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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20250319BHJP
【FI】
H02M3/155 W
H02M3/155 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024016205
(22)【出願日】2024-02-06
【審査請求日】2024-12-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 颯太
(72)【発明者】
【氏名】濱田 鎮教
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-012104(JP,A)
【文献】特開2022-074610(JP,A)
【文献】特開2021-090293(JP,A)
【文献】特開2023-025882(JP,A)
【文献】特開2019-216507(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094379(WO,A1)
【文献】特開2017-070179(JP,A)
【文献】特表2020-523967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、前記直流電源に並列接続されたフルブリッジ回路の第1~第N(N:2以上の自然数)ユニットと、を有する第1、第2レグと、
前記第1~第Nユニットのu相とv相に一端がそれぞれ接続されたリアクトルと、
位相シフトPWM制御により前記第1、第2レグの前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御する制御部と、
を備え、
前記第1レグの前記第1~第Nユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、前記第2レグの各ユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、を出力端子とし、
前記第1レグの前記第1~第Nユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端と前記第2レグの前記第1~第Nユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端を接続したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
直流電源と、前記直流電源に並列接続されたフルブリッジ回路の第1~第N(N:2以上の自然数)ユニットと、を有する第1、第2レグと、
前記第1~第Nユニットのu相とv相に一端がそれぞれ接続されたリアクトルと、
位相シフトPWM制御により前記第1、第2レグの前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御する制御部と、
を備え、
前記第1レグの前記第1~第Nユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、前記第2レグの前記第1~第Nユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、を出力端子とし、
前記第1レグの第k(k:1~Nの整数)ユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端と前記第2レグの第kユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続したことを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、
各レグにおけるu相電流平均値とv相電流平均値を算出し、
各レグ各ユニットのu相電流測定値と各レグにおける前記u相電流平均値の差分と、各レグ各ユニットのv相電流測定値と各レグにおける前記v相電流平均値の差分と、を算出し、
各前記差分に横流抑制ゲインを乗算して横流抑制補正値を算出し、
dutyに前記横流抑制補正値を加算して補正し、補正後のdutyに基づいて前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御することを特徴とする請求項1または2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第1~第Nユニットに電流流入している時は三角波キャリアの傾きが+の期間中はdutyにマイナスのデッドタイム補償量を加算して補正し、前記第1~第Nユニットに電流流出している時は前記三角波キャリアの傾きが-の期間中は前記dutyにプラスのデッドタイム補償量を加算して補正し、補正後のdutyに基づいて前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御することを特徴とする請求項1または2記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、直並列化によって大容量化したチョッパ回路に、位相シフトPWM制御を適用して出力電流リプルを低減した電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に特許文献1における電力変換装置の回路構成を示す。図1(a)では、直流電圧2aとセル2bを接続した単位ユニット21~2Nを直並列化し、大容量の電力変換装置を構成している。また、セル2bに図1(b)のようなフルブリッジ回路、制御に位相シフトPWM制御を適用することで、出力コンデンサCに流れる電流リプルが低減され、出力コンデンサCの電圧リプルが低減される。
【0003】
しかし、図1の構成では各ユニットに一つずつ直流電圧2aが必要であり、1ユニット当たりの部品点数が多い。そのため、大容量化に伴いユニット数を増加させた場合の装置の大型化やコスト増加、故障リスク増加が懸念される。
【0004】
そこで、図2に示すように1つの直流電圧2aに複数のセル21~2Nを並列接続する電力変換装置の回路構成が考えられる。ただし、図1はN台のユニット(直流電圧+セル)が直列接続された集まりをレグとしレグを並列接続する構成であったが、図2では並列接続されたN台のユニット(セルのみ)21~2Nと1つの直流電圧2aの集まりをレグとし、レグを直列接続する構成としている。
【0005】
このような構成とすることで、セル数と直流電圧数を別々に設定可能となり、装置構成の最適化による部品点数の削減が可能となる。しかし、直流電圧を共通化することは異なるユニット間でのアーム短絡によるデバイスの破壊を引き起こすため、図2の回路構成では位相シフトPWM制御を適用することができない。
【0006】
そこで、図3に示す特許文献2の回路構成のように、各セルのすべての出力部にリアクトルL11~L42を挿入することで過電流を抑制する。このリアクトルは電力変換装置の出力リアクトル及び横流抑制リアクトルを兼ねることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2022-12104号公報
【文献】特開2022-74610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2では高速なスイッチングを目的としており、位相シフトPWM制御を適用していないためユニット間でのアーム短絡を想定していない。そのため、リアクトルL11~L42のインダクタンス値は小さい。
【0009】
一方、位相シフトPWM制御を適用する場合は、アーム短絡ループが発生するスイッチングパターンが必ず存在するため、リアクトルL11~L42のインダクタンス値はループ電流発生期間中に電流が上昇しすぎない程度に大きな値とする必要がある。
【0010】
以上示したようなことから、装置の大型化やコスト増加、故障リスク増加を抑制するとともに、位相シフトPWM制御を適用した電力変換装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、直流電源と、前記直流電源に並列接続されたフルブリッジ回路の第1~第N(N:2以上の自然数)ユニットと、を有する第1、第2レグと、前記第1~第Nユニットのu相とv相に一端がそれぞれ接続されたリアクトルと、位相シフトPWM制御により前記第1、第2レグの前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御する制御部と、を備え、前記第1レグの前記第1~第Nユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、前記第2レグの各ユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、を出力端子とし、前記第1レグの前記第1~第Nユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端と前記第2レグの前記第1~第Nユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端を接続したことを特徴とする。
【0012】
また、他の態様として、直流電源と、前記直流電源に並列接続されたフルブリッジ回路の第1~第N(N:2以上の自然数)ユニットと、を有する第1、第2レグと、前記第1~第Nユニットのu相とv相に一端がそれぞれ接続されたリアクトルと、位相シフトPWM制御により前記第1、第2レグの前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御する制御部と、を備え、前記第1レグの前記第1~第Nユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、前記第2レグの前記第1~第Nユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続した端子と、を出力端子とし、前記第1レグの第k(k:1~Nの整数)ユニットのv相に接続された前記リアクトルの他端と前記第2レグの第kユニットのu相に接続された前記リアクトルの他端同士を接続したことを特徴とする。
【0013】
また、一態様として、前記制御部は、各レグにおけるu相電流平均値とv相電流平均値を算出し、各レグ各ユニットのu相電流測定値と各レグにおける前記u相電流平均値の差分と、各レグ各ユニットのv相電流測定値と各レグにおける前記v相電流平均値の差分と、を算出し、各前記差分に横流抑制ゲインを乗算して横流抑制補正値を算出し、dutyに前記横流抑制補正値を加算して補正し、補正後のdutyに基づいて前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御することを特徴とする。
【0014】
また、一態様として、前記制御部は、前記第1~第Nユニットに電流流入している時は三角波キャリアの傾きが+の期間中はdutyにマイナスのデッドタイム補償量を加算して補正し、前記第1~第Nユニットに電流流出している時は前記三角波キャリアの傾きが-の期間中は前記dutyにプラスのデッドタイム補償量を加算して補正し、補正後のdutyに基づいて前記第1~第Nユニットのスイッチング素子を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
装置の大型化やコスト増加、故障リスク増加を抑制するとともに、位相シフトPWM制御を適用した電力変換装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来の電力変換装置の回路構成を示す図。
図2】直流電圧数を削減した従来の電力変換装置の回路構成を示す図。
図3】従来の並列接続チョッパ回路の回路構成を示す図。
図4】実施形態1の電力変換装置の回路構成を示す図。
図5】Mode0におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図6】Mode1におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図7】Mode2におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図8】Mode3におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図9】Mode4におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図10】Mode5におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図11】Mode6におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図12】Mode7におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図13】Mode8におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図14】1ユニット当たりのゲート信号生成と電圧出力モードを示す図。
図15】インターリーブ動作による出力電圧Voutの変化を示す図。
図16】実施形態2の電力変換装置の回路構成を示す図。
図17】Mode0’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図18】Mode1’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図19】Mode2’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図20】Mode3’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図21】Mode4’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図22】Mode5’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図23】Mode6’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図24】Mode7’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図25】Mode8’におけるスイッチング素子の状態と各部の電圧を示す図。
図26】実施形態3の制御部を示すブロック図。
図27】デッドタイム補償ありの場合とデッドタイム補償なしの場合の各波形を示す図。
図28】実施形態4の制御部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明における電力変換装置の実施形態1~4を図4図28に基づいて詳述する。
【0018】
[実施形態1]
本実施形態1における電力変換装置の回路構成を図4に示す。ただし、太線部は三相交流を表す。
【0019】
符号1は、三相交流電源(系統電圧)を示す。三相交流電源1には第1レグleg1と第2レグleg2が接続される。
【0020】
各レグleg1、leg2は、絶縁用の三相変圧器3と、三相PWM整流器AC/DCと、三相PWM整流器AC/DCに並列接続された第1~第Nユニット41~4Nと、を備える。三相変圧器3と三相PWM整流器AC/DCで直流電圧とする。図4では直流電圧を三相変圧器3と三相PWM整流器AC/DCで示しているが、他の構成でもよい。第1~第Nユニット41~4Nは、図1における直流電圧2aを省略し、チョッパ回路のみで構成される。
【0021】
第1ユニット41はフルブリッジ回路であり、左側デバイスをu相、右側デバイスをv相と定義する。u相には第1、第2スイッチング素子SW11、SW12が直列接続され、v相には第3、第4スイッチング素子SW13、SW14が直列接続される。第2ユニット42~第Nユニット4Nも同様である。
【0022】
各ユニットのu相出力、v相出力には短絡防止兼出力用のリアクトルL11~L(2N)2の一端がそれぞれ接続される。Nは2以上の自然数である。同一の電源に並列接続されたユニット間で位相シフトPWM制御を行う場合、異なるユニット間でのアーム短絡が発生する。これを防止するため、すべてのユニット出力にリアクトルL11~L(2N)2を挿入する。また、本実施形態1はアーム短絡が発生しても問題ないように、大きなインダクタンス値のリアクトルとしている。
【0023】
第1レグleg1の第1~第Nユニット41~4Nのu相に接続されたリアクトルL11~LN1の他端同士を接続して出力端子とする。また、第2レグleg2の第1~第Nユニット41~4Nのv相に接続されたリアクトルL(N+1)2~L(2N)2の他端同士を接続して出力端子とする。また、第1レグleg1の第1~第Nユニット41~4Nのv相に接続されたリアクトルL12~LN2と第2レグleg2の第1~第Nユニット41~4Nのu相に接続されたリアクトルL(N+1)1の他端同士が接続される。
【0024】
両出力端子との間には出力コンデンサCが接続される。出力コンデンサCに対して並列に負荷5が接続される。
【0025】
なお、第1レグleg1の第1ユニット41のu相出力の電流をI11、第1レグleg1の第1ユニット41のv相出力の電流をI12とする。他のリアクトルの電流についても同様である。また、出力電圧(出力コンデンサCの電圧)をVoutとする。
【0026】
本実施形態1における電力変換装置の動作は、各スイッチングモードにおけるリアクトルL11~L42の分圧によって説明することができる。図5図13に各モードのスイッチング素子の状態と各部電圧を示す。図5図13では電流経路をわかりやすくするために、導通していないスイッチング素子は表示せず、導通しているスイッチング素子のみを表示している。なお、2台の三相PWM整流器AC/DCは出力電圧E[V]となるように制御されており、各ユニットに接続されたリアクトルL11~L42のインダクタンス値はすべて等しいとする。図5図13では各レグのユニット数を2としている。スイッチング素子SW11~SW14を第1レグleg1の第1ユニット、スイッチング素子SW21~SW24を第1レグleg1の第2ユニット、スイッチング素子SW31~SW34を第2レグleg2の第1ユニット、スイッチング素子SW41~SW44を第2レグleg2の第2ユニットとする。
【0027】
[Mode0]図5に示すように、すべてのユニットの下側アームのスイッチング素子がONの状態となる。各部電圧はすべて0[V]である。
【0028】
[Mode1]図6に示すように、Mode0の状態から第1レグleg1の第1ユニットのu相の上側アームのスイッチング素子SW11がONした状態となる。リアクトルL11,L21において上側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]が分圧され、SW11→SW22の経路に電流が流れる。分圧比はインダクタンス値によって定まり、リアクトルL11、L21にE/2[V]の電圧が発生する。出力電圧VoutはE/2[V]となる。
【0029】
[Mode2]図7に示すように、Mode1の状態から第1レグleg1の第2ユニットのu相の上側アームのスイッチング素子SW21がONした状態となる。Mode1での回路(SW11→SW22)が切れ、リアクトルL11、L21の電圧は0[V]となる。出力電圧Voutは上側の三相PWM整流器AC/DCの電圧がそのまま表れ、E[V]となる。
【0030】
[Mode3]図8に示すように、Mode2の状態から第2レグleg2の第1ユニットのu相の上側アームのスイッチング素子SW31がONした状態となる。リアクトルL31,L41において下側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]が分圧され、SW31→SW42の経路に電流が流れる。第2レグの出力電圧がE/2[V]となり、ここに第1レグleg1の出力電圧Eが加わるため、電力変換装置全体の出力電圧Voutは3E/2[V]となる。
【0031】
[Mode4]図9に示すように、Mode3の状態から第2レグleg2の第2ユニットのu相の上側アームのスイッチング素子SW41がONした状態となる。Mode3での回路(SW31→SW42)が切れ、リアクトルL31、L41の電圧は0[V]となる。各レグは三相PWM整流器AC/DCの電圧をそのまま出力するため、電力変換装置全体の出力電圧Voutは2E[V]となる。
【0032】
[Mode5]図10に示すように、Mode4の状態から第1レグleg1の第1ユニットのv相の上側アームのスイッチング素子SW13がONした状態となる。リアクトルL12,L22において上側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]が分圧され、SW13→SW24の経路に電流が流れる。第1レグleg1の出力電圧がE/2[V]に減少するため、電力変換装置全体の出力電圧Voutは3E/2[V]となる。
【0033】
[Mode6]図11に示すように、Mode5の状態から第1レグleg1の第2ユニットのv相の上側アームのスイッチング素子SW23がONした状態となる。Mode5での回路(SW13→SW24)が切れ、リアクトルL12、L22の電圧は0[V]となる。第1レグleg1の出力電圧が0[V]となるため、電力変換装置全体の出力電圧VoutはE[V]となる。
【0034】
[Mode7]図12に示すように、Mode6の状態から第2レグleg2の第1ユニットのv相の上側アームのスイッチング素子SW33がONした状態となる。リアクトルL32,L42において下側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]が分圧され、SW33→SW44の経路に電流が流れる。第2レグleg2の出力電圧がE/2[V]に減少するため、電力変換装置全体の出力電圧VoutはE/2[V]となる。
【0035】
[Mode8]図13に示すように、Mode7の状態から第2レグleg2の第2ユニットのv相の上側アームのスイッチング素子SW43がONし、すべてのユニットの上側アームのスイッチング素子がONした状態となる。Mode7での回路(SW33→SW44)が切れ、各部電圧は0[V]となる。
【0036】
以上より、u相の上側アームのスイッチング素子がON、v相の下側アームのスイッチング素子がONの状態を正電圧出力モードとし、u相とv相がともに上側アームのスイッチング素子ONあるいは下側アームのスイッチング素子がONの状態を零電圧モードとする。電力変換装置全体の出力電圧Voutは正電圧出力モードのユニット数によって決定する。レグ数をNreg、ユニットの総数をNunit、正電圧出力モードのユニット数をNonとすると、電力変換装置全体の出力電圧Voutは以下の(1)式で表される。
【0037】
【数1】
【0038】
本回路では位相シフトPWM制御を適用し、ユニット間で三角波キャリアをπ/Nunit[rad]ずつ位相シフトして運転する。
【0039】
さらに、ユニットにフルブリッジ回路を適用するので、±1の三角波キャリアの場合、v相デューティーはu相デューティーを-1倍した値を使用する(図14参照)。このような制御を適用することで、従来と同様に出力コンデンサCに流れる電流リプル周波数を2×Nreg×Nunit倍とすることができる。
【0040】
図14に1ユニット当たりのゲート信号(スイッチング素子SWのオンオフ指令信号)と電圧出力モードを示し、図15にインターリーブ動作による出力電圧Vout決定の様子を示す。ただし、duty比は7/8=0.875とし、V1~V4は各ユニットが正電圧出力モードか零電圧モードのどちらであるかを表す。図15より、duty比をDとすると、電力変換装置全体の出力電圧Voutの平均値Vmeanは以下の(2)式で表される。
【0041】
【数2】
【0042】
以上示したように、本実施形態1によれば、装置の大型化やコスト増加、故障リスク増加を抑制するとともに、位相シフトPWM制御を適用することができる。
【0043】
すなわち、各レグで直流電圧(例えば、三相変圧器3、三相PWM整流器AC/DC等)を共通化することにより、追加部品のリアクトルとの差分だけ装置の体積を減らすことができる。また、使用部品点数(変圧器個数など)の減少によってコスト、故障リスクおよび製造工数を削減することができる。
【0044】
また、位相シフトPWM制御を適用することにより、出力コンデンサCの電流リプル、電圧リプルを低減することができる。
【0045】
[実施形態2]
本実施形態2における電力変換装置を図16に示す。ただし、太線部は三相交流を表す。実施形態1と同一の箇所は同一の符号を付してその説明は省略する。実施形態1との違いとして、以下の点が挙げられる。
【0046】
中性線を分割し、同一レグ内のユニットを切り離している。すなわち、第1レグleg1の第1~第Nユニット41~4Nのu相に接続されたリアクトルL11~LN1の他端同士を接続して出力端子とする。また、第2レグleg2の第1~第Nユニット41~4Nのv相に接続されたリアクトルL(N+1)2~L(2N)2の他端同士を接続して出力端子とする。また、第1レグleg1の第kユニット(k=1~Nの整数)のv相に接続されたリアクトルLk2と第2レグleg2の第kユニットのu相に接続されたリアクトルL(N+k)1の他端が接続される。
【0047】
第1レグleg1の第kユニットのv相に接続されたリアクトルLk2と第2レグleg2の第kユニットのu相に接続されたリアクトルL(N+k)1を、2つの部品として、アクトルL11等と共通の部材としてもよく、倍の耐圧やインダクタンスにより1つの部材としてよい。用いる電圧の程度や負荷電流等に基づき、リアクトルに生じるコストから、いずれとするかを定めることが好適である。
【0048】
本実施形態2の電力変換装置の動作は、実施形態1と同様に、各スイッチングモードにおけるリアクトルL11~L42の分圧によって説明することができる。図17図25に各モードのスイッチング素子の状態と各部電圧を示す。図17図25では電流経路をわかりやすくするために、導通していないスイッチング素子は表示せず、導通しているスイッチング素子のみを表示している。
【0049】
[Mode0’]図17に示すように、Mode0と同様である。出力電圧Voutは0[V]となる。
【0050】
[Mode1’]図18に示すように、Mode1と同様である。上側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]を分圧した電圧は、リアクトルL11、L21にE/2[V]ずつ印加される。出力電圧VoutはE/2[V]となる。
【0051】
[Mode2’]図19に示すように、Mode2と同様である。出力電圧VoutはE[V]となる。
【0052】
[Mode3’]図20に示すように、Mode2’の状態から第2レグleg2の第1ユニットのu相の上側アームのスイッチング素子SW31がONした状態となる。L12,L22,L31,L41において下側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]が分圧され、SW31→SW14→SW24→SW42の経路に電流が流れる。各リアクトルの電圧はE/4[V]となり、電力変換装置全体の出力電圧Voutは3E/2[V]となる。
【0053】
[Mode4’]図21に示すように、Mode4と同様である。出力電圧Voutは2E[V]となる。
【0054】
[Mode5’]図22に示すように、Mode4’の状態から第1レグleg1の第1ユニットのv相の上側アームのスイッチング素子SW13がONした状態となる。L12,L22,L31,L41において上側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]が分圧され、SW13→SW31→SW41→SW24の経路に電流が流れる。各リアクトルの電圧はE/4[V]となり、電力変換装置全体の出力電圧Voutは3E/2[V]となる。
【0055】
[Mode6’]図23に示すように、Mode6と同様である。出力電圧VoutはE[V]となる。
【0056】
[Mode7’]図24に示すように、Mode7と同様である。下側の三相PWM整流器AC/DCの電圧E[V]を分圧した電圧は、リアクトルL32,L42にE/2[V]ずつ印加される。出力電圧VoutはE/2[V]となる。
【0057】
[Mode8’]図25に示すように、Mode8と同様である。出力電圧Voutは0[V]となる。
【0058】
Mode3,Mode5のように、中性線を介してユニット間に電流が流れる場合、実施形態1では同じレグ内の2個のリアクトルで分圧していた。これに対し、本実施形態2ではMode3’、Mode5’のように他レグも含めた計4個のリアクトルで分圧するため、リアクトル1個当たりに生じる電圧は半分となる。
【0059】
また、過電流検知などの理由によりユニットの出力電流を監視する場合、実施形態1ではI11~I42の計8か所の電流値を測定するための電流センサが必要であった。これに対し、本実施形態2ではI12とI31、I22とI41はそれぞれ同一の電流となるため、必要な電流センサの数は6個と少ない個数で機能を実装することができる。
【0060】
本実施形態2によれば実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、実施形態1に比べ、中性線に設けられるリアクトルの耐圧を半分にすることができる。そのため、同一耐圧・インダクタンスのリアクトルを2つ設ける場合は、リアクトルおよび装置の小型化を図ることが可能となる。また、耐圧及びインダクタンスを倍としたリアクトルを1つとしてもよい。この場合、リアクトル数を削減することができる。
【0061】
さらに、実施形態1に比べ、ユニット出力電流の計測に必要な電流センサの数を減らすことができる。
【0062】
[実施形態3]
実施形態1、2に示した回路構成に適用する本実施形態3の制御部を図26に示す。制御部は、dutyを生成してdutyに基づいて各レグの第1~第Nユニット41~4Nのスイッチング素子を制御する。本実施形態3の制御部は横流抑制制御を行う。横流抑制制御の方法は以下の通りである。
【0063】
(1)各レグ各ユニットのu相電流測定値とv相電流測定値をそれぞれ測定する。
【0064】
(2)各レグにおけるu相電流平均値とv相電流平均値を算出する。各レグ各ユニットにおけるu相電流測定値と各レグにおけるu相電流平均値の差分と、各レグ各ユニットにおけるv相電流測定値と各レグにおけるv相電流平均値の差分と、を算出する。各差分に横流制御ゲインKを乗じて横流抑制補正値を算出する。
【0065】
(3)(2)において計算した横流抑制補正値をそれぞれのユニットのdutyに足し合わせてdutyを補正する。
【0066】
制御部では、この補正後のdutyに基づいて、各レグの第1~第Nユニット41~4Nのスイッチング素子を制御する。
【0067】
図26に基づいて具体例を説明する。制御器6は指令値と測定値に基づいてduty11~N1、duty(N+1)1~duty(2N)1を出力する。乗算器11はduty11~N1、duty(N+1)1~(2N)1に-1を乗算し、duty12~N2、duty(N+1)2~(2N)2を出力する。このduty11~N1、duty12~N2、duty(N+1)1~(2N)1、duty(N+1)2~(2N)2が補正前のdutyである。
【0068】
総和演算部7は、第1レグleg1のu相電流測定値I11~N1の総和、第1レグleg1のv相電流測定値I12~N2の総和、第2レグleg2のu相電流測定値I(N+1)1~(2N)1の総和、第2レグleg2のv相電流測定値I(N+1)2~(2N)2の総和を演算する。
【0069】
乗算器8は、前述した総和に各レグ内のユニット数の逆数を乗算して各レグのu相電流平均値、v相電流平均値を算出する。
【0070】
減算器9は、各レグのu電流平均値、v相電流平均値から各レグ各ユニットのu相電流測定値、v相電流測定値を減算して差分を算出する。
【0071】
ゲイン乗算器10は、前述した差分に横流抑制ゲインKcを乗じて横流抑制補正値を算出する。
【0072】
加算器12は、補正前のdutyに横流抑制補正値を加算して横流抑制補正後duty=duty11~N1 、duty12~N2 、duty(N+1)1~(2N)1 、duty(N+1)2~(2N)2 として出力する。
【0073】
本回路構成では、並列ユニットが電源を共有しているため、u相電流とv相電流が等しくならず、別々に横流抑制制御を行う必要がある。実施形態1の構成では、横流抑制制御に必要な電流計測点数は4N(ユニット数の2倍)であるが、実施形態2では中性線電流がレグ間で共通なため、必要な電流計測点数は3N(ユニット数の1.5倍)となる。ただし、この場合Nは偶数となる。
【0074】
図24によって補正された各横流抑制補正後duty*を図14に適用することで、各スイッチング素子のゲート信号を生成する。
【0075】
本実施形態3によれば、実施形態1、2と同様の作用効果を奏する。また、電源(直流電圧)を共有化し、u相電流とv相電流が等しくならない状態においても横流抑制が可能となる。
【0076】
また、実施形態2に本実施形態3を適用した場合、必要な電流センサ数を実施形態1に本実施形態3を適用した場合よりも減らすことができる。
【0077】
[実施形態4]
実施形態1、実施形態2の回路は電源(直流電圧)の共有化、および位相シフトPWM制御により各並列ユニット間でループ電流が発生する。ループ電流成分はユニットの直流電流成分に重畳し、キャリア周波数の電流リプルとなる。直流電流成分がリプル電流分に比べて大きい場合、ユニット電流の極性は一定に保たれるが、リプル電流分が直流電流成分よりも大きくなった場合、ユニット電流極性が変動する。
【0078】
ユニット電流極性は、各ユニットのソフトスイッチング動作、及び出力電圧パルス幅、平均出力電圧に影響を与える。電流極性が一定の場合、各ユニットで生じる出力電圧パルス幅の変動は一定となり、制御器が変動分を吸収できる。
【0079】
しかし、各ユニットの電流極性が異なった場合、出力電圧パルス幅の変動量も各ユニットで異なるため、平均出力電圧が脈動し、制御精度の悪化を引き起こす。よって、本実施形態4では出力電流が小さい場合に生じる出力電圧の脈動への対策として図27図28に示すデッドタイム補償器を導入する。
【0080】
図27はユニットから電流が流出している時のデッドタイム補償方法を示している。電流流出時には電圧Vunitの立ち上がりがデッドタイム期間Tdeadtime分遅延するため、三角波キャリアの傾きが負の期間中は遅延分だけdutyに+補正を行う。また、電流流入時には、逆に三角波キャリアの傾きが正の期間中にdutyに-補正を行うことで補償を行う。電流値が十分大きい場合、補償量は図27の通り(4Tdeadtime/T)でよい。ここで、Tはキャリア周期であり、デッドタイム期間TdeadtimeとT/4の比からdutyのずれを算出している。電流値が0A付近では使用デバイス(スイッチング素子)の出力容量(IGBTにおけるC_oes、MOSFETにおけるC_oss、あるいは、用いるスイッチング素子におけるこれらに該当する静電容量)の充電に要する時間によって補償量が変化する。ここで、C_oesはIGBTに用いられるものでC_oes=C_CE(コレクタ-エミッタ間容量)+C_GC(コレクタ-ゲート間容量)であり、C_ossはMOSFETに用いられるものでC_oss=C_DS(ドレイン-ソース間容量)+C_DG(ドレイン-ゲート間容量)である。よって、出力容量と電流値、電圧値から補償量を算出し、電流値、電圧値に応じた補償量を決定する。例えば、補償量はデバイスOFF時に印加されるべき電圧と出力容量との積を、電流(計測値または指令値)で除することで計算する。また、補償量の計算が複雑になる場合は予測値などを用いてもよい。この補償量の計算は従来から知られている方法から選択すればよい。
【0081】
本実施形態4の制御部は図28に示すとおりである。図28の横流抑制制御部13は、図26の総和演算部7、乗算器8、減算器9、ゲイン乗算器10、乗算器11、加算器12を示している。
【0082】
乗算器14は、三角波キャリアの傾きに-1を乗算する。デッドタイム補償量計算器15は、電流測定値I11~(2N)2と、使用デバイスの出力容量、キャリア周期T、デッドタイムTdeadtimeに基づいてデッドタイム補償量を計算する。乗算器16は、デッドタイム補償量に乗算器14の出力を乗算する。加算器17は、横流抑制補正後のduty=duty11~(2N)2 に乗算器16の出力を加算して、duty11~(2N)2 **として出力する。また、図28では、実施形態3の横流抑制制御部13でdutyを補正した後に、デッドタイム補償を行う制御について示しているが、実施形態3の横流抑制制御でdutyを補正していない制御にも適用可能である。
【0083】
以上示したように、本実施形態4によれば、実施形態1~3と同様の作用効果を奏する。また、低出力時の出力電圧脈動を低減することができる。
【0084】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0085】
1…三相交流電源(系統電圧)
leg1、leg2…第1、第2レグ
3…三相変圧器
AC/DC…三相PWM整流器
41~4N…第1~第Nユニット
L11~L(2N)2…リアクトル
C…出力コンデンサ
SW11~SW44…スイッチング素子
5…負荷
【要約】
【課題】装置の大型化やコスト増加、故障リスク増加を抑制するとともに、位相シフトPWM制御を適用した電力変換装置を提供する。
【解決手段】 第1、第2レグleg1、leg2は、直流電源と、直流電源に並列接続されたフルブリッジ回路の第1~第Nユニット41~4Nと、を有する。第1~第Nユニット41~4Nのu相とv相にリアクトルL11~L(2N)2の一端がそれぞれ接続される。第1レグLeg1の第1~第Nユニット41~4Nのu相に接続されたリアクトルの他端同士を接続して出力端子とする。また、第2レグlegの各ユニットのv相に接続されたリアクトルの他端同士を接続して出力端子とする。制御部は、位相シフトPWM制御により第1、第2レグleg1、leg2の第1~第Nユニット41~4Nのスイッチング素子を制御する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
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図5
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