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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】高リスク骨髄異形成症候群の治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20250324BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250324BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250324BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P43/00 121
A61P43/00 105
A61P35/02
A61K31/52
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021565641
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2020047149
(87)【国際公開番号】W WO2021125261
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019228026
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515070125
【氏名又は名称】一般社団法人東京血液疾患研究所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】緒方 清行
(72)【発明者】
【氏名】山元 由美
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0204339(US,A1)
【文献】特表2011-520880(JP,A)
【文献】特表2013-526525(JP,A)
【文献】Blood, The Journal of the American Society of Hematology,2019年,133.10,1086-1095
【文献】久松理一,6-チオプリン/アザチオプリン,薬局,2016年,Vol.67/No.6,P.27-31,https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02706405
【文献】PILORGE S. et al.,The autommune manifestations associated with myelodysplastic syndrome respond to 5-azacytidine: a re,British Journal of Haematology,2011年,Vol.153/No.5,P.664-665
【文献】WESNER N. et al.,Inflammatory disorders associated with trisomy 8-myelodysplastic syndromes: French retrospective cas,Eur. J. Haematol.,2019年,Vol.102,P.63-69
【文献】押見和夫ほか,MDSにおける化学療法および分化誘導療法,医学のあゆみ,1991年,Vol.158/No.11,P.729-731
【文献】MIZOROGI F. et al.,Oral administration of cytarabine ocfosfate and 6-mercaptopurine in elderly patients at high risk fo,Jikeikai Med. J.,1998年,Vol.45/No.3,P.57-66
【文献】吉田篤史; 遠藤豊; 上野文昭,Trisomy8 を伴った骨髄異形成症候群に合併した小腸潰瘍,日本消化器内視鏡学会雑誌,2015年,57.2,170-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/706
A61P 43/00
A61P 35/02
A61K 31/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アザシチジンと、チオプリンとを組み合わせて投与することを特徴とする、骨髄異形成症候群の治療用医薬であって、
前記チオプリンが、メルカプトプリンである、前記医薬
【請求項2】
アザシチジンが1日あたり50~100 mg/m2(体表面積)の用量で皮下又は静脈内投与され、チオプリンが、メルカプトプリン水和物として、1日あたり0.5~2 mg/kg(体重)で経口投与、あるいは1日あたり2~20 mg/m2(体表面積)に匹敵する用量で皮下又は静脈内投与されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
アザシチジン及びチオプリンが、少なくとも5~10日間連日投与されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
少なくとも14日間の休薬期間を置いて、3セット以上連続して使用されることを特徴とする、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
アザシチジンとチオプリンが別個に製剤化されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項6】
アザシチジンを有効成分とする医薬組成物とチオプリンを有効成分とする医薬組成物とが1つの包装内にセットになっている、請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
アザシチジンとチオプリンを有効成分として含む固定用量配合薬である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
アザシチジンとチオプリンを有効成分とする注射用製剤である、請求項6または7のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項9】
アザシチジン単独療法に不応答の骨髄異形成症候群患者に投与されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、日本特許出願2019-228026(2019年12月18日出願)に基づく優先権を主張しており、この内容は本明細書に参照として取り込まれる。
[技術分野]
本発明は、アザシチジンとチオプリンを併用することを特徴とする骨髄異形成症候群等の新規な治療に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes [MDS])は腫瘍化した造血細胞が骨髄中で増殖する、造血器悪性腫瘍の一つである。高齢者に好発し、発症年齢の中央値は70歳前後である。MDSの骨髄では、造血細胞が形態異常(異形成)を示すことに加え、骨髄芽球が様々な比率(5-19%)で存在する。MDSは芽球比率や異形成の程度でいくつかの病型に分類されている。MDSは血球減少による症状(貧血、好中球減少による感染、血小板減少による出血)を呈することに加え、経過中しばしば骨髄や末梢血で骨髄芽球が20%を超え、急性骨髄性白血病の状態へ移行する。そして、これらによって重篤な病態を引き起こす予後不良の疾患である。
【0003】
骨髄芽球比率の増加は病気の進行を表し、進行期MDSとも言われる。進行期MDSに対してはキロサイドなどの抗白血病化学療法剤が効果を示さず、アザシチジン(商品名:ビダーザ)が唯一有効とされている。アザシチジンは骨髄芽球が増加した症例の約半数に一定の効果を示し、現状では進行期MDSにおいて生存期間を延長することができる唯一の薬剤と言われている(引用文献1及び2)。しかしながら、アザシチジンが効果を示した場合も、効果の持続は一年前後のことが多い。さらに、アザシチジンが無効となった場合の余命は4~6ヶ月程度であり、これを改善する治療は知られていない(引用文献2)。
【0004】
メルカプトプリンは、チオプリン製剤の一種であり、急性及び慢性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病などの悪性腫瘍や、クローン病や潰瘍性大腸炎のなどの炎症性腸疾患の治療薬として用いられる(引用文献3-5)。骨髄異形成症候群に対するチオプリン製剤の効果は知られておらず、アザシチジンとチオプリン製剤の併用も報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fenaux P et al. Efficacy of azacitidine compared with that of conventional care regimens in the treatment of higher-risk myelodysplastic syndromes: a randomised, open-label, phase III study. Lancet Oncol. 2009, 10(3):223-32.
【文献】Zeidan AM et al. Blood Cancer Journal 2018, volume 8, Article number: 55. Counseling patients with higher-risk MDS regarding survival with azacitidine therapy: are we using realistic estimates?.
【文献】現場で役立つ「血液腫瘍プロトコール集」改訂版。医薬ジャーナル社。2011年。
【文献】Bradford K, Shih DQ. Optimizing 6-mercaptopurine and azathioprine therapy in the management of inflammatory bowel disease. World J Gastroenterol. 2011, 17(37):4166-73.
【文献】Nielsen OH et al. The treatment of inflammatory bowel disease with 6-mercaptopurine or azathioprine. Aliment Pharmacol Ther. 2001, 15(11):1699-708.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、MDS、特にアザシチジン単独療法に不応答なMDSや高リスクMDS(進行期MDS)に対しても有効な、新たなMDSの治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、アザシチジンに不応答となったMDS患者に対して、メルカプトプリン、アザチオプリン、及びチオグアニンなどのチオプリン製剤を併用することで、高リスクMDS患者を効果的に治療しうることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(12)を提供する。
(1)アザシチジンと、メルカプトプリン、アザチオプリン、及びチオグアニンからなる群より選ばれるいずれかのチオプリンとを組み合わせて投与することを特徴とする、骨髄異形成症候群の治療用医薬。
(2)アザシチジンが1日あたり50~100 mg/m2(体表面積)の用量で皮下又は静脈内投与され、チオプリンが、メルカプトプリン水和物として、1日あたり0.5~2 mg/kg(体重)で経口投与、あるいは1日あたり2~20 mg/m2(体表面積)に匹敵する用量で皮下又は静脈内投与されることを特徴とする、(1)に記載の医薬。なお、「匹敵する用量」とは、体内において、同等の量の活性代謝物(6-TGN)を与える用量を意味する。
(3)アザシチジン及びチオプリンが、少なくとも5~10日間連日投与されることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の医薬。
(4)少なくとも14日間の休薬期間を置いて、3セット以上連続して使用されることを特徴とする、(3)に記載の医薬。
(5)アザシチジンとチオプリンが別個に製剤化されている、(1)~(4)のいずれかに記載の医薬。
(6)アザシチジンを有効成分とする医薬組成物とチオプリンを有効成分とする医薬組成物とが1つの包装内にセットになっている、(5)に記載の医薬。
(7)アザシチジンとチオプリンを有効成分として含む固定用量配合薬である、(1)~(4)のいずれかに記載の医薬。
(8)アザシチジンとチオプリンを有効成分とする注射用製剤である、(6)または(7)に記載の医薬。
(9)アザシチジン単独療法に不応答の骨髄異形成症候群患者に投与されることを特徴とする、(1)~(8)のいずれかに記載の医薬。
(10)チオプリンがメルカプトプリンである、(1)~(9)のいずれかに記載の医薬。
(11)メルカプトプリン、アザチオプリン、及びチオグアニンからなる群より選ばれるいずれかのチオプリンと併用されることを特徴とする、アザシチジンを含む骨髄異形成症候群の治療用医薬。この医薬は、上記(2)~(4)の用法用量で使用される。
(12)アザシチジンと併用されることを特徴とする、メルカプトプリン、アザチオプリン、及びチオグアニンからなる群より選ばれるいずれかのチオプリンを含む骨髄異形成症候群の治療用医薬。この医薬は、上記(2)~(4)の用法用量で使用される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまで有効な治療手段のなかった高リスク(進行期)MDSを効果的に治療することができる。本発明の医薬は、これまで臨床において使用され安全性の確立した医薬成分を併用することで、有効な治療手段がなかった高リスク(進行期)MDSを治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、アザシチジンとメルカプトプリンによる治療開始後の白血球数(/μL:グラフ上)及び好中球数(/μL:グラフ下)の推移を示す。
図2図2は、アザシチジンとメルカプトプリンによる治療開始後の血小板数(万/μL)の推移を示す。
図3図3は、アザシチジンとメルカプトプリンによる治療開始後のヘモグロビン数(万/μL)の推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、アザシチジンとチオプリンを組み合わせて投与することを特徴とする、骨髄異形成症候群の治療用医薬に関する。以下、本発明の構成について説明する。
【0012】
1.骨髄異形成症候群
本発明に係る「骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes [MDS])」とは、腫瘍化した造血細胞が骨髄中で増殖する、造血器悪性腫瘍の一つであり、血球形成の異常(異形成)と血球減少を認めることからこの名称が用いられる。MDSはしばしば急性骨髄性白血病に移行する(骨髄芽球が20%を超えると急性骨髄性白血病と診断されることが提案されている)ため、前白血病状態と呼ばれることもある。
【0013】
MDSは、骨髄と芽球の割合等により、不応性貧血、鉄芽球性不応性貧血、多血球系異形成を伴う不応性血球減少症、多血球異形成を伴う鉄芽球性不応性貧血、芽球増加型不応性貧血、5q-症候群、分類不能型骨髄異形成症候群に分類することができる。特記しない限り、本発明においてMDSと言う場合にはこれらのすべてが含まれる。
【0014】
MDSが進行し、骨髄芽球が増加し、急性骨髄性白血病の状態へ移行するリスクが高くなる、この高リスクのMDSは「進行期MDS(進行期のMDS)」と呼ばれることもある。本発明の医薬は、化学療法剤などの従来のMDS療法が十分奏功しない高リスク(進行期)MDSに対して効果を発揮することを特徴とする。
【0015】
2.アザシチジン
アザシチジンは、シチジンのピリミジン環5位の炭素原子が窒素原子に置換されたヌクレオチドアナログであり、DNAメチル化を阻害し細胞分化を誘導することで、骨髄異形成症候群の治療薬として使用される。
【0016】
本邦で承認されているアザシチジン製剤(商品名:ビダーザ(登録商標))の用法用量によれば、成人にはアザシチジンとして75mg/m2(体表面積)を1日1回7日間皮下投与又は10分かけて点滴静注し、3週間休薬する。これを1サイクルとし、投与を繰り返すのが、アザシチジンの標準的な投与法である。
【0017】
アザシチジンは骨髄芽球が増加したMDS患者の約半数に対して一定の効果を示すが、その効果の持続は一年前後のことが多い。本発明の医薬は、このアザシチジンをチオプリンと組み合わせて使用することにより、高リスク(進行期)MDSを効果的に治療することができる。
【0018】
3.チオプリン(製剤)
チオプリン又はチオプリン製剤とは、白血病、自己免疫疾患(クローン病、関節リウマチなど)、および臓器移植後の治療に使用されているプリン代謝拮抗剤である。現在承認されているチオプリン製剤は、アザチオプリン、メルカプトプリン(6-メルカプトプリン)、チオグアニン(6-チオグアニン)の3種(日本では、アザシチジンとメルカプトプリンのみ)であり、いずれも、体内で6-チオグアニンヌクレオシド(6-TGN)に代謝されて作用を発揮する。
【0019】
(1)メルカプトプリン(6-メルカプトプリン)
メルカプトプリン(6-メルカプトプリン)は、急性及び慢性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病などの悪性腫瘍や、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の治療薬として使用されているチオプリン製剤である。
【0020】
本邦で承認されている急性白血病及び慢性骨髄性白血病に対するメルカプトプリン製剤(商品名:ロイケリン(登録商標))の用法用量によれば、緩解導入量としては、メルカプトプリン水和物として、通常成人1日2~3mg/kgを単独又は他の抗腫瘍剤と併用して経口投与する。緩解後は緩解導入量を下回る量を単独又は他の抗腫瘍剤と併用して経口投与する。
【0021】
一方、急性リンパ性白血病に対しては、代表的な治療プロトコールでは、メルカプトプリンを地固め・強化療法時に2週間連日投与、間欠維持療法では70日間、長期維持療法では12~16ヶ月連日投与する(前掲 現場で役立つ「血液腫瘍プロトコール集」)。他方、クローン病や潰瘍性大腸炎に対して使用する場合には、12~17週間の連日投与で効果が期待でき、効果が得られた場合はさらに継続投与を行う(前掲Nielsen et al.)。
【0022】
現在使用されているメルカプトプリン製剤(商品名:Purinethol、ロイケリン)は、経口用の錠剤であるが、メルカプトプリンは静注で使用することも可能である(van der Werff Ten Bosch J et al. Value of intravenous 6-mercaptopurine during continuation treatment in childhood acute lymphoblastic leukemia and non-Hodgkin's lymphoma: final results of a randomized phase III trial (58881) of the EORTC CLG. Leukemia. 2005, 19(5):721-6.)。したがって、後述するように、メルカプトプリンをアザシチジンとともに注射剤として製剤化することも可能である。
【0023】
(2)チオグアニン(6-チオグアニン)
チオグアニン(6-チオグアニン)は、タブロイド(登録商標)の商品名で、急性リンパ球性白血病の寛解維持や、骨髄性白血病、急性骨髄性単球性白血病、及び慢性骨髄性白血病の二次治療に使用されているチオプリン製剤である。メルカプトプリンは、体内で6-TGNに代謝されて作用を発揮するが、チオグアニンはその活性型代謝物であり、メルカプトプリンと同様の作用が期待できる。
【0024】
アザチオプリンは、イムラン(登録商標)の商品名で、免疫抑制剤、ステロイド依存性のクローン病の寛解導入及び寛解維持、治療抵抗性のリウマチ性疾患、自己免疫性肝炎などに使用されているチオプリン製剤である。アザチオプリンは、メルカプトプリンのプロドラッグであり、体内で非酵素的に代謝されてメルカプトプリンとなり、さらに6-TGNに代謝されて作用を発揮する。
【0025】
4.本発明の医薬の用法用量
本発明の医薬において、アザシチジンは、好ましくは1日50~100mg/m2(体表面積)、より好ましくは1日70~80mg/m2(体表面積)、最も好ましくは1日75mg/m2(体表面積)皮下又は静脈投与される。なお、患者の状態により適宜減量してもよい。
【0026】
アザシチジンの投与回数は、1日1回~3回、好ましくは1日1回又は2回、より好ましくは1日1回連日投与する。投与期間は3~7日、好ましくは5~7日、より好ましくは7日間とし、7~30日、好ましくは14~28日、より好ましくは21日間の休薬期間を設け、 1~3サイクル、好ましくは4~10サイクル、より好ましくは効果の認められる限り繰り返し投与を行う。効果がある例では、治療を中断すると血球減少が再燃し予後不良につながる可能性があるからである。
【0027】
本発明の医薬において、チオプリンは、皮下又は静脈投与の場合には、メルカプトプリン水和物として、好ましくは1日2~20mg/m2(体表面積)、より好ましくは1日5~8mg/m2(体表面積)、最も好ましくは1日6.4mg/m2(体表面積)に匹敵する用量で投与される。なお、患者の状態により適宜減量する投与される。
【0028】
皮下又は静脈投与される場合のチオプリンの投与回数は、1日1回~3回、好ましくは1日1回又は2回、より好ましくは1日1回連日投与する。投与期間は3~7日、好ましくは5~7日、より好ましくは7日間とし、7~30日、好ましくは14~28日、より好ましくは21日間の休薬期間を設け、1~3サイクル、好ましくは4~10サイクル、より好ましくは効果を認める限り繰り返し投与を行う。
【0029】
経口投与の場合には、メルカプトプリン水和物として、好ましくは1日0.5~2mg/kg(体重)、より好ましくは1日0.75~1.5mg/kg(体重)、最も好ましくは1日0.8~1.2mg/kg(体重)に匹敵する用量で投与される。なお、患者の状態により適宜減量する。
【0030】
経口投与の場合のチオプリンの投与回数は、1日1回~3回、好ましくは1日1回又は2回、より好ましくは1日1回連日投与する。投与期間は3~7日、好ましくは5~7日、より好ましくは7日間とし、7~30日、好ましくは14~28日、より好ましくは21日間の休薬期間を設け、1~3サイクル、好ましくは4~10サイクル、より好ましくは効果を認める限り繰り返し投与を行う。
【0031】
上記においては、メルカプトプリン水和物としての用量を記載したが、アザチオプリン及びチオグアニンの場合には、代謝されて、同等の量の6-TGNを与える用法及び用量で使用することができる。つまり、「匹敵する用量」とは、体内において、同等の量の活性代謝物(6-TGN)を与える用量を意味する。
【0032】
典型的には、1日あたりアザシチジン75mg/m2(体表面積)(成人男性の場合1日約110~160mg)及び1日あたりメルカプトプリン水和物6.4mg/m2(体表面積)(成人男性の場合1日約9.6~13.5mgを静脈内投与し、7日間連続投与して、21日休薬。これを1セットとして、症状を観察しながら治療を続ける。あるいは、1日あたりアザシチジン75mg/m2(体表面積)(成人男性の場合1日約110~160mg)の静脈投与と、1日あたりメルカプトプリン水和物40mg/m2(体表面積)(成人男性の場合1日約60~85mg)の経口投与を7日間連続して、21日休薬。これを1セットとして、症状を観察しながら治療を続ける。
【0033】
5.本発明の医薬の形態
本発明の医薬は、アザシチジンとチオプリンを組み合わせて投与することを特徴とする。ここで、アザシチジンとチオプリンを「組み合わせて投与する」とは、同時投与、あるいは別個に連続して、若しくは一定の時間間隔をおいて投与することのすべてを含む。
【0034】
本発明の医薬において、アザシチジンとチオプリンは別個の製剤(医薬組成物)であってもよいし、一つの製剤(医薬組成物)であってもよいし、別個の製剤を1つの包装内に含むキット製剤であってもよい。
【0035】
アザシチジンとチオプリンが同時投与される場合、本発明の医薬は、単一の製剤中にそれぞれ一定量のアザシチジンとチオプリンを混合して含む固定用量配合薬(fixed dose combination drug)あるいは用時調製製剤であってよいし、それぞれの有効成分を含む別個の製剤(医薬組成物)を同時に投与してもよい。
【0036】
アザシチジンとチオプリンが別個の製剤である場合、チオプリンを有効成分とする医薬組成物、及び/又はアザシチジンを有効成分とする医薬組成物には、各々併用されることがその包装や添付文書等に表示される場合もあるが、必ずしもそのような表示は必須ではない。
【0037】
本発明の医薬は、前述した有効成分:アザシチジンやチオプリンの所望の用法用量を達成すべく調製される。
【0038】
本発明の医薬の剤型は特に限定されず、経口投与、静脈投与等、従来使用されている態様で使用できる。限定するものではないが、アザシチジンは注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤)であることが好ましい。チオプリンは、注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤)、あるいは経口投与可能な剤型、特に固形剤型(例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、ドライシロップ等)であることが好ましい。
【0039】
アザシチジン及び/又はチオプリンを含む製剤(医薬組成物)は、有効成分のほかに、薬学的に許容可能な担体(添加物)を含んでいてもよく、そのような担体としては例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。
【0040】
賦形剤としては、糖、デンプン、デキストリン、白糖、トラガント等を使用することができる。
【0041】
結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D-マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0042】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩などの脂肪酸塩、タルク、珪酸塩類などが挙げられる。
【0043】
溶剤としては、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油などが挙げられる。
【0044】
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、化学修飾されたセルロースやデンプン類などが挙げられる。
【0045】
溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0046】
懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、等の界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子などが挙げられる。
【0047】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンニトール、グリセリン、尿素などが挙げられる。
【0048】
安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、その他のアミノ酸類などが挙げられる。
【0049】
無痛化剤としては、例えばベンジルアルコール等が挙げられる。
【0050】
緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。
【0051】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0052】
抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などが挙げられる。
【0053】
矯味矯臭剤としては、医薬分野において通常に使用される甘味料、香料などが、着色剤としては、医薬分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
【0054】
本発明の医薬の好ましい形態として、アザシチジンとチオプリンを含む注射用製剤を挙げることができる。前記製剤は、D-マンニトールや乳糖などの添加物とともに、凍結乾燥された一定量のアザシチジンと一定量のチオプリンを組み合わせて1つのバイアル中に含むか、または別個のバイアル中に含む。
【0055】
上記製剤は、使用時に注射用水で懸濁又は溶解させ、点滴静注の場合にはさらに生理食塩液又は乳酸リンゲル液と混合して使用される。あるいは、注射用製剤は、Ready-to-useのシリンジ充填用製剤として調製されてもよい。
【0056】
5.医薬の製造における使用
本発明はMDSの治療用医薬(組成物)の製造における、アザシチジン及び/又はチオプリンの使用も提供する。
【0057】
具体的には、2つの有効成分が別個の製剤である場合には、チオプリンと併用されることを特徴とするMDSの治療用医薬の製造におけるアザシチジンの使用、アザシチジンと併用されることを特徴とするMDSの治療用医薬の製造におけるチオプリンの使用に関する発明を提供する。配合薬である場合には、MDSの治療用医薬の製造における、アザシチジン及びチオプリンの使用に関する発明を提供する。
【0058】
6.既知の治療法との併用
本発明の医薬は高リスク(進行期)のMDSに対して十分な効果を発揮するが、患者の症状によっては、既存の治療法、例えば、ESA、アンドロジェン、レナリドマイド等と併用することでより好適な結果を得ることが期待できる。骨髄における炎症が病態に関与している場合には、プレドニゾロンなどの副腎皮質ホルモン剤を併用してもよい。
【実施例
【0059】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
表1に、代表的実施例(4例)の結果をまとめ、その詳細を実施例1~4に記載する。いずれもビダーザ治療中に芽球比率が20%以上に増加し、ビダーザ不応と判定し本治療を開始した。治療の薬効は国際評価基準(Cheson BD et al. Clinical application and proposal for modification of the International Working Group (IWG) response criteria in myelodysplasia. Blood. 2006 108:419-25.)で判定し、いずれも完全寛解と判定されている。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例1]
63歳男性。アザシチジン開始時の診断はMDS, EB-2。アザシチジン治療(体表面積当り75mg/m2を1日1回、7日間皮下注射、4週間休薬)を6コース行ったが、血球減少と骨髄検査で骨髄芽球の増加が進行し、ビダーザ不応と判断した。4月12日に本治療の1コース目を開始した。すなわち、同量のビダーザに加え、メルカプトプリンの内服(メルカプトプリン水和物として60mg、体重当り1 mg/kgに該当)を1日1回、7日間行った。
【0063】
結果:
結果を図1~3に示す。本治療の2コース目開始日の5月8日には汎血球減少の改善を認めた。その後も、ほぼ4週間毎に本治療を行い、血球値は次第に正常化し、現在もこれを維持している。また、本治療前の骨髄検査(2019年4月1日)で骨髄芽球34.2%であったが、5月7日で7%、6月4日には1.8%と正常化した。薬効は、国際評価基準で完全寛解と判定された。
【0064】
考察:
本症例においては、メルカプトプリンは散剤を内服したが(体表面積あたり40mg/m2に該当)、静脈投与する場合には、メルカプトプリンの吸収率(16%)から換算して、メルカプトプリン水和物として、体表面積あたり6.4 mg/m2を静脈内投与することが可能である。
【0065】
進行期MDSに対してはキロサイドなどの抗白血病化学療法剤が効果を示さず、アザシチジンが唯一有効とされている。アザシチジンとメルカプトプリンを併用した新規治療法は、アザシチジンが不応答の患者に使用し、投与例の多くに効果を認めており、画期的な治療効果と言える。
【0066】
[実施例2]
64歳男性。アザシチジン開始時の診断はMDS, EB-2。アザシチジン治療(体表面積当り75mg/m2を1日1回、7日間皮下注射、3週間休薬)を12コース行ったが、血球減少と骨髄検査で骨髄芽球の増加が進行した。ビダーザ不応と判断し、本治療を開始した。すなわち、同量のビダーザに加え、メルカプトプリンの内服(メルカプトプリン水和物として60mg、体重当り0.85 mg/kgに該当)を1日1回、7日間行った。本治療を4コース繰り返した時点で、国際評価基準で完全寛解と判定された。
【0067】
[実施例3]
75歳男性。アザシチジン開始時の診断はMDS, EB-2。アザシチジン治療(体表面積当り75mg/m2を1日1回、7日間皮下注射、3週間休薬)を3コース行ったが、骨髄検査で骨髄芽球の増加が進行した。ビダーザ不応と判断し、本治療を開始した。すなわち、同量のビダーザに加え、メルカプトプリンの内服(メルカプトプリン水和物として60mg、体重当り1 mg/kgに該当)を1日1回、8日間行った。本治療を5コース繰り返した時点で、国際評価基準で完全寛解と判定された。その後も毎月本治療を繰り返し、32コース目となるが、完全寛解を維持している。
【0068】
[実施例4]
81歳男性。アザシチジン開始時の診断はMDS, RCMD (多系統の異形性を伴う不応性血球減少)。輸血依存性の貧血があったためアザシチジン治療(体表面積当り75mg/m2を1日1回、7日間皮下注射、3週間休薬)を開始した。貧血は改善し、アザシチジン治療を継続していたが、アザシチジン治療40コース施行後に血球減少が進行し骨髄検査では骨髄芽球が増加していた。ビダーザ不応と判断し、本治療を開始した。すなわち、同量のビダーザに加え、メルカプトプリンの内服(メルカプトプリン水和物として60mg、体重当り1.1 mg/kgに該当)を1日1回、7日間行った。本治療を4コース繰り返した時点で、国際評価基準で完全寛解と判定された。
【0069】
[製剤例]
製剤例1(注射用製剤)
1)アザシチジン(凍結乾燥) 100 mg
2)メルカプトプリン水和物 8.5mg
3)D-マンニトール 100 mg
1)、2)および3)を混合して、バイアルに充填する。
上記製剤は、使用時に注射用水で懸濁又は溶解させ、点滴静注の場合にはさらに生理食塩液又は乳酸リンゲル液と混合して使用する。なお、アザシチジンとメルカプトプリンは、それぞれ別個のバイアルに添加剤(D-マンニトール)とともに充填してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の医薬は、これまで有効な治療手段がなかった高リスク(進行期)MDSやアザシチジンに不応答のMDSの治療にも有用である。
【0071】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
図1
図2
図3