(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/42 20060101AFI20250319BHJP
【FI】
H01R13/42 F
H01R13/42 B
(21)【出願番号】P 2022021083
(22)【出願日】2022-02-15
【審査請求日】2024-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋▲崎▼ 雅史
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-373727(JP,A)
【文献】特開2003-022865(JP,A)
【文献】特開2003-243078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R13/40-13/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子収容室を有するハウジング本体と、
前記ハウジング本体の後方から前記端子収容室に挿入される雌端子金具と、
前記ハウジング本体に対して、前記ハウジング本体の前面を覆うように取り付けられ、前記端子収容室内の前記雌端子金具を前止まり状態に保持する端子保持部材と、を備え、
前記ハウジング本体には、前記雌端子金具の挿入過程では前記雌端子金具との干渉によって弾性変形し、前記端子収容室に挿入された前記雌端子金具を抜止めするランスが形成され、
前記端子保持部材には、
前記ランスを前記雌端子金具から解離させるための治具が挿入される治具挿入孔と、
前記端子保持部材の前方から雄端子金具のタブが挿入されるタブ挿入孔と、
前記タブを前記タブ挿入孔へ誘い込む誘導面とが形成され、
前記タブ挿入孔と前記治具挿入孔が、前記ランスの弾性変形方向と交差する幅方向に並ぶように配置
され、
前記ランスには、前記治具を当てるための治具当て部が形成され、
前記治具挿入孔には、ガイド面が形成され、
前記ガイド面は、前記治具挿入孔において前記幅方向に対向する一対の内側面のうち、前記タブ挿入孔から遠い側の内側面に形成されており、
前記端子保持部材を前記ランスの弾性変形方向と同じ方向に見た平面視において、前記ガイド面は、前記タブ挿入孔における前記タブの挿入方向に対して傾斜しているコネクタ。
【請求項2】
端子収容室を有するハウジング本体と、
前記ハウジング本体の後方から前記端子収容室に挿入される雌端子金具と、
前記ハウジング本体に対して、前記ハウジング本体の前面を覆うように取り付けられ、前記端子収容室内の前記雌端子金具を前止まり状態に保持する端子保持部材と、を備え、
前記ハウジング本体には、前記雌端子金具の挿入過程では前記雌端子金具との干渉によって弾性変形し、前記端子収容室に挿入された前記雌端子金具を抜止めするランスが形成され、
前記端子保持部材には、
前記ランスを前記雌端子金具から解離させるための治具が挿入される治具挿入孔と、
前記端子保持部材の前方から雄端子金具のタブが挿入されるタブ挿入孔と、
前記タブを前記タブ挿入孔へ誘い込む誘導面とが形成され、
前記タブ挿入孔と前記治具挿入孔が、前記ランスの弾性変形方向と交差する幅方向に並ぶように配置され、
前記ランスには、前記治具を当てるための治具当て部が形成され、
前記治具挿入孔には、ガイド面が形成され、
前記端子保持部材を前記ランスの弾性変形方向と同じ方向に見た平面視において、前記ガイド面は、前記タブ挿入孔における前記タブの挿入方向に対して傾斜しており、
前記治具挿入孔には、前記ガイド面と前記幅方向に対向し、且つ前記タブ挿入孔における前記タブの挿入方向と平行なストレート面が形成されているコネクタ。
【請求項3】
前記ランスには、前記治具を当てるための治具当て部が形成され、
前記端子保持部材は、前記雌端子金具の挿入を許容する仮係止位置と、前記雌端子金具を抜止めする本係止位置との間で移動可能であり、
前記端子保持部材が本係止位置にあるときには、前記端子保持部材を前方から見た正面視において、前記治具挿入孔が、前記治具当て部から離隔した位置に配置される請求項1又は請求項2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記ランスには、前記治具を当てるための治具当て部が形成され、
前記幅方向において、前記治具当て部が、前記雌端子金具の外側面よりも外方の領域に配置されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記端子保持部材は、前記端子収容室内の前記雌端子金具が後方へ移動することを防止する抜止部を有している請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項6】
前記ガイド面の前端は、前記幅方向において、前記ランスの外側縁よりも外側に位置している請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項7】
前記治具挿入孔の後端における前記幅方向の開口寸法は、前記治具挿入孔の前端における前記幅方向の開口寸法よりも小さい請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コネクタハウジングに取り付けた端子を、コネクタハウジングの前端部に取り付けたフロントホルダによって前止まりするコネクタが開示されている。コネクタハウジングに取り付けた端子は、弾性変形可能なランスの係止によって抜止めされる。フロントホルダには、相手端子挿入用の孔部と治具棒挿入用の孔部が形成されている。フロントホルダの前面における相手端子挿入用の孔部の開口縁部には、相手端子を孔部に誘い込むためのテーパ状の誘導面が形成されている。端子金具をコネクタハウジングから抜き取る際には、治具挿入用の孔部に挿入した治具によって、ランスを端子から外すように弾性変形させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のコネクタは、相手端子挿入用の孔部と治具棒挿入用の孔部が、ランスの弾性変形方向と同じ方向に並ぶように配置されている。このコネクタを、ランスの弾性変形方向において小型化しようとする場合は、治具挿入用の孔部を相手端子挿入用の孔部に接近させるように配置し、治具挿入用の孔部の開口領域の一部を、誘導面と重なるように配置すればよい。しかし、誘導面の一部が治具挿入用の孔部によって切り欠かれると、相手端子が治具挿入用の孔部へ誤挿入される虞がある。この対策としては、治具挿入用の孔部の開口領域を狭めて、治具挿入用の孔部が誘導面に重ならないようにすることが考えられる。しかし、治具挿入用の孔部を狭めた場合には、治具を薄くしなければならないため、治具の強度を勘案すると、治具挿入用の孔部の開口領域を小さくすることには限界がある。よって、相手端子の誤挿入を防止しながら、小型化を図ることはできない。
【0005】
本開示のコネクタは、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、誤挿入を防止しながら小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のコネクタは、
端子収容室を有するハウジング本体と、
前記ハウジング本体の後方から前記端子収容室に挿入される雌端子金具と、
前記ハウジング本体に対して、前記ハウジング本体の前面を覆うように取り付けられ、前記端子収容室内の前記雌端子金具を前止まり状態に保持する端子保持部材と、を備え、
前記ハウジング本体には、前記雌端子金具の挿入過程では前記雌端子金具との干渉によって弾性変形し、前記端子収容室に挿入された前記雌端子金具を抜止めするランスが形成され、
前記端子保持部材には、
前記ランスを前記雌端子金具から解離させるための治具が挿入される治具挿入孔と、
前記端子保持部材の前方から雄端子金具のタブが挿入されるタブ挿入孔と、
前記タブを前記タブ挿入孔へ誘い込む誘導面とが形成され、
前記タブ挿入孔と前記治具挿入孔が、前記ランスの弾性変形方向と交差する幅方向に並ぶように配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、誤挿入を防止しながら小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1のコネクタにおいて端子保持部材が本係止位置に取り付けられている状態をあらわす斜視図である。
【
図2】
図2は、端子保持部材が仮係止位置に取り付けられている状態をあらわす斜視図である。
【
図3】
図3は、ハウジングをハウジング本体と端子保持部材とに分離した状態をあらわす斜視図である。
【
図4】
図4は、ランスの形状をあらわす一部切欠部分拡大斜視図である。
【
図5】
図5は、端子保持部材が仮係止位置にある状態を、タブ挿入孔において切断してあらわした側断面図である。
【
図6】
図6は、端子保持部材が仮係止位置にある状態を、治具挿入孔において切断してあらわした側断面図である。
【
図7】
図7は、端子保持部材が仮係止位置にあり、ランスが治具によって弾性変形させられた状態を、治具挿入孔において切断した側断面図である。
【
図8】
図8は、端子保持部材が本係止位置にある状態を、タブ挿入孔において切断してあらわした側断面図である。
【
図9】
図9は、端子保持部材が本係止位置にある状態を、治具挿入孔において切断してあらわした側断面図である。
【
図11】
図11は、治具が治具挿入孔に差し込まれた状態をあらわす平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のコネクタは、
(1)端子収容室を有するハウジング本体と、前記ハウジング本体の後方から前記端子収容室に挿入される雌端子金具と、前記ハウジング本体に対して、前記ハウジング本体の前面を覆うように取り付けられ、前記端子収容室内の前記雌端子金具を前止まり状態に保持する端子保持部材と、を備え、前記ハウジング本体には、前記雌端子金具の挿入過程では前記雌端子金具との干渉によって弾性変形し、前記端子収容室に挿入された前記雌端子金具を抜止めするランスが形成され、前記端子保持部材には、前記ランスを前記雌端子金具から解離させるための治具が挿入される治具挿入孔と、前記端子保持部材の前方から雄端子金具のタブが挿入されるタブ挿入孔と、前記タブを前記タブ挿入孔へ誘い込む誘導面とが形成され、前記タブ挿入孔と前記治具挿入孔が、前記ランスの弾性変形方向と交差する幅方向に並ぶように配置されている。本開示の構成によれば、治具挿入孔をタブ挿入孔の誘導面に重なるように配置しなくても、ランスの弾性変形方向において小型化を図ることができる。よって、タブの治具挿入孔への誤挿入を防止しながら、ランスの弾性変形方向において小型化を図ることができる
(2)前記端子保持部材は、前記端子収容室内の前記雌端子金具が後方へ移動することを防止する抜止部を有していることが好ましい。この構成によれば、端子保持部材とは別に、雌端子金具を抜止めするための専用部材を設ける場合に比べると、部品点数を削減できる。
【0010】
(3)前記ランスには、前記治具を当てるための治具当て部が形成され、前記端子保持部材は、前記雌端子金具の挿入を許容する仮係止位置と、前記雌端子金具を抜止めする本係止位置との間で移動可能であり、前記端子保持部材が本係止位置にあるときには、前記端子保持部材を前方から見た正面視において、前記治具挿入孔が、前記治具当て部から離隔した位置に配置されることが好ましい。この構成によれば、端子保持部材が本係止位置にある状態では、治具を治具挿入孔に差し込んだとしても、誤ってランスを撓ませることを防止できる。
【0011】
(4)前記ランスには、前記治具を当てるための治具当て部が形成され、前記幅方向において、前記治具当て部が、前記雌端子金具の外側面よりも外方の領域に配置されていることが好ましい。この構成によれば、治具が治具当て部に接触したときに、治具と雌端子金具とが干渉することを防止できる。
【0012】
(5)前記ランスには、前記治具を当てるための治具当て部が形成され、前記治具挿入孔には、ガイド面が形成され、前記端子保持部材を前記ランスの弾性変形方向と同じ方向に見た平面視において、前記ガイド面は、前記タブ挿入孔における前記タブの挿入方向に対して傾斜していることが好ましい。この構成によれば、治具をガイド面に沿わせながら治具挿入孔に挿入することによって、治具を治具当て部に対して斜めに当てることができるので、治具と治具当て部が幅狭の形状であっても、治具を治具当て部に対して確実に当てることができる。
【0013】
(6)(5)において、前記ガイド面は、前記治具挿入孔において前記幅方向に対向する一対の内側面のうち、前記タブ挿入孔から遠い側の内側面に形成されていることが好ましい。この構成によれば、幅方向に隣り合う端子収容室のうち、一方の端子収容室用の治具挿入孔と、他方の端子収容室用のタブ挿入孔との間の隔壁部の厚さを、大きく確保することができる。
【0014】
(7)(5)又は(6)において、前記治具挿入孔には、前記ガイド面と前記幅方向に対向し、且つ前記タブ挿入孔における前記タブの挿入方向と平行なストレート面が形成されていることが好ましい。この構成によれば、治具挿入孔を、タブ挿入孔に対するタブの挿入方向と平行に型開きされる金型によって、端子保持部材を成形することができる。
【0015】
(8)(5)~(7)において、前記ガイド面の前端は、前記幅方向において、前記ランスの外側縁よりも外側に位置していることが好ましい。この構成によれば、タブ挿入孔におけるタブの挿入方向に対するガイド面の傾斜角度が、大きく確保されるので、治具当て部に対して治具を、より確実に当てることができる。
【0016】
(9)前記治具挿入孔の後端における前記幅方向の開口寸法は、前記治具挿入孔の前端における前記幅方向の開口寸法よりも小さいことが好ましい。この構成によれば、治具挿入孔の前端と後端における幅方向の開口の寸法差によって、治具を前止まりさせることができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
[実施例1]
本開示を具体化した実施例1のコネクタを、
図1~
図16を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。本実施例1において、前後の方向については、
図1~11,13~15におけるX軸の正方向を前方と定義する。左右の方向については、
図1~4,10~16におけるY軸の正方向を右方と定義する。左右方向と幅方向を同義で用いる。上下の方向については、
図1~9,12,14,16におけるZ軸の正方向を上方と定義する。
【0018】
本開示のコネクタは、
図1~3に示すように、1つのコネクタハウジング10と、複数の雌端子金具50とを備えている。コネクタハウジング10は、1つのハウジング本体11と、1つの端子保持部材30とを組み付けて構成されている。
【0019】
図5に示すように、ハウジング本体11内には、複数の端子収容室12が形成されている。各端子収容室12は、前後方向に細長い空間であり、ハウジング本体11の前後両面に開口している。複数の端子収容室12は、左右方向(幅方向)に並ぶように配置されている。ハウジング本体11には、ハウジング本体11の下面に開口する収容空間13が形成されている。収容空間13は、複数の端子収容室12と連通している。
図3に示すように、ハウジング本体11の前面における左右両側縁部には、一対のガイド溝14が形成されている。ガイド溝14の上端部には、仮係止用保持部15と、本係止用保持部16が形成されている。
【0020】
図4~11に示すように、端子収容室12には、ランス17が形成されている。ランス17は、端子収容室12を構成する下壁部に沿って前方へ片持ち状に延出した形状である。ランス17は、常には、抜止め位置(抜止め姿勢)を保っている。ランス17は、ランス17の後端を支点として、抜止め解除位置(抜止め解除姿勢)へ弾性変位し得る。ランス17が抜止め解除位置へ弾性変位した状態では、ランス17の前端部が、抜止め位置よりも下方(端子収容室12から遠ざかる方向)に位置する。ランス17の弾性変形方向は、上下方向である。
【0021】
ランス17は、ランス本体部18と一次係止部19とを有する。ランス本体部18は、板厚方向を上下方向に向けた板状をなし、下壁部から前方へ延出している。一次係止部19は、ランス本体部18の前端部上面から上方へ突出している。一次係止部19は、ランス本体部18の左右方向中央部に配置されている。ランス本体部18のうち一次係止部19よりも左側の部位は、治具当て部20として機能する。
図4,6,7,9に示すように、治具当て部20の前端部の上面には、後方に向かって次第に高くなるように傾斜した誘導用傾斜面21が形成されている。誘導用傾斜面21を含む治具当て部20は、治具60からの下向き(抜止め解除方向)の押圧力を受ける部位である。
【0022】
図3,5に示すように、端子保持部材30は、前壁部31と、左右一対の側壁部32と、抜止部33とを有する。端子保持部材30を前方から見た正面視において、前壁部31は、全体として長方形をなす。一対の側壁部32は、前壁部31の左右両側縁部の下端部から、後方へ延出している。抜止部33は、左右両側壁部32の後端部同士を繋ぐように配置され、全体として直方形をなす。端子保持部材30をハウジング本体11に組み付けた状態では、前壁部31がハウジング本体11の前面に重なる配置され、左右両側壁部32がハウジング本体11の左右両外側面に重なるように配置され、抜止部33が収容空間13内に収容される。
【0023】
ハウジング本体11に取り付けた端子保持部材30は、ハウジング本体11に対して仮係止位置(
図2,5~7参照)と、仮係止位置よりも上方の本係止位置(
図1,8,9参照)との間で相対移動し得るようになっている。仮係止位置と本係止位置との間の移動方向は、ハウジング本体11の前面及び前壁部31と平行な方向である。
図3に示すように、前壁部31の左右両側縁部には、上下方向に延びる一対のガイドリブ34が形成されている。ガイドリブ34の上端部には、保持突起35が形成されている。保持突起35が仮係止用保持部15に嵌合することによって、端子保持部材30が仮係止位置に保持される。保持突起35が本係止用保持部16に嵌合することによって、端子保持部材30が本係止位置に保持される。
【0024】
抜止部33は、各端子収容室12に個別に臨む複数の二次係止部36を有する。端子保持部材30が仮係止位置にある状態では、二次係止部36を含む抜止部33の全体が、端子収容室12の外部に位置する。したがって、後述する雌端子金具50を端子収容室12へ挿入する過程で、雌端子金具50が抜止部33(二次係止部36)と干渉することはない。端子保持部材30が本係止位置へ移動した状態では、抜止部33のうち二次係止部36が端子収容室12内(雌端子金具50の挿入経路内)へ進出する。
【0025】
前壁部31は、端子収容室12に挿入された雌端子金具50が、ハウジング本体11の前面へ離脱しないようにするための前止まり機能を有する部位である。
図1~3に示すように、前壁部31には、複数のタブ挿入孔37と複数の治具挿入孔40が形成されている。タブ挿入孔37と治具挿入孔40は、いずれも、前壁部31を前後方向に貫通した形状である。1つのタブ挿入孔37と、このタブ挿入孔37の左隣に位置する1つの治具挿入孔40は、1つの端子収容室12と対応する1組の挿入部41を構成する。
【0026】
図12に示すように、正面視におけるタブ挿入孔37の開口形状は、上下方向の二辺と左右方向のニ辺とを有する正方形である。タブ挿入孔37は、雄端子金具70のタブ71を上下及び左右方向に位置決めする大きさと形状を有する。前壁部31の前面には、各タブ挿入孔37を個別に包囲するテーパ状の誘導面38が形成されている。誘導面38は、4つの台形をなす傾斜面によって構成されている。4つの傾斜面は、タブ挿入孔37の4つの内面の前端から、前壁部31の前面まで次第に拡がるように傾斜した平面である。
【0027】
1組の挿入部41において、治具挿入孔40は、タブ挿入孔37及び誘導面38とは重ならないように配置されている。換言すると、治具挿入孔40は、誘導面38の左端よりも更に左方へ外れた位置に配置されている。1つの端子収容室12に対応するタブ挿入孔37と治具挿入孔40は、上下方向において共通する開口領域を有している。
【0028】
端子保持部材30が仮係止位置と本係止位置との間で移動しても、タブ挿入孔37と治具挿入孔40の左右方向の位置は変化しない。タブ挿入孔37は、左右方向において端子収容室12の形成領域と重なるように配置されている。端子保持部材30が仮係止位置にあるときに、タブ挿入孔37は、端子収容室12の形成領域から下方へ外れ、且つ上下方向においてランス17と重なるように配置される。端子保持部材30が本係止位置にあるときに、タブ挿入孔37は、上下方向において端子収容室12の形成領域と重なり、且つ一次係止部19を含むランス17全体よりも上方に位置するように配置される。
【0029】
端子保持部材30が仮係止位置と本係止位置のいずれの位置にあっても、治具挿入孔40は、治具挿入孔40の開口領域の全体が端子収容室12の形成領域から左方へ外れるように配置されている。端子保持部材30が仮係止位置にあるときに、治具挿入孔40は、治具挿入孔40の開口領域が、上下方向においてランス17のうち治具当て部20の形成領域と重なるように配置される。端子保持部材30が本係止位置にあるときに、治具挿入孔40は、治具挿入孔40の開口領域が、治具当て部20を含むランス17全体の形成領域から上方へ外れるように配置される。
【0030】
正面視における治具挿入孔40の開口形状は、上下方向の二辺と左右方向の二片とを有する縦長の長方形である。治具挿入孔40の内面のうち上面と下面の高さは、治具挿入孔40の全体に亘って一定である。
図10,11に示すように、治具挿入孔40の内面のうち右面の全領域には、ストレート面42が形成されている。ストレート面42は、端子保持部材30を上から見た平面視において、タブ挿入孔37に対するタブ71の挿入方向(前後方向)、及びランス17の延出方向と平行に平面からなる。ストレート面42の全体は、左右方向において、治具当て部20の形成領域の範囲内に位置している。換言すると、ストレート面42は、ランス17の一次係止部19よりも左方で、且つ治具当て部20の左端縁よりも右方に配置されている。
【0031】
治具挿入孔40の内面のうち左面の全領域には、ガイド面43が形成されている。
図10,11に示すように、ガイド面43は、平面視において、タブ挿入孔37に対するタブ71の挿入方向(前後方向)、及びランス17の延出方向(前後方向)に対して傾斜した平面からなる。ガイド面43の全体は、治具当て部20の左側縁よりも左方に位置する。ガイド面43の前端は、ガイド面43の後端よりも左方に位置する。治具挿入孔40の前端における左右方向の開口幅寸法は、治具挿入孔40の後端における左右方向の開口幅よりも大きい。ガイド面43は、前壁部31の前方から治具挿入孔40に挿入された治具60を、斜め右後方へ誘導する。
図13に示すように、治具挿入孔40の平面視形状は、前端の開口幅WFが後端の開口幅WRよりも大きい不等脚台形である。
【0032】
図14~16に示すように、治具60は、摘み部61と、摘み部61から細長く突出した解除部62とを有する単一部品である。解除部62は、テーパ部63と押圧部64とを有する。テーパ部63は、摘み部61に連なり、摘み部61から突出している。テーパ部63の平面視形状は、突出方向に向かって次第に幅狭となる台形をなす。平面視におけるテーパ部63の形状及び大きさは、平面視における治具挿入孔40の形状及び大きさと同一である。押圧部64は、テーパ部63の突出端から更に突出した形状である。
図15に示すように、押圧部64の平面視形状は、一定幅で一直線状に延びた形状である。テーパ部63の左側面と押圧部64の左側面は、面一状に連なっていて、1つの細長い平面を構成する。テーパ部63の右側面63Rと押圧部64の右側面64Rは、鈍角θ(180°よりも僅かに小さい角度)をなして連なっている。
【0033】
解除部62の上面は、解除部62の全体に亘って一定高さの平面からなる。押圧部64の前端部下面には、解除部62の長さ方向に対して傾斜した押圧用傾斜面65が形成されている。押圧用傾斜面65は、摘み部61側から解除部62の先端側に向かって次第に高くなるように傾斜している。換言すると、押圧部64の厚さが、摘み部61側から解除部62の先端側に向かって次第に薄くなるように傾斜している。解除部62のうち押圧用傾斜面65が形成されていない領域の厚さ寸法(高さ寸法)は、治具挿入孔40の高さ寸法と同じから、それよりも僅かに小さい寸法である。
【0034】
図5に示すように、雌端子金具50は、全体として前後方向に細長い形状である。雌端子金具50の前端部には、角筒部51が形成され、雌端子金具50の後端部には圧着部52が形成されている。雌端子金具50の圧着部52は、電線55の前端部に対して導通可能に固着されている。角筒部51の下面には、一次係止用の係止孔53が形成されている。角筒部51の後端部は、二次係止用の段差状係止部54としての機能を有する。
【0035】
次に、本実施例1の作用及び効果について説明する。雌端子金具50をコネクタハウジング10に取り付ける際には、端子保持部材30を仮係止位置に保持しておく。この状態で、コネクタハウジング10の後方から雌端子金具50を端子収容室12挿入する。挿入の過程では、角筒部51が一次係止部19と干渉するので、ランス17が下方の抜止解除位置へ弾性変形する。雌端子金具50が正規の挿入位置に到達すると、雌端子金具50の前端が前壁部31に突き当たることによって、雌端子金具50が前止まり状態に保持される。雌端子金具50が正規位置まで挿入されると、ランス17が抜止位置へ弾性復帰して、一次係止部19が係止孔53に係止する。この係止作用によって、雌端子金具50が後方への移動を規制された抜止め状態に保持される。以上により、雌端子金具50がランス17によって一次係止された状態となる。
【0036】
この後、仮係止位置の端子保持部材30を本係止位置に移動させる。端子保持部材30が本係止位置へ移動すると、端子保持部材30の二次係止部36が端子収容室12内に進出し、雌端子金具50の段差状係止部54に対して後方から係止する。この係止作用によって、雌端子金具50が確実に抜止された二次係止状態に保持される。端子保持部材30が本係止位置にある状態では、タブ挿入孔37が、端子収容室12内の角筒部51と同じ高さで前後方向に並ぶ位置関係となる。以上により、コネクタハウジング10に対する雌端子金具50の取付けが完了する。
【0037】
コネクタハウジング10に雌端子金具50を取り付けた後、雄端子金具70のタブ71が、コネクタハウジング10の前方からタブ挿入孔37に挿入され、角筒部51内の弾性接触片に対して弾性的に接触する。タブ挿入孔37の前端よりも前方には、タブ71の挿入方向に対して傾斜した誘導面38が形成されている。タブ71が上下方向又は左右方向に位置ずれしても、タブ71は、誘導面38によってタブ挿入孔37へ確実に誘導され、確実に雌端子金具50に接続される。
【0038】
コネクタハウジング10から雌端子金具50を取り外す際には、端子保持部材30を本係止位置から仮係止位置へ移動させる。これにより、二次係止部が雌端子金具50の段差状係止部54から外れるので、弾性保持片による二次係止が解除される。弾性保持片を仮係止位置へ移動させると、治具挿入孔40がランス17の治具当て部20と同じ高さに位置する。この状態で、前壁部31の前方から治具60の解除部62を、治具挿入孔40に差し込む。治具60は、治具挿入孔40に対して上下方向へ相対変位することはない。治具60の挿入が進み、押圧用傾斜面65が、ランス17の誘導用傾斜面21に摺接し始めると、双方の傾斜面21,65の傾斜によって、ランス17が抜止位置から抜止解除位置へ押し下げられる。
【0039】
治具60を差し込む過程では、治具60は、治具挿入孔40に対して左右方向への傾きや相対変位を生じ得る。しかし、解除部62の左側面をガイド面43に密着させた状態で摺接させることによって、治具60の左右方向における位置や向きを安定させることができる。ガイド面43によってガイドされた治具60は、ランス17の斜め左前方から斜め右後方へ進む。このときの治具60の移動方向は、前後方向に細長く延びた治具当て部20に対して斜めの方向である。
【0040】
テーパ部63のほぼ全体が治具挿入孔40内に収容されると、それ以上の治具60の差し込みができなくなる。以上により、治具60の操作が終了する。このとき、ランス17が抜止解除位置へ変位しているので、ランス17の一次係止部19が雌端子金具50の係止孔53から下方へ離脱し、ランス17による一次係止が解除される。これにより、雌端子金具50は後方への離脱が可能な状態となるので、この後は、電線55を摘んで雌端子金具50を端子収容室12から後方へ抜き取ればよい。
【0041】
本実施例1のコネクタは、端子収容室12を有するハウジング本体11と、ハウジング本体11の後方から端子収容室12に挿入される雌端子金具50と、端子保持部材30とを有する。端子保持部材30は、ハウジング本体11に対して、ハウジング本体11の前面を覆うように取り付けられる。端子保持部材30は、端子収容室12内に挿入されている雌端子金具50を前止まり状態に保持する。ハウジング本体11には、雌端子金具50の挿入過程では雌端子金具50との干渉によって弾性変形するランス17が形成されている。ランス17は、端子収容室12に挿入された雌端子金具50を抜止めする。
【0042】
端子保持部材30には、タブ挿入孔37と治具挿入孔40が形成されている。タブ挿入孔37には、端子保持部材30の前方から雄端子金具70のタブ71が挿入される。治具挿入孔40には、ランス17を雌端子金具50から解離させるための治具60が挿入される。端子保持部材30には、正面視においてタブ挿入孔37を包囲するように配置された誘導面38が形成されている。誘導面38は、タブ71をタブ挿入孔37へ誘い込む。タブ挿入孔37と治具挿入孔40は、ランス17の弾性変形方向と交差する幅方向に並ぶように配置されている。
【0043】
この構成によれば、治具挿入孔40を誘導面38に重なるように配置しなくても、ランス17の弾性変形方向(上下方向)において小型化を図ることができる。治具挿入孔40の開口領域が誘導面38に重ならないので、誘導面38が治具挿入孔40によって切り欠かれることはない。よって、本実施例1のコネクタによれば、タブ71の治具挿入孔40への誤挿入を防止しながら、ランス17の弾性変形方向において小型化を図ることができる。
【0044】
端子保持部材30は、端子収容室12内の雌端子金具50が後方へ移動することを防止する抜止部33を有している。この構成によれば、端子保持部材30とは別に、雌端子金具50を抜止めするための専用部材を設ける場合に比べると、部品点数を削減できる。
【0045】
ランス17には、治具60を当てるための治具当て部20が形成されている。端子保持部材30は、雌端子金具50の挿入を許容する仮係止位置と、雌端子金具50を抜止めする本係止位置との間で移動可能である。端子保持部材30が本係止位置にあるときには、端子保持部材30を前方から見た正面視において、治具挿入孔40が、治具当て部20から上方へ離隔した位置に配置される。この構成によれば、端子保持部材30が本係止位置にある状態では、治具60を治具挿入孔40に差し込んだとしても、誤ってランス17を撓ませることを防止できる。
【0046】
幅方向において、治具当て部20は、雌端子金具50の左外側面よりも左方(外方)の領域に配置されている。この構成によれば、治具60が治具当て部20に接触したときに、治具60と雌端子金具50とが干渉することを防止できる。
【0047】
治具挿入孔40には、ガイド面43が形成されている。端子保持部材30をランス17の弾性変形方向と同じ方向に見た平面視において、ガイド面43は、タブ挿入孔37におけるタブ71の挿入方向に対して傾斜している。この構成によれば、治具60をガイド面43に沿わせながら治具挿入孔40に挿入することによって、治具60を治具当て部20に対して斜めに当てることができる。したがって、治具60と治具当て部20が幅狭の形状であっても、治具60を治具当て部20に対して確実に当てることができる。
【0048】
図10,13に示すように、ガイド面43は、治具挿入孔40において幅方向に対向する一対の左右両内側面40Sのうち、タブ挿入孔37から遠い側の左側の内側面40Sのみに形成されている。左右両内側面40Sは、治具挿入孔40の内面の一部である。この構成によれば、幅方向に隣り合う端子収容室12のうち、一方の端子収容室12用の治具挿入孔40と、他方の端子収容室12用のタブ挿入孔37との間の隔壁部45の厚さを、大きく確保することができる(
図10,11,13参照)。
【0049】
治具挿入孔40には、ガイド面43と幅方向に対向するストレート面42が形成されている。ストレート面42は、タブ挿入孔37におけるタブ71の挿入方向と平行をなす。この構成によれば、治具挿入孔40を、タブ挿入孔37に対するタブ71の挿入方向と平行に型開きされる金型によって、端子保持部材30を成形することができる。
【0050】
ガイド面43の前端は、幅方向において、ランス17の左側の外側縁よりも外側(左側)に位置している。この構成によれば、タブ挿入孔37におけるタブ71の挿入方向に対するガイド面43の傾斜角度が、大きく確保されるので、治具当て部20に対して治具60を、より確実に当てることができる。
【0051】
治具挿入孔40の後端における幅方向の開口寸法は、治具挿入孔40の前端における幅方向の開口寸法よりも小さい。この構成によれば、治具挿入孔40の前端と後端における幅方向の開口の寸法差によって、治具60を前止まりさせることができる。
【0052】
[他の実施例]
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。本発明には、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれ、下記の実施形態も含まれる。
端子保持部材は、抜止部を有しない部品であってもよい。
端子保持部材が本係止位置にあるときに、治具挿入孔が、正面視において治具当て部を視認できる位置に配置されてもよい。
ガイド面は、治具挿入孔の幅方向に対向する一対の内側面のうち、タブ挿入孔に近い側の内側面に形成されていてもよい。
治具挿入孔は、ガイド面を有しない形状でもよい。
治具挿入孔は、ストレート面を有しない形状でもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…コネクタハウジング
11…ハウジング本体
12…端子収容室
13…収容空間
14…ガイド溝
15…仮係止用保持部
16…本係止用保持部
17…ランス
18…ランス本体部
19…一次係止部
20…治具当て部
21…誘導用傾斜面
30…端子保持部材
31…前壁部
32…側壁部
33…抜止部
34…ガイドリブ
35…保持突起
36…二次係止部
37…タブ挿入孔
38…誘導面
40…治具挿入孔
40S…治具挿入孔の内側面
41…挿入部
42…ストレート面
43…ガイド面
45…隔壁部
50…雌端子金具
51…角筒部
52…圧着部
53…係止孔
54…段差状係止部
55…電線
60…治具
61…摘み部
62…解除部
63…テーパ部
64…押圧部
65…押圧用傾斜面
70…雄端子金具
71…タブ