター、ホスホリパーゼA2レセプター、フォン・ヴィルブランド因子、白血球関連免疫グロブリン様レセプター1、及び白血球関連免疫グロブリン様レセプター2に由来するものである。
【0061】
キチン結合ドメイン及びタンパク質含有キチン結合ドメインは、それ自体、当分野において公知である。例えば、本発明における使用に好適なキチン結合ドメインは、EP2599790A1(例えば、段落[102]、表6及び7参照)に開示されている。例えば、本発明における使用に好適なキチン結合ドメインは、例えば、キチナーゼ、キトビアーゼ、及びキチン結合タンパク質に由来するものである。
【0062】
キトサン結合ドメイン及びタンパク質含有キトサン結合ドメインは、それ自体、当分野において公知である。例えば、本発明における使用に好適なキトサン結合ドメインは、EP2599790A1(例えば、段落[102]参照)及びChen, HP; Xu, LL, (2005), J. of Integrative Plant Biology 47(4): 452-456に開示されている。
【0063】
合成物質に結合するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインは、それ自体、当分野において公知である。具体例では、合成物質に結合するドメインは、アンカータンパク質の形である。本発明による使用に好適な合成物質に結合するドメインは、例えば、Islamら, 「希釈懸濁液のボイドにおける標的マイクロプラスティック粒子」, Environmental International 123 (2019) 428-435に開示されたものである。例えば、本発明における使用に好適な合成物質に結合するドメインは、アンカーペプチドLC1及び/又はアンカーペプチドTachystatin A2(TA2)である。
【0064】
セルロース結合ドメインを含む修飾酵素(すなわち、ハイブリッド酵素)を参照して上記したように、コラーゲン結合ドメイン、キチン結合ドメイン、キトサン結合ドメイン、及び合成物質に結合するドメインを含む修飾酵素(すなわち、ハイブリッド酵素)は、それ自体、当分野において公知の技術を介して、生成及び精製される。例えば、このようなハイブリッド酵素は、リンカーとともに又はシンカーなしで、興味ある酵素(このケースでは、酸化酵素)をコード化するDNA配列に連結された、選択された結合ドメインをコード化するDNAの少なくともフラグメントを含んでなるDNA構築物にて宿主細胞を形質転換し、形質転換された宿主細胞を生育して、融合遺伝子を発現することによって調製される。発現されたハイブリッド酵素の精製は、それ自体、当分野において公知の技術を介して行われる。
【0065】
具体例によれば、布地としては、セルロース物質に加えて、又はセルロース物質の代替物質として、コラーゲン、キチン及び/又はキトサン、及び合成物質、例えば、ポリエステルが含まれる。このケースでは、酸化ハイブリッド酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)に加えて、CBDの代替物として、コラーゲン結合ドメイン、キチン結合ドメイン、キトサン結合ドメイン、又はこのような合成物質に結合するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインを含むことができる。具体例によれば、トリプトファナーゼが使用される場合、トリプトファナーゼは、CBDに加えて、又はCBDの代替物として、コラーゲン結合ドメイン、キチン結合ドメイン、キトサン結合ドメイン、又はこのような合成物質に結合するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインを含むトリプトファナーゼハイブリッド酵素である。
【0066】
具体例によれば、本発明の方法において、布地にインドール又はインドール誘導体を提供し、すなわち、インドキシル(誘導体)を、染色効果を付与するに好適な量で、布地に適用する。ついで、インドールで処理した布地に、酸化ハイブリッド酵素を提供する。換言すれば、好適な具体例によれば、方法の工程a)を、工程b)の前に行う。従って、布地はインドールにて処理され、続いて、ハイブリッド酸化酵素にて処理される。このケースでは、インドールが布地の繊維の間を浸透することが観察された。CBDを含む酸化酵素が適用されると、インドールはインジゴに転化され、これにより、布地の特に効果的な染色、例えば、特に効果的なリング染色が得られる。
【0067】
上述のように、具体例によれば、インドールは、一般的方法、例えば、浸漬又は噴霧によって布地に適用され、続いて、酸化ハイブリッド酵素が、噴霧によって提供される。続いて、具体例によれば、布地を空気に曝す。
【0068】
具体例によれば、本発明の方法において布地に酸化ハイブリッド酵素を提供し、ついて、インドール又はインドール誘導体を提供する。換言すれば、具体例によれば、方法の工程b)を、工程a)の前に行う。例えば、酸化ハイブリッド酵素を、噴霧によって布地に提供し、ついで、布地を、インドールを含む浴、例えば、インドールを含む反応混合物に浸漬することができる。このケースでは、酸化ハイブリッド酵素が、そのセルロース結合ドメインを介して、セルロース物質に対する大きい親和性を有し、これによって、インドール(又はインドール誘導体)のインドキシル(又はインドキシル誘導体)への酵素的転化及び続くインドキシル(又はインドキシル誘導体)のインジゴ(又はインジゴ誘導体)への非酵素的転化が、布地上において起こり、その結果、得られた実質的に全てのインジゴが布地に提供されることが観察された。
【0069】
具体例によれば、本発明の方法は、インドールを提供する工程a)の間に及び/又は酵素を提供する工程b)の間に、布地の繊維を開繊する工程を含むことができる。布地の繊維は、それ自体、当分野において公知の技術に従って、例えば、1つの繊維と他との間のスペースを増大させることによって開繊される。この場合、インドール及び/又は酵素の浸透は、特に、効果的である。
【0070】
具体例によれば、前記インドール又はインドール誘導体及び/又は前記インジゴ及び/又はインジゴ誘導体の少なくとも一部は、前記布地の繊維間に配置される。
【0071】
インドール又はその誘導体のインドキシル又はインドキシル誘導体へのヒドロキシル化を触媒するためには、酸化酵素は、O2、すなわち、酸素を必要とする。必要なO2は、例えば、インドール水溶液内、及び/又は酸化酵素を含む水性混合物内に普通に溶解している酸素である。
【0072】
インドキシルのインジゴへの転化は、例えば、O2濃度が、インドキシル又はその誘導体を酸化するに適切な量である場合には、自然発生的に起こる。必要なO2は、大気中の酸素及び/又は、例えば、インドール溶液内、及び/又は酸化酵素を含む水性混合物内に普通に溶解している酸素である。
【0073】
具体例によれば、インドールの少なくとも一部をインジゴに転化する工程c)は、酸素(O2)の存在下、例えば、布地を酸素、例えば、空気に曝すことによって行われる。
【0074】
具体例によれば、少なくとも酵素を提供する工程b)及び/又はインドールをインジゴに転化する工程c)は、不活性な又は実質的に不活性な雰囲気中、例えば、インドキシルのインジゴへの転化を遅らせるために低減された量の酸素を含む雰囲気中で行われる。
【0075】
布地にインジゴ又はその誘導体を提供した後、布地を洗浄及び/又はリンスして、例えば、セルロース物質から、例えば、綿繊維から酸化ハイブリッド酵素を除去し、乾燥する。
【0076】
布地からの酵素の除去は、pH及び/又は温度を変更することによって行われる。実際、例えば、CBDを介してセルロース物質(例えば、綿)に固定化された酵素は、pHが約3~約8の範囲内にあり、及び/又は温度が約4~約50℃である場合には、数日間(例えば、7~10日)、セルロース物質上に残る。
【0077】
このように、pH及び/又は温度の変化、例えば、pH(例えば、生地の表面において)を8以上に上昇させる及び/又は温度を50℃以上に上昇させることは、セルロース物質からハイブリッド酵素を除去するために適用される。
【0078】
具体例によれば、方法は、さらに、好ましくは、約3未満、又は約8より大のpH及び/又は約4℃未満、又は約50℃より高い温度で、布地を洗浄及び/又はリンスすることによって、布地から酸化ハイブリッド酵素を除去する工程d)を含んでなる。
【0079】
好適な酸化酵素は、インドール又はインドキシル誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得ることができるオキシゲナーゼである。具体例によれば、酸化酵素は、オキシゲナーゼ、好ましくは、モノオキシゲナーゼであり、さらに好ましくは、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)である。
【0080】
具体例によれば、酸化ハイブリッド酵素は、好ましくは、CBD-FMO、さらに好ましくは、CBD-mFMOである。
【0081】
具体例によれば、セルロース物質を含む布地には、インドール又はインドール誘導体、少なくとも酸化ハイブリッド酵素、好適なコファクター、及び任意に1以上のコファクター再生酵素が提供される。
【0082】
具体例によれば、酵素を含む水性混合物は、機能性の溶質、例えば、塩、緩衝剤、酸素及び/又は過酸化物スカベンジャー(例えば、カタラーゼ)を含んでなることができる。カタラーゼは、可及的に形成されたH2O2をO2及びH2Oに転化するために提供される。
【0083】
具体例によれば、インドールは、インドール前駆体として、布地に提供される。すなわち、具体例によれば、本発明の方法の工程a)は、トリプトファン又はトリプトファン誘導体、及び少なくともトリプトファナーゼを布地に提供し、及び前記トリプトファン又はトリプトファン誘導体を転化して、インドール又はインドール誘導体を得る工程を含んでなる。トリプトファンが使用される場合、特に、布地がセルロース物質を含む際に、より良好なリング染色効果が得られる。特別な科学的説明に結び付けられるものではないが、この効果は、それらの特性に鑑み、トリプトファン又はトリプトファン誘導体は、布地に提供される際、布地の表面に優先的に配置され(特に、布地が少なくともセルロース物質を含む際)、このようにして、改善されたリング効果を提供するとの事実に由来する。
【0084】
換言すれば、トリプトファン及び/又はトリプトファン誘導体は、インドール又はインドール誘導体の代わりに、又は加えて、布地に提供される。この場合、酸化ハイブリッド酵素に加えて、少なくともトリプトファナーゼを布地に提供して、トリプトファンの少なくとも一部をインドールに転化できる。具体例によれば、トリプトファン及び/又はトリプトファン誘導体を、本発明の方法における原料物質(すなわち、原料基質)として使用して、インドール又はインドール誘導体を酵素的に生成できる。従って、トリプトファン及び/又はトリプトファン誘導体は、原料物質(すなわち、原料基質)として使用され、酵素反応を介して、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体を得ることができる。
【0085】
トリプトファナーゼ(系統名:L-トリプトファンインドール-リアーゼ(脱アミノ化;ピルベート-形成))は、トリプトファンの炭素-炭素結合を開裂し、インドールを放出するそれ自体公知の酵素である。これらは、コファクターとして、ピリドキサルホスフェート(PLP)を使用できる。本発明の具体例によれば、PLPは、トリプトファナーゼによって触媒されるトリプトファン又はその誘導体の酵素的転化の収率を改善するために、任意に使用される。本発明の方法における使用に好適なトリプトファナーゼは、大腸菌(Escherichia coli)NEB(登録商標)10βのトリプトファナーゼである。
【0086】
ここで使用するように、用語「トリプトファン誘導体」は、インドール、インドキシル及びインジゴの誘導体を参照し、必要な変更を加えて上述したように、1以上の置換基によって置換されたトリプトファンをいう。例えば、トリプトファン誘導体は、トリプトファンのハロゲン化誘導体、すなわち、ハロゲン化トリプトファン(例えば、6-ブロモトリプトファン)である。
【0087】
具体例によれば、トリプトファン誘導体は、6-ブロモトリプトファン(すなわち、ハロゲン化トリプトファン)であり、インジゴ誘導体はチリアンパープルである。
【0088】
ここで使用するように、用語「ハロゲン化誘導体」は、5、6、7、及び8位(インジゴについては、5’、6’、7’、及び8’位)の1以上の炭素において、ハロゲン原子、特に、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素原子によって置換されたトリプトファン、インドール、インドキシル、及びインジゴをいう。
【0089】
具体例によれば、布地には、トリプトファン又はトリプトファン誘導体、トリプトファナーゼ、酸化ハイブリッド酵素、好適なコファクター、及び任意に、1以上のコファクター再生酵素が提供される。トリプトファンは、トリプトファナーゼによって、酵素的に、インドールに転化される。インドールは、酸化ハイブリッド酵素によってインドキシルに転化される。インドキシルは、インジゴに(非酵素的に)転化(例えば、二量化)されて、布地を染色する。
【0090】
インドールを参照して上で吟味したように、トリプトファンは、それ自体、当分野において公知の方法、例えば、浸漬及び噴霧に従って、布地に提供される。トリプトファンを布地に提供する好適な技術は、ロイコインジゴを布地に提供するに好適な当分野において公知の技術、例えば、ロープ染色、スラッシャー染色、ループ染色、及び連続織物染色技術である。この場合、少なくとも本発明の方法の布地にトリプトファンを提供する工程は、布地にロイコインジゴを含浸させるための当分野において公知の技術(ただし、ロイコインジゴの代わりにトリプトファンを使用する)に従って行われる。
【0091】
具体例によれば、布地(例えば、ヤーン又は生地)は、トリプトファンにて処理、例えば、トリプトファンが含浸され、続いて、トリプトファンをインドールに転化するために、少なくともトリプトファナーゼが提供される(例えば、噴霧による)。続いて、布地には、インドールをインドキシルに転化して、インジゴを得るために、酸化ハイブリッド酵素が提供される(例えば、噴霧による)。
【0092】
換言すれば、具体例によれば、トリプトファナーゼは、酸化ハイブリッド酵素の前に布地に提供される。この場合、具体例によれば、トリプトファナーゼは、好ましくは、酸化酵素を提供する前には、布地から除去されることはない。
【0093】
具体例によれば、酸化ハイブリッド酵素の少なくとも一部は、前記トリプトファナーゼとともに、布地に提供される。
【0094】
換言すれば、具体例によれば、布地は、トリプトファンにて処理され(例えば、トリプトファンが含浸され)、続いて、少なくともトリプトファナーゼ及び少なくとも酸化ハイブリッド酵素の混合物が提供され(例えば、噴霧による)、これにより、トリプトファンをインジゴに転化する。
【0095】
具体例によれば、トリプトファナーゼは、セルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなるトリプトファナーゼハイブリッド酵素である。
【0096】
具体例によれば、酵素は、好ましくは、約3未満、又は約8より大のpH及び/又は4℃未満、又は50℃より高い温度において洗浄及び/又はリンスすることによって、布地から除去される。
【0097】
本発明の方法において使用される酵素の1以上は、1以上のコファクターを必要とする。
【0098】
ここで使用するように、用語「コファクター」は、触媒としての酵素の活性のために要求される非タンパク質化学化合物をいう。コファクターは、2つのタイプ、無機イオン、又はコエンザイムと呼ばれる複合有機分子に分けられる。明快にするため、本明細書では、用語「コファクター」は、本発明のタンパク質に従って、特別な化学薬品クラスの分子に限定することなく(すなわち、有機及び無機分子の両方を含む)、酵素の活性のために要求される各種の非タンパク質化学化合物を表示するために使用される。
【0099】
具体例によれば、コファクター再生酵素は、本発明の方法において使用される酵素によって必要とされるコファクターを再生するために使用される。
【0100】
この場合、有利には、安いコファクター(例えば、グルコース、ホスファイト、又はホルメート)を消費して高価なコファクター(例えば、NADPH)が再生される。
【0101】
例えば、FMOのような酸化酵素は、グルコース、ホスファイト、及びホルメートのような安価なコファクターを使用するNADPH再生酵素によって生成されるNADPHをコファクターとして使用する。
【0102】
具体例によれば、少なくとも酸化ハイブリッド酵素の存在下、インドールをヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程は、酸化酵素によって要求されるコファクターを再生するに適する少なくとも1の酵素の存在下で行われる。例えば、酸化酵素がモノオキシゲナーゼである場合、コファクターとして、NADPHが使用される。
【0103】
具体例によれば、酸化酵素は、コファクター再生酵素と対とされ、好ましくは、コファクター再生酵素と融合される。
【0104】
換言すれば、具体例によれば、酸化酵素は、酸化酵素がコファクター再生酵素と融合された融合酵素である。この場合、セルロース結合ドメインを含んでなる酸化ハイブリッド酵素は、コファクター再生酵素と融合され、すなわち、さらに、コファクター再生酵素を含んでなる。例えば、酸化酵素が細菌性フラビン含有モノオキシゲナーゼ(mFMO)であり、及びコファクター再生酵素がホスファイトデヒドロゲナーゼ(PTDH)であれば、酸化ハイブリッド酵素は、下記の式:
CBD-MR-PTDH-mFMO
(ここで、CBDは、少なくともセルロース結合ドメインに相当するアミノ酸配列のN-末端又はC-末端領域であり;MRは、中央領域(リンカー)であり、及び結合、又は約2~約100個の炭素原子、特に、2~40個の炭素原子、又は代表的には約2~約100個のアミノ酸、特に、2~40個のアミノ酸の短い連結基であってもよく;PTDHは、コファクター再生酵素であり;及びmFMOはモノオキシゲナーゼであり、及びN-末端又はC-末端領域のいずれかである)で表される。
【0105】
具体例によれば、コファクター再生酵素は、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ホスファイトデヒドロゲナーゼ(PTDH)、及びホルメートデヒドロゲナーゼ(FDH)からなる群から選ばれ、好ましくは、PTDHである。具体例では、コファクター再生酵素は、NADPH及び/又はNADHコファクターを再生するに好適である。
【0106】
具体例によれば、コファクター再生酵素は、改善された活性を有する変異体でもよい。例えば、NADPH再生酵素は、改善されたNADPH生産性を有する変異体、例えば、国際公開第2004/108912号に開示されたPTDHでもよい。
【0107】
具体例によれば、例えば、酸化酵素がmFMOであり、コファクター再生酵素がPTDHである場合、ハイブリッド酸化酵素は、融合酵素PTDH-mFMO(ここで、mFMO及び/又はPTDHは、セルロース結合ドメイン(CBD)を含むように遺伝子組み換えされている)を含む。
【0108】
具体例によれば、酸化ハイブリッド酵素は、オキシダーゼ、セルロース結合ドメインを含んでなり、さらに、コファクター再生酵素、好ましくは、PTDHを含んでなる。
【0109】
本発明の方法の具体例によれば、トリプトファン又はトリプトファン誘導体を、トリプトファナーゼの存在下で転化させることによって、インドール又はインドール誘導体が得られ、トリプトファナーゼによって触媒される反応では、コファクターとして、PLPが使用される。
【0110】
上で吟味したように、酵素、例えば、酸化酵素は、染色される布地に含まれる物質を結合するため、及び/又は非修飾の酵素と比べて、布地における物質を結合する親和性を増大させるために好適な結合ドメインを含むように修飾される。例えば、CBDを含むように遺伝子組み換えされた酵素は、非修飾の酵素と比べて、セルロース物質を結合する増大された親和性を有することが観察された。さらに、セルロース結合ドメイン(CBD)がキチン又はキトサンにも結合できることも観察された。具体例によれば、ハイブリッド酵素、例えば、酸化ハイブリッド酵素及び/又はトリプトファナーゼハイブリッド酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成物質又は繊維に結合するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインを含むことができる。
【0111】
それ故、本発明の目的は、コラーゲンを含む布地を染色する方法にあり、該方法は、次の工程:
a)布地の少なくとも一部に、インドール又はインドール誘導体を提供する工程;
b)布地の少なくとも一部に、少なくとも1の酸化酵素を提供し、これにより、布地の少なくとも一部は、インドール又はインドール誘導体及び酸化酵素を含む工程;
c)インドール又はインドール誘導体の少なくとも一部を、インジゴ又はインジゴ誘導体に転化し、これにより、布地の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、酸化酵素は、コラーゲン結合ドメインを含んでなる酸化ハイブリッド酵素である。
【0112】
また、本発明の目的は、キチン及び/又はキトサンを含む布地を染色する方法にあり、該方法は、次の工程:
a)布地の少なくとも一部に、インドール又はインドール誘導体を提供する工程;
b)布地の少なくとも一部に、少なくとも1の酸化酵素を提供し、これにより、布地の少なくとも一部は、インドール又はインドール誘導体及び酸化酵素を含む工程;
c)インドール又はインドール誘導体の少なくとも一部を、インジゴ又はインジゴ誘導体に転化し、これによって、布地の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、酸化酵素は、キチン結合ドメイン又はキトサン結合ドメイン又はセルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなる酸化ハイブリッド酵素である。
【0113】
本発明の更なる目的は、合成物質、好ましくは、ポリエステルを含む布地を染色する方法にあり、該方法は、次の工程:
a)布地の少なくとも一部に、インドール又はインドール誘導体を提供する工程;
b)布地の少なくとも一部に、少なくとも1の酸化酵素を提供して、これにより、前記布地の少なくとも一部は、インドール又はインドール誘導体及び酸化酵素を含む工程;
c)インドール又はインドール誘導体の少なくとも一部を、インジゴ又はインジゴ誘導体に転化し、これによって、布地の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、酸化酵素は、合成物質結合ドメイン、好ましくは、ポリエステル結合ドメインを含んでなる酸化ハイブリッド酵素である。
【0114】
セルロース物質を含む布地を染色する方法を参照して行った上の吟味は、コラーゲン、キチン及び/又はキトサン、及び合成物質、好ましくは、ポリエステルを含む布地を染色する成就の方法についても同様である。
【0115】
本発明の更なる目的は、本発明の方法に従って得られる染色された布地にある。
具体例によれば、布地は、ヤーン又は複数のヤーン、例えば、ロープである。
【0116】
具体例によれば、布地は、生地、好ましくは、織布、さらに好ましくは、綾織物である。
【0117】
具体例によれば、本発明の方法を介して得られる布地は、インジゴ染色される。
【0118】
本発明の更なる目的は、酸化ハイブリッド酵素、すなわち、少なくとも酸化酵素、好ましくは、オキシゲナーゼ、セルロース結合ドメイン又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成物質結合ドメインを含んでなる修飾酵素にある。
【0119】
例示的な合成物質結合ドメインは、ポリエステル結合ドメインである。
【0120】
具体例によれば、ハイブリッド酵素は、さらに、コファクター再生酵素を含んでなる。
【0121】
具体例によれば、オキシゲナーゼは、モノオキシゲナーゼ、好ましくは、mFMOであり、コファクター再生酵素はPTDHである。
【0122】
上述したように、本発明によるCBDを含む修飾酸化酵素の使用により、非修飾の酵素と比べて、増大された量の染料を布地に提供できることが観察された。
【0123】
本発明の更なる目的は、トリプトファナーゼ、及びセルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成物質結合ドメインを含んでなるトリプトファナーゼハイブリッド酵素にある。例示的な合成物質結合ドメインはポリエステル結合ドメインである。
【0124】
合成物質、例えば、ポリエステルとは異なる合成物質への結合に好適な結合ドメインは、それ自体、当分野において公知の技術に従って、命名され、生成される。
【0125】
本発明の方法は、任意に、トリプトファン又はトリプトファン誘導体を原料として、酸化ハイブリッド酵素によって行われる少なくとも酵素的反応工程及び非酵素的工程の組み合わせによるインジゴ又はインジゴ誘導体の合成を提供する。本発明の方法は、特に、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体、例えば、チリアンパープルを布地に提供することにおいて有利であり、これにより、費用効果がある方法で、このような布地の少なくとも一部を染色する。
【0126】
本発明によるハイブリッド酵素の調製及び精製方法は、それ自体、当分野において公知である。具体例によれば、酸化ハイブリッド酵素及び/又はトリプトファナーゼ及び/又はトリプトファンハロゲナーゼは、単離された酵素であり、好ましくは、精製された酵素である。
【0127】
ここで使用するように、用語「精製された」は、酵素が誘導される微生物からの他の成分を含まない酵素をいう。
【0128】
具体例によれば、セルロース物質を含む布地に、インドール又はインドール誘導体及び好適な緩衝剤中に、酸化ハイブリッド酵素及び好適なコファクターを含んでなる反応混合物を提供する。好ましくは、布地に、インドール又はインドール誘導体、続いて、酸化ハイブリッド酵素を含む水性混合物を提供する。好ましくは、酸化ハイブリッド酵素(例えば、酸化ハイブリッド酵素を含む水性混合物)を、噴霧又は注加によって、布地に提供する。
【0129】
好適な具体例によれば、インドールは、噴霧又は注加によって布地に提供されるか、又は布地を、インドール又はインドール誘導体を含む混合物中に浸漬する。続いて、酸化ハイブリッド酵素を、布地に噴霧又は注加する。
【0130】
他の具体例によれば、布に、酸化ハイブリッド酵素を含んでなる混合物を提供し(例えば、噴霧又は注加による)、続いて、布にインドール又はインドール誘導体を提供する。
【0131】
具体例によれば、インドール及び/又は酵素を含んでなる水性混合物は、好適な緩衝剤、好適なコファクター、機能性の溶質、例えば、塩、及び酸素及び/又は過酸化物スカベンジャー(例えば、カタラーゼ)を含むことができる。
【0132】
例えば、布地にインドールを提供し、続いて、好適な緩衝液中に、モノオキシゲナーゼハイブリッド酵素、1以上のコファクター、1以上のコファクター再生酵素、及び任意のカタラーゼを含む混合物を提供する。具体例では、モノオキシゲナーゼハイブリッド酵素は、例えば、CBD-リンカー-PTDH-mFMOのようなコファクター再生酵素と融合される。
【0133】
本発明によれば、本発明の方法において使用される酵素の全てが、遺伝子組み換えされうる。
【0134】
ハイブリッド酵素又は融合酵素の製造とともに、遺伝子組み換えされた酵素を製造する方法は、それ自体、当分野において公知である。
【0135】
具体例によれば、インドール及び酵素を、水性混合物として、別々に、布地に提供できる。このような水性混合物は、約5~約8、好ましくは、5.5~8、さらに好ましくは、6~7.5のpHを有することができる。このような水性媒体は、緩衝剤、例えば、リン酸カリウム緩衝剤を含んでなることができる。
【0136】
具体例によれば、方法は、20~50℃、好ましくは、25~40℃の範囲の温度で行われる。
【0137】
具体例によれば、方法は、例えば、好適な量の染料を得るに十分な期間で行われる。例えば、方法は、数時間~数日、例えば、3~5日の時間で行われる。
【0138】
具体例によれば、温度、pH値、及び方法の期間は、変動可能であり、不溶性染料の酵素的合成において一般的に使用されるものである。
【0139】
具体例では、他のパラメーターとともに、温度、pH値、及び方法の期間は、例えば、染色される布地が如何なるタイプのものであるか、最終染料として如何なる染料が選択されるかに従って調節される。
【0140】
本発明の更なる目的は、酸化ハイブリッド酵素及び/又はトリプトファナーゼハイブリッド酵素を含んでなる布地にある。
【0141】
具体例によれば、本発明による酸化酵素を含んでなる布地は、染色されないか、又は少なくとも一部が染色される。
【0142】
具体例によれば、トリプトファンハロゲナーゼハイブリッド酵素を含んでなる布地は、特に、布地に酸化ハイブリッド酵素が提供されない場合には、染色されない。
【0143】
本発明は、布地に1以上の染料前駆体(例えば、トリプトファン、インドール又はその誘導体)を提供し、1以上の酵素(例えば、トリプトファナーゼ及び酸化酵素)によって転化して、布地に染料、好ましくは、インジゴ及び/又は1以上のインジゴ誘導体、例えば、1以上のインジゴイド染料を提供する方法に係る。
【0144】
特に、本発明は、布地を染色する方法に係り、該方法は、次の工程:
a)少なくとも1の染料前駆体を前記布地に提供する工程;
b)1以上の酵素を前記布地の少なくとも一部に提供し、これにより、前記布地の少なくとも一部は、前記染料前駆体及び前記酵素を含む工程;
c)前記染料前駆体の少なくとも一部を転化し、これにより、前記布地の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、前記1以上の酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなる酸化ハイブリッド酵素を含む。
【0145】
1態様によれば、布地はセルロース物質を含む。具体例によれば、セルロース物質に加えて、又はセルロース物質の代替物として、布地は、1以上のコラーゲン、キチン、キトサン、及び合成物質、例えば、ポリエステルを含んでなることができる。この場合、酸化ハイブリッド酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン又は合成物質に結合するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインを含むことができる。
【0146】
具体例によれば、染料前駆体は、トリプトファン、トリプトファン誘導体、インドール、インドール誘導体、及びその混合物から選ばれる。
【0147】
染料前駆体がトリプトファン又はトリプトファン誘導体を含む場合、前記1以上の酵素は、トリプトファナーゼを含む。
【0148】
具体例において、染料前駆体は、それ自体、当分野において公知の方法、例えば、浸漬及び噴霧に従って布地に提供され、その結果、布地は、染料前駆体が含浸される。例えば、染料前駆体は、布地にロイコインジゴを提供するに好適な、当分野において公知の技術、例えば、ロープ染色、スラッシャー染色、ループ染色、及び連続織物染色技術に従って提供される。
【0149】
具体例では、酵素は、それ自体、当分野において公知の方法、例えば、浸漬及び噴霧に従って布地に提供される。具体例によれば、1以上の酵素は、噴霧又は注加によって布地に提供される。好ましくは、酸化酵素は、噴霧によって布地に提供される。
【0150】
具体例によれば、酵素(例えば、酵素を含んでなる水性混合物)は、ヨーロッパ特許出願(本願の出願人名義)に開示された方法を介して、ヤーン又は細長いエレメントに提供される。EP3581705A1は、微生物の培養物を提供する方法に係るが、そこに開示された方法は、必要な変更を加えて、酵素をヤーン又は細長いエレメントに提供するために応用される。
【0151】
例えば、本発明における使用に好適な酵素を含んでなる水性混合物は、このような水性混合物を出口から分配するための出口を有する供給装置、及び少なくとも染料前駆体にて処理されるヤーンを供給装置に供給するヤーン源を含んでなる装置(ここで、装置は、水性混合物が出口から分配される際、水性混合物がヤーンの少なくとも一部と接触するように形成されている)によって、既に染料前駆体が提供されているヤーンに提供される。混合物の分配は、水性混合物が、混合物がヤーンを包囲するが、ヤーンから落下しないように選択された流速で、供給装置の出口から分配されるように調整される。
【0152】
具体例によれば、染料前駆体は、好ましくは、1以上の酵素より前に、布地に提供される。
【0153】
具体例によれば、本発明の方法は、次の工程:
a)トリプトファン又はトリプトファン誘導体を、布地の少なくとも一部に提供する工程;
b)少なくともトリプトファナーゼ及び少なくとも酸化酵素を、前記布地の少なくとも一部に提供し、これにより、前記布地の少なくとも一部は、トリプトファン、トリプトファナーゼ、及び酸化酵素を含む工程;
c)トリプトファン又はトリプトファン誘導体の少なくとも一部を、インジゴ又はインジゴ誘導体に転化し、これにより、前記布地の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、少なくとも前記酸化酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)を含んでなるハイブリッド酵素である。
【0154】
具体例によれば、染料前駆体がトリプトファン又はトリプトファン誘導体である場合、酸化酵素よりも前に、トリプトファナーゼを、布地に提供する。この場合、トリプトファナーゼは、好ましくは、酸化酵素を提供する前には、布地から除去されない。
【0155】
具体例によれば、染料前駆体がトリプトファン又はトリプトファン誘導体である場合、トリプトファナーゼ及び酸化酵素を、一緒に、布地に提供する。
【0156】
本発明の1態様によれば、少なくとも酸化酵素は、酵素を布地に結合するに好適であり及び/又は非修飾の酵酵素と比べて、布地、すなわち、染色される布地に含まれる物質に対する酵素の親和性を増大させる結合ドメインを含むハイブリッド酵素である。例えば、酵素を、セルロース結合ドメイン(CBD)又はコラーゲン結合ドメイン、又はキチン結合ドメイン、又はキトサン結合ドメイン、又は合成物質又は繊維を結合するに適するドメイン、例えば、ポリエステル結合ドメインを含むように遺伝子組み換えできる。例えば、染色される布地がセルロース物質を含む場合、少なくとも酸化酵素は、セルロース結合ドメイン(CBD)を含むように遺伝子組み換えされた酸化酵素である。具体例では、トリプトファナーゼは、トリプトファナーゼハイブリッド酵素でもよい。
【0157】
染料前駆体がトリプトファン又はトリプトファン誘導体である場合、布地の少なくとも一部に、前記染料前駆体、続いて、少なくともトリプトファナーゼ及び少なくとも酸化酵素を提供できる。トリプトファンは、トリプトファナーゼによって、酵素的にインドールに転化され、インドールは、酸化酵素によって、酵素的にインドキシルに転化される。インドキシルは、非酵素的にインジゴに転化され、これにより、布地を染色する。
【0158】
染料前駆体が、インドール又はインドール誘導体である場合、布地の少なくとも一部に、前記染料前駆体、続いて、少なくとも酸化ハイブリッド酵素を提供できる。インドールは、酸化酵素によって、酵素的にインドキシルに転化され、インドキシルは、非酵素的にインジゴに転化され、これにより、布地を染色する。