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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】カバーガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20250319BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20250319BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20250319BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20250319BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20250319BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/093
C03C3/091
C03C3/095
C03C3/097
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023071533
(22)【出願日】2023-04-25
(62)【分割の表示】P 2019561659の分割
【原出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2023083562
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2017248966
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】結城 健
(72)【発明者】
【氏名】市丸 智憲
(72)【発明者】
【氏名】細田 洋平
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099460(JP,A)
【文献】特開2019-099459(JP,A)
【文献】国際公開第2018/152845(WO,A1)
【文献】特表2016-500628(JP,A)
【文献】国際公開第2016/210244(WO,A1)
【文献】特開平11-302033(JP,A)
【文献】特開2010-059038(JP,A)
【文献】ニューガラスフォーラム,おもしろサイエンス ガラスの科学,日本,日刊工業新聞社,2013年06月25日,70-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%表示で、SiO 20~70%、Al 16.6~30%、B 1~3.7%、LiO 1~20%、NaO 2.8~20%、KO 0~20%、MgO 1~50%、CaO 0~20%、TiO 0~1%未満を含有し、下記式で算出されるX値が7400以上であることを特徴とするカバーガラス。X=61.1×[SiO]+174.3×[Al]+11.3×[B]+124.7×[LiO]-5.2×[NaO]+226.7×[KO]+139.4×[MgO]+117.5×[CaO]+89.6×[BaO]+191.8×[TiO]+226.7×[Y]+157.9×[ZrO]-42.2×[P
【請求項2】
ガラス組成として、モル%表示で、SiO 20~70%、Al 16.6~30%、B 1~3.7%、LiO 1~20%、NaO 2.8~20%、KO 0~20%、MgO 1~40%、CaO 0~20%、BaO 0~20%、TiO 0~1%未満、Y 0~20%、ZrO 0~20%、P 0~20%を含有することを特徴とする請求項1に記載のカバーガラス。
【請求項3】
ガラス組成中のKOの含有量が0~1モル%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカバーガラス。
【請求項4】
ガラス組成中のBの含有量が2~3.7モル%である、請求項1~3の何れかに記載のカバーガラス。
【請求項5】
ガラス組成中のMgOの含有量が~40モル%である、請求項1~3の何れか記載のカバーガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバーガラスに関し、特に携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)等のタッチパネルディスプレイに好適なカバーガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)等は、益々普及する傾向にある。これらの用途には、タッチパネルディスプレイのカバーガラスとして、イオン交換処理された強化ガラスが用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-83045号公報
【文献】特表2016-524581号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】泉谷徹郎等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451-498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カバーガラス、特にスマートフォンに使用されるカバーガラスは、屋外で使用されることが多いため、ハードスクラッチ、つまり幅や深さが大きな引っ掻き傷が付き易い。結果として、その傷を起点として、カバーガラスが破損し易くなる。よって、カバーガラスの耐傷性を高めることが重要になる。
【0006】
耐傷性を高める方法として、カバーガラスの硬度を高めることが検討されている。詳述すると、従来のガラスは、地上に多く存在するシリカ(砂)よりも硬度が大幅に低いため、シリカに起因して表面傷が付き易いという性質を有している。よって、カバーガラスの硬度を高めると、表面に傷が付き難くなると考えられる。しかし、カバーガラスの硬度を高めようとすると、ガラスの高温粘度が上昇して、溶融性や成形性が大幅に低下する。更にガラス組成のバランスが崩れて、成形時に失透ブツが発生し易くなる。結果として、良品採取が困難になる。
【0007】
また、ガラス表面に硬質の薄膜を形成すると、カバーガラスの硬度が高くなることが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ガラス表面に硬質の薄膜を形成すると、カバーガラスの透明性が低下したり、膜応力によってカバーガラスに反りが発生したりする虞がある。
【0008】
なお、サファイアは、硬度が高いため、カバー部材に好適であるように見える。しかし、サファイアは、大きな寸法の板状体を大量生産することが困難である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、耐傷性が高いカバーガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が種々の検討を行った結果、下記数式1から算出されるX値と傷の大きさが密接に関係していることを見出すと共に、このX値を所定値以上に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のカバーガラスは、ガラス組成中に、SiO、Al、B、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、BaO、TiO、Y、ZrO、Pの内、少なくとも3成分以上を含み、下記数式1で算出されるX値が7400以上であることを特徴とする。このようにすれば、表面傷が付き難くなると共に、ハードスクラッチが付いた場合でも、その傷の幅や深さを低減することができる。なお、下記数式1において、[SiO]はSiOのモル%含有量、[Al]はAlのモル%含有量、[B]はBのモル%含有量、[LiO]はLiOのモル%含有量、[NaO]はNaOのモル%含有量、[KO]はKOのモル%含有量、[MgO]はMgOのモル%含有量、[CaO]はCaOのモル%含有量、[BaO]はBaOのモル%含有量、[TiO]はTiOのモル%含有量、[Y]はYのモル%含有量、[ZrO]はZrOのモル%含有量、[P]はPのモル%含有量をそれぞれ指している。
【0011】
[数1]
X=61.1×[SiO]+174.3×[Al]+11.3×[B]+124.7×[LiO]-5.2×[NaO]+226.7×[KO]+139.4×[MgO]+117.5×[CaO]+89.6×[BaO]+191.8×[TiO]+226.7×[Y]+157.9×[ZrO]-42.2×[P
【0012】
図1は、X値とクラックの幅(Width)との関係を示すグラフであり、図2は、X値とクラックの深さ(Depth)との関係を示すグラフである。図1、2から明らかように、X値が大きくなると、傷の幅と深さが顕著に低減することが分かる。
【0013】
また、本発明のカバーガラスは、ガラス組成として、モル%表示で、SiO 20~80%、Al 5~30%、B 0~20%、LiO 0~20%、NaO 0~30%、KO 0~20%、MgO 0.1~40%、CaO 0~20%、BaO 0~20%、TiO 0~20%、Y 0~20% 、ZrO 0~20%、P 0~20%を含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明のカバーガラスは、ガラス組成中のMgOの含有量が10モル%以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のカバーガラスは、ガラス組成中のPの含有量が1モル%以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のカバーガラスは、破壊靱性が0.8MPa・m0.5以上が好ましい。このようにすれば、表面傷が付き難くなると共に、ハードスクラッチが付いた場合でも、その傷の幅や深さを低減することができる。ここで、「破壊靱性K1C」は、JIS R1607「ファインセラミックスの破壊靱性試験方法」に基づき、予き裂導入破壊試験法(SEPB法:Single-Edge-Precracked-Beam method)を用いて測定したものである。SEPB法は、予き裂導入試験片の3点曲げ破壊試験によって試験片が破壊するまでの最大荷重を測定し、最大荷重,予き裂長さ、試験片寸法及び曲げ支点間距離から平面歪み破壊靱性K1Cを求める方法である。なお、各ガラスの破壊靱性値は5点の平均値より求めるものとする。
【0017】
また、本発明のカバーガラスは、クラック抵抗が500gf以上であることが好ましい。ここで、「クラック抵抗」とは、クラック発生率が50%となる荷重のことを指す。また、「クラック発生率」は、次のようにして測定した値を指す。まず湿度30%、温度25℃に保持された恒温恒湿槽内において、所定荷重に設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)する。このようにして圧子を50回打ち込み、総クラック発生数を求めた後、(総クラック発生数/200)×100(%)の式により求める。
【0018】
また、本発明のカバーガラスは、板厚が0.1~2.0mmであることが好ましい。
【0019】
また、本発明のカバーガラスは、表面にイオン交換による圧縮応力層を有することが好ましい。
【0020】
また、本発明のカバーガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ応力深さが15μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力値」と「応力深さ」は、表面応力計(株式会社東芝製FSM-6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から算出した値を指し、その算出に際し、ガラスの屈折率を1.50、光学弾性定数を29.4[(nm/cm)/MPa]とする。
【0021】
また、本発明のカバーガラスは、タッチパネルディスプレイに用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】X値とクラックの幅(Width)との関係を示すグラフである。
図2】X値とクラックの深さ(Depth)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のカバーガラスにおいて、上記数式1で算出されるX値は7400以上であり、好ましくは8000以上、8250以上、8500以上、9000以上、9500以上、10000以上、特に11000~20000である。X値が小さ過ぎると、カバーガラスの表面に傷が付き易くなる。また傷の幅や深さが大きくなり易い。
【0024】
本発明のカバーガラスは、下記の特性を有することが好ましい。
【0025】
クラック抵抗は、好ましくは500kgf以上、800kgf以上、1000kgf以上、1500kgf以上、特に2000kgf以上である。クラック抵抗が低過ぎると、カバーガラスの表面に傷が付き易くなる。また傷の幅や深さが大きくなり易い。
【0026】
破壊靱性K1Cは、好ましくは0.8MPa・m0.5以上、より好ましくは0.9MPa・m0.5以上、更に好ましくは1.0MPa・m0.5以上、特に好ましくは1.1~3.5MPa・m0.5である。特に、イオン交換処理されていない状態での破壊靱性K1Cは、好ましくは0.8MPa・m0.5以上、より好ましくは0.9MPa・m0.5以上、更に好ましくは1.0MPa・m0.5以上、特に好ましくは1.1~3.5MPa・m0.5である。破壊靱性K1Cが小さ過ぎると、カバーガラスの表面に傷が付き易くなる。また傷の幅や深さが大きくなり易い。
【0027】
ヤング率は、好ましくは80GPa以上、85GPa以上、90GPa以上、100GPa以上、特に105~150GPaである。ヤング率が低いと、板厚が薄い場合に、カバーガラスが撓み易くなる。
【0028】
密度は、好ましくは3.50g/cm以下、3.25g/cm、3.00g/cm以下、2.60g/cm以下、2.55g/cm以下、2.50g/cm以下、2.49g/cm以下、特に2.40~2.47g/cmである。密度が低い程、カバーガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増量したり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を減量すれば、密度が低下し易くなる。
【0029】
30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は、好ましくは120×10-7/℃以下、110×10-7/℃以下、100×10-7/℃以下、特に40×10-7~95×10-7/℃である。熱膨張係数が低過ぎると、熱衝撃によって破損し易くなるため、イオン交換処理前の予熱やイオン交換処理後の除冷に要する時間を短縮することができる。なお、「30~380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、平均熱膨張係数を測定した値を指す。
【0030】
高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1660℃以下、1640℃未満、1630℃以下、特に1400~1620℃が好ましい。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高過ぎると、溶融性や成形性が低下して、溶融ガラスを板状に成形し難くなる。
【0031】
液相粘度は、好ましくは102.0dPa・s以上、103.0dPa・s以上、104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.3dPa・s以上、特に105.5dPa・s以上である。なお、液相粘度が高い程、耐失透性が向上し、成形時に失透ブツが発生し難くなる。ここで、「液相粘度」とは、液相温度における粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、白金ボートを取り出し、顕微鏡観察により、ガラス内部に失透(失透ブツ)が認められた最も高い温度とする。
【0032】
波長400nmにおける板厚0.8mm換算の分光透過率は、好ましくは80%以上、83%以上、85%以上、87%以上、特に90%以上である。波長400nmにおける板厚0.8mm換算の分光透過率が低過ぎると、タッチパネルディスプレイのカバーガラスに適用し難くなる。
【0033】
本発明のカバーガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 20~80%、Al 5~30%、B 0~20%、LiO 0~20%、NaO 0~30%、KO 0~20%、MgO 0.1~40%、CaO 0~20%、BaO 0~20%、TiO 0~20%、Y 0~20% 、ZrO 0~20%、P 0~20%を含有することが好ましい。各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがない限り、モル%を指す。
【0034】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は、好ましくは20~80%、30~70%、32~61%、33~55%、34~50%未満、特に35~45%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。
【0035】
Alは、耐傷性を高める成分であり、またイオン交換性能、歪点、ヤング率を高める成分である。Alの含有量が少な過ぎると、耐傷性が低下し易くなり、またイオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの含有量は、好ましくは5%以上、8%以上、10%以上、12%以上、14%以上、特に15%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、高温粘度が上昇して、溶融性や成形性が低下し易くなる。また、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等で板状に成形し難くなる。特に、成形体耐火物としてアルミナ系耐火物を用いて、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形する場合、アルミナ系耐火物との界面にスピネルの失透結晶が析出し易くなる。更に耐酸性も低下し、酸処理工程に適用し難くなる。よって、Alの含有量は、好ましくは30%以下、25%以下、特に21%以下である。
【0036】
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて、液相温度を低下させる成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、ヤング率が低下し易くなる。よって、Bの含有量は、好ましくは0~20%、0~15%、0.1~10%、1~7%、特に2~5%である。
【0037】
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、耐傷性を高める成分である。一方、LiOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、またイオン交換処理時にイオン交換溶液中に溶出して、イオン交換溶液を劣化させる虞がある。よって、LiOの含有量は、好ましくは0~20%、0~7%、0~3%、0~1.5%、0~1%未満、0~0.5%、0~0.3%、0~0.1%未満、特に0.01~0.05%である。また、耐失透性の低下を許容し、耐傷性の向上を優先させる場合、LiOの含有量は、好ましくは0~20%、1~18%、2~16%、3~14%、4~12%、特に5~10%である。
【0038】
NaOは、イオン交換成分であり、圧縮応力層の圧縮応力値を高める成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。またNaOは、耐失透性を高める成分であり、特にアルミナ系耐火物との反応で生じる失透を抑制する成分である。NaOの含有量が多過ぎると、耐傷性が低下し易くなる。一方、NaOの含有量が少な過ぎると、高温粘度が上昇して、溶融性や成形性が低下したり、圧縮応力層の圧縮応力値が低下し易くなる。よって、NaOの含有量は、好ましくは0~30%、0~20%、1~17%、特に5~15%である。
【0039】
Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めると共に、耐傷性を高める成分であるが、アルカリ金属酸化物の中では、圧縮応力層の圧縮応力値を低下させて、応力深さを増大させる成分であるため、圧縮応力値を高める観点からは有利ではない。よって、KOの含有量は、好ましくは0~20%、0~10%、0~5%、特に0~1%未満である。
【0040】
MgOは、耐傷性を大幅に高める成分であり、溶融性や成形性を高める成分である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、特にアルミナ系耐火物との反応で生じる失透を抑制し難くなる。よって、MgOの含有量は、好ましくは0.1~50%、1~40%、5~35%、10~40%、15~45%、20~42%、25~40%、特に30~35%である。
【0041】
AlとMgOの合量は、好ましくは20超~55%であり、好ましくは25~50%、30~45%、32~42%、特に35~40%である。AlとMgOの合量が少な過ぎると、耐傷性が低下し易くなる。
【0042】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める効果が大きい成分である。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、イオン交換性能が低下したり、イオン交換処理時にイオン交換溶液を劣化させ易くなる。よって、CaOの含有量は、好ましくは0~20%、0~10%、0~5%、0~4%、0~3.5%、0~3%、0~2%、0~1%、特に0~0.5%である。
【0043】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、それらの含有量が多過ぎると、耐傷性が低下し易くなることに加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、BaOの好適な含有量は、それぞれ0~20%、0~5%、0~2%、0~1.5%、0~1%、0~0.5%、0~0.1%、特に0~0.1%未満である。
【0044】
TiOは、イオン交換性能や耐傷性を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、透明性や耐失透性が低下し易くなる。よって、TiOの含有量は、好ましくは0~20%、0~10%、0~4.5%、0~1%未満、0~0.5%、特に0~0.3%である。
【0045】
は、耐傷性を高める成分である。しかし、Yは、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、Yの含有量は、好ましくは0~20%、0~15%、0.1~12%、1~10%、1.5~8%、特に2~6%である。
【0046】
ZrOは、ヤング率を高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞がある。よって、ZrOの含有量は0~20%、0~10%、0~3%、好ましくは0~1%、特に0~0.1%である。
【0047】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に応力深さを大きくする成分である。またクラック抵抗を高める傾向がある。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下し易くなる。よって、Pの含有量は、好ましくは0~20%、0~10%、0~3%、0~1%、特に0~0.5%である。なお、クラック抵抗の向上を重視する場合、Pの好適な含有量は、好ましくは0.1~18%、0.5~17%、1~16%、特に2~15.5%である。
【0048】
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
【0049】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、それらの含有量が多過ぎると、耐傷性が低下し易くなることに加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、SrOの好適な含有量は0~2%、0~1.5%、0~1%、0~0.5%、0~0.1%、特に0~0.1%未満である。
【0050】
ZnOは、低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。またイオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、応力深さが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は、好ましくは0~3%、0~2%、0~1%、特に0~1%未満である。
【0051】
SnOは、イオン交換性能を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。よって、SnOの含有量は、好ましくは0~3%、0.01~3%、0.05~3%、0.1~3%、特に0.2~3%である。
【0052】
清澄剤として、Cl、SO、CeOの群(好ましくはCl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0.001~1%添加してもよい。
【0053】
Feの好適な含有量は1000ppm未満(0.1%未満)、800ppm未満、600ppm未満、400ppm未満、特に30~300ppm未満である。更に、Feの含有量を上記範囲に規制した上で、モル比SnO/(Fe+SnO)を0.8以上、0.9以上、特に0.95以上に規制することが好ましい。このようにすれば、可視光線透過率が向上し易くなる。
【0054】
Gd、Nb、La、Taは、耐傷性を高める成分である。しかし、Gd、Nb、La、Taは、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、Gd、Nb、La、Taの好適な含有量は、それぞれ3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0055】
本発明のカバーガラスは、環境的配慮から、ガラス組成として、実質的にAs、Sb、PbO、F等を含有しないことが好ましい。また、環境的配慮から、実質的にBiを含有しないことも好ましい。「実質的に~を含有しない」とは、ガラス成分として積極的に明示の成分を添加しないものの、不純物レベルの添加を許容する趣旨であり、具体的には、明示の成分の含有量が0.05%未満の場合を指す。
【0056】
本発明のカバーガラスにおいて、板厚は、好ましくは2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、特に0.9mm以下である。板厚が小さい程、カバーガラスを軽量化することができる。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は、好ましくは0.1mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、0.6mm以上、特に0.7mm以上である。
【0057】
本発明のカバーガラスを製造する方法は、例えば、以下の通りである。まず所望のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1550~1700℃で加熱溶融し、清澄した後、溶融ガラスを成形装置に供給した上で板状に成形し、冷却することが好ましい。板状に成形した後に、所定寸法に切断加工する方法は、周知の方法を採用することができる。
【0058】
溶融ガラスを板状に成形する方法として、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、高品位なカバーガラスを大量に作製し得る方法である。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、成形体耐火物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを成形体耐火物の下端で合流させながら、下方に延伸成形して板状に成形する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、カバーガラスの表面となるべき面は成形体耐火物の表面に接触せず、自由表面の状態で板状に成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なカバーガラスを安価に製造することができる。
【0059】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、フロート法、ダウンドロー法(スロットダウンドロー法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0060】
本発明のカバーガラスは、イオン交換処理の有無は問わないが、イオン交換処理を行うと、表面に圧縮応力層が形成されるため、耐傷性を更に高めることができる。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、厚み、内部の引っ張り応力、寸法変化等を考慮して最適な条件を選択すればよい。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、圧縮応力層を効率良く形成することができる。イオン交換処理の際、イオン交換溶液の温度は400~450℃が好ましく、イオン交換時間は2~6時間が好ましい。このようにすれば、表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
【0061】
本発明のカバーガラスは、表面にイオン交換による圧縮応力層を有することが好ましく、圧縮応力層の圧縮応力値は300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、特に700MPa以上が好ましい。圧縮応力値が大きい程、破壊靱性K1Cが高くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、内在する引っ張り応力が極端に高くなり、またイオン交換処理前後の寸法変化が大きくなる虞がある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は1800MPa以下、1650MPa以下、特に1500MPa以下が好ましい。なお、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
【0062】
圧縮応力層の応力深さは、好ましくは15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、特に35μm以上である。応力深さが大きい程、機械的強度のバラツキが小さくなる。一方、応力深さが大きい程、内在する引っ張り応力が高くなり、またイオン交換処理前後で寸法変化が大きくなる虞がある。更に、応力深さが大き過ぎると、圧縮応力値が低下する傾向がある。よって、応力深さは、好ましくは60μm以下、50μm以下、特に45μm以下である。なお、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、応力深さが大きくなる傾向がある。
【0063】
内部の引っ張り応力値は、好ましくは150MPa以下、120PMa以下、100MPa以下、80MPa以下、70MPa以下、特に60MPa以下である。内部の引っ張り応力値が高過ぎると、ハードスクラッチにより、カバーガラスが自己破壊し易くなる。一方、内部の引っ張り応力値が低過ぎると、カバーガラスの機械的強度を確保し難くなる。内部の引っ張り応力値は、好ましくは15MPa以上、25MPa以上、35MPa以上、特に40MPa以上である。なお、内部の引っ張り応力は下記の数式2で計算可能である。
【0064】
[数2]
内部の引っ張り応力値=(圧縮応力値×応力深さ)/(板厚-2×応力深さ)
【実施例
【0065】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0066】
表1~4は、本発明の実施例(試料No.1~42)を示しており、表4は、本発明の比較例(試料No.43~45)を示している。なお、表中で「N.A.」は、未測定であることを意味する。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1550℃で21時間溶融した。続いて、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、平板形状に成形した後、徐冷炉で徐冷した。得られた板状ガラスについて、板厚が0.8mmになるように表面を光学研磨した後、種々の特性を評価した。
【0072】
ヤング率Eは、周知の共振法によって測定した値である。
【0073】
破壊靱性K1Cは、JIS R1607「ファインセラミックスの破壊靱性試験方法」に基づき、SEPB法により測定したものである。なお、各試料の破壊靱性値は5点の平均値より求めた。
【0074】
クラック抵抗(クラック発生率が50%となる荷重)は、所定荷重に設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)して算出したものである。
【0075】
表から明らかなように、試料No.1~42は、X値が大きいため、耐傷性が高いものと考えられる。一方、試料No.43~45は、X値が小さいため、耐傷性が低いものと考えられる。
【0076】
(解決するための手段の変形態様)
本発明のカバーガラスはまた別の態様において、ガラス組成として、モル%表示で、SiO2 20~80%、Al2O3 15~30%、B2O3 0~3.7%、Li2O 1~20%、Na2O 2.8~20%、K2O 0~20%、MgO 0.1~50%、CaO 0~20%を含有し、下記式で算出されるX値が7400以上であることを特徴とする。X=61.1×[SiO2]+174.3×[Al2O3]+11.3×[B2O3]+124.7×[Li2O]-5.2×[Na2O]+226.7×[K2O]+139.4×[MgO]+117.5×[CaO]+89.6×[BaO]+191.8×[TiO2]+226.7×[Y2O3]+157.9×[ZrO2]-42.2×[P2O5]
【0077】
上記本発明の別態様のカバーガラスは、ガラス組成として、モル%表示で、SiO2 20~80%、Al2O3 15~30%、B2O3 0~3.7%、Li2O 1~20%、Na2O 2.8~20%、K2O 0~20%、MgO 1~40%、CaO 0~20%を含有し、TiO2 0~20%、Y2O3 0~20%、ZrO2 0~20%、P2O5 0~20%を含有することが好ましい。
【0078】
上記本発明の別態様のカバーガラスは、ガラス組成中のAl2O3の含有量が16.6~20モル%であることが好ましい。
【0079】
上記本発明の別態様のカバーガラスは、ガラス組成中のNa2Oの含有量が5~20モル%であることが好ましい。
【0080】
上記本発明の別態様のカバーガラスは、ガラス組成中のLi2Oの含有量が5~20モル%であることが好ましい。
【0081】
上記本発明の別態様のカバーガラスは、ガラス組成中のB2O3の含有量が0.1~3.7モル%であることが好ましい。
【0082】
上記本発明の別態様のカバーガラスは、ガラス組成中のMgOの含有量が10~40モル%であることが好ましい。
図1
図2