(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-19
(45)【発行日】2025-03-28
(54)【発明の名称】硬化性ポリオレフィン組成物及び硬化生成物
(51)【国際特許分類】
C08L 47/00 20060101AFI20250321BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20250321BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20250321BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250321BHJP
【FI】
C08L47/00
C08L91/06
C08L83/05
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2023551993
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 CN2021078818
(87)【国際公開番号】W WO2022183391
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ホー、チャオ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ、ペン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジグァン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ホンユ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チェン
(72)【発明者】
【氏名】バグワガー、ドラブ
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/227201(WO,A1)
【文献】特表2006-522491(JP,A)
【文献】特表2018-502946(JP,A)
【文献】特開2000-290462(JP,A)
【文献】特開2000-136275(JP,A)
【文献】特開2000-087002(JP,A)
【文献】特開平04-023867(JP,A)
【文献】特開昭61-060727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性ポリオレフィン組成物であって、
(A)1分子当たり少なくとも2つの脂肪族不飽和結合を有するポリオレフィンと、
(B)30~100℃の融点を有するワックスと、
(C)1分子当たり少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンと、
(D)触媒量のヒドロシリル化反応触媒と、を含み、
各々が構成成分(A)~(D)の総質量に基づいて、構成成分(A)の含有量が20~80質量%であり、構成成分(B)の含有量が10~75質量%であり、構成成分(C)の含有量が1~20質量%である、硬化性ポリオレフィン組成物。
【請求項2】
構成成分(A)が、ポリブタジエンである、請求項1に記載の硬化性ポリオレフィン組成物。
【請求項3】
構成成分(B)が、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、又はポリエチレンワックスから選択されるワックスである、請求項1に記載の硬化性ポリオレフィン組成物。
【請求項4】
(E)少なくとも1種の無機充填剤を更に含む、請求項1に記載の硬化性ポリオレフィン組成物。
【請求項5】
構成成分(E)が、難燃性充填剤又は熱伝導性充填剤から選択される少なくとも1種の無機充填剤である、請求項4に記載の硬化性ポリオレフィン組成物。
【請求項6】
構成成分(E)の含有量が、本組成物の50質量%以下である、請求項4に記載の硬化性ポリオレフィン組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性ポリオレフィン組成物を硬化させることにより得られる、硬化生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性ポリオレフィン組成物及びその硬化生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
相変化材料(phase change materials、PCM)は、材料自体の相変化を利用して、周囲環境から大量の熱を受動的に吸収又は放出する潜熱蓄熱材料として知られており、それによって、近年、電力が本質的に時間とともに変動する携帯電話、スマートフォン及びタブレットなどの電子デバイスを冷却するために使用されている。電力変動は、数分などの短い時間間隔の間、又は数日などのより長い時間間隔の間に発生し得る。温度がピークに達すると、PMCは溶融して過剰な熱エネルギーを貯蔵する。温度が低下すると、PMCは固化し、貯蔵された熱エネルギーを放出する。
【0003】
例えば、特許文献1は、PCMを含有するゲル被覆マイクロカプセルを開示し、このマイクロカプセルは、PCM粒子をカプセル化するためにゾル-ゲル法により生成される。しかしながら、コストが高く、その方法の再現性が低く、PCMの添加量が低いという問題がある。PMCの添加量が少ないと、熱エネルギーを貯蔵し、それを放出する能力、すなわち相変化のエンタルピー(J/g)が、20J/gよりも低くなる。
【0004】
特許文献2には、少なくとも1種の室温加硫「RTV(room-temperature vulcanizing)」シリコーンエラストマー及び少なくとも1種のPCMを含む、シリコーンエラストマー組成物が開示されている。また、特許文献3には、シロキサンポリマー、ホットメルト樹脂、及び/又は有機樹脂を含む、ホットメルトシーラント/接着剤組成物が開示されている。しかしながら、PCMとシリコーンとの間の相溶性の問題に起因して、シリコーンエラストマー又はシロキサンポリマー中にPCMを分散させるには硬すぎるという問題がある。その結果、PMCは、熱サイクル中に硬化生成物から漏出/圧出する。
【0005】
先行技術文献
特許文献
特許文献1:米国特許第6,270,836(B1)号
特許文献2:米国特許出願公開第2014/0030458(A1)号
特許文献3:米国特許第8,088,869(B2)号
【発明の概要】
【0006】
発明が解決しようとする課題
本発明の目的は、硬化して、熱エネルギーを貯蔵し、それを放出することができる硬化生成物を形成することができる硬化性ポリオレフィン組成物を提供することであり、硬化生成物は、熱サイクル中にワックスの漏出/圧出を防止することができる。
【0007】
課題を解決するための手段
本発明の硬化性ポリオレフィン組成物は、
(A)1分子当たり少なくとも2つの脂肪族不飽和結合を有するポリオレフィンと、
(B)30~100℃の融点を有するワックスと、
(C)1分子当たり少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンと、
(D)触媒量のヒドロシリル化反応触媒と、を含み、
各々が構成成分(A)~(D)の総質量に基づいて、構成成分(A)の含有量が20~80質量%であり、構成成分(B)の含有量が10~75質量%であり、構成成分(C)の含有量が1~20質量%である。
【0008】
様々な実施形態では、構成成分(A)は、ポリブタジエンである。
【0009】
様々な実施形態では、構成成分(B)は、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、又はポリエチレンワックスから選択されるワックスである。
【0010】
様々な実施形態では、熱界面材料は、(E)少なくとも1種の無機充填剤を更に含む。
【0011】
様々な実施形態では、構成成分(E)は、難燃性充填剤又は熱伝導性充填剤から選択される少なくとも1種の無機充填剤である。
【0012】
様々な実施形態では、構成成分(E)の含有量は、本組成物の50質量%以下である。
【0013】
本発明の硬化生成物は、上記の硬化性ポリオレフィン組成物を硬化させることにより得られる。
【0014】
発明の効果
本発明の硬化性ポリオレフィン組成物は、硬化して、熱エネルギーを貯蔵し、それを放出することができる硬化生成物を形成することができ、硬化生成物は、熱サイクル中にワックスの漏出/圧出を防止することができる。特に、硬化生成物は、20~140J/gのエンタルピーを有する良好な相変化特性を有するのに対して、硬化生成物は、熱サイクル中にワックスの漏出なく完全に硬化される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】例えば、実施例における相変化の温度及び相変化のエンタルピーを測定するための示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry、DSC)チャートである。
【0016】
定義
「含む(comprising)」又は「含む(comprise)」という用語は、本明細書において広義に使用され、「含む(including)」又は「含む(include)」、「から本質的になる(consist(ing) essentially of)」、及び「からなる(consist(ing) of)」を意味し、それらの概念を包含する。実例を列記する「例えば(for example)」「例えば(e.g.,)」、「例えば/など(such as)」及び「が挙げられる(including)」の使用は、列記されている例のみに限定しない。したがって、「例えば(for example)」又は「例えば/など(such as)」は、「例えば、それらに限定されないが(for example, but not limited to)」又は「例えば、それらに限定されないが(such as, but not limited to)」を意味し、他の類似した、又は同等の例を包含する。本明細書で使用されている「約(about)」という用語は、機器分析により測定した、又は試料を取り扱った結果としての数値の軽微な変動を、合理的に包含若しくは説明する働きをする。かかる軽微な変動は、数値の±0~25、±0~10、±0~5、又は±0~2.5%ほどであり得る。更に、「約」という用語は、ある範囲の値に関連する場合、数値の両方に当てはまる。更に、「約」という用語は、明確に記載されていない場合であっても、数値に当てはまることがある。
【0017】
「ワックス」という用語は、本明細書において、周囲温度(例えば、25℃)で固体であり、高温で軟化又は溶融特性を示す材料を意味するために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の硬化性ポリオレフィン組成物について詳細に説明する。
【0019】
構成成分(A)は主成分であり、1分子当たり少なくとも2つの脂肪族不飽和結合を有するポリオレフィンである。ここで、構成成分(A)は、主鎖基に脂肪族不飽和結合がグラフトされたポリオレフィン、又は主鎖が脂肪族炭素-炭素不飽和結合を含むポリオレフィンである。構成成分(A)は、直鎖又は分岐鎖であってもよく、ホモポリマー、コポリマー又はターポリマーであってもよい。構成成分(A)はまた、1分子当たり平均して少なくとも2つの脂肪族不飽和結合が存在する限り、異なるポリオレフィンの混合物として存在してもよい。構成成分(A)のポリオレフィンの例としては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソブチレンとイソプレンとのコポリマー、イソプレンとブタジエンとのコポリマー、イソプレンとスチレンとのコポリマー、ブタジエンとスチレンとのコポリマー、イソプレンとブタジエンとスチレンとのコポリマー、及びポリイソプレン、ポリブタジエン又はイソプレンとスチレンとのコポリマー、ブタジエンとスチレンとのコポリマー又はイソプレンとブタジエンとスチレンとのコポリマーを水素添加することにより調製されるポリオレフィンポリマーが挙げられる。なかでも、構成成分(A)は、好ましくはポリブタジエンである。
【0020】
構成成分(A)の分子中の脂肪族不飽和結合は、同じであっても異なっていてもよく、2個以上の炭素原子を含んでもよいが、好ましくは2~12個の炭素原子を含む。それらは直鎖又は分岐鎖であってもよいが、直鎖アルケニル基が好ましい。脂肪族不飽和結合を有する好適な基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、及びヘキセニル基などのアルケニル基が挙げられ、ビニル基及び/又はアリル基が特に好ましい。脂肪族不飽和結合を有する基は、ポリマー鎖に沿って垂れ下がっているか、又は鎖末端に見出され得るが、基は鎖末端にあることが好ましい。
【0021】
25℃における構成成分(A)の状態は、限定されないが、好ましくは液体である。構成成分(A)は、好ましくは25℃で1~100Pa・sの粘度を有する。なお、本明細書において、粘度は、JIS K7117-1:プラスチック-液状、乳濁状又は分散状の樹脂-ブルックフィールド形回転粘度計による見掛け粘度の測定方法、あるいはISO 2555:Plastics Resins in the Liquid State or as Emulsions or Dispersions Determination of Apparent Viscosity by the Brookfield Teste Methodに準じて測定され得る。
【0022】
構成成分(A)の分子量は限定されないが、好ましくは数平均分子量(GPC法、ポリスチレン換算)が100,000以下であり、より好ましくは約500~100,000である。特に、約1,000~40,000の流動性及び流動性を有する液体が取り扱いの容易さの点で好ましい。
【0023】
例示的な市販のポリオレフィンは、液体ポリブタジエンRicon(登録商標)130、131、131MA10、134、138、及び181;CRAY VALLEYから入手可能なPoly bd(登録商標)R-45-Vである。
【0024】
構成成分(A)の含有量は、各々が構成成分(A)~(D)の総質量に基づいて、20~80質量%の範囲、あるいは25~80質量%の範囲である。これは、構成成分(A)の含有量が上記の範囲の下限以上である場合、本組成物の硬化性が良好であるのに対し、構成成分(A)の含有量が上記の範囲の上限以下であり、構成成分(B)の含有量がより高い場合、硬化生成物の相変化特性が良好であることが理由である。
【0025】
構成成分(B)は、構成成分(A)と相溶性のワックスであり、電子デバイスの最大動作温度以下で可逆的な固相-液相変化を起こす相変化材料として作用する。構成成分(B)は、30~100℃、好ましくは35~100℃、35~80℃、あるいは35~70℃の融点を有する。構成成分(B)は、その融点未満に冷却されると固化し、それによって発熱電子部品とヒートスプレッダとの間の密接な接触を維持する。なお、本明細書において、融点(℃)は、ASTM D3418に準拠して、示差走査熱量計(DSC)により測定し得る。構成成分(A)と構成成分(B)との間の相溶性は、ASTM D6038:Standard Test Methods for Determining the Compatibility of Resin/Solvent Mixtures by Precipitation Temperature(Cloud Point)によって判断することができる。
【0026】
構成成分(B)の例示的なワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びポリエチレンワックスが挙げられる。好ましいワックスは、C12~C25パラフィンワックスである。
【0027】
構成成分(B)の含有量は、各々が構成成分(A)~(D)の総質量に基づいて、10~75質量%の範囲、あるいは20~75質量%の範囲、あるいは30~75質量%の範囲、あるいは40~75質量%の範囲である。これは、構成成分(B)の含有量が上記の範囲の下限以上である場合、硬化生成物の相変化特性が良好であるのに対し、構成成分(B)の含有量が上記の範囲の上限以下である場合、本組成物の硬化性が良好であることが理由である。
【0028】
構成成分(C)は、1分子当たり少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンである。構成成分(C)のオルガノポリシロキサン中の有機基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及び1~12個の炭素原子を有する他のアルキル基などの、脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、及び6~12個の炭素原子を有する他のアリール基により例示され、メチル基及びフェニル基が最も典型的である。
【0029】
構成成分(C)のオルガノポリシロキサンは、ジメチルハイドロジェンシロキシ基により末端封止された分子鎖の両末端を有するメチルフェニルポリシロキサン;ジメチルハイドロジェンシロキシ基により末端封止された分子鎖の両末端を有するメチルフェニルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー;トリメチルシロキシ基により末端封止された分子鎖の両末端を有するメチルフェニルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー;トリメチルシロキシ基により末端封止された分子鎖の両末端を有するメチルフェニルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー;(CH3)2HSiO1/2で表されるシロキサン単位及びC6H5SiO3/2で表されるシロキサン単位から構成されたオルガノポリシロキサンコポリマー;(CH3)2HSiO1/2で表されるシロキサン単位、(CH3)3SiO1/2で表されるシロキサン単位、及びC6H5SiO3/2で表されるシロキサン単位から構成されたオルガノポリシロキサンコポリマー;(CH3)2HSiO1/2で表されるシロキサン単位、(CH3)2SiO2/2で表されるシロキサン単位、及びC6H5SiO3/2で表されるシロキサン単位から構成されたオルガノポリシロキサンコポリマー;(CH3)2HSiO1/2で表されるシロキサン単位、C6H5(CH3)2SiO1/2で表されるシロキサン単位、及びSiO4/2で表されるシロキサン単位から構成されたオルガノポリシロキサンコポリマー;(CH3)HSiO2/2で表されるシロキサン単位及びC6H5SiO3/2で表されるシロキサン単位から構成されたオルガノポリシロキサンコポリマー;並びに上記のうちの2つ以上の混合物、により例示される。
【0030】
構成成分(C)の含有量は、各々が構成成分(A)~(D)の総質量に基づいて、1~20質量%の範囲、あるいは1~15質量%の範囲、あるいは1~10質量%の範囲、あるいは2~10質量%の範囲である。これは、構成成分(C)の含有量が上記範囲の下限以上である場合、組成物を十分に硬化させることができ、構成成分(C)の含有量が上記範囲の上限以下である場合、硬化生成物の耐熱性が向上することが理由である。
【0031】
構成成分(D)は、本組成物の硬化を促進するために使用されるヒドロシリル化反応触媒であり、構成成分(D)の例としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、及びパラジウム系触媒が挙げられる。構成成分(D)は、典型的には、本組成物の硬化を飛躍的に促進できるように白金系触媒である。白金系触媒の例としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、及び白金-カルボニル錯体が挙げられ、白金-アルケニルシロキサン錯体が最も典型的である。
【0032】
本組成物中の構成成分(D)の含有量は、本組成物の硬化を促進するのに有効な量である。具体的には、本組成物を十分に硬化させるために、構成成分(D)の含有量は、典型的には、本組成物に対して構成成分(D)における触媒金属の含有量が、質量単位で、0.01~500ppm、あるいは0.01~100ppm、あるいは0.01~50ppmとなる量である。
【0033】
本材料は、(E)少なくとも1種の無機充填剤を更に含んでもよい。構成成分(E)の例示的な充填剤としては、難燃性充填剤及び熱伝導性充填剤が挙げられる。構成成分(E)は、金属、合金、非金属、金属酸化物、金属水酸化物、又はセラミックから選択されるいずれか1種又は2種以上の熱伝導性充填剤の任意の組み合わせであり得る。例示的な金属としては、アルミニウム、銅、銀、亜鉛、ニッケル、スズ、インジウム、及び鉛が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な非金属としては、炭素、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、グラフェン、及び窒化ケイ素が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な金属酸化物、金属水酸化物及びセラミックとしては、アルミナ、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、及び酸化スズが挙げられるが、これらに限定されない。望ましくは、構成成分(E)は、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び水酸化アルミニウムからなる群から選択されるいずれか1種又は2種以上の任意の組み合わせである。更により望ましくは、構成成分(E)は、1~15μmの平均粒径を有する水酸化アルミニウム、5~15μmの平均粒径を有する球状アルミニウム粒子、1~3μmの平均粒径を有する球状アルミニウム粒子、0.1~0.5μmの平均粒径を有する酸化亜鉛粒子から選択されるいずれか1種又は2種以上の充填剤の任意の組み合わせである。操作ソフトウェアに従ってレーザ回折粒径分析器(CILAS920粒径分布測定装置又はBeckman Coulter LS 13 320 SW)を使用して、充填剤粒子の平均粒径をメジアン粒径(D50)として決定する。
【0034】
構成成分(E)の量は限定されないが、本組成物の50質量%以下であることが好ましい。これは、構成成分(E)の含有量が上記の範囲の上限以下である場合、硬化生成物の相変化特性が良好であることが理由である。
【0035】
本組成物は、1種以上の添加剤などの追加の構成成分を更に含み得る。そのような添加剤としては、酸化防止剤、帯電防止剤、カラーエンハンサ、染料、潤滑剤、TiO2又はCaCO3などの充填剤、乳白剤、核剤、顔料、加工助剤、UV安定剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、粘着付与剤、防火剤、抗菌剤、臭気低減剤、抗真菌剤、及びそれらの組み合わせが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0036】
本組成物は、周囲温度で成分の全てを混合することによって調製することができる。先行技術に記載されている、混合技術及びデバイスのいずれかをこの目的に用いることができる。使用する具体的なデバイスは、成分及び最終的な組成物の粘度によって決定される。混合中に成分を冷却することが、早期硬化を避けるために望ましい場合がある。
【0037】
本発明の硬化生成物は、上記の硬化性ポリオレフィン組成物を硬化させることにより得られる。本発明の硬化生成物は、電子デバイス用の熱界面材料又は封入剤として使用することができる。
【実施例】
【0038】
本発明の硬化性ポリオレフィン組成物及び硬化生成物を、実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下に列挙する実施例の説明により限定されるものではない。
【0039】
<硬化時間>
硬化時間は、デュロメータ試験法によって測定した。硬化開始後、硬度変化が安定する(5ショアA未満で変化する)のに必要な時間を硬化時間として設定した。硬度試験は、ASTM D 2240に従ってショアAを使用した。
【0040】
<相変化の温度及び相変化のエンタルピー>
相変化の温度及び相変化のエンタルピーは、ASTM D3418に従ってDSC-Q2000装置でDSCによって試験した。この方法は、以下の条件下で実行される。
-1:0.0℃で平衡化する
-2:データ記憶:オン
-3:150.0℃まで10.0℃/分の勾配
-4:5.00分間等温
-5:サイクル1の終了をマークする
-6:0.0℃まで10.0℃/分の勾配
-7:5.00分間等温
-8:サイクル2の終了をマークする
-9:150.0℃まで10.0℃/分の勾配
-10:サイクル3の終了をマークする
-11:方法の終了
【0041】
データは、
図1のようにサイクル2の加熱走査ステップで収集した。
【0042】
<熱サイクル後のワックス漏出>
ワックス漏出は、以下の手順により評価した。
(1)20gの硬化性ポリオレフィン組成物を40mLの密閉透明ガラスジャーに入れる。
(2)加熱して組成物を硬化させる
(3)次いで、25℃から80℃への熱サイクルを少なくとも10回行う
(4)使い捨てアルミニウムパンの風袋を量り、逆さにした開いたガラスジャーをアルミニウムパン上に100℃で10分間置き、次いでガラスジャーを取り出し、アルミニウムパンを秤量する。
(5)総組成物質量に対する漏出成分の質量%を算出する。漏出成分の質量%が3質量%超である場合、ワックス漏出が「観察された」と識別され、そうでない場合は「なし」と識別される。
【0043】
[実施例1~14及び比較例1~3]
下記の構成成分を使用して、表1に示される硬化性ポリオレフィン組成物を調製した。構成成分(A)及び構成成分(B)を60℃で均一に混合した。次いで、構成成分(C)、構成成分(D)、及び任意選択で構成成分(D)を添加し、1000rpmの速度で20秒間高速混合で混合した。
【0044】
下記の構成成分を、構成成分(A)として使用した。
構成成分(a-1):液状ポリブタジエン(商品名:Ricon(登録商標)131、TOTAL CRAY VALLEYから市販;Mn=4,500)
構成成分(a-2):液状ヒドロキシル末端ポリブタジエン(商品名:Poly bd(登録商標)R45 V、TOTAL CRAY VALLEYから市販;Mn=2,800)
構成成分(a-3):液状ポリブタジエン(商品名:Ricon(登録商標)131MA10、TOTAL CRAY VALLEYから市販;Mn=5,000)
構成成分(a-4):液状ポリブタジエン(商品名:Ricon(登録商標)181、TOTAL CRAY VALLEYから市販;Mn=3,200)
【0045】
以下の構成成分を構成成分(B)として使用した。
構成成分(b-1):パラフィンワックス(SCRCから市販;融点=52~54℃)
構成成分(b-2):ドコサン(SCRCから市販;融点=43~47℃)
【0046】
以下の構成成分を、構成成分(C)として使用した。
構成成分(c-1):トリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサンメチル水素シロキサンコポリマー(SiH含有量=0.78質量%)
構成成分(c-2):テトラキス(ジメチルシリル)シラン(SiH含有量=1.23質量%)
【0047】
以下の構成成分を、構成成分(D)として使用した。
構成成分(d-1):1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンとのPt錯体の1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン溶液(Pt含有量=5,000ppm)
【0048】
以下の構成成分を、構成成分(E)として使用した。
構成成分(e-1):15~25μmの平均粒径を有する水酸化アルミニウム充填剤(商品名:MARTINAL(登録商標)ON-320、HUBER MARTINSWERKから市販)
構成成分(e-2):30μmの平均粒径を有する球状窒化アルミニウム充填剤(商品名:ANF-30、MARUWAから市販)
構成成分(e-3):35μmの平均粒径を有する球状酸化アルミニウム充填剤(商品名:A-ST-60、ZRIから市販)
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
硬化性能は、封入剤にとって重要である。表1に示されるように、CE1及びCE3の比較組成物は、架橋剤としての構成成分(C)が存在せず、構成成分(B)の過剰添加のために硬化しなかった。構成成分(A)の添加量が構成成分(A)~(D)の合計量の20質量%より多い場合、硬化性能が良好であり(IE1~IE9)、異なる構成成分(A)(IE9、IE10及びIE11)及び異なる構成成分(C)(IE7及びIE8)及び異なる構成成分(E)(IE13及びIE14)にかかわらず、全ての本組成物の各硬化時間は、60℃で3時間未満である。相変化のエンタルピー(J/g)は、封入剤の別の重要な特性である。本組成物についての相変化の各エンタルピーは、20~140J/gの範囲であり、これは、ワックス(IE1~IE14)のタイプ及び添加量に依存していた。しかしながら、ワックスの添加量が構成成分(A)~(D)の合計量の10質量%未満であった場合(CE2)、相変化のエンタルピー(J/g)は、PCM吸熱材として使用できないほど低かった。無機充填剤を本組成物中で使用することもでき、これは、硬化及び相変化特性に影響を及ぼさず、その添加量は、本組成物(IE1)の47質量%もの高さであり得る。更に、本組成物の硬化生成物は、25~80℃の熱サイクル後にワックス漏出がなかった。
【0053】
産業上の利用可能性
本発明の硬化性ポリオレフィン組成物は、硬化して、熱サイクル中に漏出/圧出を防止する相変化材料を形成することができる。したがって、硬化性ポリオレフィン組成物は、携帯電話などの電子デバイスの封入剤又はシーラントに有用である。