(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】シアン溶出抑制方法、およびシアン溶出抑制材
(51)【国際特許分類】
A62D 3/00 20070101AFI20250321BHJP
B01J 41/10 20060101ALI20250321BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20250321BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20250321BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20250321BHJP
【FI】
A62D3/00
B01J41/10
C02F11/00 J ZAB
C02F11/00 Z
C02F1/28 K
B09B3/00
(21)【出願番号】P 2020175337
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】平賀 由起
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-148227(JP,A)
【文献】特開2019-089895(JP,A)
【文献】特開2012-200688(JP,A)
【文献】特開2001-252675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/00- 9/00
B01J39/00-49/90
C02F11/00-11/20
B09B 1/00- 5/00
C02F 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物とシアン溶出抑制材とを混合する混合工程を含み、
前記シアン溶出抑制材は、焼成物を含み(石膏を除く)、
前記焼成物は、水の存在下でハイドロカルマイトを形成する、下記(A)成分および下記(B)成分を含む混合物の焼成物であり、
前記被処理物が、シアン化物を含む水系または土系の被処理物であ
り、
前記焼成物におけるCaとAlとのモル比(Ca/Al)が、2である
ことを特徴とするシアン溶出抑制方法。
(A)成分:Ca(OH)
2、CaCO
3、CaCl
2、Ca(NO
3)
2、およびCaOからなる群から選択される少なくとも一つの成分
(B)成分:Al(OH)
3、およびAl
2O
3からなる群から選択される少なくとも一つの成分
【請求項2】
前記被処理物が、排水、土壌または汚泥である、請求項1に記載のシアン溶出抑制方法。
【請求項3】
溶出抑制対象のシアンが、シアン化物イオンである、請求項1または2に記載のシアン溶出抑制方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記被処理物100質量部に対して、前記焼成物1~60質量部を混合する、請求項1から
3のいずれか一項に記載のシアン溶出抑制方法。
【請求項5】
前記混合工程において、前記被処理物100質量部に対して、前記焼成物1~30質量部を混合する、請求項
4に記載のシアン溶出抑制方法。
【請求項6】
前記焼成物が、前記(A)成分および前記(B)成分を含む混合物の焼成物であり、
前記(A)成分が、Ca(OH)
2、およびCaCO
3の少なくとも一方であり、
前記(B)成分が、Al(OH)
3である、請求項1から
5のいずれか一項に記載のシアン溶出抑制方法。
【請求項7】
前記焼成物として、CaO、Al
2O
3、CaAl
2O
4、Ca
5Al
6O
14、Ca
9Al
6O
18、およびCa
12Al
14O
33 からなる群から選択される少なくとも一つの結晶性化合物を含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載のシアン溶出抑制方法。
【請求項8】
焼成物を含み(石膏を除く)、
前記焼成物は、水の存在下でハイドロカルマイトを形成する、下記(A)成分および下記(B)成分を含む混合物の焼成物であり、
前記焼成物におけるCaとAlとのモル比(Ca/Al)が、2であることを特徴とするシアン溶出抑制材。
(A)成分:Ca(OH)
2、CaCO
3、CaCl
2、Ca(NO
3)
2、およびCaOからなる群から選択される少なくとも一つの成分
(B)成分:Al(OH)
3、およびAl
2O
3からなる群から選択される少なくとも一つの成分
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン溶出抑制方法、およびシアン溶出抑制材に関する。
【背景技術】
【0002】
排水および土壌には様々な有害物質が含まれることから、それらを除去したり、溶出を抑制するための技術が開発され、実用化されている。前記有害物質の中でも六価クロムやホウ素等は、例えば、ゼオライト等の吸着剤を使用し、前記吸着剤に吸着させて固定化することによって、拡散による汚染の防止が図られている。しかしながら、有害物質の中でもシアン化物は、他の有害物質に使用されている吸着剤等に吸着させることが困難であり、除去や拡散の防止が極めて困難である。例えば、シアン化物を含む排水の場合、アルカリ条件下、次亜塩素酸ナトリウムを用いた酸化分解により、2段階の反応で、N2、NaClにまで分解させなければならない(非特許文献1)。この方法では、一次反応で高pHの状態でシアン化物をシアン酸に酸化させ、その後の二次反応でpHを中性付近に調整してシアン酸をN2、NaClにまで分解させており、手間がかかってしまう。また、この方法は、土壌等の処理への応用が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】水リサイクル・廃水処理技術-技術分野別、排水・廃水種別の最新動向-、株式会社東レリサーチセンター調査研究部門、2007年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、排水や土壌等に対して、シアン化物の溶出を容易に抑制する新たな方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のシアン溶出抑制方法は、被処理物とシアン溶出抑制材とを混合する混合工程を含み、
前記シアン溶出抑制材は、下記(A)成分の焼成物、下記(B)成分の焼成物、または、下記(A)成分および下記(B)成分を含む混合物の焼成物からなる群から選択される少なくとも一つの焼成物を含み、
前記被処理物が、シアン化物を含む水系または土系の被処理物であることを特徴とする。
(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、Ca(NO3)2、およびCaOからなる群から選択される少なくとも一つの成分
(B)成分:Al(OH)3、Al2(SO4)3、およびAl2O3からなる群から選択される少なくとも一つの成分
【0006】
本発明のシアン溶出抑制材は、下記(A)成分の焼成物、下記(B)成分の焼成物、または、下記(A)成分および下記(B)成分を含む混合物の焼成物からなる群から選択される少なくとも一つの焼成物を含むことを特徴とする。
(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、Ca(NO3)2、およびCaOからなる群から選択される少なくとも一つの成分
(B)成分:Al(OH)3、Al2(SO4)3、およびAl2O3からなる群から選択される少なくとも一つの成分
【発明の効果】
【0007】
本発明のシアン溶出抑制方法によれば、被処理物と前記シアン溶出抑制材とを混合するのみで、容易に前記被処理物中のシアン化物の溶出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1において、Ca-Al化合物におけるCa/Alのモル比とシアン化物イオン除去量との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、左が、実施例1において、Ca-Al化合物1gあたりのシアン化物イオン除去量と、処理後のシアン水溶液における残存するシアン化物イオン濃度との関係を示すグラフであり、右が、実施例1において、Ca-Al化合物1gあたりのシアン化物イオン除去量と、シアン水溶液のシアン化物イオン初期濃度との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1において、シアン水溶液をCa-Al化合物で処理した後の沈殿物に関するX線回折の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1において、水とCa-Al化合物とを混合した後の沈殿物に関するX線回折の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1において、シアン水溶液をCa-Al化合物で処理した後の沈殿物に関するX線回折の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2において、Ca-Al化合物で処理した汚染砂からのシアン化物イオン溶出濃度を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例2において、Ca-Al化合物で処理した汚染砂からのシアン化物イオン溶出濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシアン溶出抑制方法において、例えば、前記被処理物は、排水、土壌または汚泥である。
【0010】
本発明のシアン溶出抑制方法において、例えば、溶出抑制対象のシアンは、シアン化物イオンである。
【0011】
本発明のシアン溶出抑制方法において、例えば、前記焼成物におけるCaとAlとのモル比(Ca/Al)が、0.5~15の範囲である。
【0012】
本発明のシアン溶出抑制方法は、例えば、前記混合工程において、前記被処理物100質量部に対して、前記焼成物1~60質量部を混合する。
【0013】
本発明のシアン溶出抑制方法は、例えば、前記焼成物におけるCaとAlとのモル比(Ca/Al)が、0.5~5の範囲である。
【0014】
本発明のシアン溶出抑制方法は、例えば、前記混合工程において、前記被処理物100質量部に対して、前記焼成物1~30質量部を混合する。
【0015】
本発明のシアン溶出抑制方法は、例えば、前記焼成物が、前記(A)成分および前記(B)成分を含む混合物の焼成物であり、前記(A)成分が、Ca(OH)2、およびCaCO3の少なくとも一方であり、前記(B)成分が、Al(OH)3である。
【0016】
本発明のシアン溶出抑制方法は、例えば、前記焼成物として、CaO、Al2O3、CaAl2O4、Ca5Al6O14、Ca9Al6O18、およびCa12Al14O33からなる群から選択される少なくとも一つの結晶性化合物を含む。
【0017】
以下に、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態には限定されない。
【0018】
本発明のシアン溶出抑制方法は、前述のように、被処理物とシアン溶出抑制材とを混合する混合工程を含み、前記シアン溶出抑制材は、下記(A)成分の焼成物、下記(B)成分の焼成物、または、下記(A)成分および下記(B)成分を含む混合物の焼成物からなる群から選択される少なくとも一つの焼成物を含み、前記被処理物が、シアン化物を含む水系または土系の被処理物であることを特徴とする。
(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、Ca(NO3)2、およびCaOからなる群から選択される少なくとも一つの成分
(B)成分:Al(OH)3、Al2(SO4)3、およびAl2O3からなる群から選択される少なくとも一つの成分
【0019】
本発明において、「シアン化物を含む被処理物」とは、例えば、シアン化物を実際に含むものでもよいし、シアン化物を含む可能性のあるものでもよい。前記水系の被処理物は、例えば、排水、廃水等である。前記土系の被処理物は、例えば、土壌、泥等があげられ、具体的には、例えば、地面、山、海底等から採取したものがあげられる。
【0020】
本発明において、シアン化物は、例えば、-CN(シアノ基)を有するものであり、具体的には、例えば、シアン化物イオン(CN-)を有する塩である。前記シアン化物は、前記被処理物において、例えば、水の存在下、シアン化物イオンとして存在する。本発明のシアン溶出抑制方法によれば、例えば、前記焼成物が前記被処理物中のシアン化物イオンを不溶化して、前記被処理物から外部へ溶出することを抑制できる。このため、本発明のシアン溶出抑制方法は、例えば、シアン化物の不溶化方法、またはシアン化物の拡散抑制方法ということもできる。本発明において不溶化とは、前記被処理物が土系の場合、例えば、前記被処理物を前記シアン溶出抑制材と混合した後、前記混合物に水が侵食しても、その水に前記シアン化物が溶解するのを抑制できることを意味し、これによって、前記混合物から水とともに前記シアン化物が外部に流れ出ることを抑制できる。また、前記被処理物が水系の場合、例えば、前記シアン化物が溶解した水系の被処理物を前記シアン溶出抑制材と混合することによって、前記シアン化物が不溶化されることを意味し、これによって、前記不溶化されたシアン化物が、前記水系の被処理物に再溶解することを抑制できる。
【0021】
前記シアン溶出抑制材は、いずれかの前記焼成物を含んでいればよく、その他の構成は、何ら制限されない。前記シアン溶出抑制材は、例えば、前記焼成物のみを含んでもよいし、前記焼成物の他に、前記焼成物の効果を阻害しない範囲で、その他の成分をさらに含んでもよい。
【0022】
以下、前記(A)成分の焼成物を、単体焼成物A、前記(B)成分の焼成物を、単体焼成物B、前記(A)成分および前記(B)成分を含む混合物(以下、混合物(AB)ともいう)の焼成物を、混合焼成物ABという。前記シアン溶出抑制材は、焼成物として、例えば、前記単体焼成物Aのみを含んでもよいし、前記単体焼成物Bのみを含んでもよいし、前記単体焼成物Aと前記単体焼成物Bの両方を含んでもよいし、前記混合焼成物ABのみを含んでもよいし、前記混合焼成物ABと、前記単体焼成物A、前記単体焼成物B、または、前記単体焼成物Aおよび前記単体焼成物Bの両方を含んでもよい。中でも、前記シアン溶出抑制材は、焼成物として、例えば、前記混合焼成物ABを含むことが好ましい。
【0023】
前記シアン溶出抑制材において、前記焼成物由来のCaおよびAlの比率は、特に制限されず、CaとAlとのモル比(Ca/Al)は、例えば、0.5~15、1~10、1~5である。前記被処理物に対する前記焼成物の添加量を相対的に低減できることから、CaとAlとのモル比(Ca/Al)は、例えば、2±1が好ましく、一方、この範囲外の場合は、例えば、前記焼成物の添加量を相対的に増加させることで、前記範囲の焼成物と同様のシアン溶出抑制を実現できる。
【0024】
前記シアン溶出抑制材において、前記(A)成分は、例えば、Ca(OH)2、およびCaCO3の少なくとも一方が好ましく、前記(B)成分は、例えば、Al(OH)3が好ましい。また、前記シアン溶出抑制材において、前記焼成物は、前記混合焼成物ABが好ましく、この場合、例えば、Ca(OH)2、およびCaCO3の少なくとも一方の前記(A)成分と、Al(OH)3の前記(B)成分とを含む混合物(AB)の混合焼成物ABが好ましい。
【0025】
前記単体焼成物Aは、例えば、CaO等の結晶性化合物があげられる。前記シアン溶出抑制材が前記単体焼成物Aを含む場合、例えば、その種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。前記シアン溶出抑制材が前記単体焼成物Bを含む場合、例えば、その種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0026】
前記混合焼成物ABは、例えば、CaO、Al2O3、CaAl2O4、Ca5Al6O14、Ca9Al6O18、およびCa12Al14O33等の結晶性化合物があげられる。前記焼成物は、例えば、水の存在下で、ハイドロカルマイト(Ca4Al2(OH)14・6H2O)を形成する構成であることが好ましく、具体的には、CaO、Al2O3、CaAl2O4、Ca5Al6O14、Ca9Al6O18、およびCa12Al14O33等があげられる。前記シアン溶出抑制材が前記混合焼成物ABを含む場合、例えば、その種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。前記結晶性化合物は、前記(A)成分と前記(B)成分との混合物(AB)を焼成することで、化学反応により生成される。前記混合焼成物ABは、例えば、使用する前記(A)成分と前記(B)成分との割合(モル比)、焼成温度等によって、前記結晶性化合物の組成を変化させることができる。
【0027】
前記焼成物A、前記焼成物B、および前記混合焼成物ABは、例えば、前記(A)成分、前記(B)成分、または前記混合物(AB)を焼成することにより生成できる。前記焼成温度は、特に制限されず、その下限は、例えば、600℃以上、800℃以上であり、その上限は、例えば、1200℃以下、1000℃以下である。
【0028】
前記シアン溶出抑制材は、前述のように、他の成分を含んでもよく、前記他の成分としては、例えば、重金属等のイオンを吸着する吸着材等があげられる。
【0029】
本発明のシアン溶出抑制方法は、前述のように、前記混合工程において、前記被処理物と前記シアン溶出抑制材とを混合する。
【0030】
前記ハイドロカルマイトは、例えば、前記焼成物と水との混和反応によって形成できる。このため、前記被処理物との混合においては、例えば、前記シアン溶出抑制材の前記焼成物が水と共存することが好ましい。前記水は、前記被処理物が水系の場合は、例えば、前記被処理物そのものでもよいし、前記被処理物が土系の場合は、例えば、土系の被処理物に含まれる水分でもよいし、さらに添加する水であってもよい。前記焼成物は、例えば、前記被処理物との混合前に、水と共存させてもよいし、前記被処理物との混合とともに水と共存させてもよい。前記焼成物と水との比率は、特に制限されず、例えば、重量比で、水1に対して、前記焼成物が、1倍以上、1.2倍以上、1.4倍以上となることが好ましく、前記焼成物におけるCaとAlとのモル比(Ca/Al)が2の場合、例えば、重量比で、水1に対して、前記焼成物が、1.4倍以上となることが好ましい。
【0031】
前記被処理物が水系の場合、前記被処理物に前記シアン溶出抑制材を添加して混合することによって処理できる。
【0032】
前記被処理物が土系の場合、前記被処理物に前記シアン溶出抑制材を添加して混合することによって処理できる。前記土系の被処理物が水分を含まない場合は、前記シアン溶出抑制材の添加に先立って、添加と同時に、または添加の後に、さらに水溶媒を添加することが好ましい。前記水溶媒は、例えば、水道水等の水である。前記水溶媒の量は、特に制限されず、例えば、前記シアン溶出抑制材との処理時における土系の被処理物の含水率が5~70%程度となることが好ましい。
【0033】
前記土系の被処理物(例えば、土壌)に対する前記シアン溶出抑制材における前記焼成物の添加量は、特に制限されない。前記被処理物に対する前記焼成物の添加量は、例えば、前記被処理物に含まれるシアン化物の量によって適宜調整できる。また、前記被処理物に含まれるシアン化物の量が不明の場合は、例えば、次のような添加割合が例示できる。すなわち、前記被処理物100質量部に対する前記焼成物の添加量は、その下限が、例えば、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上であり、その上限は、特に制限されず、例えば、60質量部以下、50質量部以下である。
【0034】
前記土系被処理物と前記焼成物との混合方法は、特に制限されず、例えば、現場においては、油圧式ショベル等の重機による撹拌、移動式プラントによる混合等で行うことができる。前記土系被処理物の場合、前記焼成物と混合することによって、例えば、前記土系被処理物中のシアン化物イオンは前記焼成物で不溶化されるため、前記土系被処理物中に前記シアン化物イオンが拡散することを抑制できる。また、前記焼成物で処理した後の前記土系被処理物に、例えば、雨水等によって水が含侵しても、前記シアン化物イオンは前記焼成物で不溶化されているため、含侵した水への溶出も抑制できる。
【0035】
前記水系被処理物の場合も同様に、前記被処理物に前記シアン溶出抑制材を添加して混合することによって処理できる。前記水系被処理物に対する前記シアン溶出抑制材における前記焼成物の添加量は、特に制限されず、例えば、前記土系被処理物の例示と同様である。前記水系被処理物の場合、前記焼成物と混合することによって、例えば、前記水系被処理物中のシアン化物イオンは前記焼成物で不溶化され、沈殿する。このため、前記水系被処理物から、例えば、前記沈殿を除去することによって、シアン化物イオンを除去することもできる、また、前記水系被処理物において前記沈殿が残存しても、前記シアン化物イオンは前記焼成物で不溶化されているため、前記沈殿から前記水系被処理物に再拡散することも抑制できる。
【0036】
本発明のシアン溶出抑制方法によれば、前述のように、例えば、前記被処理物に含まれるシアン化物は、前記シアン溶出抑制材で不溶化されるため、前記シアン化物の溶出、拡散が抑制されると解される。なお、この推定は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
本発明のシアン溶出抑制方法によりシアン化物含有水を処理し、シアン化物の溶出が抑制されていることを確認した。
【0038】
(1)焼成物のモル比(Ca/Al)の影響
前記(A)成分と前記(B)成分との混合物(AB)から、焼成物(以下、Ca-Al化合物という)を調製した。具体的には、モル比(Ca/Al)を0.5、2、5、10としたCaCO3とAl(OH)3との混合物を、空気雰囲気下、1000℃で焼成して、前記焼成物(Ca-Al化合物)を得た。
【0039】
シアン化カリウム(KCN)溶液(シアン化物イオン標準液 1000mg/L、イオンクロマト用、関東化学)を用いて、シアン化物イオンが初期濃度40mg/Lとなるように水で調整して、シアン化物イオンを含むシアン水溶液を調製した。前記シアン水溶液に、前記モル比が異なる前記Ca-Al化合物を2g/Lとなるように添加、混合し、この処理液を、室温で24時間振とうした後、フィルターを用いた吸引ろ過により前記焼成物を含む沈殿と上清とを分離した。前記上清におけるシアン化物イオン濃度を、連続流れ分析装置(Synca、ビーエルテック社製)により測定した。そして、前記Ca-Al化合物1gあたりのシアン化物イオン除去量(mg/g)を求めた。
【0040】
この結果を
図1に示す。
図1は、前記Ca-Al化合物におけるモル比(Ca/Al)とシアン化物イオン除去量との関係を示すグラフである。
図1において、Y軸は、前記Ca-Al化合物1gあたりのCN除去量(mg/g)であり、X軸は、前記Ca-Al化合物におけるモル比(Ca/Al)である。
図1に示すように、いずれのCa-Al化合物によっても前記シアン水溶液中のシアン化物イオンを不溶化することにより除去できた。中でも、モル比(Ca/Al)が2に近い程、効果的にシアン化物イオンを除去できた。
【0041】
(2)シアン化物イオン濃度の影響
シアン化カリウム(KCN)溶液(シアン化物イオン標準液 1000mg/L、イオンクロマト用、関東化学)を用いて、シアン化物イオンの初期濃度が0、6、20、40、60mg/Lとなるように水で調整して、シアン化物イオンを含むシアン水溶液を調製した。前記(1)と同様にして、Ca/Alのモル比が2または5となるCa-Al化合物を調製した。前記シアン水溶液に、モル比(Ca/Al)が異なるCa-Al化合物を2g/Lとなるように添加、混合した。そして、前記(1)と同様に、室温で24時間振とうした後、沈殿物と上清との分離、前記上清におけるシアン化物イオン濃度の測定を行い、前記Ca-Al化合物1gあたりのシアン化物イオン除去量(mg/g)と、前記シアン水溶液に残存するシアン化物イオン濃度(mg/L)とを算出した。
【0042】
この結果を
図2に示す。
図2の左のグラフは、前記Ca-Al化合物1gあたりのシアン化物イオン除去量と、処理後の前記各シアン水溶液における残存するシアン化物イオン濃度との関係を示すグラフである。
図2の左のグラフにおいて、Y軸は、前記Ca-Al化合物1gあたりのCN除去量(mg/g)であり、X軸は、処理後の前記各シアン水溶液における残存CN濃度(mg/L)である。
図2の右のグラフは、前記Ca-Al化合物1gあたりのシアン化物イオン除去量と、前記各シアン水溶液におけるシアン化物イオン初期濃度との関係を示すグラフであり、Y軸は、前記Ca-Al化合物1gあたりのCN除去量(mg/g)であり、X軸は、前記各シアン水溶液のCN初期濃度(mg/L)である。
図2に示すように、前記Ca-Al化合物は、いずれのモル比であってもシアン化物イオンを不溶化により除去できた。中でも、モル比(Ca/Al)が2に近い程、効果的にシアン化物イオンを除去でき、その除去量は直線的であった。
【0043】
(3)ハイドロカルマイトの分析1
前記(1)における、各Ca-Al化合物(Ca/Alモル比=0.5、2、5、10)を、2g/Lとなるように前記シアン水溶液(シアン化物イオンの初期濃度40mg/L)に添加、混合し、室温で24時間振とうした。この処理液をフィルターを用いて吸引ろ過し、沈殿を前記フィルターに捕集した。この捕集した沈澱を恒量になるまで、室温のデシケータ内で乾燥させた。この乾燥後の沈澱について、X線回折分析装置を用いてXRD(X線回折)法により分析し、結晶性化合物の同定を行った。これらの結果を
図3に示す。
図3に示すように、いずれの沈殿においても、前記Ca-Al化合物と水とが結合した、ハイドロカルマイト(Ca
4Al
2(OH)
14・6H
2O、
図3において◇)およびCa
4Al
2(CO
3)(OH)
12・5H
2O(
図3において△)が検出された。Ca
4Al
2(CO
3)(OH)
12・5H
2Oは、ハイドロカルマイト(Ca
4Al
2(OH)
14・6H
2O)のOHの一部が、前記処理液中において、または、前記沈澱の乾燥中に、炭酸(CO
3)と置換して生成したと考えられる。これらの沈澱全てにおいて、ハイドロカルマイトが形成され、中でもモル比(Ca/Al)=2のCa-Al化合物を使用した際に、ハイドロカルマイトを示すピークが高くなっていた。このことから、前記処理液中において、モル比(Ca/Al)=2のCa-Al化合物と水とから、モル比(Ca/Al)=2であるハイドロカルマイトが効率よく形成され、さらに、このハイドロカルマイトによって、効果的にシアン化物イオンが不溶化され、沈殿として除去されたと推測される。また、ハイドロカルマイトは、そのOH
-の一部がシアン化物イオンと置換することによって、シアン化物イオンを不溶化すると考えられる。
【0044】
(4)ハイドロカルマイトの分析2
超純水に、モル比(Ca/Al)が2または5の前記Ca-Al化合物を6g/Lとなるように添加、混合した。そして、この混合液を室温で24時間、静置した後、前記(3)と同様に、沈殿物の回収、沈殿物の乾燥を行い、X線回折法により分析し、結晶性化合物の同定を行った。これらの結果を
図4に示す。
図4に示すように、いずれの沈殿においても、ハイドロカルマイト(Ca
4Al
2(OH)
14・6H
2O)およびCa
4Al
2(CO
3)(OH)
12・5H
2Oの化合物が検出された。具体的には、モル比(Ca/Al)=2のCa-Al化合物を使用した場合、ハイドロカルマイト(Ca
4Al
2(OH)
14・6H
2O)およびCa
4Al
2(CO
3)(OH)
12・5H
2Oの化合物が検出され、モル比(Ca/Al)=5のCa-Al化合物を使用した場合、ハイドロカルマイト(Ca
4Al
2(OH)
14・6H
2O)およびCa
4Al
2(CO
3)(OH)
12・5H
2Oの化合物とCa(OH)
2とが検出された。前記Ca-Al化合物は、水に添加するとハイドロカルマイトを形成する。そして、前記ハイドロカルマイトは、CaとAlとのモル比(Ca/Al)が2であるため、モル比(Ca/Al)=2のCa-Al化合物を使用した場合は、前記ハイドロカルマイトが検出されたと推測された。また、モル比(Ca/Al)=5のCa-Al化合物を使用した場合、この化合物は、Alに対してCaが過剰になっているため、ハイドロカルマイトの他に、過剰分のCaがCa(OH)
2として検出されたと推測された。
【0045】
(5)ハイドロカルマイトの分析3
前記(2)における、シアン化物イオンの初期濃度が6または60mg/Lであるシアン水溶液と、モル比(Ca/Al)=2のCa-Al化合物とを用いて得られた前記沈澱物を使用した。前記沈殿物を、前記(3)と同様に、乾燥し、X線回折法により分析し、結晶性化合物の同定を行った。これらの結果を
図5に示す。
図5に示すように、いずれの沈殿においても、ハイドロカルマイトが検出された。そして、シアン化物イオンの初期濃度が高濃度60mg/Lであるシアン水溶液を用いて得られた沈殿は、前記初期濃度が6mg/Lのシアン水溶液を用いて得られた沈殿よりも、ハイドロカルマイトのピークが大きかった。また、前記高濃度のシアン水溶液を用いて得られた沈殿は、さらに、Ca
4Al
2O
6(CN)
2・10H
2O(= Ca
4Al
2(CN)
2(OH)
12・4H
2O)と推察されるピークが検出された。この結果から、ハイドロカルマイトのOHの一部がCNと置換しており、この置換によって、シアン化物イオンが不溶化されたと考えられる。
【0046】
[実施例2]
本発明のシアン溶出抑制方法によりシアン化物含有砂を処理し、シアン化物の溶出が抑制されていることを確認した。
【0047】
(1)焼成物のモル比(Ca/Al)の影響
前記実施例1と同様に、モル比(Ca/Al)を0.5、2、5、10とした前記焼成物(Ca-Al化合物)を得た。一方、乾燥砂に、100mg/Lのシアン化カリウム溶液を添加して、シアン化物イオンの含有濃度が10mg/kgとなるように混合した、汚染砂を調製した。前記汚染砂の水分は、重量比で乾燥砂100に対して10になるように調整した。この汚染砂に、使用した乾燥砂の重量に対して5wt%となるように、前記Ca-Al化合物を混合し、この混合物を充填容器に入れ、前記容器の上部を覆い、室温で7日間静置した。
【0048】
前記7日間静置後の各混合物を、さらに風乾し、これらの乾燥させた混合物について、溶出試験を行った。すなわち、前記静置後の前記混合物を、さらに室温で風乾し、この風乾物100gを、純水1Lに懸濁し、6時間振とうさせた後、ろ紙(孔径0.45μmのメンブランフィルター)によりろ過した。そして、得られたろ液中に溶出されたシアン化物イオン濃度を、連続流れ分析装置(Synca、ビーエルテック社製)を用いて測定した。なお、前記汚染砂に含まれるシアン化物イオンが全て溶出された場合の前記ろ液中のシアン化物イオン濃度は、1mg/Lとなる。
【0049】
この結果を、
図6に示す。
図6は、前記Ca-Al化合物で処理した汚染砂からのシアン化物イオン溶出濃度を示すグラフである。
図6において、Y軸は、CN溶出濃度(mg/L)を示し、X軸は、前記Ca-Al化合物のモル比(Ca/Al)を示す。
図6に示すように、いずれのモル比のCa-Al化合物によってもシアン化物イオンの溶出が抑制された。前記Ca-Al化合物は、中でもモル比(Ca/Al)2付近において、最も効果的にシアン化物イオンの溶出を抑制できた。この結果は、前記実施例1におけるシアン化物含有水における結果と同様であった。
【0050】
(2)焼成物の添加量の影響
前記(1)と同様にして、シアン化物イオンの含有濃度が10mg/kgの汚染砂を調製した。この汚染砂に、使用した乾燥砂の重量に対して所定濃度(1、5、10、15wt%)となるように、モル比(Ca/Al)=2の前記Ca-Al化合物を混合した。そして、この混合物について、前記(1)と同様にして、7日間の静置、風乾、溶出試験を行った。
【0051】
この結果を、
図7に示す。
図7は、前記Ca-Al化合物で処理した汚染砂からのシアン化物イオン溶出濃度を示すグラフである。
図7において、Y軸は、CN溶出濃度(mg/L)を示し、X軸は、前記Ca-Al化合物の添加割合を示す。
図7に示すように、前記Ca-Al化合物の添加量を増加させるにしたがって、シアン化物イオンの溶出濃度は低下し、溶出抑制効果が高くなる傾向を示した。
【0052】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のシアン溶出抑制方法によれば、被処理物と前記シアン溶出抑制材とを混合するのみで、容易に前記被処理物中のシアン化物の溶出を抑制できる。このため、排水や土壌等におけるシアン化物による汚染を容易に解消することが可能となる。