(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】多糖類を含有する固形経口組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20250319BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20250319BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20250319BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20250319BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20250319BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20250319BHJP
【FI】
A23L5/00 F
A23L29/231
A23L29/238
A23L29/256
A23L29/262
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2020165008
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019178768
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年4月9日から2019年4月10日に東京国際フォーラムで開催された健食原料・OEM展2019で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】391007356
【氏名又は名称】備前化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈恵
(72)【発明者】
【氏名】若松 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】久川 和歌那
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】瓜生 圭介
(72)【発明者】
【氏名】丸 勇史
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-052819(JP,A)
【文献】特開2010-116388(JP,A)
【文献】特表2017-532050(JP,A)
【文献】特表2007-507491(JP,A)
【文献】特開2003-082003(JP,A)
【文献】特開平04-368321(JP,A)
【文献】特開昭61-141862(JP,A)
【文献】米国特許第04999200(US,A)
【文献】特表2007-524646(JP,A)
【文献】特開2011-168583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00- 5/30
A23L 29/00- 29/10
A23L 21/00- 21/25
A23L 29/20- 29/206
A23L 29/231-29/30
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び平均粒子径が1μm~70μmのサイリウ
ムを含有する芯部を有し、該芯部が腸溶性コーティング剤で被覆された固形経口組成物。
【請求項2】
多糖類を芯部総質量に対して1~90質量%含有する請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
サイリウムを芯部総質量に対して0.4~30質量%含有する請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
腸溶性コーティング剤が、シェラック、ツェイン及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1~
3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
腸内徐放用製剤である請求項1~
4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
空腸、回腸、及び大腸からなる群から選択される少なくとも1つの部位への送達用である請求項1~
5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
食品用である請求項1~
6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
芯部がさらにビタミンを含有し、ビタミン吸収向上用である、請求項1~
7のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類を含有する固形経口組成物、及びサイリウムの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養改善又は栄養補助を目的とした機能性食品が固形サプリメント等として市販されている。一方、機能性成分、薬効成分等の有効成分を含む心剤を腸溶性コーティング剤で被覆することによって腸に有効成分を送達する、腸溶性製剤が知られている。この製剤では、腸溶性コーティングが胃内で溶解せず、腸内で溶解する性質を利用し、芯剤が胃液の影響を受けて崩壊することが抑制され、芯剤が腸内で崩壊して有効成分が放出される。
【0003】
さらに、腸溶性コーティングによって腸に送達された芯剤を徐放化する試みもなされている。特許文献1では、有効成分を含有する部分と該部分をコーティングする腸溶性の被膜とからなる腸溶性層を少なくとも3層重ねあわせ、更にその外側に胃溶性の層を設けた構造を有する、経口摂取しても胃では有効成分が放出されずに、小腸に送達された後に小腸内で徐々に有効成分を放出することが可能な、腸溶性製剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の腸溶性製剤は腸溶性層を少なくとも3層形成するために製造工程が煩雑であった。より簡便に製造でき、腸内徐放性を有する、腸溶性固形経口組成物の提供を目的とする。サイリウムの新規な用途の提供を目的とする。ビタミン吸収向上剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、芯部が腸溶性コーティング剤で被覆されてなる固形経口組成物において、セルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類を芯部に配合することによって、腸内徐放性と腸溶性を備えた固形経口組成物又はビタミンの体内利用率が高いビタミン吸収向上剤が得られることを見出した。また、本発明者らはサイリウムが多糖類(好適にはさらに賦形剤)を含有する芯部の硬度を高めることを見出した。
【0007】
本発明は、例えば下記の主題を包含する。
項1.
セルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類を含有する芯部を有し、該芯部が腸溶性コーティング剤で被覆された固形経口組成物。
項2.
多糖類が、セルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、及びカラギーナンからなる群から選択される少なくとも1種である項1に記載の組成物。
項3.
多糖類が、サイリウムである、項1又は2に記載の組成物。
項4.
芯部がセルロース誘導体、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類ならびにサイリウムを含有する、項1に記載の組成物。
項5.
芯部がセルロース誘導体、キサンタンガム、ヒアルロン酸、及びカラギーナンからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類ならびにサイリウムを含有する、項4に記載の組成物。
項6.
芯部がHPMC及びサイリウムを含有する、項4に記載の組成物。
項7.
多糖類を芯部総質量に対して1~90質量%含有する項1~6のいずれかに記載の組成物。
項8.
サイリウムを芯部総質量に対して0.4~30質量%含有する項1~6のいずれかに記載の組成物。
項9.
多糖類の平均粒子径が1μm~400μmである項1~8のいずれかに記載の組成物。
項10.
腸溶性コーティング剤が、シェラック、ツェイン及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含有する項1~9のいずれかに記載の組成物。
項11.
腸内徐放用製剤である項1~10のいずれかに記載の組成物。
項12.
空腸、回腸、及び大腸からなる群から選択される少なくとも1つの部位への送達用である項1~11のいずれかに記載の組成物。
項13.
食品用である項1~12のいずれかに記載の組成物。
項14.
芯部がさらにビタミンを含有し、ビタミン吸収向上用である、項1~13のいずれかに記載の組成物。
項15.
芯部が腸溶性コーティング剤で被覆されてなる腸溶性固形経口組成物において、
前記芯部にサイリウムを配合することにより、前記組成物に対して腸内での徐放機能を付与することを特徴とする、
サイリウムの使用方法。
項16.
サイリウム配合量が芯部総質量に対して0.4~70質量%である項15に記載の方法。
項17.
サイリウムの平均粒子径が1μm~400μmである項15又は16に記載の方法。
項18.
腸溶性コーティング剤が、シェラック、ツェイン及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である項15~17のいずれかに記載の方法。
項19.
セルロース誘導体、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類にサイリウムを配合することによって、前記少なくとも1種の多糖類及びサイリウムを含有する固形組成物の硬度を向上する方法。
【0008】
本発明は下記の主題を含んでもよい。
項A.
芯部が腸溶性コーティング剤で被覆されてなる腸溶性固形経口組成物において、
前記芯部にセルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類を配合することにより、前記組成物に対して腸内での徐放機能を付与することを特徴とする、
前記多糖類の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、腸内徐放性を有する、腸溶性固形経口組成物を提供できる。また、本発明によれば、腸内徐放性成分としてのサイリウムの使用方法を提供できる。本発明によれば、腸内において有効成分を徐放できるため、有効成分が短時間で大量に吸収されることを抑制できる。本発明によればセルロース誘導体、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類及びサイリウムを含有する固形組成物の硬度を高めることができる。本発明によればビタミンの体内利用率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、溶出割合(%)を縦軸とし、第2液に入れてからの経過時間を横軸とし、ここに各所定時間経過時の溶出割合をプロットしたグラフであり、50%溶出時間の導出に利用される。
【
図2】
図2は、多糖類を含有した素錠4-3(■)及び多糖類を含有しない素錠4-4(●)の溶出割合を示すグラフである(試験例4(4-5))。
【
図3】
図3は、コーティング錠4-3の溶出割合を示すグラフである(試験例4(4-6))。
【
図4】
図4は、素錠4-2を服用した被験者A及びBのX線画像を示す(試験例5)。左から順に、服用30分後、90分後、180分後の画像である。画像中、白く映っているのは服用した固形経口組成物である。
【
図5】
図5は、コーティング錠4-1を服用した被験者C及びDのX線画像を示す(試験例5)。左から順に、Cについては、服用30分後、90分後、180分後、240分後の画像であり、Dについては、180分後、、240分後、300分後、360分後の画像である。画像中、白く映っているのは服用した固形経口組成物である。
【
図6】
図6は、コーティング錠(6-1)~(6-4)に含有されたビタミンCの体内でのC利用率を示すグラフである(試験例6)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、経口用の固形組成物であって、腸溶性コーティング剤で被覆された芯部を有し、セルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類が該芯部に含有された組成物である。別の本発明は、芯部が腸溶性コーティング剤で被覆されてなり、腸溶性を備え、経口用の固形組成物において、前記芯部にサイリウムを配合することにより、前記組成物に対して腸内での徐放機能を付与することを特徴とする、サイリウムの使用方法である。
【0012】
固形経口組成物は、腸溶性コーティング剤で被覆された芯部を有する。該芯部は、腸内で崩壊するものであれば特に制限されず、例えば、素錠である。芯部は、セルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類を含有する。前記多糖類を含有することによって、芯部が腸内で即座に崩壊することなく、徐々に崩壊させることができる。したがって、これらの多糖類は、芯部に徐放機能を付与する、腸内徐放性成分として作用する。
【0013】
徐放性成分として作用する多糖類としては、セルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種とすることもでき、セルロース誘導体、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、及びカラギーナンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、天然由来物の点から、サイリウム、キサンタンガム、ヒアルロン酸、及びカラギーナンからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、サイリウム、キサンタンガム、及びヒアルロン酸からなる群から選択される少なくとも1種がより一層好ましく、サイリウム及びキサンタンガムからなる群から選択される少なくとも1種がさらに好ましく、サイリウムが特に好ましい。また、これとは別に、多糖類を、サイリウム、キサンタンガム、及びカラギーナンからなる群から選択される少なくとも1種とすることもできる。
【0014】
セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられ、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)であり、より好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。セルロース誘導体はセルロースを包含しない。
【0015】
サイリウムは、オオバコ科の植物プランタゴオバタ(Plantago ovata)の種子から得られる種皮(ハスク)の粉砕物が好ましい。そのような粉砕物は精製されていてもよい。そような粉砕物としては、サイリウム種皮末、サイリウムシードガム、イサゴールが挙げられ、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。より好ましいサイリウムは、サイリウムシードガムである。
【0016】
多糖類の平均粒子径(D50)は、例えば1μm~400μm、好ましくは1μm~200μm、より好ましくは1μm~100μmである。平均粒子径がこの範囲にあると、芯部が製造上必要な硬度を有し、また、より長い腸内徐放性を有する点で有利である。平均粒子径(D50)は、レーザー回析・散乱法で特定される。
【0017】
芯部における前記多糖類の含有量は、送達部位、有効成分の種類等に応じて適宜決定すればよい。例えば、芯部総質量に対して、1~90質量%とでき、5~60質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましい。前記多糖類の芯部含有量がこの範囲にあると、芯部が製造上必要な硬度を有し、また、より長い腸内徐放性を有する点で有利である。サイリウムの場合は、例えば、芯部総質量に対して、1~90質量%、1~70質量%、1~60質量%、5~60質量%10~60質量%等とでき、3~40質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましい。
【0018】
芯部は、前記多糖類に、有効成分、賦形剤、結合剤、崩壊剤、保湿剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤などを適宜の量で加え、常法により、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤等の固形の形態とできる。例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、アルギン酸ナトリウム、乾燥デンプン、寒天末、ラミナラン末、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等の崩壊剤、グリセリン等の保湿剤、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等が挙げられる。
【0019】
芯部における賦形剤の含有量は、剤形、組成物のサイズ等に応じて適宜決定すればよい。例えば、芯部総質量に対して、30~95質量%等とできる。芯部におけるその他の成分の含有量は剤形、徐放性、組成物のサイズ等に応じて適宜決定すればよい。例えば、0.1~20質量%、0.3~10質量%等とできる。
【0020】
有効成分は、腸内に供給されることが求められるものであれば特に制限さない。有効成分は、医薬品に使用される薬効成分、機能性食品・健康食品等に使用される機能性成分等であってよい。小腸(空腸及び回腸)に供給されることが求められる有効成分としては、グルコース、にんにく、ローヤルゼリー、ビタミン(好適には水溶性ビタミン、より好適にはビタミンC)、ラクトフェリン、酵素、GABA(γ-アミノ酪酸)、グリシン、テアニン等の栄養成分や機能成分が挙げられる。回腸に供給されることが求められる有効成分としては、乳酸菌(死菌、生菌)、短鎖脂肪酸、ビフィズス菌、コラーゲン、β-グルカン、花粉等の腸管免疫成分が挙げられる。大腸に供給されることが求められる有効成分としては、単糖、アミノ酸、ミネラル、イソフラボン、乳酸菌(生菌)、ビフィズス菌等の腸内細菌活性化成分が挙げられる。
【0021】
芯部における有効成分の含有量は、投与回数、投与間隔、投与期間、投与対象等に応じて適宜選択すればよい。例えば、芯部総質量に対して、1~95質量%、5~80質量等とでき、10~70質量%が好ましく、10~65質量%がより好ましい。
【0022】
芯部は、当業者に公知の製剤化技術を用いて適切に製造することができる。例えば、湿式造粒法又は乾式造粒法により顆粒剤を製造できる。また、例えば、湿式造粒法又は乾式造粒法により製造した顆粒を圧縮して錠剤等を製造できる。
【0023】
芯部は、前記の各種成分を均等に混合して成形されてもよい。これとは別に、芯部は、有効成分の放出を遅延させるために、有効成分及び必要に応じて任意の成分で核部を形成し、前記多糖類及び必要に応じて任意の成分で該核部を被覆して形成されてもよい。このように、芯部は、芯部を構成する成分を任意の順番で均質に又は非均質に混合し、次いで成形されてもよい。但し、前記多糖類の全てを核部に配合し、有効成分で該核部を被覆して芯部とする態様は前記多糖類による有効成分の放出遅延効果が得られにくいため、好ましくない。
【0024】
芯部の形態は、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤が好ましく、錠剤、丸剤、顆粒剤がより好ましく、崩壊の制御の点から錠剤、丸剤が特に好ましい。
【0025】
芯部は、多糖類を含有すると、多糖類を含有しない芯部(通常、賦形剤をより多く含有する)と比較して、芯部を打錠して得られる成形物(錠剤)の硬度が低い。ここで、他の多糖類を含有する芯部にサイリウムを配合すると、サイリウムを配合しない場合と比較して硬度が向上する。芯部硬度向上の点からは、芯部は少なくともサイリウムを含有することが好ましい。サイリウムの配合量は芯部に含有される多糖類合計質量に対し、1~100質量%、3~100質量%、5~100質量%等とでき、10~100質量%が好ましく、25~100質量%がより好ましく、50~100質量%が特に好ましい。
【0026】
サイリウムの比表面積は、0.01m3/g~100m3/g、0.05m3/g~100m3/g等とでき、0.1m3/g~100m3/gであることが、硬度向上の点から好ましい。より好ましくは0.5m3/g~100m3/gであり、特に好ましくは1.0m3/g~100m3/gである。
【0027】
サイリウムの平均粒子径(D50)は、1μm~400μm、1μm~200μm等とでき、1μm~150μmであることが、硬度向上の点から好ましい。より好ましくは1μm~70μmであり、特に好ましくは1μm~50μmである。平均粒子径(D50)は、レーザー回析・散乱法で特定される。
【0028】
芯部は、腸溶性コーティング剤で被覆されることによって腸溶性を備える。腸溶性コーティング剤としては、胃内で溶解、分解等せずに芯部の崩壊を抑制できるものであれば特に制限されないが、天然由来物が好ましい。腸溶性コーティング剤としては、シェラック、ツェイン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられ、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。腸溶性コーティング剤としては、シェラック及びツェインからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、シェラック又はツェインがより好ましい。
【0029】
芯部を腸溶性コーティング剤で被覆する際には、薬学的又は食品的に許容される可塑剤を腸溶性コーティング剤に加えてもよい。被覆は、当業者に公知の技術を用いて適切に行うことができる。一例としては、適当な装置、例えばコーティングパン、コーティング造粒機中で、または、流動床装置中で、腸溶性コーティング剤、可塑剤等を含む懸濁液を芯部(例えば素錠)に均一に噴霧、乾燥することによって行うことができる。被覆により形成された被覆層は単層であることが好ましいが、二層又は三層としてもよい。また、被覆層の厚さは、胃内で芯部を保護できる限り特に制限されないが、例えば、1μm~3μmとできる。
【0030】
固形経口組成物における腸溶性コーティング剤の含有量は、固形経口組成物総質量に対し、例えば3~15質量%、好ましくは5~10質量%、より好ましくは7~8質量%である。
固形経口組成物は、腸溶性コーティング剤による被覆層を1層有することが好ましい。
【0031】
固形経口組成物は、前記多糖類を芯部に含有することによって腸内徐放性を有する。徐放性は、実施例に記載の色素(赤色40号)溶出試験の結果に基づいて判定される。第2液投入から色素の50%が溶出するまでの時間を50%溶出時間とする。多糖類を芯部に配合した固形経口組成物の50%溶出時間が、多糖類を配合していないコントロールの50%溶出時間の108%以上であれば、その多糖類は腸内徐放性を付与できると判定する。徐放性は、50%溶出時間が、例えばコントロールの110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%以上、250%以上、300%以上、350%以上等とでき、130%以上が好ましく、170%以上がより好ましく、200%以上がより一層好ましく、250%以上が特に好ましい。
【0032】
芯部に有効成分を含有させることにより、場合によっては、有効成分を、空腸、回腸及び大腸からなる群から選択される少なくとも1つの腸部位に送達できる。好ましい送達部位は、空腸、回腸及び大腸からなる群から選択される少なくとも1つの腸部位から、(1)空腸のみ及び(2)空腸と大腸を除いた腸部位であり、より好ましい送達部位は、回腸、大腸、空腸と回腸、空腸と回腸と大腸、又は回腸と大腸である。
【0033】
送達部位は、実施例に記載の色素(赤色40号)溶出試験の結果に基づいて判定できる。第2液投入から2時間の期間(空腸滞在時間と想定される期間)の色素溶出割合(第1溶出量)が25%以上であれば空腸に送達できるとみなすことができ、第2液投入後2時間~5時間の期間(回腸滞在期間と想定される期間)の色素溶出割合(第2溶出量)が25%以上であれば回腸に送達できるとみなすことができ、第2液投入後5時間~24時間の期間(大腸滞在期間と想定される期間)の色素溶出割合(第3溶出量)が25%以上であれば大腸に送達できるとみなすことができる。
【0034】
なお、第2溶出量は第1溶出量を含まず、第3溶出量は第1溶出量及び第2溶出量を含まない。
【0035】
例えば、第2液投入後2時間時点の色素溶出割合(第1溶出量)が30%、第2液投入後5時間時点の色素溶出割合(第1溶出量+第2溶出量)が60%、第2液投入後24時間時点の色素溶出割合(第1溶出量+第2溶出量+第3溶出量)が100%であれば、第1溶出量、第2溶出量、第3溶出量は、各々、30%、30%、40%であるから、空腸、回腸及び大腸に送達できるとみなせ、空腸、回腸及び大腸送達用固形経口組成物と判定できる。
【0036】
また、例えば、第2液投入後2時間時点の色素溶出割合(第1溶出量)が10%、第2液投入後5時間時点の色素溶出割合(第1溶出量+第2溶出量)が60%、第2液投入後24時間時点の色素溶出割合(第1溶出量+第2溶出量+第3溶出量)が100%であれば、第1溶出量、第2溶出量、第3溶出量は、各々、10%、50%、40%であるから、回腸及び大腸に送達できるとみなすことができ、回腸及び大腸送達用固形経口組成物と判定できる。
【0037】
徐放の程度又は送達部位の調整は、前記多糖類の種類、前記多糖類の配合割合、前記多糖類の粒子径等によって調整することができる。前記多糖類のうち徐放性(放出遅延作用)の強いものを使用する、前記多糖類の配合割合を高める、前記多糖類の粒子径を小さくする等によって、徐放性が高められ崩壊遅延作用を得られる。
【0038】
本発明の固形経口組成物は食品組成物、医薬組成物として使用し得、好ましくは食品組成物として使用し得る。食品組成物としては、サプリメントが好ましい。
【0039】
本発明のサイリウムの使用方法では、芯部が腸溶性コーティング剤で被覆されてなる腸溶性固形経口組成物において、前記芯部にサイリウムを配合することにより、前記組成物に対して腸内での徐放機能を付与する。サイリウムは、芯部に配合されることによって、意外なことに、腸溶性固形経口組成物の腸内での崩壊を遅延させること、つまり該組成物に徐放機能を付与することができる。本発明のサイリウムの使用方法におけるその他の事項は、本発明の固形経口組成物の説明に記載された事項と同様である。
【0040】
本発明の固形組成物の硬度を向上する方法では、セルロース誘導体、キサンタンガム、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、タラガム、及びプルランからなる群から選択される少なくとも1種の多糖類にサイリウムを配合する。これによって、前記少なくとも1種の多糖類及びサイリウムを含有する固形組成物(例えば、錠剤、前記固形経口組成物の芯部等)の硬度が向上する。
【0041】
本発明の固形経口組成物は、その芯部にビタミンを配合することによってビタミン吸収向上剤とすることができる。この剤を服用すると、組成物中のビタミンが胃でほとんど放出されない。さらに、組成物が小腸(空腸)に到達してすぐに崩壊しないため、空腸でビタミンが一斉に放出されない。組成物が小腸で徐々に崩壊してビタミンを徐々に放出するため、ビタミンが長時間をかけて徐々に吸収され、その結果、体内でのビタミンの利用率が向上する。このことは、ビタミンを他の有効成分に代えても同様である。
【実施例】
【0042】
以下、試験例等によって本発明の一実施態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の例で使用された材料、装置等は次のとおりである。
色素:食用色素40号;三栄源エフエフアイ社製
マルトース:サンマルトS;林原社
ステアリン酸カルシウム:ステアリン酸カルシウム;青島大宮食品有限公司社
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC):NE4000;信越化学工業社;平均粒子径68μm
キサンタンガム:ビストップD-3000;三栄源エフエフアイ社;平均粒子径94μm
サイリウム:フードメイドP-100;シキボウ社;平均粒子径100μm
サイリウム微粉:フードメイドP-100を小粒子化したもの;シキボウ社;平均粒子径14μm
ヒアルロン酸:ヒアルロン酸Rv;日本新薬社;平均粒子径77μm
カラギーナン:SATIAGUM MM30;ユニテックフーズ社;平均粒子径49μm
ペクチン:UNIPECTINE AYD509ME;ユニテックフーズ社;平均粒子径105μm
タラガム:VIDOGUMSP175;ユニテックフーズ社;平均粒子径124μm
プルラン:食品添加物プルラン;林原社;平均粒子径338μm
セルロース:ソヤファイブS-DA100;不二製油社;平均粒子径30μm
アラビアガム:アラビアゴム;日本粉末薬品社;平均粒子径81μm
グアガム:グアパックPF-20(DSP五協フード&ケミカル社;平均粒子径61μm)
篩:標準ふるい;飯田製作所社;目開き710μm
杵臼:ツー・ナイン・ジャパン社;直径9.0mm
打錠機:CLE/ANPRESS Correct 19K;菊水製作所社
水性シェラック液:AQshelax;フロイント産業社
ショ糖脂肪酸エステル:リョートーシュガーエステルS-570;三菱ケミカルフーズ社 D-ソルビトール:ソルビットT-70;三菱商事フードテック社
コーティング機:DRIACOATER;パウレック社
硬度計:HARDNESS TESTER;FUJIWARA
溶出試験機:NTR-3000;富山産業社
吸光光度計:U-2900;HITACHI
溶出試験第1液:塩化ナトリウム2.0gを塩酸7.0mL及び水に溶かして1000mLとした液(pH1.2)
溶出試験第2液:pH 6.8のリン酸塩緩衝液1容量に水1容量を加えた液
【0043】
製造例1:多糖類含有腸溶性組成物の製造
表1に示した多糖類を含有する約400mg(396mg~406mg)の錠剤(素錠)を作製し、シェラックで腸溶性コーティングを施し、腸溶性の固形経口組成物を製造した。詳細には次のとおりである。
【0044】
150gの多糖類の粉末、及び52.5gの色素、1252.5gのマルトースをポリ袋に入れ、次いでポリ袋を空気で膨らまし、その口を手で縛り、手でポリ袋を主に上下方向に1分間振って混合した。混合物を篩で篩過し、篩通過粉末(第1混合粉末)を得た。第1混合粉末を90g取り、この粉末と45gのステアリン酸カルシウムとをポリ袋に入れ、ポリ袋を空気で膨らまし、その口を手で縛り、手でポリ袋を主に上下方向に3秒間振って混合後、篩で篩過し、篩通過粉末を得た。この粉末をポリ袋に入れ、ポリ袋を空気で膨らまし、その口を手で縛り、手でポリ袋を主に上下方向に3秒間振って混合し、第2混合粉末を得た。第2混合粉末と残りの第1混合粉末とをポリ袋に入れ、ポリ袋を空気で膨らまし、その口を手で縛り、手でポリ袋を主に上下方向に10秒間振って混合し、素錠の原料となる原料粉末を1500g得た。多糖類配合割合は10質量%である。
【0045】
表1に記載された、多糖類配合割合が5質量%の素錠の原料粉末を製造する場合は、多糖類の粉末の使用量を150gから75gに変更し、マルトース使用量を1252.5gから1327.5gに変更し、同様にして原料粉末を得た。
杵臼をセットした打錠機を使用し、本圧設定値:1.9~2.1、予圧設定値:3.5~5.0の環境下で原料粉末を打錠し、素錠(約400mg)を製造した。硬度計で素錠3錠の硬度を測定し、平均値を表1に示した。また、1錠当たりの重量を表1に示した。
【0046】
2000gの水性シェラック液と40gのショ糖脂肪酸エステルとの混合液60℃に加温してエステルを溶解後、40gのD-ソルビトールを添加して溶解し、被覆液を作製した。1kg分の素錠をコーティング機に供給し、給気温度80℃に設定し、素錠を回転させた。回転する素錠表面に被覆液を噴霧して被覆した。被覆量は固形経口組成物総質量に対し7.4質量%である。
【0047】
製造例2:多糖類を含有しない腸溶性組成物(コントロール)の製造
多糖類を配合しないことを除いては製造例と同様にして腸溶性組成物(コントロール)を得た。
【0048】
試験例1:50%溶出時間の測定
製造例1及び2で製造した腸溶性コーティング錠(テスト錠)を溶出試験機を使用した溶出試験に供し、色素の溶出を吸光光度計で測定することにより、徐放性を試験した。
製造例1及び2で製造したテスト錠の各6錠を溶出試験機に供し、第17改正日本薬局方収載の溶出試験法(パドル法)に準じた溶出試験を行った。溶出試験第1液を収容した容器にテスト錠を1錠入れ、液をパドルで撹拌した。1時間経過後、テスト錠を液から取り出し、溶出試験第2液を収容した容器に入れ、液をパドルで撹拌した。テスト錠を溶出試験第2液に入れてから所定時間(30分、60分、120分、300分、540分、1440分)経過時に液を5mLずつ採取し、吸光光度計で吸光度(510nm)を測定した。他の5錠についても同様に行った。
【0049】
また、所定時間経過時に、テスト錠の様子を目視で観察し、完全に崩壊した場合は、その時点に色素が全量溶出したとみなし、その時点の吸光度を溶出割合100%とし、それ以前の所定時間経過時の吸光度から各所定時間経過時の溶出割合を算出した。
なお、目視観察において、テスト錠の残留物が容器内に全く認められないとき、又は残留物が認められても明らかに原形をとどめない軟質の物質であるときを、完全に崩壊したと判定した。
【0050】
溶出割合(%)を縦軸とし、第2液に入れてからの経過時間を横軸とし、ここに各所定時間経過時の溶出割合をプロットしてグラフを作成し、このグラフから溶出割合が50%となるときの経過時間(50%溶出時間)を導出した。一例として、コントロール(●)、キサンタンガム10質量%テスト錠(■)、HPMC10%テスト錠(◆)のグラフを
図1に示す。このグラフから、50%溶出時間は、コントロールが60分、キサンタンガム10質量%テスト錠が350分、HPMC10%テスト錠が420分であることが読み取れた。キサンタンガム10質量%テスト錠及びHPMC10%テスト錠の50%溶出時間は各々、コントロールの583%(350/60)及び700%(420/60)であり、十分な徐放性を有することが確認され、キサンタンガム及びHPMCが徐放性を付与する成分であることがわかる。
同様にして、他のテスト錠の50%溶出時間を求め、表1に示した。
【0051】
【0052】
HPMC、キサンタンガム、カラギーナン、ヒアルロン酸、サイリウム(サイリウム微粉を含む)、ペクチン、プルラン及びタラガムはコントロールと比較して50%溶出時間が長く、徐放性を有することがわかる。徐放性が強ければ少ない配合量で目的の徐放時間を達成することが可能となる。また、これら多糖類(徐放性成分)の配合量を多くすることで強い徐放性が得られる。HPMC、キサンタンガム、カラギーナン、ヒアルロン酸、サイリウム(サイリウム微粉を含む)、ペクチン、プルラン又はタラガムを含むテスト錠は硬度が3kgf/cm2以上であったことから実用に十分な硬度を有していることが確認された。
【0053】
図1に示したグラフは、色素溶出量(第1溶出量、第2溶出量、第3溶出量)に基づく腸送達部位の判定にも使用した。キサンタンガム10質量%テスト錠の2時間経過時、5時間経過時、24時間経過時の色素溶出割合は各々、14.7%、42.6%、100%であるから、第1溶出量、第2溶出量、第3溶出量は各々、14.7%、27.9%、57.4%となる。その結果、このテスト錠は、空腸への送達は少なく、回腸送達及び大腸送達用途に使用でき、大腸送達用途により適していることがわかる。
【0054】
セルロース、ペクチン、アラビアガム又はグアガムを含有するテスト錠は空腸送達は可能と判定されたが、回腸送達には適さなかった。
HPMC、キサンタンガム、カラギーナン、ヒアルロン酸、サイリウム(サイリウム微粉を含む)、ペクチン、プルラン、タラガム、セルロース、アラビアガム又はグアガムを含有するテスト錠は、空腸送達用途に適していた。
HPMC、キサンタンガム、カラギーナン、ヒアルロン酸、サイリウム(サイリウム微粉を含む)、プルラン又はタラガムを含有するテスト錠は、回腸送達用途に適していた。
HPMC又はキサンタンガムを含有するテスト錠は大腸送達用途に適していた。
【0055】
試験例2:サイリウム配合による錠剤硬度の向上
HPMC及びサイリウムを表2に示した配合量とし、3.5質量%の赤色40号色素、3質量%のステアリン酸カルシウム、及び残部をマルトースとして処方化し、それぞれを単純混合し、打錠用粉末を調製した。ここで使用したサイリウムは、粒子径の異なるサイリウム微粉及びフードメイドP-100であり、それぞれサイリウムA及びサイリウムBと表記する。ロータリー式打錠機に9.5mmφの2段R式の杵を装着し、本圧目盛り:1.7、予圧目盛り:3.0、錠剤重量:400mgとして各粉末から錠剤を得た。得られた錠剤は硬度計を用いて硬度を測定し、その平均値を評価に使用した(n=10)。
【0056】
各処方から得られた錠剤硬度を表2に示す。サイリウムを含まず、HPMCを10%配合した試料を基準とし、その硬度に対する変化率を算出することによって、硬度の違いを検証した。サイリウムAを配合した場合は、その配合比率の上昇に伴い、硬度の上昇が認められた(3-2A~3-7A)。また、HPMCのみを用いた基準試料よりもサイリウムAのみを用いた場合の方が硬度の上昇が認められたことから、サイリウムAは基準錠剤の成形性を向上させる結合剤としての機能も有することが明らかとなった(3-7A)。
サイリウムBを配合した場合も錠剤の硬度が若干向上した。HPMCにサイリウムを配合することによってHPMC錠剤の硬度を向上させられた。
【0057】
【0058】
同様にして、さらに多糖類の総量を3.0%~30%とし、HPMCとサイリウムAの割合を変更して製造した錠剤の硬度を測定した。結果を表3に示す。通常、多糖類量を増加させると錠剤の硬度は低下するが、多糖類量が高くても(つまり、20質量%及び30質量%であっても)、腸溶性の錠剤として十分な硬度を有していることが確認された。
【0059】
【0060】
試験例3:サイリウムの物性と成形性向上効果の相関解析
サイリウムAとサイリウムBに関して、それぞれの粒度分布と比表面積の測定、及び電子顕微鏡による観察を実施した。それぞれの測定条件は以下の通りである。
【0061】
<平均粒子径(D50)>
測定原理は湿式のレーザー回折・散乱法である。測定の際は、透過方式によるレーザー光の検出を行い、粒子屈折率を1.81、試料のタイプは非球形粒子として粒度分布を計測し、その分布を基にした積算50%径(D50)の算出を行い、平均粒子径とした。
測定機器:Microtrac MT3200II(マイクロトラックベル株式会社)
測定溶媒:イソプロパノール(溶媒屈折率は1.38)
測定時間:10秒間
【0062】
<比表面積>
測定に供したサンプル粉末は予め十分に乾燥させて粉末表面に付着している余剰水分を除去した後に比表面積の測定を行った。キャリアガスとしてヘリウムを用い、粒子表面に吸着させるガスとして窒素を用いて、BET流動法(一点式)に基づく計算原理からそれぞれの比表面積を算出した。
測定機器:HM model-1208(株式会社Mountech)
【0063】
<電子顕微鏡>
サンプル粉末を専用のステージに薄く広げ、白金パラジウムを用いて粒子表面を一様に被覆した。その後、そのサンプル粉末を測定室に格納し、真空状態にて加速電圧を5 kVとして電子線を照射し、発生した二次電子を検出することにより表面状態の観察を行った。偏った観察結果とならないようにするために、複数の視野で50~3000倍の拡大範囲で観察した。
測定機器:Scanning Electron Microscope S-3700N(株式会社日立ハイテクノロジーズ)
【0064】
サイリウムAとBにおいて、平均粒子径を意味するD50粒子径はそれぞれ14.4μmと93.2μmであり、サイリウムAの方が微小な粒子であった。また電子顕微鏡観察の結果から、サイリウムAはサイリウムBと比較して明らかに微小な粒子で構成されていた。比表面積はそれぞれ1.55 m3/gと0.19 m3/gであり、約8倍の差が認められた。試験例2及び表2に示されるように、サイリウムA、Bともに錠剤硬度を上げ、成形性向上が確認されたが、サイリウムの中でも、粒子径が小さく、比表面積が大きなサイリウムが錠剤の成形性を著しく向上させる効果をもたらすことが明らかとなった。
【0065】
試験例:多糖類及びバリウムを含有する組成物の溶出試験
(4-1)多糖類及びバリウムを含有するコーティング錠の製造
表4に示したサイリウム及びHPMCを含有する約670mg(663.7mg~680.5mg)のバリウム含有錠剤(素錠)を作製し、シェラックによる腸溶性コーティングを施し、腸溶性の固形経口組成物(コーティング錠)を製造した。詳細を以下に記載する。
【0066】
150gの多糖類の粉末、975gのバリウム、330gの結晶セルロースをポリ袋に入れ、手でポリ袋を主に上下方向に1分間程度振って混合した。混合物を篩過し、第1混合粉末を得た。30gの二酸化ケイ素、15gのステアリン酸カルシウムをポリ袋内混合し(上下方向に振って混合)、篩過し、それに90gの第1混合粉末を加え、同様に袋内混合することで第2混合粉末を得た。第2混合粉末と残りの第1混合粉末とをポリ袋に入れ、同様に混合し、打錠用粉末1500g得た。総多糖類配合割合は10質量%である。
【0067】
ロータリー式打錠機(使用杵:φ9.0mm)を使用し、本圧と予圧の目盛りの設定値をそれぞれ1.4、3.0として打錠用粉末を打錠し、多糖類及びバリウムを含有する錠剤(素錠)を得た。1錠当たりの重量を表4に示した。
【0068】
2000gの水性シェラック液に40gのショ糖脂肪酸エステルを加えた混合液を60℃に加温して固形分を溶解後、40gのD-ソルビトールを添加して溶解し、被覆液を作製した。1kg分の素錠をコーティング機に供し、給気温度を80℃として被覆液を噴霧し、多糖類及びバリウムを含有するコーティング錠(4-1)を得た。被覆量は固形経口組成物総質量に対し8質量%である。
【0069】
(4-2)多糖類を含有せずバリウムを含有する素錠の製造
HPMC及びサイリウムを配合せず、その分の重量を結晶セルロースで置き換えた以外は(4-1)に記載の手順と同様にしてバリウムを含有する素錠(4-2)を得た。
【0070】
【0071】
(4-3)溶出試験に使用する多糖類及びバリウムを含有するコーティング錠の製造
コーティング錠(4-1)の溶出性を評価するために色素30gを配合した。詳細には、コーティング錠(4-1)製造用の打錠用粉末1500g調製時に結晶セルロースの一部(30g)を色素30gに代えた以外は、(4-1)に記載の手順と同様にして、素錠(4-3)とコーティング錠(4-3)を製造した。
【0072】
(4-4)溶出試験に使用する多糖類を含有せずバリウムを含有するコーティング錠(コントロール)の製造
コーティング錠(4-2)の溶出性を評価するために色素30gを配合した。詳細には、コーティング錠(4-2)製造用の打錠用粉末1500g調製時に結晶セルロースの一部(30g)を色素30gに代えた以外は、(4-2)に記載の手順と同様にして、素錠(4-4)とコーティング錠(4-4)を製造した。
【0073】
(4-5)素錠の溶出試験(50%溶出時間の測定)(腸内徐放性)
素錠(4-3)及び(4-4)について、それらの徐放性を評価することを目的として溶出試験を行った。詳細を以下に記載する。
【0074】
第17改正日本薬局方収載の溶出試験法(パドル法)に準じた溶出試験を行った。専用の容器に溶出試験第2液を1000mL注ぎ、テスト錠を1錠入れ、液をパドルで撹拌した(攪拌回転数50rpm)。テスト錠を溶出試験第2液に入れてから所定時間(30分、60分、120分、180分、240分、300分、360分、420分、1380分、1440分、1920分、2820分)経過時に液を5mLずつ採取し、吸光光度計で吸光度(510nm)を測定した。本試験には各サンプルごとに3錠使用され、平均値を用いてグラフ(
図2)を作成した。
【0075】
溶出割合(%)を縦軸とし、第2液に入れてからの経過時間を横軸とし、ここに各所定時間経過時の溶出割合をプロットしてグラフを作成し、このグラフから溶出割合が50%となるときの経過時間(50%溶出時間)を導出した。コントロール素錠(●;素錠(4-4))、多糖類及びバリウムを含有する素錠(■;素錠(4-3))のグラフを
図2に示す。このグラフから、50%溶出時間は、コントロール素錠が60分、多糖類及びバリウムを含有する素錠が750分であった。溶出時間の差は処方中の多糖類の有無に起因すると結論付けられた。多糖類及びバリウムを含有する素錠の50%溶出時間は、コントロール素錠の1250%(750/60)であることから腸液の存在下では十分な徐放性を有することが確認できた。
【0076】
(4-6)多糖類及びバリウムを含有するコーティング錠の耐酸性評価
コーティング錠(4-3)の胃液に対するバリア性を評価することを目的として溶出試験を行った。詳細には、次のとおりである。
【0077】
溶出試験第1液を収容した容器にテスト錠を1錠入れ、液をパドルで撹拌した。テスト錠を溶出試験第1液に入れてから所定時間(30分、60分、120分、180分)経過時に液を5mLずつ採取し、吸光光度計で吸光度(510nm)を測定した。本試験には3錠使用され、平均値を算出した。
【0078】
(4-5)のグラフ作成の手順と同様にしてグラフ(
図3)を作成した。多糖類及びバリウムを含有するコーティング錠(コーティング錠(4-3))は、溶出試験第1液中では少なくとも3時間は溶出が認められなかった。このことから、多糖類を含有するコーティング錠は胃内で溶解しないものであることが確認できた。(4-5)で確認された素錠(4-3)の腸内徐放性及び本試験で確認されたコーティング錠(4-3)の耐酸性とから、多糖類を含有するコーティング錠は、芯部成分を消化管下部までデリバリー可能であることが確認された。
【0079】
試験例5:X線を用いたバリウム配合錠剤の消化管内送達の観測
多糖類及びバリウムを含有するコーティング錠(4-1)並びに多糖類を含有せずバリウムを含有する素錠(4-2)をテスト錠としてヒト被験者(n=2)に服用させ、専門医師がX線で撮影した被験者腹部のX線画像を観察することで、テスト錠の体内での溶解の程度を評価した。詳細を以下に記載する。
被験者がテスト錠を測定日当日の朝に1錠服用し、その後食事の摂取を行うことなく最大6時間にわたり腹部を複数回X線撮影した。なお、測定前日の21時以降絶飲食とし、テスト錠服用時に180mlの飲水を行った。テスト錠の服用後30分、90分、180分、240分、300分及び360分経過時にX線を照射し、体内部の写真を撮影した。得られたX線画像を
図4(素錠(4-2)を服用した被験者A及びB)及び
図5(コーティング錠(4-1)を服用した被験者C及びD)に示す。テスト錠はバリウムを含有するためX線画像中では白く映る。
【0080】
医師監修のもと、X線画像に白く映るテスト錠の位置から、テスト錠の崩壊の様子及び送達場所を判定した。テスト錠が明らかに原形をとどめていないときは完全に崩壊したと判定した。
【0081】
多糖類を含有しない素錠(4-2)は服用後90分(空腸)では既に崩壊していたことが確認された(
図4)。これに対し、多糖類を含有したコーティング錠(4-1)は服用後360分でも崩壊しておらず、回腸まで到達されていた(
図5)。これらのことから、腸溶性コーティングを施した場合、芯部を構成する素錠が溶出試験によって示される徐放性を有していれば、胃以降の消化管下部(
図5の場合は少なくとも回腸)まで錠剤を大きく崩壊させずに送達可能であることが確認された。したがって、コーティング錠(4-1)においてHPMC又はサイリウム含有量を調節することによって送達部位(空腸、回腸、大腸等)を調節できる。
【0082】
試験例6:ビタミンC含有コーティング錠のビタミンCの体内利用率測定
(6-1)ビタミンC含有コーティング錠の製造
サイリウム及びHPMCを含有する約350mgの錠剤(素錠)を作製し、シェラックを含む溶液を用いて腸溶性コーティングを施し、腸溶性の固形経口組成物を製造した。詳細を以下に記載する。
【0083】
表5に示される4つの処方について、以下のように配合を行った。各配合におけるビタミンCの含量は全て200mg/錠である。ビタミンC製剤、マルチトール、結晶セルロース、サイリウム及びHPMCをポリ袋に入れ、手でポリ袋を主に上下方向に1分程度振って混合した。混合物を篩過し(22号の篩を使用)、第1混合粉末を得た。この第1混合粉末の一部を適量とり、予め篩過しておいた二酸化ケイ素とショ糖脂肪酸エステルをそれぞれ加え、ポリ袋を用いて上下方向に1分程度振って混合した。この粉末全量を第1混合粉末に加え、同様に混合し、打錠用粉末を1.5kg得た。
【0084】
【0085】
ロータリー式打錠機(使用杵:φ9.5)使用し、本圧と予圧の目盛りの設定値をそれぞれ1.85, 4.0として原料粉末を打錠し、素錠(約350mg)を製造した。硬度計で素錠10錠の硬度を測定し、コーティング錠(6-1)~(6-4)の基となる素錠は硬度が9.1~10.4kgf/cm2であり、硬度のバラつきの非常に小さい錠剤であることを確認した。
さらにそれらの素錠を小腸へ送達させるためのコーティングを以下のようにして実施した。1027gの水性シェラック液に20.5gのショ糖脂肪酸エステルを加えた混合液を60℃に加温してすべての原料を溶解後、20.5gのD-ソルビトールを添加して溶解し、第一被覆液を作製した。別途200gの熱水に49.84gのHPMCを入れて混合し、これに462.16gの水を添加して溶解し、第二被覆液を作製した。第一被覆液と第二被覆液を混合し、コーティング液を作製した。1kg分の素錠をコーティング機に供し、給気温度80℃に設定し、コーティング液を噴霧しコーティング剤を得た。被覆量はいずれのコーティング錠に関してもコーティング錠総質量に対し7質量%であった。
【0086】
(6-2)ビタミンCの体内利用率測定
コーティング錠(6-1)~(6-4)の体内でのビタミンC利用率を測定するためヒト試験を実施した。各コーティング錠について、5粒を120 mLの水で噛むことなく嚥下した。5粒でビタミンC摂取量は、1,000 mgである。摂取後、2時間毎に尿を採取し、18時間目までの全尿を集めた。集められた尿の尿量はメスシリンダーを用いて測定し、尿中ビタミンC量はケニス社のアスコルビン酸(ビタミンC)試験紙 クオントフィックスを用いることによって定量的に測定した。ビタミンCは肝臓での代謝を受けにくく、未変化体として尿中排泄されることが明らかとなっているため、測定した尿中ビタミンC総量は、体内利用されなかったものと判断し、摂取量(1,000 mg)から尿中排泄量を引いた量を、摂取量で割った値を体内利用率とした(以下参照)。結果を
図6に示す。
(体内利用率計算法)
((摂取総量VC-尿中VC)/摂取総量VC)×100=体内利用率(%)
※VCは、ビタミンC(アスコルビン酸)を示している。
【0087】
サイリウム及びHPMCを含まないコーティング錠(6-1)を摂取した場合のビタミンCの体内利用率は約57%であったが、コーティング錠(6-2)~(6-4)を摂取した場合はサイリウム及びHPMCの配合量に比例して体内利用率が上昇し、最大92%を示した(コーティング錠(6-4))。体内利用率の向上は、サイリウム及びHPMCの配合によってコーティング錠が小腸内で徐放性を発揮したため、VCが小腸内で一度に大量に放出及び吸収されず、徐々に放出及び吸収されたためと考えられた。このような効果は本実験によってはじめて知覚されたことであるが、ビタミンCに限られたことではなく、同様の性質を有する水溶性ビタミン(B1、B2、B6、B12、ニコチン酸アミド、パントテン酸等)においても同様の効果が得られるものと推定された。