IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ビークルエナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電池制御方法 図1
  • 特許-電池制御方法 図2
  • 特許-電池制御方法 図3
  • 特許-電池制御方法 図4
  • 特許-電池制御方法 図5
  • 特許-電池制御方法 図6
  • 特許-電池制御方法 図7
  • 特許-電池制御方法 図8
  • 特許-電池制御方法 図9
  • 特許-電池制御方法 図10
  • 特許-電池制御方法 図11
  • 特許-電池制御方法 図12
  • 特許-電池制御方法 図13
  • 特許-電池制御方法 図14
  • 特許-電池制御方法 図15
  • 特許-電池制御方法 図16
  • 特許-電池制御方法 図17
  • 特許-電池制御方法 図18
  • 特許-電池制御方法 図19
  • 特許-電池制御方法 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】電池制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/10 20060101AFI20250319BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250319BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20250319BHJP
【FI】
H02J7/10 B
H01M10/48 P
H01M10/44 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023538280
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016965
(87)【国際公開番号】W WO2023007872
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2021122758
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤津 実幸
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-171143(JP,A)
【文献】国際公開第2010/052766(WO,A1)
【文献】特開2018-098899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池を制御する制御部と、
前記電池の充電の許容電力に関するデータが記憶された記憶部と、
前記電池の一対の電極端子の間の電圧値を測定する計測部と、
を用い、
前記許容電力は、予め定められた上限電圧値と、現在の充電状態とによって算出される充電可能な最大電力として定められ、
前記データには、
前記許容電力の制限が不要な上限値である第1電圧値と、
前記第1電圧値よりも高く、前記許容電力の部分的制限が必要となる第2電圧値と、
前記第2電圧値よりも高く、前記許容電力の完全な制限が必要となる第3電圧値と、
が含まれ、
前記制御部は、
前記計測部から前記電圧値を所定時間ごとに取得し、
前記許容電力の電圧値が、前記第3電圧値以上になった場合、前記許容電力の完全な制限を行い、
前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値を介して、前記第1電圧値まで小さくなるまでの間、前記許容電力の部分的制限又は完全な制限を行う、
電池制御方法。
【請求項2】
前記制御部は、
前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値以上であって前記第3電圧値以下の所定電圧値から、前記第1電圧値まで小さくなる間、前記許容電力の完全な制限を行った場合、前記許容電力の電圧値が、前記第1電圧値から、前記第1電圧値よりも低い第4電圧値まで小さくなる間、単位時間当たりの電圧変動で表される所定の電圧勾配に基づいて、前記許容電力の部分的制限を行う、
請求項1に記載の電池制御方法。
【請求項3】
前記計測部から取得した前記電圧値、又は当該電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値が、所定の第1の時間内において、
前記第1電圧値よりも高く前記第3電圧値よりも低い所定の所定電圧以上であって、かつ、前記第3電圧値以下の場合、
前記制御部は、前記第1電圧値を相対的に下げて、前記第1電圧値を更新する、
請求項1又は2に記載の電池制御方法。
【請求項4】
前記計測部から取得した前記電圧値、又は当該電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値が、所定の第1の時間内において、
前記第1電圧値よりも高く前記第3電圧値よりも低い所定の所定電圧以上であって、かつ、前記第3電圧値以下ではない場合、
前記制御部は、前記第1電圧値を相対的に上げて、前記第1電圧値を更新する、
請求項1から3の何れか1項に記載の電池制御方法。
【請求項5】
電池を制御する制御部と、
前記電池の放電の許容電力に関するデータが記憶された記憶部と、
前記電池の一対の電極端子の間の電圧値を測定する計測部と、
を用い、
前記許容電力は、予め定められた下限電圧値と、現在の放電状態とによって算出される放電可能な最大電力として定められ、
前記データには、
前記許容電力の制限が不要な下限値である第1電圧値と、
前記第1電圧値よりも低く、前記許容電力の部分的制限が必要となる第2電圧値と、
前記第2電圧値よりも低く、前記許容電力の完全な制限が必要となる第3電圧値と、
が含まれ、
前記制御部は、
前記計測部から前記電圧値を所定時間ごとに取得し、
前記許容電力の電圧値が、前記第3電圧値以下になった場合、前記許容電力の完全な制限を行い、
前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値を介して、前記第1電圧値まで大きくなるまでの間、前記許容電力の部分的制限又は完全な制限を行う、
電池制御方法。
【請求項6】
前記制御部は、
前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値以下であって前記第3電圧値以上の所定電圧値から、前記第1電圧値まで大きくなる間、前記許容電力の完全な制限を行った場合、
前記許容電力の電圧値が、前記第1電圧値から、前記第1電圧値よりも高い第4電圧値まで大きくなる間、単位時間当たりの電圧変動で表される所定の電圧勾配に基づいて、前記許容電力の部分的制限を行う、
請求項に記載の電池制御方法。
【請求項7】
前記計測部から取得した前記電圧値、又は当該電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値が、
所定の第2の時間内において、
前記第1電圧値よりも低く前記第3電圧値よりも高い所定の所定電圧以下であって、かつ、前記第3電圧値以上の場合、
前記制御部は、前記第1電圧値を相対的に上げて、前記第1電圧値を更新する、
請求項5又は6に記載の電池制御方法。
【請求項8】
前記計測部から取得した前記電圧値、又は当該電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値が、
所定の第2の時間内において、
前記第1電圧値よりも低く前記第3電圧値よりも高い所定の所定電圧以下であって、かつ、前記第3電圧値以上ではない場合、
前記制御部は、前記第1電圧値を相対的に下げて、前記第1電圧値を更新する、
請求項5から7の何れか1項に記載の電池制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載した二次電池システムとの間で電力を授受する車両システムにおいて、電池が出力可能な最大電力と、車両システムが消費可能な最大電力と、を示す指標として「許容電力」がある。車両システムは、使用電力を許容電力以下の範囲に収める電池制御方法により運用される。また、許容電力には、充電方向の許容電力(充電許容電力)と、放電方向の許容電力(放電許容電力)と、の2種類が有る。
【0003】
例えば、放電許容電力は、最低使用電圧と、現在の電池電圧と、の差分を参照して決定される。ただし、放電許容電力の範囲内であっても、電池システムに異常が発生した場合、すみやかに電池の充放電を禁止又は抑制するように、許容電力を強制的に制限し、車両システムに電池の使用を制限させる。
【0004】
特許文献1には、充放電中において、過充電と、過放電と、を防止する機構が開示されている。その機構は、許容電力を制限するために演算した電力値を後処理する機能として設けられ、過電圧閾値電圧、過放電閾値電圧を設定し、その電池電圧に至る前に、許容電力の演算値を比率で制限する。その後処理は、つぎのとおりである。制限開始閾値電圧では制限率100%とし、そのまま出力する。また、制限終了閾値電圧では制限率0%とし、演算結果を0Wとする。また、閾値電圧間は一定スロープで制限率が適用される、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開番号WO2012/157065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の機構では、許容電力が過充電、又は過放電等の不安定状態に近づいたことに応じて、許容電力を制限することで、一時的に安全な状態となるが、その直後から、許容電力が不安定になる恐れがあった。その機構では、出力電圧が短い周期で上下に変動することに伴って、許容電力に対する制限と解除が短い周期で繰り返されるハンチングが生じ、許容電力の出力が不安定となる欠点があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、許容電力に対する制限と解除のハンチングをなくして、信頼性を向上させる電池制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電池制御方法は、電池を制御する制御部と、電池の充電の許容電力に関するデータが記憶された記憶部と、電池の一対の電極端子の間の電圧値を測定する計測部と、を用い、許容電力は、予め定められた上限電圧値と、現在の充電状態とによって算出される充電可能な最大電力として定められ、データには、許容電力の制限が不要な上限値である第1電圧値と、第1電圧値よりも高く、許容電力の部分的制限が必要となる第2電圧値と、第2電圧値よりも高く、許容電力の完全な制限が必要となる第3電圧値と、が含まれ、制御部は、計測部から電圧値を所定時間ごとに取得し、許容電力の電圧値が、第3電圧値以上になった場合、許容電力の完全な制限を行い、許容電力の電圧値が、第2電圧値を介して、第1電圧値まで小さくなるまでの間、許容電力の部分的制限又は完全な制限を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、許容電力に対する制限と解除のハンチングをなくして、信頼性を向上させる電池制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係る電池システム(以下、「本システム」ともいう)の構成を示すブロック図である。
図2図1の本システムにおける電池状態推定部をより詳細に示すブロック図である。
図3図2の電池状態推定部に備わる許容電力演算部をより詳細に示すブロック図である。
図4図1図3で説明した本システムで用いる電池モデルを示す等価回路図である。
図5図1の本システムにおける許容電力制限部をより詳細に示すブロック図である。
図6】比較例に係る充電許容電力制限方法(以下、「比較例の充電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
図7図6に示した比較例の充電制限方法で起こるハンチング現象を示すグラフである。
図8】比較例に係る放電許容電力制限方法(以下、「比較例の放電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
図9図8に示した比較例の放電制限方法で起こるハンチング現象を示すグラフである。
図10図1の本システムにおける充電許容電力制限方法(以下、「本充電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
図11図10の本充電制限方法において、制限発生から制限解除までの処理を示すフローチャートである。
図12図10及び図11の本充電制限方法の適用効果を示すグラフである。
図13図1の本システムにおける放電許容電力制限方法(以下、「本放電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
図14図13の本放電制限方法において、制限発生から制限解除までの処理を示すフローチャートである。
図15図13及び図14の本放電制限方法の適用効果を示すグラフである。
図16】実施例2に係る充電許容電力制限方法(以下、「実施例2の本充電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
図17】実施例2に係る放電許容電力制限方法(以下、「実施例2の本放電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
図18】実施例3に係る許容電力制限部(図3参照)を示すブロック図である。
図19図18の許容電力制限部を用いた充電許容電力制限方法(以下、「実施例3の本充電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
図20図18の許容電力制限部を用いた充電許容電力制限方法(以下、「実施例3の本放電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1に係る電池システム(本システム)100の構成を示すブロック図である。電池システム100は、外部の供給対象に電力供給するシステムであり、供給対象として電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、又は産業用機器等が想定される。図1の電池システム100は、ハイブリッド自動車に装備され、走行用のモータジェネレータ410との間で、電力を授受するように構成されている。
【0013】
電池システム100は、リレー300,310を介してインバータ400に接続される。インバータ400は、電池システム100からモータジェネレータ410に電力を供給する。インバータ400及びモータジェネレータ410は、モータ/インバータ制御部420により制御される。車両制御部200は、電池システム100で得られる電池情報、インバータ400やモータジェネレータ410からの情報、及び図示しないエンジンからの情報等に基づいて駆動力の配分等を決定する。
【0014】
電池システム100は、複数の単電池111から構成される組電池110と、単電池111の状態を監視する複数の単電池制御部121a,121b(まとめて121)を備える計測部120と、組電池110に流れる電流を検知する電流検知部130と、組電池110の総電圧を検知する電圧検知部140と、組電池110の電池状態を推定する電池状態推定部150と、組電池110、単電池111及び単電池群112の電池特性に関する情報を格納する記憶部180と、を備える。
【0015】
組電池110を構成する複数の単電池111は、所定の単位数にグループ分けされている。図1に例示するように、複数の単電池111は、2つの単電池群112a,112bにグループ分けされている。単電池群112a,112bは、電気的に直列接続されている。
【0016】
なお、単電池111は、リチウムイオン二次電池を始めとする繰り返し充電可能な電池である。単電池111としては、その他に、ニッケル水素電池、鉛電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電池、及び蓄電機能を備えたデバイスが想定される。ここでは、単電池111として単体電池を考えているが、複数の単電池111を、直列及び並列に接続したモジュール構造に置き換えた構成にしても良い。
【0017】
また、図1では、組電池110として2つの単電池群112a,112bが直列接続された構成を例示したが、これに限定されない。組電池110は、所定の数の単電池群を直列に接続しても良いし、並列に接続しても良い。また、用途に応じて直列又は並列の様々な個数の組み合わせで構成しても良い。
【0018】
計測部120は、組電池110を構成する各単電池111の状態を監視するものであり、複数の単電池群112a,112bに対応して、同数の単電池制御部121a,121bが設けられている。単電池群112aには単電池制御部121aが割り当てられ、単電池群112bには単電池制御部121bが割り当てられている。
【0019】
各単電池制御部121a,121bは、それぞれに割り当てられた単電池群112a,112bからの電力を受けて動作する。各単電池制御部121a,121bは、それぞれに割り当てられた単電池群112a,112bの電池電圧や電池温度を監視する。
【0020】
電池状態推定部150には、電流検知部130から送信される組電池110に流れる電流値及び、電圧検知部140から送信される組電池110の総電圧値が入力される。また、電池状態推定部150は、信号通信部160により計測部120との間で信号の送受信を行う。この電池状態推定部150は、診断結果や、異常信号を、計測部120から受信する。
【0021】
診断結果とは、単電池111の電池電圧や電池温度、さらには単電池111が過充電もしくは過放電であるかについて、計測部120の検出値やそれらに基づく診断結果をいう。異常信号とは、計測部120に通信エラーが発生した場合に出力される信号である。
【0022】
電池状態推定部150は、入力された情報に基づいて、電池状態推定等の処理を行う。その処理結果は、計測部120や車両制御部200に送信される。電池状態推定部150では、SOC,SOH、許容電力等の状態推定のための数値演算処理を行う。また、計測部120は組電池110から電力を供給されて動作する。これに対し、電池状態推定部150は、車載補機用のバッテリ(例えば12V系バッテリ)を電源として用いる。
【0023】
したがって、電池状態推定部150と、計測部120と、それぞれの動作電源は、基準電位が異なる。そのため、信号通信部160にフォトカプラ等の絶縁素子170を設けている。絶縁素子170は、計測部120を構成する回路基板に実装しても良いし、電池状態推定部150を構成する回路基板に実装しても良い。なお、システム構成によっては、絶縁素子170を省略することも可能である。
【0024】
単電池制御部121a,121bは、それぞれが監視する単電池群112a,112bの電位の高い順に従って直列に接続されている。単電池制御部121aの出力と単電池制御部121bの入力との間には絶縁素子170を設けていないが、これは、単電池制御部121a,121bには、異なる動作基準電位同士においても通信可能な仕組みが設けられているからである。ただし、単電池制御部121aと単電池制御部121bとの間の通信に対して電気的絶縁が必要な場合には、絶縁素子170を設ける必要がある。
【0025】
電池状態推定部150が送信した信号は、絶縁素子170が設けられた信号通信部160により単電池制御部121aに入力される。単電池制御部121bからの出力信号は絶縁素子170が設けられた信号通信部160により電池状態推定部150の入力部に伝送される。
【0026】
このように、電池状態推定部150と単電池制御部121a,121bとは信号通信部160によりループ状に接続されている。このような接続及び通信方式はデイジーチェーン接続(Daisy chain connection)と呼ばれるが、数珠つなぎ接続や芋づる接続等と呼ぶ場合もある。
【0027】
記憶部180には、OCV-SOCマップ等の情報が格納される。OCV-SOCマップとは、組電池110、単電池111及び単電池群112に関して、内部抵抗特性、満充電時の容量、分極抵抗特性、劣化特性、個体差情報、電池開回路電圧OCVと電池の充電率SOCの対応関係を示す情報である。
【0028】
なお、図1に示す例では、記憶部180を電池状態推定部150と計測部120の外部に配置する構成としたが、記憶部180を電池状態推定部150又は計測部120に設ける構成としても良い。
【0029】
<電池状態推定部150の構成>
図2は、図1の本システム100における電池状態推定部をより詳細に示すブロック図である。図2に示すように、電池状態推定部150は、電池状態検知部151と、許容電力演算部152を備える。電池状態検知部151では、電圧、電流、温度を入力とし、SOC(電池充電率)及びSOHR(電池劣化率)を演算し出力する。
【0030】
許容電力演算部152では、電池状態検知部151の出力であるSOC及びSOHR(SOHと類似概念)、及び電圧、電流、温度を入力とし、充電許容電力(充電において、充電できうる上限の電圧までの余裕電力値)及び放電許容電力(放電において、放電できうる下限の電圧までの余裕電力値)を演算し出力する。
【0031】
ここで、電池状態検知部151と許容電力演算部152で入力される電圧、電流、温度とは、単電池制御部121a,121b及び電流検知部130で得られる組電池110の電池状態を表す代表値である。
【0032】
電圧は、単電池111の各電池電圧のうち、最大電圧、平均電圧、最低電圧等、電池のばらつきや平均の情報を示している。電流は、電池電圧取得タイミングと同じタイミングで取得された瞬時電流や、組電池110に流れる電流をある時間区間において連続してサンプリングし、複数サンプリングした電流値を平均した区間平均電流を示している。
【0033】
また、温度は、組電池110あるいは単電池群112、単電池111の温度分布を考慮し、組電池110内に配置された複数の温度センサにより得られる最高温度、平均温度、最低温度を示している。これら温度情報と、電圧値及び電流値は、SOC,SOHR、及び許容電力(充電許容電力及び放電許容電力)を算出するため、必要に応じて使用されている。
【0034】
図3は、図2の電池状態推定部に備わる許容電力演算部をより詳細に示すブロック図である。図3に示すように、許容電力演算部152は、許容電力算出部153と、許容電力制限部154と、により構成される。許容電力算出部153は、SOC,SOHRと、図2にて説明した電圧、電流、及び温度と、を入力し、電池劣化の指標値を算入しながら、許容電力を算出する。
【0035】
許容電力制限部154は、許容電力算出部153の出力する許容電力に対し、電池状態情報に基づいて、適宜に許容電力を制限する。このとき、許容電力制限部154は、電池状態情報として、電圧、電流、温度及びSOCを用いて、現在の許容電力を制限すべきかどうか判断する。
【0036】
ここで、許容電力制限部154の最終的な許容電力と、許容電力算出部153の制限前の許容電力と、を区別して呼称する。許容電力算出部153から出力される充電許容電力を「算出部後の充電許容電力」と呼ぶ。許容電力算出部153から出力される放電許容電力を「算出部後の放電許容電力」と呼ぶ。
【0037】
<許容電力の算出方法について>
実施例1では、許容電力算出部153において、実際の電池情報(SOCや電圧、温度、電流等)から電池の等価回路モデル(以下、「電池モデル」又は「回路モデル」ともいう)を用いて、許容電力を推定する。ここで、回路モデルを用いた許容電力の算出方法について説明する。
【0038】
図4は、図1図3で説明した本システム100で用いる電池モデルを示す等価回路図である。図4に示すように、回路モデルは、電池開放電圧OCVと、潮流抵抗Roと、分極抵抗Rpと、分極容量成分のCR並列回路(時定数τ)と、を直列接続した回路で表すことができる。
【0039】
電池電圧Vは、電流Iが流れた場合、式(1)のように表すことができる。式(1)における分極電圧Vpは、分極抵抗Rpと分極容量成分のCR並列回路(時定数τをもつ)に電流Iが流れた際に発生する電圧である。
【0040】
【数1】
【0041】
初めに、実施例1における充電許容電力の算出方法を説明する。一電池当たりの充電許容電力は、充電許容電流(Imax,chg)と、充電可能電圧(Vmax,chg)の積で表される。ここで、充電許容電流(充電可能電流)は、現在の電池状態において、流してよい最大電流である。
【0042】
また、充電可能電圧は、その充電許容電流を回路モデルに流したときに発生する電圧である。実施例1の組電池110は、単電池111の直列接続N個において構成される。したがって、実施例1の放電許容電力は、一電池当たりの充電許容電力を電池個数分のN倍である。
【0043】
まず、充電許容電流Imax,chgを求める。式(2)に充電許容電流の基本となる算出式を示す。ここでの充電可能電流をIchgとする。充電可能電流は、図4の回路モデルに示す電圧Vが、車両システムで使用する上限電圧Vmaxに等しいときに流れる電流である。よって、式(1)を電流Iについて変形することで式(2)が得られる。
【0044】
ただし、実施例1では、開放電圧OCVの算出には、SOCと電池温度との対応関係を示すOCVマップを用いて、現在のSOC、温度Tから演算している。また、直流抵抗Roも、SOCと温度Tの対応関係から得られるRoマップを使用し、現在のSOC、温度TからRoを算出している。このRoマップは、新品の電池の値で構成されており、電池が劣化した場合とは異なる。そのRoに、電池の劣化率であるSOHRを乗じれば、現在の電池の劣化状態を考慮した実際の電池のRoに近づけられる。
【0045】
【数2】
【0046】
式(2)で得られた充電可能電流Ichgは、電池に流せる最大電流である。ただし、電池システム100の仕様で規定された上限電流Ilimit以上は、電池性能に余裕があったとしても制限される。
【0047】
式(3)は、システムの上限電流Ilimitを最大電流として制約した充電可能電流Imax,chgを表す式である。回路モデルから得られたIchgに対しシステムにおける上限電流Ilimit以上にならないように制限されている。このようにして最大許容電流Imax,chgを得ることができる。
【0048】
【数3】
【0049】
式(4)は、充電可能電圧Vmax,chgを示す式である。充電許容電流Imax,chgを図4の回路モデル流した際の電圧Vであり、式(1)に当てはめて算出される。Imax,chgと同様に、OCVマップを使用し、OCVを算出する。また、新品電池のRoマップから算出されたRoに対し、現在の電池劣化を反映させ、実際のRoに近づけるため電池の劣化率SOHRを乗算している。
【0050】
【数4】
【0051】
上記で得られた充電可能電圧Vmax,chgと充電許容電流Imax,chgの積によって一電池あたりの許容電力が得られる。これを組電池110の電池個数N個分あることを考慮すると、式(5)によって、実施例1における許容電力算出部153の出力である算出部後の充電許容電力Wchgが得られる。
【0052】
【数5】
【0053】
次に、実施例1における放電許容電力の算出方法を説明する。一電池当たりの放電許容電力は、充電許容電流(Imax,dis)と、放電可能電圧(Vmax,dis)の積で表される。ここで、放電許容電流(放電可能電流)は、現在の電池状態において、流してよい最大電流である。
【0054】
また、放電可能電圧は、その放電許容電流を回路モデルに流したときに発生する電圧である。実施例1の組電池110は、単電池111の直列接続N個において構成される。したがって、実施例1の放電許容電力は、一電池当たりの放電許容電力を電池個数分のN倍である。
【0055】
まず、放電許容電流Imax,disを求める。式(6)に放電許容電流の基本となる算出式を示す。ここでの放電可能電流をIdisとする。放電可能電流は、図4の回路モデルに示す電圧Vが、車両システムで使用する下限電圧Vminに等しいときに流れる電流として求めることができる。
【0056】
よって、式(1)を電流Iについて変形することで式(6)が得られる。基本的算出内容には、式(2)の充電許容電流Ichgと同じであるが、電流の向きが逆であることを考慮し、Idisが正値になるように式変形がなされている。
【0057】
【数6】
【0058】
式(7)は、許容電流Imax,chgの算出と同様に、システムの上限電流Ilimitを最大電流として制約した放電可能電流Imax,disを表す式である。回路モデルから得られたIdisに対しシステムにおける上限電流Ilimit以上にならないように制限されている。このようにして最大許容電流Imax,disを得ることができる。
【0059】
【数7】
【0060】
式(8)は、放電可能電圧Vmax,disを示す式である。放電許容電流Imax,disを図4の回路モデルに流した際の電圧Vであり、式(1)に当てはめて算出される。Imax,disと同様に、OCVマップを使用し、OCVを算出する。また、新品電池のRoマップから算出されたRoに対し、現在の電池劣化を反映させ、実際のRoに近づけるため、電池の劣化率SOHRを乗算している。
【0061】
【数8】
【0062】
上記で得られた放電可能電圧Vmax,disと、放電許容電流Imax,disの積によって、一電池あたりの許容電力が得られる。これを組電池110の電池個数N個分あることを考慮すると、式(5)によって、実施例1における許容電力算出部153の出力である算出部後の放電許容電力Wdisが得られる。
【0063】
【数9】
【0064】
[許容電力制限部について]
図5は、図1の本システム100における許容電力制限部154をより詳細に示すブロック図である。図5の乗算部511,512は、算出部後の許容電力に対し、制限率を乗算する。
【0065】
ここで、算出部後の許容電力は、許容電力算出部153の出力であり、算出部後の充電許容電力及び算出部後の放電許容電力である。また、制限率は、許容電力制限部500の出力であり、充電制限率及び放電制限率である。これらは、許容電力制限部500の充電許容電力制限部501及び放電許容電力制限部502から、それぞれ出力される。
【0066】
その結果である制限率が変化量制限部520(充電変化量制限部521及び放電変化量制限部522)へ入力され、最終的な許容電力(充電許容電力及び放電許容電力)が算出される。
【0067】
許容電力制限部500は、充電許容電力制限部501及び放電許容電力制限部502にて構成され、それぞれ電池の状態値(ここではSOC、電圧、電流、温度)を入力とし、算出部後の許容電力を100%(制限なし)-0%(0kW)に制限するための制限率(充電制限率及び放電制限率)を算出している。
【0068】
充電許容電力制限部501は、充電許容電力を制限するための充電制限率を算出しており、過充電電圧、過大なSOC、異常な電流、異常な温度を検知し、充電許容電力を制限する。充電中は、電圧やSOCが上昇するため、過充電になる危険が発生する。そのため、電圧、SOCをモニタし、過充電電圧やシステムで決められた上限SOCを超過した場合に制限することが必要となる。
【0069】
電流をモニタし、システムや電池の破壊を起こすような過大な電流が連続通電された場合も電力制限が必要となる。また、電池の温度をモニタし、許容限度を超えるような高温度又は低温度になり、電池が危険になった場合も同様に電力制限が必要となる。放電許容電力制限部502は、放電許容電力を制限するための放電制限率を算出しており、過放電電圧、過小なSOC、異常な電流、異常な温度を検知し、充電許容電力を制限する。
【0070】
放電中は、電圧やSOCが低下するため、過放電になる危険が発生する。そのため、電圧、SOCをモニタし、過放電電圧やシステムで決められた下限SOCを下回った場合に制限することが必要となる。充電制限率と同様に、電流をモニタし、システムや電池の破壊を起こすような過大な電流が連続通電された場合も、電力制限が必要となる。また、電池の温度をモニタし、許容限度を超えるような高温度又は低温度になり、電池が危険になった場合も同様に電力制限が必要となる。
【0071】
変化量制限部520は、充電変化量制限部521と放電変化量制限部522にて構成され、制限率によって制限された乗算部511,512の出力である充電許容電力及び放電許容電力に対し、急峻な値変化を抑制するために、単位時間当たりの最大変化量を制限している。
【0072】
よって、許容電力演算部152による許容電力の算出過程は、次の通りである。まず、許容電力算出部153にて回路モデルを用いて許容電力(算出部後の許容電力)を算出する。それに基づいて、許容電力制限部154が、様々な制限を設け、最終的な許容電力を生成する。
【0073】
<実施例1における制限率算出手法について>
次に、許容電力制限部500における制限率の算出方法について説明する。
【0074】
充電許容電力制限部501の出力である充電制限率Dchgは、式(10)で表せる。ここで、Dmax_chgは制限率Dchgの制限率最大値である。Dvol_chgは電圧により過充電電圧にて制限される制限率である。Dsoc_chgはSOCにより上限SOCにて制限される制限率である。Dcurは電流により異常電流にて制限される制限率である。Dtempは温度により異常温度にて制限される制限率である。
【0075】
充電許容電力制限部501は、それぞれの制限率を算出後、それぞれの制限率を0-100%の値に設定し、安全のために、それらの最小値に合わせて、充電制限率Dchgを決定する。すなわち、充電許容電力制限部501は、電圧、電流、温度、SOC等の電池状態を表す指標のうち、ひとつでも異常が発生した際には、許容電力に対して制限を行う。このとき、充電制限率Dchgは、一番厳しい制限率に合わせて決定される。
【0076】
実施例1における充電制限率Dchgは、0%-Dmax_chg(%)の間の値に設定される。なお、Dmax_chgを100%に設定すれば、充電制限率Dchgは、制限率Dvol_chg,Dsoc_chg,Dcur,Dtempに基づいて算出できる。
【0077】
また、Dmax_chgを100%未満の値にすれば、電圧、SOC、電流、温度以外の要素によって、制限率の上限を指定することができる。すなわち、Dmax_chgは、算出部後の許容電力に対し、電池状態以外における要因による制限率上限の設定に用いると良い。あるいは、算出部後の許容電力に対し、常に100%でなく余裕をもたせるための制限率の設定に用いると良い。
【0078】
【数10】
【0079】
同様に、放電許容電力制限部502の出力である放電制限率Ddisは、式(11)で表せる。ここで、Dmax_disは制限率Ddisの制限率最大値である。Dvol_disは電圧により過放電電圧にて制限される制限率である。Dsoc_disはSOCにより下限SOCにて制限される制限率である。Dcurは電流により異常電流にて制限される制限率である。Dtempは温度により異常温度にて制限される制限率である。それぞれの制限率は、0-100%に設定し、安全のために、それぞれの制限率算出後、それらの最小値に合わせて、放電制限率Ddisを決定する。
【0080】
実施例1における放電制限率Ddisは、0%-Dmax_dis(%)の間の値をとるように制限されている。充電制限率Ddisは、Dmax_disを100%に設定すれば、制限率Dvol_dis,Dsoc_dis,Dcur,Dtempに基づいて算出できる。
【0081】
また、Dmax_chgを100%未満の値にすれば、電圧、SOC、電流、温度以外の要素によって、制限率の上限を指定することができる。すなわち、Dmax_chgは、算出部後の許容電力に対し、電池状態以外における要因による制限率上限の設定に用いると良い。あるいは、算出部後の許容電力に対し、常に100%でなく余裕をもたせるための制限率の設定に用いると良い。
【0082】
【数11】
【0083】
<電圧による制限率の説明>
次に、実施例1における上記電圧による充電制限率Dvol_chgと上記電圧による放電制限率Dvol_disの算出方法を説明する。その説明を容易にするため、予め比較例に係る許容電力制限方法(電圧による制限率の算出方法)と課題を説明する。それに対比する形で、実施例1における許容電力制限方法と効果について説明する。
【0084】
<比較例に係る充電許容電力制限率の算出方法>
比較例に係る許容電力制限方法においても、充電制限方法(充電制限率Dvol_chg相当)と放電制限方法(放電制限率Dvol_dis相当)がある。
【0085】
図6は、比較例に係る充電制限方法(以下、「比較例の充電制限方法」ともいう)を示すグラフであり、充電制限率Dvol_chg相当とする。図6の横軸は電圧を示し、縦軸は制限率を示している。横軸の右側を電圧の増加方向とみなす。横軸の電圧において、第2電圧閾値Vth2は制限開始及び制限解除の電圧閾値である。
【0086】
第3電圧閾値Vth3は制限終了の電圧閾値(制限率0%となる電圧閾値)である。電圧値Vth_cellは、電池電圧が超えてはならない電圧閾値を示している。実施例1では、電池の過充電電圧閾値とする。まず、電圧と制限状態の関係について説明する。
【0087】
正常時電圧は、Vth2未満の電圧であり、このとき充電許容電力は制限なし状態(制限率100%)となる。この電圧状態から充電がなされると、電圧が上昇する。電圧がVth2以上となった場合、制限率(100%―0%)スロープ上の制限率によって、充電許容電力は制限される。電圧がVth3以上となった場合、制限率は0%となる。
【0088】
電圧がVth2以上の状態においては、上記制限率スロープに応じて、電圧に応じて一意的に決定される。すなわち、電圧がVth2以上となると制限発生の状態となり、上記制限率スロープに基づき電圧に応じた制限率が常に更新されるように算出される。
【0089】
制限発生後、電圧がVth2以下となると制限解除の状態となり、制限率は100%に戻る。すなわち、制限なし状態となる。このような比較例に係る充電制限方法では、以下に示す電圧のハンチング挙動が起こり、許容電力が大幅に変動し、車両システムの動作不安定を引き起こす可能性がある。
【0090】
図7は、図6に示した比較例の充電制限方法で起こるハンチング現象を示すグラフである。図7に示すように、充電許容電力、制限率、電圧の3つのグラフからなり、横軸は時間(Time)である。右に行くほど、時間の経過を示す。まず、時間t0以前については、電圧はVth2以下であり、正常電圧範囲とみなすことができる。制限率100%であり、充電許容電力は、算出部後の充電許容電力と同等である。
【0091】
この状態から、急峻な、あるいは大きな充電が発生することを想定する。時間t0において、充電が発生し、電圧が急上昇すると、時間t1にはVth2に到達する。電圧がVth2に到達したことで充電許容電力制限が発生し、電圧に応じた制限率が算出され、充電許容電力は制限される。時間t1以降も急な充電による電池電圧の跳ね上がりにより、電圧上昇は続く。車両システムは、充電許容電力にて充電電力の最大値を制限されるため、充電許容電力の減少に従い電池への充電が制限される。
【0092】
時間t2直前においては、充電許容電力は十分制限され、電池電圧はこれ以上増加しなくなる。充電許容電力の制限発生により、時間t2には電池電圧がVth2以下まで下がり、また正常電圧まで回復する。時間t2からは一旦制限が解除される。このとき、制限解除により、瞬時に制限率100%(制限なし状態)になることにより、充電許容電力も算出部後の充電許容電力まで回復する。
【0093】
これにより、再び充電可能な許容電力状態となる。しかし、この制限解除直後は、電池電圧はまだ制限発生が開始する第2電圧閾値Vth2に十分近い状態であることが想定される。ここで、車両はまた即座に充電を開始すると、電圧の上昇によって、時間t3には再び充電許容電力制限が発生する。
【0094】
時間t4になると、再び電圧がVth2以下になることにより、制限解除となる。しかし、時間t4の後も、同様に制限発生と、制限解除と、の繰り返し(ハンチング挙動)が短期周期で発生することになる。このように、充電許容電力に応じた充電制御をする車両システムは、短い間に充電許容電力が大幅に変動し、動作不安定になる。次に比較例に係る放電制限方法について説明する。
【0095】
図8は、比較例に係る放電制限方法(比較例の放電制限方法)を示すグラフであり、充電制限率Dvol_dis相当である。図8において、横軸は電圧を示し、縦軸は制限率を示している。横軸の左方ほど低い電圧であり、減少方向を示す。第2電圧閾値Vth2は、制限開始及び制限解除の電圧閾値である。
【0096】
第3電圧閾値Vth3は、制限終了の電圧閾値(制限率0%となる電圧閾値)である。電圧値Vth_cellは、仕様に規定された下限の電圧閾値である。電池電圧がそれを超えて下がるような使い方をすれば、電池の寿命に悪影響を及ぼすとされている。実施例1では、電池の過放電電圧閾値とする。
【0097】
まず、電圧と制限状態の関係について説明する。正常時電圧は、Vth2より大きい電圧であり、このとき充電許容電力は制限なし状態(制限率100%)となる。この電圧状態から放電がなされると電圧が下降する。電圧がVth2以下となった場合、制限率(100%―0%)スロープ上の制限率によって放電許容電力は制限される。
【0098】
電圧がVth3以下となった場合、制限率は0%となる。電圧がVth2以下の状態においては、上記制限率スロープに応じて、電圧に応じて一意的に決定される。すなわち、電圧がVth2以下となると制限発生の状態となり、上記制限率スロープに基づき電圧に応じた制限率が常に更新及び算出される。
【0099】
制限発生後、電圧がVth2以上となると制限解除の状態となり、制限率は100%に戻る。すなわち、制限なし状態となる。このような比較例に係る放電制限方法では、充電許容電力制限と同様に、電圧のハンチング挙動が起こり、許容電力が大幅に変動し、車両システムの動作不安定を引き起こす可能性がある。
【0100】
図9は、図8に示した比較例の放電制限方法で起こるハンチング現象を示すグラフである。図9に示すように、放電許容電力、制限率、電圧の3つのグラフからなり、横軸は時間(Time)である。右に行くほど、時間の経過を示す。まず、時間t0以前については、電圧はVth2以上であり、正常電圧範囲とみなすことができる。制限率100%であり、放電許容電力は、算出部後の放電許容電力と同等である。
【0101】
図9の時間t0以降に、急な大電力の放電が継続することを想定する。時間t0から放電により電圧が急に下降し、時間t1にはVth2に到達する。電圧がVth2に到達すると、放電許容電力制限部502は、電圧に応じた制限率を算出し、放電許容電力を制限する。時間t1以降も継続する放電により、電池電圧が下降する。
【0102】
車両システムは、放電許容電力にて放電電力の最大値を制限されるため、放電許容電力の減少に従い電池からの放電が制限される。時間t2直前においては、放電許容電力は十分制限され、電池電圧はこれ以上減少しなくなる。放電許容電力の制限発生により、時間t2には電池電圧がVth2以上に大きくなり、また正常電圧まで回復する。時間t2からは一旦制限が解除される。
【0103】
このとき、制限解除により、瞬時に制限率100%(制限なし状態)になることにより、放電許容電力も算出部後の放電許容電力まで回復する。これにより、再び放電可能な許容電力状態となる。しかし、この制限解除直後は、電池電圧はまだ制限発生が開始する第2電圧閾値Vth2に十分近い状態であることが想定される。ここで、車両はまた即座に放電を開始すると、電圧の低下によって、時間t3には再び放電許容電力制限が発生する。
【0104】
時間t4にはすぐまた、電圧がVth2以上になることにより、制限解除となる。しかし、時間t4後も同様の制限発生と、制限解除と、を短時間の周期で繰り返すハンチングが短期周期で発生する。このように、放電許容電力に応じた放電制御をする車両システムは、短い間に放電許容電力の大幅な変動を経験し、動作不安定に陥り易い。
【0105】
<実施例1の制限率算出方法>
以降、実施例1における充電制限方法と放電制限方法について順に説明するとする。図10は、図1の本システム100における充電制限方法(以下、「本充電制限方法」ともいう)を示すグラフである。本充電制限方法は、図6に示した比較例の充電制限方法に対し、制限率の算出の仕方と、制限発生及び制限解除に係る電圧閾値が異なる。
【0106】
図6とは異なり、横軸の電圧において、第2電圧閾値Vth2は制限開始の電圧閾値のみとなり、第1電圧閾値Vth1は独立した制限解除の電圧閾値である。第3電圧閾値Vth3は制限終了の電圧閾値(制限率0%となる電圧閾値)である。
【0107】
まず、電圧と制限状態の関係について説明する。正常時電圧は、Vth2未満の電圧であり、このとき充電許容電力は制限なし状態(制限率100%)となる。この電圧状態から充電がなされると電圧が上昇する。電圧がVth2以上となった場合、制限率(100%―0%)スロープ上の制限率によって充電許容電力は制限される。電圧がVth3以上となった場合、制限率は0%となる。
【0108】
図6の比較例に係る充電制限方法と異なる点として、制限発生から制限解除に至るまでの間(電圧が制限解除の第1電圧閾値Vth1以下となるまで)、電圧上昇において一度減少した制限率は電圧が低下しても維持される。すなわち、電圧の上昇と下降にわけて説明すると下記のような制限率算出となる。
【0109】
電圧の上昇方向において説明する。制限の履歴が無く、電圧がVth2未満である場合は、制限率100%である。電圧がVth2以上となった場合、制限率スロープ(100%―0%)に基づき、電圧に応じた制限率が算出及び更新される。ただし、電圧は一度も下降せず上がり続けているものとする。電圧の上昇が止まった際の電圧をV1とし、このときの制限率をlimit1とする。
【0110】
ここで、V1が、Vth2-Vth3間の電圧であれば、limit1は100%-0%の制限率スロープ上の制限率となるし、V1がVth3以上であれば、limit1は制限率0%となる。図10のV1はVth2-Vth3間の例である。
【0111】
ここから、電圧がV1に到達した後、制限解除の第1電圧閾値Vth1に向けて電圧低下するとする。この場合、電圧が制限解除の第1電圧閾値Vth1以下となるまで、V1で経験した制限率limit1が維持される。電圧がVth1以下となると、制限解除になる。瞬時に制限率100%(制限なし状態)になることにより、充電許容電力も算出部後の充電許容電力まで回復する。
【0112】
図11は、図10の本充電制限方法において、制限発生から制限解除までの処理を示すフローチャートである。図11のフローチャートでは、現在の電圧をVとし、フロー開始時点では、制限発生前とし、電圧VはVth2未満である。ここでは、電圧を周期的に監視し、現在の電圧を常に更新し続けているものとして、制限発生から制限解除までの処理方法を説明する。Dvol_chgは、実施例1における充電許容電力制限率(電圧による制限率)を示す。Dvol_chg_zは、Dvol_chgの前回値である。
【0113】
Dvol_chg_nowは、現在の電圧Vを図10の制限率スロープ上に当てはめた場合に得られる制限率である。すなわち、Vth2≦V≦Vth3では制限率スロープ上の制限率であり、V≧Vth3では制限率0%である。
【0114】
スタート時点では、正常電圧である。判定601(式(12))は、常に”NO”と判定し、処理602(式(13))を実施し、(Dvol_chg=100%)を維持する。
【0115】
電圧Vが上昇して、Vth2以上となった場合、判定601(式(12))は、”YES”と判定し、処理603,604,605を連続的に実行する。
【0116】
処理603(式(14))は、Dvol_chg_zに100%の値を代入する初期化処理である。
【0117】
処理604(式(15))は、Dvol_chg_nowに上記にて説明したとおり、現在の電圧Vを制限率スロープ上に当てはめた場合に得られる制限率である。現在の電圧に応じてDvol_chg_nowの制限率は変動する。
【0118】
処理605(式(16))は、現在の制限率Dvol_chgを更新する処理である。現在の電圧を制限率スロープに当てはめて得られる制限率Dvol_chg_nowと前回の制限率Dvol_chg_zのうち、最小値をとり、制限率Dvol_chgに代入する。現在の電圧が上昇し続けている場合は、制限率0%に向かって制限率Dvol_chgは更新され続ける。
【0119】
また、”現在の電圧が低下した場合”又は”現在の電圧が全く変動しない場合”は、制限率Dvol_chgは変化しない。これは、処理605(式(16)にて電圧の低下に対して、制限率Dvol_chg_nowは制限率100%に近づく値を出すことで、前回の制限率Dvol_chg_zが常に最小値として選択されるからである。
【0120】
処理606(式(17))は、Dvol_chg_zは、Dvol_chgの前回値Dvol_chg_zを現在のDvol_chgにて更新する処理である。
【0121】
判定607(式(18))は、現在の電圧Vが解除電圧Vth1以下となったかを判定する処理である。現在の電圧Vが解除電圧Vth1以下となった場合、処理608(式(13))を実施し、制限率Dvol_chgを100%に戻す。
【0122】
現在の電圧Vが解除電圧Vth1より大きいと判定した場合、制限を継続するため、処理604,605,606を再び実行するループ処理を行う。以上の処理フローにより、実施例1における充電制限方法において、制限発生から制限解除までの一連の処理を行うことができる。
【0123】
【数12】
【0124】
図12は、図10及び図11の本充電制限方法の適用効果を示すグラフである。図12に示すように、充電許容電力、制限率、電圧の3つのグラフからなり、横軸は時間(Time)である。右に行くほど、時間の経過を示す。まず、時間t0以前については、電圧はVth2未満であり、正常電圧範囲とみなすことができる。制限率100%であり、充電許容電力は、算出部後の充電許容電力と同等である。
【0125】
この状態から、急峻な、あるいは大きな充電が発生することを想定する。時間t0において、充電が発生し、電圧が急上昇すると、時間t1にはVth2に到達する。電圧がVth2に到達したことで充電許容電力制限が発生し、電圧に応じた制限率が算出され、充電許容電力は制限される。時間t1以降も急な充電による電池電圧の跳ね上がりにより、電圧上昇は続く。
【0126】
車両システムは、充電許容電力にて充電電力の最大値を制限されるため、充電許容電力の減少に従い電池への充電が制限される。時間t2直前においては、充電許容電力は十分制限され、電池電圧はこれ以上増加しなくなる。時間t2からt3までの間、時間t2で得られた制限率limitがかかり続ける。これにより、充電許容電力の制限発生及び制限率limit1の継続により、時間t2以降電池電圧が減少し始める。
【0127】
図7に示した比較例に係る充電制限方法と異なり、実施例1では時間t2-t3間において電圧はVth2以下となっても制限が解除されないことがわかる。時間t3において、電圧は制限解除の第1電圧閾値Vth1以下となり、制限が解除される。制限解除により、瞬時に制限率100%(制限なし状態)になることにより、充電許容電力も算出部後の充電許容電力まで回復する。
【0128】
図7に示した比較例に係る充電制限方法と同様に、実施例1でも制限解除直後に充電が入った場合、制限解除後(時間t3以降)も上昇を伴う電圧変動が発生しうる。
【0129】
しかし、制限解除の第1電圧閾値Vth1が制限発生の第2電圧閾値Vth2よりも低く設定することにより、急峻な電圧上昇においても、電圧は制限発生の第2電圧閾値Vth2に到達することがなく、制限解除直後に再び制限発生が起こらない。すなわち、実施例1の充電制限方法を用いれば、短期間に制限発生と制限解除を繰り返すことによる充電許容電力の不安定挙動を防止することができる。
【0130】
図13は、図1の本システム100における放電制限方法(本放電制限方法)を示すグラフである。図13の本放電制限方法は、図8に示した比較例の放電制限方法に対し、制限率の算出の仕方と、制限発生及び制限解除に係る電圧閾値が異なる。すなわち、本放電制限方法は、図8の方法とは異なり、横軸の電圧において、第2電圧閾値Vth2は制限開始の電圧閾値のみとなり、第1電圧閾値Vth1は独立した制限解除の電圧閾値である。第3電圧閾値Vth3は制限終了の電圧閾値(制限率0%となる電圧閾値)である。
【0131】
まず、電圧と制限状態の関係について説明する。正常時電圧は、Vth2より大きい電圧であり、このとき放電許容電力は制限なし状態(制限率100%)となる。この電圧状態から放電がなされると電圧が下降する。電圧がVth2以上となった場合、制限率(100%―0%)スロープ上の制限率によって放電許容電力は制限される。電圧がVth3以下となった場合、制限率は0%となる。
【0132】
図8に示した比較例の放電制限方法と異なる点として、制限発生から制限解除に至るまでの間(電圧が制限解除の第1電圧閾値Vth1以上となるまで)、電圧下降において一度減少した制限率は電圧が上昇しても維持される。すなわち、電圧の下降と上昇にわけて説明すると下記のような制限率算出となる。
【0133】
電圧の下降方向において説明する。制限が発生を経験しておらず、電圧がVth2より大きい場合は、制限率100%である。電圧がVth2以下となった場合、制限率スロープ(100%―0%)に基づき、電圧に応じた制限率が算出及び更新される。ただし、電圧は一度も上昇せず上がり続けているものとする。電圧の下降が止まった際の電圧をV1とし、このときの制限率をlimit1とする。
【0134】
ここで、V1が、Vth2-Vth3間の電圧であれば、limit1は100%-0%の制限率スロープ上の制限率となるし、V1がVth3以下であれば、limit1は制限率0%となる。図13のV1はVth2-Vth3間の例である。
【0135】
ここから、電圧がV1に到達した後、制限解除の第1電圧閾値Vth1に向けて電圧上昇するとする。この場合、電圧が制限解除の第1電圧閾値Vth1以上となるまで、V1で経験した制限率limit1が維持される。電圧がVth1以上となると、制限解除になる。瞬時に制限率100%(制限なし状態)になることにより、放電許容電力も算出部後の放電許容電力まで回復する。
【0136】
図14は、図13の本放電制限方法において、制限発生から制限解除までの処理を示すフローチャートである。図14のフローチャートでは、現在の電圧をVとし、フロー開始時点では、制限発生前とし、電圧VはVth2より大きい値である。
【0137】
ここでは、電圧を周期的に監視し、現在の電圧を常に更新し続けているものとして、制限発生から制限解除までの処理方法を説明する。Dvol_disは、実施例1における放電許容電力制限率(電圧による制限率)を示す。Dvol_dis_zは、Dvol_disの前回値である。
【0138】
Dvol_dis_nowは、現在の電圧Vを図13の制限率スロープ上に当てはめた場合に得られる制限率である。すなわち、Vth3≦V≦Vth2では制限率スロープ上の制限率であり、V≦Vth3では制限率0%である。
【0139】
スタート時点では、正常電圧である。判定701(式(19))は、常に”NO”と判定し、処理702(式(20))を実施し、(Dvol_dis=100%)を維持する。電圧Vが下降して、Vth2以下となった場合、判定701(式(19))は、”YES”と判定し、処理703,704,705を連続的に実行する。
【0140】
処理703(式(21))は、Dvol_dis_zに100%の値を代入する初期化処理である。
【0141】
処理704(式(22))は、Dvol_dis_nowに上記にて説明したとおり、現在の電圧Vを制限率スロープ上に当てはめた場合に得られる制限率である。現在の電圧に応じてDvol_dis_nowの制限率は変動する。
【0142】
処理705(式(23))は、現在の制限率Dvol_disを更新する処理である。現在の電圧を制限率スロープに当てはめて得られる制限率Dvol_dis_nowと前回の制限率Dvol_dis_zのうち、最小値をとり、制限率Dvol_disに代入する。現在の電圧が上昇し続けている場合は、制限率0%に向かって制限率Dvol_disは更新され続ける。
【0143】
また、”現在の電圧が上昇した場合”又は”現在の電圧が全く変動しない場合”は、制限率Dvol_disは変化しない。これは、処理705(式(23))にて電圧の上昇に対して、制限率Dvol_dis_nowは制限率100%に近づく値を出すことで、前回の制限率Dvol_dis_zが常に最小値として選択されるからである。
【0144】
処理706(式(24))は、Dvol_dis_zは、Dvol_disの前回値Dvol_dis_zを現在のDvol_disにて更新する処理である。
【0145】
判定707(式(25))は、現在の電圧Vが解除電圧Vth1以上となったかを判定する処理である。現在の電圧Vが解除電圧Vth1以上となった場合、処理708(式(13))を実施し、制限率Dvol_disを100%に戻す。
【0146】
現在の電圧Vが解除電圧Vth1より小さいと判定した場合、制限を継続するため、処理604,605,606を再び実行するループ処理を行う。以上の処理フローにより、実施例1における放電制限方法において、制限発生から制限解除までの一連の処理を行うことができる。
【0147】
【数13】
【0148】
図15は、図13及び図14の本放電制限方法の適用効果を示すグラフである。図15に示すように、放電許容電力、制限率、電圧の3つのグラフからなり、横軸は時間(Time)である。右に行くほど、時間の経過を示す。まず、時間t0以前については、電圧はVth2より大きい値であり、正常電圧範囲とみなすことができる。制限率100%であり、放電許容電力は、算出部後の放電許容電力と同等である。
【0149】
この状態から、急峻な、あるいは大きな放電が発生することを想定する。時間t0において、放電が発生し、電圧が急下降すると、時間t1にはVth2に到達する。電圧がVth2に到達したことで充電許容電力制限が発生し、電圧に応じた制限率が算出され、放電許容電力は制限される。時間t1以降も急な放電による電池電圧の跳ね下がりにより、電圧下降は続く。
【0150】
車両システムは、放電許容電力にて放電電力の最大値を制限されるため、放電許容電力の減少に従い電池からの放電が制限される。時間t2直前においては、放電許容電力は十分制限され、電池電圧はこれ以上減少しなくなる。時間t2からt3までの間、時間t2で得られた制限率limitがかかり続ける。これにより、放電許容電力の制限発生及び制限率limit1の継続により、時間t2以降電池電圧が増加し始める。
【0151】
図9に示した比較例の放電電力制限方法と異なり、実施例1では時間t2-t3間において電圧はVth2以上となっても制限が解除されないことがわかる。時間t3において、電圧は制限解除の第1電圧閾値Vth1以上となり、制限が解除される。制限解除により、瞬時に制限率100%(制限なし状態)になることにより、放電許容電力も算出部後の放電許容電力まで回復する。
【0152】
図9に示した比較例の放電電力制限方法と同様に、実施例1でも制限解除直後に放電が入った場合、制限解除後(時間t3以降)も下降を伴う電圧変動が発生しうる。しかし、制限解除の第1電圧閾値Vth1が制限発生の第2電圧閾値Vth2よりも高く設定することにより、急峻な電圧下降においても、電圧は制限発生の第2電圧閾値Vth2に到達することがなく、制限解除直後に再び制限発生が起こらない。
【0153】
すなわち、実施例1の放電制限方法を用いれば、短期間に制限発生と制限解除を繰り返すことによる放電許容電力の不安定挙動を防止することができる。以上をまとめると、実施例1を採用すれば、充放電許容電力に対し短期間に制限発生と制限解除を繰り返すことによる放電許容電力の不安定挙動を防止することができる。
【0154】
実施例1の実現方法として、図11図12の実現方法を説明した。しかし、実現方法は、一例であり、実施例1の許容電力制限方法の実装手法を限定するものではない。すなわち、ソフトウェアにおける処理の順序や使用する演算素子、処理の追加・削減・関数化のあるなしは限定しない。また、電子回路やその他ハード機構における代替手段によって実現してもよい。
【実施例2】
【0155】
次に実施例2について説明する。実施例2では、実施例1に加えて、より安全性を向上させる手段を説明する。実施例1では、図10にて実施例1の充電制限方法を、図13にて実施例1の放電制限方法を、それぞれ説明した。実施例1では、制限状態において、電圧が制限解除の第1電圧閾値Vth1に到達した際に即座に、許容電力の制限率を100%に戻すこととしている。
【0156】
実施例2では、制限解除の第1電圧閾値Vth1では即座に許容電力の制限率を100%に戻さず、第4電圧閾値Vth4を新たに設け、さらに第1電圧閾値Vth1-第4電圧閾値Vth4間にて制限率スロープを設けて徐々に制限率を戻す機構とする。以降、実施例2における充電制限方法と放電制限方法について順に説明する。
【0157】
図16は、実施例2に係る充電制限方法(電池制御方法)を示すグラフである。図16に示す実施例2の本充電制限方法では、Vth1より小さい電圧閾値であるVth4を有する。また、第1電圧閾値Vth1からVth4の間には、第2の制限率スロープが設けられている。本第2の制限率スロープは、電圧が第1電圧閾値Vth1のとき制限率はlimit1となり、電圧がVth4≦V≦Vth1の場合には、電圧に応じた制限率スロープ上の制限率となる。電圧が下降しVth4以下に達したときには制限率100%に戻る機構とする。
【0158】
以下、制限発生後の制限解除の電圧に対する制限率の挙動をする。電圧がVth2以上となり、制限発生後に経験する最大の電圧値V1に到達し、電圧が下降している状態から説明を開始する。この場合、実施例1と同様に、制限率は電圧がV1に到達したときに得られたlimit1を維持している。
【0159】
電圧が制限解除の第1電圧閾値Vth1に到達までは制限率limit1はかかったままである。電圧がさらに低下し、第1電圧閾値Vth1からVth4までは、電圧に応じた第2の制限率スロープ上の制限率(Vth1:制限率limit1-Vth4:制限率100%)が制限率となる。電圧が第4電圧閾値Vth4以下となると、制限率は100%に戻る。
【0160】
以上が、実施例2における充電制限方法の説明である。図10に示す実施例1における充電制限方法と比較して差異を説明すると、制限率算出における電圧に対する制限解除の挙動が異なる。実施例2における充電制限方法を用いると、制限発生後、電圧が低下していく過程で、制限解除の第1電圧閾値Vth1からVth4において、徐々に制限率が100%に戻っていく挙動となる。
【0161】
すなわち、電圧低下に応じて徐々に制限が解除され、充電許容電力も徐々に算出部後の充電許容電力まで回復する。このようにすることで、制限解除の際の充電許容電力の急峻な電力回復に伴う変動が抑えられ、充電許容電力の不安定挙動を防止することができる。次に実施例2における放電制限方法について説明する。
【0162】
図17は、実施例2に係る放電制限方法(電池制御方法)を示すグラフである。図17のグラフに示すように、実施例2の放電制限方法では、Vth1より大きい電圧閾値であるVth4を有する。また、第1電圧閾値Vth1からVth4の間には、第2の制限率スロープが設けられている。本第2の制限率スロープは、電圧が第1電圧閾値Vth1のとき制限率はlimit1となり、電圧がVth1≦V≦Vth4の場合には、電圧に応じた制限率スロープ上の制限率となる。電圧が上昇しVth4以上に達したときには制限率100%に戻る機構とする。
【0163】
以下、制限発生後の制限解除の電圧に対する制限率の挙動をする。電圧がVth2以下となり、制限発生後に経験する最小の電圧値V1に到達し、電圧が下降している状態から説明を開始する。この場合、実施例1と同様に、制限率は電圧がV1に到達したときに得られたlimit1を維持している。
【0164】
電圧が制限解除の第1電圧閾値Vth1に到達までは制限率limit1はかかったままである。電圧がさらに上昇し、第1電圧閾値Vth1からVth4までは、電圧に応じた第2の制限率スロープ上の制限率(Vth1:制限率limit1-Vth4:制限率100%)が制限率となる。電圧が第4電圧閾値Vth4以上となると、制限率は100%に戻る。
【0165】
以上が、実施例2における放電制限方法の説明である。図13の実施例1における放電制限方法と比較して差異を説明すると、制限率算出における電圧に対する制限解除の挙動が異なる。実施例2における放電制限方法を用いると、制限発生後、電圧が上昇していく過程で、制限解除の第1電圧閾値Vth1からVth4において、徐々に制限率が100%に戻っていく挙動となる。
【0166】
すなわち、電圧上昇に応じて徐々に制限が解除され、放電許容電力も徐々に算出部後の放電許容電力まで回復する。このようにすることで、制限解除の際の放電許容電力の急峻な電力回復に伴う変動が抑えられ、放電許容電力の不安定挙動を防止することができる。
【0167】
以上をまとめると、実施例2を採用すれば、充放電許容電力に対し、制限解除の際の充放電許容電力の急峻な電力回復に伴う変動が抑えられ、充放電許容電力の不安定挙動を防止することができる。すなわち、実施例1に加えて、電池制御の信頼性をさらに向上させることができる。
【0168】
図16及び図17において説明した本実施の形態における第2の制限スロープは、第1電圧閾値Vth1-第4電圧閾値Vth4の間において線形のグラフであった。しかし、第2の制限スロープのグラフは、一例であり、実施例2の許容電力制限方法に用いる第2の制限スロープの形状を限定するものではない。第1電圧閾値Vth1からVth4にかけて制限率が増加するグラフであればよく、曲線や階段状に増加する形状でもよい。
【実施例3】
【0169】
次に図18を参照しながら、実施例3について説明する。図18は、実施例3に係る許容電力制限部を示すブロック図であり、図3の許容電力制限部154に相当する。図18に示す実施例3の許容電力制限部500は、図3に示した実施例1の許容電力制限部154に比べて構成が異なる。許容電力制限部500では、移動平均電圧演算部530を新たに設けている。移動平均電圧演算部530は、所定の時間における電圧の移動平均値を算出する。
【0170】
式(26)は、実施例3における移動平均電圧の算出式である。Vaveは移動平均電圧である。Vave_zは移動平均電圧Vaveの前回値である。Tsは移動平均電圧演算の更新時間間隔を示すサンプリング周期である。τは時定数である。
【0171】
【数14】
【0172】
式(26)の移動平均式は、指数移動平均式の変形式として得られる。本指数移動平均式を用いると、移動平均電圧Vaveのみを次の演算のためにメモリに保持すればよい。式(26)の移動平均式は、時定数τを大きくするほど、過去の時間の電圧の影響が演算に反映される仕組みとなっている。すなわち、過去の電圧データをどの程度時間を遡って移動平均に反映させるかは、時定数τに依存する。
【0173】
すなわち、時定数τを大きくすれば過去の古い電圧データまで反映した移動平均算出を行い、時定数τを小さくすれば直近の過去の電圧データのみを反映した移動平均算出となる。すなわち、移動平均電圧は、現在の電圧だけでなく過去の電圧履歴の状態を反映させた値として算出される。
【0174】
上記移動平均電圧演算部530にて算出される移動平均電圧は、充電許容電力制限部501と、放電許容電力制限部502と、にそれぞれ入力される。移動平均電圧は、次に説明する許容電力制限方法の制限解除の第1電圧閾値Vth1の値を変更するために用いられる。以降、実施例3における充電制限方法と、放電制限方法と、について順に説明する。
【0175】
図19は、図18の許容電力制限部を用いた充電制限方法(「実施例3の本充電制限方法」又は「電池制御方法」ともいう)を示すグラフである。図19に示す実施例3の本充電制限方法は、図10に示した実施例1の本充電制限方法に比べると、制限解除の第1電圧閾値Vth1が移動平均電圧に応じた可変値である点が異なる。実施例1では、制限解除の第1電圧閾値Vth1は固定で合った。しかし、実施例3では、移動平均電圧をモニタし、移動平均電圧に応じて第1電圧閾値Vth1を上下させることとした。
【0176】
移動平均電圧が高い場合は、第1電圧閾値Vth1を低下させる。図19で言えば、第1電圧閾値Vth1を電圧Vth1aまで移動させるとした。移動平均電圧が高い場合、充電が長時間継続している可能性が高く、充電許容電力の制限解除後に、再び電圧が上昇し、制限発生に至る可能性が高くなる。
【0177】
そのため、制限解除の第1電圧閾値Vth1を下げることで、電圧が十分低下するまで制限解除を遅らせることとした。このようにすることで、制限発生と、制限解除と、を短時間の周期で繰り返すハンチングをさらに防止することができる。また、移動平均電圧が低い場合は、第1電圧閾値Vth1を上昇させる。図19で言えば、第1電圧閾値Vth1を電圧Vth1bまで移動させるとした。
【0178】
移動平均電圧が低い場合、充電が十分弱まっているか、充電がすでになされていないか、あるいは放電に至っている可能性も高いため、これ以上の電圧上昇の可能性も低い。そのため、充電許容電力の制限解除後に、再び電圧が上昇し、制限発生に至る可能性が低い。その結果、制限解除の第1電圧閾値Vth1を上げても、安全性を確保することができる。
【0179】
このようにすることで、制限解除を早めに実施し、充電許容電力の正常算出範囲を広げることができる。車両においては、充電許容電力の制限範囲の縮小によって、電池の使用電力範囲を広げることができる。
【0180】
図20は、図18の許容電力制限部を用いた充電制限方法(「実施例3の本放電制限方法」又は「電池制御方法」)を示すグラフである。図13に示した実施例1の本放電制限方法と比べ、制限解除の第1電圧閾値Vth1が移動平均電圧に応じた可変値である点が異なる。実施例1において、制限解除の第1電圧閾値Vth1は、固定値とした。しかし、実施例3では、移動平均電圧をモニタし、移動平均電圧に応じて第1電圧閾値Vth1を上下させる。
【0181】
移動平均電圧が低い場合は、第1電圧閾値Vth1を上昇させる。すなわち、図20に示すように、第1電圧閾値Vth1を電圧Vth1aまで移動した。移動平均電圧が低い場合、放電が長時間継続している可能性が高く、放電許容電力の制限解除後に、再び電圧が下降し、制限発生に至る可能性が高くなる。そのため、制限解除の第1電圧閾値Vth1を上げることで、電圧が十分上昇するまで制限解除を遅らせる。このようにすることで、制限発生と、制限解除と、を短時間の周期で繰り返すハンチングを防止する効果を高められる。
【0182】
また、移動平均電圧が高い場合は、第1電圧閾値Vth1を下降させる。図19で言えば、第1電圧閾値Vth1を電圧Vth1bまで移動させるとした。移動平均電圧が高い場合、放電が十分弱まっているか、放電がすでになされていないか、あるいは充電に至っている可能性も高いため、これ以上の電圧低下の可能性も低い。そのため、充電許容電力の制限解除後に、再び電圧が下降し、制限発生に至る可能性が低い。
【0183】
その結果、制限解除の第1電圧閾値Vth1を下げても、安全性を確保することができる。このようにすることで、制限解除を早めに実施し、放電許容電力の正常算出範囲を広げることができる。車両においては、放電許容電力の制限範囲の縮小によって、電池の使用電力範囲を広げることができる。
【0184】
以上のように、実施例3の電池制御方法は、移動平均電圧に応じて、充放電許容電力の制限解除の電圧閾値を上下させる。これにより、充放電許容電力のハンチングを防止する効果を高めるとともに、車両における電力使用範囲を広げられる。
【0185】
実施例3の移動平均電圧の算出式には、式(26)に示した指数移動平均式の変形式を用いて移動平均を算出した。しかし、移動平均算出方法はこれに限定するものではない。すなわち、過去の電圧データを複数点数メモリ保持しておき、その平均をとるような別の移動平均算出方法でも構わない。
【0186】
[補足]
SOC(state of charge)とは、充電状態/充電率であり、二次電池が完全充電された状態から、放電した電気量を除いた残りの割合で、残容量ともいう。このSOCは「残容量(Ah)/満充電容量(Ah)×100」で表される。
【0187】
SOH(state of health)とは、バッテリ・テスタを用いて測定される二次電池の健全性(劣化状態)をいう。このSOHは、「劣化時の満充電容量(Ah)/初期の満充電容量(Ah)×100」で表される。
【0188】
コンピュータ、又はそれと同等機能のコントローラを備えた電池システムにおいて、コントローラは、電池の電圧、電流、温度及びSOC,SOH等の電池情報をモニタし、セル保護が必要となる領域付近に近づくにつれて、出力制限の程度を強めるように、許容電力を演算処理する。
【0189】
電池システムを備えた車両システムにおいて、電池制御方法は、所定の電池使用範囲内で使用可能な許容電力を算出して適用する。充電中の二次電池は、充電許容電力が減少するとともに、放電許容電力が増加する。また、放電中の二次電池は、放電許容電力が減少するとともに、充電許容電力が増加する。このように許容電力は、充電用と、放電用と、を区別して算出される。
【0190】
また、コントローラがモニタするSOC以外の電池情報として、電池の不安定を示すデータもある。電池システムにおける電池の不安定には、充放電に伴う電圧のハンチングが例示される。一方、車両システムでは、所定の電池使用範囲として、最大使用電圧及び最低使用電圧が設定されている。なお、最低使用電圧は、過放電電圧よりも高い場合が多い。この電池使用範囲内であっても、ハンチングは避けるべき事態であり、これが本発明の課題である。
【0191】
本発明の実施形態に係る電池制御方法(以下、「本方法」ともいう)は、つぎのように総括できる。なお、括弧内の記載した電圧値、制限率及び時間等は一例に過ぎない。
[1]本方法は、電池を制御する制御部121と、電池の充電の許容電力に関するデータが記憶された記憶部180と、電池の一対の電極端子の間の電圧値を測定する計測部120と、を有する電池システム(本システム)100において、充電するときの許容電力(充電許容電力)の制限を適切に行う電池制御方法である。
【0192】
許容電力は、予め定められた上限電圧値(上限電圧=OCV真値となった場合、許容電力を0Wとするような電圧閾値)と、現在の充電状態とによって算出される充電可能な最大電力として定められている。データには、つぎの第1電圧値Vth1~第3電圧値Vth3含まれる。
【0193】
・第1電圧値Vth1は、制限解除電圧値(4.2V)であり、許容電力の制限(制限率0%)が不要な上限値である。
・第2電圧値Vth2は、制限開始電圧値(4.3V)であり、第1電圧値よりも高く、許容電力の部分的制限(制限率1%~99%)を必要とされる。
・第3電圧値Vth3は、制限終了電圧値(4.35V)であり、第2電圧値よりも高く、許容電力の完全な制限(制限率100%)を必要とされる。
【0194】
制御部121は、計測部120から電圧値を所定時間ごとに取得し、充電の許容電力をつぎのように制限する。
・許容電力の電圧値が、第3電圧値Vth3以上になった場合、許容電力の完全な制限(制限率100%)を行う。
・許容電力の電圧値が、第2電圧値Vth2を介して、第1電圧値Vth1まで小さくなるまでの間、許容電力の部分的制限(制限率1%~99%)又は許容電力の完全な制限(制限率100%)を行う。
【0195】
本方法は、充電許容電力制限部501において動作し、電圧に応じて充電許容電力の制限を行う。計測部120が取得した電圧値が制限開始する第2電圧閾値Vth2を超えてから、制限解除する第1電圧閾値Vth1以下となるまで充電許容電力制限を継続する。このように、電圧変動によるハンチングを生じさせない電圧になるまで、制限状態を維持することにより、組電池110の不安定挙動を防止できる。
【0196】
本方法によれば、中心的な閾値よりも高い電圧で制限開始し、制限開始したその電圧よりも低く、さらに中心的な閾値よりも低い電圧で制限解除する。すなわち、閾値を中心に所定幅を設定し、閾値を跨いで状態変化させるためには、所定幅を超えて変化したことに応じて制限状態と、解除状態と、を切り替える。これにより、許容電力に対する制限と解除のハンチングをなくして、信頼性を向上させられる。
【0197】
[2]上記[1]において、制御部121は、つぎの条件で制御する。
・許容電力の電圧値が、第2電圧値Vth2(4.3V)以上であって第3電圧値Vth3(4.35V)以下の所定電圧値V1(4.3V~4.35V)から、第1電圧値Vth1(4.2V)まで小さくなる間、許容電力の完全な制限(制限率100%)を行った場合、つぎの条件を加えて制御する。
【0198】
・その条件として、許容電力の電圧値が、第1電圧値Vth1(4.2V)から、第1電圧値Vth1(4.2V)よりも低い第4電圧値Vth4(4.1V)まで小さくなる間、単位時間当たりの電圧変動で表される所定の電圧勾配に基づいて、許容電力の部分的制限(制限率1%~99%)を行う。
【0199】
本方法によれば、所定の電圧勾配を設けて制御し、状態変化のショックを無くし、より安全性を高めて、電池制御の信頼性を向上させられる。
【0200】
[3]上記[1]又は[2]において、制御部121は、計測部120から取得した電圧値、又は電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値(移動平均値)を用い、つぎの条件により制御する。
【0201】
・所定の第1の時間(数十秒間)内において、
・第1電圧値(4.2V)よりも高く第3電圧値(4.35V)よりも低い所定の所定電圧値(第2電圧と同じ4.3V)以上であって、
・かつ、第3電圧値(4.35V)以下の場合(移動平均電圧が高い)、
・制御部121は、第1電圧値(4.2V)を相対的に下げて(4.2Vから4.15V)、第1電圧値(4.15V)を更新する。
【0202】
本方法によれば、充電許容電力のハンチングを防止する効果を高めるとともに、車両における電力使用範囲を広げられる。
【0203】
[4]上記[1]~[3]の何れかにおいて、制御部121は、計測部120から取得した電圧値、又は電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値(移動平均値)を用い、つぎの条件により制御する。
【0204】
・所定の第1の時間(数十秒間)内において、
・第1電圧値(4.2V)よりも高く、第3電圧値(4.35V)よりも低い、所定の所定電圧値(第2電圧と同じ4.3V)以上であって、
・かつ、第3電圧値(4.35V)以下ではない場合(移動平均電圧が低い)、
制御部121は、第1電圧値(4.2V)を相対的に上げて(4.2Vから4.25V)、第1電圧値(4.25V)を更新する。
【0205】
本方法によれば、より一層、充電許容電力のハンチングを防止する効果を高めるとともに、車両における電力使用範囲を広げられる。
【0206】
[5]本方法は、電池を制御する制御部121と、電池の放電の許容電力に関するデータが記憶された記憶部180と、電池の一対の電極端子の間の電圧値を測定する計測部120と、を有する電池システム(本システム)100において、放電するとき、許容電力の制限を適切に行う電池制御方法である。
【0207】
許容電力は、予め定められた下限電圧値(下限電圧=OCV真値となった場合、許容電力を0Wとするような電圧閾値)と、現在の放電状態とによって算出される放電可能な最大電力として定められる。データには、つぎの第1電圧値Vth1~第3電圧値Vth3含まれる。
【0208】
・第1電圧値Vth1は、制限解除電圧値(3V)であり、許容電力の制限(制限率0%)が不要な下限値である。
・第2電圧値Vth2は、制限開始電圧値(2.5V)であり、第1電圧値よりも低く、許容電力の部分的制限(制限率1%~99%)を必要とする。
・第3電圧値Vth3は、制限終了電圧値(2.2V)であり、第2電圧値よりも高く、許容電力の完全な制限(制限率100%)を必要とする。
【0209】
制御部121は、計測部120から電圧値を所定時間ごとに取得し、充電の許容電力をつぎのように制限する。
・許容電力の電圧値が、第3電圧値Vth3以上になった場合、許容電力の完全な制限(制限率100%)を行う。
・許容電力の電圧値が、第2電圧値Vth2を介して、第1電圧値Vth1まで小さくなるまでの間、許容電力の部分的制限(制限率1%~99%)又は許容電力の完全な制限(制限率100%)を行う。
【0210】
本方法は、放電許容電力制限部502において動作し、電圧に応じて放電許容電力の制限を行う。計測部120が取得した電圧値が制限発生の第2電圧閾値Vth2を下回った後、第1電圧閾値Vth1を超えるまで放電許容電力制限を継続する。このように、電圧変動によるハンチングを生じさせない電圧になるまで、制限状態を維持することにより、組電池110の不安定挙動を防止できる。
【0211】
本方法によれば、中心的な第2電圧閾値Vth2を下回ったら放電制限開始し、戻った電圧が制限開始したときよりも高く、さらに中心的な閾値よりも高い第1電圧値を超えたら制限解除する。すなわち、閾値を中心に所定幅を設定し、閾値を跨いで状態変化させるためには、所定幅を超えて変化したことに応じて制限状態と、解除状態と、を切り替える。これにより、許容電力に対する制限と解除のハンチングをなくして、信頼性を向上させられる。
【0212】
[6]上記[1]において、制御部121は、つぎの条件で制御する。
・許容電力の電圧値が、第2電圧値Vth2(2.5V)以下であって第3電圧値Vth3(2.2V)以上の所定電圧値V1(2.2V~2.5V)から、第1電圧値Vth1(3V)まで大きくなる間、許容電力の完全な制限(制限率100%)を行った場合、つぎの条件を加えて制御する。
【0213】
・その条件として、許容電力の電圧値が、第1電圧値Vth1(3V)から、第1電圧値Vth1(3V)よりも高い第4電圧値Vth4(3.1V)まで大きくなる間、単位時間当たりの電圧変動で表される所定の電圧勾配に基づいて、許容電力の部分的制限(制限率1%~99%)を行う。
【0214】
本方法によれば、状態変化のショックを無くすように、所定の電圧勾配を設けて制御したので、より安全性を高めて、電池制御の信頼性を向上させられる。
【0215】
[7]上記[5]又は[6]において、制御部121は、計測部120から取得した電圧値、又は電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値(移動平均値)を用い、つぎの条件により制御する。
【0216】
・所定の第2の時間(数十秒間)内において、
・第1電圧値(3V)よりも低く、第3電圧値(2.2V)よりも高い、所定の所定電圧値(第2電圧と同じ2.5V)以下であって、
・かつ、第3電圧値(2.2V)以上の場合(移動平均電圧が低い場合)、
・制御部121は、第1電圧値(3V)を相対的に上げて(3Vから3.1V)、第1電圧値(3.1V)を更新する。
【0217】
図18に示す移動平均電圧演算部530は、現在の電圧だけでなく過去の電圧履歴の状態を反映させた移動平均電圧として算出する。本方法によれば、放電許容電力のハンチングを防止する効果を高めるとともに、車両における電力使用範囲を広げられる。
【0218】
[8]上記[5]~[7]の何れかにおいて、制御部121は、計測部120から取得した電圧値、又は電圧値を所定の条件に基づいて演算処理された演算値(移動平均値)が、
・所定の第2の時間(数十秒間)内において、
・第1電圧値(3V)よりも低く、第3電圧値(2.2V)よりも高い、所定の所定電圧値(第2電圧と同じ2.5V)以下であって、
・かつ、第3電圧値(2.2V)以上ではない場合(移動平均電圧が高い場合)、
・制御部121は、第1電圧値(3V)を相対的に下げて(3Vから2.9V)、第1電圧値(2.9V)を更新する。
【0219】
本方法によれば、より一層、放電許容電力のハンチングを防止する効果を高めるとともに、車両における電力使用範囲を広げられる。
【0220】
[付記]
特許請求の範囲は、請求項1~8に記載の「電池制御方法」の下位項として、つぎの[9]~[12]に記載の「電池制御装置」も考えられる。[9],[10]は、請求項1,2それぞれの要件に対応する「電池制御装置」である。[11],[12]は、請求項5,6それぞれの要件に対応する「電池制御装置」である。
【0221】
[9]電池を制御する制御部と、前記電池の充電の許容電力に関するデータが記憶された記憶部と、前記電池の一対の電極端子の間の電圧値を測定する計測部と、を有する電池制御装置であって、前記許容電力は、予め定められた上限電圧値と、現在の充電状態とによって算出される充電可能な最大電力として定められ、前記データには、前記許容電力の制限が不要な上限値である第1電圧値と、前記第1電圧値よりも高く、前記許容電力の部分的制限が必要となる第2電圧値と、前記第2電圧値よりも高く、前記許容電力の完全な制限が必要となる第3電圧値と、が含まれ、前記制御部は、前記計測部から前記電圧値を所定時間ごとに取得し、前記許容電力の電圧値が、前記第3電圧値以上になった場合、前記許容電力の完全な制限を行い、前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値を介して、前記第1電圧値まで小さくなるまでの間、前記許容電力の部分的制限又は完全な制限を行う、電池制御装置。
【0222】
[10]前記制御部は、前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値以上であって前記第3電圧値以下の所定電圧値から、前記第1電圧値まで小さくなる間、前記許容電力の完全な制限を行った場合、前記許容電力の電圧値が、前記第1電圧値から、前記第1電圧値よりも低い第4電圧値まで小さくなる間、単位時間当たりの電圧変動で表される所定の電圧勾配に基づいて、前記許容電力の部分的制限を行う、上記[9]に記載の電池制御装置。
【0223】
[11]電池を制御する制御部と、前記電池の放電の許容電力に関するデータが記憶された記憶部と、前記電池の一対の電極端子の間の電圧値を測定する計測部と、有する電池制御装置であって、前記許容電力は、予め定められた下限電圧値と、現在の放電状態とによって算出される放電可能な最大電力として定められ、前記データには、前記許容電力の制限が不要な下限値である第1電圧値と、前記第1電圧値よりも低く、前記許容電力の部分的制限が必要となる第2電圧値と、前記第2電圧値よりも低く、前記許容電力の完全な制限が必要となる第3電圧値と、が含まれ、前記制御部は、前記計測部から前記電圧値を所定時間ごとに取得し、前記許容電力の電圧値が、前記第3電圧値以下になった場合、前記許容電力の完全な制限を行い、前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値を介して、前記第1電圧値まで大きくなるまでの間、前記許容電力の部分的制限又は完全な制限を行う、電池制御装置。
【0224】
[12]前記制御部は、前記許容電力の電圧値が、前記第2電圧値以下であって前記第3電圧値以上の所定電圧値から、前記第1電圧値まで大きくなる間、前記許容電力の完全な制限を行った場合、前記許容電力の電圧値が、前記第1電圧値から、前記第1電圧値よりも高い第4電圧値まで大きくなる間、単位時間当たりの電圧変動で表される所定の電圧勾配に基づいて、前記許容電力の部分的制限を行う、上記[11]に記載の電池制御装置。
【符号の説明】
【0225】
100…電池システム(本システム)、110…組電池、111…単電池、112,112a,112b…単電池群、120…計測部、121,121a,121b…単電池制御部、130…電流検知部、140…電圧検知部、150…電池状態推定部、160…信号通信部、170…絶縁素子、180…記憶部、151……電池状態検知部、152…許容電力演算部、153…許容電力算出部、154…許容電力制限部、200…車両制御部、300,310…リレー、400…インバータ、410…モータジェネレータ、420…モータ/インバータ制御部、500…許容電力制限部、501…充電許容電力制限部、502…放電許容電力制限部、520…変化量制限部、521…充電変化量制限部、522…放電変化量制限部、511,512…乗算部、530…移動平均電圧演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20