(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F16C 3/06 20060101AFI20250319BHJP
【FI】
F16C3/06
(21)【出願番号】P 2021162916
(22)【出願日】2021-10-01
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】宮内 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 るな
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-133630(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0143245(KR,A)
【文献】特開2014-095470(JP,A)
【文献】特開平07-077216(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02730791(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00800008(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒及び該気筒に往復摺動可能に収容されたピストンを備えたエンジン本体と、
メインジャーナル及びピンジャーナルを有し、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフトと、
前記ピストンと前記ピンジャーナルとを連結するコンロッドと、
潤滑油を介して前記メインジャーナルを軸支する第1軸受部材と、
前記ピンジャーナルの周上に配置され、潤滑油を介して前記コンロッドを軸支する第2軸受部材と、を備え、
前記ピンジャーナルは、前記ピストンが上死点に位置するときに当該ピストンと対向する対向領域に形成され、径方向内側へ窪む凹部を備え、
前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深い凹部である
内燃機関において、
前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、
前記凹部の前記軸方向幅は、前記クランクシャフトの回転方向上流側の方が下流側よりも幅広である、内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向中央側から前記軸方向端部に向けて徐々に深さが深くなる凹部である、内燃機関。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関において、
前記ピンジャーナルを周方向に展開した平面形状における、前記凹部の平面視の形状は、
前記周方向幅の回転方向上流端近傍において急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ膨出部と、前記膨出部から
前記軸方向端部に接近するように、前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る緩曲部と、
を有する形状である、内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記軸方向幅が長い部分ほど、前記軸方向端部における深さが深い、内燃機関。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、
前記凹部の深さは、前記周方向幅の回転方向上流端から下流側に向けて第1の傾きで深くなり、回転方向中央部よりも上流側に最深部が形成され、前記最深部から回転方向下流端に向けて第2の傾きで浅くなるプロファイルを有し、
前記第1の傾きは、前記第2の傾きよりも大きい傾きである、内燃機関。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の内燃機関において、
前記ピンジャーナルは、前記軸方向の一端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第1凹部と、前記軸方向の他端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第2凹部と、を備える内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトのピンジャーナルとコンロッドとの連結部において、潤滑油を介して軸受部材で前記コンロッドを軸支する構造を備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、気筒に往復摺動可能に収容されたピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフトを備える。クランクシャフトはメインジャーナル及びピンジャーナル有し、ピンジャーナルとピストンとはコンロッドで連結される。メインジャーナルは、潤滑油を介してシリンダブロックに保持された滑り軸受で軸支される。コンロッドは、潤滑油を介してピンジャーナルの周囲に配置された滑り軸受で軸支される。特許文献1には、メインジャーナルの外表面に複数の凹部を設け、潤滑油の保持性を高めるようにした内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の燃費向上には、各種の機械的損失の低減が求められる。上記の潤滑油についても、粘度が低い低粘度油を使用することが、摺動面の摩擦損失の抑制の観点から望ましい。しかし、低粘度油を使用した場合、ピンジャーナルの軸受部分で潤滑不良が発生し、ピンジャーナルに摩耗が発生する懸念がある。また、ピストンが燃焼圧力を受けた際、ピンジャーナルには、コンロッドにより軸方向と交差する方向に押圧されることによる変形力が作用する。このため、ピンジャーナル自体の変形による摩耗の発生も問題となる。
【0005】
本発明の目的は、ピンジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、ピンジャーナル自体の変形に伴うピンジャーナルの摩耗を抑制できる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る内燃機関は、気筒及び該気筒に往復摺動可能に収容されたピストンを備えたエンジン本体と、メインジャーナル及びピンジャーナルを有し、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフトと、前記ピストンと前記ピンジャーナルとを連結するコンロッドと、潤滑油を介して前記メインジャーナルを軸支する第1軸受部材と、前記ピンジャーナルの周上に配置され、潤滑油を介して前記コンロッドを軸支する第2軸受部材と、を備え、前記ピンジャーナルは、前記ピストンが上死点に位置するときに当該ピストンと対向する対向領域に形成され、径方向内側へ窪む凹部を備え、前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深い凹部であることを特徴とする。
【0007】
ピストンが燃焼圧力を受けると、クランクシャフトのピンジャーナルには、コンロッドを通して軸方向と交差する方向の押圧力が作用する。コンロッドからの押圧力が作用するのは、ピンジャーナルの周面のうち、前記ピストンが上死点に位置するときに当該ピストンと対向する対向領域である。前記押圧力は、ピンジャーナルを下向きの凸状に変形させる力となり、ピンジャーナルの周面を、第2軸受部材に接近させる方向に作用する。つまり、前記対向領域において、ピンジャーナルの周面が第2軸受部材に接触し易い状態が形成されてしまう。
【0008】
上記の内燃機関によれば、ピンジャーナルには、ピストンが上死点に位置するときに当該ピストンと対向する対向領域に凹部が形成され、且つ、前記凹部はピンジャーナルの軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部である。このため、ピストンからの押圧力が加わっても、ピンジャーナルにおける前記対向領域の周面と第2軸受部材との間のクリアランスは前記凹部によって確保され、両者の接触を回避することができる。一方、前記凹部が設けられない領域では、ピンジャーナルの周面と第2軸受部材との間のクリアランスを小さく設定することが可能である。このため、低粘度油を潤滑油として用いても、油抜けが生じ難く、潤滑性を確保することができる。従って、ピンジャーナルの軸受部分で潤滑性の維持と、ピンジャーナルの摩耗防止とを両立することができる。
【0009】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向中央側から前記軸方向端部に向けて徐々に深さが深くなる凹部であることが望ましい。
【0010】
コンロッドから燃焼荷重に由来する押圧力がピンジャーナルに加わると、前記対向領域において、ピンジャーナル周面の軸方向端部が最も第2軸受部材に接近する方向に変形し、軸方向中央に向かうに連れて変形量が少なくなる。上記の内燃機関によれば、このようなピンジャーナルの変形態様にマッチした深さ分布を有する凹部とすることができ、より好適に潤滑性を確保と摩耗防止とを図ることができる。
【0011】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、前記凹部の前記軸方向幅は、前記クランクシャフトの回転方向上流側の方が下流側よりも幅広であることが望ましい。
【0012】
とりわけ、前記ピンジャーナルを周方向に展開した平面形状における、前記凹部の平面視の形状は、前記周方向幅の回転方向上流端近傍において急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ膨出部と、前記膨出部から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る緩曲部と、を有する形状であることがより望ましい。
【0013】
本発明者らの解析によれば、コンロッドからピンジャーナルに作用する荷重は、前記対向領域において、クランクシャフトの回転方向上流側部分の方が下流側の部分よりも大きい傾向があることが判明した。より詳しくは、回転方向上流端近傍において最も大きな荷重が加わり、回転方向下流端に向かうに連れて前記荷重が漸減してゆくことが判明した。上記の内燃機関によれば、このような荷重傾向に沿った軸方向幅を有する凹部とすることができ、ピンジャーナルと第2軸受部材との接触をより確実に防止することができる。
【0014】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記軸方向幅が長い部分ほど、前記軸方向端部における深さが深いことが望ましい。
【0015】
この内燃機関によれば、凹部の軸方向幅が長い部分において、ピンジャーナルと第2軸受部材とのクリアランスを大きくすることができる。このような、軸方向幅が長く且つ窪みが深い部分を、ピンジャーナルにおいてコンロッドから最も燃焼荷重を受ける部分に配置することで、ピンジャーナルの接触摩耗を的確に回避することができる。
【0016】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記ピンジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、前記凹部の深さは、前記周方向幅の回転方向上流端から下流側に向けて第1の傾きで深くなり、回転方向中央部よりも上流側に最深部が形成され、前記最深部から回転方向下流端に向けて第2の傾きで浅くなるプロファイルを有し、前記第1の傾きは、前記第2の傾きよりも大きい傾きであることが望ましい。
【0017】
本発明者らの解析によれば、ピンジャーナルの変形に伴う前記対向領域における当該ピンジャーナルと軸受部材との直接接触によるエネルギー損失は、接触の前半期間が比較的急峻に立ち上がり、後半期間は比較的に緩やかに下降する特性を示す。前記直接接触は、ピンジャーナルの摩耗要因となるので、接触の前半期間では摩耗量が大きく、後半期間では摩耗量が小さいということになる。従って、上記の深さプロファイルを有する凹部をピンジャーナルに設けることで、上記のエネルギー損失特性に即した接触摩耗回避対策を施すことができる。
【0018】
上記の内燃機関において、前記ピンジャーナルは、前記軸方向の一端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第1凹部と、前記軸方向の他端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第2凹部と、を備えることが望ましい。
【0019】
コンロッドから燃焼加重がピンジャーナルに加わると、当該ピンジャーナルの軸方向中央部が押し下げられる一方で、その反作用で軸方向両端部が持ち上げられるような変形が、ピンジャーナルに生じる。このような変形挙動に伴うピンジャーナルと第2軸受部材との接触を、第1凹部及び第2凹部の形成によって未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ピンジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、ピンジャーナル自体の変形に伴うピンジャーナルの摩耗を抑制できる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明に係る内燃機関の一例であるエンジンの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、上記エンジンの気筒列方向に沿った縦断面図である。
【
図3】
図3は、4気筒エンジンのクランクシャフトの側面図である。
【
図4A】
図4Aは、コンロッドを通してクランクシャフトに加わる燃焼荷重の力線を示す模式図である。
【
図4B】
図4Bは、上記燃焼荷重によるピンジャーナルの変形を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、コンロッドを通してピンジャーナルに加わる荷重を示す図である。
【
図6】
図6(A)は、ピンジャーナルに設けられる凹部の一例を示す簡略断面図、
図6(B)は、前記凹部の作用を示す図である。
【
図7】
図7は、前記凹部の配置箇所を付記したクランクシャフトの側面図である。
【
図8】
図8(A)は、前記凹部を有するピンジャーナルの具体例を示す斜視図、
図8(B)はその正面図、
図8(C)は、
図8(B)のVIIIB-VIIIB線断面図である。
【
図9】
図9は、前記凹部の軸方向プロファイルを示す、4気筒分のピンジャーナル表面の展開図である。
【
図10】
図10は、前記凹部の深さ方向プロファイルを示す、ピンジャーナルの側断面図である。
【
図11】
図11(A)~(C)は、前記凹部の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る内燃機関を詳細に説明する。本実施形態では、内燃機関の一例として、自動車等の車両の走行駆動用の動力源として前記車両に搭載されるエンジンを例示する。
【0023】
[エンジンの構造]
図1は、本実施形態に係るエンジン1の外観を示す斜視図である。
図2は、エンジン1の気筒列方向に沿った縦断面図である。エンジン1は、4サイクル直列4気筒のエンジンである。
図1及び他のいくつかの図には、エンジン1の前側、後側を各々示すF、Rの方向表示が付されている。エンジン1は、エンジン本体10と、エンジン本体10内に組み込まれたクランクシャフト3と、クランクシャフト3を軸支する主軸受4とを含む。
【0024】
エンジン本体10は、シリンダブロック11、シリンダヘッド12及びロアシリンダブロック13を備える。シリンダブロック11は、エンジン前後方向F-Rに沿って一列に並ぶ4つの気筒2を有する。各気筒2の内部には、ピストン21が往復摺動可能に収容されている。シリンダブロック11は、さらに多くの気筒2を含んでいても良く、例えば直列6気筒のエンジン用であっても良い。
【0025】
シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。シリンダヘッド12には、気筒2内に吸気を取り入れる吸気ポート14と、
図1及び
図2には現れない排気ポートとが形成されている。各気筒2は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式にて、吸気系及び排気系と接続されている。
図1及び
図2には、第1吸気ポート14A及び第2吸気ポート14Bのペアからなる吸気ポート14が4セット、気筒配列方向に並んでいる様子が表出している。さらに、シリンダヘッド12には、吸気弁を動作させる吸気弁用カムシャフト15と、排気弁を動作させる排気弁用カムシャフト16とが組み込まれている。シリンダヘッド12の上面には、図略のシリンダヘッドカバーが取り付けられる。
【0026】
ロアシリンダブロック13は、シリンダブロック11の下面に取り付けられ、クランクシャフト3を支持するブロックである。ロアシリンダブロック13は、クランクシャフト3を支持する部分がエンジン前後方向に並ぶラダーフレーム構造を有している。
【0027】
クランクシャフト3は、ピストン21の往復運動を回転運動に変換する、エンジン1の回転出力軸である。
図3は、クランクシャフト3の側面図であり、図示している回転方向の位相は、
図2の断面図と同じである。クランクシャフト3は、メインジャーナル31、ピンジャーナル32、カウンタウェイト33及びクランクアーム34を含む。ここで例示しているクランクシャフト3は、フルカウンタウェイト型である。
【0028】
メインジャーナル31は、クランクシャフト3の回転軸となる部分であって、主軸受4にて軸支される部分である。ピンジャーナル32は、コンロッド22を介してピストン21と連結される部分である。コンロッド22は、上端側に小端部23を、下端側に大端部24を備える。小端部23は、ピストンピン25を介してピストン21と結合されている。大端部24は、ピンジャーナル32に結合されている。クランクアーム34は、メインジャーナル31とピンジャーナル32とを繋ぐ部分である。
【0029】
カウンタウェイト33は、ピストン21及びコンロッド22の運動に伴う慣性力を軽減する部材である。カウンタウェイト33は、メインジャーナル31の軸方向(F-R方向)端部から径方向外側へ延出するように配置されている。カウンタウェイト33が配置される周方向位置は、ピンジャーナル32の対極位置である。換言すると、クランクアーム34において、ピンジャーナル32と連結されている部分とは反対側の部分から、カウンタウェイト33が径方向外側へ延出している。
【0030】
クランクシャフト3は、直列4気筒のエンジン1に対応したものである。
図3に示す#1、#2、#3、#4の矢印は、4つの気筒2の各コンロッド22が配置される位置を示している。#1気筒2は、軸方向の先端側気筒、#4気筒2は、気筒配列方向の後端側気筒である。#1~#4気筒2の各々に対応して、クランクシャフト3はピンジャーナル32として、第1、第2、第3、第4ピンジャーナル32A、32B、32C、32Dを備えている。
図3では、#1気筒2用の第1ピンジャーナル32Aとピストン21とがコンロッド22で連結されている状態を示している。
【0031】
メインジャーナル31としては、#1気筒2よりも軸方向のF側に位置する第1メインジャーナル31Aと、第1~第4ピンジャーナル32A~32Dの各ピン間に位置する第2、第3、第4メインジャーナル31B、31C、31Dと、#4気筒2よりも軸方向のR側に位置する第5メインジャーナル31Eとが備えられている。カウンタウェイト33としては、第1ピンジャーナル32Aを挟むように配置された第1、第2カウンタウェイト33A、33Bと、第2ピンジャーナル32Bを挟むように配置された第3、第4カウンタウェイト33C、33Dと、第3ピンジャーナル32Cを挟むように配置された第5、第6カウンタウェイト33E、33Fと、第4ピンジャーナル32Dを挟むように配置された第7、第8カウンタウェイト33G、33Hとが備えられている。
【0032】
主軸受4は、ジャーナル支持部41及びキャップ42を含む。ジャーナル支持部41は、ロアシリンダブロック13にラダー状に複数配置されたフレームに形成された半円状のキャビティ部分であり、メインジャーナル31を下方から支持している。キャップ42は、各ジャーナル支持部41に対して上側から被せるように取り付けられる半円形の凹部である。ジャーナル支持部41とキャップ42との係合により作られる軸支体により、メインジャーナル31が保持されている。
【0033】
ジャーナル支持部41及びキャップ42とメインジャーナル31との間には、ジャーナルメタル43(第1軸受部材)が介在されている。ジャーナルメタル43は、滑り軸受であり、潤滑油を介してメインジャーナル31の外周面を直接軸支する軸受部材である。ジャーナルメタル43は、二つ割れの環状金属片の組み合わせからなる円環体からなる。ジャーナルメタル43の内周面とメインジャーナル31の外周面との間には潤滑油が供給される。クランクシャフト3(メインジャーナル31)が軸回りに回転すると前記潤滑油の油膜圧力が発生し、その油膜によってメインジャーナル31の回転が支えられる。
【0034】
コンロッド22の大端部24とピンジャーナル32との間には、滑り軸受からなるコンロッドメタル44(第2軸受部材)が介在されている。コンロッドメタル44は、ピンジャーナル32の周上に配置され、潤滑油を介してコンロッド22の大端部24を軸支している。コンロッドメタル44は、二つ割れの環状金属片の組み合わせからなる円環体からなる。コンロッドメタル44の内周面とピンジャーナル32の外周面との間には潤滑油が供給される。
【0035】
[ピンジャーナルへ加わる荷重]
次に、クランクシャフト3の回転時にピンジャーナル32に加わる荷重について説明する。
図4Aは、コンロッド22を通してクランクシャフト3に加わる燃焼荷重を示す模式図である。
図4Aには、
図3の第1ピンジャーナル32A(ピンジャーナル32)及び第1、第2メインジャーナル31A、31B(メインジャーナル31)が拡大して示され、ジャーナルメタル43及びコンロッドメタル44の断面が付記されている。上述の通り、メインジャーナル31とジャーナルメタル43との間、並びに、ピンジャーナル32とコンロッドメタル44との間には、潤滑油の油膜LBが形成されている。
【0036】
第1メインジャーナル31Aは最もF側に、第2メインジャーナル31Bは、#1気筒2と#2気筒2との間に、それぞれ位置するメインジャーナルである(
図3)。第1ピンジャーナル32Aは、第1、第2メインジャーナル31A、31Bの間に位置している。第1ピンジャーナル32AのF側端部32fは第1メインジャーナル31Aと、R側端部32rは第2メインジャーナル31Bと、それぞれクランクアーム34で繋がっている。第1メインジャーナル31AのF側端部及びR側端部からは、それぞれ第1、第2カウンタウェイト33A、33Bが径方向外側の下方に向かうように延出している。
【0037】
第1ピンジャーナル32Aには、#1気筒2のピストン21が受けた燃焼圧力が、コンロッド22の大端部24から燃焼荷重となって入力される。
図4Aの矢印は、燃焼荷重が第1ピンジャーナル32Aに加わった場合の力線Fを模式的に示している。燃焼荷重は、専ら第1ピンジャーナル32Aの軸方向中心付近に作用し、その力線Fは、第1ピンジャーナル32AのF側端部32f及びR側端部32rからクランクアーム34を通り、第1、第2メインジャーナル31A、31Bに向かう。
【0038】
図4Bは、燃焼荷重による第1ピンジャーナル32Aの変形を説明するための模式図である。なお、
図4Bでは、前記変形が相当誇張して描かれている。燃焼荷重が加わると、第1ピンジャーナル32Aには、
図4Bで点線にて示すように、その軸方向中心付近が下方へ沈み込む一方で、その軸方向両端部が上方へ持ち上がるように弓形に変形する傾向が出る。また、
図4Aに示した力線Fに沿って燃焼荷重が第1、第2メインジャーナル31A、31Bに加わると、第1ピンジャーナル32Aを挟んで配置されている第1カウンタウェイト33Aと第2カウンタウェイト33Bとの間隔を拡開させるような変形力が発生する。
図4Bでは、そのような第1、第2メインジャーナル31A、31B並びに第1、第2カウンタウェイト33A、33Bの変形状態が、点線で示されている。さらに
図4には、これらの変形が生じることによるクランクシャフト3の変形傾向を示す、変形ラインDLが付記されている。
【0039】
上記の変形力は、第1ピンジャーナル32AのF側端部32f及びR側端部32r付近の外周面を、コンロッドメタル44の内周面に接近させる方向に作用する。つまり、第1ピンジャーナル32Aの外周面の一部が、コンロッドメタル44に接触し易い状態を形成してしまう。詳しくは接触し易い部分は、第1ピンジャーナル32Aの周面の上半分の領域、つまり、ピストン21が上死点に位置するときに当該ピストン21と対向する対向領域における、F側端部32f及びR側端部32r付近の外周面である。
【0040】
機械抵抗の抑制には、ピンジャーナル32とコンロッドメタル44との間の隙間を小さく、これにより油膜LBを可及的に薄くすることが望ましい。しかし、前記隙間を小さくすると、前記燃焼荷重が加わることに起因するピンジャーナル32の変形により、ピンジャーナル32とコンロッドメタル44との接触が生じ、かえって機械抵抗の増大、摩耗の促進を招来することになりかねない。
【0041】
図5は、コンロッド22からピンジャーナル32に加わる燃焼荷重の測定例を示すグラフである。前記グラフは、ピンジャーナル32の外周面を展開し、その外周面に加わる荷重を濃度分布で示している。濃い濃度の部分程、高い荷重が作用していることを示す。前記グラフの横軸はピンジャーナル32の軸方向幅、縦軸は周方向幅に相当する。また、縦軸には、クランクシャフト3の軸回りの回転時における、ピンジャーナル32の回転方向が付記されている。
図5で示しているピンジャーナル32は、#2気筒2(又は#3気筒2)に対応する第2ピンジャーナル32B(又は第3ピンジャーナル32C)を想定している。
【0042】
荷重の高い高荷重箇所PAは、回転方向の180度付近に生じている。回転角=180度付近では、第3、第4カウンタウェイト33C、33Dが下方に位置する一方、第2ピンジャーナル32Bは上方に位置する。第2ピンジャーナル32Bには、上死点から下降を始めるピストン21から、下方に押下する燃焼荷重が加わる。このような回転方向のタイミングにおいて、第2ピンジャーナル32Bに高荷重が作用していることが、
図5から判る。
【0043】
高荷重箇所PAは、単純な半円状の波紋を描く荷重分布ではなく、重心が回転方向上流側に偏心した滴型の荷重分布を備えている。これは、気筒2内において圧縮上死点付近で主に発生する燃焼により生じる大きな燃焼圧力が、ピストン21及びコンロッド22を介して一気に第2ピンジャーナル32Bに燃焼荷重となって加わることに依ると考えられる。すなわち、前記燃焼荷重が一気に加わる高荷重箇所PAの回転方向上流側では、第2ピンジャーナル32Bに加わる荷重が比較的大きくなる。そして、回転が進み回転方向下流側に向かうに連れて、徐々に荷重が小さくなってゆく。当然、高荷重箇所PAにおいて、より大きな荷重が加わる回転方向上流側の方が、第2ピンジャーナル32Bの変形量が大きくなる。つまり、回転方向上流側の方が、より第2ピンジャーナル32Bがコンロッドメタル44へ接近し易い状態となる。
【0044】
[本実施形態のピンジャーナル]
本実施形態では、上記のような高荷重箇所PAが生じたとしても、ピンジャーナル32とコンロッドメタル44との接触を回避出来ると共に、潤滑油の維持性を損なわないようにした、ピンジャーナル32の具体例を示す。
図6(A)、(B)を参照して、本実施形態のピンジャーナル32は、径方向内側へ窪む凹部5を備える。凹部5は、ピンジャーナル32の周面の、ピストン21が上死点に位置するときに当該ピストン21と対向する対向領域50内であって、F側端部32f及びR側端部32r寄りの一部領域に各々形成される。また、凹部5は、ピンジャーナル32の軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部である。
【0045】
図6(A)は、ピンジャーナル32に設けられる凹部5の一例を示す簡略断面図、
図6(B)は、凹部5の作用を示す図である。ピンジャーナル32には、
図4Bに示したように、F側端部32f及びR側端部32r付近に、
図5に示したような高荷重箇所PAが発生する。これに対応して、ピンジャーナル32は、対向領域50に配置される凹部5として、F側端部32f(軸方向の一端側端部)から軸方向の中央に向けて凹設された第1凹部5fと、R側端部32r(軸方向の他端側端部)から軸方向の中央に向けて凹設された第2凹部5rとを備えている。
【0046】
凹部5(第1凹部5f及び第2凹部5r)は、ピンジャーナル32の軸方向中央側から軸方向端部に向けて、徐々に深さが深くなる傾きを持つ断面形状を有している。第1凹部5fについては、F側端部32fにおいて最も径方向内側へ深く窪み、軸方向中央側に連れて徐々に窪みが浅くなっている。第2凹部5rについては、R側端部32rおいて最も径方向内側へ深く窪み、軸方向中央側に連れて徐々に窪みが浅くなっている。これは、
図5の荷重分布において説明した通り、燃焼圧力が加わると、対向領域50におけるF側端部32f及びR側端部32rの近傍領域の燃焼荷重が最も大きくなる、つまりF側端部32f及びR側端部32rの近傍領域の変形量が最も大きくなることに対応したものである。なお、
図6では凹部5の深さが誇張して描かれており、実際の凹部5の最深部の深さは、数ミクロン~数十ミクロン程度である。
【0047】
図6(A)には、コンロッドメタル44の内周面とピンジャーナル32の外周面との間のクリアランスG1、G2が示されている。凹部5が形成されていない頂部5TにおけるクリアランスG1は、滑り軸受の潤滑油粘度等を考慮して設定される標準クリアランスに設定されている。G1は、
図6(A)には現れない、コンロッドメタル44の凹部5の形成箇所以外の外周面とコンロッドメタル44の内周面とのクリアランスでもある。一方、第1凹部5f及び第2凹部5rが各々形成されている領域はG1に比べて大きいクリアランスを有し、F側端部32f及びR側端部32rで最も大きくなっている。
【0048】
図6(B)には、燃焼圧力が加わったときの、ピンジャーナル32の変形態様が点線で示されている。燃焼圧力がピンジャーナル32に加わると、
図4Bに示したようにピンジャーナル32は、F側端部32f及びR側端部32rが上方へ持ち上がるように変形する。つまり、ピンジャーナル32のF側端部32f及びR側端部32r寄りの部分がコンロッドメタル44に接近する方向に変形する。
【0049】
このような変形が生じた場合、第1凹部5f及び第2凹部5rが存在しないと、ピンジャーナル32のF側端部32f及びR側端部32r付近がコンロッドメタル44の内周面に接触し得る。しかし、第1凹部5f及び第2凹部5rが存在していると、前記変形が生じてもなお、ピンジャーナル32とコンロッドメタル44との間のクリアランスG3が確保されることとなり、両者の接触を回避することができる。
【0050】
第1凹部5f及び第2凹部5rは、ピンジャーナル32のF側端部32f及びR側端部32r寄りの部分の全周に設けられるのではなく、高荷重箇所PAに対応する箇所だけを凹没させるように設けられる。第1凹部5f及び第2凹部5rをピンジャーナル32に形成することは、対峙するコンロッドメタル44との間のクリアランスを拡張することとなり、潤滑油が前記クリアランスから逃げ出す油抜けを生じさせる。本実施形態では、高荷重箇所PAに対応する箇所だけに第1凹部5f及び第2凹部5rが設けられ、第1凹部5f及び第2凹部5rが設けられない領域では、ピンジャーナル32の周面とコンロッドメタル44との間は標準のクリアランスG1に設定される。従って、前記油抜けは最小限に抑制される。
【0051】
また、
図4Bに点線で示したように、燃焼圧力がピンジャーナル32に加わった場合、F側端部32f及びR側端部32rが最もコンロッドメタル44に接近する方向に変形し、それぞれ軸方向中央に向かうに連れて変形量が少なくなる。この変形傾向にマッチするように、第1凹部5f及び第2凹部5rは、ピンジャーナル32の軸方向中央側からF側端部32f及びR側端部32rに向けて徐々に深さが深くなるプロファイルを有する。この点においても、前記クリアランスが徒に拡張しない工夫が為されている。このため、例えば0W20クラスの低粘度油を潤滑油として用いても、前記油抜けが生じ難く、潤滑性を確保することができる。従って、コンロッドメタル44における潤滑性の維持と、ピンジャーナル32の摩耗防止とを両立することができる。
【0052】
[凹部の配置位置と具体的形状]
続いて、クランクシャフト3に対する凹部5の配置位置と、凹部5の具体的形状について説明する。
図7は、直列4気筒用のフルカウンタ型クランクシャフト3の、ピンジャーナル32に対する凹部5の配置箇所を付記した側面図である。
図8(A)は、凹部5を有するピンジャーナル32の具体例を示す斜視図、
図8(B)はその正面図、
図8(C)は、
図8(B)のVIIIB-VIIIB線断面図である。
【0053】
図7に示す通り、クランクシャフト3が備える第1~第4ピンジャーナル32A~32Dには、それぞれ、第1凹部5f及び第2凹部5rからなる凹部5が配設されている。フルカウンタ型クランクシャフト3の場合、凹部5はカウンタウェイト33の延出位置とは反対側の位置において、ピンジャーナル32に配設される。例えば#1気筒2の第1ピンジャーナル32Aならば、
図7の状態で言えば第1カウンタウェイト33A及び第2カウンタウェイト33Bが第1ピンジャーナル32Aの下端側から下方に延び出している。この場合、第1凹部5f及び第2凹部5rは、第1、第2カウンタウェイト33A、33Bの延出位置とは反対側の、第1ピンジャーナル32Aの上端側に形成される。第2~第4ピンジャーナル32B~32Dも同様である。
【0054】
図8(A)は、一つのピンジャーナル32を切り出した斜視図である。このピンジャーナル32は、クランクシャフト3の回転角が0度のときにピストン21が上死点を迎える第1、第4ピンジャーナル32A、32Dに対応している。既述の通り、凹部5が形成されるのは、ピンジャーナル32の周面のうち、ピストン21が上死点に位置するときに当該ピストン21と対向する対向領域50内である。対向領域50の範囲は、ピンジャーナル32の周面を上半分と下半分とに二分して言うならば、上半分である。好ましい対向領域50の範囲は、上死点を指向する0度の位置から前後60度の範囲、すなわち300度~60度の範囲である。
【0055】
凹部5は、単純な半球冠の形状を有する窪みや、F側端部32f及びR側端部32rのエッジ付近を斜め方向に直線状に切り欠いたような窪みであっても良い。これらに対し、
図8(A)~(C)に示す本実施形態に係る凹部5は、ピンジャーナル32に加わる燃焼荷重を考慮して、その軸方向幅、周方向幅及び深さが設定されている。この点について、
図9及び
図10を参照して説明を加える。
【0056】
図9は、凹部5(第1凹部5f及び第2凹部5r)の軸方向プロファイルを示す、第1~第4ピンジャーナル32A~32Dの表面の展開図、すなわち第1~第4ピンジャーナル32A~32Dを各々周方向に展開した平面形状を示す図である。各々の凹部5の配置位置は
図7の例に対応したものであり、第1、第4ピンジャーナル32A、32Dの凹部5は回転角=0度付近に、第2、第3ピンジャーナル32B、32Cの凹部5は回転角=0度付近に、各々配置されている。
【0057】
図9では、第1凹部5fと第2凹部5rとが対称の形状を有し、且つ、第1~第4ピンジャーナル32A~32Dの凹部5が同一形状である例を示している。従って、以下に説明する凹部5の形状は、第1~第4ピンジャーナル32A~32Dの全ての凹部5に当て嵌まる。なお、第1凹部5fと第2凹部5rとを非対称の形状とする、或いは、第1~第4ピンジャーナル32A~32Dの一部又は全部において凹部5を異なる形状としても良い。
【0058】
凹部5は、ピンジャーナル32の軸方向(幅方向)及び周方向(回転方向)において所定の軸方向幅及び周方向幅を有している。凹部5の前記軸方向幅は、クランクシャフト3の回転方向上流側の方が下流側よりも幅広である形状を有している。つまり、凹部5の平面視の形状を、回転方向において上流側と下流側(回転方向の前半側と後半側と同義)との二つに区分した場合、凹部5は前記下流側より前記上流側の方が比較的広い前記軸方向幅を有している。なお、軸方向幅は、第1凹部5fではピンジャーナル32のF側端部32fから凹部5の軸方向中央側のエッジまでの長さ、第2凹部5rではR側端部32rから凹部5の軸方向中央側のエッジまでの長さである。また、周方向幅は、回転方向に沿った凹部5の幅である。
【0059】
より詳しくは、ピンジャーナル32を周方向に展開した平面視の形状において、凹部5は、回転方向上流側の膨出部51と、回転方向下流側の緩曲部52とを備える滴型の形状を有している。膨出部51は、凹部5の前記周方向幅の回転方向上流端近傍において、急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ部分である。緩曲部52は、膨出部51から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る部分である。つまり、凹部5の軸方向中央側のエッジは、回転方向上流端からF側端部32f(第1凹部5f)又はR側端部32r(第2凹部5r)に対して急峻に立ち上がり、回転方向上流側の領域において最大幅となるピーク位置に至り、以降は緩やかにF側端部32f又はR側端部32rに接近する曲線形状を有している。
【0060】
このような凹部5の平面視形状は、
図5に示したピンジャーナル32の高荷重箇所PAの平面視形状に対応している。既述の通り、コンロッド22からピンジャーナル32に作用する燃焼荷重は、対向領域50のF側端部32f及びR側端部32r付近において、クランクシャフト3の回転方向上流側部分の方が下流側の部分よりも大きい傾向がある。詳しくは、回転方向上流端近傍において最も大きな荷重が加わり、回転方向下流端に向かうに連れて前記荷重が漸減してゆく傾向がある。このため、高荷重箇所PAは、回転方向上流側に荷重重心が偏心した滴型の分布を有する。このような高荷重箇所PAの荷重傾向に沿うように、凹部5の軸方向プロファイルもまた、回転方向上流側が幅広となるような滴型の形状を有している。これにより、ピンジャーナル32とコンロッドメタル44との接触を確実に防止することができる。
【0061】
凹部5の窪み深さも、高荷重箇所PAの荷重傾向に沿うように設定される。つまり、ピンジャーナル32において荷重が大きく加わる部分ほど、凹部5の深さが深く設定される。
図10は、回転方向に沿った凹部5の深さ方向プロファイルを示す、ピンジャーナル32を平面展開した側断面図である。このプロファイルは、F側端部32f又はR側端部32rにおける凹部5の深さ方向プロファイルである。なお、このプロファイルも、深さ方向のサイズを誇張している。
【0062】
凹部5は、窪み形状において、回転方向上流側の上流傾斜部53と、回転方向下流側の下流傾斜部54とを備えている。上流傾斜部53は、凹部5の周方向幅の回転方向上流端から回転方向中央部LCに向かう方向に第1の傾きL1で深くなる傾斜面を有する。凹部5の最深部MDは、回転方向中央部LCよりも上流側に位置している。下流傾斜部54は、最深部MDから回転方向下流端に向けて第2の傾きL2で浅くなる傾斜面を有する。第1の傾きL1と第2の傾きL2との関係は、両者の傾き方向を揃えた場合、L1>L2の関係にある。つまり、凹部5は、回転方向の上流側で急峻に深くなり、最深部MDよりも下流側では緩やかに浅くなる窪み形状を有している。例えば、L1,L2をピンジャーナル32の周面の接線に対してなす角で比較する場合、L1は、L2の1.2倍~3倍程度に設定することができる。
【0063】
本発明者らの解析によれば、ピンジャーナル32の変形に伴う対向領域50における当該ピンジャーナル32とコンロッドメタル44との直接接触によるエネルギー損失は、接触の前半期間が比較的急峻に立ち上がり、後半期間は比較的に緩やかに下降する特性を示す。前記直接接触は、ピンジャーナル32の摩耗要因となるので、接触の前半期間では摩耗量が大きく、後半期間では摩耗量が小さいということになる。従って、第1の傾きL1及び第2の傾きL2を備えた深さプロファイルを有する凹部5をピンジャーナル32に設けることで、上記のエネルギー損失特性に即した接触摩耗回避対策を施すことができる。
【0064】
上記の凹部5の回転方向の深さプロファイルを、
図9に示した軸方向プロファイルに関連付けると、凹部5の軸方向幅が長い部分ほど、凹部5の軸方向端部(F側端部32f又はR側端部32r)における深さが深いという関係となる。なお、軸方向の深さプロファイルは、軸方向中央側(滴型のエッジ)からF側端部32f又はR側端部32rに向けて徐々に深さが深くなる凹部5である点は、
図6(A)に示した基本例と同様である。
【0065】
つまり、高荷重箇所PAの荷重分布に沿って、荷重が大きい箇所は比較的深く、荷重が小さい所は比較的浅くなるように、凹部5の深さプロファイルが設定される。この実施形態によれば、凹部5の軸方向幅が長く且つ窪みが深い部分が、ピンジャーナル32においてコンロッド22から最も燃焼荷重を受ける部分に配置される。従って、ピンジャーナル32のコンロッドメタル44への接触による摩耗を的確に回避することができる。
【0066】
[変形例]
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取ることができる。
【0067】
(1)上記実施形態では、フルカウンタ型のカウンタウェイト33を有するクランクシャフト3を例示した。クランクシャフト3は、ハーフカウンタ型のものであっても良いし、カウンタウェイト33自体が省かれているタイプでも良い。いずれのタイプでも、コンロッド22から加わる燃焼荷重によりピンジャーナル32の変形は生じるので、上掲の凹部5は有効である。
【0068】
(2)上記実施形態では、直列4気筒のエンジン1に対応したクランクシャフト3を例示した。クランクシャフト3は、例えば直列6気筒のエンジン1に対応したクランクシャフトであっても良い。この場合でも、6つのピンジャーナル32の各々に、ピストン21が上死点に位置するときに当該ピストン21と対向する対向領域50に凹部5(第1凹部5f及び第2凹部5r)を設ければ良い。
【0069】
(3)上記実施形態では、ピンジャーナル32の軸方向中央側から軸方向端部(F側端部32f又はR側端部32r)に向けて徐々に深さが深くなる凹部5を例示した。凹部5は、ピンジャーナル32の軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深いという関係を満たす限りにおいて、種々の変形実施形態を取ることができる。
図11(A)~(C)に、変形例に係る凹部5A、5B、5Cを示す。
【0070】
図11(A)は、階段型の窪み形状を有する凹部5Aを示すピンジャーナル32の概略断面図である。凹部5Aは、傾斜のない水平部55と、斜めに傾いた傾斜部56とが交互に連なる窪み形状を有し、ピンジャーナル32の軸方向中央側よりも軸方向端部の方が窪み深さが深くなっている。
図11(B)は、一つの水平部57と一つの傾斜部58とで構成された凹部5Bを示している。傾斜部58は、ピンジャーナル32の軸方向中央側に配置され、水平部57は傾斜部58の最深端から軸方向端部に至っている。
図11(C)は、凹凸傾斜部59を有する凹部5Cを示している。凹凸傾斜部59は、出没を繰り返しながらピンジャーナル32の軸方向中央側から軸方向端部へ、全体としては深くなる傾斜部である。このような凹部5A、5B、5Cであっても、上述の凹部5と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジン(内燃機関)
10 エンジン本体
2 気筒
21 ピストン
22 コンロッド
3 クランクシャフト
31、31A~31E メインジャーナル
32、32A~32D ピンジャーナル
32f F側端部(軸方向の一端側端部)
32b R側端部(軸方向の他端側端部)
4 主軸受
43 ジャーナルメタル(第1軸受部材)
44 コンロッドメタル(第2軸受部材)
5、5A、5B、5C 凹部
51 膨出部
52 緩曲部
53 上流傾斜部
54 下流傾斜部