(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】無機強化ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20250321BHJP
C08L 23/26 20250101ALI20250321BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/26
C08K7/14
(21)【出願番号】P 2021576006
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021023993
(87)【国際公開番号】W WO2022009690
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2020119311
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
(72)【発明者】
【氏名】岩村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 佳孝
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-248406(JP,A)
【文献】特開2010-260889(JP,A)
【文献】特開2005-239800(JP,A)
【文献】特開2012-136620(JP,A)
【文献】特開平05-051529(JP,A)
【文献】特開2005-162775(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174488(WO,A1)
【文献】特開2000-248172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08L 23/26
C08K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリアミド樹脂(A)10~55質量%、および非晶性ポリアミド樹脂(B)1~20質量%、無機強化材(C)40~70質量%、およびポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を有する変性ポリオレフィン樹脂(D)0.5~10質量%を含む無機強化ポリアミド樹脂組成物であって、
(A)成分と(D)成分との配合質量比が0.01≦(D)/(A)≦0.2を満たし、かつ、(A)成分と(B)成分との配合質量比が0.05≦(B)/(A)≦0.7を満たすこと
、さらに
前記結晶性ポリアミド樹脂(A)が、結晶性ポリアミド樹脂(A1)、および結晶性ポリアミド樹脂(A1)よりも融点が20℃以上高い結晶性ポリアミド樹脂(A2)を含み、(A1)成分と(A2)成分の配合質量比が、0.1≦(A2)/(A1)≦0.5であることを特徴とする無機強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記変性ポリオレフィン樹脂(D)が変性ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項
1に記載の無機強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機強化材(C)が数平均繊維長が140μm以上のガラス繊維であることを特徴とする請求項1
または2に記載の無機強化ポリアミド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高剛性高靭性の無機強化ポリアミド樹脂組成物に関し、詳しくは、無機強化材を含んだ樹脂組成物からなる成形品を相手材としたときに長期間の耐摩耗性に優れる無機強化ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性に優れ、自動車部品、電機部品、電子部品、家庭雑貨等に広く使用されている。なかでもガラス繊維を代表とする無機強化材を添加したポリアミド樹脂は、剛性、強度、耐熱性が大幅に向上し、特に、剛性に関しては添加量に比例して向上することが知られている。そのため、無機繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、電子電機機器や自動車分野において内部部材および外部部材として広く用いられている。近年、特に電子電機部材における製品肉厚の薄肉化や、車輌用部品の小サイズ化から要求される振動特性のレベルが高まっている。
【0003】
また、ポリアミド樹脂は機械特性に加えて、耐摩耗性にも優れているため、ギア、カム軸受などをはじめとした各分野の摺動部品にも広く用いられている。より優れた摺動特性を得るために、二硫化モリブデン、グラファイトおよびフッ素樹脂等の固形潤滑剤や各種の潤滑オイル、シリコーンオイル等の液体潤滑剤等を配合することが知られている(例えば、非特許文献1)。しかし、 これらの摺動改良剤のうち、固体潤滑剤は大量の固体潤滑剤を配合する必要があり、ベースとなるポリアミド樹脂の靭性を著しく低下させる欠点がある。液体潤滑剤は比較的少量で、効果の高い摺動性を付与できるが、多くの場合、ベースとなる樹脂との相容性が悪く、成形品の表面がこれらの液体潤滑剤で汚染される場合が多く、用途が制限されてしまう欠点がある。
【0004】
また、このような各種潤滑剤配合による欠点を改善する方法として、変性スチレン系共重合体と特定範囲の分子量の変性高密度ポリエチレンを配合する方法(特許文献1)、高粘度のポリアミド樹脂を使用すると共に、変性ポリエチレンを配合する方法などが提案されている(特許文献2)。
かかるポリアミド樹脂組成物によって、上述のような欠点がなく、摺動特性に優れた成形品の提供が可能になった。これらのポリアミド樹脂は、相手材が金属の場合には大きな摺動性向上効果を発揮する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】福本 修 「プラスチック材料講座〔16〕ポリアミド樹脂」 日刊工業新聞社 (1970年)
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-157714号公報
【文献】WO2008/075699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、成形品の薄肉化、成形品形状の複雑化の潮流から高剛性高靭性材料が求められるのに対し、その要求に応え得る十分な機械的特性を有する材料はできていなかった。さらにまた、近年、成形品の軽量化が進む中、相手材が金属から同じ樹脂どうしに変わっていく中で、剛性を高めるために、これらのポリアミド樹脂に無機強化材を大量に充填した場合、表面に存在する無機強化材により相手材が削り取られる問題が発生する。そのため、高剛性と高摺動の両方を十分に満足させた材料を得ることはできなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、高剛性と耐衝撃性(高靭性)の相反する機械特性が両立し、流動性が優れ、さらに無機繊維強化材を摺動相手材としたときの長期間の耐摩耗性(高摺動)に優れる無機強化ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、無機強化ポリアミド樹脂どうしの摺動では、摩耗量は成形品表面に析出する無機強化材の量、更に影響が大きいのは無機強化材の端面や破断面が表面に突出する量、また、無機強化材が多くなることで生じる樹脂部の脆性が支配的な要因であることに着目し、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、無機強化ポリアミド樹脂組成物に非晶性ポリアミドと変性ポリオレフィンを多面的な視点からバランスを取り配合することで、上記課題をすべて解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成を有するものである。
[1]
結晶性ポリアミド樹脂(A)10~55質量%、および非晶性ポリアミド樹脂(B)1~20質量%、無機強化材(C)40~70質量%、およびポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を有する変性ポリオレフィン樹脂(D)0.5~10質量%を含む無機強化ポリアミド樹脂組成物であって、
(A)成分と(D)成分との配合質量比が0.01≦(D)/(A)≦0.2を満たし、かつ、(A)成分と(B)成分との配合質量比が0.05≦(B)/(A)≦0.7を満たすことを特徴とする無機強化ポリアミド樹脂組成物。
[2]
前記結晶性ポリアミド樹脂(A)が、結晶性ポリアミド樹脂(A1)、および結晶性ポリアミド樹脂(A1)よりも融点が20℃以上高い結晶性ポリアミド樹脂(A2)を含み、(A1)成分と(A2)成分の配合質量比が、0.1≦(A2)/(A1)≦0.5であることを特徴とする[1]に記載の無機強化ポリアミド樹脂組成物。
[3]
前記変性ポリオレフィン樹脂(D)が変性ポリエチレン樹脂であることを特徴とする[1]または[2]のいずれかに記載の無機強化ポリアミド樹脂組成物。
[4]
前記無機強化材(C)が数平均繊維長が140μm以上のガラス繊維であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の無機強化ポリアミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高剛性と耐衝撃性の相反する機械特性が両立するため金属代替や薄肉化した成形品に使用でき、また、流動性が優れ、さらに無機繊維強化材を相手材としたときの長期間の耐摩耗性に優れる高剛性高摺動材料であるため幅広い用途の高摺動部品に使用できる金属代替可能な無機強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品を容易に生産できるため、電子電機部品の筐体や、自動車内装、および外装に使用される車両用部品などにおいて今までにないダウンサイズ化を実現できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の無機強化ポリアミド樹脂組成物について詳述する。
【0013】
本発明における結晶性ポリアミド樹脂(A)としては、主鎖中にアミド結合(-NHCO-)を有する重合体で結晶性であれば特に限定されないが、例えばポリアミド6(NY6)、ポリアミド66(NY66)、ポリアミド46(NY46)、ポリアミド11(NY11)、ポリアミド12(NY12)、ポリアミド610(NY610)、ポリアミド612(NY612)、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸重合体(6T)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸およびアジピン酸重合体(6T/66)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸およびεカプロラクタム共重合体(6T/6)、トリメチルヘキサメチレンジアミン-テレフタル酸重合体(TMD-T)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸およびイソフタル酸共重合体(MXD-6/I)、トリヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸およびε-カプロラクタム共重合体(TMD-T/6)、ジアミノジシクロヘキシレンメタン(CA)とイソフタル酸およびラウリルラクタム共重合体等の結晶性ポリアミド樹脂、もしくはこれらのブレンド物等を例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。本発明においては、脂肪族ポリアミドであることが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66であることがより好ましい。または、2種のポリアミドを用いる場合は、両者の融点が20℃以上異なるもの用いることが、固化速度の制御の面から好ましい。さらに、結晶性ポリアミド樹脂(A)は、結晶性ポリアミド樹脂(A1)と、結晶性ポリアミド樹脂(A1)よりも融点が20℃以上高い結晶性ポリアミド樹脂(A2)を含み、(A1)成分と(A2)成分の配合比が、0.1≦(A2)/(A1)≦0.5であることがより好ましい。結晶性ポリアミド樹脂(A1)がポリアミド6であり、結晶性ポリアミド樹脂(A2)がポリアミド66であることが一つの好ましい態様である。
【0014】
本発明における結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度は、特に限定されないが、96%硫酸溶液(ポリアミド樹脂濃度1g/dl、温度25℃)で測定されたもので、1.5~3.5の範囲のものを使用することができる。好ましくは1.5~3.3。より好ましくは1.5~2.8である。この範囲にあれば、樹脂組成物が無機強化材を高充填した場合も射出成形可能な流動性を付与でき、小型/薄肉の成形品の成形も可能となり、樹脂としてのタフネス性も満足できるものとなる。相対粘度が1.5~3.5のポリアミド樹脂を得るには、製造条件を調整して相対粘度が1.8~3.5のポリアミド樹脂を重合するか、または相対粘度3.5超のポリアミド樹脂を製造後、減粘剤を用いてポリアミド分子鎖を切断する方法がある。減粘剤としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が有効であり、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸等を挙げることができる。その添加量はポリアミド樹脂100質量部に対し0.1~3質量部前後配合して溶融混錬することで得ることができる。
【0015】
結晶性ポリアミド樹脂(A)の本発明のポリアミド樹脂組成物中の含有率は、10~55質量%である。15~45質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。
【0016】
本発明で用いる非晶性ポリアミド樹脂(B)は、JIS K7121に準じて示差走査熱量計(DSC)で測定した場合、明確な融点を示さないものである。
【0017】
非晶性ポリアミド樹脂(B)を構成するモノマーの具体例としては、ビス(4-アミノ-シクロヘキシル)メタン(PACMと略記することがある)、ビス(3-アミノ-シクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノ-シクロヘキシル)メタン(MACMと略記することがある)、2,2-ビス(4-アミノ-シクロヘキシル)プロパン、イソホロンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン(TMD)、5-メチルノナメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3-アミノシクロヘキシル-4-アミノシクロヘキシルメタン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ビス(アミノエチル)ピペラジンなどのジアミン類が挙げられ、またジカルボン酸類としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸(12と略記することがある)、トリデカン二酸、テトラデカン二酸(14と略記することがある)など、炭素原子数4~36の直鎖状またはアルキル側鎖を有する脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸(Tと略記することがある)、イソフタル酸(Iと略記することがある)などの芳香族ジカルボン酸が挙げられる。アミノカルボン酸類としては、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム(LL)などのラクタム類、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸などが挙げられる。
【0018】
上記モノマーの組み合わせの好ましい例としては、ビス(4-アミノ-シクロヘキシル)メタン(PACM)、ビス(3-アミノ-シクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノ-シクロヘキシル)メタン(MACM)、2,2-ビス(4-アミノ-シクロヘキシル)プロパンなどの脂環族ジアミンと、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸などのジカルボン酸との組み合わせが挙げられ、具体的には、12MACM、14MACM、10MACM/11、12MACM/I、I/MACM/LL、T/TMD、6T6I等の重合体または共重合体もしくはブレンド物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例えば、結晶性ポリアミド樹脂(A)がポリアミド6の場合、6T6Iが好ましい。
【0019】
非晶性ポリアミド樹脂の相対粘度(96%硫酸法)は、特に限定されるものではないが、好ましい範囲は1.8~2.4である。より好ましくは、1.9~2.2の範囲である。
【0020】
非晶性ポリアミド樹脂(B)の本発明のポリアミド樹脂組成物中の含有率は、1~20質量%である。非晶性ポリアミド樹脂(B)の配合量が1質量%未満である場合、金型内での冷却固化速度が早くなりすぎ、フィラー浮き、フローマークなどの外観不良が激しくなり、耐摩耗性も悪化する。
一方、非晶性ポリアミド樹脂(B)の配合量が20質量%を超える場合、冷却固化速度が遅くなりすぎて離型性が悪くなり、金型に密着して離型できなくなったり、成形品表面に離型シワがでたりする。更に結晶性が悪くなりすぎて機械的強度、衝撃強度の低下にもつながってしまう恐れがある。非晶性ポリアミド樹脂(B)の含有率は、2~15質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
【0021】
また、本発明においては、(A)成分と(B)成分との質量比は、下記式を満足することが必要である。
0.05≦(B)/(A)≦0.7
本発明において、(B)/(A)がこの範囲にあることで、より高いレベルの良好な外観の成形品が得られ、(B)/(A)は、0.08以上、0.4以下が好ましく、0.10以上、0.2以下がより好ましい。
【0022】
本発明における無機強化材(C)は、強度や剛性および耐熱性等の物性を最も効果的に改良するものであり、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニア繊維等の繊維状のもの、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等のウイスカー類、針状ワラストナイト、ミルドファイバー等を挙げることができる。またこれらのほか、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、層間剥離を目的として有機処理を施した層状ケイ酸塩等の充填材も無機強化材(C)として用いることができる。これらの中でも特に、ガラス繊維、炭素繊維などが好ましく用いられる。これら無機強化材(C)は、1種のみであってもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
【0023】
無機強化材(C)として繊維状強化材を用いる場合、上記の中でも、特に、ガラス繊維、炭素繊維などが好ましく用いられる。これらの繊維状強化材は、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ系化合物等のカップリング剤で予め処理をしてあるものが好ましく、カルボン酸基又は/及びカルボン酸無水物基と反応しやすいものが特に好ましい。カップリング剤で処理してあるガラス繊維を配合したポリアミド系樹脂組成物では優れた機械的特性や外観特性の優れた成形品が得られるので好ましい。また他の繊維状強化材においても、カップリング剤が未処理の場合は後添加して使用することが出来る。
【0024】
無機強化材(C)がガラス繊維の場合、繊維長1~20mm程度に切断されたチョップドストランド状のものが好ましく使用できる。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。ガラス繊維の断面形状としては、物性面より非円形断面のガラス繊維が好ましい。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円系、略長円系、略繭形系であるものをも含み、偏平度が1.5~8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1~20μm、長径2~100μm程度である。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物中のガラス繊維の数平均繊維長は、140~700μmであることが好ましくは、より好ましく180~400μmである。ガラス繊維長がこれらの範囲であることにより、高強度、高剛性でかつ流動性が安定する。上記範囲外では、ポリアミド樹脂表面に配向して充填することが困難になり、繊維端面が表面に露出して耐摩耗性を低下させる可能性がある。
【0026】
ガラス繊維はシラン系、チタネート系などのカップリング剤で処理されているものが好ましく、特にシラン系カップリング剤で処理されているものが好ましく使用できる。
好ましいシラン系カップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を例示することができ、特にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0027】
無機強化材(C)の配合量は、全樹脂組成物100質量%に対して、40~70質量%であり、好ましくは45~67質量%、より好ましくは50~65質量%、さらに好ましくは55~65質量%である。配合量が70質量%を超えると生産性が悪くなる。また40質量%未満では強化材の効果が充分発揮できない場合がある。
【0028】
無機強化材(C)以外の充填材(フィラー)として、強化用フィラー以外で、目的別には導電性フィラー、磁性フィラー、難燃フィラー、熱伝導フィラーを用いることができる。具体的にはガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、ヒドロキシアパタイト、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫化亜鉛、鉄、アルミ、銅、銀等が挙げられる。これら充填材は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。形状としては、特に限定されないが、針状、球状、板状、不定形などを使用することが可能である。
【0029】
本発明における変性ポリオレフィン樹脂(D)とは、以下のポリオレフィン樹脂を変性したものである。すなわち高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチルペンテン)等のオレフィン系樹脂を挙げることが出来る。耐摩耗性の観点で、これらのポリオレフィン系樹脂の中で最も好ましいのは高密度ポリエチレンである。変性ポリオレフィン樹脂(D)の数平均分子量が5~40万であることが好ましい。
【0030】
本発明における変性前の高密度ポリエチレンとは、数平均分子量が5~40万、密度0.94kg/cm2 以上の高密度ポリエチレンであることが好ましい。数平均分子量が5万未満では、得られる成形品の耐摩耗性が不充分となり、分子量が40万を超えると成形が困難になるため好ましくない。
【0031】
本発明における高密度ポリエチレンは、その性質を損なわない範囲内で他のモノマー、例えばプロピレン、ブテン-1、ペンテン、4-メチルペンテン-1、ヘキセン、オクテン、デセン等のα-オレフィン類、ブタジエン、イソプレン等のジエン類、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン等のシクロオレフィン類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリレート類が共重合されていてもよい。
【0032】
変性ポリオレフィン樹脂(D)はポリアミド樹脂との相容性を向上させるために、ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を有する。ポリアミド樹脂と反応しうる官能基とは、具体的にカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサドリン基、アミノ基、イソシアネート基等が例示されるが、これらの中でも酸無水物基がポリアミド樹脂との反応性が高いため特に好ましく、中でも無水マレイン酸が好ましい。
【0033】
変性ポリオレフィン樹脂(D)の配合量は、全樹脂組成物中0.1~10質量%であり、好ましくは0.5~7質量%、より好ましくは1~5質量%である。変性ポリオレフィン樹脂(D)が適量配合されている場合、摺動時の摩擦により成形品最表層に、強靭な変性ポリオレフィンからなる被覆層を形成し、ポリアミドの脆性摩耗を抑制することで、無機繊維強化材が表層に突出するのを防ぐことができる。変性ポリオレフィンの融点は、ポリアミド樹脂(A)および(B)よりも低いことが好ましい。これは、摩擦熱によりポリアミド樹脂よりも先に溶融し表面被覆層を形成しやすくなるためである。ポリアミド樹脂組成物からポリアミド樹脂が0.1質量%未満では、十分な厚みの被覆層を形成することができず耐摩耗性の向上効果が低くなる。10質量%より大きいと、表層の変性オレフィン樹脂濃度が高くなるため、表層硬度を下げてしまい摩擦係数が大きくなる。さらに、無機強化ポリアミド樹脂組成物の機械的特性を低下させてしまう。
【0034】
また、本発明においては、(A)成分と(D)成分との質量比は、下記式を満足することが必要である。
0.01≦(D)/(A)≦0.2
(D)/(A)は、0.03以上、0.18以下が好ましく、0.04以上、0.15以下がより好ましく、0.05以上、0.12以下が一層好ましい。(D)/(A)が0.01以下では十分な厚みの被覆層を形成することができず耐摩耗性の向上効果が低くなる。
0.2を超えると、表層の変性オレフィン樹脂濃度が高くなるため、表層硬度を下げてしまい摩擦係数が大きくなる。さらに、無機強化ポリアミド樹脂組成物の機械的特性を低下させてしまう。
【0035】
本発明の無機強化ポリアミド樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)で測定した降温結晶化温度(TC2)が、170℃≦(TC2)≦190℃であることが好ましい。また、降温結晶化温度(TC2)の測定は、示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素気流下で20℃/分の昇温速度にて300℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、10℃/分の速度にて100℃まで降温させることにより測定した際に得られるピーク温度である。
【0036】
さらに、降温結晶化温度(TC2)が、170℃≦(TC2)≦190℃を満足しない場合は、ポリアミド樹脂組成物の結晶化速度に起因して、より高いレベルの良好な成形品外観が得られないことがある。
【0037】
また、本発明の無機強化ポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料あるいは他種ポリマーなども添加することができる。本発明の無機強化ポリアミド樹脂組成物は、前記(A)、(B)、(C)および(D)成分の合計で、90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、本発明における各成分の配合量を上記の所定の範囲に正確にコントロールできる溶融混練押出法であれば特に限定されるものではないが、単軸押出機、2軸押出機を用いることが好ましい。
【0039】
配合する樹脂ペレットの形状、見かけ比重、摩擦係数などの異なり度合が大きい樹脂ペレットを、押出機のホッパー部から投入する場合は、以下の方法を採用することが好ましい。
すなわち、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非晶性ポリアミド樹脂(B)、変性ポリオレフィン樹脂(D)を予め混合して押出機のホッパー部に投入し、無機強化材(C)をサイドフィード方式によって投入する製造方法である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
本発明の実施例、比較例に使用した原材料は以下の通りである。
【0041】
(A)結晶性ポリアミド樹脂
A1:ポリアミド6・・・東洋紡製「T-860」(RV2.0)融点225℃
A2:ポリアミド66・・・東レ製「CM3000EF」(RV2.4)融点265℃
(B)非晶性ポリアミド樹脂
B:ポリアミド6T6I・・・EMS社製「グリボリーG21」(RV2.0)
(C)無機強化材
C:ガラス繊維・・・日本電気硝子社製「ECS03T-275H」
(D):変性ポリオレフィン
D1:無水マレイン酸変性ポリエチレン・・・三菱化学製「モディックDH0200」
D2:無水マレイン酸変性ポリプロピレン・・・プライムポリマー社製「MMP-006」
D3:未変性ポリエチレン・・・プライムポリマー社製「6203B」
(E)その他の添加剤
離型剤:モンタン酸カルシウム・・・日東化成工業製「CS-6CP」
安定剤:臭化第二銅
【0042】
各種の評価方法は以下の通りである。評価結果を表1に示した。
【0043】
(1)ポリアミド樹脂の相対粘度(RV)(96%硫酸溶液法)
ウベローデ粘度管を用い、25℃において96質量%硫酸溶液で、ポリアミド樹脂濃度1g/dlで測定した。
【0044】
(2)ポリアミド樹脂の融点
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製、EXSTAR 6000)を使用して、昇温速度20℃/分で測定し、吸熱ピーク温度を求めた。
【0045】
(4)メルトインデックス(MFR):
ISO1133に準じて測定した。測定温度:275℃、荷重:5kg
【0046】
(5)曲げ強度
ISO178に準じて測定した。
(6)シャルピー耐衝撃強度
ISO179-1に準じて測定した。
【0047】
(7)数平均繊維長
ペレットにおける残存ガラス繊維長を以下の方法で測定した。
ガラス繊維高充填材料ではガラス繊維同士の干渉が多く測定時にガラス繊維が破損しやすく正確な繊維長が求めにくいので、本発明ではガラス繊維長を正確に測定するため溶融混練して得られたペレットを650℃にて2時間強熱しガラス繊維を破損することなくガラス繊維を灰分として取り出し、得られたガラス繊維を水に浸し、分散したガラス繊維をプレパラート上に取り出し、無作為に選択した1000個以上のガラス繊維をデジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製KH-7700)で80倍にて観察し数平均繊維長とした。
【0048】
(8)磨耗特性
スラスト式磨耗試験機を用いて、射出成形により得たポリアミド樹脂組成物の平板(サイズ:50mm×50mm)と、平板と同材の円筒成形品(外径20mm、内径14.4mm、接触面積1.51cm2)を接触させて60分間、負荷荷重55.5kgf/cm2、速度5cm/secの条件で連続的に摺動させた。その後、磨耗前後の平板と円筒成形品の質量差と総磨耗距離から、単位距離あたりに換算した磨耗量(mg/km)と、磨耗試験時の収束した荷重の値から動摩擦係数を算出した。
【0049】
(9)成形品外観の評価方法:
成形品外観として、下記方法で鏡面光沢度を測定し評価した。
鏡面仕上げの100mm×100mm×3mm(厚み)の金型を使用し、樹脂温度280℃、金型温度80℃で成形品を作製し、JIS Z-8714に準じて入射角60度の光沢度を測定した。(数値が高い程、光沢度が良い)
光沢度の測定結果を下記判定基準に基づき評価した。
◎:97以上
〇:95以上、97未満
△:90以上、95未満
×:90未満
【0050】
実施例1~5、7、比較例1~6
銅化合物は臭化第二銅を水溶液にして用いた。表1に示す組成になるように、無機強化材以外の各原料を予め混合して、押出機の上流側から1番目のバレルにメインフィーダー(ホッパー部)を設け、さらに4番目のバレルに第1サイドフィーダー、8番目のバレルに第2サイドフィーダーを有する二軸押出機(TEM―75SS、芝浦機械)のホッパー部から投入し、無機強化材は2軸押出機の第2サイドフィーダーから投入した。2軸押出機のシリンダー温度280℃、スクリュー回転数180rpmにてコンパウンドを実施し、ペレットを作成した。得られたペレットは、熱風乾燥機にて水分率0.05%以下になるまで乾燥後、種々の特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例6
無機強化材を2軸押出機の第1サイドフィーダーから投入した以外は、実施例1と同様にコンパウンドを実施し、ペレットを作成した。得られたペレットは、熱風乾燥機にて水分率0.05%以下になるまで乾燥後、種々の特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1の結果より明らかなように、本発明の範囲内の実施例1~7は、機械的特性、耐摩耗性が高いレベルでバランスがとれている。一方、変性ポリオレフィンまたは非晶性ポリアミド樹脂を含まない比較例1、2は、耐摩耗性に加え成形外観が悪い。(D)/(A)が範囲外の比較例3では機械的特性が低下し、(B)/(A)が範囲外の比較例4ではガラス浮きが目立つなど成形品外観が悪化し、耐摩耗性も低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高剛性と耐衝撃性の相反する機械特性が両立するため金属代替や薄肉化した成形品に使用でき、また、流動性が優れ、さらに無機繊維強化材を含んだ樹脂組成物からなる成形品を相手材としたときの長期間の耐摩耗性に優れる高剛性高摺動材料であるため幅広い用途の高摺動部品に使用できる金属代替可能な無機強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品を容易に生産できるため、電子電機部品の筐体や、自動車内装、および外装に使用される車両用部品などにおいて今までにないダウンサイズ化を実現できるため、極めて有用である。