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特許7653709ダイヤモンド結晶基板及びダイヤモンド結晶基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】ダイヤモンド結晶基板及びダイヤモンド結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20250324BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
C30B29/04 Q
C30B25/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021519354
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2020017910
(87)【国際公開番号】W WO2020230602
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019090031
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】金 聖祐
(72)【発明者】
【氏名】川又 友喜
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-354109(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119067(WO,A1)
【文献】特開2019-006629(JP,A)
【文献】特表2016-502757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C30B 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以てステップ状に連なったテラスで基板の表面が形成されている下地ダイヤモンド結晶基板の前記表面上に他の層を介することなくダイヤモンド結晶が形成されており、かつ
前記テラスの表面粗さRqが5nm以下であるダイヤモンド結晶基板。
【請求項2】
前記オフ角が5°以下である請求項1に記載のダイヤモンド結晶基板。
【請求項3】
前記オフ角が3°以下である請求項1又は2に記載のダイヤモンド結晶基板。
【請求項4】
ダイヤモンド結晶基板を用意し、
酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム、銅、マンガン、の少なくとも1つの粒子を含むスラリーを用いて、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面から、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て、ダイヤモンド結晶基板にCMPを施し、
CMPを施す時間が100時間に達した時点で、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て原子レベルでステップ状に連なったテラスで形成され、その結晶面が表面に現れたダイヤモンド結晶基板が形成された事を確認し、CMPを終了し、
前記表面上に他の層を介することなく、ダイヤモンド結晶をCVDによりステップフロー成長条件でエピタキシャル形成する、ダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長方法。
【請求項5】
前記オフ角を5°以下とする請求項に記載のダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長方法。
【請求項6】
前記オフ角を3°以下とする請求項又はに記載のダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長方法。
【請求項7】
前記テラスの表面粗さRqが5nm以下である請求項のいずれか1項に記載のダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド結晶基板及びダイヤモンド結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド結晶は究極の半導体基板として期待されている。その理由は、ダイヤモンド結晶が高熱伝導率、高電子・正孔移動度、高絶縁破壊電界強度、低誘電損失、そして広いバンドギャップと云った、半導体材料として他に類を見ない、優れた特性を数多く備えている為である。バンドギャップは約5.5eVで、既存の半導体材料中では極めて高い値を有する。特に近年では、広いバンドギャップを活かした紫外発光素子や、優れた高周波特性を持つ電界効果トランジスタなどが開発されつつある。
【0003】
ダイヤモンド結晶を成長させる方法として、幾つかのアイデアが提案されており、その中でも、下地基板上にエピタキシャル成長法によりダイヤモンド結晶を成長形成する製造方法が有力な候補として挙げられる。
【0004】
エピタキシャル成長法には、ホモエピタキシャル成長法とヘテロエピタキシャル成長法があり、ホモエピタキシャル成長法では下地基板にダイヤモンド結晶基板を用いるので、その下地基板上に形成されるダイヤモンド結晶との間で格子不整合は生じない。一方のヘテロエピタキシャル成長法では、下地基板にダイヤモンド結晶以外の材料を用いる為、形成されるダイヤモンド結晶との間で格子定数差に基づく格子不整合が生じる。更に成長に伴いダイヤモンド結晶の厚みが増加すると、格子定数差に基づき転位がダイヤモンド結晶に生じるおそれもある。従って、成長形成するダイヤモンド結晶の品質の面から、ホモエピタキシャル成長法がより望ましい。
【0005】
ホモエピタキシャル成長法に用いるダイヤモンド結晶基板には、ジャスト基板とオフ基板が挙げられる。ジャスト基板とは、下地基板であるダイヤモンド結晶基板の表面を、(100)結晶面や(111)結晶面等から傾き0°のジャスト面とした基板である。またオフ基板とは、(100)結晶面や(111)結晶面等から任意の傾き(オフ角)で表面を形成した基板である(例えば、特許文献1参照)。図5及び図6に示す様に、ダイヤモンド結晶基板1の表面にオフ角θを設ける事により、原子レベルでステップ2が形成されると共に、ステップ状に連なったテラス3が基板の表面に形成される。
【0006】
下地基板の表面をホモエピタキシャル成長面とすると、下地基板の表面の結晶面を引き継いで、ダイヤモンド結晶が成長形成する。ジャスト基板を用いたホモエピタキシャル成長法では、成長形成されるダイヤモンド結晶の結晶面どうしの融合部で結晶性が低下し、双晶等の結晶欠陥が発生する。その理由は、基板表面上で二次元的にダイヤモンド結晶の成長が進行するが、ジャスト基板にはステップが存在しない為成長フロー方向が一方向に定まらず、ダイヤモンド結晶の方位に揺らぎが生じ結晶配列が異なる結晶面どうしが融合し、その融合部(界面)で結晶性が低下して双晶等の結晶欠陥が形成される為である。
【0007】
一方、オフ基板を用いたホモエピタキシャル成長法では、基板表面のステップがエピタキシャル成長時に結晶格子配列の手掛りとなり、二次元的にダイヤモンド結晶の成長が進行する方向が図7中の矢印に示す様に、テラス3の面方向に揃う。この様にダイヤモンド結晶の成長進行方向が一方向に揃う結晶成長を、ステップフロー成長と云う。従ってダイヤモンド結晶の方位整合度が向上し、結果的にエピタキシャル成長されたダイヤモンド結晶の結晶面融合部の結晶性低下を抑制でき、双晶等の結晶欠陥の発生が抑制される。
【0008】
この様なオフ基板の加工法として、研磨剤としてダイヤモンド砥粒を用いたラッピング(スカイフ加工)、レーザー加工、イオンビーム加工が挙げられる。スカイフ加工ではダイヤモンド砥粒を用いて、砥粒の機械的及び熱的な破壊を通じてダイヤモンド結晶基板の表面を研磨する為、表面上でのクラックや転位を含んだダメージ層の形成が避けられなかった。更にダメージ層の形成の為に高精度な加工が難しかった。
【0009】
レーザー加工では、レーザー照射により基板を局部的に加熱し,ダイヤモンドを構成する炭素を炭酸ガス化して除去する。この様に熱的加工なので、基板表面へのダメージが大きかった。
【0010】
イオンビーム加工は、アルゴンなどのイオンを照射することでダイヤモンドを構成する炭素原子を除去する。この加工法でも基板表面での凹凸やダメージが残ってしまっていた。
【0011】
従ってこれら加工法により原子レベル平坦面を形成しても、原子レベル平坦面面にダメージが発生してしまう。よってその原子レベル平坦面でダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長させると、成長形成されるダイヤモンド結晶が原子レベル平坦面面のダメージを引き継いで成長し、ダイヤモンド結晶に結晶欠陥や表面粗さRaが発生してしまう。従って、ダメージが無く原子レベル平坦面を有するオフ基板が求められていた。
【0012】
そこでダメージの形成が防止可能で平坦度も得られる加工法として、CMP(Chemical Mechanical Polishing)が挙げられる。CMP では機械的作用(機械的研磨)に加え化学的作用(基板表面と研磨剤との化学的作用)により表面を研磨して行く。従って、基板表面へのダメージの導入が無く、高精度な平坦度の表面が得られると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第5454867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、ダイヤモンドは硬度が極めて高く化学的に安定した結晶なので、CMP加工は困難と予測されていた。そこで本出願人がダイヤモンド結晶基板に於けるCMPの適用性を検証するべく、スラリーとしてコロイダルシリカを用いたところ、図8図16に示す様に60時間(3600分)行っても基板表面の平坦化の兆しが見られなかった。なお外形が八角形のダイヤモンド結晶基板を用い、その二つの頂点付近を拡大した写真が図8図16である。
【0015】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、CMPに於いてダイヤモンド結晶基板でオフ基板を実現する加工条件の確立と、そのCMP製造方法に依るオフ角を有するダイヤモンド結晶基板の実現を目的とする。更にそのダイヤモンド結晶基板の表面上にダイヤモンド結晶を形成するホモエピタキシャル成長方法と、ダイヤモンド結晶が形成されたダイヤモンド結晶基板の実現も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題は、以下の本発明により解決される。即ち本発明のダイヤモンド基板は、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以てステップ状に連なったテラスで基板の表面が形成されている事を特徴とする。
【0017】
本発明の他のダイヤモンド基板は、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以てステップ状に連なったテラスで基板の表面が形成されており、その表面上にダイヤモンド結晶が形成されている事を特徴とする。
【0018】
本発明のダイヤモンド基板の製造方法は、ダイヤモンド結晶基板を用意し、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム、銅、マンガン、の少なくとも1つの粒子を含むスラリーを用いて、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面から、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て、ダイヤモンド結晶基板にCMPを施し、CMPを施す時間が100時間に達した時点で、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て原子レベルでステップ状に連なったテラスで形成され、その結晶面が表面に現れたダイヤモンド結晶基板が形成された事を確認し、CMPを終了する事を特徴とする。
【0019】
本発明のダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長方法は、ダイヤモンド結晶基板を用意し、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム、銅、マンガン、の少なくとも1つの粒子を含むスラリーを用いて、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面から、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て、ダイヤモンド結晶基板にCMPを施し、CMPを施す時間が100時間に達した時点で、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て原子レベルでステップ状に連なったテラスで形成され、その結晶面が表面に現れたダイヤモンド結晶基板が形成された事を確認し、CMPを終了し、原子レベル平坦面面上に、ダイヤモンド結晶をCVDによりステップフロー成長条件でエピタキシャル形成する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るダイヤモンド基板及びダイヤモンド基板の製造方法に依れば、スラリーの選定に加えて基板にCMPを施す時間を100時間に設定する事で、硬度が極めて高く化学的に安定したダイヤモンド結晶基板に於ける、オフ基板を形成する為のCMP加工可能条件を見出す事が出来た。
【0021】
更にスラリーの選定及びCMP100時間の設定に依り、ダイヤモンド結晶基板のステップやテラスの、ピットやダメージの発生を防止可能となる。
【0022】
更に、ダイヤモンド結晶基板の表面粗さRqが、5nm以下に収められる。従って、半導体層のエピタキシャル成長用下地結晶として使用可能なダイヤモンド結晶基板が実現される。
【0023】
よって、CMP後の所望の平坦度(表面粗さRq)を得る為の何らかの後処理を行わなくても、平坦度が得られる為、製造工程と製造時間の短縮と共に、ダイヤモンド結晶基板の低コスト化も達成出来る。
【0024】
またオフ角θを7°以下に設定する事で、ダイヤモンド結晶基板をホモエピタキシャル成長に用いた時に、成長形成されるダイヤモンド結晶の融合部(界面)での結晶性低下が抑制され、双晶等の結晶欠陥の形成が抑制される。
【0025】
更に、本発明に係るダイヤモンド基板及びダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長方法に依れば、前記ダイヤモンド結晶基板の原子レベル平坦面面上にダイヤモンド結晶をホモエピタキシャル成長する事で、ダイヤモンド結晶でのピットや結晶欠陥の発生が防止出来る。更に、ダイヤモンド結晶の表面粗さも所望の値に抑える事が可能となる。
【0026】
更に、ダイヤモンド結晶の融合部(界面)での結晶性低下が抑制され、ダイヤモンド結晶での双晶等の結晶欠陥の形成が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】CMP開始6時間経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図2】CMP開始100時間経過した時点での、本発明の実施例に係るダイヤモンド単結晶基板表面のAFM写真である。
図3】CMP開始50時間経過した時点での、比較例に係るダイヤモンド単結晶基板にエピタキシャル成長されたダイヤモンド単結晶表面のSEM写真である。
図4】CMP開始100時間経過した時点での、本発明の実施例に係るダイヤモンド単結晶基板にエピタキシャル成長されたダイヤモンド単結晶表面のSEM写真である。
図5】ダイヤモンド結晶基板の表面にステップ状に連なって形成されたテラスを模式的に示す斜視図である。
図6図5の側面図である。
図7】ステップからダイヤモンド結晶がステップフロー成長する状態を模式的に示す側面図である。
図8】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施すにあたり、CMP開始0分時点の、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図9】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始180分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図10】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始480分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図11】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始900分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図12】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始1200分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図13】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始1800分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図14】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始2400分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図15】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始3000分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
図16】スラリーにコロイダルシリカを用いてCMPを施し、CMP開始3600分経過した時点での、ダイヤモンド結晶基板表面の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態の第一の特徴は、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以てステップ状に連なったテラスで基板の表面が形成されているダイヤモンド結晶基板である。
【0029】
本実施の形態の第二の特徴は、ダイヤモンド結晶基板を用意し、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム、銅、マンガン、の少なくとも1つの粒子を含むスラリーを用いて、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面から、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て、ダイヤモンド結晶基板にCMPを施し、CMPを施す時間が100時間に達した時点で、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て原子レベルでステップ状に連なったテラスで形成され、その結晶面が表面に現れたダイヤモンド結晶基板が形成された事を確認し、CMPを終了するダイヤモンド結晶基板の製造方法である。
【0030】
これらの構成及び製造方法に依れば、スラリーの選定に加えて基板にCMPを施す時間を100時間に設定する事で、硬度が極めて高く化学的に安定したダイヤモンド結晶基板に於ける、オフ基板を形成する為のCMP加工可能条件を見出す事が出来た。
【0031】
更にスラリーの選定及びCMP100時間の設定に依り、ダイヤモンド結晶基板表面のピットやダメージの発生を防止可能となる。
【0032】
更に、ダイヤモンド結晶基板の表面粗さRqが、5nm以下に収められる。従って、半導体層のエピタキシャル成長用下地結晶として使用可能なダイヤモンド結晶基板が実現される。
【0033】
よって、CMP後の所望の平坦度(表面粗さRq)を得る為の何らかの後処理を行わなくても、平坦度が得られる為、製造工程と製造時間の短縮と共に、ダイヤモンド結晶基板の低コスト化も達成出来る。
【0034】
またオフ角θを7°以下に設定する事で、ダイヤモンド結晶基板をホモエピタキシャル成長に用いた時に、成長形成されるダイヤモンド結晶の融合部(界面)での結晶性低下が抑制され、双晶等の結晶欠陥の形成が抑制される。
【0035】
本実施の形態の第三の特徴は、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以てステップ状に連なったテラスで基板の表面が形成されており、その表面上にダイヤモンド結晶が形成されているダイヤモンド結晶基板である。
【0036】
本実施の形態の第四の特徴は、ダイヤモンド結晶基板を用意し、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム、銅、マンガン、の少なくとも1つの粒子を含むスラリーを用いて、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面から、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て、ダイヤモンド結晶基板にCMPを施し、CMPを施す時間が100時間に達した時点で、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角7°以下(但し、0°は含まない)で以て原子レベルでステップ状に連なったテラスで形成され、その結晶面が表面に現れたダイヤモンド結晶基板が形成された事を確認し、CMPを終了し、ダイヤモンド結晶をCVDによりステップフロー成長条件でエピタキシャル形成する、ダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長方法である。
【0037】
これらの構成及び製造方法に依れば、前記ダイヤモンド結晶基板上にダイヤモンド結晶をホモエピタキシャル成長する事で、ダイヤモンド結晶でのピットや結晶欠陥の発生が防止出来る。更に、ダイヤモンド結晶の表面粗さも所望の値に抑える事が可能となる。
【0038】
更に、ダイヤモンド結晶の融合部(界面)での結晶性低下が抑制され、ダイヤモンド結晶での双晶等の結晶欠陥の形成が抑制される。
【0039】
本実施の形態の第五の特徴は、オフ角が5°以下である、又はオフ角を5°以下とする事である。
【0040】
このオフ角に依れば、ダイヤモンド結晶基板の表面に成長形成されるダイヤモンド結晶の結晶欠陥の形成が一層抑制される為、より望ましい。
【0041】
本実施の形態の第六の特徴は、オフ角が3°以下である、又はオフ角を3°以下とする事である。
【0042】
このオフ角に依れば、ダイヤモンド結晶基板の表面に成長形成されるダイヤモンド結晶の結晶欠陥の形成が防止される為、最も望ましい。
【0043】
以下、本発明に係る実施形態1を図1及び図5~6を参照しながら説明する。最初に、本発明に係るダイヤモンド結晶基板の製造方法と、その製造方法に依って製造されるダイヤモンド結晶基板について説明する。
【0044】
最初にCMPを施す前のダイヤモンド結晶基板(以下、必要に応じて「基板」と記載)を用意する。基板の結晶は単結晶又は多結晶の何れかであり、また結晶には不純物やドーパントを含有していても良い。
【0045】
基板の大きさや厚み又は外形形状は任意に設定可能である。但し厚みに関しては、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する厚みが好ましく、具体的には0.3mm以上が好ましい。またダイヤモンド結晶は極めて硬い材料なので、素子やデバイス形成後の劈開の容易性等を考慮すると、厚みの上限は3.0mm以下が好ましい。なお、本実施形態では一例として外形が3mm×3mmのダイヤモンド結晶基板を挙げる。
【0046】
基板の表面(主面)は、エピタキシャル成長用途の汎用性を考慮して、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面とする。その表面(主面)には、機械研磨等の任意の工程が施されていて良い。従って、用意された段階での基板の表面にはダメージが導入されていても構わない。
【0047】
次に基板の表面にCMPを施す。CMPに使用するスラリーは、酸化状態が少なくとも3である遷移金属を研磨剤の粒子として用いる。具体的には、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム、銅、マンガンの少なくとも1つの粒子を含むスラリーを用いる。なお研磨パッドは、市販品が使用可能である。
【0048】
以上の様なスラリー及び研磨パッドを用いて、(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面から、オフ角θ=7°以下(但し、0°は含まない)となる様に研磨パッドの角度を調整して、基板の表面に研磨パッドを押し当ててCMPを施す。オフ角θの傾き方向は、表面の面方位が(100)の場合は、(100)から<100>±7°以内の方向又は<110>±7°以内の方向に設定する。表面の面方位が(111)の場合は、(111)から<-1-12>±7°以内の方向に設定する。表面の面方位が(110)の場合は、(110)から<110>±7°以内、<100>±7°以内、<111>±7°以内の何れかの方向に設定する。
【0049】
オフ角θを7°以下に設定する事で、基板をダイヤモンド結晶のホモエピタキシャル成長に用いた時に、成長形成されるダイヤモンド結晶の融合部(界面)での結晶性低下が抑制され、双晶等の結晶欠陥の形成が抑制される。
【0050】
更にオフ角θを5°以下に設定する事で、成長形成されるダイヤモンド結晶の結晶欠陥の形成が一層抑制される為、より望ましい。
【0051】
更にオフ角θを3°以下に設定する事で、成長形成されるダイヤモンド結晶の結晶欠陥の形成が防止される為、最も望ましい。
【0052】
以上のスラリーを用いてCMPを開始し、CMP開始6時間を経過した時点で、図1に示すように基板表面の平坦化の兆候が、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真で確認された。図1は、外形が八角形の基板の、二つの頂点付近を拡大した写真である。図1図16を比較すると、CMP開始後同一時間が経過した時点でSEM写真で確認される表面粗さに、明らかな差異が形成されている事が分かる。
【0053】
更にCMPを継続し、CMP開始100時間に達した時点でCMP加工を停止し、基板表面をSEMにより確認する。その工程により、図5及び図6に示すように(100)、(111)、(110)の何れかの結晶面が、オフ角θ=7°以下(但し、0°は含まない)で以て原子レベルでステップ状に連なったテラス3で形成され、その結晶面が表面に現れたダイヤモンド結晶基板1(以下、基板1と記載)が形成されている事を確認する。確認後にCMPを終了する。
【0054】
CMP加工後に得られる基板1はステップ状にテラス3が現れるので、結晶を形成する原子が綺麗に配列されている事が分かる。ステップ高さHの原子レベルは結晶を形成する原子一個分のシングルステップか、原子二個分のマルチステップの何れである。なおテラス幅Wは、オフ角θとステップ高さHに応じて決まる。
【0055】
以上の様に、スラリーの選定に加えて基板にCMPを施す時間を100時間に設定する事で、硬度が極めて高く化学的に安定したダイヤモンド結晶基板に於ける、オフ基板を形成する為のCMP加工可能条件を見出す事が出来た。
【0056】
更に、基板1のテラス3の表面粗さRqは、5nm以下に収められる。Rqの測定は、表面粗さ測定機により行えば良い。従って、テラス3の表面粗さRqが5nm以下に抑えられた基板1が得られる為、半導体層のエピタキシャル成長用下地結晶として使用可能な基板1が実現される。
【0057】
更に、CMP加工で形成されたステップ2及びテラス3にはピットやダメージが存在しない。ダメージがCMPにより除去可能な詳細な原理は不明である。しかし本出願人は仮説として、CMPによる新たなダメージが形成される前に、速やかに除去されるのではないかと推測した。
【0058】
以上から本発明に係る基板1の製造方法に依れば、CMP後にテラス3の所望の平坦度(表面粗さRq)を得る為の何らかの後処理(例えば、水素プラズマに基板1を晒す平滑化処理や、エッチング、又はアニール等)を行わなくても、テラス3の平坦度が得られる。従って、製造工程と製造時間の短縮と共に、基板1の低コスト化も達成出来る。
【0059】
CMP時間が100時間超となると、加工時間の冗長化を招き、基板1の量産条件最適化が阻害される為、好ましくない。
【0060】
一方、CMP時間が100時間未満では、テラスが均一に現出されないと共に、テラス面上でピットが発生したり、所望の平坦度が得られない。従って、そのテラスで成長させたダイヤモンド結晶にもピットや表面粗さが発生してしまう為、好ましくない。
【0061】
更に、CMPを終了した基板1のテラス3面上に、ダイヤモンド結晶をCVD(Chemical Vapor Deposition)によりステップフロー成長条件でエピタキシャル形成させ、ダイヤモンド結晶を基板1の表面上にホモエピタキシャル成長させる。この様にして、表面上にダイヤモンド結晶が形成されている基板1を得る。CVDは既知の方法が適用可能であり、例えばマイクロ波プラズマCVDや直流プラズマCVD等が挙げられる。
【0062】
ホモエピタキシャル成長されるダイヤモンド結晶の厚みは、任意に設定可能であり、例えば、ステップ2が埋まる程度まで成長形成させても良い。
【0063】
前記スラリーの選定及びCMP100時間の設定に依り、得られる基板1のステップ2やテラス3にはピットやダメージが存在せず、所望の表面粗さも得られる。従ってそのテラス3面上にホモエピタキシャル成長されるダイヤモンド結晶でのピットや結晶欠陥の発生も防止出来る。更に、ダイヤモンド結晶の表面粗さも所望の値に抑える事が可能となる。
【0064】
更に、ダイヤモンド結晶の融合部(界面)での結晶性低下が抑制され、ダイヤモンド結晶での双晶等の結晶欠陥の形成が抑制される。
【0065】
以下に本発明に係る実施例を説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【実施例
【0066】
最初に8mm四方の四角形状で、厚み0.5mmのダイヤモンド単結晶基板を用意した。その基板の表面(主面)の結晶面は(100)とした。その表面に酸化チタンの粒子を含むスラリーを用いて(100)から<100>+0.21°の方向に研磨パッドを押し当ててCMPを基板に施した。CMPを施す時間は100時間とし、100時間に達した時点でCMPを終了し、基板表面を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)で観察した。その観察結果のAFM写真を図2に示す。
【0067】
図2より、本実施例のCMP条件により製造されたダイヤモンド単結晶基板の表面には、ステップ状にテラスが現れており、ダイヤモンド単結晶を形成する炭素原子が綺麗に配列されている事が確認された。またステップ高さは0.36nm、テラス幅は平均で100nmであり、各テラス表面上にはピットやダメージが形成されていない事も確認された。ステップ高さH=0.36nmは、ダイヤモンド単結晶の格子定数0.35nmとほぼ同等であった。また、各テラス表面上の表面粗さRqは、5nmであった。
【0068】
次に、テラスが形成されている基板表面上の各ステップから、直流プラズマCVDによりステップフロー成長条件でダイヤモンド単結晶をホモエピタキシャル成長させた。ホモエピタキシャル成長されるダイヤモンド単結晶の厚みは、ステップが埋まる程度までとした。
【0069】
直流プラズマCVDによるステップフロー成長条件として、基板温度1000℃、CVD炉内圧力100Torr、水素ガス流量475sccm、メタンガス流量25sccmとした。ただし、成長方式は直流プラズマCVD法に限らず、マイクロ波プラズマCVD法やホットフィラメントCVD法などを用いることもできる。
【0070】
成長形成されたダイヤモンド単結晶の表面をSEMで観察した。その観察結果のSEM写真を図4に示す。図4より、本実施例のダイヤモンド単結晶基板の表面にステップフロー成長で形成されたダイヤモンド単結晶には、ピットやダメージが形成されていない事が確認された。併せて、結晶面どうしの融合部で双晶等の結晶欠陥も発生していない事が確認された。またダイヤモンド単結晶の表面粗さRqは、5nmであった。
【0071】
次に比較例として、前記ダイヤモンド単結晶基板にCMPを施す時間を50時間に変更した。その他の条件は全て実施例と同一した。更にこのCMP加工後の基板表面に、前記実施例と同一条件でダイヤモンド単結晶をホモエピタキシャル成長させ、成長形成されたダイヤモンド単結晶の表面をSEMで観察した。その観察結果のSEM写真を図3に示す。
【0072】
図3より、比較例で形成されたダイヤモンド単結晶には、ピットが形成される事が確認された。従って、CMP時間が100時間未満の加工が施されたダイヤモンド単結晶基板で成長させたダイヤモンド単結晶には、ピットが発生してしまう事が分かった。
【符号の説明】
【0073】
1 ダイヤモンド結晶基板
2 ステップ
3 テラス
H ステップ高さ
W テラス幅
θ オフ角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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