(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/363 20060101AFI20250324BHJP
C23C 14/44 20060101ALI20250324BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
H01L21/363
C23C14/44
H05H1/46 L
(21)【出願番号】P 2023567343
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046079
(87)【国際公開番号】W WO2023112155
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-052345(JP,A)
【文献】実開昭55-037868(JP,U)
【文献】特開昭63-243269(JP,A)
【文献】国際公開第2016/006155(WO,A1)
【文献】実開平03-115659(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/363
C23C 14/44
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナに高周波電力を供給することにより発生するプラズマを用いてターゲットをスパッタリングするスパッタリング装置であって、
前記ターゲットの
側周面を取り囲むように設けられた、前記ターゲットと等電位であるダミー電極と、
前記ダミー電極における前記ターゲットのスパッタ面と同じ方向を向く表面を覆うように設けられた、接地電位であるアノード電極とを備えるスパッタリング装置。
【請求項2】
前記ターゲットのスパッタ面と前記ダミー電極の表面とが略同一平面内に形成されている請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ダミー電極が、間隙を介して前記ターゲットの側周面に対向するように設けられている請求項1又は2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記ターゲットの側周面とこれに対向する前記ダミー電極の内側周面とが、前記スパッタ面に対して傾斜している請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記ターゲットの側周面と前記ダミー電極の内側周面が、前記スパッタ面から裏面側に向かって拡がるテーパ状をなす請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記ターゲットと前記ダミー電極との間の間隙の寸法
が0.5mm以
上2.0mm以下である請求項3~5のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記スパッタ面を平面視して、前記アノード電極の内周縁が、前記ターゲットと前記ダミー電極との間の間隙近傍に位置する請求項2~6のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記アノード電極が前記ダミー電極から前記ターゲットに向かって先細りする形状をなす請求項7に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記アノード電極が、間隙を介して前記ダミー電極の表面に対向するように設けられており、
前記アノード電極と前記ダミー電極のそれぞれの対向面が略平行である請求項1~8のいずれか一項に記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記アノード電極と前記ダミー電極との間の間隙の寸法
が2.0mm以
上3.5mm以下である請求項9に記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いてターゲットをスパッタリングして基板に成膜するスパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のスパッタリング装置としては、特許文献1に示すように、ターゲットの近傍にアンテナを配置して、当該アンテナに高周波電流を流すことによって処理室内にプラズマを生成するものが知られている。このスパッタリング装置は、ターゲットへの電圧印加と、プラズマ生成のためのアンテナへの電圧印加を別々に行うように構成されており、プラズマが生成している状態でターゲットにバイアス電圧を印加し、プラズマ中のイオン(Ar+)をターゲットに衝突させ、ターゲットを構成する材料の粒子を弾き出す。これにより、処理室内に置かれた基板の表面に薄膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記したような、ターゲットへの電圧印加とプラズマ生成のためのアンテナへの電圧印加を別々に行うように構成するスパッタリング装置では、生成したプラズマがターゲット周辺にも拡がり、ターゲットの端部における電界の歪みにより放電が生じてしまい、その結果、ターゲットを保持するバッキングプレートをスパッタリングする等して不純物が生じてしまう恐れがある。このような課題は、ターゲットの表面にプラズマを捕捉するための磁界を形成するマグネトロン放電を行わないスパッタリング装置の全般において同様のことが言える。
【0005】
ターゲットの端部における放電を防止するために、発明者らは、
図6に示すようにターゲットの周縁部を覆うように接地電位の枠(アノード電極)を設けることを検討した。しかしながら、この構成では、ターゲットの端部における放電は抑制できるものの、ターゲットの周縁部を覆う構造であるため、その覆われた領域をスパッタ材料として利用できないため、利用率が下がってしまうという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題を一挙に解決すべくなされたものであり、マグネトロン放電を行わないスパッタリング装置において、ターゲットの利用効率の低下を抑えながら、ターゲットの端部での放電を防止し、安定して成膜を行えるようにすることを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るスパッタリング装置は、アンテナに高周波電力を供給することにより発生するプラズマを用いてターゲットをスパッタリングするスパッタリング装置であって、前記ターゲットの周囲に設けられた、前記ターゲットと等電位であるダミー電極と、前記ダミー電極における前記ターゲットのスパッタ面と同じ方向を向く表面を覆うように設けられた、接地電位であるアノード電極とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成であれば、ターゲットの周囲にこれと等電位なダミー電極を設け、それを覆うように接地電位のアノード電極を設けているので、ターゲット及びダミー電極とアノード電極との間における電界の歪みを低減でき、この間にプラズマを拡がり難くできる。その結果、ターゲット及びダミー電極とアノード電極との間における放電を防止でき、安定して成膜を行うことができる。しかも、ターゲットの周囲に配置したダミー電極の表面をアノード電極により覆うようにしているので、ターゲットの利用効率の低下を抑えることができ、さらにはダミー電極がスパッタリングされることによる不純物の発生も抑えられる。
【0009】
前記スパッタリング装置は、前記ターゲットのスパッタ面と前記ダミー電極の表面とが略同一平面内に形成されているのが好ましい。
このようにすれば、ターゲット及びダミー電極とアノード電極との間の等電位面を平坦に近付けることができるので、放電の発生をより効果的に抑えることができる。
【0010】
前記スパッタリング装置は、前記ダミー電極が、間隙を介して前記ターゲットの側周面に対向するように設けられているのが好ましい。
ダミー電極とターゲットとの間に間隙を設けることにより、ダミー電極とターゲットの側周面同士の電気的な接触が曖昧な際に生じるアーキングを発生し難くすることができる。
【0011】
ダミー電極とターゲットとの間に間隙を設ける場合、この間隙内に入り込む歪んだ等電位面が生じてしまう。その結果、この電位面により荷電粒子が間隙内に入り込み、ターゲットを保持するバッキングプレートまで到達してスパッタリングを行うことで不純物を生じる恐れがある。
そのため、ダミー電極とターゲットとの間に間隙を設ける場合、前記ターゲットの側周面とこれに対向する前記ダミー電極の内側周面とが前記スパッタ面に対して傾斜しているのが好ましい。このようにすれば、ターゲットとダミー電極との間の間隙をスパッタ面に対して斜めにすることにより、間隙に入り込んでその底部のバッキングプレートまで到達する荷電粒子を減らせるので、バッキングプレートのスパッタリングを抑え、不純物の発生を抑えることができる。またこの場合、スパッタ面を平面視して、間隙からバッキングプレートの表面が見えない程度に、ターゲットの側周面とダミー電極の内側周面が傾斜しているのが好ましい。
【0012】
前記ターゲットの側周面と前記ダミー電極の内側周面とが、前記スパッタ面から裏面側に向かって拡がるテーパ状をなすのが好ましい。
このようにすれば、スパッタリングによりターゲットの消費が進んでも、凹形状になる消費部の側面がターゲット側周面に達する可能性は低く、ターゲット底面近傍まで使用し続けることができる。
【0013】
ターゲットとダミー電極との間の間隙が広すぎると、等電位面の歪みが大きくなることで間隙内に入り込む荷電粒子が増えてしまい、バッキングプレートのスパッタリングによる不純物が増加する恐れがある。そのため、前記ターゲットと前記ダミー電極との間の間隙の寸法が約0.5mm以上約2.0mm以下であるのが好ましく、約0.5mm以上約1.0mm以下であるのがより好ましい。ターゲットとダミー電極との間の間隙を約2.0mm以下にすることで、等電位面の歪みを小さくし、間隙内に入り込む荷電粒子を効果的に減らすことができる。
【0014】
前記スパッタ面を平面視して、前記アノード電極の内周縁が、前記ターゲットと前記ダミー電極との間の間隙近傍に位置するのが好ましい。
このように、アノード電極の内周縁(すなわち、ダミー電極からターゲットに向かう先端)を間隙近傍に配置することで、間隙近傍の荷電粒子を低減でき、間隙内への荷電粒子の入り込みを抑制し、バッキングプレートのスパッタリングによる不純物の発生を効果的に抑制できる。
【0015】
ターゲットへの印加電圧と生じたプラズマとで出来る等電位面はアノード電極の先端(偏面視における内周縁)付近で変化するため、アノード電極の内周縁をターゲットの端部付近に配置する場合には、アノード電極の形状によってはスパッタリングを行うイオン(アルゴンなど)がターゲットの端部に入りにくくなり、ターゲットを有効利用できない恐れがある。
そのため前記アノード電極が前記ダミー電極から前記ターゲットに向かって先細りする形状をなすのが好ましい。このようにすれば、ターゲットの端部における等電位面の変化をなだらかにでき、これによりターゲット端部におけるイオン密度の変化を小さくし、ターゲットの利用率の低下を抑制できる。
【0016】
また前記スパッタリング装置は、前記アノード電極が、間隙を介して前記ダミー電極の表面に対向するように設けられており、前記アノード電極と前記ダミー電極のそれぞれの対向面が略平行であるのが好ましい。
このようにすれば、ターゲット及びダミー電極とアノード電極との間の等電位面をより一層平坦に近付けることができるので、放電の発生をより効果的に抑えることができる。
【0017】
前記アノード電極と前記ダミー電極との間の間隙の寸法が大きすぎると、圧力とガス種によってはこの間隙でプラズマが発生する恐れがある。一方で前記アノード電極と前記ダミー電極との間の間隙の寸法が小さすぎると、電界強度が大きくなりアーク放電が発生する恐れがある。どちらの場合も意図しない不要な放電現象であり、好ましくない。
そのため、前記アノード電極と前記ダミー電極との間の間隙の寸法が2.0mm以上3.5mm以下であるの好ましい。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、マグネトロン放電を行わないスパッタリング装置において、ターゲットの利用効率の低下を抑えながら、ターゲットの端部での放電を防止し、安定して成膜を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態のスパッタリング装置の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する断面図。
【
図2】同実施形態のスパッタリング装置のターゲット近傍の構成を模式的に示す断面図。
【
図3】同実施形態のターゲット、ダミー電極及びアノード電極間の間隙を説明する断面図。
【
図4】他の実施形態のスパッタリング装置のターゲット近傍の構成を模式的に示す断面図。
【
図5】他の実施形態のスパッタリング装置の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する断面図。
【
図6】本発明に至る過程で出願人が考案したターゲット近傍の構成を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るスパッタリング装置100の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
<装置構成>
本実施形態のスパッタリング装置100は、アンテナ6に高周波電力を供給することにより発生するプラズマPを用いてターゲット41をスパッタリングし、基板Wに成膜するためのものである。基板Wは、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板W、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板W等である。
【0022】
具体的にスパッタリング装置100は、
図1に示すように、真空排気され且つガスGが導入される処理室Sを形成する真空容器1と、処理室S内において基板Wを保持する基板保持部2と、処理室S内に配置されたターゲット41と、ターゲット41を保持するターゲット保持部3と処理室S内に配置された直線状をなす複数のアンテナ6と、ターゲット41にバイアス電圧を印加するターゲットバイアス電源5と、処理室S内にプラズマPを生成するためのアンテナ6と、プラズマPを生成するための電圧をアンテナ6に供給するアンテナ電源7とを備えている。複数のアンテナ6に高周波電源から高周波を印加することにより複数のアンテナ6には高周波電流IRが流れて、処理室S内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0023】
真空容器1は、例えば金属製の容器であり、その内部は真空排気装置8によって真空排気される。真空容器1はこの例では電気的に接地されている。
【0024】
真空容器1の内壁により形成された処理室S内に、例えば流量調整器(図示省略)及び複数のガス導入口11を経由して、スパッタ用ガス又は反応性ガスが導入される。スパッタ用ガス及び反応性ガスは、基板Wに施す処理内容に応じたものにすれば良い。スパッタ用ガスとしては、例えばアルゴン(Ar)等の不活性ガスであり、反応性ガスとしては、例えば酸素(O2)や窒素(N2)等である。
【0025】
基板保持部2は、処理室S内において平板状をなす基板Wを例えば水平状態となるように保持するホルダである。
【0026】
ターゲット保持部3は、基板保持部2に保持された基板Wに対向するようにターゲット41を接着して保持するものであり、具体的にはバッキングプレートである。このターゲット保持部3は、真空容器1を形成する側壁1a(例えば上側壁)に設けられている。またターゲット保持部3と真空容器1の上側壁1aとの間には、真空シール機能を有する絶縁部1bが設けられている。なおターゲット保持部3は、図示しない冷却機構により水冷されており、ターゲット41を保持するとともにこれを冷却するように構成されている。
【0027】
ターゲット41は、平面視において矩形状をなす平板状のものであり、例えばInGaZnO等の酸化物半導体材料である。ターゲット41における基板W側を向く平坦な表面が、スパッタ粒子を飛び出させるスパッタ面41sとして機能する。
【0028】
ターゲット41には、それにターゲットバイアス電圧を印加するターゲットバイアス電源5が、この例ではターゲット保持部3を介して接続されている。ターゲットバイアス電圧は、プラズマP中のイオンをターゲット41に引き込んでスパッタさせる電圧である。本実施形態では、ターゲットバイアス電源5は、一定のターゲットバイアス電圧をターゲット41に印加するように構成されている。
【0029】
ターゲットバイアス電源5は、アンテナ電源7によりアンテナ6に印加される電圧と独立して、ターゲット41に印加する電圧を調整できるように構成されている。ターゲットバイアス電源5によりターゲット41に印加される電圧は、プラズマP中のイオンをターゲット41に引き込んでスパッタさせる程度の低電圧に設定すればよく、例えば-200V~-1kVが好ましいが、これに限らない。
【0030】
複数のアンテナ6は、処理室S内における基板Wの表面側に、基板Wの表面に沿うように(例えば、基板Wの表面と実質的に平行に)同一平面上に並列に配置されている。複数のアンテナ6は、その長手方向が互いに平行となるように等間隔に配置されている。なお、各アンテナ6は平面視において直線状で同一構成であり、その長さは数十cm以上である。
【0031】
本実施形態のアンテナ6は、
図1に示すように、各ターゲット41の両側にそれぞれ配置されている。つまり、アンテナ6とターゲット41とが交互に配置されており、1つのターゲット41は、2本のアンテナ6により挟まれた構成となる。ここで、各アンテナ6の長手方向と各ターゲット41の長手方向とは同一方向である。なお、アンテナ6の両端部付近は、真空容器1の相対向する側壁をそれぞれ貫通している。
【0032】
各アンテナ6の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金、ステンレス等であるが、これに限られるものではない。アンテナ6を中空にしてその中に冷却水等の冷媒を流し、アンテナ6を冷却するようにしてもよい。
【0033】
さらに、各アンテナ6において、処理室S内に位置する部分は、絶縁物製で直管状の絶縁カバー51により覆われている。この絶縁カバー61の両端部と真空容器1との間はシールしなくても良い。絶縁カバー61内の空間にガスが入っても、当該空間は小さくて電子の移動距離は短いので、通常は当該空間にプラズマPは発生しないからである。なお、絶縁カバー61の材質は、例えば、石英、アルミナ、フッ素樹脂、窒化シリコン、炭化シリコン、シリコン等であるが、これらに限られるものではない。
【0034】
アンテナ6の一端部である給電端部には、整合回路71を介してアンテナ電源7が接続されており、他端部である終端部は直接接地されている。
【0035】
アンテナ電源7は、整合回路71を介して、アンテナ6に高周波の電力を印加する。これにより、アンテナ6には高周波電流IRが流れて、処理室S内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。当該高周の周波数は、例えば13.56MHz~100MHzが好ましいが、これに限られるものではない。
【0036】
上記したように、アンテナ電源7は、ターゲットバイアス電源5によりターゲット41に印加される電圧と独立して、アンテナ6に印加する電圧を調整できるように構成されている。アンテナ電源7によりアンテナ6に印加される電力は、処理室S内に誘導結合型のプラズマPを生成できる程度にすればよく、例えば5kW~100kWが好ましいがこれに限らない。
【0037】
しかして本実施形態のスパッタリング装置100は、
図1及び
図2に示すように、ターゲット41の周囲に設けられた、ターゲット41と等電位であるダミー電極42と、ダミー電極42における、ターゲット41のスパッタ面41sと同じ方向を向く基板側の表面42s(以下、ダミースパッタ面ともいう)を覆うように設けられた、接地電位であるアノード電極43とを更に備えている。
【0038】
ダミー電極42は、平面視においてターゲット41の周囲を取り囲むようにしてターゲット保持部3に接着して保持された平板状を成すものである。ダミー電極42は、ターゲット保持部3を介してターゲットバイアス電源5に接続されており、ターゲット41同様に一定のターゲットバイアス電圧が印加されることで、ターゲット41と等電位になっている。
【0039】
図2に示すように、ダミー電極42の板厚はターゲット41の板厚と略同一である。ダミー電極42のダミースパッタ面42sとターゲット41のスパッタ面41sとは、互いに平行な平坦面であり、略同一平面内(すなわち同一高さ)に形成されている。
【0040】
図3に示すように、ダミー電極42は、その内側周面42tが、間隙G1(以下、第1間隙ともいう)を介してターゲット41の外側周面41tに対向するように設けられている。第1間隙G1の寸法D1は、ターゲット41の板厚方向の位置によらず略一定であり、例えば約0.5mm以上約2.0mm以下が好ましく、約0.5mm以上約1.0mm以下がより好ましい。
【0041】
本実施形態では、互いに対向するターゲット41の外側周面41tとダミー電極42の内側周面42tは、スパッタ面41sを含む平面に対して傾斜するように形成されている。具体的には、ターゲット41の外側周面41tとダミー電極42の内側周面42tは、ターゲット41のスパッタ面41sから裏面側(ターゲット保持部3側)に向かって拡がるテーパ状をなすように形成されている。
【0042】
ターゲット41の外側周面41tとダミー電極42の内側周面42tのそれぞれの傾斜角度は特に限定されないが、基板W側からターゲット41及びダミー電極42を平面視して、第1間隙G1からターゲット保持部3が露出しないように各面の傾斜角度が設定されている。具体的には、
図3に示すように、ターゲット41とダミー電極42を断面視して、スパッタ面41sに平行な面内方向において、ターゲット41の外側周面41tの基板W側の端部が、ダミー電極42の内側周面42tのターゲット保持部3側の端部よりも外側に位置するように、各面の傾斜角度が設定されている。
【0043】
本実施形態のダミー電極42は、ターゲット41と同一の材料(InGaZnO等の酸化物半導体材料)により構成されている。なおダミー電極42を構成する材料は、これに限らず、例えばアルミニウム、ステンレス等の金属材料により構成されてもよい。またダミー電極42は、金属材料からなる基材を、ターゲット41と同一の材料によりコーティングして構成したものであってもよい。
【0044】
アノード電極43は、ターゲット41とダミー電極42を取り囲むようにして真空容器1の上側壁1aに取付けられた、電気的に接地されたものである。アノード電極43は、ダミー電極42のダミースパッタ面42sを覆うカバー面43sが形成された被覆部431を備えている。このカバー面43sは、平面視において、スパッタ面41sの周囲を取り囲む環状のカバー面43sの周辺部又は全部を覆う、環状を成すものである。カバー面43sは、間隙G2(以下、第2間隙ともいう)を介して、少なくともダミー電極42のダミースパッタ面42sに対向するように形成されている。カバー面43sは、スパッタ面41s及びダミースパッタ面42sと略平行になるように形成されており、第2間隙G2の寸法D2はスパッタ面41sに沿った面内方向における位置によらず略一定である。第2間隙G2の寸法D2は、例えば約2.0mm以上3.5mm以下である。
【0045】
基板W側からターゲット41のスパッタ面41sを平面視して、アノード電極43は、その内周縁43tが第1間隙G1近傍に位置するように形成されており、具体的には、その内周縁43tがダミースパッタ面42sの内周縁よりも内側であって、且つスパッタ面41sの外周縁よりも外側に位置するように形成されている。別の視点から視ると、
図3に示すように断面視して、スパッタ面41sに平行な面内方向において、被覆部431の内向き(ダミー電極42からターゲット41へ向かう向き)の先端43tが、第1間隙G1の近傍に位置しており、具体的には、ダミースパッタ面42sの内側の端部よりも内側であって、かつスパッタ面41sの外側の端部よりも外側に位置している。
【0046】
また
図3に示すように、アノード電極43の被覆部431は、ダミー電極42からターゲット41に向かって先細りする(板厚が小さくなる)ように形成されている。具体的には、被覆部431におけるカバー面43sの裏面43u(基板W側の表面)における内向きの先端部には、ターゲット41のスパッタ面41sに向かって傾斜する傾斜面43vが形成されている。この傾斜面は、スパッタ面41sに対して0°超約30°以下の角度で傾斜しているのが好ましいが、特にこれに限らない。またアノード電極43の被覆部431の先端43tにおける厚みは約1mm以上約5mm以下が好ましいが、これに限らない。
【0047】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のスパッタリング装置100によれば、ターゲット41の周囲にこれと等電位なダミー電極42を設け、それを覆うように接地電位のアノード電極43を設けているので、ターゲット41及びダミー電極42とアノード電極43との間における電界の歪みを低減でき、この間にプラズマPを拡がり難くできる。その結果、ターゲット41及びダミー電極42とアノード電極43との間における放電を防止でき、安定して成膜を行うことができる。しかも、ターゲット41の周囲に配置したダミー電極42の表面をアノード電極43により覆うようにしているので、ターゲット41の利用効率の低下を抑えることができ、さらにはダミー電極42がスパッタリングされることによる不純物の発生も抑えられる。
【0048】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0049】
例えば他の実施形態のスパッタリング装置100は、
図4に示すように、ターゲット41の外側周面41tとダミー電極42の内側周面42tは、ターゲット41のスパッタ面41sから裏面側(ターゲット保持部3側)に向かって狭まるテーパ状をなすように形成されていてもよい。
【0050】
また前記実施形態では、互いに対向するターゲット41の外側周面41tとダミー電極42の内側周面42tは、スパッタ面41sを含む平面に対して傾斜していたがこれに限らない。他の実施形態では、ターゲット41の外側周面41tとダミー電極42の内側周面42tはスパッタ面41sを含む平面に対して傾斜していなくてもよく、例えばスパッタ面41sを含む面に対して直交するように形成されていてもよい。
【0051】
また前記実施形態では、アノード電極43の被覆部431はダミー電極42からターゲット41に向かって先細りするように形成されていたがこれに限らない。他の実施形態ではアノード電極43の被覆部431は一定の厚みを有していてもよい。
【0052】
また前記実施形態のスパッタリング装置100は、アンテナ6が処理室S内に配置される所謂内部アンテナ6式のものであったがこれに限らない。他の実施形態のスパッタリング装置100は、アンテナ6が処理室S外に配置される所謂外部アンテナ6式のものであってもよい。例えばスパッタリング装置100は、
図5に示すように、真空容器1の側壁(例えば上側壁)1aには、アンテナ6から生じた高周波磁場を処理室S内に透過させる磁場透過窓9が形成されており、アンテナ6はこの磁場透過窓9に対向するように処理室S外に配置されてよい。磁場透過窓9はアンテナ6側から視て矩形状であり、その長手方向が各ターゲット41の長手方向とは同一方向となるように形成されてよい。磁場透過窓9は、真空容器1の側壁1aに形成された開口を塞ぐように設けられた誘電体板によって構成されてよい。誘電体板を構成する材料は、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、フッ素樹脂(例えばテフロン)等の樹脂材料等の既知の材料であってよい。
【0053】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上記した本発明によれば、マグネトロン放電を行わないスパッタリング装置100において、ターゲットの利用効率の低下を抑えながら、ターゲットの端部での放電を防止し、安定して成膜を行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
100・・・スパッタリング装置
W ・・・基板
P ・・・プラズマ
41 ・・・ターゲット
41s ・・・スパッタ面
42 ・・・ダミー電極
42s・・・表面(ダミースパッタ面)
43 ・・・アノード電極
6 ・・・アンテナ