(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】双性イオンコポリマーコーティングとその方法
(51)【国際特許分類】
A61L 33/06 20060101AFI20250324BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20250324BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20250324BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20250324BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20250324BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20250324BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20250324BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20250324BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20250324BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20250324BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20250324BHJP
A61L 29/14 20060101ALN20250324BHJP
【FI】
A61L33/06 200
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/34
A61L27/40
A61L27/50 100
A61L27/50 300
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/08 100
A61L29/12
A61L29/14 100
(21)【出願番号】P 2021555162
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 US2020022543
(87)【国際公開番号】W WO2020186134
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-13
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517075883
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ワシントン
【氏名又は名称原語表記】University of Washington
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,シャオイ
(72)【発明者】
【氏名】リン,シャオジエ
(72)【発明者】
【氏名】ヒンメルファーブ,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ラトナー,バディ,ディー.
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/079765(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/174108(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038063(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/122817(WO,A1)
【文献】Low-fouling and functional poly(carboxybetaine) coating via a photo-crosslinking process,Biomater. Sci.,2017年,5,pp.523-531,DOI: 10.1039/c6bm00637j
【文献】生体適合性の面からみた低侵襲体外循環の基礎的検討 一コーティングおよび遠心ポンプによる低侵襲化一,体外循環技術,2005年,Vol.32, No.1,pp.7-10
【文献】Surface Treatment of Plasticized Poly(vinyl chloride) to Prevent Plasticizer Migration,Journal of Applied Polymer Science,2010年,Vol.115,pp.1589-1597,DOI 10.1002/app.31157
【文献】Photopolymerizable hybrid sol gel coating as a barrier against plasticizer release,Progress in Organic Coatings,2012年,Vol.75,pp.116-123,http://dx.doi.org/10.1016/j.porgcoat.2012.04.005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 33/00-33/18
A61L 27/00-27/60
A61L 29/00-29/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面からの可塑剤の浸出を抑制又は防止するための方法であって、上記方法は、
(a) 基材の表面の少なくとも一部を、コポリマーを含む組成物でコーティングして、コーティングされた表面を提供する工程と、
(b) 上記表面の上記コポリマーを架橋するのに有効な光をコーティングされた表面に照射することにより、上記表面からの可塑剤の浸出を抑制又は防止するのに有効なコーティングされた表面を提供する工程と、
を有し、
上記コポリマーは、第1の繰り返しユニット及び第2の繰り返しユニットを含み、
上記第1の繰り返しユニットの各々は、ペンダント型双性イオン性基を含み、
上記第2の繰り返しユニットの各々は、表面上で上記コポリマーを架橋するのに有効なペンダント型光反応性基を含み、
前記コポリマーは、式(III)
【化10】
のコポリマーであって、
R
1及びR
2は、独立して-(CH
2)xHであり、xは0から20の整数であり、
R
3及びR
4は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
a+bが1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す、
コポリマーを有する、
方法。
【請求項2】
前記表面は、血液と接触する表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材は、ポリウレタンチューブ、ポリスルホン透析膜、又は炭化水素系膜容器である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物で前記表面をコーティングする工程は、前記組成物に前記表面を浸す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記表面の少なくとも一部をコーティングする工程は、前記組成物を前記表面にスプレーする、スピニングする、ブラッシングする、又はローリングする工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記表面が炭化水素系表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記表面は、セルロース、セルロースアセテート、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSF)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリアミド、ポリアクリル、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PMDS)、ポリ(ビニリデンフルオライド)(PVDF)、ポリ(乳酸)(PLA)、又はポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記表面は、ポリ塩化ビニルチューブ又はポリウレタンチューブ表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記コポリマーは、第3の繰り返しユニットをさらに含み、
前記第3の繰り返しユニットの各々は、前記コポリマーを前記プラスチック表面に吸着させるのに有効なペンダント型疎水性基を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(a)nは、2又は3である、又は
(b)mは、1又は2である、又は
(c)aは、約0.70から約0.90モルパーセントである、又は
(d)aは、約0.80モルパーセントである、又は
(e)bは、約0.10から約0.30モルパーセントである、
又は
(f)bは、約0.20モルパーセントである、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
R
1は、水素又はメチルであり、
R
2は、水素又はメチルであり、
R
3及びR
4は、メチルであり、
Xは、NHであり、
Yは、NHである、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
R
1は、水素又はメチルであり、
R
2は、水素又はメチルであり、
R
3及びR
4は、メチルであり、
Xは、Oであり、
Yは、Oである、
請求項10に記載の方法。
【請求項13】
R
1は、水素であり
R
2は、水素であり、
R
3及びR
4は、メチルであり、
Xは、NHであり、
Yは、NHであり、
nは、3であり、
mは、1である、
請求項10に記載の方法。
【請求項14】
aは、約0.80モルパーセントである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
bは、約0.20モルパーセントである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月14日に出願された米国出願第62/818,265号、2019年3月14日に出願された米国出願第62/818,283号、及び2019年3月14日に出願された米国出願第62/818,299号の利益を主張するものであり、それぞれが参照によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれている。
【0002】
政府のライセンス権に関する声明
本発明は、米国国立保健医療科学研究所(National Institute of Health Sciences)から交付されたグラント番号R01HL089043に基づく政府の支援により行われた。政府は本発明について一定の権利を有している。
【背景技術】
【0003】
血液と接触する医療用デバイス表面の生物付着(Biofouling)は、依然として血栓症の大きな問題となっている。タンパク質の吸着は、生物学的媒体と接触する生体材料の表面で発生する主要な現象である。非特異的なタンパク質の吸着は、生物付着を引き起こし、血小板の活性化、血栓の形成、補体の活性化、炎症反応など、様々な深刻な生物学的反応を引き起こす。そのため、抗血栓性血液接触デバイスは、非特異的なタンパク質の吸着を効果的に回避することを目指している。これは、血液成分とそれらが接触している表面との間の超低付着界面によって作り出される。親水性と電荷中性の特性を持つ合成ポリマーの生体材料は、その高い生体適合性から有望視されている。ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ポリ(HEMA)やポリ(エチレングリコール)(PEG)などの従来の生体材料は、歴史的に表面改質のゴールドスタンダードとして使用されてきた。しかしながら、ポリ(HEMA)は含水率が低く、タンパク質の吸着に対する耐性に乏しく、PEGは抗PEG抗体の出現やPEGによる組織の組織学的変化などの副作用を引き起こす可能性がある。
【0004】
ポリマー鎖表面に形成された破壊できない水和層は、生体分子の吸着を高い効果で撥くことができることが知られている。このように、水和誘導非付着能力は、親水性非付着ポリマー生体材料にとって優位な特徴である。超親水性双性イオン性基からなる双性イオン化合物、特にホスホリルコリン(PC)、カルボキシベタイン(CB)、スルホべタイン(SB)は、過去20年にわたり血液不活性生体材料として普及してきた。超親水性で電荷中性の双性イオン性基が内部に塩構造を持つことで、生理活性種が置換できない強く結合した水分子の層を形成することができ、非特異的なタンパク質の吸着を抑制することができる。近年、CB基を有するポリマーは、様々な用途で優れた水和誘導性非付着能力を示しており、血液と接触する表面用途として非常に魅力的である。さらに、CB基は、タンパク質、酵素、オリゴヌクレオチドなどの生体分子をそのカルボキシル基に共有結合で固定化するユニークな機能を有している。
【0005】
双性イオンポリマーを用いた表面改質は、「grafting-from」法又は「grafting-to」法のいずれかの方法で達成できる。様々な形状や大きさの巨大な成形された医療用デバイスの非侵襲的な表面コーティングを実現するためには、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ジ/トリ/マルチ-ブロックコポリマーなどの異なる構造を持つ様々なポリマーを、シラン、カテコール、光/熱誘導共有結合を介して様々な表面にシンプルに塗布する「グラフト化」ポリマーの方がはるかに堅牢であることが示されている。中でも、ランダムタイプの両親媒性双性イオンコポリマーは、血液と接触する表面において、タンパク質の吸着や血小板の付着に長期間にわたって効果的に抵抗することができる、シンプルで効果的な非付着材料である。親水性ユニットを約30mol%含むポリ(MPC-co-n-ブチルメタクリレート(BMA))は、優れた生体適合性を備えた医療用デバイスの多くの表面に適用されている。しかしながら、CBランダムコポリマーの包括的な研究は今のところまだ行われていない。さらに、末端のカルボキシル基で表面を機能化できることから、魅力的な表面改質材料となっている。
【0006】
非付着性ポリマー材料の開発や表面コーティングへの使用が進んでいるにもかかわらず、改良された材料や表面コーティング、特に血液と接触する医療用デバイスの表面に非付着性の表面を有利に提供するために、表面に容易にコーティングできる改良された材料が必要とされている。本発明は、この必要性を満たし、さらに関連する利点を提供しようとするものである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、双性イオンコポリマーと、表面、特に血液と接触する医療用デバイスの表面に非付着性と機能性を付与するためのコーティングにおけるそれらの使用を提供するものである。特定の態様において、本発明は、表面の固定化のために機能化された双性イオンコポリマー、双性イオンコポリマーを含むコーティング組成物、双性イオンコポリマーから調製された表面コーティング、双性イオンコポリマーによって修飾された表面を有する基材、及び双性イオンコポリマーによって修飾された表面を有する医療用デバイスを提供する。
【0008】
ある態様では、本発明は、基材の表面からの可塑剤の浸出を抑制又は防止するための方法を提供するものであって、上記方法は、
(a) 基材の表面の少なくとも一部を、コポリマーを含む組成物でコーティングして、コーティングされた表面を提供する工程と、
(b) 上記表面の上記コポリマーを架橋するのに有効な光をコーティングされた表面に照射することにより、上記表面からの可塑剤の浸出を抑制又は防止するのに有効なコーティングされた表面を提供する工程と、
を有し、
上記コポリマーは、第1の繰り返しユニット及び第2の繰り返しユニットを含み、
上記第1の繰り返しユニットの各々は、ペンダント型双性イオン性基を含み、
上記第2の繰り返しユニットの各々は、表面上で上記コポリマーを架橋するのに有効なペンダント型光反応性基を含む。
【0009】
特定の実施形態では、コポリマーは第3の繰り返しユニットをさらに含み、第3の繰り返しユニットの各々は、コポリマーを表面に吸着させるのに有効なペンダント型疎水性基を含む。
【0010】
上記の方法で有利に処理される表面には、血液と接触する表面などの炭化水素系の表面が含まれる。代表的な表面としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSF)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリアミド、ポリアクリル、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PMDS)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(乳酸)(PLA)、及びポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の表面が挙げられる。特定の実施形態では、表面は、ポリ塩化ビニル表面又はポリウレタン表面である。他の実施形態では、表面は、セルロース又はセルロースアセテート表面である。
【0011】
特定の実施形態では、表面は、ポリ塩化ビニルチューブ又はポリウレタンチューブの表面である。
【0012】
他の実施形態では、表面は、透析膜や炭化水素系膜容器などの血液と接触する表面である。
【0013】
上記の方法では、表面を組成物でコーティングする工程は、組成物に表面を浸す工程を含む。他の実施形態では、表面の少なくとも一部をコーティングする工程は、組成物を表面にスプレーする、スピニングする、ブラッシングする、又はローリングする工程を含む。
【0014】
特定の実施形態では、この方法は、式(III)
【化1】
のコポリマーであって、
R
1及びR
2は、独立して-(CH
2)xHであり、xは0から20の整数であり、
R
3及びR
4は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
a+bが1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す、
コポリマーを利用する。
【0015】
これらの実施形態のあるものでは、R1は水素又はメチルであり、R2は水素又はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはNHであり、YはNHである。これらの実施形態のうち他のものでは、R1は水素又はメチルであり、R2は水素又はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはOであり、YはOである。特定の実施形態では、nは2又は3である。特定の実施形態では、mは1又は2である。特定の実施形態では、aは約0.70から約0.90モルパーセントである。これらの実施形態のあるものでは、aは約0.80モルパーセントである。特定の実施形態では、bは、約0.10から約0.30モルパーセントである。これらの実施形態のあるものでは、bは約0.20モルパーセントである。
【0016】
一実施形態では、本方法は、式(III)のコポリマーであって、R1が水素であり、R2が水素であり、R3及びR4がメチルであり、XがNHであり、YがNHであり、nが3であり、mが1である、コポリマーを利用する。これらの実施形態のあるものでは、aは約0.80モルパーセントである。これらの実施形態のあるものでは、bは約0.20モルパーセントである。
【0017】
他の実施形態では、この方法は、式(IV)のコポリマーであって、
【化2】
R
1、R
2、及びR
3は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
R
4及びR
5は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
ZはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
pは0から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.05から約0.95モルパーセントであり、
cは、約0.05から約0.95モルパーセントであり、
a+b+cが1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す、
コポリマーを利用する。
【0018】
別の態様では、本発明は、コーティングされた表面に非付着特性を付与するためのコーティングに有用な双性イオンコポリマーを提供する。
【0019】
一実施形態では、本発明は、第1の繰り返しユニットと第2の繰り返しユニットとを含むコポリマーであって、第1の繰り返しユニットの各々が、ペンダント型双性イオン性基を含み、第2の繰り返しユニットの各々が、コポリマーを架橋するのに有効なペンダント型光反応性基を含む、コポリマーを提供する。関連する実施形態では、コポリマーは、第3の繰り返しユニットをさらに含み、第3の繰り返しユニットの各々は、コポリマーを表面に吸着させるのに有効な疎水性基を含む。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、第1の繰り返しユニット、任意の第2の繰り返しユニット、及び任意の第3の繰り返しユニットを含むコポリマーを提供する。ただし、コポリマーは、少なくとも第1の繰り返しユニット及び任意の第2の繰り返しユニット、又は少なくとも第1の繰り返しユニット及び任意の第3の繰り返しユニットを含む。第1の繰り返しユニットの各々が、ペンダント型双性イオン性基を含み、第2の繰り返しユニットの各々が、コポリマーを架橋するのに有効なペンダント型光反応性基を含み、上記第3の繰り返しユニットの各々が、上記コポリマーを表面に吸着させるのに有効なペンダント型疎水性基を含む。
【0021】
更なる実施形態では、本発明は、式(I)
*-(Pl)a(P2)x(P3)y-* (I)
で表されるコポリマーであって、
P1は、ペンダント型双性イオン性基を有する繰り返しユニットであり、
P2は、ペンダント型疎水性基を有する繰り返しユニットであり、
P3は、ペンダント型光反応性基を有する繰り返しユニットであり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
xは0から約0.95モルパーセントであり、
yは0から約0.95モルパーセントであり、
xとyはともに0ではなく、
a+x+yは1.0である、
コポリマーを提供する。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、式(II)
【化3】
を有する双性イオン/疎水性コポリマーであって、
R
1及びR
2は独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
R
3及びR
4は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
pは0から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
a+bが1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す
双性イオン/疎水性コポリマーを提供する。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、式(III)
【化4】
を有する双性イオン/疎水性コポリマーであって、
R
1及びR
2は独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
R
3及びR
4は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
a+bが1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す
双性イオン/疎水性コポリマーを提供する。
【0024】
更なる実施形態では、本発明は、式(IV)
【化5】
を有する双性イオン/疎水性コポリマーであって、
R
1、R
2、及びR
3は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
R
4及びR
5は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
ZはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
pは0から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.05から約0.95モルパーセントであり、
cは、約0.05から約0.95モルパーセントであり、
a+b+cは1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す
双性イオン/疎水性コポリマーを提供する。
【0025】
更なる態様では、本発明は、双性イオンコポリマーを含むコーティング組成物、及び双性イオンコポリマーとコーティング組成物を用いて調製されたコーティング表面を提供する。特定の実施形態では、コーティング組成物は、本明細書に記載の双性イオンコポリマーと、任意に担体とを含む。特定の実施形態では、コーティングは、本明細書に記載の双性イオンコポリマーを含むか、又は本明細書に記載の双性イオンコポリマー(例えば、光架橋双性イオンコポリマー)に由来する。
【0026】
特定の実施形態では、本発明は、本発明の双性イオンコポリマーでコーティングされた表面の少なくとも一部又はすべてを有する基材を提供するものである。適切な表面には、炭化水素系の表面及びプラスチックの表面が含まれる。代表的な表面としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSF)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリアミド、ポリアクリル、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PMDS)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(乳酸)(PLA)、及びポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の表面が挙げられる。特定の実施形態では、表面は、ポリ塩化ビニル表面又はポリウレタン表面である。他の実施形態では、表面は、セルロース又はセルロースアセテートの表面である。
【0027】
特定の実施形態では、基材は、PVCチューブ、ポリウレタンチューブ、ポリスルホン透析膜、又は炭化水素系膜容器である。
【0028】
特定の実施形態では、基材は、本明細書に記載の双性イオンコポリマーでコーティングされた表面の少なくとも一部又は全部を有する医療用デバイスである。
【0029】
特定の実施形態では、デバイスは、クラスI、クラスII、又はクラスIIIの移植/非移植医療用デバイスである。特定の実施形態では、デバイスは、プレート、ディッシュ、チューブ、チップ、カテーテル、人工血管、人工心臓、又は人工肺である。他の実施形態では、デバイスは、血液透析器、PVCチューブ、又はポリウレタンチューブである。
【0030】
本発明の別の態様では、双性イオンコポリマーを使用する方法が提供される。
【0031】
一実施形態では、本発明は、基材の表面をコーティングする方法であって、本明細書に記載の本発明の双性イオンコポリマーを含む組成物と表面を接触させる工程を含む方法を提供する。
【0032】
関連する実施形態において、本発明は、基材の表面をコーティングする方法を提供するものであって、上記方法は、
(a) 本明細書に記載の双性イオンコポリマーを含む組成物で、基材の表面の少なくとも一部をコーティングする工程と、
(b) 上記基材の上記表面に上記コポリマーを架橋するのに有効な光を照射する工程と、
を有する。
【0033】
別の実施形態では、本発明は、基材の表面を非付着化する方法であって、本明細書に記載の双性イオンコポリマーを含む組成物で表面の少なくとも一部をコーティングする工程を含む方法を提供する。
【0034】
関連する実施形態において、本発明は、基材の表面を非付着化する方法を提供するものであって、上記方法は、
(a) 本明細書に記載の双性イオンコポリマーを含む組成物で、基材の表面の少なくとも一部をコーティングする工程と、
(b) 上記基材の上記表面に上記コポリマーを架橋するのに有効な光を照射する工程と、
を有する。
【0035】
更なる実施形態では、本発明は、基材の表面への血液タンパク質の吸着を阻害する方法であって、本明細書に記載の双性イオンコポリマーを含む組成物で表面の少なくとも一部をコーティングする工程を含む方法を提供する。
【0036】
関連する方法において、本発明は、基材の表面への血液タンパク質の吸着を阻害する方法を提供するものであって、上記方法は、
(a) 本明細書に記載の双性イオンコポリマーを含む組成物で、基材の表面の少なくとも一部をコーティングする工程と、
(b) 上記基材の上記表面にコポリマーを架橋するのに有効な光を照射する工程と、
を有する。
【0037】
別の実施形態では、本発明は、基材の表面からの可塑剤の浸出を抑制又は防止するための方法を提供するものであって、上記方法は、
(a) 基材の表面の少なくとも一部を、本明細書に記載の双性イオンコポリマーを含む組成物でコーティングして、コーティングされた表面を提供する工程を有する。
【0038】
関連する実施形態において、本発明は、基材の表面からの可塑剤の浸出を抑制又は防止する方法を提供するものであって、上記方法は、
(a) 基材の表面の少なくとも一部を、本明細書に記載の光反応性双性イオンコポリマーを含む組成物でコーティングして、コーティングされた表面を提供する工程と、
(b) 上記表面の上記コポリマーを架橋するのに有効な光をコーティングされた表面に照射することにより、上記表面からの可塑剤の溶出を抑制又は防止するのに有効なコーティングされた表面を提供する工程と、
を有する。
【0039】
上記の方法のあるものでは、上記組成物で上記表面を接触又はコーティングする工程は、上記組成物(例えば、双性イオンコポリマー)に上記表面を浸す工程を含む。他の実施形態では、上記組成物を上記表面に接触又はコーティングする工程は、上記組成物を上記表面にスプレーする、スピニングする、ブラッシングする、又はローリングする工程を含む。
【0040】
適切な表面としては、炭化水素系の表面やプラスチックの表面が挙げられる。代表的な表面としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSF)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリアミド、ポリアクリル、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PMDS)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(乳酸)(PLA)、及びポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の表面が挙げられる。特定の実施形態では、表面は、ポリ塩化ビニル表面又はポリウレタン表面である。他の実施形態では、表面は、セルロース又はセルロースアセテートの表面である。
【0041】
本発明の上述の態様及び付随する多くの利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することで、よりよく理解できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、本発明による超低付着であり機能化可能なカルボキシベタイン(CB)ポリマー表面の調製に関する模式図である。
【0043】
【
図2】
図2A及び
図2Bは、本発明の代表的なカルボキシベタイン(CB)ランダムコポリマーであるポリ(CB1-co-BMA)(PCB1)(
図1A)及びポリ(CB2-co-BMA)(PCB2)(
図1B)の化学構造を示したものである。なお、CBの後の数字1及び2は、カルボキシル基と第四級アンモニウムカチオンとの間の炭素数を意味する。コポリマーの各ユニットの組成は、
1H-NMRスペクトルの特徴的なプロトンを積分して算出したところ、CB1ユニットが3.82ppm(-CH
2-,2H)、CB2ユニットが2.42ppm(-CH
2-,2H)、BMAユニットが1.45から1.63ppm(-CH
2-,4H)であった。PCB2のカルボキシル基は、EDC/NHS化学により活性化され、例えば、タンパク質、酵素、アブタマー/オリゴヌクレオチドなどのアミノ基と共有結合することができる。CB1はカルボキシベタインアクリルアミド, 1-カルボキシ-N, N-ジメチル-N-(3'-アクリルアミドプロピル)エタナミニウム内塩、CB2はカルボキシベタインメタクリレート, 2-カルボキシ-N, N-ジメチル-N-(2'-メタクリロイルオキシエチル)エタナミニウム内塩、BMAはn-ブチノルメタクリレートである。
【0044】
【
図3】
図3は、本発明の代表的なカルボキシベタインランダムコポリマーの特性をまとめた表である。
【0045】
【
図4】
図4は、本発明の代表的なカルボキシベタインランダムコポリマーであるPCB1-37及びPCB2-37を0.5wt%の濃度でコーティングしたPP表面へのフィブリノーゲン(1.0mg/mL、1xPBS、pH7.4)の相対的な吸着量を比較したものである。
【0046】
【
図5】
図5A及び5Bは、異なる濃度のCBランダムコポリマー(
図5A)及びPCB1-37(
図5B)で改質したポリプロピレン(PP)基材上で、蒸留水で測定した空気接触角を比較したものである。数字の表記は、コポリマー中の2つのユニットのモル比を意味する(すなわち、PCB1-28の28は、このコポリマー中のCB/BMAのモル比が2/8であることを示す)。
図5Aの一重アスタリスク(*)は、PCB1-37との比較で統計的に有意な差(P<0.05、n=5)を示し、
図5Bの一重アスタリスク(*)は、0.50wt%との比較で統計的に有意な差(P<0.05、n=5)を示す。
【0047】
【
図6】
図6A及び6Bは、異なる濃度のCBランダムコポリマー(
図6A)及びPCB1-37(
図6B)でコーティングされたPP表面上のフィブリノーゲン(1.0mg/mL、lxPBS、pH7.4)の相対的な吸着量を比較したものである。数字の表記は、コポリマー中の2つのユニットのモル比を意味する(すなわち、PCB1-28の28は、このコポリマー中のCB/BMAのモル比が2/8であることを示す)。
図5Aの一重アスタリスク(*)は、PCB1-37との比較で統計的に有意な差(P<0.05、n=5)を示し、
図5Bの一重アスタリスク(*)は0.50wt%との比較で統計的に有意な差(P<0.05、n=5)を示す。492nmの相対吸光度はフィブリノーゲンの相対吸着量を示す。
【0048】
【
図7】
図7Aから7Dは、3種類の表面(コーティングされていないポリスチレン表面、PCB1-37コーティングされたポリスチレン表面、及び超低付着性表面を有する市販のプレート(Corning Costar Corp., Corning, NY, USA))を備えた96ウェルプレートにおける、(a)ヒト血漿フィブリノーゲン(Fg)(
図7A)、ヒト血清アルブミン(HSA)(
図7B)、ヒト血中γ-グロブリン(
図7C)、及びヒト血中血清(
図7D)に対する非特異的タンパク質吸着を比較したものである。Corning社の超低付着表面コーティングは、ポリスチレン表面に共有結合した親水性の中性電荷を帯びたコーティングである。非付着能力を評価するために、単一の血液タンパク質とヒト血液血清の10%と100%の両方を使用した。コントロールとして、コーティングされていない表面と、超低付着性の表面を持つ市販品を用いた。血液中のFg、HSA、γ-グロブリンの100%濃度は,それぞれ3.0、45、16mg/mLである。ヒト正常血漿(性別混合プール)は、希釈せずにそのまま使用した。一重アスタリスク(*)は、非コーティング表面又は市販の超低付着性表面のいずれかと比較して、統計的に有意な差(p<0.01、n=5)を示し、二重アスタリスク(**)は、非コーティング表面と比較して、統計的に有意な差(p<0.01、n=5)を示す。
【0049】
【
図8】
図8は、CBポリマー(PCB1-37)をコーティングしたTCPSの表面(左)と、オリジナルのTCPSの表面(右)におけるNIH3T3マウス胚性線維芽細胞の接着及び移動挙動を示す表面の比較画像である。
【0050】
【
図9】
図9は、CBランダムコポリマーであるPCB2-37でコーティングした96ウェルプレートの表面機能化と特異的な抗体-抗原相互作用を比較したものである。FgとHSAは、それぞれEDC/NHSで活性化されたCBポリマーの表面に結合させた。HRPを結合させた抗Fg抗体を用いて特異的な結合を評価し、96ウェルプレートを用いた診断の実現性を検証した。492nmの吸光度は、表面に結合した抗Fgの量を間接的に表している。コントロールとして、非活性化表面とHSAを結合させた表面を用いた。一重アスタリスク(*)は、統計的に有意な差(p<0.001、n=5)を示す。
【0051】
【
図10A】
図10Aは、双性イオン性カルボキシベタイン(CB)コポリマーでコーティングされた市販の医療グレードの血液接触用PVCチューブの概略図である。
【0052】
【
図10B】
図10Bは、本発明の方法に有用な代表的な光反応性カルボキシベタイン(CB)ポリマーの化学構造を示したものである。
【0053】
【
図11A】
図11Aは、市販の医療グレードPVCチューブの紫外線透過性を示したものである。
【0054】
【
図11B】
図11Bは、PCBコポリマー上の感光性(ベンゾフェノン)基の透過光による劣化を示したものである。
【0055】
【0056】
【
図12B】
図12Bは、コーティングされていないPVCフィルムとPCBコーティングされたPVCフィルムの水接触角を比較したものである。
【0057】
【
図13】
図13Aから13Dは、代表的なPCBコポリマー(
図13A)、コーティングされていない市販のPVCチューブ(
図13B)、PCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で1週間保管したもの(
図13C)、及びPCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で3週間保管したもの(
図13D)の4つのX線光電子分光法(XPS)調査スペクトルを比較したものである。
【0058】
【
図14】
図14は、PCBコーティングされたチューブとコーティングされていない医療グレードPVCチューブの100%ヒト血清に対する相対的な付着を比較したものである。
【0059】
【
図15】
図15Aから15Cは、ポリ(CBAA-co-BPAA)(PCB)(
図15A)、ポリ(CBAA-co-BPAA-co-NBアクリルアミド)(PCB-NB)(
図15B)、及びポリ(PEGMA-co-BPAA)(PPB)(
図15C)のポリマーの化学構造を示す。CBAA:カルボキシベタインアクリルアミド。BPAA:N-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド。NBアクリルアミド:ナイルブルーアクリルアミド。PEGMA:平均Mn360のポリ(エチレングリコール)メタクリレート。
【0060】
【
図16】
図16Aから16Hは、内部チューブ表面上のPCBポリマーの光誘起架橋に関するものである。内部チューブ表面上のPCBポリマーの透過光による架橋(
図16A)、市販の医療用PVCチューブの紫外線透過性(
図16B)、内部チューブ表面上のPCBコポリマーの透過光に対する感光性(
図16C)、コーティングされていないPVC表面及びPCB-コーティングされたPVC表面上の純粋なDI水の水接触角(
図16D)、PCBコポリマーのX線光電子分光法(XPS)調査スペクトル(
図16E)、コーティングされていない市販のPVCチューブ(
図16F)、PCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で1週間保管したもの(
図16G)、及びPCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で3週間保管したもの(
図16H)。結合エネルギー(BE)は、285eVのC 1sピークを基準として補正した。
【0061】
【
図17】
図17Aから17Fは、非付着性評価:表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーでテストした4つの異なる流量(10、40、100、200μL/min)の動的条件におけるPVC表面及びPCBポリマーコーティングPVC表面への100%ヒト血清の吸着挙動を示している(
図17Aから17D)。流速の違いにより、血清とチューブの界面にかかるせん断力が異なる。非コーティング:SPRチップをPVCでコーティングしたもの。PCBコーティング:SPRチップを第1層がPVC、第2層がPCBポリマーでコーティングしたもの。PVCとPCBの厚さを乾燥状態で測定したところ、それぞれ18±0.8nmと21±1.2nmという値が得られた。
図17F:Micro BCAタンパク質アッセイキットを使用して試験した静的条件での100%ヒト血清の吸着。非コーティング:市販のPVCチューブ。PCBコーティング:PCBコーティングされたPVCチューブをPBS(1x、pH7.4)に37℃で1週間又は3週間浸したもの。結果は平均値±SD(n=3;*P<0.001、及び**P>0.05)で表したもの。
【0062】
【
図18】
図18Aから18Cは、PCBポリマーの細胞毒性評価を示す図である。PCBコーティングされたチューブ、コーティングされていないチューブ、ラテックス、及び通常の細胞培養液からの溶出液(
図18A)、及び異なる濃度のPCBポリマーを含む細胞培養液(
図18B)で48時間インキュベートした後のNIH3T3マウス胚性線維芽細胞の位相差顕微鏡画像である。スケールバー:50μm。PCBポリマーの細胞毒性は、ISO 10993-5のガイドラインに基づいて確認した。細胞質酵素である乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出は、異なる濃度のPCBポリマーを含む細胞を37℃、5%CO
2で1.0時間インキュベートすることで測定した(
図18C)。ネガティブコントロール(NC):細胞を通常の無血清細胞培養液で培養した。ポジティブコントロール(PC):無血清細胞培養液に0.2vol%のTween20を加えて細胞を培養した。すべての培地にフェノールレッドと1xペニシリン/ストレプトマイシンを添加した。結果は平均±SD(n=5;*p<0.001、及び**p>0.05)で表した。
【0063】
【
図19】
図19Aから19Dは、血小板の質に対するPCBポリマーの効果を示している。活性化レベルは、フローサイトメトリーによるp-セレクチン%で評価した(
図19A)。機能性はフォン・ヴィレブランド因子(VWF)結合親和性で評価した(
図19B)。生存率は、フローサイトメトリーでアネキシンV%を用いて評価した(
図19C)。形態スコア(MS)は、血小板の健全性の簡易指標として用い、4x(円盤%) + 2x(球%) + (樹状突起%)として定義される(
図19D)。PCBコーティング:PCBコーティングされたPVC表面。非コーティング:コーティングされていないPVC表面。結果は平均±SD(n=5;*p<0.001、及び**p>0.05)で表した。
【0064】
【
図20】
図20は、光反応性PCBポリマーでコーティングされた可塑化PVCチューブと、コーティングされていない可塑化PVCチューブからの可塑剤の移行を比較したものである。波長275nmの吸光度は、浸出した可塑剤の濃度に比例する。結果は平均±SD(n=3;*p<0.001、及び**p<0.05)で表した。
【0065】
【
図21】
図21は、異なるPVCチューブ:PCBコーティングチューブ、未コーティングチューブ、PPBコーティングチューブにおける補体系の活性化を比較したものである。450nmの波長での吸光度は、末端の補体複合体(sC5b-9)の濃度に比例する。結果は平均±SD(n=3;*p<0.001、**p>0.05)で表されている。
【0066】
【
図22A】
図22Aは、カルボキシベタイン(CB)コポリマーでの代表的な市販の血小板バッグの表面改質を示す模式図である。
【0067】
【
図22B】
図22Bは、本発明の代表的な双性イオン性カルボキシベタイン(CB)コポリマーの化学構造を示したものである。
【0068】
【0069】
【
図23】
図23Aから23Fは、本発明による代表的な表面改質を示す。商品化された血小板バッグの紫外線透過率及び感光性(ベンゾフェノン)基の透過光による劣化(
図23A);コーティング前後の血小板バッグの表面形態(
図23B);X線光電子分光法(XPS)のサーベイスペクトル、C 1s、O 1s、N 1sの高分解能スペクトル、及び5つの異なるサンプルの原子組成:(1)PCBコポリマー、(2)市販の血小板バッグ、(3)市販の血小板バッグをエタノールでリンスしたもの、(4)PCBコーティングした市販の血小板バッグ、(5)PCBコーティングした市販の血小板バッグを緩衝液に浸したもの(それぞれ
図23Cから23E);及び蒸留水での静的空気接触角と乾燥状態での静的水接触角(
図23F)。
【0070】
【
図24】
図24Aから24Fは、本発明の代表的な双性イオン性カルボキシベタイン(CB)コポリマーの非付着性評価を示している。表面プラズモン共鳴(SPR)による動的条件でのヒト血液タンパク質の吸着(
図24A)、マイクロBCAタンパク質アッセイキットを用いた静的条件でのヒト血液タンパク質の吸着(
図24B)、哺乳類細胞(NIH3T3)の接着挙動(
図24C)、新鮮なヒト血小板の接着挙動(
図24D)、グラム陽性株であるStaphylococcus epidermidis(
図24E)及びグラム陰性株であるPseudomonas aeruginosaの接着及びバイオフィルム形成(
図24F)。
【0071】
【
図25】
図25Aから25Hは、本発明の代表的な方法による保存血小板の評価を提供するものである。保存された血小板のアネキシンVの発現量(
図25A)、保存された血小板のp-セレクチン(CD62)の発現量(
図25B)、保存された血小板の形態スコア(
図25C)、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)結合親和性(
図25D)、プラグテスト時に100nNの閾値に達するまでの時間(
図25E)、及び血小板保存液のpH(
図25F)、グルコース値(
図25G)、及び乳酸値(25H)。
【発明を実施するための形態】
【0072】
発明の詳細な説明
本発明は、表面、特に血液と接触する医療用デバイスの表面に非付着性と機能性を付与するための双性イオンコポリマーとコーティングにおけるその使用を提供する。本発明は、表面の固定化のために機能化された双性イオンコポリマー、双性イオンコポリマーを含むコーティング組成物、双性イオンコポリマーから調製された表面コーティング、双性イオンコポリマーによって修飾された表面を有する基材、及び双性イオンコポリマーによって修飾された表面を有する医療用デバイスを提供する。
【0073】
双性イオンコポリマー
1つの態様では、本発明は、表面への固定化のために機能化された双性イオンコポリマーを提供する。
【0074】
ある特定の実施形態では、本発明は、表面をコーティングするのに有用なコポリマーを提供するものであり、上記コポリマーは、第1の繰り返しユニット及び第2の繰り返しユニットを含み、第1の繰り返しユニットの各々は、ペンダント型双性イオン性基を含み、第2の繰り返しユニットの各々は、プラスチック表面にコポリマーを架橋するのに有効なペンダント型光反応性基を含む。これらの実施形態のあるものでは、コポリマーは、第3の繰り返しユニットをさらに含み、第3の繰り返しユニットの各々は、コポリマーをプラスチック表面に吸着させるのに有効な疎水性基を含む。
【0075】
ある実施形態では、本発明は、表面をコーティングするのに有用なコポリマーを提供するものであり、上記コポリマーは、第1の繰り返しユニット、任意の第2の繰り返しユニット、及び任意の第3の繰り返しユニットを含み、ただし、上記コポリマーは、少なくとも第1の繰り返しユニット及び任意の第2の繰り返しユニット、又は少なくとも第1の繰り返しユニット及び任意の第3の繰り返しユニットを含み、第1の繰り返しユニットの各々は、ペンダント型双性イオン性基を含み、第2の繰り返しユニットの各々は、コポリマーを表面に架橋するのに有効なペンダント型光反応性基を含み、第3の繰り返しユニットの各々は、コポリマーを表面に吸着するのに有効なペンダント型疎水性基を含む。これらの実施形態では、コポリマーは、式(I)
*-(Pl)a(P2)x(P3)y-* (I)
で表され、
P1は、ペンダント型双性イオン性基を有する繰り返しユニットであり、
P2は、ペンダント型疎水性基を有する繰り返しユニットであり、
P3は、ペンダント型光反応性基を有する繰り返しユニットであり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
xは0から約0.95モルパーセントであり、
yは0から約0.95モルパーセントであり、
xとyはともに0ではなく、
a+x+yは1.0である。
【0076】
本発明のコポリマーは、重合性モノマーとコモノマーに由来する繰り返しユニットから構成される。式(I)で表されるコポリマーでは、繰り返しユニットP1、P2、及びP3が一緒になってコポリマーのバックボーンを形成する。各繰り返しユニットは、双性イオン性基、疎水性基、又は光反応性基のいずれかを含む。特定の実施形態では、双性イオン性基、疎水性基、及び光反応性基のそれぞれは、ペンダント基である(すなわち、これらの基は、コポリマーのバックボーンからのペンダント型である)。これらの実施形態のあるものでは、ペンダント基を有するコポリマーは、ペンダント基を有するコモノマー及び重合性モノマーから調製される。
【0077】
コポリマーのバックボーンの性質は、バックボーンがコポリマーの全体的な性能、すなわちコポリマーの双性イオン性基、疎水性基、及び光反応性基の性能、に悪影響を及ぼさない限り、重要ではない。適切なコポリマーバックボーンとしては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリスルフイド、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエポキシ、芳香族ポリエステル、セルロース、フルオロポリマー、ポリアクリル、ポリアミド、ポリアンハイドライド、ポリエーテル、ビニルポリマー、フェノール、エラストマー、その他の付加ポリマーが挙げられる。代表的なコポリマーバックボーンとしては、本明細書で詳細に記載したものが挙げられる。
【0078】
本明細書では、「双性イオン性基」という用語は、少なくとも2つの官能基を含み、1つは正の電荷を持ち、1つは負の電荷を持ち、その正味の電荷がゼロである基を意味する。代表的な双性イオン性基としては、カルボキシベタイン(CB)基、スルホベタイン(SB)基、ホスホベタイン(PHB)基、ホスホリルコリン(PC)基が挙げられる。双性イオン性基は、コポリマーで処理又はコーティングされた表面に低付着性と機能性を付与する。
【0079】
「疎水性基」という用語は、炭化水素で無極性の性質を持つ基を指す。疎水性基は、(例えば、疎水性-疎水性相互作用を介して)コポリマーで処理された表面へのコポリマーの結合を促進する役割を果たす。コポリマーの疎水性基の性質は、処理又はコーティングされた表面の意図された用途に十分なコポリマーの表面への結合を上記基が達成し、且つ上記基がコポリマーの双性イオン性基又は光反応性基の性能に悪影響を与えない限り、重要ではない。適切な疎水性基には、炭化水素基を含む基、例えば、2個以上、3個以上、又は4個以上の炭素を有するアルキル基及びアルキレン基(例えば、エチル基、エチレン基、プロピル基、プロピレン基、ブチル基、ブチレン基)が含まれる。代表的な疎水性基としては、C3-C20アルキル基(例えば、n-ブチル)、ベンゼン環含有基(例えば、フェニル)、フッ素化アルキル基(例えば、トリフルオロメチル)、フッ素化アリール基が挙げられる。
【0080】
「光反応性基」という用語は、紫外線の照射によって架橋反応する基である。ペンダント型光反応性基(すなわち、架橋基)は、コポリマーで処理された表面へのコポリマーの結合を促進する役割を果たす。コポリマーの光反応性基の性質は、処理又はコーティングされた表面上でコポリマーを安定化させるのに十分な表面上のコポリマーの架橋を上記基が達成し、且つ上記基がコポリマーの双性イオン性基又は疎水性基の性能に悪影響を与えない限り、重要ではない。適切な光反応性基には、適切な波長の光(例えば、紫外線、250から370nm)の照射によって架橋に影響を与える基が含まれる。適切な光反応性基は、芳香族ケトン、アジド、ジアゾジアジリン基に由来する。代表的な光反応性基としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、フェニルアジド、アリールアジド(例えば、フェニルアジド)、アジドメチルクマリン、アントラキノン、プソラレン誘導体が挙げられる。
【0081】
本明細書に記載されている双性イオンポリマーの光反応性基は、コポリマーを架橋するのに有効である。また、光反応性基は、双性イオンコポリマーを、コポリマーがコーティングされた表面(表面には光反応性基に対して反応性のあるC-Hが含まれる)に架橋するのにも有効である。双性イオンコポリマーを架橋することができる代表的な表面としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、環状ポリオレフィンなどのC-Hを含む表面が挙げられる。本明細書に記載の光反応性双性イオンコポリマーは、C-H反応性基を含まない金属、金属合金、又はセラミックの表面には架橋されない。本明細書に記載の光反応性双性イオンコポリマーの使用は、耐久性のあるネットワークポリマーフィルムを有する表面を提供する。
【0082】
他の実施形態では、双性イオンコポリマーは、光及び熱によって活性化される架橋基を含む。更なる実施形態では、コポリマーは、熱によって活性化される架橋基を含む。
【0083】
本発明のコポリマー及び本発明の方法に有用なコポリマーには、コモノマーの共重合(例えば、双性イオン性基を有する重合性モノマー、疎水性基を有する重合性モノマー、及び光反応性基を有する重合性モノマーの共重合(例えば、式(I)、(II)、(III)、及び(IV)のコポリマー)によって調製されるランダムコポリマーが含まれる。本明細書に記載及び示すコポリマー式において、双性イオン性基を含む繰り返しユニット、疎水性基を含む繰り返しユニット、及び光反応性基を含む繰り返しユニットが描かれている。例えば、式(I)、(II)、(III)、及び(IV)を参照のこと。描写は、コポリマーの性質を限定することを意図するものではなく、描写されたコポリマーは、指定された数の繰り返しユニットを有するランダムなコポリマーであってもよい(例えば、式(I)について、双性イオン性基を含む繰り返しユニットを「a」、疎水性基を含む繰り返しユニットを「x」、光反応性基を含む繰り返しユニットを「y」とする)。
【0084】
本明細書に記載のコポリマーは、追加の繰り返しユニットが上述のようにコポリマーの意図された用途の特性を妨げたり、悪影響を与えたりしない限り、追加の繰り返しユニットを含んでいてもよい。本発明のこれらのコポリマーは、例えば、双性イオン性基を含む繰り返しユニット、疎水性基を含む繰り返しユニット、及び光反応性基を含む繰り返しユニット、ならびに他の繰り返しユニットを「含んで」いる。
【0085】
特定の実施形態では、本発明のコポリマーは、例えば、双性イオン性基を含む繰り返しユニット、疎水性基を含む繰り返しユニット、及び光反応性基を含む繰り返しユニットのみを含む。これらの本発明のコポリマーは、双性イオン性基を含む繰り返しユニット、疎水性基を含む繰り返しユニット、及び光反応性基を含む繰り返しユニット「からな」り、他の繰り返しユニットは含まれていない。
【0086】
本発明の双性イオンコポリマーは、双性イオン性基を最大で約90mol%含む。疎水性基を含む本発明の双性イオンコポリマーの場合、コポリマーは疎水性基を最大で約70mol%含む。光反応性基を含む本発明の双性イオンコポリマーの場合、コポリマーは、光反応性基を最大で約30mol%含む。
【0087】
本発明の双性イオンコポリマーは、約1,000から約2,000,000の重量平均分子量を有する。
【0088】
双性イオン/疎水性コポリマー
一実施形態では、本発明は、双性イオン性基と疎水性基を有し、それぞれがコポリマーのバックボーンからのペンダント型であるコポリマー(すなわち、双性イオン/疎水性コポリマー)を提供する。双性イオン性基は、コポリマーで処理又はコーティングされた表面に、低付着性と機能性を付与する。ペンダント疎水性基は、(例えば、疎水性-疎水性相互作用を介して)コポリマーで処理された表面へのコポリマーの結合を促進する役割を果たす。コポリマーのバックボーンからのペンダント型である双性イオン性基と疎水性基の相対的な量は、コポリマーの合成を介して調整することで、表面へのコポリマーの結合及び機能化と所望の程度の低付着を達成することができ、これらの各量は、処理又はコーティングされる表面の性質(例えば、組成)に応じて調整することができる。
【0089】
特定の態様において、本発明は、両親媒性双性イオン(例えば、カルボキシべタイン、CB)ランダムコポリマーを用いて、ディップコーティング技術を介して、疎水性材料のための簡単かつ効果的な修飾アプローチを提供する。この一連の両親媒性コポリマーの親水性ユニットと疎水性ユニットの組成を調整することで、ポリマーの両親媒性が非付着性に及ぼす影響を探り、表面コーティングに最適な組成を確立した。CBランダムコポリマーでコーティングした表面の100%ヒト血清吸着量を測定した。結果は、「超低付着性表面」を持つ市販の96ウェルプレートの結果と比較した。さらに、CBコポリマーの表面は、CBのカルボキシル基と抗原のアミノ基が共有結合することで、抗フィブリノーゲンで機能化した。このように、このCBポリマー素材とその改質技術は、非付着性の医療用デバイスや医療診断など、幅広い用途への応用が期待できる。
【0090】
一実施形態では、本発明は、式(II)
【化6】
のコポリマーであって、
R
1及びR
2は独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
R
3及びR
4は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
pは0から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
a+bが1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す
コポリマーを提供する。
【0091】
これらの実施形態のあるものでは、R1及びR2は、独立して、水素及びメチルからなる群から選択される。
【0092】
特定の実施形態では、R3及びR4は、独立して、水素及びC1-C3アルキルからなる群から選択される。
【0093】
特定の実施形態では、nは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの実施形態では、nは2又は3である。
【0094】
特定の実施形態では、mは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの実施形態では、mは1又は2である。
【0095】
特定の実施形態では、pは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの実施形態では、pは3である。
【0096】
特定の実施形態では、aは、約0.20から約0.40モルパーセントである。いくつかの実施形態では、aは約0.30モルパーセントである。
【0097】
特定の実施形態では、bは約0.60から約0.80モルパーセントである。いくつかの実施形態では、bは約0.70モルパーセントである。
【0098】
特定の実施形態では、R1は水素又はメチルであり、R2は水素又はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはNHであり、YはOである。
【0099】
他の実施形態では、R1は水素又はメチルであり、R2は水素又はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはOであり、YはOである。
【0100】
更なる実施形態では、R1は水素であり、R2はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはNHであり、YはOであり、nは3であり、mは1であり、pは2である。これらの実施形態のあるものにおいて、aは約0.30モルパーセントである。
【0101】
他の実施形態では、R1はメチルであり、R2はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはOであり、YはOであり、nは2であり、mは2であり、pは2である。これらの実施形態のあるものにおいて、aは約0.30モルパーセントである。
【0102】
以下は、本発明の代表的な双性イオン/疎水性コポリマーの調製、特性評価、及び本発明の組成物及び方法におけるそれらの使用についての説明である。
【化7】
【0103】
本発明は、超低付着/機能化可能なカルボキシベタイン(CB)コポリマーを用いて、ディップコーティング技術により疎水性表面に超親水性を付与する効果的な表面改質アプローチを提供するものである。様々な両親媒性を有する一連のCBランダムコポリマーを合成し、疎水性のポリプロピレン(PP)及びポリスチレン(PS)の表面にコーティングした。各コーティングの非付着性は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)でスクリーニングし、さらにマイクロBCAタンパク質アッセイキットを用いて100%ヒト血清に対して総合的に評価した。その結果、CBユニットを約30mol%含むランダムコポリマーは、DI水での空気接触角が165以上と最も高い超親水性を示し、100%ヒト血清に対して最も優れた非付着性を示した。最適なCBランダムコポリマーでコーティングした96ウェルプレートの表面は、超低付着性の表面を持つ市販の96ウェルプレートの表面よりも、有意に優れた非付着性を示した。CBランダムコポリマーを塗布した表面では、マウス胚性線維芽細胞(NIH3T3)の接着が完全に抑制された。さらに、最適な非付着性のCBコポリマーの表面を、共有結合を介して抗原で機能化し、その抗体との特異的な相互作用を確認した。このように、このCBランダムコポリマーは、血液接触デバイスの疎水性表面に超低接着性と機能性の両方を付与することができる。
【0104】
以下では、代表的なポリカルボキシベタインとその特性、非付着性表面を調製する際の使用法、及びコーティングされた表面の特性について説明する。
【0105】
ランダムコポリマーの合成
ポリオレフィンは、バイオメディカル用途として広く製造されている。しかしながら、これらの疎水性高分子炭化水素系材料は、非特異的なタンパク質吸着、血小板の活性化、血液凝固、血栓形成などの生物付着に関連する問題を引き起こす。実用化のためには、設定された目標を達成するために、最も単純なアプローチを使用することが非常に望ましい。フリーラジカル重合法は、実験室での小規模な試みから大規模な工業的応用まで、ポリマーを作るための最も一般的で有用なアプローチの一つであり、特にビニルモノマーの重合に適している。熱フリーラジカル開始剤としてAIBNを用い、従来のフリーラジカル重合法により両親媒性ランダムコポリマーを合成した。これらの反応溶液の粘度は、65℃での重合処理に伴って徐々に上昇し、モノマーがコポリマーに変換されたことを示した。
1H-NMRスペクトルの特徴的なピークの積分値から、各モノマーのユニットフラクションを求めた。CB1ユニットが3.82ppm(-CH
2-, 2H)、CB2ユニットが2.42ppm(-CH
2-, 2H)、BMAユニットが1.45-1.63ppm(-CH
2-, 4H)であった。これらのポリマーに関する化学構造と合成の詳細は、それぞれ
図2A及び2Bと表1(
図3)に示されている。ポリマー鎖中の親水性のCBユニットと疎水性のBMAユニットはランダムに分布しており、その合計組成はモノマー供給溶液の組成とほぼ同じであった。CBランダムコポリマーの水溶液への溶解性は、主にCBユニットの組成に依存する。CBユニットを30mol%以上含むコポリマーは水溶液に容易に溶解するが、30mol%未満の場合は水不溶性になる(表1)。したがって,これらのコポリマーの中では、CBユニットを30mol%含む水不溶性のCBコポリマーが最も優れたコーティング材となる。この結果は、バイオメディカルデバイスの表面改質に広く利用されているホスホリルコリン基を含む他のランダムコポリマーと一致する。
【0106】
空気接触角とタンパク質吸着のためのコーティングのスクリーニング
疎水性と親水性の組成が異なる両親媒性のCBコポリマーは、異なる非接着性を付与することができる。親水性(CB)ユニットは、イオンによる水和を促進し、水分子を強く結合させて非付着性を高めることができる。しかしながら、強い水和力はコーティング材料の表面からの剥離を引き起こす可能性がある。疎水性(BMA)ユニットは、疎水性の基材表面に強く結合し、水溶液中でCBユニットを表面に安定させ、コーティングの耐久性を高める。したがって、これらのコーティングランダムポリマーは、非付着性と表面結合性の両方を最大化するように、CB/BMAの適切なモル比で調製する必要がある。
図5A及び
図5Bの空気接触角の結果から、約30mol%のCBユニットを含むコポリマーは、空気接触角が165に達する超親水性を示すことがわかった。この超親水性は、
図6Aに示すように、その優れた性能に関連しており、CBユニットを約30mol%含むランダムポリマーは、タンパク質を撥く能力が最も強い。CB組成の高い他のポリマーは、水溶液への溶解度が高いため、PP表面から容易に剥離してしまう。PCB1-28とPCB1-37はともに水不溶性であるが、CB組成を高くすることで、非特異的なタンパク質吸着に対する撥く能力を高めることができる。さらに、ポリマー溶液の濃度は、双性イオンポリマーのコーティング量、ひいては非付着能力に影響を与えるもう一つの本質的な要因である。
図6Bに示すように、Fgの吸収量は、ポリマー濃度が0.03から0.5wt%に増加するにつれて劇的に減少したが、0.5wt%以上では、付着はコーティングされていない基材と比較して15%未満の飽和した相対的に低いレベルに達した。さらに、PCB1-37とPCB2-37の両ポリマーは、同様の非付着特性を示した(
図4)。
【0107】
CBポリマー(CBユニットが約30mol%)のコーティング層の安定性は、乾いた状態で、分光エリプソメーターを用いて、PBS(1x、pH7.4)に浸す前と浸した後のCBコーティングされた金チップのポリマーの厚さを比較することで確認した。金基材上の改質CBポリマー層の厚さは、浸漬前に29.38±1.10nmと算出された。この値は、2か月間PBSに浸漬した後も大きく変化せず、28.80±0.73 nmのままであった。
【0108】
100%血中タンパク質と血清からのタンパク質吸着
血液成分と生体材料との相互作用は、タンパク質の吸着、血小板の接着/活性化、血液凝固、血栓症などの一連の複雑な生体反応を引き起こす可能性がある。血漿タンパク質の急速な非特異的吸着は、血液と物質の相互作用の際に生体材料の表面で起こる最初の現象と考えられている。そのため、生体材料の血液適合性を理解するためには、主要な血漿タンパク質(フィブリノーゲン、アルブミン、γ-グロブリンなど)の吸着を評価することが重要となる。この評価には、10%希釈の単一タンパク質溶液が頻繁に用いられるが、この試験条件は実際の血液環境からはまだ遠い。ここでは、100%単一血液タンパク質と100%ヒト血清の両方を使用した。非特異的なタンパク質の吸着量はマイクロBCAタンパク質アッセイキットで調べた。
【0109】
図7Aから7Dでは、CBポリマーをコーティングした表面は、異なる種類のタンパク質と未希釈血清の吸着量が、10%と100%の濃度の両方で、コーティングしていない表面に比べて著しく減少しており、双性イオンのCBポリマーコーティング層が、疎水性の炭化水素ベースの表面に超低付着能力を付与できることが示された。超低付着性表面を有する市販の96ウェルプレートは、低濃度(10%)の単一タンパク質溶液からのタンパク質吸着を撥くことができるが、タンパク質濃度が100%に増加すると、依然として約50%のタンパク質吸着がある(
図7A及び7B)。重要なのは、市販の表面は10%の濃度で単一の血液タンパク質の吸着を撥くことができるが、100%のヒト血清又は100%のγ-グロブリン環境に浸した後、非付着能力を完全に失ったことである(
図7C及び7D)。
【0110】
細胞の接着
NIH3T3細胞は、通常の組織培養ポリスチレン(TCPS)プレート上で接着、増殖、移動することができる。双性イオンのCBコポリマーを部分的にコーティングしたTCPSプレートの表面に細胞を播種すると、細胞は徐々にTCPS表面に接着して広がっていく。一方、CBコポリマーの表面には、ほとんどの細胞が球形のままで接着しない。72時間培養し、新鮮な培地でわずかに洗浄した後、CBコポリマーをコーティングした表面では接着した細胞は観察されなかったが、通常のTCPS表面では細胞が増殖し、非常に明確な境界線を持ったサブコンフルエントに達した(
図8)。線維芽細胞にとって、接着は多細胞の構造と機能を維持する上で必須であり、その後の増殖や移動にも重要である。フィブロネクチンは多くの種類の細胞の接着に大きな役割を果たしており、フィブロネクチンの吸着は基質表面への細胞接着に直接影響する。超親水性双性イオンポリマー表面は、フィブロネクチンを含む非特異的なタンパク質に対して優れた非付着能力を有している。このように、CBポリマーコーティング層によって、線維芽細胞の接着は完全に阻止された。
【0111】
表面機能化
CBランダムコポリマーで修飾した96ウェルポリスチレンプレートの生体分子との結合能力と汎用性をさらに評価するために、FgとHSAをそれぞれEDC/NHSカップリングケミストリーにより共有結合で固定化した。その後、酵素発色反応により抗体の検出を行った。代表的な抗体であるHRPを結合させた抗Fg抗体を各ウェルに添加し、表面と十分に接触させた。発色反応の度合いは、間接的に抗体の検出量を示す。活性化されていないCB表面は、表面に生体分子が付着していなくても非付着性を維持しているので、その後の抗体検出が生じない(
図9、Fg非活性化)。また、HSAと共有結合した表面に抗Fgを接触させた場合も、同様に特異的な抗体-抗原誘導結合は見られない(
図9、HSA活性化、HSA非活性化)。表面機能化の程度は、EDC/NHSの濃度と抗体コンジュゲーションバッファーのpHを変えることで調整できる。これまでの研究で、CBの表面は、生体分子と部分的に結合していても、非付着性を維持できることがわかっている。したがって、このCBポリマー修飾96ウェルプレートは、血清、血漿、血液などの複雑な媒体中の生体分子の検出に有望である。
【0112】
実施例1では、本発明の代表的な双性イオン/疎水性コポリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0113】
双性イオン/光反応性コポリマー
別の実施形態では、本発明は、双性イオン性基と光反応性基を有し、それぞれがコポリマーのバックボーンからのペンダント型であるコポリマーを提供する。ペンダント型の双性イオン性基は、コポリマーで処理又はコーティングされた表面に、低付着性及び機能性を付与する。ペンダント型光反応性基は、コポリマーで処理された表面へのコポリマーの結合(すなわち、共有結合)を促進する役割を果たす。コポリマーのバックボーンからのペンダント型である双性イオン性基と光反応性基の相対的な量は、コポリマーの合成によって調節可能であり、所望の程度の低付着とコポリマーの機能化及び表面への結合を達成することができ、これらの各々は、処理又はコーティングされる表面の性質(例えば、組成)に応じて調整することができる。
【0114】
移植され、血液と接触する医療用デバイスの表面に付着した生物付着は、生物学的な有害反応を引き起こす深刻な問題となっている。医療グレードのポリ塩化ビニル(PVC)素材は、何十年も前から市場で使用されており、特に血液と接触するチューブとして使用されている。しかしながら、これらの素材は、臨床応用の際に深刻な生物付着の問題に直面している。自然界では、血液成分の表面の生物付着や非マイルド相互作用による変動を抑制するには、低接着性と高濡れ性の表面が鍵となることがわかっている。
【0115】
医療グレードのポリ塩化ビニル(PVC)チューブは、多くの化学薬品、溶剤、腐食に耐性があり、長寿命で、ほとんどの滅菌方法にも耐性がある。PVCの非常に滑らかな表面は、流体の流れの特性を最大限に引き出し、非特異的な血液タンパク質の吸着や細菌の増殖につながる可能性のある付着の蓄積を低減する。しかしながら、市販されている医療用PVCチューブの多くは、機械的な柔軟性を確保するために可塑剤(最大40%)が配合されており、その表面はかなり疎水性が高いため、ヒトの血液が接触すると、血液タンパク質の吸着、血小板の活性化/凝集、赤血球の溶解、補体の活性化など、深刻な有害反応を引き起こす可能性があることを認識しておく必要がある。現在の市場にある医療用グレードのPVCチューブは、何十年も前から病院で血液と接触する用途で使用されているが、上記の問題を回避するために元々設計されているわけではない。特に、医療グレードの疎水性PVCベースの材料は、すでに深刻なトロンビン生成、補体活性化などを示している。したがって、医療用グレードのPVCチューブの表面に生体適合性を付与する組成物及び方法が緊急に求められている。
【0116】
親水性のバイオインスパイアード非付着材料は、何十年もの間、医療用デバイスの表面コーティングに使用されてきた。ユニークな双性イオン材料であるポリ(カルボキシベタイン)(PCB)は、希釈していないヒト血清又は血漿に対して検出不可能なタンパク質吸着(<0.3ng/cm2)を示し、好ましくない生物学的反応を引き起こすことなく、幅広い生物医学的用途で広く報告されており、従来の親水性又は両親媒性ポリマー(PEGなど)の性能を上回っている。超親水性で電荷中性の内部塩構造を持つカルボキシベタイン(CB)基は、生物活性種によって置換されることのない強く結合した水分子の層を形成することができるため、血液成分とチューブ表面との非特異的な相互作用を完全に抑制することができる。とはいえ、臨床応用を目指した市販の疎水性製品の表面に、超親水性CBポリマーを直接、簡便かつ効果的な方法で安定化させることは、まだ課題となっている。
【0117】
特定の実施形態では、双性イオン/光反応性コポリマーは、超親水性のカルボキシベタイン(CB)ユニットと、疎水性/光感応性のN-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)ユニットの両方を有する。これらの実施形態のあるものでは、双性イオン/光反応性コポリマーは、式(III)
【化8】
を有し、
R
1及びR
2は、独立して-(CH
2)xHであり、xは0から20の整数であり、
R
3及びR
4は、独立して-(CH
2)xHであり、Xは0から20の整数であり、
XはO又はMHであり、
YはO又はMHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
a+bが1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す。
【0118】
これらの実施形態のあるものでは、R1及びR2は、独立して、水素及びメチルからなる群から選択される。
【0119】
特定の実施形態では、R3及びR4は、独立して、水素及びC1-C3アルキルからなる群から選択される。
【0120】
特定の実施形態では、nは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの実施形態では、nは2又は3である。
【0121】
特定の実施形態では、mは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの 実施形態では、mは1又は2である。
【0122】
特定の実施形態では、aは約0.70から約0.90モルパーセントである。いくつかの実施形態では、aは約0.80モルパーセントである。
【0123】
特定の実施形態では、bは約0.10から約0.30モルパーセントである。いくつかの実施形態では、bは約0.20モルパーセントである。
【0124】
特定の実施形態では、R1は水素又はメチルであり、R2は水素又はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはNHであり、YはNHである。
【0125】
他の実施形態では、R1は水素又はメチルであり、R2は水素又はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、XはOであり、YはOである。
【0126】
更なる実施形態では、R1は水素であり、R2は水素であり、R3及びR4はメチルであり、XはNHであり、YはNHであり、nは3であり、mは1である。これらの実施形態のあるものでは、aは約0.80モルパーセントであり、bは約0.20モルパーセントである。
【0127】
以下は、本発明の代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び本発明の組成物及び方法におけるそれらの使用についての説明である。
【0128】
本発明は、市販の疎水性医療グレードPVCチューブに超親水性と非付着性を、簡単で効果的なディップコーティング法によって直接付与する表面改質戦略を提供するものである。この戦略は、双性イオンのカルボキシベタイン(CB)コポリマーを、光による共役と自己架橋によってPVCチューブの内表面に共有結合的にグラフトすることで実現される。CBコポリマーがコーティングされた市販の医療用PVCチューブ(Streamline Airless System Set, Medisystems Corporation, MA, USA)は、100%ヒト血清に対して高い表面湿潤性と超低付着性を示した。
【0129】
図10Aは、本発明の方法を示す概略図であり、CBコポリマーが、光誘起共役及び架橋によって医療グレードPVCチューブの内表面に共有結合的にグラフトされている。代表的な光反応性CBコポリマー(
図10B)を通常のラジカル重合で調製し、合成したポリマーで医療用グレードPVCチューブをコーティングし、UV照射下で安定化させた。ディップコーティングによってPCBコポリマーをグラフトした表面は、コーティングしていないチューブに比べて、100%ヒト血清に対する非特異的なタンパク質吸着に対する耐性が大幅に向上した。したがって、この表面改質戦略は、現在市販されている医療グレードのPVCチューブの生体適合性を改善するために非常に有望である。
【0130】
AIBNを熱フリーラジカル開始剤として用いた従来のフリーラジカル重合法により、両親媒性のランダムコポリマーを合成した。これらの反応溶液の粘度は,65℃での重合処理に伴って徐々に上昇し、モノマーがコポリマーに変換されたことを示した。
1H NMRスペクトルの特徴的なピークの積分値を計算することで、各モノマーのユニットフラクションを求めた。すべての官能基の存在は、
1H NMRで確認し、特徴的なピークの積分値から各モノマーのユニットフラクションを求めた。CBユニットは3.82ppm(-CH
2-, 2H)、BPAAユニットは6.80-7.85ppm(ベンゾフェノ-H, 9H)であった。このポリマーの化学構造を
図10Bに示す。ポリマー鎖中の親水性のCBモノマーと疎水性/感光性のBPAAはランダムに分布しており、全体の組成はモノマー供給溶液の組成とほぼ同じであった。この結果は,バイオメディカルデバイスの表面改質に広く利用されているホスホリルコリン基を有する他のランダムコポリマーと非常によく一致している。
【0131】
紫外線透過性試験の結果、このPVCチューブは,ベンゾフェノン基に最適な照射波長である312nmの波長で50%の光透過性を示した(
図11A)。このように、外部から紫外線を照射することで、内部表面に物理的に付着したポリマーを容易に安定化させることができた。その結果、このポリマーは300から350nmの吸光スペクトル変動で、UV光(312nm)に非常に敏感であり、光によるPVCチューブ表面への共有結合と自己架橋が生じていることを示している(
図11B)。
【0132】
親水性は、PCBグラフト表面の重要な特性の一つである。乾燥状態での水接触角を、コーティングされた医療グレードPVCチューブとコーティングされていない医療グレードPVCチューブで直接測定した。その結果、湾曲したPVCチューブ(
図12A)では、PCBコーティングされたチューブの水接触角は、コーティングされていないチューブよりもはるかに小さいことがわかった。一般的に、PCBコーティングされたフラットPVC表面の水接触角は10°前後であるのに対し、コーティングされていないPVCフラット表面は85°以上である(図 12B)。このように、PCBコポリマーのグラフト化は、疎水性PVCチューブの表面を超親水性の表面に変えた。
【0133】
X線光電子分光法(XPS)を用いてPCBポリマーの存在と安定性を確認し、この技術をより臨床応用に近いものにすることを目指した。結合エネルギー(BE)は、285eVのC 1sピークを基準として補正した。XPSの結果、PCBコーティング表面は、元のPCBポリマーと同じN 1sピークを持ち(
図13Aから13D)、乾燥状態で室温で3週間保存しても、安定した原子組成(表1)が得られた。
【0134】
【0135】
その結果、PCBは市販の医療用PVCチューブの内表面に優れた安定性でグラフト化されたことがわかった。興味深いことに、調査スペクトルから亜鉛(Zn2p)のピークも観測され、抗菌性能を向上させるために医療用PVCの表面に一般的にコーティングされているZnOが存在することがわかった。
【0136】
現在の設計戦略の臨床応用の可能性を評価するためには、生物付着の評価が不可欠である。タンパク質の吸着は、生体環境と接触している生体材料の表面で起こる主要な現象である。
図14では、CBポリマーをコーティングしたチューブへの血清タンパク質の吸着量が、コーティングしていないチューブに比べて大幅に減少しており、双性イオンのCBポリマーコーティング層が高い抗付着能力を持っていることを示している。重要なのは、PCBコーティングしたチューブを1週間保存した場合と3週間保存した場合の付着レベルに差がなかったことである。これは、PCBコーティング層の安定性とXPSの結果との一貫性をさらに証明している。以上の結果から、代表的なPCBコポリマーは、医療用PVCチューブに超親水性と耐久性のある抗付着能力を付与できることがわかった。
【0137】
要約すると、1つの態様において、本発明は、表面コーティング材料として有用な、超親水性カルボキシベタイン(CB)ユニットと疎水性/感光性N-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)ユニットの両方を有する機能性ランダム型両親媒性双性イオンコポリマーを提供する。CB-ランダムコポリマーで修飾された医療用PVCチューブは、超低付着面を持つ市販のコーティングされていない医療用PVCチューブよりも、非付着特性が大幅に改善されている。この表面コーティングは、ディップコーティング法による大規模な適用のために有利にシンプルで効果的である。さらに、その有用性は、非侵襲的なコーティングと長期的な持続性を達成する能力によって確認されている。このように、この技術は医療及びエンジニアリングの幅広い用途、特に医療グレードのPVCチューブへの適用が期待できる。
【0138】
実施例2では、本発明の代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0139】
関連する実施形態では、本発明は、シンプルで効果的な方法を介して、市販の疎水性医療グレードPVC又はPUチューブなどの表面(例えば、ポリ塩化ビニル表面(PVC)又はポリウレタン(PU)表面などのプラスチック表面)からの可塑剤の浸出を直接阻害又は防止する表面改質戦略を提供するものである。一実施形態では、この戦略は、双性イオンのカルボキシベタイン(CB)コポリマーを、光誘起共役及び自己架橋によってPVCチューブの内部表面に共有結合的にグラフトすることによって実現される。
【0140】
市販のポリ塩化ビニル(PVC)製医療用デバイスを本発明の双性イオンコポリマーで表面改質すると、PVCの生体適合性が向上し、様々なせん断応力下でPVCから患者への可塑剤(例えば、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)などのフタル酸エステル)の移行を防止することができる。
【0141】
以下は、ポリ塩化ビニルに生体適合性を付与し、可塑剤の溶出を抑制するための、本発明の代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び使用についての説明である。
【0142】
移植され、血液と接触する医療用デバイスの表面における生物付着は、生体に悪影響を及ぼす深刻な問題である。医療用ポリ塩化ビニル(PVC)素材は、特に血液と接触するチューブや容器として何十年にもわたって使用されている。しかしながら、これらの材料には、(a)血小板の活性化、補体の活性化、トロンビンの生成などの生物付着関連の問題、(b)臨床用途での有害な可塑剤の溶出の問題がある。本発明は、様々な動的摂動下にある市販の医療用PVC材料において、血液タンパク質の付着、ヒト血小板の活性化、補体の活性化を劇的に防ぐことができる表面改質方法を提供するものである。この表面コーティングは、双性イオンであるカルボキシベタイン(CB)基と感光性架橋基からなる生体適合性ポリマーを用いて、簡単かつ効果的なディップコーティングを行い、その後、光照射を行うことで実現できる。この官能基を調整できる生体適合性ポリマーは、任意のスケールで日常的に製造することができ、市販のPVC素材に超親水性と非付着性を付与することができる。さらに、このポリマーは、市販の医療用PVC材料からの有害な可塑剤の溶出を効果的に防止した。この技術は、生体適合性のある表面を必要とする他の多くの医療用デバイスに容易に応用できる。
【0143】
医療用ポリ塩化ビニル(PVC)は、ほとんどの化学薬品、溶剤、滅菌方法に耐性があり、低コストであることから、フレキシブルな医療製品に使用されてきた。これらの製品は、初期の重要な毒物学的、生物学的、生理学的試験に合格しているが、非生体適合性のPVCと血液成分との間に好ましくない相互作用が生じるため、深刻な血液タンパク質の吸着、血小板の活性化/凝集、赤血球の溶解、トロンビンの生成、補体の活性化などが現れ、医療用PVCベースの材料は、ますます批判を受け続ける。血液中のタンパク質の付着は、材料の生体適合性を決定する上で重要な役割を果たしており、その後の有害反応を引き起こす主要な事象と考えられている。そのため、医療用PVCの表面に生体適合性を付与することで、生物付着を効果的に抑制することができる。
【0144】
実際、病院で使用されているプラスチック製の使い捨て医療用デバイスの約30%は、通常、柔軟性のあるPVCで作られており、血液と接触するチューブや容器などとしての機械的な柔軟性を確保するために、最大40wt%の可塑剤(フタル酸エステルなど)が物理的に配合されている。重要なことは、可塑剤は、血液と接触している間、PVC材料から患者に様々な程度で浸出し、特定のグループの患者に深刻な健康被害(例えば、腎毒性、内分泌毒性、生殖器系疾患、神経毒性、肝毒性、心毒性)を引き起こす可能性があることである。そのため、毒性のない可塑剤や移行性のない代替可塑剤については多くの研究が報告されている。しかしながら、長期的な健康影響や機能的効果、コスト面などを総合的に評価することができないため、現在、市場に出回っている医療用PVC材料のほとんどは従来の方法で作られており、有害な可塑剤の溶出問題に直面している。したがって、不活性、殺菌性、柔軟性などのPVCマトリックスの主要な特性に影響を与えることなく、生物付着による有害反応を効果的に除去し、有害な可塑剤の移行を防止する生体適合性材料で医療用PVC製品を改質することが望まれている。
【0145】
医療用PVC素材の生体適合性を向上させる現在の方法は、疎水性成分(シリコーン誘導体やポリテトラフルオロエチレンなど)の付与、親水性抗付着材(アリルアミン、ポリ(アクリルアミド)、ポリエチレングリコールなど)のグラフト化、表面のナノ/ミクロ構造の変更などが挙げられる。しかしながら、非生体適合性と可塑剤溶出の問題を同時に解決できることを明確に示したものはない。注目すべきは、付着-放出部位(例えば、シリコーン誘導体)を含む疎水性材料は、接着-放出サイクル中に血小板/補体の活性化などの有害な生物学的反応を示す可能性があることである。重要なことは、血液タンパク質は、疎水性表面との高い接着親和性を有し、親水性表面よりも疎水性表面に吸着した際に、組織化されていない二次構造を示すことである。
【0146】
親水性の非付着性材料は、何十年にもわたって医療用デバイスの表面コーティングに使用されており、双性イオンポリマー、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシ官能化アタリレート)、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(グリセロール)、ペプチド、ぺプトイドなどがある。カルボキシベタイン(PCB)は,従来の親水性ポリマーや両親媒性ポリマーの性能を上回る、好ましくない生物学的反応を引き起こすことなく、ヒトの血清や血漿に対して検出不可能なタンパク質吸着(<0.3ng/cm2)を示し、広範囲の生物医学的用途で広く報告されているユニークな双性イオン材料である。超-親水性で電荷中性のカルボキシベタイン(CB)基は、強く結合した水分子の層を形成することができるため、血液成分とチューブ表面の非特異的な相互作用を完全に抑制することができる。しかしながら、臨床応用を目的とした市販の疎水性チューブの表面に、超親水性のCBポリマーを直接、シンプルかつ効果的な方法で安定化させることは大きな課題である。さらに、可塑剤の溶出を防ぐために、可塑化されたPVCの表面改質は最も頻繁に研究されている戦略の一つであり、中でも表面架橋は最も成功している技術である。
【0147】
一実施形態では、本発明は、超親水性及び非付着能力を有し、PVCチューブからの可塑剤の移行が少ない市販の疎水性医療グレード可塑化PVCチューブ(Streamline Airless System Set, Medisystems Corporation, MA, USA)に直接付与することを目的とした、カルボキシベタインコポリマー(PCB)の表面改質方法を提供するものである。ラジカル重合により、調整可能な官能基(双性イオンのカルボキシベタイン基、感光性架橋基など)を有するPCBコポリマーを調製した。このポリマーを用いて医療用の可塑性PVCチューブをディップコーティングし、その後、コーティングされたPCBポリマー層を安定化させ、表面架橋を介した可塑剤の移行を防ぐために、コーティングされた表面に波長312nmの紫外線を照射した。PCBポリマーの安定性と非毒性は、X線光電子分光法(XPS)を用いて確認し,ISO 10993-5ガイドラインに基づいて確認した。コーティングされたPVC表面の濡れ性、非付着性、血小板活性化レベル、補体活性化レベルを、コーティングされていない表面のものと直接比較した。特筆すべきは、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、異なる動的摂動/せん断応力下での100%ヒト血清に対する非付着性を検証し、PVCチューブからの可塑剤の移行を効果的に防止したことである。この方法により、異なる動的摂動下での生体適合性と、PCBコポリマーの可塑剤溶出を抑制する能力の両方が実証された。さらに、これらの材料と表面改質戦略は、他の医療用デバイスにも適用可能である。
【0148】
コポリマーの合成
光反応性の両親媒性ランダムコポリマーは、AIBNを熱的フリーラジカル開始剤として用いた従来のフリーラジカル重合法により合成した。この方法では、調整可能な官能基を持つポリマーを任意のスケールで日常的に作製することができ、特に工業的なスケールアップに適している。これらの反応溶液の粘度は、65℃での重合処理に伴って徐々に上昇し、モノマーがコポリマーに変換されたことを示した。ポリ(CBAA-co-BPAA) (PCB)ポリマーの化学構造を
図15Aに示す。CBAA基は超親水性であり、完全に電荷中性であるため、血液中のタンパク質、細胞、細菌の付着を効果的に抑制することができる。感光性基(BPAA)は、光による架橋でPVC表面のポリマーを安定化させ、可塑剤の移行を防ぐことができる。全ての官能ユニットが存在することを
1H NMRで確認し、特徴的なピークの積分値から各モノマーのユニットフラクションを求めた。CBユニットは3.82ppm(-CH
2-, 2H)、BPAAユニットは6.80-7.85ppm(ベンゾフェノン-H, 9H)であつた。ポリマー鎖中の親水性のCBモノマーと疎水性/感光性のBPAAはランダムに分布しており,全体の組成はモノマー供給溶液の組成とほぼ同じであった(表2)。ポリ(CBAA-co-BPAA-co-NBアクリルアミド)(PCB-NB)及びポリ(PEGMA-co-BPAA)(PPB)の化学構造を、それぞれ
図15B及び15Cに示す。
【0149】
【0150】
表面の特性評価
紫外線透過性試験の結果、市販のPVCチューブは、PCBコポリマーのベンゾフェノン基に最適な照射波長である312nmの波長で50%の光透過性を示した(
図16A及び16B)。このように、外部から紫外線を当てることで、チューブの内面にあるPCBポリマーを安定させることができる。
図16Cの結果は、このポリマーが、300から350nmの吸光スペクトル変動で、UV光(312nm)に非常に敏感であり、光によるPVCチューブ表面への共有結合と自己架橋が発生していることを示している。親水性は、PCBグラフト表面の重要な特性の一つである。コーティングされた医療用PVCチューブとコーティングされていないPVCチューブについて、乾燥状態での水接触角を直接測定した。PCBコーティングされたチューブの水接触角は、コーティングされていないチューブの水接触角よりもはるかに小さい(
図16D)。一般的に、PCBコーティングされた平坦なPVC表面の水接触角は約10°であるのに対し、コーティングされていないPVCの平坦な表面は85°以上である。このように、PCBコポリマーのグラフト化により、疎水性のPVCチューブの表面が超親水性に変換された。
【0151】
コーティングの安定性
米国FDAでは、血液や血液成分と接触する容器には、コーティングの溶出問題がないことが求められている。X線光電子分光法(XPS)を用いて、PCBポリマーの存在と安定性を確認し、より実用に近い技術を目指した。結合エネルギー(BE)は、285eVのC 1sピークを基準に補正した。XPSの結果、PCB-コーティング表面は、元のPCBポリマーと同じN 1sピークを持ち(
図16E-16H)、乾燥状態で室温で3週間保存しても、安定した原子組成が得られた。このように、市販の医療用PVCチューブの内表面にPCBを安定してグラフトすることに成功した。また、調査スペクトルからは亜鉛(Zn 2p)のピークが観測され、抗菌性向上のために医療用PVCの表面にコーティングされることが多い亜鉛化合物(例えば、ZnO)が存在することがわかった。さらに、PCBの湿潤状態での安定性についても評価した。市販のチューブに蛍光標識付きのPCBポリマー(PCB-NB)をコーティングし、PBS/100%ヒト血漿を用いて37℃で浸漬した。溶液中に溶出したPCB-NBの量を、波長590nmのUV/Visスペクトルの分析により評価した。その結果、PBS又は100%ヒト血漿を用いて37℃で24時間浸漬しても、PCBポリマーの吸収ピークは観測されず、PCBポリマーが湿潤環境下で安定していることが示された。
【0152】
生物付着の評価
タンパク質の吸着は、生体適合性評価において主要な役割を果たしており、生体環境下で生体材料の表面に発生する主要な事象である。重要なことは、タンパク質の吸着挙動は、生体材料の表面特性と様々なせん断応力の両方に依存しているということである。アルブミン、フィブリノーゲンともに、疎水性のアルキル基を持つ表面に対して、水酸基を持つ親水性の表面に比べて、より強い結合親和性と組織化されていない二次構造を示し、その効果はアルブミンの方が大きいことがわかった。ポリウレタン表面への血漿タンパク質の吸着は、せん断速度の増加に伴って減少することが観察された。本願では、流量を調整できる表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーとマイクロBCAタンパク質アッセイキットを用いて、動的及び静的条件下での、双性イオンであるカルボキシベタインポリマー表面への血漿タンパク質の吸着挙動について説明する。
【0153】
非特異的に吸着したタンパク質の量は,血清注入前と緩衝液洗浄後に、コーティングされていない表面(PVCでコーティングされたSPRチップ)とPCBでコーティングされた表面(PVC第1層とPCBポリマー第2層でコーティングされたSPRチップ)の両方でSPRを用いて評価した(
図17Aから17D)。血清注入後の急激な上昇は、バルクの屈折率の変化に起因するものである。コーティングされたポリマー層によるSPR表面の感度低下を補うために、タンパク質の吸着に対するセンサーの応答を、異なるポリマーの厚さで校正した。4種類の異なる流量10、40、100、及び200μL/minでのタンパク質の吸着量は、PCBコーティングされた表面では4.3、3.3、3.6、及び4.4ng/cm
2であるのに対し、コーティングされていない表面では78.7、85.9、81.9、及び81.4ng/cm
2であった(
図17E)。この結果は、PCBコーティングされた表面が、せん断応力にかかわらず、動的条件では非コーティング表面に比べて超低付着(<5.0ng/cm
2)能力を持ち、付着が10%未満であることを示しており、この結果は、静的条件でのマイクロBCAタンパク質アッセイキットの結果と一致している(
図17F)。さらに、PBSで1週間保存したPCBコーティングチューブの付着レベルと3週間保存したチューブの付着レベルには差がなかった。これは、PCBコーティング層の安定性と、乾燥条件下でのXPS結果との一貫性をさらに実証している。このように、双性イオンのPCBコポリマーは、医療グレードのPVCチューブに超親水性と耐久性のある抗付着能力を付与することができる。
【0154】
PCBポリマーの毒性
PCBポリマーの細胞毒性をISO10993-5ガイドラインに基づいて確認した。PCBコーティングされたチューブの溶出液又は溶解したPCBポリマーを含む培地で培養したNIH3T3の形態を観察し、コントロールと比較した。
図18Aに示すように、PCBコーティングチューブからの溶出液中で培養されたNIH3T3の形態は、通常の細胞培養培地中のコーティングされていないチューブやコントロールサンプル上の形態との違いはない。一方、ポジティブコントロールとして用いた有害物質であるラテックスの溶出液で培養した場合、細胞は元の紡錘形を失った。注目すべきは、PCBポリマーを溶解した培地で培養した細胞の形態は、同様にコントロールと比較して変化しなかったことである(
図18B)。このように、PCBポリマーは、ISO 10993-5のガイドラインに基づいて毒性を示さない。また、異なる濃度(0.00125、0.0025、0.01、及び0.1mg/mL)のPCBポリマーによって誘発される細胞毒性を、培養液へのLDHの漏出によって評価した。560nmの吸光度値と相対的なLDH量との間の正の相関関係を用いて、ポリマーによる細胞膜の損傷を評価した。PCBを含む培地で培養した細胞から放出されたLDH量は、通常の条件で培養した場合と大きな違いはなかった。一方、0.20vol% Tween20培地溶液で培養した細胞から放出されたLDH量は、他のものよりはるかに高かった(
図18C)。これらの結果は、PCBポリマーが生きた細胞の膜に対して細胞毒性を示さないことを示している。
【0155】
血小板の質に対するPCBポリマーの影響
PCBコーティングされたPVC表面とコーティングされていないPVC表面の血小板の質を比較し、血液が接触する医療用デバイスに対するPCBポリマーの可能性を検証する。血小板の活性化レベルとフォン・ヴィレブランド因子(VWF)との結合親和性は、血小板の凝固能力を評価する上で最も重要なパラメータであり、これは血小板の品を直接反映している。p-セレクチン(CD62)は糖タンパク質であり、血小板活性化のマーカーとしてよく知られている。血小板が活性化されると、p-セレクチンは細胞内の顆粒から外膜へと移動する。PCBコーティングされた表面の血小板の活性化レベルは、コーティングされていないPVC表面のそれよりもはるかに低く、PCBポリマーの使用による血小板の活性化の効果的な抑制を示している(
図19A)。血小板の機能性試験は、血小板の凝固能力を評価する上で最も重要なパラメータである。血漿中の接着性糖タンパク質であるVWFは、生理的条件下での血小板の栓形成に基本的な役割を果たしており、循環血小板が血管損傷部位に接着して栓をすることを可能にしている。平均蛍光強度(MFI)が高いほど(
図19B)、VWFとの結合親和性が高いことを示している。アネキシンVは、血小板のアポトーシスマーカーであるホスファチジルセリンと細胞膜の外葉上で結合する能力があるため、アポトーシス細胞の検出によく用いられる。したがって、アネキシンVの結合率が高いほど、生存率が低下して細胞のアポトーシスが増加していることになる。
図19Cに示すように、PCBコーティングされた親水性表面上の血小板は、コーティングされていないものに比べてアネキシンVの結合レベルが低く、PCB修飾表面が血小板の生存率を効果的に維持できることを示している。不活性化された健康な血小板は、最大径が2から3μmの両凸の円盤状構造を示す。血小板の健康状態が悪化すると円盤状から球状へと形状が変化する(円盤状から球状への変化)。形態スコア(MS)は、血小板の健康状態の簡易的な指標として用いられ、4x(円盤%)+ 2x(球%)+(樹状突起%)と定義される。PCBコーティングされた表面の血小板のMS値は、コーティングされていないPVC表面のMS値よりもはるかに高い(
図19D)。このように、疎水性PVC表面にPCBポリマーを塗布することで、血小板の品質劣化を効果的に防ぐことができるため、PCBポリマーは血液接触デバイスの製造に有望である。
【0156】
可塑剤の溶出
フタル酸エステル、特にフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)は、可塑化や加工が容易でコスト面でも競争力があるため、市販のPVCに最も頻繁に使用されている可塑剤である。しかしながら、DEHPを含むPVC材料は、多くの研究でDEHPの毒性が示されているにもかかわらず、バイオメディカル用途ではまだ議論の余地があり、禁止されていない。可塑化された材料の毒性をなくすための現在の方法は、(a)化学的又は物理的な表面改質によってDEHP可塑剤の溶出を抑制する、(b)DEHPの代替品(アジペート、アゼレート、シトレート、トリメリテートなど)を開発する、(c)PVCに代わる可塑剤フリーのポリマー(シリコーン、ポリウレタン、ポリオレフィンなど)を作る、などである。DEHPの溶出を抑制する方法は、長期的かつ包括的な評価を必要とする最も評価の高い方法であると考えられる。特に、PVC材料の表面架橋は、現段階ではDEHPの溶出を効果的に防止する最も成功した技術である。DEHPには、210nm、225nm、275nmの3つのスペクトルバンドがある。本明細書に記載されているように、275nmの波長における吸収値を、コーティングされたPVCチューブとコーティングされていないPVCチューブとで比較した。
図20の結果によると、PCBコーティングされたPVCチューブから溶出したDEHPレベルは、コーティングされていないチューブからのそれよりも大幅に低く、24時間後にはコーティングされていないチューブからのそれの約12%となった。これは、表面グラフト化された光反応性PCB-ポリマーがDEHPの移行を効果的に防止することを示しており、可塑化PVC材料の毒性を除去する有望な用途につながる。PCBポリマーの光誘起表面架橋は、PVC表面上のPCBポリマーを安定化させ、可塑剤の移行を防ぐ鍵となり得る。
【0157】
補体の活性化
補体系には20種類以上のタンパク質が含まれており、血液や組織液中を循環している。補体系は自然免疫系の主要な構成要素であり、異物である細胞や生物を直接溶解したり、食作用を促進する白血球をリクルートしたりすることで排除することができる。補体系は、古典的経路、代替経路、レクチン経路の3つの経路で活性化される。人工生体材料の表面は、主に準安定な補体タンパク質C3bの吸着によって代替経路を誘発し、さらに補体カスケード全体を開始させ、白血球を活性化して炎症反応を誘発する末端補体複合体(sC5b-9)の形成を誘発する。したがって、sC5b-9の量は、生体材料が補体系を刺激する能力を反映していると考えられる。重要なのは、ポリエチレングリコール(PEG)鎖の末端ヒドロキシル(-OH)基と酸化の両方が、代替経路を介して補体系を強く活性化するので、コポリマーポリ(PEGMA-co-BPAA)(PPB)は補体系活性化剤(ポジティブコントロール)になるということである。
図21の結果によると、PCBコーティングされた医療用PVC素材又はコーティングされていない医療用PVC素材のいずれかと接触した血清は、PPBコーティングされたものよりも末端補体複合体(sC5b-9)のレベルが低く、PCBポリマーがPPBコーティングされた表面よりも補体系を活性化する親和性が低いことを示している。また、PCBコーティング面でも非コーティング面でも、補体カスケードは完全には阻害されず、両者の間には有意な差はなかった。これは、補体外の活性化が血清と空気の界面で起こり、そこでは血漿タンパク質が変性したり、構造が変化したりするため、活性化が増幅され、一旦活性化されると終息できないためである。PPBコーティングされた表面では、PPBコポリマーによる活性化は血清と空気の界面からの活性化よりもはるかに深刻であり、したがって全体の活性化レベルは高い。したがって、これらの結果は、PCBポリマーが補体を活性化する生体材料ではないことを示している。
【0158】
要約すると、一実施形態では、本発明は、表面コーティング材料として使用するための、超親水性カルボキシベタイン(CB)ユニットと疎水性/感光性N-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)の両方を含む機能的なランダムタイプの両親媒性双性イオンコポリマーを提供する。CBランダムコポリマーで修飾された市販の医療用PVCチューブは、さまざまな動的摂動下で、血液タンパク質の付着、ヒト血小板の活性化、補体の活性化を劇的に防ぐことができる。この表面コーティングは、ディップコーティング法と紫外線照射による簡単で効果的な大規模用途である。さらに、非侵襲的なコーティングと長期間の持続性を実現したことで、その有用性が証明された。さらに、このポリマーは、市販の医療用PVC材料からの有害な可塑剤の溶出を効果的に防ぐことができた。この方法は、PVC材料の非生体適合性と可塑剤の溶出という問題を同時に解決するものである。この方法は、生体適合性と添加剤溶出防止効果のある表面を必要とする他の多くの医療用デバイスに容易に適用できる。
【0159】
実施例3では、プラスチック表面からの可塑剤の溶出を防ぐための、本発明の代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0160】
双性イオン/疎水性/光反応性コポリマー
更なる実施形態では、本発明は、双性イオン性基、疎水性基、及び光反応性基を、それぞれコポリマーのバックボーンからのペンダント型であるコポリマーを提供する。双性イオン性基は、コポリマーで処理又はコーティングされた表面に低付着性及び機能性を付与する。ペンダント型の疎水性基は、(例えば、疎水性-疎水性相互作用を介して)コポリマーで処理された表面へのコポリマーの結合を促進する。ペンダント型光反応性基は、コポリマーで処理された表面上のコポリマーの架橋を促進する役割を果たす。コポリマーのバックボーンからのペンダント型である双性イオン性基、疎水性基、及び光反応性基の相対的な量は、コポリマーの合成を介して調整することで、所望の程度の低付着、及び表面へのコポリマーの機能化及び結合を達成することができ、これらのそれぞれは、処理又はコーティングされる表面の性質(例えば、組成)に応じて調整することができる。
【0161】
これらの実施形態のうち特定のものでは、本発明は、血小板保存袋の表面コーティング材料として有用な、超親水性カルボキシベタイン(CB)ユニット、疎水性結合性n-ブチルメタクリレート(BMA)ユニット、及び疎水性/感光性N-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)ユニットを有する双性イオン性コポリマー、コポリマーで血小板保存袋の表面をコーティングする方法、及びコポリマーでコーティングされた血小板保存袋を提供する。
【0162】
血小板は、止血、血栓症、炎症、創傷治癒などに重要な役割を果たすユニークな血液成分である。血小板療法(血小板輸血)は、血小板減少症や血小板機能障害のある人の出血治療に有効な方法である。重要なことは、現在の標準的な条件でのインビトロで保存された血小板の保存期間は、インビ鳥の血流中の血小板の保存期間(8-10日)の半分(4-7日)しかないことである。従って、血小板の需要の増加を緩和するためには、血小板の保存条件を改善して保存期間を延長する必要がある。血小板の保存期間は、以下の2つの理由によって大きく影響される。(i)細菌汚染、(ii)血小板保存病変(PSL)である。細菌汚染のリスクは、厳格な無菌状態での採取と高感度の細菌診断によって軽減することができる一方で、主な制限要因であるPSLは、容器、緩衝液成分、温度、呼吸ガス交換効率、pHの低下、乳酸の蓄積、栄養素の消費などの保存条件に強く影響される。新しい保存媒体の添加、低温保存、凍結乾燥などの試みがなされてきたが、現在の血小板保存の標準は、疎水性の保存袋(例:ポリ塩化ビニル)の中で室温(20-24°C)で血小板を撹拌することにある。実際、高品質な血小板の保存期間が8日間に延長されたことはない。血小板と生体適合性のない保存袋の表面との間の好ましくない相互作用が品質低下の原因の一つであり、疎水性の可塑化PVC素材上での血漿タンパク質の回復不能な変性、血小板の活性化、バイオフィルムの形成などが挙げられる。注目すべきは、医療グレードの疎水性PVCベースの材料では、深刻なトロンビン生成と補体活性化も示されていることである。このように、収納袋の疎水性表面に生体適合性を付与することは、依然として大きな課題となっている。
【0163】
現在、血小板バッグの生体適合性は、(i)表面のナノ/ミクロ構造/パターンを変化させて、付着物放出材料(例:シリコーン誘導体)の混合物とともに超疎水性を付与する、(ii)中性の生体由来の非付着材料(例:双性イオンポリマー、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(2-オキサゾリン)をグラフト重合して表面に超親水性を付与する、という2つの側面から改善されている。なぜなら、疎水性材料、特に付着物放出部位を含む材料(例えば、シリコーン)は、最終的には低い生物付着を示すが、接着-放出サイクル中に深刻な生物学的反応(例えば、血小板の活性化、補体の活性化)を示す可能性があるからである。血小板の活性化は、一般的にフィブリノーゲンの吸着による接着の後続反応と考えられているが、非血小板/タンパク質接着面が血小板の活性化を完全に防ぐことはできない。そのため、血小板に吸着したタンパク質の量だけでは不十分であり、溶液中の血小板の特性を調べることが重要である。親水性のバイオインスパイアされた非付着材料は、何十年もの間、医療用デバイスの表面コーティングに使用されてきた。ユニークな双性イオン材料であるポリ(カルボキシベタイン)(PCB)は、希釈していないヒトの血清や血漿に対して検出不可能なタンパク質吸着(<0.3ng/cm2)を示し、好ましくない生物学的反応を引き起こすことなく、幅広い生物医学的用途で広く報告されており、従来の親水性ポリマーや両親媒性ポリマー(例えばPEG)の性能を上回っている。カルボキシベタイン(CB)基は、超親水性で電荷中性の内部塩構造を持ち、強く結合した水分子の層を形成することができるため、生理活性種によって置換されることはなく、血液成分とバッグ表面との非特異的な相互作用を完全に抑制することができる。しかしながら、臨床応用を目指して商品化された疎水性製品の表面に、超親水性のCBポリマーを直接、シンプルかつ効果的な方法で安定化させることは、依然として課題となっている。
【0164】
特定の実施形態では、本発明は、式(IV)
【化9】
のコポリマーであって、
R
1、R
2、及びR
3は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
R
4及びR
5は、独立して-(CH
2)xHであり、
xは0から20の整数であり、
XはO又はNHであり、
YはO又はNHであり、
ZはO又はNHであり、
nは1から20の整数であり、
mは1から20の整数であり、
pは0から20の整数であり、
aは、約0.10から約0.90モルパーセントであり、
bは、約0.05から約0.95モルパーセントであり、
cは、約0.05から約0.95モルパーセントであり、
a+b+cは1.0であり、
*はコポリマーの末端基を表す
を提供する。
【0165】
これらの実施形態のあるものでは、R1、R2、及びR3は、独立して、水素及びメチルからなる群から選択される。
【0166】
特定の実施形態では、R4及びR5は、独立して、水素及びC1-C3アルキルからなる群から選択される。
【0167】
特定の実施形態では、nは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの実施形態では、nは2又は3である。
【0168】
特定の実施形態では、mは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの実施形態では、mは1又は2である。
【0169】
特定の実施形態では、pは1、2、3、4、5、又は6である。いくつかの実施形態では、pは3である。
【0170】
特定の実施形態では、aは約0.70から約0.90モルパーセントである。いくつかの実施形態では、aは約0.70モルパーセントである。
【0171】
特定の実施形態では、bは、約0.05から約0.25モルパーセントである。いくつかの実施形態では、bは約0.20モルパーセントである。
【0172】
特定の実施形態では、cは、約0.05から約0.20モルパーセントである。いくつかの実施形態では、bは約0.10モルパーセントである。
【0173】
一実施形態では、R1、R2、及びR3は水素であり、R4及びR5はメチルであり、XはNHであり、YはOであり、ZはNHである。
【0174】
別の実施形態では、R1、R2、及びR3は水素であり、R4及びR5はメチルであり、XはNHであり、YはOであり、ZはNHであり、nは3であり、mは1であり、pは3である。
【0175】
上記実施形態のあるものでは、aは約0.70モルパーセント、bは約0.20モルパーセント、cは 約0.10モルパーセントである。
【0176】
以下は、本発明の代表的な双性イオン/疎水性/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び本発明の組成物及び方法におけるそれらの使用についての説明である。
【0177】
本発明は、非常にシンプルで効果的なディップコーティング技術を用いて、商品化された疎水性血小板保存バッグに超親水性と非付着性を直接付与するCBポリマーの表面改質戦略を提供するものである。これは、CBコポリマーを光誘起共役及び架橋により保存バッグの内表面に共有結合でグラフトすることで実現した(
図22A)。CB部位は超親水性であるため、市販の疎水性血小板保存バッグには付着しにくく、コポリマーには疎水性結合基(n-ブチルメタクリレート、BMA)(例えば20mol%)と感光性基(ベンゾフェノン)(例えば10mol%)が含まれている。ベンゾフェノン基は、250から365nmの紫外線照射下でジラジカルを生成し、脂肪族水素を引き抜き、共有結合を形成する化学結合を促進する光重合開始剤として広く用いられている。この結合基をコポリマーに導入するために、モノマーであるN-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)を合成し、他のモノマーと共重合して多機能コポリマーを形成した(
図22B)。機能性ユニットの存在は
1H NMRで確認し、特徴的なピークの積分値から各モノマーのユニットフラクションを求めた。CBユニットは3.82ppm(-CH
2-, 2H)、BMAユニットは1.45-1.63ppm (-CH
2-, 4H)、BPAAは6.80-7.85 ppm (ベンゾフェノン-H, 9H)であった。その結果、このポリマーは300から350nmの吸光スペクトル変動でUV光(312nm)に非常に敏感であり、光による共有結合が生じていることを示している(
図22C)。
【0178】
市販されている血小板バッグの改良は、本来のバッグの特性を損なうことなく、内側の表面のみを変更することである。この目標を達成するために、代表的なPCBポリマーを0.5wt%という極めて低い濃度で純水に溶かし、わずかに振ってバッグに注入することで、すべての表面がポリマーでコーティングされるようにした。紫外線透過性試験の結果、このバッグは、ベンゾフェノン基に最適な照射波長である312nmで70%の光透過性を示した(
図23A)。このように,外部から紫外線を照射することで、内表面に物理的に付着したポリマーを容易に安定化させることができる。この技術を用いたコポリマーのコーティングの厚さは通常50nm以下であるため、SEM画像では明らかな違いは見られなかった(
図23B)。興味深いことに、テクスチャー状の表面が見られ、この形態は加熱殺菌や血液処理の際に内部の表面がブロッキングするのを防ぐことができる。他の研究では、テクスチャー加工された表面は、平滑な表面に比べてはるかに深刻な生物付着が発生することが示されている。市販されている血小板バッグは、バッグ本来の機械的柔軟性とガス透過性を確保するために可塑剤を配合(最大40%)したPVCを主成分としている。したがって、PCBの安定性に対する可塑剤の溶出効果を低減するために、短時間(10秒)のエタノールによる表面の単純なリンスを適用した。
【0179】
米国食品医薬品局(FDA)は、血液や血液成分に接触する空容器には溶出の問題がないことを求めている。そこで、X線光電子分光法(XPS)を用いてPCBの安定性を確認し、この技術をより臨床応用に近いものにすることを目指した。結合エネルギー(BE)は、285eVのC 1sピークを基準にして補正した。XPSの結果、PCBでコーティングされた表面は、元のPCBポリマーと同じN 1sピークを持ち(
図23C及び23D)、血小板の全寿命期間をカバーできる2週間の緩衝液への浸漬後も、安定した原子組成が得られた(
図23E)。このように、商品化された血小板バッグの内表面にPCBを安定してグラフトすることに成功した。興味深いことに、調査スペクトルから2つのシリコンピーク(Si 2s及びSi 2p)が観察され、このバッグが付着物放出特性を持つ疎水性シリコンベースの材料で処理されたことを示している。この現象は、動的条件下で100%ヒト血清に対する付着をリアルタイムでモニターすることにより、さらに検証した(
図24A)。親水性は、PCBグラフト表面の重要な特性の1つである。乾燥状態での水接触角と、水性媒体中での空気接触角を測定した。すべての接触角は、写真画像から直接測定した。PCBコーティングされた表面の水接触角は90°から10°へと劇的に減少し、空気接触角は80°から160°へと大幅に増加した(
図23F)。このように、PCBコポリマーのグラフト化は、疎水性の表面を超親水性に変えた。
【0180】
移植され、血液と接触する医療用デバイスの表面に付着する生物付着は、何十年にもわたる研究にもかかわらず、依然として深刻な問題となっている。PCBでコーティングされた血小板バッグは、血小板の保存に使用される予定であり、最終的にはヒトの血液タンパク質や血小板と直接接触することになる。したがって、現在の設計戦略の臨床応用の可能性を評価するためには、生物付着の評価が不可欠である。タンパク質の吸着は、生体環境と接触する生体材料の表面で起こる主要な現象である。タンパク質は、動的な条件と静的な条件で異なる吸着挙動を示す可能性がある。そこで、PCBをコーティングした市販の血小板バッグと100%ヒト血清との接触を、表面プラズモン共鳴(SPR)とマイクロBCAタンパク質アッセイキットを用いて、動的条件と静的条件の両方で評価した。SPRは、ポリマー表面とタンパク質との相互作用をその場でリアルタイムに評価するために広く用いられており、検出限界は<0.3ng/cm
2である。SPRチップは,市販の血小板バッグ/THF溶液とPCBコポリマー/DI水溶液を連続してスピンコートした。乾燥状態で第1層(融解したPVCバッグ)と第2層(PCBポリマー)の厚さを測定したところ、18±1.2nmと20±2.1nmの値が得られた。
図24Aは、血清吸着に起因するSPR信号の変化を時間の関数として示したものである。溶解した血小板バッグをコーティングしたチップでは100%ヒ ト血清を流し続けている間に波長が上昇し、その後、安定した減少傾向を示していることから、XPSの結果より、シリコーン系の添加剤によって付着物放出挙動が引き起こされている可能性があることがわかった。血清を注入した時点でシグナルが急激に増加したのは、バルクの屈折率が変化したためであると考えられる。非特異的吸着の量は、タンパク質注入前から緩衝液での洗浄後までの波長シフトから評価した。PCBコーティングチップと非コーティングチップの波長シフトは、0.20nmと2.24nmで、それぞれ3.4ng及び38.1ng/cm
2の血清吸着量に対応した。この結果は、PCBコーティング表面が超低付着(<5.0ng/cm
2)能力を持ち、非コーティング表面と比較して、動的条件下で付着が10%未満であることを示しており、マイクロBCAタンパク質アッセイキットの結果と一致している(
図24B)。
【0181】
フィブロネクチンは、線維芽細胞をはじめとする多くの種類の細胞の接着に大きな役割を果たしている。したがって、NIH3T3線維芽細胞の接着は、PCBコーティングされた非付着表面では完全に阻害された(
図24C)。血小板の接着は、吸着したフィブリノーゲン/フィブリン、フォンウィルブランド因子(VWF)、フィブロネクチンなどに強く依存しており、10ng/cm
2フィブリノーゲンの吸着で本格的な血小板の接着が誘発される。PCB親水層を有する非付着表面は、付着と血小板の活性化から表面を効果的に保護することができる(
図24D)。PVCベースの材料は、バイオフィルムを形成するバクテリアとの結合親和性を示し、グラム陽性株である表皮ブドウ球菌は検出ミスで遅い成長速度を示すが、PCBコーティングされた表面はバクテリアの付着を完全に阻害した(
図24E及び24F)。興味深いことに、細菌はテクスチャー加工された表面の凹んだ部分で成長し、バイオフィルムを形成することを好んだ。
【0182】
血小板の活性化は、フィブリノーゲンの吸着による接着の後続反応と考えられてきたが、非血小板/タンパク質接着面が血小板の活性化を完全に防ぐわけではない。アネキシンVは、血小板のアポトーシスのマーカーであるホスファチジルセリンが細胞膜の外葉にあるときに結合する能力を持つことから、アポトーシス細胞の検出によく用いられる。したがって、アネキシンVの結合レベルが高いほど、細胞のアポトーシスが深刻であることを示している。PCBコーティングされた親水性バッグで保存された血小板は、コーティングされていないバッグで保存された血小板と比較して、アネキシンVの結合レベルが低いという結果が得られ、PCB表面が血小板の生存率を効果的に維持できることが示された(
図25A)。血小板は正常な状態では休息状態にあるが、血管損傷を受けると、血流速度の変化によるせん断応力とそれに続く細胞シグナル伝達現象により、不可逆的に血小板が活性化される。p-セレクチン(CD62)は糖タンパク質であり、血小板活性化のマーカーとしてよく知られている。血小板が活性化されると、p-セレクチンは細胞内の顆粒から外膜へと移動する。
図25Bは、PCBコーティングされたバッグでは、コントロールされた表面と比較して、血小板の活性化が非特異的な血小板-表面相互作用の低下により効果的に抑制されたことを示している。8日目のPCBコーティングバッグにおける血小板の活性化レベルは、5日目のコントロールサンプルと同程度である。しかしながら、血小板は冷蔵保存されたものに比べて代謝活性が非常に高く、PCBコーティングされたものでも活性度は着実に上昇する傾向にある。同時に、血小板の高い代謝活性と活性化は、グルコース消費量の増加(
図25G)、乳酸の蓄積(
図25H)を引き起こし、その結果、緩衝能力を超えるとpHが低下する(
図25F)。pHが6.2以下になると、輸血中の血小板の生存率が著しく低下す。PCBコーティングされたサンプルでは、グルコース消費及び乳酸蓄積は、コントロールサンプルと比較してpH値(6.8以上)に深刻な影響を与えなかった。形態スコア(MS)は、血小板の健全性の簡易指標として用いられ、4x(円盤%)+2x(球%)+(樹状突起%)と定義される。円盤の形態が健全な血小板の割合が多いほど、MS値は高くなる。PCBコーティングされたバッグに保存された血小板のMS値は、8日後でもはるかに高いMSを示している(
図25C)。VWFの血小板への結合は、血小板のGPIbαに結合するA1ドメインのコンフオメーションに依存しており、MFI(平均蛍光強度)が高いほど結合親和性が高いという相関関係にある。これは止血に対する血小板の機能の判定基準となる。その結果、PCBを塗布したサンプルの8日目のMFI(320)は、コントロールサンプルの5日目のMFI(300)よりも高いことがわかった(
図25D)。以上の血小板評価結果から、双性イオンを含むPCBコポリマーの表面は、非特異的な相互作用による血小板の病変を効果的に緩和することができることが示された。
【0183】
要約すると、1つの態様では、本発明は、表面コーティング材料として使用するための、超親水性カルボキシベタイン(CB)ユニット、疎水性n-ブチルメタクリレート(BMA)ユニット、及び感光性N-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)ユニットからなる多機能ランダム型両親媒性双性イオンコポリマーを提供する。このポリマーは、市販の疎水性血小板保存バッグに、超親水性と非付着性を、シンプルで効果的なディップコーティング法によって非侵襲的に付与することができる。PCBコポリマーでコーティングされた血小板バッグに保存されたヒト血小板は、現在の標準的な保存方法に比べて著しく改善された特性(例えば、より高い生存率、より低い活性化率、より高い形態スコア、及びより高いVWFへの結合親和性)を示した。このコーティング方法は、ディップコーティング法を用いて、シンプルかつ効果的に大規模な用途を提供する。この技術は、医療や工学分野での幅広い応用が期待でき、特にヒト血小板の保存期間を現行の標準的な方法よりも延長することができる。
【0184】
実施例4では、本発明の代表的な双性イオン/疎水性/光反応性コボリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0185】
双性イオンコポリマーコーティング組成物及び基材コーティング表面
本発明の別の態様では、コーティング組成物が提供される。コーティング組成物は、本明細書に記載の双性イオンコポリマー(例えば、式(I)、(II)、(III)、又は(IV)のコポリマー)を含む。双性イオンコポリマーに加えて、コーティング組成物は、コーティングされる表面に双性イオンコポリマーを送達するのに有効なキャリア又はビヒクルを任意に含む。代表的なキャリアには、適用されるべき双イオンコポリマーが可溶性である、有機溶媒、水性溶媒、及び有機溶媒と水性溶媒の混合溶媒などの溶媒が含まれる。本発明のコーティング組成物は、基材の表面にコーティングを施すのに有効である。
【0186】
光反応性基を含む双性イオンコポリマーを使用する実施形態では、コーティングはここに記載されているようなコポリマーに由来する。コポリマーを表面に固定化する工程では、表面にコーティングされたコポリマーに放射線を照射してコポリマーの架橋を行い、表面によってはコポリマーを表面に架橋させる。したがって、これらの実施形態については、コーティングは、架橋された双性イオンコポリマーと、表面によっては、表面にも架橋された双性イオンコポリマーを含む。
【0187】
更なる態様では、本発明は、本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(II)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物で被覆された表面(例えば、外部又は内部)の少なくとも一部又は全部を有する基材を提供するものである。
【0188】
適切な基材は、炭化水素系の表面を有している。適切な表面には、プラスチックの表面及びポリマーの表面が含まれる。代表的な表面としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSF)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリアミド、ポリアクリル、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)。ポリスチレン(PS)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PMDS)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(乳酸)(PLA)、及びポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)の表面が挙げられる。特定の実施形態では、表面は、ポリ塩化ビニル表面又はポリウレタン表面である。他の実施形態では、表面は、セルロース又はセルロースアセテートの表面である。
【0189】
その他の適切な表面としては、金属、金属合金、及びセラミックの表面がある。
【0190】
特定の実施形態では、本発明は、本発明のコポリマー又は本発明のコポリマーを含む組成物でコーティングされた表面の少なくとも一部又は全部を有する医療用デバイスを提供するものである。適切な医療用デバイスには、炭化水素ベースの表面である表面を有するデバイスが含まれる。代表的な表面としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン(PU)、ポリスルホン(PSF)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリアミド、ポリアクリル、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PMDS)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(乳酸)(PLA)、及びポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)の表面が挙げられる。特定の実施形態では、表面は、ポリ塩化ビニル表面又はポリウレタン表面である。他の実施形態では、表面は、セルロース又はセルロースアセテートの表面である。
【0191】
代表的なデバイスとしては、プレート、ディッシュ、チューブ、チップ、カテーテル、人工血管、人工心臓、人工肺などのデバイスがある。
【0192】
一実施形態では、本発明は、その内面の少なくとも一部又は全部が本発明の組成物又はコポリマーでコーティングされたポリ塩化ビニルチューブを提供する。
【0193】
別の実施形態では、本発明は、その内部表面の少なくとも一部又は全部が本発明の組成物又はコポリマーでコーティングされたポリウレタンチューブを提供する。
【0194】
更なる実施形態では、本発明は、その表面の少なくとも一部又は全部が本発明の組成物又はコポリマーでコーティングされたポリスルホン透析膜を提供する。
【0195】
別の実施形態では、本発明は、その内部表面の少なくとも一部又は全部が本発明の組成物又はコポリマーでコーティングされた炭化水素系膜容器を提供する。
【0196】
別の実施形態では、本発明は、本発明の組成物又はコポリマーでコーティングされたその内部表面の少なくとも一部又は全部を有する血小板保存バッグを提供するものである。
【0197】
本発明のコポリマー又は本発明のコポリマーを含む組成物で有利にコーティングされる少なくとも1つ以上の表面がある他の代表的なデバイスには、クラスI、クラスII、又はクラスIIIの移植/非移植医療用デバイスが含まれる。
【0198】
上述したように、本明細書に記載されている双性イオンコポリマーは、血液と接触する表面をコーティングして、それらの表面に様々な利点を付与するのに有用である。血液と接触する表面を含むデバイスの中には、血液透析装置のコンポーネントがある。本明細書に記載の双性イオンコポリマーで有利に処理される血液透析装置の構成要素には、透析膜(例えば、血液浄化膜)及び透析チューブ(例えば、ポリ塩化ビニル及びポリウレタンチューブ)が含まれる。双性イオンコポリマーで有利にコーティングされる膜の表面には、セルロース、セルロースアセテート、ポリ(スルホン)(PSF)、ポリ(エーテルスルホン)(PES)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PMDS)、ポリ(ビニリジェンフルオライド)(PVDF)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリウレタン(PU)、及びポリプロピレン(PP)が含まれる。
【0199】
双性イオンコポリマーの使用方法
更なる態様では、本発明は、本発明の双性イオンコポリマー(例えば、式(I)、(II)、(III)、又は(IV)のコポリマー)及びコポリマー組成物を使用する方法を提供する。
【0200】
一実施形態では、本発明は、基材の表面をコーティングする方法であって、基材の表面を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(II)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物と接触させる工程を含む方法を提供する。
【0201】
関連する実施形態では、本発明は、基材の表面を非付着性にコーティングする方法であって、基材の表面の少なくとも一部を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物でコーティングする工程と、基材の表面にコポリマーを架橋するのに有効な光を照射する工程とを含む方法を提供する。
【0202】
別の実施形態では、本発明は、基材の表面を非付着化する方法であって、基材の表面の少なくとも一部を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(II)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物でコーティングする工程を含む、方法を提供する。
【0203】
関連する実施形態では、本発明は、基材の表面を非付着化する方法であって、基材の表面の少なくとも一部を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物でコーティングする工程と、基材の表面にコポリマーを架橋するのに有効な光を照射する工程とを含む方法を提供するものである。
【0204】
更なる実施形態では、本発明は、基材の表面への血液タンパク質の吸着を阻害する方法であって、基材の表面の少なくとも一部を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(II)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物でコーティングする工程を含む方法を提供する。
【0205】
関連する実施形態では、本発明は、基材の表面への血液タンパク質の吸着を阻害する方法であって、基材の表面の少なくとも一部を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物でコーティングする工程と、基材の表面にコポリマーを架橋するのに有効な光を照射する工程を含む方法を提供する。
【0206】
別の実施形態では、本発明は、血小板保存バッグの内部表面をコーティングする方法であって、血小板保存バッグの内部表面を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物と接触させる工程と、血小板保存バッグの接触した内部表面に、表面上のコポリマーを架橋するのに有効な光を照射する工程とを含む方法を提供する。
【0207】
更なる実施形態では、本発明は、ポリ塩化ビニルチューブの内表面をコーティングする方法であって、血小板保存バッグの内表面を本発明のコポリマー(例えば、式(I)、(III)、又は(IV)のコポリマー)又は本発明のコポリマーを含む組成物と接触させる工程と、ポリ塩化ビニルチューブの接触した内表面に、コポリマーを上記表面上に架橋するのに有効な光を照射する工程とを含む方法を提供する。
【0208】
他の実施形態では、本発明は、基材の表面からの可塑剤の浸出を抑制又は防止する方法を提供する。これらの実施形態のあるものでは、方法は
(a) 基材の表面の少なくとも一部を、コポリマーを含む組成物でコーティングして、コーティングされた表面を提供する工程と、
(b) 表面のコポリマーを架橋するのに有効な光をコーティングされた表面に照射することにより、表面からの可塑剤の溶出を抑制又は防止するのに有効なコーティングされた表面を提供する工程と、
を有し、
上記コポリマーは、第1の繰り返しユニット及び第2の繰り返しユニットを含み、
上記第1の繰り返しユニットの各々は、ペンダント型双性イオン性基を含み、
上記第2の繰り返しユニットの各々は、表面上で上記コポリマーを架橋するのに有効なペンダント型光反応性基を含む。
【0209】
特定の実施形態では、コポリマーは、第3の繰り返しユニットをさらに含み、第3の繰り返しユニットの各々は、コポリマーを表面に吸着させるのに有効なペンダント型疎水性基を含む。双性イオンのコポリマーとしては、式(I)、(III)、(IV)のものが有用である。
【0210】
上記の実施形態のあるものでは、組成物を表面に接触させる工程は、コポリマー又は組成物に表面を浸すことを含む。これらの実施形態の他のものでは、組成物を表面に接触させる工程は、コポリマー又は組成物を表面にスプレーする、スピニングする、ブラッシングする、又はローリングする工程を含む。
【0211】
本発明の方法のある実施形態では、コポリマーもしくはコポリマー組成物で表面を接触させる工程、又はコポリマーもしくはコポリマー組成物で表面をコーティングする工程は、コポリマーもしくはコポリマー組成物に表面を浸漬する工程を含む。これらの実施形態の他のものでは、コポリマー又はコポリマー組成物で表面を接触させる工程、又はコポリマー又はコポリマー組成物で表面をコーティングする工程は、コポリマー又はコポリマー組成物を表面にスプレーする、スピニングする、ブラッシングする、又はローリングする工程を含む。
【0212】
本明細書では、「約」という用語は、指定された値の±5%を意味する。
【0213】
以下の実施例は、本発明を限定するものではなく、例示する目的で提供されている。
【実施例】
【0214】
実施例1
代表的な双性イオン/疎水性コポリマーの調製、特性評価、及び使用
本実施例では、本発明の代表的な双性イオン/疎水性コポリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0215】
材料
カルボキシベタインアクリルアミド, 1-カルボキ-N,N-シジメチル-N-(3'-アクリルアミドプロピル)エタナミニウム内塩(CB1)とカルボキシベタインメタクリレート, 2-カルボキシ-N,N-ジメチル-N-(2'-メタクリロイルオキシエチル)エタナミニウム内塩(CB2)は、それぞれ既報の方法に従って合成した。以下の材料や試薬、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ヒト血漿フィブリノーゲン(Fg)、ヒト血清アルブミン(HSA)、ヒト血液γ-グロブリン、酢酸ナトリウム(SA)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、1-デカンチオール、n-ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-エチル-N'-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、は,Sigma-Aldrich社(St.Louis, MO, USA)から入手し、精製することなく使用した。n-ブチルメタクリレート(BMA)は、東京化成工業株式会社(Portland, Oregon, USA)から購入した。ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合させた抗フィブリノーゲン抗体は、Novus Biologicals社(Littleton, CO, USA)から購入した。O-フェニレンジアミンニ塩酸塩(OPD)は、Pierce社(Rockford, Illinois, USA)から入手した。リン酸緩衝生理食塩水(10x、溶液)、過酸化水素(H2O2、水に30%)及び塩酸(HCl)は、Fisher Scientific社(Fair Lawn, NJ)から入手した。ヒトの正常血清(男女混合プール)はBioChemed Services社(Winchester, VA)から購入した。マイクロBCAタンパク質アッセイキットとRBSTM 35 Concentrateは、Thermo Scientific社(Waltham, MA)から購入した。超低付着面を持つマルチウェルプレートはCorning Costar社(Coming, NY)から購入した。エタノール(200プルーフ)は、Decon Labs社(King of Prussia, PA)から購入した。水は,Millipore社の浄水システムから入手したもので,最小抵抗値は18.0MΩcmであった。その他の有機試薬及び溶媒は,エクストラ-ピュア-グレードの試薬として市販されており、受け取ったままの状態で使用した。
【0216】
ポリマーの合成両親媒性のランダムコポリマーであるポリ(CB1-co-BMA)(PCB1)とポリ(CB2-co-BMA) (PCB2)は、AIBNを開始剤とする従来のフリーラジカル重合法で合成したが、同様の方法は以前にも報告されている(Lin, X.; Konno, T.; Ishihara, K., Cell-Membrane-Permeable and Cytocompatible Phospholipid Polymer Nanoprobes Conjugated with Molecular Beacons. Biomacromolecules 2014, 15 (1), 150-157; and Lin, X.; Fukazawa, K.; Ishihara, K., Photoinduced inhibition of DNA unwinding in vitro with water-soluble polymers containing both phosphorylcholine and photoreactive groups. Acta Biomater. 2016, 40, 226-234)。簡単に言うと、所望の量のCB モノマー、BMA(CB/BMAの様々なモル比:2/8、3/7、4/6、5/5、6/4、8/2)、及びAIBNをエタノールに溶解した。この溶液をPyrex(登録商標) VistaTMガラス管反応器に移し、さらに窒素ガスで30分間、室温でパージした。重合は、密閉されたガラス管内で、窒素ガスの保護雰囲気下で行った。重合後、反応液をエーテル/クロロホルムの混合溶媒にわずかに滴下し、コポリマーを析出させた。このコポリマーをろ過し、室温で24時間真空乾燥させた後、白色の粉末として回収した。回収した白色ポリマー粉末を多量のMillipore水で洗浄することにより、残留するCBモノマーを除去した。その後、コポリマーを再びろ過して液体窒素で凍結し、凍結乾燥機(Labconco Co., Ltd., Kansas City, MO)を用いて-80℃で48時間処理することで、乾燥した白色粉末に変換した。精製したコポリマーの化学構造を1H-NMR (AV-500,Bruker, German)を用いて確認し、ポリマーを-20℃下で凍結保存した。
【0217】
コーティング条件の最適化
ポリプロピレン(PP)基材(ePlastic, San Diego, CA, USA)を0.5cm x 0.5cmの大きさにカットし、エタノールで10分間超音波洗浄した後、室温で乾燥させた。両親媒性の異なるCBコポリマーを、それぞれ0.50wt%の濃度でエタノールに溶解した。各基材をポリマー溶液に10秒間浸漬した後、室温のエタノール蒸気保護環境下で大気圧下で溶媒を蒸発させた。すベての変性PP基材は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、1x、pH7.4)に室温で1時間浸した。その後、基材を純水ですすぎ、真空乾燥機において室温で24時間乾燥させた。コーティング効率に対するポリマー濃度の影響を調べるために、洗浄したPP基材に異なる濃度(0.03、0.06、0.13、0.25、0.5、1.00wt%)のCBコポリマーをコーティングして、更なる試験を行った。
【0218】
各コーティングの非付着性を迅速に評価するため、吸着した単一タンパク質(フィブリノーゲン)を酵素結合免疫吸着法(ELISA)で測定した。ポリマーコーティングしたPP基材をPBSで一晩あらかじめ湿らせた後、PBS中の1.0mg/mLのフィブリノーゲンに25℃で1時間浸した。新しいPBSでリンスした後、PP基材をHRPで結合した抗フィブリノーゲン抗体の溶液に室温で30分間浸した。その後、基材を再度洗浄し、さらに15分間、OPD/H2O2混合溶液と反応させた。混合溶液には、1.0mg/mlのOPDとクエン酸緩衝液(1x、pH5.02)で1000倍に希釈したH2O2を含めた。反応を1.0 NHClでクエンチした後、各溶液の492nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(BioTek Instruments Inc., Winooski, VT)で測定した。
【0219】
マルチウェルプレートとゴールドチップへの表面コーティング
オリジナルのポリスチレン製96ウェルプレートを、上述のディップコーティング溶媒蒸発法を用いてCBコポリマーで簡易に改質した。その抗付着性能を、超低付着面を持つ市販の96ウェルプレートと、コーティングされていないポリスチレン製96ウェルプレートの両方とで比較した。金チップは、BK7スライドガラスに電子ビーム蒸着装置を用いて第1チタン膜層(約2nm)と第2金膜層(約48nm)をコーティングしたものである。このチップをアセトン、純水、エタノールで各溶媒について5分間の超音波洗浄を行った。その後、UV/オゾンクリーナーで30分間処理し,0.2mMの1-デカネチオールに24時間浸漬して疎水性の自己組織化単分子膜を形成した。最後に、上記と同じ手順でチップにCBポリマーをディップコーティングした。コーティングされたポリマー層の厚さは、分光エリプソメーター(α-SE;ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社, 東京, 日本)を用いて乾燥条件下で測定した。
【0220】
単一タンパク質溶液と100%ヒト血清からのタンパク質吸着
CBランダムコポリマーコーティングの非付着性を、単一タンパク質とヒト全血血清の両方に対して総合的に試験した。10%濃度の単一血液タンパク質は、様々な表面上の生物付着を評価するための基準として頻繁に使用されている。したがって、100%の単一血液タンパク質及び100%のヒト血液血清に対する非付着性の評価は魅力的であり、血液接触デバイスにとって不可欠である。コーティングされた96ウェルプレートは、タンパク質の吸着をテストする前に、室温でDI水であらかじめ湿らせた。マイクロBCAタンパク質アッセイキットを用いて、ヒト血漿フィブリノーゲン(Fg)、ヒト血清アルブミン(HSA)、ヒト血液γ-グロブリン、及びヒト血清に対するタンパク質吸着量を評価した。Fg、HSA、γ-グロブリンの濃度はそれぞれ3.0、45、16mg/mLで、これはヒト血漿中の100%に相当する。正常なヒトの血清(100%、男女混合でプールしたもの)を受け取ったままで使用した。ヒトタンパク質(PBS(1x、pH7.4)に溶解)又は希釈していないヒト血清を、あらかじめ湿らせたウェル内で37℃で2時間インキュベートし、新しいPBS(1x、pH7.4)で洗浄した。吸着したタンパク質は、1.0wt%のn-ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液1.0mlで剥離した。澄み液150μLを96ウェルプレートに移し、さらに150μLのBCA(ビシンコニン酸)試薬を加えて静かに混合した。37℃で2時間インキュベートすると、アルカリ環境下でタンパク質がCu+2から還元された1個の第一銅イオン(Cu+1)と2分子のBCAがキレート結合することで、一般に紫色の生成物が形成される。最後に、マイクロプレートリーダーを用いて、562nmの吸光度を測定した。562nmの吸光度は、吸着したタンパク質の量の増加に伴って線形を示した。
【0221】
細胞の接着
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC, Rockville, MD)から入手したNIH3T3マウス胚性線維芽細胞を、ポリスチレン製組織培養皿(Φ=10cm、5.0 x 104 cells/mL)に播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、5.0%CO2を含む加湿雰囲気下、37℃で培養した。0.25%トリプシン/EDTAを用いて、サブコンフルエントな細胞を継代した。滅菌したCBポリマー溶液(0.5wt%、エタノール)を組織培養プレートの表面に滴下し、細胞培養フード内で蒸発させた。その後、コーティングされた表面をPBS(1x、pH7.4)でリンスし、DMEMで一晩室温であらかじめ湿らせた。NIH3T3細胞を5.0 x 104 cells/mLの濃度で、10%FBSを添加したDMEMを用いて、5.0%CO2を含む加湿環境下、37℃で部分的にコーティングしたディッシュに播種した。23日後、培地を交換し、Nikon Eclipse TE2000-U顕微鏡(Nikon Instruments, Melville, NY)を用いて、部分コートされた表面上の細胞の形態を観察した。
【0222】
表面機能化
表面機能化は、PCB2-37を塗布した96ウェルポリスチレンプレートに対して行った。表面修飾の手順は、ディップコーティングと溶媒蒸発法を用いることに関して、上で既に詳しく説明した。ポリマー表面のカルボキシル基は、EDC/NHS化学によって容易に活性化され、例えば、タンパク質、酵素、アプタマー/オリゴヌクレオチドのアミノ基と共有結合することができる。まず、0.1M NHSと0.4M EDCをDI水に溶かした新鮮な溶液を0.15mL、25℃で30分かけてコートした96ウェルプレートに加え、カルボキシレート基を活性化させた。次に、EDCとNHSの溶液を除去し、ウェルの表面を10mM SA緩衝液(pH5.0)で3回洗浄した。第3に、10mM TAPS (pH8.2)に溶解した0.15mL Fg溶液(1.0mg/mL)を活性化したウェルに加え、25℃で30分間反応させた。その後、機能化した表面をBA緩衝液(10mMホウ酸、300mM塩化ナトリウム、pH9.0)で3回洗浄し、さらにリン酸緩衝生理食塩水(PBS、1x、pH7.4)で洗浄した後、抗体と抗原の特異的相互作用を評価した。上記のタンパク質固定化プロセスと同時に、残存する活性化されたカルボキシル基も除去した。Fgで機能化された96-ウェルプレートを新鮮なPBSで3回穏やかに洗った。その後、PBS溶液にHRPを結合させた杭-フィブリノーゲン抗体0.15mLを各ウェルに加え、25℃で30分間反応させた。その後、再度ウェルを洗浄し、0.15 mLのOPD/H2O2溶液を用いてさらに15分間反応させた。0.15mLの1.0Nの塩酸水溶液を加えて発色反応を停止した。各溶液の492nmの吸光度を前述のマイクロプレートリーダーで測定した。比較のために、活性化されていないCBポリマーコーティングされた96ウェルプレートにFgを接触させたものと、活性化されたCBポリマー表面をHSAで機能化したものをコントロールとして利用した。
【0223】
統計解析
すべてのグラフと棒グラフは、上述のように3回又は5回の繰り返し実験の平均±標準偏差(SD)で表した。観察された差異が統計的に有意であるかどうかを判断するために、ステューデントt-検定を実行した。
【0224】
実施例2
代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び使用
本実施例では、本発明の代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0225】
材料
カルボキシベタインアクリルアミド, 1-カルボキシ-N,N-ジメチル-N-(3'-アクリルアミドプロピル)エタンアミン内塩(CBAA)は、既報の方法に従って合成した(Zhang, Z.; Vaisocherova, H.; Cheng, G.; Yang, W.; Xue, H.; Jiang, S., Nonfouling Behavior of Polycarboxybetaine-Grafted Surfaces: Structural and Environmental Effects. Biomacromolecules 2008, 9, 2686-2692)。以下の材料及び試薬、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1-デカンチオール、及びn-ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、Sigma-Aldrich社(St. Louis, MO)から入手し、精製せずに使用した。リン酸緩衝生理食塩水(10x、溶液)は、Fisher Scientific社(Fair Lawn, NJ)から入手した。正常ヒト血清(男女混合プール)は、BioChemed Services社(Winchester,VA)から購入した。マイクロBCAタンパク質アッセイキットとRBSTM35Concentrateは、Thermo Scientific社(Waltham, MA)から購入した。エタノール(200プルーフ)は、Decon Labs社(King of Prussia, PA)から購入した。水は、Millipore社の浄水システムから入手したもので、最小抵抗値は18.0MΩcmであった。その他の有機試薬及び溶媒は,エクストラ-ピュア-グレードの試薬として市販されており、受け取ったままの状態で使用した。
【0226】
ポリマーの合成と特徴評価
感光性モノマーであるN-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)は、塩化メタクリロイルと4-アミノべンゾフェノンを反応させて合成した。両親媒性PCBコポリマーであるポリ(CBAA-co-BPAA)は,AIBNを熱開始剤とする通常のフリーラジカル重合法で合成した(同様の方法は以前に報告されている。Lin, X.; Fukazawa, K.; Ishihara, K., Photoreactive Polymers Bearing a Zwitterionic Phosphorylcholine Group for Surface Modification of Biomaterials. ACS Applied Materials & Interfaces 2015, 7, 17489-17498)。簡単に言うと、所望の量のCBモノマーと開始剤をエタノールに溶解した。この溶液をPyrex Vistaガラス管反応器に移し、さらに窒素ガスで30分間、室温でパージした。重合は、密閉されたガラス管内で窒素ガスの保護雰囲気下で行った。重合後、反応液をエーテル/クロロホルムの混合貧溶媒に少しずつ滴下し、コポリマーを析出させた。このコポリマーをろ過し、室温で24時間真空乾燥させた後、白色の粉末として回収した。残留した水溶性モノマーは純水に対して4日間透析することで除去した。その後、液体窒素で凍結し、凍結乾燥機(Labconco Co., Ltd., Kansas City, MO)を用いて-80℃で48時間処理した。精製したコポリマーの化学構造を1HNMR (AV-500, Bruker, Germany)を用いて確認した後、ポリマーを-20℃で凍結保存した。UVライト(312 nm、600mJ/cm2)をポリマーに照射し、Varian Cary 5000 UV-Vis-NIR分光光度計を用いて光感度を評価した。
【0227】
表面改質
Streamline Airless System Set(Medisystems Corporation, MA)から入手した医療用PVCチューブを10cmの長さに切断した。PCBコポリマー溶液(0.5wt%、エタノール)をチューブに充填した後、チューブを密封し、10分間ローテーターにかけ、内表面全体をポリマー溶液に接触させた。その後、ポリマー溶液を除去し、コーティングしたチューブに室温で乾燥空気を吹き付けた。コーティングされたチューブに外部からUVライト(312nm、600mJ/cm2)を照射し、内部表面のポリマーを安定化させた。滅菌PBS(1x、pH7.4)を用いて不安定なポリマーを洗い流し、付着テストのためにヒト血清を加える前に表面をあらかじめ湿らせた。この溶液は,0.45μmのフィルターでろ過して滅菌した。
【0228】
表面の特性評価
各サンプルの表面の濡れ性は、水接触角を測定することで評価した。コーティングされていないPVCチューブとPCBコーティングされたPVCチューブの両方に蒸留水を加え、その後、水接触角を観察した。X線光電子分光法(XPS)は、Kratos AXIS UltraDLD分光器を用いて行った。サーベイスペクトルと原子は4種類のサンプル、(a)PCBコポリマー、(b)コーティングされていない市販のPVCチューブ、(c)PCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で1週間保管したもの、(d)PCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で3週間保管したもの、で分析した
【0229】
生物付着の評価
PCBコーティングされた市販のPVCチューブへの100%ヒト血清に対するヒト血液タンパク質の吸着を、マイクロBCAタンパク質アッセイキットを用いて評価した。正常なヒト血清(100%、男女混合プール)を受け取ったままで使用した。PCBコーティング及び非コーティングのPVCチューブ(長さ10cm)に100%のヒト血清を充填し、37℃で2時間インキュベートした後、チューブを新鮮なPBS(1x、pH7.4)で洗浄した。吸着したタンパク質を1.0wt%のn-ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液で剥離した。上澄み液150μLを96ウェルプレートに移し、さらに150μLのBCA試薬を加えて穏やかに混合した。37℃で2時間インキュベートすると、アルカリ環境下でタンパク質がCu+2から還元された1個の第一銅イオン(Cu+1)と2分子のBCAがキレート結合することで、一般に紫色の反応生成物が形成される。最後に、マイクロプレートリーダーを用いて、562nmの吸光度を測定した。562nmの吸光度は、吸着したタンパク質の量の増加に伴って線形を示した。
【0230】
実施例3
プラスチック表面からの可塑剤溶出を防止する代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び使用
この実施例では、プラスチック表面からの可塑剤の溶出を防ぐための、本発明の代表的な双性イオン/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0231】
材料
カルボキシベタインアクリルアミド, 1-カルボキシ-N,N-ジメチル-N-(3'-アクリルアミドプロピル)エタンアミニウム内塩(CBAA)を実施例2に記載したように合成した。以下の材料及び試薬、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)及び1-デカンチオール、n-ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート(PEGMA)(平均Mn360)は、Sigma-Aldrich社(St. Louis, MO, USA)から入手し、さらに精製することなく使用した。ナイルブルー(NB)アクリルアミドは、Polysciences社(Warrington, PA, USA)から購入した。正常ヒト血清(100パーセント、男女混合プール)は、BioChemed Services社(Winchester, VA, USA)から購入した。マイクロBCAタンパク質アッセイキットとRBS 35 concentrate は、Thermo Scientific 社(Waltham, MA, USA)から購入した。リン酸緩衝生理食塩水(10x、溶液)は、Fisher Scientific社(Fair Lawn, NJ, USA)から入手した。正常ヒト血清(男女混合プール)は,BioChemed Services社(Winchester, VA, USA)から購入した。マイクロBCAタンパク質アッセイキット及びRBSTM 35 Concentrate は Thermo Scientific社(Waltham, MA, USA)から購入した。エタノール(200プルーフ)は、Decon Labs社(King of Prussia, PA, USA)から購入した。水は,Millipore社の浄水システムから入手したもので,最小抵抗値は18.0MΩcmであった。その他の有機試薬及び溶媒は、エクストラ-ピュア-グレードの試薬として市販されており、受け取ったまま使用した。
【0232】
ポリマーの合成と特徴評価
感光性モノマーであるN-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)は,塩化アクリロイルと4-アミノべンゾフェノンの反応により合成した。両親媒性のPCBコポリマーであるポリ(CBAA-co-BPAA)は,AIBNを熱開始剤として用いた従来のフリーラジカル重合法で合成し,実施例2に記載したように特性を調べた。
【0233】
表面改質
Streamline Airless System Set(Medisystems Corporation, MA, USA)から入手した医療用PVCチューブを15cmの長さに切断した。PCBコポリマー溶液(0.5wt%)をチューブに充填した後、チューブを密封し、10分間ローテーターにかけ、内表面全体をポリマー溶液に接触させた。その後、ポリマー溶液を除去し、コーティングしたチューブに室温で乾燥空気を吹き付けた。コーティングされたチューブに外部からUVライト(312nm、600mJ/cm2)を照射し、内部表面のポリマーを安定化させた。滅菌済みPBS (1x、pH7.4)を用いて、物理的に吸着したポリマーを洗い流し、その後の試験のためにヒト血清を加える前に表面をあらかじめ湿らせた。PCBポリマーが血小板の質に及ぼす影響を評価するために、可塑化PVC製の市販の血小板バッグ(Teruflex, 150 mL, テルモ株式会社, 東京, 日本)を上記の方法に従ってコーティングした。この溶液を0.45μmのフィルターでろ過して滅菌した。コーティングの安定性を評価するために、ナイルブルーで標識されたPCBポリマー(PCB-NB)を、上記の方法に従ってPVCチューブにコーティングした。チューブに滅菌したPBS(1x、pH7.4)を充填し、37℃で所望の期間インキュベートした。UV-Vis-NIR分光光度計及び蛍光分光光度計を用いて、溶液のUV/vis吸収スペクトル(250-800nm)及び蛍光スペクトル(励起: 590nm、200-900nm)を得た。
【0234】
SPRチップは、アセトン、純水、エタノールで5分間ずつ順次超音波洗浄した。その後、UV/オゾン洗浄機で30分間洗浄し、0.2mMの1-デカネチオールに24時間浸漬して疎水性の自己組織化単分子膜を形成した。市販のPVCチューブとPCBポリマーは、それぞれテトラヒドロフラン(THF)とDI水に溶解した。SPRチップには、これら2つの溶液を順次スピンコートしていった。コーティングされたチップの表面にUV光(312nm、600mJ/cm2)を照射した。コーティングされたポリマー層の厚さは、分光エリプソメーター(α-SE; ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社, 東京, 日本)を用いて乾燥条件下で測定した。
【0235】
表面の特性評価
各サンプルの表面の濡れ性は,水接触角を測定することで評価した。コーティングされていないPVCチューブとPCBコーティングされたPVCチューブの両方に蒸留水を加えた後、10秒以内の水接触角を写真画像の分析によって観察した。各サンプルについて、5回の測定を行った。X線光電子分光法(XPS)は、Kratos AXIS Ultra DLD分光器を用いて行った。4つのサンプル、(1)PCBコポリマー、(2)コーティングされていない市販のPVCチューブ、(3)PCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で1週間保管したもの、(4)PCBコーティングされた市販のPVCチューブを乾燥状態で3週間保管したもの、について、サーベイスペクトルと原子組成を分析した。結合エネルギー(BE)は、285eVのC 1sピークを基準に補正した。表面分析のために、XPSサーベイスペクトル、C 1s,O 1s及びN 1sの高分解能スペクトル、及び原子組成を取得した。
【0236】
生物付着の評価
PCBコーティングされた市販のPVCチューブへの100%ヒト血清に対するヒト血液タンパク質の吸着を、マイクロBCAタンパク質アッセイキット及び表面プラズモン共鳴(SPR)をそれぞれ使用して、静的条件及び動的条件の両方で評価した。PCBコーティング及び非コーティングのPVCチューブ(長さ10cm)に100%ヒト血清を充填し、37℃で2時間インキュベートした後、チューブを新鮮なPBS(1x、pH7.4)で洗浄した。吸着したタンパク質を1.0wt%のn-ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液で剥離した。上澄み液をビシンコニン酸(BCA)試薬と静かに混合した。マイクロプレートリーダー(BioTek Instruments Inc., Winooski, VT, USA)を用いて、562nmの吸光度を測定した。SPRを用いて、動的条件下でのヒト血液タンパク質の吸着量を算出した。SPRは、ポリマー表面とタンパク質溶液との相互作用をリアルタイムでモニターするために、4つの独立した流路、温度制御、強度安定化装置、及び液体サンプルを供給するためのペリスターポンプを備えていた。コーティングされたSPRチップは、PBS(1x、pH7.4)であらかじめ湿らせておいた。その後、25℃で以下の溶液、(a) PBS溶液(1x、pH7.4)を10分、(b)希釈していない正常ヒト血清を10分、(c)PBS溶液(1x、pH7.4)を10分、それぞれ4種類の流速(10、40、100、200μL/min)で順に流して、PCBコーティングされたSPRチップの表面へのタンパク質の吸着挙動をモニターした。異なる溶液を流しながら750nmのデータを収集し、表面へのタンパク質の吸着による波長の変化を測定することで、付着の量を定量的に評価した。
【0237】
ポリマー細胞毒性
ISO 10993-5のガイドラインに基づいて、PCBポリマーの細胞毒性を確認した。簡単に説明すると、成長の早い細胞株であるNIH3T3マウス胚性線維芽細胞を12ウェルプレートに播種し、24時間でサブコンフルエントな培養状態になるようにした。溶出サンプルとして、コーティングされたPVCチューブとコーティングされていないPVCチューブを同じ形状で0.2gにカットし、細胞培養液を入れたプレートの2つの別々のTCPSウェルに入れ、37℃で24時間インキュベートした。通常の培地で培養したTCPSプレートのブランクウェルをネガティブコントロールとし、ラテックスの小片(ピペットバルブから切り取り、70%エタノールで滅菌したもの)をポジティブコントロールとした。材料サンプルから抽出した培地を、試験する各材料の三重サンプルのそれぞれのサブコンフルエントな細胞の1つのウェルに移した。37℃でさらに48時間培養し、24時間後と48時間後に取り出して顕微鏡検査を行った。ネガティブコントロール細胞と比較して、正常な形態からの変化によって示される、目に見える毒性の兆候について細胞を観察した。ISO 10993-5で作成されたガイドラインを用いて、0から4までの反応性グレードで評価した。PCBポリマーを異なる濃度(0.00125、0.0025、0.01、0.1mg/mL)で細胞培養液に溶解し、NIH3T3細胞を入れたTCPSウェルに移し、37℃で48時間追加培養した。前述と同様の検査プロトコールを行った。また、合成PCBポリマーの細胞毒性に対応する細胞質酵素の乳酸脱水素酵素(LDH)の放出量を、乳酸脱水素酵素活性測定キット(Sigma-Aldrich, St.Louis, MO, USA)を用いて測定した。
【0238】
可塑剤の溶出
PCBコーティングしたものとコーティングしていないPVCチューブ(長さ15cm)の両方にPBS溶液(1x、pH7.4)を入れ、37℃で24時間培養した。4、12、24時間後の時点でチューブ内の溶液を取り出した。UV-Vis-NIR分光光度計を用いて、UV/vis吸収スペクトル(200-800nm)を得た。275nmの波長における吸収値を、コーティングされたPVCチューブとコーティングされていないPVCチューブで比較した。
【0239】
血小板の質
PCBポリマーの血小板の質への影響は、可塑性PVCで作られた市販のフレキシブル血小板バッグ(Teruflex,150 mL, テルモ株式会社, 東京, 日本)を用いて総合的に評価した。市販の血小板バッグには、上記のプロトコールと同様の簡単なディップコーティング法を用いてPCBポリマーをコーティングした。PCBコーティングしたバッグとコーティングしていない市販のバッグに、それぞれ同量(30mL)の新鮮な血小板溶液を加えた。すべての実験はベンチトップで行い、サンプルはインキュベーター(5%CO2、25℃)内のオービタルシェーカー(15rpm)で保存した。アネキシンVとp-セレクチンの発現、血小板の形態スコア、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)との血小板結合能を評価した。
【0240】
補体活性化
補体活性化は、対応するヒト用ELISAキット(Quidel, San Diego, USA)を用いて、sC5b-9に基づいて測定した。コーティングしたPVCチューブ(長さ15cm)に活性化していないヒト血清を入れ、テープで密封した後、37℃でわずかに回転させながらインキュベートした。所定の培養時間(90分)後、培養した血清を取り出し、サプライヤーから提供されたサンプルバッファーで希釈し、sC5b-9に対する抗体をプレコートした96ウェルプレートに塗布した。その他の手順は、サプライヤーのプロトコールに厳密に従った。sC5b-9の濃度は、マイクロプレートリーダー(BioTek Instruments Inc., Winooski, VT, USA)を用いて発色基質の吸収(450nm)として測定した。両親媒性のコポリマーであるポリ(PEGMA-co-BPAA)(PPB)は、PCBと同じ重合精製方法で調製した。PPBでコーティングした市販のPVCチューブをポジティブコントロールサンプルとして使用した。
【0241】
統計解析
すべてのグラフと棒グラフは、上述のように3回又は5回の繰り返し実験の平均±標準偏差(SD)で表した。観察された差異が統計的に有意であるかどうかを判断するために、ステューデントt-検定を行った。
【0242】
実施例4
代表的な双性イオン/疎水性/光反応性コポリマーの調製、特性評価、及び利用
本実施例では、本発明の代表的な双性イオン/疎水性/光反応性コボリマーの調製、特性評価、及び使用について説明する。
【0243】
ポリマーの合成と特徴評価
共有結合基として、感光性モノマーであるN-(4-ベンゾイルフェニル)アクリルアミド(BPAA)を合成した。両親媒性のPCBコポリマーであるポリ(CBAA-co-BMA-co-BPAA)は、AIBNを開始剤として用いた従来のフリーラジカル重合法によって合成した。簡単に言うと、所望の量のCBモノマーと開始剤をエタノールに溶解した。この溶液をPyrex Vistaガラス管反応器に移し、さらに窒素ガスで30分間、室温でパージした。重合は、密閉されたガラス管内で窒素ガスの保護雰囲気下で行った。重合後、反応液をエーテル/クロロホルムの混合溶媒にわずかに滴下し、コポリマーを析出させた。このコポリマーをろ過し、室温で24時間真空乾燥させた後、白色の粉末として回収した。残留した水溶性モノマーは、純水を用いた4日間の透析で除去した。その後、液体窒素で凍結し、凍結乾燥機(Labconco Co., Ltd., Kansas City, MO)を用いて-80℃で48 時間処理した。1H NMR (AV-500, Bruker, Germany)を用いて精製したコポリマーの化学構造を確認した後、ポリマーを-20℃で凍結保存した。UVライト(312nm、600mJ/cm2)をポリマーに照射し、Varian Cary 5000 UV-Vis-NIR 分光光度計を用いて光感度を評価した。
【0244】
表面改質
市販の血小板バッグ(Teruflex, 150 mL, テルモ株式会社, 東京, 日本)を10mLのエタノールで10秒間洗浄し、室温で乾燥空気を吹き付けた。続いて,PCBポリマー水溶液(0.5wt%、DI水)20mLをバッグ内に注入し、バッグを血小板保存用シェーカーに10分間かけてバッグの内面全体にポリマー溶液を接触させた。その後、ポリマー溶液をシリンジで除去し、コーティングしたバッグを室温で一晩乾燥空気を吹き付けた。UVライト(312nm、600mJ/cm2)をコーティングバッグの各面に照射し、表面のポリマーを安定化させた。滅菌済みPBS(1x、pH7.4)を用いて不安定なポリマーを洗い流し、ヒト血小板溶液を加える前に表面をあらかじめ湿らせた。この溶液は、0.45μmのフィルターでろ過して滅菌した。同様のディップコート法を用いて、市販の血小板バッグの小片(1cm x 1cm)にコーティングした。SPRチップは、BK7スライドガラスに、電子ビームエバポレーターを用いて第1チタン膜層(約2nm)と第2金膜層(約48nm)をコーティングしたものを用いた。このチップを、アセトン、DI水、エタノールを用いて、それぞれの溶媒で5分間超音波洗浄した。その後、UV/オゾンクリーナーで30分間処理し,02mMの1-デカネチオールに24時間浸漬して、疎水性の自己組織化単分子膜を形成した。市販の板状バッグをカットしてTHF溶液に溶かし、0.5wt%とした。市販の板状バッグ/THF溶液、PCBコポリマー/DI水溶液を用いて、チップを順次スピンコートした。コーティングされたチップの表面にUV光(312nm、600mJ/cm2)を照射した。コーティングされたポリマー層の厚さは、分光エリプソメーター(α-SE; ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社, 東京, 日本)を用いて乾燥条件下で測定した。
【0245】
表面の特性評価
各サンプルの表面の濡れ性は、静的接触角ゴニオメーターを用いて水と空気の接触角を測定することで評価した。蒸留水の液滴を基材表面に付着させ、10秒以内の水接触角を写真画像の解析により測定した。空気接触角の測定では、測定前にすベての試料を蒸留水に1.0時間浸した。試料は特注のホルダーに固定し、ガラス容器内の蒸留水に浸した。測定面に接触している各サンプルの下に、U字型の針を使って気泡を導入した。各サンプルについて、5つの異なるポイントを測定した。Kratos AXIS Ultra DLD spectrometerを用いて、5種類のサンプル、(1)PCBコポリマー、(2)市販の血小板バッグ、(3)市販の血小板バッグをエタノールでリンスしたもの、(4)PCBをコーティングした市販の血小板バッグ、(5)PCBをコーティングした市販の血小板バッグを緩衝液に浸したもの、についてXPS分析を行った。XPSのサーベイスペクトル、C 1s、O 1s及びN 1sの高分解能スペクトル、及び原子組成を記録し、表面分析を行った。また、携帯型酸素計を用いてコーティングされたバッグのO2透過性を調べた。
【0246】
ヒト血液タンパク質の吸着
マイクロBCAタンパク質アッセイキットと表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、100%ヒト血清に対するPCBコーティングされた市販の血小板バッグへのヒト血液タンパク質の吸着を、静的条件と動的条件の両方で評価した。ヒトの正常血清(100%、男女混合プール)を使用した。PCBを塗布した市販の血小板バッグの小片(1cm x 1cm)を血清とともに37℃で2時間インキュベートし、その後、新鮮なPBS(1x、pH7.4)で洗浄した。吸着したタンパク質は、1.0wt%のn-ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液1.0mlで剥離した。その上澄み液150μLを96-ウェルプレートに移し、さらに150μLのBCA(ビシンコニン酸)試薬を加えて穏やかに混合した。37℃で2時間インキュベートすると、アルカリ環境下でタンパク質がCu+2から還元された1個の第一銅イオン(Cu+1)と2分子のBCAがキレート結合することで、一般に紫色の反応生成物が形成される。最後に、マイクロプレートリーダーを用いて、562 nmの吸光度を測定した。562nmの吸光度は、吸着したタンパク質の量の増加に伴って線形を示した。SPRを用いて、動的条件下でのヒト血液タンパク質の吸着を記録した。SPRは、ポリマー表面とタンパク質の相互作用をリアルタイムでモニターするために,4つの独立した流路、温度調節器、強度安定装置、液体サンプルを供給するためのペリスターポンプを備えている。コーティングされたSPRチップは、PBS(1x、pH7.4)であらかじめ湿らせておいた。液体が流れる場所は,測定前にPBS(1x)、H2O、HCl(0.1N)、PBS(1x、pH7.4)の各溶液で十分に洗浄した。その後、25℃で以下の溶液、(a) PBS溶液(1x、pH7.4)、10分、40μL/min、(b)原液のヒト血清、10分、40μL/min、(c)PBS溶液(1x、pH7.4)、10分、40μL/minを流して、PCB-コートされたSPRチップ表面のタンパク質の吸着挙動をモニターした。異なる溶液を流しながら、750nmの波長を記録した。タンパク質吸着前後の750nmの波長の変化を測定することで、付着量を定量化した。
【0247】
細胞の接着
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC, Rockville, MD, USA)から入手したNIH3T3マウス胚性線維芽細胞をポリスチレン製組織培養皿(Φ=10cm、5.0 x 104 cells/ml)に播種し、10%FBSを添加したダルべッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、5.0%CO2を含む加湿雰囲気下で、37℃で培養した。サブコンフルエントになった細胞を0.25%トリプシン/EDTAで継代した。滅菌したCBポリマー溶液(0.5wt%、エタノール)を組織培養プレートの表面に滴下し、細胞培養フード内で蒸発させた。その後、UV照射(312nm、600mJ/cm2)して表面を安定させ、PBS(1x、pH7.4)でリンスした。NIH3T3細胞を10%FBS添加DMEMに5.0 x 104 cells/mLの濃度で播種し、37℃で5.0%CO2を含む加湿環境下で培養した。3日間の培養後、培地を交換し、Nikon Eclipse TE2000-U顕微鏡(Nikon Instruments, Melville, NY)を用いて、部分的にコーティングされた表面上の細胞の形態を観察した。
【0248】
ヒト血小板の接着
新鮮なヒト血小板をBloodworks Northwest社(Seattle, WA)から提供日に受け取った。500μLの血小板豊富血漿(PRP)を24ウェルプレート内のサンプル上に播種し、37℃で45分間インキュベートした。その後、滅菌した生理食塩水(NS)でサンプルを洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド溶液を用いて25℃で4時間固定した。顕微鏡(Nikon Eclipse TE2000-U)と走査型電子顕微鏡(SNE-3200M, SEC, Korea)を用いて、試料の表面を観察した。
【0249】
バクテリア接着テスト
グラム陽性株のStaphylococcus epidermidisとグラム陰性株のPseudomonas aeruginosaをそれぞれトリプティカーゼソイブロス(TSB)中で、37℃で12時間、200rpmで振盪しながら培養した。懸濁した培養液を希釈し、さらにTSBで2時間培養して指数関数的な成長期に達した。2回目の培養で600nmの光学濃度が1.0に達した時点で、細菌を8000rpmで遠心分離し、滅菌済みPBS(1x、pH7.4)に約1x108 CFU/mLの濃度で再懸濁した。その後、指数関数的に増殖した細菌を24ウェルプレートのサンプル上に配置し、37℃で24時間培養した。その後、サンプルを滅菌したPBSで穏やかに洗浄し、付着していない細菌を除去した後、50nM SYTO9 (緑色蛍光核酸染色)で染色した。結果は、Nikon Eclipse TE2000-U顕微鏡で直接観察した。
【0250】
血小板の特性評価
新鮮なヒト血小板をBloodworks Northwest (Seattle, WA)から提供日に受け取った。カスタムフィコールプログラムを用いて白血球除去輸血製剤を希釈し、血小板を(2.0-4.3) X 108 cells/mLの濃度で指定のバッグ(Teruflex, テルモ株式会社, 東京, 日本)に取り出した。保存されているすべての血小板コレクションは、Bloodworks NW社から報告された血小板濃度、総血小板数、保存量に関する製造業者のガイドラインを満たしていた。血小板数は血液分析器(ABX Diagnostics, Irvine, CA)を用いて行った。すベての実験はベンチトップで行い、サンプルはインキュベーター(5%CO2、25℃)内のオービタルシェーカー(15rpm)で保存した。同量(30mL)の新鮮な血小板溶液を、室温で撹拌しながら、PCBコーティング及び非コーティングの市販バッグ(Teruflex,150 mL, テルモ株式会社, 東京, 日本)に加えた。ここで、アネキシンV及びp-セレクチンの発現、血小板溶液のpH、グルコース及び乳酸値、血小板形態スコア、及び血小板とフォン・ヴィレブランド因子(VWF)との結合能をそれぞれ評価した。
【0251】
アネキシンV
血小板は、異なる培養期間(1、6、24、48、120、144、168、192、216時間)後に採取し、5.0 x 106 cells/mLの濃度のPBS(1x、pH7.4)溶液で、300gで8分間洗浄した。上清を捨てた後、血小板を2.0mLの結合緩衝液(アネキシンV結合緩衝液、10x濃縮、BD PharmingenTM Becton. Dickinson and Company, NJ)で再構成し、穏やかに混合した。その後、100μLを5.0 mL培養ポリスチレン製フローサイトメトリーチューブ(FalconTM, Thermo Fischer Scientific)に移し、1.0μLのFITCアネキシンVアポトーシス検出キットI(BD Biosciences, 励起/発行: 496/578 nm)で染色した。細胞は室温、暗所で20分間インキュベートした。サンプルはインキュベーション後、FACScanフローサイトメーター(Becton-Dickinson, San Jose, CA)で分析し、アネキシンVの結合レベルを検出した。コーティングされていないバッグに保存された血小板をコントロールサンプルとして使用した。
【0252】
p-セレクチン(CD62)
上記と同じ培養期間後に血小板を採取し、PBS(1x、pH7.2)、0.2%ウシ胎児血清、0.09%アジ化ナトリウムを含む水性緩衝液に5.0 x 106 cells/mLで再懸濁した。続いて、300gで8分間の遠心分離を行った。上清を捨てた後、ボルテックスミキサーで穏やかにホモジナイズしながら、終濃度1:100のモノクローナルマウス抗ヒト抗体(FITCマウス抗ヒトCD62P、励起/蛍光: 494/520m)を1.0μLで血小板を染色した。その後、細胞を室温で30分間、暗所でインキュベートした。インキュベーション後、サンプルをFACSCANで分析した。コントロールサンプルとして、コーティングされていないバッグに保存された血小板を使用した。
【0253】
形態スコア
最も健康な血小板は円盤状の形状をしており、最大スコアは400 (100%円盤状の形態を意味する)であるが、新鮮なドナーの血小板では380前後のスコアが一般的である。形態スコアは、形状から血小板の健康状態を予測するためによく用いられ、次のように定義される。
M = 4 x (円盤%)+ 2 x (球%)+1x (樹状突起%)
【0254】
VWF結合親和性のMFI
糖タンパク質Ib-alpha (BPIb-alpha)の発現(抗CD42b蛍光色素; Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いた。VWFの血小板への結合は、Alexa Fluor 488標識ポリクローナル抗VWF抗体を用いて測定した。血小板は、0.9%NaClを含む10 mM HEPESバッファー(pH7.4)に1.0mM MgSO4を加え、室温で15分間インキュベートした。新鮮な血小板の状態を100%とした場合の抗VWFシグナルのMFI(メディウム(medium)蛍光強度)を収集した。
【0255】
グルコース及び乳酸値
血液ガス分析装置(ABL 800, Radiometer, Copenhagen, Denmark)を用いて、1日目、3日目、5日目、7日目に電気化学信号を介してグルコース(mmol/L)と乳酸(mmol/L)を測定した。グルコースの測定では、血漿中のグルコース濃度を測定し、エネルギー供給の指標とした。乳酸測定では、血漿中の乳酸濃度を測定し、組織の酸素需要と供給の不均衡の指標とした。ここでは、電圧計を用いて電極鎖の電位を記録し、ネルンスト方程式を用いて試料の濃度と関連付ける。電極の信号は0.982-秒の間隔で登録され、測定と校正が行われる。グルコースや乳酸に選択性のある膜を用いたアンぺロメトリック法を採用している。
【0256】
例示的な実施形態を図示して説明してきたが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、そこに様々な変更を加えることができることが理解されるであろう。
本発明の実施形態のうち、排他的性質又は特権を主張するものを特許請求の範囲において定義する。