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特許7653418噴霧熱分解によるナノ構造混合リチウムジルコニウム酸化物の製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】噴霧熱分解によるナノ構造混合リチウムジルコニウム酸化物の製造
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/00 20060101AFI20250321BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250321BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250321BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250321BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20250321BHJP
【FI】
C01G25/00
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022516039
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020075275
(87)【国際公開番号】W WO2021048249
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】19197268.6
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100210099
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 太介
(72)【発明者】
【氏名】ドゥルドゥ シェーファー
(72)【発明者】
【氏名】アーミン ヴィーガント
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト アルフ
(72)【発明者】
【氏名】高田 令
(72)【発明者】
【氏名】フランツ シュミット
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-514223(JP,A)
【文献】特開2007-091573(JP,A)
【文献】特開2016-143490(JP,A)
【文献】特表2020-500411(JP,A)
【文献】Eongyu YI et al.,“Flame made nanoparticles permit processing of dense, flexible, Li+ conducting ceramic electrolyte thin films of cubic-Li7La3Zr2O12 (c-LLZO)”,Journal of Materials Chemistry A,2016年,Vol. 4, No. 33,p.12947-12954,DOI: 10.1039/c6ta04492a
【文献】Eongyu YI et al.,“Key parameters governing the densification of cubic-Li7La3Zr2O12 Li+ conductors”,Journal of Power Sources,2017年06月,Vol. 352,p.156-164,DOI: 10.1016/j.jpowsour.2017.03.126
【文献】Ruzica DJENADIC et al.,“Nebulized spray pyrolysis of Al-doped Li7La3Zr2O12 solid electrolyte for battery applications”,Solid State Ionics,2014年10月,Vol. 263,p.49-56,DOI: 10.1016/j.ssi.2014.05.007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/05 - 10/0587
H01M 10/36 - 10/39
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む混合酸化物を火炎噴霧熱分解によって製造する方法において、
- リチウムカルボキシレートおよび/またはジルコニウムカルボキシレートであって、これらのカルボン酸金属塩のそれぞれが5~20個の炭素原子を有する、リチウムカルボキシレートおよび/またはジルコニウムカルボキシレートと、
- 10重量%未満の水を含有し、アルコールとカルボン酸とのモル比が1:20~20:1である、アルコールと5~20個の炭素原子を有するカルボン酸とを含む溶媒混合物と
を含む金属前駆体の少なくとも1つの溶液を前記方法で使用することを特徴とする、方法。
【請求項2】
噴霧火炎熱分解が、
a)金属前駆体の少なくとも1つの溶液をアトマイザーガスによって霧化して、エアロゾルを得る工程と、
b)反応器の反応空間において、前記エアロゾルを、燃料ガスと酸素含有ガスとの混合物の着火によって得られる火炎と反応させて、反応流を得る工程と、
c)前記反応流を冷却する工程と、
d)固体金属酸化物を続いて前記反応流から取り出す工程と
を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記混合酸化物が、一般式LiZr0.5a+2b+d(I)の化合物であり、ここで、
1.5≦a≦15、
0.5≦b≦3.0、
0≦c≦5、
M=Na、Kの場合はd=0.5c、
M=Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Mnの場合はd=c、
M=B、Al、Ga、In、Fe、Sc、Y、Laの場合はd=1.5c、
M=Ti、Zr、Hf、Ce、Si、Ge、Sn、Pbの場合はd=2c、
M=V、Nb、Taの場合はd=2.5c、
M=Mo、Wの場合はd=3cであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記混合酸化物が0.1~100m/gのBET表面積を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記リチウムおよびジルコニウムカルボキシレートが互いに独立して、リチウムおよび/またはジルコニウムの、直鎖、分岐または環状の、ペンタノエート(C5)、ヘキサノエート(C6)、ヘプタノエート(C7)、オクタノエート(C8)、ノナノエート(C9)、デカノエート(C10)、ウンデカノエート(C11)、ドデカノエート(C12)、トリデカノエート(C13)、テトラデカノエート(C14)、ペンタデカノエート(C15)、ヘキサデカノエート(C16)、ヘプタデカノエート(C17)、オクタデカノエート(C18)、ノナデカノエート(C19)、イコサノエート(C20)、およびそれらの混合物からなる群から選択されるカルボキシレートであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記アルコールがメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、n-デカノール、ネオデカノールおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記金属前駆体の溶液が、ジアミンおよび1,3-ジカルボニル化合物からなる群から選択されるキレート剤を含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記混合酸化物が、静的光散乱(SLS)によって決定されるd50=0.05~2μmの数平均粒径を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記混合酸化物が20~1000g/Lのタップ密度を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
火炎噴霧熱分解によって製造したリチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む前記混合酸化物の熱処理をさらに含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理を600℃~1300℃の温度で行うことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
火炎噴霧熱分解によって製造したリチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む前記混合酸化物のミル粉砕をさらに含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記ミル粉砕がボールミル粉砕である、請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムおよびジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む混合酸化物を火炎噴霧熱分解によって製造する方法、この方法によって得ることができる混合酸化物、ならびにリチウムイオン電池における正極活物質としてのそれらの使用に関する。
【0002】
従来技術
二次リチウムイオン電池は、現在使用されている最も重要な電池の種類の1つである。二次リチウムイオン電池は通常、炭素材料またはリチウム金属合金からなるアノード、リチウム金属酸化物からなるカソード、リチウム塩を有機溶媒に溶解した電解質、ならびに充電および放電プロセス中に正極と負極との間でリチウムイオンを通過させるセパレータから構成される。
【0003】
近年、固有安全性およびエネルギー密度が改善された二次電池を開発する試みで、液体の電解質の代わりに固体の電解質を使用することが大幅に進められている。かかるシステムの中でも、リチウム金属またはリチウム金属合金からなる電極を有する二次リチウム電池が、高いエネルギー密度をもたらし、特に好適であると考えられている。かかる全固体二次リチウムイオン電池は、所要の負荷特性を有するために、電極活物質と電解質との間の界面で良好なイオン伝導性を有する必要がある。この高いイオン伝導性は、特許第4982866号公報に記載されているように、LiTi(PO等の幾つかのリチウムを含む化合物で電極活物質の表面をコーティングすることによって達成することができる。
【0004】
リチウムを含む混合酸化物は、固体および液体の両方のリチウムイオン電池において様々な用途がある。
【0005】
このため、Agnew. Chem. Int., Ed. 2007, 46, pp 1 - 5では、組成LiLaZr12(LLZ)およびガーネット型構造を有する混合酸化物が、優れたリチウム抵抗を有し、全固体リチウム二次電池に固体電解質として使用され得ることが報告されている。
【0006】
欧州特許出願公開第2159867号明細書には、固体電解質に使用される、アルミニウムをドープした改良型のLLZ材料の製造が記載されている。このため、炭酸リチウム、水酸化ランタンおよび酸化ジルコニウムを混合し、900~1125℃で焼成する。次いで、Alを焼成LLZ材料に添加し、続いて1180℃で2回目の焼成を行い、密度が約4g/cmのAlドープLLZ酸化物を得る。
【0007】
同様の混合酸化物が二次リチウム電池の電極のコーティング材料として使用されることも報告されている。
【0008】
リチウム電池のカソード材料に関連する一般的な問題の1つは、サイクル中のそれらの急速な老朽化、ひいては性能の損失である。幾つかの金属酸化物での混合リチウム遷移金属酸化物粒子のコーティングまたはドーピングが、電解質と電極材料との望ましくない反応を阻害することで、リチウムイオン電池の長寿命安定性を改善し得ることが知られている。
【0009】
数ある金属酸化物の中でも、ジルコニウムを含む混合酸化物がこの目的で報告されている。
【0010】
米国特許出願公開第2017179544号明細書は、ジルコニウムベースの混合金属酸化物をドープしたリチウム正極材料の製造を開示している。このため、実施例1では、金属塩を混合し、混合物を1200℃で10時間焼結し、続いて混合リチウム遷移金属酸化物Li(Li10/75Ni18/75Co9/75Mn38/75)Oと乾式混合し、その後、900℃で20時間加熱してリチウム正極材料を形成することによって、LiLaZrAl0.0712.0105が製造された。この製造手順から、LiLaZrAl0.0712.0105の大型の焼結粒子のみがこの実施例に使用され得ることが明らかである。
【0011】
ジルコニウムを含有する、このように比較的大きな金属酸化物粒子の使用は多くの場合、コアカソード材料の表面上に不均一な分布および大きな集塊金属酸化物粒子をもたらし、結果として、ドープしていないまたはコーティングしていないカソード材料と比較してサイクル性能の改善は殆どまたは全く観察されない。
【0012】
噴霧熱分解は、比較的小さな金属酸化物粒子を製造する既知の方法である。
【0013】
噴霧熱分解および火炎噴霧熱分解は、単純な金属酸化物だけでなく、複雑な混合金属酸化物を製造する確立された方法である。噴霧熱分解では、微細液滴の形態の金属化合物を高温域に導入し、そこで酸化および/または加水分解して金属酸化物を得る。この方法の特殊な形態が火炎噴霧熱分解であり、燃料ガスおよび酸素含有ガスの着火によって形成される火炎に液滴を供給する。
【0014】
国際公開第2015173114号には、リチウム、ランタン、ジルコニウムの前駆体化合物、および任意に他の金属化合物MXを含む対応する溶液を出発物質として用いて、リチウム、ランタン、ジルコニウム、および任意に他の金属を含む混合酸化物粉末を製造する火炎噴霧熱分解法が記載されている。金属前駆体化合物として、ナイトレート、塩化物、臭化物等の無機化合物、またはアルコキシドもしくはカルボキシレート等の有機化合物を使用することが提案される。この特許出願の好ましい実施形態としては、リチウム、ランタン、ジルコニウムおよび他の金属のナイトレートが挙げられる。金属前駆体の溶媒として、水、C~C20アルカン、C~C15アルカンカルボン酸および/またはC~C15アルカノールを使用することが提案され、水および水を含有する溶媒混合物が好ましい。全ての実施例において、水が金属ナイトレート前駆体の唯一の溶媒として使用されている。得られる混合酸化物のBET表面積は、0.19~5.1m/gの範囲で変動し、平均粒度(d50)は約2~3μmである。
【0015】
J. Mater. Chem. A, 2016, vol. 4, pp. 12947-12954には、リチウムプロピオネート(C3-カルボキシレート)、アルマトラン[Al(OCHCHN]、ランタンイソブチレート(C4-カルボキシレート)およびジルコニウムイソブチレート(C4-カルボキシレート)のエタノール溶液から出発した火炎噴霧熱分解による16m/gのBET表面積、90nmの一次粒度および約5μmの集塊体粒度を有する組成Li6.25Al0.25LaZr12の粉末の製造が開示されている。
【0016】
課題および解決策
従来技術の引用文献では、噴霧熱分解による混合リチウムジルコニウム金属酸化物の製造が教示されている。しかしながら、得られる生成物は、比較的大きな粒度、低いBET表面積を有することが報告され、通常は比較的高い密度を有する。
【0017】
本発明が取り組む課題は、二次リチウムイオン電池に、例えば固体電解質の成分または電極材料の構成要素として、使用可能な混合リチウムジルコニウム金属酸化物の製造のための改善された方法を提供することである。
【0018】
具体的には、この方法により、比較的小さな粒度、高いBET表面積および低いタップ密度を有する金属酸化物粒子提供することが望ましい
【0019】
徹底的な実験の過程で、驚くべきことに、金属前駆体および溶媒の特別な組合せを使用した場合に、所望の粒子特性を有するリチウムジルコニウム混合酸化物が火炎噴霧熱分解法によって製造され得ることが見出された。
【0020】
混合酸化物を製造する方法
本発明は、リチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む混合酸化物を火炎噴霧熱分解および任意の更なる熱処理によって製造する方法において、
- リチウムカルボキシレートおよび/またはジルコニウムカルボキシレートであって、これらのカルボン酸金属塩のそれぞれが5~20個の炭素原子を有する、リチウムカルボキシレートおよび/またはジルコニウムカルボキシレートと、
- 10重量%未満の水を含有し、アルコールとカルボン酸とのモル比が1:20~20:1である、アルコールと5~20個の炭素原子を有するカルボン酸とを含む溶媒混合物と
を含む金属前駆体の少なくとも1つの溶液を該方法で使用することを特徴とする、方法を提供する。
【0021】
火炎噴霧熱分解プロセスにおいては、微細液滴の形態の金属化合物(金属前駆体)の溶液を、燃料ガスおよび酸素含有ガスの着火によって形成される火炎中に導入し、そこで使用される金属前駆体が酸化および/または加水分解されて、対応する金属酸化物が得られる。
【0022】
この反応により、高度に分散したほぼ球状の一次金属酸化物粒子が初めに形成され、これが反応の更なる過程で合体して凝集体を形成する。次いで、凝集体が集塊体へと蓄積することがある。原則としてエネルギーの導入によって比較的容易に凝集体にまで分離することができる集塊体とは対照的に、凝集体は、仮にあったとしても、エネルギーの集中的な導入によってのみさらに分解される。
【0023】
製造した金属酸化物は、「ヒュームド」または「熱分解により製造した(pyrogenically produced)」金属酸化物と称される。
【0024】
火炎噴霧熱分解プロセスは概して、国際公開第2015173114号等に記載されている。
【0025】
火炎噴霧熱分解は、好ましくは、
a)金属前駆体の少なくとも1つの溶液をアトマイザーガスによって霧化して、エアロゾルを得る工程と、
b)反応器の反応空間において、エアロゾルを、燃料ガスと酸素含有ガスとの混合物の着火によって得られる火炎と反応させて、反応流を得る工程と、
c)反応流を冷却する工程と、
d)固体金属酸化物を続いて反応流から取り出す工程と
を含む。
【0026】
燃料ガスの例は、水素、メタン、エタン、天然ガスおよび/または一酸化炭素である。水素を用いることが特に好ましい。燃料ガスは特に、製造すべき金属酸化物の高い結晶化度が所望される実施形態に用いられる。
【0027】
酸素含有ガスは概して、空気または酸素富化空気である。酸素含有ガスは特に、例えば製造すべき金属酸化物の高いBET表面積が所望される実施形態に用いられる。酸素の総量は概して、少なくとも燃料ガスおよび金属前駆体の完全な変換に十分であるように選択される。
【0028】
エアロゾルを得るために、金属前駆体を含有する気化溶液を窒素、空気および/または他のガス等のアトマイザーガスと混合することができる。得られるエアロゾルの微細液滴は、好ましくは1~120μm、特に好ましくは30~100μmの平均液滴サイズを有する。液滴は通例、単材または多材ノズルを用いて生成する。金属前駆体の溶解性を高め、溶液の噴霧化に好適な粘度を達成するために、溶液を加熱してもよい。
【0029】
本発明の方法に用いられる金属前駆体は、それぞれが5~20個の炭素原子を有する少なくとも1つのリチウムカルボキシレートおよび少なくとも1つのジルコニウムカルボキシレートを含む。
【0030】
本発明による方法で使用されるリチウムおよびジルコニウムカルボキシレートは、互いに独立して、リチウムおよび/またはジルコニウムの、直鎖、分岐または環状の、ペンタノエート(C5)、ヘキサノエート(C6)、ヘプタノエート(C7)、オクタノエート(C8)、ノナノエート(C9)、デカノエート(C10)、ウンデカノエート(C11)、ドデカノエート(C12)、トリデカノエート(C13)、テトラデカノエート(C14)、ペンタデカノエート(C15)、ヘキサデカノエート(C16)、ヘプタデカノエート(C17)、オクタデカノエート(C18)、ノナデカノエート(C19)、イコサノエート(C20)、およびそれらの混合物であり得る。
【0031】
最も好ましくは、ジルコニウム2-エチルヘキサノエート(C8)およびリチウムネオデカノエート(C10)を使用する。
【0032】
使用される金属前駆体は、リチウムおよびジルコニウム以外の金属のカルボキシレートを含有していてもよい。
【0033】
リチウムおよびジルコニウムの金属前駆体以外の金属前駆体は、ナイトレート、塩化物、臭化物等の無機金属化合物、またはアルコキシド、例えばエトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、n-ブトキシドおよび/もしくはtert-ブトキシド等の他の有機金属化合物であってもよい。
【0034】
混合酸化物に任意に含まれるLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属は、好ましくはNa、K;Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Mn、B、Al、Ga、In、Fe、Sc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Ce、Si、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Mo、Wおよびそれらの組合せから選ぶことができる。本発明との関連では、シリカおよびホウ素は金属とみなされるものとし、それらの化合物を本発明の方法において金属前駆体として使用してもよい。好ましくは、本発明の混合酸化物は、ランタン(La)およびアルミニウム(Al)を含有する。
【0035】
金属前駆体を溶解するために本発明の方法に使用される溶媒混合物は、アルコールと5~20個の炭素原子を有するカルボン酸とを含む。
【0036】
アルコールは、好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、n-デカノール、ネオデカノール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0037】
カルボン酸は、好ましくは直鎖、分岐または環状の、ペンタン酸(C5)、ヘキサン酸(C6)、ヘプタン酸(C7)、オクタン酸(C8)、ノナン酸(C9)、デカン酸(C10)、ウンデカン酸(C11)、ドデカン酸(C12)、トリデカン酸(C13)、テトラデカン酸(C14)、ペンタデカン酸(C15)、ヘキサデカン酸(C16)、ヘプタデカン酸(C17)、オクタデカン酸(C18)、ノナデカン酸(C19)、イコサン酸(C20)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0038】
本発明に使用される溶媒混合物中のアルコールとカルボン酸とのモル比は、1:20~20:1、好ましくは1:15~15:1、より好ましくは1:10~10:1、最も好ましくは1:6~6:1である。
【0039】
本発明に使用される溶媒混合物は、10重量%未満の水、好ましくは5重量%未満の水、より好ましくは3重量%未満の水、さらに好ましくは2重量%未満の水、さらにより好ましくは1重量%未満の水を含有する。
【0040】
金属前駆体の溶液中の総金属含有量は、好ましくは1重量%~30重量%、より好ましくは2重量%~20重量%、さらに好ましくは3重量%~15重量%である。「総金属含有量」とは、使用される金属前駆体の溶液中の金属前駆体に含まれる全金属の総重量割合と理解される。
【0041】
本発明の方法で使用される溶媒混合物は、キレート剤、すなわち金属イオンと2つ以上の配位結合を形成することが可能な化合物を付加的に含んでいてもよい。かかるキレート剤の例は、例えばエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなジアミン、アセチルアセトンおよびアルキルアセチルアセテート等の1,3-ジカルボニル化合物である。最も好ましくは、アセチルアセトンをかかるキレート剤として使用する。
【0042】
かかるキレート剤の存在下で、幾つかの金属前駆体、例えばジルコニウム化合物がより良好な溶解性を示し、比較的長い貯蔵時間後に沈殿を示さないことが観察された。
【0043】
本発明による金属前駆体と溶媒混合物との特別な組合せの使用は、全ての金属前駆体の良好な溶解性を確保し、小さな粒度、高いBET表面積および低いタップ密度等の所望の金属酸化物の粒子特性を達成することを可能にする。
【0044】
本発明の方法は、火炎噴霧熱分解によって製造したリチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む混合酸化物の熱処理の工程をさらに含み得る。
【0045】
この更なる熱処理は、好ましくは600℃~1300℃、より好ましくは650℃~1250℃、さらに好ましくは700℃~1200℃、さらにより好ましくは750℃~1150℃の温度で行われる。
【0046】
本発明の方法による熱処理は、望ましい特性、特に所望の結晶構造を有する熱処理された金属酸化物を得ることを可能にする。このため、例えば約800℃~1200℃の温度でのLiLaZr12の熱処理により、特にリチウムイオン電池用の固体電解質への使用に適した、立方晶ガーネット結晶構造を有する混合金属酸化物の形成が可能となる。
【0047】
本発明の方法は、火炎噴霧熱分解によって製造したリチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む混合酸化物のミル粉砕、好ましくはボールミル粉砕の更なる工程を含み得る。
【0048】
ボールミル粉砕は、好ましくは、エタノールまたはイソプロパノール等の適切な溶媒中で、例えば直径が約0.5mmのZrOボールによって行われる。
【0049】
最も好ましくは、本発明の方法は、熱処理および熱処理された金属酸化物のボールミル粉砕の両方を含む。
【0050】
本発明の方法によるボールミル粉砕プロセスは、望ましい特性、特にリチウムイオン電池への使用に特に適した所望の結晶構造および粒度を有するボールミル粉砕された金属酸化物を得ることを可能にする。このため、立方晶ガーネット結晶構造および所望の粒度を有するボールミル粉砕および熱処理されたLiLaZr12は、リチウムイオン電池用の固体電解質への使用に特に適している。
【0051】
混合酸化物
本発明による方法によって製造された混合酸化物は、好ましくは0.1m/g~100m/gのBET表面積を有する。
【0052】
熱処理されていない混合酸化物、すなわち更なる熱処理が用いられていない本発明の方法の生成物は、好ましくは5m/g~100m/g、より好ましくは7m/g~70m/g、最も好ましくは15~50m/gのBET表面積を有する。
【0053】
熱処理された混合酸化物、すなわち更なる熱処理が用いられた本発明の方法の生成物は、好ましくは10m/g未満、より好ましくは0.1m/g~10m/g、より好ましくは0.2m/g~5m/g、最も好ましくは0.3~3m/gのBET表面積を有する。
【0054】
熱処理およびボールミル粉砕された混合酸化物、すなわち更なる熱処理およびボールミル粉砕プロセスが用いられた本発明の方法の生成物は、好ましくは3m/g~30m/g、より好ましくは4m/g~25m/g、最も好ましくは5m/g~20m/gのBET表面積を有する。
【0055】
BET表面積は、DIN 9277:2014に準拠し、ブルナウアー-エメット-テラー法による窒素吸着によって決定することができる。
【0056】
本発明による方法によって製造された混合酸化物は通常、遷移電子顕微鏡法(TEM)によって決定される一次粒子の数平均径が5~100nm、好ましくは7~70nm、より好ましくは10~50nmの凝集一次粒子の形態である。この数平均径は、TEMによって分析された少なくとも500個の粒子の平均サイズを算出することによって決定することができる。
【0057】
(凝集および集塊した)混合酸化物の数平均粒径d50は、通常は約0.05μm~3μm、より好ましくは0.1μm~2μm、さらに好ましくは0.15μm~1.0μmである。この数平均径は、好適な分散液、例えば水分散液中で、静的光散乱(SLS)法によって決定することができる。
【0058】
集塊体および一部の凝集体を、例えば粒子の粉砕または超音波処理によって破壊し、より小さな粒度およびより狭い粒径分布を有する粒子を得ることができる。
【0059】
好ましくは、粒子5重量%とピロリン酸ナトリウムの0.5g/L水溶液95重量%とからなる混合物の25℃で300秒の超音波処理後に静的光散乱(SLS)によって決定される混合酸化物の平均粒径d50は、10~150nm、より好ましくは20~130nm、さらに好ましくは30~120nmである。
【0060】
粒子5重量%とピロリン酸ナトリウムの0.5g/L水溶液95重量%とからなる混合物の25℃で300秒の超音波処理後に静的光散乱(SLS)によって決定される二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物の粒子のスパン(d90-d10)/d50は、好ましくは0.4~1.2、より好ましくは0.5~1.1、さらに好ましくは0.6~1.0である。
【0061】
このため、本発明の方法によって製造される混合酸化物は、好ましくは比較的小さな粒度および狭い粒径分布を特徴とする。これは、リチウムイオン電池用の電極活物質の高品質な金属酸化物ドーピングおよび/またはコーティングを達成するのに役立つ。
【0062】
d値d10、d50およびd90は、一般に所与のサンプルの累積粒径分布を特徴付けるために用いられる。例えば、d10径は、サンプルの体積の10%がd10よりも小さい粒子から構成される直径であり、d50は、サンプルの体積の50%がd50よりも小さい粒子から構成される直径である。d50は、サンプルを体積で等分することから「体積中位径」としても知られ、d90は、サンプルの体積の90%がd90よりも小さい粒子から構成される直径である。
【0063】
本発明による方法によって製造された混合酸化物は、好ましくは20g/L~1000g/Lのタップ密度を有する。
【0064】
本発明による方法によって製造された熱処理されていない混合酸化物は、好ましくは20g/L~200g/L、より好ましくは30g/L~150g/L、さらに好ましくは40g/L~130g/L、さらにより好ましくは50g/L~120g/Lのタップ密度を有する。
【0065】
本発明による方法によって製造された、熱処理された混合酸化物は、好ましくは400g/L~1000g/L、より好ましくは450g/L~800g/L、さらに好ましくは500g/L~700g/Lのタップ密度を有する。
【0066】
粉末または粗粒の粒状材料のタップ密度は、DIN ISO 787-11:1995「顔料および体質顔料の一般試験方法-第11部:タップ容積およびタップ後の見掛け密度の測定(General methods of test for pigments and extenders -- Part 11: Determination of tamped volume and apparent density after tamping)」に準拠して決定することができる。これは、撹拌およびタップ後のベッドの見掛け密度を測定することを含む。
【0067】
本発明の方法によって製造された混合酸化物は、好ましくは、火炎噴霧熱分解プロセスによるその合成後に親水性であり、シラン等の任意の疎水性試薬によってさらに処理されない。このようにして製造した粒子は通常、少なくとも96重量%、好ましくは少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99重量%の純度を有し、ここで、100%の純度は、混合酸化物が指定の金属および酸素のみを含有することを意味する。混合酸化物は、二酸化ハフニウムの形態でハフニウム化合物を含んでいてもよい。二酸化ハフニウムの割合は、ZrOをベースとして1~4重量%とすることができる。塩化物の含有量は、混合酸化物粉末の質量をベースとして好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満である。炭素の割合は、混合酸化物粉末の質量をベースとして好ましくは2.0重量%未満、より好ましくは0.005重量%~1.0重量%、さらに好ましくは0.01重量%~0.5重量%である。
【0068】
混合酸化物は、好ましくは一般式LiZr0.5a+2b+d(I)の化合物であり、ここで、
1.5≦a≦15、好ましくは1.8≦a≦12、
0.5≦b≦3.0、好ましくは0.8≦b≦3.0、
0≦c≦5、好ましくは1.5≦c≦4、
M=Na、Kの場合はd=0.5c、
M=Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Mnの場合はd=c、
M=B、Al、Ga、In、Fe、Sc、Y、Laの場合はd=1.5c、
M=Ti、Zr、Hf、Ce、Si、Ge、Sn、Pbの場合はd=2c、
M=V、Nb、Taの場合はd=2.5c、
M=Mo、Wの場合はd=3cである。
【0069】
一般式(I)において、MはNa、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Mn、B、Al、Ga、In、Fe、Sc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Ce、Si、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選択される1つまたは幾つかの元素であり得る。好ましくは、M=LaおよびAlである。
【0070】
本発明は、
- 凝集一次粒子の形態であり、
- 15~50m/gのBET表面積を有し、
- 静的光散乱(SLS)によって決定されるd50=0.1~2μmの数平均粒径を有し、
- 50~200g/Lのタップ密度を有する、リチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む混合酸化物をさらに提供する。
【0071】
かかる混合酸化物は、更なる熱処理を適用しない、本発明の方法によって製造することができる。
【0072】
本発明は、
- 凝集一次粒子の形態であり、
- 10m/g未満、好ましくは0.1~10m/gのBET表面積を有し、
- 静的光散乱(SLS)によって決定されるd50=1~50μmの数平均粒径を有し、
- 400~1000g/Lのタップ密度を有する、リチウム、ジルコニウム、ならびに任意にLiおよびZr以外の少なくとも1つの金属を含む混合酸化物をさらに提供する。
【0073】
かかる混合酸化物は、更なる熱処理および任意にボールミル粉砕プロセスを適用する本発明の方法によって製造することができる。
【0074】
本発明は、本発明による方法によって得ることができる混合酸化物をさらに提供する。
【0075】
リチウムイオン電池への混合酸化物の使用
本発明は、リチウムイオン電池における、特にリチウムイオン電池の固体電解質の成分、液体もしくはゲル電解質への添加剤、またはリチウムイオン電池の電極の構成要素としての本発明による混合酸化物または本発明の方法によって得ることができる混合酸化物の使用をさらに提供する。
【0076】
本発明は、本発明による混合酸化物または本発明の方法によって得ることができる混合酸化物を含むリチウムイオン電池をさらに提供する。
【0077】
本発明のリチウムイオン電池は、活性正極(カソード)とは別に、アノード、セパレータ、およびリチウムを含む化合物を含む電解質を含み得る。
【0078】
リチウムイオン電池の正極(カソード)は通常、集電体と集電体上に形成されたカソード活物質層とを含む。
【0079】
集電体は、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、導電性金属でコーティングされたポリマー基材、またはそれらの組合せであり得る。
【0080】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的にインターカレート/デインターカレートすることが可能な物質を含むことができ、当該技術分野で既知である。かかる正極活物質は、Ni、Co、Mn、Vまたは他の遷移金属、および任意にリチウムを含む混合酸化物等の遷移金属酸化物を含み得る。正極活物質として使用されるのが好ましい混合リチウム遷移金属酸化物は、リチウム-コバルト酸化物、リチウム-マンガン酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン酸化物、またはそれらの混合物からなる群から選択される。混合リチウム遷移金属酸化物は、好ましくは一般式LiMOを有し、ここで、Mはニッケル、コバルト、マンガンから選択される少なくとも1つの遷移金属であり、より好ましくはM=CoまたはNiMnCoであり、ここで、0.3≦x≦0.9、0≦y≦0.45、0≦z≦0.4である。
【0081】
リチウムイオン電池のアノードは、リチウムイオンを可逆的にインターカレート/デインターカレートすることが可能な、二次リチウムイオン電池に一般に使用される任意の好適な物質を含み得る。その典型例は、板状、フレーク、球状もしくは繊維状の黒鉛の形態の天然もしくは人造黒鉛等の結晶性炭素;軟質炭素、硬質炭素、中間相ピッチカーバイド、焼成コークス等のような非晶質炭素、またはそれらの混合物を含む炭素質物質である。加えて、リチウム金属または変換材料(例えば、SiまたはSn)をアノード活物質として使用することができる。
【0082】
リチウムイオン電池の電解質は、液体、ゲルまたは固体の形態であり得る。
【0083】
リチウムイオン電池の液体電解質は、無水エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γブチロラクトン、ジメトキシエタン、フルオロエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、またはそれらの混合物等のリチウムイオン電池に一般に使用される任意の好適な有機溶媒を含むことができる。
【0084】
ゲル電解質は、ゲル化ポリマーを含む。
【0085】
リチウムイオン電池の固体電解質は、酸化物、例えばリチウム金属酸化物、硫化物、リン酸塩、または固体ポリマーを含むことができる。
【0086】
リチウムイオン電池の液体またはポリマーゲル電解質は、通常はリチウム塩を含有する。かかるリチウム塩の例としては、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムビス2-(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムペルクロレート(LiClO)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF)、LiSiF、リチウムトリフレート、LiN(SOCFCF、リチウムナイトレート、リチウムビス(オキサレート)ボレート、リチウム-シクロ-ジフルオロメタン-1,1-ビス(スルホニル)イミド、リチウム-シクロ-ヘキサフルオロプロパン-1,1-ビス(スルホニル)イミドおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0087】
リチウムイオン電池、特に液体またはゲル電解質を含むリチウムイオン電池は、内部短絡につながる2つの電極間の直接接触を防ぐセパレータを備えていてもよい。
【0088】
セパレータの材料は、ポリオレフィン樹脂、フッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布またはそれらの混合物を含み得る。好ましくは、この材料は、ポリエチレンまたはポリプロピレン系ポリマー等のポリオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデンポリマーまたはポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化樹脂、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布またはそれらの混合物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1A】比較例1に記載のように製造したLi-La-Zr-Al混合酸化物粒子のTEM像である。
図1B】比較例1に記載のように製造したLi-La-Zr-Al混合酸化物粒子のTEM像である。
図2A】比較例2に記載のように製造したLi-La-Zr-Al混合酸化物(LLZO)粒子のTEM像である。
図2B】比較例2に記載のように製造したLi-La-Zr-Al混合酸化物(LLZO)粒子のTEM像である。
図3A】実施例1に記載のように製造した本発明のLi-La-Zr-Al混合酸化物(LLZO)粒子のTEM像である。
図3B】実施例1に記載のように製造した本発明のLi-La-Zr-Al混合酸化物(LLZO)粒子のTEM像である。
図4】実施例1~3に記載のように製造した本発明のLi-La-Zr-Al混合酸化物(LLZO)のXRDパターンを示す図である。
図5】実施例1に記載のように製造したLLZOを用いて製造したLLZOコーティングNMC上のLa(白色)のSEM-EDXマッピング像である。
図6】比較例1に記載のように製造したLLZOを用いて製造したLLZOコーティングNMC上のLa(白色)のSEM-EDXマッピング像である。
図7】比較例1および実施例1に記載のように製造したLLZOを用いて製造したLLZOコーティングNMCのSEM-EDXマッピング像におけるLaの面積分布の統計分析を示す図である。
図8】電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって測定された、実施例2および3に記載のように製造したLLZOを用いた、ならびにLLZOを用いない(PEO)、全固体Li金属電池の初期インピーダンス試験の結果を示す図である。
図9】実施例2および3に記載のように製造したLLZOを用いた、ならびにLLZOを用いない(PEO)、全固体Li金属電池の60℃および0.1Cでの3.0Vと4.3Vとの間の初期形成の結果を示す図である。
【0090】
実施例
BET表面積0.30~0.60m/g、中位粒径d50=10.6±2μm(静的レーザー散乱法によって決定される)の市販の混合リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物粉末NMC(7-1.5-1.5)(タイプPLB-H7)が、Linyi Gelon LIB Co.によって提供された。
【0091】
平均分子量4×10g/molの市販のポリエチレン酸化物(PEO、Sigma-Aldrich製)を電解質配合物に使用した。PEOは、そのまま(as received)使用した。キシダ化学株式会社製の純度>99%(電池グレード)のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をグローブボックス内でそのまま使用した。
【0092】
市販のリチウム蒸着Cu箔を本城金属株式会社から購入したが、銅層の厚さは10μmであり、リチウム層の厚さは20μmである。
【0093】
比較例1
(水性ナイトレート前駆体からのLi-La-Zr-Al混合酸化物)
1142gのLiNO、2839gのLa(NO・6HO、1670gのZr(NO(金属含有量:24wt%)および212gのAl(NO・9HOを含有する18.63kgの水溶液を、透明な溶液が得られるまで一定に撹拌しながら調製した。この溶液は、組成Li7.54LaZrAl0.2612.66に相当する。
【0094】
2.5kg/hのこの溶液および15Nm/hの空気から二成分ノズルを介してエアロゾルを形成し、燃焼火炎により管形反応器内に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、20Nm/hの水素および75Nm/hの空気からなり、噴霧ノズルの1メートル下の測定点での制御温度は900℃となる。さらに、25Nm/hの二次空気を使用した。反応器の後に反応ガスを冷却し、濾過した。
【0095】
粒子特性を表1に示し、粒子のTEM像を図1Aおよび図1Bに示す。
【0096】
比較例1のLi-La-Zr-Al混合酸化物でコーティングされたNMC粉末の製造:
高強度実験室用ミキサー(0.5L混合ユニットを備えるSomakonのMP-GLミキサー)において、NMC粉末(99g)を1.0g(1wt%)の比較例1のヒュームド粉末とまず500rpm(比電気出力:350W/kg NMC)で1分間混合し、2つの粉末を均一に混合した。その後、混合強度を2000rpm(比電気出力:800W/kg NMC、混合ユニット内の混合器具の先端速度:10m/s)まで増大させ、混合を5分間継続して、比較例1のヒュームド粉末によるNMC粒子のドライコーティングを達成した。
【0097】
比較例2
(エタノール性ナイトレート前駆体からのLi-La-Zr-Al混合酸化物)
779gのLiNO、1930gのLa(NO・6HO、1139gのZr(NO(金属含有量:24wt%)および146gのAl(NO・9HOを含有する18.3kgのエタノール溶液を、透明な溶液が得られるまで一定に撹拌しながら調製した。この溶液は、組成Li7.54LaZrAl0.2612.66に相当する。
【0098】
2.5kg/hのこの溶液および15Nm/hの空気から二成分ノズルを介してエアロゾルを形成し、燃焼火炎により管形反応器内に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、13.7Nm/hの水素および75Nm/hの空気からなり、噴霧ノズルの1メートル下の測定点での制御温度は900℃となる。さらに、25Nm/hの二次空気を使用した。反応器の後に反応ガスを冷却し、濾過した。
【0099】
粒子特性を表1に示し、粒子のTEM像を図2Aおよび図2Bに示す。
【0100】
実施例1
(Li-La-Zr-Al混合酸化物)
ジルコニウムエチルヘキサノエートの形態で12wt%Zrを含有する1320gの市販の溶液(Octa Solingen(登録商標) Zirconium 12)を173gのアセチルアセトンと混合した。この溶液を、リチウムネオデカノエートの形態で2wt%Liを含有する2273gの市販の溶液(Borchers(登録商標) Deca Lithium2)と、一定に撹拌しながら混合した。1125gのLa(NO・6HO、83.3gのAl(NO・9HO、2660gのエタノールおよび2660gのエチルヘキサン酸を含有する更なる溶液(エタノール:エチルヘキサン酸のモル比=3.1:1、溶媒混合物中の含水量:2.7wt%)を、透明な溶液が得られるまで絶えず撹拌しながら添加した。この溶液は、組成Li7.54LaZrAl0.2612.66に相当する。
【0101】
2.5kg/h流のこの溶液および15Nm/h流の空気から二成分ノズルを介してエアロゾルを形成し、燃焼火炎により管形反応器内に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、12.9Nm/hの水素および75Nm/hの空気からなり、噴霧ノズルの1メートル下の測定点での制御温度は900℃となる。さらに、25Nm/hの二次空気を使用した。反応器の後に反応ガスを冷却し、濾過した。
【0102】
粒子特性を表1に示し、粒子のTEM像を図3Aおよび図3Bに示す。
【0103】
実施例1のLi-La-Zr-Al混合酸化物でコーティングされたNMC粉末の製造:
高強度実験室用ミキサー(0.5L混合ユニットを備えるSomakonのMP-GLミキサー)において、NMC粉末(99g)を1.0g(1wt%)の実施例1のヒュームド粉末とまず500rpm(比電気出力:350W/kg NMC)で1分間混合し、2つの粉末を均一に混合した。その後、混合強度を2000rpm(比電気出力:800W/kg NMC、混合ユニット内の混合器具の先端速度:10m/s)まで増大させ、混合を5分間継続して、実施例1のヒュームド粉末によるNMC粒子のドライコーティングを達成した。
【0104】
実施例2
(焼成Li-La-Zr-Al混合酸化物)
実施例1で得られた混合酸化物を回転炉にて950℃で6時間焼成した。XRD分析(図4)から、生成物の主相が立方晶ガーネット構造であることが示された。
【0105】
実施例3
(焼成およびボールミル粉砕されたLi-La-Zr-Al混合酸化物)
実施例2で得られた混合酸化物を、エタノール中で直径が約0.5mmのZrOボールによってさらにボールミル粉砕した。XRD分析(図4)から、生成物の主相が依然として立方晶ガーネット構造であることが示された。
【0106】
【表1】
【0107】
SEM-EDXによるLLZOコーティング混合リチウム遷移金属酸化物の分析
図5に、ヒュームドナノLLZO(実施例1)を用いて製造したLLZOコーティングNMC上のLa(白色)のSEM-EDXマッピングを示し、図6に、ヒュームド粗LLZO(比較例1)でコーティングされたNMCの分析の結果を示す。図5および図6の軸は、以下を示す:x軸=粒子の直径;左y軸=体積の%、右y軸=累積体積の%。ヒュームドナノLLZO(実施例1)でドライコーティングされたNMC混合酸化物は、LLZOによる全てのNMC粒子の完全かつ均一な被覆を示す(図5)。より大きなLLZO集塊体は検出されず、ナノ構造ヒュームドナノLLZOの良好な分散性が示された。さらに、NMC粒子に隣接して付着していない遊離のLLZO粒子は見られず、コーティングと基材(NMC)との間の強い接着が示された。対照的に、図6では、ヒュームド粗LLZOの微細なLLZO粒子のみがNMC粒子の表面に付着していることが示される。より大きなLLZO粒子は分散しないため、付着せず、NMC粒子に隣接して位置する。結果として、NMC粒子は、酸化ジルコニウムで完全には覆われない。
【0108】
図7に実施例1および比較例1の統計分析を示す。SEM-EDXマッピングにおけるLa(白色)のμmの面積分布をボックス正規プロットによってさらに分析し、実施例1と比較例1との間でLa(白色)の分散性の明確な差異が示される。
【0109】
ハイブリッド固体電解質(HSE)膜の作製
LLZOセラミック粉末をポリエチレン酸化物(PEO)およびLiTFSIと混合して、無溶媒のホットプレス手順を行うことで、柔軟な自立膜を得た。実施例2および実施例3のLLZOを用いた2セットの複合膜を表2に従って作製した。秤量した(weighted)LLZOのHSE膜を粉砕し、PEOおよび秤量したLLZOとともにミル粉砕してペースト状の物質を得て、これを続いて100℃で一晩焼鈍し、テフロン基板間にて100℃で連続的にホットプレスし、約110μmの所望の厚さとした。
【0110】
【表2】
【0111】
全固体リチウム金属電池の組立ておよび特性評価
(a)LLZOフィラーを用いないPEO、(b)焼成LLZO(実施例2)フィラーを用いたPEO、さらには(c)ボールミル粉砕したLLZO(実施例3)フィラーを用いたPEOを用いて、3セットの全固体NMC_HSE_Li金属電池を組み立てた。電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって初期インピーダンスを分析し、結果を図8に示す。図9に、60℃および0.1Cでの3.0Vと4.3Vとの間のこれら3つのセルの初期形成を示す。実施例3のLLZOを用いたセルは、3つの実施例の中で、0.1Cの放電で140mAh/gの最も高い容量および最も低いインピーダンスを示した。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9