(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】卵黄組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20250319BHJP
【FI】
A23L15/00 A
(21)【出願番号】P 2024069630
(22)【出願日】2024-04-23
【審査請求日】2024-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399027004
【氏名又は名称】イセデリカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 薫
(72)【発明者】
【氏名】冨田 流衣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲橋▼ 三省
(72)【発明者】
【氏名】北林 菜穂
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-105641(JP,A)
【文献】特開2019-187265(JP,A)
【文献】特開2012-239420(JP,A)
【文献】特開2015-096035(JP,A)
【文献】特開2002-262832(JP,A)
【文献】特開2019-097466(JP,A)
【文献】特開平10-052242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として卵黄を含む容器入り卵黄液を、熱水でシャワーリングすることにより加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後に冷却処理を行う、冷却工程と、を備え、
ペースト状の卵黄組成物を得るものであり、
前記容器入り卵黄液の卵黄含量が、生換算で80質量%以上であり、
前記加熱工程は、0.5~4℃/分の速度で最高温度まで到達させる一次加熱工程と、前記最高温度で10~30分保持する二次加熱工程を含み、前記最高温度は67~70℃であり、
前記冷却工程は、3℃以上25℃以下で30分以上冷却することを含み、
前記卵黄を含む原料を冷凍する工程を含まない、卵黄組成物の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程は、温度を段階的に降下させ、一次冷却温度で保持する一次冷却工程と、前記一次冷却温度よりも低い二次冷却温度で保持する二次冷却工程を含み、
前記一次冷却温度は16~25℃であり、前記二次冷却温度は3~15℃である、請求項1に記載の卵黄組成物の製造方法。
【請求項3】
前記卵黄組成物は、下記の測定方法により、クリープメータを用いて測定された硬度が、0.5~1.0Nである、請求項2に記載の卵黄組成物の製造方法。
(測定方法)
品温25℃の卵黄組成物を、直径40mm、高さ15mmの充填容器に充填し、直径16mmの円柱プランジャーを1mm/sの速度で10mm侵入させたときの最大荷重(N)を硬度とする。
【請求項4】
前記容器入り卵黄液の卵黄含量が、生換算で90質量%以上である、請求項1に記載の卵黄組成物の製造方法。
【請求項5】
前記卵黄組成物は、容器に封入された容器入り卵黄組成物であり、
前記容器入り卵黄組成物の質量は、前記容器の質量を除き、300~1000gである、請求項1~4の何れか一項に記載の卵黄組成物の製造方法。
【請求項6】
前記一次冷却工程において、温度降下の速度は0.3~3℃/分であり、かつ、前記一次冷却温度で保持する時間は5~30分であり、
前記二次冷却工程における冷却時間は、30分以上である、請求項2又は3に記載の卵黄組成物の製造方法。
【請求項7】
前記卵黄液は、ゲル化剤及びエタノールを実質的に含まない、請求項1~4の何れか一項に記載の卵黄組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄組成物の製造方法、及び卵黄組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、味付けや粘性等を付与した加工卵黄が開発されており、ソースや具材として広く用いられている。
特許文献1には、卵黄に調味料を加えて撹拌した卵黄組成物を超高圧加工後、冷凍処理する、具材用卵黄加圧ゲルの製造方法が記載されている。特許文献2には、卵黄及びエタノールを含む卵黄スラリーを加熱及び冷凍する工程を含む、加工卵黄組成物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-038287号公報
【文献】特開2019-187265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術にかかる卵黄組成物は、卵黄の粘性を高めるために、別途加圧や冷凍処理を行う必要があった。また、得られた卵黄組成物は、粘度がそれほど高くなく、おにぎり等の具材として用いた場合に液だれしやすいという問題があった。
【0005】
このような事情に鑑み、本発明は、流動性が低く、具材等の加工に適した物性の卵黄組成物を製造するための技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本願発明、及びその好ましい形態は、以下の通りである。
[1]主として卵黄を含む容器入り卵黄液を、熱水でシャワーリングすることにより加熱する加熱工程を備える、卵黄組成物の製造方法。
上記本発明によれば、流動性が低く、具材等の加工に適した物性の卵黄組成物を製造することができる。
【0007】
[2]前記加熱工程後に冷却処理を行う、冷却工程を含む、[1]に記載の卵黄組成物の製造方法。
上記形態とすることで、適度な粘弾性を有する卵黄組成物を得ることができる。
【0008】
[3]前記卵黄組成物は、下記の測定方法により、クリープメータを用いて測定された硬度が、0.5N以上である、[1]又は[2]に記載の卵黄組成物の製造方法。
(測定方法)
品温25℃の卵黄組成物を、直径40mm、高さ15mmの充填容器に充填し、直径16mmの円柱プランジャーを1mm/sの速度で10mm侵入させたときの最大荷重(N)を硬度とする。
上記実施形態にかかる本発明によれば、得られる卵黄組成物は、流動性が低く、液だれしにくいという特徴を有する。
【0009】
[4]前記容器入り卵黄液の卵黄含量が、生換算で90質量%以上である、[1]~[3]の何れか一つに記載の卵黄組成物の製造方法。
【0010】
[5]前記卵黄組成物は、容器に封入された容器入り卵黄組成物であり、前記容器入り卵黄組成物の質量は、前記容器の質量を除き、300g以上である、[1]~[4]の何れか一つに記載の卵黄組成物の製造方法。
かかる実施形態によれば、容器1個あたりの質量が300g以上もの卵黄組成物を製造でき、大容量の容器入り卵黄組成物を簡便かつ効率よく製造することができる。
【0011】
[6]前記加熱工程は、4℃/分以下の速度で最高温度まで到達させる一次加熱工程と、前記最高温度で15~30分保持する二次加熱工程を含む、[1]~[5]の何れか一つに記載の卵黄組成物の製造方法。
かかる形態とすることで、卵黄を均一に熱変性することができ、均質で、液だれの抑制された卵黄組成物を得ることができる。
【0012】
[7]前記卵黄液は、ゲル化剤及びエタノールを実質的に含まない、[1]~[6]の何れか一つに記載の卵黄組成物の製造方法。
かかる形態の本発明では、ゲル化剤等の添加物の量が微量、または該添加物を実質的に含まない卵黄組成物を得ることができる。
【0013】
[8]主として卵黄を含み、下記の測定方法により、クリープメータを用いて測定された硬度が0.5N以上である、卵黄組成物。
(測定方法)
品温25℃の卵黄組成物を、直径40mm、高さ15mmの充填容器に充填し、直径16mmの円柱プランジャーを1mm/sの速度で10mm侵入させたときの最大荷重(N)を硬度とする。
上記の本発明は、流動性が低く、液だれが抑制された組成物である。
【0014】
[9]容器に封入された容器入り卵黄組成物である、[8]に記載の卵黄組成物。
【0015】
[10]前記卵黄を生換算で90質量%以上含む、[8]又は[9]に記載の卵黄組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流動性が低く、具材等の加工に適した物性の卵黄組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる卵黄組成物の製造方法の工程を示す工程図である。
【
図2】試験例1における、冷却工程後の容器入り卵黄組成物の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の卵黄組成物の製造方法、及び卵黄組成物について説明するが、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0019】
<卵黄組成物の製造方法>
本発明の卵黄組成物の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)は、主として卵黄を含む容器入り卵黄液を、熱水でシャワーリングすることにより加熱する加熱工程を含む。
以下、本発明の製造方法の好ましい実施形態について、
図1を参照し説明する。
【0020】
図1に示す通り、一実施形態では、本発明の製造方法は、主として卵黄を含む卵黄液を調製する調製工程S1と、該卵黄液を容器に封入する封入工程S2と、容器に封入された容器入り卵黄液を、熱水でシャワーリングすることにより加熱する加熱工程S3と、加熱工程S3後に冷却処理を行う冷却工程S4を備える。
以下、各工程の詳細を説明する。
【0021】
(1)調製工程S1
調製工程S1は、主として卵黄を含む卵黄液を取得する工程である。
【0022】
卵黄液は、主として卵黄を含む液状組成物である。
本発明において、「主として卵黄を含む」とは、卵黄の含有量(生の質量換算)が、卵黄液(すなわち、卵黄組成物)を構成する原料の中で最も多い場合をいう。かかる場合の具体例として、卵黄液が液卵黄のみで構成されている場合も含む。
【0023】
本発明において、卵黄液は、卵黄スラリーであってもよい。
【0024】
卵黄液における卵黄の含有量は、生換算で好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0025】
卵黄液に使用する卵黄は、食用の鳥類卵であることが好ましく、例えば、鶏、ウズラ、アヒル等が挙げられる。本発明では、鶏卵を用いることが好ましい。具体的には、鶏卵を割卵し、卵白を分離したもの(生卵黄)、殺菌液卵黄、凍結卵黄、粉末卵黄、又はその水戻し品、リパーゼ等の酵素処理卵黄などを使用できる。本発明では、生卵黄、又は殺菌液卵黄を用いることが好ましい。
【0026】
卵黄液は、卵黄以外の添加物を含んでもよい。例えば、添加物として、調味料、酢酸ナトリウム・グリシン等の日持ち向上剤、保存料、pH調整剤、及び制菌剤を添加することができる。
添加する調味料としては、味噌、醤油、みりん、食塩、だし、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等の酸味料、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、卵黄油等の食用油脂類、グルタミン酸ナトリウム、アミノ酸等の旨味調味料等、任意の成分を1種又は2種以上混合させたものを用いることができる。
【0027】
一実施形態では、卵黄液は、ゲル化剤の含有量が、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましく、ゲル化剤を実質的に含まないことが特に好ましい。このようなゲル化剤としては、アルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、カッパーカラギーナン等のカルシウム反応性のゲル化剤が例示できる。
また一実施形態では、卵黄液は、エタノールの含有量が、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましく、エタノールを実質的に含まないことが特に好ましい。
また一実施形態では、卵黄液は、ゲル化剤及びエタノールの含有量が、合計で1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましく、ゲル化剤及びエタノールを実質的に含まないことが特に好ましい。
本発明の製造方法によれば、上記の添加物を含まなくとも、流動性が低く液だれしにくい卵黄組成物を製造することができる。そのため、本発明の製造方法によれば、添加物が少なく、卵黄の含有量の多い卵黄組成物を提供することができる。
【0028】
なお、本発明において、「実質的に含まない」とは、卵黄組成物を製造する際に、上記のゲル化剤やエタノール等の成分を卵黄液に積極的に添加しないことを意味し、卵黄組成物の製造に用いる原料に微量に含まれる場合等、卵黄組成物の製造の際に当該成分が不可避的に混入する態様を包含する。
【0029】
卵黄液は、卵黄(好ましくは液卵)、及び任意の添加物を添加し、撹拌機で撹拌することにより取得できる。調製工程S1では、撹拌羽根の回転速度が好ましくは200rpm以下、より好ましくは150rpm以下、さらに好ましくは120rpm以下、具体的には50~200rpm、より好ましくは100~200rpmとなるように、原料を撹拌することが好ましい。
かかる形態とすることで、気泡を含有しない、均一で滑らかな卵黄液を得ることができる。
【0030】
(2)封入工程S2
封入工程S2は、調製工程S1で得られた卵黄液を容器に封入する工程である。封入工程S2では、卵黄液を液密となるように容器内に封入することが好ましく、卵黄液を密閉容器に密封することがより好ましい。
【0031】
本発明に使用する容器は、特に限定されず、硬質のプラスチック、軟質のプラスチック等の任意の素材を用いることができるが、軟質のプラスチックを用いることが好ましい。
本発明では、容器としてナイロンポリ袋を用いることが好ましい。具体的には、容器の素材は、ナイロンのラミネートフィルムであることがより好ましく、ナイロン/ポリエチレンフィルムであることがさらに好ましく、ONY(二軸延伸ナイロンフィルム)/LLDPE(リニアー低密度ポリエチレン)であることがさらに好ましい。
かかる形態の容器を用いることで、加熱工程における熱の伝導が均一となり、より均質な卵黄組成物を得ることができる。
【0032】
容器の接着の手段は、特に限定されず、接着剤による接着や熱溶着(ヒートシール)を採用できる。
【0033】
(3)加熱工程S3
加熱工程S3は、容器入り卵黄液を熱水でシャワーリングすることにより加熱する工程である。
シャワーリングにより加熱することで、卵黄の変性が均一に進行するため、好ましい粘度まで変性した卵黄組成物を簡便に製造することができる。
また、容器ごと卵黄液を加熱するため、得られた卵黄組成物を別途分注する必要がなく、個包装の容器入り卵黄組成物を容易に得ることができる。
【0034】
加熱工程S3における加熱温度は、使用機器の種類等を考慮して適宜変更することができる。一実施形態では、加熱温度の下限は、好ましくは65℃以上、より好ましくは66℃以上とすることができる。また、加熱温度の上限は、好ましくは70℃以下、より好ましくは68℃以下とすることができる。また、加熱温度の範囲は、好ましくは65~70℃、より好ましくは66~68℃の範囲で調節することができる。
なお、本発明において、加熱温度は、雰囲気温度のことを指す。具体的には、加熱温度は、加熱装置内の庫内温度、すなわち加熱装置の設定温度のことを指す。
【0035】
加熱工程S3における加熱時間も適宜調節することができ、加熱時間の下限は、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは40分以上とすることができる。また、加熱時間の上限は、好ましくは60分以下、さらに好ましくは50分以下、さらに好ましくは45分以下とすることができる。また、加熱時間の範囲は、好ましくは20~60分間、より好ましくは30~50分間、さらに好ましくは40~45分間とすることができる。
かかる形態とすることで、所望の硬さまで熱変性した卵黄組成物を得ることができる。
【0036】
なお、加熱工程S3における加熱時間とは、温度上昇を開始してから、温度降下を開始するまでの時間である。
【0037】
加熱工程S3は、温度を最高温度まで到達させる一次加熱工程S31と、最高温度で温度を保持する二次加熱工程S32を含むことが好ましい。
かかる形態とすることで、卵黄を均一に熱変性することができる。
【0038】
一次加熱工程S31における温度上昇の速度は、4℃/分以下であることが好ましく、3℃/分以下であることがより好ましく、2℃/分以下であることがさらに好ましい。具体的には、一次加熱工程における温度上昇率は、0.5~4℃/分であることが好ましく、0.8~3℃/分であることがより好ましく、1~2℃/分であることがさらに好ましい。
上記の温度上昇速度とすることで、卵黄を均一に熱変性することができ、より均質で、液だれの抑制された卵黄組成物を得ることができる。
なお、本発明において、温度上昇の速度は、雰囲気温度の上昇速度のことを指す。具体的には、温度上昇の速度は、加熱装置内の温度の上昇速度のことを指す。
【0039】
一次加熱工程S31における加熱時間は、15分以上であることが好ましく、20分以上であることがより好ましく、22分以上であることがさらに好ましい。また、一次加熱工程S31の加熱時間は、30分以下であることが好ましく、28分以下であることがより好ましく、26分以下であることがさらに好ましい。また、一次加熱工程S31の加熱時間は、15~30分であることが好ましく、20~28分であることがより好ましく、22~26分であることがさらに好ましい。
上記の加熱時間とすることで、卵黄を適度に熱変性させ、具材としての使用に適した物性の卵黄組成物を得ることができる。
【0040】
なお、一次加熱工程S31における加熱時間とは、温度上昇を開始してから、最高温度に到達するまでの時間である。
【0041】
加熱工程S3における最高温度の下限は、好ましくは67℃以上、より好ましくは68℃以上である。該最高温度の上限は、好ましくは70℃以下、さらに好ましくは69℃以下である。該最高温度の範囲は、好ましくは67~70℃、さらに好ましくは68~69℃である。
上記の最高温度とすることで、卵黄を所望の硬さまで熱変性させることができる。
なお、本発明において、最高温度とは、雰囲気温度、すなわち加熱装置内の温度のことを指す。
【0042】
二次加熱工程S32の加熱時間の下限は、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、18分以上であることがさらに好ましい。二次加熱工程S32の加熱時間の上限は、30分以下であることが好ましく、28分以下であることがより好ましく、25分以下であることがさらに好ましい。二次加熱工程S32の加熱時間の範囲は、10~30分であることが好ましく、15~28分であることがより好ましく、18~25分であることがさらに好ましい。
上記の加熱時間とすることで、卵黄を適度に熱変性させ、具材としての使用に適した卵黄組成物を得ることができる。
【0043】
なお、二次加熱工程S32における加熱時間とは、最高温度で保持する時間である。
【0044】
(4)冷却工程S4
冷却工程S4は、加熱工程S3後に冷却処理を行う工程である。冷却工程S4を含むことで、適度な粘弾性を有する卵黄組成物を得ることができる。
冷却方法は特に限定されず、自然冷却、冷蔵冷却、水中冷却等が挙げられる。本発明では、冷却水でシャワーリングすることにより冷却することが好ましい。
【0045】
また、冷却工程S4では、容器ごと冷却処理を行うことが好ましい。
【0046】
冷却工程S4は、好ましくは25℃以下、より好ましくは23℃以下、さらに好ましくは20℃以下で冷却する工程を含むことが好ましい。また、一実施形態では、冷却工程S4は、好ましくは15℃以下、より好ましくは13℃以下、さらに好ましくは10℃以下で冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却温度の下限値は特に限定されないが、得られる卵黄組成物が凍結しない温度であることが好ましく、例えば、3℃以上、又は4℃以上である。
なお、本発明において、冷却温度は、雰囲気温度のことを指す。具体的には、冷却温度は、冷却装置内の庫内温度、すなわち冷却装置の設定温度のことを指す。
【0047】
冷却工程S4における冷却時間は特に限定されないが、該冷却温度の下限は、30分以上であることが好ましく、40分以上であることがより好ましく、45分以上であることがより好ましく、60分以上であることがさらに好ましい。
なお、冷却工程S4における冷却時間とは、加熱工程S3後、温度降下を開始からの、冷却時間の合計時間である。
【0048】
冷却工程S4は、温度を段階的に降下させ、一次冷却温度で保持する一次冷却工程S41と、前記一次冷却温度よりも低い二次冷却温度で保持する二次冷却工程S42を含むことが好ましい。
【0049】
一次冷却工程S41における冷却時間の下限は、20分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましく、40分以上であることがさらに好ましい。一次冷却工程S41の冷却時間の上限は、75分以下であることが好ましく、60分以下であることがより好ましく、55分以下であることが好ましく、50分以下であることがより好ましく、48分以下であることがさらに好ましい。一次冷却工程S41の冷却時間の範囲は、20~75分であることが好ましく、20~60分であることがより好ましく、20~55分であることがより好ましく、30~50分であることがより好ましく、40~48分であることがさらに好ましい。
上記の冷却時間とすることで、卵黄組成物の粘弾性を高めることができる。
【0050】
なお、一次冷却工程S41における冷却時間とは、温度降下を開始してから、一次冷却温度での保持が完了するまでの時間である。
【0051】
一次冷却工程S41における温度降下の速度の上限は、3℃/分以下であることが好ましく、2℃/分以下であることがより好ましく、1.5℃/分以下であることがさらに好ましい。具体的には、一次冷却工程S41における温度降下の速度は、0.3~3℃/分であることが好ましく、0.5~2℃/分であることがより好ましく、0.8~1.5℃/分であることがさらに好ましい。
上記の温度降下の速度とすることで、より液だれしにくい物性の卵黄組成物を得ることができる。
なお、本発明において、温度降下の速度は、雰囲気温度の降下速度のことを指す。具体的には、温度降下の速度は、加熱装置内の温度の降下速度のことを指す。
【0052】
一次冷却工程S41において、温度を一次冷却温度まで降下させる時間(温度降下時間)は、15分以上であることが好ましく、20分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。該温度降下時間は、45分以下であることが好ましく、40分以下であることがより好ましく、38分以下であることがさらに好ましい。該温度降下時間は、15~45分であることが好ましく、20~40分であることがより好ましく、30~38分であることがさらに好ましい。
上記形態とすることで、より液だれしにくい物性の卵黄組成物を得ることができる。
【0053】
一次冷却工程S41における一次冷却温度は、16℃以上であることが好ましく、17℃以上であることがより好ましく、18℃以上であることがさらに好ましい。一次冷却温度は、25℃以下であることが好ましく、23℃以下であることがより好ましく、22℃以下であることがさらに好ましい。一次冷却温度は、16~25℃であることが好ましく、17~23℃であることがより好ましく、18~22℃であることがさらに好ましい。
上記の一次冷却温度とすることで、より液だれしにくい物性の卵黄組成物を得ることができる。
【0054】
一次冷却工程S41における一次冷却温度で保持する時間(一次冷却温度の保持時間)の下限は、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、13分以上であることがさらに好ましい。一次冷却温度の保持時間の上限は、30分以下であることが好ましく、25分以下であることがより好ましく、20分以下であることがさらに好ましい。一次冷却温度の保持時間の範囲は、5~30分であることが好ましく、10~25分であることがより好ましく、13~20分であることがさらに好ましい。
一次冷却温度の保持時間を上記形態とすることで、より液だれしにくい物性の卵黄組成物を得ることができる。
【0055】
二次冷却工程S42では、一次冷却工程S41後、温度を一次冷却温度より低い温度(二次冷却温度)で冷却する。
二次冷却温度は、15℃以下であることが好ましく、13℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましく、8℃以下であることがさらに好ましい。二次冷却温度の下限値は特に限定されないが、好ましくは3℃以上、より好ましくは4℃以上である。具体的には、二次冷却温度は、3~15℃であることが好ましく、4~13℃であることがより好ましく、4~8℃であることがさらに好ましい。
上記の二次冷却温度とすることで、より液だれしにくい物性の卵黄組成物を得ることができる。
【0056】
二次冷却工程S42における冷却時間は、好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。一実施形態では、該冷却温度は、好ましくは50分以上、より好ましくは65分以上、さらに好ましくは75分以上、さらに好ましくは80分以上としてもよい。該冷却時間の範囲は、好ましくは15~200分、より好ましくは20~180分、さらに好ましくは30~150分、さらに好ましくは50~130分、さらに好ましくは80~120分、さらに好ましくは75~100分、さらに好ましくは60~95分である。
上記の冷却時間とすることで、より液だれしにくい物性の卵黄組成物を得ることができる。
【0057】
なお、二次冷却工程S42における冷却時間とは、二次冷却温度での冷却開始からの、冷却時間の合計時間である。
【0058】
一実施形態では、本発明の製造方法は、加熱工程S3において、加圧処理を行わない形態であってもよい。また、一実施形態では、原料を冷凍する工程を含まない形態であってもよい。冷凍する工程とは、原料を0℃以下、例えば-10℃以下で冷凍する工程が挙げられる。かかる形態の本発明の製造方法によれば、加圧や冷凍等を行う装置を用いることなく、より簡便な方法で、流動性が低く液だれしにくい、具材としての使用性に優れた卵黄組成物を製造することができる。
【0059】
<卵黄組成物>
本発明の卵黄組成物は、部分的にゲル化した、ペースト状の組成物である。
本発明の卵黄組成物は、好ましくは本発明の製造方法により得られた卵黄組成物である。また、本発明の卵黄組成物は、密閉容器に封入された容器入り卵黄組成物であることが好ましい。
本発明の卵黄組成物の成分組成の好ましい形態は、上記<卵黄組成物の製造方法>における卵黄液に記載の通りである。また、容器の好ましい形態も、上述の通りである。
【0060】
一実施形態では、本発明の卵黄組成物は、ゲル化剤の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましく、ゲル化剤を実質的に含まないことが特に好ましい。このようなゲル化剤としては、アルギン酸塩、ローメトキシルペクチン、カッパーカラギーナン等のカルシウム反応性のゲル化剤が例示できる。
また、本発明の卵黄組成物は、エタノールの含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましく、エタノールを実質的に含まないことが特に好ましい。
また、本発明の卵黄組成物は、ゲル化剤及びエタノールの含有量が、合計で1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましく、ゲル化剤及びエタノールを実質的に含まないことが特に好ましい。
【0061】
一実施形態では、容器入り卵黄組成物の質量は、密閉容器の質量を除き、好ましくは300g以上、より好ましくは400g以上、さらに好ましくは450g以上、さらに好ましくは500g以上である。具体的には、容器入り卵黄組成物の質量は、容器の質量を除き、好ましくは300~1000g、より好ましくは400~800g、さらに好ましくは450~600g、さらに好ましくは500~600gとすることができる。
本発明の製造方法では、容器入り卵黄組成物を簡便かつ効率よく製造することができる。
【0062】
本発明の卵黄組成物は、下記の測定方法により、クリープメータを用いて測定された硬度が、好ましくは0.5N以上、より好ましくは0.53N以上、さらに好ましくは0.55N以上である。
上記形態の卵黄組成物は、流動性が低く、液だれしにくいため、具材としての使用性に優れる。
(測定方法)
品温25℃の卵黄組成物を、直径40mm、高さ15mmの充填容器に充填し、直径16mmの円柱プランジャーを1mm/sの速度で10mm侵入させたときの最大荷重(N)を硬度とする。
なお、上記の測定方法において使用するクリープメータは、株式会社山電製(型番:RE2-33005C)のものを使用することができる。
【0063】
卵黄組成物の前記硬度は、好ましくは1.0N以下、より好ましくは0.9N以下、さらに好ましくは0.8N以下、さらに好ましくは0.7N以下である。
また、卵黄組成物の前記硬度は、好ましくは0.5~1.0N、より好ましくは0.53~0.8N、さらに好ましくは0.55~0.7Nである。
上記形態の卵黄組成物は、適度な粘弾性を有し、具材としての使用性に優れる。
【0064】
なお、上記の卵黄組成物の硬度は、容器入り卵黄組成物内の物性を正しく評価する観点から、複数回測定した硬度の平均値とすることが好ましく、10回測定した硬度の平均値とすることがより好ましい。
【0065】
本発明の卵黄組成物は、チルド(0~15℃)で流通保管することができる。
【0066】
本発明の卵黄組成物は、具材に加工して用いることができる。例えば、米飯、特におにぎりや、パン、麺類などの具材として用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0068】
<製造例1>
未殺菌ろ過卵黄95質量%、調味液3質量%、及び制菌剤(酢酸ナトリウム・グリシン・氷酢酸製剤)2質量%を、撹拌羽根の撹拌速度110rpmで30秒間撹拌後、得られた卵黄液を500gずつナイロン製ポリ袋に充填し、密封した。
袋に封入された状態で、シャワー式レトルト加熱機により、下記の温度条件(加圧処理なし)で卵黄液の加熱及び冷却を行った。加熱及び冷却は、熱水又は冷却水によるシャワーリングにより実施した。
[加熱・冷却条件]
・68℃まで、25分間かけて昇温(一次加熱工程)
・68℃で20分間保持(二次加熱工程)
・30分間かけて温度を20℃まで降下させ、20℃で15分保持(一次冷却工程)
・8℃以下で90分保持(二次冷却工程)
【0069】
得られた卵黄組成物は、流動性が低く、おにぎり等の具材とした場合に液だれが抑制されたものであった。
【0070】
<試験例1>
未殺菌ろ過卵黄98質量%、及び制菌剤(酢酸ナトリウム・グリシン・氷酢酸製剤)2質量%を、上記製造例1と同様に撹拌混合し、得られた卵黄液を500gずつナイロン製ポリ袋に充填し、密封した。
【0071】
得られた袋入り卵黄液を、下記の条件で加熱及び冷却することで、卵黄組成物を得た。
・実施例1
シャワー式レトルト殺菌機を用いて、製造例1と同様の条件で加熱及び冷却を行った。
・比較例1
ボイル加熱機を用いて、70℃で20分間加熱を行った。その後、10℃以下で30分間冷却を行った。
【0072】
得られた実施例1及び比較例1の卵黄組成物について、クリープメータ(株式会社山電製、RE2-33005C)を用いて、以下の測定方法により硬度の測定を行った。
(測定方法)
品温25℃の卵黄組成物を、直径40mm、高さ15mmの充填容器に充填し、直径16mmの円柱プランジャーを1mm/sの速度で10mm侵入させたときの最大荷重(N)を、硬度とした。
【0073】
硬度の測定は、実施例1及び比較例1について、各2袋分行った(n=2)。また、1袋あたり10回、卵黄組成物を入れ替えて硬度(N)を測定した。結果を、表1に示す。
【0074】
【0075】
表1の通り、ボイル式加熱と比して、シャワー式加熱の方が測定した硬度の平均値が大きかった。また、硬度差は、シャワー式加熱が平均比73~123%に収まるのに対し、ボイル式加熱は55~148%となった。すなわち、ボイル式加熱では、袋内で不均一に卵黄が変性し、ゲル化の進行にばらつきが大きいことが分かった。
また、2つの検体の平均硬度の差は、シャワー式加熱が0.05、ボイル式加熱が0.14となり、シャワー式加熱の方が、硬度差が生じにくかった。
【0076】
なお、実施例1及び比較例1の卵黄組成物は、粘性が高く、B型粘度計による粘度の測定は不可能であった。
【0077】
また、
図2は、冷却後の容器入り卵黄組成物の状態を示し、右は袋に切れ込みを入れた状態、左は袋から卵黄組成物を絞り出した後の状態を示す。シャワー式加熱の場合には、袋内の卵黄組成物が均一に変性しており、袋に切れ込みを入れても卵黄組成物は流れ出てこなかった。一方、ボイル式加熱の場合には、卵黄組成物が均一に変性せず、袋周辺部では変性による部分的なゲル化が生じるが、中心部では変性が生じず、開封すると卵黄組成物の一部が流れ出てしまった。
【0078】
以上より、シャワー式加熱の方が、ボイル式加熱よりも均一に卵黄液を加熱でき、得られる卵黄組成物も、容器内でのばらつきが少なく、より均質となることが明らかとなった。また、シャワー式加熱により得られた卵黄組成物は、硬度が0.5N以上となり、具材用の卵黄組成物により適した硬度となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、卵黄加工食品の製造に応用することができる。
【符号の説明】
【0080】
S1 調製工程
S2 封入工程
S3 加熱工程
S31 一次加熱工程
S32 二次加熱工程
S4 冷却工程
S41 一次冷却工程
S42 二次冷却工程
【要約】
【課題】流動性が低く、具材等の加工に適した物性の卵黄組成物を製造するための技術を提供すること。
【解決手段】主として卵黄を含む容器入り卵黄液を、熱水でシャワーリングすることにより加熱する加熱工程を備える、卵黄組成物の製造方法。
【選択図】
図1