(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】スクアリン酸カップリングを有する標識前駆体
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20250321BHJP
C07F 9/6515 20060101ALI20250321BHJP
C07C 275/16 20060101ALI20250321BHJP
C07D 257/02 20060101ALI20250321BHJP
C07D 255/02 20060101ALI20250321BHJP
C07D 243/08 20060101ALI20250321BHJP
C07D 401/14 20060101ALI20250321BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250321BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20250321BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20250321BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
A61K51/04 200
C07F9/6515 CSP
C07C275/16
C07D257/02
C07D255/02
C07D243/08 507
C07D401/14
A61K51/04 310
A61P35/00
A61K31/395
A61K31/551
A61K31/4709
(21)【出願番号】P 2021547891
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2019078614
(87)【国際公開番号】W WO2020083853
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】102018126558.1
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521177348
【氏名又は名称】エスツェーファオ-シュペツィアールヒェミカーリェンフェアトリープ、ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SCV-SPEZIALCHEMIKALIENVERTRIEB GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】フランク、レッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス、グライフシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】ニールス、エンゲルボーゲン
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ、ベルクマン
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-513574(JP,A)
【文献】国際公開第2016/058056(WO,A1)
【文献】特表2017-538780(JP,A)
【文献】Linker Modification Strategies To Control the Prostate-Specific Membrane Antigen (PSMA)-Targeting and Pharmacokinetic Properties of DOTA-Conjugated PSMA Inhibitors,J Med Chem,2016年,Vol. 59, No. 5,p. 1761-1775,doi: 10.1021/acs.jmedchem.5b01210
【文献】Development of Quinoline-Based Theranostic Ligands for the Targeting of Fibroblast Activation Protein,J Nucl Med,2018年04月06日,Vol. 59, No. 9,p. 1415-1422,doi: 10.2967/jnumed.118.210443
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 51/04
A61P 35/00
A61K 31/395
A61K 31/551
A61K 31/4709
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
(A)=Ch-L
1-QS-TV
1
(B)=Ch-L
1-QS-S
1-TV
1
(E)=TV
2-QS-L
2-Ch-L
1-QS-TV
1
(F)=TV
2-S
3-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
1-TV
1
を有する構造(A)、(B)、(E)または(F)の、放射性医薬品のための標識前駆体であって、
DOTA(ドデカ-1,4,7,10-テトラアミン-テトラアセテート)、DOTAGA(2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10)-ペンタン二酸)および他のDOTA誘導
体を含む群から選択されるキレート剤Ch、
-(CH
2)
m-、-(CH
2CH
2O)
m-、および-(CH
2)
mNH-(m=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基およびエチレンの残基を含む群から互いに独立して選択される、1つもしくは2つのリンカーL
1およびL
2、
1つ以上のスクアリン酸残基QS:
【化1】
場合により、-(CH
2)
n-、-(CH
2)-CH(COOH)-NH-、-(CH
2CH
2O)
n-、および-(CH
2)
nNH-(n=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基およびエチレンの残基を含む群から互いに独立して選択される、1つもしくは2つのスペーサーS
1、S
3、ならびに
以下の式:
【化2】
(式中、ターゲティングベクタ
ー[5]および[6]の破線の連結は、脱離基とのカップリング部位を示す)、
を有する構
造[5]および[6]の化合物の残基を含む群から互いに独立して選択される、1つもしくは2つのターゲティングベクターTV
1およびTV
2を含んでなる
か;または
下記構造
【化3】
である、標識前駆体。
【請求項2】
1つのターゲティングベクターTV
1だけを含有することを特徴とする、請求項1に記載の標識前駆体。
【請求項3】
2つの等しいターゲティングベクターTV
1およびTV
2を含み、TV
1=TV
2であることを特徴とする、請求項1に記載の標識前駆体。
【請求項4】
前記リンカーL
1およびL
2が等しい(L
1=L
2)ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の標識前駆体。
【請求項5】
前記スペーサーS
1およびS
3が等しい(S
1=S
3)ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の標識前駆体。
【請求項6】
放射性医薬品のための標識前駆体を調製するための方法であって、
キレート剤ChをリンカーL
1とコンジュゲートさせて、前駆体P
1=Ch-L
1を形成するか、またはキレート剤ChをリンカーL
1およびスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
2=Ch-L
1-QSを形成するか、またはキレート剤ChをリンカーL
1およびL
2とコンジュゲートさせて、前駆体P
3=L
2-Ch-L
1を形成するか、またはキレート剤ChをリンカーL
1、L
2およびスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
4=QS-L
2-Ch-L
1-QSを形成する工程、
場合により、ターゲティングベクターTV
1をスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
5=TV
1-QSを形成するか、またはターゲティングベクターTV
1をスペーサーS
1とコンジュゲートさせて、前駆体P
7=TV
1-S
1を形成するか、またはターゲティングベクターTV
1をスペーサーS
1およびスクアリン酸
またはスクアラミドQSとコンジュゲートさせて、前駆体P
8=TV
1-S
1-QSを形成する工程、
場合により、ターゲティングベクターTV
2をスクアリン酸
またはスクアラミドQSとコンジュゲートさせて、前駆体P
10=TV
2-QSを形成するか、またはターゲティングベクターTV
2をスペーサーS
3とコンジュゲートさせて、前駆体P
12=TV
2-S
3を形成するか、またはターゲティングベクターTV
2をスペーサーS
3およびスクアリン酸
またはスクアラミドQSとコンジュゲートさせて、前駆体P
13=TV
2-S
3-QSを形成する工程、
ターゲティングベクターTV
1を前記前駆体P
2とコンジュゲートさせるか、または前記前駆体P
1およびP
5をコンジュゲートさせて、構造Ch-L
1-QS-TV
1の標識前駆体を形成するか、または前駆体P
1およびP
8もしくはP
2およびP
7をコンジュゲートさせて、構造Ch-L
1-QS-S
1-TV
1の標識前駆体を形成する工程、あるいは
前記前駆体P
3、P
5およびP
10をコンジュゲートさせて、構造TV
2-QS-L
2-Ch-L
1-QS-TV
1の標識前駆体を形成するか、または前駆体P
3、P
8およびP
13もしくはP
4、P
7およびP
12をコンジュゲートさせて、構造TV
2-S
3-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
1-TV
1の標識前駆体を形成する工程、を含み、
前記キレート剤Chが、DOTA(ドデカ-1,4,7,10-テトラアミン-テトラアセテート)、DOTAGA(2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10)-ペンタン二酸)および他のDOTA誘導
体を含む群から選択され、
前記リンカーL
1およびL
2が、-(CH
2)
m-、-(CH
2CH
2O)
m-、および-(CH
2)
mNH-(m=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基およびエチレンの残基を含む群から互いに独立して選択され、
前記スペーサーS
1、S
3が、-(CH
2)
n-、-(CH
2)-CH(COOH)-NH-、-(CH
2CH
2O)
n-、および-(CH
2)
nNH-(n=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基およびエチレンの残基を含む群から互いに独立して選択され、
前記ターゲティングベクターTV
1およびTV
2が、以下の式:
【化4】
(式中、前記ターゲティングベクタ
ー[5]および[6]の破線の連結は、脱離基とのカップリング部位を示す)
を有する構
造[5]および[6]の化合物を含む群から互いに独立して選択される、方法。
【請求項7】
前記ターゲティングベクターTV
1およびTV
2が等しい(TV
1=TV
2)ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リンカーL
1およびL
2が等しい(L
1=L
2)ことを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記スペーサーS
1およびS
3が等しい(S
1=S
3)ことを特徴とする、請求項6、7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート剤またはフッ素化基と、1つまたは2つのターゲティングベクターと、を含んでなる標識前駆体であって、各ターゲティングベクターがリンカーおよび場合によりスペーサーを介してキレート剤またはフッ素化基にカップリングされている、標識前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明による標識前駆体は、腫瘍細胞が前立腺特異的膜抗原(PSMA)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)またはファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)を発現する癌の核医学放射線画像診断および治療(セラノスティクス)を意図する。
【0003】
約15年の間、陽電子放出断層撮影(PET)および単一光子放射断層撮影(SPECT)などの放射線画像診断法が使用されている。最近では、セラノスティクス手順もますます重要になっている。
【0004】
放射線診断およびセラノスティクスでは、腫瘍細胞は、68Gaまたは177Luなどの放射性同位体で標識されるか、または照射される。その際、それぞれの放射性同位体と共有結合(18F)するか、または配位結合(68Ga、99mTc、177Lu)する標識前駆体を使用する。金属放射性同位体の場合、標識前駆体は、放射性同位体を必須の化学的成分として効果的かつ安定的に錯体化するためのキレート剤と、腫瘍組織内の標的構造に結合する機能成分としての生物学的ターゲティングベクターと、を含む。原則として、生物学的ターゲティングベクターは、腫瘍細胞の細胞膜受容体、タンパク質または酵素に対して高い親和性を有する。
【0005】
血流への静脈内注射後、放射性同位体で標識された標識前駆体は、腫瘍細胞上にまたはその内部に蓄積する。診断検査中の健康な組織の放射線量を最小限に抑えるために、数時間から数日と半減期が短い少量の放射性同位体が使用される。ターゲティングベクターの構成および化学的性質は、キレート剤またはフッ素化基によって変更され、原則として、腫瘍細胞への親和性が強く影響を受ける。したがって、キレート剤またはフッ素化基と少なくとも1つのターゲティングベクターとのカップリングは、入念な試行錯誤実験またはいわゆる生化学的スクリーニングで調整される。キレート剤またはフッ素化基と、少なくとも1つのターゲティングベクターとを含んでなる多数の標識前駆体が合成され、特に腫瘍細胞に対する親和性が定量化される。キレート剤またはフッ素化基、およびターゲティングベクターとの化学的カップリングが、それぞれの標識前駆体の生物学的かつ放射線学的な効力に決定的な影響を与える。
【0006】
高い親和性に加えて、標識前駆体は、次のような他の要件を満たす必要がある:
それぞれの放射性同位体の迅速かつ効果的な錯体化または共有結合、
健康な組織と比較して腫瘍細胞に対する高い選択性、
インビボ安定性、すなわち、生理学的条件下での血清中の生化学的耐性。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【0008】
前立腺がん
先進国の男性にとって、前立腺癌は最も一般的な癌であり、致死性癌な癌としては3番目に多いものです。この疾患では腫瘍の成長が遅く、早期に診断された場合、5年生存率は100%に近くなる。腫瘍が転移してから疾患が発見された場合のみ、生存率が劇的に低下する。腫瘍に対する早期の積極的なアプローチは、かえって患者の生活の質を必要以上に損なう可能性がある。例えば、前立腺の外科的切除は、失禁およびインポテンツの原因となることがある。疾患の高信頼性の診断と病期分類は、患者の高い生活の質を維持しつつ治療を成功させるために不可欠である。医師による前立腺の触診に加えて、広く普及している診断ツールは、患者の血液中の腫瘍マーカーの測定である。前立腺癌の最も顕著なマーカーは、血液中の前立腺特異抗原(PSA)の濃度である。しかしながら、PSA濃度の重要性については物議を醸している。その理由として、値がわずかに高い患者は、前立腺癌に罹患していない場合が多いのに対して、前立腺癌患者の15%は血液中のPSA濃度の上昇を示さないからである。前立腺腫瘍の診断のための別の標的構造は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)である。PSAとは対照的に、PSMAは、血液中では検出できない。PSMAは、酵素活性を有する膜結合型糖タンパク質である。その機能は、N-アセチルアスパルチルグルタミン酸(NAAG)および葉酸(ポリ)-Y-グルタミン酸からのC末端グルタミン酸の切断である。PSMAは、正常組織ではめったに発生しないが、前立腺癌細胞によって強く過剰発現され、その発現は腫瘍疾患の病期と密接に関連している。また、前立腺癌からのリンパ節および骨転移の40%がPSMAを発現する。
【0009】
PSMAの分子ターゲティングの1つの戦略は、PSMAのタンパク質構造に結合する抗体を使用することである。もう1つのアプローチは、よく理解されているPSMAの酵素活性を利用することである。PSMAの酵素結合ポケットには、グルタミン酸と結合する2つのZn2+イオンが含まれる。2つのZn2+イオンがある中心の前には、芳香族結合ポケットがある。タンパク質は、結合相手に併せて拡張して適合することができる(誘導適合)ため、NAAGに加えて葉酸と結合でき、それにより、プテロイン酸基が芳香族結合ポケットにドッキングする。PSMAの酵素親和性を使用すると、基質の酵素的切断とは無関係に、細胞内への基質の取り込み(エンドサイトーシス)が可能になる。
【0010】
したがって、PSMA阻害剤は、画像診断およびセラノスティクス放射性医薬品または放射性トレーサーのためのターゲティングベクターとして特に適している。放射性標識された阻害剤は、酵素の活性中心に結合するが、そこでは変換されることはない。したがって、阻害剤と放射性標識との結合は切断されない。エンドサイトーシスの助けを借りて、放射性標識の付いた阻害剤が細胞内に吸収され、腫瘍細胞内に蓄積される。
【0011】
PSMAに対して高い親和性を有する阻害剤は、通常、グルタミン酸モチーフと、酵素的に切断できない構造とを含有する。非常に効果的なPSMA阻害剤は、2-ホスホノ-メチル-グルタル酸または2-ホスホノメチル-ペンタン二酸(2-PMPA)であり、ここで、グルタミン酸モチーフは、PSMAでは切断できないホスホネート基に結合している。
【0012】
臨床的に関連する放射性医薬品PSMA-11およびPSMA-617で使用されるPSMA阻害剤の別のグループは、尿素ベースの阻害剤である。グルタミン酸モチーフのための結合ポケットに加えて、PSMAの芳香族結合ポケットに対処することが有利であると証明されている。例えば、非常に効果的な放射性医薬品PSMA-11では、L-リジン-尿素-L-グルタミン酸(KuE)結合モチーフが、ヘキシル(ヘキシルリンカー)を介して、芳香族HBEDキレート剤(N,N’-ビス(2-ヒドロキシ-5-(エチレン-β-カルボキシ)ベンジル)エチレンジアミンN,N’-ジアセテート)に付着している。
【0013】
一方、L-リジン-尿素-L-グルタミン酸(KuE)を、非芳香族キレート剤DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラアセテート)に結合させた場合、親和性の低下と腫瘍組織への蓄積が観察される。
177Luまたは
225Acなどの治療用放射性同位体を含むPSMAアフィン放射性医薬品にDOTAキレート剤を引き続き使用できるようにするには、リンカーを適合させる必要がある。現在のゴールドスタンダードである、非常に効果的な放射性医薬品PSMA-617は、様々な芳香族構造によるヘキシルの標的置換によって見出された(
図1:PSMA阻害剤;
図2:標識前駆体PSMA-11;
図3:標識前駆体PSMA-617)。
【0014】
腫瘍間質
多くの腫瘍は、悪性上皮細胞を含み、活性化した線維芽細胞、内皮細胞、周皮細胞、免疫調節細胞および細胞外マトリックス中のサイトカインを含むいくつかの非癌性細胞集団に囲まれている。腫瘍を取り囲むこれらのいわゆる間質細胞は、癌腫の発生、成長および転移において重要な役割を果たす。間質細胞の大部分は、活性化した線維芽細胞であり、これは癌関連線維芽細胞(CAF)として知られている。腫瘍の進行に伴い、CAFは、その形態や生物学的機能を変化させる。これらの変化は、癌細胞とCAFとの細胞間コミュニケーションによって誘発される。CAFは、癌細胞の成長に有利な微小環境を形成する。単に癌細胞を標的とする療法は不十分であることが示されている。効果的な療法は、腫瘍微小環境、すなわち、CAFを含む環境に対処する必要がある。線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)は、すべてのヒト癌腫の90%を超える癌腫において、CAFによって過剰発現する。したがって、FAPは、放射線診断およびセラノスティクスの有望な攻撃ポイントである。特にFAP阻害剤(FAPIまたはFAPi)は、PSMAと同様に、FAP標識前駆体のためのアフィン生物学的ターゲティングベクターとして好適である。FAPは、同じ活性部位を介してジペプチジルペプチダーゼ(DPP)およびプロリルオリゴペプチダーゼ(PREP)によって触媒される二峰性活性を示す。したがって、FAPのDPPおよび/またはPREP活性を阻害する2種類の阻害剤が考慮される。FAP PREP活性の既知の阻害剤は、FAPに対する選択性が低い。FAPおよびPREPの両方を過剰発現する癌では、FAP選択性が低いにもかかわらず、PREP阻害剤もターゲティングベクターとして適する可能性がある。
図4は、キレート剤が4-アミノブトキシ官能基を介してファーマコフォア((S)-N-(2-(2-シアノ-4,4-ジフルオロピロリジン-1-イル)-2-オキソエチル)-6-(4-アミノブチルオキシ)-キノリン-4-カルボキサミドのキノリン単位にカップリングされている、DOTAコンジュゲートFAP標識前駆体を示す(
図4:DOTAコンジュゲートFAP標識前駆体)。
【0015】
骨転移
骨転移は、HMG-CoAレダクターゼ(メバロン酸)経路の酵素であるファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)を発現する。FPPSを阻害することにより、シグナルタンパク質を細胞膜にドッキングするための重要な分子であるファルネシルの産生が抑制される。その結果、発癌性骨細胞のアポトーシスが誘導される。FPPSは、アレンドロネート、パミドロネートおよびゾレドロネートなどのビスホスホネートによって阻害される。例えば、ターゲティングベクターであるパミドロネートを含むトレーサーBPAMDは、骨転移の治療によく使用される。ゾレドロネート(ZOL)は、ヘテロ芳香族N単位を有するヒドロキシビスホスホネートであり、骨転移のセラノスティクスに特に効果的なトレーサーであることが証明されている。キレート剤NODAGAおよびDOTAとコンジュゲートしたゾレドロネート(
図5)は、現在、骨転移に対して最も強力な放射性セラノスティクスである(
図5:トレーサーDOTAゾレドロネート(左)およびNODAGAゾレドロネート(右))。
【0016】
放射性同位体による癌疾患の診断およびセラノスティクスのための多数の標識前駆体が、先行技術で知られている。国際公開第2015/055318号は、特に
図3に示す化合物PSMA-617のような、前立腺癌または上皮癌の診断およびセラノスティクスのための放射性トレーサーを開示している。
【発明の具体的説明】
【0017】
本発明は、高い腫瘍選択性および用量で、前立腺癌および間質性癌の診断およびセラノスティクスのための放射性トレーサーのための効率的な標識前駆体を提供することを目的とする。
【0018】
この目的は、以下の式:
(A)=Ch-L
1-QS-TV
1
(B)=Ch-L
1-QS-S
1-TV
1
(C)=Ch-L
1-QS-S
1-QS-TV
1
(D)=Ch-L
1-QS-S
2-QS-S
1-TV
1
(E)=TV
2-QS-L
2-Ch-L
1-QS-TV
1
(F)=TV
2-S
3-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
1-TV
1
(G)=TV
2-QS-S
4-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
2-QS-TV
1
(H)=TV
2-S
3-QS-S
4-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
2-QS-S
1-TV
1
(I)=Fg-L
1-QS-TV
1
(J)=Fg-L
1-QS-S
1-TV
1
(K)=Fg-L
1-QS-S
2-QS-TV
1
(L)=Fg-L
1-QS-S
2-QS-S
1-TV
1
を有する構造(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)、(I)、(J)、(K)または(L)の、標識前駆体であって、
EDTA(エチレンジアミン-テトラアセテート)、EDTMP(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、DTPA(ジエチレントリアミンペンタアセテート)およびその誘導体、DOTA(ドデカ-1,4,7,10-テトラアミン-テトラアセテート)、DOTAGA(2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10)-ペンタン二酸)および他のDOTA誘導体、TRITA(トリデカ-1,4,7,10-テトラアミン-テトラアセテート)、TETA(テトラデカ-1,4,8,11-テトラアミン-テトラアセテート)およびその誘導体、NOTA(ノナ-1,4,7-トリアミン-トリアセテート)およびその誘導体(NOTAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸,4,7-アセテート)など)、NOPO(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-ビス[メチレン(ヒドロキシメチル)ホスフィン酸]-7-[メチレン(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸])、PEPA(ペンタデカ-1,4,7,10,13-ペンタアミンペンタアセテート)、HEHA(ヘキサデカ-1,4,7,10,13,16-ヘキサアミン-ヘキサアセテート)およびその誘導体、HBED(ヒドロキシベンジル-エチレン-ジアミン)およびその誘導体、DEDPAおよびその誘導体(H
2DEDPA(1,2-[[6-(カルボキシレート)ピリジン-2-イル]メチルアミン]エタンなど)、DFO(デフェロキサミン)およびその誘導体、トリスヒドロキシピリジノン(THP)およびその誘導体(YM103など)、TRAP(トリアザシクロノナンホスフィン酸)、TEAP(テトラアジシクロデカンホスフィン酸)およびその誘導体、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピン-N,N,N’,N’-テトラアセテート)および誘導体(DATA((6-ペンタン酸)-6-(アミノ)メチル-1,4-ジアゼピントリアセテート)、SarAr(1-N-(4-アミノベンジル)-3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]-エイコサン-1,8-ジアミン)およびその塩、以下の種類:
【化1】
のアミノチオールおよびそれらの誘導体を含む群から選択されるキレート剤Ch、または、
以下の式:
【化2】
を含む群から選択されるフッ素化基Fg、
-(CH
2)
m-、-(CH
2CH
2O)
m-、および-(CH
2)
mNH-(m=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、ホスフィネートの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基、エチレンの残基およびマレイミドの残基を含む群から互いに独立して選択される、1つもしくは2つのリンカーL
1およびL
2、
1つ以上のスクアリン酸残基QS:
【化3】
場合により、-(CH
2)
n-、-(CH
2)-CH(COOH)-NH-、-(CH
2CH
2O)
n-、および-(CH
2)
nNH-(n=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、ホスフィネートの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基、エチレンの残基およびマレイミドの残基を含む群から互いに独立して選択される、1つ、2つ、3つもしくは4つのスペーサーS
j(1≦j≦4)、ならびに
以下の式:
【化4】
(式中、Yは保護基であり、X’=CI、BrまたはIであり、ターゲティングベクター[1]~[41]の破線の連結は、脱離基との結合部位を示す)
を有する構造[1]~[41]の化合物の残基を含む群から互いに独立して選択される、1つもしくは2つのターゲティングベクターTV
1およびTV
2を含んでなる、標識前駆体によって達成される。
【0019】
本発明による標識前駆体の有利な実施形態は、
標識前駆体が、1つのターゲティングベクターTV1だけを含有する、
標識前駆体が、互いに異なる2つのターゲティングベクターTV1およびTV2(TV1≠TV2である)を含有し、
標識前駆体が、2つの等しいターゲティングベクターTV1およびTV2(TV1=TV2である)を含有し、
保護基Yが、tert-ブチルオキシカルボニル(tert-ブチル)、トリアルキルシリル基、トリメチルシリル(-Si(CH3)3)、トリエチルシリル(-Si(CH2CH3)3)、イソプロピルジメチルシリル(-Si(CH3)2C(CH3)2)、tert-ブチルジメチルシリル(-Si(CH3)2C(CH3)3)、およびtert-ブトキシジメチルシリル(-Si(CH3)2OC(CH3)3)を含む群から選択される、
リンカーL1およびL2が等しい(L1=L2)、
リンカーL1およびL2が互いに異なる(L1≠L2)、
スペーサーS1およびS3が等しい(S1=S3)、
スペーサーS1およびS3が互いに異なる(S1≠S3)、
スペーサーS2およびS4が等しい(S2=S4)、ならびに/または
スペーサーS2およびS4が互いに異なる(S2≠S4)、
ことを特徴とする。
【0020】
本発明による標識前駆体は、キレート剤Chまたはフッ素化基Fgが、44Sc、47Sc、55Co、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga、68Ga、89Zr、86Y、90Y、90Nb、99mTc、111In、135Sm、140Pr、159Gd、149Tb、160Tb、161Tb、165Er、166Dy、166Ho、175Yb、177Lu、186Re、188Re、213Biおよび225Acそれぞれを含む群から選択される放射性同位体で、または18F、131Iもしくは211Atで標識するためのものである。
【0021】
したがって、本発明はさらに、
キレート剤Ch、ならびに44Sc、47Sc、55Co、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga、68Ga、89Zr、86Y、90Y、90Nb、99mTc、111In、135Sm、140Pr、159Gd、149Tb、160Tb、161Tb、165Er、166Dy、166Ho、175Yb、177Lu、186Re、188Re、213Biおよび225Acを含む群から選択される錯体化された放射性同位体、あるいは
フッ素化基Fg、および共有結合された放射性同位体18F、131Iもしくは211At、または18F、131Iもしくは211Atを含有する共有結合基、特に-CF2
18F(トリフルオロメチル)
を含む、上記標識前駆体のうちの1つを含有する、放射性トレーサー化合物に関する。
【0022】
本発明はまた、放射性医薬品の製造のための上記標識前駆体の使用に関する。
【0023】
有利な実施形態において、上記標識前駆体は、44Sc、47Sc、55Co、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga、68Ga、89Zr、86Y、90Y、90Nb、99mTc、111In、135Sm、140Pr、159Gd、149Tb、160Tb、161Tb、165Er、166Dy、166Ho、175Yb、177Lu、186Re、188Re、213Bi、225Ac、18F、131Iまたは211Atで標識された放射性医薬品の製造に使用される。
【0024】
有利な実施形態において、上記標識前駆体は、陽電子放出断層撮影(PET)画像診断のための放射性医薬品の製造に使用される。
【0025】
有利な実施形態において、上記標識前駆体は、単一光子放射断層撮影(SPECT)画像診断のための放射性医薬品の製造に使用される。
【0026】
有利な実施形態において、上記標識前駆体は、癌性腫瘍の治療のための放射性医薬品の製造に使用される。
【0027】
本発明のさらなる目的は、PSMAおよび/またはFAPを発現する癌腫瘍の診断およびセラノスティクスのための標識前駆体の合成のための単純かつ効果的な方法を提供することである。
【0028】
この目的は、
キレート剤Chもしくはフッ素化基FgをリンカーL
1とコンジュゲートさせて、前駆体P
1=Ch-L
1もしくはP
1=Fg-L
1を形成するか、またはキレート剤Chもしくはフッ素化基FgをリンカーL
1およびスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
2=Ch-L
1-QSもしくはP
2=Fg-L
1-QSを形成するか、またはキレート剤ChをリンカーL
1およびL
2とコンジュゲートさせて、前駆体P
3=L
2-Ch-L
1を形成するか、またはキレート剤ChをリンカーL
1、L
2およびスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
4=QS-L
2-Ch-L
1-QSを形成する工程、
場合により、ターゲティングベクターTV
1をスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P5=TV
1-QSを形成するか、またはターゲティングベクターTV
1をスクアリン酸QSおよびスペーサーS
2とコンジュゲートさせて、前駆体P
6=TV
1-QS-S
2を形成するか、またはターゲティングベクターTV
1をスペーサーS
1とコンジュゲートさせて、前駆体P
7=TV
1-S
1を形成するか、またはターゲティングベクターTV
1をスペーサーS
1およびスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
8=TV
1-S
1-QSを形成するか、またはターゲティングベクターTV
1をスペーサーS
1、スクアリン酸QSおよびスペーサーS
2とコンジュゲートさせて、前駆体P
9=TV
1-S
1-QS-S
2を形成する工程、
場合により、ターゲティングベクターTV
2をスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
10=TV
2-QSを形成するか、またはターゲティングベクターTV
2をスクアリン酸QSおよびスペーサーS
4とコンジュゲートさせて、前駆体P
11=TV
2-QS-S
4を形成するか、またはターゲティングベクターTV
2をスペーサーS
3とコンジュゲートさせて、前駆体P
12=TV
2-S
3を形成するか、またはターゲティングベクターTV
2をスペーサーS
3およびスクアリン酸QSとコンジュゲートさせて、前駆体P
13=TV
2-S
3-QSを形成するか、またはターゲティングベクターTV
2をスペーサーS
3、スクアリン酸QSおよびスペーサーS
4とコンジュゲートさせて、前駆体P
14=TV
2-S
3-QS-S
4を形成する工程、
ターゲティングベクターTV
1を前駆体P
2とコンジュゲートさせるか、または
前駆体P
1およびP
5をコンジュゲートさせて、構造Ch-L
1-QS-TV
1もしくはFg-L
1-QS-TV
1の標識前駆体を形成するか、または前駆体P
1およびP
8もしくはP
2およびP
7をコンジュゲートさせて、構造Ch-L
1-QS-S
1-TV
1もしくはFg-L
1-QS-S
1-TV
1の標識前駆体を形成するか、または前駆体P
2およびP
9をコンジュゲートさせて、構造Ch-L
1-QS-S
2-QS-S
1-TV
1もしくはFg-L
1-QS-S
2-QS-S
1-TV
1の標識前駆体を形成する工程、あるいは
前駆体P
3、P
5およびP
10をコンジュゲートさせて、構造TV
2-QS-L
2-Ch-L
1-QS-TV
1の標識前駆体を形成するか、または前駆体P
3、P
8およびP
13もしくはP
4、P
7およびP
12をコンジュゲートさせて、構造TV
2-S
3-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
1-TV
1の標識前駆体を形成するか、または前駆体P
4、P
6およびP
11をコンジュゲートさせて、構造TV
2-QS-S
4-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
2-QS-TV
1の標識前駆体を形成するか、または前駆体P
4、P
9およびP
14をコンジュゲートさせて、構造TV
2-S
3-QS-S
4-QS-L
2-Ch-L
1-QS-S
2-QS-S
1-TV
1の標識前駆体を形成する工程、
を含み、
キレート剤Chが、EDTA(エチレンジアミンテトラアセテート)、EDTMP(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、DTPA(ジエチレントリアミンペンタアセテート)およびその誘導体、DOTA(ドデカ-1,4,7,10-テトラアミンテトラアセテート)、DOTAGA(2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10)-ペンタン二酸)および他のDOTA誘導体、TRITA(トリデカ-1,4,7,10-テトラアミン-テトラアセテート)、TETA(テトラデカ-1,4,8,11-テトラアミン-テトラアセテート)およびその誘導体、NOTA(ノナ-1,4,7-トリアミン-トリアセテート)およびその誘導体(NOTAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸,4,7-アセテート)など)、NOPO(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-ビス[メチレン(ヒドロキシメチル)ホスフィン酸]-7-[メチレン(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸])、PEPA(ペンタデカ-1,4,7,10,13-ペンタアミン ペンタアセテート)、HEHA(ヘキサデカ-1,4,7,10,13,16-ヘキサアミン-ヘキサアセテート)およびその誘導体、HBED(ヒドロキシベンジル-エチレン-ジアミン)およびその誘導体、DEDPAおよびその誘導体(H
2DEDPA(1,2-[[6-(カルボキシレート)ピリジン-2-イル]メチルアミン]エタンなど)、DFO(デフェロキサミン)およびその誘導体、トリスヒドロキシピリジノン(THP)およびその誘導体(YM103など)、TRAP(トリアザシクロノナンホスフィン酸)、TEAP(テトラアジシクロデカンホスフィン酸)およびその誘導体、AAZTA(6-アミノ-6-メチルペルヒドロ-1,4-ジアゼピン-N,N,N’,N’-テトラアセテート)および誘導体(DATA((6-ペンタン酸)-6-(アミノ)メチル-1,4-ジアゼピン トリアセテート)、SarAr(1-N-(4-アミノベンジル)-3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]-エイコサン-1,8-ジアミン)およびその塩、以下の種類:
【化5】
のアミノチオールおよびそれらの誘導体を含む群から選択され、
フッ素化基Fgが、以下の式:
【化6】
を含む群から選択され、
リンカーL
1およびL
2が、-(CH
2)
m-、-(CH
2CH
2O)
m-、および-(CH
2)
mNH-(m=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、ホスフィネートの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基、エチレンの残基およびマレイミドの残基を含む群から互いに独立して選択され、
スペーサーS
j(1≦j≦4)が、-(CH
2)
n-、-(CH
2)-CH(COOH)-NH-、-(CH
2CH
2O)
n-、および-(CH
2)
nNH-(n=1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)、アミドの残基、カルボキサミドの残基、ホスフィネートの残基、アルキルの残基、トリアゾールの残基、チオ尿素の残基、エチレンの残基およびマレイミドの残基を含む群から互いに独立して選択され、
ターゲティングベクターTV
1およびTV
2が、以下の式:
【化7】
(式中、Yは保護基であり、X’=CI、BrまたはIであり、ターゲティングベクター[1]~[41]の破線の連結は、脱離基との結合部位を示す)
を有する構造[1]~[41]の化合物の残基を含む群から互いに独立して選択される、方法によって達成される。
【0029】
本発明による方法の有利な実施形態は、
ターゲティングベクターTV1およびTV2が互いに異なる(TV1≠TV2)、
ターゲティングベクターTV1およびTV2が等しい(TV1=TV2)、
保護基Yが、tert-ブチルオキシカルボニル(tert-ブチル)、トリアルキルシリル基、トリメチルシリル(-Si(CH3)3)、トリエチルシリル(-Si(CH2CH3)3)、イソプロピルジメチルシリル(-Si(CH3)2C(CH3)2)、tert-ブチルジメチルシリル(-Si(CH3)2C(CH3)3)、およびtert-ブトキシジメチルシリル(-Si(CH3)2OC(CH3)3)を含む群から選択される、
リンカーL1およびL2が等しい(L1=L2)、
リンカーL1およびL2が互いに異なる(L1≠L2)、
スペーサーS1およびS3が等しい(S1=S3)、
スペーサーS1およびS3が互いに異なる(S1≠S3)、
スペーサーS2およびS4が等しい(S2=S4)、ならびに/または
スペーサーS2およびS4が互いに異なる(S2≠S4)、
ことを特徴とする。
【0030】
フッ素化基Fgは、放射性同位体18F、131Iまたは211Atのうちの1つで標識するための脱離基Xを含む。脱離基Xは、臭素(Br)の残基、塩素(Cl)の残基、ヨウ素(I)の残基、トシル(-SO2-C6H4-CH3、「Ts」と略記)の残基、ノシレートもしくはニトロベンゼンスルホネート(-OSO2-C6H4-NO2、「Nos」と略記)の残基、2-(N-モルフォリノ)エタンスルホン酸(-SO3-(CH2)2-N(CH2)4O、「MES」と略記)の残基、トリフラートもしくはトリフルオロメタンスルホニル(-SO2CF3、「Tf」と略記)の残基、またはノナフレート(-OSO2-C4F9、「Non」と略記)の残基に等しい。
【0031】
本発明との関係においては、以下の呼称または略語が使用される。
PSMA・・・・・・・・・・・・・・前立腺特異的膜抗原
FAP・・・・・・・・・・・・・・・線維芽細胞活性化タンパク質
FPPS・・・・・・・・・・・・・・ファルネシルピロリン酸シンターゼ
2-PMPA・・・・・・・・・・・・2-ホスホノメチルグルタル酸
KuE・・・・・・・・・・・・・・・L-リジン-尿素-L-グルタミン酸
DOTA.QS.PSMA・・・・・・特に
図8による構造式を有する標識前駆体であって、キレート剤としてDOTA(ドデカ-1,4,7,10-テトラアミン-テトラアセテート)を含み、構造式[1]、[2]、[3]および/もしくは[4]を有する1つまたは2つのPSMAターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してキレート剤にカップリングされている、標識前駆体
NOTA.QS.PSMA・・・・・・特に
図9による構造式を有する標識前駆体であって、キレート剤としてNOTA(ノナ-1,4,7-トリアミン トリアセテート)を含み、構造式[1]、[2]、[3]および/もしくは[4]を有する1つまたは2つのPSMAターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してキレート剤にカップリングされている、標識前駆体
AAZTA.QS.PSMA・・・・・特に
図9による構造式を有する標識前駆体であって、キレート剤としてAAZTAを含み、構造式[1]、[2]、[3]および/もしくは[4]を有する1つまたは2つのPSMAターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してキレート剤にカップリングされている、標識前駆体
DATA.QS.PSMA・・・・・・特に
図9による構造式を有する標識前駆体であって、キレート剤としてDATAを含み、構造式[1]、[2]、[3]および/もしくは[4]を有する1つまたは2つのPSMAターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してキレート剤にカップリングされている、標識前駆体
DOTAGA.QS.PSMA・・・・キレート剤としてDOTAGA(2-(1,4,7,10-テトラアザシクロ-ドデカン-4,7,10)ペンタン二酸)を含み、構造式[1]、[2]、[3]および/もしくは[4]を有する1つまたは2つのPSMAターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してキレート剤にカップリングされている、標識前駆体
NOTAGA.QS.PSMA・・・・キレート剤としてNOTAGA(1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸,4,7-アセテート)を含み、構造式[1]、[2]、[3]および/もしくは[4]を有する1つまたは2つのPSMAターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してキレート剤にカップリングされている、標識前駆体
TRAP.QS.PSMA・・・・・・キレート剤としてTRAP(トリアザシクロノナンホスフィン酸)を含み、構造式[1]、[2]、[3]および/もしくは[4]を有する1つまたは2つのPSMAターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してキレート剤にカップリングされている、標識前駆体
NOTA.QS.PAM・・・・・・・キレート剤としてNOTAを含み、構造式[40]による1つまたは2つのパミドロネートターゲティングベクターが、1つまたは2つのリンカー、スクアリン酸基およびスペーサーを介してカップリングされている、標識前駆体
【0032】
本発明の文脈で関係において使用されるさらなる略語は、上記略語に対応し、別のキレート剤、別のフッ素化基および/または別のターゲティングベクター(特に、構造式[5]~[41]によるFAPのためのターゲティングベクター)は、それぞれの略語または頭字語によって類似の方法で称される。例えば、骨転移においてファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)を標的とするために使用される類似の誘導体は、ビスホスホネートの種類に応じて、パミドロネートの場合には「PAM」、ゾレドロネートの場合には「ZOL」と略記される。
【0033】
本発明による標識前駆体は、1つ以上のスペーサーSj(1≦j≦4)、すなわち、1つのスペーサーS1、2つのスペーサーS1およびS2、3つのスペーサーS1、S2およびS3、または4つのスペーサーS1、S2、S3およびS4を含んでいてもよい。
【0034】
ターゲティングベクターの構造式[1]~[41]において、本発明による標識前駆体のスクアリン酸基またはスペーサーS1もしくはS2とのコンジュゲーションのために提供される結合は、破線で示される。破線の結合を介してコンジュゲートした基は、ターゲティングベクターがスクアリン酸基またはスペーサーS1もしくはS2とカップリングする際に分離される脱離基である。
【実施例】
【0035】
以下に、図および実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0036】
図6は、本発明により使用されるキレート剤Chのいくつかの構造を示す(
図6:本発明により使用されるキレート剤)。
【0037】
実施例1:PSMA標識前駆体の合成戦略
本発明による標識前駆体の合成では、スクアリン酸ジエステルが好ましく使用される。その結果、多くの、場合によっては非常に複雑な標識前駆体を、単純な反応プロセスを利用して合成することができる。スクアリン酸ジエステルは、アミンとの選択的反応性を特徴とするため、キレート剤、リンカー、スペーサーおよびターゲティングベクターをカップリングする際、保護基は不必要である。さらに、カップリングは、pH値によって制御することができる。
【0038】
まず、PSMAターゲティングベクターを合成し(
図7を参照)、pH7の水性媒体中で精製した後、スクアリン酸ジエステルと反応させて、キレート剤とカップリングするための補欠分子族(prostethic group)または前駆体を形成する(
図8を参照)(
図7:QS-KuE前駆体の合成スキーム)。
【0039】
例えば、PSMAターゲティングベクターの場合、PSMA阻害剤であるL-リジン-尿素-L-グルタミン酸(KuE)を、既知のプロセスによって合成する。それにより、固相、特にポリマー樹脂に結合され、tert-ブチルオキシカルボニル(tert-ブチル)で保護したリジンを、2つのtert-ブチルで保護したグルタミン酸と反応させる。保護したグルタミン酸をトリホスゲンにより活性化し、固相に結合したリジンへカップリングした後、L-リジン-尿素-L-グルタミン酸(KuE)をTFAによって分離し、同時に、完全に脱保護する。次に、半分取HPLCにより生成物を遊離リジンから分離することができる。上記反応のリジン関連収率は、50%を超える(
図8:QS-KuE前駆体のDOTAへのカップリング)。
【0040】
pH9のリン酸緩衝液中でQS-KuE前駆体をキレート剤DOTAとコンジュゲートさせて、標識前駆体DOTA.QS.PSMAを形成する。
【0041】
PSMA標識前駆体の放射性標識のために、iThemba製Ge/Gaジェネレーターから0.6MのHClで68Gaを溶出し、カチオン交換カラムで水性エタノール溶出により処理した。キレート剤に応じて、3.5~5.5のpH値および25℃~95℃の温度で放射性標識が行われる。反応の動的パラメーターを求めるために、HPLCおよびIPTCによって反応の進行を記録した。
【0042】
実施例2:標識前駆体NOTA.QS.PSMA、AAZTA.QS.PSMAおよびDATA.QS.PSMA
DOTAの代わりにキレート剤NOTA、AAZTAおよびDATAを用いて実施例1に記載の戦略による合成を利用して、
図9に示した前駆体NOTA.QS.PSMA、AAZTA.QS.PSMAおよびDATA.QS.PSMAを生成する(
図9:標識前駆体NOTA.QS.PSMA、AAZTA.QS.PSMAおよびDATA.QS.PSMA)。
【0043】
実施例3:放射性ハロゲン化物のためのPSMA標識前駆体
18Fおよび
131Iなどのハロゲン化物同位体による放射性標識のための、
図10に示したPSMA標識前駆体を、
図10の合成スキームにより、わずかに変更した反応を利用して調製した。
18Fで標識した対応する放射性トレーサーを
図11に示す(
図10:放射性ハロゲン化物のためのスクアリン酸コンジュゲートPSMA標識前駆体;
図11:tert-ブチル保護基を分離する前のPSMAのためのスクアリン酸コンジュゲート
18F-放射性トレーサー)。
【0044】
実施例4:
99m
TcのためのPSMA標識前駆体
実施例1に記載の戦略による合成により、同位体
99mTcによる放射性標識のための、
図12に示したPSMA標識前駆体を調製した(
図12:タイプ「N
3S」のアミノチオール系のキレート剤を含む、
99mTcのためのスクアリン酸コンジュゲートPSMA標識前駆体)。
【0045】
実施例5:FAP標識前駆体の合成戦略
(
図13:FAP標識前駆体の合成戦略)
図14は、
図13に示した合成戦略により調製される2つのFAP標識前駆体を示す(
図14:スクアリン酸カップリングを有するFAP標識前駆体)。
【0046】
実施例6:錯体化ヘルパーとしてのQS
臨床使用のためには、低温で効率的に錯体化を起こすことが非常に重要である。スクアリン酸は遊離金属を錯体化するので、キレート剤中心を非特異的な配位から保護することができる。この効果は、様々な温度でのTRAP.QSの放射性標識において観察され得る。TRAPは、室温で定量的に錯体化する。対照的に、同じ条件下でTRAP.QSを使用して測定されたRCY値はわずか50%であった。温度を上げると、TRAP.QSの標識収率は定量値まで増加する。これは、スクアリン酸が錯体化に与える影響を示している。
図15に示されるこの効果により、AAZTA.QSキレート剤を使用して、ジルコニウムなどの配位数の高い金属を安定して錯体化することができる(
図15:AAZTA.QSによる配位)。
【0047】
実施例7:2つのKuEおよびFAPIターゲティングベクターをそれぞれ含む二量体標識前駆体
(
図16:二量体標識前駆体)
(i)2つのアミン側基を含むDO2A単位の合成:
(
図17:2つのアミン基を含むDOA2の合成)
(ii)KuE-QSモチーフの合成:
(
図18:KuE-QSの合成)
(iii)FAPI-QSの合成、4,4-ジフルオロプロリン-キノリン-4-カルボン酸モチーフとQSとのカップリング:
(
図19:FAPI-QSの合成)
(iv)DO2A単位と、KuE-QSおよびAPI-QSそれぞれFとのカップリング:
(
図20:二量体の合成)
【0048】
実施例8:
68
Ga-DOTA.OS.PSMAの前臨床試験
PETを使用して、タイプ
68Ga-DOTA.QS.PSMA、
68Ga-PSMA-11、および
68Ga-PSMA-617の放射性トレーサーを使用した前臨床比較試験を、右後肢にLNCaP腫瘍を有するNMRInu/nuヌードマウスで実施した。
図21は、本発明によるトレーサー
68Ga-DOTA.QS.PSMAの注射から60分後のPET画像を示し、部分画像(A)および(B)は、ブロックされていない腫瘍マウスおよび同時注射された2-PMPAによってブロックされた腫瘍マウスそれぞれのPET画像を示す。
【0049】
【0050】
図22に示したPET画像から、トレーサーが腫瘍内に非常に蓄積していることが分かる。PETデータから、
68Ga-DOTA.QS.PSMAの腫瘍における標準化取込値(SUV)は0.73であると求められた。臓器の摘出および重量と活性の測定によって確認された生物学的分布データは、
68Ga-PSMA-11および
68Ga-PSMA-617と比べて、
68Ga-DOTA.QS.PSMAの腫瘍活性がわずかに低いか、または同等であることを示している。対照的に、腎臓におけるオフターゲット活性は、
68Ga-PSMA-11の場合よりも大幅に低い。
【0051】
他の既知の放射性トレーサーと比較して、68Ga-DOTA.QS.PSMAのオフターゲット濃縮は、腎臓および肝臓において大幅に低減される。68Ga-DOTA.QS.PSMAは、腫瘍組織に対して高い親和性を有し、PCa原発腫瘍および特に骨盤領域におけるPCa罹患リンパ節のPET画像診断のコントラストおよび信号対雑音比(S/N比)を改善する。腎臓および隣接する臓器の放射線曝露も低減され、これはセラノスティック治療に大きな利点をもたらす。
【0052】
64CuTRAP.QS.PSMAおよび68Ga-NOTAGA.QS.PSMAを用いた類似の研究でも、同等の結果が得られた。さらに、DOTA.QS.PSMAを、177Luおよび25Acで標識した。これらのトレーサーの放射線学的および生理学的安定性に関する最初の結果は、セラノスティクスへのそれらの適性を示している。
【0053】
PSMAの芳香族結合ポケットがPSMA阻害剤の親和性に影響するため、PSMAトレーサーの脂溶性はある程度重要視される。研究によると、脂溶性の増加が、腫瘍組織におけるトレーサーの取り込みまたはエンドサイトーシスをも促進することが示されている。
【0054】
したがって、本発明によるトレーサーTRAP.QS.PSMAおよびDOTA.QS.PSMAの脂溶性を、DonovanおよびPescatore(S.F.Donovan,M.C.Pescatore,J.Chromatogr.A 2002,952,47-61)によるHPLC法によって求めた.この目的のために、TRAP.QS.PSMA、DOTA.QS.PSMA、および既知の脂溶性を有するいくつかの較正標準の保持時間を、pH7のメタノール/水グラジエントを用いてODP-HPLCカラムで測定した。保持時間の線形回帰によって求めたTRAP.QS.PSMAおよびDOTA.QS.PSMAのlogD値を、PSMA-11およびPSMA-617に関する文献値とともに表2に示す。
【0055】
DOTA.QS.PSMAはODP-HPLCカラムに保持されないため、logDは最大値のみを示す。TRAP.QS.PSMA、PSMA-11およびPSMA-617は、同等の脂溶性を有する。驚くべきことに、腎臓におけるTRAP.QS.PSMAの取り込みは、PSMA-11およびPSMA-617と比較して大幅に低減される。この観察結果は、それぞれのlogD値のわずかな差異では説明できない。明らかに、親和性およびエンドサイトーシスは、脂溶性の影響を受けるだけでなく、酵素結合ポケットにおけるπ-πスタッキングなどの他の相互作用にも役割を果たしている。スクアリン酸は、フェニルに比べてサイズが小さいため、有利のようである。対照的に、DOTA.QS.PSMAは、PSMA-617と同等の腎臓における取り込みに関連して、かなり高い脂溶性を示す。
【0056】
【0057】
さらに、PETを使用して、LNCap腫瘍を有するNMRInu/nuヌードマウスでタイプ[
68Ga]Ga-DOTA.QS.PSMA、[
68Ga]Ga-PSMA-11、および[
68Ga]Ga-PSMA-617の放射性トレーサーによる前臨床エクスビボ試験を実施した。
図23は、対応する化合物の臓器分布を示す。得られた結果は、インビボ試験で得られた結果を明示している。臓器の摘出および重量と活性の測定によって求められた生物学的分布データは、[
68Ga]Ga-DOTA.QS.PSMAが、[
68Ga]Ga-PSMA-11および[
68Ga]Ga-PSMA-617と比べてわずかに低いか、または同じ腫瘍活性を有することを示している。対照的に、腎臓でのオフターゲット活性は、[
68Ga]Ga-PSMA-11よりも大幅に低い。
【0058】
実施例9:FPPSトレーサー
アレンドロネート、パミドロネートおよびゾレドロネート(それぞれ、構造式[39]、[40]および[41])などのビスホスホネートは、ファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)を阻害し、骨転移でのアポトーシスを誘導する。
【0059】
骨転移を標識するために、キレート剤であるNOTAおよびターゲティングベクターであるパミンドロネート(pamindronate)(構造式[40])を有するスクアリン酸カップリングトレーサーNOTA.QS.PAMを、実施例1に記載の戦略に従って合成した。
図24は、NODAGAキレート剤を参照した合成スキームを示す(
図24:NODAGA.QS.PAMの合成)。
【0060】
本発明によるトレーサーNOTA.QS.PAMおよび臨床的に確立された参照トレーサーDOTAZolを、68Gaで標識し、若くて健康なWistarラットに注射し、注射後5分、60分および120分の間隔でPETスキャンを記録した。
【0061】
図25は、注射から120分後のトレーサー
68Ga-NOTA.QS.PAMおよび
68Ga-DOTA
Zolの、対応するPET画像を示す。いずれのトレーサーも、リモデリング率が上昇している骨領域、特に、若いラットではなお成長過程にある骨端部に特異的な取り込みを示す。骨格に加えて、膀胱でも活性の上昇がみられ、腎排泄が優先的に行われることを示す。対照的に、軟組織内での保持量は、きわめて低い。
【0062】
68Ga-DOTAZolと比較して、68Ga-NOTA.QS.PAMの腎排泄は、わずかに減少する。この観察結果は、PSMAトレーサーの腎排泄と一致している。これは、遊離した非特異的に結合したトレーサーの腎排泄の促進に関連して、標的組織内での蓄積量が増加した結果をしめす。薬理学的動態に関して、本発明のスクアリン酸カップリングトレーサーは、既知のトレーサーよりも優れている。
【0063】
図26は、注射後5分および60分の間隔での異なる臓器における
68Ga-NOTA.QS.PAMおよび
68Ga-DOTA
Zolの取込値(SUV)を棒グラフの形式で示す。活性の臓器分布は、両トレーサーが骨への取り込みと保持が高く、それにより、
68Ga-NOTA.QS.PAMがわずかに高い大腿骨SUV(SUV大腿骨:
68Ga-DOTA
Zol=3.7±0.4;
68Ga-NOTA.QS.PAM=4.5±0.2)を有することを示す。いずれのトレーサーも、腎排泄および残りの組織での保持が低いことを特徴とする。
【0064】
実施例10:QS.PSMA
QSの活性を解明するために、DOTA.QS.PSMAの場合と同様の試験を、NODAGA.QS.PSMAを用いて実施した。
図27および28は、それぞれ放射性DC(
図27)および放射性HPLC(
図28)によって測定された、
68Gaを有する化合物の放射性標識を示す。95%を超える収率が達成される。
【0065】
対応する安定性試験を、ヒト血清およびPBS緩衝液中で実施した。これらの化合物は、PBSおよびHS中で2時間後に95%を超える安定性を示す。
図29は、HPLCで測定した安定性を示す。
【0066】
さらに、3つの化合物DOTAGA.QS.PSMA、NODAGA.QS.PSMA、およびTRAP.QS.PSMAを、インビボおよびエクスビボで調査した。
図30は、それぞれ
68Gaで標識した3つの化合物のエクスビボでの結果を示す。
図30から、3つの化合物がすべて腫瘍組織に蓄積し、NODAGA.QS.PSMAは腎臓での蓄積量が少ないことが分かる。
【0067】
実施例11:TRAP.QS.PSMA
図31a~b、32~36は、放射性トレーサー[
68Ga]Ga-TRAP.QS.PSMAの放射性標識、安定性およびインビボ調査のための合成ならびに測定結果を示す。これらの結果は、実施例8および10の結果と同等である。インビボ研究を、
68Gaおよび
64Cuを用いて実施した。画像から、実施例8および10と比較して、いずれの放射性トレーサーについても腎臓での蓄積が増加していることが分かる。これは、長鎖リンカーによって引き起こされる実施例11の放射性トレーサーの脂溶性の差異に起因する。エクスビボでの比較は、[
68Ga]Ga-PSMA-11と比べて、腫瘍組織での蓄積が増加し、腎臓内で著しく減少していることを示す。
【0068】
実施例12:[
68
Ga]Ga-DATA OS.PSMA
本発明によるさらなる化合物は、DATA.QS.PSMAタイプの化合物であり、それらの構造は、列挙した他の化合物に対応し、より単純かつより穏やかな標識を可能にするDATAキレート剤を有する。
図37に示す合成では、約70%の収率が達成される。
68Gaによる放射性標識の場合、95%を超える収率が達成される(
図38)。
図39から分かるように、これらの化合物は、ヒト血清(HS)およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のいずれにおいても高い安定性を示す。LNCap細胞を用いた化合物のインビトロ研究では、51.5nMのIC
50値が得られ、この値は、PSMA-11およびPSMA-617に匹敵する(表3)。
【0069】
さらに、タイプDATA.QS.PSMAの化合物を、同じ動物モデルにおいて、PSMA-11とインビボで比較した。MIP画像(
図40)は、腫瘍内に[
68Ga]Ga-DATA.QS.PSMAが大量に蓄積していることを明確に示している。
図40に示された時間/活性曲線から、[
68Ga]Ga-DATA.QS.PSMAでは、[
68Ga]-PSMA-11に比べて、最初の1時間で腎臓からの排泄が著しく速く起こることを示している。腫瘍組織での蓄積は同等である。
【0070】
【0071】
エクスビボ調査の結果(
図41~43)は、インビボでの観察結果と一致している。表4から分かるように、腫瘍内において
68Gaで標識された2つの化合物の%ID/g値は同等である一方、[
68Ga]Ga-DATA.QS.PSMAに対しては、腎臓および唾液腺での蓄積はかなり減少している。唾液腺は高線量に曝露され、前立腺癌の放射性医薬品治療のための既知の方法ではそれらの機能がかなり損なわれるので、唾液腺での蓄積が少ないことは非常に有利である。2-PMPAを用いたブロッキング研究は、本発明の化合物がPSMAに対する特異性を増加することも示している。
【0072】
【0073】
実施例13:[
44
Sc]Sc-AAZTA.QS.PSMA
DATAと同様に、AAZTAキレート剤は、穏やかな条件下で
44Scおよび
68Gaなどの放射性核種で標識することもできる。本実施例では、放射性同位体
44Scを使用し、放射性トレーサー[
44Sc]Sc-AAZTA.QS.PSMAの特性を調査する。
図44に示した合成を高収率で容易に実施した。
図45に示すように、放射性標識に関しても高収率で得られる。[
44Sc]Sc-AAZTA.QS.PSMAの安定性は、24時間で95%を超える(
図46)。
【0074】
放射性トレーサー[
44Sc]Sc-AAZTA.QS.PSMAを、それぞれがLNCap腫瘍を有する3匹のマウスにおいてインビボでさらに検査した。さらに、ブロッキング試験を、これらのマウスのうちの1匹に対して実施した。表5および
図47に示したエクスビボの結果は、
44Scで標識したAAZTA誘導体も腫瘍組織に大量に蓄積されていることを示す。さらに、腫瘍における活性の大部分は、2-PMPAでブロックすることができる。同じことが腎臓にも当てはまる。これらの結果は、対応するインビボ研究と一致している。
図48および49は、ブロッキングを行わずに注射してから1時間後、および2-PMPAの同時注射によりブロッキングを行って注射してから40分後(20分の静止記録)の腫瘍活性を示している。
【0075】
【0076】
実施例14:
18
F標識のための化合物
18Fを用いたPET診断のために、様々な標識前駆体を合成し、LNCap細胞においてインビトロで検査した。検査した化合物のいくつかについては、PSMA-11およびPSMA-617に対応する低いIC
50値が観察された。3つのそのような化合物およびそれらのIC
50値を
図50に示す(
図50:
18F放射性トレーサーのための化合物)。
【0077】
実施例15:DOTA.FAPiおよびDATA.FAPi
図51に示したDOTA.QS.FAPiの合成を、実施例6と同様に実施する。この合成には、以下の工程が含まれる:(a)パラホルムアルデヒド、MeOH、Amberlyst A21;(b)Pd/C、CH
3COOH、abs.EtOH、K
2CO
3;(c)ブロモ酢酸tert-ブチル、MeCN、K
2CO
3;(d)ホルマリン(37重量%)、CH
3COOH、NaBH
4、MeCN;(e)1M LiOH、1,4-ジオキサン/H
2O(2:1);(f)N-boc-エチレンジアミン、HATU、HOBt、DIPEA、MeCN;(g)(i)DCM中の80%のTFA、(ii)3,4-ジエトキシシクロブト-3-エン-1,2-ジオン、リン酸緩衝液(pH7)、1M NaOH;(h)3、リン酸緩衝液(pH9)、1M NaOH(
図51:DATA.QS.FAPiの合成)。
【0078】
68Gaによる標識は、迅速かつ高収率で行われる(
図52および53)。ヒト血清(HS)およびNaCl溶液における安定性は、2時間で98%を超える(表6)。
【0079】
【0080】
FAPのIC50値を、Z-Gly-Pro-7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC)を使用して測定した。N-サクシニル-Gly-Pro-AMCを使用して、PREPのIC50値を求めた。選択性指数は、文献値と同等である(Jansen et al. J Med Chem,2014,7,3053)。測定値を表7に示す。
【0081】
【0082】
結腸癌(HT29)を有するマウスにおける[
68Ga]Ga-DOTA.QS.FAPiを用いたインビボおよびエクスビボ検査は、腫瘍組織内での濃度が高いことを示している(
図54および55)。