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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】超電導線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20250319BHJP
【FI】
H01B13/00 565D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023096870
(22)【出願日】2023-06-13
(65)【公開番号】P2024119715
(43)【公開日】2024-09-03
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2023025805
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年 6月21日 下記ウェブサイトを通じて公開 「https://eppro02.ativ.me/web/planner.php?id=ASC2022」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年 6月22日 2022年度春季低温工学・超電導学会研究発表会(タワーホール船堀)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年10月25日 Applied Superconductivity Conference(ACS)2022(ハワイコンベンションセンター)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年11月22日 下記ウェブサイトを通じて公開 「https://iss2022wlg.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/Abstracts-WB-2.pdf」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年11月29日 International Symposium on Superconductivity(ISS 2022)(ウインクあいち)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年12月 5日 下記ウェブサイトを通じて公開 「https://cssj.ovice.in/lobby/guest」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和4年12月 7日 2022年度秋季低温工学・超電導学会研究発表会(長良川国際会議場)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和5年 1月 4日 下記ウェブサイトを通じて公開 「https://ieeexplore.ieee.org/document/10005844」
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 健彦
(72)【発明者】
【氏名】永石 竜起
(72)【発明者】
【氏名】本田 元気
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-146418(JP,A)
【文献】特開2012-174567(JP,A)
【文献】特開2011-253768(JP,A)
【文献】特開2013-235765(JP,A)
【文献】特開2010-165502(JP,A)
【文献】国際公開第2021/241282(WO,A1)
【文献】特開2013-235766(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129469(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に酸化物超電導膜を形成する工程を備え、
前記酸化物超電導膜を形成する工程は、酸化物超電導材料の超電導層を積層する工程を少なくとも一回行うことを含み、
前記超電導層を積層する前記工程は、仮焼膜形成工程と多結晶化工程と本焼熱処理工程とを含み、
前記仮焼膜形成工程は、塗布膜形成工程と仮焼熱処理工程とを、少なくとも一回行うことを含み、
前記塗布膜形成工程では、金属有機化合物の溶液を塗布して塗布膜を形成し、前記金属有機化合物は前記酸化物超電導材料を構成する金属元素と有機成分との化合物であり、
前記仮焼熱処理工程では、前記塗布膜を熱処理して前記有機成分を熱分解することによって、仮焼膜を形成し、
前記多結晶化工程では、前記仮焼膜を熱処理して、前記酸化物超電導材料の多結晶を含む多結晶層を形成し、前記多結晶化工程において前記仮焼膜を熱処理する時間は70分以下であり、
前記本焼熱処理工程では、前記多結晶層を熱処理して前記多結晶を配向化させることによって、前記超電導層を形成する、超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物超電導膜を形成する工程は、前記超電導層を積層する前記工程を複数回繰り返し行うことを含む、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記仮焼膜形成工程は、前記塗布膜形成工程と前記仮焼熱処理工程とを複数回繰り返し行うことを含む、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記多結晶化工程は、1%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われる、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記多結晶化工程は、700℃以上の熱処理温度で行われる、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記多結晶化工程において前記仮焼膜を熱処理する前記時間は、1分以上である、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記多結晶化工程は、0.01%以上1%未満の酸素濃度を有する雰囲気下、かつ、650℃以上800℃未満の熱処理温度で行われる、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記本焼熱処理工程では、前記多結晶の一部または全体が液相を経由して成長する、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物超電導膜は、1μm以上の厚さを有する、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項10】
前記仮焼熱処理工程において前記塗布膜を熱処理する時間は30分以下である、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項11】
前記多結晶化工程は、1atmの酸素分圧を有する雰囲気下で行われる、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2007-165153号公報)は、塗布熱分解法(MOD(Metal Organic Decomposition)法)を用いて酸化物超電導膜を形成する工程を含む超電導線材の製造方法を開示している。MOD法による酸化物超電導膜の形成方法は、以下の工程を含む。希土類元素(RE)の有機化合物、バリウム(Ba)の有機化合物、及び、銅(Cu)の有機化合物を含む金属有機化合物が溶解された溶液を基板に塗布して、基板上に塗布膜を形成する。塗布膜を約500℃の温度で熱処理(仮焼成)して、塗布膜に含まれる金属有機化合物の有機成分を熱分解させて、仮焼膜を得る。仮焼膜をさらに高温(例えば、約800℃の温度)で熱処理(本焼成)することにより酸化物超電導膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-165153号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る超電導線材の製造方法は、支持基板上に酸化物超電導膜を形成する工程を備える。酸化物超電導膜を形成する工程は、酸化物超電導材料の超電導層を積層する工程を少なくとも一回行うことを含む。超電導層を積層する工程は、仮焼膜形成工程と多結晶化工程と本焼熱処理工程とを含む。仮焼膜形成工程は、塗布膜形成工程と仮焼熱処理工程とを、少なくとも一回行うことを含む。塗布膜形成工程では、金属有機化合物の溶液を塗布して塗布膜を形成する。金属有機化合物は、酸化物超電導材料を構成する金属元素と有機成分との化合物である。仮焼熱処理工程では、塗布膜を熱処理して有機成分を熱分解することによって、仮焼膜を形成する。多結晶化工程では、仮焼膜を熱処理して、酸化物超電導材料の多結晶を含む多結晶層を形成する。本焼熱処理工程では、多結晶層を熱処理して多結晶を配向化させることによって、超電導層を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施形態1及び実施形態2の超電導線材の概略断面図である。
図2図2は、実施形態1及び実施形態2の超電導線材の製造方法のフローチャートを示す図である。
図3図3は、実施形態1及び実施形態2の酸化物超電導膜を形成する工程のフローチャートを示す図である。
図4図4は、実施形態1及び実施形態2の酸化物超電導材料の超電導層を積層する工程のフローチャートを示す図である。
図5図5は、実施形態1の仮焼膜形成工程のフローチャートを示す図である。
図6図6は、酸化物超電導膜を形成する工程を示す概略部分拡大断面図である。
図7図7は、酸化物超電導膜を形成する工程を示す概略部分拡大断面図である。
図8図8は、実施形態2の仮焼膜形成工程のフローチャートを示す図である。
図9図9は、実施例の酸化物超電導膜の2次元X線回折像を示す図である。
図10図10は、実施例の酸化物超電導膜のX線回折チャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
超電導線材の酸化物超電導膜は、高い配向度を有することが必要である。特許文献1に開示された超電導線材の製造方法では、酸化物超電導膜の配向度を高くすることはできるものの、熱処理時間が長いという課題がある。そのため、酸化物超電導膜の配向度を高くし、かつ、超電導線材を製造する時間を短縮することが望まれる。本開示は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、高い配向度を有する酸化物超電導膜を含み、かつ、超電導線材の製造時間を短縮することができる超電導線材の製造方法を提供することである。
【0007】
[本開示の効果]
本開示の超電導線材の製造方法によれば、酸化物超電導膜の配向度を高くすることができるともに、超電導線材の製造時間を短縮することができる。
【0008】
[実施形態の概要]
本開示の実施形態を、列挙して説明する。
【0009】
(1)本開示に係る超電導線材1の製造方法は、支持基板10上に酸化物超電導膜20を形成する工程を備える。酸化物超電導膜20を形成する工程は、酸化物超電導材料の超電導層25を積層する工程(S11)を少なくとも一回行うことを含む。超電導層25を積層する工程(S11)は、仮焼膜形成工程(S12)と多結晶化工程(S16)と本焼熱処理工程(S17)とを含む。仮焼膜形成工程(S12)は、塗布膜形成工程(S13)と仮焼熱処理工程(S14)とを、少なくとも一回行うことを含む。塗布膜形成工程(S13)では、金属有機化合物の溶液を塗布して塗布膜を形成する。金属有機化合物は、酸化物超電導材料を構成する金属元素と有機成分との化合物である。仮焼熱処理工程(S14)では、塗布膜を熱処理して有機成分を熱分解することによって、仮焼膜を形成する。多結晶化工程(S16)では、仮焼膜を熱処理して、酸化物超電導材料の多結晶を含む多結晶層を形成する。本焼熱処理工程(S17)では、多結晶層を熱処理して多結晶を配向化させることによって、超電導層25を形成する。
【0010】
多結晶化工程(S16)において、本焼熱処理工程(S17)の際に超電導膜の配向化を阻害する二酸化炭素(CO)が仮焼膜から排出される。そのため、本焼熱処理工程(S17)の熱処理時間を減少させることができて、酸化物超電導膜20の作製時間が短縮される。そのため、超電導線材1の製造時間が短縮され得る。
【0011】
(2)上記(1)に係る超電導線材1の製造方法では、酸化物超電導膜20を形成する工程は、超電導層25を積層する工程(S11)を複数回繰り返し行うことを含む。
【0012】
そのため、酸化物超電導膜20の厚さを増加させることができる。超電導線材1の臨界電流を増加させることができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)に係る超電導線材1の製造方法では、仮焼膜形成工程(S12)は、塗布膜形成工程(S13)と仮焼熱処理工程(S14)とを複数回繰り返し行うことを含む。
【0014】
塗布膜形成工程(S13)と仮焼熱処理工程(S14)とを複数回繰り返し行った後に、多結晶化工程(S16)及び本焼熱処理工程(S17)を一回行うだけでよいため、多結晶化工程(S16)及び本焼熱処理工程(S17)を行う回数を減らすことができる。酸化物超電導膜20の作製時間が短縮されて、超電導線材1の製造時間が短縮され得る。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに係る超電導線材1の製造方法では、多結晶化工程(S16)は、1%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われる。
【0016】
本焼熱処理工程(S17)において仮焼膜に含まれる炭酸塩を熱分解すると、仮焼膜からCOが発生して、このCOによって超電導膜の配向化が阻害される問題があった。そのため、仮焼膜に含まれる炭酸塩を、仮焼膜形成工程(S12)と本焼熱処理工程(S17)との間に行われる多結晶化工程(S16)において熱分解しておくことが望ましい。一方、多結晶化工程(S16)における酸素濃度が1%未満であると、仮焼膜に含まれる炭酸塩は熱分解されるものの、超電導材料の結晶化が過度に進んで多結晶を構成する各結晶粒のサイズが大きくなるため、結果として低い配向度を有する酸化物超電導膜しか得られないという問題があった。1%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で多結晶化工程(S16)を行うことによって、多結晶化工程(S16)において酸化物超電導材料の多結晶を構成する各結晶粒のサイズが過度に大きくなることが防止されて、より高い配向度を有する酸化物超電導膜20を形成することができる。酸化物超電導膜20の結晶配向度を改善することができる。
【0017】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに係る超電導線材1の製造方法では、多結晶化工程(S16)は、700℃以上の熱処理温度で行われる。
【0018】
そのため、酸化物超電導膜20の結晶配向度を改善することができる。
(6)上記(1)から(5)のいずれかに係る超電導線材1の製造方法では、多結晶化工程(S16)において仮焼膜を熱処理する時間は、1分以上である。
【0019】
そのため、仮焼膜に含まれる炭酸塩が十分に熱分解されて、仮焼膜からCOが十分に放出される。酸化物超電導膜20の結晶配向度を改善することができる。
【0020】
(7)上記(6)に係る超電導線材1の製造方法では、多結晶化工程(S16)において仮焼膜を熱処理する時間は、70分以下である。
【0021】
多結晶を構成する各結晶粒のサイズが過度に大きくならないため、酸化物超電導膜20の結晶配向度を改善することができる。
【0022】
(8)上記(1)から(3)のいずれかに係る超電導線材1の製造方法では、多結晶化工程(S16)は、0.01%以上1%未満の酸素濃度を有する雰囲気下、かつ、650℃以上800℃未満の熱処理温度で行われる。
【0023】
多結晶化工程(S16)における酸素濃度が0.01%以上1%未満であるため、仮焼膜に含まれる炭酸塩は熱分解される。そして、1%未満の酸素濃度を有する雰囲気下で多結晶化工程(S16)を行う場合には、熱処理の温度が800℃未満とされることによって、多結晶化工程(S16)において酸化物超電導材料の多結晶を構成する各結晶粒のサイズが過度に大きくなることが防止されて、より高い配向度を有する酸化物超電導膜20を形成することができる。酸化物超電導膜20の結晶配向度を改善することができる。
【0024】
(9)上記(1)から(8)のいずれかに係る超電導線材1の製造方法では、本焼熱処理工程(S17)では、多結晶の一部または全体が液相を経由して成長する。
【0025】
超電導線材1の製造方法は多結晶化工程(S16)を含むため、酸化物超電導膜20が厚くても、高い配向度を有する酸化物超電導膜20がより短時間で形成され得る。また、多結晶化工程(S16)において生成される多結晶は、酸化物超電導材料の液相を生成し易い。そして、多結晶の一部が液相を経由して成長することによって、より高い配向度を有する酸化物超電導膜20を形成することができる。そのため、配向度が改善された酸化物超電導膜20をより短時間で形成することができる。配向度が改善された酸化物超電導膜20を含む超電導線材1が、より短い時間で製造され得る。
【0026】
(10)上記(1)から(9)のいずれかに係る超電導線材1の製造方法では、酸化物超電導膜20は、1μm以上の厚さを有する。
【0027】
そのため、超電導線材1の臨界電流を増加させることができる。
[実施形態の詳細]
図面に基づいて、実施形態の詳細を以下説明する。なお、図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。以下に記載する実施形態の少なくとも一部の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0028】
(実施形態1)
図1を参照して、本実施形態の超電導線材1を説明する。超電導線材1は、支持基板10と、酸化物超電導膜20とを含む。超電導線材1は、保護層30と、安定化層40とをさらに含んでもよい。
【0029】
支持基板10は、酸化物超電導膜20を支持する。支持基板10は、基板11と、中間層12とを含む。中間層12は、基板11上に配置されている。基板11は、例えば、ステンレス鋼により形成されているテープ上に銅(Cu)層及びニッケル(Ni)層が積層されているクラッド材である。中間層12は、基板11と酸化物超電導膜20との間に配置されている。中間層12は、例えば、酸化セリウム(CeO)層、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)層、イットリア(Y)層及びマンガン酸ランタン(LaMnO)層からなる群から選択される少なくとも一つの層で形成されている。中間層12は、例えば、マグネトロンスパッタリングにより形成されている。
【0030】
支持基板10の構成は、上記のものに限られない。例えば、基板11はハステロイ(登録商標)等により形成されているテープであってもよく、中間層12はIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)層を含む中間層により形成されていてもよい。
【0031】
中間層12は、多層構造を有してもよく、例えば、下地層と、配向層と、キャップ層とを含んでもよい。下地層は、基板11上に積層されている。配向層は、下地層上に積層されている。キャップ層は、配向層上に積層されている。
【0032】
下地層は、拡散防止層とベッド層との複層構造、拡散防止層の単層構造、または、ベッド層の単層構造のいずれかの構造を有している。拡散防止層は、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、または、GZO(GdZr)等で構成される単層構造または複層構造を有することが望ましい。ベッド層は、例えば、Y、Er、CeO、Dy、Er、Eu、HoまたはLaなどの希土類酸化物で構成される単層構造または複層構造を有している。
【0033】
配向層を構成する材料として、GdZr、MgO、ZrO-Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、HoまたはNdなどの金属酸化物を例示することができる。配向層は、単層構造を有してもよいし、複層構造を有してもよい。
【0034】
キャップ層を構成する材料として、CeO、LaMnO、Y、Al、GdまたはZr等を例示することができる。キャップ層は、単層構造を有してもよいし、複層構造を有してもよい。
【0035】
支持基板10は、中間層12上に配置されている下地層(図示せず)をさらに含んでもよい。下地層は、酸化物超電導膜20の結晶軸の配向度、例えばc軸方向の配向度を向上させる。支持基板10は、主面10aを有する。主面10aは、超電導線材1の長手方向(x方向)と、超電導線材1の幅方向(y方向)とに延在している。支持基板10の主面10aは、中間層12によって形成されてもよいし、下地層(図示せず)によって形成されてもよい。
【0036】
酸化物超電導膜20は、支持基板10の主面10a上に配置されている。酸化物超電導膜20は、主面10aの法線方向(z方向)において、支持基板10上に積層されている。酸化物超電導膜20は、主面10aに接触している。酸化物超電導膜20が超電導状態にあるとき、電流は、主に、超電導線材1の長手方向(x方向)に流れる。酸化物超電導膜20の厚さ方向は、主面10aの法線方向(z方向)である。
【0037】
酸化物超電導膜20は、例えば、REBCOなどの酸化物超電導材料で形成されている。REBCOは、REBaCu(xは6~8、より好ましくは6.8~7)により表さられる酸化物超電導体である。ここで、REは、希土類元素である。REは、例えば、イットリウム、ランタン、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、ルテチウム及びイッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1種以上の元素である。
【0038】
酸化物超電導膜20の下層を構成する結晶粒が配向していることにより、酸化物超電導膜20を構成している結晶粒が配向する。例えば、酸化物超電導材料のc軸は、主に、支持基板10の主面10aの法線方向(z方向)に沿って配向する。基板11が、例えば、上記の銅層を含む場合、熱処理により当該銅層の結晶粒が配向する。支持基板10が中間層12を有している場合、中間層12を構成する酸化物の結晶粒が配向性を有するものであればよい。例えば、ハステロイ(登録商標)等の基板11上にIBADにより配向された中間層12が形成されている場合、中間層12上に形成される酸化物超電導膜20を構成している結晶粒は配向する。
【0039】
酸化物超電導膜20は、厚さTを有する。厚さTは、例えば、1.0μm以上5.0μm以下である。酸化物超電導膜20の厚さTは、1.5μm以上5.0μm以下であってもよい。酸化物超電導膜20の厚さTが1.0μm以上であることにより、超電導線材1の臨界電流を増加させることができる。酸化物超電導膜20の厚さTが5.0μm以下であることにより、超電導線材1の臨界電流密度の低下が抑制されるとともに、良好な酸化物超電導膜20の配向度を維持し易い。
【0040】
保護層30は、酸化物超電導膜20上に配置されている。保護層30は、支持基板10の主面10aの法線方向(z方向)において、酸化物超電導膜20上に積層されている。保護層30は、例えば、銀(Ag)で形成されている。保護層30は、銅で形成されていてもよい。安定化層40は、保護層30上に配置されている。安定化層40は、支持基板10の主面10aの法線方向(z方向)において、保護層30上に積層されている。安定化層40は、例えば、保護層30よりも大きな厚さを有している。安定化層40は、例えば、銅で形成されている。保護層30及び安定化層40は、酸化物超電導膜20にクエンチ(超電導状態から常電導状態に移行する現象)が発生した際に、酸化物超電導膜20を流れていた電流をバイパスさせて、超電導線材1の焼損を防止する。
【0041】
図2から図7を参照して、本実施形態の超電導線材1の製造方法を説明する。
図2を参照して、本実施形態の超電導線材1の製造方法は、支持基板10上に酸化物超電導膜20を形成する工程(S10)と、酸化物超電導膜20上に保護層30を形成する工程(S20)と、保護層30上に安定化層40を形成する工程(S30)とを備える。工程S20において、保護層30は、例えば、スパッタリングにより形成される。工程S30において、安定化層40は、例えば、めっきにより形成される。以下、工程S10を詳しく説明する。
【0042】
図3を参照して、酸化物超電導膜20を形成する工程(S10)は、酸化物超電導材料の超電導層25を積層する工程(S11)と、超電導層25の全体厚さが目標厚さ(例えば、厚さT)に達したか否かを判断する工程(S18)とを含む。
【0043】
工程S11は、少なくとも一回行われる。工程S18において、工程S11を一回行うことによって超電導層25の全体厚さが目標膜厚に達したと判断されると、工程S10は終了する。この場合、酸化物超電導膜20は、一層の超電導層25によって形成される。図6に示されるように、工程S18において、工程S11を一回行うことによって超電導層25の全体厚さが目標膜厚(例えば、厚さT)に達していないと判断されるときは、超電導層25の全体厚さが目標膜厚(例えば、厚さT)に達するまで、工程S11は複数回繰り返し行われる。この場合、酸化物超電導膜20は、図7に示されるように、複数層の超電導層25によって形成される。
【0044】
図4を参照して、超電導層25を積層する工程(S11)は、仮焼膜形成工程(S12)と、多結晶化工程(S16)と、本焼熱処理工程(S17)とを含む。図5を参照して、仮焼膜形成工程(S12)は、塗布膜形成工程(S13)と、仮焼熱処理工程(S14)とを行うことを含む。
【0045】
塗布膜形成工程(S13)では、金属有機化合物の溶液を塗布し、それから溶液を乾燥させて、塗布膜を形成する。金属有機化合物の溶液として、MOD法における原料溶液が用いられる。金属有機化合物の溶液は、例えば、金属有機化合物を有機溶媒に溶解した溶液である。金属有機化合物は、酸化物超電導材料を構成する金属元素と有機成分との化合物である。REBCO系の超電導層25を形成する場合、金属有機化合物は、例えば、REカルボン酸塩、Baカルボン酸塩及びCuカルボン酸塩である。カルボン酸塩は、モノカルボン酸塩でもジカルボン酸塩でもよい。モノカルボン酸塩は、溶媒に対する溶解性および溶解安定性が高い。炭素数が1以上4以下のモノカルボン酸塩は、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩または酪酸塩である。炭素数が1以上4以下のジカルボン酸塩は、例えば、シュウ酸塩、マロン酸塩またはコハク酸塩である。その他の公知の組成を有する金属有機化合物も利用できる。
【0046】
金属有機化合物の溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、ダイコート法またはインクジェット法などである。一層目の超電導層25を積層する工程では、金属有機化合物の溶液は、支持基板10の主面10aに塗布される。二層目以降の超電導層25を積層する工程では、金属有機化合物の溶液は、既に形成されている超電導層25の最表面に塗布される。
【0047】
仮焼熱処理工程(S14)では、塗布膜を熱処理して金属有機化合物の有機成分を熱分解することによって、仮焼膜を形成する。例えば、金属有機化合物の熱分解温度以上かつ酸化物超電導材料の生成温度未満の熱処理温度で、塗布膜を熱処理する。塗布膜に含まれる金属有機化合物が熱分解されて、仮焼膜が形成される。仮焼膜は、主に、酸化物超電導材料の前駆体によって形成されている。酸化物超電導材料の前駆体は、酸化物超電導材料を構成する金属元素の酸化物及び酸化物超電導材料を構成する金属元素の炭酸塩から構成される。REBCO系の超電導層25を形成する場合、酸化物超電導材料の前駆体は、希土類元素酸化物(例えば、Gd)、Baの炭酸塩(例えば、BaCO)、及び、銅の酸化物(例えば、CuO)から構成される。
【0048】
仮焼熱処理工程(S14)における熱処理温度は、例えば、約500℃である。室温から当該熱処理温度までの昇温速度は、例えば、約0.5~20℃/分である。仮焼熱処理工程(S14)が行われる雰囲気は、例えば、20%以上の酸素濃度を有する。仮焼熱処理工程(S14)が行われる雰囲気は、50%以上の酸素濃度を有してもよく、100%の酸素濃度を有してもよい。本明細書において、酸素濃度の単位である「%」は、体積割合を意味する。仮焼熱処理工程(S14)における熱処理時間は、例えば、約30分である。仮焼熱処理工程(S14)における熱処理時間は10分以下であってもよく、2分以下であってもよい。
【0049】
上記のように、仮焼膜を形成する酸化物超電導材料の前駆体には、酸化物超電導材料を構成する金属元素の炭酸塩(例えば、BaCOなど)が含まれている。この前駆体から、酸化物超電導材料を生成するために、仮焼膜に含まれる炭酸塩を分解する必要がある。そこで、多結晶化工程(S16)が行われる。
【0050】
多結晶化工程(S16)では、仮焼熱処理工程(S14)における熱処理温度より高い熱処理温度で、仮焼膜を熱処理する。酸化物超電導材料の前駆体が化学反応して、酸化物超電導材料の多結晶を含む多結晶層が形成される。多結晶を構成する複数の結晶粒の粒径を平均した平均粒径は、例えば、300nm以下である。上記平均粒径は、200nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。
【0051】
多結晶化工程(S16)は、酸素を含む雰囲気下で行われる。多結晶化工程(S16)は、例えば、1%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われる。これにより、仮焼膜に含まれる炭酸塩を熱分解することによって生成されるCOの分圧が低くなり、COが仮焼膜から十分に排出される。COに妨げられることなく、酸化物超電導材料の前駆体の化学反応が進み、酸化物超電導材料が十分に生成される。また、酸化物超電導材料の多結晶を構成する各結晶粒のサイズが過度に大きくなることが防止されて、酸化物超電導材料の多結晶を十分に形成することができる。多結晶化工程(S16)は、10%を超える酸素濃度を有する雰囲気下で行われてもよく、11%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われてもよく、23%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われてもよく、50%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われてもよく、100%の酸素濃度(1atmの酸素分圧)を有する雰囲気下で行われてもよい。
【0052】
多結晶化工程(S16)は、例えば、700℃以上の熱処理温度で行われる。多結晶化工程(S16)の熱処理温度は、750℃以上であってもよく、780℃以上であってもよく、800℃以上であってもよく、810℃以上であってもよく、820℃以上であってもよい。多結晶化工程(S16)の熱処理温度は、900℃以下であってもよく、860℃以下であってもよい。多結晶化工程(S16)において仮焼膜を熱処理する時間は、1分以上である。多結晶化工程(S16)において仮焼膜を熱処理する時間は、10分以上であってもよい。多結晶化工程(S16)において仮焼膜を熱処理する時間は、120分以下であってもよく、70分以下であってもよく、60分以下であってもよい。
【0053】
多結晶化工程(S16)は、例えば、0.01%以上1%未満の酸素濃度を有する雰囲気下、かつ650℃以上800℃未満の熱処理温度で行われる。酸素濃度および熱処理温度がそれぞれ上記の範囲であることで、仮焼膜に含まれる炭酸塩を熱分解することによって生成されるCOの分圧が低くなり、COが仮焼膜から十分に排出される。COに妨げられることなく、酸化物超電導材料の前駆体の化学反応が進み、酸化物超電導材料が十分に生成される。また、酸素濃度および熱処理温度がそれぞれ上記の範囲であることで、酸化物超電導材料の多結晶を構成する各結晶粒のサイズが過度に大きくなることが防止されて、酸化物超電導材料の多結晶を十分に形成することができる。この場合に仮焼膜を熱処理する時間は、1分以上でもよいし、10分以上であってもよい。また、この場合に仮焼膜を熱処理する時間は、120分以下であってもよく、70分以下であってもよく、60分以下であってもよい。
【0054】
本焼熱処理工程(S17)では、多結晶層を、酸化物超電導材料の生成温度以上の温度で熱処理して、多結晶を配向化させる。こうして、結晶配向度が改善された超電導層25が得られる。本焼熱処理工程(S17)における熱処理温度は、例えば、780℃以上870℃以下である。本焼熱処理工程(S17)における雰囲気は、例えば、酸素を含むアルゴン雰囲気である。上記雰囲気における酸素濃度は、例えば、0ppm超3000ppm以下である。上記酸素濃度は、1000ppm以下でもよい。本焼熱処理工程(S17)における熱処理温度までの昇温速度及び降温速度は、例えば、10℃/分以上1000℃/分以下である。昇温速度と降温速度とは同じでもよいし、異なっていてもよい。上記雰囲気下において、室温から上記熱処理温度まで昇温し、その後降温する。
【0055】
本焼熱処理工程(S17)では、多結晶の一部が液相を経由して成長してもよい。例えば、上述の温度範囲及び雰囲気の酸素濃度の範囲において液相が生じ得るように、本焼熱処理工程(S17)における温度及び雰囲気を調整する。この調整により、多結晶の一部を液相を経由してから成長させる。なお、多結晶の一部を溶融させる条件は、酸化物超電導材料の種類、組成などに応じて適切に設定される。
【0056】
(実施形態2)
図1から図4及び図6から図8を参照して、本実施形態の超電導線材1の製造方法を説明する。本実施形態の超電導線材1の製造方法は、実施形態1の超電導線材1の製造方法と同様の工程を備えるが、以下の点で実施形態1の超電導線材1の製造方法と異なっている。
【0057】
図8を参照して、本実施形態の超電導線材1の製造方法では、仮焼膜形成工程(S12)は、塗布膜形成工程(S13)と仮焼熱処理工程(S14)とを複数回繰り返し行うことを含む。仮焼膜形成工程(S12)では、複数層の仮焼膜が形成される。
【0058】
具体的には、仮焼膜形成工程(S12)は、塗布膜形成工程(S13)と仮焼熱処理工程(S14)とに加えて、工程S15をさらに含む。工程S15では、工程S13,S14の繰り返し回数が目標回数に達したかを判断する。工程S15において工程S13,S14の繰り返し回数が目標回数に達していないと判断された場合には、再び工程S13,S14を行う。こうして、工程S13,S14の繰り返し回数が目標回数に達するまで、塗布膜形成工程(S13)と仮焼熱処理工程(S14)とを複数回繰り返し行う。工程S15において工程S13,S14の繰り返し回数が目標回数に達していないと判断された後に工程S13において塗布される溶液は、既に形成されている仮焼膜上に塗布される。
【0059】
それから、図4を参照して、複数層の仮焼膜を一括して熱処理して、多結晶化工程(S16)及び本焼熱処理工程(S17)が行われる。そのため、多結晶化工程(S16)及び本焼熱処理工程(S17)を行う回数を、塗布膜形成工程(S13)と仮焼熱処理工程(S14)を行う回数よりも減少させることができる。
【0060】
<実施例>
以下、実施例を挙げて本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、実施例に限定されない。
【0061】
表1を参照して、試料No.1から試料No.37では、支持基板10は、ステンレス鋼により形成されているテープ上に銅(Cu)層及びニッケル(Ni)層が積層されているクラッド材である基板11と、酸化セリウム(CeO)層、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)層及びイットリア(Y)層の積層体である中間層12とで形成されている。金属有機化合物の溶液に含まれる金属元素の組成はGd:Ba:Cu=1:2:3であり、酸化物超電導膜20は、GdBaCu(GdBCO)によって形成されている。酸化物超電導膜20の厚さTは、2μmである。
【0062】
試料No.1から試料No.37の製造条件は、基本的には同じである。具体的には、仮焼膜形成工程(S12)は、100%の酸素濃度を有する雰囲気下で、500℃の熱処理温度及び30分の熱処理時間で行われている。本焼熱処理工程(S17)では、酸素を含むアルゴン雰囲気下で、液相を生じ得る条件にて熱処理が行われている。
【0063】
しかし、試料No.1から試料No.37の製造条件は、多結晶化工程(S16)において異なっている。試料No.1から試料No.7、試料No.12から試料No.17、試料No.19から試料No.23及び試料No.26から試料No.29は、以下の三つの条件を満たす多結晶化工程(S16)を経て得られた試料である。第一の条件は、多結晶化工程(S16)が1%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われることである。第二の条件は、多結晶化工程(S16)が700℃以上の熱処理温度で行われることである。第三の条件は、多結晶化工程(S16)において仮焼膜を熱処理する時間が1分以上であることである。これに対し、試料No.8、試料No.9、試料No.11及び試料No.18は、以上の三つの条件の少なくとも一つを満たさない多結晶化工程(S16)を経て得られた試料である。試料No.10は、多結晶化工程(S16)を行わずに得られた試料である。
【0064】
試料No.30から試料No.37は、以下の三つの条件a、b及びcを満たす多結晶化工程(S16)を経て得られた試料である。条件aは、多結晶化工程(S16)が0.01%以上1%未満の酸素濃度を有する雰囲気下で行われることである。条件bは、多結晶化工程(S16)が650℃以上800℃未満の熱処理温度で行われることである。条件cは、多結晶化工程(S16)において仮焼膜を熱処理する時間が1分以上であることである。
【0065】
試料No.1から試料No.37の酸化物超電導膜20の結晶配向度を評価するために、試料No.1から試料No.37の酸化物超電導膜20のc軸配向率を求めた。c軸配向率は、以下の方法によって求められる。
【0066】
2次元検出器を用いて、試料No.1から試料No.37の各々の酸化物超電導膜20のX線回折像(一例として、図9を参照)を得る。2次元検出器を用いたX線回折では、測定対象の配向性が高い結晶面が周方向(χ方向)に沿った短い弧状の回折像として観測され、測定対象の配向性が低い結晶面がχ方向に沿ったリング状の回折像として観測される。2次元検出器を用いたX線回折では、χ方向に沿って測定対象の各結晶面の回折強度を積算することにより、測定対象における各結晶面の回折強度が得られる。2次元検出器として、D8 DISCOVER(Bruker社製)を用い、放射線源として、CuKα(波長は1.54060オングストローム)を用いた。
【0067】
図10に示されるように、酸化物超電導膜20を構成しているGdBCOがc軸配向している場合に、(005)面に対応するピーク及び(006)面に対応するピークが、2次元検出器によって得られるX線回折チャートに強く表れる。これに対し、酸化物超電導膜20を構成しているGdBCOがc軸配向していない場合には、(103)面又は(013)面に対応するピークが、2次元検出器によって得られるX線回折チャートに強く表れる。そこで、c軸配向率を、(005)面に対応するピークの強度を、(005)面に対応するピークの強度と(103)面に対応するピークの強度との和で除した値として定義する。
【0068】
試料No.1から試料No.37の酸化物超電導膜20のc軸配向率を、表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
本実施例では、95%以上のc軸配向率を有する試料を、良品、すなわち、結晶配向度が高い試料と評価する。95%未満のc軸配向率を有する試料を、不良品、すなわち、結晶配向度が低い試料と評価する。試料No.1から試料No.7、試料No.10、試料No.12から試料No.17、試料No.19から試料No.23及び試料No.26から試料No.29のc軸配向率から、上記三つの条件を満たす多結晶化工程(S16)を行うことで、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材を比較的短時間で製造できることがわかる。なお、試料No.24及び試料No.25から、1%未満の酸素濃度を有する雰囲気であっても、700℃以上の熱処理温度で加熱時間をある程度長くすれば(例えば、70分)、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材が得られている。ただし、上記三つの条件を満たす多結晶化工程(S16)を行うと、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材を、より効率的にかつ比較的短時間で製造できる。
【0071】
例えば、試料No.1から試料No.9のc軸配向率から、1%以上の酸素濃度を有する雰囲気において多結晶化工程(S16)を行うことによって、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材が製造できることが分かる。試料No.1及び試料No.11から試料No.17のc軸配向率から、700℃以上の熱処理温度で多結晶化工程(S16)を行うことによって、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材が製造できることが分かる。試料No.1及び試料No.18から試料No.23のc軸配向率から、1分以上の熱処理時間で多結晶化工程(S16)を行うことによって、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材が製造できることが分かる。試料No.20-試料No.23と試料No.26-試料No.29との比較から、加熱温度が900℃であっても、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材が得られることがわかる。試料No.1及び試料No11から試料No.23では、100%の酸素濃度を有する雰囲気下で、かつ、熱処理温度及び熱処理時間を変更して、多結晶化工程(S16)が行われているが、多結晶化工程(S16)が1%以上の酸素濃度を有する雰囲気下で行われれば、熱処理温度及び熱処理時間を同様に変化させた場合にc軸配向率に関して同様の傾向が得られる。
【0072】
試料No.30から試料No.37のc軸配向率から、0.01%以上1%未満の酸素濃度を有する雰囲気下であっても、熱処理温度を650℃以上800℃未満とすることにより、酸化物超電導膜20の結晶配向度が高い超電導線材が得られることが分かる。
【0073】
今回開示された実施形態1及び実施形態2はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 超電導線材
10 支持基板
10a 主面
11 基板
12 中間層
20 酸化物超電導膜
25 超電導層
30 保護層
40 安定化層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10