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  • 特許-樹脂組成物および成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/03 20060101AFI20250324BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20250324BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20250324BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20250324BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20250324BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250324BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
C08L67/03
C08L69/00
C08K3/36
C08L27/12
C08K5/524
C08K3/04
G02B1/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021552379
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038504
(87)【国際公開番号】W WO2021075405
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019189405
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 穣
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204078(WO,A1)
【文献】特開2016-108526(JP,A)
【文献】特開2007-196516(JP,A)
【文献】特開2006-291081(JP,A)
【文献】特開2009-062461(JP,A)
【文献】特開2010-155929(JP,A)
【文献】特開平10-087982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-69/00
C08L 27/00-27/24
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、平均粒径が2~μmであるシリカ粒子、平均粒径が0.5~20μmであるフッ素原子含有ポリマー粒子および一般式(I)で示される亜リン酸エステル化合物を含有し、
前記ポリアリレート樹脂と前記ポリカーボネート樹脂との質量比率が25/75~70/30であり、
前記シリカ粒子の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して8~50質量部であり、
前記フッ素原子含有ポリマー粒子が未焼成フッ素原子含有ポリマー粒子であって、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン・パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群から選択され、
前記フッ素原子含有ポリマー粒子の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.5~12質量部であり、
前記亜リン酸エステル化合物の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.030.5質量部である、樹脂組成物:
【化1】
(式(I)中、m1およびm2はそれぞれ独立しての整数である;
およびRはそれぞれ独立して置換基を有さない炭素原子数1~12のアルキル基を示す;
4つのRはそれぞれ独立して炭素原子数1~のアルキレン基を示す)。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、カーボンナノチューブを、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.5~15質量部でさらに含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記亜リン酸エステル化合物が一般式(I-1)で表される化合物である、請求項1または2に記載の樹脂組成物:
【化2】
(式(I-1)中、R11~R16はそれぞれ独立して水素原子または置換基を有さない炭素原子数1~10のアルキル基である)。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物を、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.01~1質量部でさらに含有する、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物:
【化3】
(式(II)中、Xは炭化水素基、またはエーテル基を示す;
nはXに応じて決定される1以上の整数である;
21およびR22はそれぞれ独立して炭素原子数1~9のアルキル基を示す;
23およびR24はそれぞれ独立して炭素原子数1~5のアルキレン基を示す)。
【請求項5】
前記フッ素原子含有ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン・パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群から選択される1種以上のポリマーである、請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物を含む成形品。
【請求項7】
前記成形品がカメラモジュール部品である、請求項に記載の成形品。
【請求項8】
前記成形品がレンズユニット部品である、請求項に記載の成形品。
【請求項9】
前記成形品がアクチュエーター部品である、請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物およびそれを成形した成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)およびCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を有するカメラモジュール部品は、携帯電話、ゲーム機、パソコン、車載カメラ、携帯電話端末等に使用されている。近年ではさらに小型化および高性能化が進められ、小型のカメラモジュール部品の開発が進められている。
【0003】
カメラモジュールのオートフォーカスや手ぶれ防止機構等においては、レンズ内のモーター等を動かし、ピント調整やブレ防止を行っている。このような機構をカメラモジュールに組み込んだ場合、カメラモジュール部品同志の間またはカメラモジュール部品と他の部品との間で、擦り合いおよび摩擦等が起こるため、カメラモジュール部品表面は、動摩擦係数が小さいこと(摺動性)が求められている。
【0004】
仮にカメラモジュール部品が摺動性に優れていたとしても、カメラモジュール内の撮影素子表面およびレンズ表面は、わずかな埃によっても容易に黒傷およびシミを生じ、カメラ性能が低下することがある。詳しくは、カメラモジュール部品同志またはカメラモジュール部品と他の部品との擦り合わせ、摩擦等により、カメラモジュール部品が削れ、微細な樹脂片等が塵の原因となって、レンズ表面に付着したり、カメラモジュール部品間に堆積し、機構部品の動作の障害となったりしている。このため、カメラモジュール部品を構成する樹脂材料には、製造時および使用時に破片、塵および埃の発生が抑制されていること(耐発塵性)が求められている。
【0005】
またカメラモジュール部品には、一般に、電気配線のハンダ付けがおこなわれている。このため、カメラモジュール部品を構成するレンズユニットおよびアクチュエーター等の精密部品は、ハンダ付け温度(最高150℃程度)に曝された場合においても、優れた寸法安定性を有することが要求される。
【0006】
さらに、成形により、樹脂の分子量があまり低下しないこと(成形安定性)も求められている。また、成形品が優れた機械的強度を有することも求められている。また、成形品の表面において、シリカ等のフィラーが浮き出ることなく、表面が平滑であること(外観性)も求められている。
【0007】
そこで、特定比率のポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂に対して、焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂および球状シリカをそれぞれ特定量で含有させた樹脂組成物が知られている(特許文献1)。
【0008】
また、特定比率のポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂に対して、シリカ粒子および特定の亜リン酸エステル化合物をそれぞれ特定量で含有させた樹脂組成物が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-50488号公報
【文献】WO2017/204078A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術においては、成形安定性が低下するだけでなく、十分な耐発塵性を得ることはできなかった。特に耐発塵性について、詳しくは、より苛酷な環境下(例えば、より長期にわたって部品間で擦り合いが起こる環境下)において、十分な耐発塵性を得ることはできなかった。
また特許文献2の技術においては、より苛酷な環境下(例えば、より長期にわたって部品間で擦り合いが起こる環境下)において、やはり十分な耐発塵性を得ることはできなかった。
【0011】
本発明は、耐発塵性、耐熱性、寸法安定性、摺動性、機械的強度および外観性に優れた成形品を成形できる、成形安定性に優れた樹脂組成物、およびそれを成形した成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂を併用する樹脂組成物において、特定の平均粒径のシリカ粒子、特定の平均粒径のフッ素原子含有ポリマー粒子、および特定の亜リン酸エステル化合物を用いることによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明に達した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
<1> ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、平均粒径が0.4~12μmであるシリカ粒子、平均粒径が0.5~20μmであるフッ素原子含有ポリマー粒子および一般式(I)で示される亜リン酸エステル化合物を含有し、
前記ポリアリレート樹脂と前記ポリカーボネート樹脂との質量比率が25/75~92/8であり、
前記シリカ粒子の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して4~65質量部であり、
前記フッ素原子含有ポリマー粒子の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.5~12質量部であり、
前記亜リン酸エステル化合物の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.008~1.2質量部である、樹脂組成物:
【化1】
(式(I)中、m1およびm2はそれぞれ独立して0~5の整数である;
およびRはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素原子数1~12のアルキル基を示す;
4つのRはそれぞれ独立して炭素原子数1~5のアルキレン基を示す)。
<2> 前記樹脂組成物が、カーボンナノチューブを、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.5~15質量部でさらに含有する、<1>に記載の樹脂組成物:
<3> 前記亜リン酸エステル化合物が一般式(I-1)で表される化合物である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物:
【化2】
(式(I-1)中、R11~R16はそれぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素原子数1~10のアルキル基である)。
<4> 前記樹脂組成物が、一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物を、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.01~1質量部でさらに含有する、<1>~<3>のいずれかに記載の樹脂組成物:
【化3】
(式(II)中、Xは炭化水素基、またはエーテル基を示す;
nはXに応じて決定される1以上の整数である;
21およびR22はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~9のアルキル基を示す;
23およびR24はそれぞれ独立して炭素原子数1~5のアルキレン基を示す)。
<5> 前記フッ素原子含有ポリマー粒子が未焼成フッ素原子含有ポリマー粒子である、<1>~<4>のいずれかに記載の樹脂組成物。
<6> 前記シリカ粒子の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して4~50質量部である、<1>~<5>のいずれかに記載の樹脂組成物。
<7> 前記シリカ粒子の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して8~62質量部であり、
前記シリカ粒子の平均粒径が2~12μmであり、
前記フッ素原子含有ポリマー粒子が未焼成フッ素原子含有ポリマー粒子である、<1>~<4>のいずれかに記載の樹脂組成物。
<8> 前記ポリアリレート樹脂と前記ポリカーボネート樹脂との質量比率が25/75~70/30であり、
前記シリカ粒子の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して8~50質量部であり、
前記シリカ粒子の平均粒径が2~8μmであり、
前記亜リン酸エステル化合物の含有量が前記ポリアリレート樹脂および前記ポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して0.03~0.5質量部であり、
前記亜リン酸エステル化合物について、前記m1およびm2はそれぞれ独立して1~3の整数であり、前記RおよびRはそれぞれ独立して置換基を有さない炭素原子数1~12のアルキル基を示し、前記4つのRはそれぞれ独立して炭素原子数1~3のアルキレン基を示す、<7>に記載の樹脂組成物。
<9> 前記フッ素原子含有ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン・パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群から選択される1種以上のポリマーである、<1>~<8>のいずれかに記載の樹脂組成物。
<10> <1>~<9>のいずれかに記載の樹脂組成物を含む成形品。
<11> 前記成形品がカメラモジュール部品である、<10>に記載の成形品。
<12> 前記成形品がレンズユニット部品である、<10>に記載の成形品。
<13> 前記成形品がアクチュエーター部品である、<10>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、成形安定性に優れている。
本発明の樹脂組成物は、耐発塵性、耐熱性、寸法安定性、摺動性および外観性に優れた成形品を成形できる。
本発明の樹脂組成物から成形された成形品は、機械的強度、特に曲げ強度にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例で製造した試験片を説明するための図であり、(A)は試験片の斜視図であり、(B)は試験片の正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリカ粒子、フッ素原子含有ポリマー粒子および亜リン酸エステル化合物を含有する。
【0017】
本発明に用いるポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸残基単位とビスフェノール残基単位とで構成される樹脂である。
【0018】
ビスフェノール残基を導入するためのポリアリレート原料は、ビスフェノール類である。その具体例として、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。とりわけ、ビスフェノールAが経済的に好ましい。
【0019】
芳香族ジカルボン酸残基を導入するための原料の好ましい例としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が挙げられる。本発明においては、両者を混合使用して得られるポリアリレート樹脂組成物が、溶融加工性および機械的特性の面で、特に好ましい。その混合比率(テレフタル酸/イソフタル酸)は任意に選択することができるが、モル分率で90/10~10/90の範囲であることが好ましく、より好ましくは70/30~30/70、さらに好ましくは60/40~40/60、最適には50/50である。テレフタル酸の混合モル分率が10モル%未満であっても、90モル%を超えていても、界面重合法で重合する場合は十分な重合度を得にくくなる場合がある。
【0020】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール類残基とカーボネート残基単位とで構成される樹脂である。
【0021】
ビスフェノール残基単位を導入するための原料のビスフェノール類としては、例えばビスフェノールA、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジチオジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-2,5-ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
カーボネート残基単位を導入するための前駆物質としては、ホスゲンなどのカルボニルハライド、ジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルが使用できる。
【0023】
本発明においてポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂は、ポリアリレート樹脂単体とポリカーボネート樹脂単体を溶融混練して製造してもよいし、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の共重合体を使用してもよい。
【0024】
ポリアリレート樹脂の重合方法、ポリカーボネート樹脂の重合方法、ポリアリレートとポリカーボネートの共重合樹脂の重合方法としては、本発明の目的を満足するものであれば、界面重合法でも溶融重合法でも特に限定されず、公知の方法を使用してよい。
【0025】
本発明において、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂の極限粘度は、0.40~0.60であることが好ましい。極限粘度が0.60を上回ると溶融粘度が高くなり、射出成形が困難になる。極限粘度が0.40を下回ると、得られる成形品の衝撃強度が不足する傾向にある。ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂はそれぞれ上記範囲内の極限粘度を有することが好ましい。
【0026】
ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂は市販品として入手することもできる。
【0027】
ポリアリレート樹脂と前記ポリカーボネート樹脂との質量比率(ポリアリレート/ポリカーボネート)は25/75~92/8であり、耐発塵性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から好ましくは25/75~70/30、より好ましくは25/75~50/50、さらに好ましくは25/75~40/60である。ポリアリレート樹脂の比率が少なすぎると、耐熱性および寸法安定性が低下する。ポリアリレート樹脂の比率が多すぎると、流動性が悪いために、成形が困難になる。
【0028】
耐発塵性とは、成形品の組立時および使用時において、当該成形品から一部が破片または埃等として脱落し難い特性をいう。耐発塵性は、後述の摺動性と必ずしも、相関するものではない。例えば、成形品が耐発塵性に優れているからといって、摺動性にも優れているとは限らない。また例えば、成形品が摺動性に優れているからといって、耐発塵性に優れているとは限らない。
成形安定性とは、成形によっても樹脂の分子量が低下し難い特性をいう。
摺動性とは、成形品表面の滑らかさに関する特性であり、例えば、動摩擦係数が小さいほど良好であることを意味する特性である。
外観性とは、シリカ粒子等のフィラーが成形品表面に浮き出にくい特性であり、成形品が黒色を有する場合には、成形品表面がより黒く見える特性をいう。
寸法安定性とは、成形品が苛酷環境によっても寸法変化し難い特性をいう。
【0029】
本発明に用いるシリカ粒子は、プラスチックの分野でフィラーとして使用されているシリカ粒子であれば特に限定されない。シリカ粒子としては、耐発塵性のさらなる向上の観点から、球状シリカが好ましく使用される。球状とは、顕微鏡写真において最大径/最小径が1~1.3、特に1~1.2を示す形状のことである。シリカ粒子の代わりに他の無機微粒子、例えばチタニア粒子またはアルミナ粒子を用いると、寸法安定性が低下する。
【0030】
シリカ粒子の含有量は、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して4~65質量部であることが必要であり、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点からは、好ましくは8~62質量部、より好ましくは8~50質量部、さらに好ましくは8~40質量部、最も好ましくは8~30質量部の範囲である。当該含有量が4質量部未満であると、樹脂組成物の寸法安定性が不十分になる。当該含有量が65質量部を超えると、溶融混練押出しによるペレット化が困難になるなど、樹脂組成物の製造の際における工程通過時に不都合が生じる。シリカ粒子の含有量は、耐発塵性単独のさらなる向上の観点から、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して4~50質量部であることが好ましい。
【0031】
本発明において、樹脂組成物に配合されるシリカ粒子の平均粒径は、レーザー回折/散乱粒度分布計等の粒度分布測定装置を用いて粒子径分布を測定した場合の、重量累積50%のときの粒径値で定義されるものである。この測定は、例えば、水あるいはアルコールに測定許容濃度となるようにシリカ粒子を加えて縣濁液を調整し、超音波分散機で分散させてから、行うようにする。
【0032】
本発明の樹脂組成物に配合されるシリカ粒子の平均粒径は、小さいほど、このシリカ粒子が樹脂組成物から脱落してダストとなった場合に、樹脂組成物によって形成された製品の機能を阻害しにくい。一方、シリカ粒子の平均粒径が小さすぎると、シリカ粒子が成形品表面に浮き出て、白く見えるため、外観性が低下する。従って、シリカ粒子の平均粒径は、実用上、0.4~12μm、特に0.5~10μmであることが必要であり、耐発塵性、外観性および成形安定性のさらなる向上の観点から好ましくは2~12μm、より好ましくは2~8μm、さらに好ましくは2~6μmである。平均粒径が12μmを超えると、たとえば本発明の樹脂組成物がカメラレンズ部品に使用される場合において、樹脂組成物から脱落したシリカがダストとして撮影を阻害する場合がある。シリカ粒子の平均粒径が12μmを超えると、本発明の樹脂組成物を用いた部品の寸法安定性が不十分になる。
【0033】
本発明において、シリカ粒子の製法は限定されず、公知の方法で製造することができる。例えば、シリカ微小粉末を高温火炎中に投入して、溶融、流動化させ、表面張力を利用して球状になったところで、急冷して製造する方法が挙げられる。あるいは、酸素を含む雰囲気内において着火用バーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中にシリコン粉末を粉塵雲が形成される程度の量で投入し、爆発を起こさせてシリカ超微粒子を製造する方法、アルコキシシランをアルカリ下で加水分解・凝集してゾル-ゲル法で製造する方法が挙げられる。
【0034】
シリカ粒子と樹脂マトリックスとの接着性を改良するために、シリカ粒子にはシランカップリング処理剤により表面処理を施してもよい。
【0035】
シリカ粒子は市販品として入手することもできる。
【0036】
シリカ粒子を樹脂マトリックス中に分散させるために、分散剤を使用してもよい。分散剤としては、たとえば、脂肪酸エステルおよびその誘導体、脂肪酸アマイドおよびその誘導体、ならびにこれらの混合物からなる群から選択されるものを使用できる。脂肪酸アマイドとしては、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどが挙げられる。シリカが樹脂マトリックス中に均一に分散することによって、成形収縮率、線膨張係数が小さくなり、寸法安定性がより向上する。分散剤の添加量は、本発明の樹脂組成物100質量部に対して、0.01~0.5質量部が望ましい。
【0037】
本発明で用いるフッ素原子含有ポリマー粒子は、フッ素原子を含有するモノマーを重合成分として含有するポリマーの粒子である。フッ素原子含有ポリマー粒子の重合方法は、懸濁や乳化など問わず、焼成、未焼成、いずれを用いても良い。フッ素原子含有ポリマー粒子を用いることにより、はじめて耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性の全ての特性が良好となる。フッ素原子含有ポリマーは、フッ素原子含有モノマーのみを含有するポリマーであってもよいし、またはフッ素原子含有モノマーとフッ素原子を含有しないフッ素原子フリーモノマーとの共重合体であってもよい。フッ素原子含有ポリマーは、耐発塵性および摺動性のさらなる向上の観点から、フッ素原子含有モノマーのみを含有するポリマーであることが好ましい。フッ素原子含有モノマーとして、例えば、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、パーフルオロメチルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、フツ化ビニル等が挙げられる。フッ素原子フリーモノマーとして、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。フッ素原子含有ポリマーにおけるフッ素原子含有モノマーの含有割合は通常、50モル%以上であり、耐発塵性および摺動性のさらなる向上の観点から、70モル%以上、90モル%以上である。
【0038】
フッ素原子含有ポリマーの具体例として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン・パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等が挙げられる。本発明においては、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、特に低分子量ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。低分子量ポリテトラフルオロエチレンには少量の共重合成分(すなわち、フッ素原子フリーモノマー)を含んでいてもよい。低分子量ポリテトラフルオロエチレンにおける共重合成分の含有量は例えば、2モル%以下である。低分子量とは、後述のような分子量のことである。
【0039】
本発明で用いるフッ素原子含有ポリマー粒子の平均粒径は0.5~20μmであり、耐発塵性、成形安定性および摺動性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.5~10μmであり、より好ましくは1~8μmであり、さらに好ましくは2~6μmであり、特に好ましくは3~6μmである。フッ素原子含有ポリマーの平均粒径が0.5μm未満であると、樹脂組成物に対し摺動性を付与することが難しくなったり、それ自身が発塵の要因となる恐れがある。当該平均粒径が20μmを超えると成形安定性が損なわれる。
【0040】
フッ素原子含有ポリマーの平均粒径は、パークロルエチレン中に分散させた分散液を光透過法により測定する方法で測定される平均粒径である。フッ素原子含有ポリマーの平均粒径は、樹脂組成物中における平均粒径であるが、樹脂組成物の製造に使用される原料の平均粒径が樹脂組成物中においても通常、そのまま維持され、さらには当該樹脂組成物を用いて製造される成形品においても維持される。
【0041】
フッ素原子含有ポリマーの分子量は特に限定されないが、耐発塵性、成形安定性および摺動性のさらなる向上の観点から、低分子量であることが好ましい。低分子量とは、数平均分子量が数千~数十万の分子量のことであり、例えば、100万以下であることが好ましく、60万以下であることがより好ましい。
【0042】
分子量は、示差走査熱量計(DSC法)によって測定された値を用いている。
【0043】
フッ素原子含有ポリマーの融点は特に限定されないが、耐発塵性、成形安定性および摺動性のさらなる向上の観点から、320℃以上、特に325~335℃であることが好ましい。
【0044】
融点は、示差走査熱量計(DSC法)によって測定された値を用いている。
【0045】
フッ素原子含有ポリマーは未焼成物であってもよいし、または焼成物であってもよい。焼成とは、フッ素原子含有ポリマーを、その融点以上に加熱することである。焼成物は、焼成後、粉砕したものである。焼成物を用いることにより、樹脂組成物中におけるフッ素原子含有ポリマーの分散性が向上する。フッ素原子含有ポリマーは、耐発塵性、外観性および摺動性のさらなる向上の観点から、未焼成物であることが好ましい。
【0046】
フッ素原子含有ポリマーは市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
【0047】
フッ素原子含有ポリマー粒子の含有量は、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して、0.5~12質量部であり、耐発塵性、成形安定性および摺動性のさらなる向上の観点から、好ましくは1.5~12質量部、より好ましくは2~12質量部、さらに好ましくは2~8質量部、最も好ましくは3~6質量部である。当該含有量が少なすぎると摺動性および発塵性が低下し、多すぎると成形安定性が損なわれる。フッ素原子含有ポリマーは、モノマー組成、分子量および/または融点等の異なる2種以上のフッ素原子含有ポリマーを含んでもよい。その場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。
【0048】
本発明においては、一般式(I)で示される亜リン酸エステル化合物を用いる。このような亜リン酸エステル化合物を用いることにより、はじめて耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性の全ての特性が良好となる。一般式(I)で示される亜リン酸エステル化合物の代わりに、当該亜リン酸エステル化合物には含まれない亜リン酸エステル化合物を用いると、成形安定性および耐発塵性が低下する。
【0049】
【化4】
【0050】
式(I)中、m1およびm2はそれぞれ独立して0~5の整数であり、特に耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数である。
【0051】
およびRはそれぞれ独立して炭素原子数1~12、好ましくは1~10、より好ましくは1~9、さらに好ましくは1~5のアルキル基を示す。アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基およびラウリル基が挙げられる。RおよびRにおいてアルキル基は置換基を有していてもよい。RおよびRにおけるアルキル基の置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル等のアリール基(好ましくはフェニル基);フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子(好ましくはフッ素原子、塩素原子)等が挙げられる。好ましい置換基はアリール基、特にフェニル基である。RおよびRにおいて、アルキル基が置換基を有する場合、上記アルキル基の炭素原子数には当該置換基の炭素原子数は含まれないものとする。RおよびRにおける置換基を有するアルキル基の具体例として、例えば、ベンジル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基(=クミル基)、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、モノナフチルメチル基、モノフルオロメチル基、モノクロロメチル基)等が挙げられる。2以上のRはそれぞれ独立して選択されればよい。2以上のRはそれぞれ独立して選択されればよい。RおよびRは、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、置換基を有さないアルキル基であることが好ましい。
【0052】
4つのRはそれぞれ独立して炭素原子数1~5のアルキレン基を示す。4つのRは、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して好ましくは炭素原子数1~3のアルキレン基を示す。Rの好ましいアルキレン基として、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリエチレン基が挙げられる。最も好ましい4つのRはそれぞれ独立してメチレン基またはジメチレン基であり、特に同時にメチレン基である。
【0053】
上記した一般式(I)で示される亜リン酸エステル化合物の中でも、耐発塵性、耐熱性、寸法安定性、外観性、成形安定性および強度の観点から好ましい亜リン酸エステル化合物は一般式(I-1)で表される亜リン酸エステル化合物である。
【0054】
【化5】
【0055】
式(I-1)中、R11およびR14はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基である。R11およびR14は、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して好ましくは炭素原子数1~5、より好ましくは1~4のアルキル基を示す。R11およびR14におけるアルキル基の具体例としては、RおよびRにおけるアルキル基と同様の具体例のうち、所定の炭素原子数のアルキル基が挙げられる。R11およびR14においてアルキル基は置換基を有していてもよい。R11およびR14におけるアルキル基の置換基としては、RおよびRにおけるアルキル基が有していてもよい置換基と同様の置換基が挙げられる。R11およびR14におけるアルキル基の好ましい置換基はアリール基、特にフェニル基である。R11およびR14においても、アルキル基が置換基を有する場合、アルキル基の炭素原子数には当該置換基の炭素原子数は含まれないものとする。R11およびR14における置換基を有するアルキル基の具体例として、RおよびRにおける置換基を有するアルキル基と同様の具体例が挙げられる。R11およびR14のより好ましいアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。さらに好ましいR11およびR14は、それぞれ独立してまたは同時に、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基、またはジフェニルメチル基であり、特に好ましくは、メチル基またはα,α-ジメチルベンジル基である。耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、R11およびR14においてアルキル基は置換基を有さないことが好ましく、最も好ましいR11およびR14は同じ基であり、特に同時にメチル基である。
【0056】
12およびR15はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基である。R12およびR15は、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して好ましくは炭素原子数1~5、より好ましくは2~5、さらに好ましくは3~5のアルキル基を示す。R12およびR15におけるアルキル基の具体例としては、RおよびRにおけるアルキル基と同様の具体例のうち、所定の炭素原子数のアルキル基が挙げられる。R12およびR15においてアルキル基は置換基を有していてもよい。R12およびR15におけるアルキル基の置換基としては、RおよびRにおけるアルキル基が有していてもよい置換基と同様の置換基が挙げられる。R12およびR15におけるアルキル基の好ましい置換基はアリール基、特にフェニル基である。R12およびR15においても、アルキル基が置換基を有する場合、アルキル基の炭素原子数には当該置換基の炭素原子数は含まれないものとする。R12およびR15における置換基を有するアルキル基の具体例として、RおよびRにおける置換基を有するアルキル基と同様の具体例が挙げられる。R12およびR15のより好ましいアルキル基として、例えば、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基が挙げられる。さらに好ましいR12およびR15は、それぞれ独立してまたは同時に、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ベンジル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、またはα,α-ジメチルベンジル基であり、特に好ましくは、tert-ブチル基またはα,α-ジメチルベンジル基である。耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、R12およびR15においてアルキル基は置換基を有さないことが好ましく、最も好ましいR12およびR15は同じ基であり、特に同時にtert-ブチル基である。
【0057】
13およびR16はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基である。R13およびR16は、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して好ましくは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基を示し、より好ましくは炭素原子数3~5のアルキル基を示す。R13およびR16におけるアルキル基の具体例としては、RおよびRにおけるアルキル基と同様の具体例のうち、所定の炭素原子数のアルキル基が挙げられる。R13およびR16においてアルキル基は置換基を有していてもよい。R13およびR16におけるアルキル基の置換基としては、RおよびRにおけるアルキル基が有していてもよい置換基と同様の置換基が挙げられる。R13およびR16におけるアルキル基の好ましい置換基はアリール基、特にフェニル基である。R13およびR16においても、アルキル基が置換基を有する場合、アルキル基の炭素原子数には当該置換基の炭素原子数は含まれないものとする。R13およびR16における置換基を有するアルキル基の具体例として、RおよびRにおける置換基を有するアルキル基と同様の具体例が挙げられる。R13およびR16のより好ましいアルキル基として、例えば、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基が挙げられる。さらに好ましいR13およびR16は、それぞれ独立してまたは同時に、水素原子、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、またはペンチル基であり、特に好ましくは水素原子またはtert-ブチル基である。耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、R13およびR16においてアルキル基は置換基を有さないことが好ましく、最も好ましいR13およびR16は同じ基であり、特に同時にtert-ブチル基である。
【0058】
一般式(I)で示される亜リン酸エステル化合物の具体例として、例えば、以下の化合物が挙げられる:
化合物(I-1-1):ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト;一般式(I-1)中、R11=R14=メチル基、R12=R15=tert-ブチル基、R13=R16=tert-ブチル基;
化合物(I-1-2):ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト;一般式(I-1)中、R11=R14=エチル基、R12=R15=tert-ブチル基、R13=R16=tert-ブチル基;
化合物(I-1-3):ビス(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)スピロペンタエリスリトール-ジホスファイト;一般式(I-1)中、R11=R14=tert-ブチル基、R12=R15=tert-ブチル基、R13=R16=tert-ブチル基;
化合物(I-1-4):ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト;一般式(I)中、m1=m2=1、R=R=ノニル基、R=メチレン基;
化合物(I-1-5):ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト;一般式(I-1)中、R11=R14=tert-ブチル基、R12=R15=tert-ブチル基、R13=R16=水素原子;
化合物(I-1-6):ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト;一般式(I-1)中、R11=R14=α,α-ジメチルベンジル基、R12=R15=α,α-ジメチルベンジル基、R13=R16=水素原子。
【0059】
成形安定性および耐発塵性のさらなる向上の観点からより好ましい亜リン酸エステル化合物は化合物(I-1-1)および/または化合物(I-1-6)であり、さらに好ましくは化合物(I-1-1))である。
【0060】
一般式(I)で示される亜リン酸エステル化合物は市販品として入手することもできるし、または公知の方法により合成することもできる。
【0061】
化合物(I-1-1)は、例えば市販のADEKA社製「PEP―36」等として入手可能である。
化合物(I-1-6)は、例えば市販のドーバー・ケミカル・コーポレーション社製「Doverphos S-9228PC」等として入手可能である。
【0062】
一般式(I)で表される亜リン酸エステル化合物の含有量は、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して、0.008~1.2質量部、特に0.01~1質量部であり、耐発塵性、強度、耐熱性、寸法安定性、成形安定性、摺動性および外観性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.02~0.5質量部、より好ましくは0.03~0.5質量部、さらに好ましくは0.03~0.1質量部である。当該含有量が少なすぎると、または多すぎると、成形安定性および耐発塵性が低下する。
【0063】
一般式(I)で表される亜リン酸エステル化合物は2種類以上を組み合わせて用いてもよく、その場合、それらの合計量が前記範囲内であればよい。また、本発明の組成物は、亜リン酸エステルの分解(加水分解や熱分解等)により生じたリン化合物を含んでいてもよい。
【0064】
本発明の樹脂組成物は、一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物をさらに含有することが好ましい。このようなヒンダードフェノール化合物を含有させることにより、成形安定性および耐発塵性をより一層、向上させることができる。
【0065】
【化6】
【0066】
式(II)中、Xは炭化水素基、またはエーテル基を示す。
炭化水素基は炭素原子数1~20の1価または4価炭化水素基である。
1価の炭化水素基として、炭素原子数10~20、好ましくは15~20、より好ましくは16~18のアルキル基が挙げられる。そのようなアルキル基として、例えば、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
4価の炭化水素基として、炭素原子1~2の飽和炭化水素基、好ましくは炭素原子が挙げられる。
エーテル基は、2価の基であり、具体的には「-O-」である。
好ましいXは炭化水素基、特に1価または4価炭化水素基である。
【0067】
nはXの価数に応じて決定される1以上、特に1~4の整数である。Xが1価のとき、nは1である。Xが2価のとき、nは2である。Xが3価のとき、nは3である。Xが4価のとき、nは4である。
【0068】
21およびR22はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~9のアルキル基である。R21およびR22はそれぞれ独立して好ましくは炭素原子数1~5、より好ましくは3~5のアルキル基を示す。R21およびR22のより好ましいアルキル基として、例えば、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基が挙げられる。最も好ましいR21およびR22は同じ基であり、特に同時にtert-ブチル基である。
【0069】
23およびR24はそれぞれ独立して炭素原子数1~5のアルキレン基を示す。R23およびR24はそれぞれ独立して好ましくは炭素原子数1~3のアルキレン基を示す。R23およびR24の好ましいアルキレン基として、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリエチレン基が挙げられる。最も好ましいR23およびR24はそれぞれ独立してメチレン基またはジメチレン基であり、特にそれぞれジメチレン基およびメチレン基である。
【0070】
上記した一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物の中でも、成形安定性および耐発塵性のさらなる向上の観点から好ましいヒンダードフェノール化合物は一般式(II-1)および(II-2)で表されるヒンダードフェノール化合物、特に一般式(II-1)で表されるヒンダードフェノール化合物である。
【0071】
【化7】
【0072】
式(II-1)中、R21およびR22はそれぞれ、式(II)におけるR21およびR22と同様である。
式(II-1)中、R23およびR24はそれぞれ、式(II)におけるR23およびR24と同様である。
【0073】
【化8】
【0074】
式(II-2)中、R21およびR22はそれぞれ、式(II)におけるR21およびR22と同様である。
式(II-2)中、R23は、式(II)におけるR23と同様である。
式(II-2)中、R25は、炭素原子数11~25、好ましくは16~23、より好ましくは16~20のアルキル基が挙げられる。より好ましいアルキル基として、例えば、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基(=オクタデシル基)、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
【0075】
一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物の具体例として、例えば、以下の化合物が挙げられる:
化合物(II-1-1):ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;一般式(II-1)中、R21=R22=tert-ブチル基、R23=ジメチレン基、R24=メチレン基;
化合物(II-2-1):オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;一般式(II-2)中、R21=R22=tert-ブチル基、R23=ジメチレン基、R25=オクタデシル基。
【0076】
成形安定性および耐発塵性のさらなる向上の観点からより好ましいヒンダードフェノール化合物は一般式(II-1)のヒンダードフェノール化合物、特に化合物(II-1-1)である。
【0077】
一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物は市販品として入手することもできるし、または公知の方法により合成することもできる。
【0078】
化合物(II-1-1)は、例えば市販のBASF社製イルガノックス1010等として入手可能である。
化合物(II-2-1)は、例えば市販のBASF社製イルガノックス1076等として入手可能である。
【0079】
一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物の含有量は、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して、0.01~1質量部であり、成形安定性および耐発塵性のさらなる向上の観点から好ましくは0.02~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.1質量部である。
【0080】
一般式(II)で示されるヒンダードフェノール化合物は2種類以上を組み合わせて用いてもよく、その場合、それらの合計量が前記範囲内であればよい。
【0081】
本発明の樹脂組成物には、帯電防止性能の向上の観点から、さらにカーボンナノチューブを含有してもよい。カーボンナノチューブは、特に限定されず、グラファイト層を巻いて円筒状にした形状を有しており、例えば、グラファイト層を1層で巻いた構造を持つ単層カーボンナノチューブ、もしくは2層またはそれ以上で巻いた多層カーボンナノチューブのいずれでも良い。カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであることが好ましい。樹脂組成物に対しカーボンナノチューブを含有させることで、樹脂組成物の表面抵抗率を低下させ、樹脂組成物を用いた成形体が静電気を帯びることを抑制するとともに、静電気による塵埃の付着の抑制が可能となる。なお、帯電防止性能は、本発明の樹脂組成物が必ずしも有さなければならない特性というわけではなく、本発明の樹脂組成物が有さなくてもよい特性であって、本発明の樹脂組成物が有することが好ましい特性である。
【0082】
本発明のカーボンナノチューブは、一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。特に、ゼオライトを触媒の担体としてアセチレンを原料に熱CVD法で作る方法で得られたカーボンナノチューブは、多少の熱分解による不定形炭素被覆はあるものの、特に精製することなく、純度が高く、良くグラファイト化された多層カーボンナノチューブである点で、本発明に使用するカーボンナノチューブとして好ましい。
【0083】
本発明で用いるカーボンナノチューブは、好ましくは平均長さが5~100μmのもので、さらに好ましくは10~80μmのものである。またカーボンナノチューブは、好ましくは径が1~200nmのもので、さらに好ましくは径が3.5~150nmのものである。
【0084】
カーボンナノチューブの含有量は、ポリアリレート樹脂およびポリカーボネート樹脂の合計量100質量部に対して、0.5~15質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましく、2~8質量部であることがさらに好ましく、3~6質量部であることが特に好ましい。カーボンナノチューブの含有量が0.1質量部未満では、表面抵抗率を十分に低下させることが不十分となることがあり、10質量部を超えるともはや表面抵抗率の低下効果が飽和に達し、また成形安定性が不十分となることがある。
【0085】
本発明の樹脂組成物には、上記成分以外に、本発明の樹脂組成物の特性を損なわない範囲であれば、離型剤、顔料、染料、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、耐衝撃改良剤、超高分子量ポリエチレン等の摺動剤等を添加することができる。本発明の樹脂組成物は離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、飽和脂肪族ポリオールの脂肪酸エステルが挙げられる。
【0086】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、樹脂組成物中に各成分が均一に分散されている状態になればよい。例えば、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリカ粒子、フッ素原子含有ポリマー粒子および亜リン酸エステル化合物、ならびにその他の添加剤を、タンブラーあるいはヘンシェルミキサーを用いて均一にブレンドした後に、溶融混練して、ペレット化する方法が挙げられる。
【0087】
本発明の樹脂組成物の成形方法は特に限定されないが、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられる。中でも、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。射出成形に用いる射出成形機は特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形品として金型から取り出される。
【0088】
本発明の成形品は、上記ペレット形状を有する樹脂組成物を用いて成形することにより製造することができる。本発明の成形品はまた、シリカ粒子を予めポリアリレート樹脂および/またはポリカーボネート樹脂と混練してから、残りの必要な成分とさらに混練し成形することにより製造されてもよい。本発明の成形品はまた、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリカ粒子、フッ素原子含有ポリマー粒子および亜リン酸エステル化合物をドライブレンドし、ペレット化なしに、直接成形することにより製造されてもよい。
【0089】
本発明の樹脂組成物は成形安定性に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物(ペレット)を、樹脂温度340℃および成形サイクル900秒で射出成形し、図1に示す試験片を作製したとき、ペレットの極限粘度に基づく成形品の極限粘度の低下割合は通常、10%未満であり、好ましくは7%未満であり、より好ましくは4%未満である。詳しい測定方法は実施例で示す。図1は試験片を説明するための図であり、(A)は試験片の斜視図であり、(B)は試験片の正面図および側面図である。図1における寸法の単位は「mm」である。
【0090】
本発明の成形品は強度に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物を、樹脂温度340℃および成形サイクル30秒で射出成形し、ダンベル試験片を作製し、試験片の曲げ強度をJIS K7171に準じて測定したとき、曲げ強度は通常、82MPa以上であり、好ましくは92MPa以上であり、より好ましくは102MPa以上である。詳しい測定方法は実施例で示す。
【0091】
本発明の成形品は耐熱性に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物を、樹脂温度340℃および成形サイクル30秒で射出成形し、ダンベル試験片を作製し、荷重たわみ温度をJIS K7191-1、K7191-2に準じ、荷重1.8MPaにて測定したとき、荷重たわみ温度は通常、148℃以上であり、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは152℃以上である。詳しい測定方法は実施例で示す。
【0092】
本発明の成形品は寸法安定性に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物を、樹脂温度340℃および成形サイクル30秒で射出成形し、リング型成形品を作製し、低温環境下での保持と高温環境下での保持とを繰り返したとき、内径の変化率は通常、±0.10の範囲内であり、好ましくは±0.08の範囲内であり、より好ましくは±0.06の範囲内である。詳しい測定方法は実施例で示す。
【0093】
本発明の成形品は耐発塵性に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物を、樹脂温度340℃および成形サイクル30秒で射出成形し、図1に示す試験片を作製し、100個の試験片を1つの容器に入れて300回/分の振動を24時間与えたとき、成形品の発塵割合は通常、0.10%未満であり、好ましくは0.07%未満であり、より好ましくは0.04%未満である。詳しい測定方法は実施例で示す。
【0094】
本発明の成形品は外観性に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物を、樹脂温度340℃および成形サイクル30秒で射出成形し、図1に示す試験片を作製し、表面外観を目視したとき、表面は通常、平滑であり、好ましくは平滑であって、かつ白く見えることはなく、より好ましくはシリカ粒子の浮きがなく、平滑であって、かつ白く見えることはない。詳しい評価方法は実施例で示す。
【0095】
本発明の成形品は摺動性に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物を、樹脂温度340℃および成形サイクル30秒で射出成形し、板状成形品を作製し、JIS K7218 A法に準じて板状成形品に対して、摺動相手材を回転させたとき、動摩擦係数は通常、0.30以下であり、好ましくは0.27以下であり、より好ましくは0.23以下である。詳しい測定方法は実施例で示す。
【0096】
本発明の成形品は帯電防止性能に優れていることが好ましい。例えば、本発明の樹脂組成物を、樹脂温度340℃および成形サイクル30秒で射出成形し、成形品を作製したとき、表面抵抗率は、好ましくは1011Ω以下であり、より好ましくは1010Ω以下であり、さらに好ましくは10Ω以下である。詳しい測定方法は実施例で示す。
【0097】
本発明の樹脂組成物は、当該樹脂組成物から製造される成形品が耐発塵性に優れるため、発塵が問題となり易い製品、例えば、カメラモジュール部品、レンズユニット部品およびアクチュエーター部品などの成形品の製造(成形)に有用である。
【0098】
カメラモジュール部品とは、携帯電話、ゲーム機、パソコン、車載カメラ、携帯電話端末等において搭載されるカメラ機能をもつ電子部品を構成する樹脂製部品のことである。
【0099】
レンズユニット部品とは、携帯電話、ゲーム機、パソコン、車載カメラ、携帯電話端末等において搭載されるカメラ機能をもつ電子部品のレンズユニットを構成する樹脂製部品のことである。レンズユニット部品はカメラモジュール部品の構成部品のうちのひとつである。
【0100】
アクチュエーター部品とは、携帯電話、ゲーム機、パソコン、車載カメラ、携帯電話端末等において運動または機械作用を制御するアクチュエーターを構成する樹脂製部品のことである。アクチュエーター部品はカメラモジュール部品の構成部品のうちのひとつである。
【実施例
【0101】
以下に、実施例および比較例をあげて、本発明を具体的に説明する。
【0102】
1.原料
・ポリアリレート樹脂;ユニチカ社製「U-パウダー」(極限粘度0.54):
・ポリカーボネート樹脂;住化ポリカーボネート社製「SDポリカ200-13」(極限粘度0.50):
・シリカ0.3;球状シリカ、デンカ社製「SFP-20M」(平均粒径0.3μm):
・シリカ0.5;球状シリカ、アドマテックス社製「SC2500-SXJ」(平均粒径0.5μm):
・シリカ5.0;球状シリカ、デンカ社製「FB-5SDC」(平均粒径5μm):
・シリカ10;球状シリカ、デンカ社製「FB-12D」(平均粒径10μm):
・シリカ15;球状シリカ、デンカ社製「FB-945」(平均粒径15μm):
・アルミナ3.0;球状アルミナ、デンカ社製「DAW-03」(平均粒径3μm):
・ポリテトラフルオロエチレン粒子2.0:ダイキン社製「ルブロン L-2」(平均粒径2μm)(未焼成物):
・ポリテトラフルオロエチレン粒子5.0:ダイキン社製「ルブロン L-5」(平均粒径5μm)(未焼成物):
・ポリテトラフルオロエチレン粒子30:AGC社製「フルオン L169J-S」(平均粒径30μm)(未焼成物):
・焼成ポリテトラフルオロエチレン粒子4.5:喜多村社製「KTL-8N」平均粒径4.5μm):
・多層カーボンナノチューブ;クムホペトロケミカル社製「K-NANOS-100T」(長さ平均26μm、径8~15nm):
・亜リン酸エステル化合物;ADEKA社製「PEP-36」;前記化合物(I-1-1):
・亜リン酸エステル化合物;ドーバー・ケミカル・コーポレーション社製「Doverphos S-9228PC」;前記化合物(I-1-6):
・亜リン酸エステル化合物;ADEKA社製「PEP-8」;以下の化学式により表される:
【0103】
【化9】
【0104】
・ヒンダードフェノール化合物:BASF社製「イルガノックス1010」;前記化合物(II-1-1):
・離型剤;エミリーオレオケミカルズ社製「VPG-861」;飽和脂肪族ポリオールの脂肪酸エステル:
・顔料;カーボンブラック。
【0105】
2.評価方法
(1)曲げ強度
樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械社製、型番:EC100N II)を用いて、樹脂温度340℃、成形サイクル30秒で成形し、ダンベル試験片を作製した。得られた試験片を用いて、JIS K7171に準じて測定した。強度は曲げ強度Sに基づいて以下の方法で評価した。
◎;102MPa≦S;
○;92MPa≦S<102MPa;
△;82MPa≦S<92MPa;(実用上問題なし)
×;S<82MPa。
【0106】
(2)DTUL(荷重たわみ温度)(耐熱性)
(1)で得られた試験片を用いて、JIS K7191-1、K7191-2に準じ、荷重1.8MPaにて測定した。はんだ時の要求耐熱の面から、荷重たわみ温度が148℃以上あれば、実用上問題なしの範囲内である。耐熱性は荷重たわみ温度に基づいて以下の方法で評価した。
◎;152℃以上;
○;150℃以上152℃未満;
△;148℃以上150℃未満;(実用上問題なし)
×;148℃未満。
【0107】
(3)寸法安定性
樹脂組成物を用いて、樹脂温度340℃、成形サイクル30秒で、外径30mm、内径26mm、厚さ2mmのリング型成形品を射出成形(サイドゲート1点)にて成形した。その後、高精度二次元測定器(キーエンス社製、型番:UM-8400)にて内径寸法を多点測定し、平均内径を求めた。そして、「-40℃×1時間」→「80℃×1時間」を1サイクルとし、合計30サイクル処理し、平均内径の変化率を求めた。この数値は、その値が小さいほど寸法安定性が良く、±0.10の範囲内である場合を寸法安定性は実用上問題なしであるとした。寸法安定性は変化率に基づいて以下の方法で評価した。
◎;±0.06;
○;±0.08;
△;±0.10;(実用上問題なし)
×;-0.1未満または+0.1超。
【0108】
(4)成形安定性
樹脂組成物を、射出成形機(日本製鋼所社製 J35AD)を用いて、樹脂温度340℃、成形サイクル900秒で成形し、図1のような試験片を作製し、下式に基づいて成形品の極限粘度の低下割合を求めた。この数値は、その値が小さいほど、成形安定性に優れ、10%未満を成形安定性が実用上問題なしとした。
【0109】
【数1】
【0110】
◎;4%未満;
○;7%未満;
△;10%未満;(実用上問題なし)
×;10%以上。
【0111】
(5)外観性
樹脂組成物を、射出成形機(日本製鋼所社製 J35AD)を用いて、樹脂温度340℃、成形サイクル30秒で成形し、図1のような試験片を作製した。得られた試験片の表面外観を目視で下記基準により判断した。
◎:シリカ粒子が成形品表面に全く浮き出ることなく、また白く見えることはなく、表面が完全に平滑である;
○:シリカ粒子が成形品表面に僅かに浮き出るものの、白く見えることはなく、表面が平滑である;
△:シリカ粒子が成形品表面に僅かに浮き出るものの、僅かに白く見えるだけで、表面が平滑である(実用上問題なし);
×:シリカ粒子が成形品表面に浮き出ており、白く見えるとともに、表面が平滑ではない。
【0112】
(6)タンブリング試験(耐発塵性)
樹脂組成物を、射出成形機(日本製鋼所社製 J35AD)を用いて、樹脂温度340℃、成形サイクル30秒で成形し、図1のような試験片を作製した。
この試験片100個を、ステンレス製容器(内径70mm、高さ180mm)に入れ、ヤマト科学社製シェーカーSA300にセットし、300回/分の振動を24時間与えた。24時間経過後、容器より成形品を取り出し、下式に基づいて発塵割合を求めた。この数値は、その値が小さいほど、耐発塵性に優れ、0.1%未満を耐発塵性が実用上問題なしとした。試験後の試験片100個の合計質量は、表面に付着した塵等をエアー洗浄により除去した後の質量である。
【0113】
【数2】
【0114】
◎;0.04%未満;
○;0.07%未満;
△;0.10%未満;(実用上問題なし)
×;0.10%以上。
【0115】
(7)動摩擦係数
樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械社製、型番:EC100N II)を用いて、樹脂温度340℃、成形サイクル30秒で成形し、板状試験片(縦70mm×横40mm×厚さ2mmt)を作製した。
JIS K7218 A法に準拠して、鈴木式連続摩擦磨耗試験機(安田精機製作所製、型式No.283-S-PC)を使用して、速度0.1m/s、荷重0.5MPa条件下、動摩擦係数の測定を行った。板状試験片に対し、摺動相手材(S45Cリング、外径φ25.6mm、内径φ20mm、長さ15mm)を回転させた。動摩擦係数は0.3以下を「実用上問題なし」と判断した。
【0116】
◎;0.23以下;
○;0.27以下;
△;0.30以下(実用上問題なし);
×;0.30超。
【0117】
(8)帯電防止性能
樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械社製、型番:EC100N II)を用いて、樹脂温度340℃、成形サイクル30秒で成形し、円板試験片を作製した。得られた試験片を、デジタル超高抵抗/微少電流計(アドバンテスト製R8340A)を使用して、表面抵抗率を測定した。1011Ω以下を帯電防止性能ありとした。成形体での塵埃付着抑制のためには、表面抵抗率は1011Ω以下であることが好ましい。
【0118】
◎;10Ω以下;
○;1010Ω以下;
△;1011Ω以下;
×;1011Ω超。
【0119】
実施例1~19および比較例1~14(実施例2~8および1017:参考例)
各原料を、表1~表4に示す配合割合で、同方向2軸押出機(東芝機械社製、型番:TEM-37BS)を用いて、バレル温度320℃で溶融混練をおこなった。ノズルからストランド状に引き取った樹脂組成物を水浴に浸漬して冷却固化し、ペレタイザーでカッティングした後、120℃で12時間熱風乾燥することによって、樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0120】
実施例および比較例で得られた樹脂組成物の組成およびその評価結果を表1~表4に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
実施例1~19の樹脂組成物は、いずれも、強度、耐熱性、寸法安定性および成形安定性に優れつつも、耐発塵性、摺動性および外観性に優れていた。
実施例13~18の樹脂組成物は、さらに帯電防止性能が優れていた。
【0126】
比較例1の樹脂組成物では、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂との質量比率について、ポリアリレート樹脂の比率が低すぎるため、耐熱性および寸法安定性が低下した。
比較例2の樹脂組成物では、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂との質量比率について、ポリアリレート樹脂の比率が高すぎるため、流動性が悪く、成形できなかった。
比較例3の樹脂組成物では、シリカ粒子の含有量が少なすぎるため、寸法安定性が低下した。
比較例4の樹脂組成物では、シリカ粒子の含有量が多すぎるため、溶融混練時において押出しによるペレット化が困難になった。
比較例5の樹脂組成物では、シリカ粒子の平均粒径が大きすぎるため、寸法安定性が低下した。
比較例6および7の樹脂組成物では、特定の亜リン酸エステル化合物の含有量が少なすぎるか、または多すぎるため、成形安定性および耐発塵性が低下した。
比較例8の樹脂組成物では、特定の亜リン酸エステル化合物とは種類が異なる亜リン酸エステル化合物を用いるため、成形安定性および耐発塵性が低下した。
比較例9の樹脂組成物では、シリカ粒子の代わりにアルミナ粒子が含まれるため、寸法安定性が低下した。
比較例10および14の樹脂組成物では、特定の亜リン酸エステル化合物が含まれないため、成形安定性および耐発塵性が低下した。
比較例11の樹脂組成物では、フッ素原子含有ポリマー粒子を用いないため、耐発塵性および摺動性が低下した。
比較例12の樹脂組成物では、フッ素原子含有ポリマー粒子の含有量が多すぎたため、成形安定性が低下した。
比較例13の樹脂組成物では、フッ素原子含有ポリマー粒子の平均粒径が大きすぎたため、成形安定性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の樹脂組成物は、携帯電話、ゲーム機、パソコン、車載カメラ、携帯電話端末等に使用されるカメラモジュール部品、レンズユニット部品およびアクチュエーター部品の成形に有用である。
図1