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特許7652456薄片化黒鉛の製造方法および薄片化黒鉛分散液の製造方法
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  • 特許-薄片化黒鉛の製造方法および薄片化黒鉛分散液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】薄片化黒鉛の製造方法および薄片化黒鉛分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/225 20170101AFI20250319BHJP
【FI】
C01B32/225
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023222225
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2024-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146445
【氏名又は名称】株式会社常光
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】薬袋 博信
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴美
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-163756(JP,A)
【文献】特開2015-105200(JP,A)
【文献】特開2020-045266(JP,A)
【文献】特開2013-203905(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027039(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0321916(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種と、非プロトン性有機溶媒である第1有機溶媒とを含む被処理物に対して、湿式ジェットミル処理を施して、薄片化黒鉛を含む生成物を得る工程1と、
前記生成物と、水およびプロトン性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の特定溶媒とを混合して混合液を得て、前記混合液中から薄片化黒鉛を分離する工程2とを含む、薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項2】
前記工程1において、前記黒鉛化合物を用いる、請求項1に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項3】
前記黒鉛化合物が、非プロトン性有機溶媒である第2有機溶媒中で、アルカリ金属源および黒鉛を混合して、アルカリ金属が黒鉛中のグラフェン層間にインターカレーションされた黒鉛化合物である、請求項2に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項4】
前記工程2において、前記生成物に対する、前記特定溶媒の質量比が、0.5~100である、請求項1~3のいずれか1項に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項5】
前記特定溶媒が、水およびアルコール系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項6】
前記特定溶媒のSP値が、12.5(cal/cm1/2以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項7】
前記第1有機溶媒が、エーテル系溶媒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項8】
前記第2有機溶媒が、エーテル系溶媒である、請求項3に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の薄片化黒鉛の製造方法で得られた薄片化黒鉛を溶媒に分散させる工程を含む、薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片化黒鉛の製造方法に関する。また、本発明は、薄片化黒鉛分散液の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、黒鉛中のグラフェンの積層数が少ない、薄片化黒鉛が注目されている。薄片化黒鉛の製造方法として、黒鉛から黒鉛層間化合物(GIC:Graphite intercalation compound)を製造し、剥離処理を施す方法が知られている。
上記GICの製造方法としては、気相法や溶液法等、様々な手法が提案されている。なかでも、溶液法によるGICの製造方法は、気相法と比較して簡便にGICを製造できるため、注目されている。
【0003】
上記GICに剥離処理を施す薄片化黒鉛の製造方法としては、例えば、特許文献1に開示されている。具体的には、GICに対して極性非プロトン性溶媒を添加し、これを超音波処理して薄片化黒鉛を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-105200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の薄片化黒鉛の製造方法は公知であるが、より薄片化黒鉛の収率が高い、薄片化黒鉛の製造方法が求められていた。
【0006】
そこで、本発明は、より薄片化黒鉛の収率が高い、薄片化黒鉛の製造方法の提供を課題とする。
また、本発明は、薄片化黒鉛分散液の製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
【0008】
〔1〕 黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種と、非プロトン性有機溶媒である第1有機溶媒とを含む被処理物に対して、湿式ジェットミル処理を施して、薄片化黒鉛を含む生成物を得る工程1と、
上記生成物と、水およびプロトン性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の特定溶媒とを混合して混合液を得て、上記混合液中から薄片化黒鉛を分離する工程2とを含む、薄片化黒鉛の製造方法。
〔2〕 上記工程1において、上記黒鉛化合物を用いる、〔1〕に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
〔3〕 上記黒鉛化合物が、非プロトン性有機溶媒である第2有機溶媒中で、アルカリ金属源および黒鉛を混合して、アルカリ金属が黒鉛中のグラフェン層間にインターカレーションされた黒鉛化合物である、〔2〕に記載の薄片化黒鉛の製造方法。
〔4〕 上記工程2において、上記生成物に対する、上記特定溶媒の質量比が、0.5~100である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の薄片化黒鉛の製造方法。
〔5〕 上記特定溶媒が、水およびアルコール系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の薄片化黒鉛の製造方法。
〔6〕 上記特定溶媒のSP値が、12.5(cal/cm1/2以上である、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の薄片化黒鉛の製造方法。
〔7〕 上記第1有機溶媒が、エーテル系溶媒である、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の薄片化黒鉛の製造方法。
〔8〕 上記第2有機溶媒が、エーテル系溶媒である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の薄片化黒鉛の製造方法。
〔9〕 〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の薄片化黒鉛の製造方法で得られた薄片化黒鉛を溶媒に分散させる工程を含む、薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より薄片化黒鉛の収率が高い、薄片化黒鉛の製造方法が提供できる。
また、本発明によれば、薄片化黒鉛分散液の製造方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】分散ユニットを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0012】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本明細書において、薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、薄片化黒鉛におけるグラフェン層(グラフェンシート)の積層数は、元の黒鉛より少なければよい。薄片化黒鉛としては、グラフェン、または、グラフェンの積層体が挙げられる。
薄片化黒鉛がグラフェンの積層体である場合、積層体中のグラフェン層の積層数は特に制限されないが、2層以上が好ましい。上限は特に制限されないが、100層以下が好ましく、30層以下がより好ましい。
【0014】
<薄片化黒鉛の製造方法>
本発明の薄片化黒鉛の製造方法は、黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種と、非プロトン性有機溶媒である第1有機溶媒とを含む被処理物に対して、湿式ジェットミル処理を施して、薄片化黒鉛を含む生成物を得る工程1を有する。
また、本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法は、上記生成物と、水およびプロトン性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の特定溶媒とを混合して混合液を得て、上記混合液中から薄片化黒鉛を分離する工程2を有する。
【0015】
本発明の薄片化黒鉛の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)において、薄片化黒鉛の収率が高くなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。
上記工程1において、上記第1有機溶媒中で湿式ジェットミル処理を行うと、黒鉛または黒鉛化合物が薄片化されやすい。さらに、上記工程2において、得られた生成物と、上記特定溶媒とを混合すると、薄片化黒鉛が特定溶媒中で分散しにくい傾向があり、薄片化黒鉛を工程2において分離しやすい。結果として、工程1および工程2を有する本製造方法では、薄片化黒鉛の収率がより高くなる。
【0016】
以下、本製造方法について説明する。
なお、本製造方法は、後述する工程1および工程2以外の工程を有していてもよい。
【0017】
[工程1]
工程1では、黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種と、非プロトン性有機溶媒である第1有機溶媒とを含む被処理物に対して、湿式ジェットミル処理を施して、薄片化黒鉛を含む生成物を得る。
以下、工程1について詳細に説明する。
【0018】
(黒鉛および黒鉛化合物)
工程1では、被処理物に黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種が含まれる。
黒鉛としては、グラフェンが積層した構造を持つ化合物であれば特に制限されない。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、合成黒鉛(人造黒鉛)、高配向性熱分解黒鉛、および、黒鉛繊維が挙げられる。なかでも、天然黒鉛が好ましい。
【0019】
黒鉛化合物としては、黒鉛中のグラフェン層間に他の化合物等が挿入された、黒鉛層間化合物が挙げられる。黒鉛化合物(黒鉛層間化合物)に含まれる他の化合物等の例としては、例えば、アルカリ金属、有機化合物、無機化合物、ならびに、それらのイオンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。上記他の化合物等は、錯体を形成していてもよい。より具体的には、アルカリ金属、エーテル系溶媒、芳香族化合物、および、無機イオン等が挙げられる。
黒鉛化合物は、アルカリ金属が黒鉛中のグラフェン層間にインターカレーションされた黒鉛化合物が好ましい。上記態様の黒鉛化合物は、例えば、有機溶媒(後述する溶媒Y)中で、アルカリ金属源および黒鉛を混合すると得られる。上記態様の黒鉛化合物の製造方法については、後段で詳述する。
また、黒鉛化合物は、いわゆる膨張黒鉛であってもよい。膨張黒鉛とは、グラフェン層間に硫酸イオン、および、硝酸イオン等が挿入された黒鉛化合物をいう。膨張黒鉛は、例えば、黒鉛を、酸化剤を含む硫酸水溶液中に浸漬して得られる。
【0020】
(第1有機溶媒)
工程1では、被処理物に非プロトン性有機溶媒である第1有機溶媒が含まれる。
第1有機溶媒は、非プロトン性有機溶媒であれば特に制限されない。非プロトン性有機溶媒としては、例えば、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、スルホキシド系溶媒、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、および、エステル系溶媒が挙げられる。なかでも、薄片化黒鉛の収率がより高くなる点で、エーテル系溶媒が好ましい。
【0021】
エーテル系溶媒は、エーテル結合(-O-)を有していれば特に制限されず、分子中のエーテル結合の数は制限されない。
また、エーテル系溶媒は環状構造を有していてもよい。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME、または、グリム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、フラン、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン(DOL)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、テトラエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、ビス(2-エトキシエチル)エーテル、および、ジヒドロレボグルコセノン(Cyrene(登録商標))が挙げられる。なかでも、被処理物に含まれる黒鉛または黒鉛化合物がより薄片化されやすい点で、1,2-ジメトキシエタン、または、テトラヒドロフランが好ましい。
【0022】
第1有機溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0023】
(湿式ジェットミル処理)
工程1では、上記黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種と、上記第1有機溶媒を含む被処理物に対して、湿式ジェットミル処理を施す。
以下、被処理物および湿式ジェットミル処理について説明する。
【0024】
被処理物は、湿式ジェットミル処理に供し、効率よく薄片化黒鉛を得るため、固形分濃度、および、粘度が以下に詳述する範囲であることが好ましい。
【0025】
被処理物の固形分濃度は、効率よく薄片化黒鉛を得る点から、被処理物全質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。
被処理物中の固形分とは、被処理物中の溶媒を除いた成分を意図する。
【0026】
被処理物の粘度は、湿式ジェットミルで処理可能であるという点から、1~20000mPa・sが好ましい。
粘度の測定方法は公知の方法を用いることができ、例えば、JIS Z 8803:2011の方法が挙げられる。
【0027】
被処理物の固形分濃度および粘度は、例えば、被処理物中の第1有機溶媒の含有量によって調整し得る。
【0028】
被処理物は、上記黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種と、ならびに、上記有機溶媒以外の成分(その他成分)を含んでいてもよい。
その他成分としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。
また、その他成分としては、黒鉛化合物を製造するために用いられた成分も挙げられる。
【0029】
湿式ジェットミル処理は、被処理物にせん断力を作用させ、黒鉛または黒鉛化合物を必要以上に粉砕することなく、効率よく薄片化黒鉛を得ることができる点で有利である。
湿式ジェットミル処理は、溶媒と粉体とを含むスラリーを高速で流動させ、結果として粉体を粉砕および/または解砕できるものであれば制限されない。例えば、高速で流動する流体を、流体の流動方向に対して概垂直な流体衝突部に流体を衝突させる方法、高速で流動する流体を狭窄部に流通させる方法、高速で流動する複数の流体を対向衝突させる方法、乱流を発生させ、流体が導通する管等の壁面に流体を衝突させる方法、および、減圧等で生じるキャビテーションジェットにより流体にせん断力を作用させる方法が挙げられる。湿式ジェットミル処理は、これらの方法が組み合わされていてもよい。なかでも、高速で流動する複数の流体を対向衝突させる方法が好ましい。
【0030】
複数の流体を対向衝突させる湿式ジェットミル処理としては、例えば、以下の工程A、工程Bおよび工程Cをこの順に有する処理が挙げられる。
工程A:被処理物を対向衝突する工程
工程B:衝突した被処理物を工程Aにおける方向とは異なる方向に流す工程
工程C:被処理物を分離して流す工程
【0031】
上記工程A~Cを実施する方法は特に制限されないが、図1に示す分散ユニットを用いることが好ましい。以下では、まず、図1に示す分散ユニットについて説明する。
図1に示す分散ユニット10は、湿式ジェットミル処理を行う装置中に配置されるユニットであり、後述するように、この分散ユニット10中の流路に被処理物を通液させることにより、工程A~Cを実施できる。
分散ユニット10は、導入側ディスク12と、中間ディスク14と、排出側ディスク16とを備える。導入側ディスク12、中間ディスク14、および、排出側ディスク16の形状は、略同一径の円板状である。中間ディスク14は、導入側ディスク12の下流側に中心軸線C1方向に密着して配置されている。また、排出側ディスク16は、中間ディスク14の下流側に中心軸線C1方向に密着して配置されている。
導入側ディスク12、中間ディスク14、および、排出側ディスク16は、セラミックス、超硬合金、および、ダイヤモンド等の耐摩耗性部材から構成され、略同一径にて形成されている。導入側ディスク12と排出側ディスク16とは略同一の板厚にて形成され、中間ディスク14は、導入側ディスク12および排出側ディスク16の板厚よりも薄い板厚にて形成されている。
【0032】
導入側ディスク12には、第一貫通孔12Aおよび第二貫通孔12Bが配置されている。第一貫通孔12Aおよび第二貫通孔12Bは略同一径に形成されて導入側ディスク12の中心部に対して略対称位置に配置されている。
第一貫通孔12Aおよび第二貫通孔12Bの各孔径よりも小さい幅にて形成された導入側溝状通路18(第一流路)が中間ディスク14と対向する導入側ディスク12の表面に一直線状に配置されている。そして、導入側溝状通路18を介して第一貫通孔12Aおおび第二貫通孔12Bが連通されている。
中間ディスク14には、第三貫通孔14A(第二流路)が中心部に配されている。
排出側ディスク16には、第四貫通孔16Aおよび第五貫通孔16Bが、略同一径にて排出側ディスク16の中心部を挟んで対称位置に配置されている。
第四貫通孔16Aおよび第五貫通孔16Bの各孔径よりも小さい幅にて形成された排出側溝状通路20(第三流路)が、中間ディスク14と対向する排出側ディスク16の表面に配置されている。そして、排出側溝状通路20を介して第四貫通孔16Aおよび第五貫通孔16Bが連通されている。
【0033】
次に、上記分散ユニットを用いた工程A~Cの流れについて説明する。
まず、被処理物を加圧して超高速流体として分散ユニット10内に導入する。この際、100MPa以上250MPa以下の圧力にて加圧することが好ましい。
導入された被処理物Lは、導入側ディスク12に到達したところで、第一貫通孔12Aと第二貫通孔12Bとを分岐して流れる。分岐された被処理物Lは、第一貫通孔12Aと第二貫通孔12Bとのそれぞれを通過した後、中間ディスク14に衝突しながら導入側溝状通路18内を導入側ディスク12の中心部に向けて強制的に方向が変えられる。そして、互いが一直線上を対向する方向に加速されて流れて互いに衝突する。上記によって、工程Aが実施される。
次に、衝突して再び合流した被処理物Lの流れる向きが略垂直方向に変化され、被処理物Lが中間ディスク14の第三貫通孔14Aに案内される。このとき、衝突エネルギーが一部開放されるとともに、導入側ディスク12の導入側溝状通路18の中心部分にて発生する摩耗を軽減させる。そして、衝突によって生じた乱流はその状態が維持される。上記によって、工程Bが実施される。
次に、第三貫通孔14Aを通過した被処理物Lがさらに排出側ディスク16に衝突しながら排出側溝状通路20内を排出側ディスク16の外周側に向かって再び分岐して流れる。こうして、第四貫通孔16Aおよび第五貫通孔16Bを通過した被処理物Lは、排出側ディスク16から排出され、再び合流して分散ユニット10から排出される。上記によって、工程Cが実施される。
【0034】
上記工程A、工程Bおよび工程Cを有する湿式ジェットミル処理を実施する装置としては、例えば、常光社製「NAGS20」、「NAGS100」、「NAGS500」および「NAGS1000」が挙げられる。
【0035】
湿式ジェットミル処理は、複数回実施することが好ましい。回数は特に制限されないが、2~100パスが好ましい。多くは2~20パスである。
また、2以上の異なる送液圧力で湿式ジェットミル処理を行ってもよい。例えば、低い送液圧力で湿式ジェットミル処理を行った後、高い送液圧力で湿式ジェットミル処理を行うこともできる。各圧力での処理は、それぞれ複数回実施されてもよい。
【0036】
湿式ジェットミル処理は、装置内部を不活性ガス雰囲気として行うことも好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、および、アルゴンガスが挙げられる。
また、湿式ジェットミル処理は、圧縮等に伴って発熱するため、冷却しながら実施することも好ましい。冷却の方法は公知の方法を用いることができ、例えば、冷媒を発熱部に直接的ないし間接的に接触させて熱交換する方法が挙げられる。
【0037】
[工程2]
工程2では、上記生成物と、水およびプロトン性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の特定溶媒とを混合して混合液を得て、上記混合液中から薄片化黒鉛を分離する。
上記工程2により、薄片化黒鉛が得られる。
以下、工程2について説明する。
【0038】
(特定溶媒)
工程2では、特定溶媒を用いる。
特定溶媒とは、水およびプロトン性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種である。
プロトン性有機溶媒としては、例えば、カルボン酸系溶媒、および、アルコール系溶媒が挙げられ、アルコール系溶媒が好ましい。
特定溶媒は、水およびアルコール系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒であることが好ましい。
【0039】
水としては、蒸留水、イオン交換水、純水、及び、超純水が挙げられる。
【0040】
アルコール系溶媒とは、分子中に水酸基を有する化合物からなる溶媒をいう。
具体的には、アルコール系溶媒とは、下記式(a)で表される化合物からなる溶媒をいう。
【0041】
-OH (a)
式(a)中、Rは、置換基として水酸基を有していてもよいアルキル基を表す。上記R1が表す置換基を有していてもよいアルキル基のアルキル基部分は、分岐鎖状の構造を有していてもよく、環状の構造を有していてもよい。
が表す置換基として水酸基を有していていもよいアルキル基のアルキル基部分の炭素数は、1~8が好ましく、1~3がより好ましい。上記アルキル基における水酸基の数は、0または1が好ましく、0がより好ましい。すなわち、Rは、置換基を有さないアルキル基を表すことも好ましい。
【0042】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、および、プロピレングリコール等が挙げられる。
なかでも、メタノール、エタノール、2-プロパノール、または、エチレングリコールが好ましく、メタノール、エタノール、または、エチレングリコールがより好ましい。
【0043】
上記特定溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0044】
上記特定溶媒のSP値(溶解パラメーター)は、11.5(cal/cm1/2以上が好ましく、12.0(cal/cm1/2以上がより好ましく、12.5(cal/cm1/2以上がさらに好ましい。また、特定溶媒のSP値は、23.4(cal/cm1/2以下である場合が多い。
なお、SP値とは、ヒルデブランドパラメーターとも呼ばれる値であり、文献値を採用できる。
【0045】
工程2では、工程1で得られる生成物と、上記特定溶媒とを混合する。
生成物と、特定溶媒との混合比は得に制限されないが、生成物に対する、特定溶媒の質量比は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上がさらに好ましく、5以上が特に好ましい。また、上記比は、200以下である場合が多く、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。
【0046】
工程2における混合方法は特に制限されず、公知の混合方法を適用できる。例えば、回転翼によって溶液を撹拌する方法、ポンプにより対流を発生させる方法、および、処理物が収容された容器を振動させる方法が挙げられる。
具体的には、ミキサー、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、および、振とう機が挙げられる。
工程2における混合は、不活性雰囲気中で行うことも好ましい。
【0047】
工程2では、上記生成物と上記特定溶媒とを混合して混合液を得て、上記混合液中から薄片化黒鉛を分離する。
上記混合液中からの薄片化黒鉛の分離方法は特に制限されず、公知の方法を適用でき、例えば、固液分離を行う方法が挙げられる。
固液分離を行う方法としては、例えば、ろ過(加圧ろ過および減圧ろ過を含む)、デカンテーション、および、遠心分離が挙げられる。なかでも、ろ過がより好ましい。固液分離を行う方法は、2種以上を組み合わせてもよい。
上述したように、上記特定溶媒を含む混合液においては、薄片化黒鉛が分散しにくいため、上記混合液から薄片化黒鉛を分離しやすい。
【0048】
また、混合液を得た後、混合液を静置してもよい。
静置時間は特に制限されないが、例えば、1分~72時間が挙げられ、5分~48時間が好ましい。
【0049】
工程2において固液分離した薄片化黒鉛は、さらに乾燥されてもよい。乾燥方法は、公知の方法を適用でき、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、および、凍結乾燥が挙げられる。
【0050】
[工程3]
本製造方法は、工程1に供する被処理物に黒鉛化合物が含まれる場合、黒鉛化合物(黒鉛層間化合物)を得る工程3を工程1の前に有していてもよい。
工程3は、具体的には、非プロトン性有機溶媒である第2有機溶媒中で、アルカリ金属源および黒鉛を混合して、アルカリ金属が黒鉛中のグラフェン層間にインターカレートされた黒鉛層間化合物を製造する工程である。
なお、工程3においては、上記成分以外の成分を添加してもよい。
以下、工程3について説明する。
【0051】
(有機溶媒(溶媒Y))
工程3に用いる第2有機溶媒は、特に制限されないが、上記工程1に用いる第1有機溶媒が好ましく挙げられる。
なかでも、溶媒Yとしては、エーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒の例および好ましい例は、工程1の部分で上述したとおりである。
【0052】
(アルカリ金属源)
工程3に用いるアルカリ金属源としては、アルカリ金属を含むものであれば特に制限されず、アルカリ金属単体(0価のアルカリ金属)、および、アルカリ金属を含む塩が挙げられる。
アルカリ金属源に含まれるアルカリ金属としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、および、フランシウム(Fr)が挙げられる。アルカリ金属としては、Li、Na、または、Kが好ましく、LiまたはKがより好ましく、Liがさらに好ましい。
アルカリ金属源としては、リチウム金属、カリウム金属、または、ナトリウム金属が好ましく、リチウム金属またはナトリウム金属がより好ましく、リチウム金属がさらに好ましい。
アルカリ金属源は1種のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0053】
(黒鉛)
工程3に用いる黒鉛は、グラフェンが積層した構造を持つ化合物であれば特に制限されない。黒鉛の例および好ましい例は、工程1の部分で上述したとおりである。
【0054】
(芳香族炭化水素)
工程3においては、アルカリ金属源、および、黒鉛とともに、芳香族炭化水素を混合することが好ましい。
上記成分とともに芳香族炭化水素を混合することで、アルカリ金属源中のアルカリ金属の溶媒へ溶解を促進し、また、黒鉛との電子親和力との差から、黒鉛にアルカリ金属を容易にインターカレートさせることができる。
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、および、ピレンが挙げられる。なかでも、ナフタレンが好ましい。
【0055】
(混合方法および条件)
工程3における各種成分の混合方法は、第2有機溶媒、アルカリ金属源、黒鉛、および、任意成分を混合することができれば特に制限されない。
【0056】
工程3で使用される成分の混合順序は特に制限されず、例えば、第2有機溶媒に各種成分(アルカリ金属、黒鉛等)を順次添加してもよいし、第2有機溶媒に各種成分を同時に添加してもよい。なかでも、第2有機溶媒に芳香族炭化水素を添加した後、アルカリ金属および黒鉛をこの順に第2有機溶媒に添加することが好ましい。
工程3での各種成分の使用量は特に制限されず、適宜調整できる。
第2有機溶媒の使用量は、工程3で使用される成分の合計量に対して、50~99.9質量%が好ましく、60~99質量%がより好ましく、70~95質量%がさらに好ましい。
なお、工程3で使用される成分とは、第2有機溶媒、アルカリ金属源、黒鉛、および、任意成分が挙げられる。
第2有機溶媒を2種類以上混合して用いる場合、第2有機溶媒の合計質量が、上記範囲であることが好ましい。
アルカリ金属源の使用量は特に制限されず、黒鉛の使用量に対して、2.5~300質量%が好ましく、4~150質量%がより好ましい。
黒鉛の使用量は特に制限されず、第2有機溶媒の全質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい。
芳香族炭化水素の使用量は特に制限されず、黒鉛の使用量に対して、50~500質量%が好ましく、100~500質量%がより好ましい。
【0057】
上記成分を混合する方法としては、公知の方法が挙げられる。例えば、回転翼によって溶液を撹拌する方法、ポンプにより対流を発生させる方法、および、処理物が収容された容器を振動させる方法が挙げられる。
具体的には、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、および、振とう機が挙げられる。
【0058】
工程3での混合時間は特に制限されず、1分~300時間が好ましく、30分~200時間がより好ましく、1~100時間がさらに好ましい。
工程3での混合時の温度は特に制限されず、10~50℃が好ましく、20~30℃がより好ましい。
また、工程3においては、混合後、静置してもよい。静置する時間は、例えば、1~200時間が挙げられ、8~150時間が好ましい。静置すると、黒鉛層間化合物が沈降し、後述する工程4における固液分離が容易に実施できる。
【0059】
工程3の実施雰囲気は特に制限されないが、工程3は不活性ガス雰囲気中で実施されることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、および、アルゴンガスが挙げられる。
また、工程3の実施雰囲気は、水蒸気の含有量が少ないことが好ましい。工程3の実施雰囲気の露点は、0℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下がさらに好ましく、-50℃以下が特に好ましい。工程3の実施雰囲気の露点の下限は、特に制限されないが、通常、-100℃以上である。
【0060】
(黒鉛層間化合物)
工程3では、アルカリ金属が黒鉛中のグラフェン層間にインターカレートされた黒鉛層間化合物が製造される。黒鉛層間化合物は、アルカリ金属とグラフェンとの2元系であってもよく、アルカリ金属と第2有機溶媒とグラフェンとの3元系であってもよく、上記3元系に加えて添加剤等を含んだ4元系以上であってもよい。例えば、アルカリ金属は、溶媒であるTHFと錯体を形成して、その錯体がインターカレートされていてもよい。
黒鉛層間化合物の生成は、X線回折により確認できる。具体的には、黒鉛の構造に由来する回折ピークが消失し、インターカレートによりグラフェン層間の距離が伸長したこと対応する回折ピークの出現により確認できる。
【0061】
[工程4]
本製造方法は、工程1に供する被処理物に黒鉛化合物が含まれる場合、黒鉛化合物を得る工程3を実施した後、黒鉛化合物(黒鉛層間化合物)を回収する工程4を有していてもよい。
上記回収する方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。例えば、固液分離を行う方法、および、固液混合物から液体を気化させる方法が挙げられる。具体的には、ろ過(加圧ろ過および減圧ろ過を含む)、デカンテーション、遠心分離、自然乾燥、真空乾燥、フリーズドライ、および、スプレードライが挙げられる。なかでも、デカンテーション、または、ろ過が好ましい。
なお、デカンテーションとは、固液混合物を静置し、上澄みの液体部分を除去して固形分を回収する方法を指す。
上記方法は1つを実施してもよく、組み合わせて実施してもよい。また、上記回収においては、例えば、完全に固液分離されていなくてもよく、黒鉛化合物と、溶媒成分(例えば溶媒Y)とが含まれていてもよい。
【0062】
<薄片化黒鉛分散液の製造方法>
本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法は、上記本発明の薄片化黒鉛の製造方法で得られた薄片化黒鉛を溶媒に分散させる工程を含む。
本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法に用いる溶媒を、以下「溶媒Z」ともいう。
【0063】
溶媒Zは、特に制限されないが、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の例は、上記第1有機溶媒の部分で記載した通りである。
なかでも、溶媒Zとしては、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、および、スルホキシド系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、アミド系溶媒がより好ましい。
【0064】
アミド系溶媒とは、分子中にアミド構造を有する化合物からなる溶媒をいう。
具体的には、アミド系溶媒とは、下記式(a)で表される化合物からなる溶媒をいう。
【0065】
【化1】
【0066】
式(a)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基または水素原子を表す。
式(a)中、RとRとが互いに結合して環を形成していてもよいし、RとRとが互いに結合して環を形成していてもよい。
、RおよびRが表す置換基を有していていもよいアルキル基のアルキル基部分の炭素数は、1~8が好ましく、1~3がより好ましい。
、RおよびRが表す置換基を有していてもよいアルキル基は、置換基を有さないアルキル基であることも好ましい。
また、RおよびRは、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基(より好ましくは、置換基を有さないアルキル基)を表すことが好ましい。すなわち、アミド系溶媒は、三級アミド化合物からなる溶媒が好ましい。
また、Rが、水素原子または置換基を有さない炭素数1~3のアルキル基を表し、RおよびRが、置換基を有さない炭素数1~3のアルキル基である態様も好ましい。
【0067】
アミド系溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド(DEF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラメチル尿素、および、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。
なかでも、アミド系溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、または、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0068】
ケトン系溶媒とは、分子中にカルボニル基(-CO-)を有し、カルボニル基の炭素原子に炭素原子が結合している化合物からなる溶媒をいう。すなわち、エステル構造(-COO-)、および、アミド構造等として、ケトン構造を有する化合物は、ケトン系溶媒に含めない。
具体的には、ケトン系溶媒とは、下記式(b)で表される化合物からなる溶媒をいう。
【0069】
【化2】
【0070】
式(b)中、RおよびRは、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
およびRが表す置換基を有していてもよいアルキル基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
およびRが表す置換基を有していていもよいアルキル基のアルキル基部分の炭素数は、1~8が好ましく、1~3がより好ましい。
また、RおよびRが表す置換基を有していてもよいアルキル基は、それぞれ、置換基を有さないアルキル基であることも好ましい。
【0071】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、シクロペンタノン、および、シクロヘキサノン等が挙げられる。
なかでも、ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノンが好ましい。
【0072】
スルホキシド系溶媒とは、分子中にスルフィニル基(-SO-)を有し、スルフィニル基の硫黄原子に炭素原子が結合している化合物からなる溶媒をいう。
具体的には、スルホキシド系溶媒とは、下記式(c)で表される化合物からなる溶媒をいう。
【0073】
【化3】
【0074】
式(c)中、RおよびRは、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
およびRが表す置換基を有していてもよいアルキル基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
およびRが表す置換基を有していていもよいアルキル基のアルキル基部分の炭素数は、1~8が好ましく、1~3がより好ましい。
また、RおよびRが表す置換基を有していてもよいアルキル基は、それぞれ、置換基を有さないアルキル基であることも好ましい。
【0075】
スルホキシド系溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジ-n-ブチルスルホキシド、tert-ブチルメチルスルホキシド、および、テトラメチレンスルホキシド等が挙げられる。
なかでも、スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0076】
溶媒Zは、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0077】
溶媒ZのSP値(溶解パラメーター)は、9.0(cal/cm1/2以上が好ましく、9.2(cal/cm1/2以上がより好ましく、9.5(cal/cm1/2以上がさらに好ましい。また、溶媒ZのSP値は、18.0(cal/cm1/2以下が好ましく、15.0(cal/cm1/2以下がより好ましく、13.0(cal/cm1/2以下がさらに好ましい。
なお、SP値とは、ヒルデブランドパラメーターとも呼ばれる値であり、文献値を採用できる。
【0078】
薄片化黒鉛を溶媒Zに分散させる方法は特に制限されないが、例えば、薄片化黒鉛と溶媒Zとを含む混合液を得て、その混合液に対して分散処理を行う方法が挙げられる。分散処理としては、特に制限されず、公知の方法を適用できる。例えば、分散処理としては、回転翼によって混合液を撹拌する方法、ポンプにより混合液に対流を発生させる方法、および、混合液が収容された容器を振動させる方法が挙げられる。また、分散処理としては、湿式ジェットミル処理、および、超音波分散処理等も好ましい。
【0079】
<薄片化黒鉛の用途>
本発明の薄片化黒鉛の製造方法によって得られる薄片化黒鉛の用途は特に制限されないが、例えば、機能性フィラーとして用いることができる。
薄片化黒鉛は強靭性、電気伝導性、熱伝導性に優れることが知られている。薄片化黒鉛を機能性フィラーとして用い、複合化することで、上記機能が付与された複合体が得られる。複合化する母材は、樹脂、セラミック、および、金属が挙げられる。また、薄片化黒鉛は大きな比表面積を有するため、少量の添加で効果的に強靭性等の機能を付与することができる。
また、薄片化黒鉛は電気伝導性を有し、かつ、大きな比表面積を有するため、二次電池および、電気化学キャパシタ等の電極材料に用いることもできる。例えば、薄片化黒鉛は、二次電池の負極材料に用いられることが好ましい。
【0080】
薄片化黒鉛を上記用途に用いる場合には、例えば、本発明の薄片化黒鉛分散液と、上記各用途に応じた他の成分とを含むスラリーを調製し、スラリーを所望の形態で塗布し、スラリーに含まれる溶媒成分(例えば、上記有機溶媒および特定溶媒)を除去してもよい。本発明の薄片化黒鉛分散液は、分散性に優れるため、各用途において、薄片化黒鉛が均一に分散しやすく、所望の性質が得られやすい。
【実施例
【0081】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、装置、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により制限的に解釈されるべきものではない。
【0082】
<実施例1>
[黒鉛層間化合物の合成(工程3)]
黒鉛層間化合物の合成(工程3)は、高純度Ar(純度99.999%)で満たされたグローブボックス内で実施した。グローブボックスの露点は-55℃であった。
まず、100mLのガラス製スクリュー管瓶に、テトラヒドロフラン(THF、特級)100mLを入れ、ナフタレン(特級)7.5gを溶解した。この溶液に金属リチウム(純度99.5%)0.5gを加え、溶液を撹拌して金属リチウムを溶解した。リチウム溶解液に黒鉛粒子(シグマアルドリッチ製、808091-2.5KG、平均粒径:150μm)2.5gを加え、25℃で24時間撹拌し、黒鉛層間化合物を含む混合物を得た。
得られた黒鉛層間化合物を含む混合物を乾燥させ、XRD測定を行ったところ、2θ=6.5°、13°、21°、28°、36°、43°および51°にピークが確認され、それらはA相のLi-THF-GICのstage-1の(001)、(002)、(003)、(004)、(005)、(006)および(007)に相当した。この結果は、リチウムにTHF分子が配位した錯体が黒鉛層に対インターカレートした構造に対応しており、黒鉛層間が約1.10nmに広がっていることを示している。
【0083】
[工程1]
上記手順で得られた黒鉛層間化合物を含む混合物に、THF(テトラヒドロフラン、第1有機溶媒に該当)を200mL添加し、被処理物を得て、湿式ジェットミル処理を行った。湿式ジェットミル処理は、常光社製「NAGS20(AC200V仕様)」を用いて行った。装置の条件は以下のとおりであった。
・通常ノズル
・ノズル径:φ0.15mm
・チラー設定温度:0℃
・送液圧力:200MPa
上記の装置の条件で、湿式ジェットミル処理を5パス行い、薄片化黒鉛の分散液Aを得た。
【0084】
[工程2]
工程1で得られた生成物(分散液A)10mLと、90mLの純水(特定溶媒に該当)とを混合し、混合液を得た。
混合液を得た後、24時間静置し、静置した後、金属メッシュ(#400)で固液分離して薄片化黒鉛を得た。さらに、固液分離を行って得た薄片化黒鉛は、105℃のオーブンで90分間乾燥させた。
上記手順で、2gの薄片化黒鉛を得た。
【0085】
<実施例2~5、比較例1~3>
上記実施例1の薄片化黒鉛を得る手順において、工程2に用いる特定溶媒の種類を、後段の表に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして薄片化黒鉛を得た。
各実施例および比較例において得られた薄片化黒鉛の量は、後段の表に示す。
【0086】
<実施例6>
[黒鉛層間化合物の合成(工程3および工程4)]
黒鉛層間化合物の合成(工程3)は、高純度Ar(純度99.999%)で満たされたグローブボックス内で実施した。グローブボックスの露点は-55℃であった。
まず、100mLのガラス製スクリュー管瓶に、テトラヒドロフラン(THF、特級)100mLを入れ、ナフタレン(特級)7.5gを溶解した。この溶液に金属リチウム(純度99.5%)0.5gを加え、溶液を撹拌して金属リチウムを溶解した。リチウム溶解液に黒鉛粒子(日本黒鉛製、粒径:500μm~1mm)2.5gを加え、25℃で48時間撹拌し、黒鉛層間化合物を含む混合物を得た。この混合物を120時間静置し、上澄み液を除去することにより固液分離し、黒鉛層間化合物を得た(工程4)。
得られた黒鉛層間化合物のXRD測定を行ったところ、2θ=6.5°、13°、21°、28°、36°、43°および51°にピークが確認され、それらはA相のLi-THF-GICのstage-1の(001)、(002)、(003)、(004)、(005)、(006)および(007)に相当した。この結果は、リチウムにTHF分子が配位した錯体が黒鉛層に対インターカレートした構造に対応しており、黒鉛層間が約1.10nmに広がっていることを示している。
【0087】
[工程1]
得られた黒鉛層間化合物22gと、THF88mLとを混合し、湿式ジェットミル処理を行った。湿式ジェットミル処理は、常光社製「NAGS20(AC200V仕様)」を用いて行った。装置の条件は以下のとおりであった。
・ストレートノズル(型番:J01502S)
・ノズル径:φ0.15mm
・チラー設定温度:0℃
・吐出速度:38.5×10±1×10
・送液圧力:120MPa
上記の装置の条件で、湿式ジェットミル処理を22パス行い、薄片化黒鉛の分散液Bを得た。
【0088】
[工程2]
工程1で得られた生成物(分散液B)10mLと、90mLの純水(特定溶媒に該当)とを混合し、混合液を得た。
混合液を得た後、24時間静置し、静置した後、金属メッシュ(#400)で固液分離して薄片化黒鉛を得た。さらに、固液分離を行って得た薄片化黒鉛は、105℃のオーブンで90分間乾燥させた。
上記手順で、1.4gの薄片化黒鉛を得た。
【0089】
<実施例7および8>
上記実施例6の薄片化黒鉛を得る手順において、工程2に用いる特定溶媒の種類を、後段の表に示すように変更した以外は、実施例6と同様にして薄片化黒鉛を得た。
各実施例および比較例において得られた薄片化黒鉛の量は、後段の表に示す。
【0090】
<結果>
各実施例および各比較例の工程2に用いた溶媒の種類および得られた薄片化黒鉛の量を表1に示す。
なお、表1および表2中、「工程2に用いた溶媒」の欄における略語は、それぞれ以下の溶媒を表す。
・MeOH:メタノール
・EtOH:エタノール
・EG:エチレングリコール
・IPA:イソプロピルアルコール
・MNP:N-メチル-2-ピロリドン
・DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
・THF:テトラヒドロフラン
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示す結果から、工程2に用いる溶媒として上記特定溶媒を用いる各実施例においては、得られる薄片化黒鉛の量が多く、収率が高かった。一方、工程2に用いる溶媒として特定溶媒を用いない比較例においては、各実施例よりも得られる薄片化黒鉛の量が少なかった。
また、実施例5と他の実施例との比較から、工程2に用いる特定溶媒のSP値が12.0(cal/cm1/2以上(より好ましくは12.5(cal/cm1/2以上)である場合には、得られる薄片化黒鉛の量がより多くなることが確認された。
【0093】
なお、各実施例で得られた薄片化黒鉛をラマン分光法で分析したところ、薄片化黒鉛は、4層以下のグラフェンで構成されていることを確認した。
【0094】
<薄片化黒鉛分散液>
実施例1で得られた薄片化黒鉛0.1gを、100mLのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に添加し、湿式ジェットミル処理を行って、薄片化黒鉛を分散させた。湿式ジェットミル処理は、常光社製「NAGS20(AC200V仕様)」を用いて行った。装置の条件は以下のとおりであった。
・通常ノズル
・ノズル径:φ0.15mm
・チラー設定温度:0℃
・送液圧力:200MPa
上記の装置の条件で、湿式ジェットミル処理を5パス行い、薄片化黒鉛の分散液Aを得た。
【0095】
上記ジェットミル処理により、薄片化黒鉛分散液が得られた。
薄片化黒鉛分散液における薄片化黒鉛を回収してラマン分光法で分析したところ、薄片化黒鉛は、4層以下のグラフェンで構成されていることを確認した。
【符号の説明】
【0096】
10 分散ユニット
12 導入側ディスク
12A 第一貫通孔
12B 第二貫通孔
14 中間ディスク
14A 第三貫通孔
16 排出側ディスク
16A 第四貫通孔
16B 第五貫通孔
18 導入側溝状通路
20 排出側溝状通路
C1 中心軸線
【要約】
【課題】 より薄片化黒鉛の収率が高い、薄片化黒鉛の製造方法の提供。
【解決手段】 黒鉛および黒鉛化合物からなる群から選択される1種と、非プロトン性有機溶媒である第1有機溶媒とを含む被処理物に対して、湿式ジェットミル処理を施して、薄片化黒鉛を含む生成物を得る工程1と、上記生成物と、水およびプロトン性有機溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の特定溶媒とを混合して混合液を得て、上記混合液中から薄片化黒鉛を分離する工程2とを含む、薄片化黒鉛の製造方法。
【選択図】なし
図1