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  • 特許-捺染用インク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】捺染用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20250319BHJP
【FI】
C09D11/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021100820
(22)【出願日】2021-06-17
(65)【公開番号】P2023000162
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】中村 正樹
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056022(JP,A)
【文献】特開2020-044751(JP,A)
【文献】特開2018-053171(JP,A)
【文献】特開2011-116859(JP,A)
【文献】特開2018-204012(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子を含有する捺染用インクであって、
第1のポリマー粒子と、
前記第1のポリマー粒子とは重量平均分子量の異なる第2のポリマー粒子と、
前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子の表面若しくは内部又は外部に、ポリマー粒子同士を架橋させる結合助剤と、を含有し、かつ、
前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子のそれぞれが含有するポリマーの重量平均分子量を、それぞれ、HMw及びLMwとしたとき、各ポリマーの重量平均分子量の比の値(LMw/HMw)が、0.01~0.20の範囲内であることを特徴とする捺染用インク。
【請求項2】
前記第1のポリマー粒子100質量部に対して、前記第2のポリマー粒子が1~100質量部の範囲内で含有していることを特徴とする請求項1に記載の捺染用インク。
【請求項3】
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)が、-35℃以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の捺染用インク。
【請求項4】
前記結合助剤が、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子にそれぞれ含有される架橋性モノマーと、前記捺染用インク中に含有される架橋剤であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【請求項5】
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子が、それぞれ架橋性モノマー由来の構造部を含み、
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子全体に対して、前記架橋性モノマー由来の構造部を、0.1~30質量%の範囲内で含有していることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【請求項6】
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子の平均粒径が、30~250nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【請求項7】
前記捺染用インクに対して、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子を0.1~30質量%の範囲内で含有していることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用インクに関し、特に、べたつきを防止し、摩擦堅牢性が良好で、かつ、色再現性及び風合いを向上させることができる捺染用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
織布、不織布などの布帛に、文字・絵・図柄などの画像を捺染する方法としては、スクリーン捺染法やローラー捺染法の他に、近年では、コンピューターで画像処理を行って実質無版で捺染することができるインクジェット捺染方法が広く普及している。
【0003】
このインクジェット捺染方法による布帛の捺染は、インクをインクジェットヘッドから吐出して布帛に着弾させる工程、インクが着弾された布帛に蒸気を付与してインクが含有する染料を布帛の繊維に定着させる工程、及び蒸気が付与された布帛を洗浄して定着されなかった染料を除去する工程を含んで行われる。
【0004】
このようなインクジェット捺染方法に用いられるインクとして、例えば特許文献1では、ポリエステルポリマー(「ポリエステル樹脂」ともいう。)及びアクリルポリマー(「アクリル樹脂」ともいう。)で形成された第1ポリマー粒子と、重量平均分子量が300000以上のウレタンポリマーで形成された第2ポリマー粒子を含有した水性インクが開示されている。
しかしながら、前記水性インクは、ウレタンポリマーを含有しているため、3年程度で色落ちしてしまうという問題がある。
【0005】
また、特許文献2では、水性インクジェットインク中に含有されるインク分散性のポリマー粒子が、重量平均分子量が2万以上10万以下で、ガラス転移温度が20℃以上80℃未満で、かつ、当該インク分散性のポリマー粒子を、顔料粒子の2.0倍以上10倍以下の範囲で含有したインクが開示されている。
しかしながら、前記特許文献2に記載のインクは、1種類のラテックスを使用しており、架橋されていないため、べたつきがあり、摩擦堅牢性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-44751号公報
【文献】特開2011-116859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、べたつきを防止し、摩擦堅牢性が良好で、かつ、色再現性及び風合いを向上させることができる捺染用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、特定の重量平均分子量の比の値を有する第1のポリマー粒子と第2のポリマー粒子を含有させることによって、べたつきを防止し、摩擦堅牢性が良好で、かつ、色再現性及び風合いを向上させることができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.ポリマー粒子を含有する捺染用インクであって、
第1のポリマー粒子と、
前記第1のポリマー粒子とは重量平均分子量の異なる第2のポリマー粒子と、
前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子の表面若しくは内部又は外部に、ポリマー粒子同士を架橋させる結合助剤と、を含有し、かつ、
前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子のそれぞれが含有するポリマーの重量平均分子量を、それぞれ、HMw及びLMwとしたとき、各ポリマーの重量平均分子量の比の値(LMw/HMw)が、0.01~0.20の範囲内であることを特徴とする捺染用インク。
【0010】
2.前記第1のポリマー粒子100質量部に対して、前記第2のポリマー粒子が1~100質量部の範囲内で含有していることを特徴とする第1項に記載の捺染用インク。
【0011】
3.前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)が、-35℃以下であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の捺染用インク。
【0012】
4.前記結合助剤が、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子にそれぞれ含有される架橋性モノマーと、前記捺染用インク中に含有される架橋剤であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【0013】
5.前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子が、それぞれ架橋性モノマー由来の構造部を含み、
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子全体に対して、前記架橋性モノマー由来の構造部を、0.1~30質量%の範囲内で含有していることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【0014】
6.前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子の平均粒径が、30~250nmの範囲内であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【0015】
7.前記捺染用インクに対して、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子を0.1~30質量%の範囲内で含有していることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の捺染用インク。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、べたつきを防止し、摩擦堅牢性が良好で、かつ、色再現性及び風合いを向上させることができる捺染用インクを提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
一般に、顔料と繊維を結びつけるために、高分子ポリマー粒子を用いるとべたついて、はがれにくく望ましい。また、染色後はべたつきを抑えるために架橋するが、高分子ポリマー粒子同士では架橋すると強度が上がるため風合いを損ねてしまう。
そこで、特定の重量平均分子量の比の値を有する第1のポリマー粒子と第2のポリマー粒子を混ぜて、すなわち、第1のポリマー粒子である高分子ポリマー粒子に、第2のポリマー粒子である低分子ポリマー粒子を混ぜて、これらポリマー粒子を結合させることによって、高分子ポリマー粒子同士の結合による網目構造が減少し、柔らかさ(風合い)や色再現性を確保することができる。
また、高分子ポリマー粒子と低分子ポリマー粒子を結合させること(すなわち、後架橋)のメリットとしては、架橋前は顔料と繊維を接着させる機能を持たせることができる。さらに、そのままではべたつくので架橋して超高分子体にすることで、架橋後はべたつきを防止でき、摩擦堅牢性を向上させることができる。
【0017】
ここで、高分子ポリマー粒子と低分子ポリマー粒子の架橋反応機構について説明する。
以下に示す反応機構は、高分子ポリマー粒子及び低分子ポリマー粒子に含有される架橋性モノマーと、インク中に含有される架橋剤とが反応する機構である。
例えば、高分子ポリマー粒子及び低分子ポリマー粒子に含有されるポリマーの基本骨格を構成するモノマーが、ブチルアクリレート(BA)とメタクリル酸メチル(MMA)であり、架橋性モノマーがジアセトンアクリルアミド(DAAM)のとき、インク中に架橋剤(アジピン酸ジヒドラジド(ADH))を溶解させておくと、乾燥工程において、ADHと、各ポリマー粒子中の架橋性モノマー(DAAM)に由来の架橋性官能基が反応して高分子ポリマー粒子と低分子ポリマー粒子が結合する。これによって、前記したように、布帛表面のべたつきを防止でき、摩擦堅牢性の向上及び風合いや色再現性を確保することができる。
なお、この反応機構において、DAAMに由来する構造部には、図示しないが、ポリマー粒子を構成する基本骨格(例えば、BA-MMA)が結合している。
【0018】
【化1】
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る第1のポリマー及び第2のポリマー粒子の重量平均分子量の測定方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の捺染用インクは、ポリマー粒子を含有する捺染用インクであって、第1のポリマー粒子と、前記第1のポリマー粒子とは重量平均分子量の異なる第2のポリマー粒子と、前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子の表面若しくは内部又は外部に、ポリマー粒子同士を架橋させる結合助剤と、を含有し、かつ、前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子のそれぞれが含有するポリマーの重量平均分子量を、それぞれ、HMw及びLMwとしたとき、各ポリマーの重量平均分子量の比の値(LMw/HMw)が、0.01~0.20の範囲内であることを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0021】
本発明の実施態様としては、前記第1のポリマー粒子100質量部に対して、前記第2のポリマー粒子が1~100質量部の範囲内で含有していることが、前記重量平均分子量の比の値に制御することができ、本発明の効果発現の観点で好ましい。
【0022】
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)が、-35℃以下であることが、顔料と繊維との結着の観点で好ましい。
【0023】
前記結合助剤が、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子にそれぞれ含有される架橋性モノマーと、前記捺染用インク中に含有される架橋剤であることが、各ポリマー粒子の架橋性モノマーと架橋剤により、両ポリマー粒子が架橋し、風合い及び色再現性に優れ、また、べたつき防止と摩擦堅牢性向上を図れる点で好ましい。
【0024】
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子が、それぞれ架橋性モノマー由来の構造部を含み、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子全体に対して、前記架橋性モノマー由来の構造部を、0.1~30質量%の範囲内で含有していることが、風合いと摩擦堅牢性の点で好ましい。
【0025】
前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子の平均粒径が、30~250nmの範囲内であることが、インクジェットでの射出の観点で好ましい。
【0026】
前記捺染用インクに対して、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子を0.1~30質量%の範囲内で含有していることが、布帛の繊維と繊維の隙間に両ポリマー粒子が存在し、顔料粒子を繊維の表面に均一に分布しやすく、色再現性に優れる点で好ましい。
【0027】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0028】
[本発明の捺染用インクの概要]
本発明の捺染用インクは、ポリマー粒子を含有する捺染用インクであって、第1のポリマー粒子と、前記第1のポリマー粒子とは重量平均分子量の異なる第2のポリマー粒子と、前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子の表面若しくは内部又は外部に、ポリマー粒子同士を架橋させる結合助剤と、を含有し、かつ、前記第1のポリマー粒子と前記第2のポリマー粒子のそれぞれが含有するポリマーの重量平均分子量を、それぞれ、HMw及びLMwとしたとき、各ポリマーの重量平均分子量の比の値(LMw/HMw)が、0.01~0.20の範囲内であることを特徴とする。
【0029】
なお、本発明において、本発明に係る結合助剤の含有状態は、
(i)第1のポリマー粒子又は第2の子ポリマー粒子の内部に完全に含有されて、ポリマー粒子の表面に現れていず、外部からの作用により表面に現れ得る状態の場合と、
(ii)第1のポリマー粒子又は第2のポリマー粒子の表面又は内部に結合助剤分子の一部の構造部分が含有されて、架橋性基を有する構造部分が粒子の表面に現れている状態の場合と、
(iii)第1のポリマー粒子又は第2のポリマー粒子の外部のインク中に含有されている状態の場合の、少なくとも三つの態様であることが好ましい。
この中でも、(ii)と(iii)の状態の場合を併用することが好ましく、例えば、本発明に係る結合助剤が、第1のポリマー粒子及び第2のポリマー粒子にそれぞれ含有される架橋性モノマーと、捺染用インク中に含有される架橋剤であることが好ましい。
また、その他の結合助剤としては、架橋性ポリマーや架橋剤の反応を促進する触媒的作用を有する反応種等が挙げられる。
【0030】
前記重量平均分子量の比の値(LMw/HMw)は、0.01~0.20の範囲内であり、0.05~0.15の範囲内であることがより好ましい。
したがって、第1のポリマー粒子の重量平均分子量は、第2のポリマー粒子の重量平均分子量よりも大きく、高分子であり、第2のポリマー粒子の重量平均分子量は第1のポリマー粒子の重量平均分子量よりも小さく、低分子である。
第1のポリマー粒子の重量平均分子量(HMw)は、10万~300万の範囲内であることが好ましい。第2のポリマーの重量平均分子量は、第1のポリマーの重量平均分子量に応じて、前記重量平均分子量の比の値(LMw/HMw)が0.01~0.20の範囲内となる値である。
【0031】
<重量平均分子量の測定方法>
第1のポリマー粒子又は第2のポリマー粒子に含有されるポリマーの重量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)装置にて行った。
具体的には、合成したポリマー粒子分散液又はインクを乾燥させて、テトラヒドロフラン(THF)にて1%溶液となるように溶解させる。次いで、溶解させたTHF1%溶液を、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターを通過させて、試料液(サンプル)を調製する。
その後、下記条件にて測定を行った。詳しくは、例えば、GPC装置HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)及びカラム「TSKgelSuperH3000」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒(溶離液)としてTHFを流速0.6mL/分で流す。キャリア溶媒とともに、調製した試料液100μLをGPC装置内に注入し、示差屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出する。そして、単分散のポリスチレン標準粒子の10点を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出する。
【0032】
ここで、インク中に含有された第1のポリマーと第2のポリマーの確認方法は、例えば図1に示すような測定曲線においては、ベースラインから変曲点aを経て上昇し第1の最上点に達した後、下降してなる山形状の第1の最上点(ピークトップ)を第1のポリマーのHMwとする。そして、前記第1の最上点から下降し、変曲点bを経てさらに下降して最下点に達した後、上昇してなる谷形状を介して、さらに変曲点cを経て上昇し、第2の最上点に達した後、下降してなる山形状の前記第2の最上点を第2のポリマーのLMwとして計算する。
なお、第2の最上点から下降した曲線は、さらに変曲点dを経てベースラインに収束している。
本発明において、前記変曲点とは、前記曲線において谷から山(下に凸から上に凸)又は山から谷(上に凸から下に凸)に切り替わる点をいう。
また、第2の最上点が確認できる量として、第1のポリマー粒子100質量部に対して第2のポリマー粒子が1質量部以上であることが好ましい。
さらに、データ解析においては、上記フィルター起因のピークが確認された場合には、当該ピークの手前まででベースラインを設定し解析したデータを試料の分子量とする。
【0033】
測定機種:東ソー株式会社製 GPC装置HLC-8220GPC
カラム:東ソー株式会社製 「TSKgelSuperH3000」
溶離液:THF
温度:カラム恒温槽 40.0℃
流速:0.6ml/min
濃度:0.1mg/mL(0.1wt/vol%)
検量線:東ソー株式会社製 標準ポリスチレン試料
注入量:100μL
溶解性:完全溶解(40℃加温)
前処理:0.45μmのフィルターでろ過
検出器:示差屈折計(RI)
【0034】
[捺染用インクの組成]
本発明の捺染用インクは、第1のポリマー粒子と、第2のポリマー粒子と、少なくとも一種の前記結合助剤とを含有する。また、その他に、顔料と、溶媒とを含有してもよい。
【0035】
<第1のポリマー粒子及び第2のポリマー粒子>
第1のポリマー粒子及び第2のポリマー粒子(以下、これらをまとめて「ポリマー粒子」ともいう。)は、前記重量平均分子量の比の値を満たすものであれば特に限定されないが、ガラス転移温度(Tg)が-35℃以下であることが顔料と繊維との結着の点で好ましく、-35~50℃の範囲内であることがより好ましい。
【0036】
各ポリマー粒子のTgは、以下の方法で測定することができる。
まず、合成したポリマー粒子分散液又はインクから分離したポリマー粒子を乾燥させて、試料とする。この試料を、示差走査熱量測定法により、JIS K7121に準拠して、昇温速度10℃/分にて測定を行い、ガラス転移温度を求めることができる。
ポリマー粒子のTgは、ポリマー粒子を構成するポリマーの組成や架橋度などによって調整することができる。
【0037】
また、ポリマー粒子は、顔料粒子の色を高度に再現する観点から、無色であることが好ましい。無色なポリマー粒子とは、具体的には、UV-Vis分光測定で得られる吸収スペクトルにおいて、波長400~700nmにUV吸収ピークを持たないポリマー粒子をいう。
【0038】
さらに、ポリマー粒子は、透光性を有することが好ましく、透明であることがより好ましい。すなわち、ポリマー粒子は、無色透明であることが特に好ましい。
【0039】
このようなポリマー粒子としては、少なくとも前記重量平均分子量の比の値を満たすものであれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、エポキシ系ポリマーからなる群より選ばれる一以上のポリマーを含むことが好ましい。中でも、Tgが-35℃以下で、風合いが損なわれにくい観点では、ポリマー粒子は、(メタ)アクリル系ポリマー及びポリスチレン系ポリマーからなる群より選ばれるポリマーを含むことが好ましい。
【0040】
((メタ)アクリル系ポリマー)
(メタ)アクリル系ポリマー(「(メタ)アクリル系樹脂」ともいう。)は、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリロニトリルの少なくとも一方の単独重合体、又はそれと他の共重合モノマーとの共重合体でありうる。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルは、単官能の(メタ)アクリル酸エステルであり、その例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシルなどが含まれ、好ましくはメタクリル酸メチルである。(メタ)アクリロニトリルは、アクリロトリル又はメタクリロイルニトリルである。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位の合計含有量は、ポリマーを構成する全構造単位に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上でありうる。
【0043】
他の共重合モノマーは、他の単官能のビニル系モノマーや多官能のビニル系モノマー(架橋性ビニル系モノマー)でありうる。
【0044】
他の単官能のビニル系モノマーの例には、エチレン性不飽和カルボン酸(例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸など)、官能基含有(メタ)アクリレート(例えばトリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートなどの第4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレートや、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレートなど)、アクリルアミド類(例えば、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド)、スチレン類(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなど)、飽和脂肪酸ビニル類(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)が含まれる。他の単官能のビニル系モノマー由来の構造単位の含有量は、ポリマーを構成する全構造単位に対して50質量%以下としうる。
【0045】
多官能のビニル系モノマーの例には、ビニル化合物(例えば1,4-ジビニロキシブタン、ジビニルベンゼンなど)、アリル化合物(例えばジアリルフタレート、トリアリルシアヌレートなど)、多官能(メタ)アクリレート類(例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレートなど)が含まれる。
多官能のビニル系モノマー由来の構造単位の含有量は、ポリマーを構成する全構造単位に対して20質量%以下、好ましくは0.5~10質量%の範囲内としうる。
【0046】
また、ポリマー粒子同士をより融着させにくくする観点では、アクリル系ポリマーは、架橋していてもよい(すなわち、架橋アクリル系ポリマーであってもよい)。
架橋アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリロニトリルの少なくとも一方を含む単官能のビニル系モノマーと、単官能のビニル系モノマーとの共重合体である。そのような架橋(メタ)アクリル系ポリマーは、インク乾燥時に融着しにくく、被膜化しにくいからである。
前記架橋アクリル系ポリマーである場合に、前記単官能のビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸ブチル(ブチルアクリレート)、メタクリル酸メチルが好ましく用いれ、前記単官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ジアセトンアクリルアミドが好ましく用いられる。このような場合は、ジアセトンアクリルアミドが本発明に係る結合助剤(架橋性モノマー)として機能する。
【0047】
(ポリスチレン系ポリマー)
ポリスチレン系ポリマー(「ポリスチレン系樹脂」ともいう。)は、スチレン類の単独重合体、又は、スチレン系類と他の共重合モノマーとの共重合体でありうる。
【0048】
スチレン類は、上記と同様のものを使用できる。スチレン類に由来する構造単位は、ポリマーを構成する全構造単位に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上でありうる。他の共重合モノマーは、上記と同様のものを使用できる。
【0049】
ポリスチレン系ポリマーは、架橋ポリスチレン系ポリマーであってもよい。架橋ポリスチレン系ポリマーは、スチレン類を含む単官能のビニル系モノマーと多官能のビニル系モノマーとの共重合体である。
【0050】
これらの中でも、ポリマー粒子は、ブチルアクリレート(BA)、メタクリル酸メチル(MMA)、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)の共重合体を含む粒子であることが好ましい。
【0051】
(ポリマー粒子の物性)
ポリマー粒子を構成するポリマーの酸価は、水系媒体中に良好に分散しうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば20~140mgKOH/g、好ましくは30~70mgKOH/gである。酸価は、JIS K 0070又はISO 3961に準じて測定することができる。具体的には、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数として測定することができる。
【0052】
第1のポリマー粒子及び第2のポリマー粒子の平均粒径d2は、特に制限されないが、顔料粒子が、布帛の繊維と繊維の隙間に集まりにくくする観点では、顔料粒子の平均粒径d1に対して小さすぎないことが好ましい。具体的には、顔料の平均粒径d1と、ポリマー粒子の平均粒径d2との比d2/d1は、0.5~3であることが好ましく、1.1~2.5であることがさらに好ましい。
【0053】
顔料の平均粒径d1は、インク中で分散している顔料の平均粒径、具体的には、インクが顔料分散剤を含む場合は、顔料分散剤が吸着した顔料粒子の平均分散粒径(Z平均)を意味する。顔料の平均粒径d1は、インクジェット方式による射出性を損なわない範囲であればよく、特に制限されないが、50~350nmであることが好ましく、70~250nmであることがより好ましい。顔料の分散粒径は、動的散乱を用いた粒径分布測定器により測定することができる。
顔料の平均粒径d1は、主に、顔料粒子自体の大きさによって調整されうるが、顔料分散剤の分子量や含有量、顔料粒子の分散処理条件などによっても調整されうる。
【0054】
ポリマー粒子の平均粒径d2は、30~250nmの範囲内であることが好ましく、60~180nmの範囲内であることがより好ましい。
ポリマー粒子の平均粒径2は、前記顔料の平均粒径d1と同様に、動的散乱を用いた粒径分布測定器により測定することができる。
【0055】
第1のポリマー粒子及び第2のポリマー粒子の含有割合は、第1のポリマー粒子100質量部に対して、第2のポリマー粒子が1~100質量部の範囲内で含有していることが好ましく、10~70質量部の範囲内がより好ましい。
【0056】
インクにおけるポリマー粒子の含有量(第1のポリマー粒子及び第2のポリマー粒子の合計含有量)M2と、顔料の含有量M1との比M2/M1は、3~19(質量比)であることが好ましい。M2/M1が3(質量比)以上であると、インクを布帛に付与した時に、布帛の繊維と繊維の隙間に顔料粒子が集まる割合を少なくすることができる。そのため、顔料粒子を繊維の表面に均一に分布させやすくなるため、十分な画像濃度が得られやすい。一方、M2/M1が19(質量比)以下であると、インク中の顔料粒子の割合が少なくなりすぎないため、画像濃度が低下しにくいだけでなく、ポリマー粒子の割合が多すぎないため、風合いも損なわれにくい。同様の観点から、比M2/M1は、5~17(質量比)であることがより好ましく、8~14(質量比)であることがさらに好ましい。
【0057】
具体的には、ポリマー粒子の含有量(第1のポリマー粒子及び第2のポリマー粒子の合計含有量)M2は、インクに対して0.1~30質量%の範囲内であることが好ましく、1~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
<結合助剤>
本発明に係る「結合助剤」とは、前記第1のポリマー粒子及び前記第2のポリマー粒子を連結させるための助剤としてそれぞれのポリマー粒子に含有される架橋性モノマーと、前記ポリマー粒子の外部のインク中に存在し、当該架橋性モノマーと反応し架橋結合を形成しうる官能基を有する架橋剤をいう。なお、架橋結合形成反応を促進させる触媒的作用を有する反応種も本発明に係る結合助剤に含まれる。
【0059】
本発明に係る結合助剤の存在状態は、前記したとおり、
(i)第1のポリマー粒子又は第2のポリマー粒子の内部に完全に含有されて、ポリマー粒子の表面に現れていず、外部からの作用により表面に現れ得る状態の場合と、(ii)第1のポリマー粒子又は第2のポリマー粒子の表面又は内部に結合助剤分子の一部の構造分が含有されて、架橋性基を有する構造部分が粒子の表面に現れている状態の場合と、iii)第1のポリマー粒子又は第2のポリマー粒子の外部のインク中に含有されている状態の場合の、少なくとも三つの態様であることが好ましい。
また、その他の結合助剤としては、架橋性ポリマーや架橋剤の反応を促進する触媒的作用を有する反応種等が挙げられる。
【0060】
前記三つの態様のうち、第1のポリマー粒子と第2のポリマー粒子とが結合できればいずれでもよいが、本発明においては前記(ii)及び(iii)の態様であることが好ましい。
具体的には、両ポリマー粒子中に結合助剤が含有され((ii)の態様)、かつ、ポリマー粒子中ではなくインク中に他の結合助剤が含有されている((iii)の態様)ことが好ましい。
【0061】
(架橋性モノマー)
前記両ポリマー粒子中に含有される結合助剤としては、例えば架橋性モノマーが挙げられる。
ここで、本発明に係る「架橋性モノマー」とは、ポリマー粒子中に含有され、他のポリマー粒子又は架橋剤と連結(架橋結合)し得る官能基を分子の少なくとも一つの部位、例えば末端部に有するモノマーをいう。
「架橋性モノマーがポリマー粒子中に含有される」とは、結合助剤として加えられた架橋性モノマーの上記存在状態(i)及び(ii)をいい、架橋性モノマーの少なくとも一つの部位が、ポリマー粒子を構成するポリマーと結合している状態を含むものとする。すなわち、ポリマーと架橋性モノマーとが結合を作って含有される状態を含む。
このような架橋性モノマーとしては、少なくとも後述する架橋剤の架橋性基と反応しうる官能基を有する化合物であればよい。例えば、分子末端に二重結合があり、かつ、C=O基を有するものが好ましく、前記したように、アクリルアミド類、カルボン酸基等が挙げられる。
【0062】
前記アクリルアミド類としては、例えば、メチルアクリルアミド、エチルアクリルアミド、プロピルアクリルアミド、ブチルアクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミド、シクロヘキシルアクリルアミド、ベンジルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、メトキシエチルアクリルアミド、フェニルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、β-シアノエチルアクリルアミド、N-(2-アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、ジアセトンアクリルアミドなどが挙げられる。中でも、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)が好ましい。
【0063】
カルボン酸基としては、例えば、二アクリル酸1,4-ブタンジオール、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0064】
【化2】
【0065】
両ポリマー粒子中に含有される架橋性モノマー由来の構造部は、両ポリマー粒子(第1のポリマー及び第2のポリマー粒子の全体)に対して、前記架橋性モノマー由来の構造部を、0.1~30質量%の範囲内で含有していることが好ましく、1~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
「前記両ポリマー粒子中に含有される架橋性モノマー由来の構造部」とは、架橋性モノマーの分子構造のうち、ポリマー粒子構成成分との反応に関与して解離する基又は原子以外の分子構造部分、付加重合により架橋性基の結合状態が変化(例えば二重結合が単結合に変化)した部位をも含む分子構造部分をいう。
例えば架橋性モノマーの分子構造の一部の、架橋性基の水素原子が解離してポリマー粒子を構成するポリマー成分と結合した部位と、架橋性モノマーのその他の部分で、元の分子の構造を維持した部位との両方を含んだ構造部分をいう。なお、架橋性モノマーがポリマー粒子中でポリマー成分とで元の分子構造を維持して含有されている状態も、架橋性モノマー由来の構造部に含めることとする。
【0066】
(架橋剤)
本発明に係る「架橋剤」とは、前記ポリマー粒子の外部のインク中に存在し、前記架橋性モノマーと反応し架橋結合を形成しうる官能基を少なくとも二つ有する化合物をいう。
架橋剤としては、常温若しくは低温で反応し得る、ヒドラジド基、オキサゾリン基、イソシアネート基、エチレンイミン基、アジリジン基、カルボジイミド基、若しくはシランカップリング基を有する化合物、又は加熱や触媒等の作用により反応し得る、ブロックイソシアネート基、ヒドラジド基、若しくはジアセトンアクリルアミド基を有する化合物等を用いることができる。
【0067】
すなわち、架橋剤としては、有機酸ジヒドラジド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、エポキシポリマー化合物、エチレン尿素化合物、エチレンイミン化合物、メラミン系化合物、ジアセトンアクリルアミド、カルボジイミド、シランカップリング剤等の架橋性基を有する化合物を用いることができる。
なお、さらに具体的には、特開2020-2220号公報、特開2020-203965号公報、特開2011-256477号公報、特開2011-42912号公報等に記載されている架橋剤が参考となる。
【0068】
本発明において、特に好適に用いられる架橋剤としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、N,N′-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0069】
【化3】
【0070】
インク中に含有される結合助剤は、インクに対して0.1~3質量%の範囲内で含有することが好ましい。
【0071】
<顔料>
本発明の捺染用インクに用いられる顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料であることが好ましい。
【0072】
橙又は黄顔料の例としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213等が挙げられる。
【0073】
赤又はマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0074】
青又はシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0075】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193が含まれる。
【0076】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0077】
顔料の市販品の例には、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3な870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業製); KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(大日本インキ化学製);Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、ColortexBlue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素製);Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ製)、Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリ製);Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、Hostaperm Blue B2G(クラリアント製);カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、CF9(三菱化学製)が含まれる。
【0078】
顔料は、インク中における分散性を高める観点から、顔料分散剤でさらに分散されていることが好ましい。顔料分散剤については、後述する。
【0079】
また、顔料は、自己分散性顔料であってもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0080】
親水性基の例には、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0081】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0082】
顔料の含有量M1は、特に限定されないが、インクの粘度を上記範囲内に調整しやすく、かつ高濃度の画像を形成可能にする観点では、インクに対して0.3~10質量%の範囲内であることが好ましい。顔料の含有量M1が0.3質量%以上であると、ポリマー粒子を多く含有させることができるため、得られる画像の色が鮮やかになりやすく、5質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、射出安定性が損なわれにくい。同様の観点から、顔料の含有量M1は、インクに対して0.5~3質量%であることがより好ましい。
【0083】
<溶媒>
溶媒は、特に制限されないが、水を含むことが好ましく、水溶性有機溶剤をさらに含むことが好ましい。
【0084】
水は、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。インクにおける水の含有量は、20~60質量%の範囲内であることが好ましく、30~50質量%の範囲内がより好ましい。
【0085】
水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されないが、インクを布帛の内部まで浸透させやすくする観点、インクジェット方式での射出安定性を損なわれにくくする観点では、インクが乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、インクは、沸点が200℃以上の高沸点溶媒を含むことが好ましい。
【0086】
沸点が200℃以上の高沸点溶媒は、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤であればよく、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類であることが好ましい。
【0087】
沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコールなどの2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)などの3価以上のアルコール類が含まれる。
【0088】
沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);及びポリプロピレングリコールなどの2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオールなどの3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0089】
溶媒は、上記高沸点溶媒以外の他の溶媒をさらに含んでもよい。他の溶媒の例には、沸点が200℃未満の多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサントリオールなど);沸点が200℃未満の多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル;1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);及びスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0090】
<他の成分>
本発明の捺染用インクは、必要に応じて他の成分をさらに含みうる。他の成分の例には、顔料分散剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤などが含まれても良い。
【0091】
(顔料分散剤)
顔料分散剤は、インク中で、顔料粒子の表面を取り囲むように存在するか、又は、顔料粒子の表面に吸着されて、顔料分散体を形成し、顔料を良好に分散させる。そのような顔料分散剤は、顔料の分散性に優れる観点から、高分子分散剤であることが好ましい。
【0092】
高分子分散剤の例には、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤が含まれる。
【0093】
アニオン性分散剤は、カルボン酸基、リン含有基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる親水性基を有する高分子分散剤でありうる。中でも、カルボン酸基を有する高分子分散剤が好ましい。
【0094】
カルボン酸基を有する高分子分散剤の例には、ポリカルボン酸又はその塩が含まれる。ポリカルボン酸の例には、アクリル酸又はその誘導体、マレイン酸又はその誘導体、イタコン酸又はその誘導体、フマル酸又はその誘導体から選ばれるモノマー(単量体)の(共)重合体及びこれらの塩が含まれる。共重合体を構成する他のモノマーの例には、スチレンやビニルナフタレンが含まれる。
【0095】
アニオン性分散剤のアニオン性基当量は、顔料粒子を十分に分散させうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば1.1~3.8meq/gの範囲内であることが好ましい。アニオン性基当量が上記範囲内であると、アニオン性分散剤の分子量を大きくしなくても、高い顔料分散性が得られやすい。アニオン性基当量は、酸価の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0096】
カチオン性分散剤が有するカチオン性基の例には、第2級アミノ基(イミノ基)、第3級アミノ基又は第4級アンモニウム基などでありうる。カチオン性分散剤は、上記のような顔料分散体を形成しうるものであればよく、特に制限されないが、例えばカチオン性重合体(ポリマー又はプレポリマー)でありうる。
【0097】
カチオン性重合体の例には、カチオン性基(第3級アミノ基又は第4級アンモニウム基)を有するエチレン性不飽和モノマーの(共)重合体が含まれる。
【0098】
第3級アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマーの例には、ジメチル又はジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチル又はジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチル又はジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド,ジメチル又はジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド類;アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類などが含まれる。
【0099】
第4級アンモニウム基を有するエチレン性不飽和モノマーの例には、2-(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(メタ)アクリロイロキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの(メタ)アクリロイロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩;アクリルアミド-2-(アクリロイルオキシ)メチルトリメチルアンモニウムクロリド、(3-(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(メタ)アクリロイルアミノ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの(メタ)アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩;2-(メタ)アクリロイロキシエチルベンジルアンモニウムクロライド、2-(メタ)アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの2-(メタ)アクリロイロキシアルキルベンジルアンモニウム塩;ジメチルジアリルアンモニウムクロライドなどのジアルキルジアリルアンモニウム塩などが含まれる。
【0100】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和モノマーは、1種類だけであってもよいし、2種類以上あってもよい。例えば、第3級アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマーと、第4級アンモニウム基を有するエチレン性不飽和モノマーとを共重合させてもよい。
【0101】
また、これらのカチオン性基を有するエチレン性不飽和モノマーは、他のモノマーと共重合されてもよい。他のモノマーの例には、(メタ)アクリル酸及びそのエステル類、アリルエーテル類、ビニルエーテル類、芳香族ビニルモノマー類、ビニルエステルモノマー類、オレフィンモノマー類、ジエンモノマー類が含まれる。
【0102】
このようなカチオン性重合体の例には、ジメチルアミノエチルメタクリレート重合体、メタクリル酸-2-ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、ブチルアクリレート-ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、アクリルアミド-2-(アクリロイルオキシ)メチルトリメチルアンモニウムクロリド重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体などが含まれる。
【0103】
カチオン性分散剤のカチオン性基当量は、顔料粒子を十分に分散させうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば1~5meq/gの範囲内であることが好ましい。カチオン性基当量が上記範囲内であると、カチオン性分散剤の分子量を大きくしなくても、高い顔料分散性が得られやすい。カチオン性基当量は、アミン価の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0104】
これらの中でも、汚れシミが付きやすいカチオン前処理を不要とし、色再現性をより長時間持続させやすくする観点では、顔料インクに含まれる顔料分散剤は、カチオン性分散剤であることが好ましい。
【0105】
高分子分散剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、5000~30000であることが好ましい。高分子分散剤の重量平均分子量が5000以上であると、顔料粒子を十分に分散させやすく、30000以下であると、インクが増粘しすぎないため、布帛への浸透性が損なわれにくい。高分子分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりスチレン換算にて測定することができる。
【0106】
高分子分散剤の含有量は、顔料粒子を十分に分散させるとともに、布帛に対する浸透性を損なわない程度の粘度を有する範囲であればよく、特に制限されないが、顔料に対して20~100質量%の範囲内であることが好ましく、25~60質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0107】
(界面活性剤)
本発明の捺染用インクは、必要に応じて界面活性剤をさらに含みうる。
【0108】
界面活性剤は、インクの表面張力を低下させて、布帛に対する濡れ性を高めうる。界面活性剤の種類は、特に制限されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などでありうる。
【0109】
(防腐剤、防黴剤)
防腐剤又は防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)などが含まれる。
【0110】
(pH調整剤)
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウムなどが含まれる。
【0111】
<インクの物性>
本発明の捺染用インクの、25℃における粘度は、インクジェット方式による射出性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3~20mPa・sの範囲内であることが好ましく、4~12mPa・sの範囲内であることがより好ましい。
インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0112】
[インクの調製]
本発明の捺染用インクは、任意の方法で製造することができる。
例えば、本発明の捺染用インクは、1)顔料と、顔料分散剤と、溶媒(水など)とを混合して、顔料分散液を得る工程と、2)得られた顔料分散液と、第1のポリマー粒子を含む分散液と、第2のポリマー粒子を含む分散液と、結合助剤(例えば、インク中に含有される架橋剤)と、任意の他の成分(例えば界面活性剤、高沸点溶媒など)とをさらに混合して製造されうる。それにより、顔料が良好に分散したインクが得られやすい。
【0113】
また、第1のポリマー粒子を含む分散液及び第2のポリマー粒子を含む分散液の調製は、例えば、アニオン系活性剤及び炭酸ナトリウムをイオン交換水に溶解させた活性剤溶液を昇温しておき、各ポリマー粒子を構成するポリマーのモノマーと、架橋性モノマー及び水溶性連鎖剤を混合してモノマー溶液を調製する。その後、重合開始剤をイオン交換水で溶解させた溶液を加熱し、この溶液に調製したモノマー溶液を混合することでポリマー粒子の分散液を調製することができる。
【0114】
[画像形成方法]
本発明に係る画像形成方法(捺染方法)は、本発明の捺染用インクの液滴を、インクジェット方式で布帛上に付与する工程を含む。
具体的には、画像形成方法は、1)インクジェット記録ヘッドからインクを吐出させて、布帛上にインクの液滴を付与する工程(インク付与工程)と、2)布帛に付与したインクを乾燥及び定着させる工程(乾燥・定着工程)とを含む。
【0115】
1)の工程(インク付与工程)について
インクジェット記録ヘッドからインクを吐出させて、布帛上にインクの液滴を付与する。
【0116】
布帛を構成する繊維素材の種類は、特に制限されず、綿(セルロース繊維)、麻、羊毛、絹などの天然繊維や;レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル又はアセテートなどの化学繊維を含むことが好ましい。布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布など、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布又は混紡不織布などであってもよい。
【0117】
例えば、インクがアニオン性分散剤を含む場合は、顔料の吸着速度や定着性を高める観点から、布帛は、少なくとも表面にカチオン基又は酸基を有するものであることが好ましい。少なくとも表面にカチオン基、又は酸基を有する布帛は、前処理されたものであってもよいし、前処理されていないものであってもよい。
【0118】
また、インクがカチオン性分散剤を含む場合は、顔料の吸着速度や定着性を高める観点から、布帛は、少なくとも表面にアニオン基を有するものであることが好ましい。すなわち、アニオン性基を有する繊維(例えば綿やアニオン性基を有するポリエステル)を含む布帛は、そのままでもアニオン性基を有するため、必ずしも前処理によってアニオン性基が付与されてなくてもよい。一方、アニオン性基を有する繊維を含まない布帛は、そのままではアニオン性基を有しないため、前処理によってアニオン性基が付与されることが好ましい。
【0119】
本発明では、インクを付与した際、インクに含まれるポリマー粒子が、繊維と繊維の間の隙間にある程度集まるため、顔料粒子が、繊維と繊維の隙間に過剰に集まりにくく、繊維の表面に均一に分布しやすい。
【0120】
2)の工程(乾燥・定着工程)について
乾燥工程では、布帛に付与したインクを乾燥させて、インク中の溶媒成分を除去する。それにより、布帛に顔料を定着させる。
【0121】
乾燥方法は、特に制限されず、ヒーター、温風乾燥機、加熱ローラーなどを用いた方法でありうる。中でも、温風乾燥機とヒーターを用いて、布帛の両面を加熱して乾燥させることが好ましい。
【0122】
乾燥温度や乾燥時間は、インク中の溶媒成分を蒸発させつつ、ポリマー粒子が被膜化しない程度に設定されることが好ましい。具体的には、乾燥温度は、(Tg+50)℃(Tgは、ポリマー粒子のTgを意味する)以下であることが好ましい。乾燥温度は、室温であってもよい。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば0.5~30分間程度としうる。
【0123】
本発明では、布帛に付与されたポリマー粒子のTgが適度に高いため、インクの乾燥時に、ポリマー粒子同士の融着が過度には進みにくく、被膜化しにくい。したがって、繊維と繊維の隙間が接着されないため、画像形成物(「捺染布帛」又は「捺染物」ともいう。)が硬くなりにくくすることができる。
【0124】
また、本発明に係る画像形成方法は、必要に応じて、3)布帛を前処理する工程(前処理工程)をさらに含んでもよい。
【0125】
3)の工程(前処理工程)について
前処理工程では、布帛に前処理剤を付与する。
【0126】
前処理剤の種類は、特に制限されず、インクの組成に応じて選択されうる。例えば、インクがアニオン性分散剤を含む場合は、前処理剤は、酸基又はカチオン性基を有する化合物を含む前処理剤であることが好ましい。インクがカチオン性分散剤を含む場合は、前処理剤は、アニオン性基を有する化合物を含むアニオン性の前処理剤であることが好ましい。
【0127】
アニオン性基を有する化合物は、特に制限されず、アニオン性界面活性剤と同様のものであってもよいし、アニオン性基を有する高分子化合物などであってもよい。アニオン性基を有する高分子化合物の例には、ペクチン酸などの植物皮類、カルボキシメチルセルロースなどの繊維素誘導体、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉などの加工澱粉、アクリル酸・アクリル酸エステル共重合体、スチレン・アクリル酸共重合体などのアクリル酸を共重合成分とするアクリル系重合体)などの合成糊などが含まれる。
【0128】
前処理剤は、必要に応じてpH調整剤、防腐剤などをさらに含んでもよい。防腐剤としては、インクジェット捺染インクの防腐剤として挙げたものと同様のものを使用できる。
【0129】
布帛に前処理剤を付与する方法は、特に制限されないが、例えばパッド法、コーティング法、スプレー法、又はインクジェット法などでありうる。
【0130】
布帛に付与された前処理剤は、温風、ホットプレート、又はヒートローラーを用いて加熱乾燥させることもできる。
【0131】
なお、均一な画像を得やすくする観点から、布帛に前処理剤を付与する前に、布帛繊維に付着した天然不純物(油脂、ロウ、ペクチン質、天然色素など)、布帛製造過程で用いた薬剤の残留物(のり剤など)、又は布帛に付着した汚れなどを洗浄しておいてもよい。
【0132】
得られる画像形成物は、布帛と、その表面に配置された画像層とを含む。画像層は、顔料粒子と、ポリマー粒子とを含むインクの乾燥物を含む。当該インクの乾燥物では、ポリマー粒子の大部分は被膜化しておらず、少なくとも一部において粒子形状を留めており、布帛の繊維間が接着されていない。それにより、画像形成物は硬くなりにくく、布帛の風合いを良好に維持しうる。
【実施例
【0133】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0134】
1.インクの材料
(1)ポリマー粒子分散液の調製
(ポリマー粒子分散液Aの調製)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を付けたセパラブルフラスコにあらかじめアニオン系活性剤(ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム:SDS)1.68gと炭酸ナトリウム0.34gをイオン交換水554gに溶解させた活性剤溶液を投入し、窒素気流下330rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、内温を80℃に昇温させた。
一方、n-ブチルアクリレート(BA)99.75g(71.25質量部)、メタクリル酸メチル(MMA)33.25g(23.75質量部)、架橋性モノマーとしてジアセトンアクリルアミド(DAAM)7.0g(5質量部)、水溶性連鎖移動剤として1-オクタンチオール(NOM)0.07g(0.0005質量部)を溶解させてモノマー溶液を調製した。
次いで、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.14g(0.001質量部)をイオン交換水2.66gに溶解させた溶液を添加し80℃にて加熱し、調整したモノマー溶液を60分かけて滴下、撹拌することでポリマー微粒子を作製した。
さらに、滴下終了後60分加熱撹拌させた後、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.14gをイオン交換水2.66gに溶解させた溶液を加え60分撹拌したのち、40℃まで冷却しポリマー微粒子の分散液(ポリマー粒子分散液A)を得た。
なお、表Iに記載のKPSの質量部は、1回目に添加したKPSの質量部を示している。
【0135】
(ポリマー粒子分散液B~Hの調製)
前記ポリマー粒子分散液Aの調製において、n-ブチルアクリレート(BA)、メタクリル酸メチル(MMA)、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)、1回目に添加した過硫酸カリウム(KPS)及び1-オクタンチオール(NOM)を下記表Iに示すとおりの質量部となるように配合した以外は同様にして、各ポリマー粒子分散液B~Hを得た。
【0136】
(ポリマー粒子分散液Iの調製)
ポリウレタン樹脂粒子の分散液であるスーパーフレックス840(第一工業社製)を用い、これをポリマー粒子分散液Iとした。
【0137】
(ポリマー粒子の重量平均分子量の測定)
前記で調製した各ポリマー粒子分散液中のポリマー粒子の重量平均分子量を測定した。
具体的には、合成したポリマー粒子分散液を乾燥させて、テトラヒドロフラン(THF)にて1%溶液となるように溶解させた。次いで、溶解させたTHF1%溶液を、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターを通過させて、試料液(サンプル)を調製した。
その後、下記GPC装置及びカラムを用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒(溶離液)としてTHFを流速0.6mL/分で流した。キャリア溶媒とともに、調製した試料液100μLをGPC装置内に注入し、示差屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出した。そして、単分散のポリスチレン標準粒子の10点を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出した。
測定機種:東ソー株式会社製 GPC装置HLC-8220GPC
カラム:東ソー株式会社製 「TSKgelSuperH3000」
溶離液:THF
温度:カラム恒温槽 40.0℃
流速:0.6ml/min
濃度:0.1mg/mL(0.1wt/vol%)
検量線:東ソー株式会社製 標準ポリスチレン試料
注入量:100μL
溶解性:完全溶解(40℃加温)
前処理:0.45μmのフィルターでろ過
検出器:示差屈折計(RI)
【0138】
(ポリマー粒子のガラス転移温度の測定)
前記で調製した各ポリマー粒子分散液中のポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)を測定した。
具体的には、合成したポリマー粒子分散液を乾燥させて得た試料を、日立ハイテクテクサイエンス社製の「DSC7000X」を使用して測定した。昇温速度10℃/分にて測定を行い、ガラス転移温度を求めた。
【0139】
(ポリマー粒子の平均粒径d2の測定)
前記で調製した各ポリマー粒子分散液におけるポリマー粒子の分散粒径(Z平均)を、Melvern社製Zataizer NanoS90により測定し、平均粒径d2とした。
【0140】
【表1】
【0141】
(2)アニオン性顔料分散液の調製
顔料分散剤としてスチレン・ブチルアクリレート・メタクリル酸共重合体(アニオン性分散剤、重量平均分子量16000、アニオン性基当量3.5meq/g)7質量部に対し、水78質量部を混合した後、加温攪拌し、顔料分散剤の中和物を調製した。この混合液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15質量部添加し、予備混合した後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散させて、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
【0142】
(3)他の成分
・オルフィンE-1010(日信化学社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
・プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、防腐剤)
・エチレングリコール
・プロピレングリコール
・グリセリン
・イオン交換水
・アジピン酸ジヒドラジド(ADH)
【0143】
2.インクの調製
(インク1の調製)
次いで、下記成分を混合して合計100質量部とし、インク1を得た。
アニオン性顔料分散液(顔料濃度15質量%):10質量部(固形分濃度1.5質量部)
ポリマー粒子分散液A(固形分濃度30質量%):24質量部(固形分濃度7.2質量部)
ポリマー粒子分散液F(固形分濃度30質量%):6質量部(固形分濃度1.8質量部)
アジピン酸ジヒドラジド(ADH):0.7質量部
エチレングリコール:30質量部
プロピレングリコール:10質量部
グリセリン:10質量部
オルフィンE1010(日信化学製アセチレングリコール系界面活性剤):0.5質量部
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製):0.5質量部
イオン交換水:残部(8.3質量部)
【0144】
得られたインク中におけるポリマー粒子の分散粒径は、ポリマー粒子分散液中のポリマー粒子の分散粒径とほぼ同じであった。
【0145】
(インク2~9の調製)
インク1の調製において、ポリマー粒子分散液の種類と含有割合を下記表IIに示されるように変更した以外は同様にして各成分を混合して、インク2~9を得た。表IIに示される「含有割合」は、各ポリマー粒子分散液の質量比である。
【0146】
3.評価
(画像形成試験)
得られたインクを用いて、画像形成試験を行った。
まず、画像形成装置として、インクジェットヘッド(コニカミノルタヘッド #204)を準備した。次いで、表IIに記載のインクを、上記画像形成装置のインクジェットヘッドのノズルから吐出させて、布帛として、綿布上に画像を形成した。具体的には、以下の手順で画像形成を行った。
【0147】
(インク付与工程)
得られたインクを、画像形成装置にセットした。そして、主走査540dpi×副走査720dpiにて、得られたインクを用いて上記布帛上に、ベタ画像を形成した。なお、dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。
【0148】
(乾燥工程)
インクを付与した布帛を、ベルト搬送式乾燥機にて120℃で5分間乾燥させた。
【0149】
(評価)
各インクを用いて画像形成試験を行った時の、得られた画像形成物の色再現性、風合い(硬さ)、べたつき及び耐摩擦堅牢性を、以下の方法で評価した。
【0150】
(色再現性)
得られた画像形成物を、目視で、色再現性を評価した。評価は、以下の基準で目視評価を行った。
◎:色濃度、色鮮やかさが優れている
○:色濃度が僅かに薄いか、または、色鮮やかさが僅かに劣るが、良好なレベル
△:色濃度が少し薄いか、または、色鮮やかさが少し劣るが、実用上問題ないレベル
×:色濃度が薄いか、または色がくすんでおり、実用上問題となるレベル
△以上であれば、許容範囲とした。
【0151】
(風合い)
得られた画像形成物を、触手により官能評価を行い、以下の基準で評価した。
◎:柔らかくプリント面と生地の境目がわからない。
〇:柔らかいがプリント面と生地の境目がわかる。
△:ごわごわしないが、プリント面と生地の境目が明確にわかる。
×:ごわごわして堅い感触である。
○以上であれば、許容範囲とした。
【0152】
(べたつき)
得られた画像形成物を、触手により官能評価を行い、以下の基準で評価した。
◎:触った感触として問題なし
〇:感触としてプリントしている感じはするが問題なし
△:触った感触としてポリマーがある感じがする
×:触った感触としてべたつく。
△以上であれば、許容範囲とした。
【0153】
(耐摩擦堅牢性)
各画像形成物について、キセノンランプで25℃・50%RH条件下で1か月放置した(スーパーキセノンウェザーメーターSX75、すが試験機株式会社)。その後、学振型摩擦堅牢度試験機(製品名:AB-301、テスター産業株式会社製)を使用し、200.0gの加重、10.0cm/sの速度条件下で、100.0回の往復を実施し、その後、JIS染色堅牢度試験用白布(JIS L 0803:2011準拠3-1号)に純水を含侵させ移染濃度光学濃度値(以下「移染濃度OD値」ともいう。)を測定し、以下の評価基準により摩擦堅牢性を評価した。移染濃度OD値が低いほど、湿摩擦堅牢性に優れることを意味する。
◎:移染濃度OD値が0.15以下である。
〇:移染濃度OD値が0.15超0.20以下である。
△:移染濃度OD値が0.20超0.25以下である。
×:移染濃度OD値が0.25超である。
△以上であれば、許容範囲とした。
【0154】
【表2】
【0155】
上記結果に示されるように、本発明のインクを用いることにより、べたつきを防止し、摩擦堅牢性が良好で、かつ、色再現性及び風合いを向上させることができることが認められる。
【符号の説明】
【0156】
HMw 第1のポリマー粒子の重量平均分子量
LMw 第2のポリマー粒子の重量平均分子量
図1