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7653508クランクシャフト用非調質鋼及び該非調質鋼を用いたクランクシャフト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】クランクシャフト用非調質鋼及び該非調質鋼を用いたクランクシャフト
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250321BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20250321BHJP
   C21D 9/30 20060101ALN20250321BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/46
C21D9/30 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023510758
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2022010061
(87)【国際公開番号】W WO2022209637
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021063442
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
(72)【発明者】
【氏名】浜田 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】増尾 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】ゴロボロドコ アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】大橋 亮介
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 翔平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 万規男
(72)【発明者】
【氏名】安田 慎志
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-155808(JP,A)
【文献】特開平11-077527(JP,A)
【文献】特開平10-310853(JP,A)
【文献】特開2003-055714(JP,A)
【文献】特開2007-030115(JP,A)
【文献】特開2007-204798(JP,A)
【文献】特開2019-026874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00- 38/60
C21D 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素(C)を0.39~0.42質量%、
ケイ素(Si)を0.15~0.35質量%、
マンガン(Mn)を0.90~1.30質量%、
バナジウム(V)を0.08~0.15質量%含有し、
リン(P)の含有量が0.030質量%以下、
銅(Cu)の含有量が0.300質量%以下、
ニッケル(Ni)の含有量が0を超え0.30質量%以下、
クロム(Cr)の含有量が0.35質量%以下であり、
残部が鉄(Fe)と不可避不純物とからなるクランクシャフト用非調質鋼であって、
さらに、
硫黄(S)を0.010~0.035質量%、
ビスマス(Bi)を0.02~0.05質量%含有し、
下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が、0.95~0.99であることを特徴とする記載のクランクシャフト用非調質鋼。

Ceq=[C]+0.167[Si]+0.222[Mn]+0.067[Cu]+0.067[Ni]+0.25[Cr]+0.4[Mo]+1.8[V] ・・・式(1)
但し、式(1)中、括弧は各括弧内に示す元素の質量%を表す。
【請求項2】
炭素(C)を0.37~0.43質量%、
ケイ素(Si)を0.20~0.30質量%、
マンガン(Mn)を0.90~1.30質量%、
バナジウム(V)を0.08~0.15質量%含有し、
リン(P)の含有量が0.030質量%以下、
銅(Cu)の含有量が0.300質量%以下、
ニッケル(Ni)の含有量が0を超え0.30質量%以下、
クロム(Cr)の含有量が0.35質量%以下であり、
残部が鉄(Fe)と不可避不純物とからなるクランクシャフト用非調質鋼であって、
さらに、
硫黄(S)を0.010~0.035質量%、
ビスマス(Bi)を0.02~0.05質量%含有し、
下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が、0.95~0.99であることを特徴とする記載のクランクシャフト用非調質鋼。

Ceq=[C]+0.167[Si]+0.222[Mn]+0.067[Cu]+0.067[Ni]+0.25[Cr]+0.4[Mo]+1.8[V] ・・・式(1)
但し、式(1)中、括弧は各括弧内に示す元素の質量%を表す。
【請求項3】
マンガン(Mn)の含有量が、1.00~1.20質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のクランクシャフト用非調質鋼。
【請求項4】
バナジウム(V)の含有量が、0.10~0.13質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のクランクシャフト用非調質鋼。
【請求項5】
ビスマス(Bi)単独の介在物、及び、硫化マンガン(MnS)と接したビスマス(Bi)と該硫化マンガンとを合わせた複合介在物の最大面積が、2300μm 以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のクランクシャフト用非調質鋼。
【請求項6】
上記請求項1又は2に記載のクランクシャフト用非調質鋼を用いたクランクシャフト。
【請求項7】
クランクピン及びジャーナルのフィレット部に残留圧縮応力を有することを特徴とする請求項6に記載のクランクシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフト用非調質鋼及び該非調質鋼を用いたクランクシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品の多くは、部品の形状に成形した炭素鋼や合金鋼をオーステナイト相域まで加熱した後、急冷しマルテンサイト相を形成させる焼き入れを行い、焼き戻しを行うことで機械的性質を調整する調質熱処理が施される。
【0003】
この調質熱処理をしなくても目的の強度を達成できる非調質鋼が知られている。この非調質鋼は、析出強化を促進するバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)などの元素を少量添加すると共に、鋼の組成を制御することで、熱間加工後の調質熱処理を不要としている。
【0004】
自動車部品の多くは、長期間にわたる変動荷重に耐える必要があり、疲労強度が高いことが要求される。
【0005】
特に、クランクシャフトはピストンが受けた爆発力による急激な荷重の変化を受けるため、疲労強度に加えて降伏強度をも確保する必要がある。
【0006】
クランクシャフト用の鋼材として高硬度の鋼材を用いれば、クランクシャフトの疲労強度や降伏強度を向上させることができる。しかし、単に高硬度である鋼材は、切削加工性が低下する。
【0007】
クランクシャフトは、コンロッドと合わせて用いられるため、高い表面精度が必要であり、クランクシャフトは切削加工性が優れる鋼材で作製しなければならず、単に高硬度である鋼材を用いてクランクシャフトを作製することには困難を伴う。
【0008】
クランクシャフト用の鋼材に関するものではないが、特許文献1には、ビスマス(Bi)と硫黄(S)を介在物生成元素として添加することで切削加工性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特開2005-154886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、クランクシャフトは大型で加工量が多い部品であるため、切削工具にかかる負荷が高く、また加工サイクルタイムも長くなる。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、疲労強度及び降伏強度を向上させつつ、切削加工性をも向上させたクランクシャフト用非調質鋼、及び該非調質鋼を用いたクランクシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、強度を向上させる元素と、切削加工性を向上させる元素との関係を相互に考慮した成分設計とすることで、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明のクランクシャフト用非調質鋼は、
炭素(C)を0.39~0.42質量%、
ケイ素(Si)を0.15~0.35質量%、
マンガン(Mn)を0.90~1.30質量%、
バナジウム(V)を0.08~0.15質量%含有し、
リン(P)の含有量が0.030質量%以下、
銅(Cu)の含有量が0.300質量%以下、
ニッケル(Ni)の含有量が0を超え0.30質量%以下、
クロム(Cr)の含有量が0.35質量%以下であり、
残部が鉄(Fe)と不可避不純物とからなるクランクシャフト用非調質鋼であって、
さらに、
硫黄(S)を0.010~0.035質量%、
ビスマス(Bi)を0.02~0.05質量%含有し、
下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が、0.95~0.99であることを特徴
とする;
Ceq=[C]+0.167[Si]+0.222[Mn]+0.067[Cu]+0.067[Ni]+0.25[Cr]+0.4[Mo]+1.8[V] ・・・式(1)
但し、式(1)中、括弧は各括弧内に示す元素の質量%を表す。
【0014】
また、本発明のクランクシャフトは、上記クランクシャフト用非調質鋼を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クランクシャフトに要求される強度を十分に満足させる成分に加えて、切削加工性を向上させる成分を添加し、これらの成分の相互関係を考慮した厳密な成分調整を行うこととしたため、疲労強度及び降伏強度を向上させ、かつ切削加工性を向上させたクランクシャフト用非調質鋼及び該非調質鋼を用いたクランクシャフトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のクランクシャフト用非調質鋼(以下、単に「非調質鋼」ということがある。)は、析出強化を促進する元素としてバナジウム(V)を含有する非調質鋼である。
【0017】
上記バナジウム(V)は、析出強化を促進する元素であり、熱間加工後の冷却過程の変態で生じるフェライト‐パーライト組織中に、微細な炭窒化物となって析出して組織を強化し、熱間加工後の調質熱処理を不要にする。
【0018】
なかでも、バナジウム(V)は、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)などの他の析出強化を促進する元素に比べてオーステナイト組織への固溶温度が低く、熱間加工における加熱温度で容易に固溶するため、低い温度での熱間加工が可能であり、熱間加工後の組織を微細化できるので、さらなる高降伏強度化が可能である。
【0019】
また、クランクシャフトにおいて、最も曲げ変形による高い応力を受ける箇所はフィレット部である。このフィレット部を冷間ロール加工により強化することで信頼性の高いクランクシャフトを作製できる。
【0020】
上記冷間ロール加工は、クランクシャフトの表面をロールで回転させながら加圧し、残留圧縮応力を発生させて、疲労強度を向上させる表面加工法であり、高圧で加工するため、被加工材自体が降伏強度の高い鋼材であることが必要である。
【0021】
上記バナジウム(V)を含有する非調質鋼は、バナジウムの炭窒化物と微細な組織とが相俟って、高い硬度と降伏強度とを有し、冷間ロール加工による残留圧縮応力の付与が可能である一方で、一般的に切削加工性が劣る。
【0022】
本発明の非調質鋼は、切削加工性を向上させる元素として、硫黄(S)とビスマス(Bi)とを添加し、これらの元素だけでなく、他の元素組成をも厳密に制御することで、クランクシャフトに要求される疲労強度と降伏強度との向上と、切削加工性と、を両立させたものである。
【0023】
本発明のクランクシャフト用非調質鋼は、
鉄(Fe)を主成分とし、炭素(C)を0.37~0.43質量%、ケイ素(Si)を0.15~0.35質量%、マンガン(Mn)を0.90~1.30質量%、バナジウム(V)を0.08~0.15質量%含有し、
リン(P)の含有量が0.030質量%以下、銅(Cu)の含有量が0.300質量%以下、ニッケル(Ni)の含有量が0.30質量%以下、クロム(Cr)の含有量が0.35質量%以下である。
そして、切削加工性を向上させる元素である、硫黄(S)を0.010~0.035質量%、ビスマス(Bi)を0.02~0.05質量%含有する。
【0024】
上記非調質鋼の各成分について説明する。
バナジウム(V)の含有量は、0.08~0.15質量%(0.08質量%以上0.15質量%以下)である。
【0025】
バナジウム(V)は、上記のように析出強化を促進する元素であり、その含有量が多くなると切削加工性が低下するが、上記範囲であることで、後述する硫黄(S)やビスマス(Bi)と相俟って、切削加工性と残留圧縮応力付与による疲労強度の向上とを向上できる。
【0026】
バナジウム(V)の含有量が少なくなると強度が低下し易く、含有量が多くなると切削加工性が低下するので、バナジウム(V)の含有量は、0.09~0.14質量%であることが好ましく、さらに0.10~0.13質量%であることがより好ましい。
【0027】
硫黄(S)の含有量は、0.010~0.035質量%である。
上記バナジウム(V)を含有する非調質鋼は、熱間加工後の調質熱処理が不要であるので、冷却によりフェライト‐パーライト組織を形成し、比較的軟らかいフェライト組織の割合が多くなると切削加工性が向上する。
【0028】
硫黄(S)は、マンガン(Mn)と結合して硫化マンガン(MnS)となる。この硫化マンガン(MnS)は、切削加工中にせん断領域で応力集中源として作用し、微少な内部クラックを誘発し、切削抵抗の低減、および切屑分断性を向上させる。また、フェライト組織の核となってフェライト組織の割合を増加させるので切削加工性を向上させる。
【0029】
さらに、硫黄(S)は、多量に添加しすぎるとFeSを生成して、鋼材の強度低下、および製造時の割れ発生を助長する懸念がある。
しかし、マンガン(Mn)が十分共存する状態では、上記のように硫化マンガン(MnS)となって非調質鋼中に存在するので、鋼材の強度低下、および製造時の割れ発生が抑止される。したがって、硫黄(S)の含有量は、マンガン(Mn)よりも常に少なくする必要がある。
【0030】
加えて、硫化マンガン(MnS)は、その周囲に後述するビスマス(Bi)を析出させ、ビスマス(Bi)粗大化を防止して微分散させるので、ビスマス(Bi)による疲労強度の低下を防止する。そのため、硫黄(S)の含有量は、0.015~0.030質量%であることが好ましく、より好ましく0.017~0.028質量%であり、さらに0.020~0.028質量%であることがより好ましい。
【0031】
ビスマス(Bi)の含有量は、0.02~0.05質量%である。
ビスマス(Bi)は、融点が271℃程度であり、切削加工による摩擦熱で容易に融解する。したがって、ビスマス(Bi)が微分散していることで、非調質鋼と切削工具との摩擦面が、融解したビスマス(Bi)によって液体潤滑されるので切削抵抗が低減される。
【0032】
また、溶融したビスマス(Bi)は、切りくずを脆化させ、分断させるので切削工具の刃先にかかる負荷が低減し切削工具の寿命を延長する。ビスマス(Bi)の含有量は、0.02~0.04質量%であることがより好ましい。ビスマス(Bi)の含有量が多くなるとビスマス(Bi)を含む介在物の最大面積が大きくなる傾向がある。
【0033】
ビスマス(Bi)は、非調質鋼の組織中に介在物として存在し、粗大化すると疲労破壊の起点となり易いが、本発明においては、上記のように硫化マンガン(MnS)によって微分散されるため、疲労破壊の起点とはならない。
【0034】
非調質鋼の組織中に分散するビスマス(Bi)を含む介在物、すなわち、ビスマス(Bi)単独の介在物、及び、硫化マンガン(MnS)と接したビスマス(Bi)と該硫化マンガンとを合わせた介在物の最大面積は、2300μm以下であることが好ましい。介在物の最大面積が、2300μm以下であることで疲労強度の低下を防止できる。
【0035】
炭素(C)の含有量は、0.37~0.43質量%である。
炭素(C)は、フェライト‐パーライト組織に占めるパーライト組織の割合を増加させ、強度を向上させる。
【0036】
炭素(C)の含有量が少なくなると強度が低下し易く、含有量が多くなると切削加工性が低下するので、炭素(C)の含有量は、0.38~0.43質量%であることが好ましく、より好ましく0.38~0.42質量%であり、さらに0.39~0.42質量%であることがより好ましい。
【0037】
マンガン(Mn)の含有量は、0.90~1.30質量%である。
マンガン(Mn)は、パーライト組織の割合を増加させ、強度を向上させる。また、硫黄(S)と結合し、MnSを形成することにより、FeS形成による鋼材の強度低下、および鋼材製造時の割れ発生を防ぐ性質を併せ持つ。
【0038】
マンガン(Mn)の含有量が少なくなると強度が低下し易く、含有量が多くなると切削加工性が低下するので、マンガン(Mn)の含有量は、0.96~1.28質量%であることが好ましく、より好ましく1.00~1.20質量%であり、さらに1.01~1.17質量%であることがより好ましい。
【0039】
ケイ素(Si)の含有量は、0.15~0.35質量%である。
ケイ素(Si)は非調質鋼の組織中に固溶し、固溶強化によって強度を向上させる。
ケイ素(Si)の含有量が少なくなると強度が低下し易く、含有量が多くなると切削加工性に加えて、熱間加工性も低下するので、ケイ素(Si)の含有量は、0.19~0.30質量%であることが好ましく、より好ましく0.20~0.30質量%であり、さらに0.20~0.26質量%であることがより好ましい。
【0040】
リン(P)は、粒界偏析し易く靭性を低下させるので、その含有量は0.030質量%以下であり、より好ましくは0を超え0.030質量%以下であり、さらに好ましくは0を超え0.023質量%以下である。銅(Cu)は、熱間加工の際、割れを生じ易くするので、その含有量は0.30質量%以下であり、より好ましくは0を超え0.30質量%以下であり、さらに好ましくは0を超え0.21質量%以下である。また、ニッケル(Ni)は、ベイナイトの生成を助長するので、その含有量は0.30質量%以下であり、より好ましくは0を超え0.30質量%以下であり、さらに好ましくは0を超え0.20質量%以下であり、さらに0を超え0.10質量%以下であることがより好ましい。クロム(Cr)は、ベイナイトの生成を助長するので、その含有量は0.35質量%以下であり、より好ましくは0を超え0.35質量%以下であり、より好ましくは0を超え0.20質量%以下である。上記元素以外の不可避不純物については含有量ができるだけ少ないことが好ましいが、その存在を完全に否定するものではない。また、鉄(Fe)は、主成分であり、上記元素および不可避不純物以外の残部は実質的に鉄(Fe)からなる。
【0041】
上記非調質鋼は、下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が、0.95~0.99であることが好ましい。

Ceq=[C]+0.167[Si]+0.222[Mn]+0.067[Cu]+0.067[Ni]+0.25[Cr]+0.4[Mo]+1.8[V] ・・・式(1)
但し、式(1)中、括弧は各括弧内に示す元素の質量%を表す。
【0042】
上記炭素当量(Ceq)の範囲を満たすことで、クランクシャフトに要求される機械特性と、切削加工性とを両立させることができる。
また、クランクピン及びジャーナルのフィレット部の残留圧縮応力は疲労強度の観点から500Ma以上であることが好ましく、より好ましくは600Ma以上であり、さらに好ましくは626Ma以上である。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
下記表1に示す組成のクランクシャフト用非調質鋼を用いて、1250℃で加熱した後に熱間鍛造を実施し、その後に切削加工してクランクピン部及びクランクジャーナル部を形成した。なお、熱間鍛造を750~1300℃の間、すなわちオーステナイト域で行うことでフェライトおよびパーライト組織を有し、クランクシャフトに求められる硬度および降伏強度を得ることができる。
その後、クランクピン及びクランクジャーナルのR部にフィレットロール(冷間ロール)加工を行って、残留圧縮応力を付与し加工硬化させてクランクシャフトを得た。フィレットロール加工は押し込み深さが同じとなるようにしフィレットロール荷重を700~1300kgfの間で制御した。
実施例、比較例についてはいずれも同じ条件で熱間鍛造、フィレットロール加工を行った。
【0045】
<評価>
上記クランクシャフトを下記の方法で評価した。
評価結果を非調質鋼の組成と合わせて表1に示す。
【0046】
(硬度)
クランクピン部における内部硬度(フィレットロール加工の影響が無い部分)をロックウェル硬さ試験により6点測定、その平均値を算出した。
【0047】
(降伏強度)
クランクピン部から試験片を切り出して、JIS Z 2241の規定に準拠した引張試験を行って、降伏強度を測定した。
【0048】
(疲労強度)
クランクピン部に荷重負荷を10回入力した後、応力集中部であるクランクピンのフィレット部が破損しない応力を測定し、最も疲労強度が弱かった比較例4を1として相対的な疲労強度で示した。
【0049】
(ビスマス、及び、ビスマスと硫化マンガンを合わせた介在物の面積)
クランクピンの断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、析出物の面積を極値統計して算出した。
【0050】
(切削加工性)
クランクシャフトを切削加工する際の、加工サイクルタイムと切削抵抗から評価した。最も切削加工性が低かった比較例3を1として相対的な切削加工性を示した。
【0051】
(残留応力)
X線回折測定装置を用いて、クランクピンのフィレット部の表面から深さ方向に1.0mm
までの範囲においてX線回折のピーク位置を検出し、この検出位置に基づいて回折角を求め、この回折角または回折角の変化から残留応力を測定し、その最大値を算出した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から、本発明のクランクシャフト用非調質鋼は、疲労強度及び降伏強度が高く、切削加工性にも優れることが分かる。