(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】修飾された単糖化合物を使用して多細胞生物からの真核細胞を標識し、並びにがんを治療及び/又は診断する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20250321BHJP
C07H 5/04 20060101ALI20250321BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20250321BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20250321BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20250321BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250321BHJP
G01N 33/58 20060101ALI20250321BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250321BHJP
【FI】
C12Q1/04
C07H5/04
A61K47/54
A61K35/28
A61K49/00
A61P35/00
G01N33/58 Z
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2021549192
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2020054567
(87)【国際公開番号】W WO2020169782
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-01
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521367824
【氏名又は名称】ダイアミデックス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】サム・デュカン
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518160(JP,A)
【文献】特表2018-535198(JP,A)
【文献】特表2013-511700(JP,A)
【文献】国際公開第2012/021390(WO,A1)
【文献】特表2009-528988(JP,A)
【文献】特表2018-534312(JP,A)
【文献】特表2015-505248(JP,A)
【文献】RSC ADVANCES,2014年,Vol.4,pp.46966-46969
【文献】METHODS IN ENZYMOLOGY,2006年,Vol.415,pp.230-250
【文献】CARBOHYDRATE RESEARCH,2016年,Vol.429,pp.1-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N 15/
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトがん細胞を標識又は検出又は標的化するインビトロでの方法であって、
a)
ヒトがん細胞を含む試料を、少なくとも1つの修飾された単糖化合物又はその前駆体と接触させる工程、及び
b)工程(a)の試料を、第1の反応性基を有する化合物と接触させる工程
を含み、前記少なくとも1つの修飾された単糖化合物が、次式(I):
【化1】
(式中、Xは第2の反応性基である)を有し、第1の反応性基と第2の反応性基がクリックケミストリー反応において互いに反応することができ
、前記修飾された単糖化合物が、
【化2】
から選択される、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物が、次式:
【化3】
を有する5-アジド-5-デオキシ-D-アラビノフラノースである、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)が、銅の存在下で実施される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
ヒトがん細胞を標識又は検出又は標的化する方法が、更なる工程c):
c)
ヒトがん細胞を検出するために、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出する工程
を含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法を実施することを含む、がん細胞を同定又は単離するインビトロ又はエクスビボでの方法。
【請求項6】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の
ヒトがん細胞を標識又は検出又は標的化する方法を実施するためのキットであって、
- 請求項1
又は2に規定の式(I)の修飾された単糖化合物又は次式(I')
【化4】
(式中、Xは請求項
1に規定の第2の反応性基である)のその前駆体、及び
- 第1の反応性基を有する化合物
を含むキット。
【請求項7】
抗がん剤に又は抗がん剤を含む粒子に作動可能に連結された又は連結されていない、請求項1から
6のいずれか一項に規定の少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又
は式(I')の
その前駆体を表面に呈する真核細胞を含む、医薬組成物。
【請求項8】
抗がん剤が、抗腫瘍薬であり、化学療法剤、抗がん抗体、ホルモン療法、免疫療法、及びキナーゼ阻害剤からなる群から選択される、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
細胞が、単離された非がん細胞であり、又はMSCである、請求項
7又は
8に記載の組成物。
【請求項10】
がんを治療するために使用される、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
がんの治療用医薬の製造のための、請求項
9に記載の医薬組成物の使用。
【請求項12】
がんの診断において使用される、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
がんが、直腸がん、結腸直腸がん、胃がん、頭頸部がん、甲状腺がん、子宮頸がん、子宮がん、乳がん、卵巣がん、脳がん、肺がん、皮膚がん、膀胱がん、血液がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、多発性骨髄腫、及び子宮体がんの中から選択される
、請求項
10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野、特に腫瘍学に関する。本発明は、多細胞生物からの真核細胞を標識及び/又は検出及び/又は標的化する方法において実施される修飾された単糖化合物に関する。本発明はまた、がん細胞の同定若しくは単離、がんの診断、又は細胞療法のための方法において実施されるそのような修飾された単糖化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物は、シグナル伝達分子として、また細胞認識事象のために重要である。実際に、炭水化物は、炭水化物認識タンパク質(CRP)との多価の相互作用を生じることが可能であり、生物のプローブとして使用することができる。よって、炭水化物は、疾患の診断及び治療法において数多くの機会を提供するものである。従って、炭水化物をベースとした生理活性化合物及びセンサーの開発は、活発な研究領域となっている。機能的炭水化物誘導体を調製するのに効果的でモジュール式の合成手法は、クリックケミストリーである。治療法及び診断のための、CuAAC(Cu触媒によるアジド-アルキン1,3-双極環化付加)クリックケミストリーによって調製された幾つかの炭水化物誘導体が、Heらによる総説(Carbohydrate Research 429(2016) 1~22頁)で報告されている。歪み促進型アジド-アルキン環化付加反応を使用する銅フリーのクリックケミストリーも、がん細胞に関して記載されている。クリック結合可能な基を呈する特定の糖(例えば、トリアセチルN-アジドアセチルマンノサミン(Ac3ManNAz)アナログ)は、酵素により切断可能な糖アナログを特異的に過剰発現するため、がん細胞によって代謝される。前記糖は、このように代謝され、特異的にがん細胞膜に組み込まれる。
【0003】
たとえ様々な炭水化物/単糖クリックケミストリーが治療法及び診断のために記述されていたとしても、これらのクリックケミストリー法及びそこで使用される化合物は、細胞傷害性であり、且つ/又は、がん細胞に対する選択性など、特定の細胞に対する選択性がないように思われる。これらの化合物が細胞傷害性であることは、その有効性を低める、非毒性の低濃度を使用することを意味する。
【0004】
WO2013/1077559は、特異的に生きている微生物を標識する方法において、特定の化合物、8-アジド-3,8-ジデオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸(本明細書では「KDO-N3」とも呼ぶ)などの修飾された単糖化合物を記載している。標識された生きている微生物は、単細胞原核微生物(細菌)に限られていた。
【0005】
WO2016/177712もまた、生きている微生物を特異的に標識する方法において、特定の化合物、5-アジド-5-デオキシ-D-アラビノフラノース(本明細書では「Ara-N3」とも呼ぶ)などの修飾された単糖化合物を記載している。標識された生きている微生物は、単細胞原核微生物(細菌)及び単細胞真核微生物(酵母、真菌、及びアメーバ)に限られていた。
【0006】
しかしながら、これまでのところ、前記単糖化合物が前記微生物の細胞膜によってどこでどのように同化されるかは説明できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2013/1077559
【文献】WO2016/177712
【非特許文献】
【0008】
【文献】Carbohydrate Research 429(2016) 1~22頁
【文献】2006年、Annals of Oncology、17、735~749頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特に多細胞生物からの真核細胞を標識及び検出するための新たな候補を見出し開発すること、がん細胞の同定又は単離する方法を提供すること、並びに特にがん分野における診断又は細胞療法の方法を提供することが、常に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、式(I)の単糖化合物又はそれらの前駆体:
【0011】
【0012】
に基づくものであり、式中、Xは、クリックケミストリー反応を介して、標識又は抗がん剤若しくは抗がん剤を含む粒子等の更なる化合物を共有結合させることを可能にする反応性基である。形成されたコンジュゲートは、よって、多細胞生物からの真核細胞を標識又は検出する方法、がん細胞を同定若しくは単離する方法、又はがんを治療する方法において実施されうる。
【0013】
より具体的には、発明者らは、多細胞生物からの真核細胞を用いて、式(I)の単糖化合物、特にAra-N3、の取り込みが起こることを見出した。彼らは、腫瘍真核細胞(特に、非がん細胞と比較された膀胱、血液、皮膚、膵臓、脳、肝臓、腎臓、肺、筋肉、リンパ球、前立腺、胃、乳房の各がんの)におけるそのような取り込みが、非腫瘍真核細胞と異なっていること、また非腫瘍細胞と比べてより重要であることも見出した。従って、式(I)の単糖化合物及びそれらの前駆体は、がん細胞を同定、単離、若しくは標的化するために、且つ/又は対象におけるがんの診断のために有用でありうる、がんプローブ及びマーカーとしても使用されうる。
【0014】
従って、本発明の態様は、多細胞生物からの真核細胞を標識又は検出又は標的化する方法、好ましくはインビトロでの方法であって、
a)真核細胞を含む試料を、少なくとも1つの修飾された単糖化合物又はその前駆体と接触させる工程、
b)工程(a)の試料を、場合によって銅の存在下で、第1の反応性基を有する化合物と接触させる工程、及び
c)場合によって、真核細胞を検出するために、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出する工程
を含み、前記少なくとも1つの修飾された単糖化合物が、次式(I):
【0015】
【0016】
(式中、Xは、第2の反応性基である)を有し、第1の反応性基と第2の反応性基は、前記単糖に結合した工程(b)の化合物が得られるようにクリックケミストリー反応において互いに反応することができる、方法である。好ましい一実施形態において、第1の反応性基はアルキン基であり、第2の反応性基Xはアジド基(-N3)である。
【0017】
本発明の更なる態様は、本明細書において定義した真核細胞を標識、検出、又は標的化する方法を実施するためのキットであって、
- 式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体、及び
- 第1の反応性基を有する化合物
を含むキットである。
【0018】
本発明の更なる態様は、がん細胞を同定若しくは単離する方法又は対象におけるがんの診断のための方法であって、前記対象からの、好ましくは前記対象からの生物学的試料中の、本明細書において定義された多細胞生物からの真核細胞を標識、検出、又は標的化する方法を実施する工程を含む方法である。
【0019】
本発明の更なる態様は、抗がん剤に又は少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子に作動可能に連結された又は連結されていない、本明細書において定義された少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体を表面に呈する真核細胞を含む、組成物である。別の態様は、そのような細胞を含む医薬組成物である。別の態様は、がんの治療において、特に細胞をベースとした治療法によって使用されるそのような医薬組成物である。
【0020】
別の態様は、がんの診断において使用されるそのような医薬組成物である。
【0021】
本発明の別の態様は、それを必要とする対象のがんを治療する方法であって、抗がん剤に又は少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子に作動可能に連結された、本明細書において定義された少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体を表面に呈する真核細胞を含む、有効量の本明細書において定義された組成物を、前記対象に投与することを含む方法である。
【0022】
本発明の更なる態様は、医用イメージング又は診断のための、好ましくはがんの診断のための、本明細書において定義された修飾された単糖化合物又はその前駆体の使用、場合によって第1の反応性基を有する化合物との使用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】Ara-N3及びフルオロフォアによりiv注入された又は注入されていないPanc-1腫瘍を有するマウスを用いて得られた、エクスビボでの腫瘍と骨格筋との蛍光シグナル比(腫瘍/筋肉比)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
本発明によると、以下の用語は、次の意味を有する。
【0025】
「多細胞生物」は、複数の細胞を含むあらゆる生物を含む。多細胞生物は、例えば、植物若しくは動物由来又は植物若しくは動物であり、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0026】
本明細書において使用する場合、「患者」及び「対象」という用語は、互換的に使用でき、ヒト及び動物の両方を含み、より具体的にはヒトを含む。
【0027】
「多細胞生物からの真核細胞」とは、原核生物とは異なり膜の中に核を有し、動物又は植物細胞等の、多細胞生物に由来する細胞である。動物及び植物細胞は、最も身近な、多細胞生物からの真核細胞である。本発明の関連において、「真核細胞」は、がん細胞又は正常細胞(又は非腫瘍及び腫瘍細胞)を含む。
【0028】
がん細胞とは、絶え間なく分裂するか、固形腫瘍を形成するか、又は血液に異常細胞をあふれさせる細胞である。よって、がん細胞は、固形がん、又はリンパ腫若しくは白血病等の造血器がんでありうる。
【0029】
「がん」又は「腫瘍」という用語は、本明細書において使用する場合、制御不能の増殖、不死、転移能、急速な成長及び増殖速度、並びに特定の特徴的な形態的特色等の、がんを引き起こす細胞として典型的な特性を備える細胞の存在を指す。この用語は、あらゆるタイプの悪性腫瘍(原発又は転移)を指す。典型的ながんは、乳房、脳、胃、肝臓、皮膚、前立腺、膵臓、食道、肉腫、卵巣、子宮内膜、膀胱、子宮頸部、直腸、結腸、腎臓、肺、若しくはORLがん、小児腫瘍(神経芽細胞腫、多形神経膠芽腫)、リンパ腫、癌腫、神経膠芽細胞種、肝芽腫、白血病、骨髄腫、精上皮腫、ホジキン若しくは悪性血液疾患等の、固形又は造血器がんである。
【0030】
本発明は、多細胞生物からの真核細胞を標識又は検出又は標的化する方法であって、
a)真核細胞を含む試料を、少なくとも1つの修飾された単糖化合物又はその前駆体と接触させる工程、
b)工程(a)の試料を、場合によって銅の存在下で、第1の反応性基を有する化合物と接触させる工程、及び
c)場合によって、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出する工程
を含み、前記少なくとも1つの修飾された単糖化合物が、次式(I):
【0031】
【0032】
(式中、Xは、第2の反応性基である)を有し、第1の反応性基と第2の反応性基がクリックケミストリー反応において互いに反応することができる、方法に関する。第1の反応性基と第2の反応性基の間の反応は、工程(b)の化合物を式(I)の単糖に結合させることを可能にする。
【0033】
クリックケミストリーは、目的のプローブ又は基質を、本発明による修飾された単糖化合物等の特定の生体分子に結合させる、当業者に公知の方法である。アジドアルキン環化付加は、よく知られるいわゆるクリックケミストリー反応であり、銅触媒の存在又は非存在下において、アジド基をアルキン基と反応させてトリアゾールを得る反応である。アルキン基は、歪んでいても歪んでいなくてもよい。
【0034】
そのようなアジドアルキン環化付加は、リガンド、好ましくはトリス-トリアゾールリガンドTGTA(トリス((l-(-D-グルコピラノシル)-l[l,2,3]-トリアゾール-4-イル)メチル)アミン)又はTBTA(トリス-[(l-ベンジル-l l,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミン)等の存在下で、銅触媒条件において実施されうる。頻繁に使用されるその他の適切なリガンドとしては、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(THPTA)、2-(4-((ビス((l-tert-ブチル-l 1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル)アミノ)メチル)-lH-l,2,3-トリアゾール-l-イル)エタンスルホン酸(BTTES)、トリス((l-(((エチル)カルボキシメチル)-(l,2,3-トリアゾール-4-イル))メチル)アミン、バソフェナントロリンジスルホナート、又はトリス(2-ベンズイミダゾリルメチル)アミン類がある。
【0035】
別法として、アジドアルキン環化付加は、アザジベンゾシクロオクチン(ADIBO、DIBAC、又はDBCO)又はテトラメトキシジベンゾシクロオクチン(TMDIBO)等の歪んだアルキンが使用される場合、銅の非存在下で実施されうる。銅フリー反応のために頻繁に使用されるその他の適切な歪んだアルキンとしては、シクロオクチン(OCT)、アリール-レスシクロオクチン(ALO)、モノフルオロシクロオクチン(MOFO)、ジフルオロシクロオクチン(DIFO)、ジベンゾシクロオクチン(DIBO)、ジメトキシアザシクロオクチン(DIMAC)、ビアリールアザシクロオクチノン(BARAC)、ビシクロノニン(BCN)、テトラメチルチエピニウム(TMTI、TMTH)、ジフルオロベンゾシクロオクチン(DIFBO)、オキサ-ジベンゾシクロオクチン(ODIBO)、カルボキシメチルモノベンゾシクロオクチン(COMBO)、又はベンゾシクロノニンが挙げられる。
【0036】
クリックケミストリーには、以下のようなその他の反応性基及びその他の反応が可能である:シュタウディンガーライゲーション(第1の反応性基=アジド、及び第2の反応性基=ホスフィン)、銅フリークリックケミストリー(第1の反応性基=アジド、及び第2の反応性基=歪みアルキン(内環アルキン))、カルボニル縮合(第1の反応性基=アルデヒド又はケトン、及び第2の反応性基=ヒドラジド又はオキシアミン)、チオール-エンクリックケミストリー(第1の反応性基=チオール、及び第2の反応性基=アルケン)、ニトリル-オキシド-エンクリックケミストリー(第1の反応性基=ニトリルオキシド若しくはアルデヒド、オキシム、又はヒドロキシモイルクロリド若しくはクロロロキシム、及び第2の反応性基=アルケン又はアルキン)、ニトリルイミン-エンクリックケミストリー(第1の反応性基=ニトリルイミン若しくはアルデヒド、ヒドラゾン、又はヒドラゾノイルクロリド若しくはクロロヒドラゾン、及び第2の反応性基=アルケン又はアルキン)、逆電子要請型ディールス・アルダーライゲーション(第1の反応性基=アルケン、及び第2の反応性基=テトラジン)、イソニトリル-テトラジンクリックケミストリー(第1の反応性基=イソニトリル、及び第2の反応性基=テトラジン)、スズキ・ミヤウラカップリング(第1の反応性基=アリールハライド、及び第2の反応性基=アリールボロナート)、His-タグ(第1の反応性基=オリゴ-ヒスチジン、及び第2の反応性基=ニッケル複合体又はニッケルリガンド)。
【0037】
単糖化合物及びそれらの前駆体
本発明によれば、式(I)の修飾された単糖化合物は、クリックケミストリー反応における、好ましくはアジドアルキン環化付加における反応に好適な反応性基X(第2の反応性基)を含む。よって、Xには、上記で定義された反応性基等の、クリックケミストリー反応によって更なる反応性基と反応することができる任意の反応性基が含まれる。特定の一実施形態において、Xは、アジド基(-N3)で構成されるか又はこれを有する任意の基、及び歪んだ若しくは歪んでいないアルキン基(-C≡C-)で構成されるか又はこれを有する基を含む。好ましい一実施形態において、Xは、アジド基(-N3)である。
【0038】
本発明の特定の一実施形態において、式(I)の修飾された単糖化合物は、それらのジアステレオ異性体を含む。更なる特定の一実施形態において、前記式(I)の修飾された単糖化合物は、次式:
【0039】
【0040】
からなる群において選択される。
【0041】
好ましい一実施形態において、前記少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物は、特に、次式:
【0042】
【0043】
を有する5-アジド-5-デオキシ-D-アラビノフラノース(Ara-N3)である。
【0044】
本発明の更なる特定の一実施形態において、少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物は、前記修飾された単糖化合物の前駆体である。より具体的には、前記前駆体は、式(I')の前駆体:
【0045】
【0046】
(式中、Xは、上記で定義された第2の反応性基であり、好ましくはアジド基(-N3)である)であり、第1の反応性基と第2の反応性基は、クリックケミストリー反応で互いに反応することができる。
【0047】
更なる特定の一実施形態において、前記式(I')の前駆体は、それらのジアステレオ異性体を含む。更なる特定の実施形態において、前記式(I')の前駆体は、次式:
【0048】
【0049】
からなる群において選択される。
【0050】
好ましい一実施形態において、前記式(I')の前駆体は、次式:
【0051】
【0052】
を有する5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-アラビノースである。
【0053】
式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体は、細胞に対する毒性を示さないため、本発明に従い、いかなる濃度でも使用されうる。特定の一実施形態によれば、本発明の式(I)の単糖化合物又はその前駆体の濃度は、10μMから100mMまで、好ましくは1mMから50mMまで、より好ましくは1mMから20mMまで変えることができる。
【0054】
第1の反応性基を有する化合物
第1の反応性基を有する化合物は、直接的に検出可能な部分を含むか若しくは直接的に検出可能な部分であり、又は間接的に検出可能な部分を含むか若しくは間接的に検出可能な部分である。いかなる理論にも拘泥するものではないが、細胞は、工程(a)において細胞膜によって取り込まれた工程(a)の単糖の第2の反応性基とのクリック反応によって、第1の反応性基を有する化合物に結び付けられる。検出可能な部分(又は標識)は、すなわち、蛍光、比色定量分析、又はルミネセンス等の当業者に既知の技術によって検出されうる部分である。イメージング技術は、よって、蛍光、磁気共鳴、又はコンピュータ処理断層撮影でありうる。
【0055】
ある実施形態によれば、前記化合物は、検出可能な部分、すなわち検出可能な物質(又は標識)で構成されるか若しくは検出可能な物質(又は標識)を有する部分、すなわち蛍光、比色定量分析、若しくはルミネセンス等の当業者に既知の技術によって検出されうる物質を含みうるか、又は検出可能な部分でありうる。
【0056】
別の実施形態によれば、第1の反応性基を有する前記化合物は、第1のリガンド(又はより具体的には、前記第1の反応性基を有する第1の結合タンパク質)である、間接的に検出可能な部分を含むか又は間接的に検出可能な部分であり、工程(c)における検出及び/又は固定化は、下記にて詳述するように、前記第1のリガンドに結び付いた前記真核細胞(又はより具体的には、第1の結合タンパク質)を、前記第1のリガンド(又はより具体的には、第1の結合タンパク質)と特異的に反応又は結合する第2のリガンド(又は第2の結合タンパク質)と接触させることによって行うことができる。
【0057】
より具体的には、前記化合物は、前記第1の反応性基を有する第1のリガンド、好ましくはビオチンであり、工程c)において、前記第1のリガンドに結び付いた前記真核細胞は、前記真核細胞と前記第1のリガンドに特異的な抗体又は別のタンパク質との反応によって検出され、前記抗体は、検出可能な物質又は部分、好ましくは蛍光色素若しくは発光分子又は酵素を有する。
【0058】
検出可能な物質又は部分は、色素、放射標識、及びアフィニティタグの中から選択されうる。特に、色素は、蛍光、発光、又はリン光色素、好ましくはダンシル、フルオレセイン、アクリジン、ローダミン、クマリン、BODIPY、及びシアニン色素からなる群から選択されうる。より具体的には、蛍光色素は、Alexa Fluor色素、Pacific色素、若しくはTexas Red等のThermo Fisher社によって販売される色素、又はその他の業者によって販売されるシアニン3、5、及び7の色素の中から選択されうる。特に、CuAACのためのアジドを有する色素としては、Alexa Fluor(登録商標)488、55、594、及び647、並びにTAMRA(テトラメチルローダミン)が市販されている。第2の態様において、検出可能な物質又は部分(又は標識)は、アフィニティタグでありうる。そのようなアフィニティタグは、例えば、ビオチン、His-タグ、Flag-タグ、strep-タグ、糖、脂質、ステロール、PEG-リンカー、及び補助因子からなる群から選択されうる。特定の一実施形態において、検出可能な物質は、ビオチン化標識である。アジドに連結させたビオチンが市販されている(ビオチンアジド(Biotin azide))。好ましい一実施形態において、標識は、蛍光標識である。
【0059】
本発明によれば、第1の反応性基を有する化合物は、クリックケミストリー反応、好ましくはアジドアルキン環化付加において互いに反応するために、上記で定義された第2の反応性基Xと相補的である第1の反応性基を含む。特定の一実施形態において、化合物の第1の反応性基は、アジド基(-N3)で構成されるか又はこれを有する任意の基、及び歪んだ若しくは歪んでいないアルキン基(-C≡C-)で構成されるか又はこれを有する基を含む。
【0060】
前述の、反応に関与する基の列挙において、第1の反応性基と第2の反応性基Xは置き換えることができる。前述の化学反応はすべて、共有結合をもたらす。例えば、Xがアジド基(-N3)、又はアジド基を有する基である場合、次いで、第1の反応性基はアルキン、又はアルキン基を有する基である。Xがアルキン、又はアルキン基を有する基である場合、次いで、第1の反応性基はアジド基(-N3)、又はアジド基を有する基である。本発明の好ましい一実施形態において、第2の反応性基Xはアジド基(-N3)であり、第1の反応性基はアルキン基(-C≡C-)である。
【0061】
標識、検出、又は標的化する方法
多細胞生物からの真核細胞を標識、検出、又は標的化する方法に従った工程a)は、真核細胞を含む試料を、反応性基又は官能基Xを含む少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体と接触させる工程を含む。そのような接触させる工程a)は、多細胞生物からの前記真核細胞の膜への、より具体的には前記細胞表面での、少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体の組込みを可能にする。そのような過程は、前記真核細胞による少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物の取り込みに相当する可能性がある。従って、前記細胞は、その表面又は膜に、少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物を呈する。
【0062】
工程b)は、(少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体が真核細胞の膜に組み込まれる)工程(a)の試料を、上記で定義された第1の反応性基を含む化合物と接触させる工程を含む。そのような工程b)は、化合物の第1の反応性基と少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体の第2の反応性基Xとの間のクリックケミストリー反応を起こすことを可能にし、これによって、結び付けられた多細胞生物からの真核細胞が得られ、これが、(上記に詳述したように)その後、標識若しくは標的化されるか、又は標識若しくは標的化されうる。
【0063】
本発明の好ましい一実施形態は、多細胞生物からの真核細胞を標識、検出、又は標的化する方法であって、
a)真核細胞を含む試料を、Ara-N3と接触させる工程、及び
b)前記試料を、場合によって銅の存在下で、第1の反応性基を含む化合物と接触させる工程
を含む方法である。
【0064】
当業者であれば、工程(a)又は(b)の実施方法は知るところである。特定の一実施形態によれば、前記工程(a)及び/又は(b)は、真核細胞を含む試料の増殖を可能にする、好ましくは、前記真核細胞の増殖に特異的な培養又はインキュベーション培地中で行われる。
【0065】
より具体的には、工程(a)又は(b)の培養条件(時間及び細胞培養培地を含む)は、真核細胞が標識、検出、又は標的化されるように構成される。細胞培養培地は、細胞の倍加及び/又は細胞の表面若しくは膜での式(I)の修飾された単糖化合物の取り込みを、増強又は刺激する任意の化合物によって補足されうる。
【0066】
特定の一実施形態によれば、工程(a)の期間が、少なくとも1つの式(I)の単糖化合物又はその前駆体の、前記真核細胞の膜中への組込みを可能にする。より具体的には、工程(a)の期間は、標識、検出、又は標的化されるべき真核細胞の少なくとも倍加時間である。より具体的には、工程(a)の期間は、標識、検出、又は標的化されるべき真核細胞の倍加時間の5倍未満である。特定の一実施形態によれば、工程(a)の期間は、標識、検出、又は標的化されるべき真核細胞の1倍加時間又は2倍加時間に相当する。
【0067】
特定の一実施形態によれば、前記工程(a)及び/又は(b)は、前記第1の反応性基と前記第2の反応性基との反応を生じさせるための反応体及び/又は触媒を用いて行われる。
【0068】
注目しておきたい重要な点は、実施例により説明されるように、式(I)の単糖化合物又はその前駆体は細胞に対して毒性が低いか又は示さないため、それらの使用量は広範囲に変えられることである。そのような量は、真核細胞を標識、同定、又は検出するのに十分であるように、当業者によって決定されることとなる。
【0069】
該方法は、任意の試料、典型的には対象の生物学的試料、例えば血液、血漿、血清、尿、脳脊髄液の試料等の体液、若しくは対象の組織からの試料、又はその一部を用いて実施されうる。本発明は、がんを有する又はがんを有することが疑われる任意のヒト患者を含む、任意の対象からの試料を用いて実施されうる。該方法は、典型的には、血液、血清、若しくは血漿の試料、又はそれらに由来する試料、例えば前処理された血液試料等に対して実施される。試料は、本発明において使用されるのに先立ち、処理(例えば、希釈、濃縮、単離、部分的な精製、凍結等)されていてもよい。特定の一実施形態によれば、該方法の工程(a)において使用される各試料は、好ましくはセルソーティングによって、特にフローサイトメトリーによって得られた、細胞集団又は好ましくは個別の細胞を含む。該方法がインビボで実施される場合、該方法は、対象の全身又はその一部に対して実施されうる。その状況において、式(I)の単糖化合物又はその前駆体及び場合によって第1の反応性基を有する化合物は、経腸的に(経口を含む)又は非経口に(静脈内又は筋肉内を含む)投与されうる。
【0070】
結び付けられた多細胞生物からの真核細胞を検出するために、該方法は、工程(a)の単糖に結合した工程(b)の化合物を検出することを含む工程c)を更に含む。
【0071】
有利には、本発明は、真核細胞が工程(b)の第1の反応性基を有する化合物と結び付いているかどうかを検出することにおいて、且つ/又は第1の反応性基を有する化合物と結び付いた前記真核細胞を固体基質上に固定することにおいて、前記真核細胞を検出する更なる工程(c)を含む。この工程(c)では、第1の反応性基を有する前記化合物は、検出可能な物質を含む部分若しくは分子、又は検出可能な物質に反応若しくは結合することができる部分若しくは分子であり、或いは好ましくは第1の反応性基を有する前記化合物は、第2の分子及び/若しくは固体基質に反応又は結合することができる第1の分子であり、好ましくは前記第2の分子は検出可能な物質を含み、且つ/又は前記第2の分子は前記固体基質に結合しているか若しくは結合することができる。
【0072】
従って、本発明は、場合によって固体支持体上に固定された、特に前記第1の反応性基を有する磁気ビーズで構成された固体支持体と固定された、多細胞生物からの真核細胞を標識すること、並びに真核細胞を数える又は検出すること、並びに真核細胞を濃縮及び/又は分離することを可能にする。
【0073】
より具体的には、第1の反応性基を有する前記化合物は、第2の分子及び/若しくは固体基質に反応又は結合することができる第1の分子であり、好ましくは前記第2の分子は検出可能な物質を含み、該方法は、真核細胞が、前記真核細胞に結合した前記検出可能な分子又は部分を含むかどうかを見つけることにおいて、前記真核細胞を検出する工程c)を含む。
【0074】
本発明の方法によれば、標識又は検出がない場合、実施された試料は、多細胞生物からの真核細胞を含まないと判断されうる。
【0075】
前記検出する工程c)は、液体培地中又は固体基質上で行うことができる。
【0076】
好ましくは、多細胞生物からの真核細胞を標識又は検出又は標的化する方法は、インビトロでの方法である。
【0077】
特定の一実施形態によれば、本発明の方法は、1つ又は複数の洗浄工程を更に含みうる。
【0078】
特定の一実施形態によれば、本発明による方法は、例えばマイクロウェルプレートを使用して、同時に1つ又は複数の試料に対して実行することができる。マイクロプレートは、典型的には、6個、12個、24個、48個、96個、384個、又は1536個の試料ウェルを有する。前記特定の実施形態によれば、該方法の工程(a)において使用される各試料ウェルは、好ましくは一細胞集団又は好ましくは個々の細胞を含み、より好ましくは、それらはセルソーティングによって、特にフローサイトメトリーによって得られたものである。
【0079】
よって、本発明の更なる目的は、多細胞生物からの真核細胞を標識又は検出するための、少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体のインビトロでの使用であり、好ましくは第1の反応性基を含む化合物との、場合によって第2の分子及び/又は固体基質、好ましくは検出可能な物質を含む前記第2の分子との、インビトロでの使用である。
【0080】
本発明の更なる目的は、本明細書において定義した多細胞生物から真核細胞を標識又は検出する方法を実施するためのキットであって、
- 上記で定義された、式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体、及び
- 上記で定義された、第1の反応性基を有する化合物
を含むキットである。
【0081】
特定の一実施形態によれば、キットは、上記で定義された第2の分子及び/又は固体基質を更に含んでもいてよく、好ましくは前記第2の分子又は固体基質は検出可能な物質を含み、第1の反応性基を有する化合物は第2の分子及び/若しくは固体基質に反応又は結合することができる第1の分子である。
【0082】
更なる目的は、本明細書において定義された多細胞生物からの真核細胞を標識又は検出する方法を実施するための、上記で定義されたキットの使用である。
【0083】
特定の一実施形態によれば、多細胞生物からの真核細胞は、がん又は腫瘍細胞である、影響を受けやすい細胞である。従って、本発明による方法及びキットは、標識の検出によってがん又は腫瘍細胞を同定するのに有用である。
【0084】
がん細胞を同定若しくは単離する又はがんを診断する方法
本発明は更に、がん細胞を同定若しくは単離する又は対象におけるがんを診断する方法であって、好ましくはインビトロ又はエクスビボでの方法であり、前記対象の又は前記対象からの生物学的試料の、本明細書において定義された真核細胞を標識又は検出する方法を実施することを含む方法に関する。好ましい一実施形態において、がん細胞を同定若しくは単離する又は対象においてがんを診断する方法は、標識を検出し、場合によって標識を参照レベルと比較する工程を更に含む。
【0085】
対象からの生物学的試料は上記で定義された通りであり、好ましくは、試料は、がんを有する又はがんを有することが疑われるヒト患者からの試料である。特定の一実施形態によれば、工程(a)において使用される各試料は、好ましくはセルソーティングによって、特にフローサイトメトリーによって得られた、一細胞集団又は好ましくは個々の細胞を含む。
【0086】
試料は、がん細胞を含むことがより具体的に疑われるものである。
【0087】
そのような試料の例としては、血液、血漿、唾液、尿、及び精液試料等の体液、並びに生検、臓器、組織、又は細胞試料が挙げられる。試料は、その使用に先立ち処理されてもよい。
【0088】
本発明に従って同定又は単離されるがん細胞は、あらゆるタイプのものでありうる。がん細胞は、固形腫瘍又は造血器がんから得てもよい。がん細胞には、循環又は非循環腫瘍細胞が含まれる。循環腫瘍細胞(CTC)は、原発腫瘍から脈管構造又はリンパ管中に脱落しており、血液を循環して体中に運ばれる細胞である。CTCは、続いて、遠隔臓器における更なる腫瘍を成長(腫瘍転移)させる種となり、これが、大部分のがん関連死の原因となる機序である。
【0089】
本発明によるがん細胞の検出及び分析によって、患者の早期の予後を支援し、目的に合わせた適切な治療を決定することが可能である。経時的に疾患進行をモニタリングする能力によって、患者の治療法の適切な修正が容易となり、患者の予後及び生活の質を潜在的に改善することができる。循環腫瘍細胞を検出及び分析する場合、該方法によって、がん及び特に腫瘍転移の早期検出が可能となる。その点で、本発明による試料は血液である。血液検査は実施が容易且つ安全であり、経時的に多数の試料を採取することができる。疾患の将来の進行を予測する能力の重要な態様は、CTC計数が繰り返して低く増加していない場合、手術の必要性が(少なくとも一時的に)排除されることである。すなわち、手術を回避することの明らかな利益には、がん手術に備わる腫瘍形成能に関連したリスクの回避が含まれる。このために、転移性疾患を有する患者のCTCの検出のために必要な感度及び再現性を有する本発明のような技術は、極めて関心の高い技術である。
【0090】
本明細書において使用される「標識を検出すること」という表現は、標識された多細胞生物からの真核細胞の存在の視覚化若しくは検出、又は更にそのような標識の測定も含んでもよい。蛍光等のそのような標識を測定することは、場合によって標識を参照レベルと比較することによって、がん細胞の検出、同定、又は単離を可能にする。
【0091】
式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体の取り込みは、がん細胞では、非がん細胞と異なること、より具体的には非がん細胞(例えば、参照レベル又は対照試料)と比べて高いことが、本明細書において明らかとなった。実施例に示すように、蛍光強度は、非がん細胞と比べてがん細胞では高い(例えば、1又は2細胞倍加時間後)。
【0092】
従って、本発明は、がん細胞を同定若しくは単離する又は対象におけるがんを診断する方法であって、
- 前記対象からの試料の、本明細書において説明された真核細胞を標識する方法を実施すること、
- 前記標識する方法を実施した後、標識を検出し、場合によって標識を参照レベルと比較すること、及び次いで、
- 標識の測定に基づき、がん細胞を同定する又はがんを診断すること
を含む方法に関する。
【0093】
がん細胞を同定若しくは単離する又はがんを診断する方法は、有利には、1細胞周期の時間内で実施されうる。好ましくは、標識の検出は、前記標識する方法を実施してから、より具体的には上記に詳述した工程(a)を実施してから、10時間後から40時間後までに、より好ましくは16時間後から24、25、又は36時間後までに実施される。
【0094】
該方法は、場合によって、参照レベルとの比較、より具体的には対照試料又は参照との比較を含んでいてもよい。参照レベルは、正常細胞(例えば非がん細胞)及び/又は既知のがん細胞において測定された標識(蛍光等)の強度でありうる。好ましくは、参照の細胞は、検討されるべき細胞に最も近い細胞であり、好ましくは同じ細胞株、同じ臓器、及び/又は同じタイプからの細胞である。該方法は、対象からの腫瘍試料及び組織学的に一致した正常組織を用意する前工程を含んでもよい。
【0095】
特定の実施形態によれば、試料の標識の測定値が、非がん試料である対照試料の標識の測定値より高い場合に、がん細胞と同定され、又はがんと診断される。「より高い測定値」とは、試料の非がん試料に対する標識比が、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、又は3.0を超えていることを意味する。より具体的には、試料の非がん試料に対する標識比が、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、又は3.0を超えている。
【0096】
特定の一実施形態によれば、診断されるべきがんは、直腸がん、結腸直腸がん、胃がん、頭頸部がん、甲状腺がん、子宮頸がん、子宮がん、乳がん、卵巣がん、脳がん、肺がん、皮膚がん、膀胱がん、血液がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、多発性骨髄腫、及び子宮体がんの中から選択される。より具体的には、診断されるべきがんは、膀胱、血液、皮膚、膵臓、脳、肝臓、腎臓、肺、筋肉、リンパ球、前立腺、胃、及び乳がんからなる群から選択される。より具体的な一実施形態によれば、診断されるべきがんは、膀胱、血液、結腸、胃、乳房、肺、皮膚、及び膵臓がんからなる群から選択される。
【0097】
特定の一実施形態によれば、同定又は単離されるべきがん細胞は、上記に列記されたがん由来のがん細胞である。
【0098】
医薬組成物及びその使用
本発明は、抗がん剤に又は少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子に作動可能に連結された又は連結されていない上記で定義された少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体を表面に呈する真核細胞を含む、組成物に関する。
【0099】
ある特定の態様において、抗がん剤に又は少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子に作動可能に連結された又は連結されていない上記で定義された少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体を表面に呈する細胞は、本発明の方法において、上記のように調製することができる。
【0100】
本発明による組成物は、以下の工程:
a)多細胞生物からの真核細胞を含む組成物を、上記で定義された少なくとも1つの修飾された単糖化合物又はその前駆体と接触させる工程、並びに
b)工程(a)の組成物を、場合によって銅の存在下で、第1の反応性基を有する化合物、及び場合によって作動可能に連結された抗がん剤又は少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子を含む化合物と接触させる工程
を含む方法によって調製することができる。
【0101】
前記工程は、上記で詳述した工程と類似する。工程a)は、前記細胞が、その表面又は膜上に、少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体を呈することを可能にする。工程b)は、化合物の第1の反応性基と少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体、好ましくは式(I')の前駆体の第2の反応性基Xとの間で、クリックケミストリー反応を生じさせることを可能にする。
【0102】
一実施形態によれば、第1の反応性基を有する化合物はまた、前記化合物に結合された、作動可能に連結された抗がん剤若しくは少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子を含むか、又はそれらであり得、工程(b)は、抗がん剤と又は抗がん剤を含む粒子と結び付いた多細胞生物からの真核細胞を用意することを可能にする。
【0103】
よって、該方法は、上記で詳述したようなクリックケミストリー反応によって、式(I)の修飾された単糖化合物又はそれらの式(I')の前駆体が抗がん剤と又は抗がん剤を含む粒子と作動可能に連結されたコンジュゲートを調製することを可能にし、真核細胞がその表面に前記コンジュゲートを呈する。特定の一実施形態において、コンジュゲートは、アルキン基を含む抗がん剤又は表面上にアルキン基を呈する粒子と、アジド基を含む式(I)の修飾された単糖化合物又はそれらの式(I')の前駆体との間の、クリックケミストリー反応によって調製される。
【0104】
別の実施形態によれば、第1の反応性基を有する化合物は、抗がん剤である第2のリガンド(又はより具体的には第2の結合タンパク質)と反応又は結合できる第1のリガンド(又はより具体的には第1の結合タンパク質)である。そのような実施形態によれば、該方法は、上記で詳述したようなクリックケミストリー反応によって、式(I)の修飾された単糖化合物又はそれらの式(I')の前駆体が、抗がん剤である第2のリガンドと反応又は結合できる第1のリガンドと連結されたコンジュゲートを調製することを可能にし、真核細胞がその表面に前記コンジュゲートを呈する。特定の一実施形態において、コンジュゲートは、上記に詳述したようなクリックケミストリー反応によって調製される。
【0105】
本明細書において使用される「抗がん剤」は、抗腫瘍薬等の、がん療法において一般に使用されている任意の薬剤に相当する。好ましい一実施形態において、抗がん剤は、化学療法剤、抗がん抗体、ホルモン療法剤、免疫療法剤、及びキナーゼ阻害剤からなる群から選択される。
【0106】
「作動可能に連結された抗がん剤」という用語は、その治療効果を示すことができつつ、好ましくは共有結合で、連結されている抗がん剤を指す。
【0107】
少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子は、上記で定義された第1の反応性基を有する抗がん剤含有粒子、好ましくはナノ粒子である。粒子は、例えば、ビシクロ[6.1.0]ノニン-修飾型グリコールキトサンナノ粒子(BCN-CNP)でありうる。CNPは、高い適合性を有して様々な薬物を封入できることが知られており、薬剤送達のために広く使用される。
【0108】
化学療法には、トポイソメラーゼI若しくはIIの阻害剤、DNA架橋剤、DNAアルキル化剤、代謝拮抗剤、及び/又は紡錘体の阻害剤が含まれることもある。
【0109】
トポイソメラーゼI及び/又はIIの阻害剤には、エトポシド、トポテカン、カンプトテシン、イリノテカン、アムサクリン、イントプリシン、アントラサイクリン系、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、及びミトキサントロンが挙げられるが、これらだけに限定されない。トポイソメラーゼI及びIIの阻害剤には、イントプリシンが挙げられるが、これだけに限定されない。
【0110】
DNA架橋剤には、シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチンが挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0111】
代謝拮抗剤は、核酸合成を担う酵素を遮断するか又はDNAに組み込まれた状態になり、これによって、正しくない遺伝暗号を作り出し、アポトーシスをもたらす。それらの非網羅的な例としては、葉酸アンタゴニスト、ピリミジンアナログ、プリンアナログ、及びアデノシンデアミナーゼ阻害剤が挙げられ、より具体的には、メトトレキサート、フロクスウリジン、シタラビン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、フルダラビンホスファート、ペントスタチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、及びカペシタビンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
アルキル化剤には、ナイトロジェンマスタード、エチレンイミン誘導体、アルキルスルホナート、ニトロソウレア、金属塩、及びトリアゼンが含まれるが、これらに限定されない。それらの非網羅的な例としては、ウラシルマスタード、クロルメチン、シクロホスファミド(CYTOXAN(R))、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスフォルアミン、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、フォテムスチン、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、チオテパ、ストレプトゾシン、ダカルバジン、及びテモゾロミドが挙げられる。
【0113】
紡錘体の阻害剤には、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ラロタキセル(別名XRP9881;Sanofi-Aventis社)、XRP6258(Sanofi-Aventis社)、BMS-184476(Bristol-Meyer-Squibb社)、BMS-188797(Bristol-Meyer-Squibb社)、BMS-275183(Bristol-Meyer-Squibb社)、オルタタキセル(別名IDN 5109、BAY 59-8862、又はSB-T-101131;Bristol-Meyer-Squibb社)、RPR 109881A(Bristol-Meyer-Squibb社)、RPR 116258(Bristol-Meyer-Squibb社)、NBT-287(TAPESTRY社)、PG-パクリタキセル(別名CT-2103、PPX、パクリタキセルポリグルメックス、パクリタキセルポリグルタメート、又はXyotax(商標))、ABRAXANE(登録商標)(別名ナブパクリタキセル;ABRAXIS BIOSCIENCE社)、テセタキセル(別名DJ-927)、IDN 5390(INDENA社)、タキソプレキシン(別名ドコサヘキサエン酸-パクリタキセル;PROTARGA社)、DHA-パクリタキセル(別名Taxoprexin(登録商標))、及びMAC-321(WYETH社)が含まれるが、これらだけに限定されない。Hennenfent & Govindanの総説もまた参照されたい(2006年、Annals of Oncology、17、735~749頁)。
【0114】
免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ等の抗CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)療法、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、若しくはBGB-A317等のPD-1(プログラム細胞死タンパク質1)阻害剤、アテゾリズマブ、アベルマブ、若しくはデュルバルマブ等のPDL1(プログラム細胞死リガンド)阻害剤、BMS-986016等のLAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)阻害剤、TIM-3(T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有-3(T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3))阻害剤、TIGIT(Ig及びITIMドメインをもつT細胞免疫受容体(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains))阻害剤、BLTA(B及びTリンパ球アテニュエーター(B- and T-lymphocyte attenuator))阻害剤、エパカドスタット等のIDO1阻害剤、又はそれらの組合せからなる群から選択されうる。
【0115】
ホルモン療法剤には、例えばタモキシフェン、フェアストン、アリミデックス、アロマシン、フェマーラ、ゾラデックス/リュープロン、メガセ、及びハロテスチンが含まれる。
【0116】
本発明による組成物の多細胞生物からの真核細胞は、好ましくは単離された非がん細胞である。非がん細胞は、好ましくは単離された多分化能幹細胞である。多分化能幹細胞は、好ましくは間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、全身で、好ましくは脂肪組織、骨髄、臓器を支持する組織において、また骨、軟骨、及び筋肉等においてもみられる。本発明による真核細胞は、T細胞であってもよい。
【0117】
本発明による真核細胞は、同種又は好ましくは自家(すなわち対象又は患者自身からの)細胞のいずれかである。
【0118】
特定の一実施形態によれば、組成物は、上記で定義された少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体を表面に呈するMSCを含む。そのような組成物は、上記に詳述したような直接又は間接的に第1の反応性基を含む化合物によって検出されるという単糖の特性を利用することによって、例えばがん細胞若しくは腫瘍の同定又はがんの診断のために有用でありうる。そのような組成物はまた、造血器移植のモニタリングに関して、治療法においても有用でありうる。
【0119】
別の特定の実施形態によれば、組成物は、抗がん剤に又は少なくとも1種の抗がん剤を含む粒子に作動可能に連結された上記で定義された少なくとも1つの式(I)の修飾された単糖化合物又はその前駆体を表面に呈し、前記化合物に結合されたMSCを含む。そのような組成物はまた、特にがんの治療のための治療法においても有用でありうる。
【0120】
本発明の組成物は、好ましくは医薬組成物である。
【0121】
本明細書において企図される医薬組成物には、上記で詳述したような抗がん剤を呈する細胞に加えて、薬学的に許容される担体が含まれる。「薬学的に許容される担体」という用語は、細胞の生物学的活性の有効性に干渉しない任意の担体(例えば、支持体、物質、溶媒等)を包含し、その担体が投与される宿主に対して毒性ではないことを意味する。例えば、非経口投与のためには、活性化合物は、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン、及びリンガー溶液等のビヒクル中での注射用単位剤形で製剤化されてもよい。医薬組成物は、薬学的に適合性のある溶媒中溶液として、又は好適な医薬溶媒若しくはビヒクル中乳剤、懸濁剤、若しくは分散体として、又は当技術分野において既知の方法において固体ビヒクルを含有する丸剤、錠剤、若しくはカプセル剤として製剤化されうる。非経口投与のために好適な製剤は、好都合には、好ましくはレシピエントの血液と等張である活性成分の無菌の油性又は水性調製物を含む。
【0122】
担体は、製剤のその他の成分と適合性があり、そのレシピエントに対して有害でないという意味において、「許容される」ものでなければならない。医薬組成物は、有利には、好適な無菌溶液の注射又は静脈内輸注によって施用される。これらの化学療法剤のほとんどは、安全且つ有効な投与方法が当業者には知られている。また、それらの投与については、基準となる文献中で説明されている。
【0123】
本発明の医薬組成物は、がん治療法において、より具体的には、がん細胞療法において、使用されうる。
【0124】
本発明の好ましい実施形態は、上記で定義されたようながんの治療に使用するための、本明細書において定義された医薬組成物である。
【0125】
更に好ましい実施形態は、それを必要とする対象のがんを治療する方法であって、有効量の本明細書において定義された医薬組成物を投与することを含む方法である。
【0126】
更に好ましい実施形態は、がんの治療用医薬の製造のための、本明細書において定義された医薬組成物の使用である。
【0127】
イメージング及び診断
上記で詳述したように、式(I)の修飾された単糖化合物又は式(I')のその前駆体は、特にクリックケミストリー反応によって、標識、好ましくは蛍光標識、を有する検出可能な実体を形成するために好適である。
【0128】
よって、本発明は、多細胞生物からの真核細胞を検出する探索ツールとしての、またより具体的にはがん細胞を同定又は単離するための、本明細書において開示した式(I)の修飾された単糖化合物又は式(I')その前駆体の使用に関する。本発明は、医用イメージング又は診断のための、好ましくはがんの診断のための、本明細書において開示した式(I)の修飾された単糖化合物又は式(I')のその前駆体に更に関する。
【0129】
本発明の更なる態様及び利点は、下記の実施例において説明されるが、例示的であり限定ではないとみなされるべきである。
【実施例】
【0130】
(実施例1)
化合物の合成
材料及び方法:
薄層クロマトグラフィーは、Merck 60 F254上で実施し、UVによって、且つ/又は硫酸若しくはKMnO4若しくはリンモリブデン酸溶液を用いて焼成することによって、検出した。フラッシュカラムクロマトグラフィーには、シリカゲル60 40~63Mmを使用した。
【0131】
NMRスペクトルは、残留プロトン化溶媒を内標準として使用して、Bruker Avance 300又は500MHz分光計で得た。化学シフトδは百万分率(ppm)で示し、カップリング定数はヘルツ(Hz)として報告する。分裂パターンは、シングレット(s)、ダブレット(d)、トリプレット(t)、ダブルダブレット(dd)、ダブルダブルダブレット(ddd)と呼ぶ。解釈できなかったか又は容易に可視化できなかった分裂パターンは、マルチプレット(m)と呼ぶ。
【0132】
マススペクトルは、Waters LCT Premier XE(ToF)で、ポジティブモード(ESI+)又はネガティブモード(ESI-)でのエレクトロスプレーイオン化で検出して取得した。
【0133】
IR-FTスペクトルは、Perkin Elmer Spectrum 100分光計で記録した。特性吸収は、cm-1で報告する。
【0134】
比旋光度は、20℃、589nmにて、10cmセル中で、Anton Paar MCP 300旋光計を用いて20℃で測定した。
【0135】
すべての生物学的及び化学的試薬は、分析用又は細胞培養グレードのものとし、商用供給元から入手し、更に精製することなく使用した。
【0136】
Ara-N3及びその前駆体VIは、以下の手順:
【0137】
【0138】
に従って合成した。
【0139】
2:3,4:5-ジイソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(化合物II)
D-(-)-アラビノース(4.00g、26.6mmol、1.0当量)の乾燥ピリジン溶液(90ml)に、メトキシアミン塩酸塩(2.72g、32.0mmol、1.2当量)を加え、この混合物を室温で15時間した。溶媒を減圧下で除去し、残渣を3回、トルエンと共蒸発させた。この残渣を2,2-ジメトキシプロパン(100ml)に再懸濁し、7-トルエンスルホン酸(1.01g、5.33mmol、0.2当量)を加え、この懸濁液を、4時間加熱還流した後、室温で更に15時間撹拌した。この反応混合物をCelite(登録商標)で濾過し、溶媒を蒸発させた。残渣を酢酸エチル(200ml)に溶解し、飽和NaCl水溶液(2×150mL)で洗浄した。シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル、9:1)による精製によって、異性体2:3,4:5-ジイソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(IIE/IIZ)の混合物及び未知の不純物(NMR比、6:1:0.4、5.83g)が、無色油状物として得られる。この混合物を、更に精製することなく、次の工程において使用した。2回目のフラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/MTBE 98:2)によって、純粋な一定分量(2E)が得られ、これを特性決定した。
【0140】
異性体(IIE):
Rf (CH2Cl2/MTBE 98:2): 0.35.
IR (cm-1): 2987, 2939, 2900, 2821, 1631, 1456, 1381, 1371, 1241, 1212, 1150, 1065, 1038, 887, 842.
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 7.35 (d, 1H, J1,2 6.3 Hz, H-1); 4.46 (dd, 1H, J2,3 7.1, J1,2 6.3 Hz, H-2); 4.13 (ddd, 1H, J3,4 6.9, J4,5a 6.1, J4,5b 4.8 Hz, H-4); 4.08 (dd, 1H, J5a,5b 8.5, J4,5a 6.1 Hz, H-5a); 3.97 (d, 1H, J2,3 7.1, J3,4 6.9 Hz, H-3); 3.94 (dd, 1H, J5a,5b 8.5, J4,5b 4.8 Hz, H-5b); 3.85 (s, 3H, CH3-O); 1.40 (s, 3H, CH3-C); 1.38 (s, 6H, 2 CH3-C); 1.32 (s, 3H, CH3-C).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 147.8 (C-1); 110.8 (C-6); 110.0 (C-7); 79.4(C-3); 76.7 (C-2); 76.6 (C-4); 67.1 (C-5); 62.1 (CH3-O); 27.1, 27.0, 26.9, 25.4 (4 CH3-C).
HRMS (ESI+): [M+H]+ (C12H22NO5
+) 計算値 m/z: 260.1492, 実測値: 260.1502.
【0141】
2:3-イソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(化合物III)
2:3,4:5-ジイソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(II)(IIE/IIZ)及び不純物(1.50g)の80%(v/v)酢酸水溶液(30ml)を、ロータリーエバポレーター上で、200mbarの圧力にて40℃に加熱した。2.5時間後、溶媒を減圧下で除去し、残渣をトルエンと共蒸発させた。シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル 1:1)後に、2:3-イソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(IIIE/IIIZ)の異性体の混合物(NMR比4:1、876mg、3工程を通して58%)が、無色油状物として得られた。NMRによる純度は95%超であった。
【0142】
Rf(シクロヘキサン/酢酸エチル 1:1):0.24。
IR(cm-1):3409、2939、1373、1216、1040、885。
HRMS(ESI+):[M+H]+ (C9H18NO5
+) 計算値 m/z:220.1179、実測値:220.1184。
【0143】
異性体(IIIE):
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 7.44 (d, 1H, J1,2 5.5 Hz, H-1); 4.56 (dd, 1H, J2,3 7.4, J1,2 5.5 Hz, H-2); 4.07 (dd, 1H, J2,3 7.4, J3,4 5.6 Hz, H-3); 4.13 (ddd, 1H, J3,4 5.6, J4,5 5.1, J4,5 4.7 Hz, H-4); 3.84 (s, 3H, CH3-O); 3.72-3.68 (m, 2H, 2 H-5); 1.42 (s, 3H, CH3-C); 1.38 (s, 3H, CH3-C).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 149.1 (C-1); 110.3 (C-6); 79.4 (C-3); 75.0 (C-2); 71.6 (C-4); 63.4 (C-5); 62.2 (CH3-O); 26.9, 26.7 (2 CH3-C).
【0144】
異性体(IIIZ):
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 6.86 (d, 1H, J1,2 5.9 Hz, H-1); 4.95 (dd, 1H, J2,3 7.7, J1,2 5.9 Hz, H-2); 3.92 (s, 3H, CH3-O); 3.87 (dd, 1H, J2,3 7.7, J3,4 6.9 Hz, H-3); 3.82-3.75 (m, 2H, H-4, H-5a); 3.72-3.68 (m, 1H, H-5b); 1.40 (2s, 6H, 2 CH3-C).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 151.0 (C-1); 110.9 (C-6); 80.4(C-3); 72.9 (C- 2); 72.7 (C-4); 63.5 (C-5); 62.8 (CH3-O); 27.0, 26.5 (2 CH3-C).
【0145】
2:3-イソプロピリデン-5-O-メタンスルホニル-D-アラビノースO-メチルオキシム(化合物IV)
-20℃の2:3-イソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(III)(IIIE/IIIZ)(100mg、0.46mmol、1.0当量)の乾燥ピリジン溶液(2.0ml)に、塩化メシル(0.10ml、1.37mMol、3.0当量)を加え、反応混合物を-20℃で1.5時間撹拌した。CH3OH(0.3ml)を用いて反応をクエンチした後、溶媒を真空下で除去した。得られた残渣をシリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル 6:4)によって精製して、2:3-イソプロピリデン-5-O-メタンスルホニル-D-アラビノースO-メチルオキシム(IVE/IVZ)の混合物(NMR比、4:1、110mg、81%)が、無色油状物として得られた。フラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ジエチルエーテル 9:1)によって、純粋な(IVE)異性体の一定分量が得られ、これを特性決定した。NMRによる純度は95%超であった。
【0146】
Rf(シクロヘキサン/酢酸エチル 6:4):0.24。
IR(cm-1):3500、2989、2941、2824、1631、1458、1350、1215、1170、1067、1033、959、887、863、833。
HRMS(ESI+):[M+H]+ (C10H20NO7S+) 計算値 m/z:298.0955、実測値:298.0947。
【0147】
異性体(IVE):
Rf(シクロヘキサン/酢酸エチル 6:4):0.20。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 7.42 (d, 1H, J1,2 5.6 Hz, H-1); 4.56 (dd, 1H, J2,3 6.8, J1,2 5.6 Hz, H-2); 4.41 (dd, 1H, J5a,5b 11.0, J4,5a 2.7 Hz, H-5a); 4.28 (dd, 1H, J5a,5b 11.0, J4,5b 5.7 Hz, H-5b); 4.03 (ddd, 1H, J3,4 7.0, J4,5b 5.7, J4,5a 2.7 Hz, H-4); 4.01 (dd, 1H, J2,3 6.8, J3,4 7.0 Hz, H-3); 3.85 (s, 3H, CH3-O); 3.06 (s, 3H, CH3-S); 1.41 (s, 3H, CH3-C); 1.39 (s, 3H, CH3-C).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 148.2 (C-1); 110.9 (C-6); 77.9 (C-3); 76.2 (C-2); 70.9 (C-5); 70.8 (C-4); 62.3 (CH3-O); 37.8 (CH3-S); 27.0, 26.9 (2 CH3-C).
【0148】
異性体(IVZ):
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ: 6.87 (d, 1H, J1,2 5.9 Hz, H-1); 4.96 (dd, 1H, J2,3 7.3, J1,2 5.9 Hz, H-2); 4.45 (dd, 1H, J5a,5b 11.4, J4,5a 2.4 Hz, H-5a); 4.29 (dd, 1H, J5a,5b 11.4, J4,5b 7.9 Hz, H-5b); 3.98 (ddd, 1H, J4,5b 7.9, J4,3 7.5, J4,5a 2.4 Hz, H-4); 3.93 (s, 3H, CH3-O); 3.84 (dd, 1H, J3,4 7.5, J3,2 7.3 Hz, H-3); 3.06 (s, 3H, CH3-S); 1.40 (s, 3H, CH3-C); 1.39 (s, 3H, CH3-C).
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ: 150.7 (C-1); 111.2 (C-6); 79.1 (C-3); 72.9 (C-2); 71.3 (C-5); 70.9 (C-4); 62.9 (CH3-O); 37.9 (CH3-S); 27.0, 26.6 (2 CH3-C).
【0149】
5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(化合物V):
(IVE/IVZ)(810mg、2.72mmol、1.0当量)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(30.0mL、0.10M)に、アジ化ナトリウム(531mg、8.17mmol、3.0当量)を加え、反応混合物を、80℃で15時間加熱した。次いで、溶媒を減圧下で除去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル 9:1)によって精製して、5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-アラビノースO-メチルオキシム(VE/VZ)の混合物(NMR比7:3、637mg、96%)が、黄色がかった油状物として得られた。特性決定するために、(VE)の画分をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/MTBE 97:3)によって単離した。NMRによる純度は95%超であった。
【0150】
Rf(シクロヘキサン/酢酸エチル 8:2):0.30。
IR(cm-1):3458、2989、2939、2823、2100、1630、1443、1373、1213、1164、1066、1036、885、865。
HRMS(ESI+):[M+H]+ (C9H17N4O4
+) 計算値 m/z:245.1245、実測値:245.1250。
【0151】
異性体(VE):
Rf(ジクロロメタン/MTBE 97:3):0.23。
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 7.42 (d, 1H, J1,2 5.8 Hz, H-1); 4.54 (dd, 1H, J2,3 7.2, J1,2 5.8 Hz, H-2); 3.98 (dd, 1H, J2,3 7.2, J3,4 6.4 Hz, H-3); 3.92 (dddd, 1H, J3,4 6.4, J4,5b 6.2, J4,OH 3.9, J4,5a 3.8 Hz, H-4); 3.85 (s, 3H, CH3-O); 3.46 (dd, 1H, J5a,5b 12.5, J4,5a 3.8 Hz, H-5a); 3.42 (dd, 1H, J5a,5b 12.5, J4,5b 6.2 Hz, H-5b); 2.61 (d, 1H, J4,OH 3.9 Hz, OH); 1.41 (s, 3H, CH3-C); 1.39 (s, 3H, CH3-C).
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 148.4 (C-1); 110.6 (C-6); 78.8(C-3); 75.8 (C-2); 71.5 (C-4); 62.3 (CH3-O); 53.7 (C-5); 27.0, 26.8 (2 CH3-C).
【0152】
異性体(VZ):
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 6.86 (d, 1H, J1,2 6.1 Hz, H-1); 4.94 (dd, 1H, J2,3 7.2, J1,2 6.1 Hz, H-2); 3.93 (s, 3H, CH3-O); 3.87 (ddd, 1H, J3,4 7.5, J4,5b 6.4, J4,5a 2.8 Hz, H-4); 3.82 (dd, 1H, J3,4 7.5, J2,3 7.2 Hz, H-3); 3.47 (dd, 1H, J5a,5b 12.8, J4,5a 2.8 Hz, H-5a); 3.39 (dd, 1H, J5a,5b 12.8, J4,5b 6.4 Hz, H-5b); 1.40 (s, 3H, CH3-C); 1.38 (s, 3H, CH3-C).
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ: 150.8 (C-1); 111.0 (C-6); 80.0 (C-3); 72.9 (C- 2); 72.5 (C-4); 62.8 (CH3-O); 53.5 (C-5); 26.9, 26.5 (2 CH3-C).
【0153】
5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-アラビノース(化合物VI)
(VE/VZ)の溶液(820mg、3.36mmol、1.0当量)の80%(v/v)酢酸水溶液(120mL)に、ホルムアルデヒド(0.8mL)を加え、反応混合物を、室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去し、トルエンとの共蒸発を行って、酢酸を確実に完全排除した。粗製化合物5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-アラビノース(VI)(682mg)が得られた。
【0154】
無色油状物
Rf(シクロヘキサン/酢酸エチル 7:3):0.56。
IR (cm-1): 3408, 2988, 2936, 2100, 1733, 1440, 1373, 1238, 1213, 1164, 1063, 863.
1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 9.79 (d, 1H, J1,2 1.2 Hz, H-1); 4.41 (dd, 1H, J2,3 6.4, J1,2 1.2 Hz, H-2); 4.04 (dd, 1H, J2,3 6.4, J3,4 6.1 Hz, H-3); 3.90 (ddd, 1H, J4,5b 6.4, J3,4 6.1, J4,5a 3.4 Hz, H-4); 3.51 (dd, 1H, J5a,5b 12.8, J4,5a 3.4 Hz, H-5a); 3.43 (dd, 1H, J5a,5b 12.8, J4,5b 6.4 Hz, H-5b); 1.47 (s, 3H, CH3-C); 1.37 (s, 3H, CH3-C).
HRMS (ESI+): [2M+Na]+ (C16H26N6NaO8
+) 計算値 m/z: 453.1704, 実測値: 453.1726.
【0155】
5-アジド-5-デオキシ-D-アラビノフラノース(化合物VII、Ara-N3)
5-アジド-5-デオキシ-2:3-イソプロピリデン-D-アラビノース(VI)(100mg)のCH2Cl2/H2O混合溶液(20:1、21mL)に、トリフルオロ酢酸(1mL)を加え、この混合物を、室温で1時間撹拌した。次いで、溶媒を蒸発させ、粗製残渣を、水に再懸濁し、凍結乾燥した。シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール 92:8)の後、化合物5-アジド-5-デオキシ-D-アラビノフラノース又はAra-N3(VII)(50mg、化合物(V)からの2工程を通して58%)が、/βアノマーとの混合物(NMR比、55:45)として、無色油状物として得られた。NMRによる純度は95%超であった。
【0156】
Rf(ジクロロメタン/メタノール 92:8):0.28。
IR(cm-1):3367、2106、1281 1040。
HRMS(ESI+):[M+H-N2]+ (C5H10NO4
+) 計算値 m/z:148.0604、実測値:148.0610。
【0157】
アノマーアルファ(VIIα):
1H-NMR (500 MHz, D2O) δ: 5.24 (d, 1H, J1,2 2.9 Hz, H-1); 4.17 (ddd, 1H, J3,4 6.4, J4,5b 5.8, J4,5a 3.5 Hz, H-4); 4.01 (dd, 1H, J2,3 4.6, J1,2 2.9 Hz, H-2); 3.97 (dd, 1H, J3,4 6.4, J3,2 4.6 Hz, H-3); 3.64 (dd, 1H, J5a,5b 13.6, J4,5a 3.5 Hz, H-5a); 3.44 (dd, 1H, J5a,5b 13.6, J4,5b 5.8 Hz, H-5b).
13C-NMR (125 MHz, D2O) δ: 101.0 (C-1); 81.3 (C-4); 81.2 (C-2); 76.3 (C- 3); 51.5 (C-5).
【0158】
アノマーベータ(VIIβ):
1H-NMR (500 MHz, D2O) δ: 5.28 (br d, 1H, J1,2 3.1 Hz, H-1); 4.10-4.05 (m, 2H, H-2, H-3); 3.89 (ddd, 1H, J3,4 7.1, J4,5b 6.5, J4,5a 3.5 Hz, H-4); 3.59 (dd, 1H, J5a,5b 13.3, J4,5a 3.5 Hz, H-5a); 3.42 (dd, 1H, J5a,5b 13.3, J4,5b 6.5 Hz, H- 5b).
13C-NMR (125 MHz, D2O) δ: 95.2 (C-1); 79.6 (C-4); 75.8 (C-2); 74.7 (C-3); 52.6 (C-5).
【0159】
(実施例2)
膀胱非腫瘍及び腫瘍真核細胞の標識
材料及び方法:
細胞培養:
ヒト尿路上皮細胞(SV-HUC-1)及びヒト膀胱癌(T24)は、ATCC(Manassas、Van、米国)から購入した。これらの細胞株を、10%ウシ胎仔血清(FBS)(VWR international S.A.S社)で補足したグルタミン1培地を含むRPMI 1640(Lonza Biowhttaker社)中で増殖させた。培養培地は、2日ごとに交換した。細胞の継代は、Tryp-LE express 1×(Gibco社)を使用して実施した。細胞生存率は、トリパンブルー排除試験を使用して評価した。
【0160】
Ara-N3プローブへの細胞曝露:
SV-HUC-1及びT24細胞を、24ウェルプレートに5*104細胞/ウェルの密度で播種した。次いで、細胞を、37℃、5%CO2で、24時間インキュベートした。その後、各ウェルの培養培地を廃棄し、接着した細胞を、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)(Lonza Biowhittaker社)で2回洗浄した後、Ara-N3プローブ(10mM)に曝露させた。プローブを、様々なFBS濃度(3%及び10%)を含む培養培地に加えた。次いで、細胞を、37℃、5%CO2で24時間、再度インキュベートした。対照細胞は、Ara-N3を加えず、5%又は10%FBS補足培養培地を使用して培養した。
【0161】
抗ビオチン抗体による標識:
Ara-N3プローブの蛍光取り込みは、スルホ-DBCO-ビオチン(1mM)を使用する銅フリークリックケミストリーを行い、次いで、マウス抗ビオチンAlexa Fluor 488抗体コンジュゲート(0.62mg/ml原液、Jackson ImmunoResearch社、1/10希釈)で標識することによって可視化した。クリック反応は、次の通り実施した:インキュベーション24時間時点で、培養培地を除去し、接着した細胞をPBSで2回洗浄した。細胞をTryp-LEを用いて剥離し、PBSで2回洗浄し、13000gで2分間遠心分離した。細胞ペレットを、10μLのスルホ-DBCO-ビオチンで再懸濁し、37℃の暗所で、30分インキュベートした。次いで、細胞をPBSで2回洗浄し、遠心分離し、細胞ペレットを10μLのマウス抗ビオチン抗体溶液で再懸濁した後、室温の暗所でインキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、細胞懸濁液の少量のスポット(5μL)をpolysine(登録商標)接着スライド(VWR international S.A.S社)に載せ、乾燥するまで(20分)暗室に置いた。室温の暗所で、20分間、スポットを4%パラホルムアルデヒドで固定した。次いで、スライドを、PBSで2回洗浄した後、グリセロール封入剤(Dako社)を使用して四角のカバーガラス(VWR international S.A.S社)でカバーし、暗室にて4℃で保存した。
【0162】
蛍光顕微鏡法:
蛍光取得は、60X/1.3デジタル開口部/1.4SRI(silicone refractive index、シリコーン屈折率)対物レンズ及び画素サイズをキャリブレーションした109nm/画素のHamamatsu Orcaフラッシュ4 LTカメラを備えた、OlympusマイクロスコピーIX83(Olympus Life Science社)を使用して記録した。励起光は、AT180/30X励起フィルターを使用するX-CITE 120LEDによって発し、シグナルは、AT535/40m吸収フィルターを使用してモニターした。緑色光露光時間は600ミリ秒であり、白色光露光時間は、DIC法によって340ミリ秒に決定した。cellSens Dimension V1.16ソフトウエアによって解析された取得領域の大きさは、スポット中に含まれる細胞数に応じて異なった。
【0163】
画像処理及び蛍光定量化:
cellSens Dimension V1.16ソフトウエアの計数及び測定ユニットを使用して、画像を処理した。バックグラウンドノイズは次のように削除した:はじめにROIを画像のバックグラウンド上で画定し、平均画素強度を算出した。このように得られた値を、画像の全画素から引いた。各細胞の蛍光強度は、3030の値に設定した閾値から決定した。3030未満の強度を有する画素はすべて、計数しなかった。
【0164】
結果:
【0165】
【0166】
【0167】
table 1(表1)及びtable 2(表2)の結果は、24時間後、T24細胞では、標識細胞の割合(%)はSV-HUC1細胞と比べて高いことを示しており、これによって、腫瘍性膀胱細胞では、Ara-N3プローブがより多く取り込まれることが実証される。より具体的には、500,000より高い強度/μm2は、FBS濃度3%の場合、SV-HUC1では21.76%であり、T24では66.81%であり、FBS濃度10%の場合、SV-HUC1では14.62%であり、T24では79.42%であり、これに対して、低強度で得られた標識細胞の割合(%)は逆である。全体的な強度の分布は、正常細胞とがん細胞とでは異なる。
【0168】
(実施例3)
非がん及びがん真核細胞の標識
材料及び方法:
その他のがん細胞及び対応する非がん細胞を用いて、実施例2の実験と同じ実験を実施した。培養培地は、被験細胞に対して適合させ、10%ウシ胎仔血清(FBS)で補足した。Ara-N3プローブ(10mM)は、FBS濃度(10%)の培養培地に加えた。インキュベーション時間は、被験細胞の1倍加時間又は2倍加時間に一致させた(下記の表を参照されたい)。
【0169】
蛍光シグナルのがん/非がん比は、がん細胞及び対応する非がん細胞上で試験したAra-N3で得られた蛍光強度に基づき算出した。
【0170】
結果:
結果は下記(Table 3(表3))に示し、被験がん細胞株における蛍光強度が、対応する非がん細胞株と比較して高いことを示している(1より高い比率)。
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
その他のヒトがん細胞、より具体的には、以下のヒトがん細胞(Table 4(表4))等を用いて、対応した非がん細胞と比較して、同様の実験を実施した。
【0175】
【0176】
Table 3(表3)の結果と同様の結果、すなわち、被験がん細胞株では、対応する非がん細胞株と比べて高い蛍光強度(具体的には1より高い比率)が得られることが予想される。
【0177】
(実施例4)
Ara-N3とKDO-N3の標識の比較
KDO-N3(8-アジド-3,8-ジデオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸)は、特許出願WO2013/107759の中で、細菌を標識するための有用な手段として記載されている。
【0178】
Ara-N3及びKDO-N3は、実施例2における条件と同じ条件下で、その他のヒト細胞株:HeLa、Raw、及びマクロファージでアッセイした。
【0179】
前記細胞株はKDO-N3では標識されなかった(蛍光強度は観察されていない)のに対し、前記細胞株はAra-N3では標識された。
【0180】
(実施例5)
細胞に対するAra-N3プローブの非毒性(インビトロ/インビボ)
A- インビトロ実験
材料及び方法
Ara-N3プローブは、上記に詳述した通りに調製した。
【0181】
細胞株(下記表で詳述)は、Inserm/Aquidermトランスファーセルによって用意された。細胞株の細胞培養及び細胞傷害性試験は、INSERM U1035の研究室において、やはりAquidermトランスファーセルによって行われた。
【0182】
末梢血単核球(単球/リンパ球)の単離
ヒト単核細胞は、Etablissement FranCais du Sang d'Aquitaineと定めた協定によって、2人の異なる健常ドナーからの末梢血から単離した。使用した技法は、フィコール密度勾配単離法である。簡潔に述べると、様々な血液要素を分離するために、リン酸緩衝食塩水溶液(PBS)で希釈した血液をショ糖溶液(フィコール、Eurobio社)上に載せ、遠心分離した。フィコールと血漿との間に、単球及びリンパ球から構成される細胞の輪が定着した。マラッセ細胞上で計数するために、これを回収し、PBS中で洗浄した。
【0183】
ヒトCD14+単球を、抗CD14抗体に結合させた磁気ビーズ(Miltenyi Biotech社)によって、リンパ球から単離した。この単核球を、細胞数に応じて決定した濃度のビーズの存在下で、PBS緩衝液中で15分間インキュベートした。次いで、細胞をPBSで洗浄し、次いで、強力な磁石の上に備えたカラムに載せた。CD14+細胞は、抗CD14磁気ボールに結合しており、カラムに結合して残っている可能性がある。これを洗浄した後、磁気支持体からカラムを取り外し、カラムをPBS緩衝液中で洗浄することによって、細胞を外した。
【0184】
単球数は、マラッセ細胞上で計数することによって決定した。
【0185】
細胞培養
細胞は、次の異なる培養培地のどちらかで、37℃、5%CO2、及び95%湿度のオーブン内で培養した。
- 10%の補体除去FCS(ウシ胎仔血清)及び抗生物質ペニシリン(100IU/ml)、並びに単球/THP1と対になるストレプトアビジン(100μg/ml)で補足されたRPMI 1640培地。
- 10%の補体除去FCS(ウシ胎仔血清)及び抗生物質ペニシリン(100IU/ml)、並びにHacat/A431と結合するストレプトアビジン(100μg/ml)で補足されたDMEM培地。
【0186】
培養培地は、研究を通して2日ごとに交換した。
【0187】
培養物が70~80%コンフルエントに達した時点で、10%トリプシン-EDTAを用いて接着細胞を剥離した。細胞生存率は、リパンブルー排除試験によって算定した。
【0188】
Ara-N3プローブとの接触
すべての細胞を、MTS増殖試験用には1*104細胞/ウェルの密度で96ウェル、アネキシンV試験/IP試験用には5*104細胞/ウェルの密度で24ウェルの、いずれかの培養プレートに播種した。次いで、細胞を、37℃、5%CO2で、24時間インキュベートした。24時間後、すべてのウェルの培養培地を交換しウェルの底に接着した細胞をPBS(Eurobio社)で2回リンスするか、又は遠心分離し懸濁液中の細胞をPBSで2回洗浄した後、1、10、50、及び100mMの様々な濃度Ara-N3プローブに曝露させた。この細胞を、37℃、5%CO2で、48時間インキュベートした。
【0189】
対照細胞は、Ara-N3プローブを加えていない捕捉培養培地を用いて培養した。
【0190】
アネキシンV/IP細胞傷害性試験
この試験では、アポトーシス/壊死を検出するために、アネキシンV-APCキット(Biolegend社)の使用が必要である。この試験では、膜ホスファチジルセリン(PS)に結合するアネキシンVの能力、及びDNAにインターカレートするヨウ化プロピジウム(PI)の性質を利用する。
【0191】
実際に、生細胞は、PSをその膜二重層の内層に発現している。従って、PSはアネキシンV-APCに接近しにくい。同様に、細胞は、核から離れてそのDNAの完全性を保っており、これによってDNAもまたIPに接近しにくくなっている。細胞がアポトーシス(プログラム細胞死)に入ると、一連の事象が生じる。それらの事象の中には、細胞質膜の層の逆転がある。内膜上に露出していたPSは、脂質二重層の分解によって形成された小胞の外膜上に見出される。従って、PSは、アネキシンV-APC分子を固定でき、フローサイトメトリーによって検出可能となる660nmでの蛍光を発することができる。
【0192】
アポトーシスの過程の間に、細胞は、次いで壊死へと進むことになる。核膜の分解及び培養培地中へのDNAの放出が起こる。PIは、DNAの塩基間に挿入され得、やはりフローサイトメトリーによって検出可能な370~550nmで第2の蛍光を発することができる。
【0193】
簡潔に述べると、細胞を様々な濃度のAra-N3プローブと共に、様々な時間(24時間及び48時間)でインキュベートした後、細胞を回収し、トリプシン処理し(接着細胞について)、PBSで洗浄した。この細胞を、マラッセ細胞の上でトリパンブルー中で数えた後、アネキシンV-APC(5μL)及びIP(10μL)の存在下の標識緩衝液(100μL)中で、室温の暗所にて、15分間インキュベートした。100μLの標識緩衝液を加えた後、次いで、サイトメトリーによって細胞を直接に解析した。
【0194】
被験細胞に対するAra-N3の非毒性濃度を、以下の(Table 5(表5)にまとめる。
【0195】
B- インビボ実験
材料及び方法
Ara-N3プローブは、上記で詳述した通りに調製した。
【0196】
10匹の雌のNMRIヌードマウス(6週齢、Janvier、Le Genest-Saint Isle、フランス)を、本アッセイに組み入れた。3匹に、200mg累積投与量として、50mg/マウス/注入のAra-NThreeを、1日おきに8日間(4回注入)、静脈内に注入し、別の3匹のマウスに、400mg累積投与量として、50mgのAra-Nthreeを、8日間、1日当たり摂取量8mlの水に加えて処置した。対照群として、4匹の腫瘍を有するマウスを非処置とした。
【0197】
処置終了時、マウスを安楽死させ、解剖した。分析のために、心臓、肺、脳、子宮、卵巣、腎臓、骨格筋、脾臓、膵臓、腹部脂肪、肝臓、皮膚、胃、結腸、盲腸、小腸、腸間膜リンパ節、腋窩リンパ節、上腕リンパ節、及び全血を採取し、凍結した。
【0198】
結果
飲料水中へのAra-N3の添加(6,25mg/mLまで)によって、マウスの水摂取に変化はなかった。
【0199】
飲料水中又は静脈内注入いずれのAra-N3処置によっても、体重低下は全く誘発されなかった。
【0200】
【0201】
(実施例6)
腫瘍細胞株に対するAra-N3プローブの特異的標識(インビボ)
材料及び方法
すべての動物実験は、実験用動物の使用に関するEuropean Economic Communityの施設内ガイドライン(EU Directive 2010/63/EU)に従って実施され、French Ministry of Higher Education and Researchによって、参照番号APAFIS#8854-2017031314338357のもと認可された。
【0202】
皮下への腫瘍異種移植
雌のNMRIヌードマウス(6週齢、Janvier、Le Genest-Saint Isle、フランス)の側腹部の皮下に、1×PBS中8×106個のPanc-1細胞を注入した。
【0203】
静脈内注入によるAra-N3処置:20mgのAra-N3累積投与量を評価した。
【0204】
腫瘍細胞を皮下注入して10日後、Panc-1腫瘍を有するマウスに、それぞれ20mg累積投与量として、1.8mg/マウス/注入のAra-N3を、1日おきに21日間(11回注入)処置した(投与当たりn=3匹のマウス)。
【0205】
非処置:対照群として、細胞株につき3匹の腫瘍を有するマウスを非処置とした(Ctr)。
【0206】
造影剤投与
DBCO-IRDye800CW
静脈内注入によって処置されたマウス
- 最後の処置注入から24時間後、処置条件ごとに2匹のPanc-1腫瘍を有するマウスに、100μgのDBCO-IRDye800CWを静脈内注入した(Ara-N3+Fluo)。
【0207】
対照マウス
- 非処置のPanc-1腫瘍を有するマウス1匹に、100μgのDBCO-IRDye800CWを静脈内注入した(Ctr+Fluo)。
【0208】
蛍光イメージングデータ解析(エクスビボ)
マウスは、DBCO-IRDye800CWを注入して48時間後に、安楽死させ、解剖した。
【0209】
エクスビボでの蛍光イメージングを、骨格筋及び腫瘍上で実施した。
【0210】
半定量的データは、定量化すべき腫瘍領域上で調整された対象領域(ROI)を手動で画定することによって蛍光画像から得た。ROIにおいて測定された全蛍光シグナルを、ROI中の画素数で割る。よって、データは、骨格筋及び腫瘍上の画素当たりの相対蛍光単位(RLU)として表す。次いで、腫瘍と骨格筋との蛍光シグナル比を算出する(腫瘍/筋肉比)。
【0211】