IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許7652336人工皮革、その製造方法、自動車内装材、自動車部材および衣料
<>
  • 特許-人工皮革、その製造方法、自動車内装材、自動車部材および衣料 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】人工皮革、その製造方法、自動車内装材、自動車部材および衣料
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20250319BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024510727
(86)(22)【出願日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2024003716
(87)【国際公開番号】W WO2024166865
(87)【国際公開日】2024-08-15
【審査請求日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023016558
(32)【優先日】2023-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大根田 俊
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 智
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 行博
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-155885(JP,A)
【文献】特開2001-055670(JP,A)
【文献】特開2014-047441(JP,A)
【文献】特開2011-140727(JP,A)
【文献】寺田堂彦 他3名,顕微レーザーラマン分光法によるPET繊維の構造解析,SEN’I GAKKAISHI,日本,2002年,Vol.59,NO.9,p.342-345,DOI : https://doi.org/10.2115/fiber.58.342,Online ISSN : 1884-2259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含み、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる繊維絡合体と、高分子弾性体と、を構成要素として含む人工皮革であって、前記熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートであり、前記人工皮革の少なくとも一方の表面が立毛を有する表面であり、該表面の立毛長が200μm以上500μm以下であり、さらに、前記極細繊維における分子配向度が6.5以上9.0以下である、人工皮革。
【請求項2】
維構造中における(010)面の結晶配向度および(100)面の結晶配向度が0.80以上0.95以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
維構造中における(010)面の結晶子サイズが2.0nm以上5.0nm以下であり、かつ、(100)面の結晶子サイズが1.0nm以上4.0nm以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
数平均分子量が500以上3500以下であるポリアルキレングリコールが共重合された共重合ポリエステルである易溶解性ポリマーと、難溶解性ポリマーと、で形成されてなる極細繊維発現型繊維を延伸し、延伸複合繊維を得る工程と、
前記延伸複合繊維を、該延伸複合繊維の表面温度が40℃以上80℃以下となる条件で加熱したのち、捲縮を付与して捲縮複合繊維を得る工程と、
前記捲縮複合繊維で繊維ウェブを形成し、該繊維ウェブを絡合させて、複合繊維絡合体を形成する工程と、
前記複合繊維絡合体から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する工程と、
前記複合繊維絡合体または前記繊維絡合体に高分子弾性体を付与する工程と、
起毛工程と、
を含む、請求項1または2に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の人工皮革を含む、自動車内装材。
【請求項6】
請求項1または2に記載の人工皮革を含む、自動車部品。
【請求項7】
請求項1または2に記載の人工皮革を含む、衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革、その製造方法、自動車内装材、自動車部材および衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維からなる繊維絡合体と高分子弾性体とからなる天然皮革調の人工皮革は、耐久性の高さや品質の均一性などの天然皮革対比で優れた特徴を有している。このため、自動車内装材やインテリア、コンシューマーエレクトロニクス、衣料などといった幅広い用途に用いられ、年々その使用が広がってきている。中でも、人工皮革が自動車内装材やインテリア等に使用される際は、優れた表面品位に加え、良好なタッチ感や実使用に耐えうる高い耐摩耗性が求められる。
【0003】
また、近年の環境意識の高まりから、人工皮革の製造には有機溶剤の使用を少なくした環境配慮型の製造プロセスが注目されるようになり、例えば、極細繊維発現型繊維について、極細繊維発現の際にアルカリ処理により溶解が容易な共重合ポリエステル系ポリマーを用いた試みとして、種々の検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、特定の共重合ポリエステルを海成分ポリマーとした海島型複合繊維を構成成分とする繊維絡合体から前記の海成分ポリマーを除去し、特定の平均単繊維直径である極細繊維を発現させ、前記極細繊維の少なくとも一部が該表面において、特定の溝が配されてなる人工皮革の製造方法が提案されている。そして、この方法によれば、高強力で優れた耐摩耗性を有し、良好な風合いを併せ持つ人工皮革を得ることができる旨が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、海成分ポリマーと、島成分ポリマーからなる海島型複合繊維の溶融紡糸時に、前記海成分ポリマーにポリアルキレングリコールを添加して紡糸する極細繊維発生型繊維の製造方法が提案されている。そして、この方法によって得られる極細繊維によれば、良好な表面品位と耐摩耗性を有する人工皮革を得ることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2021-155885号公報
【文献】日本国特開2014-231650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術においては、人工皮革を構成する極細繊維の少なくとも一部が該繊維表面において溝が配されてなることで、極細繊維が高分子弾性体を把持しやすくなるため、柔軟な風合いと優れた耐摩耗性を達成している。しかしながら、極細繊維に溝が配されてなるため、表面品位やタッチ感の点で改善の余地がある。
【0008】
特許文献2に開示された技術においては、海島型複合繊維の溶融紡糸時に、海成分ポリマーにポリアルキレングリコールを添加して紡糸することで、特定の範囲の結晶化度および可動非晶量を有する剛直性の高い極細繊維となり、絡合効率が高くなるため、良好な表面品位と優れた耐摩耗性を達成している。しかしながら、数平均分子量の大きいポリアルキレングリコールを紡糸時に添加していることから、海成分ポリマー中においてポリアルキレングリコールの分散性が十分でない傾向にあり、アルカリ処理時に均一かつ十分な脱海効果を得られにくいため、表面品位やタッチ感に改善の余地がある。
【0009】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、極細繊維発現型繊維を構成する易溶解性ポリマーに共重合ポリエステルを適用した製造プロセスでありながら、緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感と耐摩耗性とを両立した人工皮革およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、易溶解性ポリマーに特定の数平均分子量であるポリアルキレングリコールを共重合させた極細繊維発現型繊維を延伸したのち、特定の温度で加熱して極細繊維発現型繊維を捲縮させることで、後工程を経て得られる人工皮革を構成する極細繊維における分子配向度を特定の範囲とすることができることが判明した。そして、前記の分子配向度の範囲では、極細繊維発現型繊維に良好な収縮性を有させ、さらには得られる極細繊維に優れた強度を有させることができるため、結果として緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感と耐摩耗性とを両立した人工皮革を得ることが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 熱可塑性樹脂を含み、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる繊維絡合体と、高分子弾性体と、を構成要素として含む人工皮革であって、前記極細繊維における分子配向度が6.5以上9.0以下である、人工皮革。
[2] 前記熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であり、繊維構造中における(010)面の結晶配向度および(100)面の結晶配向度が0.80以上0.95以下である、前記[1]に記載の人工皮革。
[3] 前記熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であり、繊維構造中における(010)面の結晶子サイズが2.0nm以上5.0nm以下であり、かつ、(100)面の結晶子サイズが1.0nm以上4.0nm以下である、前記[1]または[2]に記載の人工皮革。
[4] 前記人工皮革の少なくとも一方の表面が立毛を有する表面であり、該表面の立毛長が200μm以上500μm以下である、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の人工皮革。
[5] 数平均分子量が500以上3500以下であるポリアルキレングリコールが共重合された共重合ポリエステルである易溶解性ポリマーと、難溶解性ポリマーと、で形成されてなる極細繊維発現型繊維を延伸し、延伸複合繊維を得る工程と、前記延伸複合繊維を、該延伸複合繊維の表面温度が40℃以上80℃以下となる条件で加熱したのち、捲縮を付与して捲縮複合繊維を得る工程と、前記捲縮複合繊維で繊維ウェブを形成し、該繊維ウェブを絡合させて、複合繊維絡合体を形成する工程と、前記複合繊維絡合体から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する工程と、前記複合繊維絡合体または前記繊維絡合体に高分子弾性体を付与する工程と、を含む、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の人工皮革の製造方法。
[6] 前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の人工皮革を含む、自動車内装材。
[7] 前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の人工皮革を含む、自動車部品。
[8] 前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の人工皮革を含む、衣料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極細繊維発現型繊維を構成する易溶解性ポリマーに共重合ポリエステルを適用した製造プロセスを用いながらも、緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感と耐摩耗性とを両立した人工皮革を得られる。本発明の人工皮革は、自動車内装材や自動車部品、インテリア、コンシューマーエレクトロニクス、衣料などの幅広い用途に用いることができるが、上記のとおり緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感と耐摩耗性とを両立することから、特に自動車内装材や自動車部品、インテリア用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の人工皮革に係る平均立毛長の測定方法を説明するための断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の人工皮革は、熱可塑性樹脂を含み、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維で構成されてなる繊維絡合体と、高分子弾性体と、を構成要素として含む人工皮革であって、前記極細繊維における分子配向度が6.5以上9.0以下である。以下に、この構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
[繊維絡合体]
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」とも称する。)の人工皮革は、熱可塑性樹脂を含む極細繊維で構成されてなる繊維絡合体を構成要素として含む。熱可塑性樹脂とは、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等を挙げることができる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポチトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ならびに、これらのポリエステル樹脂の混合物、共重合体等を挙げることができる。また、ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド12、ならびに、これらのポリアミド樹脂の混合物、共重合体等を挙げることができる。さらに、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン、ならびに、これらのポリオレフィン樹脂の混合物、共重合体等を挙げることができる。中でも、強度や寸法安定性、耐熱性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0016】
本実施形態において、ポリエステル樹脂で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。本実施形態でいうエステル形成性誘導体とは、これらジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などであり、具体的にはメチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本実施形態で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
本実施形態において、ポリエステル樹脂で用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0017】
前記の熱可塑性樹脂には、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子などの無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、抗菌剤等を含有させることができる。
【0018】
極細繊維の断面形状としては、丸断面、異型断面のいずれでも採用することができる。異型断面の具体例としては、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などが挙げられる。
【0019】
本実施形態において、極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10.0μm以下である。極細繊維の平均単繊維直径が0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.5μm以上であることにより、染色後の発色性や耐光性に優れた人工皮革となる。一方、極細繊維の平均単繊維直径が10.0μm以下、好ましくは8.0μm以下、より好ましくは6.0μm以下であることにより、緻密な表面品位でタッチ感に優れた人工皮革となる。
【0020】
なお、極細繊維の平均単繊維直径は以下の方法により算出されるものとする。
(1)人工皮革の厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により観察する。
(2)観察面内における極細繊維についてランダムに30本選び、それぞれの極細繊維断面から単繊維直径を測定する。ただし、異型断面のポリエステル極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を以下の式で算出することによって単繊維直径を求めるものとする
単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm))/π)1/2
(3)得られた30本の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入した値を極細繊維の平均単繊維直径(μm)とする。
【0021】
本実施形態の人工皮革において、極細繊維における分子配向度は6.5以上9.0以下である。極細繊維における分子配向度が6.5以上、好ましくは6.7以上、より好ましくは7.0以上であることにより、極細繊維が十分な強度を有することから高強力で耐摩耗性に優れる人工皮革となる。一方、極細繊維における分子配向度が9.0以下、好ましくは8.8以下、より好ましくは8.5以下であることにより、極細繊維が剛直になりすぎず、人工皮革製造時の加工性が良好となるとともに、成型性やタッチ感に優れた人工皮革となる。
【0022】
なお、本実施形態において、極細繊維における分子配向度はレーザーラマン分光法により測定されるものであり、以下の方法により算出されるものとする。ここで、ラマン散乱は分子鎖の振動方向と入射光の偏光方向が一致する場合に強く得られることから、分子鎖に対して平行な振動モードに帰属するラマンバンドの散乱強度は配向度と相関して変化する。そこで、繊維軸と平行な偏光方位と直交する偏光方位とで測定を行い、その強度の比を繊維軸方向への配向度と相関するパラメーター(分子配向度)として算出する。このパラメーターは分子配向度が高いほど大きな値となり、無配向時は1となる。
【0023】
(1)人工皮革から極細繊維を10本採取し、レーザーラマン分光装置(例えば、Jobin Yvon社製「Ramanor T64000」など)を用いて、前記極細繊維の繊維表面にレーザー光を照射する。なお、配向度の測定は偏光条件下で行う。
(2)偏光方向が繊維軸と一致する場合を平行条件、直行する場合を垂直条件として、それぞれ得られたラマンバンド強度の比から以下の式を用いて配向度を算出し、小数点以下第二位で四捨五入した値を極細繊維における分子配向度とする
分子配向度=I平行/I垂直
平行:繊維軸方向に平行な偏向配置での、分子鎖に対して平行な振動モードに帰属するラマンバンドの強度
垂直:繊維軸方向に垂直な偏向配置での、分子鎖に対して平行な振動モードに帰属するラマンバンドの強度。
【0024】
また、極細繊維における分子配向度は、例えば、紡糸速度、延伸倍率、延伸温度、加熱処理温度等を調整することなどによって、上記の範囲とすることができる。
【0025】
本実施形態において、前記の熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であり、繊維構造中における(010)面の結晶配向度および(100)面の結晶配向度が0.80以上0.95以下であることが好ましい。極細繊維の繊維構造中における(010)面の結晶配向度および(100)面の結晶配向度が好ましくは0.80以上、より好ましくは0.82以上であることにより、高強力で耐摩耗性に優れる人工皮革となる。一方、極細繊維の繊維構造中における(010)面の結晶配向度および(100)面の結晶配向度が好ましくは0.95以下、より好ましくは0.90以下であることにより、成型性やタッチ感に優れた人工皮革となる。
【0026】
なお、本実施形態において、極細繊維の繊維構造中における(010)面および(100)面の結晶配向度とは、広角X線回折法を用いて、以下の方法により測定、算出される値を指すものとする。
(1)人工皮革から極細繊維を採取し、X線回折装置(例えば、株式会社リガク製X線発生装置「SmartLab」など)を用いて、回折角2θが5°から60°までの連続スキャンを行い、回折強度曲線を描く。
(2)前記の回折強度曲線において、2θ=約17°、2θ=約25°に検出される結晶回折ピーク(反射面)をそれぞれ(010)面、(100)面とし、各反射面に対して方位角(円周)方向に90°から270°までの連続スキャンを行うことで得られる回折強度曲線の回折ピークの半値幅を算出する。
(3)前記の半値幅から、以下の式により(010)面および(100)面の結晶配向度を算出し、小数点以下第二位で四捨五入した値を極細繊維の繊維構造中における(010)面および(100)面の結晶配向度とする
結晶配向度=(180-半値幅)/180。
【0027】
また、極細繊維の繊維構造中における(010)面および(100)面の結晶配向度は、例えば、紡糸速度、延伸倍率、延伸温度、加熱処理温度等を調整することなどによって、上記の範囲とすることができる。
【0028】
本実施形態において、前記の熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であり、繊維構造中における(010)面の結晶子サイズが2.0nm以上5.0nm以下であり、かつ、(100)面の結晶子サイズが1.0nm以上4.0nm以下であることが好ましい。極細繊維の繊維構造中における(010)面の結晶子サイズが好ましくは2.0nm以上、より好ましくは2.5nm以上、あるいは、(100)面の結晶子サイズが好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.5nm以上であることにより、耐摩耗性に優れる人工皮革となる。一方、極細繊維の繊維構造中における(010)面の結晶子サイズが好ましくは5.0nm以下、より好ましくは4.5nm以下、あるいは、(100)面の結晶子サイズが好ましくは4.0nm以下、より好ましくは3.5nm以下であることにより、極細繊維に良好な収縮性を発現することができ、緻密性の高い表面品位を有する人工皮革となる。
【0029】
なお、本発明において、極細繊維の繊維構造中における(010)面および(100)面の結晶子サイズは、広角X線回折法を用いて、以下の方法により測定、算出される値を指すものとする。
(1)人工皮革から極細繊維を採取し、X線回折装置(例えば、株式会社リガク製X線発生装置「SmartLab」など)を用いて、回折角2θが5°から60°までの連続スキャンを行い、回折強度曲線を描く。
(2)前記の回折強度曲線において、2θ=約17°、2θ=約25°に検出される結晶回折ピーク(反射面)をそれぞれ(010)面、(100)面とし、各反射面の回折ピークの半値幅を算出する。
(3)前記の半値幅から、以下の式により(010)面および(100)面の結晶子サイズを算出し、小数点以下第二位で四捨五入した値を極細繊維の繊維構造中における(010)面および(100)面の結晶子サイズ(nm)とする
結晶子サイズ(nm)=0.9×λ/(β×cosθ)
β=(β -β 1/2
ここで、λ:X線の波長(nm)、θ:ブラッグ角、β:回折ピークの半値幅、β:半値幅補正値(本発明では、0.46°)である。
【0030】
なお、極細繊維の繊維構造中における(010)面および(100)面の結晶子サイズは、例えば、紡糸速度、延伸倍率、延伸温度、加熱処理温度等を調整することなどによって、上記の範囲とすることができる。
【0031】
本実施形態の人工皮革は、前記の極細繊維からなる繊維絡合体の形態をなしていることにより、後述する方法によって表面を起毛した際に、緻密で優美な表面品位や柔軟な風合いを得ることができる。なお、この繊維絡合体は、後述するように、その前駆体である複合繊維絡合体から形成されるものであり、前記複合繊維絡合体の形態としては、短繊維をカードやクロスラッパーを用いて積層繊維ウェブを形成させた後に、ニードルパンチやウォータージェットパンチを施して得られる短繊維絡合体、スパンボンド法やメルトブロー法などから得られる長繊維絡合体、および抄紙法で得られる絡合体などが挙げられる。そして、複合繊維絡合体を構成する極細繊維発現型繊維から極細繊維を発現させることで、繊維絡合体を形成することができる。特に、複合繊維絡合体が短繊維絡合体である場合は、その他の絡合体の場合に比べて、人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができるため、起毛させた際の人工皮革表面に高い緻密感と良好なタッチ感を有する人工皮革となる。さらに、厚み均一性等が良好な人工皮革となる。
【0032】
短繊維絡合体を用いる場合において、この短繊維絡合体を構成する極細繊維の繊維長は25mm以上90mm以下であることが好ましい。極細繊維の繊維長が好ましくは25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上であることにより、絡合により耐摩耗性に優れた人工皮革となる。また、極細繊維の繊維長が好ましくは90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下であることにより、良好な表面品位と風合いを有する人工皮革となる。
【0033】
本実施形態において、短繊維絡合体を構成する極細繊維には、目的に応じて各種の添加剤等を含有させることができる。
【0034】
本実施形態の人工皮革においては、その強度や形態安定性を向上させるなどの目的で、前記複合繊維絡合体の内部に織物や編物を挿入したり、または、積層したり、または、裏張りしたりすることもできる。
【0035】
[高分子弾性体]
本実施形態の人工皮革は高分子弾性体を構成要素として含む。この高分子弾性体のバインダー効果により、極細繊維が人工皮革から抜け落ちることを防止することができるだけでなく、適度な反発感を付与することが可能となる。
【0036】
高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル酸など等が挙げられ、耐久性や柔軟性の観点から、ポリウレタンが好ましく用いられる。なお、高分子弾性体には、複数の高分子弾性体を含有せしめることができる。
【0037】
本実施形態において、高分子弾性体にポリウレタンを用いる場合には、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンと、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンのいずれも採用することができるが、環境配慮の観点から、水分散型ポリウレタンが好ましく用いられる。
【0038】
水分散型ポリウレタンを用いる場合、後述する高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させて得られるポリウレタン前駆体に、架橋剤を反応させることによって得られる水分散型ポリウレタンがより好ましく用いられる。以下に、これらについて詳細を説明する。
【0039】
(a)高分子ポリオール
本実施形態で好ましく用いられる高分子ポリオールは、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0040】
まず、ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリンおよびシクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、ならびに、前記のモノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、およびこれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
【0041】
次に、ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるポリオールなどを挙げることができる。
【0042】
ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールとしては、例えば、「エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1.8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール」などの直鎖アルキレングリコールや、「ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール」などの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、および1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族2価アルコール、などから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0043】
一方、ポリエステル系ポリオールに用いられる多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸などからなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0044】
そして、ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、あるいはポリオールとジアリールカーボネートなど、ポリオールとカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
【0045】
ポリカーボネート系ポリオールに用いられるポリオールとしては、ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールを用いることができる。一方、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートなどを用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを用いることができる。
【0046】
なお、本実施形態で好ましく用いられる高分子ポリオールの数平均分子量は500以上5000以下であることが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を好ましくは500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、人工皮革の風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。一方、数平均分子量を好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしての水分散型ポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。
【0047】
(b)有機ジイソシアネート
本実施形態で好ましく用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(イソシアネート(NCO)基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が含まれる。
【0048】
前記の炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられ、中でも、水分散型ポリウレタンとした際の柔軟性に優れる、MDIを用いることが好ましい。
【0049】
前記の炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0050】
前記の炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられ、中でも水分散型ポリウレタンとした際の耐久性に優れる、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0051】
前記の炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0052】
(c)親水性基を有する活性水素成分含有化合物
本実施形態で好ましく用いられる親水性基を有する活性水素成分含有化合物としては、ノニオン性基、アニオン性基およびカチオン性基からなる群より選択される1以上の基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。これらの活性水素成分含有化合物は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。この親水性基を有する活性水素成分含有化合物を用いることによって、人工皮革の製造方法で用いられる水分散液の安定性を高めることができる。
【0053】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250以上9000以下のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0054】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0055】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3-ジメチルアミノプロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0056】
(d)鎖伸長剤
本実施形態で好ましく用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4’-ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0057】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、さらに好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0058】
(e)ポリウレタン前駆体の構成
前記のとおり、本実施形態で好ましく用いられるポリウレタン前駆体は、前記の高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させることによって調製される。
【0059】
(f)架橋剤
本実施形態に用いられる架橋剤としては、ポリウレタン前駆体に導入された反応性基と反応し得る反応性基を、分子内に2個以上有するものを使用することができ、具体的には、水溶性イソシアネート系化合物やブロックイソシアネート系化合物等のポリイソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用することもできる。
【0060】
水溶性イソシアネート系化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであり、前記の有機ポリイソシアネート含有の化合物等が挙げられる。
【0061】
ブロックイソシアネート系化合物は、分子内にブロックイソシアネート基を2個以上有するものである。ブロックイソシアネート基は、前記の有機ポリイソシアネート化合物をアミン類やフェノール類やイミン類やメルカプタン類や、ピラゾール類やオキシム類や活性メチレン類等のブロック化剤によりブロックしたものを意味する。
【0062】
オキサゾリン系架橋剤としては、分子内にオキサゾリン基(オキサゾリン骨格)を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0063】
カルボジイミド系架橋剤としては、分子内にカルボジイミド基を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、反応後に得られる水分散型ポリウレタンの耐久性や柔軟性に特に優れる、カルボジイミド化合物を用いることが好ましい。
【0065】
(g)水分散型ポリウレタンの構成
本実施形態で好ましく用いられる水分散型ポリウレタンは、柔軟性や耐久性の観点から、ポリエーテル系ポリオールおよび/またはポリカーボネート系ポリオールに由来する構成成分を含むことが好ましい。前記水分散型ポリウレタンがポリエーテル系ポリオールに由来する構成成分を含むことによって、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、かつ凝集力も弱いために、柔軟性に優れる水分散型ポリウレタンとすることができる。また、前記水分散型ポリウレタンがポリカーボネート系ポリオールに由来する構成成分を含むことによって、そのカーボネート基の有する高い凝集力により、耐水性、耐熱性、耐候性、力学物性に優れる水分散型ポリウレタンとすることができる。
【0066】
なお、水分散型ポリウレタンの構成成分を確認する(水分散型ポリウレタンがポリエステルポリオールに由来する構成成分を含むこと、および/または、水分散型ポリウレタンがポリカーボネートポリオールに由来する構成成分を含むことを確認する)方法としては、人工皮革を構成するポリエステルを溶出し、不溶物(水分散型ポリウレタン)について、赤外分光分析(分析機器としては、例えば、日本分光株式会社製「FT/IR 4000 series」など)、熱分解GC/MS分析(分析機器としては、例えば、株式会社島津製作所製「GCMS-QP5050A」など)を行えば分析可能である。なお、人工皮革を構成するポリエステルを溶出可能な溶剤としては、m-クレゾールやヘキサフルオロイソプロパノールを用いることができるが、室温での取り扱いが可能なヘキサフルオロイソプロパノールを用いることが好ましい。
【0067】
また、本実施形態で用いられる水分散型ポリウレタンは、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有することが好ましい。N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合は前記の親水性基とカルボジイミド基を有する架橋剤の反応により形成され、水分散型ポリウレタン中に架橋構造を形成することで、前記水分散型ポリウレタンの耐久性を高めることができる。
【0068】
なお、水分散型ポリウレタンに上記のN-アシルウレア基やイソウレア基が存在することは、人工皮革の断面に対して、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS分析)等のマッピング処理(分析機器としては、例えば、ION-TOF社製「TOF.SIMS 5」など)や赤外分光分析(分析機器としては、例えば、日本分光株式会社製「FT/IR 4000 series」など)を行えば分析可能である。
【0069】
一般に、人工皮革における高分子弾性体の含有量は、使用する高分子弾性体の種類、高分子弾性体の製造方法および風合や物性を考慮して適宜調整することができるが、本実施形態においては、高分子弾性体の含有量は、人工皮革の質量に対して10質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。高分子弾性体の含有量を好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることで、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。一方、高分子弾性体の含有量を好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下とすることで、柔軟な風合いの人工皮革とすることができる。
【0070】
また、高分子弾性体には、目的に応じて各種の添加剤、例えば、「無機系や酸化物系」などの顔料、「リン系、ハロゲン系および無機系」などの難燃剤、「フェノール系、イオウ系およびリン系」などの酸化防止剤、「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系」などの紫外線吸収剤、「ヒンダードアミン系やベンゾエート系」などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料などを含有させることができる。
【0071】
[人工皮革]
本実施形態の人工皮革は、上記の繊維絡合体と高分子弾性体とを構成要素として含む。そして、本実施形態の人工皮革においては、その少なくとも一方の表面が立毛を有する表面であることが好ましい。所望の目的に合わせて、人工皮革の片側一方の表面のみが立毛を有する表面であってもよく、両面が立毛を有する表面であることも許容される。表面が立毛を有する表面である場合の立毛形態は、意匠効果の観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長と方向柔軟性を備えていることが好ましい。
【0072】
より具体的には、該表面の立毛の長さ、すなわち、立毛長は200μm以上500μm以下であることが好ましい。立毛長を200μm以上、より好ましくは220μm以上とすることで、スエード調の優美な表面品位を有するとともに、タッチ感に優れた人工皮革とすることができる。一方、立毛長を500μm以下、より好ましくは450μm以下とすることで、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができ、また、極細繊維同士の絡まりに伴う表面品位の低下を抑制することができる。
【0073】
人工皮革の少なくとも一方の表面が上記の立毛を有する表面である場合において、該表面の立毛長は以下の方法により測定、算出される値とする。
【0074】
(1)リントブラシ等を用いて、人工皮革の立毛を逆立てた状態で、人工皮革の長手方向に垂直な断面を走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)にて倍率50~120倍で撮影する。
(2)撮影したSEM画像において、図1に示す人工皮革の断面の模式図に従って、人工皮革の底面(図1中、L)に対して平行な線(図1中、L)上に200μm間隔で、底面(図1中、L)に対する垂線を10本(A~A10)引く。
(3)垂線A~A10と、立毛部(図1中、1)とその立毛部1以外の部分である基体部(図1中、2)の境界線(L)と、が交わる点P~P10をマークする。
(4)垂線A~A10と立毛部1の先端とが交わる点Q~Q10をマークする。
(5)点Pと点Qの距離をRとし、点Pと点Qの距離をRとして、同様にR10まで求め、その平均値(算術平均)を算出する。
【0075】
本実施形態の人工皮革は、人工皮革の見掛け密度が0.30g/cm以上0.50g/cm以下であることが好ましい。人工皮革の見掛け密度が好ましくは0.30g/cm以上、より好ましくは0.32g/cm以上であることで、耐摩耗性に優れた人工皮革となる。一方、人工皮革の見掛け密度が好ましくは0.50g/cm以下、より好ましくは0.45g/cm以下であることで、柔軟な風合いの人工皮革となる。
【0076】
本実施形態の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 A法」で測定される厚みが0.2mm以上1.5mm以下であることが好ましい。人工皮革の厚みが好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上であることで、製造時の加工性に優れるだけでなく、充実感のある、風合いに優れた人工皮革となる。一方、人工皮革の厚みが好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.2mm以下であることで、成型性に優れた柔軟な人工皮革となる。
【0077】
また、本実施形態の人工皮革は、JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を12.0kPaとし、50000回の回数を摩耗した後の人工皮革の摩耗減量が30mg以下であることが好ましく、27mg以下であることがより好ましく、25mg以下であることがさらに好ましい。人工皮革の摩耗減量が30mg以下であることで、実使用時の毛羽落ちによる汚染や、人工皮革の外観の劣化が抑制されたものとなる。
【0078】
[人工皮革の製造方法]
本実施形態の人工皮革の製造方法は、数平均分子量が500以上3500以下であるポリアルキレングリコールが共重合された共重合ポリエステルである易溶解性ポリマーと、難溶解性ポリマーと、で形成されてなる極細繊維発現型繊維を延伸し、延伸複合繊維を得る工程と、
前記延伸複合繊維を、該延伸複合繊維の表面温度が40℃以上80℃以下となる条件で加熱したのち、捲縮を付与して捲縮複合繊維を得る工程と、
前記捲縮複合繊維で繊維ウェブを形成し、該繊維ウェブを絡合させて、複合繊維絡合体を形成する工程と、
前記複合繊維絡合体から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する工程と、
前記複合繊維絡合体または前記繊維絡合体に高分子弾性体を付与する工程、
を含むことが好ましい態様である。以下に、この好ましい態様の詳細について説明するが、本発明の要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0079】
<延伸複合繊維を得る工程>
この工程では、まず、数平均分子量が500以上3500以下であるポリアルキレングリコールが共重合された共重合ポリエステルである易溶解性ポリマーと、難溶解性ポリマーと、で形成されてなる極細繊維発現型繊維を延伸し、延伸複合繊維を得る。ここで、本実施形態において、極細繊維発現型繊維とは、海島型複合繊維や芯鞘型複合繊維などのように易溶解性ポリマーを除去することで、残存した難溶解性ポリマーが極細繊維となる繊維のことを指す。また、易溶解性ポリマーとは、上記の極細繊維発現型繊維から易溶解性ポリマーを除去する際に用いられるアルカリ水溶液等の溶液に浸漬させた際に、5分以内に溶解してしまうような、後述される樹脂である。反対に、難溶解性ポリマーとは、上記の溶液に対し、10分以上溶解しないような、後述される樹脂である。
【0080】
(1)易溶解性ポリマー
極細繊維発現型繊維の易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸や共重合ポリエステルを挙げることができるが、製糸性やアルカリ処理により溶解が容易な観点から、共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0081】
共重合ポリエステルを用いる場合、共重合成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを3モル%以上15モル%以下共重合してなる共重合ポリエステルが好ましい。5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分の共重合量を好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上とすることで、十分なアルカリ溶出性を得ることができる。一方、5-スルホイソフタル酸ナトリウム成分の共重合量を好ましくは15モル%以下、より好ましくは13モル%以下とすることで、ポリエステルの増粘が抑えられ、極細繊維発現型繊維の紡糸時に糸切れが発生しにくいという効果を奏する。
【0082】
また、前記共重合ポリエステルは数平均分子量が500以上3500以下のポリアルキレングリコールが共重合されていることが好ましい。より好ましくは700以上3000以下の範囲である。ポリアルキレングリコールの数平均分子量を上記範囲とすることにより、易溶解性ポリマー中におけるポリアルキレングリコールの分散性が良くなり、極細繊維発現型繊維の製糸性やアルカリ溶出性に優れた効果を奏し、アルカリ処理時に均一かつ十分な脱海効果を得ることができる。
【0083】
易溶解性ポリマーにおけるポリアルキレングリコールの共重合量は0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの共重合量を好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上とすることにより、アルカリ溶出性が良好となる。一方、ポリアルキレングリコールの共重合量を好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下とすることにより、極細繊維発現型繊維の紡糸時に糸切れが発生しにくいという効果を奏する。
【0084】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリブチレングリコール等が挙げられるが、使用の容易性やアルカリ水溶液への減量性等からポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0085】
また、極細繊維発現型繊維を構成する易溶解性ポリマーとしては、一成分にエチレンテレフタレート単位を主とした繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを含んでいることが好ましく、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えたポリエステルであってもよい。また、同様にしてエチレングリコール成分の一部を他のポリオール成分で置き換えたポリエステルであってもよい。
【0086】
本実施形態で使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の芳香族、脂肪族、および脂環族の二官能性カルボン酸が好ましく用いられる。また、エチレングリコール以外のポリオール化合物としては、例えば、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の脂肪族、脂環族、および芳香族のポリオール化合物が好ましく用いられる。
【0087】
また、極細繊維発現型繊維を構成する易溶解性ポリマー、および後述する難溶解性ポリマーには、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子などの無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、抗菌剤等を含有することができる。
【0088】
(2)難溶解性ポリマー
極細繊維発現型繊維の難溶解性ポリマーとしては、上記の極細繊維を構成する熱可塑性樹脂として挙げた、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等を挙げることができる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポチトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ならびに、これらのポリエステル樹脂の混合物、共重合体等を挙げることができる。また、ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド12、ならびに、これらのポリアミド樹脂の混合物、共重合体等を挙げることができる。さらに、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン、ならびに、これらのポリオレフィン樹脂の混合物、共重合体等を挙げることができる。中でも、強度や寸法安定性、耐熱性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。また、難溶解性ポリマーには種々の目的に応じて、酸化チタン粒子などの無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤、抗菌剤等を含有することができる。
【0089】
(3)極細繊維発現型繊維
極細繊維発現型繊維には、海島型複合用口金や芯鞘型複合用口金を用い、易溶解性ポリマーと難溶解性ポリマーの2成分を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式と、易溶解性ポリマーと難溶解性ポリマーの2成分を混合して紡糸する混合紡糸方式などがあるが、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から、高分子相互配列体を用いる方式による海島型複合繊維または芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0090】
本実施形態の人工皮革に用いられる極細繊維発現型繊維は、パイプ群が配置された一般の複合口金や、日本国特開2011-174215号公報に記載されているような、各成分のポリマー流を、計量する複数の計量孔を有する計量板と複数の計量孔からの吐出ポリマー流を合流する合流溝に、複数の分配孔を有する分配板を組み合わせることにより、様々な断面形状を形成可能な複合紡糸口金を用いることにより得ることができる。
【0091】
極細繊維発現型繊維の易溶解性ポリマーと難溶解性ポリマーの比率は、難溶解性ポリマーの極細繊維発現型繊維に対する質量比で20%以上95%以下であることが好ましい。難溶解性ポリマーの質量比を好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上とすることで、易溶解性ポリマーの除去率を少なくすることができ、より生産性が向上する。一方、難溶解性ポリマーの質量比を好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下とすることで、難溶解性ポリマーの合流を防ぐことができ、表面品位の低下を抑制することができる。
【0092】
極細繊維発現型繊維を得る際の紡糸速度は500m/分以上3000m/分以下であることが好ましい。紡糸速度を好ましくは500m/分以上、より好ましくは800m/分以上とすることで、極細繊維の平均単繊維直径を容易に10.0μm以下とすることができ、緻密な表面品位でタッチ感に優れた人工皮革とすることができる。一方、紡糸速度を好ましくは3000m/分以下、より好ましくは2000m/分以下とすることで、糸切れする頻度を低下させ、より生産性が向上する。
【0093】
(4)極細繊維発現型繊維の延伸
本工程では、その最後に前記の極細繊維発現型繊維を延伸し、延伸複合繊維を得る。このとき、延伸倍率は2.0倍以上4.5倍以下であることが好ましい。延伸倍率を好ましくは2.0倍以上、より好ましくは2.3倍以上とすることで、十分な強度を有する極細繊維発現型繊維を得ることができる。一方、延伸倍率を好ましくは4.5倍以下、より好ましくは4.2倍以下とすることで、延伸加工時の安定性に優れた効果を奏する。
【0094】
上記の延伸を行う際の、延伸温度は50℃以上80℃以下であることが好ましい。ここで、延伸温度とは、延伸加工時に極細繊維発現型繊維が接する加熱源の温度であり、具体的には、ローラー延伸の場合には当該ローラーの表面温度、液浴延伸の場合には当該液浴の液温、スチーム延伸の場合にはスチームボックス内の雰囲気温度のことを指す。延伸温度を好ましくは50℃以上とすることで、配向むらの少ない極細繊維発現型繊維を得ることができる。一方、延伸温度を好ましくは80℃以下とすることで、延伸加工時における易溶解性ポリマーの溶出を抑制することができる。
【0095】
<捲縮複合繊維を得る工程>
本工程では、前記の延伸複合繊維を、該延伸複合繊維の表面温度が40℃以上80℃以下となる条件で加熱したのち、捲縮を付与して捲縮複合繊維を得る。このときの前記の延伸倍率や延伸温度等の条件調整の他、この加熱処理を施すことで、人工皮革を構成する極細繊維における分子配向度を制御することができ、本発明の目的とする、緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感と耐摩耗性とを両立した人工皮革を得ることが可能である。
【0096】
本実施形態において、加熱時の該延伸複合繊維の表面温度が、40℃以上80℃以下であることが好ましい。より好ましくは45℃以上70℃以下の範囲である。加熱温度を上記範囲とすることで、易溶解性ポリマーの溶出を抑制することができ、また、極細繊維発現型繊維が適度な強伸度および収縮性を有し、次工程以降の加工性に優れる効果を奏する他、本実施形態の特徴である、極細繊維における分子配向度を特定の範囲とすることが可能となる。
【0097】
なお、本実施形態の人工皮革の製造方法において、延伸複合繊維または捲縮複合繊維の難溶解性ポリマー部の引張強度は3.0cN/dtex以上であることが好ましい。難溶解性ポリマー部の引張強度が好ましくは3.0cN/dtex以上、より好ましくは3.2cN/dtex以上であることによって、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができるとともに、繊維の脱落に伴う摩擦堅牢度の低下を抑制することができる。
【0098】
本実施形態において、延伸複合繊維または捲縮複合繊維の難溶解性ポリマー部の引張強度は以下の方法により算出されるものとする。
(1)長さ20cmの延伸複合繊維または捲縮複合繊維を10本束ねる。
(2)(1)の試料から易溶解性ポリマーを溶解除去したのちに、風乾する。
(3)JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する。
(4)(3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、延伸複合繊維または捲縮複合繊維を構成する難溶解性ポリマー部の引張強度とする。
【0099】
<複合繊維絡合体を形成する工程>
本工程では、前記の捲縮複合繊維で繊維ウェブを形成し、該繊維ウェブを絡合させて、複合繊維絡合体を形成する。より具体的には、前記の捲縮複合繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、その繊維ウェブを絡合させることで得ることができる。
【0100】
繊維ウェブを形成し、該繊維ウェブを絡合させて、複合繊維繊維絡合体を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができるが、中でも、絡合効率の高い、ニードルパンチ処理を行うことが好ましい。
【0101】
複合繊維絡合体の形態としては、上記のように短繊維絡合体でも長繊維絡合体でも用いることができるが、短繊維絡合体であると、人工皮革の厚さ方向に配向する繊維が長繊維絡合体に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0102】
短繊維絡合体とする場合には、得られた捲縮複合繊維を所定長にカット加工したのちに、開繊、積層、絡合させることで短繊維絡合体を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0103】
上記ニードルパンチ処理に用いられるニードルにおいては、ニードルバーブ(切りかき)の数は1本以上9本以下であることが好ましい。ニードルバーブを好ましくは1本以上とすることで、効率的な繊維の絡合が可能となる。一方、ニードルバーブを好ましくは9本以下とすることで、繊維損傷を抑えることができる。
【0104】
バーブに引っかかる極細繊維発現型繊維の本数は、バーブの形状と極細繊維発現型繊維の直径によって決定される。そのため、ニードルパンチ工程で用いられる針のバーブ形状は、キックアップが0μm以上50μm以下であり、アンダーカットアングルが0°以上40°以下であり、スロートデプスが40μm以上80μm以下であり、そしてスロートレングスが0.5mm以上1.0mm以下のものが好ましく用いられる。
【0105】
ニードルパンチ処理におけるパンチング本数は1000本/cm以上8000本/cm以下であることが好ましい。パンチング本数を好ましくは1000本/cm以上とすることで、緻密な繊維絡合体とすることができる。また、パンチング本数を好ましくは8000本/cm以下とすることで、加工性の悪化、繊維損傷および強度低下を防ぐことができる。
【0106】
また、ウォータージェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、直径0.05mm以上1.0mm以下のノズルから圧力2MPa以上60MPa以下で水を噴出させることが好ましい。
【0107】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発現型繊維からなる複合繊維絡合体の見掛け密度を、0.15g/cm以上0.40g/cm以下とすることが好ましい。複合繊維絡合体の見掛け密度を好ましくは0.15g/cm以上、より好ましくは0.20g/cm以上とすることで、耐久性や耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。一方、複合繊維絡合体の見掛け密度を好ましくは0.40g/cm以下、より好ましくは0.35g/cm以下とすることで、高分子弾性体を付与するための空間を維持することができることから高分子弾性体が均一に付与され、反発感に優れた人工皮革とすることができる。
【0108】
また、前記複合繊維絡合体の目付を200g/m以上900g/m以下とすることが好ましい。複合繊維絡合体の目付を好ましくは200g/m以上、より好ましくは250g/m以上とすることで、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。一方、複合繊維絡合体の目付を好ましくは900g/m以下、より好ましくは800g/m以下とすることで、成型性に優れた柔軟な人工皮革とすることができる。
【0109】
前記の複合繊維絡合体には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチームによる熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。
【0110】
次に、前記の複合繊維絡合体に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。複合繊維絡合体に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0111】
<極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する工程>
そして、本工程では、前記の複合繊維絡合体から平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する。
【0112】
本実施形態において用いられる極細繊維の発現処理は、有機溶剤を使用しなくてもよい。より詳細には、易溶解性ポリマーがポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば、極細繊維発現型繊維からなる複合繊維絡合体をアルカリ水溶液中に浸漬させて、極細繊維発現型繊維の易溶解性ポリマーを溶解除去することにより行うことができる。アルカリ水溶液としては、廃液処理を行う際、中和により生成する塩の処理をより容易に行うことができるため、水酸化ナトリウム水溶液が好ましく用いられる。
【0113】
<高分子弾性体を付与する工程>
さらに、この工程では、前記の複合繊維絡合体、または前記繊維絡合体に、高分子弾性体を付与する。具体的には、高分子弾性体の溶液を含浸し、固化して高分子弾性体を付与する工程がより好ましい。
【0114】
高分子弾性体を複合繊維絡合体または繊維絡合体に固定する方法としては、高分子弾性体の溶液を繊維絡合体に含浸させた後、凝固浴中に浸漬させて固定する湿式凝固法、または、乾燥させて固定する乾式凝固法があり、付与する高分子弾性体の種類により適宜これらの方法を選択することができる。
【0115】
高分子弾性体としてポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等、また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液等が好ましく用いられる。中でも、環境配慮の観点から、水分散型ポリウレタン液が好ましく用いられる。
【0116】
なお、ここでは、前記の極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する工程の後、前記の繊維絡合体に高分子弾性体を付与する工程を行う場合について説明したが、前記の複合繊維絡合体を形成する工程の後、極細繊維を発現させる前に、前記の複合繊維絡合体に高分子弾性体を付与してもよい。
【0117】
<その他の仕上げ工程>
本実施形態の人工皮革の製造方法においても、一般的な人工皮革と同様に、種々の仕上げ工程を行うことが好ましい。
【0118】
まず、本実施形態の人工皮革の製造方法は、人工皮革を染色する染色工程を含むことが好ましい。この染色処理としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができ、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、未起毛人工皮革または人工皮革の染色と同時に揉み効果を与えて未起毛人工皮革または人工皮革を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0119】
また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0120】
本実施形態では、染色工程の前後に問わず、製造効率の観点から、厚み方向に半裁することも好ましい態様である。
【0121】
本実施形態の人工皮革の製造方法においては、染色工程の前後に問わず、起毛工程を含むことも好ましい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。起毛処理は、人工皮革の片側表面のみに施しても、両面に施すこともできる。
【0122】
起毛処理を施す場合には、起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を人工皮革の表面へ付与することができる。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することで、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。このようにして、人工皮革が形成される。
【0123】
さらに、本実施形態の人工皮革の製造方法では、必要に応じて、人工皮革に対し、例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、および、プリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【0124】
以上に例示された製造方法によって得られる本実施形態の人工皮革は、緻密で優美な表面品位を有し、成型加工性および耐摩耗性に優れることから、自動車内装材やインテリア、コンシューマーエレクトロニクス、衣料、鞄などの幅広い用途に用いることができる。
【0125】
例えば、前記の人工皮革を含む自動車内装材は、緻密で優美な表面品位を有し、成型加工性および耐摩耗性に優れているという特性を生かすことができるため好ましい。このような自動車内装材は、例えば、ステアリングホイール、ホーンスイッチ、シフトノブ、ダッシュボード、インストルメントパネル、グローブボックス、フロアカーペット、フロアマット、天井内張、サンバイザー、アシストグリップなどの自動車部品に使用されてなることが好ましく、これら自動車部品の少なくとも一部が前記の人工皮革であることがより好ましい。なお、本実施形態における「自動車」とは、いわゆる一般的な乗用車に限られず、ショベルカー、クレーン車、トラクター、コンバインなど、人間や動物を乗せて移動することのできる、一部の産業機械、建設機械、農業機械も含むものである。
【0126】
また、前記の人工皮革を含む衣料も、緻密で優美な表面品位を有し、成型加工性および耐摩耗性に優れているという特性を生かすことができるため、同様に好ましい。このような衣料としては、Tシャツ・ポロシャツ・ワイシャツ・ブラウス・カシュクール・カットソー・セーター・ベスト・パーカー・スウェットシャツ・タートルネック・カーディガン・タンクトップ・チューブトップ等のトップス、コート・ブレザー・ジャケット・ウインドブレーカー・クローク・ケープ・エプロン・マント等のアウターウェア、スラックス・ジーンズ・ショートパンツ等のズボン、スカート、カクテルドレス・ワンピース・ガウン等のドレス、祭服、背広服、制服、下着、さらには、帽子、ベルト・スカーフ・ネクタイ等の装身具等の衣料、あるいは、ボタン・ポケット等の衣料用資材・付属品、および、上記衣料品の裏地に好適に用いることができる。
【実施例
【0127】
次に、実施例を用いて本発明の人工皮革についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[測定方法]
実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。ただし、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0128】
A.極細繊維の平均単繊維直径:
極細繊維の平均単繊維直径の測定においては、株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープ「VHX-D500/D510」を用いて極細繊維を観察し、平均単繊維直径を算出した。
【0129】
B.極細繊維における分子配向度
極細繊維における分子配向度は、Jobin Yvon社製レーザーラマン分光装置「Ramanor T64000」を用いて、以下の条件にて測定した。
・測定モード:顕微ラマン
・対物レンズ:×100
・ビーム径:1μm
・光源:Ar+レーザー/514.5nm
・レーザーパワー:50mW
・回折格子:Spectrograph 1800gr/mm
・スリット:100μm
・検出器:CCD(Jobin Yvon社製) 1024×256
【0130】
C.極細繊維の結晶配向度:
極細繊維の結晶配向度は、株式会社リガク製X線発生装置「SmartLab」を用いて、以下の条件にて測定した。
・X線発生装置:SmartLab(封入管式)
・X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
・出力:40kV 50mA
・検出器:D/teX一次元検出器
・受光ソーラースリット:2.5°
・スキャン方式:β連続スキャン
・入射スリット:0.5mmh×0.55mmw
・受光スリット:5mm-5mm
・測定範囲(β):90°~270°
・測定ステップ(β):0.5°
・スキャン速度:15°/min
・回折ピーク:(010)面 2θ=約17°、(100)面 2θ=約25°
【0131】
D.極細繊維の結晶子サイズ:
極細繊維の結晶子サイズは、株式会社リガク製X線発生装置「SmartLab」を用いて、以下の条件にて測定した。
・X線発生装置:SmartLab(封入管式)
・X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
・出力:40kV 50mA
・検出器:D/teX一次元検出器
・受光ソーラースリット:2.5°
・スキャン方式:2θ-θ連続スキャン
・入射スリット:0.5mmh×0.55mmw
・受光スリット:15mm-20mm
・測定範囲(2θ):5°~60°
・測定ステップ(2θ):0.02°
・スキャン速度:1.5°/min
・測定方向:赤道線
【0132】
E.人工皮革の摩耗減量(耐摩耗性):
マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製「Model 406」を、標準摩擦布として同社の「ABRASTIVE CLOTH SM25」を用いた。そして、人工皮革に12.0kPaの荷重をかけ、摩耗回数は50000回とした。摩耗前後の人工皮革の質量を用いて、下記の式により、摩耗減量を算出した
摩耗減量(mg)=摩耗前の質量(mg)-摩耗後の質量(mg)
なお、摩耗減量(mg)は小数点以下第1位の値を四捨五入した値を摩耗減量とし、人工皮革の摩耗減量が30mg以下であった人工皮革を合格とした。
【0133】
F.人工皮革のタッチ感:
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を触覚で判別を行い、最も多かった評価を人工皮革のタッチ感とした。なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革のタッチ感とすることとした。本実施形態において良好なレベルは、「AまたはB」とした。
・A:非常に滑らかな触感である。
・B:滑らかな触感である。
・C:粗い触感である。
・D:非常に粗い触感である。
【0134】
G.人工皮革の表面品位:
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を視覚で判別を行い、最も多かった評価を人工皮革の表面品位とした。なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の表面品位とすることとした。本実施形態において良好なレベルは、「AまたはB」とした。
・A:緻密感があり、非常に良好な表面品位である
・B:緻密感があり、良好な表面品位である
・C:緻密感に乏しく、不良な表面品位である
・D:緻密感に乏しく、非常に不良な表面品位である。
【0135】
[共重合ポリエステル]
実施例、比較例で用いた共重合ポリエステルは、以下のとおりである。
共重合PET-A: 5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%、数平均分子量が1000のポリエチレングリコールを9質量%共重合した共重合ポリエステル。
共重合PET-B: 5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%、数平均分子量が3000のポリエチレングリコールを9質量%共重合した共重合ポリエステル。
共重合PET-C: 5-スルホイソフタル酸ナトリウムを6モル%、数平均分子量が2000のポリエチレングリコールを9質量%共重合した共重合ポリエステル。
共重合PET-D: 5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合した共重合ポリエステル(ポリエチレングリコールは共重合されていないものである)。
共重合PET-E: 5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%、数平均分子量が10000のポリエチレングリコールを9質量%共重合した共重合ポリエステル。
【0136】
[実施例1]
(延伸複合繊維を得る工程)
難溶解性ポリマー(島成分)として固有粘度が0.73のポリエチレンテレフタレート(表1、2では「PET」と略記した)を用い、易溶解性ポリマー(海成分)として共重合ポリエステル「共重合PET-A」を用いて、島数が16島/ホールの海島型複合用口金を用い、紡糸温度が285℃、難溶解性ポリマー/易溶解性ポリマーの質量比率が80/20、吐出量が1.6g/分・ホール、紡糸速度が1100m/分の条件で溶融紡糸した。次いで、65℃とした油剤液浴中で3.8倍に延伸して延伸複合繊維を得た。
【0137】
(捲縮複合繊維を得る工程)
前記の延伸複合繊維を、該延伸複合繊維の表面温度が45℃となる条件で加熱した。そして、加熱処理後の延伸複合繊維を、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理して、捲縮複合繊維を得た。
【0138】
(複合繊維絡合体を形成する工程)
前記の捲縮複合繊維を51mmの長さにカットし、単繊維繊度が4.4dtexの海島型複合繊維(捲縮複合繊維)の原綿を得た。次に、前記の原綿を用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て繊維ウェブを形成し、さらに、その繊維ウェブを3500本/cmのパンチング本数でニードルパンチ処理をして絡合させることで、目付が650g/mで、厚みが2.5mm、見かけ密度が0.26g/cmの複合繊維絡合体を得た。
上記のようにして得られた複合繊維絡合体を98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮処理させた。
【0139】
(高分子弾性体を付与する工程)
高分子ポリオールとしてポリテトラメチレングリコール、有機ジイソシアネートとしてMDI、親水性基を有する活性水素成分含有化合物として2,2-ジメチロールプロピオン酸、鎖伸長剤としてエチレングリコールからなるポリウレタン前駆体が11質量部、カルボジイミド系架橋剤が1質量部、硫酸ナトリウムが5質量部、水が83質量部からなるように水分散液を調整した。そして、この水分散液を前記の収縮処理させた複合繊維絡合体に含浸させ、マングルで絞り、120℃の熱風で20分間乾燥することでポリウレタン前駆体を凝固させることで、ポリウレタンを固化させ、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合からなる架橋構造を形成したポリウレタン付きシートを得た。
【0140】
(極細繊維を発現させて繊維絡合体を形成する工程)
前記のポリウレタン付きシートを、濃度5%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後に95℃のスチームで10分間熱処理することで海島型複合繊維の海成分をアルカリ分解した。次いで、余剰の水酸化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムを水洗し、160℃の乾燥機で10分間乾燥させることで、ポリウレタンが付与された極細繊維からなる繊維絡合体を得た。
【0141】
(その他の仕上げ工程)
前記のポリウレタンが付与された極細繊維からなる繊維絡合体を、厚さ方向に垂直に半裁したのち、サンドペーパー番手120番のエンドレスサンドペーパーで、半裁されて形成された表面とは逆の表面(非半裁面)を研削して起毛処理を行い、厚みが0.70mmの立毛シートを得た。
【0142】
上記のようにして得られた立毛シートを、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で染色を行った後に乾燥機にて乾燥を行うことで、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感および優れた耐摩耗性を有していた。
【0143】
[実施例2]
前記の(捲縮複合繊維を得る工程)において、延伸複合繊維の表面温度が45℃となる条件で加熱していたところを、70℃となる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感および優れた耐摩耗性を有していた。
【0144】
[実施例3]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、海成分として「共重合PET-A」を用いたところを、「共重合PET-B」に変えた以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感および優れた耐摩耗性を有していた。
【0145】
[実施例4]
前記の(捲縮複合繊維を得る工程)において、延伸複合繊維の表面温度が45℃となる条件で加熱していたところを、70℃となる条件に変更した以外は、実施例3と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感および優れた耐摩耗性を有していた。
【0146】
[実施例5]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、海成分として「共重合PET-A」を用いたところを、「共重合PET-C」に変えた以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感および優れた耐摩耗性を有していた。
【0147】
[実施例6]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、延伸温度が65℃となる条件で延伸していたところを、75℃となる条件に変更し、また、前記の(捲縮複合繊維を得る工程)において、延伸複合繊維の表面温度が45℃となる条件で加熱していたところを、70℃となる条件に変更した以外は、実施例5と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感および優れた耐摩耗性を有していた。
【0148】
[実施例7]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、延伸倍率が3.8倍となる条件で延伸していたところを、2.1倍となる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は実施例1の人工皮革と比べてわずかに耐摩耗性に劣るものの、緻密で優美な表面品位を有し、良好なタッチ感を有していた。
【0149】
[実施例8]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、紡糸速度が1100m/分となる条件で紡糸していたところを、3000m/分となる条件に変更し、また、延伸温度が65℃となる条件で延伸していたところを、80℃となる条件に変更し、さらに、前記の(捲縮複合繊維を得る工程)において、延伸複合繊維の表面温度が45℃となる条件で加熱していたところを、80℃となる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は実施例1の人工皮革と比べてわずかに表面品位やタッチ感に劣るものの、優れた耐摩耗性を有していた。
【0150】
[実施例9]
前記の(その他の仕上げ工程)において、サンドペーパー番手として120番を用いたところを、180番に変えた以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は実施例1の人工皮革と比べてわずかにタッチ感に劣るものの、緻密で優美な表面品位を有し、優れた耐摩耗性を有していた。
【0151】
【表1】
【0152】
[比較例1]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、海成分として「共重合PET-A」を用いたところを、「共重合PET-D」に変えた以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位と良好なタッチ感は有していたものの、実施例1の人工皮革と比べて耐摩耗性に劣るものであった。
【0153】
[比較例2]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、海成分として「共重合PET-A」を用いたところを、「共重合PET-E」に変えた以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は緻密で優美な表面品位と優れた耐摩耗性は有していたものの、実施例1の人工皮革と比べてタッチ感に劣るものであった。
【0154】
[比較例3]
前記の(延伸複合繊維を得る工程)において、延伸温度が65℃となる条件で延伸していたところを、90℃となる条件に変更し、また、前記の(捲縮複合繊維を得る工程)において、延伸複合繊維の表面温度が45℃となる条件で加熱していたところを、90℃となる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得ようとした。しかしながら、(延伸複合繊維を得る工程)を経た延伸複合繊維を(捲縮複合繊維を得る工程)にかけようとした際、海成分の溶出により、押し込み型捲縮機による捲縮加工処理ができず、その後の工程を進めることができなかった。結果を表2に示す。
【0155】
[比較例4]
前記の(捲縮複合繊維を得る工程)において、延伸複合繊維の表面温度が45℃となる条件で加熱していたところを、加熱しないこととし、さらに、加熱処理しないままの延伸複合繊維をそのまま押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得ようとした。しかしながら、この延伸複合繊維に捲縮が見られず、カットして得られた原綿はカード工程でローラーに巻き付きが発生したため、(複合繊維絡合体を形成する工程)以降の工程を続けることができなかった。結果を表2に示す。
【0156】
【表2】
【0157】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2023年2月7日付けで出願された日本特許出願(特願2023-016558)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【符号の説明】
【0158】
1:立毛部
2:基体部
:底面Lに対して平行な線
:底面
:立毛部1と基体部2の境界線
(nは1~10の整数):底面Lに対する垂線
(nは1~10の整数):垂線Aと境界線Lが交わる点
(nは1~10の整数):垂線Aと立毛部1の先端とが交わる点
(nは1~10の整数):点Pと点Qの距離
図1