(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】切削工具及び切削加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23C 5/06 20060101AFI20250319BHJP
【FI】
B23C5/06 A
(21)【出願番号】P 2023545479
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2022031751
(87)【国際公開番号】W WO2023032761
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2021142555
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石 寛久
(72)【発明者】
【氏名】波多野 弘和
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-149231(JP,A)
【文献】特開2008-6568(JP,A)
【文献】特表2012-529996(JP,A)
【文献】特開2006-102924(JP,A)
【文献】特開2006-247776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/06
B23C 5/08
B23C 5/10
B23C 5/20
B23C 5/22
B23C 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に沿って先端から後端に向かって延び、且つ、前記先端の側に位置するポケットを有する本体部と、
前記ポケットに位置し、且つ、前記先端の側に位置する切刃を有する切削部と、
前記本体部及び前記切削部の間に位置し、且つ、前記切削部に対して前記後端に向かう方向の付勢力を加える弾性体と、を有し、
前記ポケットは、前記回転軸の回転方向の前方を向く第1座面を有し、
前記切削部は、前記回転軸の回転方向の後方に位置し、且つ、前記第1座面に接する後方面を有し、
前記弾性体は、前記第1座面及び前記後方面に当接し、
前記後方面は、前記後端に向かって摺動可能である、切削工具。
【請求項2】
前記第1座面は、前記後端に近づくにしたがって前記回転方向の前方に傾斜している、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第1座面が第1凹部を有し、
前記後方面が前記第1凹部に対向する第2凹部を有し、
前記弾性体は、前記第1凹部及び前記第2凹部に接している、請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第1座面は、前記先端の側から前記後端の側に向かって延びた第1溝を有し、
前記後方面は、前記第1溝に挿入された第1凸部を有する、請求項1
又は2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記第1溝は、前記後端に近づくにしたがって前記回転軸に近づく、請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記弾性体は、前記第1溝よりも前記回転軸の近くに位置する、請求項
4に記載の切削工具。
【請求項7】
前記後方面は、前記先端の側から前記後端の側に向かって延びた第2溝を有し、
前記第1座面は、前記第2溝に挿入された第2凸部を有する、請求項1
又は2に記載の切削工具。
【請求項8】
前記第2溝は、前記後端に近づくにしたがって前記回転軸に近づく、請求項7に記載の切削工具。
【請求項9】
前記切削部は、
前記回転方向の前方に位置する前方面と、
前記前方面及び前記後方面において開口する貫通孔と、
前記貫通孔に挿入されるとともに前記本体部に固定される固定具と、をさらに有する、請求項1
又は2に記載の切削工具。
【請求項10】
回転軸に沿って先端から後端に向かって延び、且つ、前記先端の側に位置するポケットを有する本体部と、
前記ポケットに位置し、且つ、前記先端の側に位置する切刃を有する切削部と、
前記本体部及び前記切削部の間に位置する付勢手段と、を有し、
被削材に接触していない状態での前記切刃の位置が、被削材に接触している状態での前記切刃の位置よりも前記後端に近づくように、前記付勢手段から前記切削部に付勢力が加えられている、切削工具。
【請求項11】
請求項1
又は1
0に記載の切削工具を回転させる工程と、
前記切削工具を被削材に接触させる工程と、
前記切削工具を被削材から離す工程と、を有する切削加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年9月1日に出願された日本国特許出願2021-142555号の優先権を主張するものであり、この先の出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、切削工具及び切削加工物の製造方法に関する。切削工具の一例として、いわゆる転削工具(フライス工具)が挙げられる。転削工具は、正面フライス加工及びエンドミル加工のような転削加工に用いられ得る。
【背景技術】
【0003】
切削工具として、例えば国際公開第2013/029072号(特許文献1)、国際公開第2004/080633号(特許文献2)及び特開2005-111651号公報(特許文献3)に記載の転削工具が知られている。一般的に、転削工具を用いて正面フライス加工を行う場合、送り方向の後方において切刃が被削材に接触することに起因して、被削材の加工面にあやめ模様が生じる恐れがある。
【0004】
特許文献1及び2に記載の転削工具においては、転削工具の回転軸が送り方向の前方に向かって傾斜している。これにより、被削材の加工面にあやめ模様が生じるリスクが回避されている。特許文献3に記載の転削工具においては、回転軸に沿った方向におけるワイパー刃に対する逃げが逃がし部に付与されている。これにより、逃がし部に起因する被削材の加工面にあやめ模様が生じるリスクが回避されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されているように、回転軸を送り方向の前方に向かって傾斜することは、汎用フライスのように加工方向が一軸に限定される機械では可能であるが、加工方向が一軸以上である一般的なマシニングセンタ等においては導入が困難である。すなわち、特許文献1及び2に記載の転削工具は汎用性に乏しい。
【0006】
また、特許文献3に記載の転削工具においては、送り方向の前方に位置するワイパー刃及び送り方向の後方に位置するワイパー刃の回転軸に沿った方向の位置が同じである。そのため、逃がし部に起因するあやめ模様のリスクが回避されるが、ワイパー刃に起因するあやめ模様のリスクが回避されない。
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様に基づく切削工具は、回転軸に沿って先端から後端に向かって延び、且つ、前記先端の側に位置するポケットを有する本体部と、前記ポケットに位置し、且つ、前記先端の側に位置する切刃を有する切削部と、前記本体部及び前記切削部の間に位置し、且つ、前記切削部に対して前記後端に向かう方向の付勢力を加える弾性体と、を有する。前記ポケットは、前記回転軸の回転方向の前方を向く第1座面を有する。前記切削部は、前記回転軸の回転方向の後方に位置し、且つ、前記第1座面に接する後方面を有する。前記弾性体は、前記第1座面及び前記後方面に当接する。前記後方面は、前記後端に向かって摺動可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る切削工具を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す切削工具をA1方向から見た平面図である。
【
図3】
図1に示す切削工具をA2方向から見た平面図である。
【
図4】
図1に示す切削工具における本体部(第1カートリッジ)、第1切削部及び固定具などを示す斜視図である。
【
図5】
図4に示す部位をA3方向から見た平面図である。
【
図6】
図4に示す部位をA4方向から見た平面図である。
【
図7】
図4に示す部位をA5方向から見た平面図である。
【
図9】
図4における第1切削部を示す斜視図である。
【
図10】
図6に示すX-X断面の断面図であって、
図4に示す部位の切削時の状態を示す図である。
【
図11】
図10に示す部位の非切削時の状態を示す断面図である。
【
図12】
図8に示す本体部の第1変形例の斜視図である。
【
図13】
図9に示す第1切削部の第1変形例の斜視図である。
【
図14】
図8に示す本体部の第2変形例の斜視図である。
【
図15】
図9に示す第1切削部の第2変形例の斜視図である。
【
図16】第2実施形態に係る切削工具における本体部、第1切削部及び固定具などを示す断面図であって、
図10に対応する図である。
【
図17】第3実施形態に係る切削工具を示す斜視図である。
【
図18】
図17に示す切削工具を先端の側から見た平面図である。
【
図19】
図17に示す切削工具における第1切削部、固定具及びベアリング部材などを示す斜視図である。
【
図23】
図22に示す部位における切削時及び非切削時の位置関係を示す模式図である。
【
図24】第4実施形態に係る切削工具を示す斜視図である。
【
図26】
図24に示す切削工具を先端の側から見た平面図である。
【
図27】
図25に示すXXVII-XXVII断面の拡大図である。
【
図28】
図24に示す切削工具における第1切削部、固定具及びベアリング部材を示す斜視図である。
【
図30】一実施形態に係る切削加工物の製造方法の一工程を示す概略説明図である。
【
図31】一実施形態に係る切削加工物の製造方法の一工程を示す概略説明図である。
【
図32】一実施形態に係る切削加工物の製造方法の一工程を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の限定されない第1実施形態~第4実施形態の切削工具について、それぞれ図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、各実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、本開示の切削工具は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。なお、切削加工の過程において、切削時とは切削工具と被削材とが接触している状態を示し、非切削時とは切削工具と被削材とが接触していない状態を示すものとする。また、図においては、特に断りのない限り、非切削時における切削工具の状態を示すものとする。
【0010】
第1実施形態に係る切削工具1Aは、
図1に示す限定されない一例のように、回転軸O1を有しており、いわゆる回転工具である。回転工具としては、例えば、フライス工具及びエンドミルが挙げられる。
図1に示す限定されない一例の回転工具は、フライス工具である。なお、回転軸O1は、切削工具1Aが回転する際の軸であり、切削工具1A(本体部3)が有形物として備えているものではない。
【0011】
切削工具1Aは、
図1などに示す限定されない一例のように、本体部3、切削部5及び弾性体7を備えている。本体部3は、回転軸O1に沿って先端3Aから後端3Bに向かって延びている。本体部3は、先端3Aの側に位置するポケット9を有する。切削部5は、ポケット9に位置し、且つ、先端3Aの側に位置する切刃11を有する(
図4などを参照)。弾性体7は、本体部3と切削部5との間に位置する(
図10などを参照)。
【0012】
本体部3は、切削工具1Aのベースとなる部分である。ポケット9は、本体部3の外周面及び先端3Aの側の端面において開口してもよい。ポケット9は、1つのみでもよく、
図3に示す限定されない一例のように複数であってもよい。なお、
図3は
図1に示す切削工具1AをA2方向から見た(先端3Aの側から見た)図である。本体部3が複数のポケット9を有する場合に、複数のポケット9の1つを第1ポケット9Aとする。切削部5は、
図1に示すような1つのみの場合に限定されず、複数であってもよい。切削工具1Aが複数のポケット9を有する場合に、第1ポケット9Aに位置する切削部5を第1切削部5Aとする。
【0013】
各ポケットにはインサートが取り付けられてもよい。
図1に示す限定されない一例のように、第1ポケット9A以外の複数のポケットには、インサートとして切削インサート12が取り付けられていてもよい。弾性体7は、1つのみでもよく、複数であってもよい。切削工具1Aが複数の弾性体7を有する場合に、本体部3及び第1切削部5Aの間に位置する弾性体7を第1弾性体7Aとする。
【0014】
回転方向O2は
図1に示す時計周りの方向に限定されない。例えば、切削工具1Aが
図1に示す構成に対して回転軸O1の周りで反転した構成である場合には、回転方向O2が反時計回りであってもよい。
【0015】
図1に示す限定されない一例において、第1実施形態の切削工具1Aは、先端3Aから後端3Bに向かって、回転軸O1に沿って延びた円柱形状である。なお、説明の便宜上、本体部3において、先端3Aの側及び後端3Bの側に位置する部分をそれぞれ第1端3A及び第2端3Bとする場合がある。また、切削工具1Aが、第1ポケット9Aなどを有していることから明らかであるように、切削工具1Aは厳密な円柱形状ではない。回転軸O1に沿った方向における本体部3の長さは、例えば50mm~100mmである。回転軸O1に直交する方向における本体部3の外径は、例えば100mm~300mmである。
【0016】
本体部3は、回転軸O1を中心に回転することが可能である。本体部3の形状に関しては特に限定はなく、例えば、略円柱形状あるいは略円錐形状であってもよく、凹凸部などを有していてもよい。
【0017】
本体部3は、1つの部材によって構成されてもよく、また、複数の部材によって構成されてもよい。例えば、
図1に示す限定されない一例のように、本体部3は、基体13及び第1カートリッジ15を有してもよい。なお、本体部3は、基体13及び第1カートリッジ15以外の部材を有してもよい。
【0018】
第1カートリッジ15は、基体13に取り付けられる部材である。第1カートリッジ15は、本体部3における第1ポケット9Aを形成するために用いられてもよい。
図2に示す限定されない一例において、第1カートリッジ15に対して回転軸O1の回転方向O2の前方に第1ポケット9Aが隣り合っている。なお、
図2は
図1に示す切削工具1AをA1方向から見た(側面視した)図である。
【0019】
第1カートリッジ15は、
図5に示す限定されない一例のように開口する第1穴17を有してよい。なお、
図5は
図4における部位をA3方向から見た(側面視した)図である。第1穴17は、第1カートリッジ15を基体13に装着する際の第1固定具19の挿入穴として用いられてもよい。第1固定具19の例として、ネジ及びクランプなどが挙げられる。
【0020】
第1ポケット9Aは、回転軸O1の回転方向O2の前方を向く第1座面21を有している。なお、本体部3が第1座面21を有していると言い換えてもよい。
図4に示す限定されない一例においては、第1カートリッジ15は第1座面21を有している。
【0021】
第1ポケット9Aに位置する第1切削部5Aは、第1端3Aの側に位置する切刃11を有する。この切刃11によって被削材を切削することにより切削加工物を製造することができる。第1切削部5Aは、1つの部材によって構成されてもよく、また、複数の部材によって構成されてもよい。
図4に示す限定されない一例における第1切削部5Aは、第1インサート23及び第2カートリッジ25を有する。
【0022】
図4に示す限定されない一例においては、第1インサート23が切刃11を有する。切刃11は、第1インサート23における回転方向O2の前方、且つ、第1端3Aの側に位置する。なお、切刃11は、この部分のみに位置する必要はない。例えば、第1インサート23における回転方向O2の前方、且つ、第1端3Aの側に位置する切刃11を第1切刃27とした場合に、第1インサート23が、第1インサート23における回転方向O2の前方、且つ、外周の側にも位置する第2切刃29をさらに有してもよい。第1切刃27及び第2切刃29は、
図6に示すような直線形状に限定されず、曲線形状であってもよい。なお、
図6は
図4における部位をA4方向から見た(正面視した)図である。
【0023】
第1インサート23は、第2カートリッジ25に対して回転方向O2の前方に位置する。第1インサート23は、例えば、
図7に示す限定されない一例のように、第2穴31を有し、ネジなどの第2固定具33を用いて第2カートリッジ25に固定されてもよい。なお、
図7は
図4における部位をA5方向から見た(第1端3Aの側から見た)図である。
【0024】
回転軸O1に沿った方向における第1切削部5Aの長さは、例えば30mm~50mmである。回転軸O1に直交する方向における第1切削部5Aの長さは、例えば15mm~35mmである。
【0025】
第1切削部5Aは、前方面35を有してもよい。前方面35は、第1切削部5Aにおいて、回転方向O2の前方に位置する面である。前方面35の形状に関しては特に限定はなく、例えば、平面形状あるいは曲面形状であってもよく、凹凸部を有していてもよい。前方面35は第1辺37、第2辺39及び第1コーナ41を有してもよい。第1辺37は、第1端3Aの側に位置してもよい。第2辺39は、回転軸O1から離れた外周の側に位置してもよい。第1コーナ41は第1辺37及び第2辺39に接続されたコーナであってもよい。
【0026】
第1切刃27は、第1辺37に位置してもよい。上記の通り、第1辺37が第1端3Aの側に位置することから、第1辺37に位置する第1切刃27は、切削部5における第1端3Aの側に位置することができる。また、第2切刃29は、第2辺39に位置してもよい。上記の通り、第2辺39が回転軸O1から離れた側に位置することから、第2辺39に位置する第2切刃29は、切削部5における回転軸O1から離れた側に位置することができる。
【0027】
第1切削部5Aは、第1コーナ41に位置する第3切刃43を有していてもよい。第3切刃43は、第1切刃27あるいは第2切刃29と連続して並んでいてもよい。第3切刃43は
図6に示すような曲線形状に限定されず、直線形状の部分を有していてもよく、円弧形状であってもよい。
【0028】
第1切削部5Aは、後方面45を有してもよい。後方面45は、第1切削部5Aにおいて回転方向O2の後方に位置する面である。後方面45の形状に関しては特に限定はなく、例えば、平面形状あるいは曲面形状であってもよく、凹凸部を有していてもよい。第1切削部5Aの後方面45は、第1ポケット9Aの第1座面21と対向する。
【0029】
第1座面21は、
図5などに示す限定されない一例のように、後方面45に接してもよい。このような場合には、後方面45の摺動する方向が安定しやすい。なお、ここで接するとは、第1座面21と後方面45の全部が隙間なく接している必要はない。具体的には、第1座面21と後方面45の間の一部に0.05mm~0.01mmの空隙があってもよい。
【0030】
第1弾性体7Aは、
図10に示す限定されない一例のように、本体部3及び第1切削部5Aの間に位置する。なお、
図10は
図6に示すX-X線に沿って切削時における
図4に示す部位を切断した状態を示す図である。X-X断面は、第2カートリッジ25の中心を通り、且つ、回転軸O1に平行な断面である。なお、X-X断面は、第1弾性体7Aの中心軸N1を含んでいてもよい(
図11参照)。具体的には、第1弾性体7Aは、第1ポケット9Aにおける第1座面21及び第1切削部5Aにおける後方面45の間に位置する。このとき、第1弾性体7Aは、第1座面21及び後方面45に当接してもよい。第1弾性体7Aは、第1切削部5Aに対して第2端3Bに向かう方向の付勢力を加えることが可能である。また、後方面45は、第2端3Bに向かって摺動可能である。後方面45は、第1切削部5Aの一部であることから第1切削部5Aが摺動可能であると言い換えてもよい。
【0031】
被削材の切削加工時に、
図30に示す限定されない一例において、切削工具1Aは、回転軸O1の周りで回転しつつ、所定の方向(いわゆる送り方向Y1)に向かって進行する。第1切削部5Aは、回転軸O1に対して送り方向Y1の前方に位置する際に切削加工に寄与できる。一方、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の後方に位置する際には、切削加工に寄与しないことが望まれる。これは、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の後方に位置する際に被削材と接触することによって、加工面が傷つき、加工面にいわゆるあやめ模様が形成される恐れがあるためである。
【0032】
被削材の切削加工時に、第1切削部5Aが被削材に接触すると、被削材に近づく方向、言い換えれば第2端3Bから遠ざかる方向に、被削材から切削部5に対して切削負荷が加わりやすい。そのため、第1切削部5Aが被削材に引き込まれ、切削加工が進行しやすい。このとき、すなわち、切削時の第1切刃27の位置を第1刃先位置S1とする(
図10参照)。
【0033】
ここで、第1実施形態に係る切削工具1Aは、第1弾性体7Aを有する。そのため、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の後方に位置する際には、第1弾性体7Aが第1切削部5Aに対して第2端3Bに向かう方向の付勢力を加えることができる。このとき、第1切削部5Aの後方面45が第2端3Bに向かって摺動可能である。そのため、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の前方に位置する際と比較して、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の後方に位置する際には、第1切削部5Aが第2端3Bに向かって摺動できる。このとき、すなわち、非切削時の第1切刃27の位置を第2刃先位置S2とする(
図11参照)。なお、
図11は
図10に対応する図であって、非切削時における
図4に示す部位の状態を示している。回転軸O1に沿った方向における第1刃先位置S1と第2刃先位置S2の距離(δZ)は、例えば0.05mm~0.2mmである。
【0034】
第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の後方に位置する際には、第1切削部5Aが第2端3Bに向かって摺動することによって、第1切削部5Aが被削材に接触しにくくなる。
【0035】
すなわち、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の前方に位置する際には、第1切削部5Aが被削材と接触し、第1切削部5Aによって被削材が切削加工できる一方で、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の後方に位置する際には、第1切削部5Aが被削材から離れる方向に摺動するため、第1切削部5Aが被削材に接触しにくい。
【0036】
以上の作用により、あやめ模様のリスクを低減できる。加えて、上記の切削加工は、切削工具の回転軸O1を送り方向前方に傾斜させることなく行うことができるため、加工方向が一方方向に限定されず、工具の移動距離を減らすことができる。よって、上記の作用は、汎用性が高く、加工時間の短縮にも寄与する。
【0037】
切削工具1Aにおいて、第1インサート23が、いわゆるワイパー用のインサートであってもよい。すなわち、切削インサート12が被削材に対して通常のフライス加工を行う一方で、第1インサート23が被削材の加工面の面精度を向上させるための仕上げ用のインサートであってもよい。このとき、第1インサート23が、切削インサート12と比較して第1端3Aの側に突出していてもよい。
【0038】
弾性体7が、ワイパー用のインサートである第1インサート23が取り付けられたポケット9(第1ポケット9A)に位置する一方で、通常のフライス加工を行うインサートである切削インサート12が取り付けられたポケット9には位置しなくてもよい。この場合には、切削工具1Aが必要最低限の数の弾性体7を有しつつ、あやめ模様のリスクを低減できる。すなわち、弾性体7を取り付けるための複雑な構造を最小限に留めることができ、あやめ模様のリスクを低減しつつ、切削工具1Aの製造コストを低減できる。
【0039】
上記した通り、第1弾性体7Aが第1座面21及び後方面45に当接する場合には、第1弾性体7Aは、(第1座面21を有する)本体部3に対する(後方面45を有する)第1切削部5Aの相対的な位置を第2端3Bに向かって動かしやすい。
【0040】
第1弾性体7Aは、本体部3及び第1切削部5Aと比較して弾性変形しやすい部材(弾性部材)である。第1弾性体7Aは、単一の弾性部材で構成されるものに限られず、複数の弾性部材を組み合わせてもよい。また、第1弾性体7Aは、弾性部材以外の部材を含む構成であってもよい。ここで、第1弾性体7Aに含まれる弾性部材以外の部材とは、弾性部材に接合されることで弾性部材と一体的に用いられるものであり、弾性部材とともに対象物に付勢力を加える部材を指す。なお、対象物とは第1切削部5Aなどが挙げられる。弾性部材以外の部材としては、例えば
図10に示す限定されない一例のようにピン47などが挙げられる。
【0041】
上記した弾性部材は、特定の材種に限定されない。例えば、弾性部材としては、各種バネ及びヤング率の高い部材が挙げられる。バネの具体例として、板ばね、皿ばね、弦巻ばねが挙げられる。ヤング率が高いとは、ある特定の値以上である必要はないが、例えば、本体部3及び第1切削部5Aと比較して高くてもよい。ヤング率は、例えば周知のナノインデンテーション法などによって評価できる。第1実施形態の切削工具1Aでは、弦巻ばね48を用いている。
【0042】
ヤング率の高い部材としては、例えば、樹脂及びゴムが挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、シリコン樹脂及びエポキシ樹脂が挙げられる。ゴムとしては、例えば、天然ゴム及び合成ゴムが挙げられる。
【0043】
第1弾性体7Aは、第1切削部5Aに対して付勢力を加える。ここで付勢力とは、弾性変形した弾性体7が元の状態に戻るときに働く力であってもよく、弾性力と言い換えてもよい。付勢力は、第1弾性体7Aが第1切削部5Aに直接加わる力だけではなく、第1弾性体7Aが他の部材を介して第1切削部5Aに間接的に加える力であってもよい。また、第1切削部5Aが支点を有し、第1切削部5Aがその支点を中心に回転移動することで、第2端3Bに向かって摺動するように、第1弾性体7Aは、付勢力を加えてもよい。また、第1弾性体7Aは、第1切削部5Aに対して第2端3Bに向かう方向以外に向かって付勢力を加えてもよく、例えば、回転方向O2の前方あるいは後方に付勢力を加えてもよい。
【0044】
後方面45、すなわち第1切削部5Aは、第2端3Bに向かって摺動可能である。ここで第2端3Bに向かって摺動可能というのは、第2端3B方向のみに摺動可能であることを指すのではなく、第2端3B方向に摺動する要素(ベクトル)を有することを意味する。そのため、例えば、第1切削部5Aが摺動する過程で、回転軸O1に近づくあるいは回転軸O1から離れる方向に移動してもよく、回転方向O2の前方あるいは後方に移動してもよい。
【0045】
第1座面21は、
図5に示す限定されない一例のように、第2端3Bに近づくにしたがって回転方向O2の前方に傾斜してもよい。言い換えれば、第1座面21は第1端3Aに近づくにしたがって回転方向O2の後方に傾斜してもよい。このような場合には、第1座面21が受ける切削負荷を回転軸O1に沿った方向に分散させやすい。これにより、切削負荷による第1カードリッジ15、すなわち本体部3の損傷を抑制できる。また、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の前方に位置して被削材を切削加工する際には、第1切削部5Aが被削材に近づく方向に摺動して、被削材が適切に切削されやすい。そのため、第1切削部5Aが回転軸O1に対して送り方向Y1の後方に位置する際に、第1切削部5Aが被削材により接触しにくい。
【0046】
第1座面21は、
図8に示す一例のような形状に限定されず、平面形状あるいは曲面形状であってもよく、凹凸部を有していてもよい。また、第2端3Bに近づくにしたがって回転方向O2の前方に傾斜しているとは、厳密に傾斜し続ける必要はなく、回転軸O1に対して平行な部分を含んでいてもよい。
【0047】
図8に示す限定されない一例のように、第1座面21は、第1凹部49を有してもよく、また、
図9に示す限定されない一例のように、後方面45は、第2凹部51を有してもよい。
図10に示す限定されない一例のように、第2凹部51は、第1凹部49に対向してもよい。第1凹部49及び第2凹部51に第1弾性体7Aが挿入されていてもよい。また、第1弾性体7Aは、第1凹部49及び第2凹部51に接していてもよい。第1弾性体7Aが第1凹部49及び第2凹部51に挿入されている場合には、本体部3及び第1切削部5Aの間に第1弾性体7Aを位置させつつ、第1座面21及び後方面45を接触させやすい。また、第1弾性体7Aが第1凹部49及び第2凹部51に接する場合には、第1切削部5Aに対して効率よく付勢力を伝えることができる。
【0048】
なお、上記における「第2凹部51が第1凹部49に対向する」とは、第1凹部49の開口部分49Aの少なくとも一部と、第2凹部51の開口部分51Aの少なくとも一部とが連続していればよい(
図11参照)。そのため、例えば、第1凹部49の開口部分49Aの形状及び第2凹部51の開口部分51Aの形状が一致する必要はなく、第1凹部49の開口部分49Aの全体と第2凹部51の開口部分51Aの全体とが向かい合っている必要はない。
【0049】
第1凹部49の形状は特に限定されず、第1凹部49の幅及び深さもまた、限定されない。第1凹部49の幅は一定であっても、変化してもよい。
【0050】
第2凹部51の形状もまた、第1凹部49の形状と同様に特に限定されない。加えて、第2凹部51の幅及び深さもまた、第1凹部49の幅及び深さと同様に限定されない。
【0051】
第1弾性体7Aは、第1凹部49に嵌め合い交差されていてもよい。例えば、
図10ではピン47及び弦巻ばね48は第1凹部49に嵌め合い交差されており、第1弾性体7Aの中心軸N1に沿った方向において摺動可能である。なお、
図11に示す限定されない一例のように、第1弾性体7Aの中心軸N1は第1凹部49の中心軸N2と一致していてもよい。第1弾性体7Aが第1凹部49に嵌め合い交差されることによって、第1弾性体7Aの位置が安定しやすい。そのため、第1弾性体7Aが後方面45に付勢力を加えやすい。また、第1弾性体7Aは、第2凹部51に嵌め合い交差されていてもよい。第1弾性体7Aが第2凹部51に嵌め合い交差されることによって、第1弾性体7Aの位置が安定しやすい。そのため、第1弾性体7Aが後方面45に付勢力を加えやすい。
【0052】
図8に示す限定されない一例のように、第1座面21は、第1溝53を有していてもよい。第1溝53は、第1端3Aの側から第2端3Bの側に向かって延びていてもよい。第1溝53の形状は、
図8に示す一例に限定されず、直線形状あるいは曲線形状であってもよい。また第1溝53の幅及び深さは一定でなくてもよい。また第1溝53の数は1つに限られず、2つ以上であってもよい。
【0053】
図9に示す限定されない一例のように、後方面45は、第1凸部55を有していてもよい。第1凸部55は、第1溝53に挿入されていてもよい。第1凸部55は、第1溝53に挿入されていることで後方面45の摺動する方向が安定しやすい。第1凸部55の形状は、
図9に示す一例に限定されず、直線形状あるいは曲線形状であってもよい。また、第1凸部55の幅及び高さは、一定でなくてもよい。なお、
図9は、第1切削部5Aを後方面45の側から見た斜視図である。
【0054】
また、第1凸部55の数は、1つに限られず、2つ以上であってもよい。後方面45が第1座面21の第1溝53に対応する複数の第1凸部55を有することで、後方面45の摺動方向がより安定する。第1凸部55は、
図9に示す限定されない一例のように、第1溝53に対応するような線形状になっていてもよい。第1凸部55が線形状になっていることで後方面45の摺動方向がより安定する。
【0055】
図8に示す限定されない一例のように、第1溝53は第1凹部49を有していてもよい。また、
図9に示す限定されない一例のように、第1凸部55は第2凹部51を有していてもよい。言い換えれば、切削工具1Aは、第1溝53及び第1凸部55の間に第1弾性体7Aを有していてもよい。切削工具1Aがこのような構成を有することで、回転軸O1の回転方向において、第1溝53及び第1凸部55の幅が広くなり、後方面45の摺動方向がより安定する。
【0056】
図12に示す限定されない一例のように、第1溝53は、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づいてもよい。言い換えれば、第1溝53は、第1端3Aに近づくにしたがって回転軸O1から離れてもよい。このような場合には、切削時に切刃11が第1端3Aの側に移動するとともに回転軸O1から離れる方向に移動する。そのため、例えば第2切刃29を有する場合に、フライス加工における送り量を高めることができる。なお、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づくとは、厳密に近づき続ける必要はなく、回転軸O1に対して平行な部分を含んでいてもよい。
【0057】
図13に示す限定されない一例のように、第1凸部55は、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づいてもよい。言い換えれば、第1凸部55は、第1端3Aに近づくにしたがって回転軸O1から離れてもよい。なお、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づくとは、厳密に近づき続ける必要はなく、回転軸O1に対して平行な部分を含んでいてもよい。
【0058】
第1凹部49及び第2凹部51は、第1溝53よりも回転軸O1の近くに位置してもよい。第1弾性体7Aが第1溝53よりも回転軸O1の近くに位置してもよい、と言い換えてもよい。すなわち、回転軸O1及び第1弾性体7Aの間隔が、回転軸O1及び第1溝53の間隔より小さくてもよい。第1座面21における回転軸O1に近い部分よりも第1座面21における回転軸O1から遠い部分の方が切削時に加工面から受ける切削負荷は大きくなる。上記の場合には、第1弾性体7Aが切削時に加工面から受ける抵抗力が小さくなり、第1弾性体7Aの破損の発生を抑制することができる。
【0059】
図15に示す限定されない一例のように、後方面45は第2溝57を有していてもよい。第2溝57は、第1端3Aの側から第2端3Bの側に向かって延びていてもよい。第2溝57の形状は特に限定されず、例えば、直線形状あるいは曲線形状であってもよい。また、第2溝57の幅及び深さは一定でなくてもよい。第2溝57の数は1つに限られず、2つ以上であってもよい。
【0060】
図14に示す限定されない一例のように、第1座面21は、第2凸部59を有していてもよい。第2凸部59は第2溝57に挿入されていてもよい。第2凸部59が第2溝57に挿入されていることで後方面45の摺動する方向が安定しやすい。第2凸部59の形状は、特に限定されない。第2凸部59の形状は、
図14に示す一例に限定されず、直線形状あるいは曲線形状であってもよい。また、第2凸部59の幅及び高さは、一定でなくてもよい。
【0061】
また、第2凸部59の数は1つに限られず、2つ以上であってもよい。第1座面21が後方面45の第2溝57に対応する複数の第2凸部59を有することで、後方面45の摺動方向がより安定する。第2凸部59は、
図14に示す限定されない一例のように、第2溝57に対応するような線形状になっていてもよい。このように、第2凸部59が線形状になっていることで後方面45の摺動方向がより安定する。
【0062】
図15に示す限定されない一例のように、第2溝57は、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づいてもよい。言い換えれば、第2溝57は、第1端3Aに近づくにしたがって回転軸O1から離れてもよい。このような場合には、切削時に切刃11が第1端3Aの側に移動するとともに回転軸O1から離れる方向に移動する。そのため、例えば第2切刃29を有する場合に、フライス加工における送り量を高めることができる。なお、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づくとは、厳密に近づき続ける必要はなく、回転軸O1に対して平行な部分を含んでいてもよい。
【0063】
図14に示す限定されない一例のように、第2凸部59は、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づいてもよい。言い換えれば、第2凸部59は、第1端3Aに近づくにしたがって回転軸O1から離れてもよい。なお、第2端3Bに近づくにしたがって回転軸O1に近づくとは、厳密に近づき続ける必要はなく、回転軸O1に対して平行な部分を含んでいてもよい。
【0064】
図14及び
図15で示す限定されない一例のように、第1凹部49及び第2凹部51は、第2溝57よりも回転軸O1の近くに位置してもよい。第1弾性体7Aが第2溝57よりも回転軸O1の近くに位置してもよい、と言い換えてもよい。すなわち、回転軸O1及び第1弾性体7Aの間隔が、回転軸O1及び第2溝57の間隔より小さくてもよい。第1座面21における回転軸O1に近い部分よりも第1座面21における回転軸O1に遠い部分の方が切削時に加工面から受ける切削負荷は大きくなる。上記の場合には、第1弾性体7Aが切削時に加工面から受ける抵抗力が小さくなり、第1弾性体7Aの破損の発生を抑制することができる。
【0065】
第1切削部5Aは、第1貫通孔61を有していてもよい。第1貫通孔61は、前方面35及び後方面45において開口してもよい。また、第1切削部5Aは、
図6に示す限定されない一例のように、本体部3に固定される第3固定具63を有していてもよい。第3固定具63は第1貫通孔61に挿入されていてもよい。第3固定具63として、例えばネジが挙げられる。第3固定具63は、第1切削部5Aがポケット9の中にある状態を維持できればよい。第1切削部5Aが摺動可能であることから、第3固定具63によって第1切削部5Aが本体部3に対して完全に固定されている必要はない。第1切削部5Aがこのような構成を有することで、第1切削部5Aを摺動可能な状態にしながら安定して保持することができる。なお、第1切削部5Aは第1貫通孔61の代わりに、貫通していない凹部を備えていてもよく、凹部に嵌め込むことで第1切削部5Aが本体部3に固定されていてもよい。
【0066】
本体部3は、第3凹部64を有していてもよい。例えば、
図8に示す限定されない一例において、第1カートリッジ15が第3凹部64を有している。第3固定具63は、第1切削部5Aの第1貫通孔61を通じて、第3凹部64に挿入されていてもよい。
【0067】
第2実施形態に係る切削工具1Bは、本体部3、第1切削部5A及び第1弾性体7Aを備えている。第2実施形態の切削工具1Bにおいて、第1実施形態の切削工具1Aと同じ構成である部分に関しては、第1実施形態の記載を援用し、詳細な説明を割愛する。
図16は第2実施形態に係る切削工具1Bにおいて、
図10に対応する図である。
【0068】
第1実施形態の切削工具1Aにおける第1弾性体7Aが、ピン47及び弦巻ばね48によって構成されている一方で、第2実施形態の切削工具1Bにおける第1弾性体7Aは、ヤング率の高い部材によって構成されている。
【0069】
第2実施形態の切削工具1Bにおける第1弾性体7Aは、特定の形状に限定されず、例えば、
図16に示す限定されない一例のように柱形状であってもよい。なお、柱形状である第1弾性体7Aの端面は、多角形状であっても円形状であってもよい。
【0070】
第3実施形態の切削工具1Cは、
図17~
図23に示す限定されない一例のように、本体部3、第1切削部5A及び第1弾性体7Aを備えている。第3実施形態の切削工具1Cにおいて、第1実施形態の切削工具1Aと同じ構成である部分に関しては、第1実施形態の記載を援用し、詳細な説明を割愛する。なお、
図21は第3実施形態に係る切削工具1Cを
図18のXXI-XXI線に沿って切断した状態を拡大して示す断面図である。XXI-XXI断面は、第2カートリッジ25の中心を通り、且つ、回転軸O1に平行な断面である。
【0071】
第4実施形態の切削工具1Dは、
図24~
図29に示す限定されない一例のように、本体部3、第1切削部5A及び第1弾性体7Aを備えている。第4実施形態の切削工具1Dにおいて、第1実施形態の切削工具1Aと同じ構成である部分に関しては、第1実施形態の記載を援用し、詳細な説明を割愛する。なお、
図27は、第4実施形態に係る切削工具1Dを
図25のXXVII-XXVII線に沿って切断した状態を拡大して示す断面図である。XXVII-XXVII断面は、第1弾性体7Aの中心を通り、且つ、回転軸O1に直交する断面である。
【0072】
第1実施形態に係る切削工具1Aは、第1座面21及び後方面45の一方が溝(第1溝53又は第2溝57)を有することによって、第1切削部5Aが直線的に摺動可能である。一方、第3実施形態に係る切削工具1C及び第4実施形態に係る切削工具1Dは、
図19及び
図28で示す限定されない一例のように、第3固定具63の中心軸(回転軸O3)を基準として回転可能である。すなわち、第1切削部5Aが第3固定具63の周りで摺動可能である。
【0073】
切削工具1C及び切削工具1Dは、
図20及び
図28で示す限定されない一例のように本体部3及び第1切削部5Aの間に、ベアリング部材65をさらに備えてもよい。切削工具1C及び切削工具1Dがこのような部材を備える場合には、第1切削部5Aが第3固定具63の周りで滑らかに摺動可能である。
【0074】
ベアリング部材65は、第1貫通孔61及び第3固定具63の間に位置していてもよい。切削工具1C及び切削工具1Dがこのような構成を有することで、第1切削部5Aが第3固定具63の周りで滑らかに摺動可能となる。なお、
図19に示す限定されない一例のように、切削工具1Cにおいて、第1貫通孔61は、第1切削部5Aにおける回転軸O1に近い側の面及び回転軸にO1から離れている面において開口していてもよい。
図28に示す限定されない一例のように、切削工具1Dにおいて、第1貫通孔61は、第1切削部5Aにおける第1端3Aの側の面及び第2端3Bの側の面において開口していてもよい。
【0075】
切削工具1C及び切削工具1Dでは、切削時において第1切削部5Aは回転軸O3の回転方向O4に回転し、第1切刃27は第1刃先位置S1に移動してもよい。一方、非切削時において第1切削部5Aは回転軸O3の回転方向O5に回転し、第1切刃27は第2刃先位置S2に移動してもよい。回転軸O1に沿った方向において、第2刃先位置S2は第1刃先位置S1よりも第2端3Bの側に位置していてもよい。回転軸O1に沿った方向における第1刃先位置S1と第2刃先位置S2の距離(δZ)は、例えば0.05mm~0.2mmである。なお、
図23及び
図27に示す限定されない一例のように、回転方向O4及び回転方向O5は回転軸O3の回転方向において互いに逆方向の関係である。また、
図23において実線で示しているのが、切削時における切削工具1C、点線で示しているのが非切削時における切削工具1Cである。
【0076】
第1実施形態に係る切削工具1Aは、第1切削部5Aが回転軸O1に沿った方向に直線的に摺動するため、第1弾性体7Aの中心軸N1は
図11に示す限定されない一例のように、回転軸O1に沿った方向に延びていてもよい。一方、第3実施形態に係る切削工具1D及び第4実施形態に係る切削工具1Dは、第1切削部5Aが第3固定具63の周りで摺動するため、第1弾性体7Aの中心軸N1は、回転軸O3に垂直な断面において、回転軸O3と第1弾性体7Aとを結んだ直線に対して垂直な方向(接線T1の方向)に延びていてもよい。このとき、
図21に示す限定されない一例のように、回転軸O3と第1弾性体7Aとを結んだ直線と接線T1の交点Pが第1弾性体7A上にあってもよい。切削工具1C及び切削工具1Dがこのような構成を有することで、第1弾性体7Aは第1切削部5Aに対して、効率よく付勢力を加えることができる。なお、
図21に示す限定されない一例のように、第1弾性体7Aの中心軸N1は接線T1と一致していてもよい。
【0077】
第3実施形態において、
図22に示す限定されない一例のように、切削工具1Cを側面視した際に、第1切刃27は回転軸O3よりも回転軸O1の回転方向O2の前方に位置していてもよい。切削工具1Cがこのような構成を有することで、切削時において、第1切刃27が第1端3Aの側に移動しやすくなる。すなわち、回転軸O1に沿った方向において、第1刃先位置S1が第2刃先位置S2よりも第1端3Aの側に位置しやすくなる。
【0078】
第4実施形態において、
図29に示す限定されない一例のように、切削工具1Dを側面視した際に、第1切刃27は回転軸O3よりも回転軸O1の回転方向O2の前方に位置していてもよい。切削工具1Dがこのような構成を有することで、切削時に切刃11が回転方向O5に移動する。すなわち、切刃11が第1端3Aの側に移動するとともに回転軸O1から離れる方向に移動する。そのため、例えば第2切刃29を有する場合に、フライス加工における送り量を高めることができる。
【0079】
第4実施形態において、第3固定具63は、回転軸O1に沿った方向において第2端3Bの側に近づくにしたがって、回転軸O1の回転方向O2の後方に近づくように傾斜していてもよい。言い換えれば、第3固定具63の中心軸(回転軸O3)は、回転軸O1に沿った方向において第2端3Bの側に近づくにしたがって、回転軸O1の回転方向O2の後方に近づくように傾斜していてもよい。第1貫通孔61及びベアリング部材65もまた、回転軸O1に沿った方向において第2端3Bの側に近づくにしたがって、回転軸O1の回転方向O2の後方に近づくように傾斜していてもよい。切削工具1Dがこのような構成を有する場合には、切削時において、第1切刃27が第1端3Aの側に移動しやすくなる。
【0080】
切削インサート12及び第1インサート23の材質としては、例えば、超硬合金及びサーメットなどが挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、WC-Co、WC-TiC-Co及びWC-TiC-TaC-Coが挙げられる。WC-Coは、炭化タングステン(WC)にコバルト(Co)の粉末を加えて焼結して生成される。WC-TiC-Coは、WC-Coに炭化チタン(TiC)を添加したものである。WC-TiC-TaC-Coは、WC-TiC-Coに炭化タンタル(TaC)を添加したものである。
【0081】
また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料である。具体的には、サーメットとして、炭化チタン(TiC)及び窒化チタン(TiN)などのチタン化合物を主成分としたものが挙げられる。
【0082】
切削インサート12及び第1インサート23の表面は、化学蒸着(CVD)法又は物理蒸着(PVD)法を用いて被膜でコーティングされていてもよい。被膜の組成としては、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)及びアルミナ(Al2O3)などが挙げられる。
【0083】
基体13の材質としては、鋼、鋳鉄及びアルミニウム合金などを用いることができる。靱性を高めるという観点では、基体13の材質として、鋼を用いてもよい。
【0084】
本開示の切削工具1A~1Dは、本体部3、切削部5及び付勢手段などを備えている。付勢手段は、本体部3及び第1切削部5Aの間に位置しており、第1切削部5Aに対して第2端3Bに向かう方向の付勢力を加えることが可能な要素である。なお、付勢手段は第1座面21及び後方面45の間に位置してもよい。付勢手段の具体的な構成としては、例えば、上記した第1弾性体7Aが挙げられる。付勢手段は、これらの構成に限定されず、例えば、空気圧、液圧、磁力など利用したものであってもよい。
【0085】
本開示の切削工具1A~1Dにおいては、付勢手段、すなわち第1弾性体7Aから加えられる付勢力によって第1切削部5Aが第2端3Bに向かって摺動可能である。そのため、第1切削部5Aが回転軸に対して送り方向Y1の前方に位置する際と比較して、第1切削部5Aが回転軸に対して送り方向Y1の後方に位置する際には、第1切削部5Aが第2端3Bに向かって摺動できる。すなわち、非切削時における切刃11の位置が、切削時における切刃11の位置よりも第2端3Bに近づくように、付勢手段から第1切削部5Aに付勢力が加えられている。
【0086】
このように付勢手段から第1切削部5Aに付勢力が加えられていることによって、第1切削部5Aが回転軸に対して送り方向Y1の前方に位置する際には、第1切削部5Aによって被削材が切削加工できる一方で、第1切削部5Aが回転軸に対して送り方向Y1の後方に位置する際には、第1切削部5Aによって被削材が切削加工されにくい。そのため、あやめ模様のリスクを低減できる。
【0087】
<切削加工物(machined product)の製造方法>
次に、本開示の限定されない実施形態の切削加工物の製造方法について、上述の限定されない第1実施形態に係る切削工具1Aを用いる場合を例に挙げて詳細に説明する。以下、
図30~
図32を参照しつつ説明する。なお、
図30~
図32においては、切削加工物101の製造方法の限定されない一例として、被削材102への切削加工の工程を図示している。また、視覚的な理解を容易にするため、
図31及び
図32において、切削された部分にハッチングを付している。
【0088】
本開示の限定されない実施形態にかかる切削加工物101の製造方法は、以下の(1)~(3)の工程を備え得る。
【0089】
(1)切削工具1Aを、回転軸O1を中心に回転方向O2に回転させ、被削材102に向かって送り方向Y1に切削工具1Aを近づけてもよい(
図30参照)。
【0090】
本工程は、例えば、被削材102を、切削工具1Aを取り付けた工作機械のテーブル上に固定し、切削工具1Aを回転した状態で近づけることにより行うことができる。なお、本工程では、被削材102と切削工具1Aとは相対的に近づけばよく、被削材102を切削工具1Aに近づけてもよい。
【0091】
(2)切削工具1Aをさらに被削材102に近づけることによって、回転している切削工具1Aを被削材102の表面の所望の位置に接触させて、被削材102を切削してもよい(
図31参照)。
【0092】
本工程においては、切刃11を被削材102の表面の所望の位置に接触させてもよい。
【0093】
(3)切削工具1Aを被削材102からY2方向に離してもよい(
図32参照)。
【0094】
本工程においても、上述の(1)の工程と同様に、被削材102から切削工具1Aを相対的に離せばよく、例えば被削材102を切削工具1Aから離してもよい。なお、切削加工としては、例えば、
図32に示す限定されない一例のようなフライス加工の他にも、プランジ加工、倣い加工及び斜め沈み込み加工などが挙げられ得る。
【0095】
以上のような工程を経ることによって、優れた加工性を発揮することが可能である。
【0096】
なお、以上に示したような被削材102の切削加工を複数回行う場合であって、例えば、1つの被削材102に対して複数の切削加工を行う場合には、切削工具1Aを回転させた状態を保持しつつ、被削材102の異なる箇所に切削工具1Aを接触させる工程を繰り返してもよい。
【0097】
被削材102の材質としては、例えば、炭素鋼、合金鋼、ステンレス、鋳鉄及び非鉄金属などが挙げられ得る。
【符号の説明】
【0098】
1A~1D・・・切削工具
O1、O3・・・回転軸
O2、O4、O5・・・回転方向
3・・・本体部
3A・・・先端(第1端)
3B・・・後端(第2端)
5・・・切削部
5A・・・第1切削部
7・・・弾性体
7A・・・第1弾性体
9・・・ポケット
9A・・・第1ポケット
11・・・切刃
12・・・切削インサート
13・・・基体
15・・・第1カートリッジ
17・・・第1穴
19・・・第1固定具
21・・・第1座面
23・・・第1インサート
25・・・第2カートリッジ
27・・・第1切刃
29・・・第2切刃
31・・・第2穴
33・・・第2固定具
35・・・前方面
37・・・第1辺
39・・・第2辺
41・・・第1コーナ
43・・・第3切刃
45・・・後方面
N1、N2・・・中心軸
Y1・・・送り方向
S1・・・第1刃先位置
S2・・・第2刃先位置
47・・・ピン
48・・・弦巻ばね
49・・・第1凹部
49A・・・開口部分
51・・・第2凹部
51A・・・開口部分
53・・・第1溝
55・・・第1凸部
57・・・第2溝
59・・・第2凸部
61・・・第1貫通孔
63・・・第3固定具
64・・・第3凹部
65・・・ベアリング部材
T1・・・接線
P・・・交点
101・・・切削加工物
102・・・被削材