(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20250319BHJP
F02P 19/02 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
F02D29/02 321B
F02D29/02 321A
F02P19/02 302F
(21)【出願番号】P 2021070310
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】菅野 宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 徹
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 裕明
(72)【発明者】
【氏名】古田 哲朗
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-046251(JP,A)
【文献】特開2010-025445(JP,A)
【文献】特開2012-012994(JP,A)
【文献】特開2013-204440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
F02D 41/00-45/00
F02P 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒と、各気筒の燃焼室に燃料を供給する燃料供給手段と、通電されることで発熱する発熱部が各燃焼室内にそれぞれ配置された複数のグロープラグとを備えるとともに自動的に停止および再始動可能なエンジンに設けられる制御装置であって、
エンジンの自動停止後において、エンジンの再始動時に最初に混合気を燃焼させる気筒である燃焼開始気筒を決定する燃焼開始気筒決定部と、
エンジンの再始動時に、前記燃焼開始気筒決定部によって決定された前記燃焼開始気筒の前記燃焼室に最初に燃料が供給されるように前記燃料供給手段を制御する燃料制御部と、
前記グロープラグを制御するグロー制御部とを備え、
前記グロー制御部は、エンジンの自動停止後において、
前記燃焼開始気筒決定部により決定された前記燃焼開始気筒の前記グロープラグの温度が所定の判定温度よりも低いときは当該燃焼開始気筒の前記グロープラグ
を所定の第1電圧で所定の基準期間通電する第1通電制御を実施するとともに、当該第1通電制御の終了後に、前記燃焼開始気筒の前記グロープラグを前記第1電圧よりも低い第2電圧で通電する第2通電制御を実施し、
前記燃焼開始気筒の前記グロープラグの温度が前記判定温度以上のときは
前記第1通電制御の実施を禁止して前記第2通電制御のみを実施することで前記グロープラグへの通電を抑制する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のエンジンの制御装置において、
エンジンは、一列に並ぶ6つの気筒を有しており、
前記燃焼開始気筒決定部は、各気筒に設けられたピストンの停止時の位置が吸気下死点付近である気筒を前記燃焼開始気筒に決定する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室がそれぞれ形成された複数の気筒と、各燃焼室に燃料を供給する燃料供給手段と、通電されることで発熱する発熱部が各燃焼室内にそれぞれ配置された複数のグロープラグとを備えるとともに自動的に停止および再始動可能なエンジンに設けられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンが搭載された車両では、燃費性能の改善を図るためにエンジンを自動的に停止させるとともに、その後、所定の条件の成立に伴ってエンジンを自動的に再始動させることが行われている。また、エンジンの始動時に混合気を確実に燃焼させて始動性を良好にするべく、気筒にグロープラグを設けてグロープラグにより気筒内を昇温させることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンを自動的に停止および再始動させる4気筒ディーゼルエンジンであって各気筒にグロープラグが設けられたエンジンが開示されている。この特許文献1のエンジンでは、エンジンの再始動時に最初に燃焼を生じさせる気筒のグロープラグの通電量を他の気筒のグロープラグの通電量よりも大きくすることで、最初の燃焼を確実にしてエンジンの始動性を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンを自動的に停止および再始動させるエンジンでは、エンジンの停止および再始動の頻度が高くなってエンジンの再始動間隔が短くなりやすい。そのため、上記のように、単にエンジンの再始動時に所定の気筒のグロープラグの通電量を大きくする構成では、先のエンジン再始動時に大きな通電量を受けて高温となったグロープラグが、その温度がまだ十分に低下していない状態で、次のエンジン再始動時に再び大きな通電量を受ける可能性があり、グロープラグの温度が過昇温して早期劣化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジンの始動性を確保しつつグロープラグの早期劣化を抑制できるエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、複数の気筒と、各気筒の燃焼室に燃料を供給する燃料供給手段と、通電されることで発熱する発熱部が各燃焼室内にそれぞれ配置された複数のグロープラグとを備えるとともに自動的に停止および再始動可能なエンジンに設けられる制御装置であって、エンジンの自動停止後において、エンジンの再始動時に最初に混合気を燃焼させる気筒である燃焼開始気筒を決定する燃焼開始気筒決定部と、エンジンの再始動時に、前記燃焼開始気筒決定部によって決定された前記燃焼開始気筒の前記燃焼室に最初に燃料が供給されるように前記燃料供給手段を制御する燃料制御部と、前記グロープラグを制御するグロー制御部とを備え、前記グロー制御部は、エンジンの自動停止後において、前記燃焼開始気筒決定部により決定された前記燃焼開始気筒の前記グロープラグの温度が所定の判定温度よりも低いときは当該燃焼開始気筒の前記グロープラグを所定の第1電圧で所定の基準期間通電する第1通電制御を実施するとともに、当該第1通電制御の終了後に、前記燃焼開始気筒の前記グロープラグを前記第1電圧よりも低い第2電圧で通電する第2通電制御を実施し、前記燃焼開始気筒の前記グロープラグの温度が前記判定温度以上のときは前記第1通電制御の実施を禁止して前記第2通電制御のみを実施することで前記グロープラグへの通電を抑制する、ことを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明では、エンジンの自動停止後において、エンジンの再始動時に最初に燃焼が行われる燃焼開始気筒のグロープラグの温度が低い場合、当該燃焼開始気筒のグロープラグに通電が行われる。そのため、燃焼開始気筒のグロープラグの温度を確実に高くしてエンジンの再始動時の当該気筒内を確実に昇温できる。従って、燃焼開始気筒内で混合気を確実に燃焼させてエンジン回転数を高めることができ、エンジンの始動性を高めることができる。しかも、本発明では、燃焼開始気筒のグロープラグの温度が高い場合は、当該燃焼開始気筒のグロープラグへの通電が抑制される。そのため、高温のグロープラグによって燃焼開始気筒内を保温して始動性を確保しつつ、グロープラグの温度が過度に高くなって劣化が促進されるのを防止できる。
【0010】
具体的に、燃焼開始気筒のグロープラグの温度が低い場合、まず高い第1電圧で燃焼開始気筒のグロープラグが通電されることで当該グロープラグの温度が確実に昇温され、次に低い第2電圧で通電されることで当該グロープラグの温度が高い温度に維持される。そのため、高温のグロープラグによって燃焼開始気筒を確実にあたためて当該燃焼開始気筒での燃焼の促進およびエンジンの始動性の向上を確実に実現できる。そして、燃焼開始気筒のグロープラグの温度が高い場合は、燃焼開始気筒のグロープラグの通電電圧が第2電圧に抑えられることで、当該グロープラグを高温に維持してエンジンの始動性を確保しつつ当該グロープラグの過昇温および早期劣化を防止できる。
【0011】
前記構成において、好ましくは、エンジンは、一列に並ぶ6つの気筒を有しており、前記燃焼開始気筒決定部は、各気筒に設けられたピストンの停止時の位置が吸気下死点付近である気筒を前記燃焼開始気筒に決定する(請求項2)。
【0012】
この構成によれば、ピストンが吸気下死点付近にあることで気筒内に比較的多い空気量が確保された気筒で最初に燃焼が行われる。そのため、混合気の燃焼性ひいてはエンジンの始動性をより確実に良好にできる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のエンジンの制御装置によれば、エンジンの始動性を確保しつつグロープラグの早期劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
【
図3】上記エンジンの各気筒で実施される行程を示した図である。
【
図4】上記エンジンの制御系統を示したブロック図である。
【
図5】グロープラグの制御手順を示すフローチャートである。
【
図6】燃焼開始気筒のグロープラグの温度が判定温度未満のときの各パラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図7】燃焼開始気筒のグロープラグの温度が判定温度以上のときの各パラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置が適用されるエンジンEの概略構成図である。
【0016】
(1)全体構成
エンジンEは、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40、排気通路40を流通する排気ガスの一部であるEGRガスを吸気通路30に還流させるEGR装置60を備える。また、エンジンEは、ターボ過給機50を備えており、排気通路40に設けられたタービン52と、吸気通路30に設けられてタービン52により回転駆動されるコンプレッサ51とを有する。本実施形態のエンジンEは、4サイクルのディーゼルエンジンであり、軽油を主成分とする燃料の供給を受けて駆動する。エンジンEは、車両に、その駆動源として搭載される。
【0017】
エンジン本体1は、気筒2が形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3を覆うシリンダヘッド4とを有する。
【0018】
図3は、エンジン本体1の概略断面図である。
図3に示すように、本実施形態のエンジンEは直列6気筒エンジンであり、エンジン本体1(詳細にはシリンダブロック3)には一列に並ぶ6つの気筒2(気筒2の配列方向に沿って一方側から順に、第1気筒2A、第2気筒2B、第3気筒2C、第4気筒2D、第5気筒2Eおよび第6気筒2F)が形成されている。
【0019】
各気筒2にはそれぞれピストン5が往復摺動可能に収容されている。各気筒2内のピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。各ピストン5はコネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。各ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。クランク軸7は、クランク軸7とモータMとを断接可能なクラッチCを介して互いに連結されている。エンジンEの始動時、クランク軸7はモータMによって強制的に回転駆動される。具体的には、エンジンEの始動時、クラッチCによってクランク軸7とモータMとがこれらの間でトルクが伝達される状態に連結されてモータMのトルクがクランク軸7に伝達される。これにより、クランク軸7は回転駆動される、つまり、エンジンEはクランキングする。
【0020】
シリンダヘッド4には、燃焼室6(気筒2)内に燃料を噴射するインジェクタ15が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。ピストン5は、供給された燃料と空気との混合気が燃焼室6で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられることで往復運動する。なお、インジェクタ15は、請求項の「燃料供給手段」に相当する。
【0021】
シリンダヘッド4には、燃焼室6(気筒2)内の温度を上昇させるためのグロープラグ16が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。グロープラグ16の先端に設けられた発熱部は、通電されることで発熱する。グロープラグ16は、その発熱部が燃焼室6内に配置されるようにシリンダヘッド4に取り付けられている。
【0022】
シリンダヘッド4には、各気筒2(燃焼室6)に吸気を導入するための吸気ポート9と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、各気筒2(燃焼室6)で生成された排気ガスを導出するための排気ポート10と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが、各気筒2に対応してそれぞれ設けられている。エンジン本体1のバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式であって、各気筒2につき吸気ポート9および排気ポート10が2つずつ設けられるとともに、各気筒2につき吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
【0023】
図4は、各気筒2で実施される行程を示した図である。上記のようにエンジンEは4サイクルエンジンである。これより、各気筒2では、吸気行程→圧縮行程→膨張行程→排気行程がこの順で連続して実施される。また、エンジンEは直列6気筒エンジンである。これより、各気筒2A~2Fに設けられたピストン5は120°CA(クランク角度で120度)の位相差をもって往復動するとともに、120°CA毎に第1気筒2A→第5気筒2E→第3気筒2C→第6気筒2F→第2気筒2B→第4気筒2Dの順で燃焼が行われることになる。なお、
図4のTDCeは排気上死点を、BDCiは吸気下死点を、TDCcは圧縮上死点を、BDCeは膨張下死点を表している。
【0024】
各気筒2の吸気弁11はシリンダヘッド4に配設された吸気カム軸を含む動弁機構13によって駆動される。吸気弁11用の動弁機構13には、各吸気弁11の開閉時期を一括して変更可能な吸気S-VT13aが内蔵されている。吸気S-VT13aは、いわゆる位相式の可変機構であり、各吸気弁11の開弁開始時期および閉弁時期を同時にかつ同量だけ変更する。同様に、各気筒2の排気弁12はシリンダヘッド4に配設された排気カム軸を含む動弁機構14によって駆動され、排気弁12用の動弁機構14にも、各排気弁12の開閉時期を一括して変更可能な位相式の排気S-VTが内蔵されている。吸気S-VT13aは、吸気弁11の閉弁時期が吸気下死点よりも遅角側の時期になり得るように構成されている。
【0025】
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30には、上流側から順にエアクリーナ31、コンプレッサ51、スロットル弁32、インタークーラ33およびサージタンク34が設けられている。コンプレッサ51は、上記のようにタービン52に回転駆動されて、コンプレッサ51を通過する空気を圧縮(過給)する。気筒2(燃焼室6)には、コンプレッサ51で圧縮された後、インタークーラ33で冷やされた空気が導入される。スロットル弁32は、吸気通路30を開閉可能なバルブである。吸気通路30を流通する空気の量、ひいては、気筒2(燃焼室6)に導入される吸気の量は、スロットル弁32の開度に応じて変更される。
【0026】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。排気通路40には、上流側から順にタービン52、排気ガスを浄化するための排気浄化装置41が設けられている。排気浄化装置41には、三元触媒42と、DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)43とが内蔵されている。タービン52は排気通路40を流れる排気ガスのエネルギーを受けて回転し、これに連動してコンプレッサ51は回転する。
【0027】
EGR装置60は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路61と、EGR通路61に設けられたEGR弁62およびEGRクーラ63とを備える。EGR通路61は、排気通路40におけるタービン52よりも上流側の部分と、吸気通路30におけるインタークーラ33とサージタンク34との間の部分とを接続している。EGR弁62は、EGR通路61を開閉可能なバルブである。吸気通路30に還流されるEGRガスの量はEGR弁62の開度に応じて変更される。EGRクーラ63は、EGRガスを熱交換により冷却する。
【0028】
(2)制御系統
図4は、エンジンEの制御系統を示すブロック図である。
図4に示したECU100は、エンジンEを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。ECU100は、機能的に、インジェクタ15を制御する燃料制御部101と、グロープラグ16を制御するグロー制御部102と、後述する燃焼開始気筒を決定する燃焼開始気筒決定部103とを有する。
【0029】
ECU100には、各種センサによる検出信号が入力される。
【0030】
具体的に、シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度つまりエンジン回転数を検出するためのクランク角センサSN1が設けられている。シリンダヘッド4には、吸気用の動弁機構13に含まれる吸気カムの角度を検出するためのカム角センサSN2が設けられている。ECU100は、カム角センサSN2の検出信号とクランク角センサSN1の検出信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるのかを判別する。また、吸気通路30のエアクリーナ31とコンプレッサ51の間の部分には、この部分を通過して燃焼室6に導入される吸気の流量である吸気量を検出するエアフロメータSN3が設けられている。シリンダブロック3には、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度つまりエンジン水温を検出する水温センサSN4が設けられている。また、エンジンEが搭載される車両には、車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN5、ドライバーにより操作されるブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサSN6、車速を検出する車速センサSN7等が設けられている。ECU100には、これらセンサSN1~SN7によって検出された情報が逐次入力される。
【0031】
ECU100は、各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実施して、インジェクタ15、グロープラグ16、吸気S-VT13a、スロットル弁32およびEGR弁62等のエンジンEの各部を制御する。
【0032】
(エンジンの自動停止・始動制御)
本実施形態のエンジンEは、自動停止・再始動が可能に構成されている。つまり、ECU100は、予め定められた特定の条件下でエンジンEを自動的に停止および再始動させる機能を有する。
【0033】
エンジンEの自動停止を許可する条件である自動停止条件およびエンジンEの自動停止後の再始動を許可する条件である再始動条件は、車両の形式等によって種々の条件が設定され得る。
【0034】
例えば、走行用の動力源が実質的にエンジンのみである車両(いわゆるエンジン車)では、(i)車両が実質的に停止していること、(ii)アクセルペダルがオフ状態であること、(iii)プレーキペダルがオン状態であること(踏み込まれていること)、を含む複数の条件が全て揃った場合に、自動停止条件が成立し得る。また、この車両では、自自動停止条件の成立後にエンジンEが自動停止された後において、(i)車両が実質的に停止していること、(ii)アクセルペダル開度が0より大きいこと(踏み込まれていること)、(iii)プレーキペダルがオフ状態であること(踏み込まれていないこと)、を含む複数の条件が全て揃った場合に、再始動条件が成立し得る。この場合、ECU100は、車速センサSN7、アクセル開度センサSN5、およびブレーキペダルセンサSN6から入力される情報に基づいて自動停止条件が成立したか否かおよび再始動条件が成立したか否かを判定する。
【0035】
一方、走行用の動力源としてモータMが併用される車両、すなわちモータMのみによるEV走行が可能ないわゆるハイブリッド車両では、車両の走行中であってもエンジンEの駆動力が不要になる場合があり、このような状況が生じたときに自動停止条件が成立し得る。この場合、ECU100は、車速センサSN7により検出される車速や、アクセル開度センサSN5により検出されるアクセル開度等から、エンジンEおよびモータMを含む駆動源の目標トルクを算出し、算出した目標トルクを含む各種条件からエンジン出力(走行に寄与する正の出力トルク)が必要か否かを判定する。そして、エンジン出力が不要と判定された場合に、自動停止条件が成立したと判定する。また、この車両では、自自動停止条件の成立後にエンジンEが自動停止された状態でエンジン出力が必要と判定された場合に再始動条件が成立したと判定する。
【0036】
自動停止条件が成立したと判定すると、ECU100は、各気筒2のインジェクタ15からの燃料噴射を停止する燃料カットを実施する。これによりエンジン回転数は徐々に低下していき最終的に0となってエンジンEは完全に停止する。
【0037】
ここで、上記のように、エンジンEの始動時、エンジンEはモータMにより回転駆動されてクランキングする。エンジンEをクランキングさせるために必要なモータMの出力はエンジンEの各気筒2の停止位置によって異なり、停止時圧縮行程気筒のピストン5の圧縮上死点に対する位置と、停止時膨張行程気筒のピストン5の圧縮上死点に対する位置とが同程度のときに上記モータMの出力は小さくなる。上記の停止時圧縮行程気筒は、エンジン停止時(エンジンEが完全に停止したとき)の行程が圧縮行程で、且つ、ピストン5の位置が圧縮上死点(TDCc)から圧縮上死点前(BTDCc)120°CAまでの範囲にある気筒である。上記の停止時膨張行程気筒は、燃焼順序が停止時圧縮行程気筒の1つ前の気筒であって、エンジン停止時(エンジンEが完全に停止したとき)の行程が膨張行程で、且つ、ピストン5の位置が圧縮上死点(TDCc)から圧縮上死点後(ATDCc)120°CAまでの範囲にある気筒である。
【0038】
ただし、エンジンEの停止直前はエンジン回転数が非常に小さくなることで吸気通路30内の圧力が増大していく結果、停止時膨張行程気筒の吸気量よりも、吸気行程が停止時膨張行程気筒の後の停止時圧縮行程気筒の吸気量の方が大きくなりやすい。これより、停止時圧縮行程気筒の停止位置が停止時膨張行程気筒の停止位置よりも圧縮上死点に近い位置になりやすい。
【0039】
そこで、本実施形態では、エンジンEの停止直前に停止時圧縮行程気筒の気筒2内から吸気ポート9への吸気の吹き返し量を大きくして当該気筒2の吸気量を小さくする。このようにすれば、停止時圧縮行程気筒の吸気量が、停止時圧縮行程気筒よりも吸気行程が前の停止時膨張行程気筒の吸気量よりも過大になるのが回避されて、これら気筒の停止位置を圧縮上死点に対して同程度にすることができる。具体的には、ECU100は、エンジンEの停止直前に、吸気弁11の閉弁時期を最遅角時期に向けて徐々に遅角させていき、停止時圧縮行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期の吸気下死点からの遅角量を、停止時膨張行程気筒の停止直前の吸気閉弁時期の吸気下死点からの遅角量よりも大きくする。
【0040】
上記のようにして自動停止条件の成立に伴ってエンジンEが自動停止された後、再始動条件が成立すると、ECU100は、エンジンEを始動(再始動)させるための始動制御を実施する。具体的には、ECU100は、上記のようにクラッチCを締結状態としてモータMによってエンジンEをクランキングさせるとともに、インジェクタ15からの燃料供給を再開してエンジンを再始動させる。
【0041】
詳細には、ECU100(燃焼開始気筒決定部103)は、エンジンEが完全停止したときのピストン5の位置、が吸気下死点付近にある気筒であって、エンジンEの停止時に吸気行程あるいは圧縮行程にあった気筒を、エンジンEの再始動時に最初に混合気を燃焼させる気筒である燃焼開始気筒に決定する。そして、ECU100(燃料制御部101)は、この燃焼開始気筒の燃焼室6に最初に燃料を供給し、この燃焼室6内で混合気を最初に燃焼させる。本実施形態では、エンジンEが完全停止したときのピストン5の位置が吸気下死点前60°CA(°CA:クランク角)から吸気下死点後60°CAまでの範囲にある気筒が、燃焼開始気筒に決定される。インジェクタ15から燃焼開始気筒に燃料を供給させた後は、ECU100は、燃焼順序に沿って順にインジェクタ15から各気筒2の燃焼室6に燃料を供給させる。
【0042】
また、ECU100は、再始動条件が成立すると、吸気弁11の閉弁時期が進角されるように吸気S-VT13aを駆動する。具体的には、上記のように、本実施形態では、エンジンEの停止直前に吸気弁11の閉弁時期が最遅角時期に向けて遅角されるようになっており、エンジンEの停止時の吸気弁11の閉弁時期は最遅角時期となる。そこで、ECU100は、再始動条件が成立すると吸気S-VT13aを駆動して、吸気弁11の閉弁時期を最遅角時期よりも進角側の所定時期に向けて進角する。
【0043】
(グロープラグ制御)
次に、ECU100によって実施されるグロープラグ16の制御であって自動停止条件成立後に行われる自動停止時グロー制御について説明する。
【0044】
自動停止時グロー制御は、エンジンEの再始動時の始動性を高めるための制御である。本実施形態では、自動停止時グロー制御は、上記のように自動停止条件が成立した後に実施されるとともに、エンジン水温が所定の範囲内にありエンジンEが冷機状態および暖機状態(暖機完了状態)ではないいわゆる半暖機状態にあるときに実施される。また、自動停止時グロー制御では、燃焼開始気筒以外のグロープラグ16への通電は禁止され、以下に詳述するように燃焼開始気筒のグロープラグ16のみに通電が行われて燃焼開始気筒の燃焼室6のみがグロープラグ16によって温められる。具体的には、燃焼開始気筒で混合気が燃焼すればエンジンEの慣性力が高くなってエンジンEの回転は概ね維持される。そのため、燃焼開始気筒以外の気筒のグロープラグ16への通電の有無がエンジンEの始動性に与える影響は小さく抑えられる。また、本実施形態では、上記のように、再始動条件が成立すると吸気弁11の閉弁時期が最遅角時期から進角される。そのため、燃焼開始気筒よりも後に燃焼が行われる気筒では、吸気弁11の閉弁時期が進角されることで吸気量が多くされる。従って、燃焼開始気筒よりも後に燃焼が行われる気筒ではグロープラグ16により燃焼室6内を昇温しなくとも混合気の燃焼性は良好となる。これより、本実施形態では、自動停止時グロー制御において、燃焼開始気筒のグロープラグ16にのみ通電を行う。
【0045】
図5は、自動停止時グロー制御の具体的手順を示したフローチャートである。
図5のステップS1は、エンジン水温が所定の範囲内にある場合、且つ、自動停止条件の成立後に実施される。
【0046】
まず、ステップS1にて、ECU100はエンジンEが完全に停止したか、つまり、エンジン回転数が0になった否かを判定する。ECU100は、クランク角センサSN1の検出値に基づきこの判定を行う。
【0047】
ステップS1の判定がNOであってエンジンEがまだ完全に停止していないと判定した場合は、ECU100はステップS1を繰り返す。一方、ステップS1の判定がYESであって自動停止条件成立後においてエンジンEが完全に停止したと判定すると、ECU100はステップS2に進む。
【0048】
ステップS2にて、ECU100は燃焼開始気筒を決定する。上記のように、本実施形態では、エンジンEが完全停止したとき、つまり、エンジンEの停止中のピストン5の位置が、吸気下死点付近にある気筒が燃焼開始気筒とされる。これより、ECU100は、クランク角センサSN1およびカム角センサSN2の検出結果に基づいて6つの気筒2のうちピストン5の位置が上記の位置にある気筒を燃焼開始気筒に決定する。
【0049】
ステップS2の後はステップS3にて、ECU100は、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が所定の判定温度未満であるか否かを判定する。判定温度は予め設定されてECU100に記憶されている。判定温度は、例えば800℃に設定されている。
【0050】
本実施形態では、ECU100は、グロープラグ16への通電履歴等に基づいて各グロープラグ16の温度を逐次推定しており、この推定値に基づいてステップS3の判定を行う。
【0051】
例えば、グロープラグ16に対して、後述する第1電圧での通電および第2電圧での通電が実施された場合、ECU100は、第1電圧での通電によってグロープラグ16の温度は所定の最大温度(例えば1300℃)まで上昇すると推定する。また、通電電圧が第2電圧に切り替わると、グロープラグ16の温度は上記の最大温度から所定の第1低下速度で低下するとしてこれを推定する。第1低下速度は、通電電圧が第1電圧から第2電圧に切り替わってからの経過時間が長いほど小さい値とされる。また、グロープラグ16に対して、第1電圧での通電が実施されることなく第2電圧での通電のみが実施された場合は、グロープラグ16の温度は通電前の温度から所定の第2上昇速度で上昇していくとしてこれを推定する。第2上昇速度は予め設定されてECU100に記憶されている。なお、第2上昇速度は0よりもわずかに大きい値であり、第2電圧で通電開始された場合のグロープラグ16の温度上昇量は、第1電圧で通電開始された場合の温度上昇量に対して十分に小さい量となる。また、グロープラグ16に通電がなされておらず且つエンジンEが稼働しているときは、ECU100は、グロープラグ16の温度が所定の第2低下速度で低下していくとしてこれを推定する。第2低下速度は予め設定されてECU100に記憶されている。また、グロープラグ16に通電がなされておらず且つエンジンEが停止しているときは、ECU100は、グロープラグ16の温度が所定の第3低下速度で低下していくとしてこれを推定する。第3低下速度は第2低下速度よりも小さい所定の値に予め設定されてECU100に記憶されている。
【0052】
ステップS3の判定がYESであって燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度未満であると判定した場合、ECU100はステップS4に進む。ステップS4にて、ECU100は燃焼開始気筒のグロープラグ16に通電する。そして、このときの通電電圧を、所定の第1電圧であって後述する第2電圧よりも高い電圧にする。第1電圧は、予め設定されてECU100に記憶されている。例えば、第1電圧は11V程度であって、グロープラグ16に通電可能な電圧の最大値付近の値に設定されている。なお、このステップS4の制御、つまり、燃焼開始気筒のグロープラグ16に第1電圧で通電する制御は、請求項の「第1通電制御」に相当する。
【0053】
ステップS4の後はステップS5に進み、ECU100は、燃焼開始気筒のグロープラグ16への第1電圧での通電を開始してから所定の基準時間が経過したか否かを判定する。基準時間は予め設定されてECU100に記憶されている。基準時間は、グロープラグ16に第1電圧で通電したときに、グロープラグ16の温度が判定温度から上記の最大温度まで上昇するのにかかる時間に設定されている。例えば、最大温度は1300℃とされ、これに対して、基準時間は1秒程度とされる。この基準時間は、請求項の「基準期間」に相当する。
【0054】
ステップS5の判定がYESであって、燃焼開始気筒のグロープラグ16への第1電圧での通電を開始してから基準時間が経過した場合、ECU100は、ステップS6に進む。
【0055】
一方、ステップS5の判定がNOであって、燃焼開始気筒のグロープラグ16への第1電圧での通電を開始してからまだ基準時間が経過していない場合、ECU100はステップS4に戻る。つまり、ECU100は、上記経過時間が基準時間に到達するまで、ステップS4を実施し、燃焼開始気筒のグロープラグ16に第1電圧で通電し続ける。
【0056】
ステップS3に戻り、ステップS3の判定がNOであって燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度以上であると判定した場合、ECU100は、ステップS6に進む。
【0057】
ステップS6にて、ECU100は、第1電圧よりも低い第2電圧で燃焼開始気筒のグロープラグ16を通電する。ステップS5の後はステップS7にて、ECU100は、再始動条件が成立したか否かを判定する。上記のように、ECU100は、アクセル開度センサSN5、ブレーキペダルセンサSN6等の検出結果に基づいてこの判定を行う。第2電圧は、予め設定されて、ECU100に記憶されている。第2電圧は、エンジンEの停止時で、且つ、グロープラグ16の温度が判定温度より高く且つ上記の最大温度よりも低い所定の中間温度にあるときに、これを概ね維持できる電圧に設定されている。第2電圧は、例えば5Vとされる。なお、このステップS6の制御、つまり、燃焼開始気筒のグロープラグ16に第2電圧で通電する制御は、請求項の「第2通電制御」に相当する。
【0058】
ステップS7の判定がYESであって、再始動条件が成立した場合、ECU100はステップS8に進む。
【0059】
一方、ステップS7の判定がNOであって、再始動条件が成立していない場合、ECU100はステップS6に戻る。つまり、ECU100は、再始動条件が成立するまで、ステップS6を実施して燃焼開始気筒のグロープラグ16に第2電圧で通電し続ける。
【0060】
ステップS8にて、ECU100は、上記の始動制御を実施する。ステップS8の後はステップS9に進み、ECU100は、エンジンEの始動(再始動)が完了したか否かを判定する。本実施形態では、エンジン回転数が所定の判定回転数以上になるとエンジンEの始動が完了したと判定されるようになっており、ECU100は、クランク角センサSN1の検出結果に基づいて、ステップS9の判定を行う。
【0061】
ステップS9の判定がNOであってエンジンEの始動が完了していない場合は、ステップS8に戻り、ECU100は始動制御を継続する。一方、ステップS9の判定がYESであってエンジンEの始動が完了したと判定すると、ECU100は、ステップS10に進む。ステップS10にて、ECU100はグロープラグ16への通電を停止する。ここで、燃焼開始気筒以外のグロープラグ16への通電は行われていない。これより、エンジンEの始動が完了すると燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電が停止され、他の気筒のグロープラグ16については非通電状態が維持される。
【0062】
(自動停止時グロー制御による各部の動作例)
図6、
図7は、上記の自動停止時グロー制御を実施したときの各パラメータの時間変化を模式的に示したタイムチャートである。
図6、
図7には、上から順に、エンジン回転数、燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電電圧、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度(当該グロープラグ16の先端の温度)の各タイムチャートを示している。
【0063】
図6は、エンジンEの自動停止直後の燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度未満の場合のタイムチャートである。
図6に示すように、燃料カットが行われるとエンジン回転数は徐々に低下していく。
図6の例では、時刻t0にて自動停止条件の成立に伴い燃料カットが実施される。これにより、時刻t0以降、エンジン回転数は徐々に低下し、時刻t1にてエンジン回転数は0となる、つまり、エンジンEは完全停止する。時刻t1にてエンジンEが完全停止すると、その直後の時刻t2に燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電が開始される。
【0064】
図6の例では、時刻t2での燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度未満であることに伴い、時刻t2にて燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電電圧(グロー通電電圧)は第2電圧よりも高い第1電圧とされる。これより、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度は時刻t2から急速に上昇し、判定温度よりも十分に高い温度となる。
【0065】
時刻t2から基準時間が経過した時刻t3になると、燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電電圧は第2電圧まで低減される。これより、時刻t3にて、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度の上昇は停止し、時刻t3後、当該温度は低下する。ただし、十分に高い温度まで高められたこと、および、第2電圧での通電が継続されていることで、時刻t3後も燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度は判定温度よりも高い温度に維持される。
【0066】
図6の例では、時刻t4にて再始動条件が成立する。これに伴い、モータMによってエンジンEのクランキングが開始され、燃焼開始気筒の燃焼室6内に最初にインジェクタ15から燃料が噴射されて、エンジンEは再始動される。そして、時刻t4後の時刻t5にてエンジン回転数が判定回転数以上になると、エンジンEが始動したと判定されて燃焼開始気筒のグロープラグ16の通電が停止される。
【0067】
図7は、エンジンEの自動停止直後の燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度以上の場合のタイムチャートである。
図6と同様に、
図7の例でも時刻t10にて燃料カットが行われることでエンジン回転数は徐々に低下していく。そして、時刻t11にてエンジンEが完全に停止して、その直後の時刻t12に燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電が開始される。
【0068】
図7の例では、時刻t12での燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度未満である。これより、時刻t12での燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電電圧は、第1電圧よりも低い第2電圧とされる。通電電圧が比較的低いことで、
図6の例に比べて通電開始後のグロープラグ16の温度上昇は小さく抑えられる。ただし、通電開始前の燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度以上と高いことで、時刻t12後も、グロープラグ16の温度は判定温度以上に維持される。
図7の例では、その後の時刻t13に再始動条件が成立し、時刻t14後にてエンジン回転数が所定の回転数以上になるのに伴って燃焼開始気筒のグロープラグ16の通電は停止される。
【0069】
なお、上記のように、第2電圧は、グロープラグ16の温度を中間温度に維持できる電圧に設定されている。これより、時刻t12でのグロープラグ16の温度が中間温度よりも高いときは時刻t12にグロープラグ16が第2電圧の通電された後グロープラグ16の温度は中間温度に向けて低下し、第2電圧での通電開始前のグロープラグ16の温度が中間温度よりも低いときは第2電圧の通電開始後グロープラグ16の温度は中間温度に向けて上昇する。
図7の例では、時刻t12でのグロープラグ16の温度が中間温度よりも低いことに伴い、時刻12以降グロープラグ16の温度は緩やかに上昇する。
【0070】
(作用等)
以上のように、上記実施形態では、エンジンEの自動停止後の燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度未満と低い場合、当該グロープラグ16に通電が行われる。そのため、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度を高くしてグロープラグ16によって燃焼開始気筒の燃焼室6内を昇温することができる。従って、エンジンEの再始動時に燃焼開始気筒内で混合気を確実に燃焼させてエンジン回転数を高めることができ、エンジンの始動性を高めることができる。
【0071】
特に、上記実施形態では、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度未満の場合、グロープラグ16の通電電圧が先ず第1電圧と高い電圧とされる。そのため、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度を確実に高めることができる。しかも、その後、通電電圧が第1電圧よりも低い第2電圧まで低下されるものの燃焼開始気筒のグロープラグ16への通電が継続されるようになっている。そのため、エンジンEの再始動時の燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度を確実に高い温度として、エンジンの始動性を確実に高めることができる。また、グロープラグ16を高い第1電圧で通電し続けるとグロープラグ16が過昇温するおそれがある。これに対して、燃焼開始気筒のグロープラグ16の第1電圧での通電を開始してから所定の基準時間経過した後に当該グロープラグ16への通電電圧が第2電圧に低減されることで、燃焼開始気筒のグロープラグ16が過昇温するのを防止でき、グロープラグ16の早期劣化を防止できる。
【0072】
そして、エンジンEの自動停止後の燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が高い場合は、当該燃焼開始気筒のグロープラグ16への第1電圧での通電は実施されず、第2電圧での通電が行われる。つまり、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が高い場合は、当該グロープラグ16への通電が抑制される。そのため、既に高温であるグロープラグ16が高い第1電圧で通電されることでグロープラグ16が過昇温するのを回避でき、グロープラグ16の早期劣化を防止できる。また、第2電圧での通電が行われることで、燃焼開始気筒のグロープラグ16を高温に維持することができ、エンジンEの始動性も良好にすることができる。
【0073】
(変形例)
上記実施形態では、エンジンEが停止したときの燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度以上の場合にも当該グロープラグ16に第2電圧で通電を行う場合を説明したが、燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が高い場合は、当該グロープラグ16への通電を停止するように構成してもよい。この場合であっても、高温のグロープラグ16がさらに通電されることで過昇温するのを回避でき、グロープラグ16の早期劣化を防止できる。
【0074】
また、上記実施形態では、エンジンEが停止したときの燃焼開始気筒のグロープラグ16の温度が判定温度未満の場合に、当該グロープラグ16への通電電圧を第1電圧とした後第2電圧に切り替える場合を説明したが、当該グロープラグ16への通電電圧は一定に維持されてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、エンジンが停止した時にピストン5の位置が吸気下死点付近にある気筒を燃焼開始気筒とした場合を説明したが、燃焼開始気筒は他の気筒であってもよい。ただし、上記実施形態では、エンジンEの停止時に吸気弁11の閉弁時期を最遅角時期まで遅角させて停止時圧縮行程気筒の吸気量を少なく抑えている。そのため、燃焼開始気筒を停止時圧縮行程気筒とすると、気筒内の吸気量が少ないことで混合気の燃焼性ひいてはエンジンEの始動性が低くなるおそれがある。また、その他の気筒では、圧縮上死点を通過するまでの時間が長くなることで、エンジンEの始動時においてクランク軸7を回転させるのにモータMに求められるエネルギーが大きくなる。これより、上記実施形態のように、6気筒エンジンにおいて、エンジンが停止した時にピストン5の位置が吸気下死点付近にある気筒を燃焼開始気筒とすれば、エンジンEの始動時にモータMが費やすエネルギーを少なくし、且つ、燃焼開始気筒の吸気量を多くして当該気筒内での混合気の燃焼性ひいては始動性を高めることができる。
【0076】
また、上記実施形態では、エンジンEが6つの気筒2を有する6気筒エンジンの場合を説明したが、エンジンEの気筒数はこれに限らず4つ等であってもよい。ここで、4気筒エンジンでは、エンジンEの停止時に吸気弁11の閉弁時期を最遅角時期まで遅角させない可能性が高く、4気筒エンジンでは、特に、エンジンの停止時に圧縮行程にある気筒を燃焼開始気筒としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 エンジン本体
2 気筒
5 ピストン
7 クランク軸
11 吸気弁
15 インジェクタ(燃料供給手段)
30 吸気通路
32 スロットル弁
100 ECU
101 燃料制御部
102 グロー制御部
103 燃焼開始気筒決定部
E エンジン
M モータ(始動手段)