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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】樹状細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20250319BHJP
   C07K 5/083 20060101ALI20250319BHJP
   C07K 5/09 20060101ALI20250319BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20250319BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20250319BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20250319BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250319BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20250319BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250319BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20250319BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20250319BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20250319BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20250319BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20250319BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20250319BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
C07K7/06
C07K5/083
C07K5/09
C07K7/08
C07K14/00
C12N5/0784 ZNA
A61P35/00
A61P31/00
A61P29/00
A61P37/02
A61K38/06
A61K38/07
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
C12N15/62 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023566847
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-09
(86)【国際出願番号】 KR2022006397
(87)【国際公開番号】W WO2022235072
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0059019
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0052836
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523408215
【氏名又は名称】ナノファエンテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NANOFAENTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】(Medical Device Convergence Commercialization Center) 604Ho, 6th Floor, 88, Somang-gil, Juchon-myeon, Gimhae-si, Gyeongsangnam-do 50969, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】クァク, ジョング ユング
(72)【発明者】
【氏名】マザ, ペリー エーン メイソン
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】Innate Immunity,2011年,Vol.17, No.3,pp.338-352,10.1177/1753425910371396
【文献】Biomaterials,2010年,pp.1-11,doi:10.1016/j.biomaterials.2010.06.025
【文献】BLOOD,2002年,Vol.99,No.9,pp.3263-3271
【文献】Front. Immunol.,2017年,Vol.8,1866 (pp.1-11),doi: 10.3389/fimmu.2017.01866
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 5/0784
A61P 35/00
A61P 31/00
A61P 29/00
A61P 37/02
A61K 38/06
A61K 38/07
A61K 38/08
A61K 38/10
A61K 38/16
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹状細胞間のインテグリン結合部位に結合するフィブロネクチン由来のペプチドを含む、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物であって、
前記ペプチドは、配列番号1を含むアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2を含むアミノ酸配列からなるペプチド、および配列番号3を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含む、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物
【請求項2】
前記配列番号1を含むアミノ酸配列からなるペプチド、前記配列番号2を含むアミノ酸配列からなるペプチド、および前記配列番号3を含むアミノ酸配列からなるペプチドは、それぞれ長さが3~11aaである、請求項1に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項3】
前記配列番号1を含むアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号1、4または5のアミノ酸配列からなるペプチドであり、前記配列番号2を含むアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号2、6または7のアミノ酸配列からなるペプチドであり、前記配列番号3を含むアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、前記配列番号1を含むアミノ酸配列からなるペプチド、前記配列番号2を含むアミノ酸配列からなるペプチド、および前記配列番号3を含むアミノ酸配列からなるペプチドがリンカーで連結されている、請求項1に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項5】
前記リンカーは、アミノ酸GおよびSからなり、長さが2~8aaである、請求項に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項6】
前記リンカーは、配列番号8~11のいずれか一つを含むアミノ酸配列からなる、請求項に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項7】
前記ペプチドは、配列番号12~14のいずれか一つのアミノ酸配列を含む、請求項に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項8】
前記ペプチドは、処理対象である樹状細胞2×10/mLに対して200μg/mL以上の濃度で含まれる、請求項1に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項9】
前記樹状細胞は、単核球、脾臓またはリンパ節由来のものである、請求項1に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項10】
試験管内(in vitro)で使用するためのものである、請求項1に記載の樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【請求項11】
分離された樹状細胞に請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を処理するステップを含む、樹状細胞の培養方法。
【請求項12】
前記組成物が処理された樹状細胞に免疫刺激剤を処理して樹状細胞の活性化を誘導するステップをさらに含む、請求項11に記載の樹状細胞の培養方法。
【請求項13】
前記免疫刺激剤は、バクテリア製剤、CD40リガンド、TNF-α、IL-1β、LPSおよびpoly(I:C)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項12に記載の樹状細胞の培養方法。
【請求項14】
分離された樹状細胞に請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を処理して非活性化状態で前記樹状細胞を培養するステップと、
前記樹状細胞を活性化するステップと、
前記活性化された樹状細胞と免疫細胞を共培養するステップとを含む、免疫細胞の活性化方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の樹状細胞間のインテグリン結合部位に結合するフィブロネクチン由来のペプチドと、それと混合された樹状細胞とを含む、樹状細胞組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の細胞組成物を有効成分として含む、癌、感染性疾患、慢性炎症性疾患、または自己免疫疾患の治療または予防用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ組織から分離された未成熟初代樹状細胞の培養方法に関し、具体的には、フィブロネクチン(fibronectin)由来ペプチドの組み合わせ、これらのペプチドで構成されるリンカーペプチドにより活性化を起こさない状態を維持しながら培養できる培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞(Dendritic cells、DCs)は、自然免疫応答と獲得免疫応答との間の関連性を提供する抗原提示細胞である。樹状細胞は全身に広く分布しており、脾臓、リンパ節、粘膜、腸、表皮組織でいくつかのサブタイプに分けられる。脾臓において、樹状細胞のサブタイプはマクロファージや単核球のタイプとはよく区別され、特徴付けられている。
【0003】
非活性樹状細胞は、低レベルで主要組織適合性複合体クラスII(major histocompatibility class-II、MHC-II)の表面分子と共刺激分子を発現し、炎症誘発性サイトカインをほとんど産生しない。樹状細胞は、スカベンジャー受容体、Toll様受容体、マンノース受容体などのパターン認識受容体によって病原体を直接検出することができ、貪食作用により、病原菌や損傷細胞から派生した有害シグナルおよびその周辺での抗原を貪食する。これらの受容体によって活性化された樹状細胞は、抗原取り込み能の減少、MHC-IIの発現増加、CD80、CD86及びCD40のような共刺激分子および化学受容体であるCCR7の発現が増加した細胞型に転換され、様々な種類のサイトカインを分泌し、リンパ節への移動が増加することが特徴である。この活性化された樹状細胞は、特定の抗原に対するT細胞応答を強力に誘導する。
【0004】
抗原を貪食して処理するプロセスは、非活性樹状細胞によって行われる。この安定した樹状細胞の免疫学的機能を測定し、細胞治療剤として利用する場合の最大の問題は、組織由来の初代樹状細胞(primary DC)の分離と培養にある。細胞培養のために分離された初代樹状細胞は、培養状態で12時間以内に非活性型から活性型へ自然活性化(spontaneous activation)される。自然活性化された樹状細胞は生存期間が非常に短いため、長期培養ができない。培養条件下で樹状細胞の数を減らしたり、半固体ゲルなどで培養したりすると、自然活性化が多少減少することが観察されたため、樹状細胞間の結合や接触によって発生することが報告されているが、樹状細胞の活性化に関与する具体的な因子や、非活性型を維持して培養できる技術については未だ報告されていない。
【0005】
脾臓およびリンパ節の三次元構造と細胞外基質は、細胞の相互作用を調節し、組織内の細胞間の凝集にも重要な役割を果たす。極少量のコラーゲンのみがリンパ節の近位部(paracortical region)に存在し、脾臓のようなリンパ組織には主な細胞外基質としてフィブロネクチンが発現しており、ラミニン(laminin)の発現は極めて少ない。サイトカインを用いて単核球から分化させた樹状細胞は、フィブロネクチンやラミニンでコーティングしたプレートで培養した場合、樹状細胞の形態が変化して非活性型に維持されることが報告されている。
【0006】
前述のような様々な技術的限界のため、リンパ組織から分離した初代樹状細胞を培養するよりは、遺伝体の転換により形質転換された樹状細胞株や、前駆細胞から分化した樹状細胞を用いる技術などが適用されている。現在、最も一般的に培養用に用いている樹状細胞は、骨髄細胞または単核球から分化させた樹状細胞で、GM-CSF(granulocyte macrophage-colony stimulating factor)および腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor、TNF-α)のような炎症因子が存在する状態でこれらの前駆細胞から分化した細胞である。したがって、これらの前駆細胞から分化した樹状細胞は、骨髄細胞または単核球の細胞培養によって誘導され得るが、体内では炎症状態で血液から単細胞が組織に出て生体内で現れる炎症性樹状細胞に属する。しかし、この場合、リンパ節に存在する初代樹状細胞ではなく単核球から分化する過程で活性化された樹状細胞は、培養状態では刺激されていない樹状細胞とは異なり比較的安定した機能を維持することができる。また、ナノマイクロハイブリッド繊維をベースとした細胞培養用構造物を用いて、脾臓から分離した樹状細胞を非活性状態に維持しながら安定的に培養できる培養方法、および非活性樹状細胞の分析方法が報告されている。
【0007】
本発明では、免疫組織から分離した初代樹状細胞の生存を維持しつつ、機能的に非活性状態で存在し、抗原を貪食し、免疫や炎症刺激を受ける場合には活性型に変化できる技術を提供することにより、生体内で起こり得る樹状細胞の免疫学的応答を培養状態で実現することができる。このようにして分離した初代樹状細胞は、T細胞の増殖を誘発するか、またはT細胞と共培養してサイトカインの分泌を誘発することにより、癌、ウイルス感染、自己免疫疾患、臓器移植、アレルギーおよび関節リウマチなどの疾患に対する免疫細胞治療剤としての開発可能性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、リンパ組織から分離した初代樹状細胞を非活性型に維持できる特定のペプチドを含む、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記培養方法により培養された樹状細胞と免疫細胞とを共培養するステップを含む、免疫細胞の活性化方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、非活性化状態で24時間以上維持される分離された樹状細胞を含む樹状細胞組成物、およびそれを有効成分として含む、癌の治療または予防用薬学組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1.樹状細胞間のインテグリン結合部位に結合するフィブロネクチン由来のペプチドを含む、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0012】
2.前記項目1において、前記ペプチドは、配列番号1~3のいずれか一つを含むアミノ酸配列からなるペプチドである、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0013】
3.前記項目1において、前記ペプチドは、配列番号1~3のいずれか一つのアミノ酸配列を含み、長さが3~11aaである、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0014】
4.前記項目1において、前記ペプチドは、配列番号1~7のいずれか一つのアミノ酸配列からなる群より選択される少なくとも1つである、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0015】
5.前記項目1において、前記ペプチドは、配列番号1~3のいずれか一つを含むアミノ酸配列の2以上がリンカーで連結されている、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0016】
6.前記項目5において、前記リンカーは、アミノ酸G及びSからなり、長さが2~8aaである、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0017】
7.前記項目5において、前記リンカーは、配列番号8~11のいずれか一つを含むアミノ酸配列からなる、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0018】
8.前記項目5において、前記ペプチドは、配列番号12~14のいずれか一つのアミノ酸配列を含む、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0019】
9.前記項目1において、前記ペプチドは、処理対象である樹状細胞2×10/mLに対して、200μg/mL以上の濃度で含まれる、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物。
【0020】
10.前記項目1において、前記樹状細胞は、単核球、脾臓またはリンパ節由来のものである、樹状細胞の活性化抑制用組成物。
【0021】
11.前記項目1において、試験管内(in vitro)で使用するためのものである、樹状細胞の活性化抑制用組成物。
【0022】
12.分離された樹状細胞に前記項目1~11のいずれか一つに記載の組成物を処理するステップを含む、樹状細胞の培養方法。
【0023】
13.前記項目12において、前記組成物が処理された樹状細胞に免疫刺激剤を処理して樹状細胞の活性化を誘導するステップをさらに含む、樹状細胞の培養方法。
【0024】
14.前記項目13において、前記免疫刺激剤は、バクテリア製剤、CD40リガンド、TNF-α、IL-1β、LPSおよびpoly(I:C)からなる群より選択される少なくとも1つである、樹状細胞の培養方法。
【0025】
15.分離された樹状細胞に前記項目1~11のいずれか一つに記載の組成物を処理して非活性状態で前記樹状細胞を培養するステップと、
前記樹状細胞を活性化するステップと、
前記活性化された樹状細胞と免疫細胞を共培養するステップとを含む、免疫細胞の活性化方法。
【0026】
16.前記項目1~11のいずれか一つに記載の樹状細胞間のインテグリン結合部位に結合するフィブロネクチン由来のペプチドと、これと混合された樹状細胞とを含む、樹状細胞組成物。
【0027】
17.前記項目16に記載の細胞組成物を有効成分として含む、癌、感染性疾患、慢性炎症性疾患、または自己免疫疾患の治療または予防用薬学組成物。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、フィブロネクチンタンパク質配列のうち細胞接着ドメインの配列を含むペプチドの組み合わせを有効成分として含む、樹状細胞の非活性維持細胞培養組成物に関し、脾臓及びリンパ節などのリンパ組織由来樹状細胞の培養剤としての効果に関する。前記ペプチドの組み合わせは、樹状細胞の非活性を維持するか、または免疫刺激剤によって細胞を活性化し、T細胞の増殖および活性化を誘導することにより、癌、自己免疫疾患および炎症性疾患の免疫学的診断または免疫細胞治療剤のための組成物として有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のペプチド混合物を添加していない状態で培養した脾臓樹状細胞(spleen DC、sDC)の分布を共焦点顕微鏡で観察した結果と細胞群集程度(cell clustering)を示すものである。
図2図2は、本発明のペプチド混合物および刺激剤を添加していない状態で培養した脾臓樹状細胞のフローサイトメトリーの結果であり、樹状細胞の表面に時間依存的にMHC-II、CD86、CD80及びCD40の発現が増加することを確認した結果である。
図3図3は、本発明のペプチド混合物を添加していない状態でフィブロネクチンまたはラミニンを添加して培養した脾臓樹状細胞の分布を共焦点顕微鏡で確認した結果である。
図4図4は、本発明のペプチド混合物を添加していない状態でフィブロネクチンまたはラミニンを濃度別に添加して6時間培養した後、脾臓樹状細胞の表面におけるCD86とMHC-IIの発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図5図5は、本発明のペプチド混合物を添加していない状態でフィブロネクチンまたはラミニンを200μg/mL濃度別に添加して6時間培養した後、脾臓樹状細胞の表面におけるCD86、MHC-II、CD80及びCD40の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図6図6は、本発明で用いたペプチドのアミノ酸配列およびペプチドの種類を示すものである。
図7図7は、本発明のペプチド混合物を添加した状態で脾臓樹状細胞を6時間培養した後、CD86の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図8図8は、本発明のペプチド混合物を添加した状態で6時間または24時間培養した後、脾臓樹状細胞の分布を共焦点顕微鏡で観察した結果である。
図9図9は、P3を含むペプチド混合物を添加した状態で脾臓樹状細胞を6時間培養した後、CD86の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図10図10は、様々な組み合わせの3種のペプチド混合物を添加した状態で6時間または24時間培養した後、脾臓樹状細胞におけるMHC-II、CD86、CD80及びCD40の発現程度を、フィブロネクチンを添加した培養状態と比較して測定したフローサイトメトリーの結果である。
図11図11は、本発明のペプチド混合物を添加した状態で樹状細胞を培養し、CD86の発現を抗体で蛍光染色した後、共焦点顕微鏡で観察した結果である。
図12図12は、本発明のペプチド混合物を添加していない状態で培養した樹状細胞の培養液に分泌されたTNF-αの量を時間別に測定した酵素免疫分析法(Enzyme-linked immunosorbent assay, ELISA)の結果である。
図13図13は、3種のペプチド混合物を添加した状態で24時間培養した後、分泌されたTNF-αの量を測定したELISAの結果である。
図14図14は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加した培養プレートで免疫刺激剤であるLPS(lipopolysaccharide)を添加/無添加の状態で24時間培養した後、脾臓樹状細胞におけるCD86の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図15図15は、ペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加したPCL(polycaprolactone)ナノファイバーメンブレンで免疫刺激剤であるLPSを添加/無添加の状態で24時間培養した後、脾臓樹状細胞におけるCD86の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図16図16は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加した培養プレートで免疫刺激剤であるLPSを添加/無添加の状態で24時間培養した後、脾臓樹状細胞から分泌されたTNF-αおよびIL-12p40の量を測定したELISAの結果である。
図17図17は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加した培養プレートで免疫刺激剤であるLPSを添加/無添加の状態で24時間培養した後、骨髄由来樹状細胞(bone marrow-derived DC、BMDCs)におけるCD86の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図18図18は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを濃度別に添加した培養プレートでLPSを添加状態で24時間培養した後、骨髄由来樹状細胞におけるCD86の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図19図19は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを濃度別に添加した培養プレートでLPSを添加状態で24時間培養した後、骨髄由来樹状細胞から分泌されたTNF-αおよびIL-12p40の量を測定したELISAの結果である。
図20図20は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加した培養プレートで免疫刺激剤であるpoly(I:C)を添加して24時間培養した後、脾臓樹状細胞におけるCD86の発現程度をLPSと比較測定したフローサイトメトリーの結果である。
図21図21は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加した培養プレートで免疫刺激剤であるLPSまたはpoly(I:C)を添加して24時間培養した脾臓樹状細胞と、異種型マウスから分離した後、CFSE(carboxyfluorescein succinimidyl ester)で蛍光染色したT細胞との混合リンパ球反応(mixed lymphocyte reaction)によるT細胞増殖に対するフローサイトメトリーの結果である。
図22図22は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加した培養プレートで免疫刺激剤であるLPSまたはpoly(I:C)を添加して24時間培養した脾臓樹状細胞と、異種型マウスから分離したT細胞とを4日間共培養した後、分泌されるサイトカインの量をELISAで測定した結果である。
図23図23は、3種のペプチド混合物またはフィブロネクチンを添加した培養プレートで6時間培養した初代脾臓樹状細胞の生存率を7-AAD(7-aminoactinomycin D)染色によるフローサイトメトリーにより測定した結果である。
図24図24は、本発明のリンカーペプチドを添加して培養した脾臓初代樹状細胞におけるCD86の発現程度をフローサイトメトリーで測定した結果である。
図25図25は、本発明のスクランブル(scrambled)リンカーペプチドを添加して培養した脾臓初代樹状細胞におけるCD86の発現程度を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図26図26は、脾臓樹状細胞にリンカーペプチドを添加して24時間培養した後、CD86の発現を共焦点顕微鏡で確認した結果である。
図27図27は、リンカーペプチドまたはLPSを添加し、脾臓初代樹状細胞を24時間培養した後、分泌される腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor, TNF-α)の濃度を測定したELISAの結果である。
図28図28は、リンカーペプチドで培養した後、自己活性化が起こらない脾臓樹状細胞またはこれらの細胞をLPSで活性化させた樹状細胞を、CFSEで蛍光染色したOT-1 T細胞と4日間共培養した後、T細胞の増殖を測定したフローサイトメトリーの結果である。
図29図29は、リンカーペプチドで培養した脾臓樹状細胞とOT-1 T細胞とを4日間共培養した後、培養液に分泌されたインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)とTNF-αの濃度を測定したELISAの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、樹状細胞間のインテグリン結合部位に結合するフィブロネクチン由来のペプチドを含む、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物を提供する。
【0031】
樹状細胞(Dendritic cell)は、免疫細胞で病原菌物質を処理して免疫系の他の細胞のために表面に抗原を表示することで抗原伝達細胞として機能するので、自然免疫応答と獲得免疫応答との間の媒介体として機能する。樹状細胞の種類としては、例えば、単核球由来樹状細胞、脾臓由来樹状細胞、またはリンパ組織由来樹状細胞があるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
樹状細胞間のインテグリン結合部位は、細胞-基質、細胞-細胞間結合および相互作用に重要な役割を果たす部位であってもよい。前記ペプチドがそのようなインテグリン結合部位に結合する場合、細胞-細胞間の相互作用を抑制し、細胞間のシグナル伝達、自己活性化などを抑制することができる。
【0033】
前記フィブロネクチン由来のペプチドは、細胞外基質タンパク質の一つであるフィブロネクチンの配列の一部からなり、フィブロネクチンの配列の一部以外の他のアミノ酸配列をさらに含むことができる。
【0034】
すなわち、本発明は、フィブロネクチンの樹状細胞間のインテグリン結合部位に結合する部位のアミノ酸配列を含むペプチドを含む、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物を含む。
【0035】
前記フィブロネクチンの配列は、具体的には、フィブロネクチンを構成するドメインのうち細胞接着ドメインの配列を含むことができる。
【0036】
前記ペプチドは、RGD(配列番号1)、LDV(配列番号2)またはPHSRN(配列番号3)を含む配列からなっていてもよく、例えば、RGD(配列番号1)、LDV(配列番号2)、PHSRN(配列番号3)、KGRGDS(配列番号4)、GRGDS(配列番号5)、GGPEILDVPST(配列番号6)またはEILDVPST(配列番号7)であってもよい。
【0037】
前記ペプチドの長さは3~11aaであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記ペプチドは、RGD、LDVまたはPHSRNを含むアミノ酸配列の2以上がリンカー(linker)で連結されていてもよい。
【0039】
前記リンカーは、アミノ酸G及びSからなり、長さが2~8aa(amino acid)であってもよい。例えば、前記リンカーは、GS(配列番号8)、GGGS(配列番号9)、GGGGS(配列番号10)またはGGGSGGGS(配列番号11)を含むアミノ酸配列からなっていてもよい。
【0040】
例えば、前記ペプチドは、PHSRNGSRGDGSLDV(配列番号12)、PHSRNGGGSRGDGGGSLDV(配列番号13)、またはPHSRNGGGSGGGSRGDGGGSLDV(配列番号14)のアミノ酸配列を含むことができる。
【0041】
本明細書の実施形態における「リンカーペプチド」とは、前述のように複数のペプチドがリンカーで連結されているペプチドを意味する。
【0042】
前記組成物は、前記ペプチドを2種以上含むものであってもよい。
【0043】
本発明の組成物は、樹状細胞の自己活性化を抑制するために、2×10/mLの樹状細胞に対して、前記ペプチドを特定濃度以上で含むことができる。その濃度は、例えば、50μg/mL以上、100μg/mL以上、200μg/mL以上、300μg/mL以上、400μg/mL以上または500μg/mL以上であり、具体的には、50~800μg/mL、50~500μg/mL、100~800μg/mL、100~600μg/mL、100~500μg/mL、100~300μg/mL、100~200μg/mL、150~250μg/mL、200~800μg/mL、200~500μg/mLまたは300~500μg/mLであるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明の組成物は樹状細胞-媒介免疫応答を調節することができ、具体的には、樹状細胞の自己活性化の抑制または樹状細胞の自己抗原提示能を調節することができるが、これに限定されるものではない。
【0045】
「樹状細胞の自己活性化」とは、分離された樹状細胞が培養状態で12時間以内に非活性型から活性型に転換される自然活性化現象を意味する。この現象は、樹状細胞間の結合や接触によって発生することが報告されている。前記の活性化された樹状細胞は、生存期間が非常に短く、長期培養ができなという欠点がある。そのため、活性化の抑制は、抗原を貪食して処理できる非活性形態に分離された樹状細胞を培養できるようにする。
【0046】
本発明の活性化抑制用組成物は、生体内(in vivo)または試験管内(in vitro)で使用できるが、好ましくは試験管内(in vitro)で使用するためのものであってもよい。
【0047】
また、本発明は、樹状細胞の自己活性化抑制用組成物を処理するステップを含む樹状細胞の培養方法を提供する。
【0048】
自己活性化抑制用組成物は前述の通りであり、前記組成物の処理濃度および処理時間は樹状細胞の自己活性化を抑制できれば、特定の濃度および時間に限定されない。処理濃度は、例えば、細胞数2×10/mL当たりに50~500μg/mL、100~400μg/mLまたは0~300μg/mLであり、処理時間は、例えば、2~48時間、6~48時間、4~24時間、6~18時間、4~12時間、6~8時間、または6~24時間であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明の樹状細胞の培養方法は、免疫刺激剤を処理して樹状細胞の活性化を誘導するステップをさらに含むことができる。前記免疫刺激剤とは、樹状細胞に抗原を露出させて表面に抗原を表示する細胞への転換を誘発する物質を意味する。その種類としては、例えば、バクテリア製剤、CD40アゴニストTNF-α、IL-1β、LPSおよびpoly(I:C)があるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
前記樹状細胞の培養は、ポリカプロラクトン(PCL)ナノファイバーからなる構造体上において3次元で行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0051】
また、本発明は免疫細胞の活性化方法を提供する。
【0052】
免疫細胞の活性化方法は、分離された樹状細胞に前記組成物を処理し、非活性化の状態で前記樹状細胞を培養するステップと、前記樹状細胞を活性化するステップと、前記活性化した樹状細胞と免疫細胞を共培養するステップとを含む。
【0053】
前記免疫細胞とは、免疫系において免疫応答に関与する細胞であり、細胞治療剤として用いられる細胞を意味し得る。その種類としては、例えば、T細胞、B細胞、自然殺害細胞(NK細胞)、自然殺害T細胞(NKT細胞)、肥満細胞、または骨髄由来食細胞があるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
前記組成物を処理して樹状細胞を非活性化状態で培養するステップは、樹状細胞の培養方法で説明した通りである。
【0055】
樹状細胞を活性化するステップは、非活性形態の樹状細胞に成熟化因子または免疫刺激剤を処理することにより行うことができる。前記成熟化因子または免疫刺激剤は、樹状細胞の表面にMHC-II、CD86、CD80またはCD40の発現が増加するように誘導する物質であれば、その種類を限定せず、例えば、バクテリア製剤、CD40アゴニストTNF-α、IL-1β、LPSまたはpoly(I:C)であってもよい。
【0056】
活性化された樹状細胞と免疫細胞を共培養するステップは、免疫細胞の増殖およびサイトカインの分泌を誘導するためのものであり、活性化された樹状細胞を基準に共培養する免疫細胞数の割合は、例えば1~50、4~30、5~25、10~30または15~25であり、共培養時間は、2~144時間、4~120時間、12~96時間、24~96時間、48~96時間、または48時間~72時間であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0057】
また、本発明は、前記ペプチドと、それと混合された樹状細胞とを含む樹状細胞組成物を提供する。
【0058】
前記組成物の樹状細胞は、非活性化状態を、例えば6時間以上、12時間以上、24時間以上、または48時間以上維持するものであり、好ましくは、6~24時間、6~48時間、12~48時間、または12時間~24時間であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0059】
前記細胞組成物は、前述の樹状細胞の活性化抑制用組成物によって非活性化状態が維持された樹状細胞を含むものであり、前記樹状細胞は、具体的には、MHC-II、CD86、CD80またはCD40因子の発現増加が抑制された樹状細胞であってもよい。
【0060】
前記樹状細胞は刺激を受けて活性化されるまでは生存を維持しながら機能的に抗原を貪食することができ、活性化された樹状細胞とは異なり長期培養が可能である。そのため、体外でT細胞の増殖を誘発するか、またはT細胞と共培養してサイトカインの分泌を促進することにより、様々な疾患に対する免疫細胞治療剤の開発を可能とする。
【0061】
また、本発明は、前記樹状細胞組成物を有効成分として含む、癌、細菌およびウイルス感染性疾患、慢性炎症性疾患、又は自己免疫疾患の治療または予防用薬学組成物を提供する。
【0062】
前記癌は、例えば、肺癌、喉頭癌、胃癌、大腸/直腸癌、肝癌、胆嚢癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸部癌、前立腺癌、腎癌、上皮細胞に由来する癌腫(carcinoma)、骨癌、筋肉癌、脂肪癌、結合組織細胞に由来する肉腫(sarcoma)、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫の造血細胞に由来する血液癌、神経組織に発生する腫瘍、甲状腺癌、結腸癌、精巣癌、脳腫瘍、頭頸部癌、膀胱癌、上皮癌、腺癌、食道癌、中皮腫、皮膚癌または黒色腫であるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
前記感染性疾患とは、細菌、スピロヘータ、リケッチア、ウイルス、真菌または寄生虫などの病原体に感染して引き起こされる疾患であるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
前記慢性炎症性疾患とは、炎症が長期間蓄積して発生する疾患であり、細胞の老化と変形を引き起こし、免疫反応を過度に活性化させて免疫系を乱すことが知られており、それに伴い、肥満、糖尿病などの代謝疾患または自己免疫疾患まで誘発することが報告されている。
【0065】
前記自己免疫疾患とは、人体内部の免疫系が外部抗原ではなく内部の正常細胞を攻撃して発生する疾患であり、例えば、関節リウマチ、アトピー、ループス、クローン病、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎または多発性硬化症などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
前記癌、感染性疾患または免疫疾患の他にも、免疫細胞を治療剤として利用できる疾患であれば、その種類に関係なく本発明の細胞組成物を有効成分とし、当該疾患の治療または予防用薬学組成物として用いることができる。
【0067】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものであり、本発明の内容を限定するものではない。
【0068】
実施例1.脾臓樹状細胞の分離および培養
マウス脾臓樹状細胞は、雌C57BL/6マウスの脾臓にEDTA-BSS(Balanced Salt Solution)緩衝液とコラゲナーゼ(collagenase)溶液(100ユニットのコラゲナーゼタイプIVを含むDMEM、低グルコースを含む培地)を入れ、手術用はさみで細かく切った後、6mlのコラゲナーゼ処理溶液を混ぜて30分間培養する。分離した全脾臓組織を70μMのセルストレーナー(Falcon)を用いて濾過し、1800rpmで5分間遠心分離して細胞を分離する。赤血球溶解緩衝剤(Sigma Aldrich)を加えて赤血球を除去し、10%ウシ血清(Fetal Bovine Serum,FBS)を含むRPMI-1640培地で2回洗浄する。樹状細胞はCD11c抗体が結合したマイクロビーズで反応させ、CD11c Microbeads UltraPure(MACS、Milteni Biotec、USA)を用いて分離した。
【0069】
図1では、脾臓から分離した初代樹状細胞を48ウェルプレートに分注し、37℃および5% COを維持する細胞チャンバ中で24時間培養し、細胞が単一の細胞として分布するか、または集まるクラスタリング(clustering)の程度を共焦点顕微鏡(Olympus confocal microscope FV1000, Olympus Corporation;n=5)の微分干渉(Differential interference contrast,DIC)画像で観察した。その場合、培養時間の経過に伴って細胞の凝集がさらに増加することが示された。この現象は細胞数が2×10/mLよりも1×10/mLの密度においてより顕著に示された。単一の細胞と細胞同士が集まっているクラスター(cluster)の数は、ImageJソフトウェア(NIH、6 Bethesda)を用いて測定した。*は0hと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0070】
実施例2.フローサイトメトリーを用いた樹状細胞の活性化の測定
刺激を受けていない定常な状態の樹状細胞は、MHC-IIおよび共刺激分子としてのCD80、CD86及びCD40などの表現因子の発現が非常に低い状態であり、非活性型の表現型を有するが、活性化された樹状細胞はこれらの標識子の発現が顕著に増加する。
【0071】
図2では、脾臓から分離した初代樹状細胞を培養した場合に自己活性化が起こるかどうかを判断するために、樹状細胞を24ウェルプレートに2×10/mLで分注し、RPMI-1640培地で37℃と5% COの条件下で6時間培養した後、フローサイトメトリー(MACSQuant VYB flow cytometer、Miltenyi Biotec)を用いて樹状細胞の表面におけるMHC-II、CD86、CD80及びCD40の発現レベルを分析した。フローサイトメトリーを用いて測定した結果は、FlowJo v10(Tree Star、Ashland)を用いて分析した。CD86、CD80及びCD40の発現程度は、CD11cで染色された細胞のパーセントで表し、MHC-IIの発現程度は、蛍光の平均蛍光強度であるMFI(mean fluorescence intensity)で表した。その結果、樹状細胞の表面におけるMHC-II、CD86、CD80及びCD40の発現程度は時間依存的に増加することが示された。
【0072】
実施例3.フィブロネクチンを添加した培地における脾臓樹状細胞の培養
図3では、RPMI-1640培地に200μg/mLの濃度でフィブロネクチンまたはラミニンを添加し、脾臓から分離したCD11c+初代樹状細胞を2×10/mLで分注して6時間培養した後、細胞の分布を共焦点顕微鏡で観察した。フィブロネクチンを添加した場合、細胞の凝集が顕著に減少することが示された。これはフィブロネクチンが樹状細胞間の凝集を阻害する細胞外基質因子である可能性を示唆する。*はNoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0073】
図4では、様々な濃度のフィブロネクチンまたはラミニンを添加して脾臓樹状細胞を6時間培養した後、CD86やMHC-IIの発現程度をフローサイトメトリーで測定した。その結果、200μg/mL濃度のフィブロネクチンによっては自己活性化が起こらず、200μg/mL濃度以上のラミニンによっては自己活性化が抑制されなかった。このことから、本発明では、200μg/mL濃度のフィブロネクチンが脾臓樹状細胞の自己活性化に最も有効であることが確認された。*は0μg/mL濃度と比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0074】
図5では、200μg/mL濃度のフィブロネクチンでCD11c脾臓樹状細胞を6時間培養した場合、CD86やMHC-IIの発現だけでなくCD80及びCD40の発現も増加しないことが示された。
【0075】
実施例4.フィブロネクチンタンパク質のアミノ酸配列から製造したペプチドを添加した培地における脾臓樹状細胞の培養
図6では、細胞接着を媒介する細胞外基質タンパク質の一つであるフィブロネクチン中のアミノ酸塩基配列では、アルギニン-グリシン-アスパルテート(Arg-Gly-Asp、RGD)(以下、「P1」という。配列番号1)等が細胞膜のインテグリンタンパク質に結合する部位に相当し、その他にLeu-Asp-Val(LDV)(以下、「P2」という。配列番号2)、およびPro-His-Ser-Arg-Asn(PHSRN)(以下、「P3」という。配列番号3)塩基配列も同様の役割を果たすことが知られているので、これらの塩基配列で構成されるペプチドをペプトロン社(PEPTRON,INC.)に依頼して製造した。フィブロネクチンタンパク質中のRGDなどのモチーフは、インテグリンと結合して細胞-基質、細胞-細胞間の結合に作用する。RGDペプチド以外の類似ペプチドとしては、Lys-Gly-Arg-Gly-Asp-Ser(KGRGDS)(以下、「P1-1」という。配列番号4)、GRGDS(以下、「P1-2」という。配列番号5)、Gly-Gly-Pro-Glu-Ile-Leu-Asp-Val-Pro-Ser-Thr(GGPEILDVPST)(以下、「P2-1」という。配列番号6)、Glu-Ile-Leu-Asp-Val-Pro-Ser-Thr(EILDVPST)(以下、「P2-2」という。配列番号7)を製造して使用した。対照群としては、コラーゲン中のインテグリン結合モチーフに相当するアミノ酸塩基配列としてのGly-Phe-Hyp-Gly-Glu-Arg(GFOGER)(以下、「P4」という。配列番号18)、ラミニン中のインテグリン結合モチーフの1つであるアミノ酸塩基配列としてのTyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)(以下、「P5」という。配列番号19)とIle-Lys-Val-Ala-Val(以下、「P6」という。配列番号20)を製造して使用した。
【0076】
図7では、脾臓樹状細胞を培養するとき、製造したペプチドをそれぞれ200μg/mLの濃度で添加して6時間後、CD86の発現程度を測定した。各ペプチドを単独で処理した場合は、脾臓樹状細胞におけるCD86の発現が抑制されなかったが、P1、P1-2及びP2-1ペプチドを共に処理した場合は、CD86の発現が顕著に減少する結果が得られた。これらの3種のペプチドで細胞を処理した場合と比較して、2種のペプチドを共に処理した場合は発現が抑制されなかった。*はP1、P1-2及びP2-1の条件と比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0077】
図8では、脾臓樹状細胞培養液中に製造されたP3ペプチドを200μg/mLの濃度としてP1(200μg/mL)、P2(200μg/mL)と組み合わせて添加し、6時間または24時間培養した。その場合、細胞の群集形成が顕著に抑制された。これと比較して、コラーゲンやラミニンタンパク質由来のペプチドであるP4、P5及びP6の3種のペプチドを同時に添加しても群集形成が抑制されないことが示され、また、ラニミン由来のペプチドであるP5及びP6を添加しても抑制現象が示されなかった。*はNoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0078】
図9では、脾臓樹状細胞培養液にP3ペプチドと共に、P1とP2及びこれらのペプチドのアミノ酸を含有するペプチドを3種類の組み合わせで添加して6時間培養した後、CD86の発現程度をフローサイトメトリーで測定した。P3(200μg/mL)を含有しながら他の2種類のペプチドをそれぞれ200μg/mLの濃度で添加した場合、CD86の発現は全ての測定において顕著に減少した。特に、P1、P2及びP3ペプチドを添加した場合、またはP1-2、P2-1及びP3ペプチドを添加した場合には、最も顕著な抑制効果が得られた。これと比較して、P3を600μg/mLの濃度で単独処理した場合には、抑制効果が示されなかった。*はNoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0079】
図10では、脾臓樹状細胞培養液に3種類のペプチドを添加し、6時間または24時間培養した場合、CD86以外のMHC-II、CD80及びCD40の発現が抑制されるかどうかをフローサイトメトリーで測定した。その結果、フィブロネクチンと共にP1、P2及びP3ペプチドを添加した場合、またはP1-2、P2-1及びP3ペプチドを添加した場合には、これらの発現が顕著に抑制されることを確認した。これに対して、P4、P5及びP6ペプチドをそれぞれ200μg/mLの濃度で添加した場合には、抑制効果が示されず、ラミニンを単独で処理しても何の影響もなかった。*はNoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0080】
実施例5.ペプチドを添加して培養した脾臓樹状細胞におけるCD86の発現に対する蛍光染色の測定
図11では、脾臓樹状細胞(2×10/mL)を培養するとき、製造したペプチドをそれぞれ200μg/mLの濃度で添加し、6時間後にPE-結合抗CD86抗体(eBioscience)を用いて、CD86の発現程度を、蛍光染色後に共焦点顕微鏡で測定した。初代脾臓樹状細胞を一定時間培養した後、細胞内CD86、アクチン(F-actin)および核染色を行った。アクチンの発現はFITC-結合ファロイジン(phalloidin)(eBioscience)で染色し、核染色はHoescht 33342(Sigma-Aldrich)で行った。このために、48ウェルプレートで培養した細胞を4%パラホルムアルデヒド固定液に入れた後、室温で20分間固定した。
【0081】
次に、リン酸緩衝溶液で2回洗浄した後、0.1% Triton X-100(Sigma-Aldrich)溶液で常温において5分間浸透させ、リン酸緩衝溶液で2回洗浄した。非特異的染色を除去するために、0.2%ウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich)溶液で室温で20分間反応させた後、リン酸緩衝溶液で2回洗浄した。その後、CD86抗体およびファロイジン(phalloidin)を0.2%ウシ血清アルブミン溶液に1:40の割合で希釈して40分間反応させた後、Tris緩衝溶液で3回洗浄してスライドガラスに載せ、細胞の核染色のためにHoechst 33342溶液で対照染色し、カバーガラスを覆って封入した。その後、共焦点レーザー顕微鏡(K1ナノスコープ)を用いて細胞を観察した。
【0082】
実施例6.培養された脾臓樹状細胞からのTNF-αの分泌とペプチドの影響
図12では、脾臓初代樹状細胞を1×10/mLで分注し、24時間培養した後、培養液にこれらの細胞から分泌されるTNF-αの濃度を測定したところ、時間依存的に分泌が増加することが示された。TNF-αの濃度は、ELISAキット(R&D systems)を使用し、マイクロプレートリーダー(Synergy H1、Biotek)を用いて450nmで測定した。しかし、樹状細胞を2×10/mLで分注した場合、CD86の発現は増加するが、TNF-αの分泌は増加しないことが示された(結果を提出せず)。*は3hと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0083】
図13では、脾臓初代樹状細胞を1×10/mLで分注し、24時間培養しながらP1、P2及びP3のペプチドを添加するか、又はP1-2、P2-1及びP3ペプチドを添加した場合、TNF-αの分泌が顕著に減少することが示された。また、フィブロネクチンを添加して培養した場合もまた、培養液ではTNF-αがほとんど測定されず、P4、P5及びP6ペプチドをそれぞれ200μg/mLの濃度で添加した場合は、TNF-αの分泌が抑制されなかった。このことから、初代樹状細胞の活性化は、TNF-αの分泌とは直接的な関係がないと見られるが、活性化された細胞から分泌されるTNF-αの量は、フィブロネクチンやペプチドの組み合わせによって効果的に抑制されることが見られる。*は3hと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0084】
実施例7.ペプチドおよびフィブロネクチンを添加しながら培養した脾臓樹状細胞の活性化の誘導
図14では、24時間培養した脾臓初代樹状細胞のCD86の発現程度は、活性化誘導剤である大腸菌のLPSを1μg/mLの濃度で処理した場合に増加するCD86の発現程度と類似に測定され、自己活性化が起こる培養条件にLPSを追加して処理してもCD86の発現はそれ以上増加しないことが示された。フィブロネクチンを添加して培養した脾臓樹状細胞のCD86発現は、1μg/mLのLPSを処理した場合にも増加しなかったが、P1、P2及びP3のペプチドを添加するか、P1-2、P2-1及びP3のペプチドを添加して培養した、自己活性化が抑制された樹状細胞は、LPSの刺激によってCD86の発現が顕著に増加する結果が得られた。*はNoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。**は-LPSと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0085】
実施例8.ナノファイバーメンブレンで培養した脾臓樹状細胞の活性化程度とペプチドおよびLPSの影響
図15では、ポリカプロラクトン(poly-caprolactone,PCL)で製造したナノファイバーメンブレンで24時間培養した初代脾臓樹状細胞においても、培養プレートの培養条件と同様に自然活性化が起こり、CD86の発現が顕著に増加することが示された。ナノファイバー構造体は、ポリカプロラクトン(Sigma, MW 80,000)をクロロホルム溶媒に15%(w/v)の割合で添加し、この溶液(5ml)を8μl/minの紡糸速度で20cmの紡糸距離を置き、25G金属シリンジを使用して10KVの状態で電気紡糸機(Nano-NC)を用いて電気紡糸法で製造した。ポリカプロラクトンナノファイバーで培養した脾臓樹状細胞のCD86発現に対するペプチドの組み合わせおよびLPSの影響は、図14に示す培養プレートで得られた結果と類似した結果を示した。したがって、ナノファイバーメンブレンのような三次元培養条件下でも脾臓樹状細胞の自然活性化の程度は、二次元培養と類似した態様を示した。*はNoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。**は-LPSと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0086】
実施例9.ペプチドおよびフィブロネクチンを添加しながら培養した脾臓樹状細胞のサイトカイン分泌能
図16では、ペプチドの組み合わせを添加した状態で24時間培養した脾臓初代樹状細胞をLPSで刺激した場合、炎症性サイトカインおよびTh1誘発サイトカインが正常に分泌されるかを測定した結果を示した。ペプチドを添加して培養した細胞では、非活性型を維持してTNF-αおよびIL-12p40の分泌がほとんど測定されなかったが、1μg/mLのLPS処理により、培養液では高濃度で測定された。これに対して、フィブロネクチンを添加して培養した脾臓樹状細胞は、LPSで刺激を与えた場合、サイトカインを生成できないことが示された。このことから、フィブロネクチンは脾臓樹状細胞の非活性化を維持できるが、刺激剤による活性化作用を抑制する欠点があることが分かる。*は-LPSと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0087】
実施例10.骨髄由来樹状細胞の刺激剤による活性化に対するペプチドおよびフィブロネクチンの影響に関する調査
脾臓樹状細胞と比較して、骨髄由来樹状細胞(bone marrow derived DC、BMDC)をLPSで刺激した場合、ペプチドの組み合わせ及びフィブロネクチンの添加がどのように影響するかを測定した。
【0088】
マウス骨髄由来樹状細胞は、マウス骨髄前駆細胞から分化させて得た。雌C57BL/ 6マウスの大腿骨と脛骨を除去し、骨髄を、2%FBSを含有するEDTA:BSS(Balanced Salt Solution)緩衝液10mLを用いて分離した。赤血球溶解緩衝剤(Sigma Aldrich)で赤血球を除去し、EDTA:BSS緩衝液で洗浄した後、70μmのセルストレーナー(Falcon)を用いて細胞を濾過した。3×10/mLの細胞を6ウェルプレートに分注し、インターロイキン-4(20ng/mL)(JW Creagene)とGM-CSF(20ng/mL)(JW Creagene)を加えて7日間培養して細胞分化を誘導した。分化した樹状細胞は、CD11c抗体(eBioscience)が結合したマイクロビーズで反応させ、CD11c Microbeads Ultrapure(MACS、Milteni Biotec)を用いて分離した後に培養した。
【0089】
図17では、2×10/mLの骨髄由来樹状細胞を24時間培養しながら、P1、P2及びP3のペプチドをそれぞれ200μg/mLの濃度で添加するか、またはフィブロネクチンを200μg/mLの濃度で添加しながらLPS(1μg/mL)で細胞を刺激した。ペプチドを含む場合は、LPSによってCD86の発現増加が顕著に示されたが、フィブロネクチンによってはCD86の発現が起こらなかった。
【0090】
図18では、骨髄由来樹状細胞を24時間培養しながらフィブロネクチンを濃度別に投与した場合、50μg/mLの濃度からLPS(1μg/mL)によるCD86の発現増加が抑制されることが示された。*は0μg/mLの濃度と比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0091】
図19では、骨髄由来樹状細胞を24時間培養しながらフィブロネクチンを濃度別に投与した場合、100μg/mLの濃度からLPS(1μg/mL)によってTNF-α及びIL-12p40の分泌が抑制されることが示された。*は0μg/mL濃度と比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0092】
図20では、樹状細胞を含む免疫細胞および炎症細胞のToll様受容体-4に結合するLPSと比較して、構造的二重らせんRNAと類似し、Toll様受容体-3に結合する免疫刺激剤として知られているpoly(I:C)(polyinosinic:polycytidylic acid)を50μg/mLの濃度で投与した。フィブロネクチンを添加して培養した場合は脾臓樹状細胞のCD86発現の増加が抑制されたが、P1、P2及びP3のペプチドをそれぞれ200μg/mLの濃度で添加した場合は影響を受けない結果が得られた。*はNoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0093】
実施例11.ペプチドで培養した脾臓樹状細胞によるT細胞の増殖及び共培養によるサイトカイン分泌の増加
活性化された樹状細胞の主な役割は、刺激特性によって抗原別T細胞活性化と増殖を誘導することであるので、培養後自己活性化した脾臓樹状細胞とペプチドを添加しながら培養後LPSで活性化させた樹状細胞が混合リンパ球反応検査においてT細胞の増殖を誘導できるかどうかを調べた。C57B/L6マウスから分離した脾臓樹状細胞は、24時間自己活性化をさせるか、またはペプチドやフィブロネクチンを添加して培養した場合は、LPSを処理して細胞活性化をさせた。Balb/cマウスの脾臓T細胞は、CD4/CD8T細胞分離キット(Miltenyi Biotec,Bergisch-Gladbach,ドイツ)とMACSカラム(Miltenyi Biotec)を用いて分離した後、10μM CFSE(Molecular Probes;Thermo Fisher Scientific社、米国)で染色した。活性化された樹状細胞とCFSEで染色されたT細胞とを1:20の割合で4日間共培養し、T細胞の増殖程度をCFSEが減少する細胞のパーセントとして測定した。
【0094】
図21では、ペプチドやフィブロネクチンを処理していない対照群の脾臓樹状細胞と比較したところ、LPSまたはpoly(I:C)で活性化された樹状細胞は、共培養した脾臓T細胞の増殖を多少増加させ、ペプチドで処理した後に活性化させた脾臓樹状細胞もまた、効果的にT細胞の増殖を増加させた。しかし、フィブロネクチンを添加して培養した脾臓樹状細胞は、LPSによる活性化が行われず、T細胞の増殖を誘導できない結果が得られた。*は、未処理(untreated)sDCと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。図22では、脾臓樹状細胞とT細胞とを4日間共培養した後、分泌されたサイトカインの量をELISA法で測定した。対照群やペプチドを添加して培養しながらLPSおよびpoly(I:C)で活性化された樹状細胞とT細胞とを共培養した場合は、高濃度のインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)、TNF-α、IL-6及びIL-5を分泌したが、フィブロネクチンを添加した状態で活性化された脾臓樹状細胞とT細胞とを共培養した場合は、サイトカインの分泌が極めて少なかった。*は、未処理(untreated)sDCと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0095】
実施例12.ペプチドで培養した脾臓樹状細胞の生存率の増加
樹状細胞は、自己活性化が起こり、培養中に細胞死滅が急激に起こる特徴がある。自己活性化の抑制とともに樹状細胞の生存率が変化するかを測定した。細胞の生存率は、7-AADで染色した細胞を培養しながら蛍光で染色されない細胞の数をフローサイトメトリーで測定した。
【0096】
図23では、脾臓樹状細胞は6時間培養で顕著に細胞生存率が減少するが、P1、P2及びP3のペプチドやフィブロネクチンを添加して培養した場合には、7-AAD陰性の生存細胞数が顕著に増加することが示された。*は、未処理(untreated)sDCと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を示す。
【0097】
実施例13:培養された初代樹状細胞におけるCD86の発現に対する3種のペプチドで構成されるリンカーペプチド(linker peptide)の影響の測定
リンカーとしては、アミノ酸リンカーであるGSとフレキシブルリンカー(flexible linker)であるGGGSGGGSを3種のペプチドであるRGD(P)、LDV(P)及びPHSRN(P)の連結に使用し、PHSRNGSRGDGSLDV(「LP」という。配列番号12)、PHSRNGGGSRGDGGGSLDV(「LP」という。配列番号13)、PHSRNGGGSGGGSRGDGGGSLDV(「LP」という。配列番号14)を製造した。リンカーペプチドは、ペプトロン社(PEPTRON,INC.、韓国テジョン市)に製造を依頼し、SHIMADZU LCMS-2020として製造された。対照群としては、P、P及びPペプチドを構成するアミノ酸の配列を混ぜたスクランブル(scrambled)ペプチドであるS-P(配列番号15)、S-P(配列番号16)およびS-P(配列番号17)と、これらのスクランブル(scrambled)ペプチドで構成されるリンカーペプチドS-LP(配列番号21)、S-LP(配列番号22)、S-LP(配列番号23)を製造して使用した。スクランブル(scrambled)ペプチドやスクランブル(scrambled)リンカーペプチドは、元のペプチドと同じアミノ酸数、分子量、等電点(isoelctric point)および親水性を有する。これらのペプチドの配列を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
図24では、様々な濃度のLP、LP及びLPを800μg/mLの濃度まで添加し、脾臓樹状細胞(2×10/mL)を6時間又は24時間培養した後、CD86の発現程度をフローサイトメトリー(MACSQuant VYB flow cytometer,Miltenyi Biotec)で測定した。測定結果は、FlowJo v10(Tree Star、Ashland)を用いて分析した。培養後の自己活性化によって増加するCD86の発現増加は、LP、LP及びLPによって濃度依存的に抑制され、LPの方が最も大きい自己活性抑制効果を示した。*はnoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を有する。
【0100】
図25では、脾臓初代樹状細胞を2×10/mLで分注し、24時間培養しながら、スクランブル(scrambled)ペプチドであるS-LP、S-LP及びS-LPのペプチドをそれぞれ800μg/mLの濃度で添加した場合には、CD86の発現増加が抑制されないことが示された。また、スクランブル(scrambled)ペプチドであるS-P、S-P及びS-Pのペプチドをそれぞれ600μg/mLの濃度で同時に処理した場合でも、CD86の発現は減少しなかった。
【0101】
実施例14.リンカーペプチドを添加して培養した脾臓樹状細胞におけるCD86の発現に対する蛍光染色の測定
図26では、脾臓樹状細胞(2×10/mL)を48ウェルプレートに分注し、リンカーペプチドをそれぞれ400μg/mLの濃度で添加して24時間培養した。培養液にLPSを1μg/mL加えて脾臓樹状細胞の活性化を誘導した。培養した細胞は、4%パラホルムアルデヒド固定液に入れた後、室温で20分間固定した。PE-結合抗CD86抗体(eBioscience)を用いて蛍光染色した後、共焦点顕微鏡(K1 NanoScope、Seoul)で測定した。細胞内アクチンの発現は、FITC-結合ファロイジン(phalloidin)(eBioscience)で染色し、核染色はHoescht 33342(Sigma-Aldrich)で行った。CD86抗体およびファロイジン(phalloidin)を0.2%ウシ血清アルブミン溶液に1:40の割合で希釈して使用した。培養液で脾臓樹状細胞のみを培養した場合は、CD86の発現が顕著に増加したが、フィブロネクチンや3種のペプチドを添加した場合に加えて、リンカーペプチドであるLP、LP及びLPを添加した場合は、CD86を発現する細胞がほとんど観察されなかった。LPSを添加した場合、フィブロネクチンを含む場合はCD86を発現する細胞がほとんど測定されなかったが、3種のペプチドの組み合わせ(P+P+P)やリンカーペプチドを添加して培養した場合は、LPSの処理によってCD86を発現する細胞の数が顕著に増加した。
【0102】
実施例15:培養された脾臓樹状細胞からのTNF-αの分泌に対するリンカーペプチドの影響
図27では、脾臓初代樹状細胞を2×10/mLで分注し、24時間培養した場合、培養液に分泌されるTNF-αの濃度測定には、ELISAキット(R&D systems)を用いた。濃度は、マイクロプレートリーダー(Synergy H1、Biotek)を用いて450nmで測定した。樹状細胞のみを培養した場合、TNF-αの濃度は75±10pg/mLと測定され、LPS刺激によって顕著に増加した。フィブロネクチン、3種のペプチドの組み合わせ(P+P+P)、リンカーペプチドであるLP、LP及びLPを添加した場合には、TNF-αの分泌がほとんど起こらなかった。LPSを処理した場合には、フィブロネクチンと比較して3種のペプチドの組み合わせ(P+P+P)と同様にリンカーペプチドが添加されてもTNF-αの分泌が顕著に増加した。*はnoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性を有する。
【0103】
実施例16.リンカーペプチドで培養した脾臓樹状細胞によるT細胞の活性化の測定
図28では、培養時、リンカーペプチドによる自己活性化が起こらない脾臓樹状細胞と、これらの細胞をLPSで活性化させた樹状細胞がT細胞の増殖を誘導できるかを調べた。脾臓樹状細胞(2×10)は、96ウェルプレートで24時間自己活性化させるか、またはリンカーペプチドを添加して自己活性を抑制した後、LPSで処理しないか、またはLPSで24時間刺激した。樹状細胞は、10μMのオボアルブミン(ovalbumin、OVA)ペプチドSIINFEKL(InvivoGen、San Diego、California、USA)で1時間培養した。CD8 T細胞は、OT-IトランスジェニックマウスからCD8 T細胞分離キット(Miltenyi Biotec)で分離し、10μMのカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(carboxyfluorescein succinimidyl ester,CFSE)で10分間蛍光染色した。CD8 T細胞(1×10)とOVAペプチドを処理したDCs(5×10)を1:20の割合で4日間共培養した後、T細胞の増殖程度をCFSE蛍光染色が陰性である細胞の%で測定した。
【0104】
自己活性化が起こった樹状細胞は、LPSを処理しなかった場合、T細胞の増殖を誘導しなかった。LPSで刺激させた場合、自己活性化された細胞やフィブロネクチンで培養した樹状細胞は、T細胞の増殖を誘導する能力が非常に弱かったが、3種のペプチドの組み合わせやリンカーペプチドで培養した樹状細胞は、T細胞の増殖を顕著に増加させた。
【0105】
図29では、T細胞増殖の測定と同様の条件下で脾臓樹状細胞とT細胞を4日間共培養した後、培養液に分泌されたインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)とTNF-αの濃度をELISA法で測定した。自己活性化された樹状細胞は、LPSで刺激した後にT細胞と共培養した場合、2.5倍程度のインターフェロン-ガンマとTNF-αを分泌したが、3種のペプチドの組み合わせを添加して培養するか、またはLP、LP、LPリンカーペプチドで培養した樹状細胞は、LPSで刺激した後にT細胞と共培養した場合、サイトカインの分泌が4.5倍以上増加した。*はnoneと比較してP<0.05以下であり、統計的有意性がある。
図1
図2
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図5
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図28
図29
【配列表】
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