(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】エンジン排気系の劣化診断装置、およびエンジン排気系の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20250319BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
F01N3/18 C
F01N3/20 C ZAB
(21)【出願番号】P 2021121689
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】板井 満生
(72)【発明者】
【氏名】大久保 浩志
(72)【発明者】
【氏名】渥美 伸二
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-017078(JP,A)
【文献】特開2012-211561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-10/02、10/06-10/10、10/18、
10/26-20/50
F01N 3/00、 3/02、 3/04- 3/38、
9/00-11/00
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に配設され、排気ガスの浄化を行う触媒と、
前記排気通路における前記触媒よりも下流側の位置に配設され、排気ガスの空燃比を測定する空燃比センサと、
前記触媒および前記空燃比センサの劣化を判定する制御ユニットと、
を備えたエンジン排気系の劣化診断装置であって、
前記制御ユニットは、
エンジンの目標空燃比をリッチおよびリーンのいずれかに移行させる制御を行う空燃比制御部と、
前記空燃比制御部が前記目標空燃比をリーンに移行させた後に、前記空燃比センサの測定値が所定の第1閾値を下回ってから前記第1閾値よりもリーン側に設定された所定の第2閾値を下回るまでの第1経過時間を計測する時間計測部と、
前記第1経過時間に基づいて前記空燃比センサの劣化を判定するセンサ劣化判定部と、
前記目標空燃比のリーンへの移行後に前記空燃比センサの測定値が前記第2閾値よりもリーン側に設定された所定の第3閾値を下回るまでに触媒に吸蔵された酸素量を積算した積算酸素量または前記積算酸素量に対応するパラメータを求める積算部と、
前記積算酸素量または前記積算酸素量に対応する前記パラメータに基づいて前記触媒の劣化を判定する触媒劣化判定部と
を備えていることを特徴とするエンジン排気系の劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン排気系の劣化診断装置において、
前記積算部は、前記積算酸素量に対応する前記パラメータとして、前記空燃比制御部が前記目標空燃比を前記リーンからリッチに移行させた後に前記触媒に吸蔵された酸素を消費するために必要な燃料消費量を積算し、
前記触媒劣化判定部は、前記積算酸素量に対応する前記燃料消費量に基づいて前記触媒の劣化を判定する、
ことを特徴とするエンジン排気系の劣化診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジン排気系の劣化診断装置において、
前記時間計測部は、前記空燃比制御部が前記目標空燃比を前記リーンからリッチへ移行した後において、前記空燃比センサの測定値が前記第2閾値を上回ってから前記第1閾値を上回るまでの第2経過時間を計測し、
前記センサ劣化判定部は、前記第2経過時間に基づいて前記空燃比センサのリッチ側の劣化を判定する、
ことを特徴とするエンジン排気系の劣化診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジン排気系の劣化診断装置において、
前記センサ劣化判定部は、リーン側の判定結果およびリッチ側の判定結果のうちいずれか1つが劣化していると判定した場合に、前記空燃比センサが劣化していると判定する、
ことを特徴とする
エンジン排気系の劣化診断装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジン排気系の劣化診断装置において、
駆動源として前記エンジンとともにモータを備えたハイブリッド車両のエンジン排気系の劣化診断のために適用される、
ことを特徴とするエンジン排気系の劣化診断装置。
【請求項6】
エンジンの排気通路に配設され、排気ガスの浄化を行う触媒と、
前記排気通路における前記触媒よりも下流側の位置に配設され、排気ガスの空燃比を測定する空燃比センサとを備えたエンジン排気系における劣化診断方法であって、
エンジンの目標空燃比をリーンに移行するリーン移行行程と、
前記目標空燃比のリーンへの移行後に、前記空燃比センサの測定値が第1閾値を下回ってから前記第1閾値よりもリーン側に設定された第2閾値を下回るまでの第1経過時間を計測する時間計測行程と、
前記第1経過時間に基づいて前記空燃比センサの劣化を判定するセンサ劣化判定行程と、
前記目標空燃比のリーンへの移行後に前記空燃比センサの測定値が前記第2閾値よりもリーン側に設定された所定の第3閾値を下回るまでに触媒に吸蔵された酸素量を積算した積算酸素量または前記積算酸素量に対応するパラメータを求める酸素量積算行程と、
前記積算酸素量または前記積算酸素量に対応するパラメータに基づいて前記触媒の劣化を判定する触媒劣化判定行程と、
を含むことを特徴とするエンジン排気系の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン排気系の劣化診断装置、およびエンジン排気系の劣化診断方法に関する。さらに詳しくは、エンジンの排気系における空燃比センサおよび触媒の劣化診断を行うための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンが搭載された車両を長期間使用するとエンジンの排気経路に設けられた触媒が劣化するので、触媒が劣化しているか否か定期的に診断する必要がある。
【0003】
従来の触媒の劣化診断装置では、例えば、特許文献1に記載されているように、空燃比フィードバック制御における目標空燃比を強制的にリーン(すなわち、リーン側の領域)に移行させて触媒に酸素を吸蔵させ、触媒下流側の空燃比センサの測定値がリーン側に反転するまでの間に触媒に吸蔵された酸素量を求める。この吸蔵酸素量が基準量より大きいか否か判定することによって、触媒の酸素ストレージ能力の劣化を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒については上記のようにして劣化診断が行われるが、エンジンの排気経路に設けられた空燃比センサについても、目標空燃比をリッチまたはリーンへ移行したときのセンサ出力の変化に基づいて、当該センサが劣化しているかについても定期的に診断する必要がある。しかし、上記の劣化診断装置を用いて空燃比センサおよび触媒の劣化診断をそれぞれ行う場合、空燃比センサおよび触媒のそれぞれの劣化判定ごとに目標空燃比をリッチまたはリーンへ移行させる制御を行う必要があるので、排気ガスの有害成分が増えて排気ガス成分(EM)が悪化することが懸念される。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、空燃比センサおよび触媒の劣化判定に伴う排気ガス成分の悪化を抑制することが可能なエンジン排気系の劣化診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエンジン排気系の劣化診断装置は、エンジンの排気通路に配設され、排気ガスの浄化を行う触媒と、前記排気通路における前記触媒よりも下流側の位置に配設され、排気ガスの空燃比を測定する空燃比センサと、前記触媒および前記空燃比センサの劣化を判定する制御ユニットと、を備えたエンジン排気系の劣化診断装置であって、前記制御ユニットは、エンジンの目標空燃比をリッチおよびリーンのいずれかに移行させる制御を行う空燃比制御部と、前記空燃比制御部が前記目標空燃比をリーンに移行させた後に、前記空燃比センサの測定値が所定の第1閾値を下回ってから前記第1閾値よりもリーン側に設定された所定の第2閾値を下回るまでの第1経過時間を計測する時間計測部と、前記第1経過時間に基づいて前記空燃比センサの劣化を判定するセンサ劣化判定部と、前記目標空燃比のリーンへの移行後に前記空燃比センサの測定値が前記第2閾値よりもリーン側に設定された所定の第3閾値を下回るまでに触媒に吸蔵された酸素量を積算した積算酸素量または前記積算酸素量に対応するパラメータを求める積算部と、前記積算酸素量または前記積算酸素量に対応するパラメータに基づいて前記触媒の劣化を判定する触媒劣化判定部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の劣化診断装置では、制御ユニットは、一度のリーン期間で触媒および空燃比センサの劣化を判定することが可能な構成として上記の構成を有する。この構成では、空燃比制御部が目標空燃比をリーンに移行させた後に、空燃比センサの測定値が所定の第1閾値を下回ってから前記第1閾値よりもリーン側に設定された所定の第2閾値を下回るまでの第1経過時間を時間計測部が計測する。センサ劣化判定部は、当該第1経過時間に基づいて、空燃比センサの劣化を判定する。一方、積算部は、前記目標空燃比のリーンへの移行後に、空燃比センサの測定値が第2閾値よりもリーン側に設定された所定の第3閾値を下回るまでに触媒に吸蔵された酸素量を積算して積算酸素量を求めるか、または積算酸素量に対応するパラメータを求める。触媒劣化判定部は、積算酸素量またはそれに対応するパラメータに基づいて前記触媒の劣化を判定する。
【0009】
このような構成では、共通のリーン期間の中に、空燃比センサが変化する期間および触媒へ酸素が吸蔵される期間を設定することが可能になるため、一度のリーンへの移行で空燃比センサと触媒の劣化判定することが可能である。その結果、空燃比センサおよび触媒の劣化判定のために空燃比を強制的にリーンに移行する制御の回数を削減し、空燃比センサおよび触媒の劣化判定に伴う排気ガス成分の悪化を抑制することが可能である。
【0010】
上記のエンジン排気系の劣化診断装置において、前記積算部は、前記積算酸素量に対応する前記パラメータとして、前記空燃比制御部が前記目標空燃比を前記リーンからリッチに移行させた後に前記触媒に吸蔵された酸素を消費するために必要な燃料消費量を積算し、前記触媒劣化判定部は、前記積算酸素量に対応する前記燃料消費量に基づいて前記触媒の劣化を判定してもよい。
【0011】
かかる構成によれば、前記積算部は、前記積算酸素量に対応するパラメータとして、前記空燃比制御部が前記目標空燃比を前記リーンからリッチへ移行した後に前記触媒に吸蔵された酸素を消費するために必要な燃料消費量を積算する。これにより、リーン期間における触媒の積算酸素量を、リーンからリッチへ移行後に触媒に吸蔵された酸素を消費する燃料消費量によって間接的に求めることが可能になる。したがって、触媒劣化判定部によって、積算酸素量に対応する前記燃料消費量に基づいて触媒の劣化を判定することが可能になる。
【0012】
上記のエンジン排気系の劣化診断装置において、前記時間計測部は、前記空燃比制御部が前記目標空燃比を前記リーンからリッチへ移行した後において、前記空燃比センサの測定値が前記第2閾値を上回ってから前記第1閾値を上回るまでの第2経過時間を計測し、前記センサ劣化判定部は、前記第2経過時間に基づいて前記空燃比センサのリッチ側の劣化を判定するのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、リーン側での空燃比センサの劣化だけでなく、リッチ側での空燃比センサの劣化も判定することができる。
【0014】
上記のエンジン排気系の劣化診断装置において、前記センサ劣化判定部は、リーン側の判定結果およびリッチ側の判定結果のうちいずれか1つが劣化していると判定した場合に、前記空燃比センサが劣化していると判定するのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、リーン側の判定結果およびリッチ側の判定結果のうちいずれか1つが劣化していると判定した場合に、前記空燃比センサが劣化していると判定するので、空燃比センサの劣化をより正確に判定することが可能である。
【0016】
上記のエンジン排気系の劣化診断装置において、駆動源として前記エンジンとともにモータを備えたハイブリッド車両のエンジン排気系の劣化診断のために適用されるのが好ましい。
【0017】
ハイブリッド車両では、減速時などにおいてエンジンが駆動せずに排気ガスを排出しない時間がガソリン車などと比較して多くなるので、車両走行中においてエンジン排気系の空燃比センサおよび触媒の劣化診断可能な時間が少なくなる。しかし、上記の劣化診断装置を用いることにより、ハイブリッド車両においてもエンジン駆動中のわずかの時間に一度のリーンへの移行で空燃比センサと触媒の劣化判定することが可能であるので、排気ガス成分の悪化を抑制することが可能である。その結果、ハイブリッド車両のより環境にやさしい走行が可能になる。
【0018】
本発明のエンジン排気系の劣化診断方法は、エンジンの排気通路に配設され、排気ガスの浄化を行う触媒と、前記排気通路における前記触媒よりも下流側の位置に配設され、排気ガスの空燃比を測定する空燃比センサとを備えたエンジン排気系における劣化診断方法であって、エンジンの目標空燃比をリーンに移行するリーン移行行程と、前記目標空燃比のリーンへの移行後に、前記空燃比センサの測定値が第1閾値を下回ってから前記第1閾値よりもリーン側に設定された第2閾値を下回るまでの第1経過時間を計測する時間計測行程と、 前記第1経過時間に基づいて前記空燃比センサの劣化を判定するセンサ劣化判定行程と、 前記目標空燃比のリーンへの移行後に前記空燃比センサの測定値が前記第2閾値よりもリーン側に設定された所定の第3閾値を下回るまでに触媒に吸蔵された酸素量を積算した積算酸素量または前記積算酸素量に対応するパラメータを求める酸素量積算行程と、前記積算酸素量または前記積算酸素量に対応するパラメータに基づいて前記触媒の劣化を判定する触媒劣化判定行程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
かかる特徴によれば、共通のリーン期間の中に、空燃比センサが変化する期間および触媒へ酸素が吸蔵される期間を設定することが可能になるため、一度のリーンへの移行で空燃比センサと触媒の劣化判定することが可能である。その結果、空燃比センサおよび触媒の劣化判定のために空燃比を強制的にリーンに移行する制御の回数を削減し、排気ガス成分の悪化を抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のエンジン排気系の劣化診断装置および劣化診断方法によれば、空燃比センサおよび触媒の劣化判定のための空燃比を強制的にリーンへ移行する制御の回数を削減し、排気ガス成分の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るエンジン排気系の劣化診断装置が適用されたハイブリッド車両の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のコントローラの内部構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断方法の手順を示すフローチャートの前半部分である。
【
図4】
図3のフローチャートの前半部分に続くフローチャートの後半部分である。
【
図5】
図3~4のフローチャートに基づく劣化診断方法における、リヤ空燃比センサおよび触媒の両方が正常な場合の診断チャートである。
【
図6】
図3~4のフローチャートに基づく劣化診断方法における、リヤ空燃比センサが劣化した場合の診断チャートである。
【
図7】
図3~4のフローチャートに基づく劣化診断方法における、触媒が劣化した場合の診断チャートである。
【
図8】第2実施形態のエンジン排気系の劣化診断方法の手順を示すフローチャートの前半部分である。
【
図9】
図8のフローチャートの前半部分に続くフローチャートの後半部分である。
【
図10】
図8~9のフローチャートに基づく劣化診断方法における、リヤ空燃比センサおよび触媒の両方が正常な場合の診断チャートである。
【
図11】
図8~9のフローチャートに基づく劣化診断方法における、リヤ空燃比センサが劣化した場合の診断チャートである。
【
図12】
図8~9のフローチャートに基づく劣化診断方法における、触媒が劣化した場合の診断チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0023】
(第1実施形態)
[ハイブリッド車両の全体構成]
図1は本発明に係るエンジン排気系の劣化診断装置が適用されたハイブリッド車両の概略的な構成を示すブロック図である。同図に示すハイブリッド車両(以下、HV車両)1は、エンジン2、モータ4、変速機6、クラッチCL1、デファレンシャルギヤ8、駆動輪10、インバータ12、バッテリ14、およびコントローラ16を備える。エンジン2およびモータ4は何れも走行用の駆動力を発生する。
【0024】
エンジン2は、燃料を燃焼することにより駆動力を発生する内燃機関であり、具体的には、ガソリンを主成分とする燃料を用いるガソリンエンジンである。ガソリンエンジンでは、通常の車両走行時において目標空燃比を理論空燃比に制御する一方、後述の触媒25およびリヤ空燃比センサ27の劣化診断の際には空燃比をリッチまたはリーンに変動させる。
【0025】
エンジン2の吸気通路21には、吸気通路21を流れる空気の流量を調整するスロットルバルブ22と、スロットルバルブ22の上流側に配置され、当該スロットルバルブ22の上流側における吸気通路21内の空気流量を測定するエアフローセンサ23とが配設されている。
【0026】
また、エンジン2の排気通路24には、エンジン2から排出された排気ガスの浄化を行う触媒25と、2つの空燃比センサ26および27、すなわち、触媒25よりも上流側の位置に配設され、当該触媒25よりも上流側の位置における排気ガスの空燃比を測定するリニア空燃比センサ26と、触媒25よりも下流側の位置に配設され、排気ガスの空燃比を測定するリヤ空燃比センサ27とが配設されている。
【0027】
触媒25は、排気ガスの浄化を行う三元触媒などによって構成され、目標空燃比がリーンの状態では酸素を吸蔵し、リッチの状態では吸蔵された酸素が消費される性質を有する。すなわち、触媒25が正常な状態ではリーンの時には所定値以上の十分な量の酸素を吸蔵することが可能であるのに対し、触媒25が劣化した状態では十分な酸素吸蔵量が得られない。
【0028】
リヤ空燃比センサ27は、本発明の空燃比センサに対応するセンサである。リヤ空燃比センサ27は、触媒25よりも下流側の位置で排気ガスの空燃比を測定することが可能なセンサであればいかなるセンサでもよく、例えば、排気ガス中の酸素濃度を測定可能なO2センサなどがリヤ空燃比センサ27として採用される。
【0029】
リヤ空燃比センサ27は、排気ガスの空燃比の測定値として、
図5のRO2電圧を出力する。RO2電圧の大きさは、例えば、目標空燃比がリーンであるときに0V、リッチであるときに1Vであり、リーン-リッチ間で移行している状態ではそれに対応して0Vと1Vとの間でシフトする。
【0030】
リヤ空燃比センサ27が正常な状態では、目標空燃比がリーンまたはリッチへ移行した時にはリヤ空燃比センサ27の測定値(
図5のRO2電圧)がリーン側またはリッチ側へ応答性良く短時間に速やかにシフトするが、リヤ空燃比センサ27が劣化した状態では応答性が悪化し、リーン側またはリッチ側へシフトする時間が長くなる。
【0031】
リニア空燃比センサ26は、リヤ空燃比センサ27とともに、後述する空燃比制御部31による目標空燃比をストイキ(理論空燃比)に保つためのフィードバック制御、および触媒25の酸素吸蔵量の算出のためなどに用いられる。また、リニア空燃比センサ26は、排気通路24における触媒25の上流側に配置されているので、触媒25への触媒吸蔵酸素量の算出にも用いられる。
【0032】
モータ4は、例えば三相交流同期型モータジェネレータであり、バッテリ14に蓄えられた電力の供給を受けて駆動力を発生する。HV車両1の減速時には、モータ4は、駆動輪10から伝達される回転力によって発電する。この場合、駆動輪10には、モータ4が発電する電力に応じた制動力が作用する。モータ4の発電により生成された電力は、インバータ12を介してバッテリ14に充電される。
【0033】
エンジン2とモータ4とは、クラッチCL1を介して直列に接続されている。また、モータ4は、変速機6、デファレンシャルギヤ8を介して駆動輪10の駆動軸に接続されている。この構成により、エンジン2およびモータ4は、変速機6等を介して駆動輪10に駆動力又は制動力を付与することが可能である。
【0034】
クラッチCL1は、エンジン2の出力軸(クランク軸)とモータ4の回転軸(ロータ軸)とを断続する。この出力軸と回転軸との断続により、エンジン2とモータ4との間のトルクの伝達と遮断とが切り替えられる。
【0035】
変速機6は、モータ4の回転軸の回転を変速して出力する機能を有し、当例では、例えば前進6速、後退1速の変速機が適用される。変速機6の入力軸は、モータ4の回転軸に接続されており、出力軸は、直接又はドライブシャフトを介して間接的にデファレンシャルギヤ8に接続されている。クラッチCL2が切断(開放)されると、入力軸と出力軸との間のトルク伝達が遮断される。
【0036】
このHV車両1では、クラッチCL2が接続され、クラッチCL1が切断された状態では、モータ4が発生する駆動力のみが変速機6等を介して駆動輪10に付与される。一方、クラッチCL1、CL2の双方が接続された状態では、エンジン2およびモータ4の駆動力が変速機6等を介して駆動輪10に付与される。この際、モータ4が駆動力を発生しない場合(モータ4への電力供給が遮断される場合)には、エンジン2で発生する駆動力のみが変速機6等を介して駆動輪10に付与される。
【0037】
つまり、HV車両1は、モータ4の駆動力のみによる走行するモードと、モータ4とエンジン2の双方の駆動力により走行するモードと、エンジン2の駆動力のみにより走行するモードのうち、何れかのモードでの走行が可能である。
【0038】
バッテリ14は、充放電可能な二次電池であり、バッテリ14としては、例えば、リチウムイオンバッテリやニッケル水素バッテリが適用される。バッテリ14は、インバータ12を介してバッテリ14に電力を供給すると共に、モータ4が生成した電力を、インバータ12を介して受け入れることにより蓄電する。
【0039】
インバータ12は、三相交流電力と直流電力とを相互に変換する。すなわち、インバータ12は、モータ4で駆動力を生成する場合には、バッテリ14に蓄えられた直流電力を三相交流電力に変換してモータ4に供給する一方、モータ4で三相交流電力が生成されると、当該三相交流電力を直流電力に変換してバッテリ14に供給する。
【0040】
コントローラ16は、HV車両1の駆動制御のために、運転条件に応じたHV車両1の走行が実現されるように、エンジン2、インバータ12(モータ4)、変速機6およびクラッチCL1等を統括指摘に制御する。コントローラ16は、周知のマイクロコンピュータをベースとして構成されており、各種プログラムを実行するCPU(中央演算処理装置)と、プログラムや各種データを記憶するためのROMおよびRAM等のメモリとを備える。
【0041】
本実施形態のコントローラ16は、さらに、触媒25およびリヤ空燃比センサ27の劣化判定を行うための機能を有し、当該機能を実現するために後述の
図2に示される構成(空燃比制御部31、時間計測部32、積算部33、センサ劣化判定部34、および触媒劣化判定部35)を備えている。すなわち、コントローラ16は、本発明の制御ユニットに対応する。
【0042】
言い換えれば、本実施形態に係るエンジン排気系の劣化診断装置は、上記の触媒25と、リヤ空燃比センサ27と、コントローラ16とによって構成され、全体的に見れば、駆動源としてエンジン2とともにモータ4を備えた上記のHV車両1のエンジン排気系の劣化診断のために適用されている。
【0043】
図2に示されるコントローラ16は、目標空燃比のリーンへの移行を1度行うことによりリヤ空燃比センサ27および触媒25の劣化判定を行うことが可能な構成として、上記の空燃比制御部31と、時間計測部32と、積算部33と、センサ劣化判定部34と、触媒劣化判定部35とを備えている。
【0044】
空燃比制御部31は、エンジン2の目標空燃比をリッチおよびリーンのいずれかに移行させる制御を行う。
【0045】
時間計測部32は、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンに移行させた後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(具体的には、
図5のRO2電圧)が所定の第1閾値Cを下回ってから第1閾値Cよりもリーン側に設定された所定の第2閾値Dを下回るまでの第1経過時間β(
図5参照)を計測する。
【0046】
センサ劣化判定部34は、第1経過時間βに基づいてリヤ空燃比センサ27の劣化を判定する。例えば、センサ劣化判定部34は、第1経過時間βが閾値β1を下回ってる場合は正常と判定し、下回っていない場合(すなわち、閾値β1以上の場合)は劣化していると判定する。
【0047】
積算部33は、目標空燃比のリーンへの移行後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dよりもリーン側に設定された所定の第3閾値Bを下回るまでに触媒25に吸蔵された酸素量を積算して積算酸素量α(
図5参照)を求める。なお、積算部33は、後述の第2実施形態のように、積算酸素量αに対応するパラメータ、例えば、燃料消費量εを求めてもよい。
【0048】
触媒劣化判定部35は、積算酸素量αに基づいて触媒25の劣化を判定する。例えば、触媒劣化判定部35は、積算酸素量αが閾値α1を上回っている場合は正常と判定し、上回っていない場合(すなわち、閾値α1以下の場合)は劣化していると判定する。なお、触媒劣化判定部35は、後述の第2実施形態のように、積算酸素量αに対応するパラメータ(例えば、燃料消費量ε)に基づいて触媒25の劣化を判定してもよい。
【0049】
また、本実施形態の劣化診断装置は、リッチ側におけるリヤ空燃比センサ27の劣化判定をする機能もさらに有する。
【0050】
具体的には、時間計測部32は、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンからリッチへ移行した後において、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dを上回ってから第1閾値Cを上回るまでの第2経過時間γ(
図5参照)を計測する。
【0051】
それに応じて、センサ劣化判定部34は、第2経過時間γに基づいてリヤ空燃比センサ27のリッチ側の劣化を判定する。リッチ側の判定の場合も、上記のリーン側の判定と同様に、センサ劣化判定部34は、第2経過時間γが閾値γ1を下回ってる場合は正常と判定し、下回っていない場合(すなわち、閾値γ1以上の場合)は劣化していると判定する。
【0052】
また、センサ劣化判定部34は、上記のようにリーン側およびリッチ側の両方で劣化判定を行う場合には、リーン側の判定結果およびリッチ側の判定結果のうちいずれか1つが劣化していると判定した場合に、リヤ空燃比センサ27が劣化していると判定すればよい。
【0053】
なお、本発明では、リヤ空燃比センサ27の劣化判定は少なくともリーン側の判定を行えばよく、リッチ側の判定は必須ではない。
【0054】
(第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断方法の説明)
<劣化診断方法の概要>
上記のように構成されたエンジン排気系の劣化判定装置を用いて劣化診断方法を行う場合、以下の手順で行われる。
【0055】
すなわち、劣化診断方法は、大きく分けて、以下の5つの行程(1)~(5)で行われる。
(1)エンジン2の目標空燃比をリーンに移行するリーン移行行程。
(2)目標空燃比のリーンへの移行後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第1閾値Cを下回ってから第1閾値Cよりもリーン側に設定された第2閾値Dを下回るまでの第1経過時間βを計測する時間計測行程。
(3)第1経過時間βに基づいてリヤ空燃比センサ27の劣化を判定するセンサ劣化判定行程。
(4)目標空燃比のリーンへの移行後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dよりもリーン側に設定された所定の第3閾値Bを下回るまでに触媒25に吸蔵された酸素量を積算して積算酸素量αを求める(または積算酸素量αに対応するパラメータ(後述の燃料消費量ε)を求める)酸素量積算行程。
(5)積算酸素量α(または積算酸素量αに対応するパラメータ(後述の燃料消費量ε)に基づいて触媒25の劣化を判定する触媒劣化判定行程。
【0056】
<劣化診断方法の具体例>
つぎに、第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断方法の具体例を、
図3~4のフローチャートおよび
図5の正常時の診断チャートを参照しながら詳細に説明する。この説明では、リヤ空燃比センサ27を
図3~5に示されるように「RO2センサ27」と呼ぶ。
【0057】
コントローラ16は、例えば、HV車両1がエンジン2のみの駆動力で走行するモードで走行中のときに定期的に(またはドライバのマニュアル操作によって診断開始入力信号を受けたときに)劣化診断のプログラムを開始する。
【0058】
劣化診断プログラムが開始されると、まず、
図3のフローチャートのステップS1において、コントローラ16の空燃比制御部31が目標空燃比をリッチに移行する制御をする。
【0059】
その後ステップS2において、コントローラ16は、RO2センサ27の測定値(
図5のRO2電圧)が基準電圧Aを上回るまで待機する。基準電圧Aを上回ったときには、触媒25に吸蔵されていた酸素をすべて消費して積算酸素量α(
図5参照)を0にすることが可能になり、言い換えれば、リーン移行前に積算酸素量αを0にリセットすることが可能になる。
【0060】
RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が基準電圧Aを上回った後、ステップS3では、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンに移行する制御をする。なお、ステップS3は、上記の(1)リーン移行行程に対応する。
【0061】
そしてステップS4において、積算部33は、目標空燃比がリーンにおける積算酸素量αの演算を開始する。積算酸素量αは、例えば、エアフローセンサ23から得た空気流量に、リニア空燃比センサ26から得た触媒25の上流側の空燃比(具体的には酸素濃度)とRO2センサ27から得た触媒25の下流側の空燃比(具体的には酸素濃度)との差分を乗じるなどの方法によって求められる。
【0062】
その後ステップS5において、コントローラ16は、RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が第1閾値Cすなわち基準電圧Cを下回るまで待機する。
【0063】
基準電圧Cを下回ったときには、ステップS6において、時間計測部32は第1経過時間β(
図5参照)の計測を開始する。
【0064】
その後ステップS7において、コントローラ16の時間計測部32は、RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dすなわち基準電圧Dを下回るまで第1経過時間βの計測を続ける。
【0065】
RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が基準電圧Dを下回ったときには、ステップS8において、時間計測部32は第1経過時間βの計測を終了する。上記のようなステップS6~S8は、上記の(2)時間計測行程に対応する。
【0066】
ついで、ステップS9において、コントローラ16のセンサ劣化判定部34は、第1経過時間βが閾値β1(
図5参照)を下回ったか否か判別する。センサ劣化判定部34は、第1経過時間βが閾値β1(
図5参照)を下回ったと判別した場合には、ステップS10のように、RO2センサ27は正常である(すなわち、RO2時定数は「正常」である)と判定し、一方、第1経過時間βが閾値β1を下回っていない(すなわち、閾値β1以上である)と判別した場合には、ステップS11のように、RO2センサ27は劣化(具体的には、応答劣化)している(すなわち、RO2時定数は「劣化」である)と判定する。上記のようなステップS9~S11は、上記の(3)センサ劣化判定行程に対応する。
【0067】
その後ステップS12において、コントローラ16の積算部33は、RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が第3閾値Bすなわち基準電圧Bを下回るまで積算酸素量αの積算を続ける。上記のようなステップS4およびステップS12は、上記の(4)酸素量積算行程に対応する。
【0068】
RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が基準電圧Bを下回ったときには、ステップS13において、コントローラ16の触媒劣化判定部35は、積算酸素量αが閾値α1(
図5参照)を上回ったか否か判別する。触媒劣化判定部35は、積算酸素量αが閾値α1(
図5参照)を上回ったと判別した場合には、ステップS14のように、触媒25は正常であると判定し、一方、積算酸素量αが閾値α1(
図5参照)を上回っていない(すなわち、閾値α1以下である)と判別した場合には、ステップS15のように、触媒25は劣化(具体的には、酸素吸蔵能力において劣化)していると判定する。上記のようなステップS13~S15は、上記の(5)触媒劣化判定行程に対応する。
【0069】
上記のステップS13~S15の触媒25の劣化判定を行った後は、以下のようにしてRO2センサ27のリッチ側の劣化判定を行う。
【0070】
まず、ステップS16では、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンからリッチに移行する制御をする。
【0071】
そしてステップS17において、コントローラ16は、RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dすなわち基準電圧Dを上回るまで待機する。
【0072】
基準電圧Dを上回ったときには、ステップS18において、時間計測部32は第2経過時間γ(
図5参照)の計測を開始する。
【0073】
その後ステップS19において、コントローラ16の時間計測部32は、RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が第1閾値Cすなわち基準電圧Cを上回るまで第2経過時間γの計測を続ける。
【0074】
RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が基準電圧Cを上回ったときには、ステップS20において、時間計測部32は第2経過時間γの計測を終了する。
【0075】
ついで、ステップS21において、コントローラ16のセンサ劣化判定部34は、第2経過時間γが閾値γ1(
図5参照)を下回ったか否か判別する。センサ劣化判定部34は、第2経過時間γが閾値γ1(
図5参照)を下回ったと判別した場合には、ステップS22のように、RO2センサ27は正常である(すなわち、RO2時定数は「正常」である)と判定し、一方、第2経過時間γが閾値γ1(
図5参照)を下回っていない(すなわち、閾値γ1以上である)と判別した場合には、ステップS23のように、RO2センサ27は劣化している(すなわち、RO2時定数は「劣化」である)と判定する。
【0076】
上記のステップS21~S23のRO2センサ27のリッチ側の劣化判定を行った後、ステップS24において、空燃比制御部31が目標空燃比をストイキになるように制御することにより、劣化診断方法の一連のプログラムが終了する。
【0077】
なお、RO2センサ27がリーン側で劣化している場合には、上記のステップS9およびS11のように、第1経過時間βが閾値β1を下回っていない、すなわち、閾値β1以上になる(
図6の第1経過時間βの破線参照)。また、RO2センサ27がリッチ側で劣化している場合には、上記のステップS21およびS23のように、第2経過時間γが閾値γ1を下回っていない、すなわち、閾値γ1以上になる(
図6の第2経過時間γの破線参照)。リーン側およびリッチ側のいずれの場合もRO2センサ27が劣化すると、
図6のRO2電圧の破線のように、RO2センサ27のリーン側またはリッチ側へシフトする応答性が正常時の実線と比較して悪くなる(
図6のRO2電圧の破線のように曲線の勾配が緩やかになる)ことが分かる。また、RO2センサ27の応答劣化の影響により、目標空燃比のリッチ-リーン間の移行制御についても、
図6の目標空燃比の破線のように、正常時の実線と比較して時間的なズレが生じる。
【0078】
また、触媒25が劣化している場合には、上記のステップS13およびS15のように、積算酸素量αが閾値α1を上回っていない、すなわち、閾値α1以下になる(
図7の積算酸素量αの破線参照)。このように、触媒25の酸素吸蔵能力が劣化することにより、目標空燃比のリッチ-リーン間の移行制御について、
図7の目標空燃比の破線のように、正常時の実線と比較して時間的なズレが生じる。それとともに、RO2電圧についても
図7のRO2電圧の破線のように正常時の実線と比較して時間的なズレが生じる。
【0079】
(第1実施形態の特徴)
(1)
第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断装置では、コントローラ16は、一度のリーン期間で触媒25およびリヤ空燃比センサ27の劣化を判定することが可能な構成(空燃比制御部31、時間計測部32、積算部33、センサ劣化判定部34、および触媒劣化判定部35)を有する。この構成では、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンに移行させた後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が所定の第1閾値Cを下回ってから第1閾値Cよりもリーン側に設定された所定の第2閾値Dを下回るまでの第1経過時間βを時間計測部32が計測する。センサ劣化判定部34は、当該第1経過時間βに基づいて、リヤ空燃比センサ27の劣化を判定する。一方、積算部33は、目標空燃比のリーンへの移行後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dよりもリーン側に設定された所定の第3閾値Bを下回るまでに触媒25に吸蔵された酸素量を積算して積算酸素量αを求める。触媒劣化判定部35は、積算酸素量αに基づいて触媒25の劣化を判定する。
【0080】
また、上記の劣化診断装置に対応して、第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断方法は、以下の行程(1)~(5)、すなわち、(1)エンジン2の目標空燃比をリーンに移行するリーン移行行程、(2)目標空燃比のリーンへの移行後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第1閾値Cを下回ってから第1閾値Cよりもリーン側に設定された第2閾値Dを下回るまでの第1経過時間βを計測する時間計測行程、(3)第1経過時間βに基づいてリヤ空燃比センサ27の劣化を判定するセンサ劣化判定行程、(4)目標空燃比のリーンへの移行後に、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dよりもリーン側に設定された所定の第3閾値Bを下回るまでに触媒25に吸蔵された酸素量を積算して積算酸素量αを求める酸素量積算行程、および(5)積算酸素量αに基づいて触媒25の劣化を判定する触媒劣化判定行程を含む。
【0081】
上記のような劣化診断装置および劣化診断方法では、共通のリーン期間の中に、リヤ空燃比センサ27が変化する期間および触媒25へ酸素が吸蔵される期間を設定することが可能になるため、一度のリーンへの移行でリヤ空燃比センサ27と触媒25の劣化判定することが可能である。その結果、リヤ空燃比センサ27および触媒25の劣化判定のために空燃比を強制的にリーンに移行する制御の回数を削減し、空燃比センサおよび触媒の劣化判定に伴う排気ガス成分の悪化を抑制することが可能である。
【0082】
(2)
第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断装置では、時間計測部32は、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンからリッチへ移行した後において、リヤ空燃比センサ27の測定値(RO2電圧)が第2閾値Dを上回ってから第1閾値Cを上回るまでの第2経過時間γを計測する。センサ劣化判定部34は、第2経過時間γに基づいてリヤ空燃比センサ27のリッチ側の劣化を判定する。
【0083】
かかる構成によれば、リーン側でのリヤ空燃比センサ27の劣化だけでなく、リッチ側でのリヤ空燃比センサ27の劣化も判定することができる。
【0084】
(3)
第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断装置では、センサ劣化判定部34は、リーン側の判定結果およびリッチ側の判定結果のうちいずれか1つが劣化していると判定した場合に、リヤ空燃比センサ27が劣化していると判定するようにしてもよい。
【0085】
かかる構成によれば、リーン側の判定結果およびリッチ側の判定結果のうちいずれか1つが劣化していると判定した場合に、リヤ空燃比センサ27が劣化していると判定するので、リヤ空燃比センサ27の劣化をより正確に判定することが可能である。
【0086】
(4)
第1実施形態のエンジン排気系の劣化診断装置は、駆動源としてエンジン2とともにモータ4を備えたHV車両1のエンジン排気系の劣化診断のために適用される。
【0087】
HV車両1では、減速時などにおいてエンジンが駆動せずに排気ガスを排出しない時間がガソリン車などと比較して多くなるので、車両走行中においてエンジン排気系のリヤ空燃比センサ27および触媒25の劣化診断可能な時間が少なくなる。しかし、上記の劣化診断装置を用いることにより、HV車両1においてもエンジン駆動中のわずかの時間に一度のリーンへの移行でリヤ空燃比センサ27と触媒25の劣化判定することが可能であるので、排気ガス成分の悪化を抑制することが可能である。その結果、HV車両1のより環境にやさしい走行が可能になる。
【0088】
なお、上記実施形態の劣化診断装置はHV車両1のエンジン排気系の劣化診断のために適用されているが、本発明はこれに限定されているものではなく、ガソリンエンジンのみを搭載したガソリン車のエンジン排気系の劣化診断に適用することが可能である。
【0089】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態の劣化診断装置では、積算部33は、リーン側の積算酸素量αを直接的に求め、触媒劣化判定部35は、当該積算酸素量αに基づいて触媒25の劣化を判定するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0090】
以下の第2実施形態の劣化診断装置では、積算部33は、積算酸素量αに対応するパラメータとして、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンからリッチに移行した後に触媒25に吸蔵された酸素を消費するために必要な燃料消費量を積算するようにしてもよい。この場合、触媒劣化判定部35は、積算酸素量αに対応する燃料消費量に基づいて触媒25の劣化を判定する。なお、第2実施形態の劣化診断装置のその他の構成(具体的には、触媒25、リヤ空燃比センサ27、空燃比制御部31、時間計測部32、およびセンサ劣化判定部34)は、第1実施形態の劣化診断装置の構成と共通しているので、説明を省略する。
【0091】
この構成では、積算部33は、積算酸素量αに対応するパラメータとして、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンからリッチへ移行した後に触媒25に吸蔵された酸素を消費するために必要な燃料消費量を積算する。これにより、リーン期間における触媒25の積算酸素量αを、リーンからリッチへ移行後に触媒25に吸蔵された酸素を消費する燃料消費量によって間接的に求めることが可能になる。したがって、触媒劣化判定部35によって、積算酸素量αに対応する燃料消費量に基づいて触媒25の劣化を判定することが可能になる。
【0092】
(第2実施形態のエンジン排気系の劣化診断方法の説明)
この第2実施形態のように、積算酸素量αに対応する燃料消費量に基づいて触媒25の劣化を判定する場合も、以下のような手順で、一連のリッチ-リーン間の移行の間にリヤ空燃比センサ27(RO2センサ27)の劣化判定とともに行うことが可能である。
【0093】
<劣化診断方法の具体例>
以下、第2実施形態のエンジン排気系の劣化診断方法の具体例を、
図8~9のフローチャートおよび
図10の正常時の診断チャートを参照しながら詳細に説明する。この説明においても、リヤ空燃比センサ27を
図8~10に示されるように「RO2センサ27」と呼ぶ。
【0094】
この
図8~9のフローチャートは、上記の
図3~4のフローチャートと比較して、触媒25の劣化判定の手順が異なっているが、その他の手順、例えば、RO2センサ27の劣化判定の手順などは共通している。
【0095】
すなわち、劣化診断プログラムが開始されると、
図8のフローチャートのステップS31~S33では、上記の
図3のフローチャートのステップS1~S3と同様に、目標空燃比をリッチに移行制御し(ステップS31)、RO2センサ27のRO2電圧が基準電圧Aを上回るまで待機し(ステップS32)、目標空燃比をリーンに移行制御する(ステップS33)。
【0096】
ついで、
図8のステップS34において、積算部33は、目標空燃比がリーンにおける触媒25に吸蔵される酸素量である触媒吸蔵酸素量εの演算を開始する。触媒吸蔵酸素量εは、例えば、エアフローセンサ23から得た空気流量、リニア空燃比センサ26から得た触媒25の上流側の空燃比(具体的には酸素濃度)およびその他のパラメータを用いて、上記の第1実施形態の積算酸素量αとは異なる演算方法で求められる。
【0097】
その後、
図8のステップS35~S41では、上記の
図3のフローチャートのステップS5~S11と同様の処理を行い、RO2センサ27の劣化判定を行う。すなわち、RO2センサ27のRO2電圧が第1閾値Cすなわち基準電圧Cを下回るまで待機し(ステップS35)、基準電圧Cを下回ったときに第1経過時間β(
図10参照)の計測を開始し(ステップS36)、RO2センサ27のRO2電圧が第2閾値Dすなわち基準電圧Dを下回るまで第1経過時間βの計測を続け(ステップS37)、RO2センサ27のRO2電圧が基準電圧Dを下回ったときに時間計測部32は第1経過時間βの計測を終了する(ステップ38)。ついで、第1経過時間βが閾値β1(
図10参照)を下回ったか否か判別し(ステップS39)、下回ったと判別した場合にRO2センサ27は正常であると判定し(ステップS40)、一方、下回っていない(すなわち、閾値β1以上である)と判別した場合にRO2センサ27は劣化していると判定する(ステップS41)。
【0098】
ステップS42では、積算部33は、RO2センサ27の測定値(RO2電圧)が第3閾値Bすなわち基準電圧Bを下回るまで触媒吸蔵酸素量εの積算を続ける。
【0099】
触媒吸蔵酸素量εが基準値ε1を上回った場合(ステップS34がYesの場合)には、
図9のステップS44では、空燃比制御部31が目標空燃比をリーンからリッチに移行する制御をする。
【0100】
目標空燃比がリッチに移行した後、ステップS45において、積算部33は、積算酸素量に対応するパラメータとして、触媒25に吸蔵された酸素を消費するために必要な燃料消費量δの演算を開始する。燃料消費量δは、例えば、エンジン2の運転状態に応じて設定される燃料噴射量を積算して求められる。
【0101】
その後ステップS46において、積算部33は、RO2センサ27のRO2電圧が第3閾値Bすなわち基準電圧Bを上回るまで燃料消費量δの積算を続ける。
【0102】
RO2センサ27のRO2電圧が基準電圧Bを上回ったときには、ステップS47において、積算部33は燃料消費量δの演算を終了する。
【0103】
ついで、ステップS48において、触媒劣化判定部35は、燃料消費量δが閾値δ1(
図10参照)を上回ったか否か判別する。触媒劣化判定部35は、燃料消費量δが閾値δ1(
図10参照)を上回ったと判別した場合には、ステップS49のように、触媒25は正常であると判定し、一方、燃料消費量δが閾値δ1(
図10参照)を上回っていない(すなわち、閾値δ1以下である)と判別した場合には、ステップS50のように、触媒25は劣化(酸素吸蔵能力において劣化)していると判定する。
【0104】
以下のステップS51~S58では、上記の
図4のステップS17~S24と同様の手順でRO2センサ27のリッチ側の劣化判定を行う。
【0105】
すなわち、RO2センサ27のRO2電圧が第2閾値Dすなわち基準電圧Dを上回るまで待機し(ステップS51)、基準電圧Dを上回ったときには第2経過時間γ(
図10参照)の計測を開始し(ステップS52)、RO2センサ27のRO2電圧が第1閾値Cすなわち基準電圧Cを上回るまで第2経過時間γの計測を続け(ステップS53)、RO2センサ27のRO2電圧が基準電圧Cを上回ったときには第2経過時間γの計測を終了する(ステップS54)。ついで、第2経過時間γが閾値γ1(
図10参照)を下回ったか否か判別し(ステップS55)、第2経過時間γが閾値γ1を下回ったと判別した場合にはRO2センサ27は正常であると判定し(ステップS56)、一方、第2経過時間γが閾値γ1を下回っていない(すなわち、閾値γ1以上である)と判別した場合にはRO2センサ27は劣化していると判定する(ステップS57)。その後、ステップS58において、目標空燃比をストイキになるように制御することにより、劣化診断方法の一連のプログラムが終了する。
【0106】
上記の
図8~9のフローチャートで示される劣化診断方法においても、上記の
図3~4の診断方法と同様に、RO2センサ27がリーン側で劣化している場合には、
図11に示されるように、第1経過時間βが閾値β1以上になる(
図11の第1経過時間βの破線参照)。また、RO2センサ27がリッチ側で劣化している場合には、第2経過時間γが閾値γ1以上になる(
図11の第2経過時間γの破線参照)。リーン側およびリッチ側のいずれの場合もRO2センサ27が劣化すると、
図11のRO2電圧の破線のように、RO2センサ27のリーン側またはリッチ側へシフトする応答性が正常時の実線と比較して悪くなる(
図11のRO2電圧の破線のように曲線の勾配が緩やかになる)。
【0107】
また、触媒25が劣化している場合には、上記のステップS48およびS50のように、燃料消費量δが閾値δ1を上回っていない、すなわち、閾値δ1以下になる(
図12の燃料消費量δの破線参照)。すなわち、燃料消費量δに対応する積算酸素量が低下していることが間接的に知ることが可能である。このように、触媒25の酸素吸蔵能力が劣化することにより、目標空燃比のリッチ-リーン間の移行制御について、
図12の目標空燃比の破線のように、正常時の実線と比較して時間的なズレが生じる。それとともに、RO2電圧についても
図12のRO2電圧の破線のように正常時の実線と比較して時間的なズレが生じる。一方、リーン側で触媒25に吸蔵される触媒吸蔵酸素量εは、
図12に示される正常時の実線および劣化時の破線を比較しても、触媒25が正常であるか劣化しているかを問わず、所定の基準値ε1まで達していることが分かる。
【0108】
つまり、第2実施形態の劣化診断装置および劣化診断方法における触媒25の劣化判定では、リーン側で触媒25に吸蔵される触媒吸蔵酸素量εを所定の基準値ε1に達した状態にして劣化判定条件の同一性を担保しながら、リッチ側において触媒25に吸蔵された酸素を消費するために必要な燃料消費量の大小によって触媒25の劣化判定を行っている。したがって、この触媒25の劣化判定は、リヤ空燃比センサ27の測定値、すなわち、RO2センサ27のRO2電圧に依存していないので、RO2センサ27の劣化などの影響を受けずに、触媒25の劣化判定を正確に行うことが可能である。
【符号の説明】
【0109】
1 ハイブリッド車両(HV車両)
2 エンジン
16 コントローラ(制御ユニット)
24 排気通路
25 触媒
26 リニア空燃比センサ
27 リヤ空燃比センサ(空燃比センサ)
31 空燃比制御部
32 時間計測部
33 積算部
34 センサ劣化判定部
35 触媒劣化判定部