(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】蓄電デバイス並びにこれに用いる電極もしくはセパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20250324BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250324BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20250324BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20250324BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20250324BHJP
H01M 50/411 20210101ALI20250324BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20250324BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20250324BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20250324BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20250324BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20250324BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/131
H01M50/46
H01M50/449
H01M50/411
H01M50/489
H01M50/42
H01M50/426
H01M50/423
H01M50/414
(21)【出願番号】P 2022527521
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021007137
(87)【国際公開番号】W WO2021240926
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020092415
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安久津 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕子
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0365883(US,A1)
【文献】国際公開第2018/204242(WO,A1)
【文献】特開平05-158240(JP,A)
【文献】特開2012-038802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M 4/00- 4/62
H01M50/40-50/497
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に介在するセパレータと、
前記第1電極と前記セパレータとの間および前記第2電極と前記セパレータとの間の少なくとも一方に介在するバリア層と、
を具備し、
前記第1電極および前記第2電極のうち一方は正極であり、他方は負極であり、
前記正極は、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記バリア層は、錯化剤および樹脂材料を含
み、
前記錯化剤は、少なくとも1つのチオール基を有する1、3、5-トリアジン誘導体である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記バリア層が、厚さ1μm以上、40μm以下である、請求項1に記載の
非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記バリア層に粒子状の前記錯化剤が含まれている、請求項1または2に記載の
非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記錯化剤および前記樹脂材料の合計断面積に占める前記錯化剤の断面積の割合が、15%以上、100%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記トリアジン誘導体が、1,3,5-トリアジン-2-チオール、1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール、6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジメチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、および6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールからなる群より選択された少なくとも1種である、請求項
1に記載の
非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記樹脂材料が、ポリアクリロニトリル、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂およびポリイミド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の
非水電解質二次電池。
【請求項7】
第1表面およびその反対側の第2表面を有する電極と、
前記電極の前記第1表面および前記第2表面の少なくとも一方に担持されたバリア層と、
を具備し、
前記電極が、電極活物質層と、前記電極活物質層を担持する集電体と、を具備し、
前記電極活物質層は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な電極活物質を含み、
前記バリア層が、少なくとも前記電極活物質層の前記集電体側とは反対側の前記表面に設けられており、
前記バリア層が、錯化剤および樹脂材料を含
み、
前記錯化剤は、少なくとも1つのチオール基を有する1,3,5-トリアジン誘導体である、非水電解質二次電池用電極。
【請求項8】
前記バリア層が、厚さ1μm以上、40μm以下である、請求項
7に記載の
非水電解質二次電池用電極。
【請求項9】
前記バリア層に粒子状の前記錯化剤が含まれている、請求項
7または8に記載の
非水電解質二次電池用電極。
【請求項10】
前記錯化剤および前記樹脂材料の合計断面積に占める前記錯化剤の断面積の割合が、15%以上、100%未満である、請求項
7~9のいずれか1項に記載の
非水電解質二次電池用電極。
【請求項11】
前記トリアジン誘導体が、1,3,5-トリアジン-2-チオール、1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール、6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジメチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、および6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールからなる群より選択された少なくとも1種である、請求項
7に記載の
非水電解質二次電池用電極。
【請求項12】
前記樹脂材料が、ポリアクリロニトリル、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂およびポリイミド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種である、請求項
7~11のいずれか1項に記載の
非水電解質二次電池用電極。
【請求項13】
第1表面およびその反対側の第2表面を有するセパレータと、
前記セパレータの前記第1表面および前記第2表面の少なくとも一方に担持されたバリア層と、
を具備し、
前記バリア層が、錯化剤および樹脂材料を含
み、
前記錯化剤は、少なくとも1つのチオール基を有する1,3,5-トリアジン誘導体である、
正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む非水電解質二次電池用セパレータ。
【請求項14】
前記バリア層が、厚さ1μm以上、40μm以下である、請求項
13に記載の
非水電解質二次電池用セパレータ。
【請求項15】
前記バリア層に粒子状の前記錯化剤が含まれている、請求項
13または14に記載の
非水電解質二次電池用セパレータ。
【請求項16】
前記錯化剤および前記樹脂材料の合計断面積に占める前記錯化剤の断面積の割合が、15%以上、100%未満である、請求項
13~15のいずれか1項に記載の
非水電解質二次電池用セパレータ。
【請求項17】
前記トリアジン誘導体が、1,3,5-トリアジン-2-チオール、1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール、6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジメチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、および6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールからなる群より選択された少なくとも1種である、請求項
13に記載の
非水電解質二次電池用セパレータ。
【請求項18】
前記樹脂材料が、ポリアクリロニトリル、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂およびポリイミド樹脂からなる群より選択された少なくとも1種である、請求項
13~17のいずれか1項に記載の
非水電解質二次電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主に蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスは、電子機器、産業機器、自動車用機器など様々な分野において使用されている。近年、蓄電デバイスの優れた特性を確保するために、構成要素の改良が数多く試みられている。
【0003】
例えば、非水電解質電池やリチウムイオンキャパシタなどの蓄電デバイスは、電気化学的な酸化還元反応を利用する。これらの蓄電デバイス内に、銅、鉄などの金属が不純物として存在すると、その金属の溶解析出反応が起こり、電池電圧が低下する。結果として、蓄電デバイスの充放電サイクル特性が低下する。酸化還元反応を利用する蓄電デバイスにおいて、金属の溶解と析出を抑制することは重要である。
【0004】
金属の溶解と析出を抑制する方法として、例えば、金属表面処理分野においては、錯化剤を用いる技術が知られている。錯化剤は、金属イオンと結合して錯体を形成する。金属表面に錯化剤を含むコーティングを施すことにより、金属の溶解と析出を抑制し得る。例えば、特許文献1が提案する金属基体への適用組成物は、金属カチオン、錯化剤および水性担体を含む組成物である。金属基体の加工方法は、組成物を基体に適用するステップと、組成物を乾燥させて化成コーティングを形成するステップとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
金属表面処理分野で用いられる錯化剤を蓄電デバイスに適用しても、金属の溶解と析出を充分に抑制することは困難である。例えば、錯化剤を、電解液に溶解させ、もしくは電極合剤中に分散させた場合、金属イオンと錯化剤との結合が効率的に進まない。
【0007】
電解液、電極合剤などに錯化剤を含ませると、電極の表面に錯化剤を含むSEI(Solid electrolyte interface)被膜が形成され得るが、このような被膜内に十分量の錯化剤を保持させることは困難である。
【0008】
本開示の一側面は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在するセパレータと、前記第1電極と前記セパレータとの間および前記第2電極と前記セパレータとの間の少なくとも一方に介在するバリア層と、を具備し、前記バリア層は、錯化剤および樹脂材料を含む、蓄電デバイスに関する。
【0009】
本開示の他の側面は、第1表面およびその反対側の第2表面を有する電極と、前記電極の前記第1表面および前記第2表面の少なくとも一方に担持されたバリア層と、を具備し、前記電極が、電極活物質層と、前記電極活物質層を担持する集電体と、を具備し、前記バリア層が、少なくとも前記電極活物質層の前記集電体側とは反対側の前記表面に設けられており、前記バリア層が、錯化剤および樹脂材料を含む、蓄電デバイス用電極に関する。
【0010】
本開示の更に他の側面は、第1表面およびその反対側の第2表面を有するセパレータと、前記セパレータの前記第1表面および前記第2表面の少なくとも一方に担持されたバリア層と、を具備し、前記バリア層が、錯化剤および樹脂材料を含む、蓄電デバイス用セパレータに関する。
【0011】
本開示によれば、蓄電デバイスにおける充放電サイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切り欠いた斜視図である。
【
図2】
図2は、本開示に係る電極群の一例の模式図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る電極群の別の例の模式図である。
【
図4】
図4は、本開示に係る電極群の更に別の例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示に係る蓄電デバイスは、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極との間に介在するセパレータと、第1電極とセパレータとの間および第2電極とセパレータとの間の少なくとも一方に介在するバリア層とを具備する。
【0014】
蓄電デバイスは、特に限定されないが、リチウム一次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム(金属)二次電池などの非水電解質電池、活性炭や導電性高分子を正極に用いるとともに炭素材料を負極に用いたリチウムイオンキャパシタなどの電気化学キャパシタ、電気二重層キャパシタなどが挙げられる。非水電解質電池、電気化学キャパシタなどの蓄電デバイスの場合、第1電極および第2電極のうち一方は正極であり、他方は負極である。
【0015】
バリア層は、錯化剤および樹脂材料を含む。錯化剤は、金属イオンと錯体を形成し得る。樹脂材料は、錯化剤を少なくとも一方の電極とセパレータとの間に保持させるバインダの役割を有する。バリア層は、少なくとも一方の電極とセパレータとの間において層状に形成されていればよく、膜、シートもしくはフィルムの形態を有してもよい。上記構成によれば、バリア層は、少なくとも一方の電極とセパレータとの間における金属イオンの移動を抑制するバリアとなる。
【0016】
バリア層による金属イオンの移動抑制の効果は、例えば、蓄電デバイス内に、銅、鉄などの不純物金属が存在する場合に顕著である。不純物金属が正極電位に晒されると、不純物金属から金属イオンが電解液に溶出することがある。また、電極中の活物質から金属イオンが溶出することもある。例えば、非水電解質電池の正極は、正極活物質を含み、正極活物質は電位が高く、かつ金属成分(多くの場合、遷移金属)を含む。電解液中に溶出した金属イオンは、正極側から負極側に移動し、不純物金属として析出する。これに対し、蓄電デバイス内にバリア層を設ける場合、溶出した金属イオンの電極間での移動が顕著に抑制され、電池電圧の低下が抑制される。以下、負極で不純物金属として析出し得る金属イオンを不純物金属イオンとも称する。
【0017】
バリア層内の錯化剤は、樹脂材料によって移動が制限されている。一方、正極側で電解液中に溶出した不純物金属イオンは、負極側へ移動する際にバリア層を通過する。従って、バリア層により、不純物金属イオンと錯化剤とが相互作用する確率が高められ、効率的に錯体を形成し得る。錯体を形成した金属イオンは、錯化剤と同様に移動の自由度が制限される。よって、正極側から負極側への不純物金属イオンの移動を大幅に抑制することができる。
【0018】
錯化剤は、少なくとも一方の電極とセパレータとの間に偏在しているが、一部は蓄電デバイス内を拡散する。拡散により不純物金属の表面に到達した錯化剤は、金属表面に被膜を形成し、金属イオンの溶出を抑制する。また、正極中に拡散した錯化剤は、正極活物質の表面に被膜を形成し、正極活物質からの金属イオンの溶出を抑制する。すなわち、上記構成によれば、金属イオンの正極側から負極側への移動が抑制されるだけでなく、金属イオンの溶出自体も抑制される。
【0019】
次に、本開示に係る蓄電デバイス用電極は、第1表面およびその反対側の第2表面を有する電極と、電極の第1表面および第2表面の少なくとも一方に担持されたバリア層とを具備する電極(以下、電極Xと称する。)である。バリア層を除く電極部分は、上記蓄電デバイスの第1電極もしくは第2電極に対応し、例えば非水電解質電池の正極もしくは負極に対応する。すなわち、蓄電デバイス用電極は、バリア層を有する正極であり得るし、バリア層を有する負極であり得る。
【0020】
電極は、例えば、電極合剤層(もしくは電極活物質層)と、これを担持する集電体とを含む。この場合、バリア層を有する第1表面および第2表面の全部もしくは大半は、いずれも電極合剤層(もしくは電極活物質層)の集電体側とは反対側の表面(以下、外側表面ともいう。)に相当する。ただし、電極合剤層で覆われない集電体の表面もバリア層を有する第1表面もしくは第2表面の少なくとも一部になり得る。
【0021】
充電時にリチウム金属が析出し、放電時にリチウム金属が溶解するリチウム二次電池の場合、負極が負極合剤層(もしくは負極活物質層)を有さない場合がある。この場合、バリア層を有する第1表面および第2表面の全部もしくは大半は、負極集電体の表面であり得る。
【0022】
次に、本開示に係る蓄電デバイス用セパレータは、第1表面およびその反対側の第2表面を有するセパレータと、セパレータの第1表面および第2表面の少なくとも一方に担持されたバリア層とを具備するセパレータ(以下、セパレータXと称する。)である。バリア層を除くセパレータ部分は、上記蓄電デバイスのセパレータに対応する。
【0023】
少なくとも1つのバリア層を有する上記蓄電デバイスは、第1電極に対応する電極を有する電極X、第2電極に対応する電極を有する電極XおよびセパレータXの少なくとも1つを用いることで構成し得る。バリア層は、単層構造でもよく、複層構造でもよい。例えば、両面にバリア層を有する電極Xと両面にバリア層を有するセパレータXとを重ねて構成される蓄電デバイスは、当該電極とセパレータとの間に2層構造のバリア層を有する。
【0024】
不純物金属イオンを効率よく捕捉するには、バリア層がある程度の厚さを有することが望まれる。一方、抵抗成分の増加を抑制し、良好な蓄電デバイスの性能を維持する観点からは、バリア層が過度に厚くないことが望ましい。バリア層の厚さは、例えば、1μm以上、40μm以下であってもよく、2μm以上、10μm以下であってもよい。バリア層の厚さは、例えば、バリア層の厚さ方向に沿った断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で撮影し、電極とセパレータとの間において樹脂材料が存在する領域の厚さTを5箇所測定し、これらを平均して求められる。
【0025】
錯化剤の形状は特に限定されないが、樹脂材料中に高濃度で分散させることが可能となる点で、粒子状であることが好ましい。すなわち、錯化剤は、バリア層に侵入する電解液に完全に溶解せず、少なくとも一部が固体状態で存在することが望ましい。
【0026】
バリア層に十分量の錯化剤を保持させる観点から、錯化剤および樹脂材料の合計断面積に占める錯化剤の断面積の割合は、15%以上、100%未満であってもよく、15%以上、90%以下であってもよく、50%以上、90%以下であってもよい。錯化剤および樹脂材料の合計断面積に占める錯化剤の断面積の割合は、例えば、バリア層の厚さ方向に沿った断面を、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)(SEM-EDX)で撮影し、撮影範囲における樹脂材料が占める面積と錯化剤が占める面積を求め、これらの合計面積に占める錯化剤が占める面積の割合として求められる。
【0027】
バリア層に含まれる錯化剤の量は、樹脂材料100質量部あたり、5質量部~1000質量部であってもよく、15質量部~500質量部であってもよく、60質量部~500質量部であってもよい。
【0028】
錯化剤としては、特に限定されないが、少なくとも1つのチオール基(SH基)を有する1,3,5-トリアジン誘導体などが用いられる。少なくとも1つのチオール基(SH基)を有する1,3,5-トリアジン誘導体としては、1,3,5-トリアジン-2-チオール、1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール、6-置換-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールなどが挙げられる。6-置換-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの置換基としてはヒドロキシ基、アルキル基、アルキルチオ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリルアミノ基などが好ましい。具体例としては、6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジメチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジオクチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-アリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールなどが挙げられる。中でも、6-メチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルチオ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジメチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2-チオール、1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオールなどが挙げられる。錯化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
樹脂材料としては、特に限定されないが、ポリアクリロニトリル、アクリル樹脂(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸エチル、エチレン-アクリル酸共重合体、またはこれらの塩)、フッ素樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリアミド樹脂(例えば、アラミド樹脂)およびポリイミド樹脂(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ビニル樹脂(例えば、ポリ酢酸ビニル)、ゴム状材料(例えば、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR))などが用いられる。錯化剤を強固に保持しやすい点で、多孔質膜を形成しやすいポリアクリロニトリルが好ましい。樹脂材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
バリア層は、例えば、錯化剤、樹脂材料および液状成分を含む混合物を、電極またはセパレータの表面に塗布し、その後、乾燥させて液状成分を除去することにより形成される。混合物中、錯化剤および樹脂材料は、溶解していてもよく、分散していてもよい。液状成分は、錯化剤、樹脂材料の種類に応じて適宜決定され、例えば、水、アルコール(例えば、エタノール)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン)、アミド(例えば、ジメチルホルムアミド)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒などが用いられる。混合物の塗布方法は、特に限定されず、各種コータを用いた塗布法、浸漬法、スプレー法などが適用される。
【0031】
錯化剤、樹脂材料および液状成分を含む混合物を、電極またはセパレータの表面に塗布する際に、混合物の粘度をある程度高めることで塗膜を十分に厚く形成することができ、形成されるバリア層の膜厚が大きくなりやすい。混合物の粘度は、樹脂材料の分子量により制御することができる。
【0032】
以下に、本開示に係る蓄電デバイスについて、非水電解質二次電池を例として構成要素ごとにより具体的に説明する。
【0033】
(正極)
正極は、正極活物質を含む。正極は、通常、正極集電体と、正極集電体に保持された正極合剤とを備える。正極は、通常、正極集電体に保持された層状の正極合剤(以下、正極合剤層と称する。)を備えている。正極合剤層は、正極合剤の構成成分を分散媒に分散させた正極スラリを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0034】
正極合剤は、必須成分として、正極活物質を含み、任意成分として、結着剤、増粘剤、導電剤などを含むことができる。
【0035】
正極活物質としては、例えば層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。中でも、Niと、Coと、AlおよびMnの少なくとも一方を含むリチウム遷移金属複合酸化物(以下、複合酸化物NCとも称する。)は、高容量かつ高電圧を発現するため有望である。ここで、複合酸化物NCのNi含有量を多くすることができれば、コスト的に有利であるとともに、より高容量を確保することができる。Ni含有量が多い場合、複合酸化物NCの結晶構造が不安定になり、Niなどの遷移金属が溶出しやすくなる傾向がある。また、Ni含有量が多い複合酸化物NCからNiが溶出すると、粒子表面に酸化ニッケル(NiO)層が形成され、正極の抵抗を増大させる原因になる。しかし、バリア層を設けることにより、溶出した金属イオンの正極側から負極側への移動を抑制し、負極での金属の析出を抑えることがきる。さらに、錯化剤には、複合酸化物NCの表面に吸着して被膜を形成し、遷移金属(特にNi)の溶出を抑制する作用が期待できる。
【0036】
複合酸化物NCの組成は、例えば、LiαNi(1-x1-x2-x3-y)Cox1Mnx2Alx3MyO2+β(0.95≦α≦1.05、0.5≦1-x1-x2-x3-y≦0.95、0<x1≦0.04、0≦x2≦0.1、0≦x3≦0.1、0<x2+x3≦0.2、0≦y≦0.1、-0.05≦β≦0.05)で表すことができる。ただし、Mは、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Fe、Zn、B、Si、Mg、Ca、SrおよびYからなる群より選択された少なくとも1種である。
【0037】
Niの比率(原子比)を示す(1-x1-x2-x3-y)は、高容量化の観点からは、0.8≦1-x1-x2-x3-y≦0.95を満たすことが望ましく、0.9≦1-x1-x2-x3-y≦0.95を満たすことがより望ましい。
【0038】
Coの比率(原子比)を示すx1は、0より大きく、0.04以下であり、0.02以下が好ましく、0.015以下がより好ましい。
【0039】
Mnの比率(原子比)を示すx2は、0≦x2≦0.1であり、0<x2≦0.1が好ましい。Mnを含む複合酸化物NCは、比較的廉価で高容量である。
【0040】
Alの比率(原子比)を示すx3は、0≦x3≦0.1であり、0.03≦x3≦0.1が好ましく、0.05≦x3≦0.1であってもよい。複合酸化物NCがAlを含むことで、結晶構造が安定化され、高いサイクル特性を確保しやすくなる。
【0041】
複合酸化物NCを構成する元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)、あるいはEDXなどにより測定することができる。
【0042】
正極活物質は、複合酸化物NC以外のリチウム遷移金属複合酸化物を含むことができるが、複合酸化物NCの比率が多いことが好ましい。正極活物質に占める複合酸化物NCの比率は、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上であってもよい。正極活物質に占める複合酸化物NCの比率は100質量%以下である。正極活物質を、複合酸化物NCのみで構成してもよい。
【0043】
結着剤としては、例えば、樹脂材料が用いられる。結着剤としては、例えば、フッ素樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリアミド樹脂(例えば、アラミド樹脂)、ポリイミド樹脂(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド)、アクリル樹脂(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、またはこれらの塩)、ビニル樹脂(例えば、ポリ酢酸ビニル)、ゴム状材料(例えば、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR))が挙げられる。結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
増粘剤としては、例えば、セルロースエーテルなどのセルロース誘導体が挙げられる。セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体、メチルセルロースなどが挙げられる。CMCの変性体には、CMCの塩も含まれる。塩としては、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩)、アンモニウム塩などが挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
導電剤としては、例えば、導電性繊維、導電性粒子が挙げられる。導電性繊維としては、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維などが挙げられる。導電性粒子としては、導電性炭素(カーボンブラック、黒鉛など)、金属粉末などが挙げられる。導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
正極スラリに用いる分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、アルコール(例えば、エタノール)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン)、アミド(例えば、ジメチルホルムアミド)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0047】
正極集電体は、非水電解質二次電池の種類に応じて選択される。正極集電体としては、例えば、シート状のものが挙げられる。集電体としては、金属箔などを用いてもよい。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0048】
バリア層は、正極集電体の少なくとも一方の表面に形成された正極合剤層(好ましくは正極集電体の両方の表面に形成された正極合剤層)の外側表面の50%以上を覆うように形成することが望ましく、特に正極合剤層の外側表面の90%以上を覆うように形成することが望ましい。不純物金属イオンは正極側で生成するため、正極表面にバリア層を形成することで、バリア層がより有効に作用し得る。すなわち、不純物金属や正極活物質に金属イオンの溶出を抑制する被膜が形成されやすくなり、かつ生成した金属イオンを早期に効率よく錯化することが可能になる。
【0049】
(負極)
負極は、負極活物質を含む負極合剤と、負極合剤を保持する負極集電体とを備えてもよい。負極は、層状の負極合剤(以下、負極合剤層と称する。)を備えてもよい。負極合剤は、さらに、結着剤、増粘剤および導電剤からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。なお、リチウム二次電池の場合、負極は、負極集電体を具備すればよい。
【0050】
負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金などを用いてもよいが、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料が好適に用いられる。このような材料としては、炭素質材料、Si含有材料、Sn含有材料などが挙げられる。負極は、負極活物質を1種含んでいてもよく、2種以上組み合わせて含んでもよい。負極活物質としては、炭素質材料、Si含有材料が好ましい。炭素質材料とSi含有材料とを組み合わせて用いてもよい。
【0051】
炭素質材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)が挙げられる。炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ないことから、炭素質材料としては黒鉛が好ましい。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子が挙げられる。黒鉛粒子は、部分的に、非晶質炭素、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素を含んでもよい。
【0053】
Si含有材料としては、Si単体、ケイ素合金、およびケイ素化合物(ケイ素酸化物、シリケートなど)などが挙げられる。ケイ素酸化物としては、SiOx粒子が挙げられる。xは、例えば0.5≦x<2であり、0.8≦x≦1.6であってもよい。Si含有材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
結着剤としては、正極で例示した樹脂材料などを用いることができる。導電剤としては、例えば、正極で例示したものから選択できる。負極集電体の形状は、正極集電体について説明した形状と同様である。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金が例示される。負極スラリに用いられる分散媒としては、例えば、正極について例示したものから選択できる。
【0055】
バリア層は、負極集電体の少なくとも一方の表面に形成された負極合剤層(好ましくは負極集電体の両方の表面に形成された負極合剤層)の外側表面の50%以上を覆うように形成することが望ましく、特に90%以上を覆うように形成することが望ましい。不純物金属イオンは負極側で金属に還元されて析出するため、負極表面にバリア層を形成することで、金属の析出を効率よく阻害することが可能になる。
【0056】
(非水電解質)
非水電解質は、液状の非水電解質(つまり非水電解液)のみならず、ゲル化剤もしくはマトリックス材料と電解液とが複合化された流動性のないゲル電解質もしくは固体電解質であってもよい。非水電解質とは、非水電解液、ゲル電解質および固体電解質を包含する概念であり、水溶液の電解質を除く概念である。
【0057】
非水電解液を構成する非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどが挙げられる。非水電解質は、非水溶媒を1種含んでもよく、2種以上組み合わせて含んでもよい。
【0058】
非水電解液を構成する電解質塩(リチウム塩)としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩、イミド塩が挙げられる。ホウ酸塩としては、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウムなどが挙げられる。イミド塩としては、ビスフルオロスルホニルイミドリチウム(LiN(FSO2)2)、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)(C4F9SO2))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(C2F5SO2)2)などが挙げられる。非水電解質は、リチウム塩を、1種含んでもよく、2種以上組み合わせて含んでもよい。
【0059】
非水電解液中の電解質塩の濃度は、例えば、0.5mol/L以上、2mol/L以下である。
【0060】
(セパレータ)
セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、例えば、微多孔薄膜、織布、不織布もしくはこれらから選択される少なくとも2つの積層体を用いることができる。セパレータの材質としては、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン)が好ましい。
【0061】
バリア層は、セパレータの少なくとも一方の表面(好ましくは両面)の50%以上を覆うように形成することが望ましく、特に90%以上を覆うように形成することが望ましい。例えば、セパレータの両面にバリア層を形成することで、正極と負極との間には必ず2層のバリア層が介在することになる。正極側のバリア層は、正極活物質に作用するとともに正極側で生成する不純物金属イオンを早期に効率よく錯化する。また、負極側のバリア層は、負極側での金属の析出を効率よく阻害する。さらに、通常セパレータは、正極および負極よりも幅が大きく、正極の全面と負極の全面との間に介在するため、金属イオンがバリア層を通過せずに電極間を移動することは非常に困難である。
【0062】
非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回された電極群と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。あるいは、巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層された積層型の電極群など、他の形態の電極群が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0063】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の一例として角形の非水電解質二次電池の構造を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0064】
図1に示すように、電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および非水電解質とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在するセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして巻回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0065】
負極の負極集電体は、負極リード3を介して、封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続されている。負極端子6は、樹脂製のガスケット7により、封口板5から絶縁されている。正極の正極集電体は、正極リード2を介して、封口板5の裏面に接続されている。すなわち、正極リード2は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続されている。封口板5の周縁は、電池ケース4の開口端部に嵌合しており、嵌合部はレーザー溶接されている。封口板5に設けられている電解液の注入孔は、封栓8により塞がれている。
【0066】
図2に正極9の両面がバリア層12を有する場合の電極群1の一例を模式的に示す。
図3に負極10の両面がバリア層12を有する場合の電極群1の一例を模式的に示す。
図4にセパレータ11の両面がバリア層12を有する場合の電極群1の一例を模式的に示す。
【0067】
なお、非水電解質二次電池を例に挙げて説明したが、蓄電デバイスは非水電解質二次電池に限定されない。
【0068】
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
《実施例1~21および比較例1~5》
下記の手順で、非水電解質二次電池を作製し、評価を行った。各実施例および比較例の電池の構成は、表1に示す。
【0070】
(1)正極の作製
正極活物質粒子100質量部と、アセチレンブラック1質量部と、ポリフッ化ビニリデン1質量部と、適量のNMPとを混合し、正極スラリを得た。次に、アルミニウム箔の片面に正極スラリを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の片面に正極合剤層(厚さ95μm、密度3.6g/cm3)を形成し、正極を得た。正極活物質としては、LiNi0.88Co0.09Al0.03O2を用いた。実施例8~14においては、下記(5)のようにして正極合剤層の全面にバリア層を形成した。
【0071】
(2)負極の作製
負極活物質(黒鉛)98質量部と、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)1質量部と、SBR1質量部と、適量の水とを混合し、負極スラリを調製した。次に、負極集電体である銅箔の片面に負極スラリを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の片面に負極合剤層を形成した。実施例15~21においては、下記(5)のようにして負極合剤層の全面にバリア層を形成した。
【0072】
(3)セパレータ
セパレータとしては、厚さ12μmのポリエチレン製セパレータを用いた。
【0073】
実施例1~7においては、下記(5)のようにして正極側の表面にバリア層を形成した。
【0074】
比較例2においては、樹脂材料を混合しなかったこと以外は実施例1~7と同様の方法でバリア層を形成することにより、セパレータに錯化剤のみを担持させ、樹脂材料は担持させなかった。
【0075】
比較例3~5においては、錯化剤を混合しなかったこと以外は実施例1~7と同様の方法でバリア層を形成することにより、セパレータに樹脂材料のみを担持させ、錯化剤は担持させなかった。
【0076】
(4)非水電解液の調製
ECおよびEMCの混合溶媒(EC:EMC=3:7(体積比))にLiPF6を溶解させることにより非水電解液を調製した。非水電解液におけるLiPF6の濃度は1.0mol/Lとした。
【0077】
(5)バリア層の形成
表1に示す錯化剤(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール)と、樹脂材料であるポリアクリロニトリル(重量平均分子量150,000)と、液状成分である適量のNMPとを含む混合物(ペースト)を調製した。調製した混合物を、正極合剤層の表面の全面、負極合剤層の表面の全面またはセパレータの正極側の表面の全面に塗布し、その後、乾燥させ、表1に示す厚さを有するバリア層を形成させた。錯化剤の断面積の割合は、ペーストに含まれる錯化剤と液状成分の含有量を変えて、ペースト粘度を制御することにより変化させた。錯化剤の量は、樹脂材料100質量部あたり10質量部~830質量部の範囲で変化させた。
【0078】
(6)バリア層の評価
(バリア層の厚さ)
バリア層形成後の正極、負極またはセパレータについて、バリア層の厚さ方向に沿った断面をSEMで撮影し、樹脂材料が存在する領域の厚さTを5箇所測定し、これらを平均して求めた。結果を表1に示す。なお、表1中、比較例3~5のバリア層の厚さは、セパレータに担持させた樹脂材料(錯化剤を含まない)の厚さである。
【0079】
(錯化剤および樹脂材料の合計断面積に占める錯化剤の断面積の割合)
バリア層形成後の正極、負極またはセパレータについて、バリア層の厚さ方向に沿った断面を、SEM-EDX(日本電子株式会社製のJSM-7001F)で撮影した。撮影範囲における樹脂材料が占める面積と錯化剤が占める面積を求め、これらの合計面積に占める錯化剤が占める面積の割合を求めた。結果を表1に示す。
【0080】
(7)非水電解質二次電池の作製
実施例1~21および比較例1~5の非水電解質二次電池の評価用セルを作製した。まず、正極を所定の形状に切り出し、評価用の正極を得た。正極には20mm×20mmの正極として機能させる領域と、5mm×5mmのタブリードとの接続領域とを設けた。その後さらに、上記接続領域上に形成された正極合剤層を削り取り、正極集電体を露出させた。その後、正極集電体の露出部分を正極タブリードと接続し、正極タブリードの外周の所定の領域を絶縁タブフィルムで覆った。その後、意図的に正極合剤層の中央付近に、直径約100μmの銅粉を埋め込んだ。
【0081】
負極を正極と同様の形状に切り出し、評価用の負極を得た。正極と同様に形成した接続領域上に形成された負極合剤層を剥がし取り、負極集電体を露出させた。その後、正極と同様に負極集電体の露出部分を負極タブリードと接続し、負極タブリードの外周の所定の領域を絶縁タブフィルムで覆った。
【0082】
評価用の正極と負極を用いてセルを作製した。まず、正極と負極とを、セパレータを介して正極合剤層と負極合剤層とが重なるように対向させて極板群を得た。次に、60×90mmの長方形に切り取ったAlラミネートフィルム(厚さ100μm)を半分に折りたたみ、60mmの長辺側の端部を230℃で熱封止し、60×45mmの筒状にした。その後、作製した極板群を、筒の中に入れ、Alラミネートフィルムの端面と各タブリードの絶縁タブフィルムの位置を合わせて230℃で熱封止した。次に、Alラミネートフィルムの熱封止されていない短辺側から非水電解液を0.3cm3注液し、注液後、0.06MPaの減圧下で5分間静置し、各合剤層内に非水電解液を含浸させた。最後に、注液した側のAlラミネートフィルムの端面を230℃で熱封止し、評価用セルを作製した。なお、評価用セルの作製は、露点-50℃以下のドライ環境下で行った。
【0083】
(8)電池の評価
評価用セルを、一対の80×80cmのステンレス鋼(厚さ2mm)のクランプで挟んで0.2MPaで加圧固定した。そして、25℃の恒温槽中で、以下の条件で充放電し、100サイクル後の容量維持率(%)を求めた。
【0084】
充電は、電池電圧が4.2Vに達するまで0.3C(1Cは設計容量を1時間で放電する電流値)の定電流で行い、その後、電流値が0.05C未満になるまで4.2Vの定電圧で行った。放電は、電池電圧が2.5Vに達するまで0.3Cの定電流で行った。充電と放電の間は20分間、開回路にて静置した。
【0085】
100サイクル目の放電容量の、1サイクル目の放電容量に対する比率を容量維持率(%)として求めた。容量維持率の値が高いほど、充放電サイクル特性の低下が抑制されたことを意味する。結果を表1に示す。
【0086】
次に、容量維持率の評価後の評価用セルを分解し、銅粉を埋め込んだ正極の対向部に位置する負極表面をSEM―EDXで観察し、金属の析出の有無を確認した。金属の溶解析出反応が進行した場合、負極表面に斑点状の金属の析出が見られる。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
比較例1に示すように、バリア層を形成しない場合には、正極に埋め込まれた金属(銅)から溶出した金属イオンが負極側に移動したため、容量維持率が低く、かつ金属の析出が見られた。しかし、バリア層をセパレータ、正極または負極に担持させた実施例1~21の電池では、充放電を100サイクル繰り返した後も高い容量維持率を示し、金属の析出は見られなかった。これは、正極から溶出した金属イオンが、バリア層の錯化剤と錯体を形成して移動を制限され、負極での金属の析出が抑制されたためと考えられる。さらに、錯化剤に由来して形成される被膜によって、正極での金属イオンの溶出自体も抑制されていると考えられる。また、バリア層の厚さが大きくなるほど、高い容量維持率を示した。金属イオンがバリア層を移動する距離が長いほど、より高い確率で金属イオンと錯化剤との結合が進み、負極での金属の析出が一層抑制されるものと推察される。
【0089】
一方、錯化剤または樹脂材料のいずれか一方のみを担持させた比較例2~5の電池では、どちらも担持させなかった比較例1の電池と同様に、金属が析出して容量維持率が低くなった。蓄電デバイス内で、錯化剤が効率よく金属イオンを捕捉し、金属イオンの移動を抑制するためには、錯化剤を強固に保持する樹脂材料が有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示の蓄電デバイスは、移動体通信機器、携帯電子機器等の主電源、車載用電源などに適しているが、用途はこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0091】
1 電極群
2 正極リード
3 負極リード
4 電池ケース
5 封口板
6 負極端子
7 ガスケット
8 封栓
9 正極
10 負極
11 セパレータ
12 バリア層