(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】骨形成促進温度応答性巨大分子
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20250324BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20250324BHJP
A61K 31/661 20060101ALI20250324BHJP
A61K 33/14 20060101ALI20250324BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20250324BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20250324BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20250324BHJP
A61L 24/04 20060101ALI20250324BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20250324BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20250324BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20250324BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
A61L27/18 ZNA
A61K9/06
A61K31/661
A61K33/14
A61K38/06
A61K47/59
A61L24/00 210
A61L24/00 240
A61L24/04 200
A61L27/52
A61L27/54
A61P19/08
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019531139
(86)(22)【出願日】2017-12-08
(86)【国際出願番号】 US2017065352
(87)【国際公開番号】W WO2018107049
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-06
(32)【優先日】2016-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513208191
【氏名又は名称】ノースウエスタン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】NORTHWESTERN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】633 Clark Street,Evanston,Illinois 60208,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アミール,ギジェルモ エー.
(72)【発明者】
【氏名】モロチュニク,シモーナ
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】渕野 留香
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-527208号公報(JP,A)
【文献】特表2010-525070号公報(JP,A)
【文献】特表2010-537763号公報(JP,A)
【文献】Frontiers Bioengineering Biotechnology Conference Abstract: 10th World Biomaterials Congress,2016.03.30,<URL:https://www.frontiersin.org/10.3389/conf.FBIOE.2016.01.02759/event_abstract>
【文献】Biomedical Materials,2016, Vol.11, No.2, 025021,pp.1-13
【文献】Calcif. Tissue Int., 1992,Vol.51, pp.305-311
【文献】Biomaterials, 2011, Vol.31 No.14, pp.3976-3985
【文献】Biomacromolecules, 2014, Vol.15, pp.3942-3952
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61L
REGISTRY/CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMedPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート
、及びβ-グリセロリン酸の各モノマー
からなる重縮合物と、N-イソプロピルアクリルアミドモノマーとのフリーラジカル重合物であるPPCN系リン酸塩表出ハイドロゲルを含む、骨修復を促進
する用途に使用
するための組成物であって、
前記PPCN系リン酸塩表出ハイドロゲルは、
クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、N-イソプロピルアクリルアミド、及びβ-グリセロリン酸が共有結合にて連結
されたポリマーである、組成物。
【請求項2】
(a)クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びβ-グリセロリン酸の各モノマーの重縮合を行う工程、
並びに、それに続く(b)
(a)工程で得られた重縮合物とN-イソプロピルアクリルアミド
モノマーとのフリーラジカル重合を行う工程を含む、
クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、N-イソプロピルアクリルアミド、及びβ-グリセロリン酸が共有結合にて連結されたポリマーを製造する工程を含む、
請求項1に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2016年12月9日に出願された米国仮特許出願第62/432,266号、及び2017年10月12日に出願された米国仮特許出願第62/571,495号に対する優先権を主張するものであり、そのいずれも参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
本明細書は、室温で液体であり、担体材料として使用でき、体温でゲルとなって放出制御を可能にする、注入可能な温度応答性ハイドロゲルを提供する。特に、治療剤(例えば、薬物、イオン等)が内部に組み込まれている、または付加されているPPCN系ハイドロゲルを提供し、併せて、それを調製する方法、ならびにそれを、例えば、骨の形成/修復の促進及び/または骨疾患の治療のために使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
骨組織再生分野において骨欠損修復用材料の開発が重要視されてきている。骨疾患を対象とする研究は非常に少ない。したがって、材料の骨形成誘導能というよりむしろ材料の強度が主な焦点とされてきた。これらの材料は、生物学的に不活性(例えば、メタクリル酸メチル)または脆弱(例えば、リン酸カルシウム)な充填用硬ペースト剤であることが多い。その上、炎症及び骨粗鬆症性骨という課題はほとんど研究されていない。侵襲性が最小限の手技で使用して特有の骨折部位に適合させることができる材料、複雑な細胞環境と相互作用して、すべての骨種で治癒を加速させ、幹細胞が骨細胞になるよう誘導し、かつ必要に応じ、局所的薬物送達を可能にする材料の開発は未だそのニーズが満たされていない。
【発明の概要】
【0004】
本明細書は、室温で液体であり、担体材料として使用でき、体温でゲルとなって放出制御を可能にする、注入可能な温度応答性ハイドロゲルを提供する。特に、治療剤(例えば、薬物、イオン等)が内部に組み込まれている、または付加されているPPCN系ハイドロゲルを提供し、併せて、それを調製する方法、ならびにそれを、例えば、骨の形成/修復の促進及び/または骨疾患の治療のために使用する方法を提供する。
【0005】
いくつかの実施形態では、本明細書は、クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の各モノマー、ならびにその中に組み込まれている少なくとも1つの生理活性物質及び/またはそれに付加されている少なくとも1つの生理活性物質を含むPPCN系ハイドロゲルを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、生理活性物質は、PPCN系ハイドロゲル骨格内に組み込まれているさらなるモノマーである。いくつかの実施形態では、生理活性物質はβ-グリセロリン酸である。いくつかの実施形態では、生理活性物質は、PPCNハイドロゲルに付加されているペンダント基である。いくつかの実施形態では、ペンダント基は低分子である。いくつかの実施形態では、ペンダント基はペプチドである。いくつかの実施形態では、生理活性物質は環状Arg-Gly-Asp(cRGD)ペプチドである。いくつかの実施形態では、生理活性物質はイオン性架橋剤である。いくつかの実施形態では、生理活性物質は、Ca2+、Ba2+、またはSr2+である。
【0006】
いくつかの実施形態では、本明細書は、クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、及びβ-グリセロリン酸の各モノマーを含むPPCN系リン酸塩表出ハイドロゲルを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、PPCN系リン酸塩表出ハイドロゲルは、構造
【0007】
【0008】
を含み、ここで、x及びyは互いに独立して2~20である。いくつかの実施形態では、組成物は、(a)クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びβ-グリセロリン酸の各モノマーの重縮合、それに続く(b)ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とのフリーラジカル重合によって調製する。いくつかの実施形態では、スキーム1に示す反応によって組成物を調製する。
【0009】
いくつかの実施形態では、本明細書は、クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の各モノマー、ならびにクエン酸モノマーのカルボキシ基と共有結合で複合体化しているペプチドを含むPPCN系ペプチド表出ハイドロゲルを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、ペプチドを、クエン酸モノマーのカルボキシ基とカルボジイミド化学による共有結合で複合体化させる。いくつかの実施形態では、ペプチドは環状Arg-Gly-Asp(cRGD)である。いくつかの実施形態では、cRGDを、PPCNのカルボキシ基と共有結合で複合体化させる。いくつかの実施形態では、スキーム2に示す反応によって組成物を調製する。
【0010】
いくつかの実施形態では、本明細書は、クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の各モノマーと金属イオン架橋とを含むPPCN系ハイドロゲルを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は金属イオン架橋PPCNを含む。いくつかの実施形態では、金属イオンの塩の存在下でPPCNをインキュベートすることによって組成物を調製する。いくつかの実施形態では、金属イオンは、Ca2+、Ba2+、またはSr2+である。
【0011】
いくつかの実施形態では、本明細書は、本明細書に記載する組成物(例えば、PPCN系ハイドロゲル)を、骨折部位または骨の罹患部位に投与し、組成物をゲル化させることを含む、骨修復を促進させる方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、本明細書は、骨修復を促進させる、本明細書に記載する組成物(例えば、PPCN系ハイドロゲル)の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)PPCN-cRGDのMALDIスペクトルの主要ピークは、予測イオン化環状-RGDfCを581.7m/zで、また完全モノマーを1156m/zで含む。(b)PPCN-Srゲルからの50mM及び100mMのSr
2+放出をICP-OESで調べると、大部分のストロンチウムが1週間で放出されることが分かる。PPCN-phosのFT-IRでは、試薬β-グリセロリン酸に関連するピークの成長、すなわち、OH伸縮の広幅化を3400nm
-1にて、またホスホン酸塩に起因する新たなピークを1238nm
-1付近で示す。元素分析でこのデータは実証され、炭素豊富なPEG鎖がβ-グリセロリン酸により置換されているため、炭素が少し減少している。
【
図2】PPCN(a)のレオロジー特性解析では、PPCN-cRGD(b)、PPCN-Sr(c)及びPPCN-phos(d)と比較すると、3つの骨誘導性変異型はいずれも温度応答性挙動を維持し、PPCNよりも低いLCST遷移を示すことが確認される。
【
図3】3Dゲルに播種し、通常のDMEMで培養したhMSC及びMC3T3のLIVE/DEADイメージングである。細胞を、アルギン酸ゲル、PPCNゲル、PPCN-cRGDゲル、PPCN-Srゲル、またはPPCN-phosゲルのいずれかに播種した。PPCN-cRGDゲルで増殖させた細胞は形態の広がりを示し、PPCNとの複合体化後にもRGDの機能性が保存されていることが確認される。どのゲルでも生存率は75%を上回っている。10日目に撮像し、3ウェルずつの中からの各代表画像を示す。
【
図4】(a)hMSC及び(b)MC3T3の3日目及び10日目のアルカリホスファターゼ(ALP)活性を示す。hMSCの10日目ではALPの有意な上昇は検出されない。しかしながら、PPCN-Srゲル及びPPCN-phosゲルで増殖させたMC3T3ではいずれもALPの有意な上昇が検出される。
*P値<0.05及び
**P値<0.01。
【
図5】カルシウム沈着のアリザリンレッドSによる染色、オステオポンチン(OPN)及びオステオカルシン(OCN)両方の免疫組織染色による、hMSCの21日目の特性解析である。その右に、対応する定量化を示す。3つの機能付与すべてにおいて石灰化が見られる。データによると、オステオポンチンの発現はPPCN-Srで最も高く、オステオカルシンの発現はPPCN-phosで最も高い。
【
図6】大腿筋肉注射によるPPCN及びPPCN-Srの0日目から42日目までのマイクロCT分析を示す。右上パネルは、マイクロCT画像の位置を合せたマウスの大腿部である。右下パネルは、マイクロCT画像(n=3)の定量化を示す。PPCN-Sr群で石灰化が認められ、10日目から始まり、6週間を通して一貫して増加している。機能付与していないPPCN対照では石灰化は認められない。Osirixで閾値強度を用いて石灰化領域を定量化し、3Dはめ込み画像を示すよう再構成した。
【
図7】PPCN対照(a)と比較すると、PPCN-Srは有意なオステオカルシン発現及び細胞浸潤(b)を示す。石灰化を調べるアリザリンレッドS染色においても、PPCN-Sr(d)は、機能付与していないPPCN(c)と比べると、赤色のカルシウム沈着で検出されるように強い石灰化を示す。PPCN及びPPCN-Srそれぞれの組織切片全体を(e)及び(f)に示す。
【
図8】42日目におけるマウス8匹の臓器のICP分析では、消化時、どの主要臓器にもストロンチウムが存在しないことを示している(a)。さらに、薄片にした筋組織のXPS分析では、ストロンチウムが除去されており、注射部位にはすでに存在していないことを示している(b)。XPS分析から、カルシウム、リン酸塩及び酸素の含有量はPPCN-Sr群における石灰化と一致しているが、6週目においてストロンチウムの局所的残存は見られないことが分かる。
【0014】
定義
本明細書に記載の実施形態の実施または試験に際し、本明細書に記載される方法及び材料と類似または同等の任意のものを使用することができるが、いくつかの好ましい方法、組成物、デバイス、及び材料を本明細書に記載する。ただし、本願の材料及び方法を記載する前に、本明細書に記載される特定の分子、組成物、方法論、またはプロトコルは慣例となっている実験及び最適化に従って異なってよいことから、本発明は、それらに限定されるわけではないことを理解されるべきである。記載において使用される用語は、あくまでも個別の改変例または個別の実施形態を説明するためのものであり、本明細書に記載する実施形態の範囲を限定することを意図しないということも理解されるべきである。
【0015】
特別に定義しない限り、本明細書で使用する技術用語及び科学用語はいずれも、本発明の属する分野の当業者に共通して理解される意味と同一の意味を持つ。ただし、矛盾がある場合は、定義も含め、本明細書が優先する。したがって、本明細書に記載する実施形態においては以下の定義が適用される。
【0016】
本明細書添付の請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」には、文脈で特に明確に指示されない限り複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば、「ポリマー(a polymer)」への言及は、当業者に公知の1つ以上のポリマー(polymers)及びその同等物等への言及である。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「及び/または」には、掲載物品の任意の物品一つ一つを含め、掲載物品のあらゆる組み合わせが含まれる。例えば、「A、B、及び/またはC」は、A、B、C、AB、AC、BC、及びABCを包含し、「A、B、及び/またはC」という記述によって、その各々が別々に記載されているものとみなされる。本明細書で使用する場合、用語「含む(comprise)」及びその言語的変形は、記述されている特徴(複数可)、要素(複数可)、方法のステップ(複数可)等の存在を表し、さらなる特徴(複数可)、要素(複数可)、方法のステップ(複数可)等の存在を排除するものではない。逆に、用語「からなる(consisting of)」及びその言語的変形は、記述されている特徴(複数可)、要素(複数可)、方法のステップ(複数可)等の存在を表し、普通に伴う不純物を除いては、記述されていないいかなる特徴(複数可)、要素(複数可)、方法のステップ(複数可)等も排除される。語句「本質的に~からなる(consisting essentially of)」は、記述されている特徴(複数可)、要素(複数可)、方法のステップ(複数可)等の他、組成物、システム、または方法の基本的性質に物質的に影響を与えない任意のさらなる特徴(複数可)、要素(複数可)、方法のステップ(複数可)等を表す。本明細書の多くの実施形態は,オープンランゲージ「含む(comprising)」を使用して記載されている。そのような実施形態は、複数のクローズドランゲージ「からなる(consisting of)」及び/または「本質的に~からなる(consisting essentially of)」を使用した実施形態を包含し、それらは、そのような言語を使用して別の方法で主張または記載される場合がある。
【0018】
本明細書で使用する場合、用語「実質的にすべて」、「実質的に完全な」及び同様の用語は、99%より大きいことを指し、用語「実質的にない」、「実質的に含まない」、及び同様の用語は、1%未満であることを指す。
【0019】
用語「約」により、値または範囲におけるある程度の変動性が認められる。本明細書で使用する場合、用語「約」とは、記述されている値または範囲の10%以内の値を指す(例えば、約50は45~55と同等である)。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「ポリマー」とは、構造単位、すなわち「モノマー」が繰り返されている鎖で、典型的には分子量の大きいものを指す。ポリマーの例には、ホモポリマー(1種類のモノマーサブユニット)、コポリマー(2種類のモノマーサブユニット)、及びヘテロポリマー(例えば、3種類以上のモノマーサブユニット)が含まれる。本明細書で使用する場合、用語「オリゴマー」とは、わずか少数のモノマー単位(例えば、2、3、4、5、またはそれ以上)から最高約50のモノマー単位までのポリマー、例えば、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体・・・十量体等を指す。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「直鎖ポリマー」とは、分子が、分岐または架橋構造のない長鎖を形成しているポリマーを指す。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「分岐ポリマー」とは、1つ以上のさらなるモノマーを有するポリマー骨格を含む、またはポリマー骨格から伸びる鎖もしくはモノマーを含むポリマーを指す。「分岐」の相互接続の程度は、ポリマーを不溶性にするには不十分な程度である。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「プレポリマー」とは、適切な条件下(例えば、「硬化する」及び/または熱硬化性樹脂またはハイドロゲルを形成する条件下)で架橋対象になることができ、それまでまだ適切な条件下に供されていない直鎖または分岐のポリマー(例えば、有意には架橋していない)を指す。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「架橋ポリマー」とは、複数のポリマー鎖間の相互接続の程度が有意であり、その結果が不溶性ポリマーネットワークであるポリマーを指す。例えば、複数のポリマー鎖は、ポリマー鎖の末端に限らず、それらの構造内部のポイントで互いに架橋していてよい。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「生体適合性」とは、材料、化合物、または組成物を指し、対象に投与した場合に有意な有害作用を生じさせない、または誘発しないことを意味する。生体適合性を制限する、考えられる有害作用の例には、過渡炎症、過渡または有害な免疫応答、及び毒性が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「ハイドロゲル」とは、水中で溶解するのではなくむしろ膨張する親水性ポリマーの3次元(3D)架橋ネットワークを指す。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「温度応答性」とは、異なる温度域において物理的特性の変化を示す材料を指す。特に本明細書で関連するのは、「相転移する温度応答性」材料である。「相転移する温度応答性」材料は、第1の温度域(例えば、26℃)では可溶性または液体状態であり、第2の温度域(例えば、30~45℃)では不溶性または固体状態である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書は、室温で液体であり、イオンまたは治療薬の担体材料として使用でき、体温でゲルとなって放出制御を可能にする、注入可能な温度応答性ハイドロゲルを提供する。いくつかの実施形態では、材料は抗酸化物質であり、骨形成因子を添加しなくても材料の特性に基づいて骨形成を促進することができる。いくつかの実施形態では、材料は、例えば、リン酸塩、cRGD、及び/またはストロンチウムなどの骨促進剤を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、本明細書は、クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の各モノマーを含む温度応答性ハイドロゲルを提供する。いくつかの実施形態では、温度応答性ハイドロゲルはPPCN系ハイドロゲルである。いくつかの実施形態では、PPCN系ハイドロゲルは、クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の各モノマーならびに1つ以上のさらなるモノマー群(例えば、β-グリセロリン酸)を含む。いくつかの実施形態では、PPCN系ハイドロゲルは、クエン酸、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラート、及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の各モノマーを含み、1つ以上の生理活性物質(例えば、金属イオン(例えば、Sr2+)、ペプチド(例えば、cRGD)等)と複合体化している。
【0030】
いくつかの実施形態では、PPCN系ハイドロゲルの負電荷を持つカルボキシル基(例えば、クエン酸モノマー上に表出)は、正電荷を持つ金属イオン(例えば、Sr2+、Ca2+、Ba2+等)と複合体化する。いくつかの実施形態では、別々のカルボキシル基が金属イオンに配位することによりPPCN系ポリマーに架橋がもたらされる。いくつかの実施形態では、本明細書の材料は、金属イオンの同一性による限定を受けない。いくつかの実施形態では、金属イオンは、塩としてPPCN系材料に導入される。
【0031】
いくつかの実施形態では、PPCN系ハイドロゲルのカルボキシル基(例えば、クエン酸モノマー上に表出)は、ペプチドまたは生理活性低分子に適切なリンカー化学を介して複合体化される。いくつかの実施形態では、生理活性であるペプチド及び/または低分子をPPCN系ハイドロゲルに連結させるための適切な化学には、アルキン/アジド、チオール/マレイミド、チオール/ハロアセチル(例えば、ヨードアセチル等)、チオール/ピリジルのジスルフィド(例えば、ピリジルジチオール等)、スルホニルアジド/チオ酸等が含まれる。
【0032】
いくつかの実施形態では、骨の治癒及び/または修復を促進する生理活性ペプチドをPPCN系ハイドロゲルと複合体化させる。適切なペプチドには、P-15ペプチド(Bhatnagar et al.Tissue Eng.1999;5(1):53-65.;参照によりその全体が組み込まれる)、RGD含有ペプチド(Ruoslahti&Pierschbacher.Cell.1986;44(4):517-8.;参照によりその全体が組み込まれる)、GFOGER(グリシン-フェニルアラニン-ヒドロキシプロリン-グリシン-グルタマート-アルギニン)(配列番号1)、コラーゲン結合モチーフ(CBM)、DGEA(Asp-Gly-Glu-Ala)(配列番号2)、SVVYGLR(Ser-Val-Val-Tyr-Gly-Leu-Arg)(配列番号3)、KRSR(リシン-アルギニン-セリン-アルギニン)(配列番号4)、FHRRIKA(Phe-His-Arg-Arg-Ile-Lys-Ala)(配列番号5)、フィブロネクチン(FN)由来ペプチド、及び他のECM由来ペプチド(Pountos et al.BMC Med.2016;14:103.;参照によりその全体が組み込まれる)が含まれる。
【0033】
いくつかの実施形態では、PPCNまたはPPCN系ポリマーもしくはハイドロゲルは、クエン酸モノマーを少なくとも0.1%(例えば、>0.1%、>0.2%、>0.5%、>1%、>2%、>3%、>4%、>5%、>10%、>20%、>30%、>40%、>50%、>60%、>70%、>80%、>90%、>95%、>98%、>99%)含む。いくつかの実施形態では、本明細書のポリマーは、クエン酸モノマーを99%未満(例えば、<99%、<98%、<95%、<90%、<80%、<70%、<60%、<50%、<40%、<30%、<20%、<10%、<5%、<4%、<3%、<2%、<1%、<0.5%)含む。いくつかの実施形態では、ポリマーは、クエン酸モノマーを約99%、約98%、約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、または約0.5%含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、PPCNまたはPPCN系ポリマーもしくはハイドロゲルは、ポリエチレングリコールモノマーを少なくとも0.1%(例えば、>0.1%、>0.2%、>0.5%、>1%、>2%、>3%、>4%、>5%、>10%、>20%、>30%、>40%、>50%、>60%、>70%、>80%、>90%、>95%、>98%、>99%)含む。いくつかの実施形態では、本明細書のポリマーは、ポリエチレングリコールモノマーを99%未満(例えば、<99%、<98%、<95%、<90%、<80%、<70%、<60%、<50%、<40%、<30%、<20%、<10%、<5%、<4%、<3%、<2%、<1%、<0.5%)含む。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリエチレングリコールモノマーを約99%、約98%、約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、または約0.5%を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、PPCNまたはPPCN系ポリマーもしくはハイドロゲルは、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラートモノマーを少なくとも0.1%(例えば、>0.1%、>0.2%、>0.5%、>1%、>2%、>3%、>4%、>5%、>10%、>20%、>30%、>40%、>50%、>60%、>70%、>80%、>90%、>95%、>98%、>99%)含む。いくつかの実施形態では、本明細書のポリマーは、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラートモノマーを99%未満(例えば、<99%、<98%、<95%、<90%、<80%、<70%、<60%、<50%、<40%、<30%、<20%、<10%、<5%、<4%、<3%、<2%、<1%、<0.5%)含む。いくつかの実施形態では、ポリマーは、グリセロール1,3-ジグリセロラートジアクリラートモノマーを約99%、約98%、約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、または約0.5%を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、PPCNまたはPPCN系ポリマーもしくはハイドロゲルは、N-イソプロピルアクリルアミドモノマーを少なくとも0.1%(例えば、>0.1%、>0.2%、>0.5%、>1%、>2%、>3%、>4%、>5%、>10%、>20%、>30%、>40%、>50%、>60%、>70%、>80%、>90%、>95%、>98%、>99%)含む。いくつかの実施形態では、本明細書のポリマーは、N-イソプロピルアクリルアミドモノマーを99%未満(例えば、<99%、<98%、<95%、<90%、<80%、<70%、<60%、<50%、<40%、<30%、<20%、<10%、<5%、<4%、<3%、<2%、<1%、<0.5%)含む。いくつかの実施形態では、ポリマーは、N-イソプロピルアクリルアミドモノマーを約99%、約98%、約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、または約0.5%含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する材料は、本明細書に記載するPPCN系温度応答性ハイドロゲル材料と1つ以上のさらなる構成成分との複合材料を含む。いくつかの実施形態では、さらなる構成成分は、複合材料に1~99重量%(例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはその間の範囲)含まれる。いくつかの実施形態では、複合材料は、PPCN系ハイドロゲルを少なくとも1%(例えば、>1%超、>2%、>3%、>4%、>5%、>10%、>20%、>30%、>40%、>50%、>60%、>70%、>80%、>90%、>95%、>98%、>99%)含む。いくつかの実施形態では、温度応答性複合材料は、PPCN系ハイドロゲルを99%未満(例えば、<99%、<98%、<95%、<90%、<80%、<70%、<60%、<50%、<40%、<30%、<20%、<10%、<5%、<4%、<3%、<2%、<1%)含む。いくつかの実施形態では、複合材料は、PPCN系ハイドロゲルを約99%、約98%、約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、またはその間の範囲の量で含む。前述のパーセンテージは重量%またはモル%であってよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、温度応答性PPCN系ハイドロゲル材料とバイオセラミックス成分との複合材料を提供する。適切なバイオセラミックスには、ヒドロキシアパタイト(HA;Ca10(PO4)6(OH)2)、リン酸三カルシウムベータ(β-TCP;Ca3(PO4)2)、及びHAPとβ-TCPの混合物が含まれる。
【0039】
いくつかの実施形態では、複合材料は、PPCN系ハイドロゲル及び1つ以上のさらなるポリマー成分を含む。適切な生分解性ポリマーには、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸と誘導体、アルギン酸ナトリウムと誘導体、キトサンと誘導体、ゼラチン、デンプン、セルロースポリマー(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、セルロースアセタートフタラート、セルロースアセタートスクシナート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)、カゼイン、デキストランと誘導体、多糖類、ポリ(カプロラクトン)、フィブリノゲン、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-コ-グリコリド)、乳酸とグリコール酸のコポリマー、ε-カプロラクトンとラクチドのコポリマー、グリコリドとε-カプロラクトンのコポリマー、ラクチドと1,4-ジオキサン-2-オンのコポリマー、ポリマーとコポリマーでD-ラクチド、L-ラクチド、D,L-ラクチド、グリコリド、ε-カプロラクトン、炭酸トリメチレン、1,4-ジオキサン-2-オン、または1,5-ジオキセパン-2-オンの各モノマーの残基単位のうち1つ以上が含まれているもの、ポリ(グリコリド)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(アルキルカーボナート)及びポリ(オルトエステル)、ポリエステル、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサノン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリ(アミノ酸)、ならびに上記ポリマーのコポリマー、ならびに上記ポリマーの混合及び組み合わせなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。(概要は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるIllum,L.,Davids,S.S.(eds.)”Polymers in Controlled Drug Delivery”Wright,Bristol,1987;Arshady,J.Controlled Release 17:1-22,1991;Pitt,Int.J.Phar.59:173-196,1990;Holland et al.,J.Controlled Release 4:155-0180,1986を参照のこと)。適切な非生分解性ポリマーには、シリコンゴム、ポリエチレン・、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリプロピレン、及びポリメチルメタクリレートが含まれる。
【0040】
本明細書は、全体を通して記載されているように、硬化性(例えば、温度応答性)ハイドロゲル及び/またはその複合材料を含むPPCN系材料を提供する。これらの材料は、さまざまな用途で利用される。例えば、液体及び/または可溶性の形態で投与され、その後、所望の条件(例えば、生理的温度)に曝露された場合に(短時間で)固体及び/または不溶性になる材料が所望されるあらゆる用途で利用される。本明細書に記載する材料は、例えば、医療及び歯科における骨修復用途、例えば、頭蓋顔面損傷の修復、複雑骨折の安定化、骨成長の促進、骨再生、骨補填材として、インプラントの接着等などで利用される。いくつかの実施形態では、材料は、医療/歯科以外の用途で利用される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載するPPCN系材料は、生理的温度以下(例えば、36℃、35℃、34℃、33℃、32℃、31℃、30℃、29℃、28℃、27℃、26℃、25℃、24℃、23℃、22℃、21℃、20℃、またはそれより低温またはその間の範囲)で液体である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載するPPCN系材料は、生理的温度(例えば、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、またはその間の範囲)またはその近傍ではゲルである。
【0041】
本明細書の材料が、骨または骨折/損傷の修復、安定化、再生、成長等に使用されるいくつかの実施形態では、材料はさらに、骨、骨成長、骨再生等への取り込みを促進するさらなる構成成分/薬剤を含む。いくつかの実施形態では、さらなる構成成分/薬剤は材料内に組み込まれ、その後、硬化時に材料内に封入される。そのような実施形態では、さらなる構成成分/薬剤は、PPCN系ハイドロゲル及び材料の他の構成成分と非共有結合で会合する。他の実施形態では、さらなる構成成分/薬剤は、共有結合で連結されているPPCN系ハイドロゲルである。
【0042】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する材料は、骨欠損の修復及び/または骨の再生のための成長因子または他の生理活性物質の送達において利用される。本明細書の実施形態での使用に適切な薬剤には、骨形成タンパク質(例えば、BMP-1、BMP-2、BMP-4、BMP-6、及びBMP-7);TGF-β1、TGF-β2、及びTGF-β3が含まれるがこれに限定されないトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)スーパーファミリーのメンバー;増殖分化因子(GDF1、GDF2、GDF3、GDF5、GDF6、GDF7、ミオスタチン/GDF8、GDF9、GDF10、GDF11、及びGDF15);血管内皮細胞増殖因子(VEGF);線維芽細胞増殖因子(FGF)等が挙げられるが、されるものではない。これらの薬剤または他の薬剤は、本明細書に記載する材料またはその構成成分に共有結合で連結すること、本明細書に記載する材料またはその構成成分に表出する部分に非共有結合で会合させること、本明細書に記載する材料内に包埋すること等が可能である。
【0043】
いくつかの実施形態では、本明細書のPPCN系ハイドロゲルは、治療薬(例えば、骨粗鬆症の薬物)の担体、細胞(例えば、幹細胞)、成長因子等として利用される。いくつかの実施形態では、本明細書のPPCN系ハイドロゲルにより、中に封入されている生理活性物質の局所的制御送達が提供される。
【0044】
いくつかの実施形態では、本明細書は、本明細書に記載のPPCN系ハイドロゲルを含む組成物を骨欠損部または骨折部に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書は、骨欠損または骨折を修復するために本明細書に記載のPPCN系ハイドロゲルの使用することを提供する。
【0045】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のPPCN系ハイドロゲルを骨折部位内に注入して(例えば、整形外科手術中)治癒を促進及び/または加速させる。
【実施例】
【0046】
実験
細胞培養
ゲル試験では、ヒト間葉系幹細胞(hMSC、ATCC)を、10%FBS及び5mlの10×ペニシリン-ストレプトマイシンを添加し、それ以外の骨形成因子を添加しないダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。これらの試験に使用したhMSCは継代6代目以下のものであった。マウスの前骨芽細胞MC3T3-E1細胞(ATCC)をDMEM:F12で培養した。両細胞株を37℃で、5%二酸化炭素(CO2)で培養した。
【0047】
材料の調製及び特性解析
PPCN(ポリ(ポリエチレングリコール・クエン酸-コ-N-イソプロピルアクリルアミド)を重縮合、その後のラジカル重合により調製した。
【0048】
PPCN-phosを調製するため、本来のPPCN合成を調整して、0.1モル比のβ-グリセロリン酸を第1の重縮合ステップ(スキーム1)で加えた。それ以降の反応ステップは変更しなかった。
【0049】
【0050】
PPCN-cRGDゲルを調製するため、報告にあるようにPPCNを生成させた。その後、環状RGDfCペプチド(ABI Scientific)を、PPCNポリマー鎖内のクエン酸の利用可能なカルボキシ基とマレイミド化学を介して共有結合で複合体化させた(スキーム2)。意図した環状RGDペプチドの濃度は10%であった。
【0051】
【0052】
PPCN-Srゲルを調製するため、PPCNをPBS(1×)に100mg/mlで溶解させた。100mMのSrCl26H2O(Sigma)をPPCN/PBS溶液に混合し、4℃で一晩放置し架橋させた(スキーム2)。
【0053】
ゲルの特性解析を
図1に示す。マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)によってPPCN-cRGDの複合体化を確認した(
図1a)。アルファ-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸マトリックスを用いて試料を調製した。誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Thermo iCAP 7600 ICP-OES)によるストロンチウム放出試験でPPCN-Srの特徴付けを行った。ゲルを擬似体液に浸漬し、溶液を14日かけて除去し、Sr
2+濃度についてアッセイした(
図1b)。FT-IR(Bruker Tensor37)及びXPSによってPPCN-phosの特徴付けを行った(
図1c)。TA Instruments製DHRレオメーターで20mm、2°のコーンペルチェプレートジオメトリー及び試料の蒸発を最小限に抑えるソルベントトラップカバーを用いてさらなるレオロジー特性解析を行った。5℃/分の加熱速度で15℃から45℃まで昇温させる実験でゲルを試験した。角周波数を10ラジアン/秒、ひずみ振幅5%を適用して粘弾性係数をモニターした。全試料とも52μmの間隙高さを使用した。粘弾性特性の初期変化を、損失弾性率(G’’)に対する貯蔵弾性率(G’)の上昇によって特徴付けした。
【0054】
3D分化試験
PBS(1×)にPPCNを100mg/mLで溶解させた、さまざまな温度応答性PPCN溶液で細胞を封入した。細胞を、液体PPCN1mLあたり1×105細胞の濃度で均一混合により溶液に加えた。細胞-PPCN混合物を37℃で5分間インキュベートし、ゲルを形成させた。一旦ゲルが形成された後、温めておいた培地を上部に加え、2日毎に交換した。播種する前に、プレートに細胞が付着しないようプレートをSigma-coteでコートし、数度の培地交換を通して存続する細胞すべてが3Dゲル環境内で確実に存続するようにした。取扱い中は、温度変動のためにゲルが溶解または希釈しないことを保証するため、プレートをプレートウォーマー上に保持した。各時点において、培地を除去し、ゲルを採取した後、ALP及びDNA分析の場合は凍結し、LIVE/DEAD、アリザリンレッド染色、及び免疫組織染色の場合は直接アッセイした。
【0055】
骨分化アッセイ
骨分化の初期検出では(
図4)、アルカリホスファターゼ(ALP)を測定した。3日目及び10日目にゲルを採取し、蛍光定量キット(Biovision)で細胞外アルカリホスファターゼ(ALP)活性を検出した。非蛍光基質リン酸4-メチルウンベリフェリル二ナトリウム塩(MUP)を加え、ALPで切断し、蛍光シグナルを得た(Ex/Em=360/440nm)。マイクロプレートリーダーで蛍光を読み取った。段階希釈したゲル標準に基づいて酵素活性を計算し、同時Quant-iT PicoGreenアッセイ(Thermo Fisher)を用いて総DNA含量を基準として正規化した。
【0056】
骨分化の後期検出では(
図5)、オステオカルシン(OCN)及びオステオポンチン(OPN)のアリザリンレッドS染色及び免疫組織染色を実施した。アリザリンレッドSでは、温めておいたゲルの内側に細胞を固定し、ゲルに染色を透過させ、その後、DI水で数回洗浄して余剰染色をすすいだ。光学顕微鏡で石灰化を表示させた。免疫組織染色では、温めておいたゲルの内側に細胞を固定し、OPNまたはOCNの一次抗体を加え、DAPIで対比染色を行った。
【0057】
石灰化
石灰化を評価するため、イソフルランでマウスに麻酔をかけ、加温イクロCT台に載せた。前臨床マイクロPET/CTイメージングシステムnanoScanスキャナー(Mediso-USA,Boston,MA)で画像を取得した。データは、拡大「中程度」、33μm焦点、1×1ビニング、全周にわたる投影像720枚、照射時間300msで取得した。画像を35kVpを使用して取得した。Mediso製フィルタ補正逆投影ソフトウェアを使用してボクセルサイズを68μmで投影データを再構成した。再構成したデータを表示させ、Mac用Osirix Liteでセグメント化した。冠状面を使用して、下限閾値に600ハンスフィールドユニット(HU)、上限閾値に10,000ハンスフィールドユニットを使用する2D領域拡張で関心領域(ROI)を作成することにより、画像を定量化した。関心領域(ROI)を使用し、各ROIの平均HUを計算して(骨は、700~3,000HU)石灰化の定量化を行った。
【0058】
免疫蛍光抗体法
動物を二酸化炭素吸入により安楽死させた。組織を採取し、PBSに溶解させた4%パラホルムアルデヒドで4℃にて一晩固定した。パラホルムアルデヒド残渣を除去するため、PBSを何度か取り替えて試料を洗浄した。エタノール系列で試料の脱水を行い、キシレンで除去し、パラフィンに包埋した。厚さ5ミクロンの切片をカットし、スライドに装着した。切片をキシレンで処理してパラフィンを除去し、エタノールと水を交互に用いて補水させた。スライドを抗原賦活化用緩衝液(10mMのクエン酸ナトリウム、0.05%Tween20、pH6.0)に浸漬し、100℃で15分間加熱した。PBSで洗浄後、試料を、5mg/mLのBSA、5%正常ヤギ血清を含有するPBS中で30分間ブロッキングした。試料を、ブロッキングバッファーで希釈した1次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。スライドをPBSで3回洗浄し(1回5分間)、その後、ブロッキングバッファーで希釈した二次抗体で室温にて30分間インキュベートした。スライドをPBSで6回洗浄し(1回5分間)、その後、退色防止封入剤で封入し、マニキュアで密封した。Nikon TE-2000U顕微鏡またはCytation5イメージリーダーで画像を取得した。
【0059】
ストロンチウム分布
いくつかの主要臓器、すなわち、心臓、脳、脾臓、精巣、筋肉、肺、腎臓、及び肝臓でストロンチウム分布をアッセイした。安楽死させた後、各臓器を採取し、分析時まで-80℃で保存した。各試料に70%硝酸及び37%過酸化水素を加えて組織消化を行った。1時間後、試料のキャップを外し、蓄積したガスを放出させた。組織を放置し、室温で2日間消化させた。2日後、試料をMQ水で2.4%の酸まで希釈し、上述のようにICP-OES用に調製した。
【0060】
元素分析
Thermo Fisher ESCALab 250XiでAl K-アルファX線源(1486.6eV)(Thermo Fisher Scientific,Waltham MA)を使用して切片組織のXPS分析を実施した。単色化X線ビームのスポットサイズは直径300μm、及び出力は100ワットであった。サーベイスキャンでは100eVのパスエネルギー、及び1eVのステップサイズを使用した。高解像度スキャンでは、50eVのパスエネルギー及び0.1eVのステップサイズを使用した。取り込み時間は50msであった。XPSスペクトルを284.8eVの汚染炭素ピークで較正した。全XPSデータをAvantageソフトウェアで処理した。
【配列表】