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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】蓄電システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20250319BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20250319BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
H02J3/38 180
H02J7/34 C
H02J7/35 K
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021164076
(22)【出願日】2021-10-05
(65)【公開番号】P2023054999
(43)【公開日】2023-04-17
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 大也
(72)【発明者】
【氏名】秋田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】綾井 直樹
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-012730(JP,A)
【文献】特開2018-166351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H02M 7/42 - 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電による自立出力を提供する電力変換装置と、負荷との間に設けられる蓄電システムであって、
前記自立出力を受け入れる入力端から前記負荷が接続される出力端に至る交流電路と、
前記交流電路と蓄電池との間にあって、直流と交流との間で双方向に電力変換を行う電力変換部と、
前記電力変換部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電力変換装置から受け入れる予想値としての引込電流値の設定を受け付け、
前記負荷に供給する負荷電流のピーク値を絶対値で求め、
前記交流電路から前記電力変換部へ送り込まれる電流のピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値から前記負荷電流の前記ピーク値を減じた電流値を超えないよう前記電力変換部を制御する、
蓄電システム。
【請求項2】
前記負荷電流の前記ピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値より大きい場合には、前記制御部は、前記電力変換部の動作を停止とする請求項1に記載の蓄電システム。
【請求項3】
前記制御部と電気的に接続され、操作の受付機能を有するリモコン装置、を備え、
前記リモコン装置により、前記制御部に対して、前記引込電流値が設定される、請求項1又は請求項2に記載の蓄電システム。
【請求項4】
前記引込電流値は、前記リモコン装置に表示された複数の候補値から、ユーザが選択した値である請求項3に記載の蓄電システム。
【請求項5】
前記電力変換装置からの自立出力に所定値以上の歪が生じている場合、前記制御部は、前記電力変換部の動作を停止させ、前記入力端から前記出力端へ直通のバイパス状態とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蓄電システム。
【請求項6】
前記歪が前記所定値未満になれば、前記制御部は、前記電力変換部を動作させ、前記蓄電池を充電する請求項5に記載の蓄電システム。
【請求項7】
前記歪が前記所定値未満になっても前記蓄電池が満充電の場合には、前記制御部は、前記バイパス状態を継続する請求項5に記載の蓄電システム。
【請求項8】
前記リモコン装置は、天気に関する情報を保有するサーバと電気通信回線を介して接続されており、
前記リモコン装置は、前記サーバから取得した前記情報に基づいて前記引込電流値を設定する、請求項3に記載の蓄電システム。
【請求項9】
日射量を検出する日射計を備え、
前記リモコン装置は、前記日射計から取得した前記日射量に基づいて前記引込電流値を設定する、請求項3に記載の蓄電システム。
【請求項10】
前記リモコン装置は、太陽光発電用の前記電力変換装置から過去の発電量の情報を取得し、
前記リモコン装置は、前記情報に基づいて前記引込電流値を設定する、請求項3に記載の蓄電システム。
【請求項11】
前記リモコン装置と通信可能なモバイル情報端末を備え、
前記リモコン装置は、前記モバイル情報端末から前記引込電流値の設定を受け付けるとともに、設定した前記引込電流値が太陽光発電の発電量相当値より多い場合は前記モバイル情報端末に対して設定変更を促す情報を送る、請求項3に記載の蓄電システム。
【請求項12】
太陽光発電による自立出力を提供する電力変換装置と、負荷との間に、蓄電システムが設けられている場合の、蓄電システムの制御方法であって、
前記電力変換装置から受け入れる予想値としての引込電流値を設定し、
前記負荷に供給する負荷電流のピーク値を絶対値で求め、
蓄電池を充電する電力変換部へ送り込まれる電流のピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値から前記負荷電流の前記ピーク値を減じた電流値を超えないよう前記電力変換部を制御する、
蓄電システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電装置を設置する、一般家庭等の小規模な電力の需要家が増加している。このような太陽光発電装置は、電力変換装置を介して、商用電力系統と系統連系し、売電することができる。また、停電時には、商用電力系統から解列した電力変換装置を自立運転させ、停電時にも使用したい特定負荷に自立出力による電力を供給することができる。
【0003】
さらに、近年、蓄電池を搭載する蓄電システムを、太陽光発電装置に併設する分散型電源システムが、普及し始めている(例えば、特許文献1参照)。停電時には、自立出力により需要家内の特定負荷に電力を供給するとともに、発電できる電力に余裕があれば、蓄電池の充電を行うことにより、発電できる電力を無駄なく有効に活用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-35236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽光発電装置に蓄電池を併設する分散型電源システムを、新規に一式、導入する場合は、ハイブリッドな機能を持つ1台の電力変換装置に太陽光発電パネルと蓄電池とを接続して、統合した高度な制御を行うこともできる。しかしながら、既に太陽光発電装置が導入されている需要家に、既存の設備を有効に利用しつつ、後から蓄電システムを追加する場合には、太陽光発電装置と、蓄電システムとで、別々に制御を行うことになる。この場合、蓄電システム側から見れば、太陽光発電装置からどれだけの自立出力を引き出せるかが不明である。
【0006】
本開示は、太陽光発電装置の電力変換装置と連携をとらなくても、適切な制御を行うことができる蓄電システム及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の発明を含む。但し、本発明は特許請求の範囲によって定められるものである。
【0008】
《蓄電システム》
本開示は、太陽光発電による自立出力を提供する電力変換装置と、負荷との間に設けられる蓄電システムであって、
前記自立出力を受け入れる入力端から前記負荷が接続される出力端に至る交流電路と、
前記交流電路と蓄電池との間にあって、直流と交流との間で双方向に電力変換を行う電力変換部と、
前記電力変換部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電力変換装置から受け入れる予想値としての引込電流値の設定を受け付け、
前記負荷に供給する負荷電流のピーク値を絶対値で求め、
前記交流電路から前記電力変換部へ送り込まれる電流のピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値から前記負荷電流の前記ピーク値を減じた電流値を超えないよう前記電力変換部を制御する、
蓄電システムである。
【0009】
《蓄電システムの制御方法》
また、本開示は、太陽光発電による自立出力を提供する電力変換装置と、負荷との間に、蓄電システムが設けられている場合の、蓄電システムの制御方法であって、
前記電力変換装置から受け入れる予想値としての引込電流値を設定し、
前記負荷に供給する負荷電流のピーク値を絶対値で求め、
蓄電池を充電する電力変換部へ送り込まれる電流のピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値から前記負荷電流の前記ピーク値を減じた電流値を超えないよう前記電力変換部を制御する、
蓄電システムの制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、太陽光発電装置の電力変換装置と連携をとらなくても、適切な制御を行うことができる蓄電システム及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、蓄電システムを含む需要家の分散型電源システムの構成例を示す図である。
図2図2は、自立運転時の蓄電システムとその周辺機器とを示す単線接続図である。
図3図3は、充電電流指令値のピーク値の求め方の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、参考までに、ピーク値を意識した制御ではなく、実効値を意識した制御で、負荷が非線形負荷であった場合にどのようなことが起こるかの一例を示す波形図である。
図5図5は、本開示によるピーク値を意識した制御で、負荷が非線形負荷であった場合にどのような状態になるかの一例を示す波形図である。
図6図6は、負荷電流値と充電電流指令値との変化の一例を示すタイムチャートである。
図7図7は、負荷電流値と充電電流指令値との変化の他の例を示すタイムチャートである。
図8図8における(a)は、自立出力により、特定負荷への給電と、蓄電池の充電とを同時に行っている場合を示している。(b)は、制御部が充電を停止し、自立出力は蓄電システムを素通りするバイパス状態である。
図9図9は、天気情報に基づく引込電流値の設定を示す概略図である。
図10図10は、日射量に基づく引込電流値の設定を示す概略図である。
図11図11は、モバイル情報端末(スマートフォン)を利用した引込電流値の設定を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の実施形態には、その要旨として、少なくとも以下のものが含まれる。
【0013】
(1)本開示は、太陽光発電による自立出力を提供する電力変換装置と、負荷との間に設けられる蓄電システムであって、前記自立出力を受け入れる入力端から前記負荷が接続される出力端に至る交流電路と、前記交流電路と蓄電池との間にあって、直流と交流との間で双方向に電力変換を行う電力変換部と、前記電力変換部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電力変換装置から受け入れる予想値としての引込電流値の設定を受け付け、前記負荷に供給する負荷電流のピーク値を絶対値で求め、前記交流電路から前記電力変換部へ送り込まれる電流のピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値から前記負荷電流の前記ピーク値を減じた電流値を超えないよう前記電力変換部を制御する蓄電システムである。
【0014】
このような蓄電システムでは、外部の電力変換装置から自立出力の提供を受けて負荷に給電している間、設定された引込電流値(固定値)の√2倍の値と負荷電流のピーク値との差が、蓄電池の充電のための電流(交流)のピーク値となるように制御が行われる。従って、蓄電システムは、外部の電力変換装置と連携をとらなくても、自ら設定した引込電流値に基づいて、当該引込電流値の下での、適切な制御を行うことができる。また、非線形負荷であっても、外部の電力変換装置の停止を抑制する制御を行うことができる。
【0015】
(2)前記(1)の蓄電システムにおいて、前記負荷電流の前記ピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値より大きい場合には、前記制御部は、前記電力変換部の動作を停止としてもよい。
この場合、理論上は引込電流値の√2倍の値から負荷電流のピーク値を減じた電流値がマイナスになるが、実際は、設定した引込電流値以上の電流(電力)を太陽光発電により負荷に提供できていることになるので、蓄電池は充電も放電もしないことが適切である。
【0016】
(3)前記(1)又は(2)の蓄電システムにおいて、前記制御部と電気的に接続され、操作の受付機能を有するリモコン装置、を備え、前記リモコン装置により、前記制御部に対して、前記引込電流値が設定されるようにしてもよい。
この場合、リモコン装置から任意に、引込電流値を設定することができる。
【0017】
(4)前記(3)の蓄電システムにおいて、前記引込電流値は、前記リモコン装置に表示された複数の候補値から、ユーザが選択した値であってもよい。
この場合、目安となる候補値から、ユーザは、引込電流値を選択して設定することができる。
【0018】
(5)前記(1)から(4)のいずれかの電源システムにおいて、前記電力変換装置からの自立出力に所定値以上の歪が生じている場合、前記制御部は、前記電力変換部の動作を停止させ、前記入力端から前記出力端へ直通のバイパス状態とすることができる。
蓄電システムの電力変換部を動作させることにより、太陽光発電の電力変換装置の動作に影響を与えて自立出力(電圧)に歪が生じる場合がある。この場合、歪を検出した電力変換装置が停止することになれば、発電できる電力が活用できなくなる。そこで、蓄電システムの電力変換部を停止させ、バイパス状態とすることにより、電力変換装置の停止を抑制することができる。これにより、太陽光発電による自立出力を継続的に利用することができる。
【0019】
(6)前記(5)の蓄電システムにおいて、前記歪が前記所定値未満になれば、前記制御部は、前記電力変換部を動作させ、前記蓄電池を充電するようにしてもよい。
歪は一時的に生じる場合もあるので、歪が所定値未満になれば、電力変換部を動作させ、蓄電池を充電することが、太陽光発電の電力をフル活用するためには好ましい。
【0020】
(7)前記(5)の蓄電システムにおいて、前記歪が前記所定値未満になっても前記蓄電池が満充電の場合には、前記制御部は、前記バイパス状態を継続するようにしてもよい。
この場合、蓄電池をさらに充電することはできないので、バイパス状態を継続することにより、負荷に給電することが好ましい。
【0021】
(8)前記(3)の蓄電システムにおいて、前記リモコン装置は、天気に関する情報を保有するサーバと電気通信回線を介して接続されており、前記リモコン装置は、前記サーバから取得した前記情報に基づいて前記引込電流値を設定することもできる。
太陽光発電の発電量は天気に大きく影響されるので、天気に応じて適切な引込電流値を設定することができる。
【0022】
(9)前記(3)の蓄電システムにおいて、日射量を検出する日射計を備え、前記リモコン装置は、前記日射計から取得した前記日射量に基づいて前記引込電流値を設定するようにしてもよい。
日射量から発電量を推定することができるので、推定した発電量に基づいて適切な引込電流値を設定することができる。
【0023】
(10)前記(3)の蓄電システムにおいて、前記リモコン装置は、太陽光発電用の前記電力変換装置から過去の発電量の情報を取得し、前記リモコン装置は、前記情報に基づいて前記引込電流値を設定するようにしてもよい。
現在の発電量は、過去の発電量の情報から推定することができるので、推定した発電量に基づいて適切な引込電流値を設定することができる。
【0024】
(11)前記(3)の蓄電システムにおいて、前記リモコン装置と通信可能なモバイル情報端末を備え、前記リモコン装置は、前記モバイル情報端末から前記引込電流値の設定を受け付けるとともに、設定した前記引込電流値が太陽光発電の発電量相当値より多い場合は前記モバイル情報端末に対して設定変更を促す情報を送るようにしてもよい。
この場合、モバイル情報端末から引込電流値を設定することができる。また、設定した引込電流値が適切でない場合は、設定変更を促す情報を受け取って、引込電流値を変更することができる。引込電流値が太陽光発電の発電量より多い場合は、太陽光発電装置の電力変換装置が停止することになるが、設定変更により停止を免れることができる。
【0025】
(12)本開示は、太陽光発電による自立出力を提供する電力変換装置と、負荷との間に、蓄電システムが設けられている場合の、蓄電システムの制御方法であって、前記電力変換装置から受け入れる予想値としての引込電流値を設定し、前記負荷に供給する負荷電流のピーク値を絶対値で求め、蓄電池を充電する電力変換部へ送り込まれる電流のピーク値が、前記引込電流値の√2倍の値から前記負荷電流の前記ピーク値を減じた電流値を超えないよう前記電力変換部を制御する、蓄電システムの制御方法である。
【0026】
このような蓄電システムの制御方法によれば、外部の電力変換装置から自立出力の提供を受けて負荷に給電している間、設定した引込電流値(固定値)の√2倍の値と負荷電流のピーク値との差が、蓄電池の充電のための電流(交流)のピーク値となるように制御が行われる。従って、蓄電システムは、外部の電力変換装置と連携をとらなくても、自ら設定した引込電流値に基づいて、当該引込電流値の下での、適切な制御を行うことができる。また、非線形負荷であっても、外部の電力変換装置の停止を抑制する制御を行うことができる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の蓄電システムの具体例について、図面を参照して説明する。
【0028】
《分散型電源システムの一例》
図1は、蓄電システムを含む需要家の分散型電源システムの構成例を示す図である。図において、需要家1の屋根には、太陽光発電パネル2が設置されている。太陽光発電パネル2は、電力変換装置(パワーコンディショナ)3と接続されている。電力変換装置3の出力側は、一般負荷分電盤4と接続されている。一般負荷分電盤4は、売電用電力量計5及び買電用電力量計6を介して、商用電力系統7と接続されている。一般負荷分電盤4には、蓄電システム8がAC100V/200Vで接続されている。また、一般負荷分電盤4は、AC100Vで特定負荷用分電盤9とも接続されている。ここまでは、商用電力系統7の正常時の接続である。
【0029】
商用電力系統7の停電時には、電力変換装置3は商用電力系統7から自己を解列し、自立運転を行うことができる。自立運転時は、AC100Vでの自立出力が蓄電システム8に提供される。蓄電システム8は、特定負荷用分電盤9に、AC100Vを供給する。
【0030】
蓄電システム8には、リモコン装置8r(蓄電システム8の一部でもある。)が接続されている。リモコン装置8rにより、蓄電システム8の操作を行うことができ、また、動作状態の表示を行うことができる。リモコン装置は、Wi-Fi(Wi Fiは、登録商標)経由でルータ10と接続されている。ルータはインターネット接続されている。
【0031】
《蓄電システム》
次に、自立運転時の蓄電システム8について説明する。
図2は、自立運転時の蓄電システム8とその周辺機器とを示す単線接続図である。蓄電システム8への補助入力となる入力端8inには、電力変換装置3の自立出力が入力される。蓄電システム8の出力端8outには、特定負荷用分電盤9が接続されている。特定負荷用分電盤9には、停電時にも給電を継続したい特定負荷11が接続されている。
【0032】
蓄電システム8は、電圧センサ80、スイッチ81、電流センサ82,83、電力変換部84、蓄電池85、BMS(Battery Management System)86、制御部87、及び、外部に設けられるリモコン装置8rを備え、これらは図示のように接続されている。スイッチ81が閉路すると、入力端8inから出力端8outに至る交流電路88が形成される。入力端8inの電圧は電圧センサ80により検出される。特定負荷11に流れる電流は、電流センサ82により検出される。電力変換部84は、交流電路88の分岐点88jに接続されている。分岐点88jと電力変換部84との間に流れる電流は、電流センサ83により検出される。電力変換部84は、双方向性のインバータ主回路であり、蓄電池85を、充電又は放電させることができる。
【0033】
スイッチ81の開閉及び電力変換部84のスイッチング動作は、制御部87により制御される。電圧センサ80の検出出力、電流センサ82,83の検出出力、及び、BMS86の監視信号は、制御部87に送られる。BMS86は、蓄電池85のSOC(State of Charge)その他の情報を制御部87に送る。制御部87は、例えば、CPU及びROM、RAM等のメモリ(図示せず。)を含んで構成されるコンピュータシステムであり、CPUがソフトウェア(コンピュータプログラム)を実行することで、必要な制御機能を実現する。ソフトウェアはメモリに格納されている。
【0034】
上記のように構成された蓄電システム8において、電力変換装置3から自立出力の電圧が蓄電システム8に入力されると、これを、電圧センサ80が検出し、制御部87は、スイッチ81を閉路する。電力変換装置3から蓄電システム8に流入する入力電流値をIin、蓄電システム8から特定負荷11へ流出する負荷電流値をIout、分岐点88jから電力変換部84に流れる電流すなわち充電電流指令値をIbatとする。
【0035】
また、ユーザは、リモコン装置8rに、制御部87に対して電力変換装置3から蓄電システム8へ引き込む交流電流の予想値としての引込電流値Ipvを設定することができる。設定値として選べるのは、例えば、5A、10A、及び、14Aの3つうちの1つである。これは、自立出力の定格最大値1500Wを上限とした段階的な値の一例である。なお、これらの設定値は一例に過ぎず、より細かく段階的に設定できるようにしてもよい。
【0036】
ここで、入力電流値Iin(=Iout+Ibat)は、電力変換装置3が決める量ではなく、どれだけの電流が引かれるか、に依存する。また、電力変換装置3が出力できる最大電流(最大電力)は日射量に依存するので、一定の値が常に確保できるとは限らない。従って、実際に入力電流値Iinとしてどれだけの電流を引き込むことができるのかは、蓄電システム8には不明である。
【0037】
そこで、暫定的な予想値としての引込電流値Ipvを用いて、充電電流指令値Ibat(実効値)の√2倍の値であるピーク値Ibat_peakと、実効値としての負荷電流値Ioutの√2倍の値であるピーク値Iout_peakと、充電電流指令値Ipv(実効値)との関係は、以下の式(1)又は(1a)であるとする。なお、各値は絶対値とする。
Ipv×√2>Iout_peakのとき、
Ibat_peak=Ipv×√2-Iout_peak ・・・(1)
Ipv×√2≦Iout_peakのとき、
Ibat_peak=0 ・・・(1a)
式(1)より、設定した引込電流値の√2倍の値から負荷電流のピーク値を減じた電流値が充電電流指令値のピーク値の上限となる。充電電流指令値Ibat(実効値)は、ピーク値Ibat_peakの(1/√2)である。但し、Ibat_peakが式(1)の演算上、負の値になるときは、引込電流値の√2倍を超える負荷電流のピーク値が、自立出力として提供できているということになるので、充電は行わず、式(1a)により充電電流指令値のピーク値Ibat_peak=0とする。
【0038】
図3は、充電電流指令値Ibatのピーク値の求め方の一例を示すフローチャートである。制御部87(図2)は、まず、ステップS1において、電流センサ82(図2)の検出出力に基づいて、負荷電流の瞬時値の絶対値をゼロクロスから次のゼロクロスまでの間で順次、大きい方の値に更新し続け、最大値をピーク値Iout_peakとする。なお、この算出は、ノイズ除去のため移動平均等のフィルタ処理後に求めてもよい。また、1サイクル又は複数サイクルで求めてもよい。次に制御部87は、引込電流値Ipvの√2倍の値と負荷電流のピーク値Iout_peakとを比較し(ステップS2)、Ipv×√2>Iout_peak(YES)であればステップS4へ進み、Ipv×√2≦Iout_peak(NO)であればステップS3に進む。
【0039】
ステップS4に進んだ場合、制御部87は、BMS86の情報から蓄電池85のSOCをチェックし、SOCが100%(又はその近傍の上限値)であれば、ステップS3に進み、充電可能であればステップS5に進む。ステップS3では、充電電流指令値のピーク値Ibat_peak=0(充電しない)とする。ステップS5では、充電電流指令値のピーク値Ibat_peakを、式(1)の通り、Ibat_peak=Ipv×√2-Iout_peakとして、蓄電池85の充電を行う。
【0040】
図4は、参考までに、上記のようにピーク値を意識した制御ではなく、実効値を意識した制御で、負荷が非線形負荷であった場合にどのようなことが起こるかの一例を示す波形図である。横軸は(a)~(d)に共通の時間である。(a)は、引込電流値がIpvの場合に、実際に流れる電流波形を示している。引込電流値Ipvは実効値であるので、電流波形のピーク値(波高値)は、絶対値で、Ipv×√2の値となる。
【0041】
図4の(b)は、非線形負荷に流れる負荷電流Ioutの一例を示す波形図である。この場合、ピーク値は、絶対値で、Iout_peakとなる。連続した正弦波状の波形ではないので、実効値は比較的小さい。その分、充電電流指令値Ibatは多くとることができると考えた場合、例えば(c)の波形となる。この場合、ピーク値は、絶対値で、Ibat_peakとなる。
【0042】
ところが、(b)及び(c)の瞬時値を重ねると、電力変換装置3からの入力電流値Iinは(d)の波形となる。時刻t1,t2では、Iinのピーク値は引込電流値Ipvのピーク値を超える。この場合、電力変換装置3が、停止する場合がある。すなわち、実効値レベルでは停止するところではないが、ピーク値レベルでは、不要な停止を起こす場合があり得る。
【0043】
図5は、式(1)で示したようにピーク値を意識した制御で、負荷が非線形負荷であった場合にどのような状態になるかの一例を示す波形図である。横軸は(a)~(d)に共通の時間である。(a)は、引込電流値がIpvの場合に、実際に流れる電流波形を示している。引込電流値Ipvは実効値であるので、電流波形のピーク値(波高値)は、絶対値で、Ipv×√2の値となる。
【0044】
図5の(b)は、非線形負荷に流れる負荷電流Ioutの一例を示す波形図である。この場合、ピーク値は、絶対値で、Iout_peakとなる。式(1)より、充電電流指令値のピーク値Ibat_peakは、Ipv×√2-Iout_peakとなる。(c)は、この充電電流指令値Ibatの波形図である。この場合、ピーク値は、絶対値で、Ibat_peakとなる。図4の(c)との比較により明らかなように、充電電流指令値Ibatは、抑制される。
【0045】
電力変換装置3からの入力電流値Iinは、図5の(b)及び(c)の瞬時値を重ねた(d)の波形となる。時刻t1,t2にIinのピーク値が生じるが、引込電流値Ipvのピーク値を超えることはない。従って、電力変換装置3が、不要な停止を起こすことは、抑制される。
【0046】
次に、図6は、負荷電流値と充電電流指令値との変化の一例を示すタイムチャートである。自立出力の電流が一定値であるとして、引込電流値Ipvが10A(ピーク値14.1A)に設定されているとする。負荷電流値が0Aのときは、式(1)により充電電流指令値のピーク値Ibat_peakは14.1Aである。負荷電流のピーク値Iout_peakが9.9Aに増大すると、式(1)により充電電流指令値のピーク値Ibat_peakは4.2Aとなる。負荷電流のピーク値Iout_peakが18.4Aに増大すると、式(1a)により充電電流指令値のピーク値Ibat_peakは0A(充電停止)となる。
【0047】
図7は、負荷電流値と充電電流指令値との変化の他の例を示すタイムチャートである。自立出力の電流が一定値であるとして、引込電流値Ipvが14A(ピーク値19.8A)に設定されているとする。負荷電流値が0Aのときは、式(1)により充電電流指令値のピーク値Ibat_peakは19.8Aである。負荷電流のピーク値Iout_peakが9.9Aに増大すると、式(1)により充電電流指令値のピーク値Ibat_peakは9.9Aとなる。負荷電流のピーク値が18.4Aに増大すると、式(1)により充電電流指令値Ibat_peakは1.4Aとなる。
【0048】
《入力電圧の歪について》
図2において、電力変換装置3が自立運転し、蓄電システム8の電力変換部84も充電を行っている場合、例えば両者のスイッチング周波数の違いから、相互に干渉し、自立出力の電圧に歪が生じる場合がある。歪は、電圧センサ80及びその検出出力を受け取る制御部87により、正弦波の理想電圧と比較して容易に検出することができる。
【0049】
図8の(a)は、自立出力により、特定負荷11への給電と、蓄電池85の充電とを同時に行っている場合を示している。この状態で、もし制御部87が自立出力の電圧に所定値以上の歪が生じていることを検出した場合、制御部87は充電を停止し、(b)の状態とする。(b)の状態では、電力変換部84はスイッチングを停止し、自立出力は蓄電システム8を素通りするバイパス状態となる。これにより、自立出力の電圧の歪を解消することができる。
【0050】
仮に、上記の歪を放置すると、電力変換装置3自身が出力電圧の異常を検出して運転を停止してしまう。運転停止になると、スイッチ81が開き、蓄電システム8が蓄電池85を放電させて自立出力を特定負荷11に提供する。しかし、これでは、太陽光発電による自立出力を有効活用できない。蓄電システム8の充電を停止することよりも、太陽光発電のエネルギーを有効活用できない方が、エネルギーの無駄が大きい。そこで、蓄電システム8は、充電を停止することで、電力変換装置3の運転停止を抑制し、太陽光発電の自立出力を安定して特定負荷11に供給することができる。
【0051】
充電の停止後、歪が所定値未満になれば、制御部87は電力変換部84のスイッチング動作を再開させ、充電を行う。歪は、一時的に生じて、再発しない場合もあるので、積極的に充電を行うことが、エネルギーの有効活用の観点からは、好ましい。但し、歪が所定値未満になっても、蓄電池85のSOCが満充電の状態であれば、制御部87は、バイパス状態を継続する。
【0052】
《引込電流値の設定方法に関するオプション》
前述のように、引込電流値Ipvは、リモコン装置8rに、ユーザが手動設定することができる。但し、設定方法はこれに限定される訳ではない。以下、他の設定方法について説明する。なお、以下の設定方法は、相互に併用してもよい。
【0053】
図9は、天気情報に基づく引込電流値の設定を示す概略図である。蓄電システム8のリモコン装置8rは、インターネット経由で、天気情報サーバ100と通信可能に接続されている。太陽光発電の発電量は、天気に影響される。そこで、随時、天気情報を取得し、天気情報から想定される発電量に応じてリモコン装置8rは、引込電流値Ipvの設定を変更することができる。例えば、天気情報が、晴れであれば最大設定値、曇りであれば中間設定値、雨であれば最小設定値とすることができる。また、降水確率を考慮して、降水確率が低いときは引込電流値を高めに設定値し、降水確率が高いときは引込電流値を低めに設定することができる。
【0054】
図10は、日射量に基づく引込電流値の設定を示す概略図である。蓄電システム8のリモコン装置8rは、太陽光発電パネル2の近傍に設けられた日射計200と接続されている。太陽光発電の発電量は、日射量と密接な関係がある。そこで、随時、日射量を取得し、日射量から想定される発電量に応じてリモコン装置8rは、引込電流値Ipvの設定を変更することができる。例えば、日射量を高レベル、中レベル、低レベルに分けて、前述の値であれば、高レベルなら14A、中レベルなら10A、低レベルなら5Aとすることができる。
【0055】
太陽光発電の発電量は、過去の発電量の情報(履歴)から、推定することもできる。例えば電力変換装置3又は売電用電力量計5から出力情報を取得できる場合には、リモコン装置8rに、過去の発電量の情報を記憶させる。そして、リモコン装置8rが、過去の発電量の情報に基づいて、年月日から、発電量を推定し、発電量に見合う引込電流値(Ipv)を設定する。
【0056】
図11は、モバイル情報端末(例えばスマートフォン)300を利用した引込電流値の設定を示す概略図である。蓄電システム8のリモコン装置8rは、ルータ10(図1)を介してモバイル情報端末300と通信可能である。モバイル情報端末300にインストールされた専用アプリの画面には、現在の発電量、引込電流値、負荷電流値を含む情報が表示される。ユーザは、これらの情報が表示された画面を見ながら、引込電流値の設定変更が必要と判断できるときは、モバイル情報端末300から設定値を変更することができる。また、天候、日射量等から推定される発電量相当値(発電量に相当する電流値=発電電力/電圧)に比べて引込電流値が超過している場合は、リモコン装置8rからモバイル情報端末300に設定変更を促す信号を表示することができる。
【0057】
《開示のまとめ》
以上の開示は、以下のように一般化して表現することができる。
【0058】
本開示の蓄電システム8において、制御部87は、太陽光発電装置の電力変換装置3から受け入れる予想値としての引込電流値(Ipv)の設定を受け付け、交流電路88から電力変換部84へ送り込まれる充電電流指令値(Ibat)のピーク値(Ibat_peak)が、引込電流値の√2倍の値から、負荷に供給する負荷電流(Iout)のピーク値(Iout_peak)を減じた電流値を超えないよう電力変換部84を制御する。
【0059】
このような蓄電システム8では、外部の電力変換装置3から自立出力の提供を受けて特定負荷11に給電している間、設定された引込電流値(Ipv,固定値)の√2倍の値と負荷電流(Iout)のピーク値(Iout_peak)との差が、蓄電池85の充電のための充電電流指令値(Ibat、交流)のピーク値(Ibat_peak)となる。従って、蓄電システム8は、外部の電力変換装置3と連携をとらなくても、自ら設定した引込電流値(Ipv)に基づいて、当該引込電流値の下での、適切な制御を行うことができる。また、非線形負荷であっても、電力変換装置3の停止を抑制する制御を行うことができる。
【0060】
ただし、負荷電流(Iout)のピーク値(Iout_peak)が、引込電流値(Ipv)の√2倍の値より大きい場合には、制御部87は、電力変換部84の動作を停止の状態とする。この場合、理論上は引込電流値(Ipv)の√2倍の値から負荷電流(Iout)のピーク値(Iout_peak)を減じた電流値がマイナスになるが、実際は、設定した引込電流値(Ipv)以上の電流(電力)を太陽光発電により特定負荷11に提供できていることになるので、蓄電池85は充電も放電もしないことが適切である。
【0061】
引込電流値(Ipv)の設定は、リモコン装置8rにより、手動設定で任意に行うことができる。引込電流値(Ipv)は、リモコン装置8rに表示された複数の候補値から、ユーザが選択することができる。この場合、目安となる候補値から、ユーザは、引込電流値を選択して設定することができる。
【0062】
引込電流値(Ipv)は、例えば以下のように、他の情報に基づいて設定(自動設定)することもできる。
(a)リモコン装置8rが、インターネット経由で天気情報サーバ100から取得した情報に基づいて、引込電流値(Ipv)を設定する。
(b)リモコン装置8rが、日射計200から取得した日射量に基づいて引込電流値(Ipv)を設定する。
(c)リモコン装置8rが、過去の発電量の情報に基づいて引込電流値(Ipv)を設定する。
【0063】
また、モバイル情報端末300とリモコン装置8rとで通信することも考えられる。
リモコン装置8rは、モバイル情報端末300から引込電流値(Ipv)の設定を受け付けるとともに、設定した引込電流値(Ipv)が太陽光発電の発電量相当値より多い場合はモバイル情報端末300に対して設定変更を促す情報を送るようにしてもよい。
【0064】
なお、太陽光発電の電力変換装置3からの自立出力に所定値以上の歪が生じている場合には、制御部87は、電力変換部84の動作を停止させることが好ましい。自立運転している電力変換装置3が歪の発生により運転停止となることは、発電電力の有効活用の観点から、避けるべきである。
【0065】
《補記》
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 需要家
2 太陽光発電パネル
3 電力変換装置
4 一般負荷分電盤
5 売電用電力量計
6 買電用電力量計
7 商用電力系統
8 蓄電システム
in 入力端
out 出力端
8r リモコン装置
9 特定負荷用分電盤
10 ルータ
11 特定負荷
80 電圧センサ
81 スイッチ
82,83 電流センサ
84 電力変換部
85 蓄電池
86 BMS
87 制御部
88 交流電路
88j 分岐点
100 天気情報サーバ
200 日射計
300 モバイル情報端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11