(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】複合型不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 5/03 20120101AFI20250319BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20250319BHJP
D04H 1/26 20120101ALI20250319BHJP
【FI】
D04H5/03
B32B5/26
D04H1/26
(21)【出願番号】P 2021108731
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2024-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 生弥
(72)【発明者】
【氏名】大篭 幸治
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 友紀子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-031818(JP,A)
【文献】特開平10-140458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド不織布上にパルプ繊維ウエブを積層し一体化してある複合型の不織布の製造方法であって、
前記パルプ繊維ウエブと前記スパンボンド不織布との一体化を促進して積層体を得る水流交絡工程と、前記水流交絡工程の後に前記積層体を乾燥する乾燥工程とを少なくとも含み、
前記乾燥工程の後に、カレンダーロール間で前記積層体を加熱および加圧しながら通過させる熱カレンダー工程を含
み、
前記熱カレンダー工程では、式(ロール相当径)=(主ロール径)×(受けロール径)/{(主ロール径)+(受けロール径)}によって算出されるロール相当径が100~400mmである主ロール径と受けロールとを用い、搬送スピードを150~280m/min、ロール間のギャップを0~0.3mm、ロールニップ圧を1.0~8.0MPa、に設定し、
前記ロールの温度を40~200℃に設定してある、ことを特徴とする複合型不織布の製造方法。
【請求項2】
前記複合型の不織布
は、坪量が52.0~130.0g/m
2、厚さが0.13~0.35mm、密度が0.25~0.60g/cm
3であり、面積当たりの吸水量が280g/m
2以上、且つ、密度当たりの吸水量が1.2g/cm
3以上である、ことを特徴とする
、請求項1に記載の複合型不織布
の製造方法。
【請求項3】
前記複合型の不織布は、点滴吸水度が3.0秒以内であり、且つ、ウエットテーバ値が5回以上である、ことを特徴とする請求項
2に記載の複合型不織布
の製造方法。
【請求項4】
前記複合型の不織布は、前記パルプ繊維ウエブの坪量が40.0~100.0g/m
2であり、且つ、前記スパンボンド不織布と前記パルプ繊維ウエブとの重量構成比が40/60~10/90(wt%)である、ことを特徴とする請求項1
から3のいずれかに記載の複合型不織布
の製造方法。
【請求項5】
前記複合型の不織布は、前記スパンボンド不織布の坪量が7.0~30.0g/m
2であって、紡糸された樹脂繊維を接続する複数の融着点を含んで形成されており、前記融着点の面積が0.10~0.50mm
2、当該融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、且つ、個数が10~150個/cm
2である、ことを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載の複合型不織布
の製造方法。
【請求項6】
前記複合型の不織布は、前記スパンボンド不織布の材質が、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択された1種類、又は2種類以上の混合である、ことを特徴とする請求項1から
5のいずれかに記載の複合型不織布
の製造方法。
【請求項7】
前記複合型の不織布は、前記パルプ繊維ウエブは
が、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルースおよびダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維である、ことを特徴とする請求項1から
6のいずれかに記載の複合型不織布
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とを水流交絡させることによって得られる複合型の不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とによる複合型の不織布は、パルプ繊維に基づ
く吸液性とスパンボンド不織布に基づく強度との両方を具備してなるので、ウエスなどの工業用ワイパー、或いは手ぬぐい、タオルなどの対人用のワイパー等の様々な用途で広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1で開示するように、パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布とを重ねた後に、高圧のウォータジェット(水流)を吹き付ける水流交絡処理によって一体化されている。ここでスパンボンド不織布は強度に優れるので製造された複合型不織布の裏打ち層的な機能を果たす。一方、パルプ繊維ウエブは優れた吸液機能を備えている。よって、このような複合型不織布は、水性、油性のいずれの液体に対しても吸収性が良好なパルプ繊維ウエブと、強度に優れるスパンボンド不織布との利点を併有している優れた複合型不織布として消費者に提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の複合型不織布は、乾式あるいは湿式にて製造されたパルプ繊維ウエブをスパンボンド不織布上に供給して水流交絡を行うことにより製造される。このように製造される複合型不織布では、水流交絡がされる際に、スパンボンド不織布上のパルプ繊維が水流の影響によって様々な方向(3次元ランダム)に配向された状態になっている。そして、その後に乾燥工程を経て複合型不織布となる。そのため、製造された複合型不織布は厚さ方向に配列したパルプ繊維の一部が飛び出したようになっている。このように厚さ方向に配列した繊維を、そのまま乾燥処理すると完成した複合型不織布は嵩高いものになる。
【0006】
上記のように嵩高く成型された複合型不織布は、吸水性能に優れるのであるが、製品化のために折り加工(2つ折り、4つ折り、6つ折りなど)をして、製品の形態に整える際に、嵩高が問題となる。すなわち、製品の嵩が高い程に、資材コスト、物流コストが高価になるという問題を生じてしまう。
これについて、嵩を低くする(コンパクト化する)対策として、パルプ繊維ウエブの相対量を減らすことが考えられるが、このような対処をすると不織布としての吸水性能が低下し、拭き取り性が悪くなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、吸水性能や拭き取り性、更に適度な剛性を維持しつつ、嵩高が抑制されている複合型不織布を提供することにある。また、そのような複合型不織布を製造できる製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、スパンボンド不織布上にパルプ繊維ウエブを積層し一体化してある複合型の不織布であって、坪量が52.0~130.0g/m2、厚さが0.13~0.35mm、密度が0.25~0.60g/cm3であり、面積当たりの吸水量が280g/m2以上、且つ、密度当たりの吸水量が1.2g/cm3以上である、ことを特徴とする複合型不織布により達成できる。
【0009】
そして、点滴吸水度が3.0秒以内であり、且つ、ウエットテーバ値が5回以上であるものが好ましい。
前記パルプ繊維ウエブの坪量が40.0~100.0g/m2であり、且つ、前記スパンボンド不織布と前記パルプ繊維ウエブとの重量構成比が40/60~10/90(wt%)であるのが好ましい。
【0010】
また、前記スパンボンド不織布の坪量が7.0~30.0g/m2であって、紡糸された樹脂繊維を接続する複数の融着点を含んで形成されており、前記融着点の面積が0.10~0.50mm2、当該融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、且つ、個数が10~150個/cm2であるのが好ましい。
【0011】
前記スパンボンド不織布の材質が、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択された1種類、又は2種類以上の混合であるものが好ましい。
【0012】
また、前記パルプ繊維ウエブは、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルースおよびダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維とするのが好ましい。
【0013】
上記の目的は、上記いずれかに記載の複合型不織布の製造方法であって、前記パルプ繊維ウエブと前記スパンボンド不織布との一体化を促進して積層体を得る水流交絡工程と、前記水流交絡工程の後に前記積層体を乾燥する乾燥工程とを少なくとも含み、前記乾燥工程の後に、カレンダーロール間で前記積層体を加熱および加圧しながら通過させる熱カレンダー工程を含む、ことを特徴とする複合型不織布の製造方法によっても達成できる。
【0014】
上記前記熱カレンダー工程では、式(ロール相当径)=(主ロール径)×(受けロール径)/{(主ロール径)+(受けロール径)}によって算出されるロール相当径が100~400mmである主ロール径と受けロールとを用い、搬送スピードを150~280m/min、ロール間のギャップを0~0.3mm、ロールニップ圧を1.0~8.0MPa、に設定してあるのが好ましい。
更に、前記ロールの温度を40~200℃に設定してあるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、吸水性能や拭き取り性、更に適度な剛性を維持しつつ、嵩高が抑制されている複合型不織布を提供できる。また、このような複合型不織布を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】複合型不織布の製造装置について示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る複合型不織布について説明する。
本願の発明者等は、複合型不織布について鋭意に検討を行い、坪量(g/m2)、厚さ(mm)、密度(g/cm3)、そして、面積当たりの吸水量(g/m2)および密度当たりの吸水量(g/cm3)が所定範囲内にあるように設計した複合型不織布は、製品に要求される吸水性能や拭き取り性を備えていると共に、嵩高も抑制できることを確認して、本発明に至ったものである。
面積当たりの吸水量(T.W.A.:Total Water Absorbency)は複合型不織布シートを76mm×76mmの正方形に切断してサンプルを作製して燥重量を測定し、次に、このサンプルを蒸留水中に2分間浸漬した後、水蒸気飽和状態(100%RH)の容器中で、サンプルの1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態で吊るし、30分放置して水切り後の重量を求める。そして、測定値をサンプル1m2あたりの吸水量(g/m2)に換算して求めることができる。また、密度当たりの吸水量(g/cm3)は、面積当たりの吸水量(g/cm2)を不織布の厚さ(cm)で除算することにより求めることができる。
上記面積当たりの吸水量(g/m2)は複合型不織布の単位面積当たりの吸水性であり一般的な吸水性能の指標となる。また、密度当たりの吸水量(g/cm3)は複合型不織布の単位体積当たりの吸水性であり、この数値が高いと不織布の厚さが低いのに吸水能力が高いことを示す指針となる。
上記複合型不織布は、乾燥工程後に加熱カレンダー処理を施すことにより製造することができる。
【0018】
更に、本発明に係る複合型不織布は、点滴吸水度およびウエットテーバ値についても、所定範囲内にあるように設計したものが好ましい。またパルプ繊維ウエブの坪量、スパンボンド不織布とパルプ繊維ウエブとの重量構成比(スパンボンド不織布(SB)/パルプ繊維ウエブ(Pulp))そしてスパンボンド不織布の坪量や融着点の形態も所定範囲内にあるように設計したものが好ましい。
以下では、複合型不織布に係る上記したファクターとその好適範囲について説明する。
【0019】
本発明に係る複合型不織布では、坪量は52.0~130.0g/m2、好ましくは60.0~85.0g/m2、また厚さは0.13~0.35mm、好ましくは0.20~0.30mm、また密度は0.25~0.60g/cm3、好ましくは0.30~0.45g/cm3であり、更に、上記した面積当たりの吸水量については280g/m2以上、好ましくは300g/m2以上、且つ、密度当たりの吸水量については1.2g/cm3以上、好ましくは1.5g/cm3以上に設定されている。
坪量、厚さ、密度、そして面積当たりの吸水量、且つ、密度当たりの吸水量が上記範囲となるように形成された複合型不織布は、吸水性能や拭き取り性を維持しつつ、嵩高が抑制されているものにできる。
【0020】
更に、本発明に係る複合型不織布は、点滴吸水度が3.0秒以内であり、且つ、ウエットテーバ値が5回以上に設定されているのが好ましい。
上記点滴吸水度は、JIS S3104に規定された吸水速度試験に準拠し、滴下水量を0.1mLとし、水滴が試験片の表面に達したときから、試験片の鏡面反射が消えるまでの時間(秒)を求めたものである。
そして、ウエットテーバ値は、JIS L1096に規定されたテーバ試験機を用いて、回転する水平円盤に水で湿潤させた試料を取り付けて、砥粒結合体で成形された一対の摩擦輪(H-18)を規定荷重(4.9N)のもとに加えて、耐摩耗性を調べているものである。摩耗によるシートの穴が13mmとなるまでの円盤の回転数をテーバ値としている。
【0021】
そして、上記パルプ繊維ウエブの坪量は例えば40.0~100.0g/m2とし、スパンボンド不織布とパルプ繊維ウエブとの重量構成比を例えば40/60~10/90(wt%)とされているのが好ましい。この範囲にあるものは、吸水性能および拭き取り性だけでなく、複合型不織布の形状安定性にも優れる。
また、前記スパンボンド不織布の坪量は例えば7.0~30.0g/m2とするのが好ましい。また、スパンボンド不織布は紡糸された樹脂繊維を接合する複数の融着点を含んで形成されており、前記融着点1個の面積が0.10~0.50mm2、その融着点の単位面積当たりの面積率が7~20%、個数が10~150個/cm2であるものが好ましい。このようなスパンボンド不織布は適度の剛性を備えており、パルプ繊維ウエブと組み合わせて複合型不織布に採用するスパンボンド不織布として好適である。なお、上記融着点の形状については、特に限定はなく円形、楕円形、多角形等とすることができる。
なお、複合型不織布がスパンボンド不織布によって適度な剛性を備えた製品になったかについては、複合型不織布の形状安定性、強度(破れ易さ)そして「ゴワゴワ感」などを評価することで判断することができる。
【0022】
前記スパンボンド不織布は、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群から選択された1種類、又は2種類以上の混合で形成するのが望ましい。この中で、ポリプロピレンを用いるのが好適である。
また、上記パルプ繊維ウエブに関しては、ラジアータパイン、スラッシュパイン、サザンパイン、ロッジポールパイン、スプルース及びダグラスファーからなる群から選択された針葉樹晒クラフトパルプの繊維で形成されたものを採用するのが好ましい。
【0023】
以下では、上述した本発明の複合型不織布を製造する工程について説明する。本発明の複合型不織布は、乾燥工程後に所定の熱カレンダー工程を経て効率よく製造することができる。ここでは、前提となる複合型不織布WPを製造する製造装置の主要構成について説明をした後に、熱カレンダー装置および熱カレンダー工程について説明する。
【0024】
図1に示す複合型不織布の製造装置1は、上流側にエアレイド装置2、スパンボンド不織布を供給するスパンボンド供給装置3、そしてサクション装置4が配設されている。サクション装置4はエアレイド装置2の下側に対向するように配置されている。
ウエブの搬送方向TDで、これらの装置2、3、4よりも下流には、上流側から順に、水流交絡処理を行うためのウォータジェットを噴射する水流交絡装置5、サクション装置6、乾燥装置7が配置されている。上記乾燥装置7の下流には連続して製造される複合型不織布WPを巻き取るための巻取装置8が更に設けてある。
そして、この製造装置1には、更に、上記乾燥装置7と巻取装置8との間に、乾燥後の不織布WPに熱カレンダー処理(加熱しながらのカレンダー処理)を施すための熱カレンダー装置CAが設けてある。
【0025】
上流側から順に説明すると、上記エアレイド装置2は、繊維同士が密集しシート状となっている原料パルプRPをパルプ繊維に解繊する解繊機21や、図示しない送風機を備えて解繊されたパルプ繊維PFをエアレイドホッパ23へと搬送するダクト22を有している。
【0026】
また、上記ダクト22よりも下流側にはエアレイドホッパ23が配置されている。このエアレイドホッパ23の内部では、解繊状態にあるパルプ繊維が分散しながら降下し、下面に設定した積層位置24に徐々に積み上りパルプ繊維ウエブPFWが形成されるように設計してある。
上記積層位置24の下側にはサクション装置4が対向配備してある。より詳細には、サクション装置4は装置本体41の上面にサクション部42を有しており、サクション部42が上記パルプ繊維ウエブPFWに吸引力(負圧)を作用させるべく積層位置24に対して設定してある。
なお、
図1では、エアレイドホッパ23とサクション装置本体41とを1つずつ一段での配置として、パルプ繊維ウエブPFWを形成する場合を例示している。しかし、これに限らず、上記パルプ繊維ウエブPFWの目付(坪量)や製造速度に応じて、上記エアレイドホッパ23とサクション装置本体41を2つ以上の多段とする配置に変更してもよい。
【0027】
また、サクション装置4の周囲にはウエブ搬送用の搬送ワイヤ43が配設してある。搬送ワイヤ43は、積層位置24においてパルプ繊維PFが堆積したパルプ繊維ウエブPFWが載置可能で、これを下流側に搬送するように配置されている。ただし、パルプ繊維ウエブPFWは直接、搬送ワイヤ43上に載置されない。これについては、後述の説明で明らかとなる。
搬送ワイヤ43はサクション部42の吸引力が、反対側(上側)に及ぶような目開き形態(メッシュ)で形成されている。
【0028】
上記エアレイド装置2の下側で、サクション装置4よりも上流側に、スパンボンド供給装置3が配置してある。このスパンボンド供給装置3には、予め準備されたスパンボンド不織布SWがロール状とされてセットされている。スパンボンド供給装置3からスパンボンド不織布SWが引出され、上述した搬送ワイヤ43に乗って上記積層位置24へと搬送されるようになっている。スパンボンド不織布SWとしては、スパンボンド法により形成された合成樹脂の連続フィラメントのウエブを用いるのが好ましい。
【0029】
積層位置24に位置した、スパンボンド不織布SWの上に、前述したパルプ繊維ウエブPFWが載置される。その際に、積層位置24ではサクション装置4のサクション部42による吸引力が搬送ワイヤ43を通過し、その上のスパンボンド不織布SWおよびパルプ繊維ウエブPFWに作用する。よって、スパンボンド不織布SWとパルプ繊維ウエブPFWとが積層された状態となっている予備的積層体PWebが下流側へと搬送される。
【0030】
上記した予備的積層体PWebは、サクション装置4の吸引力によって、吸引圧縮されたことにより積層状態が維持されている。このとき上側のパルプ繊維ウエブPFWの繊維が密にされた状態ではある。しかし、このまま予備的積層体PWebを下流側の水流交絡装置5内に搬送投入すると、ウォータジェット(高圧の水流)によってパルプ繊維PFの一部が舞い上がるおそれがある。
そこで、本製造装置1では、予備的積層体PWebを上下から挟んでスパンボンド不織布SW上でのパルプ繊維ウエブPFWの載置状態を安定化させる為の挟持ローラ28、そして水流交絡装置5の上流側に繊維飛散防止用に水分を付与するプレウエット装置30が配備してある。プレウエット装置30は、好適には、予備的積層体PWebの上方からウォータミストを吹き付ける噴霧ノズル31と予備的積層体PWebの下側(すなわち、パルプ繊維ウエブPFWの下面)から吸引力を印加するサクション装置32とを含んで構成されている。
なお、
図1では、上記のように水流交絡装置5前にプレウエット装置30を新たな装置として設ける場合を例示しているが、これに限らない。水流交絡装置5に含まれる後述するウォータジェットヘッド51とサクション装置52とからなるセットの複数について、先頭に位置するセットを上記プレウエット装置30として流用するような設計変更をしてもよい。この場合には先頭のウォータジェットヘッド51から低圧のウォータミストが噴霧されるように調整すればよい。
水流交絡処理を行うのに十分な、ウォータジェットヘッド51とサクション装置52とのセット数が確保されている水流交絡装置5の場合、上記のように先頭のウォータジェットヘッド51とサクション装置52をプレウエット装置として活用することは、装置設備コストの抑制に効果的である。
【0031】
そして、水流交絡装置5では、前処理部となる挟持ローラ28およびプレウエット装置30の処理を受けた予備的積層体PWebに高圧のウォータジェットを吹き付けることによりパルプ繊維同士の交絡を促進する。これにより上側に位置するパルプ繊維ウエブPFW層と下側に位置するスパンボンド不織布SW層との一体化が促進される。
図1で例示的に示している水流交絡装置5は、搬送方向TDに沿って多段(
図1では例示しているのは4段)にウォータジェットヘッド51が配置されている。
なお、
図1では、搬送方向TDに対して直角な方向(ウエブの幅方向)において延在しているウォータジェットヘッド51に設けたノズルの様子は図示していないが、幅方向において複数のウォータジェットノズルが適宜の位置に配置してある。このウォータジェットノズルの穴直径φは、好ましくは0.06~0.15mmである。また、ウォータジェットノズルの間隔は0.4~1.0mmとするのが好ましい。
【0032】
上記水流交絡処理をする際の水圧は、パルプ繊維ウエブPFWとスパンボンドウエブSWとの坪量を勘案して設定するのが望ましい。例えば、1~30MPaの範囲において選択するのが好ましい。
【0033】
そして、上記ウォータジェットヘッド51と対向するように、サクション装置52が配設してある。ウォータジェットヘッド51から出る高圧のウォータジェットを上側に位置しているパルプ繊維ウエブPFWに吹き付けつつ、下側に位置しているスパンボンド不織布SWの下側にサクション装置52の吸引力を作用させる。ウォータジェットヘッド51とサクション装置52との協働作用によって、パルプ繊維ウエブPFW側のパルプ繊維が下側のスパンボンド不織布SWに入り込んだ状態や、スパンボンド不織布SWを貫通して反対側にまで至った状態などが形成されると推定される。その作用により2つの層の一体化が促進される。
【0034】
水流交絡装置5にも、搬送ワイヤ55が配設してある。搬送ワイヤ55は前処理部28、30の下流で予備的積層体PWebを受けて、水流交絡装置5内へと搬送する。搬送ワイヤ55は水流交絡装置5のウォータジェットヘッド51とサクション装置52との間を、上流側から下流に向かって通過するように配設されている。
よって、搬送ワイヤ55上を搬送される予備的積層体PWebは、搬送方向TDで下流に向かう程に、より多くの水流交絡処理を受けることになり、水流交絡装置5を出るときには上側のパルプ繊維ウエブPFW層と下側のスパンボンド不織布SW層との十分な交絡処理が実現される。
水流交絡装置5を出た直後の不織布にあっては、ウエット状態にあり、パルプ繊維同士などの結合は十分に確立されてはいない。
【0035】
そこで、
図1で示すように、水流交絡装置5の下流側にはウエブに残留する水分を吸引除去し、その後に乾燥を行って、複合型不織布WPの製造を完了するためのサクション装置6および乾燥装置7が配備してある。このように複合型不織布WPの製造の後段で、サクション装置6および乾燥装置7による脱水、乾燥を行うと効率よく不織布を製造でき、また、製造される水流交絡後の不織布に大きな外圧を掛けることなく乾燥すると、前述したように嵩高な不織布が製造されることになる。
なお、サクション装置6は、例えばバキューム式で水流交絡後の不織布を脱水する。乾燥装置7は非圧縮型のドライヤ、好適にエアスルードライヤを採用することが好ましい。
図1で、エアスルードライヤの回転可能なドライヤ本体71は筒状体であり、その周表面には多数の貫通孔が設けてあり、図示しない熱源で加熱された熱風がドライヤ本体の外周から中心部側に向かって吸い込む構成とするのがよい。
【0036】
従来にあっては連続的に製造される複合型の不織布WPは巻取装置8のローラ81に巻取られるのが一般的であったが、
図1に示す製造装置では、乾燥装置7と巻取装置8との間に熱カレンダー装置CAが後処理装置として配置されている。
熱カレンダー装置CA内には、図示しない表面がプレーンなカレンダーロール一対が配置されており、複合型不織布WPがその間を所定範囲のロールニップ圧(挟持圧)をもって挟持搬送されるようになっている。
各カレンダーロールは、外周表面がプレーン(平坦)に形成してあるロールであれば材質に限定はないが、双方とも金属のスチールプレーンロールとするのが好ましい。そして、このカレンダーロールの少なくとも一方の内部にヒータを配置して、熱カレンダー処理を行えるようにしてある。
【0037】
熱カレンダー装置CAによる熱カレンダー条件は、例えばロールの温度を40~200℃、より好ましくは100~150℃とし、ロール間ギャップ(Gap)を0~0.3mmより好ましくは0.1~0.2mmとし、ロール間を通過する複合型不織布WPにロールニップ圧1.0~8.0Mpa、より好ましくは2.5~5.0Mpaが加わるように設定する。また、ロールの搬送スピードは、150~280m/min、より好ましくは170~220m/minとなるように設定してあるのが望ましい。
【0038】
そして、一対の金属ロールは、水平姿勢で、上下で重なるように配置されており、その間を乾燥後の複合型不織布が通過する。上側が主ロールであり、下側が受けロールである。
上記主ロールと受けロールとは、式(ロール相当径)=(主ロール径)×(受けロール径)/{(主ロール径)+(受けロール径)}によって算出されるロール相当径が100~400mm、より好ましくは150~350mmであるように設計しておくのが望ましい。ここでのロール相当径とは、A. V. Lyonsらが示した文献 (1990 TAPPI Finishing and Converting, P5) に基づくものであり、複合型不織布に施したカレンダー処理の強さの指標となるものである。
【0039】
例えば、ロール相当径が100mm未満である、搬送スピードが280m/minより速い、ギャップが0.3mmより大きい、ニップ圧が1.0Mpaよりも小さい、ロールの温度が40℃より低い等であると、複合型不織布の表面にかかる圧力、熱エネルギーが小さ過ぎで繊維間を狭める効果が小さくなって、嵩を抑制するのが難しくなってくる。
その逆に、ロール相当径が400mmより大きく、搬送スピードが150m/minより遅い、ニップ圧が8.0Mpaより大きい、温度が200℃よりも高い等であると、複合型不織布の表面にかかる圧力、熱エネルギーが大き過ぎとなり、複合不織布表面が固められてしまい、厚さが低下し密度が高くなる。これにより、硬くペーパーライクな触感となり、ワイパーの使用感が劣る。また、スパンボンド不織布の一部が熱により溶融し、ロール表面に転写してしまうという不都合が生じる場合もある。
なお、前述したヒータを上側の主ロール又は下側の受けロールの何れか一方の内部に配置する場合、上側の主ロールに内部するのが好ましい。装置の都合から上側がパルプ繊維ウエブPFW層になっており、嵩を抑制するにはパルプ繊維ウエブPFW層を加熱するのがより効果的だからである。
【0040】
図1に示した複合型不織布製造装置では、乾燥装置7の下流側に、上記した条件に沿って設計した熱カレンダー装置CAが配置されるので、本発明に係る複合型不織布を効率良く製造することができる。
すなわち、本発明に係る複合型不織布WPは、上記した条件に沿ったカレンダー処理が施されることにより、必要な吸水性能および拭き取り性を維持しつつ、嵩高が抑制されたものとなっている。
【0041】
なお、
図1は、熱カレンダー装置CAをオンラインで付加する場合を好適として例示しており、このように不織布ワイパー製造装置に一体的に熱カレンダー装置CAを設けるのが好ましいが、いったん不織布ワイパーWPをローラ81に巻き取り、別に設けた熱カレンダー装置CAでオフラインにより熱カレンダー処理をすることも可能である。
【0042】
図1の製造装置では、乾燥工程後に積層体に熱カレンダー処理を施しているので、製造された複合型不織布は圧着されて嵩が低く抑えられているが、パルプ繊維ウエブ中のパルプ繊維の本数は変わっておらず、繊維間の結合は増えていないため、液体に接触すると繊維間は嵩高い状態に戻る(吸水によって繊維間の密度が低い状態に戻る)ことができる。このように、本発明に係る複合型不織布では吸水性能が維持されている。
複合型不織布の嵩を低くする手法として、乾燥工程前に湿潤状態にある積層体にカレンダー処理(プレスロール処理)することも考えられるが、この場合にはパルプ繊維間の結合が促進されるので、吸水時に繊維間の密度が低い状態に戻らず、吸水性能は低下したままとなる。よって、乾燥工程後に熱カレンダー工程を実施するのが好ましいことが理解できる。
また、カレンダーロールが前述したようにプレーンなロールが好ましいのは、表面に凹凸があるロールで複合型不織布を挟持すると、圧着されない部分が発生してしまい、嵩高を十分に抑制できないからである。また、加熱しない場合には、圧着するための熱エネルギーが低いために、嵩高を確実に抑制する効果が得られないことになる。
【0043】
(実施例)
以下、上記製造装置で、乾燥工程後に熱カレンダー処理をして製造した実施例の複合型不織布について説明する。
坪量、厚さ、密度、面積当たりの吸水量(g/m2)および密度当たりの吸水量(g/cm3)、そして点滴吸水度並びにウエットテーバ値が、表1および表2に示す通りになるように製造された、実施例1~16の複合型不織布、並びにその比較例1~7(表3)について、下記に示す基準により、複合型不織布の拭き取り易さ、コンパクト性、形状安定性、強度(破れ易さ)およびゴワゴワ感ついて評価をした。
【0044】
評価基準は以下の通りである。
1)吸水性能
2種類のT.W.A.値を用いて吸水性能を確認した。
TWA(g/m2):複合不織布の単位面積当たりの吸水性である。
TWA(g/cm3):複合不織布の単位体積当たりの吸水性である。この数値が高いと厚さが低いのに吸水能力が高いことを示す指標となる。
2)拭き取り易さ
複合型不織布で汚れなど対象物を拭き取った時の拭き取り易さを5段階で評価した。
評価では、使用して柔軟性、吸水能力ともに問題ないものを「3」とし、「3」よりやや優れているものを「4」、「3」より明らかに優れているものを「5」した。逆に、「3」よりやや劣るものを「2」、「3」より明らかに劣るものを「1」とした。
3)コンパクト性
製品化された複合型不織布の嵩高さが抑制されているということは、その複合型不織布がコンパクト性に優れるということであるので、不織布のコンパクト性を評価した。ここでは、単位体積当たりの製品重量が高い程、コンパクト性が高い(嵩高さの抑制効果がある)として、5段階で評価した。密度が0.25g/cm3以上、0.27g/cm3未満のものを「3」とし、密度が0.27g/cm3以上、0.30g/cm3未満のものを「4」とし、密度が0.30g/cm3以上のものを「5」とした。逆に、密度が0.23g/cm3以上、0.25g/cm3未満のものを「2」とし、密度が0.23g/cm3未満のものを「1」とした。
4)形状安定性
複合不織布を手でゴシゴシと揉み、パルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布の分離を目視にて、5段階で評価した。評価は、使用してパルプ繊維ウエブとスパンボンド不織布の分離に問題ないものを「3」とし、「3」よりやや優れているものを「4」、「3」よりも明らかに優れているものを「5」とした。また、逆に「3」よりやや劣るものを「2」、「3」よりも明らかに劣るものを「1」とした。
5)強度(破れ易さ)
複合不織布を手で引張った時の破れ易さを5段階で評価した。使用して強度(破れ易さ)に問題ないものを「3」とし、「3」よりやや優れているものを「4」、「3」より明らかに優れているものを「5」とした。逆に、「3」よりやや劣るものを「2」、「3」より明らかに劣るものを「1」とした。
6)ゴワゴワ感
複合不織布の触感を5段階で評価した。使用した際の硬さ、ゴワゴワ感が問題ないものを「3」とし、「3」よりやや優れているものを「4」とし、「3」より明らかに優れているものを「5」とした。逆に、「3」よりやや劣るものを「2」、「3」より明らかに劣るものを「1」とした。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
上記表1、表2に示す実施例1~16は製品として提供できるものであるが、上記表3に示す比較例1~7では、拭き取り易さ、コンパクト性、形状安定性、強度あるいはゴワゴワ感のいずれかで十分な評価が得られていないか、吸水性能が劣っており、不織布製品として提供できないものである。
【0049】
上記実施例1~16は、坪量が52.0~130.0g/m2、厚さが0.13~0.35mm、密度が0.25~0.60g/cm3、面積当たりの吸水量が280g/m2以上、且つ、密度当たりの吸水量が1.2g/cm3以上の好適範囲内にあって、複合型不織布に求められる吸水性能および拭き取り易さ、更に適度な剛性が維持されていると共に、嵩高が抑制されている。よって、製品化された際の資材コスト、物流コストの低減に寄与する。
【0050】
一方、比較例1~7は以下の通り、製品には不向きである。
比較例1は、坪量が低すぎるため、吸水性が低く、拭き取り易さが劣っている。
比較例2は、坪量が高すぎるため、硬く、拭き取り易さが劣っている。
比較例3は、厚さが高すぎるため、密度が低く、コンパクト性が劣っている。
比較例4は、厚さが低すぎるため、吸水性が低く、拭き取り易さが劣っている。
比較例5は、密度が低すぎるため、コンパクト性が劣っている。
比較例6は、密度が高すぎるため、硬く、拭き取り易さが劣っている。
比較例7は、坪量、厚さが低すぎるため吸水性が低く、拭き取り易さが劣っている。
【0051】
上記した実施例の複合型不織布は乾式エアレイド法により乾式でパルプ繊維ウエブを供給した場合である。しかしこれに限らず湿式抄紙法など湿式で得たパルプ繊維ウエブを用いる複合型不織布にも本発明を同様に適用できる。ただし、前述した乾式エアレイド法によれば湿式の場合よりも製造設備やコストを抑制できる。
【0052】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1 複合型不織布の製造装置
2 エアレイド装置
3 スパンボンド不織布供給装置
4 サクション装置
5 水流交絡装置
6 サクション装置
7 乾燥装置
8 巻取装置
21 解繊機
22 ダクト
23 エアレイドホッパ
24 積層位置
28 挟持ローラ
30 プレウエット装置
31 噴霧ノズル
32 サクション装置
41 サクション装置本体
42 サクション部
43 搬送ワイヤ
51 ウォータジェットヘッド
52 サクション装置
55 搬送ワイヤ
SW スパンボンド不織布
PF パルプ繊維
PFW パルプ繊維ウエブ
PWeb 予備的積層体(積層ウエブ)
WP 複合型不織布
TD 搬送方向
CA 熱カレンダー装置